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  • 特許-アクリルゴム系組成物及び振動減衰材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】アクリルゴム系組成物及び振動減衰材
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/08 20060101AFI20230802BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230802BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20230802BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230802BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230802BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20230802BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20230802BHJP
   F16F 1/36 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08L33/08
C08L23/08
C08L71/00 Z
C08K3/22
C08K3/04
C08K5/00
F16F15/08 D
F16F1/36 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019212537
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021084923
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-249616(JP,A)
【文献】特開2016-150525(JP,A)
【文献】特開2018-016766(JP,A)
【文献】特開2014-015575(JP,A)
【文献】特開2019-182894(JP,A)
【文献】国際公開第2006/077918(WO,A1)
【文献】特開2011-178962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
F16F 15/08
F16F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転位温度が-40℃以下であり、架橋点を含むアクリルゴム25~85質量部と、
ガラス転位温度が-40℃以下であり、前記架橋点と同種の架橋点を含むエチレンアクリルゴム15~75質量部(ただし、前記アクリルゴムと前記エチレンアクリルゴムとの合計が100質量部)と、
ポリエーテルエステル系可塑剤15~30質量部と、
金属水酸化物80~140質量部と、
リン系難燃剤15~25質量部と、
滑剤0.5~3.5質量部と、
架橋剤0.1~5質量部と、
架橋助剤0.1~10質量部とを有するアクリルゴム系組成物。
【請求項2】
更に、カーボンブラック5~15質量部を有する請求項1に記載のアクリルゴム系組成物。
【請求項3】
前記アクリルゴム及び前記エチレンアクリルゴムが、前記架橋点としてカルボキシル基を含む請求項1又は請求項2に記載のアクリルゴム系組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、脂肪族アミン化合物からなり、前記架橋助剤が、グアニジン化合物からなる請求項1~請求項3の何れか一項に記載のアクリルゴム系組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載のアクリルゴム系組成物の架橋物からなる振動減衰材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム系組成物及び振動減衰材に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムをベースとする振動減衰材が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の振動減衰材は、シリコーンゴムをベースとする振動減衰材と比べて、コスト的に有利であり、近年、注目されている。なお、振動減衰材には、振動を減衰させる振動減衰性以外に、耐熱性、耐寒性等も要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-187772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクリルゴムをベースとする従来の振動減衰材は、その製造過程において、加工性(作業性)が問題となることがあった。具体的には、振動減衰材の原材料であるアクリルゴム系組成物が、混練時に混練機(加圧ニーダー、ロールミル等)に対して、強い粘着力で貼り付いてしまい、混練機から引き剥がすのに時間がかかってしまうことがあった。
【0005】
