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特許7323906ホットメルト組成物、シーリング材およびシリンジ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物、シーリング材およびシリンジ
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20230802BHJP
   C08K 5/105 20060101ALI20230802BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20230802BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20230802BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20230802BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20230802BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08L53/02
C08K5/105
C08K5/3435
C08K5/524
C08L25/08
C08L57/02
C08L91/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018205083
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070344
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】598006473
【氏名又は名称】旭化学合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山内 友信
(72)【発明者】
【氏名】古川 和弥
(72)【発明者】
【氏名】古賀 崇
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179061(JP,A)
【文献】特開2011-190287(JP,A)
【文献】特開2005-255853(JP,A)
【文献】特開2001-335640(JP,A)
【文献】特表2016-519710(JP,A)
【文献】特開2016-089171(JP,A)
【文献】特開2016-196601(JP,A)
【文献】特開2015-163666(JP,A)
【文献】特開2017-186527(JP,A)
【文献】特開2005-097360(JP,A)
【文献】特開2011-195711(JP,A)
【文献】特開2011-162747(JP,A)
【文献】特開2005-105205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)両末端にスチレン系ポリマーブロックを有し、且つ、中間部に水素化されたジエンポリマーブロックを有する、質量平均分子量(Mw)が200,000~450,000の水添スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部当たり、(B)質量平均分子量が600~1,500の非芳香族系炭化水素オイル600~1,200質量部、(C)軟化点が100~160℃である、水素化されたジエンポリマーブロック用の粘着付与樹脂200~500質量部、(D)軟化点が80~160℃のスチレン系粘着付与樹脂0~400質量部、(E)一次酸化防止剤、(F)二次酸化防止剤および(G)光安定剤を含有してなり、220℃で5時間加熱したときの粘度変化率の絶対値が50%以下であり、220℃における溶融粘度が、1000mPa・s以上20,000mPa・s以下であることを特徴とする、容量が5~100mlの容器に充填し、2mm以下の溝幅に塗布するためのホットメルト組成物。
【請求項2】
60℃雰囲気下で50%圧縮して24時間放置したときの歪み率が40%以下である請求項1に記載のホットメルト組成物。
【請求項3】
20℃における50%圧縮応力が0.05~0.4kgf/cm2である請求項1または2に記載のホットメルト組成物。
【請求項4】
前記(A)成分がSEEPSであり、前記()成分が水素化脂環式粘着付与樹脂である請求項1~3のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のホットメルト組成物からなるシーリング材。
【請求項6】
微細塗工用である請求項5記載のシーリング材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のホットメルト組成物を充填したディスペンサー用シリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含有するホットメルト組成物、シーリング材およびホットメルト組成物を充填したシリンジに関し、さらに詳しくは、電子機器などの分野においてシーリング材として好適に用いられるホットメルト組成物、該ホットメルト組成物からなるシーリング材および該ホットメルト組成物を充填したシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気、自動車、建築など各産業分野において、組み立てに用いる部材をホットメルト接着剤で接合する手法が広範にわたって行われている。たとえば、テレビ、パソコン、タブレット、携帯電話、スマートフォンなどの電子機器の分野においては、防水や外部からの異物の流入を防止するためにホットメルト組成物をシーリング材として使用することが知られている。
【0003】
電子機器のシーリング材として使用する場合、長時間経過してもシール性を維持できること(具体的には長時間の圧縮後でも変形しないこと)、衝撃を吸収できる柔軟性があること、解体時に変形が容易で剥がしやすいことが要求されるほか、少量のシーリング材を微細な形状に正確に塗工できること、しかも生産台数が大量であることから短時間で塗工できることが要求される。そのため、最近ではホットメルト型シーリング材を用いる塗工法として、シーリング材を充填したシリンジを噴射ディスペンサーに装着し、シリンジに空気圧をかけることによって所望の位置に吐出させる非接触方式の塗工法が開発されている(特許文献1)。
【0004】
