(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
B23K9/29 E
(21)【出願番号】P 2018231420
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第9186746(US,B2)
【文献】特開2007-330990(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水用通水路を内包するチップボディと、その先端側に接続された給電チップと、上記チップボディの中心孔に導入され、溶接ワイヤを案内するワイヤガイドライナと、上記チップボディおよび上記給電チップを取り囲むノズルと、を備え、上記チップボディの中心孔から導出させたシールドガスを上記ノズルから噴射しつつ、上記給電チップから上記溶接ワイヤを送出させて溶 接を行う溶接トーチであって、
上記ワイヤガイドライナは、上記チップボディの中心孔の先端の小径部と対応した外径を有して当該上記チップボディの中心孔の小径部に受容されて上記チップボディに接続されるパイプ状先端部を有し、当該パイプ状先端部の外周と上記チップボディの中心孔の小径部との間に
、上記チップボディの中心孔の小径部に設けた環状溝に保持させられ、上記パイプ状先端部の外周に密着させられているOリングからなるシール手段が設けられていることを特徴とする、溶接トーチ。
【請求項2】
上記ワイヤガイドライナは、パイプ状後端部を有し、当該パイプ状後端部と当該パイプ状後端部を受容する部材との間にOリングからなるシール手段が設けられている、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
上記シールドガスは、上記チップボディの上記中心孔ないし当該中心孔と連続して上記 ワイヤガイドライナを取り囲む筒状空間に供給される、請求項1または2に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接に用いられる溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶接トーチは、可撓性を持たせたコンジットケーブルの先端に接続され、ワイヤ送給機から送り出されてコンジットケーブル内を案内されてきた溶接ワイヤに給電しつつ、ノズルから噴射されるシールドガスで覆いながら繰り出す役割を果たす部材であり、その構造は、たとえば特許文献1に表れている。
【0003】
ワイヤは、溶接トーチにおいてチップボディと呼ばれる部材の中心孔にまでいたるワイヤガイドライナに案内される。ワイヤは、チップボディの先端側に接続される給電チップの中心孔を通る際に給電を受ける。シールドガスは、チップボディの内部空間から当該チップボディに設けた通気孔、当該チップボディの外周に設けたオリフィス部材を介してノズル内空間に導出され、給電チップから送出されるワイヤの周囲を取り囲むようにしてノズル先端から噴射される。
【0004】
同文献に示された溶接トーチにおいては、ワイヤガイドライナが通挿される中心孔がシールドガス通路として共用されており、ワイヤガイドライナはコイル状の部材が採用されている。ワイヤガイドライナの先端は単に給電チップの後端に当接させられており、当該ワイヤガイドライナの後端は、コンジットケーブル内のワイヤガイドライナを受け入れるジョイント部材に単に当接させられている。そのため、チップボディの中心孔に供給されたシールドガスの一部がチップボディの先端から給電チップのワイヤ挿通孔を介して漏れたり、チップボディの後端から漏れたりして無駄になり、供給されるシールドガスの全量がノズル先端からワイヤを取り囲むようにして噴射することにより得られるシールド機能を果たさない問題があった。
【0005】
また、特許文献2に示される溶接トーチは、チップボディの中心孔とは別経路のシールドガス供給路を形成し、上記したようなガス漏れによる無駄をなくすようにしているが、かかる構成は溶接トーチの大型化や複雑化を招き、コスト的に不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-51983号公報
【文献】特会2018-65173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、構造が簡単であり、かつシールドガスのガス漏れを解消することができるように構成した溶接トーチを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明によって提供される溶接トーチは、チップボディと、その先端側に接続された給電チップと、上記チップボディの中心孔に導入され、溶接ワイヤを案内するワイヤガイドライナと、上記チップボディおよび上記給電チップを取り囲むノズルと、を備え、上記チップボディの中心孔から導出させたシールドガスを上記ノズルから噴射しつつ、上記給電チップから上記溶接ワイヤを送出させて溶接を行う溶接トーチであって、上記ワイヤガイドライナはパイプ状先端部を有し、当該パイプ状先端部の外周と当該パイプ状先端部を受容する部材との間にシール手段が設けられていることを特徴とする。
【0010】
好ましい実施の形態では、上記ワイヤガイドライナの上記パイプ状先端部は、上記チップボディの上記中心孔の先端部における、上記パイプ状先端部の外径と対応した内径を有する小径部に受容されている。
【0011】
好ましい実施の形態では、上記ワイヤガイドライナは、パイプ状後端部を有し、当該パイプ状後端部と当該パイプ状後端部を受容する部材との間にシール手段が設けられている。
【0012】
