(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】腫瘍マーカーの一種であるAQUAPORIN 2タンパク質とその応用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20230802BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230802BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20230802BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230802BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230802BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230802BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230802BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230802BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20230802BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230802BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230802BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z ZNA
G01N33/574 A
A61K38/17
A61P35/00
A61P17/00
A61P13/12
A61P13/08
C12N15/12
C12N15/63 Z
C07K16/30
(21)【出願番号】P 2022514787
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(86)【国際出願番号】 CN2020126029
(87)【国際公開番号】W WO2021043340
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】201910850263.4
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522085563
【氏名又は名称】ナンチン アンチー バイオテクノロジー カンパニー、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュイ、ハンメイ
(72)【発明者】
【氏名】リー、モンウェイ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-079042(JP,A)
【文献】Journal of Clinical Oncology,2016年,34(2_suppl),p.540,doi: 10.1200/jco.2016.34.2_suppl.540
【文献】Modern Pathology,2005年,18,pp.535-540
【文献】PLoS ONE,10(12),e0145322, pp.1-27
【文献】Biomedicine & Pharmacotherapy,2018年11月09日,2019, 109,1296-1305
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N 33/00
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜貫通タンパク質の腫瘍マーカーとしての使用であり、前記膜貫通タンパク質は、SEQ ID No.2のアミノ酸配列を有するAQUAPORIN 2であり、
前記腫瘍は、頭頸部扁平上皮癌、腎乳頭細胞癌、腎臓の明細胞癌、または腎嫌色素性細胞癌であり、
AQUAPORIN 2の遺伝子発現量を検出することを含む、使用。
【請求項2】
腫瘍の検出方法であって、
前記検出方法は(a)または(b)のいずれか
であって、
(a)
PCR法により組織または細胞における膜貫通タンパク質
であるAQUAPORIN 2の遺伝子発現量を検出する、
(b) イムノブロッティング法により組織または細胞における膜貫通タンパク質
であるAQUAPORIN 2の発現量を検出する、