この塗工法で用いるシーリング材としては、微量のシーリング材を定量的に吐出できるように適度の溶融粘度を有し、且つ、塗工時の加熱によっても溶融粘度が変化しない熱安定性に優れたものであることが望まれる。熱安定性が不十分なシーリング材は加熱によって溶融粘度が変化するため吐出量がばらつくことになり、精度のよい微細塗工が困難になるからである。上記の特許文献1には、反応性ポリウレタン接着剤を非接触方式で塗工することによって、0.5mm以下の溝幅の溝に塗工することができると記載されている(段落0010参照)。しかし、特許文献1には、反応性ポリウレタン接着剤の他にどのような材料が使用できるかについては何も記載されていない。
【0005】
一方、従来からスチレン系ブロック共重合体をゴム成分として含有するホットメルト型シーリング材の開発が進められており、たとえば、特許文献2(特開2002-38116号公報)には、70℃、22時間の永久圧縮歪みが35%以下であり、かつ20℃における硬度が5以下であるホットメルト型シーリング材が、車両用灯具のレンズ部とハウジング部のシール材として好適であることが記載されている。そして、そのような特性を有するシーリング材を得るためには、SEBS(スチレン-ブタジエン-スチレン型トリブロックポリマーの水添物)やSEPS(スチレン-イソプレン-スチレン型トリブロックポリマーの水添物)にスチレンをグラフト重合することによって得られるグラフト化ブロック共重合体を用いることが有効であること、および該グラフト化ブロック共重合体19質量部に対して、液状ポリブテンまたはパラフィン系プロセスオイル50質量部、水添石油樹脂30質量部、光安定剤0.5質量部および酸化防止剤0.5質量部を配合したシーリング材は、圧縮永久歪みおよび硬度が小さく、ポリカーボネート製やポリプロピレン製の基材との密着性および解体性に優れていることが記載されている(実施例1~3参照)。また、特許文献2には、スチレンをグラフト重合していないSEBSをそのまま使用すると、圧縮永久歪みが大きくなるうえ、基材との密着性および解体性が不十分になることが記載されている(比較例1参照)。
【0006】
特許文献3には、自動車関連用途における過酷な条件下での使用に適したホットメルト組成物として、ジエンポリマーブロックが水素化されているスチレン系熱可塑性エラストマーに水素化された炭化水素粘着性付与剤および可塑剤を配合した組成物が提案されており(請求項1参照)、両末端にあるスチレン系ポリマーブロックと相溶性のある粘着付与樹脂、たとえば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族モノマーの単独重合体またはそれらの共重合体を、スチレン系ポリマーブロック相の補強用樹脂として配合することが好ましいと記載されている(段落0020参照)。そして、実施例においては、ポリマー成分としてスチレン系熱可塑性エラストマー(水素化されたスチレン系トリブロックポリマーと水素化されたスチレン系ジブロックポリマーの等量混合物)8質量部、粘着付与樹脂33質量部、オイル46.3質量部および芳香族樹脂(ENDEX155)2質量部を含み、且つ、充填材として炭酸カルシウム10質量部を含むホットメルト組成物が記載されている(実施例1、表1参照)。しかし、このホットメルト組成物はエラストマー成分の中に多量のスチレン系ジブロックポリマーを含んでいるために、耐熱性および凝集力が十分でなく、さらにオイルの保持能力にも劣るという問題がある。
【0007】
このように、スチレン-ジエン-スチレン型トリブロックポリマーの水添物をゴム成分として含むホットメルト型組成物については従来からいろいろな提案がなされているが、微細塗工が要求される電子機器用のシーリング材として十分な性能を有するホットメルト型組成物は未だ開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-128168号公報
【文献】特開2002-38116号公報
【文献】特開2006-249433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような背景技術の下で完成したものであり、その目的は、熱安定性および柔軟性に優れ、圧縮永久歪みが小さく、且つ、微細塗工性にも優れたホットメルト組成物を提供することにある。また、他の目的は、シーリング性、微細塗工性、塗工操作性に優れた電子機器のシール用に好適なシーリング材を提供することにある。さらに他の目的は、塗工に際して取扱いが容易な、ホットメルト組成物を充填したシリンジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術における問題点を解決すべく鋭意検討を進めた結果、特定の分子量を有するスチレン系熱可塑性エラストマー、特定の質量平均分子量を有する非芳香族系炭化水素オイルおよび特定の粘着付与樹脂を特定の割合で配合し、且つ、一次酸化防止剤および二次酸化防止剤を組み合わせて使用することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(A)両末端にスチレン系ポリマーブロックを有し、且つ、中間部に水素化されたジエンポリマーブロックを有する、質量平均分子量(Mw)が200,000~450,000の水添スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部当たり、(B)質量平均分子量が600~1,500の非芳香族系炭化水素オイル600~1,200質量部、(C)軟化点が100~160℃である、水素化されたジエンポリマーブロック用の粘着付与樹脂200~500質量部、(D)軟化点が80~160℃のスチレン系粘着付与樹脂0~400質量部、(E)一次酸化防止剤および(F)二次酸化防止剤を含有してなり、220℃で5時間加熱したときの粘度変化率の絶対値が50%以下であるホットメルト組成物。
(2)さらに(G)光安定剤を含有する(1)記載のホットメルト組成物。
(3)(H)固形の充填剤を実質的に含有しないものである(1)または(2)記載のホットメルト組成物。
(4)220℃における溶融粘度が、20,000mPa・s以下である(1)~(3)のいずれかに記載のホットメルト組成物。
(5)60℃雰囲気下で50%圧縮して24時間放置したときの歪み率が40%以下である(1)~(4)のいずれかに記載のホットメルト組成物。
(6)20℃における50%圧縮応力が0.05~0.4kgf/cmである(1)~(5)のいずれかに記載のホットメルト組成物。
(7)前記(A)成分がSEEPSであり、前記(B)成分が水素化脂環式粘着付与樹脂である(1)~(6)のいずれかに記載のホットメルト組成物。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載のホットメルト組成物からなるシーリング材。
(9)微細塗工用である(8)記載のシーリング材。
