IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インダストリー ファウンデーション オブ チョンナム ナショナル ユニバーシティーの特許一覧

特許7323949フラジェリン融合タンパク質及びその使用
<>
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図1
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図2
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図3
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図4
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図5
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図6
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図7
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図8
  • 特許-フラジェリン融合タンパク質及びその使用 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】フラジェリン融合タンパク質及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230802BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230802BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 27/12 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/31
C12N15/13
C07K14/195
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/16
A61K39/39
A61K39/02
A61P37/04
A61P1/04
A61P3/00
A61P7/00
A61P17/14
A61P19/08
A61P19/10
A61P27/12
A61P35/00
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021562307
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 KR2020005327
(87)【国際公開番号】W WO2020218829
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】10-2019-0046866
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308026861
【氏名又は名称】インダストリー ファウンデーション オブ チョンナム ナショナル ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ギョン ア
(72)【発明者】
【氏名】リム,ジェ ソン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2008-0074556(KR,A)
【文献】特表2007-513183(JP,A)
【文献】特表2010-524854(JP,A)
【文献】特表2017-504325(JP,A)
【文献】EMBO molecular medicine,2012年,Vol.4,pp.1015-1028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラジェリン(flagellin)と、天然アミノ酸配列を有する免疫グロブリンのFc領域とを含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記フラジェリンは、バチルス(Bacillus)属、サルモネラ(Salmonella)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、ビブリオ(Vibrio)属、セラチア(Serratia)属、赤痢菌(Shigella)属、トレポネーマ(Treponema)属、レジオネラ(Legionella)属、ボレリア(Borrelia)属、クロストリジウム(Clostridium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、バルトネラ(Bartonella)属、プロテウス(Proteus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、エスケリキア(Escherichia)属、リステリア(Listeria)属、エルシニア(Yersinia)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、ロゼブリア(Roseburia)属、及びマリノバクター(Marinobacter)属からなる群から選択される微生物に由来するフラジェリンであることを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記フラジェリンは、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・ダブリン(Salmonella Dublin)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、ビブリオ・フィブリソルベンス(Vibrio fibrisolvens)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcesens)、フレキシネル赤痢菌(Shiglla flexneri)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、バルトネラ・クラリゲイアエ(Bartonella clarridgeiae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、ペスト菌(Yersinia pestis)、カンピロバクター(Campylobacter spp)、ロゼブリア(Roseburia spp)、及びマリノバクター(Marinobacter spp)からなる群から選択される微生物に由来するフラジェリンであることを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記フラジェリンは、TLR5(Toll様受容体5)によって認識される保存配列(conserved sequence)を含むことを特徴とする請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記免疫グロブリンのFc領域は、ヒト又は動物の免疫グロブリンIgG、IgM、IgD、IgA、もしくはIgEのFcから誘導されたことを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記免疫グロブリンのFc領域は、ヒト又は動物の免疫グロブリンIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4のFcから誘導されたことを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記免疫グロブリンのFc領域は、CH1、CH2、CH3、及びCH4ドメインからなる群から選択される1以上を含むことを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記免疫グロブリンのFc領域は、ヒンジ(hinge)領域を追加的に含むことを特徴とする、請求項7記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記フラジェリンのN末端又はC末端が、前記免疫グロブリンのFc領域のN末端又はC末端に結合されたことを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項10】
前記フラジェリンと、前記免疫グロブリンのFc領域とが、リンカーを通じて接続されたことを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記フラジェリンは、配列番号1~5からなる群から選択されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項12】
前記免疫グロブリンのFc領域は、配列番号6もしくは7のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項13】
前記リンカーは、配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項10記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記融合タンパク質は、配列番号10~16からなる群から選択されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか記載の融合タンパク質を符号化するポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項17】
請求項16記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか記載の融合タンパク質を有効成分として含む薬学的組成物。
【請求項19】
前記薬学的組成物は、Toll様受容体5(TLR5)の刺激活性を示すことを特徴とする、請求項18記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記薬学的組成物は、放射線照射による損傷の予防もしくは治療用;再灌流損傷の予防もしくは治療用;炎症性腸疾患の予防もしくは治療用;自己免疫疾患の予防もしくは治療用;ウイルス感染症の予防もしくは治療用;代謝疾患の予防もしくは治療用;老化の予防もしくは治療用;免疫機能増強用;又は癌の予防もしくは治療用であることを特徴とする、請求項18記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記放射線照射による損傷は、胃腸症候群又は造血症候群であることを特徴とする、請求項20記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記老化は、老化による脱毛、白内障、ヘルニア、大腸炎、骨粗しょう症、及び骨軟化症からなる群から選択される1以上であることを特徴とする、請求項20記載の薬学的組成物。
【請求項23】
請求項1~14のいずれか記載の融合タンパク質を有効成分として含むワクチン補助剤。
【請求項24】
放射線照射による損傷の治療用薬学的製剤;再灌流損傷の治療用薬学的製剤;炎症性腸疾患の治療用薬学的製剤;自己免疫疾患の治療用薬学的製剤;ウイルス感染症の治療用薬学的製剤;代謝疾患の治療用薬学的製剤;老化の治療用薬学的製剤;免疫機能増強用薬学的製剤;又は癌の治療用薬学的製剤を製造するための請求項1~14のいずれか記載の融合タンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年4月22日に出願された韓国特許出願第10-2019-0046866号に基づく優先権を主張し、前記明細書全体は参照により本出願に援用する。
【0002】
本発明は、フラジェリン融合タンパク質及びその使用に関するものであり、より詳細には、フラジェリン(flagellin)、その断片、又はその変異体と、免疫グロブリンのFc領域とを含む融合タンパク質及びそのToll様受容体5(TLR5)の刺激活性を利用した使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
