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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/31 20060101AFI20230802BHJP
   G01N 21/33 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
G01N21/31
G01N21/33
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020553343
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2019041107
(87)【国際公開番号】W WO2020085236
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2018201838
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-21996(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047168(WO,A1)
【文献】特開2013-50403(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080532(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 21/03-G01N 21/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定流体が流入する測定空間と、前記測定空間に入射させる光を発する光源であって第1の波長の光を発生する第1の発光素子と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光を発生する第2の発光素子とを含む光源と、前記測定空間から出射した光を受け取る光検出器と、前記測定空間における流体温度を測定する温度センサと、前記測定空間における流体圧力を測定する圧力センサと、前記光検出器の出力に基づいて前記測定流体の濃度を演算により求める演算制御回路とを備え、前記測定流体の圧力及び温度に基づいて、前記第1の波長の光または前記第2の波長の光のいずれかを用いて濃度を測定するように構成されており、前記演算制御回路が、前記光検出器の信号に基づいてランベルト・ベールの法則を利用して濃度を求めるとともに前記温度センサの出力および前記圧力センサの出力に基づいて前記濃度を補正するように構成されている濃度測定装置を用いて行う濃度測定方法であって、
前記測定流体はNO2を含むガスであり、前記第1の波長は380nm以上430nm以下、前記第2の波長は500nm以上550nm以下である、NO2の濃度測定方法。
【請求項2】
測定流体が流入する測定空間と、前記測定空間に入射させる光を発する光源であって第1の波長の光を発生する第1の発光素子と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光を発生する第2の発光素子とを含む光源と、前記測定空間から出射した光を受け取る光検出器と、前記測定空間における流体温度を測定する温度センサと、前記測定空間における流体圧力を測定する圧力センサと、前記光検出器の出力に基づいて前記測定流体の濃度を演算により求める演算制御回路とを備え、前記測定流体の圧力及び温度に基づいて、前記第1の波長の光または前記第2の波長の光のいずれかを用いて濃度を測定するように構成されており、前記演算制御回路が、前記光検出器の信号に基づいてランベルト・ベールの法則を利用して濃度を求めるとともに前記温度センサの出力および前記圧力センサの出力に基づいて前記濃度を補正するように構成されている濃度測定装置を用いて行う濃度測定方法であって、
前記測定流体はTiCl4を含むガスであり、前記第1の波長は280nm以上300nm未満、前記第2の波長は300nm以上340nm未満である、TiCl4の濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定装置に関し、特に、測定流体が流入する測定空間を透過した光の吸光度に基づいて、測定流体の濃度を測定するように構成された濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体製造装置に供給される有機金属(MO)等の液体材料や固体材料から形成された原料ガスの濃度を測定する濃度測定装置等が知られている。この種の濃度測定装置は、測定流体が流れる測定セルに、光入射窓を介して光源から所定波長の光を入射させ、測定セル内を通過した透過光を受光素子で受光することによって吸光度を測定するように構成されている。測定された吸光度からは、ランベルト・ベールの法則に従って測定流体の濃度を求めることができる(例えば、特許文献1または2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-219294号公報
