(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】自律走行作業装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230802BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G05D1/02 W
(21)【出願番号】P 2019054205
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000101617
【氏名又は名称】アマノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲也
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220890(JP,A)
【文献】特開2017-182175(JP,A)
【文献】特開平01-140307(JP,A)
【文献】特開平06-250728(JP,A)
【文献】特開2015-058131(JP,A)
【文献】特開2006-347526(JP,A)
【文献】特開平08-054925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動モード、学習モードおよび自動モードの何れかの動作モードで動作して走行および作業を行う自律走行作業装置であって、
装置本体と、
前記装置本体を走行させる走行部と、
前記装置本体の走行経路上で作業を行う作業部と、
前記走行部を操作するための手動操作を受け付ける走行操作部と、
前記走行操作部の
ハンドルの操作量の増加または減少のそれぞれの操作に応じて前記走行部
の操舵角を増加または減少させるように制御する走行制御部と、を備え、
前記走行制御部は、前記走行操作部の
前記ハンドルの操作に対する操舵の応答特性として、前記動作モードのうち前記手動モードと前記学習モードとで異なるモード別応答特性
として、前記走行操作部の前記ハンドルの操作に対する前記走行部の最大操舵角を、それぞれ異なる第1最大操舵角と第2最大操舵角とに設定し、前記第1最大操舵角を、前記手動モードにおいて前記走行部が所定の最小回転半径で旋回するような角度に設定し、前記第2最大操舵角を、前記第1最大操舵角よりも小さい角度に設定することを特徴とする自律走行作業装置。
【請求項2】
前記走行制御部は、前記第2最大操舵角を、前記学習モードにおいて前記走行部が前記第2最大操舵角で180度方向転換して往復走行する場合に、往路と復路とで所定の重複幅だけ重複して前記作業部の作業軌跡を形成するような角度に設定することを特徴とする請求項
1に記載の自律走行作業装置。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記走行操作部の前記ハンドルの操作量の変位に対して、前記走行部の操舵角の変位の割合を、前記手動モードよりも前記学習モードにおいて小さくすると共に、前記学習モードにおいて前記走行操作部の前記ハンドルの操作量が最大操作量に達したときに前記走行部の操舵角が前記第2最大操舵角になるように、前記走行部を制御することを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の自律走行作業装置。
【請求項4】
前記走行制御部は、前記走行操作部の前記ハンドルの操作量の変位に対して、前記走行部の操舵角の変位の割合を、前記手動モードおよび前記学習モードにおいて同一になるように、前記走行部を制御しつつ、前記走行部の操舵角の上限を前記手動モードよりも前記学習モードにおいて低く設定すると共に、前記学習モードにおいて前記走行操作部の前記ハンドルの操作量が最大操作量よりも低い所定の第1操作量閾値に達したときに前記走行部の操舵角が前記第2最大操舵角になるように、前記走行部を制御することを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の自律走行作業装置。
【請求項5】
前記走行制御部は、前記モード別応答特性として、前記学習モードにおいて、前記走行操作部の前記ハンドルの操作量が、前記走行部を前記第2最大操舵角で旋回させる所定の第2操作量閾値以上である場合、前記走行部の最高走行速度を、予め設定された上限速度よりも低い制限速度に制限することを特徴とする請求項
1ないし請求項
4の何れか1項に記載の自律走行作業装置。
【請求項6】
前記作業部の作業強度を制御する作業制御部を更に備え、
前記作業制御部は、前記モード別応答特性として、前記学習モードにおいて、前記走行操作部の前記ハンドルの操作量が、前記走行部を前記第2最大操舵角で旋回させる所定の第3操作量閾値以上である場合、前記作業部の最大作業強度を、予め設定された上限強度よりも弱い制限強度に制限することを特徴とする請求項
1ないし請求項
5の何れか1項に記載の自律走行作業装置。
【請求項7】
前記走行制御部は、前記自動モードでは、前記走行操作部の操作に対して、前記手動モードおよび前記学習モードと異なる応答命令を出力することを特徴とする請求項1ないし請求項
6の何れか1項に記載の自律走行作業装置。
【請求項8】
前記走行制御部は、前記自動モードでは、前記応答命令として、前記走行操作部の前記ハンドルまたはアクセルの操作に対して緊急停止命令を出力することを特徴とする請求項
7に記載の自律走行作業装置。
【請求項9】
前記作業部は、床面に接触して清掃する一対の清掃部材を備え、
前記一対の清掃部材は、前記一対の清掃部材の中間点が、前記装置本体の進行方向に直交する幅方向において中央よりも一方側にずれた状態で、前記装置本体の下部に取り付けられ、
前記走行制御部は、前記走行部が前記一方側に旋回する場合と前記幅方向において他方側に旋回する場合とで、180度旋回時の往路と復路との前記清掃部材の清掃軌跡の重複幅を一定にするように前記走行操作部の前記ハンドルの操作量に対する前記走行部の操舵角の応答特性が異なるように、前記走行部を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項
8の何れか1項に記載の自律走行作業装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律的に走行し自動で作業する自動走行作業を実行可能な自律走行作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自律走行作業装置は、工場、ショッピングモール、空港、鉄道駅、ホテルロビー等の広大な面積の床面の清掃作業を行うために用いられている。
【0003】
自律走行作業装置は、手動モード、学習モードおよび自動モードを切り替えて動作する、所謂ティーチング・プレイバック方式で構成される。自律走行作業装置は、学習モードでは、手動操作に応じて走行および作業(清掃)を行いながら、作業エリア(清掃エリア)の環境地図や走行データおよび作業データ(清掃データ)を含む作業プラン(清掃プラン)を記憶し、自動モードでは、記憶した作業プランの走行データおよび作業データに従って、作業プランを再現するように自動走行および自動作業(自動清掃)を制御する。また、自律走行作業装置は、手動モードでは、走行データや作業データを記憶することなく、手動操作に応じて走行および作業を行う。
【0004】
このような、ティーチング・プレイバック方式の自律走行作業装置では、予め地図情報等の作業プランをプログラミングして自動走行作業を実行させる方式の装置に比べて、通常の作業者の手動操作による走行および作業を行うことで、容易に作業プランを学習させることができる。ティーチング・プレイバック方式の自律走行作業装置は、学習を伴わずに単に手動操作による走行および作業を行う手動走行作業も可能なため、自律走行作業装置の利用頻度が高くなり、導入費用の償却効率も良くなるという利点がある。従って、自律走行作業装置では、手動操作による操作性も容易であることが求められている。
【0005】
また、広大な面積の床面を自律走行作業装置によって清掃する場合、多数の往復走行動作を繰り返して、床面を徐々に塗りつぶすように清掃するのが常套手段である。そのため、自律走行作業装置は、一度の自動走行作業中に、多数の旋回・転回走行動作を繰り返すことになる。そこで、自律走行作業装置では、このような旋回・転回走行動作を正確に行うことが求められている。
【0006】
例えば、特許文献1では、自動床面掃除機・自動床面仕上げ装置等のように往復移動を繰り返しながら自動的に作業を行う移動作業ロボット(自律走行作業装置)が開示されていて、車輪と床面との擦れがほとんど無いターン動作を行い、所定のターン幅・ターン角度を得ることを目的としている。この移動作業ロボットは、本体を移動させる駆動輪、駆動モータ、従輪からなる駆動手段・操舵手段と、駆動手段・操舵手段を制御し本体の走行制御を行う走行制御手段と、本体の走行距離を計測する移動距離計測手段と、清掃等の作業を行う作業手段とを備える。走行制御手段は、移動距離計測手段の出力に基づいて本体の走行軌跡を演算する軌跡演算手段と、軌跡演算手段の出力に基づいて2段階動作で本体の方向を反転させる2段階ターン手段を有する。
【0007】
また、特許文献2では、ユーザによる操作性を向上し、且つ、教示された走行経路を忠実に走行できるよう制御する自律移動体の移動制御装置(自律走行作業装置)が開示されている。この移動制御装置は、切替部と、速度制御指令部と、モータ制御指令部と、モータ駆動部とを備える。切替部は、走行モードを、自律走行モードまたは手動走行モードの何れかに切り替える。速度制御指令部は、走行モードに基づき、速度制御指令を出力する。モータ制御指令部は、走行モードが手動走行モードである場合には、モータが出力可能なトルクを制限する第1モータ制御指令を出力する一方、走行モードが自律走行モードである場合には、モータの速度を速度制御指令に追随させる第2モータ制御指令を出力する。モータ駆動部は、速度制御指令と、モータ制御指令とに基づいて、モータを駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-29842号公報
【文献】特開2014-220890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した特許文献1の技術では、所定のターン幅・ターン角度を得るために、走行制御手段が2段階ターンの動作前に本体を後退させる必要がある。しかしながら、このような走行は、自動走行を前提として行われるが、手動モードや学習モードにおいて清掃作業中に手動操作によって行うことは作業者にとって危険であり、また、手動操作による操作性を容易にすることはできない。
【0010】