鞭毛(flagella)は、細菌の運動性を決定する重要な構成要素であり、大きく分けて、フック(hook)、基底小体(basal body)、及びフィラメント(filament)で構成されている。鞭毛は、細菌の遊泳(swimming)、遊走運動(swarming motility)、又は走性(taxis)を決定し、バイオフィルム(biofilm)を形成し、病原性微生物の付着能を決定する機能があることが知られている。鞭毛のフィラメントを構成する構成単位のタンパク質は、フラジェリン(flagellin)と呼ばれており、フラジェリンが規則的に組み合わされて(assembling)、フィラメントを形成する。非特許文献1は、哺乳類が発現するTLR5がグラム陰性及びグラム陽性細菌のフラジェリンを認識してNF-κBを活性化することを報告した。
【0004】
フラジェリンは、細菌鞭毛の鞭状のフィラメントが組み合わさって形成される構造タンパク質であり、細胞の表面から伸び、細菌の移動を可能にする機能を有する。フラジェリンは、毒性因子として作用し、病原性細菌が宿主細胞内に浸透して侵入することを促進する。フラジェリンは、細菌においてのみ発見され、鞭毛性細菌(Flagellated bacteria)において、最も豊富なタンパク質のうち一つであるため、フラジェリンは宿主の免疫監視の主な対象となる。細菌の侵入の際、フラジェリンは、宿主においてToll様受容体5(TLR5)とNAIP5/NLRC4によって検出され、宿主における先天性免疫を活性化させ、病原体を宿主から速やかに排除することに貢献する。
【0005】
TLR5は、細胞の表面に位置する先天性免疫受容体であり、細胞外ロイシンリッチリピート(LRR;leucine-rich repeat)ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインから構成される。TLR5は、フラジェリンを、細胞外ドメインを使用する病原体関連分子パターンとして認識し、MyD88依存性シグナル伝達経路及びNF-κB媒介炎症性サイトカインの生成を活性化させる。
【0006】
フラジェリンは、鞭毛性病原性細菌に対する最初の防御線としての役割を果たすため、ワクチン担体タンパク質又はワクチン補助剤の開発対象として注目されてきた。抗原とフラジェリンとの融合タンパク質は、西ナイル熱、マラリア、感染症、及び結核をはじめとする様々な伝染性疾病の実験用ワクチンに有効であることが立証されており、フラジェリンによるTLR5活性化も、放射線から造血細胞や胃腸組織を保護し、癌細胞の生存と成長に影響を与えることが報告された。
【0007】
フラジェリンは、2~4つのドメインを含む。例えば、Bacillus subtilis Hag鞭毛、Pseudomonas aeruginosa A型のFlic鞭毛、Salmonella enterica subspecies enterica serovar Typhimurium Flic鞭毛は、それぞれ、2つ(D0及びD1)、3つ(D0、D1、及びD2)、及び4つ(D0、D1、D2、及びD3)のドメインを含む。これらに共通的するD0及びD1ドメインは、鞭毛間相互作用を仲介し、鞭毛フィラメントの中心に位置しており、フィラメント形成の機能的重要性により、細菌種の間において極めて多く保存されている。フラジェリンポリマー化されたフィラメントではなく、フラジェリン単量体(monomer)がTLR5を活性化するため、前述のD0及びD1ドメインがTLR5の主要な刺激因子であると考えられている。3つ及び4つのドメインのフラジェリンにおいて、D1ドメインは、鞭毛フィラメントの表面にある補助ドメイン(D2及びD3)に拡張され、フィラメントの形成にほとんど又は全く寄与しない。D0及びD1ドメインとは異なって、D2又はD3ドメインは、配列及び構造において実質的な変化を示し、適応性免疫を活性化させ、フラジェリンに基づく治療法で好ましくない毒性を誘発すると考えられている。よって、D0/D1を有する放射線治療バイオ薬CBLB502は、Salmonella flagellinにおける超可変領域(D2及びD3ドメイン)を削除することによって開発された。
【0008】
Bacillus subtilis及びclostridium difficileのような多くのグラム陽性菌は、超可変領域が欠けるフラジェリンを発現するため、TLR5活性化及びフラジェリンの重合に必要な最小領域(D0とD1領域)は、鞭毛性フィラメントに含まれる場合もある。
【0009】
フラジェリン-TLR5相互作用及びその細胞性の結果は、サルモネラ・フラジェリンを使用して広範な研究が可能となった。Salmonella enterica subspecies enterica serovar Dublin flagellinのD1-D2領域(SdフラジェリンD1-D2)と、ゼブラフィッシュTLR5のN末端断片との間の複合体に対する構造的及び生化学的研究は、フラジェリンとTLR5が、「1次結合」を通じて1:1複合体を形成し、その後に「2次二量体化」を通じて2:2複合体にホモ二量体化(homodimerize)することが知られている。
【0010】
フラジェリンとTLR5との相互作用に関する多くの研究結果をもとに、フラジェリンの修飾を通じてTLR5活性化を増大させるための研究も多様に行われているが、フラジェリン-TLR5の2:2複合体構造をターゲットとした新型のフラジェリンタンパク質の研究は皆無であることが実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Hayashi F, Smith KD, Ozinsky A, Hawn TR, Yi EC, Goodlett DR, Eng JK, Akira S, Underhill DM, Aderem A: Nature 410: 1099-1103, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
[発明の詳細説明]
[技術的課題]
このようにして、本発明者は、フラジェリンTLR5を活性化する場合に、2:2複合体構造が形成されることに注目し、TLR5活性化能が向上された新型のタンパク質を開発するために研究を重ねた結果、フラジェリンと免疫グロブリンFcとが融合した新型の融合タンパク質が、野生型(wild-type)フラジェリン及び公知のフラジェリン断片等に比べて、顕著に優れるTLR5活性化能を示すことを確認し、本発明を完成した。
【0013】
よって、本発明の目的は、フラジェリン、その断片、又はその変異体と、免疫グロブリンのFc領域とを含む融合タンパク質を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、前記融合タンパク質を符号化するポリヌクレオチドを提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、前記融合タンパク質を有効成分として含む薬学的組成物を提供することである。
【0018】
また、前記融合タンパク質からなる薬学的組成物を提供することである。
【0019】
また、本質的に前記融合タンパク質からなる薬学的組成物を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、前記融合タンパク質を有効成分として含むワクチン補助剤を提供することである。
【0021】
また、前記融合タンパク質からなるワクチン補助剤を提供することである。
【0022】
また、本質的に前記融合タンパク質からなるワクチン補助剤を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、放射線照射による損傷の治療;再灌流損傷の治療;炎症性腸疾患の治療;自己免疫疾患の治療;ウイルス感染症の治療;代謝疾患の治療;老化の治療;免疫機能増強;又は癌の治療用薬学的製剤を製造するための前記融合タンパク質の使用を提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、前記融合タンパク質を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする対象に投与することを含む、放射線照射による損傷の治療;再灌流損傷の治療;炎症性腸疾患の治療;自己免疫疾患の治療;ウイルス感染症の治療;代謝疾患の治療;老化の治療;免疫機能増強;又は癌の治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記本発明の目的を達成するために、本発明は、フラジェリン、その断片、又はその変異体と、免疫グロブリンのFc領域とを含む融合タンパク質を提供する。
【0026】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記融合タンパク質を符号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0027】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0028】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0029】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む薬学的組成物を提供する。
【0030】
また、本発明は、前記融合タンパク質からなる薬学的組成物を提供する。
【0031】
また、本発明は、本質的に前記融合タンパク質からなる薬学的組成物を提供する。
【0032】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含むワクチン補助剤を提供する。
【0033】
また、本発明は、前記融合タンパク質からなるワクチン補助剤を提供する。
【0034】
また、本発明は、本質的に前記融合タンパク質からなるワクチン補助剤を提供する。
【0035】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、放射線照射による損傷の治療;再灌流損傷の治療;炎症性腸疾患の治療;自己免疫疾患の治療;ウイルス感染症の治療;代謝疾患の治療;老化の治療;免疫機能増強;又は癌の治療用薬学的製剤を製造するための前記融合タンパク質の使用を提供する。
【0036】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする対象に投与することを含む、放射線照射による損傷の治療;再灌流損傷の治療;炎症性腸疾患の治療;自己免疫疾患の治療;ウイルス感染症の治療;代謝疾患の治療;老化の治療;免疫機能増強;又は癌の治療方法を提供する。
【0037】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0038】
本発明はフラジェリン、その断片、又はその変異体と、免疫グロブリンのFc領域とを含む融合タンパク質を提供する。
【0039】
本発明において、前記フラジェリンは、鞭毛性細菌による感染がされた場合、感染された宿主内で免疫反応を誘導することができる。より具体的には、人体の細胞膜の表面に存在するToll様受容体5(TLR5;Toll like receptor 5)は、前記フラジェリンとの相互作用を通じて細胞内シグナル伝達を誘発し、これにより転写因子であるNF-κBの発現が増加し、先天性免疫シグナルの活性化を誘導する他にも、獲得免疫反応を調節することができる。
【0040】
フラジェリンタンパク質は、例えば、米国特許第6,585,980号、第6,130,082号;第5,888,810号;第5,618,533号;第4,886,748号、及び米国特許公開番号2003/0044429号明細書;及びDonnelly et al. (2002) J. Biol. Chem. 43: 4045等で知られている。ほとんどのグラム陰性菌は鞭毛を発現するが、これは運動性を提供する表面構造を有する。鞭毛は基底小体、フィラメント、及びその両方を接続するフック(hook)で構成される。フィラメントは、単一タンパク質であるフラジェリンの長い重合体からなっており、端に小さいキャップタンパク質が形成されている。
【0041】
フラジェリンの重合は、N末端及びC末端において保存された領域によって媒介されるのに対し、フラジェリンタンパク質の中間に位置する超可変領域(hypervariable region)は、種によって配列及び長さが多様である。