本発明の目的は、耐熱性、及び耐寒性に優れると共に、加工性に優れるアクリルゴムをベースとした振動減衰材等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> ガラス転位温度が-40℃以下であり、架橋点を含むアクリルゴム25~85質量部と、ガラス転位温度が-40℃以下であり、前記架橋点と同種の架橋点を含むエチレンアクリルゴム15~75質量部(ただし、前記アクリルゴムと前記エチレンアクリルゴムとの合計が100質量部)と、ポリエーテルエステル系可塑剤15~30質量部と、金属水酸化物80~140質量部と、リン系難燃剤15~25質量部と、滑剤0.5~3.5質量部と、架橋剤0.1~5質量部と、架橋助剤0.1~10質量部とを有するアクリルゴム系組成物。
【0007】
<2> 更に、カーボンブラック5~15質量部を有する前記<1>に記載のアクリルゴム系組成物。
【0008】
<3> 前記アクリルゴム及び前記エチレンアクリルゴムが、前記架橋点としてカルボキシル基を含む前記<1>又は<2>に記載のアクリルゴム系組成物。
【0009】
<4> 前記架橋剤が、脂肪族アミン化合物からなり、前記架橋助剤が、グアニジン化合物からなる前記<1>~<3>の何れか1つに記載のアクリルゴム系組成物。
【0010】
<5> 前記<1>~<4>の何れか1つに記載のアクリルゴム系組成物の架橋物からなる振動減衰材。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、耐熱性、及び耐寒性に優れると共に、加工性に優れるアクリルゴムをベースとした振動減衰材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】振動試験装置の構成を模式的に表した説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔アクリルゴム系組成物〕
本実施形態のアクリルゴム系組成物は、主として、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、可塑剤、金属水酸化物、リン系難燃剤、滑剤、架橋剤、及び架橋助剤を含有する。
【0014】
アクリルゴムとしては、ガラス転移温度が-40℃以下のものが使用される。また、アクリルゴムとしては、架橋剤及び架橋助剤を利用して架橋される架橋点を有するものが使用される。具体的には、架橋性基(架橋点)を有するアクリルゴム(例えば、カルボキシル基を含有するアクリルゴム)が使用される。
【0015】
このようなアクリルゴムは、例えば、少なくとも1種以上の(メタ)アクリレートと、カルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーと含むモノマー組成物の重合体からなる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート及び/又はアクリレート」を意味する。「メタクリレート及び/又はアクリレート」は、「アクリル」及び「メタクリル」のうち、何れか一方又は両方を意味する。
【0016】
前記(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、炭素数が1~18(好ましくは、炭素数が1~8、より好ましくは1~4)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。このようなアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、i-ペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、i-ミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
また、前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、アルコシキ基の炭素数が1~4であり、アルキル基の炭素数が1~4のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。このようなアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
また、前記カルボキシル基含有モノマーとしては、カルボキシル基を有し、前記(メタ)アクリレートと共重合可能であれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びそれらのモノアルキルエステル等が挙げられる。また、これらのカルボキシル基含有モノマーの酸無水物(例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー)も、カルボキシル基含有モノマーとして用いることが可能である。
【0020】
前記アクリルゴムの重合は、公知の手法(例えば、乳化重合法、懸濁重合法、バルク重合法、溶液重合法)を利用することが可能であり、また、重合に利用される開始剤、溶剤等も公知のものの中から適宜、選択して使用される。
【0021】
前記アクリルゴムの市販品としては、例えば、「NOXTITE(登録商標) PA-524」(ガラス転位温度:-44℃、ユニマテック株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
アクリルゴム系組成物におけるアクリルゴムの配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計の配合量が100質量部の場合に、25~85質量部に設定される。
【0023】
