(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】電池パックの異常検出装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20230802BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20230802BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M50/204 401D
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2019089327
(22)【出願日】2019-05-09
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】石本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】八木下 幸成
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】中尾 允俊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久貴
(72)【発明者】
【氏名】岸川 武
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸治
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩真
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-243660(JP,A)
【文献】特開2012-195143(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0260192(US,A1)
【文献】国際公開第2012/073770(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/138969(WO,A1)
【文献】特開2001-208622(JP,A)
【文献】特開2017-136901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42-10/667
H01M50/20-50/298
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内圧の上昇により開弁する安全弁が設けられた複数の電池セルが電池ケースの内部に収容された電池パックにおける異常を検出する異常検出装置であって、
前記電池ケースの変位量を計測する変位量計測手段と、
前記変位量計測手段で計測された変位量に基づいて前記電池パックの異常を検出する異常検出手段と、を備え
、
前記変位量は、前記電池ケースの全体が移動したことによる変位量であり、
前記異常検出手段は、
前記電池パックに衝撃が入力されたときにおける前記変位量の経時変化である異常入力波形と、
前記変位量計測手段で計測された前記変位量の経時変化である変位波形が近似するならば、前記異常として、前記電池パックに衝撃が入力されたことを検出する
ことを特徴とする電池パックの異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池パックの異常検出装置において、
前記変位量は、外側に向けて膨張変形した前記電池ケースの一部の変位量であり、
前記異常検出手段は、
前記電池セルの前記安全弁から排出されたガスの圧力によって前記電池ケースが膨張変形したときにおける前記変位量の経時変化である
熱暴走基準波形と、
前記変位量計測手段で計測された前記変位量の経時変化である変位波形とが近似するならば、前記異常として、前記電池セルが熱暴走していることを検出する
ことを特徴とする電池パックの異常検出装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項
2に記載の電池パックの異常検出装置において、
前記変位量計測手段は、前記電池ケースとの距離を計測し、当該距離の変化を前記電池ケースの一部の前記変位量とする
ことを特徴とする電池パックの異常検出装置。
【請求項4】
請求項1
又は請求項
2に記載の電池パックの異常検出装置において、
前記変位量計測手段は、前記電池パックから離れた位置に固定され、前記電池パックが変形して前記変位量計測手段に接触したときの圧力に基づいて前記変位量を計測する
ことを特徴とする電池パックの異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電池パックの異常を検出する電池パックの異変検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)を動力源として備える電気自動車やハイブリッド車等の電動車両には、電動機に電力を供給するための電池パックが搭載されている。電池パックは、複数の電池セルと、これら複数の電池セルを収容するケースとを備えており、各電池セルはケース内で電気的に接続されている。
【0003】
