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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】ヘッドシェル
(51)【国際特許分類】
   G11B 3/42 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G11B3/42
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019087638
(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公開番号】P2020184390
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】間下 彩
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-085401(JP,U)
【文献】特開2002-172438(JP,A)
【文献】実開昭58-074626(JP,U)
【文献】実開昭53-156190(JP,U)
【文献】実開昭55-158006(JP,U)
【文献】実開昭56-136310(JP,U)
【文献】米国特許第04382651(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レコードプレーヤのトーンアームのコネクタに着脱可能で、ピックアップカートリッジを保持するヘッドシェルであって、
前記コネクタに着脱可能なシリンダと、
前記シリンダに保持されるヘッドシェル本体と、
前記ヘッドシェル本体を前記シリンダに固定可能な固定ねじと、
を有してなり、
前記シリンダは、
円筒状のシリンダ外周面と、
前記シリンダ外周面に、前記シリンダの軸方向に沿って配置される溝と、
を備え、
前記固定ねじの一部は、前記溝の内側に配置され、
前記固定ねじの一部が前記溝に当接してないとき、
前記シリンダの周方向において、前記固定ねじと前記溝との間には、前記シリンダに対する前記ヘッドシェル本体の前記周方向における位置を調整するための隙間が形成さ
前記ヘッドシェル本体は、前記シリンダに対して、前記隙間に応じた角度範囲で前記周方向に回転可能である、
ことを特徴とするヘッドシェル。
【請求項2】
記回転の前記角度範囲は、前記固定ねじが前記溝に当接することにより、制限される、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項3】
前記固定ねじは、
先端面、
を備え、
前記先端面は、前記溝の底面に当接可能である、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項4】
前記ヘッドシェル本体は、
前記シリンダが挿通されて、前記シリンダの一部が配置される挿通孔、
を備え、
前記固定ねじは、前記挿通孔内に突出する、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項5】
前記シリンダは、
前記ヘッドシェル本体を保持する保持部、
を備え、
前記保持部は、
前記シリンダ外周面、
を備える、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項6】
前記固定ねじは、
前記溝の内側に配置される先端部、
を備え、
前記周方向において、前記先端部と前記溝との間には、前記隙間が形成される、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項7】
前記先端部は、
面取りされた面取面、
を備える、
請求項6記載のヘッドシェル。
【請求項8】
前記ヘッドシェル本体は、前記固定ねじが前記溝に案内されることにより、前記シリンダの前記軸方向に摺動可能である、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項9】
前記ヘッドシェル本体の前記シリンダに対する前記周方向の位置の調整を補助する調整補助機構、
を有してなる、
請求項1記載のヘッドシェル。
【請求項10】
前記調整補助機構は、
第1標識と、
前記第1標識に対して移動可能な第2標識と、
を備え、
前記シリンダは、
前記第1標識、
を備え、
前記ヘッドシェル本体は、
前記第2標識、
を備える、
請求項9記載のヘッドシェル。
【請求項11】
前記第1標識と前記第2標識とは、前記シリンダの前記軸方向視において、前記シリンダの径方向に並んで配置可能である、
請求項10記載のヘッドシェル。
【請求項12】
前記シリンダは、
前記コネクタに着脱可能なコネクタ部と、
前記コネクタ部を前記コネクタに固定可能な突起部と、
を備え、
前記突起部は、前記第1標識として機能する、
請求項10記載のヘッドシェル。
【請求項13】
前記コネクタ部は、
円筒状のコネクタ外周面、
を備え、
前記突起部は、前記コネクタ外周面から、前記コネクタ部の径方向に突出する、
請求項12記載のヘッドシェル。
【請求項14】
前記ヘッドシェル本体は、
前記シリンダが前記コネクタに取り付けられるとき、前記トーンアーム側に向く背面、
を備え、
前記第2標識は、前記背面に配置される、
請求項12記載のヘッドシェル。
【請求項15】
前記シリンダは、前記背面を貫通し、
前記第2標識は、前記シリンダの径方向に沿う、
請求項14記載のヘッドシェル。
【請求項16】
前記背面は、
凹部または凸部、
を備え、
前記凹部または前記凸部は、前記第2標識として機能する、
請求項14記載のヘッドシェル。
【請求項17】
前記凹部は、前記シリンダの径方向に沿う長溝である、
請求項16記載のヘッドシェル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドシェルに関する。
【背景技術】
【0002】
レコードプレーヤは、レコード盤の音溝を機械的になぞる針の振動を電気信号に変換することにより、レコード盤に記録された音声信号を再生する。針は、ピックアップカートリッジ(以下「カートリッジ」という。)に取り付けられる。カートリッジは、ヘッドシェルに取り付けられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ヘッドシェルは、カートリッジを保持する。ヘッドシェルは、レコードプレーヤのトーンアームに取り付けられる。ヘッドシェルは、カートリッジからの電気信号をトーンアーム内に配線される信号線に伝送する。
