IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社清水合金製作所の特許一覧

<>
  • 特許-耐震補修弁 図1
  • 特許-耐震補修弁 図2
  • 特許-耐震補修弁 図3
  • 特許-耐震補修弁 図4
  • 特許-耐震補修弁 図5
  • 特許-耐震補修弁 図6
  • 特許-耐震補修弁 図7
  • 特許-耐震補修弁 図8
  • 特許-耐震補修弁 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】耐震補修弁
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/10 20060101AFI20230802BHJP
   F16K 27/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
F16L27/10 Z
F16K27/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019074761
(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公開番号】P2020172969
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000147291
【氏名又は名称】株式会社清水合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】呉竹 賢二
(72)【発明者】
【氏名】橋岡 由男
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 幸一
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172799(JP,A)
【文献】特表平09-510531(JP,A)
【文献】特開2017-180472(JP,A)
【文献】特表2007-506925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0341344(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 27/00-27/12
F16L 21/02
F16K 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補修弁用ボデーに設けられた挿し口と、この挿し口の外周面に可撓スペースを介して遊嵌状態に嵌められた押輪と、この押輪が固着された受け口部材と、前記挿し口の外周面に一体に又は別体に形成された係止突条部と、前記押輪の内周に保持されたスペーサと、前記受け口部材の内周面と前記挿し口の外周面との間にシール性を保持するためのゴム輪とを備え、平常時には前記係止突条部が前記スペーサに係止状態で保持され、伸縮可撓時には移動側の前記係止突条部が前記スペーサを潰した状態で、かつ前記押輪の内周に設けた環状の上部突起部まで移動側の前記挿し口が上方に移動しながら可撓した状態で、前記可撓スペースを介して伸縮可撓することを特徴とする耐震補修弁。
【請求項2】
前記押輪及び/又は受け口部材で構成された装着溝に抜け止めリングが装着され、この抜け止めリングの内周に保持された前記スペーサが前記挿し口に一体に又は別体に形成された前記係止突条部を係止状態に保持した請求項1に記載の耐震補修弁。
【請求項3】
前記ボデーが伸縮可撓状態の際に、前記抜け止めリング或は前記押輪で前記ゴム輪を押圧するようにした請求項2に記載の耐震補修弁。
【請求項4】
前記抜け止めリング或は前記押輪と、前記ゴム輪との間にバックアップリングが介在されている請求項3に記載の耐震補修弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震性を備えた伸縮可撓継手構造とこの構造を有する耐震補修弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば補修弁は、地中に埋設された水道管と消火栓や空気弁等との間に設けられ、この補修弁を閉止して水道管側からの通水を遮断することで消火栓や空気弁等の点検修理等が可能になっている。この種の補修弁として、例えば、図9(a)に示した補修弁1が知られている。同図において、地中には水道管2が水平方向に埋設され、この水道管2に到達するように地表から弁室3が設けられる。この弁室3付近には、垂直方向に分岐する分岐部4を備えたT字管5が接続され、その分岐部4の上部に補修弁1が設けられる。補修弁1は、短管6とバルブ部7とを備え、これらがボルト等により一体に接続された状態で、短管6側にT字管5、バルブ部7の上部に消火栓(又は空気弁)8が接続される。補修弁1と弁室3の室壁3aとの間には、初期隙間Gが設けられている。
