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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】医療用シート
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/00 20060101AFI20230802BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20230802BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20230802BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
A61F13/00 300
A61L15/24 100
A61L15/26 100
A61L15/42 310
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019031458
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020130858
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】511055382
【氏名又は名称】株式会社リメディオ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁
【審査官】岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-195103(JP,A)
【文献】特開2012-213614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0055698(US,A1)
【文献】特開2005-169112(JP,A)
【文献】特開2004-083425(JP,A)
【文献】特開2017-141327(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1213244(KR,B1)
【文献】実開平2-123225(JP,U)
【文献】実開昭60-143737(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00
A61L 15/24
A61L 15/26
A61L 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、
前記医療用シートには複数の貫通孔が形成されており、
前記貫通孔の少なくとも一部は、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく、
さらに、前記貫通孔の一部が、開口径が0.5mm以上2.0mm以下である円状または楕円形状開口を有し、且つ、前記円状または楕円形状開口を有する前記貫通孔の形成領域を放射状に囲むようにして、スリット状開口を有する前記貫通孔が配設され、前記スリット状開口のスリット長が1.0mm以上2.0mm以下であることを特徴とする、
医療用シート。
【請求項2】
縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、
前記医療用シートは、複数の貫通孔が形成された有孔層と、前記有孔層に積層された貫通孔が形成されていない無孔層とを備え、
前記有孔層における前記貫通孔の少なくとも一部は、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく、さらに、前記貫通孔の一部が、開口径が0.5mm以上2.0mm以下である円状または楕円形状開口を有し、且つ、前記円状または楕円形状開口を有する前記貫通孔の形成領域を放射状に囲むようにして、スリット状開口を有する前記貫通孔が配設され、前記スリット状開口のスリット長が1.0mm以上2.0mm以下であり、
前記無孔層の少なくとも一部は、前記有孔層における前記貫通孔の少なくとも一部を覆っていることを特徴とする、
医療用シート。
【請求項3】
前記医療用シートにおける前記貫通孔の比率が20%以上55%以下である、請求項1または2に記載の医療用シート。
【請求項4】
前記医療用シートにおける前記スリット状開口を有する前記貫通孔の比率が0%超30%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医療用シート。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記医療用シートにおける複数の領域内において一定の間隔で形成され、
前記複数の領域を隔てる無孔延在部を有し、