前記腫瘍は、頭頸部扁平上皮癌、腎乳頭細胞癌、腎臓の明細胞癌、または腎嫌色素性細胞癌である、検出方法。
【請求項3】
前記
PCR法は、
SEQ ID NO. 1配列のために設計された特異性プライマーペアを含むことを特徴とする請求項
2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記特異性プライマーペアの配列が
SEQ ID NO. 3および
SEQ ID NO.4となっていることを特徴とする請求項
3に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍検出および分子標的療法の分野に関わり、より具体的には、膜貫通タンパク質AQUAPORIN 2(本文ではAQP2と略記)とその応用に関わる。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は現在、人間の健康を危険にさらす最も深刻なタイプの病気となっている。研究によると、腫瘍の発生は遺伝子変異の段階的な蓄積の複雑な過程であり、現代の医療技術と分子生物学の発展により、腫瘍治療は個別化の時代に入り、腫瘍治療の寛解率が大幅に向上されている。したがって、腫瘍の早期診断、治療、および予後のための特異性の標的を見つけることは、腫瘍の臨床効果を制限する重要なボトルネックとなっている。
【0003】
頭頸部癌には、頸部腫瘍(甲状腺腫瘍など)、耳鼻咽喉科腫瘍(喉頭癌、鼻咽頭癌、副鼻腔癌など)、口腔および顎顔面腫瘍(舌癌、歯茎癌、頬癌など)を含み、そのうち頭頸部腫瘍の90%以上は扁平上皮癌となっている。頭頸部扁平上皮癌は世界で6番目に多い癌であり、世界中で毎年50万人以上の新規症例があり、5年生存率は40%を超えない。現在、治療法はやはり放射線療法、化学療法、外科手術の3種類に集中しており、臨床的予後は良くない。したがって、頭頸部扁平上皮癌の病因に関する詳細な研究と新規バイオマーカーの発見は、頭頸部扁平上皮癌の標的療法と患者の予後にとって非常に重要となっている。
【0004】
腎細胞癌としても知られる腎癌は、腎尿細管上皮細胞に由来し、最も一般的な腎実質性悪性腫瘍となっている。世界では毎年約208,500件の新規症例があり、中国での発症率は約4.5人/10万人で、現在、腎癌の病因は明確に理解されておらず、臨床治療によると、ほとんどの腎癌患者が放射線療法や化学療法に敏感ではなく、外科的切除に依存することが多い。したがって、早期診断の精度を向上させることは、腎癌患者のタイムリーな治療に役立っている。
【0005】
前立腺癌とは、主に腺癌(腺房腺癌)、腺管腺癌、尿路上皮癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌などを含む、前立腺に発生する上皮性悪性腫瘍を指す。発症率は年齢とともに増加し、ピーク年齢は70~80歳となっている。前立腺癌の発症率には明らかな地域的および人種的な違いがあり、統計によると、中国人が最も低く、ヨーロッパ人が最も高くなっている。近年では、生活状況の改善や平均余命の延長に伴い、中国の前立腺癌の発症率も年々増加している。
【0006】
腫瘍の転移と浸潤は悪性腫瘍の重要な特徴であり、ほとんどの腫瘍再発の要因でもある。研究によると、腫瘍の転移と浸潤は、複数の遺伝子が関与する継続的かつ動的な過程であり、その中では、癌原遺伝子と腫瘍抑制遺伝子が等しく重要な役割を果たしている。頭頸部扁平上皮癌を含む悪性腫瘍におけるPTEN、MYC、RAS、PIK3CA、AKT1などの多数の癌原遺伝子の役割は深く明らかにされているが、TP53以外の腫瘍抑制遺伝子に関する研究はほとんど報告されていない。ハイスループットスクリーニングやビッグデータ分析などのバイオインフォマティクス手法の助けを借りて、重要な機能を持つ腫瘍抑制遺伝子の発見は、腫瘍の病因を明らかにし、より包括的な診断と治療計画を提案するために非常に重要となっている。
【0007】