各電池セルの構造は様々あるが、例えば、正極板、負極板及びセパレータを含む発電要素を電解液と共に容器内に収容し、この容器を蓋部材によって密閉するようにしたものがある。このような電池セルにおいては、例えば、容器内に金属ごみ等の異物が混入していると、この異物によって内部短絡(ショート)が発生してしまう虞がある。
【0004】
内部短絡が生じると、容器内の温度が上昇すると共にガスが発生し、容器内の圧力が上昇してしまうことがある。このため電池セルには、一般的に、容器内の圧力が所定値まで上昇すると開弁する安全弁が設けられ、圧力上昇による破裂を抑制している。
【0005】
また、複数の電池セルが容器内に密封されている電池パックにおいては、内部短絡に伴い安全弁が開弁すると、その電池セルの熱の影響を受けて、隣接する正常な電池セルでも内圧が上昇して安全弁が開弁してしまうといった状況(いわゆる熱連鎖)に陥る虞がある。このため、電池パックにおいては各電池セルの異常(安全弁の開弁)を適切に検出し、早期に対処することが好ましい。
【0006】
特許文献1で提案されている技術は、電池の劣化や短絡等の異常が生じた際に、電池セルの内部圧力が上昇し、電池セルが膨らむように変形することを利用している。具体的には、電池セルの一部に設けた薄肉部に光をあて、その反射光を検出することにより、薄肉部の変形を検出する。そして薄肉部の変形をもって電池セルの膨張、すなわち異常を検出している。
【0007】
しかしながら、電池セルのそれぞれに対して個別に異常を検出する必要があるため、薄肉部の変形を検出するためのセンサーの数が増大してしまう。また、薄肉部は、電池セルに設ける都合上、小型にならざるを得ないため、薄肉部の変形量をセンサーで捉えることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電池セルの異常をより確実に検出することができる電池パックの異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、内圧の上昇により開弁する安全弁が設けられた複数の電池セルが電池ケースの内部に収容された電池パックにおける異常を検出する異常検出装置であって、前記電池ケースの変位量を計測する変位量計測手段と、前記変位量計測手段で計測された変位量に基づいて前記電池パックの異常を検出する異常検出手段と、を備え、前記変位量は、前記電池ケースの全体が移動したことによる変位量であり、前記異常検出手段は、前記電池パックに衝撃が入力されたときにおける前記変位量の経時変化である異常入力波形と、前記変位量計測手段で計測された前記変位量の経時変化である変位波形が近似するならば、前記異常として、前記電池パックに衝撃が入力されたことを検出することを特徴とする電池パックの異常検出装置にある。
【0011】
第1の態様では、電池セルを個別に異常検出するのではなく、電池セルを収容した電池ケースの変位量に基づいて、電池パックの異常を検出する。このため、個々の電池セルに対して異常を検出するためのセンサーを多数設ける必要はなく、電池ケースに最低限1つの変位量計測手段を設ければよい。このため、異常検出装置は、変位量計測手段の数を低減した簡易な構造とすることができ、コストも低減できる。また、従来のように異常の発生により電池セルの形状が変化することを検出する場合は、比較的小さな部分の形状変化を捉える必要があるところ、本発明の異常検出装置は、電池セルよりも遙かに大きい電池ケースを対象とするため、その変位量は得やすい。このため、電池パックに生じた異常をより確実に得ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の電池パックの異常検出装置において、前記変位量は、外側に向けて膨張変形した前記電池ケースの一部の変位量であり、前記異常検出手段は、前記電池セルの前記安全弁から排出されたガスの圧力によって前記電池ケースが膨張変形したときにおける前記変位量の経時変化である熱暴走基準波形と、前記変位量計測手段で計測された前記変位量の経時変化である変位波形とが近似するならば、前記異常として、前記電池セルが熱暴走していることを検出することを特徴とする電池パックの異常検出装置にある。
【0013】
第2の態様では、電池セルが熱暴走していることをより確実に検出することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の電池パックの異常検出装置において、前記変位量計測手段は、前記電池ケースとの距離を計測し、当該距離の変化を前記電池ケースの一部の前記変位量とすることを特徴とする電池パックの異常検出装置にある。
【0017】
第3の態様では、変位量計測手段と電池ケースとの距離の変化を元に電池ケースの変化
量を得ることができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様に記載の電池パックの異常検出装置において、前記変位量計測手段は、前記電池パックから離れた位置に固定され、前記電池パックが変形して前記変位量計測手段に接触したときの圧力に基づいて前記変位量を計測することを特徴とする電池パックの異常検出装置にある。
【0019】
