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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】自動車用構造部材
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/04 20060101AFI20230802BHJP
   B60R 19/18 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B60R19/04 M
B60R19/18 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022534963
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021740
(87)【国際公開番号】W WO2022009589
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2020117662
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大野 敦史
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/035185(WO,A1)
【文献】特開2003-220909(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085385(WO,A1)
【文献】特開2015-147437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/04
B60R 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の軸に沿って延在する部分を含む長尺状で中空状の自動車用構造部材であって、
前記自動車用構造部材の前記軸方向に延びる第1部材と、
前記軸方向に延び、前記第1部材に接続され、前記第1部材と共に閉断面を形成する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置される補剛部材と、を備え、
前記第1部材は、フランジ部と、前記フランジ部に連なる第1部材稜線部と、前記第1部材稜線部に連なり前記フランジ部の頂面と同じレベルに揃う頂面を有する凸部と、前記凸部に隣接する凹部と、を有し、
前記第2部材は、前記第1部材稜線部の下面に沿い、前記下面に接する上面を有する第2部材稜線部と、前記第2部材稜線部に連なる縦壁と、前記縦壁に連なる底壁と、を有し、
前記補剛部材は、前記凹部を支持する
ことを特徴とする自動車用構造部材。
【請求項2】
前記補剛部材は、前記底壁に接続又は近接して配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の自動車用構造部材。
【請求項3】
前記補剛部材は、前記軸に沿って配置されるとともに、
前記凹部の中心より前記軸側に偏った位置に配置される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用構造部材。
【請求項4】
前記補剛部材は、前記軸に沿う波形状である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動車用構造部材。
【請求項5】
前記補剛部材は、前記軸に沿って断続的に形成された切欠部を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の自動車用構造部材。
【請求項6】
前記補剛部材は、並行する第1補剛部材及び第2補剛部材を有し、
前記第1補剛部材及び前記第2補剛部材を固定する板状のベース部材を介して、前記底壁に接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の自動車用構造部材。
【請求項7】
前記第1補剛部材と前記第2補剛部材とは、前記軸方向の中央部において、互いに離間する
ことを特徴とする請求項6に記載の自動車用構造部材。
【請求項8】
前記第1補剛部材と前記第2補剛部材とは、前記軸方向の端部において、互いに接した状態で接合される
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の自動車用構造部材。
【請求項9】
前記第2部材は、車体に取り付けられる
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の自動車用構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用構造部材に関する。
