(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G01W1/10 P
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022003429
(22)【出願日】2022-01-13
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】202110403683.5
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507393540
【氏名又は名称】武▲漢▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ ▲イェ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 翔
(72)【発明者】
【氏名】徐 晶
(72)【発明者】
【氏名】梁 昌梅
(72)【発明者】
【氏名】▲ドン▼ 梁▲クン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 莉
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲書▼▲穎▼
(72)【発明者】
【氏名】熊 ▲豐▼
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】Feifei Yuan et al,Changes in Precipitation Extremes over the Source Region of the Yellow River and Its Relationship with Teleconnection Patterns,water 2020,12,978,2020年,pp.1-15,doi:10.3990/w12040978
【文献】荒川英誠 他,全国における確率降雨強度式の現状と作成方法に関する一考察,水工学論文集 第49巻,2023年02月17日,pp.19-24
【文献】皆川裕樹 他,長短期降雨特性を備えた豪雨の内部波形の模擬発生法,農業農村工学会論文集 No.291,2014年06月,pp.15-24
【文献】立川康人 他,移流モデルによる予測降雨場の誤差構造のモデル化と降雨場の模擬発生,土木学会論文集 No.754/II-66,2004年02月,pp.9-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00~1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計画降雨の継続時間及び時間ステップを決定し、都市の計画領域を単位として
前記都市の計画領域における複数の異なる観測所の過去の降雨資料を収集するステップ1と、
決定された前記計画降雨の継続時間に基づいて、前記計画領域内の異なる観測所から
年間最大値サンプル選定法で降雨サンプルを選定し、降雨サンプルデータセットを構成するステップ2と、
選定された降雨サンプルについて頻度順位を算出し、計画降雨の再現期間を決定し、
該再現期間に基づいて計画降雨量を決定するステップ3と、
ステップ2で得られた異なる観測所の降雨サンプルデータセットに対して固有直交分解を行い、降雨場の分解モード及び各
分解モードに対応する時変係数を得る
ステップであって、
異なる観測所における異なる年にサンプリングされた降雨サンプルの集合を示す降雨場Xは、以下の式(1)で定義され、
式(1) X=[v(x,t
1
)v(x,t
2
)...v(x,t
n
)]∈R
m×n
式(1)中、tは時間を表し、nは時間係数最大値であり、Rは実数体であり、mは異なる観測所の異なる年にサンプリングされたサンプルの数であり、
時間平均値を差し引いたn時刻の降雨強度v(x,t
n
)は以下数1の式で求められ、
【数1】
u(x,t
n
)はn時刻のx観測所の降雨強度を表し、
はx観測所の全時刻の平均降雨強度を表し、
以下式(2)で降雨場Xに対して特異値分解を行い、
式(2) X=ΦΣΨ
T
上記式(2)中、Φはモード行列であり、Σはモードエネルギー対角行列であり、Ψ
T
は時変係数行列であり、
前記分解モードは、特異値分解によって得られる全てのモードであり、
前記分解モードの各モードは、降雨場Xを特異値分解した後の降雨の空間的分布及び構造であり、各モードに対応する時変係数は、該各モードの経時的な変化傾向から求められ、
前記各モードの降雨場への寄与率は、特異値分解時のモードエネルギー対角行列における対角成分の降順に並べられて求められる、ステップ4と、
ステップ4で得られた