前記無孔延在部をまたがる前記貫通孔の間隔は、前記複数の領域内における隣接する前記貫通孔の間隔よりも広く配設されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用シート。
【請求項6】
前記無孔延在部は複数設けられており、かつ異なる向き又は間隔で配設されている、請求項に記載の医療用シート。
【請求項7】
前記医療用シートが、前記貫通孔における開口周囲が突起して形成されている突起部を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用シート。
【請求項8】
オレフィン系樹脂のエラストマーからなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用シート。
【請求項9】
ウレタン系樹脂からなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内患部を被覆するための医療用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、開放性損傷や非開放性損傷(いわゆる創傷)、褥瘡などの患部を被覆して保護および治療するために、様々な医療用シートが開発されている。そして、この医療用シートは、患部の湿潤環境維持や汚染防止などのため、適度な通気性(透湿性)、患部との密着性等の性能が求められる。
【0003】
特に、口腔内患部を被覆して、その保護や治療を行うための医療用シートには、上記性能に加えて、長期間の口腔内保持に耐え得る性能も求められる。例えば、口腔内は極めて湿潤でありかつ衛生面でも好ましくない環境であるため、適度な通気性だけでなく、湿潤状態における耐久性や、湿潤状態での長期密着性も重視される。さらに、抜歯等により生じた歯茎部患部に使用する場合などは、処置中において、口腔内患部に適合する形状に容易に加工、切断できることも求められる。
【0004】
なお、口腔内疾患に使用される医療用シートとしては、特許文献1に記載されているような不織布を用いた貼付シートなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-168370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような不織布を用いた貼付シートは、湿潤な口腔内においては長期間貼り付けることが困難である場合が多い。そのため、例えば抜歯後1週間から3週間程度のあいだ抜歯部創傷を保護および治療することを目的とする場合などにおいては、縫合によって医療用シートを固定して抜歯部創傷を被覆することが求められる。そして、このような場合に使用される医療用シートでは、縫合のし易さや、縫合時の引っ張りなどにおいても破れないような強度なども求められる。
【0007】
また、織布や編布を用いた医療用シートは、湿潤状態における耐久性や強度は一定程度有するものが多いが、柔軟性が十分でないものが多く、このような医療用シートは口腔内患部付近における縫合が容易でない場合が多い。さらに、その縫合時において、繊維がずれて端部が解ける場合があり、このように端部が解けると、繊維内もしくは繊維の交絡間において細菌が増殖し、医療用シートの衛生度が低下してしまう場合がある。
【0008】
さらには、口腔内患部を被覆して保護および治療するための医療用シートにおいては、上記した適度な通気性(透湿性)、耐久性、長期密着性、柔軟性などに加えて、口腔内患部の治癒をより促進させるために、被覆部分において創面(創傷面)などから滲出あるいは溢出する体液や薬剤などを保持させること(液体保持性)が求められる場合がある。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち本発明は、適度な通気性(透湿性)、柔軟性および強度を有し、かつ被覆部分への異物侵入が長期間抑制され、さらに被覆部分において液体ならびにゲル様物を保持することが可能であり、またこの保持した液体やゲル様物を適度に放出することができる、縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、複数の貫通孔が形成され、この貫通孔の少なくとも一部は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さい医療用シートとすることにより、この貫通孔によって適度な通気性(透湿性)、柔軟性および強度を有し、かつ液体等を保持および適度に放出することが可能な医療用シートとなり、この医療用シートを用いて縫合により口腔内患部を被覆することで、被覆部分への異物侵入を長期間抑制でき、かつ口腔内患部の治癒を促進することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、前記医療用シートには複数の貫通孔が形成されており、前記貫通孔の少なくとも一部は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さいことを特徴とする、医療用シート