本願は、2020年7月8日に、日本に出願された特願2020-117662号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、横方向からの衝撃エネルギーを吸収可能な自動車用構造部材があった。
【0003】
しかしながら、従来の自動車用構造部材には、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収することに改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第6566174号公報
【文献】日本国特許第6485606号公報
【文献】日本国特開2017-088058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収できる自動車用構造部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る自動車用構造部材は、直線状の軸に沿って延在する部分を含む長尺状で中空状の自動車用構造部材であって、前記自動車用構造部材の軸方向に延びる第1部材と、前記軸方向に延び、前記第1部材に接続され、前記第1部材と共に閉断面を形成する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置される補剛部材と、を備え、前記第1部材は、フランジ部と、前記フランジ部に連なる第1部材稜線部と、前記第1部材稜線部に連なり前記フランジ部の頂面と同じレベルに揃う頂面を有する凸部と、前記凸部に隣接する凹部と、を有し、前記第2部材は、前記第1部材稜線部の下面に沿い、前記下面に接する上面を有する第2部材稜線部と、前記第2部材稜線部に連なる縦壁と、前記縦壁に連なる底壁と、を有し、前記補剛部材は、前記凹部を支持する。
(2)上記(1)において、前記補剛部材は、前記底壁に接続又は近接して配置されていてよい。
(3)上記(1)又は(2)において、前記補剛部材は、前記軸に沿って配置されるとともに、前記凹部の中心より前記軸側に偏った位置に配置されてよい。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記補剛部材は、前記軸に沿う波形状であってよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記補剛部材は、前記軸に沿って断続的に形成された切欠部を有してよい。
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記補剛部材は、並行する第1補剛部材及び第2補剛部材を有し、前記第1補剛部材及び前記第2補剛部材を固定する板状のベース部材を介して、前記底壁に接続されてよい。
(7)上記(6)において、前記第1補剛部材と前記第2補剛部材とは、前記軸方向の中央部において、互いに離間してよい。
(8)上記(6)又は(7)において、前記第1補剛部材と前記第2補剛部材とは、前記軸方向の端部において、互いに接した状態で接合されてよい。
(9)上記(1)から(8)のいずれかにおいて、前記第2部材は、車体に取り付けられてよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収できる自動車用構造部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】自動車用構造部材の斜視図である。
図2】自動車用構造部材の平面図である。
図3】自動車用構造部材の正面図である。
図4図2におけるA矢視図である。
図5】補剛部材の斜視図である。
図6】補剛部材の変形例に係る斜視図である。
図7】比較例1及び比較例2の断面変形を示す比較図である。
図8】本実施形態及び比較例3の断面変形を示す比較図である。
図9】比較例1及び比較例2の衝突方向Yの変位と荷重との関係を示す図である。
図10】本実施形態及び比較例3の衝突方向Yの変位と荷重との関係を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
図1は、自動車用構造部材1の斜視図である。図2は、自動車用構造部材1の平面図である。図3は、自動車用構造部材1の正面図である。図4は、図2におけるA矢視図である。なお、図1から図3は、第1部材110と第2部材120との間に配置された補剛部材200を透過した状態を示している。なお、以下、自動車用構造部材1を車体に適用した場合を想定し、図4における左右方向を、高さ方向Zといい、図4における上下方向を衝突方向Y又は前後方向といい、図4における紙面垂直方向を軸X方向又は幅方向という場合がある。この際、衝突方向Yにおける障害物が最初に衝突する側(図4における上側)を前方といい、その反対側(図4における下側)を後方という場合がある。
【0011】
本実施形態に係る自動車用構造部材1は、例えば、車体の前端部又は後端部に取り付けられるバンパービームとして適用できる。前端部に取り付けた際、本実施形態に係る自動車用構造部材1は、通常、車体の幅方向(左右方向)に軸Xを沿わせた状態で、第1部材110を車体の前方に、第2部材120を車体の後方にする姿勢で、車体に取り付けられる。その際、第2部材120は、車体に取り付けられる。