前記各モードの降雨場への寄与率の内、最も寄与率の高いモードを示す第1主要モードの時変係数に基づいて、計画降雨のピーク位置、降雨波形の傾向を決定し、計画降雨波形の再構成テンプレートを
決定するステップ5と、
ステップ4で得られた前記各モードの降雨場への寄与率に基づき、降雨場への寄与率が60%超
となる主要モードを選定して、ステップ5で
決定された
前記計画降雨波形の再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成する
ステップであって、
下記数2の式を用いて、再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成し、
【数2】
上記数2の式中、rは選定された再構成するモードの数であり、a
j
(t)は第jのモードの時変係数であり、Φ
j
(x)は第jのモードである、ステップ6と、
ステップ3で
決定された前記計画降雨量と
同じ倍率で、
ステップ6で得られた再構成した前記降雨波形を拡大又は縮小して
前記都市の計画領域の計画降雨を算定するステップ7と、を含む
ことを特徴とする、都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【請求項2】
ステップ1で、得られた降雨資料には具体的に、
15日または7日の長継続時間の計画降雨波形の研究に必要な降雨資料が日スケールであること、
3日または1日の中程度継続時間の計画降雨波形の研究に必要な降雨資料が時間スケールであること、及び
2時間または1時間の短継続時間の計画降雨波形の研究に必要な降雨資料が分間スケールであることが要求される、ことを特徴とする請求項1に記載の都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【請求項3】
ステップ3で、ピアソンIII型曲線又は正規分布型又は対数正規分布型又はgamma分布型曲線を選択して頻度順位を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【請求項4】
ステップ5で、前記第1主要モードに対応する時変係数の変化傾向に応じて再構成テンプレートを
決定するか、又は主ピークが後方に位置するタイプの降雨を再構成テンプレートとして
決定するか、又は主ピークが前方に位置するもしくは降雨が比較的均一な過去の降雨過程を再構成テンプレートとして
決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【請求項5】
ステップ6で、降雨場への寄与率が80%超の主要モードを抽出して降雨波形を再構成する、ことを特徴とする請求項1に記載の都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【請求項6】
ステップ6で、降雨場への寄与率が90%超の主要モードを抽出して降雨波形を再構成する、ことを特徴とする請求項5に記載の都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【請求項7】
都市の計画領域を単位として、雨量測定装置で
前記都市の計画領域における複数の異なる観測所の過去の降雨資料を取得する資料取得部と、
計画降雨の継続時間又は時間ステップの計画要件に応じて
年間最大値サンプル選定法で降雨サンプルを選定するサンプル選定部と、
選定された降雨サンプルについて頻度順位を算出し、計画降雨の再現期間を決定し、該再現期間に基づいて計画降雨量を決定する雨量決定部と、
異なる観測所の降雨サンプルデータに対して固有直交分解を行い、降雨場の分解モード及び各モードに対応する時変係数を得る時変係数決定部と、前記各モードの降雨場への寄与率は、特異値分解時のモードエネルギー対角行列における対角成分の降順に並べられて求められ、
各モードの
降雨場への寄与率の内最も寄与率が高いモードである第1主要モードの時変係数に基づいて計画降雨のピーク位置、降雨波形の傾向を決定し、降雨波形の再構成テンプレートを決定するピーク位置と降雨波形決定部と、
降雨場への寄与率が60%超の主要モードを選定して再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成する降雨波形再構成部と、
前記計画降雨量
と同じ倍率で、再構成した前記降雨波形
を拡大又は縮小して都市計画領域の計画降雨を算定する降雨波形生成部と、
コンピュータによって、前記資料取得部、前記サンプル選定部、前記雨量決定部、前記時変係数決定部、前記ピーク位置と降雨波形決定部、前記降雨波形再構成部、及び前記降雨波形生成部を全て通信可能に接続し、それらの動作及び演算を制御する制御部と、
