IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイバースファーム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】培養用組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20230802BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230802BHJP
【FI】
C12N5/077
C12M3/00 A
C12N5/071
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023037897
(22)【出願日】2023-03-10
【審査請求日】2023-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、SBIR推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522260861
【氏名又は名称】ダイバースファーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】大野 次郎
(72)【発明者】
【氏名】島村 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡伯
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-334068(JP,A)
【文献】特開2006-280234(JP,A)
【文献】国際公開第2020/096004(WO,A1)
【文献】特表2020-523015(JP,A)
【文献】SHINOHARA, Marie et al.,Sci. Rep.,2021年03月08日,Vol.11, No.1,5437,doi: 10.1038/s41598-021-84861-y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象細胞の培養用組成物を製造する方法であって、
(1)動物の内臓を用意する工程と、
(2)前記内臓を0.1mm角~5mm角の大きさに断片化して、内臓断片を調製する工程と、
(3)前記内臓断片に由来する細胞を培養容器内で培養する工程と、
(4)前記内臓断片由来細胞の培養上清を取得する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程3が、前記内臓断片を前記培養容器に投入して培養を開始する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程3が、前記内臓断片由来細胞を前記培養容器の底面に接着させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記内臓が、卵胞、卵巣、卵管、肝臓、膵臓、腸、及びファブリキウス嚢からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程1~4を、複数種類の内臓について個別に実施し、取得した複数種類の培養上清を混合する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数種類の内臓の組合せが、白色卵胞、肝臓、及び膵臓を含むか、又は、肝臓及び腸を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記動物が、家禽及び/又は家畜を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記培養上清が、前記対象細胞の保護作用及び/又は増殖促進作用を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記培養上清に、前記対象細胞の増殖促進剤を添加する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
0.1mm角~5mm角の大きさに断片化された動物の内臓片に由来する細胞の培養上清を含む、対象細胞の培養用組成物。
【請求項11】
前記内臓が、卵胞、卵巣、卵管、肝臓、膵臓、腸、及びファブリキウス嚢からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記培養上清が、複数種類の内臓から個別に取得された複数種類の培養上清の混合物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記複数種類の内臓の組合せが、白色卵胞、肝臓、及び膵臓を含むか、又は、肝臓及び腸を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記動物が、家禽及び/又は家畜を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
前記対象細胞を保護するためのもの、及び/又は、前記対象細胞の増殖を促進するためのものである、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
前記対象細胞の増殖促進剤をさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項17】