また、特許文献2の技術では、手動走行モードにおいてユーザが無理な外力を加えることなく自律移動体を操作することを意図しているが、手動操作中に、モータが出力可能なトルクを低く制限してしまうと、ユーザの操作性を容易にする作用は期待できない。むしろ、ユーザが操作ハンドル等を自力で押したり取り回したりする操作力が加わることで、かえって教示された走行経路が忠実に走行され難くなるという問題が生じる。
【0011】
本発明は、上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、動作モードに拘らず、作業者の操作性を容易にする自律走行作業装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の自律走行作業装置は、手動モード、学習モードおよび自動モードの何れかの動作モードで動作して走行および作業を行う自律走行作業装置であって、装置本体と、前記装置本体を走行させる走行部と、前記装置本体の走行経路上で作業を行う作業部と、前記走行部を操作するための手動操作を受け付ける走行操作部と、前記走行操作部のハンドルの操作量の増加または減少のそれぞれの操作に応じて前記走行部の操舵角を増加または減少させるように制御する走行制御部と、を備え、前記走行制御部は、前記走行操作部の前記ハンドルの操作に対する操舵の応答特性として、前記動作モードのうち前記手動モードと前記学習モードとで異なるモード別応答特性として、前記走行操作部の前記ハンドルの操作に対する前記走行部の最大操舵角を、それぞれ異なる第1最大操舵角と第2最大操舵角とに設定し、前記第1最大操舵角を、前記手動モードにおいて前記走行部が所定の最小回転半径で旋回するような角度に設定し、前記第2最大操舵角を、前記第1最大操舵角よりも小さい角度に設定することを特徴とする。
【0013】
本発明の第1の自律走行作業装置によれば、走行操作部の操作に対して、各動作モードに適していて作業者の要求に対応する応答を行うことができ、自律走行作業装置の利用および普及を促進することができる。なお、走行操作部の操作に対して各動作モードに共通する応答を行う場合、動作モードによっては、意図しない応答が行われ、期待しない動作を行うおそれがあるが、本発明によれば、このような不都合は生じない。
また、本発明の第1の自律走行作業装置によれば、手動モードでは、走行部の操舵角を第1最大操舵角にすることで、走行部を最小回転半径で旋回させることができ、様々な形状の走行経路を走行させることができる。また、手動モードでは、走行部の操舵角を第1最大操舵角にしたまま自律走行作業装置を180度旋回させると自律走行作業装置をその場旋回させることもできる。これに対して、学習モードでは、走行操作部が必要以上に操作されても、走行部の操舵角は第1最大操舵角よりも小さい第2最大操舵角に制限されるので、学習走行時に回転半径が必要以上に小さくなることが抑制され、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の第2の自律走行作業装置において、前記走行制御部は、前記第2最大操舵角を、前記学習モードにおいて前記走行部が前記第2最大操舵角で180度方向転換して往復走行する場合に、往路と復路とで所定の重複幅だけ重複して前記作業部の作業軌跡を形成するような角度に設定する。
【0017】
本発明の第2の自律走行作業装置によれば、学習モードの学習走行時には、走行部が上限の第2最大操舵角になるように走行操作部を操作することは作業者にとって容易であり、走行部の操舵角を第2最大操舵角にしたまま自律走行作業装置を180度旋回させる操作も作業者にとって容易である。このような操作によって、自律走行作業装置の往復走行時に、清掃範囲(作業軌跡)の中抜けや過剰な重複がなくなるので、学習走行に適した走行経路を容易に得ることができ、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の第3の自律走行作業装置において、前記走行制御部は、前記走行操作部の操作量の変位に対して、前記走行部の操舵角の変位の割合を、前記手動モードよりも前記学習モードにおいて小さくすると共に、前記学習モードにおいて前記走行操作部の操作量が最大操作量に達したときに前記走行部の操舵角が前記第2最大操舵角になるように、前記走行部を制御する。
【0019】
本発明の第3の自律走行作業装置によれば、学習モードにおいて走行操作部の操作の変位(走行操作部の入力ステップ)に対する走行部の操舵角の変位(走行部の応答出力状態)が、手動モードの場合よりも小さく、走行操作部の操作に対して走行部の操舵の追従性が低いため、走行操作部の微小な操作が走行部の操舵に与える影響が少なくなる。また、走行操作部を最大操作量に切った状態を維持して自律走行作業装置を走行させれば、走行部の操舵角を第2最大操舵角に維持した状態で自律走行作業装置を旋回させることができる。従って、学習走行に適した往復走行を容易な操作で実現することができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の第4の自律走行作業装置において、前記走行制御部は、前記走行操作部の操作量の変位に対して、前記走行部の操舵角の変位の割合を、前記手動モードおよび前記学習モードにおいて同一になるように、前記走行部を制御しつつ、前記走行部の操舵角の上限を前記手動モードよりも前記学習モードにおいて低く設定すると共に、前記学習モードにおいて前記走行操作部の操作量が最大操作量よりも低い所定の第1操作量閾値に達したときに前記走行部の操舵角が前記第2最大操舵角になるように、前記走行部を制御する。
【0021】
本発明の第4の自律走行作業装置によれば、手動モードと学習モードとで、走行操作部の入力ステップに対する走行部の応答出力が変化しないので、比較的大きい曲率半径で走行部を操舵する場合に、走行操作部の操作性が変化しないため、作業者にとって走行操作部の取り扱いが容易になる。また、走行操作部を第1操作量閾値以上に切った状態を維持して自律走行作業装置を走行させれば、走行部の操舵角を第2最大操舵角に維持した状態で自律走行作業装置を旋回させることができる。従って、学習走行に適した往復走行を容易な操作で実現することができる。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の第5の自律走行作業装置において、前記走行制御部は、前記モード別応答特性として、前記学習モードにおいて、前記走行操作部の操作量が、前記走行部を前記第2最大操舵角で旋回させる所定の第2操作量閾値以上である場合、前記走行部の最高走行速度を、予め設定された上限速度よりも低い制限速度に制限する。
【0023】
本発明の第5の自律走行作業装置によれば、学習走行時に設定されていた走行速度に拘らず、走行部を第2最大操舵角で旋回させる場合には、走行部の最高走行速度が自動的に制限されるので、自律走行作業装置に作用する慣性力を抑制することができる。そのため、作業者の勘や経験に頼ることなく、自律走行作業装置の目標走行経路からのはみ出しや、自律走行作業装置の転倒を抑制して、学習走行を自動的に安定化することができ、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明の第6の自律走行作業装置は、前記作業部の作業強度を制御する作業制御部を更に備え、前記作業制御部は、前記モード別応答特性として、前記学習モードにおいて、前記走行操作部の操作量が、前記走行部を前記第2最大操舵角で旋回させる所定の第3操作量閾値以上である場合、前記作業部の最大作業強度を、予め設定された上限強度よりも弱い制限強度に制限する。
【0025】
本発明の第6の自律走行作業装置によれば、学習走行時に設定されていた作業強度に拘らず、走行部を第2最大操舵角で旋回させる場合には、作業強度が自動的に制限されるので、自律走行作業装置に作用する慣性力が作業に及ぼす影響、例えば、清掃時の洗浄液の飛び散り等を抑制することができる。そのため、自律走行作業装置の学習走行の旋回時に、作業を自動的に安定化することができ、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の第7の自律走行作業装置において、前記走行制御部は、前記モード別応答特性として、前記自動モードでは、前記走行操作部の操作に対して、前記手動モードおよび前記学習モードと異なる応答命令を出力する。
【0027】
本発明の第7の自律走行作業装置によれば、自動モードでは、通常、走行操作部の操作を受け付けないが、本発明では、走行操作部の操作に応じて、自動モードに特有の応答を任意に設定することができる。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の第8の自律走行作業装置において、前記走行制御部は、前記自動モードでは、前記応答命令として、緊急停止命令を出力する。
【0029】
本発明の第8の自律走行作業装置によれば、自動モードでは、緊急停止動作を操作するための手段を、緊急停止ボタン以外にも走行操作部のハンドルやアクセルレバーの操作等、複数種類の手段を備えておくことができ、作業者にとって緊急停止時の取り扱いが容易となる。
【0030】
上記課題を解決するために、本発明の第9の自律走行作業装置において、前記作業部は、床面に接触して清掃する一対の清掃部材を備え、前記一対の清掃部材は、前記一対の清掃部材の中間点が、前記装置本体の進行方向に直交する幅方向において中央よりも一方側にずれた状態で、前記装置本体の下部に取り付けられ、前記走行制御部は、前記走行部が前記一方側に旋回する場合と前記幅方向において他方側に旋回する場合とで、前記走行操作部の操作量に対する前記走行部の操舵角の応答特性が異なるように、前記走行部を制御する。
【0031】
本発明の第9の自律走行作業装置によれば、幅方向一方側に旋回するとき、自律走行作業装置は、幅方向他方側旋回時の回転半径よりも大きい回転半径で旋回する。従って、往復走行を行う場合、幅方向の一方側および他方側の旋回時において、それぞれに適した走行経路を形成して、それぞれに適した作業軌跡を形成することができる。また、幅方向の一方側旋回時と他方側旋回時とに拘らず、往路と復路との重複幅を一定にすることもできる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、動作モードに拘らず、作業者の操作性を容易にする自律走行作業装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置のハンドル操作の動作例を示す上面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置の走行部、操舵部および走行操作部の要部を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置のモード別応答特性を示す表である。
【
