(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ及び燃料電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20230802BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20230802BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20230802BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20230802BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230802BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0215
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019223371
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】303029317
【氏名又は名称】株式会社プラズマイオンアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正則
(72)【発明者】
【氏名】緒方 潔
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-268567(JP,A)
【文献】特開2010-248572(JP,A)
【文献】特開2012-186147(JP,A)
【文献】国際公開第2006/082734(WO,A1)
【文献】特開2010-129394(JP,A)
【文献】特開2006-286457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表層部にチタン金属層と、該チタン金属層表面にチタンカーバイド又はチタンナイトライドを含むガスバリヤ層と、該ガスバリヤ層表面に積層した導電性炭素皮膜と、からなる積層ガスバリヤ層を有する燃料電池用セパレータであって、
前記金属基材と前記チタン金属層との接合界面に基材金属
とチタン金属とからなるミキシング層を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記ミキシング層の厚さが20~200nmであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記チタン金属層の厚さが50nm~5μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
前記導電性炭素皮膜の厚さが20~500nmであり、抵抗率が0.01~10Ω・cmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
前記ガスバリヤ層に残在する貫通欠陥部分の前記金属基材表面に金属オキサイド又は/及び導電性炭素皮膜からなる耐食性皮膜を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項1から5に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、シート状の前記金属基材の表面に前記チタン金属層と前記積層ガスバリヤ層を形成する工程1と、工程1で得られた金属基材を燃料電池用セパレータに成形加工する工程2と、前記積層ガスバリヤ層に存在する貫通欠陥部分に耐食性皮膜を形成する工程3と、からなることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記金属基材表面にチタン金属薄層を形成し、該金属薄層に3~20keVに加速されたアルゴンイオン、又はアルゴンとチタンの混合イオンを照射して前記ミキシング層を形成し、該ミキシング層上にチタン金属層を形成することを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記耐食性皮膜を形成する工程において、オゾンを含むガス中、又は酸素、炭化水素ガス、窒素、窒素化合物ガスの何れか一つを含むプラズマ中で前記セパレータ基材温度を常温~400℃に保持して表面改質することを特徴とする請求項6又は7に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れ、ガス拡散層部材との接触抵抗が小さく、安価な固体高分子電解質型燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題やエネルギー問題を解決するエネルギー源として燃料電池が注目されている。特に、固体高分子電解質型燃料電池(以下、単に燃料電池とも記す)は低い温度で動作可能であること、小型化・軽量化が可能であることから家庭用電源や燃料電池自動車への適用が検討されている。