【0042】
本発明において、前記フラジェリンは、任意の適切な細菌に由来するフラジェリンでもよい。当該業界において、多数のフラジェリン遺伝子がクローニングされて配列化されており、これらが参考になることもある。
【0043】
本発明において、前記フラジェリンの供給源としては、これらに限定されないが、バチルス(Bacillus)属、サルモネラ(Salmonella)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、ビブリオ(Vibrio)属、セラチア(Serratia)属、赤痢菌(Shigella)属、トレポネーマ(Treponema)属、レジオネラ(Legionella)属、ボレリア(Borrelia)属、クロストリジウム(Clostridium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、バルトネラ(Bartonella)属、プロテウス(Proteus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、エスケリキア(Escherichia)属、リステリア(Listeria)属、エルシニア(Yersinia)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、ロゼブリア(Roseburia)属、及びマリノバクター(Marinobacter)属の微生物が挙げられ、好ましくは、バチルス(Bacillus)属、サルモネラ(Salmonella)属、又はビブリオ(Vibrio)属の微生物を挙げることができる。
【0044】
本発明において、前記フラジェリンは、より好ましくは、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・ダブリン(Salmonella Dublin)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、ビブリオ・フィブリソルベンス(Vibrio fibrisolvens)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcesens)、フレキシネル赤痢菌(Shiglla flexneri)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、バルトネラ・クラリゲイアエ(Bartonella clarridgeiae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、ペスト菌(Yersinia pestis)、カンピロバクター(Campylobacter spp)、ロゼブリア(Roseburia spp)、及びマリノバクター(Marinobacter spp)に由来するフラジェリンでもよい。
【0045】
本発明において、前記フラジェリンは、より好ましくは、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・ダブリン(Salmonella Dublin)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、ビブリオ・フィブリソルベンス(Vibrio fibrisolvens)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、又はバチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)に由来するフラジェリンでもよい。
【0046】
最も好ましくは、枯草菌(Bacillus subtilis)に由来するフラジェリンでもよい。
【0047】
TLR5は、鞭毛フィラメントの組み合わせ及び運動に必要な細菌のフラジェリンの進化的に保存された部位を認識するが、一部のα及びεプロテオ細菌(カンピロバクター・ジェジュニ、ヘリコバクター・ピロリ、及びバルトネラ・バシリフォルミス)のフラジェリンは、TLR5に認識されないものとして、以下のような論文を通じて報告されている。[(2003) Microbes Infect. 5, 1345-1356; J. Infect. Dis. 189, 1914-1920; (2002) Nat. Rev. Cancer 2, 28-37; (2001) Clin. Infect. Dis. 32, 1201-1206. PMID: 11283810]。TLR5に認識される細菌のフラジェリンは、D0とD1ドメインの主要アミノ酸の配列が類似に保存されており、TLR5に認識されない細菌のフラジェリンにおいては、アミノ酸の配列が異なる(PNAS June 28, 2005 102 (26) 9247-9252; Scientific Reports| 7:40878| DOI: 10.1038/srep40878)。よって、本発明において、前記フラジェリンは、D0とD1ドメインにおいて、TLR5によって認識される保存(conserved)配列を含むフラジェリンでもよい。
【0048】
本発明の一実施例において、従来報告された論文を参照し、TLR5に認識される共通のアミノ酸配列がD0及びD1ドメインにおいて保存されている代表的な5種の細菌のフラジェリンを、Fc融合タンパク質で作製した。
【0049】
フラジェリンのN末端及びC末端不変領域は、当該技術分野において、その特徴が知られており、例えば、文献[Mimori-Kiyosue et al., (1997) J. Mol. biol. 270: 222-237; Iino et al., (1977) Ann. Genet. 11: 161-182; Schoenhals et al., (1993) J. Bacteriol. 175: 5395-5402を参照することができる。当業者の理解の通り、不変領域の大きさはフラジェリンタンパク質の供給源によって多少変わりうる。一般的に、N末端不変ドメインは、タンパク質のうち約170~180個のN末端アミノ酸を含むのに対し、C末端不変ドメインは、典型的には、約85~100個のC末端アミノ酸を含む。中心の超可変領域は、細菌間の大きさと順序に基づいてかなり多様であり、ほとんどの分子量の違いは、前記超可変領域によって説明することができる。様々な細菌に由来するフラジェリンタンパク質のN末端及びC末端の不変領域は公知となっており、まだ公知となっていない細菌に由来するフラジェリンも、通常の技術者が当該業界に公知となった技術を利用して、フラジェリン単量体の結晶構造を容易に究明することができる。
【0050】
本発明において、「フラジェリン」、「フラジェリンのN末端不変領域」、及び「フラジェリンのC末端不変領域」という用語は、前記例の細菌のうち任意のものに由来したフラジェリン活性断片及び変異体を含む。また、野生型(wild-type)のフラジェリン又はフラジェリンの一部は、安全性及び/又は免疫反応を増加させるために、及び/又はクローニングの手順もしくは他の実験の操作の結果として修飾することができ、このような修飾体(又は変異体)も本願発明の範囲に含まれる。
【0051】
本発明において、前記フラジェリンは、全長(full-length)フラジェリンを含むか、又はその活性断片(active fragment)を含んでもよい。また、「フラジェリン」、「フラジェリンのN末端不変領域」、及び「フラジェリンのC末端不変領域」等の用語は、自然発生的アミノ酸の配列を含むか、それぞれ自然発生するフラジェリン、フラジェリンのN末端不変領域、又はフラジェリンのC末端不変領域のアミノ酸配列と実質的に同一もしくは類似のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0052】
本発明において、フラジェリン、フラジェリンのN末端不変領域、フラジェリンのC末端不変領域、又はフラジェリンの他の部分の「活性断片」は、少なくとも約50、75、100、125、150、200、250、又は300個以上の隣接するアミノ酸及び/又は隣接するアミノ酸の約300、250、200、150、125、100、又は75個未満のアミノ酸を含み、下限が上限よりも小さい限り、これらの組み合わせも含んでもよい。前記活性断片は、宿主内においてTLR5経路を活性化させる作用を示すことができる断片を意味してもよい。
【0053】
特定の実施態様において、前記活性断片は、全長フラジェリンの約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%以上で、TLR5経路を活性化することができ、全長フラジェリン又はフラジェリン部位と同一又は本質的に同一な程度にTLR5経路を活性化することができ、又は全長フラジェリンもしくはフラジェリン部位に比べてより強くTLR5経路を活性化することができる。
【0054】
本発明において、前記活性断片は、TLR5経路活性化能を示す、フラジェリンの少なくとも一部を意味してもよい。前記「少なくとも一部」とは、フラジェリンのドメイン0、1、2、及び3において、TLR5経路活性化能を示す部分を意味してもよい。より具体的には、前記活性断片とは、全長フラジェリンにおいて、超可変領域(hypervariable region)が除去されたものでもよい。前記超可変領域とは、フラジェリンが由来する細菌の種類によって異なってもよく、特定のフラジェリンの全体配列のうち超可変領域に該当する配列は、通常の技術者が容易に把握して除去することができる。例えば、N末端のドメイン0、1;ドメイン2、ドメイン3;及びC末端のドメイン2、1、0を含む全長フラジェリンの場合、ドメイン3、又はドメイン2及び3が超可変領域でもよく、N末端のドメイン0、1;ドメイン2;C末端のドメイン1、0を含む全長フラジェリンの場合は、ドメイン2が超可変領域でもよい。あるいは、超可変領域が含まれていない形態のフラジェリンの場合(例えば、多くのグラム陽性菌に由来するフラジェリンは超可変領域が含まれていないこともある)には、フラジェリンタンパク質の折り畳み(folding)が起こるヒンジ(hinge)領域の配列が一部除去されたものでもよい。
【0055】
本発明で使用される用語「超可変領域」とは、プロペラ(propeller)ドメイン又は領域(region)、ヒンジ(hinge)、超可変部位、可変(variable)ドメイン又は領域等で表現されてもよい。
【0056】
本発明において、前記超可変領域が除去されたものは、超可変領域に該当するドメイン全体が除去されたものでもよく、又は超可変領域の配列のうち一部が除去されたものでもよい。
【0057】
本発明において、前記活性断片とは、野生型フラジェリンの超可変領域が除去され、除去された超可変領域に人工的配列(つまり、人工的配列のヒンジ又はリンカー)が挿入された形態のフラジェリンでもよい。
【0058】
本発明において、本発明の前記フラジェリン断片とは、野生型フラジェリンのC末端のドメイン0、C末端のドメイン1、C末端のドメイン2、N末端のドメイン2、N末端のドメイン1、N末端のドメイン0、及び前記各ドメインと80%以上のアミノ酸配列相同性を示す部分(region)からなる群から選択される一つ以上を含みつつTLR5経路活性能を示す断片を意味してもよい。
【0059】
特定の実施態様において、前記フラジェリンの活性断片は、全長フラジェリンの約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%以上で、TLR5経路を活性化することができ、全長フラジェリン又はフラジェリン部位と同一又は本質的に同一な程度にTLR5経路を活性化することができ、又は全長フラジェリン又はフラジェリン部位に比べてより強くTLR5経路を活性化することができる。
【0060】
本発明は、また、野生型フラジェリンの全長配列を有するタンパク質の他にも、そのアミノ酸配列の変異体も本発明の範囲に含まれる。本発明において、変異体とは、野生型のフラジェリン又はその断片タンパク質の一部のアミノ酸残基が、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、アミノ酸類似体の置換、又はこれらの組み合わせによって異なる配列を有するタンパク質を意味する。分子の活性(つまり、TLR5経路活性化能)を全体的に変更させないアミノ酸交換は、当該分野で公知となっている(H.Neurath, RLHill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。