制御部に接続され、実測又は予報データに基づいて降雨のピーク位置、ピークの出現時間を予測し、そして生成された計画降雨波形に基づき、降雨流出を計算することで、都市計画領域の計画洪水過程を得ることができる予測部と、
前記資料取得部、前記サンプル選定部、前記雨量決定部、前記時変係数決定部、前記ピーク位置と降雨波形決定部、前記降雨波形再構成部、前記降雨波形生成部、前記予測部、及び前記制御部のいずれにも通信可能に接続され、ユーザの操作命令入力、及び対応する表示を行うための入力表示部と、を含み、
前記時変係数決定部は、以下の処理を実行し、
異なる観測所における異なる年にサンプリングされた降雨サンプルの集合を示す降雨場Xは、以下の式(1)で定義され、
式(1) X=[v(x,t
1
)v(x,t
2
)...v(x,t
n
)]∈R
m×n
式(1)中、tは時間を表し、nは時間係数最大値であり、Rは実数体であり、mは異なる観測所の異なる年にサンプリングされたサンプルの数であり、
時間平均値を差し引いたn時刻の降雨強度v(x,t
n
)は、以下数1の式で求められ、
【数1】
u(x,t
n
)はn時刻のx観測所の降雨強度を表し、
はx観測所の全時刻の平均降雨強度を表し、
以下式(2)で降雨場Xに対して特異値分解を行い、
式(2) X=ΦΣΨ
T
上記式(2)中、Φはモード行列であり、Σはモードエネルギー対角行列であり、Ψ
T
は時変係数行列であり、
前記分解モードは、特異値分解によって得られる全てのモードであり、
前記分解モードの各モードは、降雨場Xを特異値分解した後の降雨の空間的分布及び構造であり、各モードに対応する時変係数は、該各モードの経時的な変化傾向から求められ、
前記各モードの降雨場への寄与率は、特異値分解時のモードエネルギー対角行列における対角成分の降順に並べられて求められ、
ピーク位置と降雨波形決定部は、以下の処理を実行し、
下記数2の式を用いて、再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成し、
【数2】
上記数2の式中、rは選定された再構成するモードの数であり、a
j
(t)は第jのモードの時変係数であり、Φ
j
(x)は第jのモードである、
ことを特徴とする、都市における計画降雨波形の推計システム。
【請求項8】
資料取得部は研究領域内の転倒ます型雨量計又は高精度デジタル雨量計又は雨量遠隔測定衛星又は過去の観測記録で手動入力によって過去の降雨資料を取得する、ことを特徴とする請求項
7に記載の都市における計画降雨波形の推計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は都市水文の技術分野に関し、具体的には都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市化の進展及び地球の気候変化による影響に伴い、都市の局所的領域において極端な豪雨という気象イベントが発生する頻度が上昇しており、これにより洪水等の一連の気象災害が引き起こされ、人々の生活、社会の発展及び自然生態系にまで影響が及ぼされている。
【0003】
都市における計画降雨波形である降雨強度は時間的に分布するものであり、降雨の発生、進行及び消失の過程を反映している。都市における計画降雨は、都市の降雨流出研究、下水管路網の設計、汚染防止、スポンジ都市の建設等の礎石であり、都市水文の研究において広く応用されている。例えば、計画降雨波形に基づき、降雨流出を算定すれば、計画洪水を算定すること等ができる。従って、都市における計画降雨波形の決定は特に重要である。
【0004】
計画降雨波形を求める一般的な方法は、平均法、シカゴ法、Y-C法、P-C法、Huff法等がある。平均法は降雨波形を求める最も簡単な方法であるが、このような方法で得られる計画洪水は規模が実際より小さいことが多い。シカゴ法で得られる対称の降雨過程は本質的に実際の降雨波形の特徴に適合しない。Y-C法は降雨継続時間がTである中間部分のみを考慮に入れたが、降雨の開始と終了部分を無視した。P-C法は一定の確率分布を考慮したが、降雨ピークを出現の可能性が最も高い位置に設定するだけであり、他の降雨ピークを無視してしまった。Huff法で得られる計画洪水ピークは降雨継続時間により大きく影響され、不適な降雨継続時間を選択すると大きな誤差が生じる。また、上述した方法はいずれも降雨の空間的分布の不均一性を考慮しておらず、1つの観測所によるデータのみに基づいて1区画内の降雨過程を求めようとしている。更に、地球の気候変化により、都市における降水強度は著しく影響され、従来の方法では実際の結果との差が大きくなっており、都市における計画降雨波形を求める上での要求を満たすことができなくなる。
【0005】
