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特許7323910紡績糸、蓄熱性繊維構造物および蓄熱性繊維構造物の製造方法、ならびに蓄熱性紡績糸および蓄熱性紡績糸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】紡績糸、蓄熱性繊維構造物および蓄熱性繊維構造物の製造方法、ならびに蓄熱性紡績糸および蓄熱性紡績糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20230802BHJP
   D01F 8/10 20060101ALI20230802BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20230802BHJP
   D01F 6/14 20060101ALI20230802BHJP
   D06M 11/05 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
D02G3/04
D01F8/10 C
D01F1/10
D01F6/14 A
D06M11/05
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019048123
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020147874
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】515047873
【氏名又は名称】加茂繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【弁理士】
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】角野 充俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 和彦
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020141(JP,A)
【文献】特開2006-022451(JP,A)
【文献】特開2003-073970(JP,A)
【文献】特開2002-327344(JP,A)
【文献】国際公開第2006/011490(WO,A1)
【文献】特開2002-220741(JP,A)
【文献】特開2003-247124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、
平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体を海成分とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を島成分とする複合短繊維と、からなる紡績糸であって、
前記黒鉛珪石含有短繊維が、
芯成分と鞘成分からなる芯鞘構造であり、前記芯成分中にのみ前記黒鉛珪石の微粉末を含有しており、前記黒鉛珪石の微粉末の含有量は、前記黒鉛珪石含有短繊維の1.0~5.0重量%であり、
前記黒鉛珪石含有短繊維が15~30重量%含まれており、
前記複合短繊維が50~70重量%含まれており、
前記複合短繊維は、その断面において島成分の数が10~600個である、
紡績糸。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績糸を準備する紡績糸準備工程と、
この紡績糸準備工程で準備した紡績糸を少なくとも一部に用いて繊維構造物を製造する繊維構造物製造工程と、
この繊維構造物製造工程で得られた繊維構造物を水で処理して複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去することで、複合短繊維を中空化した中空短繊維とする、複合短繊維中空化工程と、
を備える蓄熱性繊維構造物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の紡績糸を準備する紡績糸準備工程と、
この紡績糸準備工程で準備した紡績糸を水で処理して複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去することで、複合短繊維を中空化した中空短繊維とする複合短繊維中空化工程と、
を備える蓄熱性紡績糸の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の紡績糸において、複合短繊維から島成分を除去して中空短繊維とした、蓄熱性紡績糸。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄熱性紡績糸を少なくとも一部に含む、
蓄熱性繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績糸、蓄熱性繊維構造物および蓄熱性繊維構造物の製造方法、ならびに蓄熱性紡績糸および蓄熱性紡績糸の製造方法に関する。詳細には、黒鉛珪石の微粉末を含有する短繊維(黒鉛珪石含有短繊維)を含む紡績糸および蓄熱性繊維構造物などに関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛珪石の微粉末を含有する繊維は、例えば、特許文献1などに記載されている。特許文献1には、「黒鉛珪石の微粉末を0.2~25重量%有する繊維であって、前記黒鉛珪石は、平均粒径が70~80μmの黒鉛珪石粒子1gを上下電極に挟んで350gの加重を付与した状態における抵抗値が9×1010Ω以下である、繊維。」が開示されており、これによって、「蓄熱保温性能に優れた繊維を安定的に得ることができる」とある。黒鉛珪石含有繊維を用いた肌着や被服は、遠赤外線効果などにより、薄くても暖かいという優れた特徴を有する。