【文献】国際公開第2018/021311号
【文献】特開2004-138425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸光度に基づいて測定流体中に含まれる所定流体の濃度を測定するためには、所定流体による吸光が比較的大きく生じる波長域の光を入射させることが求められる。吸光されにくい波長の光を用いた場合、所定流体の濃度の違いが吸光度に反映されにくく、濃度検出の精度は著しく低下する。
【0005】
しかしながら、本発明者の実験によれば、吸光度が大きすぎる波長の光を用いたときも、濃度測定が困難になる場合があることがわかった。このため、測定流体に適合する適切な波長の光を用いて濃度測定を適切に行うという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、種々の測定流体に対して、吸光度に基づいて適切に濃度測定を行うことができる濃度測定装置を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態による濃度測定装置は、測定流体が流入する測定空間と、前記測定空間に入射させる光を発する光源と、前記測定空間から出射した光を受け取る光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記測定流体の濃度を演算する演算制御回路とを備え、前記演算制御回路は、前記光検出器の信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則を利用して流体濃度を求めるように構成されている濃度測定装置であって、前記光源は、第1の波長の光を発生する第1の発光素子と、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光を発生する第2の発光素子とを含み、前記測定流体の圧力または温度に基づいて、前記第1の波長の光または前記第2の波長の光のいずれかを用いて濃度を演算するように構成されている。
【0008】
ある実施形態において、上記の濃度測定装置は、前記測定空間における流体温度を測定する温度センサをさらに備え、前記温度センサの出力に基づいて前記濃度を補正するように構成されている。
【0009】
ある実施形態において、上記の濃度測定装置は、前記測定空間における流体圧力を測定する圧力センサをさらに備え、前記圧力センサの出力に基づいて前記濃度を補正するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、測定流体の状態に応じて適切に濃度測定を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による濃度測定装置の全体構成を示す模式図である。
図2】NO2の濃度による吸光スペクトルの違いを示すグラフである。
図3】NO2の吸光度測定の結果を示すグラフである。
図4】TiCl4の温度による吸光スペクトルの違いを示すグラフである。
図5】TiCl4の吸光度測定の結果を示すグラフである。
図6】本発明の他の実施形態によるインライン式の濃度測定装置を示す模式図である。
図7】本発明のさらに他の実施形態によるインライン式の濃度測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本実施形態の濃度測定装置100の構成例を示す図である。濃度測定装置100は、半導体製造装置(例えばプラズマCVD装置)のチャンバ10の内部(測定空間10A)に流入した流体の濃度を測定するように構成されている。
【0014】
チャンバ10の内部には、半導体デバイス用のウェハを載置するためのサセプタ12と、サセプタ12の上方(ガス導入管側)に配置されたシャワープレート14とが設けられている。シャワープレート14とサセプタ12とは、所定の間隙を開けて平行に配置されている。また、シャワープレート14には、流体が通過する多数の孔が形成されており、チャンバ10に導入されたガスは、シャワープレート14によって拡散されて、ウェハ上により均一に供給される。また、サセプタ12の下方において、チャンバ10には排気管および真空ポンプ16が設けられており、チャンバ10内の余剰ガスは排気される。真空ポンプ16は、チャンバ10内を真空引きするためにも用いられる。
【0015】