【0004】
カートリッジの針の先端(針先)は、針の使用時間に応じて、摩耗する。そのため、カートリッジの針は、所定の使用時間ごとに交換される。また、レコードプレーヤの再生する音(再生音)の音質は、カートリッジの種類により異なる。そのため、カートリッジは、レコードプレーヤの使用者の所望する音質に応じて、交換され得る。一般的に、針やカートリッジが交換されるとき、ヘッドシェルは、トーンアームから取り外される。
【0005】
ヘッドシェル(特に、カートリッジ交換後のヘッドシェル)がトーンアームに取り付けられるとき、レコード盤に対する針先の位置は、適正な位置からずれやすい。レコード盤に対する針先の位置は、いわゆるオーバーハングの調整により、調整される。オーバーハングは、トーンアームの支点と針先との間の距離から、トーンアームの支点とレコード盤の回転中心(スピンドル中心)との間の距離を、差し引いた距離である。オーバーハングが適正でないと、トラッキングエラーや再生音の音質の低下などの不具合が生じ易い。
【0006】
オーバーハングは、使用者がカートリッジの位置をヘッドシェルに対して移動させることにより、調整される。カートリッジは、底面(平面)視において、ヘッドシェルに対して平行に取り付けられなければならない。そこで、使用者は、オーバーハングの調整において、針先の位置と、ヘッドシェルに対するカートリッジの傾きと、を調整する。
【0007】
一方、カートリッジがヘッドシェルに取り付けられた状態でオーバーハングの調整を可能とするヘッドシェルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
非特許文献1に開示されたヘッドシェルは、シリンダとヘッドシェル本体とを備える。シリンダは、コネクタ部と保持部とを備える。コネクタ部は、トーンアームに取り付けられる。保持部は、ヘッドシェル本体を保持する。保持部は、ヘッドシェル本体の後端壁に配置される貫通孔に挿通される。ヘッドシェル本体は、ボルトと止めねじ(いもねじ)とにより、保持部に固定される。
【0009】
非特許文献1に開示されたヘッドシェルでは、ボルトと止めねじとが緩められると、ヘッドシェル本体は、シリンダに対して移動可能となる。そのため、シリンダがトーンアームに取り付けられた状態において、使用者は、シリンダに対するヘッドシェル本体の位置を調整可能である。したがって、同ヘッドシェルのオーバーハングは、カートリッジがヘッドシェルに取り付けられた状態で調整可能である。
【0010】
しかしながら、非特許文献1に開示されたヘッドシェルでは、ヘッドシェル本体は、シリンダの軸方向と周方向それぞれに移動可能である。そのため、オーバーハングの調整時に、ヘッドシェル本体は、シリンダに対してシリンダの周方向に回転し易い。すなわち、オーバーハングの調整時に、ヘッドシェル本体は、水平面に対して、しばしば傾いて取り付けられる。ヘッドシェル本体が水平面に対して傾くと、針先は、音溝に対して適正な角度(針の軸線がレコード盤に対して垂直となる角度)で当接し得ない。その結果、再生音の音質の悪化のみならず、使用者の所有物を損なう不具合(例えば、針先の破損やレコード盤が傷付くなど)が生じ得る。したがって、非特許文献1に開示されたヘッドシェルでは、オーバーハングの調整は、ヘッドシェル本体を水平面と平行にする調整(水平度の調整)も必要とする。
【0011】
ここで、目視により水平度を調整する場合、ヘッドシェルは、目視による調整のための明確な基準となる部位を有していない。そのため、目視による水平度の調整は、容易でない。したがって、日頃からレコードプレーヤを利用している愛用者の間では、水準器を用いた水平度の調整が慣行されている。しかしながら、水準器を用いた水平度の調整を面倒に感じる愛用者は、少なくない。
【0012】
ところで、近年のレコードブームにより、レコードプレーヤは、愛用者だけでなく、レコードプレーヤを使い慣れていない初心者(若者)にも使用されてきている。愛用者は、前述したオーバーハングの調整の重要性を十分に理解し、同調整に習熟している。そのため、愛用者は、オーバーハングをある程度、調整可能である。一方で、初心者は、オーバーハングの調整の重要性を十分には理解しておらず、オーバーハングの調整に慣れていない。そのため、初心者は水準器の使用に思い至り難く、水準器を所有している初心者は少ない。すなわち、初心者には、オーバーハングの調整(特に、水平度の調整)は、容易でない。
【0013】
このような問題を解決するため、水平度を含むオーバーハングの調整用の調整機構がヘッドシェルに設けられる場合、追加の部品や加工が必要となる。その結果、ヘッドシェルの生産性は、低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2018-63741号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】「AT-LH13/OCC 取扱説明書」、Audio-technica corporation、[online]、[平成31年4月11日検索]、インターネット<https://www.audio-technica.co.jp/items/contents/101/model/AT-LH13_OCC/donwload/AT-LH13OCC_15_18.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、容易かつ正確にオーバーハングの調整が可能なヘッドシェルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、レコードプレーヤのトーンアームのコネクタに着脱可能で、ピックアップカートリッジを保持するヘッドシェルであって、コネクタに着脱可能なシリンダと、シリンダに保持されるヘッドシェル本体と、ヘッドシェル本体をシリンダに固定可能な固定ねじと、を有してなり、シリンダは、円筒状のシリンダ外周面と、シリンダ外周面に、シリンダの軸方向に沿って配置される溝と、を備え、シリンダの周方向において、固定ねじと溝との間には、隙間が形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、容易かつ正確にオーバーハングの調整が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかるヘッドシェルの使用例を示す斜視図である。
