(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】クロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20230802BHJP
A61K 31/4365 20060101ALI20230802BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230802BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C07D495/04 105A
A61K31/4365
A61P9/10
A61P7/02
(21)【出願番号】P 2020530274
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2019027621
(87)【国際公開番号】W WO2020013305
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018132101
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000246398
【氏名又は名称】有機合成薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】武口 俊太
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴洋乃
(72)【発明者】
【氏名】押元 政臣
(72)【発明者】
【氏名】丸山 美菜子
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第11/42804(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0132765(US,A1)
【文献】RENOU, Ludovic et al.,Synthesis and X-ray structural studies of the dextro-rotatory enantiomer of methyl a-5(4,5,6,7-tetra,Journal of Molecular Structure,2007年,Vol.827,pp.108-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、1.3重量部以上の1-ブタノールを含む溶媒、又は
(b)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、0.9重量部以上の1-ブタノール及び0.05重量部以上の水を含む溶媒、
の存在下で、クロピドグレル遊離塩基に濃硫酸を接触させ、下記一般式(1):
【化1】
で表されるクロピドグレル硫酸塩のI型結晶を得る工程、
を含むクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒のメチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの重量比が10重量部以下である、請求項1に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法。
【請求項3】
(2)前記I型結晶を50℃以下で乾燥する工程、を更に含む請求項1又は2に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程(2)が、相対湿度45~99%及び温度0~50℃の気体と接触させる操作を含む、請求項
3に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法。
【請求項5】
前記気体が、空気又は窒素である、請求項4に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法に関する。本発明によれば、不純物であるクロピドグレルのモノアルキル硫酸塩の含有量が少ないクロピドグレル硫酸塩を製造することができる。
【背景技術】
【0002】
クロピドグレル硫酸塩((+)-(S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン-5-イル)酢酸メチル硫酸塩)は、血小板凝集阻害作用を有しており、脳卒中及び血栓、塞栓などの末梢動脈性疾患、並びに心筋梗塞、及び狭心症などの冠状動脈性疾患の治療に効果的に用いられている。
【0003】
クロピドグレル硫酸塩のI型結晶(フォームI結晶)の製造に関して、特許文献1は、メチルt-ブチルエーテル及びクロピドグレルの遊離塩基の混合物にnブタノール及び濃硫酸を添加する製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、クロピドグレル硫酸塩のI型結晶(フォームI結晶)の製造において、モノアルキル硫酸(ブチル硫酸)が生成され、これがクロピドグレルの遊離塩基と結合し、クロピドグレル硫酸塩の生成物にクロピドグレルのモノアルキル硫酸塩が混入することを確認した。