【0061】
場合によって、本発明の前記変異体は、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)等で修飾(modification)された全長フラジェリン又はその断片でもよい。
【0062】
特定の実施態様において、前記フラジェリン又はその断片の変異体は、全長フラジェリン又はその断片の約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%以上で、TLR5経路を活性化することができ、全長フラジェリン又はその断片と同一又は本質的に同一な程度にTLR5経路を活性化することができ、又は全長フラジェリン又はその断片に比べて、より強くTLR5経路を活性化することができる。
【0063】
本発明において、前記フラジェリン、その断片、又はその変異体は、他のポリペプチドを含む融合タンパク質の形態でもよい。例えば、前記フラジェリンは、1つ以上の抗原を含む融合タンパク質でもよい。前記抗原の非限定的な例としては、肺炎連鎖球菌PspA1抗原、肺炎連鎖球菌PspA2抗原、肺炎連鎖球菌PspA3抗原、肺炎連鎖球菌PspA4抗原、肺炎連鎖球菌PspA5抗原、及び/又は肺炎連鎖球菌PspA6抗原が挙げられる。又は、例えば、前記フラジェリンは、1つ以上の免疫調節性物質が結合された融合タンパク質の形態でもよい。前記免疫調節性物質は、当該業界において免疫反応を増加させることが知られているのであれば、制限されずに含んでもよく、その非限定的例としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロンω、インターフェロンτ、インターロイキン1α、インターロイキン1β、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン7、インターロイキン8、インターロイキン9、インターロイキン10、インターロイキン11、インターロイキン12、インターロイキン13、インターロイキン14、インターロイキン18、B細胞成長因子、CD40リガンド、TNF-α、TNF-β、CCL25、CCL28、又はその活性断片等を挙げることができる。
【0064】
本発明において使用される用語「パーセント(%)配列相同性」とは、配列を整列してギャップを導入した後、必要に応じて、最大パーセント配列同一性を達成するために、任意の保存的置換を配列同一性の一部として考慮せずに、基準ポリペプチド内のアミノ酸残基と同一の候補配列の中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸相同性を決定するための目的の整列は、例えば、公開されて入手することができるコンピュータソフトウェアプログラムを使用して、当該業界の技術の範囲内にある様々な方法、及びブラスト(BLAST)、ブラスト-2、アライン(ALIGN)、又はメガライン(Megalign)(DNASTAR)ソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の全体の長さに対して最大整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含み、整列を測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書における目的のために、与えられたアミノ酸配列Bと、又は与えられたアミノ酸配列Bに対する与えられたアミノ酸配列Aのパーセント(%)アミノ酸配列相同性は、以下のように計算される:分率(fraction)X/Yの100倍、ここで、Xは、AとBのプログラム整列におけるシーケンスアラインメントプログラムによって同一に一致するアミノ酸残基スコアの数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の合計数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに一致しない場合、A対Bのパーセント(%)アミノ酸配列相同性は、B対Aのパーセント(%)アミノ酸配列同一性と異なることが考えられる。
【0065】
特定の実施態様において、前記フラジェリン、その断片、又はその変異体は、配列番号1~5からなる群から選択されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなるものでもよい。
【0066】
本発明において、前記「Fc領域」とは、免疫グロブリンの不変領域のC末端部分を意味し、具体的には、免疫グロブリンの重鎖不変領域又はその一部を意味する。
【0067】
本発明の免疫グロブリンのFc領域は、天然型アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体(mutant)を含む。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列のうち一つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はこれらの組み合わせによって異なる配列を有することを意味する。例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であると知られている214乃至238、297乃至299、318乃至322、又は327乃至331番のアミノ酸残基が、修飾のために適した部位として用いることができる。また、ジスルフィド結合を形成することができる部位が除去されることや、天然型FcからN末端のいくつかのアミノ酸が除去されること、又は天然型FcのN末端にメチオニン残基を付加することができる等、様々な種類の誘導体とすることが可能である。また、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えば、C1q結合部位が除去されることもあり、ADCC部位が除去されることもある。これらの免疫グロブリンのFc領域の配列の誘導体を製造する技術は、国際特許公開第97/34631号、国際特許公開第96/32478号等に開示されている。
【0068】
分子の活性を全体的に変更させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野で公知となっている。最も通常的に発生する交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。
【0069】
場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミル化(amidation)等で修飾(modification)されてもよい。
【0070】
上述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同一な生物学的活性を示すが、Fc領域の熱、pH等に対する構造的安定性を増大させた誘導体である。
【0071】
さらに、そのようなFc領域は、ヒト、牛、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモット等の動物の生体内から分離した天然型から得てもよく、形質転換された動物細胞又は微生物から得られた組換え体又はその誘導体でもよい。ここで、天然型から取得する方法は、全体の免疫グロブリンをヒト又は動物の生体内から分離した後、タンパク質分解酵素を処理して得ることができる。パパインを処理する場合には、Fab及びFcにより切断され、ペプシンを処理する場合は、pF’c及びF(ab)により切断される。これにサイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)等を用いてFc又はpF’cを分離することができる。
【0072】
また、免疫グロブリンのFc領域は、天然型糖鎖の形態、天然型に比べて糖鎖が増加した形態、天然型に比べて糖鎖が減少し形態、又は糖鎖が除去された形態でもよい。これらの免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去としては、化学的方法、酵素学的方法、及び微生物を用いた遺伝子工学的方法等の通常の方法を用いてもよい。ここで、Fcにおいて糖鎖が除去された免疫グロブリンのFc領域は、補体(clq)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞毒性もしくは補体依存性細胞毒性が減少又は除去されるので、生体内での不要な免疫反応を誘発しない。この点で、薬物のキャリアとしての本来の目的により符合する形態は、糖鎖が除去又は非糖鎖化された免疫グロブリンのFc領域である。
【0073】
本発明の糖鎖の除去(Deglycosylation)とは、酵素で糖を除去したFc領域を示し、「非糖鎖化(Aglycosylation)」とは、原核動物、好ましくは大腸菌で生産し、糖鎖化されていないFc領域を意味する。
【0074】
また、免疫グロブリンのFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMに由来するFc領域又はこれらの組み合わせ(combination)もしくはこれらの混成化(hybrid)によるFc領域でもよい。好ましくは、ヒトの血液に最も豊富なIgG又はIgMに由来であり、最も好ましくは、リガンド結合タンパク質の半減期を向上させることが知られたIgGに由来してもよい。
【0075】
一方、本発明において、組み合わせ(combination)とは、二量体又は多量体を形成する場合、同一起源の単鎖免疫グロブリンのFc領域を符号化するポリペプチドが相異な起源の単鎖ポリペプチドと結合を形成することを意味する。つまり、IgGのFc断片、IgAのFc断片、IgMのFc断片、IgDのFc断片、及びIgEのFc断片からなる群から選択される2つ以上の断片から二量体又は多量体の製造が可能である。
【0076】
本発明の「混成化(hybrid)」とは、単鎖の免疫グロブリンのFc領域内に2つ以上の相異な起源の免疫グロブリンFc断片に該当する配列が存在することを意味する用語である。本発明の場合、様々な形態のハイブリッドが可能である。つまり、IgGのFc、IgMのFc、IgAのFc、IgEのFc、及びIgDのFcの、CH1、CH2、CH3、及びCH4からなる群から選択される1つないし4つのドメインからなるドメインの混成が可能であり、ヒンジを含むことができる。
【0077】
一方、IgGも、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のサブクラス(subclass)に分けることができ、本発明においては、これらの組み合わせ、又はこれらの混成化も可能である。好ましくは、ヒト免疫グロブリンIgG1のFcから誘導されてもよい。
【0078】
他の実施態様において、前記免疫グロブリンのFc領域は、免疫グロブリンの重鎖不変領域のCH1、CH2、CH3、及びCH4ドメインからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。例えば、本発明の融合タンパク質の製造に用いることができる免疫グロブリンのFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメイン;(b)CH1ドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン;(c)CH1ドメイン、CH2ドメイン、及びCH4ドメイン;(d)CH1ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメイン;(e)CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメイン;(f)CH1ドメイン及びCH4ドメイン;(g)CH1ドメイン及びCH3ドメイン;(h)CH1ドメイン及びCH2ドメイン;(i)CH2ドメイン及びCH4ドメイン;(j)CH2ドメイン及びCH3ドメイン;(k)CH3ドメイン及びCH4ドメイン;又は2つ以上のドメインと免疫グロブリンのヒンジ領域の組み合わせを含むことができる。最も好ましくは、前記免疫グロブリンのFc領域が、重鎖不変領域のCH2及びCH3ドメインからなるものでもよい。
【0079】
