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特許7324082カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/56 20060101AFI20230802BHJP
   C07C 65/21 20060101ALI20230802BHJP
   C07D 327/00 20060101ALI20230802BHJP
   C07D 307/60 20060101ALI20230802BHJP
   C07D 309/32 20060101ALI20230802BHJP
   C07D 313/04 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C07C51/56
C07C65/21 A
C07D327/00
C07D307/60 Z
C07D309/32
C07D313/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019145374
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021024830
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】河野 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮宜
(72)【発明者】
【氏名】高宮 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】三村 英之
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/085840(WO,A1)
【文献】特開2005-272327(JP,A)
【文献】特開2004-043441(JP,A)
【文献】特開平05-238987(JP,A)
【文献】特表2013-501733(JP,A)
【文献】国際公開第2011/017800(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0229468(US,A1)
【文献】特開昭53-018536(JP,A)
【文献】Journal of the Chemical Society, Chemical Communications,1987年,(12),883-884,DOI: 10.1039/C39870000883
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸またはスルホン酸とハロゲン化剤を反応させて酸無水物を製造する方法において、リン酸エステルを含む溶媒を用いる、カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法であって、
前記カルボン酸またはスルホン酸が下記一般式(2)
【化2】
(式中、nは1~3の整数を表す。)または下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表されるジカルボン酸またはジスルホン酸であり、
前記カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物が下記一般式(4)
【化4】
(式中、nは1~3の整数を表す。)または下記一般式(5)
【化5】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表される環状カルボン酸無水物または環状スルホン酸無水物である、
方法
【請求項2】
カルボン酸またはスルホン酸とハロゲン化剤を反応させて酸無水物を製造する方法において、リン酸エステルを含む溶媒を用いる、カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法であって、
前記カルボン酸またはスルホン酸が下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表されるジスルホン酸であり、
前記カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物が下記一般式(5)
【化5】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表される環状スルホン酸無水物である、
方法
【請求項3】
リン酸エステルが下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一または非同一の炭素数1~10のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルである請求項1又は請求項2に記載のカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化剤が塩化チオニルである請求項1~のいずれか1項に記載のカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法。
【請求項5】
反応後にカルボン酸無水物、スルホン酸無水物をろ過により分離する請求項1~のいずれか1項に記載のカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法に関する。より詳しくはカルボン酸またはスルホン酸のハロゲン化剤を用いた脱水縮合によりカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物は、それぞれエステルやアミド等への変換が可能であるため、医薬中間体、工業薬品等の用途にて非常に有用な化合物である。一例として、1,3-プロパンジスルホン酸無水物は、アミロイド症治療薬等の治療薬の合成原料として検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、グルタル酸無水物は、樹脂添加剤として検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法としては、各種方法が知られており、例えば非特許文献1にはスルホン酸を無溶媒でオキシ塩化リンと反応させる方法、非特許文献2にはカルボン酸を大過剰の塩化チオニルと反応させる方法がそれぞれ記載されている。さらに非特許文献3にはスルホン酸クロライドをスルホン酸銀塩と反応させる方法、非特許文献4にはカルボン酸またはスルホン酸をジフェニル水銀とトリアルキルホスフィンと反応させる方法がそれぞれ記載されている。
【0004】
非特許文献1に記載の方法及び非特許文献2に記載の方法は、原料としてカルボン酸またはスルホン酸をハロゲン化剤と反応させる簡素な方法であり、特にジカルボン酸またはジスルホン酸から環状カルボン酸無水物または環状スルホン酸無水物を得る方法として有利な方法である。
【0005】
しかしながら、ジカルボン酸、ジスルホン酸は、通常、水溶液あるいは水和物として扱われ、非特許文献1に記載の方法のように無溶媒で実施する場合、その脱水の過程で液の粘性が高くなる、あるいはジカルボン酸またはジスルホン酸が塊状固体となる場合があり、工業的規模での実施が困難であるなどの課題を有している。また、非特許文献2に記載の方法のように大過剰の塩化チオニルと反応させる場合は、塩化チオニルの処理プロセスを必要とし、工業的な実施の観点で効率的とは言い難い。
【0006】
一方、非特許文献3に記載の方法はスルホン酸銀塩の合成及び副生する銀塩を分離除去するための煩雑なプロセスが必要であり、また、非特許文献4に記載の方法では工業的に入手困難な原料を用いる必要であるなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2013-501733号公報