従って、本発明の目的は、モノアルキル硫酸塩の混入が少ないクロピドグレル硫酸塩の製造方法、及びモノアルキル硫酸塩の混入が少ないクロピドグレル硫酸塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、モノアルキル硫酸塩の生成が少ないクロピドグレル硫酸塩の製造方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、メチルt-ブチルエーテル及び1-ブタノールの混合比を調整することによって、モノアルキル硫酸塩の生成を劇的に抑制できることを見出した。具体的には、メチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの量を増加させることによって、モノアルキル硫酸塩の生成を抑制することが可能になった。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](1)(a)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、1.3重量部以上の1-ブタノールを含む溶媒、又は(b)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、0.9重量部以上の1-ブタノール及び0.05重量部以上の水を含む溶媒、の存在下で、クロピドグレル遊離塩基に濃硫酸を接触させ、下記一般式(1):
【化1】
で表されるクロピドグレル硫酸塩のI型結晶を得る工程、を含むクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法、
[2]前記溶媒のメチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの重量比が10重量部以下である、[1]に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法、
[3](2)前記I型結晶を50℃以下で乾燥する工程、を更に含む[1]又は[2]に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法、
[4]前記乾燥工程(2)が、相対湿度45~99%及び温度0~50℃の気体と接触させる操作を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法、及び
[5]前記気体が、空気又は窒素である、[4]に記載のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法によれば、モノアルキル硫酸塩の混入が少ないクロピドグレル硫酸塩のI型結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製造方法で得られたクロピドグレル硫酸塩のI型結晶のXRPDディフラクトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法は、(1)(a)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して1.3重量部以上の1-ブタノールを含む溶媒、又は(b)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、0.9重量部以上の1-ブタノール及び0.05重量部以上の水を含む溶媒、の存在下で、クロピドグレルの遊離塩基に濃硫酸を接触させ、下記一般式(1):
【化2】
で表されるクロピドグレル硫酸塩のI型結晶を得る工程、を含む。更に、本発明のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶の製造方法は、好ましくは(2)前記I型結晶を50℃以下で乾燥する工程、を含む。
【0010】
《クロピドグレル硫酸塩》
本発明の製造方法によって得ることのできるクロピドグレル硫酸塩((+)-(S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン-5-イル)酢酸メチル硫酸塩)は、前記一般式(1)で表される化合物のI型結晶である。
【0011】
《モノアルキル硫酸塩》
本発明の製造方法においては、クロピドグレルのモノアルキル硫酸塩の生成が抑制される。従って、本発明の製造方法によって得られるクロピドグレル硫酸塩は、クロピドグレルのモノアルキル硫酸塩の含有量が少ない。
モノアルキル硫酸塩は、式(2):
【化3】
で表されるクロピドグレルモノブチル硫酸塩である。
【0012】
本発明の製造方法によって得られるクロピドグレル硫酸塩は、モノアルキル硫酸塩の混入量が少ない。モノアルキル硫酸塩の混入量は、好ましくは0.20重量%以下であり、より好ましくは0.15重量%以下であり、更に好ましくは0.10重量%以下であり、最も好ましくは0.05重量%以下である。
【0013】
[1]結晶化工程
本発明のクロピドグレル硫酸塩のI型結晶を得る工程(以下、結晶化工程と称することがある)において、(a)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して1.3重量部以上の1-ブタノールを含む溶媒、又は(b)1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、0.9重量部以上の1-ブタノール及び0.05重量部以上の水を含む溶媒の存在下で、クロピドグレル遊離塩基に濃硫酸を接触させる。例えば、メチルt-ブチルエーテル及び1-ブタノールを含む溶媒、又はメチルt-ブチルエーテル、1-ブタノール、及び水を含む溶媒にクロピドグレル遊離塩基を溶解するが、メチルt-ブチルエーテル、1-ブタノール、水、及びクロピドグレル遊離塩基の混合の順番は特に限定されない。そして、好ましくはクロピドグレル遊離塩基を溶解した溶液に、濃硫酸を滴下し、そして種結晶を添加する。また、濃硫酸とクロピドグレル遊離塩基との接触については、例えば前記溶媒に、濃硫酸を添加し、それにクロピドグレル遊離塩基を添加して、その後に種結晶を添加してもよい。得られた混合物を撹拌することによって、クロピドグレル硫酸塩の結晶を得ることができる。