図6】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置のハンドル操作の動作例を示す上面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置のモード別応答特性を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置のモード別応答特性の動作例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態に係る自律走行作業装置のモード別応答特性の動作例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る自律走行作業装置のモード別応答特性を示すグラフである。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る自律走行作業装置のハンドル操作の動作例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な具体例であって、種々の好ましい技術を開示しているが、本発明の技術範囲はこれらの態様に限定されるものではない。
【0035】
本発明の実施形態による自律走行作業装置1について説明する。
図1に示すように、自律走行作業装置1は、各部を収容するための装置本体2と、装置本体2を走行させる走行部3と、走行部3の手動操作を受け付ける走行操作部4とを備える。自律走行作業装置1は、所定の作業を実行する作業部として、装置本体2の下方の床面の清掃作業を実行する清掃部5を備えて、自律走行清掃装置として機能する。自律走行作業装置1は、例えば、工場、ショッピングモール等の商業施設、空港、鉄道駅、ホテル、オフィス、病院、学校等の全部または一部の領域を清掃エリア(作業エリア)として、清掃エリアの床面を清掃の対象とする。
【0036】
自律走行作業装置1は、装置本体2と装置本体2の周囲の壁や障害物等の非作業対象との位置関係を計測する計測部6を備える。また、自律走行作業装置1は、
図2に示すように、自律走行作業装置1の各種機能の操作や表示のためのタッチパネル(図示せず)からなる操作表示部7と、自律走行作業装置1の各部に電力を供給し、バッテリー(図示せず)の残量監視や充電を制御するための電源部8とを備える。更に、自律走行作業装置1は、
図2に示すように、自律走行作業装置1の各部および各種機能(走行部3による走行、清掃部5による清掃作業、計測部6による計測等)を統括制御する制御部10と、走行部3の走行データや清掃部5の清掃データ(作業データ)からなる清掃プラン(作業プラン)を記憶する記憶部11とを備える。
【0037】
なお、自律走行作業装置1は、障害物等に衝突した際に損傷することを防止するためのバンパ2a、周囲の画像を撮像するカメラ2b、周囲の音声を集音するマイク2c、自律走行作業装置1の周囲を照らしたり、周囲に自律走行作業装置1の稼働を知らせたりするための照明灯2d、周囲に自律走行作業装置1の稼働を知らせるための方向指示灯2eやスピーカ2f、その他の機器を備えていてよい。
【0038】
次に、自律走行作業装置1の動作の概要を説明する。
【0039】
自律走行作業装置1は、手動操作による走行および自動操作による自律的な走行が可能な車両であって、手動モード、学習モードおよび自動モードの何れかの動作モードに切り替えられて動作する。
【0040】
自律走行作業装置1は、学習モードおよび手動モードでは、学習走行清掃(学習走行作業)および手動走行清掃(手動走行作業)をそれぞれ行って、作業者による走行操作部4や操作表示部7の手動操作に応じて手動走行や手動清掃(手動作業)を行う。学習走行清掃では、更に、手動走行に伴って清掃エリアの環境地図を作成し、手動走行時の走行経路や走行状態を示す走行データと、手動清掃時の清掃状態を示す清掃データとを取得して、環境地図や走行データおよび清掃データを含む清掃プランを記憶部11に記憶する。
【0041】
自律走行作業装置1は、自動モードでは、自動走行清掃(自動走行作業)を行って、学習走行清掃で記憶された清掃プランに基づいて、この清掃プランを再現するように、制御部10による自動操作に応じて自動走行および自動清掃(自動作業)を行う。清掃プランは、例えば、所定の時間間隔や所定の距離間隔のステップ毎に走行データおよび清掃データを関連付けて記憶することを含む。
【0042】
走行データは、例えば、自律走行作業装置1の環境地図上の自己位置(X座標およびY座標)や基準方向(例えば、開始位置の向き)に対する角度、進行方向への走行速度を含み、走行データに基づいて走行経路を図化することができる。また、走行データは、走行操作部4のハンドル23の操作量である揺動角度θhや揺動速度、走行部3の操舵角θdや操舵速度、自律走行作業装置1(走行部3)の旋回速度を含んでよい。
【0043】
清掃データは、例えば、清掃部5の洗浄パッド30による床面洗浄の動作状態(稼働/停止、回転速度、パッド圧)、清掃部5の供給水ポンプ34による洗浄液散布の動作状態(稼働/停止、供給水量)、清掃部5の吸引ブロア38による汚水回収の動作状態(稼働/停止、吸引量)を含む。パッド圧は、洗浄パッド30を床面に押し付ける力であり、供給水量は、床面に散布される洗浄液を供給水ポンプ34によって供給する量であり、吸引量は、床面から洗浄後の汚水を回収するために吸引を行う吸引ブロア38の吸引強度である。
【0044】
次に、自律走行作業装置1の各部を説明する。
【0045】
走行部3は、
図1、
図3(1)および
図4に示すように、装置本体2の下部に設けられていて、駆動輪として1つの前輪20と、従動輪として一対の後輪21と、前輪20を操舵する操舵部22とを備える。
【0046】
前輪20は、進行方向(前後方向)前側で幅方向(左右方向)中央に設けられ、前輪20の回転軸に対して、駆動モータ20aが設けられる。走行部3は、制御部10からの制御信号に応じて駆動モータ20aを回転駆動して前輪20を回転させることで装置本体2を前進させ、前輪20の回転を停止させることで装置本体2を停止させる。駆動モータ20aの回転量を制御して前輪20の回転速度を制御することで、自律走行作業装置1(走行部3)の走行速度が調整(加減速)される。なお、走行部3は、駆動モータ20aが前輪20を逆転させることで装置本体2を後退させてもよい。
【0047】
一対の後輪21は、進行方向中央で幅方向に間隔を空けて設けられ、各後輪21に対して、それぞれの回転量を検出する駆動エンコーダ21aが設けられる。一対の後輪21は、前輪20の駆動による装置本体2の移動に応じて従動回転する。各後輪21の各駆動エンコーダ21aは、検出した各後輪21の回転量を制御部10へ送信し、各後輪21の回転量に基づいて、前輪20の駆動モータ20aの回転量と装置本体2の進行方向が算出される。なお、本実施形態では、走行部3が駆動輪の前輪20と従動輪の後輪21とを備える一例を説明したが、本発明はこの例に限定されず、例えば、他の実施形態では、走行部3が従動輪の前輪20と駆動輪の一対の後輪21とを備えて構成されてもよい。
【0048】
操舵部22は、操舵モータ22aと、操舵センサ22bと、前輪20の回転軸を軸支する車輪ホルダ22cとを備える。操舵モータ22aの操舵モータ軸22dは車輪ホルダ22cに結合されている。操舵部22は、制御部10からの制御信号に応じて操舵モータ22aを回転駆動して車輪ホルダ22cを水平方向に回動させることで、
図3(2)に示すように、前輪20の操舵角θdを変えて走行部3を操舵する。前輪20の操舵角θdを変えながら前輪20を回転させることで、自律走行作業装置1(走行部3)を左折(左旋回)や右折(右旋回)させる。
【0049】
操舵モータ22aの回転量を制御することで、走行部3の操舵角θdが調整される。例えば、前輪20の操舵角θdを最大操舵角(例えば、±90度)にして、自律走行作業装置1(走行部3)を180度旋回させると、自律走行作業装置1は、左右一対の後輪21の間の中央位置を軸位置(ピボット回転中心)として、その軸位置が変化することなく、ピボット回転(その場旋回)することになる。以下、走行部3の旋回において、回転半径は、ピボット回転中心から外輪側の後輪21の中心までの長さを示すものとする。
【0050】
操舵センサ22bは、操舵エンコーダとホームポジションセンサとを含む。ホームポジションセンサによって前輪20のホームポジション(進行方向に対して前輪20の操舵角θdが0度となる走行部3の中立位置)が検出され、操舵エンコーダによって、前輪20の操舵角θdが検出される。操舵エンコーダは、前輪20の操舵(例えば、車輪ホルダ22cや前輪20の水平方向の回動)に応じたパルスを検出して制御部10へ送信し、そのパルス数とパルスのタイミングとに基づいて、前輪20のホームポジションからの操舵角θdが算出される。
【0051】
走行部3は、動作モードが学習モードまたは手動モードに設定されている場合、作業者による走行操作部4の手動操作に応じて動作する。また、走行部3は、動作モードが自動モードに設定されている場合、基本的には、清掃プランの走行データに基づく制御部10の制御に応じて動作し、必要に応じて、作業者による走行操作部4の手動操作に応じて動作する。
【0052】
走行操作部4は、装置本体2の後側に設けられ、ハンドル23およびアクセルレバー24を備え、ハンドル23およびアクセルレバー24の手動操作によって前輪20の回転駆動および操舵駆動が操作される。なお、走行部3および走行操作部4は、走行操作部4の操作状態を機械的に走行部3に伝達するものではなく、走行操作部4の操作入力に応じた電気信号を制御部10へ送信し、制御部10がこの電気信号に基づく制御信号を走行部3へ送信して、この制御信号に応じて前輪20の回転駆動および操舵駆動を電気的に制御する。
【0053】
ハンドル23は、例えば、上下方向を軸方向とするハンドルシャフトと、ハンドルシャフトの上端に設けられた棒状のハンドルバーとを含み、装置本体2の後側に揺動可能(回動可能)に取り付けられる。アクセルレバー24は、ハンドル23のハンドルバーの一端側に回転可能に取り付けられる。
【0054】
ハンドル23は、ハンドルシャフトおよびハンドルバーが一体となってハンドルシャフトの軸周りに左側または右側に揺動するように構成される。ハンドルバーが装置本体2の幅方向に平行になる状態が、ハンドル23の中立状態(ホームポジション)であり、このとき、ハンドル23の揺動角度θh(最小揺動角度)は、進行方向を基準として0度である。
【0055】
ハンドル23は、未操作状態で中立状態になるように、
図4に示すように、ハンドル中立機構25によって付勢されている。ハンドル中立機構25は、ハンドル23を中立状態に維持しつつ、作業者の操作力に応じてハンドル23が左側または右側に揺動するような付勢力でハンドル23を支持している。ハンドル中立機構25は、通常は、多少の振動程度ではハンドル23が揺動しない程度の付勢力でハンドル23を安定した姿勢で静止させている。
【0056】