本発明は、ヒト免疫グロブリンのFc領域以外にも、GenBank及び/又はEMBLデータベースに開示されたヌクレオチド配列によって符号化されるアミノ酸配列、例えば、AF045536.1(Macaca fuscicularis)、AF045537.1(Macaca mulatta)、AB016710(Felix catus)、K00752(Oryctolagus cuniculus)、U03780(Sus scrofa)、Z48947(Camelus dromedarius)、X62916(Bos taurus)、L07789(Mustela vision)、X69797(Ovis aries)、U17166(Cricetulus migratorius)、X07189(Rattus rattus)、AF576191(Trichosurus vulpecula)又はAF035195(Monodelphis domestica)等を含む、他の免疫グロブリンのFc領域又はその断片の配列も用いることができる。
【0080】
本発明において、前記融合タンパク質は、前記フラジェリン、その断片、又はその変異体のN末端又はC末端が、前記免疫グロブリンのFc領域のN末端又はC末端に結合されたものでもよい。具体的には、前記フラジェリン、その断片、もしくはその変異体のN末端が、免疫グロブリンのFc領域のC末端に結合されたもの、又は前記フラジェリン、その断片、もしくはその変異体のC末端が免疫グロブリンのFc領域のN末端に結合されたものでもよい。好ましくは、前記フラジェリン、その断片、又はその変異体のC末端が、免疫グロブリンのFc領域のN末端に結合されたものでもよい。
【0081】
特定の実施態様において、本発明の前記免疫グロブリンのFc領域は、配列番号6もしくは7のアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなるものでもよい。
【0082】
一方、本発明で融合タンパク質を構成する各構成要素、つまり、フラジェリン、その断片、又はその変異体、及び免疫グロブリンのFc領域は、互いに直接接続するか、又はリンカーを通じて接続することができる。一般的に、用語「リンカー」とは、1つ以上の分子、例えば、1つ以上の成分ドメインの間に挿入することができる核酸、アミノ酸、又は非ペプチド残基を意味する。例えば、リンカーは、操作を容易にするために成分の間に興味ある好ましい部位を提供するために使用することができる。また、リンカーは、形質転換体から融合タンパク質の発現を増進させ、成分がその最適な3次構造を有し、及び/又は、標的分子と適切に相互作用ができるように立体障害を減少させるために提供されることができる。リンカー配列は、受容体成分に天然に接続された1つ以上のアミノ酸を含むことができ、又は、融合タンパク質の発現を増進させるために、特異的に興味ある好ましい部位を提供するために、成分ドメインが最適な3次構造を形成できるようにするために、及び/又は、成分とその標的分子との相互作用を増進させるために使用される、添加された配列でもよい。
【0083】
好ましくは、前記リンカーは、融合タンパク質内のそれぞれの構成要素の構造に干渉せず、融合タンパク質の柔軟性を増加させることができる。いくつかの実施形態において、リンカー残基は、2~100個のアミノ酸の長さを有するペプチドリンカーである。例示的なリンカーは、Gly-Gly、Gly-Ala-Gly、Gly-Pro-Ala、Gly(G)n、及びGly-Ser(GS)リンカーのような、少なくとも2つのアミノ酸残基を有する直鎖ペプチドを含む。本明細書に記載のGSリンカーは(GS)n、(GSGSG)n、(G2S)n、G2S2G、(G2SG)n、(G3S)n、(G4S)n、(GGSGG)nGn、GSG4SG4SG、及び(GGGGS)nを含むが、これらに限定されず、ここで、nは1以上である。(G)nリンカーの一つの例は、G9リンカーを含み、(GGGGS)nリンカーの例は、GGGGS又は(GGGGS)3リンカーを含む。適切な直鎖ペプチドは、アラニル及び/又はセリニル及び/又はプロリニル(prolinyl)及び/又はグリシルアミノ酸の残基で構成されたポリグリシン、ポリセリン、ポリプロリン、ポリアラニン、及びオリゴペプチドを含む。リンカー残基は、本発明に開示された融合タンパク質の構成成分を接続させることに使用することができる。
【0084】
本発明において、前記リンカーは、配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列からなるものでもよい。
【0085】
本発明に記載の融合タンパク質は、宿主細胞から融合タンパク質を分泌するために機能するシグナルペプチドを含んでもよく、含まなくてもよい。シグナルペプチドを符号化する核酸配列は、興味あるタンパク質を符号化する核酸配列に作動可能に接続することができる。一部の実施形態において、融合タンパク質はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、融合タンパク質はシグナルペプチドを含まない。
【0086】
また、本発明において記述された融合タンパク質は、タンパク質結合ペプチドの修飾された形態を含んでもよい。例えば、融合タンパク質の成分は、例えば、任意のタンパク質結合ペプチドに対するグリコシル化、シアリル化、アセチル化、及びリン酸化を含む翻訳後修飾(post-translational modification)を有してもよい。
【0087】
他の記載がない限り、本発明の融合タンパク質は、それ自体で生ワクチン、不活化ワクチン、組換え細菌ワクチン、又はウイルスベクターワクチンの一部ではないポリペプチド(又は、ポリペプチドをコードする核酸)として投与される。また、他の記載がない限り、本発明の融合タンパク質は、分離された融合タンパク質であって、例えば、鞭毛に組み込まれない。
【0088】
本発明において、「融合」とは、機能又は構造が相異又は同一な2つの分子を一体化することであり、ペプチドが結合可能な全ての物理的、化学的、又は生物学的方法による融合でもよい。前記融合タンパク質又は前記融合タンパク質を構成するポリペプチドは、当該分野に公知となった化学的ペプチド合成方法で製造することや、前記融合タンパク質をコードする遺伝子をPCR(polymerase chain reaction)によって増幅することや、公知となった方法で合成した後に発現ベクターにクローニングして発現させることによって製造することができる。
【0089】
本発明の特定の実施態様において、前記融合タンパク質は、配列番号10~16からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるものでもよい。
【0090】
また、本発明は、前記融合タンパク質を符号化する塩基配列を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0091】
前記ポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドを符号化することができる限り、ポリヌクレオチドを構成する塩基の組み合わせに特に制限されない。前記ポリヌクレオチドは、DNA、cDNA、及びRNA配列を全部含む単鎖又は二重鎖形態の核酸分子として提供されてもよい。
【0092】
好ましくは、本発明の前記ポリヌクレオチドは、配列番号17~23からなる群から選択される塩基配列を有するものでもよい。
【0093】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0094】
本発明のベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、及びウイルスベクター等を含むが、これらに限定されない。本発明のベクターは、通常のクローニングベクター又は発現ベクターでもよく、発現ベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサー(促進遺伝子)のような発現調節配列の他にも、膜標的化又は分泌のためのシグナル配列又はリーダー配列を含み、目的に応じて多様に製造することができる。本発明による前記ポリヌクレオチド配列は、発現調節配列に作動可能に接続することができ、前記作動可能に接続された遺伝子配列と発現調節配列は、選択マーカー及び複製開始点(replication origin)を一緒に含む一つの発現ベクターの中に含まれてもよい。「作動可能に接続(operably linked)」されるとは、適切な分子が発現調節配列に結合された場合、遺伝子発現を可能にする方法で接続することであり、一つの核酸断片が他の核酸断片と結合され、それの機能又は発現が他の核酸断片によって影響されることを意味する。「発現調節配列(expression control sequence)」とは、特定の宿主細胞において、作動可能に接続されたポリヌクレオチド配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を実施するためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び解読の終結を調節する配列を含む。また、前記ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択マーカーを含み、複製可能なベクターである場合、複製起源を含む。
【0095】
また、 本発明は前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0096】
前記ベクターで形質転換することは、当業者に公知となった形質転換技術により行うことができる。好ましくは、微粒子銃(microprojectile bombardment)、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、PEG媒介融合法(PEG-mediated fusion)、微量注入法(microinjection)、及びリポソーム媒介法(liposome-mediated method)を利用することができる。
【0097】
前記用語「形質転換体」とは、「宿主細胞」等と互換性を有して使用することができ、任意の手段(例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム沈殿、微量注入法、形質転換法、ウイルス感染等)によって細胞内に導入された異種DNAを含む原核又は真核細胞を意味する。
【0098】
本発明において、前記形質転換体は、クローニングの分野において通常に使用される全ての種類の単細胞有機体、例えば、各種細菌(例えば、クロストリジウム(Clostridia)属、大腸菌等)等の原核細胞微生物、酵母等の下等真核細胞微生物、又は昆虫細胞、植物細胞、及び哺乳動物等を含む高等真核生物に由来する細胞を宿主細胞として使用することができ、これらに限定されない。宿主細胞に応じて、タンパク質の発現量と修飾等が異なって現れるため、当業者が目的とすることに最も適切な宿主細胞を選択して使用することができる。
【0099】
また、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む薬学的組成物を提供する。
【0100】
本発明の一実施例によれば、前記融合タンパク質は、野生型フラジェリンに比べて顕著に向上されたTLR5経路活性化能を示すことが確認された。よって、本発明の前記融合タンパク質は、TLR5経路の活性化を通じて予防、改善、又は治療が可能なこととして公知となった疾患、症候群等に対して、予防、改善、又は治療効果を示すことができる。
【0101】
TLR5経路の活性化を通じて予防、改善、又は治療が可能なことが公知となった疾患と症候群は、放射線照射による損傷;再灌流損傷;炎症性腸疾患;自己免疫疾患;ウイルス感染;老化;免疫機能の減退;又は癌でもよい。
【0102】
よって、本発明の前記薬学的組成物は、放射線照射による損傷の予防又は治療用;再灌流損傷の予防又は治療用;炎症性腸疾患の予防又は治療用;自己免疫疾患の予防又は治療用;ウイルス感染の予防又は治療用;老化予防又は治療用;免疫機能増強用;又は癌の予防又は治療用の薬学的組成物であることを特徴とすることができる。
【0103】