(10)上記(1)~(7)のいずれかに記載のホットメルト組成物を充填したディスペンサー用シリンジ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱安定性および柔軟性に優れ、圧縮永久歪みが小さく、且つ、微細塗工性にも優れたホットメルト組成物が提供される。また、シーリング性、微細塗工性、塗工操作性に優れた電子機器のシール用に好適なシーリング材が提供される。さらに、塗工に際して取扱いが容易な、ホットメルト組成物を充填したシリンジが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこの実施形態により限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
本発明のホットメルト組成物は、(A)両末端にスチレン系ポリマーブロックを有し、且つ、中間部に水素化されたジエンポリマーブロックを有する、質量平均分子量(Mw)200,000~450,000の水添スチレン系熱可塑性エラストマー、(B)質量平均分子量が600~1,500の非芳香族系炭化水素オイル、(C)軟化点が100~160℃である水素化されたジエンポリマーブロック用の粘着付与樹脂、(E)一次酸化防止剤および(F)二次酸化防止剤を必須成分として含有し、且つ、(D)軟化点が80~160℃のスチレン系粘着付与樹脂を任意成分として含有している。
【0015】
<水添スチレン系熱可塑性エラストマー>
本発明において(A)成分として用いられる水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、両末端にスチレン系ポリマーブロックを有し、且つ、中間部に水素化されたジエンポリマーブロックを有する、質量平均分子量(Mw)が200,000~450,000のものである。水添スチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量が小さすぎるとシーリング材としての耐熱性に欠けるようになり、逆に大きすぎるとホットメルト組成物を成形する際の溶融粘度が高くなり、吐出作業性に難が生じる。好ましい質量平均分子量は250,000~350,000であり、さらに好ましくは280,000~330,000である。なお、本発明において、スチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値である。
【0016】
好ましい水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、(スチレン系ポリマーブロック)-(水素化されたジエン系ポリマーブロック)-(スチレン系ポリマーブロック)からなるA-B-A型のトリブロックポリマーである。このトリブロックポリマーは、A-B´-A型(Aはスチレン系ポリマーブロック、B´はジエン系ポリマーブロックを示す)トリブロック共重合体のジエン系ポリマーブロック(ブロックB)を公知の方法で選択的に水素化することによって得ることができる。
【0017】
スチレン系ポリマーブロック(ブロックA)を製造するために用いられるモノマーは芳香族ビニル化合物であり、その具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエンなどが挙げられる。なかでもスチレンがもっとも賞用される。また、ジエンポリマーブロック(ブロックB´)を製造するために用いられるモノマーは炭素数4~5の共役ジエンであり、その具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。なかでも、1,3-ブタジエン、イソプレンまたはそれらの混合物が賞用される。
【0018】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系ポリマーブロックを10~50質量%および水素化ジエンポリマーブロックを90~50質量%を有することが密着性と易解体性のバランスをとるうえで好ましく、スチレン系ポリマーブロック20~40質量%および水素化ジエンポリマーブロック80~60質量%であることがとくに好ましい。また、両末端にあるスチレン系ポリマーブロックは、通常、ほぼ同等の分子量を有しているが、必ずしも同一でなくともよい。
【0019】
2つのスチレン系ポリマーブロックに挟まれて存在する水素化ジエンポリマーブロック(ブロックB)は、ジエン系ポリマーに含まれる炭素-炭素二重結合を水素化したものであり、水素化率が高くなるほど不飽和結合が減少し、その結果、ポリマーの熱安定性や耐候性が向上する。その反面、完全に水素化するには製造上の困難を伴うことから、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上が水素化されていればよい。
【0020】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレンのトリブロック共重合体(SBS)の水素化物であるSEBS、スチレン-イソプレン-スチレンのトリブロック共重合体(SIS)の水素化物であるSEPS、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレンのトリブロック共重合体(SIBS)の水素化物であるSEEPSなどが挙げられる。SEPSの具体例としては、セプトン2005(スチレン含有量20質量%、Mw370,000,クラレ社製)、セプトン2006(スチレン含有量35質量%、Mw350,000,クラレ社製)などがあり、SEBSの具体例としては、クレイトンG1651(スチレン含有量33質量%、Mw300,000、クレイトンポリマー社製)、クレイトンG1641(スチレン含有量33質量%、Mw210,000、クレイトンポリマー社製)、クレイトンG1633(スチレン含有量30質量%、Mw450,000、クレイトンポリマー社製)、セプトン8006(スチレン含有量33質量%、Mw300,000、クラレ社製)などがあり、SEEPSの具体例としては、セプトン4044(スチレン含有量32質量%、Mw200,000、クラレ社製)、セプトン4055(スチレン含有量30質量%、Mw290,000、クラレ社製)、セプトン4077(スチレン含有量30質量%、Mw440,000、クラレ社製)などが挙げられる。
【0021】
これらのなかでも、非芳香族系炭化水素オイルを保持する能力および高い引張り強度を有する点からSEEPSが好ましく用いられる。そのため、(A)成分として用いられる水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、SEEPSを50質量%以上、さらには80質量%以上含有することが好ましく、とくにSEEPSのみであることが好ましい。SEEPSの中間ブロックを形成する水素化されたブタジエン-イソプレン共重合体は、通常、ブタジエン由来の単位が10~90質量%、好ましくは30~70質量%であり、イソプレン由来の単位が90~10質量%、好ましくは70~30質量%である。