また、チャンバ10には、圧力センサ17および温度センサ18が取り付けられており、チャンバ10内の流体の圧力および温度を測定することができる。
【0016】
チャンバ10にガスを供給するためのガス供給部1は、本実施形態では、NO2ガスソース2aと、N2ガスソース2bとを含んでおり、それぞれのガスラインが途中で合流し、NO2ガスとN2ガスとの混合ガスGがチャンバ10に供給されるように構成されている。また、各ガスラインには流量制御装置3が設けられており、各ガスの流量を調整することによって所望の混合比(またはNO2濃度)の混合ガスGを供給することができる。NO2ガスの流量は例えば3.7sccmに設定され、N2ガスの流量は例えば100sccmに設定される。流量制御装置3としては、例えば、特許文献3に記載の公知の圧力式流量制御装置を用いることができる。圧力式流量制御装置は、絞り部と制御弁とを有しており、絞り部の上流側圧力に基づいて制御弁の開度を調整することによって流量を制御するように構成されている。
【0017】
濃度測定装置100は、チャンバ10内の測定空間10Aに流入した混合ガス中のNO2濃度を、吸光度に基づいて測定するように構成されている。このために、濃度測定装置100は、チャンバ10の一方の側部からチャンバ10内に光を入射させるための入射側光ファイバ21aと、チャンバ10の他方の側部から出射した光を導光するための出射側光ファイバ21bと、入射側光ファイバ21aおよび出射側光ファイバ21bに接続された濃度測定ユニット20とを備えている。濃度測定ユニット20は、使用している部品や基板等の耐熱温度の関係もあり、チャンバ10から離れた場所に配置され、チャンバ10内が高温になったときにも、温度の影響によって破損・誤動作が生じないようになっている。
【0018】
なお、本明細書において、光とは、可視光線のみならず、少なくとも赤外線、紫外線を含み、任意の波長の電磁波を含み得る。また、透光性とは、測定空間10Aに入射させる前記の光に対する内部透過率が濃度測定を行い得る程度に十分に高いことを意味する。
【0019】
入射側光ファイバ21aは、チャンバ10の一方の側に接続され、チャンバ10の側壁に設けられた透光性の入射側窓部11aを介して、濃度測定ユニット20からの入射光を測定空間10Aに入射させる。また、出射側光ファイバ21bは、チャンバ10の他方の側に接続され、チャンバ10の側壁に設けられた透光性の出射側窓部11bを介して、測定空間10Aからの検出光を受け取り、濃度測定ユニット20に導光する。
【0020】
入射側窓部11aと出射側窓部11bとは、シャワープレート14とサセプタ12との間を光が通過するように、測定空間10Aを挟んで対向するように配置されている。また、濃度測定装置100は、入射側光ファイバ21aに接続された入射側窓部11aの近傍のコリメータと、出射側光ファイバ21bに接続された出射側窓部11bの近傍のコリメータとを有し、測定空間10Aを平行光が通過するように構成されている。入射側窓部11aと出射側窓部11bとの距離、すなわち、測定空間10Aを通過する光の光路長は、例えば、200mm~300mmに設定される。
【0021】
上記のように光ファイバ21a、21bによってチャンバ10と接続された濃度測定ユニット20は、測定空間10Aに入射させる光を発生する光源22と、測定空間10Aから出射した光の強度を測定する光検出器24と、光源22および光検出器24に接続された演算制御回路26とを有している。光検出器24を構成する受光素子としては、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタが好適に用いられる。
【0022】
光源22は、それぞれ異なる波長の光を発する第1発光素子22aと第2発光素子22bとを備えており、本実施形態では、第1および第2発光素子はLEDである。第1発光素子22aおよび第2発光素子22bは、ハーフミラー22cに向けて光を出射するように取り付けられており、いずれの発光素子22a、22bからの光も、入射側光ファイバ21aを介して測定空間10A内に入射させることができる。
【0023】
また、光源22は、第1発光素子22aおよび第2発光素子22bから、2つの波長の光をパルス状に交互に出力するように構成されていても良いし、2波長の光を同時に出力するように構成されていてもよい。2波長の光を同時に出力する場合、WDM(波長分割多重方式)の合波器により2波長の光を合成するとともに、第1発光素子22aおよび第2発光素子22bには、発振回路を用いて異なる周波数の駆動電流が流される。このように異なる周波数で各発光素子を駆動することにより、後に、周波数解析(例えば、高速フーリエ変換やウェーブレット変換)を行って、光検出器24が検出した検出信号から、各波長成分に対応した光の強度ひいては吸光度を測定することができる。また、光源22は、測定流体の濃度が特定の濃度になった時点で第1発光素子22aおよび第2発光素子22bのいずれを発光させるかを切り替えるように構成されていてもよい。