アクアポリンファミリーのメンバーの1つであるアクアポリン-2(AQP2)は、主に集合管の主細胞の管腔膜と細胞内小胞に分布しており、抗利尿ホルモン感受性アクアポリンとなっている。現在の研究では、AQP2が主に腎臓組織で発現し、神経性尿崩症や多発性嚢胞腎などの疾患を含む病理学的過程に関与していることがわかっている。しかし、腫瘍におけるAQP2の発現と機能は文献に報告されていなく、本研究は、さまざまな種類の腫瘍におけるAQP2の発現レベルと潜在的な生物学的機能を発見した最初の研究であり、腫瘍の検出と治療におけるAQP2の応用価値の開発にとって非常に重要な意義を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既存の頭頸部扁平上皮癌などの悪性腫瘍が密接に関連するバイオマーカーを欠いているという問題に対して、本発明は腫瘍マーカーAQP2タンパク質を提供し、それを腫瘍の検出および治療にうまく適用され、バイオインフォマティクス手法、臨床腫瘍サンプル、および生物学的機能実験を組み合わせることにより、頭頸部扁平上皮癌、腎癌、および前立腺癌の発生、発展、および転移に密接に関連する新規バイオマーカーを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明で採用された技術的解決策は以下の通りとなっている。
【0010】
腫瘍治療薬の調製における、または腫瘍マーカーとしての膜貫通タンパク質の適用、前記マーカーは膜貫通タンパク質AQP2であり、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO. 2の通りとなっている。
【0011】
好ましくは、その腫瘍マーカーが検出に使用される腫瘍には、頭頸部扁平上皮癌、腎癌、および前立腺癌が含まれる。
【0012】
上記のマーカーの発現を検出するための試薬テストキット、前記検出用試薬テストキットには、AQP2をコードするヌクレオチド配列(SEQ ID NO. 1の通りとなっている)のために設計された特異性プライマーペアを含む。
【0013】
好ましくは、バイオマーカー発現を検出するための試薬は、腫瘍対象の予後のためのツールに適用することができる。本明細書に記載される予後の方法には、腫瘍から試験サンプルを取得すること、前記試験サンプル中のバイオマーカーの発現レベルを決定すること、およびリスクスコアを生成するために前記発現レベルを分析することが含まれ、その中のリスクスコアは対象の予後を提供するために適用できる。予後に使用される試験サンプルは、新鮮な、凍結された、またはパラフィンで固定、包埋された組織であることに注意する必要がある。
【0014】
好ましくは、上記の検出試薬は、抗AQP2タンパク質抗体を含む試薬であり、また、抗AQP2タンパク質抗体を含む組成物検出試薬であってもよい。
【0015】
上記バイオマーカーの検出方法は、PCR法によって組織細胞における膜貫通タンパク質AQP2の発現量を検出するための特異性プライマーを設計し、前記プライマー配列はSEQ ID NO. 3およびSEQ ID NO. 4の通りであることを特徴となっている。
【0016】
膜貫通タンパク質AQP2の過剰発現を実現するための組換えベクター、前記組換えベクターは、腫瘍を治療するための薬物の調製に適用することができる。
【0017】
好ましくは、前記組換えベクターは、以下の(a1)~(a3)機能を有する、SEQ ID NO. 1
の通りのヌクレオチド配列を含む過剰発現プラスミド、レンチウイルスまたは細胞株となっている。
(a1)腫瘍の成長を抑制するため。
(a2)腫瘍細胞の増殖を抑制するため。
(a3)腫瘍細胞の遊走を抑制するため。
【0018】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は次の通りである。
【0019】
(1)膜貫通タンパク質AQP2は腫瘍の診断、予後および治療に重要な役割を果たし、頭頸部扁平上皮癌、腎癌、前立腺癌などの腫瘍マーカーとして使用できることが初めて発見された。
【0020】
(2)本発明は、頭頸部扁平上皮癌細胞、腎癌細胞および前立腺癌細胞における膜貫通タンパク質AQP2の発現レベルが正常上皮細胞よりも有意に低く、AQP2の過剰発現が頭頸部扁平上皮癌細胞、腎癌細胞、および前立腺癌細胞の増殖、遊走、およびインビボでの腫瘍成長を有意に抑制できることが発見され、これは、腫瘍の成長と遊走に対するAQP2の重要性を示し、AQP2が標的として薬剤設計を行う潜在的な可能を持つことを示しており、例えば、AQP2を標的とした抗腫瘍物質(そのコードヌクレオチドを含む過剰発現プラスミドベクター、レンチウイルスまたはトランスジェニック細胞株など)は頭頸部扁平上皮癌、腎癌、および前立腺癌に対する薬剤の調製に使用できる。
【0021】
(3)本発明は、GAPDHを内部参照遺伝子としてAQP2の発現レベルを検出して、頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、および前立腺癌細胞DU145における発現量が有意に減少したことが発見され、AQP2が新しいバイオマーカーとして頭頸部扁平上皮癌、腎癌、前立腺癌などの悪性腫瘍を診断できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】添付