【0003】
一方、特許文献2には「平衡水分率が2%以下のポリエステルを海成分とし、4~15モル%のエチレン単位を含有する水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を島成分とする複合繊維。」が開示されている。「この複合繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを溶解除去することで、中空繊維が得られる」とある。水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを溶解除去するための条件として、例えば、170℃で約40秒のプレセットの後、120℃で40分の熱水処理(段落0056)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017‐020141号公報(特許請求の範囲)
【文献】特許第4514977号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒鉛珪石含有繊維を用いた肌着や被服には、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという優れた特徴がある。しかし、蓄熱性を維持しつつさらなる軽量化やふくらみ感の向上が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、蓄熱性や風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)に優れた蓄熱性繊維構造物を提供することである。
また、この蓄熱性繊維構造物に用いられる紡績糸および蓄熱性繊維構造物の製造方法を提供することである。
さらに、蓄熱性繊維構造物に用いることができる蓄熱性紡績糸を提供することである。
加えて、この蓄熱性紡績糸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体を海成分とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を島成分とする複合短繊維と、からなる紡績糸とした。
【0008】
本願発明者は、黒鉛珪石含有繊維の優れた蓄熱性を維持しつつ風合いを向上させるために鋭意研究開発を重ねた。すると、驚くべきことに、所定の黒鉛珪石含有短繊維と、所定の複合短繊維と、からなる紡績糸を用いることで、上記課題が解決されることを見いだしたのである。
この紡績糸は、繊維構造物などの状態で水(温水や熱水)で処理して、複合短繊維の島成分である水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去することができる。その結果、複合短繊維が中空化した中空短繊維となって、繊維構造物から蓄熱性繊維構造物が得られる。
この蓄熱性繊維構造物は、黒鉛珪石と中空繊維の相乗作用により、蓄熱性と風合いが両立する。また、紡績糸を水で処理する際、短繊維である複合短繊維の両端から水が作用するため、長繊維の場合と比較して短時間で確実に、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体が溶解除去される。さらに、この蓄熱性繊維構造物は長時間の着用でも蒸れにくい。
【0009】
ここで、黒鉛珪石含有短繊維が、芯成分と鞘成分からなる芯鞘構造であり、前記芯成分中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有しており、黒鉛珪石の微粉末の含有量は、黒鉛珪石含有短繊維の0.5~5.0重量%である、紡績糸とすることができる。
【0010】
黒鉛珪石含有短繊維が、その芯成分中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有しているため、複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去する際に、黒鉛珪石含有短繊維から黒鉛珪石の微粉末が脱落しにくい。
また、黒鉛珪石の微粉末の含有量が、黒鉛珪石含有短繊維の0.5~5.0重量%であることで、蓄熱性と風合いを高い次元で両立することができる。
【0011】
また、黒鉛珪石含有短繊維が10~30重量%含まれており、複合短繊維が50~90重量%含まれている、紡績糸とすることもできる。
【0012】
この紡績糸は、蓄熱性と風合いを高い次元で両立することができる。黒鉛珪石含有短繊維が15~30重量%含まれており、複合短繊維が50~70重量%含まれている、紡績糸とすることが好ましい。
【0013】
また、上記課題は、黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体からなる中空短繊維と、からなる蓄熱性紡績糸を少なくとも一部に含む蓄熱性繊維構造物によっても解決する。
【0014】
蓄熱性繊維構造物を製造する方法としては、上記紡績糸を準備する紡績糸準備工程と、この紡績糸準備工程で準備した紡績糸を少なくとも一部に用いて繊維構造物を製造する繊維構造物製造工程と、この繊維構造物製造工程で得られた繊維構造物を水で処理して複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去することで、複合短繊維を中空化した中空短繊維とする、複合短繊維中空化工程と、を備える方法とすることができる。水には温水や熱水が含まれる。