【0024】
演算制御回路26は、光源22に接続された光源制御部27と、光検出器24に接続された濃度演算部28とを有している。光源制御部27は、上記の第1発光素子22aと第2発光素子22bとの発光を制御することができる。また、濃度演算部28は、光検出器24の検出信号に基づいて測定流体の濃度を演算することができる。
【0025】
演算制御回路26は、例えば、回路基板上に設けられたプロセッサやメモリなどによって構成され、入力信号に基づいて所定の演算を実行するコンピュータプログラムを含み、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現され得る。
【0026】
以上のように構成された濃度測定装置100において、演算制御回路26の濃度演算部28は、光検出器24からの検出信号に基づいて波長λにおける吸光度Aλ(-log10(I/I0))を求めることができ、また、以下の式(1)に示すランベルト・ベールの法則に基づいて、ガス濃度Cを算出することができる。
Aλ=-log10(I/I0)=αLC ・・・(1)
【0027】
上記の式(1)において、I0は測定空間に入射する入射光の強度、Iは測定空間を通過した光の強度、αはモル吸光係数(m2/mol)、Lは測定空間内の光路長(m)、Cは濃度(mol/m3)である。モル吸光係数αは物質によって決まる係数である。
【0028】
なお、上記式における入射光強度I0は、測定空間10Aに吸光性のガスが存在しないとき(例えば、吸光性を有しないパージガスが充満しているときや、真空に引かれているとき)に光検出器24によって検出された光の強度であってよい。
【0029】
以下、濃度測定に用いる光源22の詳細について説明する。上述したように、光源22は、第1発光素子22aと、第2発光素子22bとを備えている。本実施形態では、第1発光素子22aが発する光の波長は405nmであり、第2発光素子22bが発する光の波長は525nmである。そして、光源22を制御する光源制御部27は、第1発光素子22aまたは第2発光素子22bのいずれかを発光させ、405nmまたは525nmのいずれかの波長の光を測定空間10Aに入射させることができるように構成されている。いずれの波長の光を用いるかは、例えば、測定対象のガスの濃度域によって適宜選択される。
【0030】
図2は、入射光波長と透過率(I/I0)との関係(以下、透過率特性と呼ぶことがある)を示すグラフであり、N2ガス中のNO2濃度による透過率特性の違いを示している。グラフには、NO2濃度が、0.74%、2.22%、3.70%、7.39%、14.8%のそれぞれの場合A1~A5について、透過率特性が示されている。なお、透過率の値が1である場合、測定空間中においてガスによる吸光は生じておらず吸光度が0であり、一方、透過率の値が0である場合、測定空間中においてガスが完全に吸光され、吸光度による濃度の測定が不可能である。また、本グラフは、測定空間内のガス圧力が200Torrの時のグラフである。
【0031】
図2から、NO2の吸光のピーク波長は405nm近傍であり、405nmの波長の光に対しては、0.74%~14.8%の濃度範囲において、濃度に対応して透過率が十分に異なることが分かる。このため、NO2の濃度が低濃度域(例えば0~20%、特には0~15%)のときには、405nmの波長の光を用いて、ランベルト・ベールの法則に従って、吸光度から濃度の測定を適切に行えることがわかる。
【0032】
しかしながら、濃度14.8%のグラフA5からわかるように、濃度が比較的大きくなると、透過率(I/I0)は小さいものとなり、より高濃度域では、濃度の差が透過率または吸光度に反映されにくくなることが推察できる。したがって、高濃度域では濃度測定の精度が著しく低下し得る。また、特に濃度が大きい領域では、透過率が略0の一定の値となって濃度測定が適切に行えない可能性が生じる。したがって、より高濃度域の測定を行うときには、吸収係数が高い波長(405nm)からずらした、より吸光されにくい、すなわち吸光係数が低い波長(525nm)の光を用いた方が、濃度測定の精度を向上させることができる。
【0033】
このため、本実施形態では、NO2の濃度測定において、低濃度域のときには、第1発光素子が発する380nm以上430nm以下の波長の光を用いて濃度測定を行い、高濃度域のときには第2発光素子が発する500nm以上550nmの波長の光を用いて濃度測定を行うようにしている。これによって、適切に濃度測定を行える範囲を広げることが可能になる。