【0003】
燃料電池を構成する重要部品の一つにセパレータがある。このセパレータに要求される特性としては、酸性溶液中(燃料電池動作環境)における耐食性に優れていること、振動等に対する機械的強度が大きいこと、アノード及びカソード電極となるガス拡散部材( 例えば、カーボンペーパー)との接触抵抗が小さいこと、溝加工等の加工性に優れ、軽量かつ安価であることなどである。
【0004】
最近では、上記諸特性を満たすセパレータの基材としてステンレス鋼鈑やチタンなどの金属基材が主として検討されてきた。ステンレス鋼やチタン及びその合金などの金属を用いたセパレータは、表面に不動態皮膜が形成されることによって耐食性が得られるとされているが、必ずしも十分とは云えない。また、この不動態皮膜がアノード及びカソード電極となるガス拡散部材(以下、GDLとも記す)との接触抵抗を高くするため、導電性を阻害し、燃料電池の発電効率を低下させることが知られている。
【0005】
一方、軽量、安価なセパレータ基材として鋼材、アルミニウムやマグネシウム合金などが検討されているが、基材表面に絶縁性の酸化皮膜が形成され易く、耐食性も十分ではなく、溶出した金属イオンが触媒特性を劣化させ、固体高分子電解質膜のイオン伝導性を低下させるため、結果的に発電特性を劣化させることが知られている。
【0006】
なお、上記課題は、燃料電池用集電部材に関しても、同様に起こり得ることである。
【0007】
特許文献1には、燃料電池用セパレータとして最も耐食性に優れていると考えられるチタン基材を採用し、その表面に炭化チタン層と導電性カーボン膜を積層した燃料電池用セパレータ技術が開示されている。当該セパレータは高価なチタン基材を使用することによって燃料電池の動作環境において優れた耐食性を有することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される燃料電池用セパレータは耐食性には優れているが、前記導電性カーボン膜と、その表面に接触するGDLとの界面の接触抵抗及び接触抵抗の経時変化等については明記されていない。前記導電性カーボン膜は耐食性に優れているとされているが、耐食性劣化の要因となるピンホール等の貫通欠陥の発生を完全に抑制することは困難で製造上の大きな課題である。また、チタンは希少金属であって高価であり、将来の大量生産には大きな課題が残る。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、安価な金属基材、例えばステンレス鋼基材(以下、SUS基材とも記す)、或いはアルミニウム基材(以下、アルミ基材とも記す)を用いた耐食性に優れ、かつ接触抵抗が小さい燃料電池用セパレータ(以下、単にセパレータとも記す)を提供することにある。また、本発明によるセパレータ、及び当該セパレータを用いた燃料電池を安価に提供することにある。また、本発明は燃料電池用集電部材(以下、単に集電部材とも記す)にも適用できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために成されたもので下記の燃料電池用セパレータ及びセパレータの製造方法を提供する。
【0012】
本発明に係るセパレータは金属基材、例えばステンレス鋼基材の表層部にチタン金属層と、該チタン金属層表面にガスバリヤ層と導電性炭素皮膜とからなる積層ガスバリヤ層を有するとともに、前記金属基材と前記チタン金属層との接合界面に両金属からなるミキシング層(傾斜組成層)を有することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、前記金属セパレータ基材の表層部に基材金属からチタン金属層に徐々に変化するミキシング層を挟んでチタン金属層が形成されている。これによって、前記金属基材と前記チタン金属層との接合力を著しく大きくすることができる。前記ミキシング層の厚さは20~200nmである。前記チタン金属層の厚さは50nm~5μmである。
【0014】
本発明によれば、前記チタン金属層に発生するピンホール等の貫通欠陥部を皆無にすることは困難である。前記チタン金属層表面にガスバリヤ層及び導電性炭素皮膜を積層した積層ガスバリヤ層を形成することによって、耐食性をさらに向上させるものである。前記導電性炭素皮膜は前記欠陥部分を封孔して耐食性を向上させるとともに前記GDL電極との接触界面の接触抵抗を低減する役割を担う。導電性炭素皮膜の厚さは20~500nmであり、好ましくは30~200nmである。導電性炭素皮膜の抵抗率は小さいほど好ましいが、好適な範囲は0.01~10Ω・cmである。
【0015】