図2図1のヘッドシェルの実施の形態を示す斜視図である。
図3図2のヘッドシェルの分解斜視図である。
図4図2のヘッドシェルの背面図である。
図5図2のヘッドシェルの図4のAA線における断面図である。
図6図2のヘッドシェルの図5のBB線における断面図である。
図7図6のヘッドシェルの一部を拡大した拡大断面図である。
図8図7のヘッドシェルの一部をさらに拡大した拡大断面図である。
図9】ピックアップカートリッジが取り付けられた図2のヘッドシェルの底面図である。
図10図4のヘッドシェルの一部を拡大した拡大背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかるヘッドシェルの実施の形態について説明する。
【0021】
●ヘッドシェル●
図1は、本発明にかかるヘッドシェルの使用例を示す斜視図である。
同図は、ヘッドシェル1と、ピックアップカートリッジ(以下「カートリッジ」という。)Cと、レコードプレーヤPのトーンアームP1とターンテーブルP2と、ターンテーブルP2に載置されるレコード盤Rと、を示す。
【0022】
カートリッジCは、レコード盤Rの音溝をなぞる針C1を備える。カートリッジCは、針C1が音溝をなぞることで生じる針C1の振動を電気信号に変換する。トーンアームP1は、ヘッドシェル1を介してカートリッジCを支持し、針C1に一定の圧力(針圧)をかける。トーンアームP1は、コネクタP11を備える。コネクタP11は、トーンアームP1の先端に配置される。コネクタP11には、ヘッドシェル1が取り付けられる。ターンテーブルP2は、レコード盤Rを一定の速度で回転させる。
【0023】
ヘッドシェル1は、カートリッジCを保持する。換言すれば、ヘッドシェル1は、カートリッジCをトーンアームP1に取り付けるためのアダプタである。カートリッジCは、取付ねじC2,C3によりヘッドシェル1に取り付けられる(保持される)。ヘッドシェル1は、レコードプレーヤPのトーンアームP1のコネクタP11に取り付けられる。
【0024】
以下の説明において、「後方」は、トーンアームP1に取り付けられたヘッドシェル1に対して、コネクタP11が位置する方向である。「前方」は、ヘッドシェル1が取り付けられたコネクタP11に対して、ヘッドシェル1に保持されたカートリッジCが位置する方向である。「下方」は、針C1がレコード盤Rの音溝をなぞるとき、ヘッドシェル1に対して、レコード盤Rが位置する方向である。「上方」は、使用者が針C1をレコード盤Rから離すとき、ヘッドシェル1を持ち上げる方向である。
【0025】
●ヘッドシェルの構成
図2は、ヘッドシェル1の実施の形態を示す斜視図である。
図3は、ヘッドシェル1の分解斜視図である。
【0026】
ヘッドシェル1は、ヘッドシェル本体10と、シリンダ20と、緩衝材30と、絶縁材40と、第1固定ねじ50と、第2固定ねじ60と、フィンガ70と、フィンガ取付ねじ80と、を有してなる。
【0027】
ヘッドシェル本体10は、カートリッジC(図1参照)を保持する。ヘッドシェル本体10は、側方視において、L字状である。ヘッドシェル本体10は、例えば、アルミニウムのような金属製である。ヘッドシェル本体10は、第1保持部11と第2保持部12とを備える。
【0028】
第1保持部11は、カートリッジC(図1参照)を保持する。第1保持部11は、前後方向に長い矩形かつ板状である。第1保持部11は、4つのねじ挿通孔11h1,11h2,11h3,11h4と、シリンダガイド溝111(図5参照)と、を備える。
【0029】
ねじ挿通孔11h1-11h4は、取付ねじC2,C3(図1参照)が挿通される貫通孔である。ねじ挿通孔11h1-11h4は、第1保持部11の前部に配置される。
【0030】
図4は、ヘッドシェル1の背面図である。
図5は、ヘッドシェル1の図4のAA線における断面図である。
図6は、ヘッドシェル1の図5のBB線における断面図である。
【0031】
シリンダガイド溝111は、後述するシリンダ20の前後方向の移動を案内する。シリンダガイド溝111の内面は、図5に示す断面視において、円弧状である。同内面は、シリンダ20の外周面(後述する本体保持部23の外周面23a)に沿う。シリンダガイド溝111は、第1保持部11の後部の下面11aに配置される。シリンダガイド溝111は、後述する挿通孔12h1と連通する。
【0032】
第2保持部12は、シリンダ20に保持される。第2保持部12は、板状である。第2保持部12は、第1保持部11に対して下方に直立するように、第1保持部11の後端に配置される。第2保持部12は、第1保持部11と一体である。第2保持部12は、挿通孔12h1と、第1ねじ孔12h2と、第2ねじ孔12h3と、ねじ挿通孔12h4と、スリット12gと、調整溝121と、を備える。
【0033】
なお、第2保持部は、第1保持部と別体で構成されてもよい。すなわち、例えば、第2保持部は、ねじなどの連結部材により、第1保持部に連結されてもよい。
【0034】
挿通孔12h1は、シリンダ20が挿通される(シリンダ20を保持する)貫通孔である。挿通孔12h1は、背面視において、円形である。挿通孔12h1は、第2保持部12の中央に配置される。挿通孔12h1は、第2保持部12を前後方向(図5の紙面左右方向)に貫通する。挿通孔12h1の上部の内周面は、シリンダガイド溝111と一体的に形成される。
【0035】
第1ねじ孔12h2は、第1固定ねじ50がねじ込まれる貫通孔である。第1ねじ孔12h2は、第2保持部12の右側面の略中央に配置される。第1ねじ孔12h2は、挿通孔12h1と連通する。
【0036】
第2ねじ孔12h3は、第2固定ねじ60がねじ込まれる貫通孔である。第2ねじ孔12h3は、挿通孔12h1の下方、かつ、第2保持部12の右側面に配置される。
【0037】
ねじ挿通孔12h4は、第2固定ねじ60が挿通される貫通孔である。ねじ挿通孔12h4は、挿通孔12h1の下方、かつ、第2保持部12の左側面に配置される。ねじ挿通孔12h4は、第2ねじ孔12h3と同軸上に配置される。
【0038】