【0022】
また、水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、両末端のスチレン系ポリマーブロックに加えて中間部にもスチレン系ポリマーブロックを有する、A-B-A-B-A型(Aはスチレン系ポリマーブロック、Bは水素化ジエン系ポリマーブロックを示す)であってもよい。さらに、水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸や、水酸基含有化合物、フェノール化合物などのその他の極性化合物で適宜変性したものであってもよい。
【0023】
<非芳香族系炭化水素オイル>
本発明においては、(B)成分として非芳香族系炭化水素オイルが用いられる。ここで「非芳香族系炭化水素オイル」とは、実質的に芳香族成分を含まない炭化水素オイルを意味している。芳香族系炭化水素オイルのように成分中に多量の芳香族化合物が含まれていると、熱可塑性スチレン系エラストマーのスチレンブロックにその芳香族化合物が取り込まれて耐熱性が損なわれるので好ましくない。そのため、芳香族系プロセスオイルは(B)成分から除外される。しかし、ナフテン系炭化水素オイルのように少量の芳香族化合物を含むものについては、本発明の効果が本質的に阻害されない限り、少量の芳香族化合物を含んでいてもよい。その場合の上限は10質量%以下、とくに5質量%以下である。
【0024】
この非芳香族系炭化水素オイルは配合物の粘度を調節し、柔軟性を付与するために配合されるものであり、(A)成分100質量部に対して600~1,200質量部、好ましくは800~1,100質量部の割合で用いられる。非芳香族系炭化水素オイルの配合量が少なすぎると、柔軟性が損なわれることとなり、逆に多すぎると耐熱性が低下する。
非芳香系炭化水素オイルの質量平均分子量(Mw)は600~1,500であり、好ましくは1,000~1,300である。分子量が過度に低い場合には、永久圧縮歪みが大きくなり、逆に過度に高い場合には、組成物の溶融粘度が高くなりすぎて塗工が困難になる。溶融粘度および永久圧縮歪みのバランスをとるうえでは、質量平均分子量が1,000~1,300のオイルを(B)成分全体の中に50質量%以上、とくに80質量%以上含むことが適切である。
【0025】
用いられる非芳香族系炭化水素オイルは、熱可塑性スチレン系エラストマーをベースポリマーとするホットメルト組成物において従来から使用されているものであればとくに制限されることなく使用することができる。その具体例として、たとえば、パラフィン系またはナフテン系のプロセスオイル;液状ポリα-オレフィン、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレンなどの液状ポリマー;流動パラフィンなどの炭化水素油;などが挙げられる。
【0026】
具体的な市販品としては、出光興産社製のダイアナプロセスオイルPW-380(Mw:1,250、40℃動粘度:381mm/s)、ダイアナプロセスオイルPW-90(Mw:670、40℃動粘度:95mm/s)、SUNOCO社製のサンピュアP100(Mw:800、40℃動粘度:96mm/s)、Raj Petro社製のRAJOL-WT505(Mw:700、40℃動粘度:96mm/s),Nandan Petrochem社製のPR95W(Mw:700、40℃動粘度:100mm/s)などのパラフィン系プロセスオイル; Nandan Petrochem社製のPR380(Mw:1,100、40℃動粘度:380mm/s、芳香族成分含量7%)などのナフテン系プロセスオイル; 出光興産社製のポリブテン0H(Mw:600、40℃動粘度:22mm/s)、ポリブテン15H(Mw:1,200、40℃動粘度:550mm/s)、三井化学社製のルーカントHC-40(Mw:1,500、40℃動粘度:380mm/s)などの液状炭化水素ポリマーなどが挙げられる。なお、非芳香族系炭化水素オイルの質量平均分子量は、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの場合と同様に、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値に基づく標準ポリスチレン換算値である。
【0027】
非芳香族炭化水素オイルは単独で使用してもよく、必要に応じて適宜に組み合わせて使用することもできる。なかでも、ベースポリマーとの相溶性および耐熱性の点から、パラフィン系プロセスオイルが好ましく用いられる。
【0028】
<水素化されたジエンポリマーブロック用の粘着付与樹脂粘着付与樹脂>
本発明においては、(C)成分として水素化されたジエンポリマーブロック用の粘着付与樹脂が用いられる。この粘着付与樹脂は(A)成分に含まれる水素化されたジエン系ポリマーブロックと相溶する樹脂であり、100~160℃、好ましくは110~150℃、とくに好ましくは120~140℃の軟化点を有するものである。軟化点が下限を下回ると耐熱性が不十分となり、逆に上限を上回ると柔軟性が低下し易解体性が損なわれる。
【0029】
用いられる粘着付与樹脂は、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体などのジエン系ポリマーの水素化物と相溶し、粘着性を付与できるものであればとくに限定されず、その具体例として、たとえば、テルペン樹脂(α-ピネン主体、β-ピネン主体、ジペンテン主体等)、水素化テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、水素化芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、水素化テルペンフェノール共重合樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、水素化ジシクロペンタジエン系樹脂などの脂環族系樹脂;C5系炭化水素樹脂、水素化C5系炭化水素樹脂、水素化C5/C9系炭化水素樹脂などの脂肪族系炭化水素樹脂、水素化C9系炭化水素樹脂などが挙げられる。
【0030】
