(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】レーザー照射装置及び鋼板の加工システム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/067 20060101AFI20230802BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20230802BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20230802BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230802BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/082
B23K26/073
H01F1/147 175
C21D8/12 D
(21)【出願番号】P 2019148421
(22)【出願日】2019-08-13
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203222(JP,A)
【文献】特開2009-066613(JP,A)
【文献】特開昭63-083227(JP,A)
【文献】特開2004-122218(JP,A)
【文献】特表2011-511152(JP,A)
【文献】特開2019-051536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/067
B23K 26/082
B23K 26/073
H01F 1/147
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される対象物上で、レーザービームを一方向に走査させるレーザー照射装置であって、
レーザービームを発振する一つのレーザー光源と、
軸線周りに沿う周方向に、レーザービームを透過させる開口と、レーザービームを反射するミラーである非開口部分とが交互に配置された円盤からなり、前記軸線周りに回転することで、前記一つのレーザー光源から照射される前記レーザービームの光路を、所定の時間間隔で
二つ以上の光路に変更するビームスプリッターと、
複数の反射面を有し、前記所定の時間間隔で変更された光路を経たそれぞれのレーザービームを、前記反射面の
うちの異なる反射面で反射させ、前記対象物
上の走査方向に沿って走査させる一つのポリゴンミラーと、
前記ビームスプリッター及び前記ポリゴンミラーの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記ビームスプリッターは、
前記所定の時間間隔で変更されたそれぞれの光路のうち第一の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面同士がなす角部に照射される幾何学的位置となる時間帯には、前記第一の光路とは異なる、前記ポリゴンミラーの前記角部に照射されない他の光路を経たレーザービームが、前記対象物に照射されるように、前記レーザービームの光路を変更
し、
前記二つ以上の光路を経たレーザービームが、それぞれ前記対象物上の異なる位置を走査することで、前記対象物上の前記走査方向にずれた同一直線上の位置に、連続した歪又は溝を形成する、レーザー照射装置。
【請求項2】
前記他の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーに照射される位置を変更する位置調整手段を有し、
前記制御装置は、
前記ビームスプリッター及び前記ポリゴンミラーの動作を同期させることで、前記第一の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面同士がなす前記角部に照射されないようにし、
前記位置調整手段は、
前記第一の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面同士がなす角部に照射される幾何学的位置となる時間帯には、前記他の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面に照射されるように、照射位置を変更する、請求項1に記載のレーザー照射装置。
【請求項3】
前記レーザービームを反射するミラーを備え、
前記位置調整手段は、前記ミラーの位置を変更することで照射位置を変更する、請求項2に記載のレーザー照射装置。
【請求項4】
前記ビームスプリッターは、軸線周りに沿う周方向に、レーザービームを透過させる開口、及び、レーザービームを反射するミラーである非開口部分が交互に配置された円盤であり、前記軸線周りに回転し、
前記レーザー光源から照射される前記レーザービームの焦点が前記ビームスプリッターである円盤の表面に位置する、請求項1から3の何れか一項に記載のレーザー照射装置。
【請求項5】
焦点での前記レーザービームの形状が、前記ビームスプリッターの周方向が短軸となる楕円形状である、
請求項4に記載のレーザー照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー照射装置及び鋼板の加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の表面にレーザービームをスキャン照射して磁区制御をする技術が従来から知られている。こうした技術では、レーザーによって鋼板の表面に局所的な歪を付与したり、溝を形成したりすることで、鋼板の鉄損特性を改善することができる。
