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特許7323915超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/28 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G01N29/28
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019094182
(22)【出願日】2019-05-18
(65)【公開番号】P2020183929
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2019087009
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507066552
【氏名又は名称】八十島プロシード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】八十島 眞
(72)【発明者】
【氏名】濱地 晃平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅彦
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-304109(JP,A)
【文献】特開平02-131753(JP,A)
【文献】特開2018-175598(JP,A)
【文献】特開平03-178647(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0135840(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
A61B 8/00 - A61B 8/15
G01B 17/00 - G01B 17/08
H04R 1/00
H04R 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探傷装置の探触子と探傷対象物の間に介在させる疎水性のゲル状弾性体カプラであって、
主剤である疎水性ポリウレタン用ポリオール成分と、硬化剤である有機ポリイソシアネート成分を有する疎水性ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いた疎水性ゲル状弾性体であるポリウレタン樹脂用組成物により得られ、
前記疎水性ポリウレタン用ポリオール成分が、官能基数2で数平均分子量600~4,000のポリオールまたは官能基数3で数平均分子量1,000~6,000のポリオールのいずれかまたは両方を包含する成分であり、
前記疎水性ポリウレタン用ポリオール成分の官能基数と前記疎水性ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの官能基数の組み合わせが2と3、3と2、または、3と3であり、2同士とならない組み合わせとし、
前記疎水性ポリウレタンポリオール成分に含まれるアルキレンオキシド鎖のうち疎水性アルキレンオキシド鎖と親水性アルキレンオキシド鎖の比 疎水性アルキレンオキシド鎖:親水性アルキレンオキシド鎖を100:0~70:30の間に調整し、
前記有機ポリイソシアネート成分に含まれるアルキレンオキシド鎖が疎水性アルキレンオキシド鎖を有効成分とし、
非フォームの疎水性ポリウレタンゲル弾性体からなる、超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項2】
ゲル生成時に添加する可塑剤として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート、またはグリコールエーテル類を添加したものとしたことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項3】
前記可塑剤の添加量が、30~80wt%であることを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項4】
前記可塑剤の添加量が、50~80wt%であることを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項5】
前記主剤であるポリウレタン用ポリオール成分と前記硬化剤である疎水性ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合比が、末端のOH官能基とNCO官能基の比率(OH/NCO比)において0.6から1.6の間となるよう調整されたことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項6】
前記疎水性ポリウレタン用ポリオール中の前記疎水性アルキレンオキシド鎖が、プロピレンオキシド鎖またはブチレンオキシド鎖のいずれかまたはそれらの混合であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項7】
前記疎水性ポリウレタン用ポリオールが、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項8】
前記有機ポリイソシアネート中の前記疎水性アルキレンオキシド鎖が、プロピレンオキシド鎖またはブチレンオキシド鎖のいずれかまたはそれらの混合であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項9】
前記有機ポリイソシアネートがジイソシアネートである請求項8に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項10】