あるいは、縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、前記医療用シートは、複数の貫通孔が形成された有孔層と、前記有孔層に積層された貫通孔が形成されていない無孔層とを備え、前記有孔層における前記貫通孔の少なくとも一部は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく、前記無孔層の少なくとも一部は、前記有孔層における前記貫通孔の少なくとも一部を覆っていることを特徴とする、医療用シートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、適度な通気性(透湿性)、柔軟性および強度を有し、かつ創面などから滲出あるいは溢出する体液や薬剤などの液体ならびにゲル様物を保持および適度に放出することが可能な、縫合により口腔内患部(インプラント治療や歯周外科処置ならびに病変切除により生じた粘膜上皮の欠損部などを含む)を被覆するための医療用シートを提供することができる。そして、この医療用シートを使用することにより、縫合によって口腔内患部を容易に被覆することができ、湿潤な口腔内においても被覆部分への異物侵入を長期間抑制することが可能となり、また、口腔内患部の治癒を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る有孔層およびこの有孔層より厚みが薄い無孔延在部を備える医療用シートの断面図である。
図2】本実施形態に係る有孔層、無孔層およびこの有孔層より厚みが薄い無孔延在部を備える医療用シートの断面図である。なお、(a)は表面側に無孔層を備える医療用シートであり、(b)は裏面側に無孔層を備える医療用シートである。
図3】本実施形態に係る突起部を有する医療用シートの、円状開口を有する貫通孔付近およびスリット状開口を有する貫通孔付近における断面図((a-1)および(b-1))ならびに平面図((a-2)および(b-2))である。
図4】本実施形態に係る円状開口を有する貫通孔およびスリット状開口を有する貫通孔を備える医療用シートの全体を示す平面図である。
図5図4に示す本実施形態に係る医療用シートの一部(角付近)を拡大して示した拡大平面図である。
図6】本実施形態に係る別の医療用シートの一部(角付近)を拡大して示した拡大平面図である。
図7】本実施形態に係る医療用シートの全体を示す平面図(貫通孔形成領域を模式的に示した図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る医療用シートの実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、いずれの図面についても、便宜上、符号を付していない(省略している)箇所がある。
【0015】
<概要>
まず、本実施形態に係る医療用シートの概要について、図1から図7の符号を参照して説明する。なお、図1から図3の(a-1)および(b-1)は、本実施形態に係る医療用シートの断面図であり、図3の(a-2)および(b-2)から図7は、本実施形態に係る医療用シートの全体あるいはその一部を、表面側あるいは裏面側から示した平面図である。
【0016】
本実施形態に係る医療用シートは、縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、第一の実施形態としては、複数の貫通孔3が形成された有孔層1を備え、この貫通孔3の少なくとも一部は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さい医療用シートが示される。また、第二の実施形態としては、複数の貫通孔3が形成された有孔層1と、この有孔層1に積層された貫通孔が形成されていない無孔層7とを備え、有孔層1における貫通孔3の少なくとも一部は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく、かつ無孔層7の少なくとも一部は、有孔層1における貫通孔3の少なくとも一部を覆っている医療用シートが示される。
つまり、本実施形態において「表面側」とは、医療用シートの両面において、開口面積が異なる貫通孔3の開口面積が小さい面側を意味し、また「裏面側」とは、この貫通孔3の開口面積が大きい面側を意味する。
【0017】