【0012】
図1から図3に示すように、本実施形態に係る自動車用構造部材1は、直線状の軸Xに沿って延在する部分を含む長尺状で中空状である。詳細には、自動車用構造部材1は、軸X方向に延びる第1部材110と、軸X方向に延び、第1部材110に接続され、第1部材110と共に閉断面を形成する第2部材120とを備えている。これにより、軸Xに直交する軸周りの曲げに対して、高い曲げ剛性を確保している。
ここで、直線状の軸Xは、幾何学的に厳密な直線に限らず、僅かに湾曲した、例えば、円弧状の曲線も含む。
また、自動車用構造部材1は、長手方向における一部分が直線状の軸Xに沿っていればよい。例えば、長手方向における中央部の一定範囲が直線状の軸Xに沿っている。例えば、自動車用構造部材1をセンターピラーに適用した場合のように、自動車用構造部材1の長手方向における一端部又は両端部を、直線状の軸Xに沿わない不図示の湾曲軸に沿う湾曲部としたり、又は、高さ方向Zに非対称な断面を有するようにしたりしてもよい。
なお、軸Xは、自動車用構造部材1、又は、第1部材110と第2部材120とで構成される補剛部材200を除く部材の材軸(部材断面の図心を通る、長手方向の軸線)と一致していてよい。
また、自動車用構造部材1は、第1部材110と第2部材120との間に配置される補剛部材200を備えている。これにより、自動車用構造部材1に衝撃力等の荷重が作用した際に、補剛部材200が、第1部材110及び第2部材120によって形成される断面が荷重の作用方向に潰れるように変形することに抵抗するので、作用する衝撃力が高くなっても、自動車用構造部材1の断面二次モーメントが小さくなることを抑制できる。よって、作用する荷重の広い範囲に亘って、自動車用構造部材1の高い曲げ剛性を確保できる。
自動車用構造部材1の断面は、図4に示すように、軸Xを通り衝突方向Yに沿う仮想面を中心として、高さ方向Zに対称な形状であってよい。
なお、自動車用構造部材1(又は、第1部材110と第2部材120とで構成される補剛部材200を除く部材)の断面は、軸X方向に沿って一律の形状であってよいが、これに限られない。自動車用構造部材1の断面における圧潰方向である衝突方向Yの最大寸法(断面高さ)が急激に変化しない範囲で、軸X方向に沿って緩やかに連続的に変化するものであってよい。例えば、用途に応じて外力の作用位置、支持条件等を勘案し、自動車用構造部材1の質量と剛性とのバランスを取るため、自動車用構造部材1の断面を、長手方向における中央部で最も大きな形状(面積、断面一次モーメント又は断面二次モーメント)とし、長手方向における端部に近づくに連れて比較的小さな形状となるようにしてよい。
【0013】
(第1部材)
第1部材110は、例えば、鋼製である。
詳細には、図4に示すように、第1部材110は、第1部材フランジ部111(フランジ部)と、第1部材フランジ部111に連なる第1部材稜線部112と、第1部材稜線部112に連なり第1部材フランジ部111の頂面111aと同じレベルL(基準面)に揃う頂面113aを有する凸部113と、凸部113に隣接する凹部114と、を有している。ここで、頂面113aは、重なり合った第1部材稜線部112及び第2部材稜線部121と補剛部材200とで協働して、作用する荷重を分担し合い、断面の変形に抵抗することで、自動車用構造部材1の侵入量の低減と衝撃エネルギー吸収量の向上とが両立できる範囲であれば、頂面111aと同じレベルLに対して完全に一致しなくてもよい。つまり、頂面113aが頂面111aと同じレベルLに揃っているものとしては、頂面113aが、レベルLとなる基準面に完全に一致するものに限られず、頂面113aが、レベルLとなる基準面から、例えば、凸部113の高さの1/5程度ずれているものも含まれる。
【0014】
第1部材フランジ部111は、第1部材110の高さ方向Z(図4における左右方向)における両端部に形成されている。第1部材フランジ部111は、高さ方向Zに沿って延びており、頂面111aはレベルLに沿っている。
【0015】
第1部材稜線部112は、レベルLに沿う第1部材フランジ部111から略垂直方向である衝突方向Yの後方に向けて、曲がっている。第1部材稜線部112は、第2部材稜線部121と接して重なった状態となっている。これにより、第1部材稜線部112と第2部材稜線部121とが互いに変形を拘束し合って一体のものとしてふるまい、剛性が高められているので、自動車用構造部材1の第1部材110に荷重が作用した際における第2部材120の第2部材稜線部121の変形を抑制できる。
【0016】
凸部113は、高さ方向Zに沿い、最も衝突方向Yにおける前方側に頂部113cを有している。また、凸部113は、頂部113cの高さ方向Zにおける両端部から衝突方向Yにおける後方に向けて曲がった先から衝突方向Yに沿うように形成され、凹部114に連なる凸部屈曲部113dを有している。