前記ジイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルイレンジイソシアネート、ナフタリン1,5-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートのいずれかまたはその誘導体であり、その中に含まれるアルキレンオキシド鎖がプロピレンオキシド鎖またはブチレンオキシド鎖のいずれかまたはそれらの混合である疎水性アルキレンオキシド鎖であることを特徴とする請求項9に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項11】
前記疎水性ポリウレタンゲル弾性体の硬度が、アスカーゴム硬度計F型による硬度が、35~80度の範囲に調整されたものであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項12】
前記探傷対象物が、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板、人体のいずれかまたはそれらの組み合わせである請求項1から10のいずれかに記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷装置の探触子と探傷対象物の間に介在させる音響カプラに関する。例えば、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板などを探傷対象物とし、超音波探傷装置の探触子との間に介在させて減衰を低減させるものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板などの被検体の表面に傷があるか、内部にクラックがあるかなどの探傷検査方法として、超音波撮像手段を用いた超音波探傷装置が知られている。被検体の内部に超音波を導入し、被検体内で反射した超音波を受信して超音波波形を確認したり、被検体内部の様子を画像として可視化したりして、被検体内の傷やクラックの存在を検査する。このようにして、超音波撮像手段を用いた超音波探傷装置によれば被検体の内部を可視化して検査することができる。
【0003】
ここで、超音波を発生する超音波探傷装置の探触子と探傷対象物との間に空気が介在すると空気面において超音波が反射してしまってノイズとして検出されてしまい、探傷対象物の表面を正しく撮像できないという問題が生じる。
そこで、従来技術では、超音波探傷装置の探触子と探傷対象物との間に水や油を塗布して空気の介在を除去する工夫がなされていた。
しかし、水や油を表面に張った状態で超音波探傷装置の探触子を探傷対象物にうまく固定することが難しく、冶具の準備など測定に時間が掛かってしまう。
そこで、ゲル状弾性体カプラ(音響カプラ、音響レンズ)を超音波探傷装置の探触子と探傷対象物との間に介在させる方法が注目されている。弾性体カプラは空気によるノイズ除去のみならず、ゲル状弾性体カプラの音響インピーダンスを探傷対象物の音響インピーダンスに近くすることにより超音波の減衰を効果的に抑制する効果も得られる。それらのメリットからゲル状弾性体カプラが重要視されている。
【0004】
従来技術において知られているゲル状弾性体カプラとしては、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムの混合物からなるものが知られている(例えば特許文献1:特開平8-000615号公報)。これは疎水性ゲルを用いたゲル状弾性体カプラである。その他、ゲル状弾性体カプラには柔軟性のなる親水性ゲル状弾性体カプラもある。
【0005】
【文献】特開平8-000615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の親水性弾性カプラでは、問題があった。
従来の親水性ゲル状弾性カプラは、親水性であり超音波透過性は良く、また柔軟性があるので扱いやすいが、ゲル状弾性体カプラと探傷対象物との間に水を介在させる必要はあることが多いが、親水性のゲル状弾性カプラの場合は膨潤してしまい、肝心の超音波特性が変化したり使用による裂けや磨耗などが生じてしまったりする不具合が発生していた。
【0007】
特許文献1に開示された疎水性のゲル状物質で構成したゲル状弾性カプラについては、超音波透過性は良いが、一般には疎水性のゲル状物質は硬いため、凹凸のある探傷対象物の表面に沿った変形がしにくく凹凸のある探傷対象物の探傷の検出には不向きなものとなる。
【0008】
そこで、本発明は、疎水性のゲル状物質で構成したゲル状弾性カプラとして検査時にゲル状弾性体カプラと探傷対象物との間に水を介在させる状態であっても膨潤することなく優れた超音波特性を安定した状態で維持でき、かつ、十分な柔軟性を持ち凹凸のある探傷対象物の表面に沿って容易に変形することができる超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラは、超音波探傷装置の探触子と探傷対象物の間に介在させる疎水性のゲル状弾性体カプラであって、ポリウレタン用ポリオール成分と、有機ポリイソシアネート成分を有するポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いた疎水性ゲル状弾性体であるポリウレタン樹脂用組成物により得られ、前記ポリオール成分が、官能基数2であって数平均分子量600~4,000のポリオール、官能基数3であって数平均分子量1,000~6,000のポリオールのいずれかまたは両方を包含する成分であり、前記ポリウレタン用ポリオール成分の官能基数と前記ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの官能基数の組み合わせが2と3、3と2、または、3と3であり、2同士とならない組み合わせとし、非フォームの疎水性ポリウレタンゲル弾性体からなる超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラとする。