こうした技術では、レーザービームを板幅方向に略平行な双方向に往復させながら(すなわち、ジグザグに)スキャンするのではなく、板幅方向に略平行な一方向に向けてのみスキャンさせる。すなわち、レーザービームが方向性電磁鋼板の表面に照射される位置(レーザースポットの位置)が、一方向の終端から一方向の始端まで移動するまでの間(スキャンの復路の間)は、レーザービームを連続的に照射させることができない。従って、こうした一方向のスキャンを実現するためには、複数のスキャン装置を準備しておき、一方のスキャン装置のレーザービームの照射される位置が終端から始端へ移動している間には、他方のスキャン装置で照射を行わせるようにするか、又は、レーザービームの照射自体をOFF若しくは阻害する必要がある。
【0003】
ところで、ミラーの往復回転装置であるガルバノミラーをスキャンミラーとして使用する場合、スキャン装置として以下のように構成する必要がある。すなわち、スキャン装置に、2つの独立したガルバノミラーと、レーザービームを時間分割するビームスプリッター又はビームスイッチミラーとを設ける。そして、各ガルバノミラー(スキャンミラー)の往路のスキャンタイミングだけ、当該ガルバノミラーに、レーザービームが伝送されるようにする(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
特許文献1記載のスキャン装置では、ビームスプリッターとして、スリットのある回転円盤ミラーを使っている。このビームスプリッターは、反射側と透過側でビームをスプリットする。特許文献2記載のスキャン装置では、ビームスイッチミラーとして、ガルバノミラーを用いている。
このように、スキャン装置としてガルバノミラーを用いた場合には、ビームスプリッター又はビームスイッチミラーと、複数のガルバノミラーとを同期させる必要がある。
また、こうした各ガルバノミラーには、ガルバノモータが用いられる。ガルバノモータは、各ガルバノミラーに高速で往復運動を繰り返させる必要があるため、モータの負荷(機械的負荷及び電気的負荷)が大きくなり、故障しやすいという問題がある。
【0004】
また、同様の用途に用いられるスキャン装置として、特許文献3に記載の装置が知られている。この装置では、スキャンミラーとして、一方向のみに回転するポリゴンミラーを用いている。ポリゴンミラーは一方向の回転ミラーであり、高速で回転させても駆動モータの負荷が小さく、高速処理が必要なスキャン装置においても安定した装置が構築できる利点がある。
しかしながらこの装置では、ポリゴンミラー(スキャンミラー)の反射面同士がなす角部においてレーザービームが分割、乱反射される。そのため、ポリゴンミラーの角部での反射ビームでは十分な加工性が得られず、不要反射による悪影響も生じ得る。よって、ポリゴンミラーの角部を避け、反射面の平面部にのみビームが伝送されるように、上記特許文献1、2に記載の各装置と同様に、レーザービームを時間分割している。
特許文献3に記載のスキャン装置においても、分割ビームそれぞれに個別のポリゴンミラー(スキャンミラー)を用いている。また当然ながら、ビームスプリッターとポリゴンミラーとの回転の同期をとる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-83227号公報
【文献】特表2011-511152号公報
【文献】特開2004-122218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に示したように、従来の方向性電磁鋼板の磁区制御に用いるスキャン装置は、一方向にレーザーを連続的にスキャン(走査)させるために、1つのビームスプリッター又はビームスイッチミラーといったビームスイッチと、2つ以上のスキャン装置とを備えている。そのため、従来の装置では、少なくとも3つの装置の同期制御を行う必要がある。また、従来の装置では、スキャンミラーを含むスキャン装置を独立に用意する必要がある。その結果、装置が複雑化、大型化するという課題がある。特に、高速の処理が必要とされるスキャン装置においては、ポリゴンミラーをスキャンミラーに用いる必要があるが、その場合、ポリゴンミラーやその回転モータはガルバノミラーやガルバノモータに比べて大型であるため、この課題が顕在化する。
【0007】
ところで、電磁鋼板の単位時間当たりの生産量を増加させるには、電磁鋼板の通板速度を速くする必要がある。そのような状況において、通板方向に周期的にレーザーによる歪の付与や溝の加工を高速で行うには、レーザービームのスキャン速度を高速化する必要があり、また、平均レーザーパワーも比例して増やす必要がある。
しかしながら、スキャン速度やレーザー1台当たりのレーザーパワーには限界があり、また、1台のスキャン装置でスキャンできる幅にも限界がある。そのため、通常の電磁鋼板製造設備における電磁鋼板の板幅は約1mであるため、通板速度の高速化に対応するためには、複数台のスキャン装置を、鋼板の板幅方向に並べて設置することになる。
【0008】
このとき、従来のスキャン装置のように装置が大型化していると、板幅方向に並べられる台数に制約が発生する。その場合、通板方向(圧延方向)に分散して(位置をずらして)複数台のスキャン装置を並べることになる。結果として、ライン設備全体が冗長化する問題がある。さらに、設備コストが大幅に増加する問題もある。設備コストの増加は、例えば以下に示す事情による。すなわち、一般に、レーザービームの照射位置において、鋼板がレーザーの光軸方向(一般的には上下)に振動すると、集光ボケが発生する。そのため、レーザーの集光位置では、鋼板の振動を抑制するために、鋼板に強い張力をかけた上で、振動抑制用のロールを設置する。しかしながら、通板方向に分散してスキャン装置を並べると、この様な振動を抑制するための装置を多数用意する必要がある。そのため、設備コストが大幅に増加する。