エチレンアクリルゴムとしては、ガラス転移温度が-40℃以下のものが使用される。また、エチレンアクリルゴムとしては、架橋剤及び架橋助剤を利用して架橋される架橋点を有するものが使用される。具体的には、アクリルゴムと同種の架橋性基(架橋点)を有するエチレンアクリルゴム(例えば、カルボキシル基を含有するエチレンアクリルゴム)が使用される。
【0024】
このようなエチレンアクリルゴムは、例えば、少なくとも1種以上の(メタ)アクリレートと、エチレンモノマーと、カルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーと含むモノマー組成物の重合体からなる。
【0025】
前記(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリルゴムに利用される上述した、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート等が利用されてもよい。また、前記カルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーについても、アクリルゴムに利用される上述したものが利用されてもよい。
【0026】
前記エチレンアクリルゴムの重合も、公知の手法(例えば、乳化重合法、懸濁重合法、バルク重合法、溶液重合法)を利用することが可能であり、また、重合に利用される開始剤、溶剤等も公知のものの中から適宜、選択して使用される。
【0027】
前記エチレンアクリルゴムの市販品としては、例えば、「Vamac(登録商標) VMX-4017」ガラス転位温度:-41℃、デュポン株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
アクリルゴム系組成物におけるエチレンアクリルゴムの配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計の配合量が100質量部の場合に、15~75質量部に設定される。
【0029】
可塑剤としては、ポリエーテルエステル系可塑剤が使用される。ポリエーテルエステル系可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコールブタン酸エステル、ポリエチレングリコールイソブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジ(2-エチルブチル酸)エステル、ポリエチレングリコール(2-エチルヘキシル酸)エステル、ポリエチレングリコールデカン酸エステル、アジピン酸ジブトキシエタノール、アジピン酸ジ(ブチルジグリコール)、アジピン酸ジ(ブチルポリグリコール)、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシロキシエタノール)、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシルジグリコール)、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシルポリグリコール)、アジピン酸ジオクトキシエタノール、アジピン酸ジ(オクチルジグリコール)、アジピン酸ジ(オクチルポリグリコール)等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0030】
前記可塑剤の凝固点(℃)は、例えば、-50℃以下のものが使用される。また、前記可塑剤の分子量は、例えば、450以上(好ましくは500以上)のものが使用される。このような可塑剤を使用すると、低温環境下(例えば、-45℃)において固まらず、アクリルゴムやエチレンアクリルゴムを含むベース樹脂に対して柔軟性を付与することができる。また、このような可塑剤は、高温環境下(例えば、150℃)においても揮発し難く、ベース樹脂中に留まることができる。
【0031】
アクリルゴム系組成物における可塑剤の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して、15~30質量部に設定される。
【0032】
金属水酸化物は、難燃性の付与、振動減衰性の付与等を目的として利用されるものであり、粒子状である。金属水酸化物としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウムが利用される。なお、水酸化アルミニウムとしては、特に、可溶性ナトリウム量が100ppm以下である低ソーダ水酸化アルミニウムが好ましい。本明細書において、可溶性ナトリウム量とは、低ソーダ水酸化アルミニウムと水とを接触させた時に水中へ溶解するナトリウムイオン(Na)の量である。
【0033】
金属水酸化物の平均粒子径は、例えば、5μm~15μmが好ましく、5μm~12μmがより好ましい。
【0034】
アクリルゴム系組成物における金属水酸化物の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して、80~140質量部に設定される。なお、金属水酸化物は、リン系難燃剤と比べて、材料コストが安価であり、また、耐熱性に優れる。
【0035】