特に、本発明の前記融合タンパク質は、TLR5経路の活性化を通じて予防、改善、又は治療が可能であることとして、今後明らかになる疾患に対しても予防、改善、又は治療効果を発揮するものとして理解することができるので、本発明の前記薬学的組成物の治療対象疾患は、その範囲が特に制限されるものではない。
【0104】
TLR5経路の活性化と放射線照射による損傷の治療との関連性は、KR20067010934A等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化と再灌流による組織の損傷の治療との関連性は、US8324163等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化と炎症腸疾患の治療との関連性は、US7361733等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化と自己免疫疾患の治療との関連性は、EP03010523B1等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化とウイルス感染症の治療との関連性は、US9872895等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化と高齢化による疾患との関連性は、KR20150049811A等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化と免疫増進との関連性は、WO17031280A1等を参考にすることができ、TLR5経路の活性化と癌の治療との関連性は、KR20177005615A等を参考にすることができる。
【0105】
本発明において、前記放射線照射による損傷は、放射線照射による胃腸症候群や造血症候群でもよい。
【0106】
本発明において、前記老化による疾患は、老化による脱毛、白内障、ヘルニア、大腸炎、骨粗しょう症や骨軟化症でもよい。
【0107】
本発明において、前記癌は、乳癌、肺癌、結腸癌、腎臓癌、肝臓癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、尿生殖管癌、リンパ系癌、直腸癌、膵臓癌、食道がん、胃がん、子宮頸がん、甲状腺がん、皮膚がん、白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、毛髪細胞リンパ腫、組織球リンパ腫及びバーキットリンパ腫、急性及び慢性骨髄性白血病、骨髄形成異常症候群、骨髄性白血病、前骨髄球性白血病、星細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、神経鞘腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、色素性乾皮症、角質極細胞腫、セミノーマ、甲状腺濾胞癌、奇形癌腫、又は消化管の癌でもよい。
【0108】
本発明の薬学的組成物は、前記融合タンパク質の他に、薬学的に許容できる担体と併せて当該業界に公知となった方法で投与経路に応じて多様に剤形化することができる。「薬学的に許容できる」とは、生理学的に許容でき、ヒトに投与される場合、活性成分の作用を阻害せず、通常に胃腸障害、めまいのようなアレルギー反応、又はこれに類似の反応を起こさない非毒性の物質を意味する。前記担体としては、すべての種類の溶媒、分散媒質、水中油又は油中水型エマルション、水性組成物、リポソーム、マイクロビーズ、及びマイクロゾームが含まれる。
【0109】
投与経路としては、経口的又は非経口的に投与してもよい。非経口的な投与方法としては、これに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、長官、局所、舌下、又は直腸内への投与でもよい。
【0110】
本発明の薬学的組成物を経口投与する場合、本発明の薬学的組成物は、適切な経口投与用担体に併せて、当該業界に公知となった方法に基づいて粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、懸濁液、及びウェーハ等の形態で剤形化することができる。適切な担体の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、及びマルチトール等を含む糖類、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、及びポテト澱粉等を含む澱粉類、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等を含むセルロース類、並びにゼラチン、ポリビニルピロリドン等の充填剤を含んでもよい。また、場合によって、架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、又はナトリウムアルギネート等を崩壊剤として添加してもよい。さらに、前記薬学的組成物は、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、及び防腐剤等を追加的に含んでもよい。
【0111】
また、非経口的に投与する場合、本発明の薬学的組成物は、適切な非経口担体に併せて、注射剤、経皮投与剤、及び鼻腔吸入剤の形態で、当該業界に公知となった方法に基づいて剤形化することができる。前記注射剤の場合には必ず滅菌する必要があり、細菌及び真菌のような微生物の汚染から保護されるべきである。注射剤の場合、適切な担体の例としては、これらに限定されないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの混合物及び/又は植物油を含む溶媒、又は分散媒質でもよい。より好ましくは、適切な担体としてはハンクス液、リンゲル液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline)、注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコール、及び5%デキストロースのような等張液等を使用することができる。前記注射剤を微生物汚染から保護するためには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等のような様々な抗菌剤及び抗真菌剤を追加的に含んでもよい。また、前記注射剤は、ほとんどの場合、糖又は塩化ナトリウムのような等張液剤を追加的に含んでもよい。
【0112】
経皮投与剤の場合、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、外用液剤、ペースト剤、リニメント剤、エアロール剤等の形態が含まれる。前記「経皮投与」とは、薬学的組成物を局所的に皮膚に投与して薬学的組成物に含有された有効な量の活性成分が皮膚内に伝達されることを意味する。例えば、本発明の薬学的組成物を注射型製剤で製造し、これを30ゲージの細い注射針で皮膚を軽く刺す(prick)方法、又は皮膚に直接塗布する方法で投与することができる。これらの剤形は、製薬化学における一般的に公知となった処方書に記述されている。
【0113】
吸入投与剤の場合、本発明によって使用される化合物は、適切な推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切な気体を使用し、加圧パック又は煙霧機よりエアゾールスプレーの形態で便利に送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を伝達する弁を提供して決定することができる。例えば、吸入器又はブロワー(blower)に使用されるゼラチンカプセル及びカートリッジは、化合物と、ラクトース又は澱粉のような適切な粉末基剤との粉末混合物を含有するよう製剤化することができる。
【0114】
その他にも、薬学的に許容できる担体としては、当該業界に公知となっていることを参考にしてもよい。
【0115】
また、本発明に係る薬学的組成物は、一つ以上の緩衝剤(例えば、生理食塩水又はPBS)、カーボハイドレート(例えば、グルコース、マンノース、スクロース又はデキストラン)、抗酸化剤、静菌剤、キレート剤(例えば、EDTA又はグルタチオン)、アジュバント(例えば、アルミニウムヒドロキシサイド)、懸濁剤、濃厚剤、及び/又は保存剤を追加的に含むことができる。
【0116】
また、本発明の薬学的組成物は、哺乳動物に投与された後、活性成分の迅速型、持続型、又は遅延型放出を提供することができるように当該業界に公知となった方法を使用して剤形化することができる。
【0117】
また、本発明の薬学的組成物は、前記各疾患を予防又は治療する効果がある公知となった物質と併用して投与することができる。
【0118】
また、本発明は前記融合タンパク質を有効成分として含むワクチン補助剤を提供する。
【0119】
ワクチン補助剤(adjuvant)の最も重要な要件の一つが、抗原提示細胞の表面の共同刺激分子の発現調節と、抗原特異的T細胞の誘導によるサイトカインの分泌調節等の免疫調節機能を有するものである。
【0120】
一方、TLR5のようなPRRは宿主細胞の細胞表面又は細胞質の中に分布し、様々なPAMPの刺激によって「先天性免疫反応(innate immune response)」を誘導し、さらに「獲得免疫反応(adaptive immune response)」を調節する。よって、TLR5作動薬(agonist)は、様々な「免疫調節剤」、特に「ワクチン補助剤」の開発に適した標的になることができる。
【0121】
よって、TLR5経路活性化能を有する本発明の融合タンパク質は、TLR5経路を活性化し、先天性免疫反応及び獲得免疫反応を増強させることにより、共に投与された抗原に対する宿主の免疫能を格段に向上することができる。
【0122】
本発明において、前記ワクチン補助剤は、当該業界によく知られている通常の方法で製造されてもよく、当該業界において、ワクチン製造の場合に使用することができるいくつかの添加物を任意でさらに含んでもよい。
【0123】
また、本発明は、放射線照射による損傷の治療;再灌流損傷の治療;炎症性腸疾患の治療;自己免疫疾患の治療;ウイルス感染症の治療;代謝疾患の治療;老化の治療;免疫機能増強;又は癌の治療のための薬学的製剤を製造するための前記融合タンパク質の使用を提供する。
【0124】
また、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする対象に投与することを含む放射線照射による損傷の治療;再灌流損傷の治療;炎症性腸疾患の治療;自己免疫疾患の治療;ウイルス感染症の治療;代謝疾患の治療;老化の治療;免疫機能増強;又は癌の治療方法を提供する。
【0125】
本発明の前記「有効量」とは、対象に投与した場合、放射線照射による損傷;再灌流損傷;炎症性腸疾患;自己免疫疾患;ウイルス感染;代謝疾患;老化;免疫機能増強;又は癌の改善、治療、予防、検出、診断、又は前記疾患の抑制又は減少効果を示す量を意味し、前記「対象」とは、動物、好ましくは、哺乳動物、特に、ヒトを含む動物でもよく、動物に由来した細胞、組織、器官等でもよい。前記対象は前記効果が必要な患者(patient)でもよい。
【0126】
本発明の前記「治療」とは、放射線照射による損傷;再灌流損傷;炎症性腸疾患;自己免疫疾患;ウイルス感染;代謝疾患;老化;免疫機能増強;又は癌、又は前記疾患の症状を改善させることを包括的に指し、これは前記疾患の治癒、実質的予防、又は状態の改善を含んでもよく、前記疾患をはじめとする一つの症状又はほとんどの症状の緩和や、治癒、又は予防することを含むが、これらに制限されるものではない。
【0127】
本明細書において、用語「~を含む(comprising)」とは、「含有する(including)」又は「特徴とする(characterized by)」と同じ意味で使用され、本発明に係る組成物又は方法において、具体的に言及されていない追加的構成成分又は方法の段階等を排除しない。また、用語「~からなる/~から構成される(consisting of)」とは、別途の記載がない追加的要素、段階、又は成分等を除外することを意味する。用語「本質的に~から構成される(essentially consisting of)」とは、組成物又は方法の範囲において、記載された物質又は段階に加えて、さらにその基本的特性に実質的影響を及ぼさない物質又は段階等を含んでもよいことを意味する。
【発明の効果】
【0128】