そして、凸部113の断面は、頂部113cと、その両側にある凸部屈曲部113dと連なり、衝突方向Yにおける前方に向けて凸となる略U字状に形成されている。
凸部113の頂面113aと、第1部材フランジ部111の頂面111aとは、同じレベルLに揃っているので、自動車用構造部材1の第1部材110に衝突する障害物からの荷重を受けるタイミングを、凸部113と第1部材フランジ部111とで同時にできる。そして、その荷重を、凸部113と第1部材フランジ部111とで分散して受けることができる。
なお、図4では、自動車用構造部材1が単一の凸部113を有している例を示しているが、これに限られない。自動車用構造部材1は、凸部113を複数有していてもよい。その場合、それぞれの凸部113は、その高さ方向Zにおける両側に凹部114を有してよい。また、その場合、複数の凸部113のそれぞれの頂面113aと、第1部材フランジ部111の頂面111aとは、同じレベルLに揃っていてよい。
【0017】
凹部114は、高さ方向Zに沿い、最も衝突方向Yにおける後方側に底部114cを有している。また、凹部114は、底部114cの高さ方向Zにおける一端部から衝突方向Yにおける前方に向けて曲がった先から衝突方向Yに沿うように形成され、凸部113に連なる第1凹部屈曲部114dと、底部114cの高さ方向Zにおける他端部から衝突方向Yにおける前方に向けて曲がった先から衝突方向Yに沿うように形成され、第1部材稜線部112に連なる第2凹部屈曲部114eと、を有している。
そして、凹部114の断面は、第1凹部屈曲部114dと、底部114cと、第2凹部屈曲部114eとが連なり、衝突方向Yにおける後方に向けて凸となる略U字状に形成されている。
【0018】
ここで、第1部材110の少なくとも第1部材稜線部112及び第1部材稜線部112から第2凹部屈曲部114eに至るまでの部分は、第2部材120の少なくとも第2部材稜線部121及び縦壁122の一部と重なった状態で、好ましくは面同士で接している。これにより、第1部材稜線部112及び第2部材稜線部121は、衝撃等の荷重が衝突方向Yにおいて前方から後方に向けて作用した際に、互いに接した状態で重なり合うことで互いに変形を拘束し合って一体としてふるまい、剛性が高められている。よって、第1部材稜線部112及び第2部材稜線部121における座屈が抑制される。そして、この効果と同時に、互いに接した状態で重なり合うことで互いに変形を拘束し合って一体としてふるまい剛性が高められた第1部材稜線部112から第2凹部屈曲部114eに至るまでの部分及び縦壁122により、大きな荷重域においても、縦壁122が軸Xに近づく側(内側)に狭まるように変形することを抑制できる。
【0019】
(第2部材)
第2部材120は、例えば、鋼製である。
第2部材120は、第1部材稜線部112の下面112bに沿い、その下面112bに接する上面121aを有する第2部材稜線部121と、第2部材稜線部121に連なる縦壁122と、縦壁122に連なる底壁123と、を有している。第2部材120は、適宜、第2部材稜線部121に連なる第2部材フランジ部124を有している。このように、第2部材稜線部121は、第1部材稜線部112の下面112bに沿い、その下面112bに接する上面121aを有している。これにより、第1部材稜線部112と第2部材稜線部121とが重なって一体としてふるまい、剛性が高められる。よって、最大耐荷重を増大させることができる。
【0020】
詳細には、第2部材稜線部121は、レベルLに対して略平行に延びる第2部材フランジ部124から略垂直方向である衝突方向Yの後方に向けて、曲がっている。第2部材稜線部121は、第1部材稜線部112と接して重なった状態となっている。これにより、第1部材稜線部112と第2部材稜線部121とが重なって一体としてふるまい、剛性が高められるので、自動車用構造部材1の第1部材110に荷重が作用した際における第2部材120の第2部材稜線部121における座屈を抑制できる。よって、自動車用構造部材1の耐荷重性能を向上させることができる。
また、第1部材稜線部112と第2部材稜線部121との間に隙間がある場合に比べて、第1部材稜線部112及び第2部材稜線部121の長手方向における一部が折れて、それに続いて縦壁122が高さ方向Zに膨らんで面外変形するような、急激な断面変形を生じさせないようにできる。そして、稜線部の剛性を向上させたことによる効果と、補剛部材200によって縦壁122の変形を抑制する効果との相乗効果により、自動車用構造部材1を、高い荷重を受けさせながら断面変形させることができる。よって、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収できる自動車用構造部材1とすることができる。
【0021】