【0015】
また、上記課題は、黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体からなる中空短繊維と、からなる蓄熱性紡績糸によっても解決する。
【0016】
さらに、上記課題は、黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体を海成分とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を島成分とする複合短繊維から前記水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去して得られる中空短繊維と、からなる蓄熱性紡績糸によっても解決する。
【0017】
このとき、黒鉛珪石含有短繊維が、芯成分と鞘成分からなる芯鞘構造であり、前記芯成分中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有しており、黒鉛珪石の微粉末の含有量は、黒鉛珪石含有短繊維の0.5~5.0重量%である、蓄熱性紡績糸とすることができる。
【0018】
上記蓄熱性紡績糸を少なくとも一部に含む、蓄熱性繊維構造物とすることもできる。
【0019】
蓄熱性紡績糸の製造方法としては、上記紡績糸を準備する紡績糸準備工程と、この紡績糸準備工程で準備した紡績糸を水で処理して複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去することで、複合短繊維を中空化した中空短繊維とする複合短繊維中空化工程と、を備える方法とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、蓄熱性や風合いに優れた蓄熱性繊維構造物などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】黒鉛珪石含有短繊維の断面形状の一例を示す断面図である。
図2】複合短繊維の断面形状の一例を示す断面図である。
図3】中空短繊維の断面形状の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、紡績糸、蓄熱性繊維構造物および蓄熱性繊維構造物の製造方法、ならびに蓄熱性紡績糸および蓄熱性紡績糸の製造方法を例示説明する。まず、紡績糸を例示説明する。紡績糸は、黒鉛珪石含有短繊維と複合短繊維とを含む。
なお、以下の実施形態はあくまで本発明を例示説明するものであって、本発明は、以下の具体的な実施形態に限定されるものではない。
【0023】
[黒鉛珪石含有短繊維]
黒鉛珪石含有短繊維は、黒鉛珪石の微粉末を含有する短繊維である。黒鉛珪石含有短繊維は、黒鉛珪石含有繊維を短繊維化して得られる。黒鉛珪石含有繊維は、例えば、前述した特開2017‐020141号公報に記載されている。
【0024】
1.黒鉛珪石
黒鉛珪石は、数億年に亘り海底に堆積した珪藻類が地表に隆起したものであると考えられている。黒鉛珪石は、SiOを主成分とし、黒鉛結晶(通常は約5%)を含んでいる。その他にも、アルミニウム、カリウム、チタンおよび二酸化鉄およびマグネシウムなどを、黒鉛珪石は含んでいる。黒鉛珪石はブラックシリカと称される場合がある。
【0025】
2.黒鉛珪石の微粉末化
黒鉛珪石を微粉末化する。このとき、平均粒径(d50:累積50%粒径)が3μm以下になるように黒鉛珪石を微粉末化することが好ましい。
【0026】
3.繊維化(長繊維化)
上記黒鉛珪石の微粉末を所定量含有する黒鉛珪石含有繊維(長繊維)を製造する。
【0027】
黒鉛珪石含有繊維を構成するポリマー、すなわち黒鉛珪石の微粉末を練りこむポリマーは、特に制限されない。紡糸時の曵糸性や糸物性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66等が好ましい。また芯鞘型の繊維とする場合には、例えば、上記ポリマーから2種類を選び、いずれかを芯成分のポリマーとし、他方を鞘成分のポリマーとすることができる。
【0028】
黒鉛珪石含有繊維の表面付近に黒鉛珪石粒子が多く存在していると、複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去する際、水処理温度や時間によっては、黒鉛珪石の微粉末が繊維から脱落する場合があって好ましくない。そのため、黒鉛珪石を芯成分のポリマーに添加し、その周りを鞘成分のポリマーで覆った、いわゆる芯鞘型の繊維とすることが好ましい。
【0029】
芯鞘型の複合短繊維とする場合には、鞘成分と芯成分の比率(重量比率)としては、4:1~1:4の範囲が好ましく、3:1~1:3の範囲がより好ましく、2:1~1:1の範囲が最も好ましい。また、芯成分は繊維中に一芯である必要はなく、2以上の多芯であってもよい。さらに、芯成分の一部が繊維表面に露出していてもよいが、芯成分が完全に鞘成分に覆われていることが好ましい。
【0030】
黒鉛珪石の微粉末を熱可塑性重合体に添加する方法は特に制限されない。均一分散させるという面からは、二軸押出機を用いてマスターチップ化する方法が好ましい。
黒鉛珪石の微粉末の添加時期も特に制限されない。重合初期に反応系に添加し、直接紡糸することができる。また、黒鉛珪石の微粉末を溶融状態にある重合体に混練する、いわゆる後添加方式とすることもできる。さらに、黒鉛珪石の微粉末を高濃度に含有させたマスターチップを用いる、いわゆるマスターバッチ方式とすることもできる。