これらの粘着付与樹脂のなかでも、水素化することによって不飽和結合を減少させた樹脂は、耐熱性、耐候性、色相、臭気などに優れているので好ましく用いられる。とくに、水素化された脂環族系樹脂は、水素化されたジエンポリマーブロックとの相溶性に優れており、且つ、ホットメルト組成物の溶融粘度を減少させる効果を有する点で好ましい。かかる水素化された脂環族系樹脂の具体例としては、たとえば、T-REZ HA125(東燃化学社製、軟化点125℃、Mw:570)、ESCOREZ5320(エクソンモービル社製、軟化点125℃、Mw:570)、アイマーブP125(出光興産社製、軟化点125℃、Mw:1,900)、アルコンP125(荒川化学社製、軟化点125℃、Mw:1,260)、リガライトR1125(イーストマンケミカル社製、軟化点125℃、Mw:2,100)、ESCOREZ5340(エクソンモービル社製、軟化点140℃、Mw:730)、アルコンP140(荒川化学社製、軟化点140℃、Mw:1,950)、アイマーブP140(出光興産社製、軟化点140℃、Mw:3,600)などが挙げられる。
【0031】
粘着付与樹脂の質量平均分子量は300~4,000であることが好ましく、とくに500~1,500であることが好適である。分子量がこの範囲にあると、ホットメルト組成物の柔軟性を損なうことなく溶融粘度を減少させる効果を得易くなる。この範囲の分子量を有する脂環族系樹脂の具体例としては、T-REZ HA125(東燃化学社製)、ESCOREZ5320(エクソンモービル社製)、アルコンP125(荒川化学社製)、ESCOREZ5340(エクソンモービル社製)などがある。なお、粘着付与樹脂の質量平均分子量は、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの場合と同様に、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値に基づく標準ポリスチレン換算値である。
【0032】
(C)成分として用いる粘着付与樹脂は、単一の樹脂であってもよく、また、必要に応じて二種以上の樹脂を適宜併用したものであってもよい。(C)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対して200~500質量部、好ましくは300~400質量部である。(C)成分の含有量が過度に少ないと溶融粘度の上昇や柔軟性の低下を引き起こし、逆に、過度に多くなると粘度変化率が大きくなり塗工安定性が低下するという問題が生ずる。また、(C)成分の使用量は、(A)成分中の水素化されたジエンポリマーブロック100質量部に対して300~700質量部、とくに400~600質量部であることが好ましい。
【0033】
<スチレン系粘着付与樹脂>
本発明においては、(D)成分として高軟化点のスチレン系粘着付与樹脂を配合することが好ましい。(D)成分は、(A)成分のブロックポリマーに含まれるスチレン系ポリマーブロックと相溶する樹脂であり、(D)成分を配合することによって耐熱性能を損なうことなく溶融粘度を低下させることができる。スチレン系粘着付与樹脂の好ましい軟化点は120~160℃であり、より好ましい軟化点は135~155℃である。軟化点が低すぎると耐熱性が不十分となり、逆に高すぎると配合物の軟化点が上昇してホットメルト組成物を使用する際に施工温度を高くしなければならず、エネルギー効率が低下するうえ、施工時の熱によって配合物が劣化する原因となる。
【0034】
用いられるスチレン系粘着付与樹脂は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニル、インデンなどのような、エチレン性の炭素-炭素二重結合を有する芳香族化合物の付加重合体であり、通常、質量平均分子量が1,000~10,000のものである。かかるスチレン系粘着付与樹脂は、上記単量体のホモポリマーでも適宜に組み合わせた2種以上の単量体のコポリマーであってもよく、また、上記芳香族化合物以外の重合性の成分、たとえば、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-2-ブテンなどのような炭素数5の脂肪族オレフィン;ジシクシロペンタジエン、テルペン、ピネン、ジペンテンなどのような脂環族オレフィンなどを従成分として共重合したものであってもよい。さらに、フェノール化合物や無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などで変性したものであってもよい。
【0035】
これらのなかでも、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物を主成分とするホモポリマーまたはコポリマーが好ましく、とくに耐候性に優れることからスチレンまたはα-メチルスチレンを主成分とするホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。かかるスチレン系粘着付与樹脂の具体例としては、Endex 155(軟化点153℃、EASTMAN社製)、Kristalex 5140(軟化点139℃、EASTMAN社製)、FMR0150(軟化点145℃、三井化学社製)、FTR2140(137℃、三井化学社製)、Sylvales SA140(軟化点140℃、アリゾナケミカル社製)等が挙げられる。
【0036】
(D)成分として用いるスチレン系粘着付与樹脂は単一の樹脂であってもよく、また、必要に応じて二種以上の樹脂を適宜併用したものであってもよい。(D)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対して0~400質量部、好ましくは50~200質量部である。(D)成分の含有量が過度に多くなると配合物の柔軟性が低下し、易解体性が損なわれるという問題が生ずる。また、(D)成分の使用量は、(A)成分中のスチレン系ポリマーブロック100質量部に対して0~1,000質量部、とくに100~600質量部であることが好ましい。
【0037】
<一次酸化防止剤>
本発明においては、(E)成分として一次酸化防止剤が配合される。(E)成分としては、Irganox L 06(BASF社製)などのナフチルアミン系酸化防止剤; Irganox L 57(BASF社製)などのp-フェニレンジアミン系酸化防止剤;アデカスタブ AO-40(ADEKA社製)などのフェノール系酸化防止剤;Irganox 1010(BASF社製)、アデカスタブ AO-50(ADEKA社製)などのヒンダードフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤がラジカル補足による優れた酸化防止能の観点から好ましく用いられる。
(E)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対して1~30質量部、とくに2~20質量部とするのが好ましい。
【0038】
<二次酸化防止剤>
本発明においては、(F)成分として二次酸化防止剤が配合される。(F)成分としてはIrgafos 168(BASF社製)、アデカスタブ HP-10(ADEKA社