第4の態様では、圧力に基づいて電池パックの変位量を計測することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電池セルの異常をより確実に検出することができる電池パックの異常検出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】異常発生時における異常検出装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を用いて、電池パックの異常検出装置について説明する。
図1に示すように、本実施形態の異常検出装置10は、電動車両に搭載された電池パック1を異常の検出対象とする。電池パック1は、電動車両(図示せず)の床面20の下方に設けられた電池ケース2を備えている。
【0023】
電池ケース2は、電池セル3を収容する箱状の部材であり、内部には複数の電池セル3がモジュール化されて収容されている。本実施形態では、電池ケース2は、床面20側に開口した箱状の収容部7と、収容部7の開口を覆うカバー8とを備え、収容部7にカバー8が固定され、内部の空間が密閉されている。
【0024】
各電池セル3は、例えば、リチウムイオン電池等の密閉型の二次電池である。電池セル3は、容器4、容器4を封止する蓋部材5を備えており、容器4の内部に正極板、負極板及びセパレータを含む電極体(何れも図示せず)が電解液と共に収容されている。電極体は、公知の構造であるため、ここでの説明は省略する。
【0025】
蓋部材5には、容器4内に収容された電極体の正極板又は負極板にそれぞれ接続される正極端子及び負極端子(何れも図示せず)が設けられている。蓋部材5にはさらに、これら正極端子及び負極端子間に安全弁6が設けられている。
【0026】
安全弁6は、蓋部材5の他の部分よりも相対的に脆弱に形成されており、例えば、容器4内で内部短絡(ショート)が生じた際等に、容器4の内圧が所定値に達すると開弁するように構成されている。これにより容器4の内圧が上昇した場合でも、容器4内のガスが開弁した安全弁6から外部に噴出する。したがって、内圧の上昇による容器4の破裂を抑制することができる。
【0027】
電池ケース2の内部には、電池ケース2の変位量を計測する変位量計測手段の一例として、超音波センサー13が設けられている。
【0028】
電池ケース2の変位量とは、電池ケース2の内部圧力が上昇して膨張変形したとき、その変形の程度を表す量である。本実施形態では、電池ケース2のカバー8は、収容部7よりも比較的剛性が弱い構成とされている。電池セル3が熱膨張して安全弁6からガスが排出されると、電池ケース2の内部圧力が上昇する。この内部圧力によってカバー8が外側に向けて膨張するように変形する。このカバー8が外側に向けて膨張変形する量が変形量となる。
【0029】
また、電池ケース2の全体が振動や衝撃で若干量の移動をすることがある。上述したように定義した変位量の他に、電池ケース2の変位量は、このような電池ケース2の移動前後の変位量であってもよい。
【0030】
超音波センサー13は、超音波を用いて対象物との距離を計測するものであり、公知の装置であるからここでの詳細な説明は省略する。超音波センサー13は、床面20に設けられており、電池ケース2に向けて超音波を発し、その反射波に基づいて電池ケース2(カバー8)との距離を計測する。この距離の変化が電池ケース2の変位量となる。なお、超音波を用いる代わりにレーザー光を用いて対象物との距離を計測するセンサーを用いてもよい。
【0031】
制御装置11は、電動車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit)であり、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。制御装置11は、インターフェース部を介して車両の各部を制御することで、電動車両の走行、制動、充放電などの各種制御を実現している。
【0032】
制御装置11の一機能として、超音波センサー13で計測された変位量に基づいて電池セル3の異常検出が行われる。この異常検出を行う機能は、制御プログラムとして実装された異常検出部12により実現される。なお、この異常検出部12は、請求項に記載の異常検出手段の一例である。
【0033】
異常検出部12は、超音波センサー13で計測された電池ケース2の変位量に基づいて電池セル3の異常を検出する。電池セル3の異常とは、具体的には、電池セル3が熱暴走して安全弁6が開いたことが挙げられる。他にも、電池セル3の異常とは、電池セル3に衝撃が入力されたことが挙げられる。
【0034】
図2に示すように、電池セル3が熱暴走して生じたガスは、電池ケース2の内部圧力を上昇させる。その内部圧力が上昇すると、電池ケース2のカバー8は外側へ向けて膨張するように変形する。超音波センサー13により測定される電池ケース2との距離Lは、この膨張の前後で変化する。したがって、異常検出部12は、超音波センサー13から得た距離Lの変化量を、電池ケース2(カバー8)の変位量Mとする。
【0035】
また、特に図示しないが、電池セル3に衝撃が入力された場合、特に、上方へ向かう力が入力された場合、電池ケース2の全体が上方に変位する。この変位は、超音波センサー13と電池ケース2との距離Lの変化として表れる。したがって、異常検出部12は、超音波センサー13から得た距離Lの変化量を、電池ケース2の変位量Mとする。