【0031】
黒鉛珪石の微粉末の添加量は、好ましくは黒鉛珪石含有繊維(黒鉛珪石含有短繊維)の0.5~8.0重量%であり、より好ましくは黒鉛珪石含有繊維の0.5~5.0重量%、さらに好ましくは黒鉛珪石含有繊維の0.5~4.0重量%である。
【0032】
黒鉛珪石含有繊維として繊維化するには、上記材料を用いて、通常の繊維製造工程をそのまま用いることが可能である。繊維の太さとしては、0.5~15デシテックスの範囲が好ましい。
【0033】
黒鉛珪石含有繊維の断面形状は特に制限されない。丸断面のほか、例えば、三~六角断面等の多角断面、T字型断面、U字型断面とすることができる。
【0034】
4.短繊維化
得られた黒鉛珪石含有繊維を短繊維化して黒鉛珪石含有短繊維とする。黒鉛珪石含有繊維は、従来公知の方法で短繊維化することができる。黒鉛珪石含有短繊維の繊維長は、好ましくは25~150mmであり、より好ましくは35~100mm、最も好ましくは、40~60mmである。捲縮数は、例えば3.3デシテックスの場合、12~15個/inch、捲縮率は概ね10%とすることが好ましい。
【0035】
[複合短繊維]
次に、複合短繊維について説明する。複合短繊維は、平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体を海成分とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を島成分とする。複合短繊維は、複合繊維を短繊維化して得られる。複合繊維は、前述した特許第4514977号公報に開示されている。島成分の材料、海成分の材料および繊維化については、特許第4514977号公報に記載されている内容を適用可能である。
【0036】
海成分および島成分の形状は特に制限されない。島成分の数は複合短繊維の断面において1個以上存在していればよい。島成分の数は、例えば、10個以上、さらには30個以上、特に50個以上とすることができる。島成分の数の上限は特に制限されないが、繊維強度を考慮すると、好ましくは1000個以下、さらに好ましくは600個以下とすることができる。
【0037】
島成分と海成分の複合比率は特に制限されない。中空短繊維の中空部の数と中空率をどの程度に設定するかに応じて複合比率を変更することができる。島成分の比率が小さすぎると軽量化の効果も少なくなる。一方、中空部の比率が大きすぎると強度を確保しにくくなる。海成分と島成分の複合比率(重量比)は、海:島=98:2~35:65、さらには95:5~40:60とすることが好ましく、70:30~50:50とすることが最も好ましい。
また、複合短繊維の断面形状は特に制限されない。複合短繊維の断面形状は、例えば、円形状、偏平形状、楕円形状、多角形状とすることができる。
また、複合短繊維は各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、蛍光増白剤、安定剤、難燃剤、着色剤を挙げることができる。
【0038】
1.島成分
複合短繊維の島成分に使用される水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(以降、PVAと称する場合がある)について説明する。PVAには、ポリビニルアルコールのホモポリマーのほか、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含される。
【0039】
PVAの粘度平均重合度は200~500が好ましく、230~470がより好ましく、250~450がさらに好ましい。粘度平均重合度500以下の低重合度のPVAを用いることによってPVAの溶解速度が速くなる。また、粘度平均重合度500以下の低重合度のPVAを用いることによって溶解時における複合短繊維の収縮を小さくすることができる。粘度平均重合度はJIS‐K6726に準じて測定する。
【0040】
PVAの鹸化度は、90~99.99モル%であることが好ましい。鹸化度が90モル%未満の場合には、共重合モノマーの種類によっては、PVAの水溶性が低下する場合がある。
【0041】
PVAの融点(Tm)は160~230℃であることが好ましく、170~227℃がより好ましく、175~224℃がさらに好ましく、180~220℃が最も好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し、複合繊維の繊維強度および熱安定性が悪くなって繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を越えると紡糸温度が高くなり、紡糸温度がPVAの分解温度に近づくために安定的に繊維化することができない場合がある。
なお、PVAの融点はDSCを用いて測定する。具体的には、窒素中で昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、昇温速度10℃/分で250℃まで再度昇温した場合の吸熱ピークのピークトップの温度を測定し、この温度をPVAの融点とする。
【0042】
PVAは、エチレン単位が4~15モル%、好ましくは6~13モル%導入されたエチレン変性PVAを使用することができる。このようなPVAは繊維物性が高くなる。
【0043】
PVAの種類や複合繊維の製造条件を変更することにより、島成分であるPVAの溶解温度が30℃~100℃の複合繊維を得ることができる。PVAの溶解温度は40℃以上であることが好ましい。