この場合、地中に配管を敷設する際には耐震性が要求され、上記のように水道管2に消火栓8や空気弁等を分岐して設けるときには、これらの間に補修弁1を設ける場合にもその接合(継手)部分に耐震性が求められる。
【0003】
この種の耐震機能を有する継手構造としては、例えば、特許文献1の管の継手構造が開示されている。この管の継手構造では、一方側の管の受口内周にロックリング収容溝が形成され、このロックリング収容溝よりもさらに開口側にはゴム製シール材収容用のテーパ面が離間して形成されている。また、他方側の管の挿口の外周には挿口突部が形成され、この挿口突部にロックリングが抜け止め状態で装着されている。ロックリングから離間した位置にはシール材が開口側から突出するように装着され、このシール材は、一方側の管に形成されたフランジと、このフランジの外方より装着される押輪とによりボルトを介して装着される。このような構成により、継手部分に屈曲方向の力が加わったときに、この継手部が可撓して耐震性を発揮しようとするものである。
【0004】
一方、特許文献2の耐震補修弁が本件出願人により出願されている。この耐震補修弁では、ボデーの一次側に設けられた挿し口、挿し口の外周側に嵌められた押し輪、押し輪に固着された受け口部材、抜け止めリング、ゴム輪を有し、押し輪に設けられた装着溝に抜け止めリングが装着され、この抜け止めリングに設けられた突条部が、伸縮可撓スペースを設けた状態で挿し口の外周面に形成された外周溝に挿入されている。受け口部材の内周面と挿し口の外周面との間にはゴム輪が装着され、このゴム輪により水密性を確保しつつ、伸縮可撓性を発揮するようになっている。
【0005】
ところで、消火栓を地下に設ける場合には、その設置深さを確保することも規格によって求められている。例えば、日本水道協会(JWWA)による規格(JWWA B 103)では、浅層埋設における消火栓のキャップ深さが150mm以上となるように規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-214573号公報
【文献】特開2017-172799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9(a)の状態に補修弁1が敷設されている場合、地震発生時には、弁室3が設けられている地盤と水道管2とが相対変位し、この相対変位により、図9(b)に示すように初期の隙間Gが無くなって消火栓(或は空気弁)8が室壁3aに接触(衝突)する可能性がある。このとき、双方の変位が拘束されることになり、その後も地盤と水道管2の相対変位が続いたときには、消火栓8が室壁3aから反力Fを受けて傾倒し、この傾倒に伴う変形が限界変形量を超えた場合、消火栓8、補修弁1のフランジ部やT字管5の損傷につながる。
【0008】
これに対して、特許文献1の管の継手構造を用いて分岐部側と補修弁側とを接続し、これら分岐部と補修弁との間に可撓性を持たせることが考えられる。しかし、この管の継手構造は、可撓機能を構成する部分が管軸方向(接続方向)に長くなるため、補修弁から水道本管までの距離がそれまでよりも増加することになる。このことから、地下式の消火栓の所定の設置深さ(キャップ深さ150mm)を確保しつつこの継手構造を補修弁とT字管との間に設けようとする場合には、水道管の埋設深度(土被り)が大きくなるために敷設にかかるコストが増加する。既設の消火栓にこの継手構造を用いて耐震化を図ろうとする場合にも、所定のキャップ深さを確保するために、水道管をより深く埋設し直す必要が生じる。
【0009】
一方、特許文献2の耐震補修弁の場合には、特許文献1の管の継手構造に比較して接続方向への長さの増加を抑えつつ設置でき、消火栓のキャップ深さを確保した状態で、水道管の埋設深度を増やすことなく水道管に取付け可能になる。
地震発生時には、伸縮可撓スペース内で挿し口が伸縮可撓することにより、消火栓や補修弁のフランジ部やT字管の損傷を防ぐことができる。しかし、挿し口に外周溝が形成されていることから、この外周溝の部分では挿し口の肉厚が周囲よりも薄くなるために強度の向上が望まれている。
【0010】