対象細胞を培養する方法であって、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法で製造された組成物又は請求項10~16のいずれか1項に記載の組成物を含む培地中で、前記対象細胞を培養する工程を含む、方法。
【請求項18】
前記対象細胞が、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
対象細胞を培養するためのキットであって、
請求項10~16のいずれか1項に記載の組成物を含む、キット。
【請求項20】
前記対象細胞が、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞を含む、請求項19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養用組成物を製造する方法に関しており、特に動物の内臓に由来する培養用組成物を製造する方法及び当該方法によって製造された培養用組成物、当該培養用組成物を用いて培養する方法、並びに、当該培養用組成物を含む培養するためのキットに関している。
【背景技術】
【0002】
再生医療や培養肉などの分野では、動物細胞を培養する必要がある。動物細胞の培養のためには、一般的にはウシ胎児血清などを含む血清培地や、別途調製したホルモン又は増殖因子などの増殖促進剤を含む無血清培地が用いられている。一方で、高価な血清や薬剤の代わりに使用可能な培養用組成物の研究も行われている。例えば、特許文献1には、ニワトリの有精卵由来の漿尿膜又は卵黄嚢の培養上清が、培養動物細胞の増殖を促進することが記載されており、非特許文献1には、鶏卵中、特に卵黄中には、培養動物細胞の増殖を促進する成分が含まれていることが記載されている。
【0003】
ところで、家禽や家畜には、可食部だけでなく非可食部も含まれているが、この非可食部についても有効利用することが求められている。例えば、特許文献2には、廃鶏キンカン(黄色卵胞)などの家禽の非可食部から、スフィンゴミエリン、フォスファチジルエタノールアミン、及びフォスファチジルコリンなどの有効成分を含む乾燥物及びその抽出物を調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/096004号
【文献】国際公開第2010/047404号
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本食品工業学会誌(1994年)、第41巻、第1号、第37~42頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞培養に使用できる組成物を、簡便に製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、動物の内臓を断片化し、その断片に由来する細胞を培養容器内で培養して調製した培養上清が、細胞の保護作用又は増殖促進作用を有していることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す対象細胞の培養用組成物を製造する方法、対象細胞の培養用組成物、対象細胞を培養する方法、及び、対象細胞を培養するためのキットを提供するものである。
〔1〕対象細胞の培養用組成物を製造する方法であって、
(1)動物の内臓を用意する工程と、
(2)前記内臓を断片化して、内臓断片を調製する工程と、
(3)前記内臓断片に由来する細胞を培養容器内で培養する工程と、
(4)前記内臓断片由来細胞の培養上清を取得する工程と
を含む、方法。
〔2〕工程3が、前記内臓断片を前記培養容器に投入して培養を開始する工程を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕工程3が、前記内臓断片由来細胞を前記培養容器の底面に接着させる工程を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記内臓が、卵胞、卵巣、卵管、肝臓、膵臓、腸、及びファブリキウス嚢からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕工程1~4を、複数種類の内臓について個別に実施し、取得した複数種類の培養上清を混合する工程をさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記複数種類の内臓の組合せが、白色卵胞、肝臓、及び膵臓を含むか、又は、肝臓及び腸を含む、前記〔5〕に記載の方法。
〔7〕前記動物が、家禽及び/又は家畜を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記培養上清が、前記対象細胞の保護作用及び/又は増殖促進作用を有している、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記培養上清に、前記対象細胞の増殖促進剤を添加する工程をさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕動物の内臓の断片に由来する細胞の培養上清を含む、対象細胞の培養用組成物。
〔11〕前記内臓が、卵胞、卵巣、卵管、肝臓、膵臓、腸、及びファブリキウス嚢からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔10〕に記載の組成物。