なお、本実施形態に係る医療用シートは、口腔内患部を被覆する場合において、表面側あるいは裏面側のいずれを口腔内患部側としても良い。そして、本実施形態に係る医療用シートの表面側(上記貫通孔3の開口面積が小さい面側)を口腔内患部側とした場合には、貫通孔3の内部での液体等の保持性能がより高くなる傾向にあり、一方、裏面側(上記貫通孔3の開口面積が大きい面側)を口腔内患部側とした場合には、外部から口腔内患部への異物侵入がよりし難くなり、かつ創面などからの滲出あるいは溢出液を貫通孔3の内部により吸収し易くなる傾向にある。
そして、本実施形態に係る医療用シートは、口腔内患部処置者などが表面側および裏面側を容易に認識できるように、その表裏を示す標識体を有していても良い。例えば、本実施形態に係る医療用シートの表面側あるいは裏面側の少なくとも一方に、標識体として色、記号、文字などが直に印刷されていても良く、あるいは、本実施形態に係る医療用シートの包装体に同様の標識体が備わっていても良い。
【0018】
<全体構成>
まず、第一の実施形態に係る医療用シートについて詳細に説明する。
この第一の実施形態に係る医療用シートでは、適度な通気性、柔軟性などを有するように、医療用シートを貫通する複数の孔(貫通孔3)が形成されている。さらに、外部からの異物侵入を抑制し、かつ液体等を保持することができるように、この貫通孔3の少なくとも一部(好ましくは総数の30%以上、さらに好ましくは50%以上)は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく形成されている。つまり、この貫通孔3は、一方の面側の開口が他方の面側の開口よりも小さい。特に、この貫通孔3は、裏面側から表面側に向かうにつれて断面積が順次減少するように形成される(貫通孔3が裏面側から表面側に向かってテーパー状に縮径している)のが、適度な通気性や柔軟性を有しつつ液体等の内部保持機能がより高まり、さらに滲出あるいは溢出液の吸収性能が高まるという点において好ましい。
【0019】
例えば、図1の断面図に示すような、有孔層1に形成された貫通孔3の開口が、裏面側(図1の下方側)の開口面積よりも表面側(図1の上方側)の開口面積の方が小さく、かつ裏面側から表面側に向かってテーパー状に縮径している実施形態の医療用シートなどが示される。
【0020】
次に、第二の実施形態に係る医療用シートについて詳細に説明する。
この第二の実施形態に係る医療用シートでは、医療用シートが適度な通気性、柔軟性などを有するように、複数の貫通孔3が形成された有孔層1と、この有孔層1の厚さ方向に積層された貫通孔が形成されていない無孔層7とを備える。そして、第一の実施形態と同様に、外部からの異物侵入を抑制し、かつ液体を保持することができるように、有孔層1における貫通孔3の少なくとも一部は表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく形成されている。さらに、これも第一の実施形態と同様に、この貫通孔3は、裏面側から表面側に向かうにつれて断面積が順次減少するように形成される(貫通孔3が裏面側から表面側に向かってテーパー状に縮径している)のが、適度な通気性や柔軟性を有しつつ液体等の内部保持機能がより高まり、さらに滲出あるいは溢出液の吸収性能が高まるという点において好ましい。
そして、この第二の実施形態では、有孔層1の貫通孔3部分を切断する必要がある場合に、切断により医療用シートの厚さ方向に垂直な方向の縁が凹凸になって、この縁によって口腔内患部付近を傷つけてしまうことを抑制するために、無孔層7の少なくとも一部は有孔層1における貫通孔3の少なくとも一部を覆っている。
なお、この第二の実施形態においては、無孔層7は有孔層1の表面側あるいは裏面側のいずれかあるいは両方に積層されるが、この際、貫通孔3の開口をすべて覆わないように(貫通孔3の少なくとも一部を開放するように)重ね合わせるのが、貫通孔3の通気性などを実質的に妨げないという点においてより好ましい。
【0021】
例えば、図2の断面図に示すような、有孔層1に形成された貫通孔3の開口が、裏面側(図2(a)あるいは(b)の下方側)の開口面積よりも表面側(図2(a)あるいは(b)の上方側)の開口面積よりも小さく、かつ裏面側から表面側に向かってテーパー状に縮径しており、さらに有孔層1の表面側端部(図2(a))あるいは裏面側端部(図2(b))、つまり貫通孔形成領域11の端部に貫通孔が形成されていない無孔層7が積層され、この無孔層7は貫通孔3の少なくとも一部を覆っている実施形態の医療用シートなどが示される。
【0022】
<貫通孔の構成>