リン系難燃剤は、化合物中にリン(P)を含む難燃剤であり、アクリルゴム系組成物に難燃性を付与するために使用される。リン系難燃剤は、金属水酸化物と比べて難燃性が高い。なお、本実施形態のリン系難燃剤は、難燃性付与以外に、アクリルゴム系組成物に振動減衰性を付与するために使用される。リン系難燃剤としては、例えば、ホスフィン酸金属塩系難燃剤、有機リン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム等が利用される。これらのうち、ホスフィン酸金属塩系難燃剤が好ましい。なお、ホスフィン酸金属塩系難燃剤中の金属としては、例えば、Al、Mg、Ca、Ti、Zn、Sn等が挙げられる。
【0036】
アクリルゴム系組成物におけるリン系難燃剤の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して、15~25質量部に設定される。
【0037】
滑剤は、加工性(後述するニーダー排出性、ロール粘着性等)や、振動減衰性を向上させる等の目的で、アクリルゴム系組成物に配合される。
【0038】
滑剤としては、脂肪酸エステル(高級脂肪酸エステル等)、脂肪族アミン(脂肪族第1級アミン等)等が利用される。これらの滑剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、滑剤としては、脂肪酸エステル及び脂肪族アミンを組み合わせて使用することが好ましい。このように脂肪酸エステル及び脂肪族アミンを組み合わせて使用すると、加工性(ニーダー排出性、ロール排出性等)が特に優れる。
【0039】
滑剤の市販品としては、例えば、「ストラクトール WB222」(高級脂肪酸エステル(脂肪酸エステルの一例)、エスアンドエスジャパン株式会社製)、「ストラクトール WB18」(脂肪族第1級アミン(脂肪族アミンの一例)、エスアンドエスジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0040】
アクリルゴム系組成物における滑剤の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計の配合量が100質量部の場合に、0.5~3.5質量部に設定される。滑剤の配合量が、このような範囲であると、アクリルゴム系組成物の加工性、振動減衰性等が確保され易い。なお、アクリルゴム系組成物における滑剤の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計の配合量が100質量部の場合に、1.5質量部以上が好ましく、2.2質量部以上がより好ましい。
【0041】
また、アクリルゴム系組成物における滑剤(脂肪酸エステル)の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計の配合量が100質量部の場合に、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。
【0042】
また、アクリルゴム系組成物における滑剤(脂肪族アミン)の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計の配合量が100質量部の場合に、1.8質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。
【0043】
架橋剤は、アクリルゴム及びエチレンアクリルゴムを架橋できるのであれば、特に制限はないが、例えば、脂肪族アミン化合物が利用される。
【0044】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン等の脂肪族ジアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが好ましい。
【0045】
アクリルゴム系組成物における架橋剤の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部、好ましくは0.2~3.0質量部に設定される。
【0046】
架橋助剤は、前記架橋剤と共に使用され、アクリルゴム及びエチレンアクリルゴムの架橋を促進する機能等を備えている。架橋助剤としては、アクリルゴム及びエチレンアクリルゴムを架橋できるのではあれば、特に制限はないが、例えば、グアニジン化合物が利用される。
【0047】
グアニジン化合物としては、例えば、グアニジン、テトラメチルグアニジン、ジブチルグアニジン、1,3-o-トリルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジン等が挙げられる。これらの中でも、1,3-ジフェニルグアニジンが好ましい。
【0048】
アクリルゴム系組成物における架橋助剤の配合量は、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して、0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部に設定される。
【0049】
アクリルゴム系組成物は、上述した成分以外に、本発明の目的を損なわない限り、その他の成分を含んでもよい。具体的な他の成分としては、フィラー、加工助剤、老化防止剤、粘着付与樹脂、防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、着色剤、発泡剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
前記フィラーを構成する物質としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム等の金属又はそれらの合金、タルク、ガラス、ガラス等の無機材料、黒鉛(カーボンブラック)、鉱物等が挙げられる。