〔12〕前記培養上清が、複数種類の内臓から個別に取得された複数種類の培養上清の混合物である、前記〔10〕に記載の組成物。
〔13〕前記複数種類の内臓の組合せが、白色卵胞、肝臓、及び膵臓を含むか、又は、肝臓及び腸を含む、前記〔12〕に記載の組成物。
〔14〕前記動物が、家禽及び/又は家畜を含む、前記〔10〕に記載の組成物。
〔15〕前記対象細胞を保護するためのもの、及び/又は、前記対象細胞の増殖を促進するためのものである、前記〔10〕に記載の組成物。
〔16〕前記対象細胞の増殖促進剤をさらに含む、前記〔10〕に記載の組成物。
〔17〕対象細胞を培養する方法であって、
前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法で製造された組成物又は前記〔10〕~〔16〕のいずれか1項に記載の組成物を含む培地中で、前記対象細胞を培養する工程を含む、方法。
〔18〕前記対象細胞が、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞を含む、前記〔17〕に記載の方法。
〔19〕対象細胞を培養するためのキットであって、
前記〔10〕~〔16〕のいずれか1項に記載の組成物を含む、キット。
〔20〕前記対象細胞が、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞を含む、前記〔19〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、動物の内臓から簡便な方法により細胞保護作用又は細胞増殖促進作用を有する培養用組成物を製造することができる。したがって、細胞培養のコストダウンを図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の対象細胞の培養用組成物を製造する方法は、動物の内臓を用意する工程(工程1)を含んでいる。本発明の製造方法で使用する動物の内臓は、インビトロで培養することができる限り特に制限されないが、例えば、家禽(ニワトリなど)又は家畜(ウシ及びブタなど)などの内臓であってもよい。より具体的には、前記内臓は、卵胞(黄色卵胞(キンカン又は金冠と呼ばれることもある)及び/又は白色卵胞を含む)、卵巣、卵管、肝臓、膵臓、腸、及びファブリキウス嚢などからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよく、又は、非可食部の内臓を含んでもよい。いずれにしても、原料となる前記内臓の入手は比較的容易であり、特に廃棄されてしまうこともある非可食部を有効利用すれば、一層のコストダウンや環境負荷の軽減が期待される。
【0010】
本発明の製造方法は、前記内臓を断片化して、内臓断片を調製する工程(工程2)を含んでいる。この工程2は、前記内臓(前記内臓中の細胞)をインビトロでの培養に供するための前処理であり、断片化の程度は、前記内臓に応じて適宜調整することができる。例えば、前記内臓を、適切な培地中で、解剖用メスにより約0.1mm角~約5mm角又は約0.1mm角~約1mm角の大きさに断片化してもよい。
【0011】
本発明の製造方法は、前記内臓断片に由来する細胞を培養容器内で培養する工程(工程3)を含んでいる。この工程3においては、前記内臓断片を前記培養容器に投入して培養を開始してもいいし、前記内臓断片を酵素やセルストレイナーなどで処理するなどして、前記内臓断片中の細胞を一つ一つまでばらしてから培養を開始してもよい。また、工程3における培養方法は、前記内臓断片由来細胞の性質に応じて適宜選択すればよく、接着培養であっても浮遊培養であってもよい。ある態様では、工程3は、前記内臓断片由来細胞を前記培養容器の底面に接着させる工程を含んでもよい。
【0012】
前記培養容器としては、培養方法に応じて、当技術分野で通常用いられているものを特に制限されることなく採用することができる。ある態様では、前記培養容器の底面は、細胞外マトリックス成分及び/又はその類似成分などによりコーティングされていてもよい。
【0013】
本発明の製造方法は、前記内臓断片由来細胞の培養上清を取得する工程(工程4)を含んでいる。本発明の製造方法においては、特殊な培養装置や薬剤は要求されず、通常の培養装置があれば足りる。前記内臓断片由来細胞の培養に使用する培地としても、細胞の種類に応じて、当技術分野で通常用いられているものを特に制限されることなく採用することができる。任意のタイミングで取得した培養上清を、前記培養用組成物の主成分として用いることができるが、例えば、前記内臓断片由来細胞が、サブコンフルエント又はコンフルエントなどの状態に達したときに、それまでの培地を除去してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などで洗浄し、血清を含まない新しい培地を添加して適宜培養(例えば約1~約15日間又は約3~約7日間培養)した後の培養上清を取得してもよい。
【0014】
ある態様では、一度培養上清を回収した後に、必要に応じて血清や増殖促進剤などを含む培地で前記内臓断片由来細胞を刺激した後に、それらを含まない新しい培地を再度添加して適宜培養することを繰り返したり、前記内臓断片由来細胞の培養上清の一部(例えば半量)だけを回収し、新しい培地を補給して適宜培養を継続したりすることにより、同じ内臓断片由来細胞から複数回培養上清を取得してもよい。すなわち、培養している内臓断片由来細胞が生存している限り、培地を入れ替えるだけで何回も培養上清を取得することが可能である。