走行操作部4では、ハンドル23の揺動方向および揺動角度θhを検出するハンドルセンサ23aがハンドル23に対して設けられ、アクセルレバー24の回転方向および回転角度θa(開度)を検出するアクセルセンサ24aがアクセルレバー24に対して設けられる。
【0057】
ハンドルセンサ23aは、ハンドル23の揺動角度θhを、例えば、最小揺動角度(0度)から最大揺動角度(±45度)までの範囲で、所定の角度間隔(例えば、2.5度)のピッチで検出する。なお、ハンドル23の最大揺動角度は、ハンドル23が揺動する限界の角度でもある。また、ハンドルセンサ23aは、ハンドル23に所定の遊びを設けていて、0度から±5度まではパルスを検出しない。ハンドルセンサ23aは、検出したハンドル23の揺動方向および揺動角度θh(操作量)に基づく電気信号を制御部10へ送信し、アクセルセンサ24aは、検出したアクセルレバー24の回転方向および回転角度θa(操作量)に基づく電気信号を制御部10へ送信する。
【0058】
そして、ハンドルセンサ23aからの電気信号に応じて、操舵モータ22aの駆動を制御する制御信号が制御部10から操舵モータ22aへ送信され、これにより、ハンドル23の揺動方向および揺動角度θhに基づいて、操舵モータ22aの駆動、即ち、前輪20の操舵駆動が制御される。また、アクセルセンサ24aからの電気信号に応じて、駆動モータ20aの駆動を制御する制御信号が制御部10から駆動モータ20aへ送信され、これにより、アクセルレバー24の回転方向(例えば、作業者がアクセルレバー24を上に捻ると前進し、下に捻ると後退する)および回転角度θaに基づいて、駆動モータ20aの駆動、即ち、前輪20の回転駆動が制御される。
【0059】
なお、ハンドル23の揺動やアクセルレバー24の回転等の走行操作部4の操作に対して、前輪20の操舵駆動や操舵駆動等の制御部10の応答特性は、動作モードに拘らず共通する応答特性と、動作モード毎に異なるモード別応答特性とがある。このモード別応答特性の詳細は後述する。
【0060】
走行操作部4は、自律走行作業装置1の動作モードが手動モードや学習モードに設定されている間は、作業者による手動操作を受け付けるが、自動モードに設定されている間は、緊急操作(緊急停止ボタン7aの操作や緊急ハンドル操作)以外の作業者による手動操作を基本的に受け付けない。
【0061】
清掃部5は、清掃設定に従って床面を清掃するように構成され、清掃設定は、初期設定されてもよく、操作表示部7を介して手動で設定されてもよく、または記憶部11に記憶された清掃プランの清掃データに基づいて自動で設定されてもよい。清掃部5は、例えば、洗浄液を用いて床面を清掃する湿式の清掃機構であり、一対の洗浄パッド30と、パッドモータ31と、パッドシリンダ32と、洗浄液タンク33と、供給水ポンプ34と、スキージ35と、スキージシリンダ36と、汚水タンク37と、吸引ブロア38とを備える。なお、清掃部5は、洗浄液タンク33や汚水タンク37の水量を検知する水量センサ39を備えてもよい。
【0062】
一対の洗浄パッド30は、床面を清掃する清掃部材であり、装置本体2の下面に回転可能に取り付けられ、洗浄液が散布された床面に接触すると共に回転することで床面を洗浄する。また、洗浄パッド30は、装置本体2に対して着脱可能であり、即ち、交換可能な部材である。なお、本実施形態では、清掃部5が清掃部材として洗浄パッド30を備える一例を説明したが、本発明はこの例に限定されず、例えば、他の実施形態では、清掃部5が清掃部材として他のパッドやブラシを備えてもよい。
【0063】
また、一対の洗浄パッド30は、一対の洗浄パッド30の中間点を、幅方向において中央よりも一方側(右側)にずらした状態で、装置本体2の下部に取り付けられる。更に、一対の洗浄パッド30は、幅方向(左右方向)に並べた状態に対して前後にオフセット配置され、具体的には、一方側(右側)の洗浄パッド30は、前方且つ一方側(右側)に僅かにずらした位置に配置され、他方側(左側)の洗浄パッド30は、後方且つ一方側(右側)に僅かにずらした位置に配置される。
【0064】
幅方向の直線上に並べた一対の洗浄パッド30では、一対の洗浄パッド30の間の僅かな隙間によって清掃ムラが残ると、清掃軌跡の幅方向中央に清掃ムラが残ることがあるが、本実施形態のように、幅方向の直線に対して傾斜した直線上にオフセット配置された一対の洗浄パッド30では、清掃軌跡の幅方向中央に清掃ムラを残すことなく、清掃を行うことができる。
【0065】
なお、本実施形態では、一対の洗浄パッド30が右側にずらして配置されている自律走行作業装置1の一例について説明するが、本発明はこの例に限定されず、他の例では、一対の洗浄パッド30は、左側にずらして配置されてもよい。また、3つ以上の洗浄パッド30を多角形状に配置してもよい。
【0066】
パッドモータ31は、各洗浄パッド30を回転させる駆動源であり、装置本体2内で各洗浄パッド30の上方に設けられる。パッドモータ31は、一対の洗浄パッド30のそれぞれを別個に駆動する一対のモータで構成されてもよく、あるいは、ギアを介して一対の洗浄パッド30を同時に駆動する1つのモータで構成されてもよい。清掃部5は、制御部10からの制御信号に応じてパッドモータ31を回転駆動して各洗浄パッド30を回転させることで床面を洗浄する。パッドモータ31の回転速度を制御することで、各洗浄パッド30の回転速度(清掃強度)が調整される。
【0067】
また、パッドモータ31は、一対の洗浄パッド30をそれぞれ異なる方向に回転させ、具体的には、左側の洗浄パッド30を上方視時計回りに回転させ、右側の洗浄パッド30を上方視反時計回りに回転させる。これにより、一対の洗浄パッド30は、幅方向中央側で前方から後方へ向かうように回転するので、一対の洗浄パッド30の前方の汚水を幅方向中央側に収集しつつ後方へ排出する。
【0068】
パッドシリンダ32は、一対の洗浄パッド30を上下に移動させる部材であり、装置本体2内で各洗浄パッド30の上方に設けられる。パッドシリンダ32は、各洗浄パッド30に取り付けられたロッドを上下に移動させることで、各洗浄パッド30を交換のために上方に退避させ、また、洗浄すべき床面に各洗浄パッド30を接触させるために下方に付勢させる。清掃部5は、制御部10からの制御信号に応じてパッドシリンダ32を駆動して各洗浄パッド30を上下に移動させる。パッドシリンダ32の移動量を制御することで、各洗浄パッド30のパッド圧(清掃強度)が調整される。
【0069】
洗浄液タンク33は、洗浄液を収容する容器であり、装置本体2内に設けられ、外部から洗浄液を補充できるように構成される。供給水ポンプ34は、装置本体2内に設けられ、洗浄液を洗浄液タンク33から給水パイプ(図示せず)を介して供給して床面に散布する部材である。清掃部5は、制御部10からの制御信号に応じて供給水ポンプ34を駆動して洗浄液タンク33から洗浄液を供給し、供給水ポンプ34の駆動を制御することで、床面に散布される洗浄液の供給水量が調整される。
【0070】
スキージ35は、幅方向に長い部材であり、装置本体2の下面において各洗浄パッド30よりも後方に設けられ、床面に接触して各洗浄パッド30からの洗浄後の汚水を装置本体2の後方に逃がすことなく回収する。上記したように一対の洗浄パッド30が幅方向中央側から汚水を後方に排出するので、スキージ35は、汚水を床面に残すことなく回収することができる。なお、スキージ35は、スキージ35の幅方向の中心が、装置本体2の幅方向の中心よりも一方側(例えば、右側)にずれた状態で、装置本体2に取り付けられる。
【0071】
スキージシリンダ36は、スキージ35を上下に移動させる部材であり、装置本体2内でスキージ35の上方に設けられる。清掃部5は、制御部10からの制御信号に応じてスキージシリンダ36を駆動してスキージ35を上下に移動させる。
【0072】
汚水タンク37は、洗浄後の汚水を収容する容器であり、装置本体2内に設けられ、汚水を外部に排出できるように構成される。
【0073】
吸引ブロア38は、装置本体2内に設けられ、スキージ35で回収された床面上の汚水を、床面から吸引パイプ35aを介して汚水タンク37へ吸引する部材である。清掃部5は、制御部10からの制御信号に応じて吸引ブロア38を駆動して汚水を汚水タンク37へ吸引する。吸引ブロア38の駆動を制御することで、床面から汚水を回収するための吸引量が調整される。
【0074】
計測部6は、装置本体2と周囲の壁や障害物等の非作業対象との位置情報(例えば、装置本体2の進行方向に対する角度や距離)を計測するレーザーレンジファインダ(LRF:Laser Range Finder)6aや、装置本体2から所定距離内の壁や障害物の有無を検知する超音波センサ6bを備える。例えば、LRF6aは、装置本体2の前面に設けられ、超音波センサ6bは、装置本体2の側面に設けられる。なお、
図1では、超音波センサ6bが装置本体2の左面に複数設けられる例を図示しているが、超音波センサ6bは、装置本体2の左面だけでなく右面にも設けられる。
【0075】
操作表示部7は、装置本体2の後上側で走行操作部4の近傍に設けられ、キースイッチ(図示せず)と、緊急停止ボタン7aと、タッチパネルとを備え、操作表示部7の各部は、制御部10に接続されている。緊急停止ボタン7aは、操作されることで、緊急停止命令を制御部10に送信することで、自律走行作業装置1の各部の動作(特に、走行部3および清掃部5による自動走行清掃)を強制的に停止(制動)する。操作表示部7は、装置本体2に取り付けられる操作表示パネル等で構成されてもよく、装置本体2に対して着脱可能に装着されるタブレット端末等で構成されてもよい。なお、タブレット端末等で構成される操作表示部7は、通信部2gから無線通信を介して制御部10に接続されて、自律走行作業装置1を遠隔操作可能となる。
【0076】
例えば、操作表示部7のタッチパネルには、動作モードを選択操作するための動作モード選択画面が表示される。作業者は、動作モード選択画面の操作に応じて、動作モードを手動モード、学習モードおよび自動モードから何れかに選択することができる。
【0077】
また、操作表示部7のタッチパネルには、手動モードまたは学習モードで手動走行清掃または学習走行清掃を行う場合に、清掃部5の各種清掃設定を操作入力するためのデータ設定画面が表示される。データ設定画面で操作入力可能な清掃設定は、清掃部5の洗浄パッド30による床面洗浄の動作状態(稼働/停止、回転速度、パッド圧)、清掃部5の供給水ポンプ34による洗浄液散布の動作状態(稼働/停止、供給水量)、清掃部5の吸引ブロア38による汚水回収の動作状態(稼働/停止、吸引量)である。作業者は、データ設定画面の操作に応じて、清掃部5の各種清掃設定を入力することができ、データ設定画面に操作入力された清掃設定は、制御部10に送信され、記憶部11に記憶される。
【0078】
更に、操作表示部7のタッチパネルには、自動モードにおいて、自動走行清掃を行う清掃プランを選択操作するための清掃プラン選択画面が表示される。作業者は、清掃プラン選択画面の操作に応じて、自動走行清掃を行うべき清掃プランを選択することができ、清掃プラン選択画面で選択された清掃プランが、記憶部11から読み出されて、自動走行清掃を制御する制御部10によって実行される。