好ましい実施の形態では、上記シール手段は、Oリングである。
【0013】
好ましい実施の形態では、上記シール手段は、ねじ手段である。
【0014】
好ましい実施の形態では、上記シールドガスは、上記チップボディの上記中心孔ないし当該中心孔と連続して上記ワイヤガイドライナを取り囲む筒状空間に供給される。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の溶接トーチでは、ワイヤガイドライナのパイプ状先端部とこの部を受容する部材、たとえばチップボディの中心孔の先端部との間がシールされているので、シールドガスがワイヤガイドライナの先端部とチップボディの中心孔との間のすきまから漏れ出て無駄になることが防止される。
【0016】
また、上記構成の溶接トーチでは、チップボディの中心孔がシールドガスの供給路を兼ねる構成を踏襲しているので、別途のシールドガス供給経路を設けることに比較し、構成が簡単であり、大型化やコスト上昇を招かない。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、図面を参照して以下に行う詳細な説明から、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶接トーチの縦断面図である。
【
図2】
図1に示す溶接トーチの先端側拡大縦断面図である。
【
図3】
図1に示す溶接トーチの考案側拡大縦断面図である。
【
図7】
図2のVII-VII線に沿う断面図である。
【
図8】
図3のVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る溶接トーチの要部縦断面図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る溶接トーチの要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1ないし
図3に示すように、溶接トーチA1は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接に用いられるものであり、冷却機構を備えた構成を有する。この溶接トーチA1は、トーチボディ100と、チップボディ200と、給電チップ250と、ワイヤガイドライナ300と、ノズル400と、オリフィス部材500と、を有する。
【0021】
トーチボディ100は、円筒状の部材であり、その前端部が連結筒150を介してノズル400の後端に連結されている。連結筒150は、チップボディ200に外嵌された絶縁部材160に外嵌されるノズル400の後端部と、トーチボディ100とをたとえばねじ手段により連結している。ノズル400は、後記する給電チップ250を取り込んでトーチ先端に向けて延びている。
【0022】
チップボディ200は、概して円筒状をしており、前後方向に貫通する中心孔210を有する。このチップボディ200は、導電性金属でできており、テーパ状に縮径した先端部には、給電チップ250が連結されている。給電チップ250もまた導電性金属でできており、トーチ中心軸CLに沿ってワイヤ送出孔251が貫通形成されている。チップボディ200は、図示しない給電ケーブルに導通させられる。
【0023】
チップボディ200の中心孔210はトーチ中心軸CLに沿って延び、先端側小径部211と後端側大径部212とを有する。小径部211の内径は後記するワイヤガイドライナ300のパイプ状先端部の外径と対応しており、大径部の内径はワイヤガイドライナの外径より大である。
【0024】
チップボディ200のノズル内空間402に臨む部位には、環状のオリフィス部材500が外嵌されている(
図2、
図5)。オリフィス部材500の内周面501とチップボディ200の外周面201との間には環状空間202が形成されている。チップボディ200には、環状空間202とチップボディ200の中心孔210(大径部212)とを連通させる通気孔220が形成されている。この通気孔220は、複数のものがチップボディ200の周方向等間隔に形成されている(
図6)。オリフィス部材500には、上記環状空間202とノズル内空間402とを連通させるオリフィス孔510が形成されている。このオリフィス孔510もまた、複数のものがオリフィス部材500の周方向等間隔に形成される(
図5)。このチップボディ200には、いくつかの通水路231,232が形成されているが、これについてはさらに後述する。
【0025】
トーチボディ100の内部には、チップボディ200の後端に隣接するようにして内筒110と外筒120とが同心状に配置されている(
図2、
図3、
図7)。外筒120の後端部には、内筒110を取り囲む内孔126を有する筒状の冷却水導入・排出部材125が連結されている(
図3、
図8)。内筒110の後端部111は、外筒110および冷却水導入・排出部材125の後端よりもさらに後方に延出させられて大径化されている。内筒110の内径はチップボディ200の中心孔210の後端側大径部212の内径と同じである。外筒120と内筒110との間の空間は、冷却用通水空間131,132として利用される。この通水空間131,132は、断面において2つの領域に区分されており、一方は往路用通水空間131、他方は復路用通水空間132である(
図3、
図7)。これら通水空間131,132は、冷却水導入・排出部材125の図示しない冷却水導入ポートおよび冷却水排出ポートに連通させられている。なお、チップボディ200の中心孔210ないし上記内筒110と後記するワイヤガイドライナ300との間の環状空間112は、シールドガス供給路112aとされ、このシールドガス供給路112aには、上記内筒110の後端部111に設けたシールドガス供給ポート115からシールドガスが供給される。