更に、本発明によるセパレータは、導電性炭素皮膜の積層によって封孔されない貫通欠陥部に耐食性皮膜を有することを特長とする。当該耐食性皮膜は耐食性を向上すると同時に金属イオンの溶出を抑制するためのものである。好適な耐食性皮膜として金属オキサイド被膜又は/及び導電性炭素被膜を挙げることができる。本発明によれば、オゾンを含むガス中、又は酸素ガス、炭化水素ガスを含むプラズマ中で前記セパレータ基材温度を400℃以下に保持して前記貫通欠陥部分のSUS基材表面に金属オキサイド皮膜又は/及び導電性炭素皮膜を形成する。処理温度は高温であることが望ましいが積層ガスバリヤ層への影響を考慮すれば、室温~300℃が好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記金属基材とその表面にミキシング層を介して前記チタン金属層を形成することによって密着力の強固なチタン金属層を形成することができる。これによって、ステンレス鋼板など比較的安価な金属基材表面に耐食性に優れたチタン金属層を形成し、その表面にガスバリヤ層及び導電性炭素皮膜を積層することによって、耐食性に優れ、かつ前記GDLとの接触抵抗が小さい燃料電池用セパレータを提供することができる。また、前記積層ガスバリヤ層に残存する貫通欠陥を前記耐食性皮膜によって被覆することによって金属イオンの溶出を許容値以下に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る固体高分子電解質型燃料電池の構成を示す該略図である。
【
図2】本発明に係る燃料電池用セパレータの表層部の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
始めに、本実施形態の燃料電池Xの概略について説明する。前記燃料電池Xは、例えば、燃料電池自動車などに用いられるものであり、
図1に示すように、燃料極となるガス拡散部材1と空気極となるガス拡散部材2及びこれらに挟まれた電解質膜3からなるセル4が積み重なって構成されたものである。また、上段部及び下段部には集電部材5が設けられ、セル4とセル4との間にはセパレータ110が設けられている。前記セパレータ110には燃料ガスと酸化剤ガスとをそれぞれ供給するガス流路6、7が形成されている。
前記集電部材5は、前記セパレータ110よりも厚く形成されているものの、前記セパレータ110と略同様な構成であって、前記セパレータと同様に製造される。
【0019】
本発明に係る前記セパレータ110の実施形態は大きく分けて、シート状の金属基材11の表面にチタン金属層13及び前記積層ガスバリヤ層16を形成する実施工程1と、この金属基材を用いてガス流路となる凹凸形状の溝6、7等を有するセパレータ110に成形する実施工程2と、前記積層ガスバリヤ層16に存在する貫通欠陥部分に耐食性皮膜を形成する実施工程3とからなる。本明細書では主として実施工程1と3について説明する。
【0020】
以下、燃料電池用セパレータ110の実施形態について図面を用いて説明する。
図2に燃料電池用セパレータ110の表層部の断面概略図を示す。セパレータ110は前記金属基材11、例えばステンレス鋼基材の少なくとも一方の主面に形成されたチタン金属層13と、当該チタン金属層13の表面に形成されたガスバリヤ層14と、該ガスバリヤ層上に積層された導電性炭素皮膜15とからなる積層ガスバリヤ層16を有することを特徴とする。また、前記金属基材11と前記チタン金属層13の接合面に基材金属からチタン金属層に徐々に変化するミキシング層12(傾斜組成層とも言う)を有することを特徴とする。
【0021】
前記ミキシング層12は、基材金属から徐々にチタン金属に変わる両金属が混在する領域であって、両金属が一体化された接合面である。従って、両金属層の密着力が極めて強固であることを特長とする。
【0022】
このミキシング層12の形成は、金属基材表面に厚さ20~100nm程度のチタン薄層を形成し、これに高エネルギー、例えば5~20keVに加速されたアルゴンイオン、或いはアルゴンとチタンの混合イオンを照射してチタン原子を前記金属基材の表層部に注入することによって形成される。または、高エネルギーのチタンイオンを基材表面に直接注入することによってミキシング層を形成することもできる。前記ミキシング層の厚さはより厚い方が好ましいが、高エネルギーのイオン照射が必要となるため20~100nm程度である。
【0023】
このミキシング層12を介して接合することによって、金属基材11とチタン金属層13との密着力を著しく向上させることができる。例えば、厚さ100μmのSUS316L箔表面にミキシング層を介して厚さ約1μmのチタン金属層13を形成した試料では、2000回の90度折り曲げ試験でもチタン金属層の剥離やひび割れなどは発生しなかった。
【0024】
前記金属基材11の表面に前記積層ガスバリヤ層16を形成する過程で発生する直径1μm未満の塵埃やピンホール等に起因する微細貫通欠陥D1、或いは1μm以上の亀裂や剥離による貫通欠陥部D2を皆無にすることは困難であり、実用的でない。これらの欠陥部分を封孔すること、或いは耐食性皮膜17で被覆することによって実用化が図れる。詳細については以下に説明する。
【0025】