【0079】
電源部8は、装置本体2内部に搭載されたバッテリー(電源)および充電回路を備え、外部電源に接続することでバッテリーが充電され、また、自律走行作業装置1の各部へと電力を供給する。電源部8は、バッテリーの残量を示す信号を制御部10へと出力してもよい。
【0080】
次に、自律走行作業装置1の電気的構成を
図2を参照しながら説明する。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)等で構成され、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、フラッシュメモリ等からなる記憶部11に、バス10aを介して接続される。バス10aは、更にインタフェース10bに接続されていて、制御部10は、バス10aおよびインタフェース10bを介して、上記の走行部3、走行操作部4、清掃部5、計測部6、操作表示部7および電源部8等の自律走行作業装置1の各部に接続されている。
【0081】
記憶部11は、自律走行作業装置1の各部および各種機能を制御するためのプログラムやデータを記憶し、制御部10が、記憶部11に記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を実行することにより、各部および各種機能を統括制御する。
【0082】
例えば、制御部10は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、地図作成部40、走行制御部41、清掃制御部42(作業制御部)および清掃プラン作成部43として動作する。これにより、自律走行作業装置1は、事前に記憶されたプログラムに従って自律的に走行し自動で作業することができる。
【0083】
また、制御部10は、カメラで撮影した画像の画像認識機能、マイク2cで集音した音声の音声認識機能、障害物を回避するための一時迂回判定機能、周囲に自律走行作業装置1の稼働をスピーカ2f等で報知するための音声出力機能やその他の機能を有していてよい。
【0084】
地図作成部40は、学習モードにおいて学習走行清掃が行われる間、または自動モードにおいて自動走行清掃が行われる間に、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)等の技術を用いて、リアルタイムで自己位置の推定と環境地図の作成とを行う。
【0085】
具体的には、地図作成部40は、計測部6の計測結果である装置本体2と非作業対象との位置情報に基づいて、装置本体2の周囲の局所地図を作成する。また、地図作成部40は、局所地図と走行部3の各エンコーダによる検出結果(走行部3の移動量)とに基づいて、局所地図中の自律走行作業装置1の自己位置(座標)を推定する。学習モードでは、学習走行清掃を完了する際に、地図作成部40は、各局所地図をつなぎ合わせる(合成する)ことで清掃エリアの環境地図を作成し、各局所地図上の自己位置の位置情報をつなぎ合わせる(合成する)ことで走行経路を作成する。
【0086】
なお、自動モードでは、所定の清掃プランに基づく自動走行清掃が行われる場合、地図作成部40は、この清掃プランに関連付けられた環境地図を記憶部11から読み出し、読み出した環境地図と作成した局所地図とを比較(マッチング)することで、より正確な自己位置を推定する。自動走行清掃では、地図作成部40によって環境地図上の自己位置を推定しながら、走行制御部41および清掃制御部42によって走行部3および清掃部5をそれぞれ制御する。例えば、清掃プランの走行データの自己位置に、環境地図上で推定される自己位置を合わせて走行部3を制御しつつ、清掃部5の清掃データに基づいてステップ毎に清掃作業を制御する。
【0087】
走行制御部41は、手動モードにおいて手動走行清掃が行われる間、または学習モードにおいて学習走行清掃が行われる間に、作業者による走行操作部4の操作入力に応じた電気信号を受信し、この電気信号に基づく制御信号を生成して走行部3へ送信することで、走行部3の前輪20の回転駆動および操舵駆動を電気的に制御する。
【0088】
具体的には、走行制御部41は、走行操作部4のアクセルレバー24の操作量に基づく電気信号をアクセルセンサ24aから受信し、アクセルレバー24の操作量に対応する前輪20の回転速度を算出する。例えば、アクセルレバー24の操作に対する応答特性として、アクセルレバー24の回転角度θaの増加または減少に応じて、前輪20の回転速度が速くまたは遅くなるように設定される。なお、走行制御部41は、アクセルレバー24の操作量に対応する走行部3の走行速度を算出して、走行部3の走行速度を前輪20の回転速度に換算してもよい。そして、走行制御部41は、算出した回転速度で前輪20が回転するように前輪20の駆動モータ20aの回転駆動を制御する制御信号を生成して、駆動モータ20aへ送信する。
【0089】
また、走行制御部41は、走行操作部4のハンドル23の操作量に基づく電気信号をハンドルセンサ23aから受信し、ハンドル23の操作量に対応する前輪20の操舵角θdを算出する。例えば、ハンドル23の操作に対する応答特性として、ハンドル23の揺動角度θhの増加または減少に応じて、前輪20の操舵角θdが増加または減少するように設定され、例えば、前輪20の操舵角θdは、ハンドル23の揺動角度θhに比例する。即ち、ハンドル23を左右に揺動させた方向と角度に応じて、前輪20の方向と角度が比例的に変化する。なお、ハンドル23の操作に対する前輪20の操舵の応答特性は、基本的に左右対称である。
【0090】
ハンドル23の揺動角度θhに応じて、前輪20の操舵角θdが決定されることで、ほぼ自動的に自律走行作業装置1(走行部3)の回転半径が決定される。なお、手動モードと学習モードとでは、ハンドル23の操作に対して前輪20の操舵の応答特性が異なる。即ち、手動モードと学習モードとで異なるモード別応答特性が設定される。そして、走行制御部41は、算出した操舵角θdに前輪20が操舵されるように前輪20の操舵駆動、即ち、操舵部22の操舵モータ22aの回転駆動を制御する制御信号を生成して、駆動モータ20aへ送信する。
【0091】
また、走行制御部41は、自動モードにおいて所定の清掃プランに基づいて自動走行清掃が行われる間に、この清掃プランの走行データに基づく制御信号を生成して走行部3へ送信することで、走行部3の前輪20の回転駆動および操舵駆動を走行データに基づいて電気的に制御する。
【0092】
更に、走行制御部41は、自動モードにおける走行操作部4の操作に対する応答特性は、手動モードおよび学習モードにおける走行操作部4の操作に対する応答特性と異なる。即ち、自動モードに特有のモード別応答特性が設定される。
【0093】
清掃制御部42は、手動モードにおいて手動走行清掃が行われる間、または学習モードにおいて学習走行清掃が行われる間に、作業者による操作表示部7のデータ設定画面の操作入力に応じた電気信号を受信し、この電気信号に基づく制御信号を生成して清掃部5へ送信することで、清掃部5の各部を電気的に制御する。
【0094】
具体的には、清掃制御部42は、予め設定された初期値に基づいて、またはデータ設定画面の操作入力に基づいて、清掃部5の洗浄パッド30による床面洗浄の動作状態、清掃部5の供給水ポンプ34による洗浄液散布の動作状態、および清掃部5の吸引ブロア38による汚水回収の動作状態をそれぞれ示す電気信号を操作表示部7から受信する。そして、清掃制御部42は、各電気信号の示す動作状態で、洗浄パッド30、供給水ポンプ34および吸引ブロア38が動作するように、洗浄パッド30のパッドシリンダ32、供給水ポンプ34および吸引ブロア38の駆動を制御する制御信号を生成して、パッドシリンダ32、供給水ポンプ34および吸引ブロア38へ送信する。
【0095】
また、清掃制御部42は、自動モードにおいて所定の清掃プランに基づいて自動走行清掃が行われる間に、この清掃プランの清掃データに基づく制御信号を生成して清掃部5へ送信することで、洗浄パッド30のパッドシリンダ32、供給水ポンプ34および吸引ブロア38を清掃データに基づいて電気的に制御する。
【0096】
清掃プラン作成部43は、学習走行モードにおいて学習走行清掃が開始されると、清掃プランの作成を開始する。例えば、操作表示部7のタッチパネルに表示される画面を介して、学習開始が操作入力されると学習走行清掃が開始される。そして、清掃プラン作成部43は、学習走行清掃が行われる間、清掃プランのステップ間隔毎に、走行部3の走行データおよび清掃部5の清掃データを取得して記憶部11に記憶する。
【0097】
清掃プラン作成部43は、例えば、走行データとして、計測部6が計測した位置情報に基づいて自己位置(X座標およびY座標、角度)を取得する。また、走行部3の一対の後輪21の各駆動エンコーダ21aによって、各後輪21の回転量を検出し、その検出結果に基づいて前輪20の回転速度または走行部3の走行速度と進行方向を取得する。更に、走行操作部4のハンドル23のハンドルセンサ23aの検出結果に基づいて、ハンドル23の揺動角度θhや揺動速度を取得し、操舵部22の操舵センサ22bの検出結果に基づいて、走行部3の操舵角θdや操舵速度、自律走行作業装置1(走行部3)の旋回速度を取得する。
【0098】
また、清掃プラン作成部43は、例えば、清掃データとして、データ設定画面にそれぞれ設定された各種清掃設定(清掃部5の洗浄パッド30による床面洗浄の動作状態、清掃部5の供給水ポンプ34による洗浄液散布の動作状態、清掃部5の吸引ブロア38による汚水回収の動作状態)を取得する。
【0099】
清掃プラン作成部43は、学習走行清掃が完了すると、清掃プランの作成を完了する。例えば、操作表示部7のタッチパネルに表示される画面を介して、学習完了が操作入力されると学習走行清掃が完了する。そして、清掃プラン作成部43は、走行データおよび清掃データの取得を停止し、記憶部11に記憶していた走行データおよび清掃データをステップ毎に関連付けて、地図作成部40が作成した環境地図と合わせて清掃プランを作成して記憶部11に記憶する。
【0100】
次に、動作モード毎に異なるモード別応答特性について説明する。各動作モードのモード別応答特性に関連する設定項目として、走行部3の最大操舵角、ハンドル23の最大揺動角度および最大揺動角度時の走行部3の応答、並びにアクセルレバー24の最大回転角度および最大回転角度時の走行部3の応答が、
図5に示すように、予め設定されて記憶部11に記憶される。なお、
図5において破線で囲まれる設定項目は、作業者が操作表示部7を操作することで任意に変更可能である。
【0101】