【0036】
図3は、電池ケースの変位量の経時変化を示す図である。同図には、電池セル3が熱暴走したときにおけるカバー8の変位量Mの経時変化(以下、変位波形A)、及び電池セル3に衝撃が入力されたときにおける電池ケース2の変位量Mの経時変化(以下、変位波形B)を示している。
【0037】
変位波形Aに示すように、電池セル3が熱暴走すると、変位量Mは徐々に増加し、ピークを迎えた後に元の変位量に徐々に戻る。変位波形Bに示すように、電池セル3に衝撃が入力されると、変位量Mが瞬間的に増加し、ピークを迎えた後に元の変位量に急激に戻る。
【0038】
このように電池セル3が熱暴走した場合と、電池セル3に衝撃が入力された場合では、変位波形の特徴が異なる。異常検出部12は、変位波形に基づいて電池セル3が熱暴走しているか、又は電池セル3に衝撃が入力されたかを判定する。
【0039】
具体的には、予め、制御装置11の記憶装置に、電池セル3が熱暴走した場合の変位波形A0、及び電池セル3に衝撃が入力された場合の変位波形B0を記憶させておく。異常検出部12は、超音波センサー13から得られた変位波形と、変位波形A0及び変位波形B0とを比較し、近似するかを判定する。変位波形を比較して近似判定する方法は、変位波形A0と変位波形B0との類似度が所定の閾値以下であれば、近似と判定する。波形の類似度の算出は、公知の方法に準ずるのでここでは詳細な説明は省略する。
【0040】
異常検出部12は、超音波センサー13から得られた変位波形が変位波形A0に近似するならば(同図の例では変位波形Aが超音波センサー13から得られたことになる)、電池セル3が熱暴走しているという異常を検出する。同様に、異常検出部12は、超音波センサー13から得られた変位波形が変位波形B0に近似するならば(同図の例では変位波形Bが超音波センサー13から得られたことになる)、電池ケース2に衝撃が入力されたという異常を検出する。
【0041】
なお、変位波形A0や変位波形B0は、実測により得ることができる。例えば、安全弁6が開くような環境に電池パック1をおき、実際に安全弁6が開いたときの変位量Mを超音波センサー13で計測することで変位波形A0を得ることができる。また、電池ケース2に衝撃を入力したときの変位量Mを超音波センサー13で計測することで変位波形B0を得ることができる。
【0042】
また、異常検出部12により電池セル3の異常が検出されたとき、異常が生じた旨を搭乗者に警告する警報システムを異常検出装置10に設けてもよい。警報システムとしては、例えば、電動車両に備わる液晶ディスプレイやスピーカーなどの情報伝達のための装置と、このような装置に、電池セル3に異常が生じた旨の情報(文字、画像、図形、音声など)を提示させる制御装置11の一機能(プログラム)とを挙げることができる。
【0043】
また、異常検出部12による電池セル3の異常検出は、常時機能していてもよいし、特定の条件が成立しているときに機能するようにしてもよい。異常検出部12が電池セル3の異常検出を行っている状態を監視モード、異常検出を行っていない状態を非監視モードと称する。
図4を用いて、監視モード及び非監視モードを切替える判定について説明する。
【0044】
まず、異常検出部12は、車両のイグニッションスイッチがONであるかを判定する(ステップS1)。イグニションスイッチがONであるならば(ステップS1:Yes)、異常検出部12は監視モードに移行する(ステップS5)。
【0045】
イグニションスイッチがオフであるならば(ステップS1:No)、車両に乗員が乗車しているかを判定する(ステップS2)。乗員が乗車しているか否かは、例えば、乗員が乗車しているかを検出するシートセンサーにより得ることができる。他にも、車内に設けたカメラにより得られた映像を解析することで車内に乗員が乗車しているかを判定することができる。
【0046】
乗員が乗車している場合(ステップS2:Yes)、異常検出部12は、監視モードに移行する(ステップS5)。イグニションスイッチがオフであっても、車内に乗員が乗車していれば、監視モードとなるので、より一層、安全性を高めることができる。
【0047】
乗員が乗車していないならば(ステップS2:No)、異常検出部12は、マニュアルスイッチがオンであるかを判定する(ステップS3)。マニュアルスイッチは、異常検出部12に、監視モードに強制的に移行させるためのスイッチである。マニュアルスイッチがオンであれば(ステップS3:Yes)、異常検出部12は監視モードに移行する(ステップS5)。
【0048】
マニュアルスイッチがオフであれば(ステップS3:No)、異常検出部12は、非監視モードに移行する(ステップS4)。
【0049】
このような特定の条件(ステップS1~ステップS3)が成立するときに監視モードとすることにより、乗員に対して安全確保が必要な時に、電池セル3の異常検出を行うことができる。なお、上述のように特定の条件の何れかが成立しているときに監視モードとしてもよいし、特定の条件によらず常時監視モードとしてもよい。
【0050】