スリット12gは、第2固定ねじ60の締付により間隔が変わる隙間である。スリット12gは、第2保持部12の左右方向の中央、かつ、第2保持部12の下端部に配置される。スリット12gは、第2保持部12を前後方向に貫通し、挿通孔12h1と連通する。スリット12gは、第2ねじ孔12h3とねじ挿通孔12h4との間に位置する。第2保持部12のうち、スリット12gの左右の部分は、左右方向の厚さが薄い薄肉部である。
【0039】
調整溝121は、後述するオーバーハングの調整において、ヘッドシェル本体10の水平度の調整を補助する。調整溝121は、長溝である。調整溝121は、第2保持部12の後面12aの左右方向の中央、かつ、挿通孔12h1の上側に配置される。調整溝121は、挿通孔12h1側から上方に延びる。調整溝121は、本発明における第2標識(凹部)である。後面12aは、本発明における背面である。調整溝121による水平度の調整は、後述する。
【0040】
図1図5に戻る。
シリンダ20は、ヘッドシェル本体10を保持する。シリンダ20は、例えば、アルミニウムのような金属製である。シリンダ20は、挿通孔12h1に挿通されて、ヘッドシェル本体10を保持する。シリンダ20は、コネクタ部21と、突起部22と、本体保持部23と、4つのターミナルピン24,25,26,27と、を備える。
【0041】
コネクタ部21は、ヘッドシェル1とトーンアームP1とを機械的に接続し、ターミナルピン24-27とトーンアームP1の信号線とを電気的に接続する。コネクタ部21は、円柱状で、円筒状の外周面21aを備える。外周面21aは、本発明におけるコネクタ外周面である。コネクタ部21は、コネクタP11に取り付けられる。
【0042】
突起部22は、コネクタ部21をコネクタP11に固定する。突起部22は、円柱状である。突起部22は、外周面21aの一部が外周面21aからコネクタ部21の径方向に突出することにより、形成される。突起部22は、外周面21aの上面(上端面)に、上下方向に沿って配置される。突起部22は、本発明における第1標識である。
【0043】
コネクタ部21は、いわゆるBNC(Bayonet Neill Concelman)コネクタと同様のバヨネット式の取付方式により、コネクタP11に取り付けられる。すなわち、突起部22がコネクタP11のロック溝(不図示)の奥に到達することにより、コネクタ部21は、コネクタP11に取り付けられる。一方、突起部22がロック溝から離れることにより、コネクタ部21は、コネクタP11から取り外される。つまり、突起部22はコネクタ部21をコネクタP11に固定可能であり、コネクタ部21はコネクタP11に着脱可能である。
【0044】
本体保持部23は、挿通孔12h1に挿通されて、ヘッドシェル本体10を保持する。本体保持部23は、後述するオーバーハングの調整において、ヘッドシェル本体10の移動軸および回転軸として機能する。本体保持部23は、前端に開口を有する有底円筒状である。本体保持部23は、本発明における保持部である。本体保持部23は、円筒状の外周面23aと、ねじガイド溝23bと、を備える。外周面23aは、本発明におけるシリンダ外周面である。
【0045】
本体保持部23の外径は、コネクタ部21の外径よりも大きい。本体保持部23は、コネクタ部21の前方に配置され、コネクタ部21と一体に構成される。背面視において、本体保持部23の中心の位置は、コネクタ部21の中心の位置と同じである。すなわち、シリンダ20の中心軸線20xは、コネクタ部21の中心軸線21xと本体保持部23の中心軸線23xそれぞれと重畳する。各中心軸線20x,21x,23xは、前後方向(図5の紙面左右方向)に平行である。したがって、シリンダ20(コネクタ部21,本体保持部23)の軸方向は、前後方向である。
【0046】
図7は、図6の一部を拡大した拡大断面図である。
図8は、図7の一部をさらに拡大した拡大断面図である。
図7は、第1固定ねじ50が緩められた状態を二点鎖線で示す。
【0047】
ねじガイド溝23bは、後述する第1固定ねじ50の先端部51を前後方向に案内すると共に、シリンダ20の周方向における先端部51の移動(回転)を制限する。ねじガイド溝23bは、本発明における溝である。ねじガイド溝23bは、図3に示されるように、外周面23aの右側面に配置される。右側面は、外周面23aのうち、針C1(図1参照)がレコード盤R(図1参照)の音溝をなぞるとき、レコード盤Rの中心側に向けられる面である。ねじガイド溝23bは、シリンダ20の軸方向(前後方向)に沿うように、本体保持部23の前端から後端まで延びる。ねじガイド溝23bは、底面23b1と、底面23b1の上端に配置される上側面23b2と、底面23b1の下端に配置される下側面23b3と、から構成される。
【0048】
図1図6に戻る。
ターミナルピン24-27は、カートリッジCからの電気信号をトーンアームP1の信号線(不図示)に伝送する。信号線は、トーンアームP1の内部に配線される。ターミナルピン24-27は、例えば、銅のような導電性に優れる金属製である。ターミナルピン24-27は、コネクタ部21と絶縁材40とを前後方向に貫通して、コネクタ部21に固定される。ターミナルピン24-27は、コネクタ部21がコネクタP11に取り付けられたとき、コネクタP11の端子(不図示)に接続される。カートリッジCからの電気信号は、ターミナルピン24-27と同端子とを介して、トーンアームP1の信号線に伝送される。
【0049】
シリンダ20は、挿通孔12h1に後方から挿通されて、後面12a(第2保持部12)を貫通する。このとき、本体保持部23の前後方向の略中央部は、挿通孔12h1内に配置される。その結果、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に保持される。本体保持部23の前上部は、シリンダガイド溝111内に配置される。ねじガイド溝23bの底面23b1(図8参照)は、第1ねじ孔12h2に対向する。本体保持部23の後部は、第2保持部12から後方に突出する。コネクタ部21は、第2保持部12の後方に配置される。突起部22は、第2保持部12の後方に、第2保持部12から離間して配置される。
【0050】
以下の説明において、「軸方向」は、特に記載がなければ、シリンダ20の軸方向(前後方向)を示す。「軸方向視」は、特に記載がなければ、シリンダ20の軸方向視(正面視または背面視)を示す。「周方向」は、特に記載がなければ、シリンダ20の周方向を示す。「径方向」は、特に記載がなければ、シリンダ20の径方向を示す。