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、レーザービームを一方向にスキャン照射するスキャン装置として、簡易な構成でかつコンパクトな装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るレーザー照射装置は、搬送される対象物上で、レーザービームを一方向に走査させるレーザー照射装置であって、レーザービームを発振する一つのレーザー光源と、軸線周りに沿う周方向に、レーザービームを透過させる開口と、レーザービームを反射するミラーである非開口部分とが交互に配置された円盤からなり、前記軸線周りに回転することで、前記一つのレーザー光源から照射される前記レーザービームの光路を、所定の時間間隔で二つ以上の光路に変更するビームスプリッターと、複数の反射面を有し、前記所定の時間間隔で変更された光路を経たそれぞれのレーザービームを、前記反射面のうちの異なる反射面で反射させ、前記対象物上の走査方向に沿って走査させる一つのポリゴンミラーと、前記ビームスプリッター及び前記ポリゴンミラーの動作を制御する制御装置と、を備え、前記ビームスプリッターは、前記所定の時間間隔で変更されたそれぞれの光路のうち第一の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面同士がなす角部に照射される幾何学的位置となる時間帯には、前記第一の光路とは異なる、前記ポリゴンミラーの前記角部に照射されない他の光路を経たレーザービームが、前記対象物に照射されるように、前記レーザービームの光路を変更し、前記二つ以上の光路を経たレーザービームが、それぞれ前記対象物上の異なる位置を走査することで、前記対象物上の前記走査方向にずれた同一直線上の位置に、連続した歪又は溝を形成する。
【0011】
第一の光路を経たレーザービームがポリゴンミラーの角部に照射される幾何学的位置となる時間帯に、他の光路を経たレーザービームが対象物に照射されるように、ビームスプリッターがレーザービームの光路を変更する。よって、レーザービームが角部に入射されることがなく、対象物に照射されるレーザービームの加工性を確保することができる。
このように、ビームスプリッターが光路を変更することで、共通のポリゴンミラーにレーザービームを入射させても、加工性が確保されたレーザービームを対象物に照射することができる。したがって、例えば、ビームスプリッター及びポリゴンミラーをそれぞれ1つずつとした構成であっても、レーザービームによる対象物の加工性を確保することができる。そのため、例えば、1つのビームスプリッターに対応して複数のポリゴンミラーを設ける構成に比べて、構造の簡素化を図ることができる。よって、簡易な構成でかつコンパクトな装置とすることができる。
【0012】
また、本発明に係るレーザー照射装置は、前記他の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーに照射される位置を変更する位置調整手段を有し、前記制御装置は、前記ビームスプリッター及び前記ポリゴンミラーの動作を同期させることで、前記第一の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面同士がなす前記角部に照射されないようにし、前記位置調整手段は、前記第一の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面同士がなす角部に照射される幾何学的位置となる時間帯には、前記他の光路を経たレーザービームが、前記ポリゴンミラーの前記反射面に照射されるように、照射位置を変更してもよい。
【0013】
他の光路を経たレーザービームの照射位置を位置調整手段が変更することで、前記時間帯においても、他の光路を経たレーザービームをポリゴンミラーの反射面に照射させることができる。
【0014】
また、本発明に係るレーザー照射装置は、前記レーザービームを反射するミラーを備え、前記位置調整手段は、前記ミラーの位置を変更することで照射位置を変更してもよい。
【0015】
位置調整手段が、ミラーの位置を変更することで照射位置を変更する。よって、例えば、照射位置の変更作業の簡素化を図ること等ができる。
【0016】
また、本発明に係るレーザー照射装置は、前記ビームスプリッターは、軸線周りに沿う周方向に、レーザービームを透過させる開口、及び、レーザービームを反射するミラーである非開口部分が交互に配置された円盤であり、前記軸線周りに回転してもよい。
【0017】
また、レーザービームの焦点がビームスプリッターである円盤の表面に位置するようにしてもよい。これにより、レーザービームのミラー面及び開口上での専有面積を抑えることができる。また、レーザービームが開口と非開口部との境界を通過する時間を短くすることができるため、光路の切り替え時間を短縮することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係るレーザー照射装置は、前記焦点での前記レーザービームの形状が、前記ビームスプリッターの周方向が短軸となる楕円形状であってもよい。
【0019】
焦点でのレーザービームの形状が、ビームスプリッターの周方向が短軸となる楕円形状である。よって、レーザービームが開口と非開口部との境界を通過する時間を短くすることができるため、光路の切り替え時間を短縮することが可能になり、更に、焦点部の面積は大きくなるため、レーザービームのパワー密度を小さくすることができるため、特に、ビームスプリッターの開口の損傷を抑制することができる。また、予期せず非開口部分に照射されてしまうことも抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーザービームを一方向にスキャン照射するスキャン装置として、簡易な構成でかつコンパクトな装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電磁鋼板の加工システムの斜視図である。