本実施形態に係る医療用シートの貫通孔3については、その数が多すぎたり、その開口径が大きすぎたりすると、医療用シートの通気性や柔軟性はより高まるが、強度や耐久性が低下する可能性があり、さらに貫通孔3の内部に液体等を保持する機能が低下したり保持している液体等が放出しすぎたりする可能性もあるため、この貫通孔3の少なくとも一部(より好ましくは総数の30%以上、さらに好ましくは50%以上)は、表面側および裏面側のいずれも開口径が0.5mm以上2.0mm以下である円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aであるのが好ましく、また、医療用シートにおける貫通孔3の比率(医療用シートの全体の面積における貫通孔3の開口面積の比率:開孔率)は20%以上55%以下であるのが好ましい。特に、本実施形態に係る医療用シートが牽引により変形し易いより柔軟なシート材を用いて作製される場合には開孔率を20%以上30%以下、柔軟ではあるが牽引により変形しにくいシート材を用いて作製される場合には開孔率を45%以上55%以下とするのがより好ましい。
ここで、本実施形態において円状または楕円形状開口の「開口径」とは、開口における円形状の直径あるいは楕円形状において最も長い内径を意味する。
【0023】
また、これらの実施形態における貫通孔3の開口形状については、上記した円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aの形成領域を囲むようにして、1.0mm以上2.0mm以下のスリット長であるスリット状開口を有する貫通孔3bが配設されていても良い。このような構成とすることにより、スリット状開口を有する貫通孔3bの形成領域を口腔内患部に縫合する際の縫合領域として利用することができ、これにより本実施形態に係る医療用シートを口腔内患部付近において極めて容易に縫合することができ、口腔内患部への長期密着性をより高めることができる。そして、このスリット状開口を有する貫通孔3bは、医療用シートにおいて、スリット状開口が平行となるように形成されるのが好ましいが、スリット状開口が互い違いとなるように形成されても良い。しかし、本実施形態に係る医療用シートの強度低下を防ぐという点において、スリット状開口を有する貫通孔3bは、このスリット状開口が直交するなどの重なるような位置には配設されないのが好ましい。
なお、本実施形態においてスリット状開口の「スリット長」とは、スリット状開口における長手方向の長さを意味する。
そして、医療用シートにおけるこのスリット状開口を有する貫通孔3bの比率(開孔率)は、0%超30%以下であるのが好ましく、5%以上15%以下であるのがより好ましい。しかし、本実施形態に係る医療用シートにおいては、全ての貫通孔3がスリット状開口を有する貫通孔3bであるのは好ましくない。
【0024】
例えば、図3に示すような、円状開口を有する貫通孔3a(図3(a-1)および(a-2))、ならびにスリット状開口を有する貫通孔3b(図3(b-1)および(b-2))を備え、図4および図5に示すような、円状開口を有する貫通孔3aの形成領域を囲むようにしてスリット状開口を有する貫通孔3bが配設されている実施形態の医療用シートなどが示される。
【0025】
なお、円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aの形成領域を囲むようにしてスリット状開口を有する貫通孔3bが配設される場合において、図4および図5に示す実施形態のように、この形成領域の最も外側に位置する円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aとの間隔が0.5~2.0mmである位置に、放射状にスリット状開口を有する貫通孔3bが配設される構成であるのがより好ましい。そして、このスリット状開口を有する貫通孔3bどうしの間隔も、0.5~2.0mmであるのがより好ましい。
ここで、このスリット状開口を有する貫通孔3bは、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さくても良いが、表面側の開口面積と裏面側の開口面積が同じであっても良く、例えば、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さい円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aの形成領域を囲むようにして、表面側の開口面積と裏面側の開口面積が同じであるスリット状開口を有する貫通孔3bが配設されていても良い。
【0026】
つまり、より好ましい実施形態として、縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、この医療用シートには複数の貫通孔3が形成されており、この貫通孔3の少なくとも一部は、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さい開口径が0.5mm以上2.0mm以下である円状または楕円形状開口を有し、この円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aの形成領域を囲むようにして放射状にスリット状開口を有する貫通孔3bが配設され、このスリット状開口のスリット長が1.0mm以上2.0mm以下であり、医療用シートにおける貫通孔3の比率が20%以上55%以下であり、スリット状開口を有する貫通孔3bの比率が0%超30%以下である医療用シートが示される。