本発明は、従来の課題を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、接続方向への長さの増加を抑えつつ水道管との間に接続して消火栓や空気弁の所定の設置深さを確保した状態で流路を遮断でき、地震発生時には伸縮可撓性を発揮して消火栓や空気弁の損傷を防ぎ、しかも、伸縮可撓側の強度を向上して優れた耐震性を発揮する伸縮可撓継手構造と耐震補修弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、補修弁用ボデーに設けられた挿し口と、この挿し口の外周面に可撓スペースを介して遊嵌状態に嵌められた押輪と、この押輪が固着された受け口部材と、挿し口の外周面に一体に又は別体に形成された係止突条部と、押輪の内周に保持されたスペーサと、受け口部材の内周面と挿し口の外周面との間にシール性を保持するためのゴム輪とを備え、平常時には係止突条部がスペーサに係止状態で保持され、伸縮可撓時には移動側の係止突条部がスペーサを潰した状態で、かつ押輪の内周に設けた環状の上部突起部まで移動側の挿し口が上方に移動しながら可撓した状態で、可撓スペースを介して伸縮可撓する耐震補修弁である。
【0012】
請求項2に係る発明は、押輪及び/又は受け口部材で構成された装着溝に抜け止めリングが装着され、この抜け止めリングの内周に保持されたスペーサが挿し口に一体に又は別体に形成された係止突条部を係止状態に保持した耐震補修弁である。
【0013】
請求項3に係る発明は、ボデーが伸縮可撓状態の際に、抜け止めリング或は押輪でゴム輪を押圧するようにした耐震補修弁である。
【0014】
請求項4に係る発明は、抜け止めリング或は押輪と、ゴム輪との間にバックアップリングが介在されている耐震補修弁である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、挿し口に係止突条部を形成し、平常時にはこの係止突条部を押輪の内周に保持されたスペーサに係止して保持し、伸縮可撓時には移動側の係止突条部がスペーサを潰した状態で、かつ押輪の内周に設けた環状の上部突起部まで移動側の挿し口が上方に移動しながら可撓した状態で、可撓スペースを介して伸縮可撓することにより、接続方向への長さの増加を抑えつつ使用できる。このため、例えば水道管と消火栓や空気弁との間に接続して使用でき、その場合、消火栓や空気弁の所定の設置深さを確保した状態で、水道管の埋設深度を増やすことなく流路を遮断可能となる。平常時には、係止突条部がスペーサに係止状態で保持されることで、挿し口側の傾倒や移動を防いで安定した直立状態を維持する。一方、地震発生時に消火栓や空気弁が弁室の室壁に接触したときには、係止突条部がスペーサを潰した状態で可撓スペースを介して伸縮可撓性を発揮する。これにより、可撓スペースにおいて挿し口側が塑性変形を伴うことなく伸縮可撓し、消火栓や空気弁のフランジ部や一次側に接続される部品の損傷を防ぎつつ、ゴム輪により水密性を保って漏れを防止する。このとき、挿し口の外周面に一体に又は別体に係止突条部を形成していることにより、伸縮可撓側である挿し口の局部的な薄肉化を防いで強度の向上を図ることで優れた耐震性を発揮し、挿し口に対する係止突条部の加工も容易になる。組立て時には、挿し口の外周面に遊嵌状態に押輪を嵌め込み、この押輪に予めスペーサを保持した状態で、受け口部材に対して固着できるため、組立て及び分解が容易になりメンテナンスや修理も簡単に実施可能となる。水道管と消火栓や空気弁との間以外の各種の配管に接続することもでき、この場合、既存又は新設に限らず配管の一部として簡単に接続でき、上記と同様に伸縮可撓性を発揮して耐震性を向上させることができる。
【0017】
しかも、平常時の挿し口側の直立状態を維持し、挿し口側に強い力が加わったときにはこの挿し口の抜けを防ぎつつ伸縮可撓させることにより破損を防止できる。押輪及び/又は受け口部材で構成される装着溝に抜け止めリングを装着し、この抜け止めリングの内周にスペーサを保持していることで、これらスペーサや抜け止めリングを予め押輪に取付けでき、挿し口を押輪に容易に嵌め込んで組立てできる。
【0018】
さらに、ボデーの伸縮可撓状態の際に、抜け止めリング或は押輪でゴム輪を押圧することにより、ゴム輪押圧用の部品を別途必要とすることがないため全体のコンパクト性を維持でき、ゴム輪を所定領域内で弾性変形させて挿し口傾倒時の衝撃を吸収し、かつ受け口部材と挿し口との隙間のシール状態を維持して漏れを確実に防ぐ。
【0019】
抜け止めリング或は押輪と、ゴム輪との間に設けたバックアップリングによりゴム輪の変形部分のはみ出しや抜け出しを防止し、ゴム輪の過度な変形を防止できる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の伸縮可撓継手構造を耐震補修弁に適用した第1実施形態を示す縦断面図である。