なお、ポリオール成分およびポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーに含まれるアルキレンオキシド鎖は、疎水性アルキレンオキシド鎖を主とし、親水性アルキレンオキシド鎖であるエチレンアルキレンオキシド鎖(EO)がごく微量となるように抑えることが好ましい。例えば、疎水性アルキレンオキシド鎖と親水性アルキレンオキシド鎖の比 疎水性アルキレンオキシド鎖:親水性アルキレンオキシド鎖 100:0~70:30とする。
また、上記構成において、ポリオール成分とポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合比が、末端のOH官能基とNCO官能基の比率(OH/NCO比)において0.6から1.6の間となるよう調整することが好ましい。
【0010】
また、上記構成において、ポリウレタン用ポリオール中の疎水性アルキレンオキシド鎖が、プロピレンオキシド鎖またはブチレンオキシド鎖のいずれかまたはそれらの混合であることが好ましい。
また、ゲル生成時に添加する可塑剤として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート、またはグリコールエーテル類(例えば、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル)を添加したものであることが好ましい。
上記の前記可塑剤の添加量としては、0~80wt%で調整すればよい。より好ましくは50~80wt%で調整すれば良い。
【0011】
例えば、ポリウレタン用ポリオールが、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールのいずれかとすることが好ましい。ここで、本発明では、その中に含まれるアルキレンオキシド鎖がプロピレンオキシド鎖またはブチレンオキシド鎖のいずれかまたはそれらの混合である疎水性アルキレンオキシド鎖であることを特徴とする。
例えば、ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを生成する材料の組み合わせとしては、ポリウレタン用ポリオールがポリエーテルポリオールであり、ポリイソシアネートがジイソシアネートとする組み合わせがある。
【0012】
次に、有機ポリイソシアネートがジイソシアネートとすることができる。ジイソシアネート中にあるアルキレンオキシド鎖がプロピレンオキシド鎖またはブチレンオキシド鎖のいずれかまたはそれらの混合である疎水性アルキレンオキシド鎖であることが好ましい。
このジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルイレンジイソシアネート、ナフタリン1,5-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートのいずれかまたはその誘導体とすることが好ましい。
なお、提供する本発明の疎水性ポリウレタンゲル弾性体の硬度であるが、アスカーゴム硬度計F型による硬度が、35~80度の範囲になるように調整されたものが好ましい。
【0013】
上記構成により、本発明の疎水性ゲル弾性体カプラは、疎水性であるため、探傷対象物の表面に水を介在させた状態での測定にも膨潤することなく使用することができ、超音波透過性も良好であり、かつ十分に柔軟性を持ち探傷対象物の表面の凹凸に追随して変形するので、超音波探傷装置用のゲル状弾性体カプラとして優れたものとして提供できる。
【0014】
本発明の疎水性ゲル弾性体カプラが適用できる探傷対象物としては、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板、人体のいずれかまたはそれらの組み合わせなどに適用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の疎水性ゲル弾性体カプラの効果は、組成が疎水性であるため、探傷対象物の表面に水を介在させた状態での測定にも膨潤することなく使用することができる。ゲル状弾性体として超音波透過性も良好であり、かつ十分に柔軟性を持ち探傷対象物の表面の凹凸に追随して変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】主剤となるポリウレタン用ポリオールの構造式を示した図である。
図2】硬化剤となるポリイソシアネートの構造式を示した図である。
図3】検証に用いたサンプルの組成を示した図である。
図4】各サンプルの24時間水浸漬実験の結果を示した図である。
図5】サンプル1の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。
図6】サンプル2-1の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。
図7】サンプル2-2の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。
図8】サンプル3の24時間水浸漬後の状態を示す写真図である。
図9】各サンプルの硬度測定の結果を示す図である。
図10】各サンプルの超音波音速測定及び減衰測定の結果を示す図である。
図11】疎水性ゲル状弾性体カプラにおけるOH/NCO比および可塑剤含有量の違いによる減衰の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラについて例を挙げつつ説明する。