図1は、ヒト頭頸部扁平上皮癌組織および傍癌性組織におけるAQP2遺伝子の発現量の比較で、データはTCGAデータベースから取得されている。
【
図2】添付
図2は、ヒト腎乳頭細胞癌組織および傍癌性組織におけるAQP2遺伝子の発現量の比較で、データはTCGAデータベースから取得されている。
【
図3】添付
図3は、ヒト腎明細胞癌組織および傍癌性組織におけるAQP2遺伝子の発現量の比較で、データはTCGAデータベースから取得されている。
【
図4】添付
図4は、ヒト腎嫌色素性細胞癌組織および傍癌性組織におけるAQP2遺伝子の発現量の比較で、データはTCGAデータベースから取得されている。
【
図5】添付
図5は、ヒト前立腺癌組織および傍癌性組織におけるAQP2遺伝子の発現量の比較で、データはTCGAデータベースから取得されている。
【
図6】添付
図6は、3種類の腫瘍細胞と正常細胞におけるAQP2遺伝子のAQP2遺伝子発現量の比較となっている。
【
図7】添付
図7は、3種類の腫瘍細胞と正常細胞におけるAQP2遺伝子のAQP2タンパク質発現量の比較となっている。
【
図8】添付
図8は、AQP2のレンチウイルス過剰発現ベクターマップとなっている。
【
図9】添付
図9は、頭頸部扁平上皮癌細胞におけるAQP2遺伝子およびタンパク質発現量に対するAQP2の過剰発現の影響となっている。
【
図10】添付
図10は、腎癌細胞におけるAQP2遺伝子およびタンパク質発現量に対するAQP2の過剰発現の影響となっている。
【
図11】添付
図11は、前立腺癌細胞におけるAQP2遺伝子およびタンパク質発現量に対するAQP2の過剰発現の影響となっている。
【
図12】添付
図12は、頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4の増殖能力に対するAQP2の過剰発現の影響結果グラフとなっている。
【
図13】添付
図13は、腎癌細胞786-Oの増殖能力に対するAQP2の過剰発現の影響結果グラフとなっている。
【
図14】添付
図14は、前立腺癌細胞DU145の増殖能力に対するAQP2の過剰発現の影響結果グラフとなっている。
【
図15】添付
図15は、頭頸部扁平上皮癌SCC4のインビボでの腫瘍成長に対するAQP2の過剰発現の影響結果グラフとなっている。
【
図16】添付
図16は、腎癌細胞786-Oのインビボでの腫瘍成長に対するAQP2の過剰発現の影響結果グラフとなっている。
【
図17】添付
図17は、前立腺癌細胞DU145のインビボでの腫瘍成長に対するAQP2の過剰発現の影響結果グラフとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<付記>
本発明は以下の態様を含む。
<1>前記膜貫通タンパク質がAQUAPORIN 2で、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO. 2の通りとなっていることを特徴とする腫瘍治療薬の調製または腫瘍マーカーとしての前記膜貫通タンパク質の適用。
<2>前記腫瘍治療は、腫瘍中のSEQ ID NO. 1の通りのヌクレオチド配列を過剰発現することによって達成されることを特徴とする<1>に記載の適用。
<3>前記検出方法は(a)または(b)のいずれかとなっていることを特徴とする腫瘍マーカーの検出方法。
(a) PCR法により組織または細胞における膜貫通タンパク質AQUAPORIN2の遺伝子発現量を検出する。
(b) イムノブロッティング法により組織または細胞における膜貫通タンパク質AQUAPORIN 2の発現量を検出する。
<4>前記PCR法は、SEQ ID NO. 1配列のために設計された特異性プライマーペアを含むことを特徴とする<3>に記載の検出方法。
<5>前記特異性プライマーペアの配列がSEQ ID NO. 3およびSEQ ID NO. 4となっていることを特徴とする<4>に記載の検出方法。
<6>前記腫瘍は頭頸部扁平上皮癌、腎癌および前立腺癌を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の適用および<3>~<5>に記載の検出方法。
<7>前記組換えベクターは前記SEQ ID NO. 1のヌクレオチド配列を含むことを特徴とする組換えベクター。
具体的な実施形態
次は、本発明について特定の実施例を参照して詳しく説明する。
【0024】
<実施例1>
さまざまなヒト腫瘍組織および傍癌性組織におけるAQP2の発現プロファイリングチップ分析
【0025】