先ず、手動モードと学習モードとで異なるモード別応答特性について説明する。手動モードと学習モードとは、ハンドル23の揺動角度θhの増加または減少に応じて、走行制御部41が、前輪20の操舵角θdを増加または減少させる点で共通しているが、モード別応答特性として、前輪20の操舵角θdの増加または減少の程度が異なる。なお、全ての動作モードに共通して、ハンドル23の揺動には所定の遊びが設けられていて、走行制御部41は、ハンドル23の揺動角度θhが所定の最小動作角度(例えば、±5度)以下の場合には、前輪20を操舵させずに、揺動角度θhが最小動作角度を超えている場合に前輪20を操舵させる。
【0102】
手動モードでは、学習走行清掃に不向きの清掃エリアや清掃エリアまでの移動領域、例えば、狭い通路や凹凸のある壁面に隣接した領域において、自律走行作業装置1を手動走行させる場合に有用である。そのため、手動モードでは、ハンドル23の操作(揺動)に対する前輪20の操舵の応答特性を機敏にして、換言すれば、ハンドル23の揺動に対する前輪20の操舵の追従性を高くし、できるだけ小さい回転半径で自律走行作業装置1を旋回させて取り回しをし易くすることが要求される。例えば、自律走行作業装置1を最も小回りさせる場合にその場旋回でピボット回転することが要求される。
【0103】
そこで、手動モードでは、前輪20の操舵角θdの範囲を最大操舵範囲まで広げて、例えば、走行操作部4のハンドル23の揺動に対する前輪20の最大操舵角を、
図3(2)に示すように、自律走行作業装置1が転倒することなく、その場旋回が可能な所定の最小回転半径(例えば、0)で旋回する第1最大操舵角(例えば、±90度)に設定する。即ち、ハンドル23の操作に対する前輪20の操舵の応答特性(モード別応答特性)として、手動モードでは、前輪20の第1最大操舵角を自律走行作業装置1がその場旋回が可能な最小回転半径で旋回する角度に設定する。
【0104】
また、手動モードでは、モード別応答特性として、走行操作部4のハンドル23が最大揺動角度の場合に対応して、走行制御部41は前輪20を第1最大操舵角に制御する。なお、ハンドル23の最大揺動角度は、ハンドル23が揺動する限界の角度、例えば、±45度である。ハンドル23が最大揺動角度に操作されるまでの間に、走行制御部41は、前輪20を第1最大操舵角に制御する。ハンドル23を±45度の揺動角度θhに操作すると、前輪20の操舵角θdが±90度に制御されて、自律走行作業装置1の回転半径が0になり、自律走行作業装置1は、一対の後輪21の中間点をピボット回転中心として、その場旋回でピボット回転するように走行する。例えば、
図3(2)に示すように、ハンドル23を45度左に切れば、前輪20が90度左に向くことになる。
【0105】
一方、学習モードでは、例えば、障害物や凹凸の少ない広い床面を有する清掃エリアにおいて、走行軌跡および清掃軌跡の重複を少なくしつつ清掃エリアを塗りつぶす走行経路を形成するように、学習走行を行わせることが好ましい。このような走行経路は、例えば、自律走行作業装置1をジグザグに往復走行させることで形成され、この往復走行では、自律走行作業装置1の回転半径を可能な限り小さくして、自律走行作業装置1を180度方向転換(旋回)させると、往復走行で自律走行作業装置1を180度旋回させるときに、自律走行作業装置1を一対の後輪21の中間点をピボット回転中心として、その場旋回させることになり、往路と復路とが全て重複することになる。
【0106】
そこで、学習モードでは、往路と復路との重複を少なくするように、回転半径をその場旋回時よりも大きくし、例えば、一対の後輪21の間の幅W程度に設定して自律走行作業装置1を180度旋回させ、即ち、前輪20の操舵角θdをその場旋回時よりも小さくする。そのため、学習モードでは、前輪20の操舵角θdの範囲を往復走行に好適な操舵範囲に設定し、前輪20の最大操舵角を、手動モードの第1最大操舵角よりも小さい第2最大操舵角(例えば、±60度)に設定する。即ち、ハンドル23の操作に対する前輪20の操舵の応答特性(モード別応答特性)として、学習モードでは、前輪20の第2最大操舵角を手動モードの第1最大操舵角よりも小さい角度に設定する。
【0107】
なお、走行操作部4のハンドル23が最大揺動角度の場合に前輪20を第1最大操舵角に制御する構成では、前輪20を第1最大操舵角より小さい第2最大操舵角に制御するために、ハンドル23を最大揺動角度より小さい揺動角度θh(例えば、30度~35度)に調整しながら操作する必要がある。このようなハンドル23の操作は、極めて熟練の必要な操作であって、作業者にとって手間が掛かる。
【0108】
そこで、学習モードでは、モード別応答特性として、
図6(1)に示すように、走行操作部4のハンドル23が最大揺動角度の場合に、走行制御部41は前輪20を第2最大操舵角に制御する。これにより、作業者は、ハンドル23を最大揺動角度に切って、その状態を維持しながら自律走行作業装置1を走行させれば、
図6(2)に示すように、自律走行作業装置1は、内輪側の後輪21の中心をピボット回転中心として、一対の後輪21の間の幅Wの回転半径で旋回し、往路に対する重複を少なくして復路を形成して走行することになる。このとき、往路と復路とは、内輪側の後輪21に沿って走行軌跡が重複し、清掃軌跡(洗浄パッド30の移動軌跡:作業軌跡)は、予め設定した重複幅だけ重複することになる。なお、重複幅は0に設定されてもよい。
【0109】
更に、学習モードでは、走行操作部4のハンドル23の揺動角度θhの変位(走行操作部4の入力ステップ)に対して、走行部3の前輪20の操舵角θdの変位(走行部3の応答出力状態)の特性(操舵変位特性)を、モード別応答特性として設定する。
【0110】
例えば、ハンドル23の揺動角度θhの所定の変位量に対する走行部3の操舵角θdの変位の割合を、手動モードよりも学習モードにおいて小さくするように第1操舵変位特性を設定することができる。このとき、走行制御部41は、比例定数を手動モードよりも学習モードにおいて小さく設定して、揺動角度θhに比例するように操舵角θdを制御する。
【0111】
第1操舵変位特性について、揺動角度θhの変位(横軸)に対する操舵角θdの変位(縦軸)のグラフと回転半径の変位(縦軸)のグラフを
図7(1)に示す。
図7(1)において、手動モードのグラフは実線で示し、学習モードのグラフは破線で示す。なお、操舵角θdの変位のグラフは右肩上がりで示され、回転半径の変位のグラフは左肩下がりで示される。
【0112】
手動モードでは、揺動角度θhが最小揺動角度から最大揺動角度まで変化する間に、操舵角θdは、揺動角度θhに比例して最小操舵角から第1最大操舵角まで変化する。
【0113】
これに対して、学習モードでは、手動モードと同様に、揺動角度θhが最小揺動角度の場合に操舵角θdが最小操舵角であり、操舵角θdは揺動角度θhに比例している。しかし、第1操舵変位特性では、手動モードに比べて操舵角θdの変位の割合が小さいので、換言すれば、揺動角度θhの変位に対する操舵角θdの変位の追従性が低くなり、揺動角度θhが最大揺動角度まで変化しても、操舵角θdは、第1最大操舵角に到達することなく第2最大操舵角に留まる。
【0114】
このように、第1操舵変位特性では、学習モードにおいて走行操作部4の入力ステップに対する走行部3の応答出力が、手動モードの場合よりも小さく、ハンドル23の揺動に対して前輪20の操舵の追従性が低いため、ハンドル23の微小な操作が前輪20の操舵に与える影響が少なくなる。
【0115】
また、上記した第1操舵変位特性の他に、ハンドル23の揺動角度θhの所定の変位量に対する走行部3の操舵角θdの変位の割合を、手動モードと学習モードとで同一すると共に、走行部3の操舵角θdの上限を手動モードよりも学習モードで低くするように第2操舵変位特性を設定することができる。このとき、走行制御部41は、比例定数を手動モードと学習モードとで同一に設定して、揺動角度θhに比例するように操舵角θdを制御すると共に、操舵角θdの上限値を第2最大操舵角に設定する。
【0116】
第2操舵変位特性について、揺動角度θhの変位(横軸)に対する操舵角θdの変位(縦軸)のグラフと回転半径の変位(縦軸)のグラフを
図7(2)に示す。
図7(2)において、手動モードのグラフは実線で示し、学習モードのグラフは破線で示す。なお、操舵角θdの変位のグラフは右肩上がりで示され、回転半径の変位のグラフは左肩下がりで示される。
【0117】
第2操舵変位特性では、操舵角θdの変位の割合が手動モードと同じであり、換言すれば、揺動角度θhの変位に対する操舵角θdの変位の追従性が同じである。そのため、揺動角度θhが最大揺動角度(例えば、±45度)より低い所定の第1揺動角度閾値(例えば、±30度)(第1操作量閾値)に達したときに、操舵角θdが第2最大操舵角に達する。しかし、第2操舵変位特性では、操舵角θdの上限を第1最大操舵角よりも低い第2最大操舵角に設定しているので、揺動角度θhを第1揺動角度閾値と最大揺動角度との間で変化させても、操舵角θdは第2最大操舵角に留まる。
【0118】
このように、第2操舵変位特性では、手動モードと学習モードとで、走行操作部4の入力ステップに対する走行部3の応答出力が変化しないので、その場旋回時よりも大きい曲率半径で走行部3を操舵する場合に、走行操作部4の操作性が変化しないため、作業者にとって自律走行作業装置1(走行操作部4)の取り扱いが容易になる。
【0119】
更に、学習モードでは、走行操作部4のハンドル23の揺動角度θhに応じて、走行部3の走行速度(前輪20の回転速度)を制限する特性(速度制限特性)を、モード別応答特性として設定する。
【0120】
学習モードでは、上記したように、走行制御部41は、走行操作部4のアクセルレバー24のアクセルレバー24の回転角度θa(開度)に応じて、走行部3の走行速度を決定している。走行制御部41は、走行部3の走行速度が過剰にならないように、走行部3の最高走行速度として所定の第1上限速度を予め設定して、走行部3が第1上限速度を超えて走行しないように制御する。
【0121】
しかし、走行部3の走行速度が比較的速く、例えば、最高走行速度に達するとき、走行部3の操舵角θdが比較的大きく、例えば、第2最大操舵角に設定されていると、自律走行作業装置1の走行速度に起因する慣性力も大きくなる。この慣性力が大きくなり過ぎると、走行部3の走行に影響を与えることがある。例えば、この慣性力によって、自律走行作業装置1の回転半径が目標値よりも大きくなって走行経路の曲率が目標値よりも小さくなったり、自律走行作業装置1が転倒したりするおそれがある。
【0122】
そこで、学習モードでは、走行操作部4のハンドル23が操作されると(
図8のステップS1)、速度制限特性として、走行制御部41は、ハンドル23の揺動角度θhが所定の第2揺動角度閾値(第2操作量閾値)以上であるか否かを判定する(
図8のステップS2)。
【0123】
そして、ハンドル23の揺動角度θhが第2揺動角度閾値未満である場合(ステップS2:No)、走行部3の最高走行速度を予め設定された所定の第1上限速度に制限して(