【0051】
アクリルゴム系組成物におけるカーボンブラックの配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アクリルゴムとエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して、5~15質量部に設定されることが好ましい。
【0052】
アクリルゴム系組成物は、一般的なゴム混練装置を利用して均一に混練される。
【0053】
アクリルゴム系組成物は、所定形状に加熱プレス成形され、更にオーブンで所定時間、加熱処理されることで、架橋反応が進行して、アクリルゴム系組成物の架橋物(硬化物)からなる振動減衰材が得られる。
【0054】
なお、アクリルゴム系組成物では、加熱プレス成形時に、架橋反応(一次架橋反応、アミド化反応)が進行し、そして更に、加熱処理時に、架橋反応(二次架橋反応、イミド化反応)が進行することで、アクリルゴム系組成物の架橋物が得られる。
【0055】
〔振動減衰材〕
振動減衰材は、耐熱性(例えば、150℃で使用可能)、耐寒性(例えば、-45℃で使用可能)、振動減衰性(23℃における損失係数が0.4以上)に優れる。
【0056】
また、振動減衰材は、加工性にも優れる。振動減衰材を、上記アクリルゴム系組成物から製造する際、アクリルゴム系組成物の混練工程において、アクリルゴム系組成物が、混練機(加圧ニーダー、ロールミル等)に対して、強い粘着力で貼り付くことが抑制される。加圧ニーダーの容器状の混練部や、ロールミルのロールは、金属製であり、そのような混練機に対して、従来のアクリルゴムをベースとした組成物では、強い粘着力で貼り付いてしまう。これに対して、本実施形態のアクリルゴム系組成物(及び振動減衰材)は、混練工程において、混練機(上記混練部等)から、引き剥がし易く、加工性(作業性)に優れる。
【0057】
なお、本実施形態のアクリルゴム系組成物は、上記のように滑剤等を含んでいても、耐熱性、耐寒性、振動減衰性等が確保される。
【0058】
また、振動減衰材は、難燃性(UL94V規格で、V-0相当)に優れる。また、振動減衰材は、アクリルゴム及びエチレンアクリルゴムをベースとしており、耐油性にも優れている。なお、振動減衰材の硬度は、A50以下が好ましく、特に、A20以上A50以下が好ましい。振動減衰材の硬度は、JIS K6253に準拠して測定される。
【0059】
振動減衰材は、例えば、モーター等の振動源を内蔵する機器や、外部からの振動の伝達を遮断したい精密部品を内蔵する機器において利用される。特に、振動減衰材は、自動車のエンジンルーム等のように、高温になり易く、場合によっては低温(例えば、寒冷地で使用した場合)となり得る箇所において、好適に用いることができる。また、そのような箇所は、耐油性も要求されるものの、本実施形態の振動減衰材は、アクリルゴム及びエチレンアクリルゴムをベースとしているため、問題なく用いることができる。
【0060】
振動減衰材は、シート状に形成されてもよいし、金型等を利用して所定形状に成形されてもよい。
【実施例
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1~5及び比較例1~6〕
(アクリルゴム系組成物の作製)
各実施例及び各比較例において、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、ポリエーテルエステル系可塑剤、水酸化アルミニウム、ホスフィン酸金属塩系難燃剤、カーボンブラック、滑剤A、滑剤B、架橋剤及び架橋助剤を、表1に示される割合(質量部)で配合し、それらの混合物を加圧ニーダーに仕込み、それを70℃で5分間混練して、アクリルゴム系組成物を得た。
【0063】
なお、各実施例等で使用した材料は、以下の通りである。
「アクリルゴム」:商品名「NOXTITE(登録商標) PA-524」、Tg=-44℃、ユニマテック株式会社製
「エチレンアクリルゴム」:商品名「Vamac(登録商標) VMX-4017」、Tg=-41℃、デュポン株式会社製
「ポリエーテルエステル系可塑剤」:商品名「アデカイザー(登録商標) RS-700」、分子量=約550、凝固点=-53℃、株式会社ADEKA製
「水酸化アルミニウム」(金属水酸化物の一例):低ソーダ水酸化アルミニウム、商品名「BF083」、平均粒径=10μm、日本軽金属株式会社製
「ホスフィン酸金属塩系難燃剤」(リン系難燃剤の一例):商品名「Exolit(登録商標) OP1230」、リン含有量=約23質量%、クラリアントケミカルズ株式会社製
「カーボンブラック」:商品名「旭#35」、平均粒径=78nm、旭カーボン株式会社製
「滑剤A」:高級脂肪酸エステル(脂肪酸エステル系)、商品名「ストラクトール WB222」、エスアンドエスジャパン株式会社製
「滑剤B」:第1級脂肪族アミン(脂肪族アミン系)、商品名「ストラクトール WB18」、エスアンドエスジャパン株式会社製
「架橋剤」:ヘキサメチレンジアミンカーバメート(脂肪族ジアミン化合物の一例)、商品名「CHEMINOX AC-6」、ユニマテック株式会社製
「架橋助剤」:1,3-ジフェニルグアニジン(グアニジン化合物の一例)、商品名「ノクセラーD」
【0064】
(振動減衰材の作製)