縦壁122は、縦壁122を構成する板厚方向の両面を、軸Xに直交する方向となる自動車用構造部材1に作用する荷重の方向(衝突方向Y)に沿わせた姿勢で、配置されている。なお、縦壁122は、座屈耐力が大きく損なわれない程度に、衝突方向Yに対して、僅かに傾斜していてよい。縦壁122の衝突方向Yにおける後方の端部は、角部125を介して底壁123に連なっている。縦壁122の衝突方向Yにおける前方の端部は、第2部材稜線部121を介して第2部材フランジ部124に連なっている。
【0022】
底壁123は、レベルLに対して略平行に延びている。底壁123の高さ方向Zにおける両端部は、角部125を介して縦壁122に連なっている。
【0023】
第2部材フランジ部124は、第1部材フランジ部111と接して重なった状態で、互いに溶接等の手段により接合している。これにより、衝突方向Yに沿って作用する荷重に対する剛性が高められている。
【0024】
(補剛部材)
図5は、補剛部材200の斜視図である。なお、図5において、第1部材110及び第2部材120の図示は省略されている。
補剛部材200は、自動車用構造部材1の軸Xに沿って配置されている。
補剛部材200は、図4に示すように、第1部材110と第2部材120との間に配置されている。補剛部材200は、図4に示すように、軸Xを通り衝突方向Yに沿う仮想面を中心として、高さ方向Zに対して対称になるように配置されている。
【0025】
補剛部材200は、例えば、板状であってよい。補剛部材200は、例えば、鋼製、アルミニウム製又はアルミニウム合金製等の金属製であってよく、樹脂製であってよい。補剛部材200は、板面の面内方向が、衝突方向Yに沿っていることが好ましい。これにより、補剛部材200に対して衝突方向Yの圧縮力を板面方向に作用させて、高い座屈耐力で抵抗させることができる。
【0026】
補剛部材200は、第1部材110の凹部114を支持している。補剛部材200は、好ましくは、凹部114に溶接等により固定されることで凹部114を支持している。このように、補剛部材200により凹部114の剛性が高められるため、衝撃等の荷重が衝突方向Yにおいて前方から後方に向けて作用した際に、縦壁122の軸Xに向けた変形を抑制する凹部114の変形が抑制される。したがって、大きな荷重域においても、凹部114により、縦壁122が軸Xに向けて変形すること、すなわち、高さ方向Zの寸法が狭まるように変形することを効果的に抑制できる。よって、自動車用構造部材1は、小さい侵入量(所定の形状の障害物が自動車用構造部材1に衝突した際の衝突方向Yにおける変形の最大寸法)で大きな衝撃エネルギーを吸収できる。
なお、補剛部材200は、凹部114から凸部113に跨った状態で両者を支持していてもよい。
【0027】
補剛部材200は、底壁123に接続又は近接して配置されている。補剛部材200は、好ましくは、後述する板状のベース部材230が接触することで底壁123に接続されている。補剛部材200は、底壁123に接続されているので、第1部材110の凸部113に作用した荷重を、その凸部113に隣接する凹部114から補剛部材200を介して、第2部材120の底壁123に伝達することができる。そして、同時に、第1部材フランジ部111に作用した荷重を、その第1部材フランジ部111に隣接する第1部材稜線部112から縦壁122を介して、第2部材120の底壁123に伝達することができる。すなわち、補剛部材200が凹部114を支持するとともに、底壁123に接続していることにより、凸部113及び第1部材フランジ部111に作用した荷重を、凹部114を介して、補剛部材200で受けることができ、しかも、縦壁122の変形を抑制できる。よって、第1部材110及び第2部材120の変形を大きな荷重域においても抑制できる。
【0028】
補剛部材200は、軸Xに沿って配置されるとともに、図4に示すように、凹部114の中心m(凹部114の図心軸)より軸X側に偏距離kだけ偏った位置に配置されている。偏距離kは、中心mから補剛部材200を高さ方向Zに二等分する面Sまでの距離であってよい。これにより、補剛部材200がない場合において想定される、凸部113から伝達された荷重による凹部114における凹部114の中心より軸Xに近づく側(内側)の比較的大きな変形(図8の比較例3参照)を、より確実に抑制できる。よって、荷重が作用する際の自動車用構造部材1の変形を、できる限り小さな質量で合理的に抑制できる。
【0029】
補剛部材200は、軸Xに沿う波形状であってよい。すなわち、補剛部材200は、軸Xに沿って、高さ方向Zにおいて、軸Xに近づく側(内側)と軸Xから離れる側(外側)との間を交番的に波打つように形成された板状であってよい。
【0030】
補剛部材200は、軸Xに沿う縦壁122側の第1平面部と、その第1平面部に連なり軸Xに対して斜めに傾く第1斜面部と、その第1斜面部に連なり軸Xに沿う軸X側の第2平面部と、その第2平面部に連なり軸Xに対して第1斜面部とは反対側に斜めに傾く第2斜面部と、を有している。そして、第1平面部、第1斜面部、第2平面部及び第2斜面部(以下、「面部」という。)で形成された一つの波形が、軸Xに沿って複数繰り返されているような形状を有している。