本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラは、ポリウレタン用ポリオール成分と有機ポリイソシアネート成分とを有するポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いた疎水性ゲル状弾性体であるポリウレタン樹脂用組成物により得られるものである。
【0018】
ポリウレタン用ポリオールを主剤、ポリイソシアネートあるいはポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを硬化剤として疎水性ゲル状弾性体が生成される。
なお、可塑剤はゲル弾性体の低減衰化と柔軟性の付与のため、触媒はウレタン反応の促進のため添加する。
【0019】
ここで、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラで用いるポリオール成分、ポリイソシアネート成分には下記に示すような条件がある。
まず、ポリオール成分について説明する。
図1は、主剤となるポリウレタン用ポリオールの構造式である。
ポリオール成分にはアルキレンオキシド(AO)鎖が含まれるが、本願発明に用いるポリオール成分は、アルキレンオキシド(AO)鎖が“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”を主とし、親水性アルキレンオキシド鎖であるエチレンアルキレンオキシド鎖(EO)がごく微量となるように抑える点に特徴がある。
例えば、疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)と親水性アルキレンオキシド鎖であるエチレンアルキレンオキシド鎖(EO)との比率 疎水性アルキレンオキシド鎖:親水性アルキレンオキシド鎖を100:0~70:30とする。
【0020】
本発明では、“疎水性アルキレンオキシド鎖”と記載されているものは、プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合が主であり、エチレンオキシド(EO)がごく微量に抑えられているアルキレンオキシド鎖と定義する。例えば、EO/PO=0/100~30/70の比率とする。
ポリオール成分にアルキレンオキシド鎖が含まれるが、本願発明に用いるポリオール成分は、アルキレンオキシド鎖が“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”であり、親水性アルキレンオキシド鎖を有しないものとなっている点に特徴がある。
もしポリオール成分中に含まれるアルキレンオキシド鎖がエチレンオキシド(EO)であれば、生成されるウレタン樹脂が親水性となるが、本発明のゲル状弾性体カプラは疎水性であることを特徴とするので、ポリオール成分中のアルキレンオキシド鎖としてエチレンオキシド(EO)を含まず、プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合とすることで疎水性を持たせる。
ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールのいずれかなどで良い。それらは単独で使用することもできるし、反応や最終製品に支障のない限りその他の公知のポリオールを混合して使用しても良い。
【0021】
次に、有機ポリイソシアネート成分について説明する。
図2(a)は、硬化剤となるポリイソシアネートの構造式である。
有機ポリイソシアネート成分中にもアルキレンオキシド鎖が含まれるが、本願発明に用いる有機ポリイソシアネート成分中のアルキレンオキシド鎖としてはプロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合を主とし、エチレンオキシド(EO)をごく微量に抑えることで疎水性を持たせる。
もし、有機ポリイソシアネート成分中に含まれるアルキレンオキシド鎖としてエチレンオキシド(EO)が主であれば、生成されるウレタン樹脂が親水性となるが、本発明のゲル状弾性体カプラは疎水性であることを特徴とするので、有機ポリイソシアネート成分中のアルキレンオキシド鎖をプロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合が主とし、エチレンオキシド(EO)をごく微量に抑えることが好ましい。
有機ポリイソシアネートとしては例えばジイソシアネートで良く、ジイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルイレンジイソシアネート、ナフタリン1,5-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートのいずれかまたはその誘導体などがあり得る。
なお、有機ポリイソシアネートもプレポリマー化されていても良い。
【0022】
この条件下で生成されるポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーについて説明する。
図2(b)は、2官能のポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの構造式である。図2(c)は、3官能のポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの構造式である。
上記した条件のように、上記構造式に含まれている(AO)鎖は疎水性アルキレンオキシド鎖を指すものとする。プロピレンオキシド(PO)またはブチレンオキシド(BO)のいずれかまたはそれらの混合が主となっており、エチレンオキシド鎖(EO)はごく微量に抑えられている。このように本発明ではアルキレンオキシド鎖を“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”として定義する。