腫瘍ゲノムアトラス(TCGA)計画は、米国National Cancer Institute(NCI)とNational Human Genome Research Institute(NHGRI)が共同で、2006年に立ち上げたプロジェクトで、大規模なシーケンシングベースを主とするゲノム解析技術を使用して、36種類の癌に対して大規模な実験を行い、TCGAゲノム分析センター(GCC)で腫瘍と正常組織を比較して、各癌またはサブタイプに関連する遺伝子の突然変異、増幅、または欠失を探ている。癌の分子メカニズムを理解させ、癌の病因の分子基盤の科学的理解を向上させる助けを提供する。
【0026】
TCGA標準法によって36種類の腫瘍とその傍癌性組織の全遺伝子発現プロファイルデータと臨床情報をダウンロードし、R言語(バージョン3.1.1)ソフトウェアによってAQP2発現情報を含まない腫瘍種類を除外することで、合計20種類の腫瘍の中からAQP2発現を検出できたことが分かった。
【0027】
【0028】
【0029】
20種類の腫瘍組織および対応する傍癌性組織におけるAQP2の発現レベルは、graphpad Prism7によって統計的に分析され、すべてのデータは統計的t検定にかけた結果、*P<0.05は有意差、**P<0.01は非常に有意差となっている。
【0030】
具体的な分析結果は表1に示し、対応する傍癌性組織と比較すると、AQP2が頭頸部扁平上皮癌(
図1)、3種類の腎癌サブタイプ(腎乳頭細胞癌、腎明細胞癌、腎色素性腎細胞癌、
図2-4)および前立腺癌(
図5)では有意に低い発現となっている。
【0031】
<実施例2>
本実施例では、蛍光定量PCR法によって腫瘍細胞および正常上皮細胞におけるAQP2の発現を検出する。
【0032】
1. 材料
頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4およびヒト正常口腔上皮細胞HIOEC、腎癌細胞786-Oおよびヒト腎上皮細胞HEK293T、前立腺癌細胞DU145およびヒト正常前立腺上皮細胞RWPE-1、上記細胞はすべてアメリカのATCCセルバンクから購入されている。
【0033】
2. 方法
2.1 腫瘍細胞および正常上皮細胞からのトータルRNAの抽出
上記6種類の細胞をそれぞれ37℃、5%CO2のインキュベーターで培養し、密度が90%に培養したらトリプシンによって消化収集し、培地に細胞を再懸濁させ顕微鏡でカウントし、細胞濃度を5×105細胞/mLに調整した後、濃度調整後の細胞懸濁液を6ウェルプレートに1ウェルあたり2mLずつ接種してから、37℃、5%CO2のインキュベーターで24h培養を続ける。
【0034】
life社のTrizol説明書に従って、それぞれ頭頸部扁平上皮癌SCC4およびヒト正常口腔上皮細胞HIOEC、腎癌細胞786-Oおよびヒト腎上皮細胞HEK293T、前立腺癌細胞DU145およびヒト正常前立腺上皮細胞RWPE-1のトータルRNAを抽出してから、NanoDrop ND-1000核酸定量装置によって抽出されたRNAの純度と濃度を定量化し、アガロースの品質チェックにより抽出されたRNAの完全性を保証する。
【0035】
2.2 ファーストストランドcDNAを合成するためのRNA逆転写
TaKaRa試薬テストキットPrimeScriptTM RT reagent Kit with gDNA Eraser(Perfect Real Time)によって、抽出されたトータルRNAを逆転写してcDNAを合成する。 その試薬テストキットには、交絡されたゲノムDNAを効果的に除去できるgDNAEraser DNaseが含まれている。
【0036】
2.3 PCRのリアルタイム定量
AQP2およびGAPDHの核酸配列に従って特異性プライマーを設計し、TaKaRa試薬テストキットSYBR(登録商標) Premix Ex TaqTM II(TliRNaseH Plus)によってPCR反応を行い、AQP2の上流プライマーおよび下流プライマーはそれぞれSEQ ID NO. 3およびSEQ ID NO. 4で、GAPDHの上流プライマーおよび下流プライマーはそれぞれSEQ ID NO. 5およびSEQ ID NO. 6である。反応系は下表の通りとなっている。
【0037】
【0038】
上記成分を均一に混合した後、次の手順に従ってPCRのリアルタイム定量を実行する:95℃で30s前変性、40サイクル、95℃で5s、60℃で30s。
【0039】
反応の特異性は融解曲線に従って判断され、AQP2のmRNA発現量は式2
-△△Ctによって計算される。結果は