図8のステップS3)、アクセルレバー24の回転角度θaに応じて走行部3の走行を制御する(
図8のステップS4)。
【0124】
一方、ハンドル23の揺動角度θhが第2揺動角度閾値以上である場合(ステップS2:Yes)、走行部3の最高走行速度を第1上限速度よりも低い第2上限速度(制限速度)に設定して(
図8のステップS5)、アクセルレバー24の回転角度θaに応じて走行部3の走行を制御する(ステップS4)。
【0125】
第2上限速度は、第1上限速度に対する割合で任意に設定可能であり、例えば、第1上限速度の50%に設定される。なお、第2上限速度の設定手法は、上記した第1操舵変位特性と同様に、アクセルレバー24の所定の変位量に対する走行部3の走行速度の変位の割合を、手動モードよりも学習モードにおいて小さくして行ってよい。あるいは、第2上限速度の設定手法は、上記した第2操舵変位特性と同様に、アクセルレバー24の所定の変位量に対する走行部3の走行速度の変位の割合を、手動モードと学習モードとで同一すると共に、走行部3の走行速度の上限を手動モードよりも学習モードで低くして行ってよい。
【0126】
更に、学習モードでは、走行操作部4のハンドル23の揺動角度θhに応じて、清掃部5の清掃強度を制限する特性(清掃制限特性)を、モード別応答特性として設定する。
【0127】
上記の速度制限特性で説明したように、走行部3の走行速度が比較的速く、走行部3の操舵角θdが比較的大きく設定されていると、自律走行作業装置1の走行速度に起因する慣性力も大きくなる。この慣性力が大きくなり過ぎると、清掃部5の清掃作業に影響を与えることがある。例えば、清掃部5の供給水ポンプ34が床面に洗浄液を散布している場合、この慣性力によって、自律走行作業装置1の旋回時の清掃軌跡よりも外側に洗浄液が飛び出して、スキージ35で回収できずに床面に残存するおそれがある。
【0128】
そこで、学習モードでは、清掃制限特性として、清掃制御部42は、走行操作部4のハンドル23の揺動角度θhが所定の第3揺動角度閾値(第3操作量閾値)未満である場合、清掃部5の最大清掃強度を予め設定された所定の第1上限強度に設定する一方、ハンドル23の揺動角度θhが第3揺動角度閾値以上である場合、清掃部5の最大清掃強度を第1上限強度よりも弱い第2上限強度(制限強度)に設定する。後者の場合、走行制御部41または制御部10が、揺動角度θhが第3揺動角度閾値以上の場合に、清掃制御部42に対して清掃制限命令を送信し、清掃制御部42が清掃制限命令に応じて清掃部5の清掃強度を設定すればよい。
【0129】
具体的には、清掃部5の清掃強度として、洗浄パッド30の回転速度やパッド圧、供給水ポンプ34の供給水量および吸引ブロア38の吸引量を、清掃制限特性の第1上限強度および第2上限強度に設定する。例えば、供給水ポンプ34の供給水量の最大水量を予め設定している場合、ハンドル23の揺動角度θhが第3揺動角度閾値未満である場合、供給水ポンプ34の最大供給水量は、予め設定していた最大水量(第1最大水量)に第1上限強度として設定される。また、ハンドル23の揺動角度θhが第3揺動角度閾値以上である場合、供給水ポンプ34の最大供給水量は、第1最大水量よりも弱い最大水量(第2最大水量)に第2上限強度として設定される。
【0130】
第2最大水量は、第1最大水量に対する割合で任意に設定可能であり、例えば、第1最大水量の50%に設定される。これにより、自律走行作業装置1の旋回時に床面に供給される洗浄液を、清掃軌跡から飛び出さない水量に抑制し、洗浄液の残存を抑制することができる。清掃制限特性として、洗浄パッド30の回転速度やパッド圧および吸引ブロア38の吸引量についても、供給水ポンプ34の供給水量と同様にして、第1上限強度および第2上限強度を設定することができる。なお、これらの清掃制限特性は、手動モードにおいて選択的に設定可能にしてもよい。
【0131】
次に、自動モードに特有のモード別応答特性(自動モード応答特性)について説明する。手動モードや学習モードでは、走行操作部4の操作量の変位に応じた応答特性として、走行制御部41は、走行部3の操舵角θdや走行速度または清掃部5の清掃強度を変位させるが、自動モードでは、このような応答特性を設定しない。自動モードでは、モード別応答特性として、走行操作部4の操作に応じて、手動モードおよび学習モードと異なる応答命令を出力する。
【0132】
具体的には、自動モードでは、走行操作部4が操作されると(
図9のステップS11)、自動モード応答特性として、走行制御部41は、自動走行清掃が行われる間に、ハンドル23の操作が緊急ハンドル操作であるか否か、例えば、ハンドル23の揺動角度θhが所定の停止揺動角度(例えば、±5度)以上であるか否かを判定する(
図9のステップS12)。
【0133】
そして、ハンドル23の揺動角度θhが所定の停止揺動角度以上である場合(ステップS12:Yes)、走行制御部41は、緊急停止命令を制御部10に送信する。制御部10(あるいは、走行制御部41および清掃制御部42)は、緊急停止命令に応じて、自律走行作業装置1の各部の動作(特に、走行部3および清掃部5による自動走行清掃)を強制的に停止(制動)する(
図9のステップS13)。
【0134】
また、走行制御部41は、ハンドル23の揺動角度θhが所定の停止揺動角度未満の場合(ステップS12:No)、アクセルレバー24の操作が緊急アクセル操作であるか否か、例えば、アクセルレバー24の回転角度θaが所定の停止回転角度(例えば、±5度)以上であるか否かを判定する(
図9のステップS14)。
【0135】
そして、アクセルレバー24の回転角度θaが所定の停止回転角度以上である場合(ステップS14:Yes)、走行制御部41は、上記と同様にして、緊急停止命令を制御部10に送信して、自律走行作業装置1の各部の動作を強制的に停止する(ステップS13)。
【0136】
また、アクセルレバー24の回転角度θaが所定の停止回転角度未満である場合(ステップS14:No)、制御部10は、緊急停止ボタン7aが操作された場合に(
図9のステップS15:Yes)、自律走行作業装置1の各部の動作を強制的に停止する(ステップS13)。緊急停止ボタン7aが操作されなければ(ステップS15:No)、自動清掃プランに基づいて自動走行を継続する(
図9のステップS16)。
【0137】
上述のように、本実施形態によれば、手動モード、学習モードおよび自動モードの何れかの動作モードで動作して走行および作業を行う自律走行作業装置1は、装置本体2と、装置本体2を走行させる走行部3と、装置本体2の走行経路上で作業を行う清掃部5(作業部)と、走行部3を操作するための手動操作を受け付ける走行操作部4と、走行操作部4の操作に応じて走行部3を制御する走行制御部41と、を備える。そして、走行制御部41は、走行操作部4の操作に対する応答特性として、動作モード毎に異なるモード別応答特性を設定することを特徴とする。
【0138】
このような構成により、本実施形態に係る自律走行作業装置1では、走行操作部4の操作に対して、各動作モードに適していて作業者の要求に対応する応答を行うことができ、自律走行作業装置1の利用および普及を促進することができる。なお、走行操作部4の操作に対して各動作モードに共通する応答を行う場合、動作モードによって、意図しない応答が行われ、期待しない動作を行うおそれがあるが、本実施形態によれば、このような不都合は生じない。
【0139】
また、本実施形態では、走行制御部41は、ハンドル23の揺動角度θh(走行操作部4の操作量)の増加または減少のそれぞれに応じて走行部3の操舵角θdを増加または減少させるように構成されていて、モード別応答特性として、走行操作部4の操作に対する走行部3の最大操舵角を、手動モードと学習モードとでそれぞれ異なる第1最大操舵角と第2最大操舵角とに設定していて、第1最大操舵角を、手動モードにおいて走行部3がその場旋回が可能な所定の最小回転半径で旋回するような角度に設定し、第2最大操舵角を、第1最大操舵角よりも小さい角度に設定する。
【0140】
このような構成により、手動モードでは、走行部3の操舵角を第1最大操舵角にすることで、走行部3を最小回転半径で旋回させることができ、様々な形状の走行経路を走行させることができる。また、手動モードでは、走行部3の操舵角を第1最大操舵角にしたまま自律走行作業装置1を180度旋回させると自律走行作業装置1をその場旋回させることもできる。これに対して、学習モードでは、走行操作部4が必要以上に操作されても、走行部3の操舵角は第1最大操舵角よりも小さい第2最大操舵角に制限されるので、学習走行時に回転半径が必要以上に小さくなることが抑制され、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0141】
また、本実施形態では、走行制御部41は、第2最大操舵角を、学習モードにおいて走行部3が第2最大操舵角で180度方向転換して往復走行する場合に、往路と復路とで所定の重複幅だけ重複して清掃部5の清掃軌跡(作業軌跡)を形成するような角度に設定する。
【0142】
このような構成により、学習モードの学習走行時には、走行部3が上限の第2最大操舵角になるように走行操作部4を操作することは作業者にとって容易であり、走行部3の操舵角を第2最大操舵角にしたまま自律走行作業装置1を180度旋回させる操作も作業者にとって容易である。このような操作によって、自律走行作業装置1の往復走行時に、清掃範囲(作業軌跡)の中抜けや過剰な重複がなくなるので、学習走行に適した走行経路を容易に得ることができ、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0143】
また、本実施形態では、走行制御部41は、ハンドル23の揺動角度θh(走行操作部4の操作量)の変位に対して、走行部3の操舵角θdの変位の割合を、手動モードよりも学習モードにおいて小さくすると共に、学習モードにおいてハンドル23の揺動角度θhが最大揺動角度(最大操作量)に達したときに走行部3の操舵角θdが第2最大操舵角になるように、走行部3を制御する。
【0144】
このような構成により、学習モードにおいてハンドル23の揺動角度θhの変位(走行操作部4の入力ステップ)に対する前輪20の操舵角θdの変位(走行部3の応答出力状態)が、手動モードの場合よりも小さく、ハンドル23の揺動に対して前輪20の操舵の追従性が低いため、ハンドル23の微小な操作が前輪20の操舵に与える影響が少なくなる。また、ハンドル23を最大揺動角度に切った状態を維持して自律走行作業装置1を走行させれば、走行部3の操舵角θdを第2最大操舵角に維持した状態で自律走行作業装置1を旋回させることができる。従って、学習走行に適した往復走行を容易な操作で実現することができる。
【0145】