結晶化工程の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは-10~30℃であり、より好ましくは0~10℃である。結晶化工程の圧力は、特に限定されるものではなく、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。
前記種結晶は、I型結晶である限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0014】
《溶媒》
溶媒は、クロピドグレル遊離塩基を溶解し、クロピドグレル遊離塩基と硫酸との反応を効率的に行うものである。本発明の製造方法においては、溶媒は、1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して1.3重量部以上の1-ブタノールを含む限りにおいて、又は1重量部のメチルt-ブチルエーテルに対して、0.9重量部以上の1-ブタノール及び0.05重量部以上の水を含む限りにおいて、特に限定されるものではなく、その他の成分を含んでもよい。
【0015】
(メチルt-ブチルエーテル)
溶媒として、メチルt-ブチルエーテル(以下、MTBEと称することがある)を用いることにより、効率的に目的物を晶析することができる。
クロピドグレル遊離塩基に対するメチルt-ブチルエーテルの量は、クロピドグレル硫酸塩が生成される限りにおいて、特に限定されるものではないが、クロピドグレル遊離塩基1重量部に対してメチルt-ブチルエーテルが、好ましくは1~10重量部であり、より好ましくは1.2~8重量部であり、更に好ましくは1.5~6重量部である。前記範囲であることにより、モノアルキル硫酸塩の生成を抑制することができ、安定且つ効率的にI型結晶を得ることができる。
【0016】
(1-ブタノール)
前記溶媒は、1-ブタノールを含む。溶媒として、1-ブタノールを用いることにより、安定且つ効率的にI型結晶を得ることができる。
クロピドグレル遊離塩基に対する1-ブタノールの量は、クロピドグレル硫酸塩が生成される限りにおいて、特に限定されるものではないが、クロピドグレル遊離塩基1重量部に対して1-ブタノールが、好ましくは2~15重量部であり、より好ましくは3~13重量部であり、更に好ましくは4~12重量部である。前記範囲であることにより、クロピドグレルモノアルキル硫酸塩の生成を抑制することができる。
【0017】
(メチルt-ブチルエーテル及び1-ブタノールの重量比)
(a)メチルt-ブチルエーテル1重量部に対して1-ブタノール1.3重量部以上を使用する場合
メチルt-ブチルエーテル及び1-ブタノールの重量比は、メチルt-ブチルエーテル1重量部に対して1-ブタノール1.3重量部以上であり、好ましくは1.4重量部以上であり、さらに好ましくは1.5重量部以上であり、最も好ましくは1.6重量部以上である。メチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの重量比の上限は、限定されるものではないが、好ましくは10重量部以下であり、より好ましくは9重量部以下であり、最も好ましくは8重量部以下である。上限と下限とは、所望により任意に組み合わせることができる。前記範囲であることにより、モノアルキル硫酸塩の生成を抑制することができる。メチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの上限が、10重量部を超える場合も、十分にクロピドグレルのモノアルキル硫酸塩の生成を抑制することができるが、II型結晶が産生されるリスクがあるので、メチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの上限は、好ましくは10重量部以下である。
また、メチルt-ブチルエーテル1重量部に対して1-ブタノール1.3重量部以上を使用する場合は、水を添加せずに本発明の効果を得ることができるが、更に水を添加してもよい。水の含有量は特に限定されないが、好ましくは0.5重量部以下であり、より好ましくは0.2重量部以下である。
【0018】
(b)メチルt-ブチルエーテル1重量部に対して1-ブタノール0.9重量部以上を使用する場合
メチルt-ブチルエーテル及び1-ブタノールの重量比は、水を溶媒に添加する場合は、メチルt-ブチルエーテル1重量部に対して1-ブタノール0.9重量部以上であり、好ましくは1.0重量部以上であり、さらにこの好ましくは1.1重量部以上であり、最も好ましくは1.2重量部以上である。メチルt-ブチルエーテルに対する1-ブタノールの重量比の上限は、限定されるものではないが、好ましくは10重量部以下であり、より好ましくは9重量部以下であり、最も好ましくは8重量部以下である。また、メチルt-ブチルエーテルに対する水の重量比は、メチルt-ブチルエーテル1重量部に対して水0.05重量部以上であり、好ましくは0.06重量部以上であり、さらにこの好ましくは0.07重量部以上であり、最も好ましくは0.08重量部以上である。メチルt-ブチルエーテルに対する水の重量比の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.3重量部であり、より好ましくは0.25重量部以下であり、最も好ましくは0.2重量部以下である。上限と下限とは、所望により任意に組み合わせることができる。前記範囲であることにより、モノアルキル硫酸塩の生成を抑制することができる。
【0019】
(その他の成分)