一般には、アルキレンオキシド鎖にはエチレンオキシド鎖(EO)も含まれるが、エチレンオキシド鎖(EO)を用いたものは親水性の性質を帯びるため、疎水性である本発明のゲル状弾性体カプラではごく微量に抑えられている。
【0023】
このように、ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーのアルキレンオキシド鎖を“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”とすることにより硬化剤で硬化後に疎水性のゲル弾性体が得られるようになる。後述するように実際に製作したゲル弾性体カプラは、疎水性を示すものが製作される。
【0024】
次に、ポリオール成分の官能基数と平均分子量について述べる。
ポリオール成分としては、官能基数2で数平均分子量600~4,000のポリオールと、官能基数3で数平均分子量1,000~6,000のポリオールが用いられる。さらに、好ましくは、官能基数2のポリオールの数平均分子量は1,000~3,000の範囲であり、官能基数3のポリオールの数平均分子量は2,000~4,500の範囲が好ましい。
【0025】
このように、ポリウレタン用ポリオールの官能基数はウレタン結合の立体的な網目構造として構成され、ゲル状物質として形成されるウレタン樹脂の弾力性が得られる。
一方、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラにおいて、大きな柔軟性を持つように生成するためには、分子量やOH/NCO比を大きくしたり、可塑剤含有量を大きくしたりすれば良い。
【0026】
この例はポリエーテルポリオールの例として説明する。2官能、3官能のものが主となるが、ポリウレタン用ポリオールの官能基数は100%揃ったものでなくとも、一部に2官能、3官能のものが混在していても良く、ごく一部に1官能のものが混在していても良い。
【0027】
ここで、官能基数2であって数平均分子量600~4,000のポリオールに関して説明すると、数平均分子量低い程、得られるポリウレタン樹脂の硬度は高くなるため、数平均分子量が1,000未満の場合は、得られるポリウレタン樹脂の硬度がアスカーゴム硬度計F型の硬度で80度より大きくなり、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラとしては好ましくない。一方で数平均分子量が4,000を超える場合は、化学反応が十分に進まないためと推測されるが、得られるポリウレタン樹脂の形状安定性に欠けるため好ましくない。
【0028】
次に、官能基数3であって数平均分子量1,000~6,000のポリオールに関して説明すると、数平均分子量が2,000未満の場合は、得られるポリウレタン樹脂の硬度がアスカーゴム硬度計F型の硬度で80度より大きくなり、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラとしては好ましくない。一方で数平均分子量が6,000を超える場合は、十分な架橋密度が得られないためと推測されるが、得られるポリウレタン樹脂の耐熱性に欠け好ましくない。
ポリウレタン用ポリオールの官能基数は、2官能、3官能のものが主となるが、ポリウレタン用ポリオールの官能基数は100%揃ったものでなくとも、一部に2官能、3官能のものが混在していても良く、ごく一部に1官能のものが混在していても良い。
【0029】
次に、材料として硬化剤となるポリイソシアネートであるが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やその誘導体、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)、ナフタリン1,5-ジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などを用いることができる。反応や最終製品に支障のない限りその他の公知の有機ポリイソシアネートを混合して使用しても良い。
なお、その中に含まれるアルキレンオキシド鎖(AO)としては、プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合である疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)を主とし、エチレンオキシド(EO)をごく微量に抑えることで疎水性を持たせる。
【0030】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネートで良く、HDI、MDI、TDI、NDI、XDIなど任意に使用できる。
ポリイソシアネートの官能基数も2官能、3官能のものが主となるが、ポリイソシアネートの官能基数は100%揃ったものでなくとも、2官能、3官能のものが混在していても良い。なお、ゲル状弾性体の網目構造の形成に用いる際にはポリイソシアネートの官能基数も2官能、3官能のものが主となるが、後述するように、可塑剤として用いる際にはポリイソシアネートの官能基数は1官能であっても良い。
ここで、ポリイソシアネートの官能基数は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分同士が2官能基数同士とならない組み合わせとなるよう調整する。つまり、ポリオールとポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの官能基数の組み合わせとしては2と3、3と2、または、3と3であり、2同士とならない組み合わせとなるよう調整する。