製)などのフォスファイト系酸化防止剤;Irganox PS 800FL(BASF社製)、アデカスタブ AO-412S(ADEKA社製)などのチオエーテル系酸化防止剤;Irgastab FS 042(BASF社製)などのヒドロキシルアミン系酸化防止剤;等が挙げられ、なかでもフォスファイト系およびチオエーテル系の二次酸化防止剤が好ましく用いられる。
【0039】
二次酸化防止剤の使用量は、組成物の酸化防止効果と熱安定性の観点から、(A)成分100質量部に対して1~60質量部、とくに2~40質量部とすることが好ましい。また、(E)成分に対する(F)成分の使用比率〔(F)/(E)〕は0.1/1~3/1であり、好ましくは1/1~2/1である。(E)成分と(F)成分を併用することによって組成物を加熱したときの熱安定性が顕著に改良される。
【0040】
<光安定剤>
本発明においては、(G)成分として光安定剤を含むことが好ましい。光安定剤の具体例としては、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。市販品の具体例としては、Tinuvin 770 DF(BASF社製)、アデカスタブ LA-52(ADEKA社製)などが挙げられる。光安定剤の使用量は、(D)成分の一次酸化防止剤100質量部に対して1~100質量部、とくに10~50質量部とするのが好ましく、(G)成分をこのような比率で使用することによって光安定作用が向上するほか、ラジカル捕捉による酸化防止能が顕著に改善される。
【0041】
<その他の配合剤>
本発明においては、上記の(A)~(F)成分に加えて、熱可塑性スチレン系エラストマーをベースポリマーとするホットメルト組成物の技術分野において通常使用されている前記(A)成分以外のエラストマー成分、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、染料、帯電防止剤、難燃剤、発泡防止剤などの配合剤を必要に応じて配合することができる。
【0042】
前記(A)成分以外のエラストマー成分としては、(A)成分で規定されている質量平均分子量未満の水素化されたA-B-A型スチレン系熱可塑性エラストマー、ジエンポリマーブロックが水素化されていないA-B´-A型スチレン系熱可塑性エラストマー、A-B型スチレン系熱可塑性エラストマー、ジエンポリマーブロックが水素化されていないA-B´型スチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの成分は、本発明の効果を本質的に妨げない範囲で(A)成分の一部を代替する形で包含されていてもよいが、その量が多くなると耐熱性や耐候性が劣るようになるので、その量はベースとなるエラストマー成分中の40質量%以下、さらには20質量%以下にするのが好ましく、とくにこれらの成分を含まないことがもっとも好ましい。このように、(A)成分の一部が他のエラストマーによって代替されている場合には、(B)~(F)成分との割合の基準となる(A)成分の量は、他のエラストマーを含むエラストマー全体の量をもって(A)成分100質量部として扱われる。
【0043】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系などが挙げられ、なかでもベンゾトリアゾール系が好ましく用いられる。紫外線吸収剤の含有量は、組成物の耐候性の観点から、(A)成分100質量部に対して1~30質量部、とくに2~20質量部とするのが好ましい。
充填剤としては、従来から公知のものを用いることができ、各種形状の無機もしくは有機の充填剤が挙げられる。充填剤を配合することにより硬化物を強固なものにすることができ、例えばモルタル、金属等に対しても優れた接着性を発現することができる。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ガラスビーズ、酸化チタン、アルミナ、カーボンブラック、クレー、フェライト、タルク、雲母粉、アエロジル、シリカならびにガラス繊維等の無機繊維および無機発泡体が例示される。有機充填剤としてはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の粉末、炭素繊維、合成繊維、合成パルプ等が例示される。
【0044】
顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩の無機顔料;ネオザボンブラックRE、ネオブラックRE、オラゾールブラックCN、オラゾールブラックBa(いずれもチバ・ガイギー社製)、スピロンブルー2BH(保土谷化学社製)等の有機顔料が例示され、これらは必要に応じて適宜組み合わせて用いることができる。
【0045】
染料としては、黒色染料、黄色染料、赤色染料、青色染料、褐色染料などが製品に要求される色合いに応じて適宜選択して用いられる。帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩、ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド-ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。安定剤としては、例えば、脂肪酸シリルエステル、脂肪酸アミドトリメチルシリル化合物等が挙げられる。発泡防止剤としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、モレキュラシーブが挙げられる。
【0046】
本発明のホットメルト組成物を微細塗工用のシーリング材として使用する場合には、固形の充填材や顔料が含まれていると溶融粘度が高くなりがちであるうえ、それらの固形物がシリンジの吐出口に付着して詰まりの原因になり易いので、このような固形の配合材は実質的に含まないことが好ましい。
【0047】
本発明のホットメルト組成物を製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。例えば、(A)~(C)および(E)~(F)の各成分と、所望により配合されるその他の成分を、これらを溶融することができる温度付近に加熱されたニーダーに投入し、十分に溶融混合することにより得ることができる。ニーダーとしては、例えば、加熱装置と脱泡装置を備えたバンバリーミキサー、加圧ニーダー、ヘンシェルミキサー、ブラベンダー型ニーダーやディスパーが挙げられる。必要に応じてニーダー内部を減圧することができる。得られたホットメルト組成物は、例えば、離型箱、ペール缶、ドラム缶に充填され、保存することができる。
【0048】
本発明のホットメルト組成物は、220℃で5時間加熱した時の粘度変化率の絶対値が50%以下、好ましくは30%以下、さらには20%以下のものである。このように高温下においても溶融粘度の変化が少ないので、微量のシーリング材を定量的に塗布することができる。また、220℃における溶融粘度は、通常、100,000mPa・s以下であり、好ましくは1,000~20,000mPa・s、とくに好ましくは1,000~15,000mPa・sである。このように適度の溶融粘度を有するので、塗工の操作が容易になる。