前記溶媒は、本発明の効果が得られる限りにおいて、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテル以外のその他の成分を含むことができる。すなわち、クロピドグレルのモノアルキル硫酸塩の生成を増加させない限りにおいて、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、トルエン、塩又はアルコールを挙げることができる。すなわち、少量の無機塩又は有機溶媒は、本発明の反応に影響を与えない。
【0020】
《クロピドグレル遊離塩基》
本発明に用いるクロピドグレル遊離塩基は、例えば下記の反応式(3)に従って、調製することができる。
【化4】
すなわち、クロピドグレル・(-)-カンファースルホン酸塩に、トルエン及び炭酸水素ナトリウムを添加し、反応させる。有機層に水を加えて分液洗浄し、有機層を回収する。滅圧下で溶媒を留去することによって、クロピドグレル遊離塩基を得ることができる。
【0021】
《濃硫酸》
本発明の製造方法において、濃硫酸を前記クロピドグレル遊離塩基に接触させることによって、クロピドグレル硫酸塩を得ることができる。本明細書において、濃硫酸とは、硫酸の濃度が90重量%以上のものを意味する。濃硫酸として市販されているものは、通常96~98重量%の濃度であり、このような濃度の濃硫酸を用いて、本発明の製造方法を実施することができる。
【0022】
《溶媒、クロピドグレル遊離塩基、及び硫酸の重量比》
本発明の製造方法における溶媒、クロピドグレル遊離塩基、及び硫酸の重量比は、クロピドグレル硫酸塩が得られる限りにおいて限定されない。通常、以下の重量比で反応を行うことができる。
クロピドグレル遊離塩基と濃硫酸の比率は、1:1のモル比が理論値であるが、通常はクロピドグレル遊離塩基1モルに対して、濃硫酸0.8~2モルで反応させることができる。
クロピドグレル遊離塩基と溶媒との比率は、限定されるものではないが、クロピドグレル遊離塩基1重量部に対して、好ましくは溶媒が2~30重量部であり、より好ましくは4~20重量部であり、最も好ましくは5~15重量部である。
濃硫酸と溶媒との比率も限定されるものではないが、濃硫酸1重量部に対して、好ましくは溶媒が5~100重量部であり、より好ましくは7~80重量部であり、最も好ましくは9~70重量部である。
【0023】
[2]乾燥工程
本発明の乾燥工程において、前記クロピドグレル硫酸塩のI型結晶を50℃以下で乾燥し、残留1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルを除去する。乾燥方法は、クロピドグレルのモノアルキル硫酸塩が過度に増加しない限りにおいて、特に限定されるものではなく、滅圧乾燥法、送風乾燥、又は調湿気体による乾燥法を挙げることができるが、好ましくは調湿気体による乾燥法である。
調湿気体による乾燥法としては、具体的には、相対湿度45~99%及び温度0~50℃の気体と接触させる操作が好ましい。調湿気体による乾燥は、残存している1-ブタノールを効率良く除去できるため、モノアルキル硫酸塩の生成を抑制することができる。
相対湿度は、好ましくは50~95%であり、更に好ましくは55~90%である。また、温度は好ましくは5~45℃であり、更に好ましくは10~40℃である。前記の相対湿度及び温度であることにより、1-ブタノールを効率よく除去することができる。
【0024】
《作用》
本発明の製造方法において、クロピドグレルのモノアルキル硫酸塩の生成が抑制される機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。
本発明で溶媒として用いる1-ブタノールは、硫酸と接触することによりモノアルキル硫酸を生成することがある。このモノアルキル硫酸は、クロピドグレル遊離塩基と結合してクロピドグレルのモノアルキル硫酸塩を生成する。本発明の製造方法においては、1-ブタノールの量を通常よりも増加させ、貧溶媒であるメチルt-ブチルエーテルと1-ブタノールとの量を特定の比率とすることにより、アルキル硫酸塩の過度な生成が抑制され、そしてアルキル硫酸塩が除去され、安定且つ効率的にI型結晶を得ることができるものと推定される。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
《調製例1》
本調製例では、クロピドグレル遊離塩基(化合物2)を下記式(4)に従って調製した。
【化5】
容量1Lの反応フラスコに、化合物1(クロピドグレル・(-)-カンファースルホン酸塩;100g;0.18mol)、トルエン(300g)を仕込み、炭酸水素ナトリウム(16.7g;0.20mol)水溶液(300g)を滴下した。室温で30分間撹拌後、分液した。有機層を水(300g)で洗浄後、減圧下、溶媒を留去して、化合物2(クロピドグレル遊離塩基;CLOP-FB)を得た。
【0027】
《実施例1》
本実施例では、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(5.8g;18mmol)、1-ブタノール(60g)、及びメチルt-ブチルエーテル(20g)を仕込み、10℃以下で硫酸(1.8g;18mmol)を滴下した。種結晶を添加後、15℃で26時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で7時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:6.1g)を得た。
フォームI結晶、収率81%、化学純度99.96%。
下記式(2):
【化6】
で表される化合物4(クロピドグレルモノブチル硫酸塩)の含有量は0.02%であった。結果を表1に示す。
【0028】
《実施例2》