次いで、前記アクリルゴム系組成物を二本ロールミル(ロール間距離:2mm)で更に3分間混練し、その後の組成物を、加熱プレス機及び金型を用いて板状に加熱プレス成形した。なお、この加熱プレス成形時に、組成物の一次架橋が行われる。成形温度は180℃、成形圧力は30MPa、成形時間は10分とした。そして更に、加熱プレス後の組成物を、オーブン内に175℃で4時間静置して二次架橋を行い、その後、オーブンから取り出して、各実施例及び各比較例の板状の振動減衰材を得た。
【0065】
〔評価〕
(加工性評価1:ニーダー排出性)
各実施例及び各比較例において、アクリルゴム系組成物の作製時に、加圧ニーダーの容器状の混練部から、アクリルゴム系組成物が容易に排出されるか否かを評価した。評価基準は、以下のとおりである。結果は表1に示した。
<評価基準>
10Lニーダースケールにおいて、アクリルゴム系組成物(混練物)の取り出し作業が10分未満の時間で可能な場合 ・・・・・「◎」
10Lニーダースケールにおいて、アクリルゴム系組成物(混練物)の取り出し作業が10分以上30分未満の時間で可能な場合 ・・・・・「〇」
10Lニーダースケールにおいて、アクリルゴム系組成物(混練物)の取り出し作業が30分以上の時間で可能な場合 ・・・・・「×」
【0066】
(加工性評価2:ロール粘着性)
各実施例及び各比較例において、アクリルゴム系組成物を二本ロールミルで混練した際に、前記組成物をロールから引き剥がす作業のし易さ(引き剥がし易さ)を評価した。評価基準は、以下のとおりである。結果は、表1に示した。
<評価基準>
約60kgのアクリルゴム系組成物をロールから30分未満の時間で引き剥がすことが可能な場合 ・・・・・「◎」
約60kgのアクリルゴム系組成物をロールから30分以上60分未満の時間で引き剥がすことが可能な場合 ・・・・・「〇」
約60kgのアクリルゴム系組成物をロールから60分以上の時間で引き剥がすことが可能な場合 ・・・・・「×」
【0067】
(硬度)
各実施例及び各比較例において、得られた振動減衰材から、所定の大きさの試験片(縦50mm、横50mm、厚み6mm)を切り出し、その試験片について、JIS K6253に準拠して、硬度(JIS A硬度)を測定(定圧荷重1秒以内)した。結果は、表1に示した。
【0068】
(加熱後の硬度変化)
各実施例及び各比較例において、上記硬度測定で使用した試験片を、150℃の温度条件で24時間加熱した。そして、加熱後の試験片について、上記硬度測定(加熱前の硬度測定)と同様、JIS K6253に準拠して、硬度(JIS A硬度)を測定(定圧荷重1秒以内)した。そして、加熱後の硬度と加熱前の硬度より、加熱前後の硬度変化量(硬度増加量)を求めた。結果は、表1に示した。なお、硬度変化量(硬度増加量)が5以下の場合、耐熱性に優れていると言える。
【0069】
(加熱後の圧縮永久歪)
各実施例及び各比較例において、得られた振動減衰材から、所定の大きさの試験片(直径13mm、厚み6mm)を切り出し、その試験片(厚みD)を用いて、圧縮永久歪をJIS K6262に準拠して測定した。具体的には、加熱後の試験片を、所定の圧縮装置(圧縮冶具)を利用して厚み方向に25%圧縮し(厚みD1)、その状態で150℃の環境試験機(恒温槽)の中に入れ、そこに22時間放置した。その後、環境試験機内から試験片を取り出し、更にその試験片を圧縮している圧縮装置を解除し、木板の上に30分間以上、常温で静置させた後、試験片の厚み(D2)を測定し、(D-D2)/(D-D1)×100より、圧縮永久歪(%)を算出した。結果は、表1に示した。なお、圧縮永久歪(%)の値が、50以下の場合、耐熱性に優れていると言える。
【0070】
(簡易低温脆化試験)
各実施例及び各比較例において、得られた振動減衰材から、所定の大きさの試験片(縦40mm、横6mm、厚み2mm)を切り出し、試験片の一端を簡易低温脆化試験用冶具に取り付けた。簡易低温脆化試験用冶具を所定の温度に設定された試験環境下に1時間置き、その後取り出すと同時に簡易低温脆化試験用冶具に取り付けられた打撃冶具で、試験片の自由端側に衝撃を加え、試験片の破損の有無を確認した。1℃間隔で温度を設定した。結果は、表1に示した。表1には、試験片が割れなかった場合の最低温度を示した。なお、-45℃まで割れなかった場合(-45℃よりも低い温度で割れた場合)、耐寒性に優れていると言える。
【0071】
(損失係数)
各実施例及び各比較例において、得られた振動減衰材から、縦5mm、横5mm、厚み3mmの試験片を4つずつ切り出した。次いで、図1に示される振動試験装置10を用意した。図1は、振動試験装置10の構成を模式的に表した説明図である。なお、振動試験装置10としては、「F-300BM/A」(エミック株式会社製、全自動振動試験装置)を使用した。振動試験装置10は、所定の周波数の振動数を発生して、加振台11を振動させる装置である。加振方向は、図1の上下方向(試験片Sの厚み方向)である。振動試験装置10は、加振台11以外に、取付板12等を備えている。取付板12は、平面視で正方形状であり、質量が1000gに設定されている。なお、振動試験装置10を用いた制振性試験は、23℃の室温環境下で行った。
【0072】
図1に示されるように、4つの試験片Sは、取付板12の四隅にそれぞれ配されるとともに、取付板12と加振台11との間で、挟み付けられる形で配置される。つまり、取付板12は、加振台11上において、試験片Sによって四点支持された状態となる。
【0073】
このような状態において、加振台11を、加速度0.4G、周波数5Hz~1000Hz、掃引速度1oct/分の条件で加振させた。そして、取付板12の振動を、取付板12に取り付けられている加速度ピックアップ13で検出し、その検出結果を元に共振曲線を作成した。