図6に示し、ヒト正常上皮細胞と比較して、頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、および前立腺癌細胞DU145におけるAQP2の発現量は有意に減少し、臨床サンプルの分析結果と一致している。
【0040】
実施例3
本実施例では、イムノブロット法によって腫瘍細胞および正常上皮細胞におけるAQP2タンパク質の発現量を検出する。
【0041】
実施例2の6種類の細胞は、成長密度が90%に達したときにトリプシン処理によって収集され、細胞は増殖培養のために培地に再懸濁させた後、80%コンフルエンスになった時点で細胞を収集し、遠心分離後に上清を捨て、PBSで2回リンスして、上清を捨てる。RIPA溶解液を加え、氷上で20分間溶解する。12,000gで10分間遠心分離して上清を収集する。1X SDSローディングバッファーを加え、ピペッティングにより均一に混合させてから、変性のために5分間煮沸する。全タンパク質を10% SDS-PAGEゲルで分離した後、PVDFメンブレンに転写する。5% BSAで室温下に2時間ブロックし、AQP2抗体(abeam)と4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗浄する。二次抗体を室温下に1時間インキュベートし、TBSTで3回洗浄する。ECL超高感度化学発光溶液によって現像させ、Tannonイメージングシステムによってイメージングさせ、GAPDHを内部参照として異なる細胞におけるAQP2タンパク質の発現レベルを比較する。
【0042】
結果は
図7に示し、AQP2 mRNA発現の違いと一致するため、頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、および前立腺癌細胞DU145におけるAQP2タンパク質の発現量は有意に減少されている。
【0043】
実施例4
本実施例では、過剰発現するAQP2ベクターの調製とウイルストランスフェクション効率の検出を行う。
【0044】
同時に、AQP2に対する完全長cDNA(特定の配列についてはSEQ ID NO. 1を参照)を合成し、plvx-CMV-ZsGreen 1プラスミド(マップについては
図8を参照)に導入する。上記のプラスミドは、パッケージングプラスミドpsPAX2およびエンベローププラスミドpMD2.Gとともに、293T細胞にコトランスフェクトされてウイルスを生成し、48時間のトランスフェクション後、細胞のウイルス上清を収集し、それぞれSCC4頭頸部扁平上皮癌細胞、786-O腎癌細胞、DU145前立腺癌細胞が感染させる。感染した48時間後に、ピューロマイシンを加え2週間スクリーニングしてから、AQP2遺伝子の発現を安定して促進する細胞株が得られる。 3種類の細胞ブランクベクターと過剰発現ベクターのトータルRNAとトータルタンパク質を収集し、AQP2遺伝子とタンパク質発現量の変化をqPCR(具体的な方法は実施例2と同じ)とイムノブロッティング法(具体的な方法は実施例3と同じ)によって比較する。
【0045】
結果は
図9-11に示し、過剰発現するAQP2は、頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4(
図9)、腎癌細胞786-O(
図10)、前立腺癌細胞DU145(
図11)におけるAQP2遺伝子およびタンパク質の発現量を有意に増加させている。
【0046】
実施例5
本実施例は、過剰発現するAQP2がヒト腫瘍細胞の増殖能力に対する影響となっている。
【0047】
頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、前立腺癌細胞DU145の安定したトランスフェクションブランクベクターおよびAQP2過剰発現の細胞を37℃、5% CO2のインキュベーター内で90%の密度まで培養した際にトリプシン消化によって収集し、細胞を培地に再懸濁させ、顕微鏡下でカウントし、細胞濃度を3.0×104細胞/mLに調整し、細胞懸濁液を96ウェルプレートに接種し、ウェルあたり100μL、37℃、5%CO2のインキュベーター内でそれぞれ24時間、48時間、72時間培養する。5mg/mLのMTTを96ウェルプレートの各ウェルに20μLずつ加え、培養を4時間続ける。培地を吸取り、DMSOを各ウェルに100μLずつ加えて溶解させる。マイクロプレートリーダーによって、検出波長が570nm、参照波長が630nmでの吸光度を測定し、成長抑制率(proliferation inhibition,PI)を計算する。式は次の通りとなっている。
PI(%)=1-投薬群/陰性群
【0048】