【0049】
本発明のホットメルト組成物は、60℃の空気雰囲気下で50%圧縮して24時間放置したときの歪み率が40%以下であることが好ましく、そのような特性を有する場合には、長時間の圧縮によっても変形が生じにくく、シール性が良好になる。また、20℃における50%圧縮応力が0.05~0.4kgf/cm、とくに0.1~0.3kgf/cmであることが好ましく、そのような特性を有する場合には、柔軟性に優れたものになる。さらに、ホットメルト組成物は、通常、軟化点が140℃以上であり、好ましくは150~180℃である。軟化点が過度に低いと耐熱性が不足し、逆に過度に高くなると溶融するための操作が難しくなる。
【0050】
本発明のホットメルト組成物を適用することができる基材、すなわち、接着用部材および被着材は、とくに制限されない。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレンのようなポリオレフィン;ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタールのようなエンジニアリングプラスチック;金属、ガラス、ゴムが挙げられる。
【0051】
本発明のホットメルト組成物の用途は特に限定されず、たとえば、自動車や車両(新幹線、電車)、電気製品などの用途に使用することができる。自動車関連の用途としては、ランプなどの自動車照明灯具を挙げることができる。具体的には、自動車照明灯具を製造する際に光源を保持するプラスチック製のハウジングと光源を保護するレンズとを接合してシールするのに好適に用いることができる。また、電気製品関連の用途としては、ランプシェイド、スピーカ、テレビ、パソコン、タブレット、携帯電話、スマートフォン等の組立等を挙げることができる。
【0052】
<シーリング材>
本発明のシーリング材は、上記のホットメルト組成物を用いることによって得られるものであり、一般に、ガスケット、パッキング、シーリング、コーキング、パテなどと称されるものである。シーリング材の形状はとくに限定されず、ペレット状、粉末状、紐状、帯状などいずれの形状であってもよい。また、シリンジなどの容器にシーリング材を予め充填したシーリング材入り容器(プレフィルドシリンジ)の形態であってもよい。この形態の場合には、シーリング材入り容器を加熱塗布装置に装着することによって塗工が可能になるため、操作性が向上し、且つ、シーリング材の移送も容易になる。
【0053】
容器の形状はとくに限定されないが、通常は、先端にノズル形状の吐出口を有するシリンジである。シリンジの形状の具体例は、特許文献1、特開2014-180665号公報等に記載されている。容器の材質は、シーリング材を加熱溶融させる温度で変形しない程度の耐熱性を有するものであればよく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンなどの耐熱性樹脂、ガラス、アルミニウム、ステンレススチールなどが挙げられる。容器の容量は、通常、5~100ml、好ましくは20~80mlである。
【0054】
シーリング材は、20℃における圧縮応力(50%圧縮時)が0.4kgf/cm以下、さらには0.3kgf/cm以下、とくに0.2kgf/cm以下であり、且つ、60℃雰囲気下の歪み率が40%以下であることが、良好なシール性を得るために好ましい。
【0055】
本発明のシーリング材を用いるシール方法はとくに限定されず、常法にしたがって行えばよい。たとえば、ホットメルト型シーリング材を用いてタブレット端末、携帯電話、スマートフォンなどの電子機器のシールを行う場合には、次のようにして実施することができる。
【0056】
ホットメルト組成物は、通常、エア式ディスペンサーと称される加熱塗布装置を用いて自動的にシールを要する部材面に加熱塗布される。予めシーリング材を充填したシリンジをエア式ディスペンサーに装着して、ディスペンサーコントローラーによって設定された圧力で所定時間にわたり空気を送り込み、シリンジの先端に設けられたノズルからシーリング材を押し出すことによって塗工される。エア式ディスペンサーの市販品としては、武蔵エンジニアリング社製のエアパルス方式ディスペンサー、岩下エンジニアリング社製のADシリーズ、ノードソン社製のユニティシリーズなどがある。これらの装置の場合、一般的にシリンジ先端のノズルから出るホットメルト組成物は部材面に接触するように塗布されるため、その塗布幅はノズル径の影響を受けやすい。
【0057】
電子機器をシールする場合、シーリング材を塗布する幅は、通常、2mm以下であるが、電子機器の小型化にともなってその幅を狭くする要請が強くなっており、最近では1mm以下、さらには0.5mm以下とすることが望まれている。このような微細塗工を行う場合には、特許文献1に示されているようなシリンジ先端のノズルからシーリング材を塗工面に噴射する非接触方式のエア式ディスペンサーを用いるのが有利である。この方式では、シリンジのノズルが塗工面と接触せず、しかも溶融したシーリング材の液滴はディスペンサーの進行方向に沿って細幅に噴射されるため、所望の微細塗工を行うことができる。非接触方式のエア式ディスペンサーの市販品としては、武蔵エンジニアリング株式会社のジェットディスペンサー、ノードソン株式会社のジェットバルブシステムなどがある。
【0058】
塗工温度は、通常、ホットメルト組成物が溶融する温度以上で、且つ、220℃以下である。塗工温度が過度に低いとシーリング材の溶融粘度が高くなり塗工が難しくなり、逆に過度に高くなるとシーリング材が劣化し易くなる。シーリング材の塗布形状はとくに限定されないが、通常は、シールされる部材の所望の部位全体にわたってシーリング材が加熱塗布される。場合によっては、シールされる部位にシーリング材を不連続(スポット的)に塗布してもよい。その後、シーリング材が塗布された部材に他の部材を接触させて機械的に締め付けることにより、接合面がシールされた電子機器が形成される。
【0059】
組立てた電子機器を補修する必要が生じたり、使用後の製品を解体して廃棄する場合に
は、以下のようにして行うことができる。本発明のシーリング材は易解体性に優れているので、従来のようにシーリング材を加熱し低粘度化するための工業用ドライヤーやプラスチックバール等の取り外し用工具を用いずに、機械締結部分の拘束のみを解除することによって複数の部材を容易に解体することができる。
【0060】