また、このような医療用シートにおいて、貫通孔形成領域11は、やや丸みを帯びた正方形や長方形の形状として縦および横において偏在している構成であるのが好ましい。
【0027】
さらには、別の実施形態として、図6に示すような、表面側および裏面側のいずれも開口径が0.5mm以上2.0mm以下である上記した円状または楕円形状開口を有する貫通孔3aの形成領域を囲むようにして、表面側および裏面側のいずれも開口径が貫通孔3aの開口径より小さい、例えば0.5mm未満、好ましくは0.2mm未満、さらに好ましくは0.1mm未満である円状または楕円形状開口を有する微細な貫通孔3cが配設されている実施形態も好ましい例として示される。この場合においても、貫通孔3cの形成領域は医療用シートを口腔内患部に縫合する際の縫合領域として好適に利用することができ、また、医療用シートにおける貫通孔3cの比率は0%超30%以下であるのが好ましく、5%以上15%以下であるのがより好ましい。さらに、この貫通孔3cの開口面積は、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さくても良いが、表面側の開口面積と裏面側の開口面積が同じであっても良い。
【0028】
そして、この第一の実施形態および第二の実施形態のいずれについても、貫通孔3の内部にPRF(多血小板フィブリン)、PRP(多血小板血漿)、CGF(Concentrated Growth Factors:主に多血小板フィブリンの濃縮物)などの血液から分離して作製された生体試料や特定の成長因子、細胞培養上清液、薬液などが保持されるのが、口腔内患部の治癒促進という点においてより好ましい。
【0029】
<その他の構成>
本実施形態に係る医療用シートにおいては、口腔側の面は突起などがない平滑な面であることがより好ましく、口腔内患部側の面については、コロナ放電処理(静電処理)を行って患部との接触面に微少な粗面を形成するのが、液体等の保持性などがより向上するため好ましい。
【0030】
特に、本実施形態に係る医療用シートは、口腔内患部側の面において、例えば図3の断面図((a-1)および(b-1))において示されるような、貫通孔3における開口周囲が突起して形成されている突起部9を有するのがより好ましい。この突起部9が口腔内患部側の面に備わると、貫通孔3の内部に液体等を保持する場合において、この保持がより好適となりかつ貫通孔3の内部から口腔内患部へ液体等を適度に放出する構成となりやすいからである。そして、この突起部9は、貫通孔3において表面側(開口面積が小さい面側)の開口周囲あるいは裏面側(開口面積が大きい面側)のいずれに形成されていても良いが、口腔内患部側となるいずれか一方に形成され、特に開口面積が小さい面側である表面側に突起部9が形成されており、この突起部9を備える表面側を口腔内患部側とするのがより好ましい。
なお、図3の断面図において示される実施形態では、円状開口を有する貫通孔3aと、スリット状開口を有する貫通孔3bのいずれにも、医療用シートの表面側において、貫通孔3の開口周囲が突起して形成されている突起部9を有する。
【0031】
このような突起部9は、有孔層1にニードル等の針状器具によって貫通孔3を形成する際に、この針状器具が突き出た側の周囲を加熱して、突き出し時に形成された有孔層1の出っ張りを固定化する方法などにより形成することができる。
【0032】
また、本実施形態に係る医療用シートの貫通孔3は、図4から図7の平面図に示されるように、複数の領域(貫通孔形成領域11)内において一定の間隔で形成されているのが好ましい。さらに、図1および図2の断面図や図4から図7の平面図に示されるような、この複数の貫通孔形成領域11を隔てる無孔延在部5を有し、この無孔延在部5をまたがる貫通孔3の間隔は、これらの貫通孔形成領域11内における隣接する貫通孔3の間隔よりも広く配設されていることが好ましい。なお、この無孔延在部5の厚みは特段限定されず、図1および図2に示すように有孔層1の厚みより薄くても良く、あるいは、有孔層1の厚みや有孔層1と無孔層7を積層した厚みと同じ、またはこれらより厚くても良い。