【0044】
2.海成分
複合短繊維の海成分を構成する熱可塑性重合体は、平衡水分率が2%以下であれば特に制限されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系重合体やポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ乳酸、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、芳香族ビニルモノマーとジエン系モノマーとからの共重合体、またはその水添物等を挙げることができる。
また、これらの重合体は共重合などで変性されていてもよい。ポリエステル系においては、イソフタル酸、5-ソジウムスルホイソフタル酸、セバチン酸、アジピン酸等で共重合することが、PVAを溶解除去しやすくなるため好ましい。さらに海成分は各種添加剤を含んでいてもよい。
なお、平衡水分率は、JIS L1015-1992の7.3「平衡水分率」の測定法に準拠して測定した値である。測定の際の水分平衡は、温度20℃±2℃、湿度65%RH±2%RHの条件下でのものである。
【0045】
3.複合繊維の繊維化(長繊維化)
複合繊維を繊維化する方法として、例えば、複合紡糸を用いることができる。複合紡糸の場合は、PVAと熱可塑性重合体とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練した後、PVAが島成分となり熱可塑性重合体が海成分となるようにして海島型複合紡糸ノズルから吐出させて巻き取ることで繊維化することが好ましい。
【0046】
4.複合繊維の短繊維化(複合短繊維)
得られた複合繊維を短繊維化して複合短繊維とする。従来公知の方法で短繊維化することができる。複合短繊維の繊維長は、好ましくは25~150mmであり、より好ましくは35~100mm、最も好ましくは、40~60mmである。捲縮数は、例えば3.3デシテックスの場合には、12~15個/inch、捲縮率は概ね10%とすることが好ましい。
【0047】
[紡績糸]
上記黒鉛珪石含有短繊維と上記複合短繊維を混紡して紡績糸を得る。混紡方法は特に制限されない。例えば、黒鉛珪石含有短繊維と複合短繊維をカード(梳綿機)に通して所定の割合で混紡することで紡績糸を得ることができる。ここで、黒鉛珪石含有短繊維と複合短繊維に加えて、他の繊維を混紡することもできる。例えば、アクリル短繊維を用いることができる。
混紡の際、黒鉛珪石含有短繊維を10~30重量%、複合短繊維を50~90重量%とすることが、風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)や蓄熱性の面から好ましい。アクリル短繊維を混紡する場合には、紡績糸全体に対して35重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
【0048】
[蓄熱性繊維構造物の製造方法]
次に、蓄熱性繊維構造物の製造方法について例示説明する。蓄熱性繊維構造物の製造方法は、紡績糸準備工程と、繊維構造物製造工程と、複合短繊維中空化工程とを備える。
【0049】
紡績糸準備工程では前述した紡績糸を準備する。次の繊維構造物製造工程では、紡績糸準備工程で準備した紡績糸を少なくとも一部に用いて繊維構造物を製造する。
繊維構造物には、織編物、不織布、紙、人工皮革、詰物材はもちろんのこと、交織物、交編物、繊維積層体、並びにこれらから構成される衣類、リビング資材、産業資材、メディカル用品等の各種最終製品も含まれる。これらの繊維構造物は、例えば、従来公知の方法で製造することができる。
【0050】
複合短繊維中空化工程では、繊維構造物製造工程で得られた繊維構造物を水(温水)で処理して複合短繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(PVA)を溶解除去する。その結果、紡績糸中の複合短繊維が中空化される(中空短繊維)。
【0051】
PVAを溶解除去するための水処理温度はPVAの溶解温度などに応じて適宜調整すればよい。水温が高い程、PVAを溶解除去するために必要な時間が短くなる。水温は60℃以上、好ましくは80℃以上である。海成分となる熱可塑性重合体のガラス転移点が70℃以上であれば、100℃以上の高温高圧下での水処理が最も好ましい。水処理の方法としては、例えば、水中に繊維構造物を浸漬することができる。水処理に用いる水は、アルカリ水溶液または酸性水溶液でもよいし、界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0052】
水処理の処理時間は、水温、複合繊維の繊度、島成分の割合、島成分の分布状態などに応じて適宜調節することができる。
【0053】
水処理によって複合短繊維中のPVAが選択的に除去される。これによって紡績糸中の複合短繊維が中空化され(中空短繊維)蓄熱性繊維構造物が製造される。
【0054】
中空短繊維の断面における中空部の面積割合(以降、中空率と称する場合がある)は2%以上であることが好ましい。中空率が2%よりも低いと、軽量感およびふくらみ感が不十分な場合がある。中空率は、好ましくは5%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。
中空率が大き過ぎると繊維強度が不足する場合がある。中空率は、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは50%以下である。
【0055】
[蓄熱性紡績糸の製造方法]