また、本実施形態では、走行制御部41は、ハンドル23の揺動角度θhの変位に対して、走行部3の操舵角θdの変位の割合を、手動モードおよび学習モードにおいて同一になるように、走行部3を制御しつつ、走行部3の操舵角θdの上限を手動モードよりも学習モードにおいて低く設定すると共に、学習モードにおいてハンドル23の揺動角度θhが最大揺動角度よりも低い所定の第1揺動角度閾値(第1操作量閾値)に達したときに走行部3の操舵角θdが第2最大操舵角になるように、走行部3を制御する。
【0146】
このような構成により、手動モードと学習モードとで、走行操作部4の入力ステップに対する走行部3の応答出力が変化しないので、比較的大きい曲率半径で走行部3を操舵する場合に、走行操作部4の操作性が変化しないため、作業者にとって走行操作部4の取り扱いが容易になる。また、ハンドル23を第1揺動角度閾値以上に切った状態を維持して自律走行作業装置1を走行させれば、走行部3の操舵角θdを第2最大操舵角に維持した状態で自律走行作業装置1を旋回させることができる。従って、学習走行に適した往復走行を容易な操作で実現することができる。
【0147】
また、本実施形態では、走行制御部41は、モード別応答特性として、学習モードにおいて、ハンドル23の揺動角度θhが、走行部3を第2最大操舵角で旋回させる所定の第2揺動角度閾値以上である場合、走行部3の最高走行速度を、予め設定された第1上限速度よりも低い第2上限速度(制限速度)に制限する。
【0148】
このような構成により、学習走行時に設定されていた走行速度に拘らず、走行部3を第2最大操舵角で旋回させる場合には、走行部3の最高走行速度が自動的に制限されるので、自律走行作業装置1に作用する慣性力を抑制することができる。そのため、作業者の勘や経験に頼ることなく、自律走行作業装置1の目標走行経路からのはみ出しや、自律走行作業装置1の転倒を抑制して、学習走行を自動的に安定化することができ、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0149】
また、本実施形態では、自律走行作業装置1は、清掃部5の清掃強度(作業強度)を制御する清掃制御部42(作業制御部)を更に備える。清掃制御部42は、モード別応答特性として、学習モードにおいて、ハンドル23の揺動角度θhが、走行部3を第2最大操舵角で旋回させる所定の第3揺動角度閾値以上である場合、清掃部5の最大清掃強度(最大作業強度)を、予め設定された第1上限強度よりも弱い第2上限強度(制限強度)に制限する。
【0150】
このような構成により、学習走行時に設定されていた清掃強度に拘らず、走行部3を第2最大操舵角で旋回させる場合には、清掃強度が自動的に制限されるので、自律走行作業装置1に作用する慣性力が清掃作業に及ぼす影響、例えば、洗浄液の飛び散り等を抑制することができる。そのため、自律走行作業装置1の学習走行の旋回時に、清掃作業を自動的に安定化することができ、作業者にとって取り扱いが容易になる。
【0151】
また、本実施形態では、走行制御部41は、モード別応答特性として、自動モードでは、走行操作部4の操作に対して、手動モードおよび学習モードと異なる応答命令を出力する。
【0152】
このような構成により、自動モードでは、通常、走行操作部4の操作を受け付けないが、本実施形態では、走行操作部4の操作に応じて、自動モードに特有の応答を任意に設定することができる。
【0153】
また、本実施形態では、走行制御部41は、自動モードでは、応答命令として、緊急停止命令を出力する。
【0154】
このような構成により、自動モードでは、緊急停止動作を操作するための手段を、緊急停止ボタン7a以外にもハンドル23の操作やアクセルレバー24の操作等、複数種類の手段を備えておくことができ、作業者にとって緊急停止時の取り扱いが容易となる。
【0155】
なお、上記した実施形態では、ハンドル23の操作に対する前輪20の操舵の応答特性が左右対称である一例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。
【0156】
ハンドル23の操作に対する前輪20の操舵の応答特性が左右対称である場合、ハンドル23を左側に所定の揺動角度だけ操作した場合に、前輪20が左側に操舵される操舵角θdは、ハンドル23を右側に同じ揺動角度だけ操作した場合に、前輪20が右側に操舵される操舵角θdと同じになる。即ち、左旋回時の回転半径と右旋回時の回転半径とが同じになる。
【0157】
ところで、上記した実施形態では、幅方向に並んだ一対の洗浄パッド30は、幅方向の一方側にずらして配置されている。そこで、他の実施形態では、モード別応答特性として、学習モードにおいて、走行制御部41は、左旋回時と右旋回時とでハンドル23の操作に対する前輪20の操舵の応答特性が異なるように走行部3を制御してもよい。
【0158】
例えば、一対の洗浄パッド30が右側にずらして配置されている自律走行作業装置1が、右側の後輪21の中心をピボット回転中心として180度右旋回すると、右側の洗浄パッド30が右側の後輪21の前方に配置されているので、右側の洗浄パッド30の清掃軌跡は、往路と復路とで重複部分が多くなる。そこで、他の実施形態では、走行制御部41は、右旋回時には、ピボット回転中心が右側の後輪21よりも外側になって、左旋回時の回転半径Wよりも大きい回転半径W1で旋回するように、左旋回時の第2最大操舵角θLよりも右旋回時の第2最大操舵角θRを小さく設定する。
【0159】
走行制御部41は、例えば、
図10に示すように、ハンドル23の揺動角度θhの所定の変位量に対する走行部3の操舵角θdの変位の割合を、手動モードと学習モードとで同一にしていて、左旋回時の走行部3の操舵角θdの上限を第2最大操舵角θdLに設定する一方、右旋回時の走行部3の操舵角θdの上限を第2最大操舵角θdRに設定している。
【0160】
また、走行制御部41は、左旋回時には、ハンドル23の揺動角度θhが揺動角度閾値θhL(例えば、-30度)以上の場合に、操舵角θdを第2最大操舵角θdLに制限する一方、右旋回時には、ハンドル23の揺動角度θhが揺動角度閾値θhR(例えば、-27度)以上の場合に、操舵角θdを第2最大操舵角θdRに制限する。
【0161】
これにより、ハンドル23の揺動角度θhを揺動角度閾値θhR以上にして右旋回を行うと、
図11に示すように、自律走行作業装置1は、右側の後輪21よりも外側のピボット回転中心の周りに、左旋回時の回転半径Wよりも大きい回転半径W1で右旋回する。従って、往復走行を行う場合、左旋回時と右旋回時とで、それぞれに適した走行経路を形成して、それぞれに適した清掃軌跡を形成することができる。また、左旋回時と右旋回時とに拘らず、往路と復路との重複幅を一定にすることもできる。
【0162】
なお、上記した他の実施形態では、第2最大操舵角θdLおよび第2最大操舵角θdRの設定手法として、揺動角度θhの変位量に対する操舵角θdの変位の割合を、手動モードと学習モードとで同一にする一例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。他の例では、第2最大操舵角θdLおよび第2最大操舵角θdRの設定手法は、ハンドル23の揺動角度θhの所定の変位量に対する走行部3の操舵角θdの変位の割合を、手動モードよりも学習モードにおいて小さくして行ってもよい。また、ハンドル23の揺動角度θhの所定の変位量に対する走行部3の操舵角θdの変位の割合を、左旋回時よりも右旋回時において小さくして行ってもよい。
【0163】
また、上記した他の実施形態では、一対の洗浄パッド30が右側にずらして配置されている自律走行作業装置1の一例について説明したが、本発明はこの例に限定されない、他の例では、一対の洗浄パッド30は、左側にずらして配置されてもよく、この場合、走行制御部41は、上記した他の実施形態の一例とは、左右を逆転させるように制御を行う。
【0164】
上記した実施形態では、清掃部5は、湿式の清掃機構で構成される例を説明したが、清掃部5は、この例に限定されず、乾式の清掃機構で構成されてもよい。
【0165】
上記した実施形態では、自律走行作業装置1の走行部3は、前輪20(駆動輪)に備わる駆動モータ20aが前輪20を回転駆動すると共に、操舵モータ22aを備えた操舵部22が前輪20を揺動させることで、自律走行作業装置1の走行速度や進行方向を決定しつつ、左右の後輪21(従動輪)にそれぞれ備わる駆動エンコーダ21aのエンコーダ出力に基づいて、自律走行作業装置1の走行速度や進行方向をフィードバック制御する一例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。
【0166】
例えば、他の実施形態では、前輪20に駆動モータ20aや操舵部22を備えることなく、左右の後輪21のそれぞれに他の駆動モータおよび駆動エンコーダ21aを備えて、左右の後輪21を独立に駆動・制御して、自律走行作業装置1の走行速度や進行方向を決定するように構成してもよい。このような他の実施形態でも、上記した実施形態と同様に、動作モード毎に異なるモード別応答特性を設定することは可能である。更に、通常の乗用車のように、走行部3が前輪二輪と後輪二輪とを有していて、操舵と駆動とが適宜組み合わせて構成されていても、上記した実施形態と同様に、動作モード毎に異なるモード別応答特性を設定することは可能である。
【0167】
また、走行操作部4についても、ハンドル23がステアリングホイール状の構造であって、最大揺動角度は360度以上の構成でもよく、アクセルレバー24がアクセルペダルであってもよい。さらに、自動走行時にステアリングホイールが自動的に揺動する回転動作を再現する構成でもよい。
【0168】
以上説明した本発明に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【0169】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う自律走行作業装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明は、事前に入力されたプログラムに従って、自律走行作業が可能な自律走行作業装置とそれと一体的に構成した業務用の自動床面洗浄・清掃装置等に好適に利用することができる。本発明は、この他にも、芝刈り機や田植え機、稲刈り機等の農作業用機器にも好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0171】
1 自律走行作業装置
2 装置本体
3 走行部
4 走行操作部
5 清掃部(作業部)
6 計測部
7 操作表示部
7a 緊急停止ボタン
10 制御部
11 記憶部
20 前輪
20a 駆動モータ
21 後輪
21a 走行駆動エンコーダ
22 操舵部
22a 操舵モータ
22b 操舵センサ
23 ハンドル
23a ハンドルセンサ
24 アクセルレバー
24a アクセルセンサ
30 洗浄パッド
31 パッドモータ
32 パッドシリンダ
34 供給水ポンプ
38 吸引ブロア
40 地図作成部
41 走行制御部
42 清掃制御部
43 清掃プラン作成部