【0015】
本発明の製造方法で製造される培養用組成物は、前記対象細胞を培養するときに用いる培地又はその添加物として用いられるものであり、その存在下で前記対象細胞を培養すると、従来の血清などを添加しなくても、前記対象細胞の細胞数を維持又は増加させることができる。すなわち、前記培養用組成物は、前記対象細胞の保護作用及び/又は増殖促進作用を有し得る。そのため、前記培養用組成物は、再生医療や培養肉などの分野での細胞培養にも有用である。前記対象細胞の動物種は特に限定されず、前記内臓が由来する動物と同種であっても異種であってもよく(従来から使用されているウシ胎児血清なども、動物種に関わらず利用されている点に留意されたい)、例えば、前記対象細胞は、家禽(ニワトリなど)又は家畜(ウシ及びブタなど)、あるいはヒトなどに由来してもよい。前記対象細胞の種類も特に限定されないが、例えば、前記対象細胞は、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞などを含んでもよい。
【0016】
ある態様では、本発明の製造方法は、工程1~4を、複数種類の内臓について個別に実施し、取得した複数種類の培養上清を混合する工程をさらに含む。前記複数種類の内臓の組合せは、特に制限されないが、例えば、白色卵胞、肝臓、及び膵臓などを含んでもいいし、肝臓及び腸などを含んでもよい。複数種類の培養上清を混合することで、細胞保護作用及び/又は増殖促進作用が、相乗的及び/又は安定的に発揮され得る。
【0017】
本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り任意の工程をさらに含んでもよい。例えば、本発明の製造方法は、前記培養上清に、前記対象細胞の増殖促進剤を添加する工程などをさらに含んでもよい。前記増殖促進剤としては、当技術分野で通常用いられているものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記増殖促進剤は、血清(ウシ又はニワトリなどの血清)、卵黄又はその抽出物、及び/又は、黄色卵胞又はその抽出物などを含んでもよい。
【0018】
別の態様では、本発明は、動物の内臓の断片中の細胞の培養上清を含む、対象細胞の培養用組成物にも関している。本発明の組成物は、前記対象細胞を培養するときに用いる培地又はその添加物として用いられるものであり、その存在下で前記対象細胞を培養すると、従来の血清などを添加しなくても、前記対象細胞の細胞数を維持又は増加させることができる。すなわち、前記培養用組成物は、前記対象細胞を保護するためのもの、及び/又は、前記対象細胞の増殖を促進するためのものであり得る。本発明の組成物は、上述した本発明の製造方法により製造することができる。
【0019】
前記対象細胞の動物種は特に限定されず、前記内臓が由来する動物と同種であっても異種であってもよく、例えば、前記対象細胞は、家禽(ニワトリなど)又は家畜(ウシ及びブタなど)、あるいはヒトなどに由来してもよい。前記対象細胞の種類も特に限定されないが、例えば、前記対象細胞は、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞、あるいは種々の幹細胞(胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、及び間葉系幹細胞など)などを含んでもよい。
【0020】
本発明の組成物において、前記動物の内臓は、インビトロで培養後に上清を回収できる限り特に制限されないが、例えば、家禽(ニワトリなど)又は家畜(ウシ及びブタなど)などの内臓であってもよい。より具体的には、前記内臓は、卵胞(黄色卵胞及び/又は白色卵胞を含む)、卵巣、卵管、肝臓、膵臓、腸、及びファブリキウス嚢などからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよく、又は、非可食部の内臓を含んでもよい。
【0021】
ある態様では、本発明の組成物において、前記培養上清は、複数種類の内臓から個別に取得された複数種類の培養上清の混合物である。前記複数種類の内臓の組合せは、特に制限されないが、例えば、白色卵胞、肝臓、及び膵臓などを含んでもいいし、肝臓及び腸などを含んでもよい。複数種類の培養上清を混合することで、細胞保護作用及び/又は増殖促進作用が、相乗的及び/又は安定的に発揮される。
【0022】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない限り任意の成分をさらに含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、前記対象細胞の増殖促進剤などをさらに含んでもよい。前記増殖促進剤としては、当技術分野で通常用いられているものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記増殖促進剤は、血清(ウシ又はニワトリなどの血清)、卵黄又はその抽出物、及び/又は、黄色卵胞又はその抽出物などを含んでもよい。
【0023】
また別の態様では、本発明は、対象細胞を培養する方法にも関しており、当該方法は、上述した本発明の製造方法で製造された組成物又は上述した本発明の組成物を含む培地中で、前記対象細胞を培養する工程を含んでいる。これらの組成物の存在下で前記対象細胞を培養すると、従来の血清などを添加しなくても、前記対象細胞の細胞数を維持又は増加させることができる。