このような構成とすることにより、口腔内患部処置中において、無孔延在部5をハサミなどにより切断することによって、本実施形態に係る医療用シートを容易に口腔内患部に適合する形状に加工することができるからである。また、加工した医療用シートを口腔内患部付近に縫合する際の縫合領域として無孔延在部5を利用することもできる。さらに、この無孔延在部5は、貫通孔を有しないため切断面に凹凸が発生しにくく、切断した医療用シートの縁によって口腔内患部や歯肉などを傷つけにくい。また、この無孔延在部5は、湿潤状態の口腔内において縫合時に糸かけして引っ張っても破れない適度な強度と柔軟性を有し、かつ弾性がありすぎない。したがって、この無孔延在部5を備えることによって、口腔内患部付近への縫合がよりし易い医療用シートとなる。特に、第一の実施形態において無孔延在部5を備えることは、この無孔延在部5でのシート切断により貫通孔3を切断することがなく、凹凸がより発生しにくいという点で非常に好適である。
【0033】
この無孔延在部5の形成方法は、特段限定はされないが、本実施形態に係る医療用シートに用いるシート材を、貫通孔3の形成前あるいは形成後に熱圧着することにより形成する方法などが例示される。また、無孔延在部5の形状は、線状であってもよいし、不定形であってもよい。
【0034】
また、本実施形態に係る医療用シートにおいては、貫通孔3が形成された複数の貫通孔形成領域11の面積および形状が全て同じあるいは一定とならないように、上記した無孔延在部5は異なる向き又は間隔で複数配設されることがより好ましい。このように無孔延在部5が異なる向き又は間隔で複数配設されることにより、1つの医療用シートにおいて様々な面積および形状の貫通孔形成領域11が形成され、貫通孔形成領域11が縦および横において偏在することとなり、これにより、口腔内患部の大きさや形状に合わせた貫通孔形成領域11を選択し、無孔延在部5を基準として医療用シートをハサミ等で切断、加工することができ、口腔内患部処置中においても簡便に必要な形状に切断、加工を行うことができる。
【0035】
例えば、図7に示すように、口腔内患部に使用する大きさの目安となるような、角がやや丸みをおびた長方形、円形、ひょうたん形、半円形、楕円形、紡錘形、湾曲方向が同じであり且つ異なる曲率半径を有する外周部を備える楕円形が湾曲した湾曲楕円形(赤血球形状)などである様々な形状の貫通孔形成領域11が例えば双同配列(同じ形状が2つ並んだ配列)などとして不規則に形成されている実施形態が、口腔内患部の状態や形状に応じ貫通孔形成領域11の形状を選択し、切断、加工できるため非常に好ましい。そして、それぞれの無孔延在部5には、図4および図5に示すような、切断用ガイドラインとなる谷状の圧痕線(圧力により形成された凹みである線)が設けられていると、各貫通孔形成領域11どうしを切り離すことが極めて容易となるためより好ましい。
【0036】
なお、図4および図5に示される実施形態においては、表面側の開口径が0.5mmである円状開口を有する貫通孔3aがやや丸みをおびた長方形の領域として形成され、この領域の最も外側に位置する円状開口を有する貫通孔3aから0.5mm外側に離れて放射状に囲むようにして、スリット長が1.0mmであるスリット状開口を有する貫通孔3bが0.5mm間隔で配設されて形成されている。そして、この実施形態における貫通孔形成領域11(円状開口を有する貫通孔3aおよびスリット状開口を有する貫通孔3bの形成領域)は、全体としても、5×5mmあるいは5×10mmのやや丸みをおびた長方形の領域となっている。
また、この貫通孔形成領域11の周囲には無孔延在部5が異なる向きおよび間隔で複数配設され、スリット状開口を有する貫通孔3bから1mm離れた位置に谷状の圧痕線が設けられている。この谷状の圧痕線は、本実施形態に係る医療用シートを切断するためのガイドとなる。
ここで、本実施形態に係る医療用シートには、全体として(貫通孔形成領域11内も含めて)、例えば5×5mm角などの格子印刷が施されていても良い。これにより、使用時における大きさや切断の目安となるからである。
【0037】
さらに、本実施形態に係る医療用シートは、限定されるものではないが、口腔内での使用に適した材料であり、かつ軽量でより耐久性が高い医療用シートを得ることができるという点において、オレフィン系樹脂のエラストマー(オレフィン系熱可塑性エラストマー)からなるのが好ましい。なお、本実施形態においてオレフィン系樹脂のエラストマーとは、ポリプロピレン中にエチレン-プロピレンゴムを微分散させた熱可塑性エラストマーを意味する。
【0038】
また、本実施形態に係る医療用シートは、これも限定されるものではないが、口腔内での使用に適した材料であり、かつ口腔内患部への密着性および衝撃吸収性がより高い医療用シートを得ることができるという点において、ウレタン系樹脂(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)からなるのが好適である。なお、本実施形態においてウレタン樹脂とは、ポリオール成分とイソシアネート成分の共重合からなる熱可塑性ポリマーを意味する。