【0051】
突起部22は、軸方向視において、調整溝121の下方に配置される。調整溝121が上下方向に沿って配置されるとき、突起部22と調整溝121とは、軸方向視において、シリンダ20の径方向に並んで配置される。このとき、調整溝121の中心線121xは、軸方向視において、突起部22の中心軸線22xと重畳する。中心線121xは、軸方向視において、調整溝121の左右方向の中心を通る直線である。中心線121xと中心軸線22xとは、中心軸線20xに直交する。すなわち、調整溝121は、軸方向視において、後面12aに径方向に沿って配置される。そのため、使用者は、シリンダ20に対してヘッドシェル本体10を回転させるとき、突起部22に対する調整溝121の位置を目視で確認することにより、シリンダ20に対するヘッドシェル本体10の周方向の位置を調整可能である。このように、調整溝121と突起部22とは、ヘッドシェル本体10のシリンダ20に対する周方向の位置の調整を補助する調整補助機構として機能する。
【0052】
緩衝材30は、コネクタ部21がコネクタP11(図1参照)に取り付けられるとき、コネクタP11とシリンダ20(本体保持部23の後面)それぞれを保護する。緩衝材30は、例えば、ゴムのような合成樹脂製であり、リング状かつ板状である。緩衝材30は、コネクタ部21の前端の外周面21aに取り付けられ、本体保持部23の後面に当接する。
【0053】
絶縁材40は、ターミナルピン24-27それぞれの間を絶縁する。絶縁材40は、例えば、合成樹脂製であり、円板状である。絶縁材40は、コネクタ部21の後面に取り付けられる。
【0054】
図6図8に戻る。
第1固定ねじ50は、ヘッドシェル本体10をシリンダ20に固定すると共に、周方向におけるヘッドシェル本体10の移動(回転)を制限する。第1固定ねじ50は、平先型の止めねじで、平面状の先端面50aを備える。第1固定ねじ50は、例えば、ステンレス鋼製である。
【0055】
第1固定ねじ50の先端の外周面は、面取りされた面取面50bである。第1固定ねじ50は、第2保持部12の第1ねじ孔12h2にねじ込まれる。第1固定ねじ50の先端は、第1ねじ孔12h2から挿通孔12h1内に突出して、ねじガイド溝23b内に配置される。第1固定ねじ50の中心軸線50xは、中心軸線20xに直交する。
【0056】
第1固定ねじ50のうち、ねじガイド溝23b内に配置される部分(以下「先端部51」という。)は、本発明における先端部である。すなわち、第1固定ねじ50は、先端部51を備える。本実施の形態において、先端部51は、先端面50aと面取面50bとを備える。
【0057】
周方向において、先端部51とねじガイド溝23bとの間には、隙間G1,G2が形成される。隙間G1は、先端部51と上側面23b2との間に形成される。隙間G2は、先端部51と下側面23b3との間に形成される。
【0058】
第1固定ねじ50が締め付けられると、第1固定ねじ50の先端面50aは、ねじガイド溝23bの底面23b1に当接する。すなわち、第1固定ねじ50は、ねじガイド溝23bの底面23b1に当接可能である。このとき、ヘッドシェル本体10は、第1固定ねじ50により、シリンダ20に固定される。先端面50aが底面23b1に当接するとき、隙間G1,G2の周方向の長さは、最も短い。一方、第1固定ねじ50が緩められると、先端面50aは、底面23b1から離れる。その結果、第1固定ねじ50によるヘッドシェル本体10のシリンダ20への固定は、解除される。このように、第1固定ねじ50は、ヘッドシェル本体10をシリンダ20に固定可能である。換言すれば、第1固定ねじ50は、シリンダ20をヘッドシェル本体10に固定可能である。
【0059】
第2固定ねじ60は、スリット12gの間隔を変化させる。第2固定ねじ60は、例えば、頭部を有するボルトであり、例えばステンレス鋼製である。第2固定ねじ60は、第2保持部12のねじ挿通孔12h4に挿通されて、第3ねじ孔12h3にねじ込まれる。
【0060】
第2固定ねじ60が締め付けられると、スリット12gの間隔は、狭くなる。したがって、挿通孔12h1は、挿通孔12h1の内側に向かって僅かに変形する(挿通孔12h1の径が小さくなる)。このとき、挿通孔12h1がシリンダ20を締め付ける力(以下「締付力」という。)は、増加する。その結果、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に固定される。一方、第2固定ねじ60が緩められると、スリット12gの間隔は、広くなり、元の間隔に戻る。その結果、挿通孔12h1は、変形前の状態に戻る。このとき、締付力は、低下する。その結果、ヘッドシェル本体10のシリンダ20への固定は、解除される。
【0061】
図1図3に戻る。
フィンガ70は、使用者が針C1をレコード盤Rから持ち上げて移動させるために、使用者の指を掛ける部品である。フィンガ70は、フィンガ取付ねじ80により、ヘッドシェル本体10の左側面に取り付けられる。
【0062】
●ヘッドシェル本体とシリンダとの関係
次に、図5図8を参照しながら、ヘッドシェル本体10とシリンダ20との関係について説明する。
【0063】
前述のとおり、第1固定ねじ50と第2固定ねじ60それぞれが緩められると、ヘッドシェル本体10のシリンダ20への固定は、解除される。
【0064】
シリンダ20は、挿通孔12h1とシリンダガイド溝111とに沿って、ヘッドシェル本体10に対して周方向に回転可能である。このとき、シリンダ20は、中心軸線20xを中心に、挿通孔12h1とシリンダガイド溝111とに沿って回転する。
【0065】
一方、ヘッドシェル本体10は、外周面23aに沿って、シリンダ20に対して周方向に回転可能である。このとき、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20を回転軸として、外周面23aに沿って回転する。ヘッドシェル本体10の回転の範囲は、先端部51がねじガイド溝23bに当接することにより、制限される。具体的には、ヘッドシェル本体10は、先端部51が上側面23b2に当接するまで、後方視において、反時計回りに回転可能である。すなわち、ヘッドシェル本体10は、隙間G1の周方向の長さに応じた角度θ1の角度範囲でのみ、回転可能である。反対に、ヘッドシェル本体10は、先端部51が下側面23b3に当接するまで、後方視において、時計回りに回転可能である。すなわち、ヘッドシェル本体10は、隙間G2の周方向の長さに応じた角度θ2の角度範囲でのみ、回転可能である。本実施の形態において、ヘッドシェル本体10は、時計回りと反時計回りそれぞれに約2°の角度範囲でのみ回転可能である。