本発明によれば、前記金属基材11にステンレス鋼を始め、アルミニウムや亜鉛、或いはマグネシウム合金などの安価な金属基材、又はこれらの金属を主成分とする合金基材、又はこれらの金属の積層基材を用いることができる。云うまでもなくチタンやニッケルなどの高価な金属基材を使用することもできる。
【0026】
更に詳細に説明すると、金属基材11はクロム含有量の多い耐食性に優れたステンレス鋼基材を採用することができる。例えば、フェライト系SUS材のSUS430、オーステナイト系SUS材のSUS304、SUS305、SUS316Lなどを使用することができる。これらの金属基材はクロムの含有量が18%で、前記チタン金属層13や前記積層ガスバリヤ層16に存在する貫通欠陥部分D2のSUS基材表面にクロムオキサイド又は/及びクロムカーバイド等の耐食性被膜17を形成することができる。
【0027】
アルミニウム基材としては、純度99重量%以上の高純度アルミニウム、例えば、JIS規定の1000系合金(工業用純アルミニウム)を使用することができる。高純度アルミニウムは熱伝導率(約200W/m・K)が高く、セパレータ110として好適である。耐食性、加工性及び機械的強度等を考慮すればアルミニウム合金、例えば3000系合金(Al-Mn系合金)、5000系合金(Al-Mg系合金)、6000系合金(Al-Mg-Si系合金)、又は8000系合金(Al-Fe-Si系合金)等を使用することができる。アルミニウム系基材は軽量であるのみならず、導電率及び熱伝導率が大きく、セパレータ基材としては望ましい素材である。
【0028】
本発明のセパレータ110は前記ミキシング層を介してチタン金属層が形成され、その表層部にガスバリヤ層14が形成されている。チタン金属は通常の燃料電池使用環境である0~1V電位領域の全領域において不動態化状態となっていることから耐食性に優れていることが知られている。金属基材、例えば、SUS基材表面にチタン金属層を形成することによって実質的にチタン金属基材に代替するものである。前記チタン金属層13の厚さは出来るだけ厚い方が好ましいが、加工費用を考慮すれば限界がある。チタン金属層の厚さは50nm~5μm、より好適な厚さは100nm~2μmである。チタン金属層13の形成方法は特定されるものではないが、例えばチタンアーク蒸着法によって任意の厚さのチタン金属層を形成することができる。
【0029】
前記ガスバリヤ層14の役割は、燃料電池使用環境において前記チタン金属層表面が酸化されて不動態化し、ガス拡散層である前記GDLとの界面の接触抵抗が増加するのを抑止するためのものである。従って、燃料電池の動作環境で化学的に安定であり、水分や酸素の透過を阻止できる導電性皮膜であることが要求される。具体的には、チタンカーバイドやチタンナイトライドを挙げることができる。前記チタンナイトライド、或いはチタンカーバイド等は燃料電池の動作環境で電解液に曝されると酸化されて接触抵抗が著しく増大することが知られているが、本願発明のチタンナイトライド或いはチタンカーバイドからなる前記ガスバリヤ層14は導電性炭素皮膜15で被覆されているため酸化されず、接触抵抗も増加しないことが確認されている。
【0030】
前記ガスバリヤ層には高電流密度の電流が流れるため出来るだけ低抵抗であることが望ましい。チタンカーバイド及びチタンナイトライドの抵抗率は製法にもよるが数10mΩ・cmである。例えば、抵抗率1Ω・cm、厚さ100nmのガスバリヤ層であれば、厚さ方向の単位面積当たりの抵抗値は0.1mΩで許容範囲である。
【0031】
前記チタンカーバイド層は、例えば炭化水素ガスを含むプラズマ中でプラズマ浸炭法等によって形成することができる。また、チタンナイトライド層は窒素ガスを含むプラズマ中でプラズマ浸炭法と同様にチタン金属層表面にチタンナイトライド層を形成することができる。或いは、窒素雰囲気中で加熱することによって形成することもできる。前記ガスバリヤ層14の厚さは10~500nmである。好ましくは、30~300nmである。
【0032】
前述のように、チタンカーバイドやチタンナイトライドは燃料電池の動作環境で酸化されて酸化チタンになることが知られているが、導電性炭素皮膜で被覆することによって前記ガスバリヤ層の酸化を抑止することができる。即ち、導電性炭素皮膜を積層することによってガスバリヤ層が電解液に直接晒されないようにする。発明者らの実施結果によれば、酸素ガスや水蒸気が前記導電性炭素皮膜を拡散してガスバリヤ層に達してもガスバリヤ層が酸化されて不動態化することはない。前記GDLとの接触抵抗も増加しないことが確認されている。
【0033】
前記ガスバリヤ層に発生するピンホール等による例えば直径1μm未満の微細貫通孔D1、或いは直径1μm以上の貫通欠陥部D2を皆無にすることは困難であるが、前記ガスバリヤ層14表面に導電性炭素被膜15を積層して積層ガスバリヤ層16を形成することによって、微細欠陥部分D1を封孔することができ耐食性をさらに向上させることができる。導電性炭素皮膜15の厚さは、その効果を考慮すれば20nm以上であり、生産性を考慮すれば500nm以下である。好ましくは30~200nmである。厚さが10nm以下では十分なガスバリヤ層の効果が得られず、300nm以上になると被膜形成時間が長くなり生産性の点で不利になる。