この場合、部材の間隙に用いられていたシーリング材はそれぞれの接触面に粘接着しているが、シーリング材の凝集力はその粘接着力よりも大きいため界面破壊となり、接触面にシーリング材の残塊が付着残存することなく容易に剥すことができる。このように、本発明のシーリング材を用いた場合には、特殊な解体用工具等を必要とせず、複数の部材を容易に解体することが可能となる。このように、本発明のシーリング材は、シーリング性、微細塗工性、塗工操作性において優れた性能を有している。
【実施例
【0061】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例における「部」および「%」はとくに断りのない限り質量基準である。また、物性の評価法は以下のとおりである。
【0062】
(1)質量平均分子量:テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値に基づく標準ポリスチレン換算値である。
(2)軟化点:JAI-7-1997に準拠して測定した。
(3)溶融粘度:ブルックフィールド社製自動粘度計(型式:BROOKFIELD DV-II+Pro)を用いて空気雰囲気下で220℃にて測定した。測定に使用した自動粘度計のスピンドルNo.はNo.29であり、回転数は5rpmに設定した。
(4)粘度変化率:空気雰囲気下に220℃で5時間放置後、(3)に記載した方法で溶融粘度を測定した。その測定値(Vとする)と当初の溶融粘度(Vとする)との差と、当初の溶融粘度との比率[(V-V)/V×100]を粘度変化率(%)とした。
(5)圧縮永久歪み:ホットメルトシーリング材を直径27mm×高さ20mmの円柱形(底面積5.72cm)に加工し、60℃雰囲気下で50%圧縮(高さ10mmまで圧縮)して24時間放置した。24時間経過後に圧締を開放し、20℃雰囲気下にてさらに24時間放置した。放置後の高さを計測し、下記式1にしたがって算出した。
圧縮永久歪み(%)=(初期高さ-放置後の高さ)/変位量×100・・・式1
(6)圧縮応力:ホットメルトシーリング材を(5)と同様の円柱形に加工し、20℃で50mm/分の速度にて50%圧縮した時の応力を測定した。その測定値を円柱状試料の初期面積(5.72cm)で除した値を圧縮応力とした。
【0063】
実施例1
(A)成分としてSEEPS(セプトン4055、Mw:290,000、スチレン含量:30%、クラレ社製)100部、(B)成分としてパラフィン系プロセスオイル(ダイアナプロセスオイルPW-380、Mw:1,250、40℃動粘度:380mm/s、出光興産社製)1,000部、(C)成分として水添脂環族系粘着付与樹脂(T-REZ HA125、軟化点:125℃、Mw:570、JXTGエネルギー社製)400部、(E)成分の一次酸化防止剤としてイルガノックス1010(ヒンダードフェノール系、BASF社製)10部および(F)成分の二次酸化防止剤としてイルガホス168(ホスファイト系、BASF社製)10部を含み、さらに(G)成分の光安定剤としてチヌビン770(ヒンダードアミン系、BASF社製)3部を含むホットメルト組成物を、各成分を加熱混合することにより調製した。得られた組成物について、溶融粘度、粘度変化率、圧縮永久歪み、圧縮応力、および軟化点を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例2~7および比較例1~6
(A)成分~(G)成分の組成を表1および表2のものに変更すること以外は、実施例1と同様にしてホットメルト組成物を調製し、得られた組成物について実施例1と同様にして評価した。結果を表1および表2に示す。
【0065】
なお、上記の実施例2~7および比較例1~6において使用されている材料は、以下のとおりである。
セプトン4044
(SEEPS、Mw:200,000、スチレン含量:32%、クラレ社製)
セプトン4033
(SEEPS、Mw:93,000、スチレン含量:30%、クラレ社製)
ダイアナプロセスオイルPW-90
(パラフィン系炭化水素オイル、Mw:750、出光興産社製)
ダイアナプロセスオイルPW-32
(パラフィン系炭化水素オイル、Mw:440、出光興産社製)
Endex 155
(スチレン系粘着付与樹脂、軟化点:153℃、EASTMAN社製)
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表1および表2の結果から、本発明のホットメルト組成物は(a)220℃での溶融粘度が低く、塗工の操作が容易であること、(b)220℃で5時間放置後の粘度変化率が小さく、熱安定性に優れていること、(c)60℃での圧縮永久歪みが小さく、シール性に優れていること、および(d)20℃での圧縮応力が小さく、柔軟性に優れていることがわかる。これに対して、(A)成分として質量平均分子量が小さいセプトン4033を使用する場合は、溶融粘度は低下するものの圧縮永久歪みが大きくなり、且つ、ホットメルト組成物の軟化点が大きく低下する(比較例1)。因みに、圧縮永久歪み100%は圧縮を開放した後、高さがまったく回復しなかったことを意味している。また、(B)成分として質量平均分子量の小さいダイアナプロセスオイルPW-32を使用する場合にも、比較例1と同様の傾向を示す(比較例2)。(B)成分または(C)成分の配合量が少ない場合は、ホットメルト組成物の溶融粘度が高くなり(比較例3および比較例4)、(C)成分の配合量が多い場合は、溶融粘度は低下するものの溶融粘度の粘度変化率が大きくなる(比較例5)。さらに、(F)成分の二次酸化防止剤を含まない場合は、溶融粘度の粘度変化率が非常に大きくなる(比較例6)。
【0069】
実施例8
実施例6で得たホットメルト組成物を180℃で溶融し、容量30ml、筒先の孔径2.5mmのポリブチレンテレフタレート製シリンジに充填した。このプレフィルドシリンジを、3軸ロボットを備えた非接触方式のエア式ディスペンサー(ノードソン社製、Unity JET 30)に装着した。この設備は、微量の液滴を噴射する短時間の吐出操作とその吐出を休止する操作を連続的に繰り返して、ビード状、ドット状などの任意の形状にホットメルト組成物を塗布することができるものである。エア式ディスペンサーを180℃、エアー圧力0.2MPaの条件下に作動させて、ホットメルト組成物をポリプロピレン製塗布基材(溝幅0.7mm)に噴射させた。ノズルの移動速度および吐出/休止時間を調整することで、直線、角およびカーブのいずれにおいても0.7mm幅の溝内に塗工することができた。また、塗工に際してホットメルト組成物の飛散や塗布形状の乱れは見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のホットメルト組成物は、熱安定性および柔軟性に優れ、圧縮永久歪みが小さく、且つ、微細塗工性にも優れており、電気製品用のホットメルト型シーリング材として好適である。