【0066】
また、シリンダ20は、挿通孔12h1とシリンダガイド溝111とに沿って、ヘッドシェル本体10に対して軸方向(前後方向)に移動(摺動)可能である。
【0067】
一方、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20の本体保持部23に沿って、シリンダ20に対して軸方向に移動(摺動)可能である。このとき、先端部51は、ねじガイド溝23bに案内されて、軸方向に移動する。前述のとおり、先端部51は、ヘッドシェル本体10が周方向に回転すると、ねじガイド溝23bに当接する。そのため、先端部51は、ねじガイド溝23b内を略軸方向にのみ移動可能である。したがって、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に対して、略軸方向にのみ移動可能である。
【0068】
ヘッドシェル本体10は、第1固定ねじ50と第2固定ねじ60のいずれかが締め付けられると、シリンダ20に固定される。
【0069】
●オーバーハングの調整方法
次に、図1から図4も参照しながら、ヘッドシェル1にカートリッジCを取り付ける際のオーバーハングの調整方法について、説明する。オーバーハングの調整方法は、カートリッジCの針C1の先端(針先)の位置の調整と、ヘッドシェル本体10の水平度の調整と、を含む。オーバーハングは、レコードプレーヤPの使用者により調整される。
【0070】
図9は、カートリッジCが取り付けられたヘッドシェル1の底面図である。
【0071】
先ず、使用者は、取付ねじC2,C3を用いて、カートリッジCをヘッドシェル1の第1保持部11の下面11aに取り付ける。このとき、カートリッジCは、底面視において、カートリッジCの側面が第1保持部11の側面と平行になるように、ヘッドシェル1に対して位置決めされる。
【0072】
次いで、使用者は、ヘッドシェル1をトーンアームP1のコネクタP11に取り付ける。このとき、コネクタ部21は、突起部22とコネクタP11のロック溝とにより、コネクタP11に固定される。後面12aは、トーンアームP1側を向く。
【0073】
次いで、使用者は、第1固定ねじ50と第2固定ねじ60とを緩める。その結果、ヘッドシェル本体10のシリンダ20への固定は、解除される。したがって、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に対して軸方向に移動可能となる。また、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20を回転軸に周方向に隙間G1,G2(図8参照)に対応する角度範囲で回転可能となる。すなわち、調整溝121は、突起部22に対して移動可能(回転可能)となる。
【0074】
次いで、使用者は、ヘッドシェル本体10を前後方向に移動させて、カートリッジCの針C1の針先の位置を適正な位置Paに合わせる。その結果、針先の位置は、適正な位置Paに調整される。
【0075】
図9に示される例では、使用者がヘッドシェル本体10を前方に移動させることにより、針先の位置が適正な位置Paに調整される。このとき、ヘッドシェル本体10は、先端部51がねじガイド溝23bに案内されることにより、軸方向に自由に移動可能である。一方、ヘッドシェル本体10は、先端部51がねじガイド溝23b(上側面23b2,下側面23b3:図8参照)に当接するまでは周方向に回転可能である。そのため、使用者がヘッドシェル本体10を移動させたとき、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に対して大きく回転しない。その結果、ヘッドシェル本体10の水平度は、大きく変化しない。
【0076】
次いで、使用者は、第1固定ねじ50と第2固定ねじ60とを締め付ける。その結果、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に固定される。
【0077】
次いで、使用者は、ヘッドシェル1をトーンアームP1のコネクタP11から取り外す。
【0078】
次いで、使用者は、第1固定ねじ50を緩めると共に、第2固定ねじ60を僅かに緩める。このとき、挿通孔12h1は、所定の締付力でシリンダ20(本体保持部23)を保持する。使用者がヘッドシェル本体10に締付力を超える力を加えると、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に対して移動可能となる。換言すれば、ヘッドシェル本体10は、使用者がヘッドシェル本体10に締結力を超える力を加えない限り、シリンダ20に対して移動しない。
【0079】
図10は、ヘッドシェル1を部分的に拡大した拡大背面図である。
同図は、ヘッドシェル本体10とシリンダ20と緩衝材30と絶縁材40と第1固定ねじ50それぞれを部分的に切り欠いた状態を示す。また、同図は、ヘッドシェル本体10とシリンダ20と第1固定ねじ50それぞれを、図5のBB線において切断した状態を示す。さらに、同図は、シリンダ20に対してヘッドシェル本体10が最大限回転したときの突起部22とねじガイド溝23bそれぞれを二点鎖線で示す。
【0080】
次いで、使用者は、ヘッドシェル本体10の水平度を調整する。ヘッドシェル本体10の水平度は、調整溝121と突起部22とを用いて、調整される。
【0081】
次いで、使用者は、調整溝121に対する突起部22の位置を目安に、ヘッドシェル本体10を回転させる。具体的には、使用者は、調整溝121と突起部22とが径方向で並んで配置されるように(調整溝121の中心線121xが突起部22の中心軸線22xに重畳するように)、調整溝121と突起部22とを見ながらヘッドシェル本体10を回転させる。その結果、ヘッドシェル本体10の水平度は、凡そ調整される。
【0082】
次いで、使用者は、第1固定ねじ50と第2固定ねじ60とを締め付ける。
【0083】
次いで、使用者は、ヘッドシェル1をトーンアームP1のコネクタP11に取り付ける。その結果、使用者によるオーバーハングの調整は、完了する。