従って、気候変化に適応し且つ都市の異なる観測所における空間的差異を反映可能な、計画降雨波形の推計方法が至急必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、その目的は都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法及びシステムを提供することであり、計画領域の降雨特徴及び異なる観測所の空間的差異を十分考慮に入れている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、以下の解決手段を採用する。
<方法>
【0008】
本発明は、以下のステップを含む、固有値分解に基づく都市デザインストームの推定方法を提供する。
計画降雨の継続時間及び時間ステップを決定し、都市の計画領域を単位として
前記都市の計画領域における複数の異なる観測所の過去の降雨資料を収集するステップ1と、
決定された前記計画降雨の継続時間に基づいて、前記計画領域内の異なる観測所から
年間最大値サンプル選定法で降雨サンプルを選定し、降雨サンプルデータセットを構成するステップ2と、
選定された降雨サンプルについて頻度順位を算出し、計画降雨の再現期間を決定し、
該再現期間に基づいて計画降雨量を決定するステップ3と、
ステップ2で得られた異なる観測所の降雨サンプルデータセットに対して固有直交分解を行い、降雨場の分解モード及び各
分解モードに対応する時変係数を得る
ステップであって、
異なる観測所における異なる年にサンプリングされた降雨サンプルの集合を示す降雨場Xは、以下の式(1)で定義され、
式(1) X=[v(x,t
1
)v(x,t
2
)...v(x,t
n
)]∈R
m×n
式(1)中、tは時間を表し、nは時間係数最大値であり、Rは実数体であり、mは異なる観測所の異なる年にサンプリングされたサンプルの数であり、
時間平均値を差し引いたn時刻の降雨強度v(x,t
n
)は以下数1の式で求められ、
【数1】
u(x,t
n
)はn時刻のx観測所の降雨強度を表し、
はx観測所の全時刻の平均降雨強度を表し、
以下式(2)で降雨場Xに対して特異値分解を行い、
式(2) X=ΦΣΨ
T
上記式(2)中、Φはモード行列であり、Σはモードエネルギー対角行列であり、Ψ
T
は時変係数行列であり、
前記分解モードは、特異値分解によって得られる全てのモードであり、
前記分解モードの各モードは、降雨場Xを特異値分解した後の降雨の空間的分布及び構造であり、各モードに対応する時変係数は、該各モードの経時的な変化傾向から求められ、
前記各モードの降雨場への寄与率は、特異値分解時のモードエネルギー対角行列における対角成分の降順に並べられて求められる、ステップ4と、
ステップ4で得られた
前記各モードの降雨場への寄与率の内、最も寄与率の高いモードを示す第1主要モードの時変係数に基づいて、計画降雨のピーク位置、降雨波形の傾向を決定し、計画降雨波形の再構成テンプレートを
決定するステップ5と、
ステップ4で得られた前記各モードの降雨場への寄与率に基づき、降雨場への寄与率が60%超
となる主要モードを選定して、ステップ5で
決定された
前記計画降雨波形の再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成する
ステップであって、
下記数2の式を用いて、再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成し、
【数2】
上記数2の式中、rは選定された再構成するモードの数であり、a
j
(t)は第jのモードの時変係数であり、Φ
j
(x)は第jのモードである、ステップ6と、
ステップ3で
決定された前記計画降雨量と
同じ倍率で、
ステップ6で得られた再構成した前記降雨波形を拡大又は縮小して
前記都市の計画領域の計画降雨を算定するステップ7と、を含む
ことを特徴とする、都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【0009】
好ましくは、本発明により提供される都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法は更に以下の特徴を有してもよい。ステップ1で、得られた降雨資料には具体的に、長継続時間(15日、7日)の計画降雨波形の研究に必要な降雨資料が日スケールであること、中程度継続時間(3日、1日)の計画降雨波形の研究に必要な降雨資料が時間スケールであること、短継続時間(2時間、1時間)の計画降雨波形の研究に必要な降雨資料が分間スケールであることが要求される。降雨資料のスケールは実際の必要に応じて調整してもよい。降雨資料は研究都市内の各気象又は水文観測所に由来してもよく、衛星の遠隔測定雨量記録に由来してもよい。