このように、ポリオール成分とポリイソシアネート成分の官能基数はウレタン結合の立体的な網目構造として構成され、ゲル状物質として形成されるウレタン樹脂の弾力性が得られるので、2官能基数と3官能基数のバランスを調整すれば良い。
一方、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラにおいて、大きな柔軟性を持つように生成するためには、分子量やOH/NCO比を大きくしたり、可塑剤含有量を大きくしたりすれば良い。
例えば、ポリオール成分とポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合比率であるが、末端のOH官能基とNCO官能基の比率(OH/NCO比)において0.6から1.6の間となるよう調整すれば、生成される疎水性ゲル状弾性体カプラは立体的な網目構造としてバランスよく構成される。
【0031】
次に、可塑剤について説明する。
可塑剤の例であるが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート、またはグリコールエーテル類がある。グリコールエーテル類としては、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテルなどがあり得る。
【0032】
一般の従来技術におけるウレタン樹脂では、ポリオール成分と有機ポリイソシアネート成分の合計量100wt%とすると、可塑剤の添加量が15wt%未満となっているものがほとんどである。従来技術における弾性体カプラ用のウレタン樹脂は親水性の組成を前提としているため、15wt%以上である場合にはポリウレタン樹脂の形状安定性、機械的特性、耐熱性等を損なうと考えられているからである。しかし、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラは、疎水性の組成となっており、むしろ可塑剤を多く入れることにより、探傷対象物の表面の凹凸に追随する柔軟性を与えるものである。さらに、可塑剤を多く入れることにより低減衰のゲル弾性体が得られる。可塑剤の添加量としては、10~80wt%とするのが好ましい。さらに好ましくは50~80wt%とするのが好ましい。
【0033】
疎水性ポリウレタンゲル弾性体の硬度としては、アスカーゴム硬度計F型による硬度が35~80度の範囲に調整することが好ましい。この程度の柔軟性があれば、探傷対象物の表面の凹凸に追従して変形し、超音波測定時の弾性体カプラとして優れた物性を提供できる。
また、可塑剤は柔軟性を増すものであるが、本発明の発明者らは、疎水性ゲル状弾性体の中に特定の可塑剤を入れると、生成した疎水性ゲル状弾性体カプラにおいて、超音波の減衰を抑制できる物性を与えることができることを発見した。この点については詳しく後述する。
これら材料を用いて疎水性ゲル状弾性体カプラが生成される。
【実施例
【0034】
以下、本発明に係る超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの実施例を説明する。実際に生成したサンプルを用いて、疎水性ゲル状弾性体カプラの物性を調べた結果を示す。
図3は、検証に用いたサンプルの組成を示す図である。
図3に示すように、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラに属するサンプル1、サンプル2を生成し、コントロールとして親水性弾性カプラである従来品のサンプル3を用意した。
主剤であるポリウレタン用ポリオール、硬化剤であるポリイソシアネート、可塑剤は、それぞれ図4のリストに示すものであるが、アルキレンオキシド鎖(AO)の有無が異なっている。
【0035】
サンプル1の主剤であるポリウレタン用ポリオールとして、3官能のPPGポリエーテルポリオールとした。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるポリプロピレングリコール(PPG)鎖となっているものである。一例として、プライムポールFF-3320(三洋化成製)を用いた。
サンプル1の硬化剤であるポリイソシアネートとして、HDIポリイソシアネートを用いた。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)型となっているものである。一例として、デュラネートAE700-100 (旭化成製)を用いた。
サンプル1の可塑剤として、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(TPDM)を用いた。一例としてハイソルブMTPOM(東邦化成製)を用いた。可塑剤の含有量は50wt%とした。
このサンプル1は、疎水性のゲル状弾性体カプラとして用いることができる。
【0036】
サンプル2の主剤であるポリウレタン用ポリオールも、同様に、3官能のPPGポリエーテルポリオールとした。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるポリプロピレングリコール(PPG)鎖となっているものである。一例として、プライムポールFF-3320(三洋化成製)を用いた。
ここで、サンプル2の主剤であるポリウレタン用ポリオールにおける、OH/NCO比の違いに基づく性能の差異を評価すべく、サンプル2を2種類用意した。サンプル2-1は、OH/NCO比が1.0のポリオールを用いた例である。サンプル2-2は、OH/NCO比が0.8のポリオールを用いた例である。
サンプル2の硬化剤であるポリイソシアネートも、HDIポリイソシアネートを用いた。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)型となっているものである。一例として、同様に、デュラネートAE700-100 (旭化成製)を用いた。