【0039】
そして、本実施形態に係る医療用シートの具体例としては、100μmのTPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)からなる有孔層1とTPOからなる無孔延在部5とを備える医療用シート(図1の実施形態など)や、10~30μmのTPU(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)からなる無孔層7と100μmのTPUからなる有孔層1との二層構造からなり、さらにTPUからなる無孔延在部5を備える医療用シート(図2(a)および(b)の実施形態など)等が示される。
【0040】
なお、本実施形態に係る医療用シートは、毒性試験およびアレルゲン試験により許容される材料を用いて作製されたものであるのが、口腔内患部に用いるという点において好ましい。
そして、その構成は、モノフィラメント(撚り合わせていない単繊維)の織布シートあるいは編布シートであるのが、柔軟性という点においてより好ましい。
【0041】
以上のような本実施形態に係る医療用シートは、口腔内患部を被覆するために縫合して用いる医療用の樹脂シートであり、例えば、口腔内の開放性損傷および非開放性損傷(創傷)を保護および治療するための創傷保護シートが包含される。特に、抜歯後の傷付近における粘膜の保護および骨の再生補助(PRP療法、PRF療法など)を行う場合において、本実施形態に係る医療用シートを用いるのが好適である。
【0042】
そして、本実施形態に係る医療用シートは、口腔内患部処置中において、その場で容易に切断、加工して調製することができ、また、口腔内患部付近への縫合も容易に行うことができ、さらに、湿潤な環境である口腔内において、1週間から3週間程度継続使用が可能であることも特徴である。
【0043】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、前記医療用シートには複数の貫通孔が形成されており、前記貫通孔の少なくとも一部は、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さいことを特徴とする、医療用シート。
(2)縫合により口腔内患部を被覆するための医療用シートであって、前記医療用シートは、複数の貫通孔が形成された有孔層と、前記有孔層に積層された貫通孔が形成されていない無孔層とを備え、前記有孔層における前記貫通孔の少なくとも一部は、表面側の開口面積が裏面側の開口面積よりも小さく、前記無孔層の少なくとも一部は、前記有孔層における前記貫通孔の少なくとも一部を覆っていることを特徴とする、医療用シート。
(3)前記貫通孔の少なくとも一部が、開口径が0.5mm以上2.0mm以下である円状または楕円形状開口を有し、前記医療用シートにおける前記貫通孔の比率が20%以上55%以下である、(1)または(2)に記載の医療用シート。
(4)前記円状または楕円形状開口を有する前記貫通孔の形成領域を囲むようにして、スリット状開口を有する前記貫通孔が配設され、前記スリット状開口のスリット長が1.0mm以上2.0mm以下であり、前記医療用シートにおける前記スリット状開口を有する前記貫通孔の比率が0%超30%以下である、(3)に記載の医療用シート。
(5)前記円状または楕円形状開口を有する前記貫通孔の形成領域を囲むようにして、開口径が0.5mm未満である円状または楕円形状開口を有する前記貫通孔が配設され、前記医療用シートにおける前記開口径が0.5mm未満である前記貫通孔の比率が0%超30%以下である、(3)に記載の医療用シート。
(6)前記貫通孔は、前記医療用シートにおける複数の領域内において一定の間隔で形成され、前記複数の領域を隔てる無孔延在部を有し、前記無孔延在部をまたがる前記貫通孔の間隔は、前記複数の領域内における隣接する前記貫通孔の間隔よりも広く配設されている、(1)~(5)のいずれか1つに記載の医療用シート。
(7)前記無孔延在部は複数設けられており、かつ異なる向き又は間隔で配設されている、(6)に記載の医療用シート。
(8)前記医療用シートが、前記貫通孔における開口周囲が突起して形成されている突起部を有する、(1)~(7)のいずれか1つに記載の医療用シート。
(9)オレフィン系樹脂のエラストマーからなる、(1)~(8)のいずれか1つに記載の医療用シート。
(10)ウレタン系樹脂からなる、(1)~(8)のいずれか1つに記載の医療用シート。
【符号の説明】
【0044】
1 有孔層
3 貫通孔
3a 円状または楕円形状開口貫通孔
3b スリット状開口貫通孔
3c 微細貫通孔
5 無孔延在部
7 無孔層
9 突起部
11 貫通孔形成領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7