【0010】
好ましくは、本発明により提供される都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法は更に以下の特徴を有してもよい。ステップ2において、調査地域の連続した30年間の降雨データが入手できない場合、降雨サンプルの選択には年間最大値が望ましい。
【0011】
ステップ3で、適切な確率分布関数型を選定する必要があり、優先的にはピアソンIII型曲線を選定して頻度順位を算出し、又は、実際の必要に応じて正規分布分型又は対数正規分布型又はgamma分布型等の他の分布曲線を選定して頻度順位を算出してもよい。
【0012】
好ましくは、本発明により提供される都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法は更に以下の特徴を有してもよい。ステップ4で、異なる観測所の降雨サンプルデータに対して固有直交分解を行い、降雨場の主要モード及びモードの対応する時変係数を得、固有直交モード分解は具体的に、
(1)降雨場をX=[v(x,t
1)v(x,t
2)...v(x,t
n)]∈R
m×nとすることであって、式中、Xは降雨場を表し、tは時間を表し、nは時間係数最大値であり、Rは実数体であり、mは異なる観測所の異なる年にサンプリングされたサンプルの数であり、
【数1】
は、時間平均値を差し引いたn時刻の降雨強度を表し、u(x,t
n)はn時刻のx観測所の降雨強度を表し、
はx観測所の全時刻の平均降雨強度を表すことと、
(2)降雨場Xに対して特異値分解X=ΦΣΨ
Tを行うことであって、式中、Φはモード行列であり、Σはモードエネルギー対角行列であり、Ψ
Tは時変係数行列であることと、を行うように操作する、ことを特徴とする請求項1に記載の都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法。
【0013】
最も好ましくは第1モードに対応する時変係数の変化傾向に応じて再構成テンプレートを選択し、安全を重視する計画の場合、主ピークが後方に位置するタイプの降雨を再構成テンプレートとして選択してもよく、経済性を重視する場合、主ピークが前方に位置するもしくは降雨が比較的均一な過去の降雨過程を再構成テンプレートとして選択してもよい。
【0014】
工事の実際の要求に応じて降雨場への寄与率が90%超の主要モードを抽出して計画降雨波形を再構成してもよい。
<システム>
さらに、本発明は、都市デザイン雨量パターン演繹システムを提供するものであり、以下の構成を有する。
都市の計画領域を単位として、雨量測定装置で
前記都市の計画領域における複数の異なる観測所の過去の降雨資料を取得する資料取得部と、
計画降雨の継続時間又は時間ステップの計画要件に応じて
年間最大値サンプル選定法で降雨サンプルを選定するサンプル選定部と、
選定された降雨サンプルについて頻度順位を算出し、計画降雨の再現期間を決定し、該再現期間に基づいて計画降雨量を決定する雨量決定部と、
異なる観測所の降雨サンプルデータに対して固有直交分解を行い、降雨場の分解モード及び各モードに対応する時変係数を得る時変係数決定部と、前記各モードの降雨場への寄与率は、特異値分解時のモードエネルギー対角行列における対角成分の降順に並べられて求められ、
各モードの
降雨場への寄与率の内最も寄与率が高いモードである第1主要モードの時変係数に基づいて計画降雨のピーク位置、降雨波形の傾向を決定し、降雨波形の再構成テンプレートを決定するピーク位置と降雨波形決定部と、
降雨場への寄与率が60%超の主要モードを選定して再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成する降雨波形再構成部と、
前記計画降雨量
と同じ倍率で、再構成した前記降雨波形
を拡大又は縮小して都市計画領域の計画降雨を算定する降雨波形生成部と、
コンピュータによって、前記資料取得部、前記サンプル選定部、前記雨量決定部、前記時変係数決定部、前記ピーク位置と降雨波形決定部、前記降雨波形再構成部、及び前記降雨波形生成部を全て通信可能に接続し、それらの動作及び演算を制御する制御部と、
制御部に接続され、実測又は予報データに基づいて降雨のピーク位置、ピークの出現時間を予測し、そして生成された計画降雨波形に基づき、降雨流出を計算することで、都市計画領域の計画洪水過程を得ることができる予測部と、
前記資料取得部、前記サンプル選定部、前記雨量決定部、前記時変係数決定部、前記ピーク位置と降雨波形決定部、前記降雨波形再構成部、前記降雨波形生成部、前記予測部、及び前記制御部のいずれにも通信可能に接続され、ユーザの操作命令入力、及び対応する表示を行うための入力表示部と、を含み、