【
図2】
図1に示す加工システムに含まれたレーザー照射装置の正面図であって、レーザービームが第一の光路を通過している状態を示す図である。
【
図3】
図2に示すレーザー照射装置の側面図である。
【
図6】
図1に示す加工システムに含まれたレーザー照射装置の正面図であって、レーザービームが第二の光路を通過している状態を示す図である。
【
図7】
図6に示すレーザー照射装置の側面図である。
【
図10】
図2及び
図6に示すレーザー照射装置において、ポリゴンミラーの反射面から反射するレーザービームを示す図である。
【
図11】
図2及び
図6に示すレーザー照射装置において、ポリゴンミラーの角部から反射するレーザービームを示す図である。
【
図12】
図2及び
図6に示すレーザー照射装置において、ポリゴンミラーの反射面及び角部から反射するレーザービームを示す図である。
【
図13】
図2及び
図6に示すレーザー照射装置において、ポリゴンミラーの二つの反射面から反射するレーザービームを示す図である。
【
図14】
図1に示す加工システムに含まれたレーザー照射装置の変形例を示す正面図である。
【
図15】従来の電磁鋼板の加工システムを説明する斜視図である。
【
図16】本発明の第二実施形態に係る電磁鋼板の加工システムに含まれるレーザー照射装置の正面図である。
【
図17】
図16に示すレーザー照射装置の要部を説明する図である。
【
図18】
図17に示すレーザー照射装置の要部の変形例を説明する図である。
【
図19】
図17及び
図18に示すレーザー照射装置におけるレーザービームの焦点での形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第一実施形態)
以下、
図1から
図15を参照し、本発明の第一実施形態に係る電磁鋼板の加工システム10(鋼板の加工システム)を説明する。
図1に示すように、加工システム10は、方向性電磁鋼板11(以下、対象物、電磁鋼板11とも称する)の表面に、図示しないレーザー光源から照射されたレーザービーム12を、電磁鋼板11上で一方向に走査させ、電磁鋼板11に歪を導入するか溝を形成することで磁区制御を行う。加工システム10は、鋼板搬送装置13と、レーザー照射装置20とを備えている。
【0027】
鋼板搬送装置13は、電磁鋼板11を所定の通板方向(圧延方向)に搬送する。鋼板搬送装置13は、複数のロール14を備えている。複数のロール14は、通板方向に間隔をあけて複数配置されている。各ロール14の軸線(回転軸)は、電磁鋼板11の板幅方向に平行に延びている。鋼板搬送装置13は、例えば、複数のロール14によって、電磁鋼板11に通板方向の張力を付与する。
【0028】
なお以下では、板幅方向をX方向、通板方向をY方向、板厚方向をZ方向という。X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交する。
【0029】
レーザー照射装置20は、電磁鋼板11上で、レーザービーム12をX方向に平行に又は傾斜させて一直線上に走査させる。レーザー照射装置20は、電磁鋼板11上へのレーザービーム12の一直線上の走査を、電磁鋼板11の搬送に連動して、Y方向に間隔をあけて繰り返すことができる。レーザー照射装置20は、レーザービーム12を電磁鋼板11上でX方向に往復動させずに、X方向の一方向側に向けてのみ走査させる。
【0030】
レーザー照射装置20は、電磁鋼板11に対向する空間に、X方向に沿って複数並んでおり、それらを構成する各レーザー照射装置20は、電磁鋼板11のX方向に沿う全長ではなく一部分にレーザービーム12を照射する。そうすることで、これらの複数のレーザー照射装置20が照射するレーザービーム12は、全体として、電磁鋼板11上のX方向に沿う全長を持った、同一の直線上に照射することもできる。
【0031】
図2から
図9に示すように、各レーザー照射装置20は、ポリゴンミラー21と、図示しないレーザー光源と、第一ミラー23と、ビームスプリッター24と、第二ミラー25と、走査ミラー26と、第一モータ27と、第二モータ28と、制御装置29と、位置調整手段30と、を備えている。各レーザー照射装置20は、レーザー光源、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21をそれぞれ一つずつ(それぞれ一つのみ)備えている。
【0032】
図2に示すように、ポリゴンミラー21は、このポリゴンミラー21をXY平面上で平面視したときに正多角形状をしており、扁平な正多角柱状である。ポリゴンミラー21は、Z方向に延びた軸線を有しており、当該軸線周りに回転可能である。
【0033】
ポリゴンミラー21の外周面は、複数の反射面31と、反射面31同士がなす角部32と、によって形成されている。各反射面31は平面状に形成されている。反射面31の数(角部32の数)をNとすると、ポリゴンミラー21は正N角柱状である。なお図示の例では、ポリゴンミラー21は正十二角柱状であり、N(反射面31の数)は12である。
【0034】
レーザー光源は、一本(一筋、一条)のレーザービーム12を発振し、レーザー照射装置20に向けて、図中22の方向に照射する。レーザー光源は、ポリゴンミラー21に対してY方向にずれた位置に設けられており、発振されたレーザービーム12を、第一ミラー23やビームスプリッター24を介して、ポリゴンミラー21に向けて照射する。以下では、Y方向に見て、ポリゴンミラー21に対してレーザー光源が設けられている側を、Y方向の第一側Y1という。また、Y方向に見て、レーザー光源に対してポリゴンミラー21が設けられている側を、Y方向の第二側Y2という。