【0084】
このように、使用者は、オーバーハングの調整時に水平度を大きく変動させることなく、針先の位置を調整可能である。また、使用者は、目視により、ヘッドシェル本体10の水平度を凡そ調整可能である。
【0085】
●まとめ●
以上説明した実施の形態によれば、ヘッドシェル1は、コネクタP11に着脱可能なシリンダ20と、シリンダ20に保持されるヘッドシェル本体10と、ヘッドシェル本体10をシリンダ20に固定可能な第1固定ねじ50と、を有してなる。シリンダ20の本体保持部23は、外周面23aに軸方向に沿って配置されるねじガイド溝23bを備える。第1固定ねじ50の一部(先端部51)は、ねじガイド溝23bの内側に配置される。周方向において、第1固定ねじ50とねじガイド溝23bとの間には、隙間G1,G2が形成される。
【0086】
この構成によれば、第1固定ねじ50の周方向の移動は、ねじガイド溝23b内に制限される。そのため、ヘッドシェル本体10は、隙間G1,G2に対応する角度範囲のみシリンダ20に対して周方向に回転可能である。一方、ヘッドシェル本体10は、第1固定ねじ50がねじガイド溝23bに案内されることにより、シリンダ20に対して軸方向(前後方向)に摺動可能である。すなわち、ヘッドシェル本体10は、シリンダ20に対して大きな角度範囲で周方向に回転することなく、略軸方向にのみ移動可能である。その結果、使用者は、オーバーハングの調整時に水平度を大きく変動させることなく、針先の位置を調整可能である。このように、ヘッドシェル1は、従来のヘッドシェルと比較して、オーバーハングの容易かつ正確な調整を可能とする。
【0087】
また、ヘッドシェル1には、従来のヘッドシェルに対して、シリンダ20(本体保持部23)の外周面23aにねじガイド溝23bが追加(形成)されている。その結果、ヘッドシェル1は、ヘッドシェル本体10の周方向の回転を制限しつつ、軸方向の移動を容易にする。すなわち、ヘッドシェル1は、従来のヘッドシェルに対して、第1固定ねじ50に合わせたねじガイド溝23bを形成するだけで、オーバーハングの容易な調整を可能とする。すなわち、ヘッドシェル1は、不要な振動の要因となり得る部品の追加を必要としない。その結果、従来のヘッドシェルと比較して、ヘッドシェル1の生産性は、ほとんど低下しない。
【0088】
また、以上説明した実施の形態によれば、第1固定ねじ50の先端面50aは、第1固定ねじ50が締め付けられるとき、ねじガイド溝23bの底面23b1に当接可能である。先端面50aが底面23b1に当接するとき、隙間G1,G2は、依然として形成されている。そのため、ヘッドシェル本体10は、第1固定ねじ50が締め付けられるとき、第1固定ねじ50から周方向への力を受けることなく、第1固定ねじ50によりシリンダ20に固定される。
【0089】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、第1固定ねじ50の先端部51は、ねじガイド溝23bの内側に配置される。先端部51は、面取面50bを備える。一般的に、ねじの先端の寸法(径)は規格化されておらず、不完全ねじ部の存在などにより、先端の寸法の公差は大きい。そのため、面取面を有さないねじでは、隙間の寸法がばらつく。しかし、先端部51に面取面50bが形成されると、先端部51の先端面50a側には、不完全ねじ部の無い円錐面が形成される。そのため、面取面を有さないねじと比較して、面取面50bを有する第1固定ねじ50では、隙間G1,G2の寸法ばらつきは低減される。
【0090】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、ヘッドシェル1は、ヘッドシェル本体10のシリンダ20に対する周方向の位置の調節を補助する調節補助機構を備える。そのため、使用者は、目視で調節補助機構を確認することにより、シリンダ20に対するヘッドシェル本体10の周方向の位置(ヘッドシェル本体10の水平度)を容易に調整可能である。すなわち、ヘッドシェル1は、従来のヘッドシェルと比較して、オーバーハングの容易な調整を可能とする。
【0091】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、調節補助機構は、第1標識(突起部22)と第2標識(調整溝121)とを備える。シリンダ20は第1標識を備え、ヘッドシェル本体10は第2標識を備える。第2標識は、第1標識に対して移動可能である。そのため、使用者は、目視で第1標識に対する第2標識の位置を確認することにより、ヘッドシェル1の水平度を容易に調整可能である。
【0092】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第1標識と第2標識とは、シリンダ20の径方向に並んで配置可能である。そのため、使用者は、目視で第1標識と第2標識とが径方向に並ぶようにヘッドシェル本体10を回転させることにより、ヘッドシェル本体10の水平度を容易に調整可能である。
【0093】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、コネクタP11とコネクタ部21との接続に用いられる突起部22は、第1標識として機能する。そのため、ヘッドシェル1は、従来のヘッドシェルに対して不要な振動の要因になり得る部品を追加することなく、目視でヘッドシェル本体10の水平度を調整可能とする。
【0094】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第2標識は、第2保持部12の後面12aに配置され、シリンダ20の径方向に沿う。そのため、使用者は、ヘッドシェル1を後方から見て、目視でヘッドシェル本体10の水平度を容易に調整可能である。
【0095】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第2標識は、径方向に沿う長溝である。そのため、使用者は、第2標識の中心線121xを突起部22の中心軸線22xに合わせるように、ヘッドシェル本体10を回転させることで、目視でヘッドシェル本体10の水平度を容易に調整可能である。
【0096】
このように、ヘッドシェル1は、ねじガイド溝23bの内側に配置される先端部51によりヘッドシェル本体10の回転を制限し、突起部22に対する調整溝121の位置を目視で確認することにより、オーバーハングの容易な調整を可能とする。