本発明が提供する融合タンパク質は、野生型フラジェリン、その断片、又はその変異体に比べてToll様受容体5(TLR5)経路活性化能が顕著に優れており、TLR5経路の活性化を通じて予防、改善、又は治療することができる疾患の治療剤の開発及び/又はワクチン補助剤の開発に極めて有用に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
図1図1は、本発明にて提供される様々な微生物に由来するフラジェリン(flagellin)と、ヒトIgG4-Fc(hIgG4)とのFc融合フラジェリンの作製を簡単に示した模式図である。
図2図2は、作製した微生物に由来するFc-hIgG4-フラジェリンの融合を確認するために各菌株のコロニーを培養し、酵素で切断した後、それぞれの菌株のフラジェリンとベクターのサイズの確認を通じて、クローニングを確認した結果である(BS、Bsフラジェリン;EC、Ecフラジェリン;PA、Paフラジェリン;SD、Sdフラジェリン;SH、Shフラジェリン)。
図3図3は、それぞれのFc-hIgG4-フラジェリン融合タンパク質が、二量体(dimer)を形成することを示す結果である。
図4図4は、各微生物に由来するFc-hIgG4-フラジェリン融合タンパク質によるTLR5依存性NF-κB活性を比較して示した結果である。
図5図5は、最も高いTLR5の活性を誘導するBsフラジェリンの動物実験のために作製したFc-mIgG1-Bsフラジェリンの作製模式図である。長さが異なる2つのリンカーを使用して融合タンパク質を作製した。
図6図6は、長さが異なる2つのリンカーを用いて作製したFc-mIgG1-Bsフラジェリンのクローニングを確認した結果である。
図7図7は、本発明の融合タンパク質の発現をウエスタンブロットを通じて確認した結果である(#1:Fc-mIgG1-リンカー-Bsフラジェリン、#2:Fc-mIgG1-リンカー*3-Bsフラジェリン)。
図8図8は、本発明の融合タンパク質が二量体を形成するかどうかをウエスタンブロットを通じて確認した結果である。
図9図9は、Fc融合されたBsフラジェリン(mIgG1-Fc2-Bsフラジェリン)と、Bacillus subtilisの精製されたフラジェリンタンパク質(FLA-BS)、及びSalmonella typhimurimの精製されたフラジェリンタンパク質の(FLA-ST)NF-κB活性化能を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0130】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0131】
但し、下記の実施例は本発明を単に例示するものであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0132】
実施例1:Fcフラジェリン融合タンパク質の作製(クローニング)
(1)実験方法
様々な微生物に由来するフラジェリンと抗体のFc領域とが融合したFcフラジェリン融合タンパク質を作製した(図1)。
【0133】
図1に示したようなBacillus subtilis(Bs)、Salmonella dublin(Sd)、Pseudomonas aeruginosa(Pa)、Shigella flexneri(Sf)、及びEscherichia coli(Ec)に由来するフラジェリンがヒトIgG4-Fc(hIgG4)に結合された形態をそれぞれ発現するプラスミドを作製するために、以下の方法に基づいてクローニングを行った。
【0134】
1)以下の表1に示した条件に基づいてEcoRV及びNcoI制限酵素サイトプライマー(表2)を用いて全てのフラジェリンに対してPCRを行った。
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
2)前記PCR産物に10x DNA色素 4.4μLを添加した後、ゲル電気泳動(Gel Electrophoresis)を行い、サイズを確認してフラジェリンバンドをMEGAquick-spinTM plus(cat#17290)を用いて抽出した。
【0137】
3)精製されたDNAを以下の表3の条件に応じてEcoRVとNCoIで切断した。
【表3】
【0138】
4)前記切り出したベクター(vector cut)サンプルに1μLの子牛アルカリホスファターゼ(Calf Alkaline Phosphatase)を添加し、37℃で2時間反応させた。
【0139】
5)10×DNA色素4.4μLを添加し、ゲル電気泳動の後にMEGAquick-spinTM plus(cat#17290)を用いて、各バンドを抽出した。
【0140】
6)ベクター:インサート(insert)=1:3の分子比に合わせて、以下の表4の条件でライゲーションを行った。
【表4】
【0141】
7)ゼオシン(Zeocin)(+)LBプレートで形質転換を行い、18時間培養を行った。
【0142】
8)ミニプレップ(Mini Prep)を行い、EcoRV及びNcoIを用いて酵素切断を行った。
【0143】
(2)実験結果
まず、各コロニー(colony)を3個ずつ取ってゲル電気泳動を行った結果、図2に示したように、Bsフラジェリン、Ecフラジェリン、Paフラジェリン、Sdフラジェリン、Shフラジェリンの5種類全てにおけるベクターのサイズが一致することを確認し、シーケンスを通じて、変異(mutation)がなく、配列が100%一致することを確認した。
【0144】
実施例2:Fc-hIgG4-フラジェリン融合タンパク質の作製(分離精製)
(1)実験方法
Protein A Resin[レプリゲン(Repligen)、#10-2500-01]5mLを、20mLの結合バッファー(Binding Buffer、pH 5.0;0.02%アジ化ナトリウムを含む)[サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、21019]で合計3回洗浄した。
【0145】
1)洗浄の際、毎回5分間レジンを自然に沈殿させた後、上澄み液を除去した。
【0146】
洗浄されたレジンを使い捨てカラム[サーモフィッシャーサイエンティフィック、29920]にゆっくり入れた。用意されたカラムに結合バッファーを注いでカラムとレジンを同じ状態にした。
【0147】
その後、常温にて用意された細胞培養液をカラムにゆっくりと流した。そして、ゆっくりと溶液をカラムの外に流し出した。細胞培養液が全部通り抜けた後、結合バッファーでカラムを洗浄した。
【0148】
溶出前にマイクロフュージチューブ(microfuge tube)に中和溶液(1M Tris、pH 9.2)を入れた後、カラムを準備したマイクロフュージチューブ入れ、溶出バッファー(Elution Buffer、pH 2.8;アミンベース(amine-based)[サーモフィッシャーサイエンティフィック、21004])を、レジンがよく混ぜるように入れた。レジンが全部沈むまで待った後に溶液をゆっくりと流し出した。
【0149】
分離されたタンパク質の緩衝溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に交換するためにスピン脱塩カラム(Spin Desalting Column)[サーモフィッシャーサイエンティフィック、89891]を使用した。
【0150】
1)PBSを5mLずつ、合計5回カラムに入れ、平衡化(equilibrate)させた後に、抽出されたタンパク質溶液をカラムにゆっくりと注ぎ、最初の溶液の一部は流し出した。再びカラムにPBS溶液を添加し、溶液をゆっくりと新しいチューブに取り入れた。
【0151】
エンドトキシン除去スピンカラム(Endotoxin Removal Spin Column)[サーモフィッシャーサイエンティフィック、88273]を利用して、タンパク質溶液に存在するエンドトキシンを除去した。
【0152】
1)スピンカラムをチューブに入れ、500×gの速度で1分間遠心分離し、中に入った溶液を空けた後に、2M塩化ナトリウム(NaCl)を入れ、レジンが溶液に懸濁されるまでカラムをゆっくり振った。カラムをチューブに入れ、500×gの速度で1分間遠心分離し、中に入った溶液を空けた。
【0153】
2)レジンにエンドトキシンを含まない純粋な水を添加し、溶液が懸濁されるまでカラムをゆっくり振った後にカラムをチューブに入れ、500×gの速度で1分間遠心分離して中に入った溶液を空けた。
【0154】
3)その後、エンドトキシンを含まないバッファー(25mM リン酸ナトリウム、pH7.0)を添加し、レジンが溶液に懸濁されるまでカラムをゆっくり振った。カラムをチューブに入れ、500×gの速度で1分間遠心分離し、中に入った溶液を空けた。このプロセスを2回繰り返した。
【0155】
4)抽出したタンパク質溶液をゆっくりと注ぎ、レジンが溶液に懸濁されるまでカラムをゆっくり振った後に4℃で1時間、上下が混ざるようカラムをやさしく回しながら培養した。
【0156】
5)カラムをチューブに入れ、500×gの速度で1分間遠心分離し、中に入った溶液をチューブに取得した。
【0157】
LAL chromogenic Endotoxin Quantitation Kit[サーモフィッシャーサイエンティフィック、88282]を使用して精製されたタンパク質溶液のエンドトキシン濃度を測定した。
【0158】
1)標準曲線(standard curve)を測定するために、37℃で96ウェルプレートに対し、エンドトキシンを含まない純粋な水(0EU/mL)と標準タンパク質溶液(0.1、0.25、0.5、1EU/mL)を各ウェルに50μLずつ入れた。
【0159】
2)精製されたタンパク質溶液を各試料ごとに2つのウェルに50μLずつ入れた。
【0160】
3)各ウェルにリムルスアメーバ細胞溶解物(Limulus Amebocyte Lysate、LAL)試薬を50μLずつ添加した後、プレートをゆっくり振り混ぜ、37℃で10分間培養した。10分後、各ウェルに発色基質試薬を100μLずつ入れ、プレートをゆっくりと振り混ぜ、37℃で6分間培養した。6分後、各ウェルに停止試薬(Stop Reagent)(25%酢酸)を100μLずつ入れて、プレートを室温でゆっくりと撹拌した。
【0161】
4)直後に、マイクロマルチリーダー機(micro-multi reader machine)で410nmの波長帯で光学密度(optical density、OD)値を測定した。
【0162】
5)標準タンパク溶液から得たOD値にて標準曲線を描いた後、指数関数形のフィット関数を確認し、精製されたタンパク質溶液から得たOD値をフィッティング関数に代入してエンドトキシン濃度を確認した。
【0163】
BCAタンパク質アッセイキット(BCA Protein Assay Kit)[サーモフィッシャーサイエンティフィック、23227]を使用し、最終的に取得した精製されたタンパク質溶液の濃度を測定した。
【0164】
1)96ウェルプレートに精製されたタンパク質溶液と、PBS(0μg/mL)と、標準タンパク質溶液をPBSで連続希釈(Serial dilution)を行い、濃度別(25、125、250、500、750、1000、1500、2000μg/mL)に準備した標準タンパク質溶液とを各ウェルに10μLずつ入れた。
【0165】
2)キット(Kit)に同封された溶液Aと溶液Bを50:1の割合で混ぜ、各ウェルに200μLずつ添加した後、光が入らないように37℃培養器で30分間培養した。
【0166】
3)30分後、すぐにマイクロマルチリーダー機で562nmの波長帯でOD値を測定した。
【0167】
4)標準タンパク質溶液から得たOD値にて標準曲線を描いた後、指数関数形のフィット関数を確認し、精製されたタンパク質溶液から得たOD値をフィッティング関数に代入してタンパク質濃度を確認した。
【0168】
(2)実験結果
前記実験方法により分離精製した後、各タンパク質の濃度を下記表5に示した。
【表5】
【0169】
実施例3:融合タンパク質の二量体形成(dimerization)の確認
前記タンパク質の発現が確認された様々な菌株のFcフラジェリン融合タンパク質が、二量体を形成するかを確認した。
【0170】
(1)実験方法
使用した細胞株:HEK293T
24ウェルプレートで形質変換し、当日の細胞コンフルエント(cell confluence)が70%になるように播種(seeding)した。
【0171】