【0026】
ワイヤガイドライナ300は、ワイヤ送給装置(図示略)から送給される溶接ワイヤWを内包しつつ案内する筒状の部材であり、溶接トーチA1の構成の範囲内では、剛性のパイプの形態を有する。すなわち、このワイヤガイドライナ300は、たとえば銅、ステンレス、真鍮などの金属製である。本実施形態において、ワイヤガイドライナ300は、内外径一様なパイプ材301に先端側ジョイント311および後端側ジョイント321が一体化されているが、本明細書では、これらパイプ材301、先端側ジョイント310および後端側ジョイント321をまとめてワイヤガイドライナ300と称する。そして、先端側ジョイント311が本発明のパイプ状先端部310に、後端側ジョイント321が本発明のパイプ状後端部320に、それぞれ相当する。
【0027】
ワイヤガイドライナ300は、パイプ状先端部310(先端側ジョイント311)が上記チップボディ200の中心孔210の先端側小径部211に受容嵌合させられ、パイプ状後端部320(後端側ジョイント321)が上記トーチボディ100の内筒110の後端部111内に受容嵌合させられることにより、トーチ中心軸CLに沿って、チップボディ200の中心孔210と同心状に配置される。パイプ状後端部320は、内筒110の後端部111の後端にねじ付けられたキャップ部材113により、前方に向けて押圧されている。
【0028】
チップボディ200には、トーチボディ100内に形成された往路通水空間131に連通する往路通水路231、この往路通水路の先端から折り返し、上記トーチボディ100内に形成された復路通水空間422に連通する復路通水路241が形成されている(
図2、
図4)。
【0029】
したがって、冷却水は、
図2に矢印で経路を示すように、トーチボディ100の往路通水路131、チップボディ200の往路通水路231、チップボディ200の復路通水路241およびトーチボディ100の復路通水空間132の順に通水され、溶接トーチA1のとくにチップボディ200の冷却作用を行い、溶接品位の安定に寄与する。
【0030】
図2、
図3、
図4、
図9に示すように、チップボディ200の中心孔210の小径部211に設けた環状溝612に保持させたOリング611を、ワイヤガイドライナ300のパイプ状先端部310(先端側ジョイント311)の外周に密着させることによるシール手段610が設けられている。また、トーチボディ100の内筒110の後端部111の内周に設けた環状溝622に保持させたOリング621をワイヤガイドライナ300のパオプ状後端部320(後端側ジョイント321)の外周に密着させることによるシール手段620が設けられている。
【0031】
次に、実施形態に係る上記構成の溶接トーチA1の作用について説明する。
【0032】
ワイヤガイドライナ300を通じて送られてきた溶接ワイヤWは、給電チップ250のワイヤ送出孔251を経て溶接トーチA1の先端から送出される。シールドガスは、トーチボディ100の内筒110とワイヤガイドライナ300との間ないしチップボディ200の中心孔210の大径部212とワイヤガイドライナ300との間の環状空間112(シールドガス供給路112a)から通気孔220ないしオリフィス部材500のオリフィス孔510を経てノズル内空間402に導出され、ノズル400の先端から上記のように送出される溶接ワイヤWを取り囲むようにして噴射させられる。こうして噴射させられるシールドガスが溶接部位をシールドし、溶接品位を保持する。このとき、上記環状空間112の前後端部は上記したシール手段610,620によって塞がれているので、シールドガスは上記環状空間112の前後端部から無駄となって漏れることなく、その全量がノズル400の先端から噴射させられる。
【0033】
なお、実施形態に係る溶接トーチA1は冷却機能を有するが、その作用は上述したとおりである。
【0034】
もちろん、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0035】
たとえば、実施形態では、シール手段610,620をOリング611,621により形成したが、その具体的手段は問われず、
図10、
図11に示すように、ねじ手段、すなわち、チップボディ200の中心孔210の小径部211またはトーチボディ100の内筒110の後端部111の内周に形成した雌ねじ613,623にワイヤガイドライナのパイプ状先端部311またはパイプ状後端部321に形成した雄ねじ614,624をねじ込むことにより構成してもよい。
【0036】
また、実施形態では、上記シール手段610,620をワイヤガイドライナ300の先端側と後端側の双方に設けたが、先端側のみに設けるだけでもよい。
【0037】
さらに、実施形態では、ワイヤガイドライナ300の全長を剛性を有するパイプ状に形成したが、先端部および後端部の限られた部分のみをシール手段を設けるに適したパイプ状とし、その他の部分をコイル状としてもよい。
【0038】
実施形態では、冷却水の通水経路を設けた水冷式の冷却機能を有する構成とされているが、このような冷却水の通水経路を特に設けず、通常の自然冷却を行うようにしてももちろんよい。
【符号の説明】
【0039】
A1:溶接トーチ,W:溶接ワイヤ,200:チップボディ,210:中心孔,211:小径部,250:給電チップ,300:ワイヤガイドライナ,310:パイプ状先端部,320:パイプ状後端部,400:ノズル,610:シール手段,620:シール手段,611:Oリング,621:Oリング