本実施例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(5.8g;18mmol)、1-ブタノール(50g)、及びメチルt-ブチルエーテル(30g)を仕込み、10℃以下で硫酸(1.8g;18mmol)を滴下した。種結晶を添加後、15℃で23時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で7時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:5.9g)を得た。
フォームI結晶、収率77%、化学純度99.96%。
化合物4の含有量は0.10%であった。結果を表1に示す。
【0029】
《実施例3》
本実施例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(11.6g;36mmol)、1-ブタノール(60g)、及びメチルt-ブチルエーテル(20g)を仕込み、10℃以下で硫酸(3.5g;36mmol)を滴下した。種結晶を添加後、5℃で22時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で7時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:12.9g)を得た。
フォームI結晶、収率85%、化学純度99.97%。
化合物4の含有量は0.02%であった。結果を表1に示す。
【0030】
《実施例4》
本実施例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(11.6g;36mmol)、1-ブタノール(50g)、メチルt-ブチルエーテル(30g)、水(2g)を仕込み、10℃以下で硫酸(3.7g;38mmol)を滴下した。種結晶を添加後、5℃で43時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で7時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:12.5g)を得た。
フォームI結晶、収率82%、化学純度99.87%。
化合物4の含有量は0.02%であった。結果を表1に示す。
【0031】
《実施例5》
本実施例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(11.6g;36mmol)、1-ブタノール(72.7g)、メチルt-ブチルエーテル(7.3g)を仕込み、10℃以下で硫酸(3.5g;35mmol)を滴下した。種結晶を添加後、4℃で24時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で5時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:13.2g)を得た。
フォームI結晶、収率87%、化学純度99.94%。
化合物4の含有量は0.02%であった。結果を表1に示す。
【0032】
《比較例1》
本比較例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(5.8g;18mmol)、1-ブタノール(40g)、及びメチルt-ブチルエーテル(40g)を仕込み、10℃以下で硫酸(1.8g;18mmol)を滴下した。種結晶を添加後、15℃で43時間撹拌した。結晶をろ取し、減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:5.9g)を得た。
フォームI結晶、収率78%、化学純度99.93%。
化合物4の含有量は0.44%であった。結果を表1に示す。
【0033】
《比較例2》
本比較例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、1-ブタノール(20g)、メチルt-ブチルエーテル(40g)を仕込み、10℃以下で硫酸(1.8g;18mmol)を滴下した。種結晶を添加後、10℃以下で化合物2(5.8g;18mmol)のメチルt-ブチルエーテル(20g)溶液を滴下し、15℃で22時間撹拌した。結晶をろ取し、減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:7.1g)を得た。
フォームI結晶、収率93%、化学純度99.91%。
化合物4の含有量は1.22%であった。結果を表1に示す。
【0034】
《実施例6》
本実施例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(11.6g;36mmol)、1-ブタノール(40g)、メチルt-ブチルエーテル(40g)、水(6g)を仕込み、10℃以下で硫酸(3.5g;35mmol)を滴下した。種結晶を添加後、4℃で24時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で5時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:8.8g)を得た。XRPDディフラクトグラムを
図1に示す。9.00、10.69、14.61、17.74、18.74、20.37、22.96、25.31(±0.2)°2θ付近に特徴的なピークを有していた。
フォームI結晶、収率58%、化学純度99.98%。
化合物4の含有量は0.01%であった。結果を表1に示す。
【0035】
《実施例7》