実験当日JetPrimeトランスフェクション試薬を1ウェル当たり1μLずつ、それぞれのDNA(EV、#1、#2、TdTmt)500ngを混ぜた後、プロトコルに基づいてトランスフェクションした(トランスフェクションを行う場合、10%FBS DMEMを使用。トランスフェクションの体積は500μL)。
【0172】
トランスフェクションした後、24時間経過後、0.5%FBS培地に切り替えた。
【0173】
48時間経過後、培地400μLを収得(harvest)した。
【0174】
培地は破片(debris)の除去のために12,300×gで1分間遠心分離を行い、上澄み液をサンプルとして使用した。
【0175】
それぞれのサンプルを200μLずつ分け、2つの種類の5×サンプルバッファー50μLを添加した。
1)還元系5×サンプルバッファー(reducing 5X sample buffer):一般的に使用されるレムリ(Laemmli)サンプルバッファー組成
2)非還元系5×サンプルバッファー(non-reducing 5X sample buffer:レムリサンプルバッファーの組成において、β-メルカプトエタノールを入れない。
【0176】
還元系サンプルを5分間99℃のヒートブロックで加熱した。
【0177】
非還元系サンプルは、加熱する過程を省略した。
【0178】
SDS-PAGEでタンパク質をサイズ別に分離した。
【0179】
クマシー染色(Commasie staining)でサイズを確認した。
【0180】
(2)実験結果
これに関する結果を図3に示した。それぞれのFcフラジェリン融合タンパク質が、非還元条件において、還元条件において信号が出るサイズの約2倍に当たる二量体形成の信号が観察された。これにより、Fcフラジェリン融合タンパク質が二量体(dimer)を形成することが確認できた。
【0181】
実施例4:Fcフラジェリン融合タンパク質のTLR5経路活性化能の評価
前記作製されたFcフラジェリン融合タンパク質がTLR5アゴニストとして活性を示すことを確認するために、細胞内のNF-κB活性を評価した。細胞としては、HEK293TにTLR5の活性を誘導するアゴニストを選別するために作製された細胞株モデルであるHEK-Blue hTLR5(Invivogen, Cat No. hkb-htrl5)を使用し、hTLR5とpNF-κBが過発現されており、作製したFcフラジェリンによるTLR5活性が確認できた。
【0182】
(1)実験方法
HEK-Blue hTLR5細胞は、ゼオシン(100μg/mL)(Invivogen, Cat No. ant-zn-1)、ブラストサイジン(15μg/mL)(Invivogen, Cat No. ant-bl-1)、及びnormocin(100μg/mL)(Invivogen, Cat No. ant-nr-1)が含まれた培養培地で細胞を維持した。
【0183】
NF-κB活性測定方法は以下のとおりである。
【0184】
培養されたHEK-Blue hTLR5細胞を離して遠心分離した後、上澄み液を除去し、細胞ペレットを1×PBSでよく混ぜた。
【0185】
細胞を播種する前に、4nM、16nM、及び64nMの濃度で、あらかじめ用意したタンパク質試料(20μL)をあらかじめ96ウェルプレートに添加した。
【0186】
トライプレート(Tri-plates)条件で実験を行った。
【0187】
対照群は、1×PBS(20μL)を添加した群である。
計算されたHEK-Blue hTLR5細胞をHEK-Blue検出媒体(HEK-Blue Dection medium)(Invivogen, Cat No. hb-det2)でよく混ぜた後、約2.5×10、180μLの体積で、同じ細胞数を96ウェルプレートに播種した。
【0188】
タンパク質と一緒に添加された細胞を37℃のインキュベータにて約16時間反応させた。
【0189】
約16時間後、マイクロマルチリーダー機で620nmの波長帯で光学密度値を測定し、NF-κB活性を比較し計算した。
【0190】
(2)実験結果
これに関する結果を図4に示した。
【0191】
図4に示したように、各Fc-hIgG4-フラジェリン融合タンパク質は、全てTLR5依存性NF-κB活性を濃度依存的に増加させることが確認されており、これらのうち、特に、Fc-hIgG4-Bsフラジェリン融合タンパク質の活性が、すべての濃度において最も優れることが確認できた。低濃度である4nMにおいて、他のFc-hIgG4-フラジェリン融合タンパク質は、TLR5の活性を誘導することができなかったが、Fc-hIgG4-Bsフラジェリンだけが、有意なTLR5の活性を誘導することができることが確認できた。
【0192】
実施例5:動物実験のためのFc-mIgG1-Bsフラジェリン融合タンパク質の作製
前記実施例1~4を通じて最も優れた活性を示すことが確認できたFc-hIgG4-Bsフラジェリンをマウス動物モデルで検証するために、マウスIgG1に由来するFc領域が融合したタンパク質を符号化するポリヌクレオチドを含むベクターを、以下のような方法で製造した(図5)。リンカーサイズがFc融合フラジェリンの機能に影響を与えるかを比較するために、1つのリンカーGGGGS(配列番号8)を使用した場合と、3つのリンカーGGGGS(配列番号9)をそれぞれ使用して作製した。
【0193】
Bsフラジェリン、リンカー、及びマウスIgG1に由来するFc領域が融合したタンパク質を符号化するポリヌクレオチドを含むベクターを、以下のような方法で製造した(図5)。
【0194】
具体的には、B.subtilis flagellin(Bsフラジェリン)遺伝子が挿入されているpET49b-Bsフラジェリンベクター(Scientific Reports, 7, 40878(2017))で正方向プライマー(5'-CCGGAATTCATGAGAATTAACCACAATATTGCAGCACTTAAC-3)(配列番号34)と逆方向プライマー(5'-GACCATGGTAGACCCTCCGCCACCACGTAATAATTGAAGTACGTTTTGAGGCTG-3'(配列番号35)と5'-GACCATGGTAGACCCTCCGCCACCAGACCCTCCGCCACCAGACCCTCCGCCACCACGTAATAATTGAAGTACGTTTTGAGGCTG-3'(配列番号36))を用いてPCRを行った。PCRは、pfu turboDNAポリメラーゼ(Invitrogen, 2.5 unit/ul、#600252)を用いて92℃で30秒間反応させ、92℃で30秒、56℃で30秒、68℃で1分間反応させるを1サイクルとして、30サイクル反応させた後、68℃で5分間反応させ終了した。
【0195】
このように獲得したPCR産物をEcoRI/NcoIで処理した後、EcoRI/NcoI酵素で処理したpFUSE-mIgG1-Fc1ベクターについて、T4DNAリガーゼ(Takara, #2011A)を用いて、ライゲーションにより製造された「pFUSE-mIgG1-Fc1-Bsフラジェリン」発現ベクターをシークエンシングを通じて確認した(図6)。
【0196】
前記作製したベクターを用いて細胞を形質感染させた後、Fc-Bsフラジェリン融合タンパク質の発現を確認した。
【0197】
これに関する結果を図7に示した。
【0198】
図7にて確認できるように、EVは接合(conjugation)されていないFcタンパク質(26kDa)が確認され、#1(Fc-Bsフラジェリン、即ち、Fc-リンカー-Bsフラジェリン融合タンパク質)、#2(Fc-Bsフラジェリン3、即ち、Fc-リンカー3回反復-Bsフラジェリン融合タンパク質)は、それぞれBsフラジェリン接合(conjugation)されたFcタンパク質がそれぞれ55kDaのサイズで確認できた。陰性対照群に使用したTdTmtレーンにおいては、信号が全く検出されなかった。Fc-Bsフラジェリン融合タンパク質は、Bsフラジェリン-リンカー(GGGGS(配列番号8))-Fc構造の融合タンパク質であり、Fc-Bsフラジェリン3は、Bsフラジェリン-リンカー(GGGGS3回反復(配列番号9))-Fc構造の融合タンパク質を意味する。
【0199】
実施例6:Fc-mIgG1-Bsフラジェリン融合タンパク質の二量体形成の確認
前記タンパク質の発現が確認できたFc-mIgG1-Bsフラジェリン融合タンパク質が二量体を形成するかを確認した。
【0200】
図8に示したように、非還元条件において、還元条件にて得られる信号サイズの約2倍に当たる二量体形成の信号が観察された。これにより、Fc-Bsフラジェリン融合タンパク質が二量体を形成することが確認できた。
【0201】
実施例7:Fcフラジェリンと野生型フラジェリンのTLR5アゴニストとしての活性を比較
前記作製されたFc-Bsフラジェリン融合タンパク質がTLR5アゴニストとして活性を示すかを確認するために、細胞内NF-κB活性を前記実施例4の方法と同様の方法で評価した。
【0202】
これに関する結果を図9に示した。
【0203】
HEK293T細胞にFc-mIgG1-Bsフラジェリンをトランスフェクションした後、48時間後に獲得した細胞培養液を用いてToll様受容体(Toll like receptor, TLR)5依存性NF-κBの活性(activity)を確認した。比較のために、Invivogenが99%の純度で販売しているBacillus subtilisの精製されたフラジェリン(FLA-BS)とSalmonella typhimuriumの精製されたフラジェリン(FLA-ST)を使用した。各試験物質を処理した場合、Fc-BsフラジェリンによるTLR5依存性NF-κB活性が、標準タンパク質として使用されたFLA-BSやFLA-STに比べて顕著に高いことが確認できた。
【0204】
以上の結果から、免疫グロブリンのFc領域に融合されたフラジェリンが、野生型フラジェリン、野生型フラジェリンの断片、又は野生型フラジェリンの変異体に比べて、顕著に向上されたTLR5経路活性化能を示すことを意味すると判断できる。
【0205】
前述した実験で使用された各タンパク質のアミノ酸配列及びこれを符号化するポリヌクレオチドの配列は以下の通りである。
Bsフラジェリンアミノ酸配列:配列番号1
Sdフラジェリンアミノ酸配列:配列番号2
Paフラジェリンアミノ酸配列:配列番号3
Shフラジェリンアミノ酸配列:配列番号4
Ecフラジェリンアミノ酸配列:配列番号5
ヒトIgG4Fcアミノ酸配列:配列番号6
マウスIgG1Fcアミノ酸配列:配列番号7
リンカー1アミノ酸配列:配列番号8
リンカー2アミノ酸配列:配列番号9
hIgG4-Fc-Bsフラジェリン融合タンパク質アミノ酸配列:配列番号10
mIgG1-Fc-Bsフラジェリン融合タンパク質(リンカー1)アミノ酸配列:配列番号11
mIgG1-Fc-Bsフラジェリン融合タンパク質(リンカー2)アミノ酸配列:配列番号12
hIgG4-Fc-Sdフラジェリン融合タンパク質アミノ酸配列:配列番号13
hIgG4-Fc-Paフラジェリン融合タンパク質アミノ酸配列:配列番号14
hIgG4-Fc-Shフラジェリン融合タンパク質アミノ酸配列:配列番号15
hIgG4-Fc-Ecフラジェリン融合タンパク質アミノ酸配列:配列番号16
hIgG4-Fc-Bsフラジェリンポリヌクレオチド配列:配列番号17
mIgG1-Fc-Bsフラジェリン(リンカー1)ポリヌクレオチド配列:配列番号18
mIgG1-Fc-Bsフラジェリン(リンカー2)ポリヌクレオチド配列:配列番号19
hIgG4-Fc-Sdフラジェリンポリヌクレオチド配列:配列番号20
hIgG4-Fc-Paフラジェリンポリヌクレオチド配列:配列番号21
hIgG4-Fc-Shフラジェリンポリヌクレオチド配列:配列番号22
hIgG4-Fc-Ecフラジェリンポリヌクレオチド配列:配列番号23
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明が提供する融合タンパク質は、野生型フラジェリン、その断片、又はその変異体に比べて、Toll様受容体5(TLR5)経路活性化能が顕著に優れており、TLR5経路の活性化を通じて予防、改善、又は治療することができる疾患の治療剤の開発及び/又はワクチン補助剤の開発に極めて有用に活用することができ、産業上の利用可能性が非常に高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
0007323949000001.app