【0035】
レーザービーム12は、X方向及びY方向の両方向に平行なXY平面内を進行する。レーザービーム12は、XY平面内で向きを変えられてY方向に沿って第一側Y1から第二側Y2に向けて進行し、ポリゴンミラー21の反射面31に入射する。
【0036】
レーザービーム12の光路は、後述するビームスプリッター24で定まる所定の時間間隔で、第一の光路33又は第二の光路34(他の光路)に変更される。言い換えると、レーザービーム12は、時間帯ごとに通過する光路が変化する。
図2から
図5において、第一の光路33は実線で示され、第二の光路34は二点鎖線で示される。
図6から
図9において、第一の光路33は二点鎖線で示され、第二の光路34は実線で示される。
【0037】
図2から
図9に示すように、第一の光路33及び第二の光路34は、同一のXY平面上に位置する。第一の光路33及び第二の光路34のいずれかの光路を経たレーザービーム12は、ポリゴンミラー21の反射面31に入射する。以下では、各レーザービーム12の光路に沿って、レーザー光源側を上流といい、ポリゴンミラー21側を下流という。
【0038】
第一ミラー23は、第一の光路33を形成する。第一ミラー23は、間隔をあけて複数(図示の例では4つ)配置されている。複数の第一ミラー23のうち、レーザービーム12をポリゴンミラー21に最終的に入射させる第一ミラー23(以下、第一下流ミラー23aという)は、ポリゴンミラー21に対して、レーザービーム12をX方向から入射させる。第一下流ミラー23aは、ポリゴンミラー21の軸線よりもY方向の第二側Y2に位置する。
【0039】
ビームスプリッター24は、一つのレーザー光源から照射されるレーザービーム12の光路を、所定の時間間隔で変更する。即ち、ビームスプリッター24は、レーザービーム12の光路を、第一の光路33又は第二の光路34に切り替える。ビームスプリッター24は、第一の光路33上に配置されており、ビームスプリッター24の軸線周りに回転する。
【0040】
ビームスプリッター24には、軸線周りに沿う周方向に開口35及び非開口部分36が交互に配置されている。複数の開口35は、レーザービーム12を透過し、いずれも同等の形状でかつ同等の大きさである。複数の非開口部分36は、ミラーからなり、レーザービーム12を反射することで透過させず、レーザービーム12が進行する光路を変更することができ、いずれも同等の形状でかつ同等の大きさである。各開口35の周方向の大きさと各非開口部分36の周方向の大きさは、いずれも同等とすることができる。
【0041】
レーザー光源からビームスプリッター24に到達するレーザービーム12は、ビームスプリッター24の回転角度に応じて(即ち、所定の時間間隔で)、開口35又は非開口部分36に入射する。なお、開口35の数をM個としたとき、このMと前記N(反射面31の数)との関係は、N=Mであることが好ましいが、この関係に限られない。
【0042】
図2から
図5に示すように、レーザービーム12が開口35に入射すると、レーザービーム12は、ビームスプリッター24で反射されずにビームスプリッター24(開口35)を通過して第一の光路33を進行し続ける。
一方
図6から
図9に示すように、レーザービーム12が非開口部分36に入射すると、レーザービーム12はビームスプリッター24(非開口部分36)で反射し、レーザービーム12の光路が第一の光路33から第二の光路34に変更される。
【0043】
第二ミラー25は、第二の光路34を形成する。第二の光路34は、ビームスプリッター24が反射したレーザービーム12を、ポリゴンミラー21に導く。第二ミラー25は、間隔をあけて複数(図示の例では二つ)配置されている。複数の第二ミラー25のうち、レーザービーム12をポリゴンミラー21に最終的に入射させる第二ミラー25(以下、第二下流ミラー25aという)は、ポリゴンミラー21に対して、レーザービーム12をX方向から入射させる。第二下流ミラー25aは、ポリゴンミラー21の軸線よりもY方向の第二側Y2に位置する。
【0044】
第二下流ミラー25aは、ポリゴンミラー21をX方向に挟んで第一下流ミラー23aの反対側に配置されている。即ち、第一の光路33を経てポリゴンミラー21に入射されるレーザービーム12と、第二の光路34を経てポリゴンミラー21に入射されるレーザービーム12とは、互いに、ポリゴンミラー21をX方向に挟んだ反対側からポリゴンミラー21に入射される。従って、これらの両レーザービーム12は、共通のポリゴンミラー21の異なる反射面31に照射される。
【0045】
ポリゴンミラー21は、所定の時間間隔で変更された光路を経たそれぞれのレーザービーム12を、反射面31の何れかで反射させ、走査ミラー26を介して電磁鋼板11に照射させる。図示の例では、第一の光路33を経てポリゴンミラー21に入射したレーザービーム12、及び、第二の光路34を経てポリゴンミラー21に入射したレーザービーム12のいずれも、一つの共通の走査ミラー26に入射するが、第一の光路33及び第二の光路34を通過した各レーザービーム12に、それぞれ個別のミラーを設けるようにしてもよい。
【0046】
走査ミラー26には、ポリゴンミラー21の反射面31で反射されたレーザービーム12がY方向に沿って入射される。走査ミラー26は、入射されたレーザービーム12の方向を変え、Z方向に反射する。
図2及び
図6に示すように、走査ミラー26は、第一の光路33及び第二の光路34のそれぞれを経て、ポリゴンミラー21で反射されたそれぞれレーザービーム12を、電磁鋼板11に対してX方向にずらした状態で、同一直線上に照射する。このとき、第一の光路33を経て電磁鋼板11に照射されるレーザービーム12と、第二の光路34を経て電磁鋼板11に照射されるレーザービーム12とが、X方向に完全にずれてもよく、X方向に一部重複した状態でずれてもよい。