【0034】
また、図3(a)および(b)は、NO2濃度100%のときの、チャンバ内圧力と透過率(I/I0)との関係、および、チャンバ内圧力と吸光度(-ln(I/I0))との関係を示すグラフであり、それぞれのグラフにおいて入射光の波長が405nmの場合と525nmの場合とを示している。
【0035】
図3(a)からわかるように、吸光係数が高い405nmの波長の光を用いた場合、第1の圧力域(例えば0~6Torr)において、透過率の検出が精度よく行えるので、濃度測定が好適に行える。ただし、第2の圧力域(例えば6Torr以上)では、透過率の検出精度が低下し、圧力がより高いほど検出精度が低下することがわかる。なお、図3(b)では、第2の圧力域のときにも波長405nmの光を用いて吸光度が求められ得ることが示されているが、実際には、高圧力のときには透過率がほとんど0になるため、正確に吸光度を求めることは困難である。
【0036】
一方、吸光係数がより低い525nmの波長の光を用いた場合、第1の圧力域では透過率が高すぎる(すなわち、100%濃度でも吸光度が小さすぎる)ので、濃度測定を精度よく行いにくい。ただし、第2の圧力域では、透過率の検出精度が良好であるので、濃度検出も適切に行うことができる。
【0037】
以上の結果から、測定対象が高濃度域でガス圧力が比較的高いときの濃度測定には、525nmの波長の光を用いることが好適であることがわかる。また、低濃度域、あるいは、高濃度域であってもガス圧力が比較的低いときには、405nmの波長の光を用いることが好適であることがわかる。
【0038】
なお、実際に測定できるチャンバ内圧力は、測定対象のガス成分(吸光ガス)およびキャリアガスを含む混合ガスの全圧Ptを示しており、測定対象のガスの分圧をPmとし、その濃度をCmとすると、Pm=Pt・Cmと表すことができる。また、理想気体の状態方程式およびランベルト・ベールの式からln(I0/I)=αm・L・Pm/RT(ただし、αmは、吸光ガスの吸光係数、Rは吸光ガスの気体定数、Tはガス温度)を導くことができる。さらに、上記の式から分圧Pmを消去するように式変形を行うと、Cm=ln(I0/I)・(R・T)/(αm・L・Pt)となり、すなわち、濃度Cmは、全圧Ptおよび温度Tに依存することがわかる。
【0039】
したがって、圧力センサ17および温度センサ18を用いて測定したチャンバ内圧力(全圧)Ptおよびガス温度Tに基づいて補正を行うことによって、より正確に吸光ガスの濃度Cmを求めることができる。なお、吸光ガスの吸光係数αmは、出荷時等に、規定濃度の吸光ガスを供給するとともに吸光度を測定することによって予め求めておくことができ、吸光係数αmをメモリに格納しておくことにより、濃度測定の際にはメモリから読み出して用いることができる。
【0040】
次に、TiCl4の濃度測定を行う場合について説明する。図4は、TiCl4の濃度が100%の場合における、各温度(20℃、10℃、5℃、0℃、-5℃、-10℃、-20℃、-25℃、-30℃)での透過率特性を示すグラフT1~T9である。グラフT1~T9からわかるように、TiCl4は、230nmおよび285nmの近傍に吸光ピーク波長を有している。また、-30℃~20℃の温度では、温度が高いほど吸光の程度が大きくなることがわかる。特に、グラフT1~T6に示されるように、-10℃以上の温度では、280nmの光を用いると透過率が0となり、100%近辺の高濃度域では濃度測定が困難になることがわかる。
【0041】
このため、ガス温度に応じて異なる波長の光を用いて濃度測定を行うことが考えられる。例えば、-20℃以下のTiCl4ガスの濃度を測定するときには、吸光係数が高い280nm以上300nm未満の波長の光を用いて濃度測定を行い、-20℃以上のTiCl4ガスの濃度を測定するときには、吸光係数がより低い300nm以上340nm未満の波長の光を用いて濃度測定を行うことが考えられる。
【0042】
図5は、TiCl4濃度100%のときの、チャンバ内圧力と透過率(I/I0)との関係を示すグラフであり、入射光の波長が、280nm、310nm、325nm、340nmのそれぞれのときのグラフが示されている。
【0043】
図5からわかるように、吸光係数が高い280~310nmの波長の光を用いた場合、第1の圧力域(例えば0~5Torr)において、透過率の検出が精度よく行えるので、濃度測定が好適に行える。ただし、第2の圧力域(5Torr以上)では、透過率の検出精度が低下し、圧力がより高いほど検出精度が低下することがわかる。一方、吸光係数がより低い325~340nmの波長の光を用いた場合、第1の圧力域では透過率の変化が小さく、濃度測定を行いにくいが、第2の圧力域では、透過率の検出精度が良好であるので、濃度検出を適切に行うことができる。