【0024】
前記対象細胞の動物種は特に限定されず、前記内臓が由来する動物と同種であっても異種であってもよく、例えば、前記対象細胞は、家禽(ニワトリなど)又は家畜(ウシ及びブタなど)、あるいはヒトなどに由来してもよい。前記対象細胞の種類も特に限定されないが、例えば、前記対象細胞は、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞などを含んでもよい。
【0025】
本発明の培養方法は、本発明の目的を損なわない限り任意の工程をさらに含んでもよい。例えば、本発明の培養方法は、前記対象細胞を洗浄する工程、及び/又は、前記対象細胞を継代する工程などをさらに含んでもよい。
【0026】
また別の態様では、本発明は、対象細胞を培養するためのキットにも関しており、当該キットは、上述した本発明の組成物を含んでいる。この組成物の存在下で前記対象細胞を培養すると、従来の血清などを添加しなくても、前記対象細胞の細胞数を維持又は増加させることができる。すなわち、本発明のキットは、前記対象細胞を保護するためのもの、及び/又は、前記対象細胞の増殖を促進するためのものであり得る。
【0027】
前記対象細胞の動物種は特に限定されず、前記内臓が由来する動物と同種であっても異種であってもよく、例えば、前記対象細胞は、家禽(ニワトリなど)又は家畜(ウシ及びブタなど)、あるいはヒトなどに由来してもよい。前記対象細胞の種類も特に限定されないが、例えば、前記対象細胞は、筋芽細胞及び/又は線維芽細胞などを含んでもよい。
【0028】
本発明のキットは、本発明の目的を損なわない限り任意の構成をさらに含んでもよい。例えば、本発明のキットは、前記対象細胞を培養するための従来の培地、及び/又は、前記対象細胞の前記増殖促進剤などをさらに含んでもよい。
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0030】
1.内臓の断片中の細胞の培養上清の作製手法
黄色卵胞及び白色卵胞は、産卵可能な4か月齢以上のニワトリから採取した。肝臓、膵臓、及びファブリキウス嚢は、ニワトリの成鳥から採取した。腸(小腸及び大腸を含む)は、受精卵を孵卵器に入れてから7~21日後のニワトリ胎児から採取した。採取した内臓を、ニワトリ血清10%を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、解剖用メスで0.5mm角程度の大きさに細片化した。作製した内臓断片を、DMEM(10%ニワトリ血清)を含む細胞培養用ディッシュ又はT175フラスコに入れて、39℃、5%CO2の条件下で培養した。
【0031】
培養開始の翌日又は数日後に培地を交換し、培養容器の底面に内臓断片由来の細胞が接着していることを確認した。その後、2~5日間隔で培地交換を行った。細胞が概ね100%コンフルエント状態になったら、PBSで洗浄し、ニワトリ血清を含まないDMEMを加えて、39℃、5%CO2の条件下で培養した。5日間培養後に、培養上清を回収した。すぐに試験に使用しない場合は、回収した培養上清を常法により凍結して保管した。
【0032】
2.増殖試験
孵卵前のニワトリ胎児の大腿部から、常法により筋肉(筋芽細胞及び線維芽細胞を含む)を採取し、T175フラスコで培養した。倒立顕微鏡で、培養容器の接着面の80%以上が当該筋肉由来の細胞で占められていること(いわゆるサブコンフルエントからコンフルエントの状態であること)を確認し、培養容器から培養液を除去した。接着細胞を常法により回収し、上記項目1で作製した内臓断片由来細胞の培養上清及び/又は他の培地添加物(ニワトリ血清又はニワトリの卵黄)を種々の濃度で含むDMEMで懸濁して、6ウェルプレートに播き、39℃、5%CO2の条件下で培養した。適宜培養後に、接着細胞を常法により回収し、細胞数を計測して、培養前の初期細胞数に対する倍率を求めた。結果を表1~5に示す。なお、各表において、「%」は容量パーセント濃度を意味し、内臓名は、当該内臓の断片に由来する細胞の培養上清を意味する。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
ニワトリ胎児の大腿部の筋肉に由来する細胞は、DMEMのみからなる培地では培養中に細胞数を維持することができないが、細胞増殖促進作用を有することが公知のニワトリ血清や卵黄だけでなく、各種内臓から調製した内臓断片由来細胞の培養上清も、細胞数を概ね維持又は増加させることができた。そして、複数種類の培養上清を組み合わせることで相乗的な細胞増殖促進作用が奏された。
【0039】
以上より、動物の内臓を断片化し、その断片に由来する細胞を培養容器内で培養して調製した培養上清が、細胞保護作用又は細胞増殖促進作用を有していることが分かった。したがって、このような簡便な方法により細胞保護作用又は細胞増殖促進作用を有する培養用組成物を製造することができ、細胞培養のコストダウンを図ることが可能となる。
【要約】
【課題】本発明は、細胞培養に使用できる組成物を、簡便に製造する方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の対象細胞の培養用組成物を製造する方法は、
(1)動物の内臓を用意する工程と、
(2)前記内臓を断片化して、内臓断片を調製する工程と、
(3)前記内臓断片に由来する細胞を培養容器内で培養する工程と、
(4)前記内臓断片由来細胞の培養上清を取得する工程と
を含む。
【選択図】なし