【0047】
第一モータ27は、ポリゴンミラー21を、その軸線周りに回転させる。第一モータ27は、ポリゴンミラー21を軸線周りの一方向に回転させ続け、その反対方向には回転させない。第二モータ28は、ビームスプリッター24を、その軸線周りに回転させる。第二モータ28は、ビームスプリッター24を軸線周りの一方向に回転させ続け、その反対方向には回転させない。第一モータ27、第二モータ28はそれぞれ一つずつ設けられている。なお、第一モータ27や第二モータ28には、例えばステッピングモータ等の各種モータを採用することができる。
【0048】
制御装置29は、情報処理装置によって構成される。制御装置29は、例えば、バスで接続されたCPU(Central Processor Unit)、メモリ及び補助記憶装置を備えている。制御装置29は、プログラムを実行することによって動作する。
制御装置29は、第一モータ27及び第二モータ28を制御することで、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21の動作を制御する。より具体的には、制御装置29は、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21それぞれの回転速度及び回転の位相を制御する。なお、複数のレーザー照射装置20のそれぞれに、独立して一つずつ制御装置29を設けてもよく、複数のレーザー照射装置20に跨って、共通する一つの制御装置29を設けてもよい。
【0049】
位置調整手段30は、第一の光路33及び第二の光路34それぞれを経たレーザービーム12が、ポリゴンミラー21に照射される位置を変更する。より具体的には、位置調整手段30は、第一下流ミラー23a及び第二下流ミラー25aの位置や角度、特に、Y方向の位置を変更する。位置調整手段30としては、公知の位置調整機構を採用することができる。
【0050】
位置調整手段30が第一下流ミラー23aのY方向の位置を変更することで、第一の光路33を経てポリゴンミラー21に入射されるレーザービーム12のY方向の位置が変更される。位置調整手段30が第二下流ミラー25aのY方向の位置を変更することで、第二の光路34を経てポリゴンミラー21に入射されるレーザービーム12のY方向の位置が変更される。
【0051】
なお位置調整手段30は、第一下流ミラー23a及び第二下流ミラー25aそれぞれのX方向の位置を変更してもよい。すなわち、位置調整手段30は、第一下流ミラー23a及び第二下流ミラー25aそれぞれのX方向及びY方向の両方向の位置を変更してもよく、第一下流ミラー23a及び第二下流ミラー25aそれぞれのX方向又はY方向の一つの方向の位置のみを変更してもよい。さらに、位置調整手段30は、第一下流ミラー23a及び第二下流ミラー25aいずれか一方のみの位置を変更してもよい。
【0052】
前記レーザー照射装置20では、ビームスプリッター24は、第一の時間帯と第二の時間帯とでレーザービーム12の光路を変更する。
図2から
図5に示すように、第一の時間帯は、第一の光路33を経たレーザービーム12が、ポリゴンミラー21の反射面31に照射される幾何学的位置となる時間帯である。ビームスプリッター24は、第一の時間帯には、第一の光路33を経たレーザービーム12を電磁鋼板11に照射させる。第一の時間帯において、仮に第二の光路34を経たレーザービーム12がポリゴンミラー21に入射されると、
図5に示すように、レーザービーム12が角部32に照射される時間がある。
【0053】
図6から
図9に示すように、第二の時間帯は、第一の光路33を経たレーザービーム12が、ポリゴンミラー21の角部32に照射される幾何学的位置となる時間を含む時間帯である。ビームスプリッター24は、第二の時間帯には、第二の光路34を経たレーザービーム12を電磁鋼板11に照射させる。第二の時間帯において、第二の光路34を経たレーザービーム12は、ポリゴンミラー21の反射面31に照射されるようにしておき、角部32には照射されないようにする。
【0054】
本実施形態では、第二の時間帯において、第二の光路34を経たレーザービーム12が、ポリゴンミラー21の反射面31に照射されるように、位置調整手段30を用いて、第一下流ミラー23aや第二下流ミラー25aの位置や角度を調整することで、レーザービーム12がポリゴンミラー21に照射される照射位置を変更しておく。例えば、ポリゴンミラー21の回転が停止している状態で、第一の光路33及び第二の光路34のうちの一方のビーム光軸がポリゴンミラー21の反射面31中心に一致し、他方のビーム光軸はポリゴンミラー21の角部32に一致するように、ポリゴンミラー21への入射位置を調整しておく。本実施形態では、第二の光路34の光軸は、第一の光路33の光軸に対して、Y方向の第一側Y1に△Yだけずらされている(
図4および
図5参照)。
【0055】
そして制御装置29は、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21の動作を同期させることで、第一の光路33を経たレーザービーム12が、ポリゴンミラー21の反射面31同士がなす角部32に照射されないように、タイミングを合わせて、レーザービーム12の光路を第二光路34に切り替えるようにする。制御装置29は、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21の回転速度や位相を制御して、ビームスプリッター24による分割タイミングとポリゴンミラー21の回転とを同期させる。なお、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21の回転速度や位相の制御は、運転開始後の状態をフィードバックした上で適宜、調整してもよい。運転開始後の状態としては、例えば、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21の各回転における目標値からのずれ量などを採用することができる。