【0097】
また、前述のとおり、調整溝121は上下方向に沿う溝であり、ねじガイド溝23bは前後方向に沿う溝である。調整溝121とねじガイド溝23bとは、使用者に視認されるヘッドシェル1の外面(後面12a,外周面23a)に配置される。すなわち、調整溝121とねじガイド溝23bとは、上下方向と前後方向とに互い違いの2つの溝として、ヘッドシェル1の外観上に現れる。その結果、ヘッドシェル1は、ヘッドシェル1の需要者に対して、従来のヘッドシェルとは異なる美感を起こさせる。
【0098】
なお、ねじガイド溝は、軸方向に沿って配置されればよく、本体保持部の前端と後端とに配置されなくてもよい。すなわち、例えば、ねじガイド溝は、本体保持部の軸方向の長さの半分程度の長さに構成されてもよい。この場合、第1固定ねじと第2固定ねじそれぞれが緩められている状態において、ヘッドシェル本体のシリンダからの脱落は、防止可能である。
【0099】
また、軸方向視において、ねじガイド溝の周方向の長さは、第1固定ねじの外径以下でもよい。
【0100】
さらに、軸方向視において、ねじガイド溝の周方向の長さは、第1固定ねじの外径よりも大きくてもよい。この場合、例えば、第1固定ねじの先端部が完全ねじ部を含んでいても、ヘッドシェル本体は、シリンダに対して大きな角度範囲で回転することなく、略軸方向にのみ移動可能である。
【0101】
さらにまた、第1固定ねじが締め付けられるとき、第1固定ねじの先端面は、ねじガイド溝の底面に当接しなくてもよい。換言すれば、ヘッドシェル本体が第1固定ねじによりシリンダに固定されるとき、周方向において、第1固定ねじは、ねじガイド溝に当接してもよい。この場合、例えば、隙間は、第1固定ねじが緩められるときに形成される。ヘッドシェル本体の水平度の調整後、第1固定ねじは、ヘッドシェル本体がシリンダに対して周方向に移動しない程度に、締め付けられる。
【0102】
さらにまた、第1固定ねじの先端は、平先型に限定されない。すなわち、例えば、第1固定ねじは、とがり先(剣先)型や、丸先型、くぼみ先型、棒先型など種々の先端形状を有する止めねじでもよい。
【0103】
さらにまた、第1固定ねじと第2固定ねじそれぞれの材質は、本実施の形態に限定されない。
【0104】
さらにまた、第1固定ねじは、止めねじに限定されない。すなわち、例えば、第1固定ねじは、頭部を有するボルトでもよい。
【0105】
さらにまた、第1ねじ孔の配置は、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、第1ねじ孔は、第2保持部の左側面や上面に配置されてもよい。この場合、ねじガイド溝は、シリンダが挿通孔に挿通されるとき、シリンダの外周面のうち、第1ねじ孔に対向する位置に配置される。
【0106】
さらにまた、第1標識は、突起部に限定されない。すなわち、例えば、ターミナルピンが第1標識として機能してもよい。この場合、例えば、使用者は、4つのターミナルピンと調整溝との位置関係を目安にヘッドシェル本体の水平度を調整する。
【0107】
さらにまた、第1標識として機能する溝、または、円形、多角形、星形、矢印などの図形や記号が、絶縁材の後面に配置されてもよい。この場合、シリンダが絶縁材を備えてもよい。
【0108】
さらにまた、ヘッドシェルが緩衝材を備えない場合(あるいは、緩衝材が取り外される場合)、本体保持部の後面に第1標識として機能する溝、図形、記号が配置されてもよい。
【0109】
さらにまた、シリンダの外周面に、第1標識として機能する溝や凹部が配置されてもよい。すなわち、例えば、調整溝と同じ幅の長溝が、シリンダの外周面に軸方向に沿って配置されてもよい。この場合、使用者は、例えば、ヘッドシェルを上方から見て、ヘッドシェル本体の水平度を調整する。
【0110】
さらにまた、第2標識は、第1標識に対する周方向の調整用の目印であればよく、径方向に沿う形状に限定されない。すなわち、例えば、第2標識は、図形や記号でもよい。
【0111】
さらにまた、第2標識として機能する凸部が、第2保持部の後面に配置されてもよい。
【0112】
さらにまた、第2標識は、第2保持部の後面の凹部または凸部により形成されなくてもよい。すなわち、例えば、第2標識は、後面に塗布される塗料や、後面に貼り付けられるシールでもよい。また、第2保持部のスリットが第2標識として機能してもよい。
【0113】
さらにまた、第2標識の数は、1つに限定されない。すなわち、例えば、第2標識は、周方向に並ぶ複数の目盛りでもよい。
【0114】
さらにまた、第2標識は、第2保持部の上面に配置されてもよい。この場合、使用者は、例えば、ヘッドシェルを上方から見て、ヘッドシェル本体の水平度を調整する。
【0115】
さらにまた、第2標識は、第2保持部の右側面に配置されてもよい。この場合、ねじガイド溝は、第1標識として機能する。
【0116】
さらにまた、第1標識と第2標識とは、軸方向視において、径方向に並んで配置可能であればよい。すなわち、例えば、第1標識と第2標識とは、左右方向に並んで配置可能でも良い。
【0117】
さらにまた、第1標識と第2標識とは、上面視において、前後方向に沿う直線状の凹部または凸部により構成されてもよい。すなわち、例えば、第1標識は第2保持部の上面の左右方向中央に配置され、第2標識は保持部の上端面に配置されてもよい。
【0118】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、特許請求の範囲に記載される発明の内容を不当に限定するものではない。また、以上説明した実施の形態で説明される構成の全てが、本開示の必須構成要件であるとは限らない。
【符号の説明】
【0119】
1 ヘッドシェル
10 ヘッドシェル本体
12a 後面(背面)
12h1 挿通孔
121 調整溝(第2標識、調整補助機構)
20 シリンダ
21 コネクタ部
22 突起部(第1標識、調整補助機構)
23 本体保持部
23a 外周面(シリンダ外周面)
23b ねじガイド溝(溝)
23b1 底面
50 第1固定ねじ(固定ねじ)
50a 先端面
51 先端部
G1,G2 隙間
C ピックアップカートリッジ
P レコードプレーヤ
P1 トーンアーム
P11 コネクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10