図5を用いて、監視モードにおける処理のフローについて説明する。まず、異常検出部12は、監視モードを開始する(ステップS10)。
【0051】
次に、異常検出部12は、超音波センサー13から変位波形を得て、この変位波形が熱暴走基準波形(変位波形A0)に近似するかを判定する(ステップS11)。近似する場合(ステップS11:Yes)、乗員に熱暴走を報知する(ステップS12)。
【0052】
変位波形が熱暴走基準波形に近似しない場合(ステップS11:No)、当該変位波形が異常入力波形(変位波形B0)に近似するかを判定する(ステップS13)。近似する場合(ステップS13:Yes)、乗員に電池パック1に衝撃入力があったことを報知する(ステップS14)。近似しない場合(ステップS13:No)は、特に報知を行わない。
【0053】
本実施形態の異常検出装置10は、電池セル3を個別に異常検出するのではなく、電池セル3を収容した電池ケース2の変位量に基づいて、電池パック1の異常を検出する。このため、個々の電池セル3に対して異常を検出するためのセンサーを多数設ける必要はなく、電池ケース2に最低限1つの超音波センサー13を設ければよい。このため、異常検出装置10は、センサーの数を低減した簡易な構造とすることができ、コストも低減できる。
【0054】
また、従来のように異常の発生により電池セル3の形状が変化することを検出する場合は、比較的小さな部分の形状変化を捉える必要があるところ、本実施形態の異常検出装置10は、電池セル3よりも遙かに大きい電池ケース2を対象とするため、その変位量は得やすい。超音波センサー13の例では、従来では超音波を照射する対象が電池セル3の一部であるため形状変化を捉えにくいのに対し、本実施形態の異常検出装置10ではカバー8であるため照射対象の面積は広く、形状変化を捉えやすい。
【0055】
このように、電池セル3の形状変化を直接的にセンサーで得るよりも、電池ケース2の形状変化を通して間接的に電池セル3の形状変化を超音波センサー13で得るので、電池パック1に生じた異常をより確実に得ることができる。
【0056】
また、本実施形態の異常検出装置10は、変位量として外側に向けて膨張変形した電池ケース2の一部(カバー8)の変位量を採用した。そして、その変位量の変位波形と、熱暴走時の変位波形A0とを比較する。これにより、電池セル3が熱暴走していることをより確実に検出することができる。
【0057】
また、本実施形態の異常検出装置10は、変位量として電池ケース2の全体が移動したことによる変位量を採用した。そして、その変位量の変位波形と、衝撃入力時の変位波形B0とを比較する。これにより、電池セル3に衝撃が入力されたことをより確実に検出することができる。
【0058】
また、本実施形態の異常検出装置10は、変位量計測手段として超音波センサー13を用いた。これにより、超音波センサー13と電池ケース2との距離の変化を元に、電池ケース2の変化量を得ることができる。
【0059】
なお、特に図示しないが、変位量計測手段としては、電池パック1から離れた位置、例えば床面20に固定され、電池パック1の一部(例えばカバー8)が変形して接触される圧力センサーを用いてもよい。カバー8が膨張変形したり、電池パック1の全体が衝撃により変位した場合に、圧力センサーに触れるように、それらの距離を調整しておく。
【0060】
圧力センサーにより得られた圧力は、カバー8の膨張変形する変形量に応じた量になる。このため、予め、圧力と変位量とのマップを作成しておくことで、圧力センサーから得られた圧力からカバー8の変位量を計測することができる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0062】
例えば、各実施形態で説明した電池パック1は、密閉型の電池ケース2に電池セル3が収納されたものであるが、これに限定されない。例えば、電池セル3を冷却するための空気などが流通する開口などが設けられた非密閉型の電池ケース2でもよい。このような電池ケース2を備えた電池パック1であっても、カバー8は膨張変形し得るからである。
【0063】
上記実施形態では、電池ケース2には複数の電池セル3が収納され、電池ケース2に対して一つの超音波センサー13が設けられている構成を例示したがこれに限定されない。例えば、電池セル3及び超音波センサー13の個数に特に限定はない。
【0064】
上記実施形態では、膨張変形する部分は、電池パック1のカバー8であったが、これに限定されない。例えば、剛性の高いカバーの一部に、剛性の低い変形部を設け、その変形部に対して超音波センサー等で変位量を計測するようにしてもよい。また、超音波センサー等の計測対象は電池パック1のカバー8であったが、これに限らず、収容部7側の変位量を計測するようにしてもよい。
【0065】
異常検出手段としては、制御装置11で実行されるプログラムである異常検出部12を例示したがこれに限定されない。異常検出手段は、例えば、異常検出部12と同等の機能を実現する電子回路であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…電池パック、2…電池ケース、3…電池セル、6…安全弁、10…異常検出装置、11…制御装置、12…異常検出部(異常検出手段)、13…超音波センサー(変位量計測手段)