前記時変係数決定部は、以下の処理を実行し、
異なる観測所における異なる年にサンプリングされた降雨サンプルの集合を示す降雨場Xは、以下の式(1)で定義され、
式(1) X=[v(x,t
1
)v(x,t
2
)...v(x,t
n
)]∈R
m×n
式(1)中、tは時間を表し、nは時間係数最大値であり、Rは実数体であり、mは異なる観測所の異なる年にサンプリングされたサンプルの数であり、
時間平均値を差し引いたn時刻の降雨強度v(x,t
n
)は、以下数1の式で求められ、
【数1】
u(x,t
n
)はn時刻のx観測所の降雨強度を表し、
はx観測所の全時刻の平均降雨強度を表し、
以下式(2)で降雨場Xに対して特異値分解を行い、
式(2) X=ΦΣΨ
T
上記式(2)中、Φはモード行列であり、Σはモードエネルギー対角行列であり、Ψ
T
は時変係数行列であり、
前記分解モードは、特異値分解によって得られる全てのモードであり、
前記分解モードの各モードは、降雨場Xを特異値分解した後の降雨の空間的分布及び構造であり、各モードに対応する時変係数は、該各モードの経時的な変化傾向から求められ、
前記各モードの降雨場への寄与率は、特異値分解時のモードエネルギー対角行列における対角成分の降順に並べられて求められ、
ピーク位置と降雨波形決定部は、以下の処理を実行し、
下記数2の式を用いて、再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成し、
【数2】
上記数2の式中、rは選定された再構成するモードの数であり、a
j
(t)は第jのモードの時変係数であり、Φ
j
(x)は第jのモードである、
ことを特徴とする、都市における計画降雨波形の推計システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明により提供される都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法及びシステムは、固有直交分解によって降雨過程を反映する主要モード及びモードに対応する時変係数を抽出し、第1主要モードに対応する時変係数が反映する降雨のピーク位置、降雨強度の変化傾向に応じて降雨波形の再構成テンプレートを選択し、異なる再現期間でのピーク降雨強度、降雨のピーク位置、降雨強度が変化する計画降雨波形を推計する。また、実測又は予報データに基づいて降雨のピーク位置、ピークの出現時間を予測することができる。該計画降雨波形に基づき、降雨流出を算出することで、更に研究領域の計画洪水過程を得ることができる。また、将来の天候パターンと合わせて、異なる天候パターンでの予測降雨データを入力とし、都市における将来の計画降雨波形を得、より先見性のある計画基準を工事の計画に提供することもできる。本発明は都市における計画降雨波形を求めることに固有直交分解を導入し、異なる観測所の大量の実測資料に基づき、計画領域の降雨特徴及び異なる観測所の空間的差異を十分考慮に入れ、推計される降雨波形は実際の状況とより近くなり、より正確で合理的な結果を推計することができ、都市の計画降雨波形の決定に新たな考え方を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例に係る都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例に係る武漢市を例にして本発明を応用してモード分解を行った後のモードエネルギー比の図であり、上位9個の主要モードのエネルギー比は合計80%超である。
【
図3】本発明の実施例に係る武漢市を例にして本発明を応用してモード分解を行った後の第1主要モードのモード値の図である。
【
図4】本発明の実施例に係る武漢市を例にして本発明を応用してモード分解を行った後の第1主要モードに対応する時変係数の図である。
【
図5】本発明の実施例に係る武漢市を例にして本発明を応用して求めた降雨波形とシカゴ法、P-C法による結果との比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法及びシステムの具体的な実施形態を詳細に説明する。
<実施例>
【0018】
図1に示すように、本実施例により提供される都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法は以下のステップを含む。
【0019】
S1で、武漢市を単位として異なる観測所の過去の降雨資料を収集し、本回は、降雨の推計基礎として、経緯度が30.0°N,114.4°E、30.5°N,114.4°E、31.0°N,114.4°Eである3つの観測所における1980年から2004年の時間ごとの降雨データを選定する。