サンプル2の可塑剤として、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート(DINCH)を用いた。一例としてHexamol DINCH (BASF製)を用いた。可塑剤の含有量は80wt%とした。
このサンプル2は、疎水性のゲル状弾性体カプラとして用いることができる。
【0037】
サンプル3の主剤であるポリウレタン用ポリオールは、2官能のポリエーテルポリオールで、アルキレンオキシド鎖(AO)が親水性アルキレンオキシド鎖(AO)であるポリエチレングリコール(PEG)型となっているものである。つまり親水性のウレタンゲルの主剤となるものである。一例として、トーホーポリオールPB-3050(東邦化学製)を用いたものである。
サンプル3の硬化剤であるポリイソシアネートは、HDIポリイソシアネートプレポリマーを用いた。アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)型となっているものである。一例として、H-6X35-2(第一工業製薬製)を用いたものである。
サンプル3の可塑剤として、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TG)となっているものである。一例としてテトラグライム(丸善油化商事製)を用いたものである。可塑剤の含有量は55wt%とした。
このサンプル3は、親水性の富んだゲル状弾性体カプラとして用いることができる。
【0038】
上記のように取り揃えたサンプル1、サンプル2(2-1、2-2)、サンプル3を用いて物性比較検査を行った。
まず、疎水性-親水性の物性試験の結果を示す。
図4は、サンプル1、サンプル2(2-1、2-2)、サンプル3における24時間水浸漬実験の結果である。
図4に、水浸漬前質量(g)、24時間水浸漬後質量(g)、吸水率(%)をまとめて示している。
【0039】
サンプル1の本発明の疎水性ゲル状弾性体では、24時間水浸漬の結果、図4のリストに示すように重量が減少していた。水の吸水はなく疎水性を持つことが確認できた。逆に重量が減少していた理由であるが、可塑剤は溶出したものと考えられる。
図5は、サンプル1の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。可塑剤流出の影響で全体的に収縮しており、白濁も見られた。この結果から、TPDMは可塑剤としては水に溶出しやすいものであることが分かる。
【0040】
サンプル2-1の本発明の疎水性ゲル状弾性体では、24時間水浸漬の結果、図4のリストに示すように重量がほとんど変化なかった。この結果から水の吸水はなく疎水性を持つことが確認できた。また、サンプル1に見られたような可塑剤の溶出はなかった。この結果から、DINCHは可塑剤としては水に溶出せず安定したものであることが分かる。
図6は、サンプル2-1の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。膨潤、収縮などはなく、見た目もほとんど変化がなかった。優れた疎水性を持つことが確認できた。
また、サンプル2-2の本発明の疎水性ゲル状弾性体でも24時間水浸漬の結果、図4のリストに示すように重量がほとんど変化なかった。この結果から水の吸水はなく疎水性を持つことが確認できた。また、サンプル1に見られたような可塑剤の溶出はなかった。この結果から、DINCHは可塑剤としては水に溶出せず安定したものであることが分かる。
図7は、サンプル2-2の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。膨潤、収縮などはなく、見た目もほとんど変化がなかった。優れた疎水性を持つことが確認できた。
【0041】
サンプル3の従来技術における親水性ゲル状弾性体では、24時間水浸漬の結果、図4のリストに示すように重量が大きく増加していた。水の吸水が大きく親水性を持つことが確認できた。
図8は、サンプル3の24時間水浸漬後の状態を示す写真図である。全体が大きく膨潤しており、また、組成の劣化も大きく、24時間ですでに亀裂が入って脆くなっていることが確認できた。これは、従来技術の親水性素材が水を頻繁に用いる工業用途の弾性体カプラとして不適切である要因を如実に物語っている結果と言える。
【0042】
以上より、本発明の疎水性ゲル状弾性体では、疎水性の物性を持ち、水を吸収せずに膨潤などすることがないことが分かった。また、可塑剤としては水に溶出しやすいもの、水に溶出しにくいものがあることが分かった。
この疎水性という物性によって、従来技術の親水性のゲル状弾性体カプラでは問題となっていた膨潤の問題が発生せず、超音波特性が変化したり使用による裂けや磨耗などの劣化が生じたりする点を防止できることが確認できた。
【0043】
次に、硬度試験を通じて弾性体の柔軟性を検証した。
図9は、サンプル1、サンプル2(2-1、2-2)、サンプル3の硬度測定の結果を示す図である。
なお、同じ疎水性の従来技術におけるウレタン樹脂素材も比較対象とすべく、サンプル4(アクアレン、オリンパス社)として加えている。
硬度はアスカーゴム硬度計F型によって測定した。デュロメーター(ゴム硬度計)は測定する試料の種類に応じて様々なタイプがあるが、本発明品の硬度試験は、スポンジのように通常の測定が困難な高い柔軟性を示す試料の測定において、適切な指示値が得られように構成されているアスカーゴム硬度計F型を用いた。
【0044】
サンプル1である本発明の疎水性ポリウレタンゲル状弾性体の硬度は、アスカーゴム硬度計F型による硬度が67度であった。
サンプル2-1である本発明の疎水性ポリウレタンゲル状弾性体の硬度は、アスカーゴム硬度計F型による硬度が37度であった。