以上の説明では、繊維構造物を水処理して複合短繊維からPVAを溶解除去する例を挙げた。しかし、紡績糸を水処理して複合短繊維からPVAを溶解除去することもできる。PVAを溶解除去して中空化した複合短繊維は蓄熱性紡績糸となる。蓄熱性紡績糸の製造方法は、紡績糸準備工程と、複合短繊維中空化工程とを備える。
【0056】
紡績糸準備工程では前述した紡績糸を準備する。次の複合短繊維中空化工程では、紡績糸準備工程で準備した紡績糸を水で処理して複合短繊維からPVAを溶解除去する。これによって、複合短繊維が中空化した中空短繊維となる。
【0057】
上記蓄熱性紡績糸を用いて蓄熱性繊維構造物を製造することができる。得られた蓄熱性繊維構造物はPVAが溶解除去されているため、基本的に水処理の必要がない。
【実施例
【0058】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。実施例中の比率および%は、ことわりのない限り重量に関するものである。
【0059】
[実施例1]
黒鉛珪石の微粉末(平均粒子径0.6μm)を10重量%添加したポリエステルを芯成分とし、ポリエステルを鞘成分とした芯鞘構造の黒鉛珪石含有繊維(鞘/芯の比率=2/1、83dtex/24fの延伸系)を得た。これを合糸して40万デニールの繊維トウにし、押込捲縮機を用いて捲縮をかけて51mmにカットし、単糸繊度3デニールの黒鉛珪石含有短繊維(捲縮数12.0個/インチ)を得た。
一方、エチレン変性PVAを島成分として、酸化チタン0.045重量%含有イソフタル酸6モル%変性ポリエチレンテレフタレート(極限粘度〔η〕=0.68、平衡水分率0.4%)を海成分として用い、PVAのゾーン最高温度230℃、PVAの溶融滞留が極力生じない複合紡糸部品を使用して紡糸温度260℃、紡糸速度1800m/分で紡出した後、この未延伸糸を83℃の熱ローラー及び140℃の熱プレートに接触させ、延伸倍率2.3倍で延伸することにより83dtex/24fの複合繊維を得た。得られた複合繊維を合糸して40万デニールの繊維トウにして、押込捲縮機を用いて捲縮をかけて51mmにカットし、単糸繊度3デニールの複合短繊維(捲縮数12.0個/インチ)を得た。
上記黒鉛珪石含有短繊維と上記複合短繊維をカード(梳綿機)に通して30:70の割合で混紡し、20番手の紡績糸を得た。
得られた紡績糸を用いて天竺編物を作成し、この天竺編物を炭酸ナトリウムを2g/リットルの割合で含む水溶液中に80℃で30分間浸漬して糊抜きした後、170℃で約40秒間プレセットを行なった。次にイントールMTコンク(アニオン活性剤、明成化学社製)1g/リットルを含む水溶液にて浴比50:1、温度120℃、時間40分間の熱水処理を行なった。十分に水洗して天笠編物(蓄熱性繊維構造物)を得た。
複合短繊維の島成分であるPVAは、ほぼ完全に溶解除去されており、複合短繊維が中空短繊維となっていることを確認した。また、プレセットや熱水処理において黒鉛珪石の微粉末の脱落は確認できなかった。
【0060】
得られた天笠編物について風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)を下記基準で評価した
[風合い評価]
織物についてパネラー10名で実施し、下記の基準で評価した。
◎:9名以上が軽量感、ソフト感、ふくらみ感共に優れていると判定
○:7~8名が軽量感、ソフト感、ふくらみ感共に優れていると判定
△:5~6名が軽量感、ソフト感、ふくらみ感共に優れていると判定
×:6名以上が軽量感、ソフト感、ふくらみ感共に劣っていると判定
【0061】
また、得られた天笠編物について蓄熱性を下記基準で評価した。
[蓄熱性評価]
織物についてパネラー10名で実施し、下記の基準で評価した。
◎:9名以上が蓄熱性に優れていると判定
○:7~8名が蓄熱性に優れていると判定
△:5~6名が蓄熱性に優れていると判定
×:6名以上が蓄熱性に劣っていると判定
【0062】
評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
評価の結果、得られた天竺編物は、風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)、蓄熱性ともに優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0064】
[実施例2]
実施例1の黒鉛珪石含有短繊維において、鞘/芯の比率を、2/1から1/1に変更した。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、紡績糸および天笠編物を得た。なお、鞘/芯の比率を、2/1から1/1に変更することによって、繊維中の黒鉛珪石含有割合が3.3重量%から5.0重量%に増加している。
本実施例においても、複合短繊維の島成分であるPVAは、ほぼ完全に溶解除去されており、複合短繊維が中空短繊維となっていることを確認した。また、プレセットや熱水処理において黒鉛珪石の微粉末の脱落は確認できなかった。
得られた天竺編物は、風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)、蓄熱性ともに優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0065】