本実施例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(11.6g;36mmol)、1-ブタノール(40g)、メチルt-ブチルエーテル(40g)、水(4.2g)を仕込み、10℃以下で硫酸(3.5g;35mmol)を滴下した。種結晶を添加後、4℃で24時間撹拌した。結晶をろ取し、30℃で5時間減圧乾燥し、化合物3(クロピドグレル硫酸塩:9.8g)を得た。
フォームI結晶、収率65%、化学純度99.97%。
化合物4の含有量は0.02%であった。結果を表1に示す。
【0036】
《比較例3》
本比較例では、1-ブタノール及びメチルt-ブチルエーテルの量比を変更して、クロピドグレル硫酸塩を生成した。
容量200mLの反応フラスコに、化合物2(11.6g;36mmol)、1-ブタノール(30g)、メチルt-ブチルエーテル(50g)、水(6g)を仕込み、10℃以下で硫酸(3.5g;35mmol)を滴下した。種結晶を添加後、4℃で24時間撹拌したが、オイルアウトし、結晶の析出は見られなかった。すなわち、メチルt-ブチルエーテルに対して1-ブタノールの量が少なすぎると、クロピドグレル硫酸塩の結晶が得られなかった。
【0037】
【表1】
1-ブタノール/メチルt-ブチルエーテルが1.30以上である実施例1~4のクロピドグレル硫酸塩は、不純物であるクロピドグレルモノブチル硫酸塩(化合物4)の含有量が0.10重量%以下に抑制されたが、1-ブタノール/メチルt-ブチルエーテルが1.30未満の比較例1及び2では、化合物4の含有量が多かった。しかし、1-ブタノール/メチルt-ブチルエーテルが1:1であっても、溶媒に水を添加することによって、化合物4の含有量を抑制することができた(実施例6及び7)。一方、1-ブタノールの添加量が少なすぎると、クロピドグレル硫酸塩の結晶が得られなかった(比較例3)。
【0038】
《調製例2》
本調製例では、化合物3(クロピドグレル硫酸塩)の粗乾燥結晶を調製した。
容量1000mLの反応フラスコに、化合物2(58.1g;0.18mol)、1-ブタノール(250g)、メチルt-ブチルエーテル(150g)、水(9g)を仕込み、10℃以下で硫酸(18.1g;18mmol)を滴下した。種結晶を添加後、5℃で47時間撹拌した。結晶をろ取し、化合物3の湿結晶75.1gを得た。化合物3の湿結晶を30℃で4時間減圧乾燥し、化合物3の粗乾燥結晶67.4gを得た。粗乾燥結晶の化合物4の含有量は0.05%であり、残留1-ブタノールは4744ppmであった。
【0039】
《実施例8》
調製例2で得た化合物3の粗乾燥結晶5gを使用し、30℃で3、6、9、12時間減圧乾燥した。12時間乾燥後の化合物4の含有量は0.06%であり、残留1-ブタノールは3900ppmであった。結果を表2に示す。
【0040】
《実施例9》
滅圧乾燥の温度を、30℃に代えて、40℃とした以外は実施例8の操作を繰り返して、化合物3を得た。12時間乾燥後の化合物4の含有量は0.13%であり、残留1-ブタノールは3527ppmであった。結果を表2に示す。
【0041】
《実施例10》
調製例2で得た化合物3の粗乾燥結晶5gを使用し、30℃で3、6、9、12時間、乾燥窒素を通風した。12時間通風後の化合物4の含有量は0.07%であり、残留1-ブタノールは3899ppmであった。結果を表2に示す。
【0042】
《実施例11》
乾燥温度を、30℃に代えて、40℃とした以外は実施例10の操作を繰り返して、化合物3を得た。12時間通風後の化合物4の含有量は0.11%であり、残留1-ブタノールは3613ppmであった。結果を表2に示す。
【0043】
《調製例3》
本調製例では、化合物3(クロピドグレル硫酸塩)の粗乾燥結晶を生成した。
容量1000mLの反応フラスコに、化合物2(58.1g;0.18mol)、1-ブタノール(250g)、メチルt-ブチルエーテル(150g)、水(9g)を仕込み、10℃以下で硫酸(18.1g;18mmol)を滴下した。種結晶を添加後、5℃で72時間撹拌した。結晶をろ取し、化合物3の湿結晶73.0gを得た。化合物3の湿結晶を30℃で8時間減圧乾燥し、化合物3の粗乾燥結晶65.8gを得た。粗乾燥結晶の化合物4の含有量は0.06%であり、残留1-ブタノールは5286ppmであった。
【0044】
《実施例12》
調製例3で得た化合物3の粗乾燥結晶5gを使用し、30℃で3、6、9、12時間、湿度90%の窒素を通風した。12時間通風後の化合物4の含有量は0.08%であり、残留1-ブタノールは1717ppmであった。結果を表2に示す。
【0045】
《実施例13》
乾燥温度を、30℃に代えて、40℃とした以外は実施例12の操作を繰り返して、化合物3を得た。12時間通風後の化合物4の含有量は0.09%であり、残留1-ブタノールは2330ppmであった。結果を表2に示す。
【0046】
《実施例14》
乾燥温度を、30℃に代えて、50℃とした以外は実施例12の操作を繰り返して、化合物3を得た。12時間通風後の化合物4の含有量は0.15%であり、残留1-ブタノールは2159ppmであった。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
乾燥工程により、1-ブタノールの含有量を低下させることが可能であり、1-ブタノール及び硫酸によって生成されるモノアルキル硫酸(化合物4)を減少させることができる。減圧乾燥、及び乾燥窒素フローによっても、1-ブタノールの含有量を減少させることが可能であるが、湿窒素フローによる乾燥により、より効率的に1-ブタノールの含有量を減少させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の製造方法は、モノアルキル硫酸塩の混入の少ないクロピドグレル硫酸塩のI型結晶を製造に用いることができる。