このように、複数の面部は、互いに連続しており、隣接する2つの面部は、軸X方向に対する姿勢が異なっていてよい。なお、複数の面部は、隣接する2つの面部が互いに離間した状態で、軸X方向に対する姿勢が異なっていてもよい。
なお、補剛部材200の波形状は、例えば、正弦曲線であってよい。
これにより、座屈波長を短くでき、衝突方向Yに沿って作用する圧縮力に対する座屈耐力を高められるので、大きな荷重を維持した状態で座屈(圧潰)させることができる。よって、高いエネルギー吸収量を確保できる。
【0031】
補剛部材200は、並行する第1補剛部材210及び第2補剛部材220を有している。補剛部材200は、縦壁122に沿っていてよい。なお、補剛部材200は、並行する3以上の複数で構成されていてもよい。そして、補剛部材200は、第1補剛部材210及び第2補剛部材220を固定する板状のベース部材230を介して、第2部材120の底壁123に接続されている。これにより、補剛部材200の圧潰による変形を安定させることができる。なお、補剛部材200の圧潰による変形が安定する範囲で、ベース部材230と底壁123との間にクリアランスを設けてもよい。この場合、補剛部材200は底壁123に近接して配置されることになる。
【0032】
第1補剛部材210と第2補剛部材220とは、軸X方向の中央部において、互いに離間している。これにより、自動車用構造部材1に作用する衝突方向Yに沿う荷重を、二つの縦壁122及び二つの補剛部材200によって、高さ方向Zに分散して受けることができる。よって、高さ方向Zに局所的に生じる変形を抑制できる。
【0033】
第1補剛部材210と前記第2補剛部材220とは、軸X方向の端部において、互いに接した状態で接合されている。これにより、補剛部材200を、安定的に圧潰させることができる。
【0034】
上述のとおり、本実施形態の補剛部材200は、凹部114に溶接等により固定されることで凹部114を支持しているが、補剛部材200は、自動車用構造部材1が衝突荷重を受けた場合に凹部114を支持すれば足りる。つまり、補剛部材200が凹部114を支持する構成の変形例として、補剛部材200の衝突方向Yの前方における端部が、軸Xの全範囲で接触しない状態で、第1部材110と第2部材120との間に配置されていてもよい。
【0035】
(補剛部材の変形例)
次に、補剛部材200の変形例を説明する。
補剛部材200は、衝突方向Yに沿う面を有していることが好ましい。衝突方向Yに沿う面は平面でも曲面でもよく、上述した第1補剛部材210及び前記第2補剛部材220はいずれも、衝突方向Yに沿う複数の平面が衝突方向Yから見た姿勢を異ならせて配設された例であり、以下に説明する変形例でも同様である。衝突方向Yに沿う面は、曲面であってもよい。この場合、補剛部材200は、例えば複数の円筒状部材を円筒軸が衝突方向Yに沿う姿勢で相互に接触又は離間させた状態で配置して構成できる。
図6は、補剛部材200の変形例に係る斜視図である。図6は、特に、衝突方向Yに沿う複数の平面を備えた補剛部材200を示している。
図6に示すように、補剛部材200は、軸Xに沿って断続的に形成された切欠部250を有していてよい。切欠部250は、補剛部材200の衝突方向Yの前方における端部に設けられている。
これにより、荷重が作用する際における自動車用構造部材1が受ける反力(ピーク荷重)が過大となることを低減でき、荷重が作用し始める初期に、補剛部材200の圧潰を安定的に促進させることができる。よって、高いエネルギー吸収量を確保できる。
【0036】
(作用)
次に、本実施形態に係る自動車用構造部材1の作用を、衝突方向Yから荷重を作用させた際における本実施形態に係る自動車用構造部材1の断面変形と、比較例の断面変形とを比較することにより、説明する。
図7から図10は、自動車用構造部材1の軸X方向における両端部を、衝突方向Yにおける後方からそれぞれ単純支持した状態で、自動車用構造部材1の軸X方向における中央部に、衝突方向Yにおける前方から荷重を第1部材110(比較例3及び本実施形態においては凸部113及び第1部材フランジ部111)に作用させた際の、衝突解析の結果を示している。
図7は、比較例1及び比較例2の断面変形を示す比較図である。図8は、本実施形態及び比較例3の断面変形を示す比較図である。図9は、比較例1及び比較例2の衝突方向Yの変位(侵入量)と荷重との関係を示す図である。図10は、本実施形態及び比較例3の衝突方向Yの変位(侵入量)と荷重との関係を示す比較図である。
図7は、左側に比較例1の断面を示し、右側に比較例2の断面を示す。図8は、左側に比較例3の断面を示し、右側に本実施形態の断面を示す。図7及び図8において、上から下に向けて段階的に荷重を増加させた場合における、各段階での断面形状を示す。
【0037】