図2図1の要部拡大断面図である。(a)は平常時の状態を示す断面図である。(b)は伸縮可撓時の状態を示す断面図である。
図3図1の耐震補修弁に過大な抜け出し力が加わった状態を示す縦断面図である。
図4】耐震補修弁の第2実施形態を示す縦断面図である。(a)は平常時の状態を示す断面図である。(b)は伸縮可撓時の状態を示す断面図である。
図5】耐震補修弁の第3実施形態を示す縦断面図である。(a)は平常時の状態を示す断面図である。(b)は伸縮可撓時の状態を示す断面図である。
図6】耐震補修弁の第4実施形態を示す縦断面図である。(a)は平常時の状態を示す断面図である。(b)は伸縮可撓時の状態を示す断面図である。
図7】耐震補修弁の第5実施形態を示す縦断面図である。(a)は平常時の状態を示す断面図である。(b)は伸縮可撓時の状態を示す断面図である。
図8】本発明の伸縮可撓継手構造を短管に適用した実施形態を示す縦断面図である。
図9】従来の補修弁の配管状態を示す説明図である。(a)は従来の地下式消火栓の平常時の状態を示す図である。(b)は地下式消火栓が弁室の室壁に衝突する状況を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明における伸縮可撓継手構造を実施形態に基づいて詳細に説明する。本発明の伸縮可撓継手構造は、種々の配管機材に適用可能であるが、本例では配管機材として耐震補修弁に適用した例を述べる。図1は、耐震補修弁の第1実施形態を示しており、図2は、図1の要部拡大断面図を示している。
【0022】
図1において、耐震補修弁(以下、弁本体10という)は、T字管11と消火栓(或は空気弁)12との間に設けられる。T字管11は、弁本体10の一次側に配置され、地中に埋設された図示しない水道管から垂直方向に分岐された分岐部14を有している。消火栓12は、弁本体10の二次側に配置され、この消火栓12に図示しない消火用ホースが接続可能に設けられる。弁本体10は、水道管(T字管11)と消火栓12との間の流路を開閉可能に設けられ、この弁本体10を閉止することで水道管側の水圧を遮断可能とし、消火栓12の点検や修理を実施可能になっている。
【0023】
弁本体10は、ボールバルブ20と、押輪21と、受け口部材22とを備え、これらの間には、スペーサ30、ゴム輪31、抜け止めリング32、バックアップリング33が設けられている。
【0024】
ボールバルブ20は、補修弁用ボデー40を有し、このボデー40の一次側に挿し口41、二次側にはフランジ部42が形成され、このフランジ部42を介して弁本体10の二次側に消火栓12が接続される。
【0025】
ボールバルブ20のボデー40内には、ボール43、ステム44、ボールシート45が装着される。ボール43は、ステム44によりボデー40内に回動自在に収納され、このステム44には操作用のハンドル46が固定される。ボール43の一、二次側にはボールシート45がそれぞれ配設され、ボデー40の二次側には弁座受け48が螺合により固着される。ボールバルブ20は、ハンドル46の操作により流路を開閉可能になっている。
【0026】
ボデー40の挿し口41は、このボデー40の一次側に延設されるように形成され、この挿し口41の外周面の所定位置には、鍔状の係止突条部50が一体に形成されている。この挿し口41の外周面には、後述の可撓スペースSを介して押輪21が遊嵌状態に嵌められている。
【0027】
押輪21は、金属材料により略環状に形成され、その内周には挿し口41の外周を遊嵌可能な挿通穴51が設けられる。押輪21の上部には、挿し口41よりも大径の段部52が形成され、この段部52と挿し口41との間に上記可撓スペースSが設けられる。ボデー40側に管軸方向と交差する方向の過大な力が加わったときには、可撓スペースSを介してボデー40が傾倒可能となる。押輪21の外周にはフランジ部53が形成され、このフランジ部53を介して後述の受け口部材22が接続される。
【0028】
押輪21の内周には環状の装着溝54が形成され、この装着溝54に抜け止めリング32が装着される。抜け止めリング32は、金属材料により装着溝54に収容可能な環状に形成され、この抜け止めリング32の上部内周には環状の上部突起部55、下部内周には環状の下部突起部56がそれぞれ形成され、この構成により、抜け止めリング32の内周側には凹状の可撓スペースTが設けられる。上部突起部55の内径は、係止突条部50の外径よりも小径に設けられ、この上部突起部55に係止突条部50が係止される。抜け止めリング32は、分割したリング状に形成され、この分割リングを装着溝54内で組み合わせることで装着される。
【0029】