【0034】
また、前記導電性炭素皮膜15は、耐食性の向上とともに前記GDL電極1、2との接触界面の接触抵抗を低減する役割を担う。前記導電性炭素皮膜、例えばDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の抵抗率は製法によって異なる。常温で生成されたDLC皮膜はアモルファス構造で絶縁物に近い高抵抗皮膜となるが、基材温度が300℃以上で生成されたDLC皮膜にはsp2混成軌道を有する微結晶が多く含まれる低抵抗のDLC皮膜が得られる。前記GDL電極1、2もsp2混成軌道を有するグラファイトであるから低抵抗DLC皮膜を用いることによって、両者間の接触抵抗を低減することができる。前記セル4で発電した電流はセパレータ110に流れる構成である。従って、導電性炭素皮膜自体の電気抵抗及び両者の接触界面における接触抵抗が十分小さい材料であることが望ましい。例えば、導電性炭素皮膜の厚さ方向の単位面積当たりの抵抗値は1mΩ以下で、界面にける接触抵抗は5mΩ・cm2以下であることが望ましい。
【0035】
前記導電性炭素皮膜15の抵抗率は小さいほど好ましいが、導電性炭素皮膜の抵抗率の最小値は1mΩ・cm程度である。前記導電性炭素皮膜の抵抗率の好適な範囲は、1mΩ・cm~10Ω・cm、より好適な範囲は1mΩ・cm~1Ω・cmである。これは、導電性炭素皮膜の抵抗率が大きすぎると、燃料電池の内部抵抗が大きくなって、電力損失が大きくなり、実用的でないからである。
【0036】
本明細書では、導電性炭素皮膜の抵抗率が10Ω・cm以下の炭素皮膜であると想定している。また、高純度の炭素皮膜のみならず、必要量の窒素やホウ素等の不純物元素を含む炭素皮膜であってもよい。導電性炭素皮膜は炭化水素ガスを含む作業ガスの直流放電、或いは高周波放電を用いたプラズマCVD法によって生成することができる。前記導電性炭素皮膜の抵抗率は皮膜生成時の基材温度に依存し、好適な基材温度は150~400℃である。
【0037】
本発明に係る金属セパレータ110の実施工程では、シート状の金属基材11の表面に前記積層ガスバリヤ層16を形成した後、この金属基材を用いてガス流路となる凹凸形状の溝6、7等を有するセパレータ110に成形プレス加工を行う。プレス加工を行うと、金属基材11の延伸に伴ってチタン金属層13も延伸するためチタン金属層の剥離や亀裂は生じないが、前記積層ガスバリヤ層16には亀裂や剥離等の貫通欠陥部D2が発生する恐れがある。前記耐食性皮膜17はこれらの貫通欠陥部を封孔し、金属基材表面の腐食や金属イオンの溶出を抑制するものである。
【0038】
従って、前記耐食性皮膜17は前記積層ガスバリヤ層16と同等の耐食性機能を有することが望ましい。具体的には、前記金属基材の酸化皮膜又は前記導電性炭素皮膜を挙げることができる。
図2に示す微細貫通孔又は貫通欠陥部のミキシング層表面、或いは露出した金属基材表面を常温下で高濃度オゾン雰囲気中に曝す、或いは酸素を含むプラズマ中に曝すことによって金属基材、例えばSUS基材表面又はチタン金属表面に緻密な酸化不動態皮膜を形成することができ、金属イオンの溶出を低減することができる。これは、不動態皮膜の活性化エネルギーが大きくなり,結果として電気化学的な酸素消費型湿食反応が抑制されるためと考えられる。
発明者らの実施結果によれば、金属イオンの溶出を許容値以下に低減することができるとともに、前記導電性炭素皮膜と前記GDLとの界面における接触抵抗を1~5mΩ・cm
2に低減することができた。
【0039】
また、耐食性皮膜は金属オキサイド、導電性炭素皮膜に特定されるものではなく、クロムやチタンなどの金属カーバイド、或いは金属ナイトライドであってもよい。これらの耐食性皮膜は炭化水素ガスや窒素化合物ガスを含むプラズマ中で基材温度を200~400℃に保持してプラズマ浸炭法、或いはイオン注入法等によって形成することができる。
【0040】
以上、代表的な実施形態について説明したが、本発明はその要旨を変えない限り、上記実施形態により何ら制限されるものではない。また、本発明に開示した技術はセパレータとして成形加工された金属セパレータについても適用できる。即ち、実施工程1と実施工程2の順序を逆にして、シート状の金属基材11をガス流路となる凹凸形状の溝6、7等を有するセパレータ110に予め成形加工し、その表面にチタン金属層13及び前記積層ガスバリヤ層16を形成する。更に、必要に応じて前記積層ガスバリヤ層16に存在する貫通欠陥部分に耐食性皮膜17を形成して耐食性に優れた金属セパレータを実用化することができる。
【符号の説明】
【0041】
1、2 ガス拡散部材
11 金属基材
12 ミキシング層
13 チタン金属層
14 ガスバリヤ層
15 導電性炭素皮膜
16 積層バリヤ層
17 耐食性皮膜
110 セパレータ
D1 微細欠陥部
D2 貫通欠陥部