【0020】
S2で、計画降雨の継続時間を24時間と決定し、年間最大値サンプル選定法で降雨サンプルを選定する。
【0021】
S3で、選定された降雨サンプルについて頻度順位を算出し、本回の計算にはP-III型曲線を選定してフィッティングし、再現期間を十年一度とし、武漢市における24時間の10年に1回程度の降雨の総量を得る。
【0022】
S4で、異なる観測所の降雨サンプルデータに対して固有直交分解を行い、降雨場の主要モード及びモード(
図2~3)の対応する時変係数(
図4)を得、固有直交モード分解は具体的に、
(1)降雨場をX=[v(x,t
1)v(x,t
2)...v(x,t
n)]∈R
m×nとすることであって、式中、
【数2】
は、時間平均値を差し引いたt
n時刻の降雨強度を特徴付けることと、
(2)降雨場Xに対して特異値分解X=ΦΣΨ
Tを行うことであって、式中、Φはモード行列であり、Σはモードエネルギー対角行列であり、Ψ
Tは時変係数行列であることと、を行うように操作する。
【0023】
S5で、S4で得られた第1主要モードの時変係数に基づいて計画降雨のピーク位置、降雨波形の傾向を決定し、これにより降雨波形の再構成テンプレートを選択する。
【0024】
S6で、S4で得られたモードに基づき、エネルギー比が合計80%超の主要モード(
図2)を選定してS5で決定された再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成する。
本例では上位9個のモードのエネルギー比が合計80%超となり、
【数3】
であり、式中、rは選定された再構成モードの数9であり、a
j(t)は第jのモードの時変係数であり、Φ
j(x)は第jのモードである。
【0025】
S7で、S6で得られた再構成結果をS3の計画降雨量に基づいて同じ倍率で拡大して武漢における24時間の10年に1回程度の計画降雨波形(
図5)を得る。
【0026】
更に、本実施形態では、上記検出処理を自動的に実施することができるシステムであって、データ取得部、サンプル選択部、降雨量判定部、時間変動係数判定部、位置雨パターン判定部、雨パターン再構成部、雨パターン生成部、予測部、雨パターン再構成部、入力表示部、制御部からなるシステムを提供するものである。
【0027】
資料取得部は、武漢市を単位として、実測の継続時間資料のデータに基づき、経緯度が30.0°N,114.4°E、30.5°N,114.4°E、31.0°N,114.4°Eである3つの観測所における1980年から2004年の時間ごとの降雨データを手動で入力する。
【0028】
サンプル選定部は、計画降雨の継続時間を24時間と決定し、武漢市の1980~2004年の過去の降雨データに基づき、年間最大値サンプル選定法で降雨サンプルを選定する。
【0029】
本実施例では再現期間が10年に1回程度の計画降雨を選択し、再現期間に基づいて計画降雨量を決定する。
【0030】
本実施例では、武漢市における10年に1回程度の24時間計画降雨は単峰型降雨であり、降雨ピークは9時間目の付近に出現する。
【0031】
降雨波形再構成部は、全てのモードから降雨場への寄与率が80%超の主要モード(上位9個のモード)を選定して再構成テンプレートに従って降雨波形を再構成する。
【0032】
降雨波形生成部は、再構成結果を、計画降雨量と同じ倍率で拡大して武漢市における10年に1回程度の24h計画降雨を算定する。
【0033】
制御部は、武漢大学のスーパーコンピューティングセンターのクラスタコンピューティングシステムによって資料取得部、サンプル選択部、雨量決定部、時変係数決定部、ピーク位置と降雨波形決定部、降雨波形再構成部、及び降雨波形生成部を通信可能に接続し、それらの動作及び演算を制御する。
【0034】
例えば、本実施例は入力表示部によって武漢市の過去の降雨資料を入力して対応する観測所位置を表示し、得られた降雨場の主要モード及びモードの対応する時変係数を表示することができ、対応する計画降雨のピーク位置、降雨波形の傾向、降雨波形の再構成テンプレート、計画降雨波形を表示することもでき、算出された降雨流出を表示し、更に研究領域の計画洪水過程を動的に表示することもできる。
【0035】
以上の実施例は本発明の技術的解決手段を例示的に説明したものに過ぎない。本発明に係る都市における計画降雨波形の固有直交分解による推計方法及びシステムは以上の実施例に記載の内容に限定されるものではなく、請求項に限定された範囲に準ずるものである。該実施例を基礎として本発明の属する分野の当業者が行った修正又は補足又は等価の置換は、いずれも本発明の請求項で特許請求される範囲内に含まれるものとする。