押輪21の内周には、抜け止めリング32を介してスペーサ30が保持される。スペーサ30は、金属材料或は樹脂材料により環状に形成され、その外径は抜け止めリング32の内周面に保持可能な大きさに設けられる。スペーサ30の内周中央部付近には、係止突条部50の外径よりも内径の小さい鍔部57が円周状或は断続的に形成される。スペーサ30は、少なくとも1ヶ所カットした円環状に形成され、抜け止めリング32の内周面で保持される。
【0030】
受け口部材22は、金属材料により押輪21と略同径の環状に形成され、外周側に形成されたフランジ部58を介して押輪21がボルト59により固着される。受け口部材22の内周面には環状の収容溝60が形成され、この収容溝60に抜け止めリング32の下部側が収容可能に設けられる。収容溝60の下方には、この収容溝60よりも小径の環状溝部61が形成され、この環状溝部61内にゴム輪31が収納される。受け口部材22の環状溝部61よりも下方の底面内周側には、内径方向に突出する小径環状部62が形成される。受け口部材22の一次側にはT字管11の分岐部14が接続され、このとき、小径環状部62によってT字管11との間にガスケットの当たり面が確保される。
【0031】
ゴム輪31は、弾力性に富んだゴム材料によって環状に成形されて、受け口部材22の環状溝部61の内周面と挿し口41の外周面との間に装着され、このゴム輪31によりこれら受け口部材22の内周面と挿し口41の外周面との間のシール性が確保される。ゴム輪31は、十分なつぶし量を確保できる形状に形成され、挿し口41が受け口部材22に対して傾倒し、環状溝部61の容積が変化した場合にもこれらの間に密着シールした状態を維持して漏れを防ぐことが可能になっている。
【0032】
バックアップリング33は、金属材料又は樹脂材料により環状に形成され、抜け止めリング32とゴム輪31との間に介在された状態で装着される。この場合、バックアップリング33は、環状溝部61よりも大径の収容溝60に装着可能な外径に設けられ、その装着時には上方の抜け止めリング32により押圧される。このことから、ゴム輪31の抜け出し方向への変形を防ぎ、その変形部分が抜け止めリング32の分割部分に入ることを防止するようになっている。
【0033】
上記の弁本体10を一体化する場合には、ボデー40(ボールバルブ20)の挿し口41の外周面に押輪21を嵌めた状態にし、ボデー40の係止突条部50にスペーサ30を嵌め、その外側から抜け止めリング32を嵌め、押輪21の装着溝54に装着する。この場合、抜け止めリング32を分割して形成し、スペーサ30は少なくとも1ヶ所カットした円環状に形成しているので、これらを係止突条部50の外側より組み合わせた状態で装着溝54に装着して組み立てることが可能となる。
【0034】
抜け止めリング32及びスペーサ30の装着後には、スペーサ30の上端を抜け止めリング32の上部突起部55で位置規制した状態で、このスペーサ30の鍔部57の下端に係止突条部50の上面が係止し、この係止突条部50の下部が抜け止めリング32の下部突起部56に係止した状態となる。このため、抜け止めリング32とスペーサ30とが装着溝54内に保持されて挿し口41からの抜け止めが図られている。
【0035】
この状態で挿し口41の外周面にバックアップリング33、ゴム輪31をこの順序で嵌め込み、これらを抜け止めリング32の下部に配置した状態とする。
【0036】
続いて、挿し口41の先端側を受け口部材22の内周側に挿入し、ボデー40の上部からプレスによってこれらを受け口部材22に押し込むことで、ゴム輪31を弾性変形させた状態で環状溝部61内に収納し、所定の圧力を加えた状態で押輪21を受け口部材22にボルト59で固着する。これにより、ボールバルブ20(ボデー40)の挿し口41側が可撓スペースSを介して押輪21、受け口部材22側に対して伸縮可撓する弁本体10が構成される。この場合、押輪21の装着溝54と受け口部材22の収容溝60との間に抜け止めリング32が位置決め保持されて、ずれが防がれた状態で装着される。
【0037】
組込み後において、平常時には、スペーサ30が係止突条部50を係止状態で保持することで、押輪21及び受け口部材22に対してボデー40の直立状態を維持する。このとき、スペーサ30は、抜け止めリング32の内周に保持された状態で係止突条部50に係止していることで、受け口部材22方向に脱落するおそれがない。また、抜け止めリング32を介して、押輪21でゴム輪31を押圧するようになっているので、漏水するおそれはない。
【0038】
一方、地震等による伸縮可撓時には、スペーサ30が係止突条部50によって潰された状態で、可撓スペースSを介して弁本体10が伸縮可撓するようになっている。