サンプル2-2である本発明の疎水性ポリウレタンゲル状弾性体の硬度は、アスカーゴム硬度計F型による硬度が57度であった。
サンプル3である従来技術の親水性ポリウレタンゲル状弾性体の硬度は、アスカーゴム硬度計F型による硬度が53度であった。
サンプル4である従来技術の疎水性ポリウレタン素材の硬度は、アスカーゴム硬度計F型による硬度が90度であった。
【0045】
この結果から、硬度、つまり柔軟性という物性においても、本発明の疎水性ポリウレタンゲル弾性体であるサンプル1、サンプル2-1、サンプル2-2とも、サンプル3の従来技術の親水性ポリウレタンゲル弾性体およびサンプル4の従来技術の疎水性ウレタン素材に比べても十分に柔軟性が確保されていることが分かる。
本発明の疎水性ポリウレタンゲル弾性体は十分に柔らかく、探傷対象物の表面の凹凸に追随して十分に変形する柔軟性があると確認できた。
【0046】
以上より、本発明の疎水性ゲル状弾性体では、柔軟性、可撓性ある物性を持ち、一般の疎水性ゲル状弾性体に言われるような硬い物性ではないため、凹凸のある探傷対象物の探傷の検出にも適したものであることが確認できた。
【0047】
次に、本発明の疎水性ポリウレタンゲル弾性体カプラの超音波特性について検証してみた。
疎水性ポリウレタンゲル弾性体カプラの超音波特性である超音波の透過性は超音波の減衰の値で検証できる。
【0048】
以下、超音波の減衰の測定による超音波の透過性について検証した。
超音波の減衰測定において、超音波探傷器として、USM35XJE (GEセンシング&インスペクション・テクノロジーズ製)を使用した。また、減衰測定器として5C20N-G (東京計器製)を使用した。使用した周波数は5MHzとした。測定時の室温は20.1℃であった。
【0049】
図10に示すように、本発明のサンプル1の超音波減衰は4.4dB/cm、本発明のサンプル2-1が5.2dB/cm、本発明のサンプル2-2が5.6dB/cm、従来技術の親水性のサンプル3が3.5dB/cmであった。従来技術の疎水性のサンプル4が5.4dB/cmであった。
測定の結果、従来技術における親水性ゲル状弾性体カプラであるサンプル3がもっとも超音波減衰が小さいが、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラであるサンプル1も同程度に超音波減衰が小さく優れているものであることが分かった。従来技術の疎水性のサンプル4と比べても、本発明のサンプル1の超音波減衰が小さく優れていることが分かる。
以上より、本発明の疎水性ポリウレタンゲル弾性体カプラの超音波特性が優れたものであることが検証できた。
【0050】
以上のように、従来技術における親水性の弾性体カプラに比べて、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラの超音波特性の優位点が検証できたが、さらに引き続き、疎水性ゲル状弾性体カプラにおけるOH/NCO比および可塑剤含有量の違いによる超音波特性としての音速の変化を調べた。
【0051】
図11は、疎水性ゲル状弾性体カプラにおけるOH/NCO比および可塑剤含有量の違いによる超音波の減衰の変化を示す図である。本発明の開発品のサンプル1とサンプル2それぞれOH/NCO比が1.0のものと0.8のものを用意した(サンプル1-1がOH/NCO比が1.0、サンプル1-2が同0.8、サンプル2-1が同1.0、サンプル2-2が同0.8である)。
図11に示すように、超音波の減衰は、OH/NCO比と、可塑剤の含有量にも影響を受けることが分かった。
【0052】
まず、可塑剤の含有量については、可塑剤が0から80wt%の範囲では、可塑剤の含有量が多くなるほど超音波の減衰が小さくなることが分かった。サンプル1、2とも、可塑剤含有量が30wt%あれば超音波減衰特性が得られている。
サンプル1-1、1-2では可塑剤が50wt%で超音波減衰が十分に小さくなった。サンプル2-1、2-2では、可塑剤含有量を80wt%とすればサンプル1-1、1-2の可塑剤含有量50wt%と同程度の超音波減衰特性を示した。
【0053】
なお、上限については80wt%を超えるとウレタン樹脂の形状が安定しづらくなる可能性があるので80wt%程度までが適当である。
以上まとめると、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラにおける可塑剤の含有量は0wt%から80wt%、好ましくは30wt%から80wt%、さらに好ましくは50wt%から80wt%の範囲が良い。
本発明者らは、今後可塑剤のwt%をさらに増やしても組成が安定する疎水性ゲル状弾性体カプラの開発を継続する。
【0054】
次に、OH/NCO比については、可塑剤が0から80wt%の範囲では、サンプル1、サンプル2とも、可塑剤の含有量0から80wt%の範囲では全体的にOH/NCO比が1.0の方が超音波の減衰が小さくなることが分かった。
以上まとめると、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラにおけるOH/NCO比は0.6~1.6の範囲、好ましくは0.8から1.0の範囲、さらに好ましくは1.0程度が良い。
【0055】
以上、本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラは、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板などの表面の探傷用の超音波探傷装置の疎水性ゲル状弾性体カプラとして広く適用することができる。
図1
図2
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図10
図11