実験は独立して3回繰り返され、実験で得られた結果はmean±SDとして表され、統計的t検定を実行し、2群以上のデータ比較は一方向分散分析(One-way ANOVA)を使用し、P値は統計的有意性を示すために使用され、その中で、P<0.05は有意差、P<0.01は非常に有意差となっている。
【0049】
結果は
図12-14に示し、ブランクベクター細胞(plvx-crtl)と比較して、AQP2過剰発現を有する細胞(plvx-AQP2)の頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4(
図12)および腎癌細胞786-O(
図14))、前立腺癌細胞DU145(
図15)の増殖率は有意に低下している。AQP2の過剰発現が頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、および前立腺癌細胞DU145細胞の増殖を有意に抑制できることを示し、腫瘍抑制遺伝子としてのAQP2の重要性がさらに確認された。
【0050】
実施例6
本実施例は、ヒト腫瘍細胞の遊走能力に対するAQP2の過剰発現の影響となっている。
【0051】
頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、前立腺癌細胞DU145の安定したトランスフェクションブランクベクターおよびAQP2過剰発現の細胞をtranswellチャンバーに接種し、ウェルあたり100μL、10% FBSを含む0.6mLの完全培地をtranswellの下部チャンバーに加えて細胞遊走を刺激し、5%CO2、37℃で24時間培養する。ウェル内の培地を捨て、90%アルコールで室温下に30分間固定し、0.1%クリスタルバイオレットで室温下に10分間染色し、きれいな水ですすぎ、上層の遊走していない細胞を綿棒でそっと拭き取り、顕微鏡で観察し、4つの視野を選択して写真を撮り、カウントする。次の式に従って、細胞の遊走抑制率(migration inhibition rate,MIR)を算出する。
【0052】
【0053】
ここで、Ntestは試験群(plvx-AQP2)の細胞遊走数であり、Ncontrolはブランク対照群(plvx-ctrl)の細胞遊走数となっている。実験は独立して3回繰り返され、実験によって得られた結果はmean±SDで計算され、統計的t検定を実行し、2群以上のデータ比較は一方向分散分析(One-way ANOVA)を使用し、P値は統計的有意性を示すために使用され、P<0.05は有意差、P<0.01は非常に有意差となっている。
【0054】
【0055】
表の中:*はP値<0.05を、**はP値<0.01を表す。
【0056】
結果は表3に示し、AQP2の発現がアップレギュレートされた後、頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、および前立腺癌細胞DU145細胞の遊走能力が有意に低下したことがわかった。
【0057】
実施例7
本実施例は、インビボでのヒト腫瘍細胞の成長に対するAQP2の過剰発現の影響となっている。
【0058】
(1)頭頸部扁平上皮癌細胞SCC4、腎癌細胞786-O、および前立腺癌細胞DU145の安定したトランスフェクションブランクベクター及びAQP2過剰発現の細胞を大量に培養し、0.25%トリプシン溶液によって消化し、消化終了後に1000rpmで細胞懸濁液を5分間遠心分離し、細胞を無血清DMEM培地に再懸濁させてからカウントし、細胞濃度を5×107細胞/mlに調整する。
【0059】
(2)各ヌードマウス(4~6週齢、体重14~16gの雌ネズミを購入し、SPFクラスの動物飼育室で1週間適応飼育する)の左脇の下に対応する群別の細胞懸濁液を100μl接種し、細胞の注射量は5×106細胞となっている。
【0060】
(3)接種後、ヌードマウスの接種部位での腫瘍成長を注意深く観察し、移植された腫瘍の体積を2日ごとに測定および記録し、腫瘍体積(Tumor volume,TV)の計算式は次の通りとなっている。
【0061】
腫瘍体積= 0.5×a×b ^ 2
【0062】
ここで、aは移植腫瘍の長さ(mm)、bは移植腫瘍の幅(mm)となっている。
【0063】
ブランクベクター対照群(plvx-ctrl)と比較して、AQP2過剰発現細胞(plvx-AQP2)(頭頸部扁平上皮癌SCC4(
図15)、腎癌細胞786-O(
図16)、前立腺癌細胞DU145(
図17)のヌードマウスの腫瘍増殖速度はより遅くなり、インビボでの腫瘍形成能力は有意に低下し、AQP2の過剰発現が悪性腫瘍細胞のインビボでの成長能力を抑制できることを示している。
【配列表】