ボデー40の伸縮可撓状態の際にも、抜け止めリング32を介して押輪21でゴム輪31を押圧するようになっているので、漏水するおそれはない。
【0039】
なお、上記実施形態においては、装着溝54及び収容溝60を押輪21及び受け口部材22の双方の内周に形成しているが、この装着溝或は収容溝を、前記の押輪21或は受け口部材22の何れか一方の内周に形成し、この装着溝又は収容溝に抜け止めリング32を装着した構造としてもよい。
【0040】
また、抜け止めリング32とゴム輪31との間にバックアップリング33を介在しているが、このバックアップリング33を押輪21とゴム輪31との間に介在する構造としてもよい。
【0041】
挿し口41の外周面に係止突条部50が一体に形成されているが、この係止突条部50は挿し口41と別体に設けられていてもよい。この場合、図1図2の破線に示すように、係止突条部50を断面略L字状で径方向に分割したリング状に形成し、これを挿し口41の外周面に形成した凹状の取付け溝に組み合わせることで取付けできる。
【0042】
前述した抜け止めリング32、スペーサ30、及び上記別体の係止突条部を分割して設ける場合には、これらの分割数を任意に設定できる。
【0043】
スペーサ30は、係止突条部50が係止されて挿し口41を抜け止めでき、この挿し口41に過大な抜け出し力が加わったときに係止突条部50で潰されてこの係止突条部50への係止状態を解除できるものであれば、その形状にこだわることなく各種の断面形状に形成することができる。
【0044】
図示しないが、ボデー40と押輪21との間には、環状ゴム製カバーを装着するようにしてもよい。この場合、カバーがボデーの傾倒等の動作に追随して変形することで、ボデー40と押輪21との隙間からの土砂の浸入を防止できる。
【0045】
次いで、上記実施形態における耐震補修弁の平常時及び伸縮可撓時におけるそれぞれの動作並びに作用を詳しく説明する。
平常時においては、図2(a)において、挿し口41が直立状態となるようにボデー40が配置され、このとき、挿し口41に一体に形成された係止突条部50の上面がスペーサ30の鍔部57底面に当接し、係止突条部50の底面が抜け止めリング32の下部突起部56の上面に当接した状態で、係止突条部50がスペーサ30に係止する。このとき、抜け止めリング32は、バックアップリング33を介してゴム輪31を押圧した状態となる。このようにして、係止突条部50の上部側、下部側がその外周方向に沿ってそれぞれスペーサ30、ゴム輪31により水平状態に保持されることで、挿し口41(ボデー40)の直立状態が安定して維持される。
【0046】
このため、消火栓12の保守点検時などにおいて、ボール43を閉止位置に回動して水道管側からボール43に水圧が加わった場合にも、環状の係止突条部50が環状のスペーサ30に均圧状態で当接することでボデー40の傾倒を防ぎ、これらの係止状態が維持されることで押輪21からのボデー40の抜け出しも防止される。
【0047】
一方、地震等の発生により地盤と水道管に相対変位が発生し、図8(b)に示すような状態で水道管が左方向に移動して弁本体10に接続された消火栓12が弁室の室壁に衝突した場合には、この消火栓12に左側から過大な力が加わり、図2(b)において、弁本体10にはボデーを右側に傾倒しようとする力が働く。
【0048】
このとき、傾倒側(図における右側)では、係止突条部50がスペーサ30を介して抜け止めリング32の内周側を押圧することで圧縮力が作用する。その際、剛性材料である抜け止めリング32及び押輪21により係止突条部50の水平方向の移動が妨げられ、スペーサ30が係止突条部50を係止した状態を維持する。
【0049】
このように、傾倒側の係止突条部50が位置規制された状態で、この係止突条部50よりも上方に位置する消火栓12に左側から力が加わると、傾倒側の係止突条部50が抜け止めリング32の下部突起部56側に押圧される。これにより、傾倒側の係止突条部50が支点となってボデー40には右回転しようとする過大な力が加わる。このため、衝突して力が加わる側(図における左側)の係止突条部50は、スペーサ30の鍔部57を潰しながら可撓スペースT内を上方に移動し、抜け止めリング32の上部突起部55に当接したときにそれ以上の移動が規制される。このようにして、弁本体10は、挿し口41の抜け止めが図られた状態で、可撓スペースTを介して伸縮可撓するようになっている。この場合、ボデー40が直立方向から4°程度の傾きで可撓できるようになっている。
【0050】