【0074】
次に、共振曲線のピーク値(共振倍率)を示した共振周波数f0(Hz)と、そのピーク値よりも3dB下がった値を示した周波数f1、f2(f1<f0<f2)とに基づいて、下記数式(1)から損失係数tanδを算出した(半値幅法)。
tanδ=(f2-f1)/f0 ・・・・・(1)
【0075】
各実施例及び各比較例の損失係数tanδは、表1に示した。なお、損失係数tanδが0.4以上(23℃)の場合、振動減衰性に優れていると言える。
【0076】
(難燃性)
各実施例及び各比較例において、得られた振動減衰材から、所定の大きさの試験片(縦125mm、横13mm、厚み1mm)を切り出し、その試験片について、UL94V規格に準拠した垂直難燃試験を行った。結果は、表1に示した。なお、表1において、難燃性が「V-0」を達成した場合を「V-0」と表し、達成できなかった場合を「×」と表した。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示されるように、実施例1~実施例3のアクリルゴム系組成物は、ニーダー排出性、及びロール粘着性について、特に優れていることが確かめられた。実施例1~実施例3では、ニーダー排出性の評価時に、アクリル系組成物(混練物)の一部が、混練部にこびり付いて残存することもなかった。実施例1~実施例3は、アクリルゴム系組成物中に、滑剤(滑剤A,B)が配合されている場合である。また、実施例1~実施例3の振動制振材は、耐熱性、耐寒性、振動減衰性及び難燃性に優れることが確かめられた。
【0079】
実施例4,5は、実施例1~3と比べて、滑剤の配合量が少ない場合である。また、実施例4は、滑剤として、滑剤Bのみを含有し、実施例5は、滑剤として、滑剤Aのみを含有する場合である。実施例4の場合、10分未満の時間内に、アクリルゴム系組成物(混練物)の取り出し作業を行うことはできなかったものの、10分以上30分未満の時間内に、アクリルゴム系組成物(混練物)の取り出し作業を行うことは可能であった。なお、実施例4の場合、ニーダー排出性の評価時に、アクリルゴム系組成物(混練物)の一部が、混練部にこびり付いて残存する結果となった。なお、実施例4の場合、ロール粘着性については、実施例1~3と同様、特に優れた結果となった。また、実施例5の場合、ロール粘着性の評価時において、30分未満の時間内に、アクリルゴム系組成物をロールから引き剥がすことはできなかったものの、30分以上60分未満の時間内に、アクリルゴム系組成物をロールから引き剥がすことは可能であった。なお、実施例5の場合、ニーダー排出性については、実施例1~3と同様、特に優れた結果となった。また、実施例4,53の振動制振材は、耐熱性、耐寒性、振動減衰性及び難燃性に優れることが確かめられた。
【0080】
比較例1は、リン系難燃剤の配合量が少なく、滑剤(滑剤A,B)を含まない場合である。このような比較例1では、ロール粘着性に問題があった。比較例1のニーダー排出性については、実施例4と同程度の結果であった。また、比較例1は、損失係数が0.4よりも小さく、振動減衰性に問題があった。
【0081】
比較例2は、実施例1等と同様、所定量の滑剤(滑剤A,B)を含むものの、リン系難燃剤の配合量が少ない場合である。このような比較例2は、加工性(ニーダー排出性、ロール粘着性)に優れるものの、損失係数が0.4よりも小さく、振動減衰性に問題があった。なお、比較例2は、比較例1と比較すると、損失係数の値が増加しており、滑剤を含むことによって、振動減衰性が向上していることが分かった。
【0082】
比較例3は、樹脂成分として、アクリルゴムのみを含む場合である。このような比較例3は、簡易低温脆化試験の結果が-44℃であり、耐寒性に問題があった。また、比較例3の場合、加工性(ニーダー排出性、ロール粘着性)に問題があった。比較例3のアクリルゴム系組成物は、混練機(混練部)に対する粘着力が強く、アクリル系組成物(混練物)の取り出し作業が困難であり、取り出し作業に長時間を要する結果となった。また、比較例3の場合、ニーダー排出性の評価時において、アクリル系組成物(混練物)の一部が、混練部にこびり付いてしまい、全てのアクリル系組成物(混練物)を、混練部から取り出すことができなかった。また、比較例3の場合、ロール粘着性についても問題があった。具体的には、比較例3のアクリルゴム系組成物をロールから引き剥がすことが難しく、引き剥がし作業に長時間を要する結果となった。
【0083】
比較例4は、アクリルゴムの配合量が少なく、かつエチレンアクリルゴムの配合量が多い場合である。このような比較例4では、比較例3と同様、加工性(ニーダー排出性、ロール粘着性)に問題があった。また、比較例4の場合、損失係数が0.4よりも小さく、振動減衰性に問題があった。
【0084】
比較例5,6は、滑剤の配合量が多過ぎる場合である。比較例5の場合、簡易低温脆化試験の結果が-43℃であり、耐寒性に問題があった。なお、比較例5は、滑剤A(脂肪酸エステル)の配合量が、4質量部であり、滑剤Aの配合量が多過ぎる場合でもある。また、比較例6の場合、圧縮永久歪の結果が52であり、耐熱性に問題があった。なお、比較例6は、滑剤B(脂肪族アミン)の配合量が、2質量部であり、滑剤Bの配合量が多過ぎる場合でもある。
【符号の説明】
【0085】
10…振動試験装置、11…加振台、12…取付板、13…加速度ピックアップ、S…試験片(振動減衰材)
図1