【0056】
ところで、前記レーザー照射装置20では、
図10に示すように、ポリゴンミラー21の反射面31にレーザービーム12が入射されたときには、電磁鋼板11上に照射されるレーザービーム12は、ポリゴンミラー21によって分割、乱反射されていないことから、エネルギー密度が十分であり、加工性が確保される。なお
図10から
図13において、レーザービーム12のハッチの濃度は、加工性の高低を表す。すなわち、ハッチの濃度が濃い場合は、レーザービーム12のエネルギー密度が高く加工性が高いことを表し、濃度が薄い場合は、レーザービーム12のエネルギー密度が低く加工性が低いことを表している。
【0057】
一方、
図11に示すように、ポリゴンミラー21の角部32にレーザービーム12が入射されたときには、レーザービーム12が分割、乱反射され、電磁鋼板11上に照射されるレーザービーム12の十分な加工性が得られない。
そのため、
図12に示すように、ポリゴンミラー21の反射面31だけでなく角部32にもレーザービーム12が入射されたときには、電磁鋼板11上に照射されるレーザービーム12の一部(反射面31から反射されるレーザービーム12)では、加工性が確保されるものの、残部(角部32から反射されるレーザービーム12)では、十分な加工性が得られないことになる。
【0058】
これに対して、前記レーザー照射装置20では、レーザービーム12の光路が時間帯によって変化することで、各光路を経たレーザービーム12の入射位置がポリゴンミラー21の反射面31に一致するときにポリゴンミラー21に伝送される(即ち、或る光路を経たレーザービーム12のポリゴンミラー21への入射位置が、ポリゴンミラー21の角部32に一致するときには、当該光路を経たレーザービーム12はポリゴンミラー21には伝送されず、他のいずれかの光路を経たレーザービーム12がポリゴンミラー21の反射面31に照射される)。そのため、
図13に示すように、各光路を経たレーザービーム12を、電磁鋼板11上を板幅方向Xに走査するように(必要に応じて、各光路を経たレーザービーム12による走査が連続的となるように)照射することができ、かつ、電磁鋼板11上に照射されるレーザービーム12の全域にわたって、加工性を確保することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る加工システム10によれば、第一の光路33を経たレーザービーム12がポリゴンミラー21の角部32に照射される幾何学的位置(実際には、ビームスプリッター24により光路を切り替えるため、第一の光路33を経たレーザービーム12が電磁鋼板11に照射されることはないが、切り替わらなかったと仮定した場合に、角部32に照射される位置)となる時間帯に、第二の光路34を経たレーザービーム12が電磁鋼板11に照射されるように、ビームスプリッター24がレーザービーム12の光路を変更する。よって、レーザービーム12が角部32に入射されることがなく、電磁鋼板11に照射されるレーザービーム12の加工性を確保することができる。
【0060】
このように、ビームスプリッター24が光路を変更することで、共通のポリゴンミラー21にレーザービーム12を入射させても、加工性が確保されたレーザービーム12を電磁鋼板11に照射することができる。したがって、例えば、ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21をそれぞれ一つずつとした構成であっても、レーザービーム12による電磁鋼板11の加工性を確保することができる。そのため、例えば、一つのビームスプリッター24に対応して複数のポリゴンミラー21を設ける構成に比べて、構造の簡素化を図ることができる。よって、簡易な構成でかつコンパクトな装置とすることができる。
【0061】
言い換えると、制御装置29が、一つのビームスプリッター24及び一つのポリゴンミラー21を同期させて制御し、ポリゴンミラー21に入射される複数の光路を経たレーザービーム12を、適時、ポリゴンミラー21の反射面31(平面部)に入射させる。よって、レーザービーム12が角部32に入射されることがなく、電磁鋼板11に照射されるレーザービーム12の加工性を確保することができる。
しかも、前述のように、制御装置29が、一つのビームスプリッター24及び一つのポリゴンミラー21を同期させて制御すればよく、二つの装置(ビームスプリッター24及びポリゴンミラー21)を同期制御すればよい。よって、簡易な構成でかつコンパクトな装置とすることができる。
【0062】
従来技術では、例えば本実施形態のように、レーザービーム12を第一の時間帯と第二の時間帯とで二つの光路に分割する場合(レーザービーム12の分割数が2の場合)、レーザービーム12の伝送先に個別にポリゴンミラー21を設け、各ポリゴンミラー21とビームスプリッター24の最低3個の装置を同期する必要があった。しかしながら、本実施形態に係るレーザー照射装置20では、前述したように一つのビームスプリッター24と一つのポリゴンミラー21の2個でよい。
【0063】
分割数が増えた場合、例えばレーザービーム12の分割数がn分割の場合、従来技術では、ビームスプリッター24とn個のポリゴンミラー21の同期が必要であった。しかしながら、