上記のように、ボデー40の伸縮可撓時に、力が加わる側では係止突条部50が上部突起部55に当接して抜け止め防止状態になることで、挿し口41側が押輪21に干渉することがなくボデー40の破損等を防いでいる。このボデー40の傾倒時には、つぶし量を十分に確保したゴム輪31を環状溝部61に装着していることで、傾倒側及び力が加わる側の何れにおいても、ゴム輪31の弾性変形により挿し口41の外周面と受け口部材22の内周面との間のシール性を維持して、確実に水漏れを防止する。
【0051】
他方、図3において、弁本体10に垂直方向に抜けようとする過大な抜け出し力が作用したときには、ボデー40に上昇しようとする力が働く。このため、係止突条部50には全周に渡って抜け出し方向の力が加わり、この係止突条部50が鍔部57を潰しながらボデー40が押輪21及び受け口部材22に対して垂直方向に移動することとなる。この場合、係止突条部50が抜け止めリング32の上部突起部55に当接することで、それ以上のボデー40の上昇が規制される。このようにして、ボデー40の抜け止めを図りつつ可撓スペースTを介してボデー40が上昇移動することで、破損等を防ぐようになっている。
【0052】
本発明の伸縮可撓継手構造を用いた弁本体10は、上述したように、挿し口41と、押輪21と、受け口部材22と、係止突条部50と、スペーサ30と、ゴム輪31とを備え、平常時にはスペーサ30が係止突条部50を係止状態に保持し、伸縮可撓時には係止突条部50がスペーサ30を潰した状態で可撓スペースTを介して伸縮可撓することにより、優れた耐震性を発揮する。
【0053】
この場合、係止突条部50を挿し口41の外周面に一体に又は別体に形成しているため、挿し口41の薄肉化を防いで強度を向上させることができ、地震発生時にも挿し口41の変形や破損等を防ぎつつ、ゴム輪31とのシール性を維持してボデー40側を伸縮可撓させて耐震性が向上する。
【0054】
押輪21の装着溝54と受け口部材22の収容溝60との間に抜け止めリング32を装着し、この抜け止めリング32の内周に保持したスペーサ30が係止突条部50を係止状態に保持して耐震性を発揮する構造としているため、抜け止めリング32を押輪21と受け口部材22の内部に収容して、抜け止めリング32装着による弁本体10の高さ寸法の増加を防いでいる。これによって、弁本体10を介して消火栓12(空気弁)を水道管に接続する際に、管軸方向(接続方向)の長さの延長を防ぐことができ、水道管の埋設深度を増加させることなく、消火栓12のキャップ深さを確保した状態で配管可能になる。
そのため、ボデー40の二次側に消火栓12(又は空気弁)を浅層埋設した状態で配管したときにも耐震性を維持できる。
【0055】
弁本体10が伸縮可撓しても、抜け止めリング32を介して押輪21でゴム輪31を押圧するようにしているので、ゴム輪31押圧用の別の部品を必要とすることなく、押輪21と受け口部材22とをボルト59により締め付けることで抜け止めリング32によりゴム輪31を強固に押さえつけてシール性を確保できる。ボルト59の締め付け時には、押輪21と受け口部材22との対向面同士の当接により締付け力が規制されるため、抜け止めリング32がゴム輪31を過剰に圧縮することもない。
【0056】
図4(a)、図4(b)においては、本発明の耐震補修弁の第2実施形態を示している。なお、この実施形態以降において、それ以前の実施形態と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。
この実施形態における弁本体70では、抜け止めリング71の上部内周に環状の上部突起部72が形成された状態で、抜け止めリング71が押輪21と受け口部材22との間に装着される。バックアップリング73は、図2の場合よりも肉厚に形成され、このバックアップリング73が、抜け止めリング71及び係止突条部50とゴム輪31との間に介在されている。
【0057】
この場合にも、前述した第1実施形態と同様に、ボデー40が伸縮可撓しても、抜け止めリング71を介して押輪21でゴム輪31を押圧する。係止突条部50の下部は、バックアップリング73に当接していることから、このバックアップリング73とスペーサ30の鍔部57との間に係止状態で保持される。ボデー40の傾倒時には、その傾倒側の係止突条部50がバックアップリング73に当接した状態で支点の機能を発揮するようになっている。
【0058】
上記のように、抜け止めリング71の内周に保持されたスペーサ30が、挿し口41に一体又は別体に形成した係止突条部50を係止状態に保持し、これによって平常時の弁本体70の直立状態を維持し、或は伸縮可撓時にスペーサ30を潰して弁本体70を伸縮可撓するものであれば、各種断面形状の抜け止めリングを使用できる。