【0044】
以上の結果から、低温でガス圧力が比較的大きいときの濃度測定には、325~340nmの波長の光を用いることが好適であることがわかる。また、高温、あるいは、低温であっても、ガス圧力が比較的低いときには、280~310nmの波長の光を用いることが好適であることがわかる。
【0045】
以上、本発明の実施形態を説明したが、種々の改変が可能である。例えば、上記には第1発光素子および第2発光素子を用いて、2つの波長の入射光を用いる態様を説明したが、3つ以上の発光素子を用いて、3つ以上の波長のいずれかの光によって濃度測定を行うようにしてもよい。例えば、NO2の濃度測定を行う場合、低濃度域、中濃度域、高濃度域のそれぞれで異なる波長の光を用いるようにしてもよい。
【0046】
また、上記には、半導体製造装置のチャンバ10の内部におけるガス濃度を測定する濃度測定装置を説明したが、他の実施形態において、インライン式の濃度測定装置であってもよい。なお、インライン式の反射型濃度測定装置自体は、例えば、特許文献2(国際公開第2018/021311号)に開示されている。
【0047】
図6は、インライン式の反射型濃度測定装置200に用いられる反射型の測定セル30を示す。測定セル30は、測定流体である混合ガスGの流入口30a、流出口30b、および垂直方向に延びる流路30cを有し、半導体製造装置のガス供給ラインの途中に組み込まれて、供給ガスの濃度を測定することができる。本実施形態では、流路30cが、測定流体の測定空間となる。
【0048】
測定セル30には、流路30cに接する透光性の窓部(透光性プレート)31および入射光を反射させる反射部材32が設けられている。窓部31の近傍には、光ファイバ34に接続されたコリメータ33が取り付けられており、光ファイバ34を介して図示しない光源からの光を測定セル30に入射させるとともに、反射部材32からの反射光を受光して光検出器へと導光することができる。本実施形態においても、光源は、図1に示した濃度測定装置100と同様に、少なくとも2波長の光を出射することができるように構成されている。
【0049】
また、反射型濃度測定装置200は、測定セル30内を流れる測定流体の圧力および温度を検出するための圧力センサ17および温度センサ18を備えている。圧力センサ17および温度センサ18の出力は、センサケーブルを介して図示しない演算部に接続されている。なお、上記の光源、光検出器、演算部は、図1に示した濃度測定装置100と同様に、測定セル30から離れた位置に濃度測定ユニットとして設けられている。
【0050】
また、図7は、測定セル30と濃度測定ユニット20とを、別個に設けた入射側光ファイバ34aと出射側光ファイバ34bとによって接続する、他の態様の二芯式の反射型濃度測定装置300を示す。反射型濃度測定装置300においても、光源として発光波長の異なる第1発光素子22aと第2発光素子22bとが用いられており、入射光は入射側光ファイバ34aを介して窓部31を通り測定セル30内に入射される。また、反射部材32からの反射光は、窓部31を通り出射側光ファイバ34bを介して光検出器24に入力される。反射型濃度測定装置300のように別個の光ファイバ34a、34bを用いることによって、迷光の影響を低減し得る。
【0051】
以上に説明したインライン式の反射型濃度測定装置200、300においても、光源に2波長以上の発光素子を設けて、測定セル(測定空間)の内部を流れるガス濃度やガス温度に基づいて発光波長を適切に選択することで、より広い濃度範囲にわたって精度の向上した濃度測定を行うことができる。
【0052】
また、本発明の他の実施形態による濃度測定装置は、反射部材を用いることなく、測定セルの一端側から入射光を入射させ、測定セルの他端側から測定光を取り出すように構成された透過型のインライン式の濃度測定装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の実施形態にかかる濃度測定装置は、種々の条件の測定流体の濃度を測定するために好適に用いられる。
【符号の説明】
【0054】
1 ガス供給部
2a NO2ガスソース
2b N2ガスソース
3 流量制御装置
10 チャンバ
10A 測定空間
12 サセプタ
14 シャワープレート
16 真空ポンプ
17 圧力センサ
18 温度センサ
20 濃度測定ユニット
21a 入射側光ファイバ
21b 出射側光ファイバ
22 光源
22a 第1発光素子
22b 第2発光素子
24 光検出器
26 演算制御回路
27 光源制御部
28 濃度演算部
30 測定セル
31 窓部
32 反射部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7