[実施例3]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から5重量%に変更した。また、実施例2の複合短繊維において、海成分をPBT(ポリブチレンテレフタレート)に変更した。海成分に用いたPBTの平衡水分率は2%以下である。さらに、その他の繊維としてアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いた。黒鉛珪石含有短繊維を15重量%、複合短繊維を50重量%、アクリル短繊維を35重量%の割合で混紡して紡績糸を得た。上記以外は、実施例2と同様の材料および条件で、天笠編物を得た。
本実施例においても、複合短繊維の島成分であるPVAは、ほぼ完全に溶解除去されており、複合短繊維が中空短繊維となっていることを確認した。また、プレセットや熱水処理において黒鉛珪石の微粉末の脱落は確認できなかった。
得られた天竺編物は、風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)、蓄熱性ともに優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0066】
[実施例4]
実施例1の黒鉛珪石含有短繊維において、芯成分を、ポリエチレンテレフタレートからナイロン6に変更した。また、実施例1の複合短繊維において、海成分をPBT(ポリブチレンテレフタレート)に変更した。さらに、その他の繊維としてアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いた。黒鉛珪石含有短繊維を30重量%、複合短繊維を50重量%、アクリル短繊維を20重量%の割合で混紡して紡績糸を得た。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、天笠編物を得た。
本実施例においても、複合短繊維の島成分であるPVAは、ほぼ完全に溶解除去されており、複合短繊維が中空短繊維となっていることを確認した。また、プレセットや熱水処理において黒鉛珪石の微粉末の脱落は確認できなかった。
得られた天竺編物は、風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)、蓄熱性ともに優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0067】
[実施例5]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から2重量%に変更した。上記以外は、実施例2と同様の材料および条件で、天笠編物を得た。
本実施例においても、複合短繊維の島成分であるPVAは、ほぼ完全に溶解除去されており、複合短繊維が中空短繊維となっていることを確認した。また、プレセットや熱水処理において黒鉛珪石の微粉末の脱落は確認できなかった。
得られた天竺編物は、風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)、蓄熱性ともに優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0068】
[比較例1]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から50重量%に変更した。しかし、黒鉛珪石含有繊維の繊維化工程で断線が多発した。また、実施例2の複合短繊維において、海/島の比率(複合比率)を70/30から50/50に変更した。こちらも繊維化工程に難があった。これらのことから、サンプル評価を中止した。
【0069】
[比較例2]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から0.5重量%に変更した。それ以外は、実施例2と同様の材料および条件で、紡績糸および天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、風合いに優れているものの、蓄熱性が劣っていた。
【0070】
[比較例3]
実施例1において、複合短繊維のかわりにアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いて紡績糸および天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、蓄熱性に優れているものの、軽量感がなく風合いが劣っていた。しかし、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0071】
[比較例4]
実施例1において、黒鉛珪石含有短繊維のかわりにアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いて紡績糸および天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、軽量感に優れているものの、蓄熱性が大きく劣っていた。
【0072】
以上、特定の実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
このようにして得られる本発明の蓄熱性繊維構造物は、蓄熱性や風合い(軽量感、ソフト感、ふくらみ感)に優れており、織編物、不織布、紙、人工皮革、詰物材はもちろん、交織物、交編物、繊維積層体、並びにこれらから構成される衣類、リビング資材、産業資材、メディカル用品等の各種製品として利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 黒鉛珪石含有短繊維
11 芯成分
12 鞘成分
13 黒鉛珪石の微粉末
2 複合短繊維
21 海成分
22 島成分
3 中空短繊維
30 中空部
図1
図2
図3