【0059】
図5(a)、図5(b)においては、本発明の耐震補修弁の第3実施形態を示している。
この実施形態の弁本体80においては、第1、第2実施形態に比較して押輪81の装着溝82の深さが浅く形成され、この装着溝82に薄肉状の抜け止めリング83が、その底面内径側がバックアップリング73の上面に当接した状態で装着される。そして、ボデー40が伸縮可撓状態の際にも、押輪81でバックアップリング73を介してゴム輪31を押圧する構造となっている。
【0060】
そのため、この実施形態では、装着溝82の深さに合わせた厚さの抜け止めリング83を形成可能となり、この場合においても上記第2実施形態と同様の機能を発揮できる。
【0061】
図6(a)、図6(b)においては、本発明の耐震補修弁の第4実施形態を示している。
この実施形態の弁本体90においては、ボデー91の挿し口41の外周の所定位置に取付け溝92が形成され、この取付け溝92に別体の係止突条部93が装着されて一体化される。別体の係止突条部93は、取付け溝92に装着可能な分割リング状又は少なくとも1ヶ所カットした円環状に形成される。
【0062】
押輪81の下部内周には深さの浅い装着溝95が形成され、この装着溝95にスペーサ30が直接保持される。別体の係止突条部93は、スペーサ30により係止状態に保持されている。このように、押輪81内周に設けられたスペーサ30が係止突条部93を係止状態に保持し、これによって平常時には弁本体90の直立状態を維持し、かつ伸縮可撓時にはスペーサ30を潰して伸縮可撓する。
【0063】
この場合、ボデー91が伸縮可撓状態の際にも、押輪81でバックアップリング73を介してゴム輪31を押圧する構造となっている。係止突条部93の下部はバックアップリング73に当接し、係止突条部93がバックアップリング73とスペーサ30の鍔部57との間に係止状態で保持され、ボデー91の傾倒時に、その傾倒側の係止突条部93が支点の機能を発揮する。
【0064】
図7(a)、図7(b)においては、本発明の耐震補修弁の第5実施形態を示している。
この実施形態の弁本体100では、図6と同様にボデー91の挿し口41の外周に取付け溝92が形成され、この取付け溝92に別体の係止突条部93が装着されている。
一方、押輪101の下部内周には装着溝102が形成され、この装着溝102にスペーサ30が保持される。この場合、図6に比較して押輪101がゴム輪31上面側に対して内径側に突出するように構成され、これによってゴム輪31上面への押輪101底面の押圧面積が増加している。そのため、より安定してゴム輪31を押圧できる。
【0065】
第2、第3、第4、第5実施形態においても、係止突条部50、93を挿し口41の外周面に一体に又は別体に形成しているため、挿し口41の薄肉化を防いで強度を向上させることができ、地震発生時にも挿し口41の変形や破損等を防ぎつつ、ゴム輪31とのシール性を維持してボデー40、91側を伸縮可撓させて耐震性が向上する。
【0066】
図8は、本発明の伸縮可撓継手構造の配管例であり、伸縮可撓継手構造を短管130からなる配管機材に適用した形態を示している。
地中には図示しない水道管が水平方向に埋設され、この水道管は、T字管11の分岐部14により垂直方向に分岐されている。分岐部14には短管130が伸縮可撓継手構造を介して接続され、この短管の二次側に消火栓12(又は空気弁)が接続される。
【0067】
この場合にも、前述した耐震補修弁の場合と同様に、平常時には、短管130に形成された挿し口131の外周に設けられた係止突条部132がスペーサ30に係止状態で保持され、伸縮可撓時には、スペーサ30を潰した状態で可撓スペースSを介して、短管130側が押輪21や受け口部材22に対して伸縮可撓することができる。
さらに、本発明の伸縮可撓継手構造は、上記の短管とは異なる形状や長さの短管や、短管以外の管材など、各種態様の配管機材に適用可能であり、何れの場合であっても上述した実施形態と同様に伸縮可撓性を発揮させることが可能である。しかも、縦向きの配管に加えて、横向きの配管にも適用することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。
【符号の説明】
【0069】
10 弁本体(配管機材)
21 押輪
22 受け口部材
30 スペーサ
31 ゴム輪
32 抜け止めリング
33 バックアップリング
40 ボデー
41 挿し口
50 係止突条部
54 装着溝
130 短管(配管機材)
S 可撓スペース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9