図7に示すように、第1部材110の断面形状が直線状である場合、補剛部材200を有さない比較例1に比べて、補剛部材200を有する比較例2は、荷重が増加しても、比較的、衝突方向Yの変形を抑制している。その一方、比較例1及び比較例2は、いずれも、荷重が増加するに連れて、縦壁122が大きく傾いていく。また、比較例2は、荷重が比較的小さい時点で、補剛部材200における第1部材110を支持する端部が座屈変形している。
【0038】
そして、図9に示すように、比較例1よりは比較例2の方が比較的大きな荷重を維持したまま変位が大きくなる。しかしながら、比較例1及び比較例2は、いずれも、大きな荷重を維持することなく変位が進むので、比較的小さなエネルギー吸収量を有している。
【0039】
図8に示すように、第1部材110の断面形状が凸部113及び凹部114を有する場合、補剛部材200を有さない比較例3であっても、凹部114が抵抗することで、比較例1及び比較例2と比べて、縦壁122の高さ方向Zへの変形(縦壁122の傾き)が抑制されている。その一方、比較例3は、荷重が高まるに連れて凹部114が変形し、縦壁122の変形を抑制する効果が薄れ、荷重が更に高くなると、縦壁122の変形が大きくなり、衝突方向Yの断面寸法が小さくなっている。
これに対して、本実施形態は、荷重が高くなっても、補剛部材200が凹部114を支持していることにより、凹部114の断面形状が維持されるので、縦壁122の変形も抑制されている。その結果、補剛部材200を有さない比較例3に比べて、補剛部材200を有する本実施形態は、荷重が増加しても、比較的、衝突方向Yの変形を抑制している。
【0040】
そして、図10に示すように、比較例3及び本実施形態は、いずれも、比較的大きな荷重を維持して変位が進行する。しかしながら、比較例3は、変位が進行するに連れて、荷重が低下していく。そして、これに対して、本実施形態は、変位が小さい段階でも、比較例3と比べて大きな荷重を維持できており、変位が進行しても、大きな荷重を維持するので、大きなエネルギー吸収量を有している。
すなわち、本実施形態の自動車用構造部材1によれば、作用する荷重が高くなっても、高さ方向Zの変形(縦壁122の傾き)及び衝突方向Yの変形を抑制でき、断面形状を維持できる。よって、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収できる。
【0041】
(その他の実施形態)
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
【0042】
本実施形態の自動車用構造部材1は、直線状の軸Xに沿って延在する部分を含む長尺状で中空状の自動車用構造部材1であって、自動車用構造部材1の軸X方向に延びる第1部材110と、軸X方向に延び、第1部材110に接続され、第1部材110と共に閉断面を形成する第2部材120と、第1部材110と第2部材120との間に配置される補剛部材200と、を備えている。第1部材110は、フランジ部(第1部材フランジ部111)と、フランジ部(第1部材フランジ部111)に連なる第1部材稜線部112と、第1部材稜線部112に連なりフランジ部(第1部材フランジ部111)の頂面111aと同じレベルLに揃う頂面113aを有する凸部113と、凸部113に隣接する凹部114と、を有する。第2部材120は、第1部材稜線部112の下面112bに沿い、下面112bに接する上面121aを有する第2部材稜線部121と、第2部材稜線部121に連なる縦壁122と、縦壁122に連なる底壁123と、を有する。補剛部材200は、凹部114を支持する。本実施形態の自動車用構造部材1によれば、衝撃等の荷重が衝突方向Yにおいて前方から後方に向けて作用した際に、互いに重なり合って面同士で接する第1部材稜線部112及び第2部材稜線部121が、高い剛性で変形に抵抗するともに、補剛部材200が、縦壁122の軸Xに向けた変形を抑制する凹部114の変形を抑制する。よって、自動車用構造部材1は、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、小さい侵入量で大きな衝撃エネルギーを吸収できる自動車用構造部材を提供できる。
【符号の説明】
【0044】
1 自動車用構造部材
110 第1部材
111 第1部材フランジ部(フランジ部)
111a 頂面
112 第1部材稜線部
112b 下面
113 凸部
113a 頂面
113c 頂部
113d 凸部屈曲部
114 凹部
114c 底部
114d 第1凹部屈曲部
114e 第2凹部屈曲部
120 第2部材
121 第2部材稜線部
121a 上面
122 縦壁
123 底壁
124 第2部材フランジ部
125 角部
200 補剛部材
210 第1補剛部材
220 第2補剛部材
230 ベース部材
250 切欠部
k 偏距離
L レベル
m 中心
S 面
X 軸
Y 衝突方向
Z 高さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10