図14に示すように、本実施形態の変形例に係るレーザー照射装置20Bの場合、一つのポリゴンミラー21へn本(図示の例では4分割)のレーザービーム12を適切に調整された位置に入射する構成であるため、同期が必要な装置はやはり二つである(図示の例では、ビームスプリッター24として、一体的に固定された3個のスプリットミラーが重なっていて、光路が第一の光路33、第二の光路34に加えて、第三の光路37、第四の光路38を有する構成を示している)。
【0064】
本実施形態に係るレーザー照射装置20では、ポリゴンミラー21を2本以上のレーザービーム12で共有するため装置の小型化が可能である。よって、
図1に示すような、複数のレーザー照射装置20(スキャン装置)をX方向(板幅方向)に並べる場合において、X方向に設置可能な台数の制約が緩和される。
これに対して、従来の鋼板の加工システム10A(レーザー照射装置20A)では、
図15に示すように、X方向に複数のレーザー照射装置20Aを設置するためには、X方向に一定の間隔をおいて配置する必要がある。そのため、電磁鋼板11の全幅にわたってレーザービーム12を照射させるためには、複数のレーザー照射装置20AをY方向(通板方向)に位置をずらして並べる必要が生じる。
【0065】
従来技術に係るレーザー照射装置20Aと本実施形態に係るレーザー照射装置20の原理的な違いは、次のようにも説明される。
従来技術に係るレーザー照射装置20Aでは、時分割のn個のレーザービーム12をn個の個別に同期されたポリゴンミラー21を用いている。すなわち、ビームスプリッター24と各ポリゴンミラー21とは時間的な位相同期を行っている。
一方、本実施形態に係るレーザー照射装置20では、一つのポリゴンミラー21のn箇所を使用し、入射位置を調整している。すなわち、ポリゴンミラー21の形状に合わせた空間的な位相同期を行って、従来技術と同じ効果を得ている。
【0066】
なお、レーザービーム12の時分割数は、本実施形態のように二つの場合が最も簡素な装置構成である。しかしながら、
図14に示すように、レーザービーム12を3つ以上に時分割して、ポリゴンミラー21の異なる3つ以上の位置に入射させてもよい。このような形態は、例えば、ポリゴンミラー21への入射ビーム径が大きく、ポリゴンミラー21面幅と同等に近くなる場合に適する。すなわち、入射ビーム径が反射面31(ミラー面)のサイズと同等になると、少しのポリゴンミラー21の回転によってでも、レーザービーム12の端がポリゴンミラー21の角部32に差し掛かるおそれがある。そのため、反射面31(平面部)のみで反射できる時間が短くなる。その場合はレーザービーム12の時分割数を多くして、レーザービーム12の光路を短時間で切り替えることで角部32への入射を回避することが可能となる。
【0067】
また本実施形態では、第二の光路34を経たレーザービーム12の照射位置を位置調整手段30が変更することで、前記時間帯においても、第二の光路34を経たレーザービーム12をポリゴンミラー21の反射面31に照射させることができる。
位置調整手段30が、第一下流ミラー23a、第二下流ミラー25aの位置を変更することで照射位置を変更する。よって、例えば、照射位置の変更作業の簡素化を図ること等ができる。
【0068】
(第二実施形態)
次に、本発明に係る第二実施形態の加工システム10を、
図16から
図19を参照して説明する。
なお、この第二実施形態においては、第一実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0069】
図16及び
図17に示すように、本実施形態のレーザー照射装置40では、第一の光路33及び第二の光路34にはそれぞれ、レンズ41が設けられている。レンズ41は、第一の光路33においてビームスプリッター24を間に挟んで二つと、第二の光路34においてビームスプリッター24に対向して一つと、それぞれ設けられている。レンズ41の焦点Fは、ビームスプリッター24の開口35に位置する。
【0070】
レーザー光源からビームスプリッター24に照射されるレーザービーム12は、焦点Fを合わせた状態で開口35及び非開口部分36に交互に照射される。なお、
図18に示す変形例に係るレーザー照射装置40Bのように、レンズ41に代えて、第一ミラー23や第二ミラー25として凹面鏡42を採用することで、レーザービーム12の焦点Fを開口35や非開口部分36にあわせてもよい。
図19に示すように、焦点Fでのレーザービーム12の形状は、ビームスプリッター24の径方向が長軸方向となる楕円形状である。
【0071】
本実施形態に係る加工システム10によれば、レーザービーム12の焦点Fがビームスプリッター24である円盤の表面に位置する。よって、レーザービーム12の開口35内での専有面積を抑えることができる。これにより、レーザービーム12が予期せず非開口部分36に照射されてしまうことを抑制することができる。
焦点Fでのレーザービーム12の形状が、ビームスプリッター24の周方向が短軸となる楕円形状である。よって、レーザービーム12の光路の切り替え時間を短縮することができ、レーザービーム12が予期せず非開口部分36に照射されてしまうことを一層抑制することができる。
【0072】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0073】
鋼板の加工システム10が、一つのレーザー照射装置20のみを備えていてもよい。
レーザー照射装置20を、鋼板の加工システム10以外のシステムに採用してもよい。
【0074】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 加工システム
11 方向性電磁鋼板(対象物)
20、20B、40、40B レーザー照射装置
21 ポリゴンミラー
24 ビームスプリッター
29 制御装置
30 位置調整手段
31 反射面
32 角部
33 第一の光路
34 第二の光路(他の光路)
35 開口
36 非開口部分
F 焦点