【文献】特開2010-144150号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Chem.Ber.,91,1512(1958)
【文献】J.Am.Chem.Soc.,50, 145(1928)
【文献】Chem.Ber.,93,2736(1960)
【文献】J.Org.Chem.,28,2024(1963)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、即ち、カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を、カルボン酸またはスルホン酸を原料とした簡素もしくは簡便な方法であって、工業的に入手可能な原料を用い、且つ工業的実施に効率的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の溶媒を用いカルボン酸またはスルホン酸とハロゲン化剤とを反応させることで、簡素もしくは簡便な方法であって、工業的に入手可能な原料を用い、且つ工業的に効率的に実施できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0012】
本発明は、カルボン酸またはスルホン酸とハロゲン化剤とを反応させてカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を製造する方法において、リン酸エステルを含む溶媒を用いる方法に係る。
【0013】
また本発明は、リン酸エステルが下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一または非同一の炭素数1~10のアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルである1項に記載のカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法に係る。
【0014】
また本発明は、カルボン酸またはスルホン酸が下記一般式(2)
【化2】
(式中、nは1~3の整数を表す。)または下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表されるジカルボン酸またはジスルホン酸であり、カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物が下記一般式(4)
【化4】
(式中、nは1~3の整数を表す。)または下記一般式(5)
【化5】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表される環状カルボン酸無水物または環状スルホン酸無水物である上記のカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法に係る。
【0015】
また本発明は、カルボン酸またはスルホン酸が下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表されるジスルホン酸であり、カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物が下記一般式(5)
【化5】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
で表される環状スルホン酸無水物である上記の酸無水物の製造方法に係る。
【0016】
また本発明は、ハロゲン化剤が塩化チオニルである上記のカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の製造方法に係る。
【0017】
また本発明は、反応後にカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物をろ過により分離する上記のカルボン酸またはスルホン酸の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を、カルボン酸またはスルホン酸を原料とした簡素もしくは簡便な方法であって、工業的に入手可能な原料を用い、且つ工業的実施に効率的な方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、カルボン酸またはスルホン酸とハロゲン化剤を反応させて酸無水物を製造する方法において、リン酸エステルを含む溶媒を用いる。
【0020】
本発明に係る反応に用いられる溶媒としては、原料であるカルボン酸またはスルホン酸を溶解させ、且つこれら酸性の原料またはハロゲン化剤の存在下で化学的に安定性化合物であればよい。例えばリン酸エステルを好ましく用いることができ、本発明に係る反応に用いることにより、工業的実施に効率的な方法を提供でき、高収率でカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を得ることができる。
【0021】
本発明に係る反応で使用されるリン酸エステルとしては、常温で液体状であるリン酸エステルが好ましく、フッ素原子を含有しないものとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリn-プロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリn-ブチル、リン酸トリsec-ブチル、リン酸トリtert-ブチル、リン酸トリn-ペンチル、リン酸トリn-ヘキシル、リン酸トリn-オクチル、リン酸ジメチルエチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸ジメチルフェニル及びリン酸ジエチルフェニル等が挙げられる。
【0022】
また、本発明において、前記した一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルは、本発明に係る反応の条件下で高い安定性を有する上、カルボン酸またはスルホン酸に対する溶解性を示しながらもカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の溶解性が低い特殊な性質を有し、生成したカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物が関与する副反応が抑制され、着色のない高品質なカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を高収率で得ることができるため特に好適な溶媒である。
【0023】
本発明において、一般式(1)の含フッ素リン酸エステルとしては、リン酸トリス(2-モノフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2-ジフオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,2,3,3,4,4,5,5-ノナフルオロペンチル)、リン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロノニル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)ジメチル及びリン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)メチル等を挙げることができる。これら含フッ素リン酸エステルの中でもカルボン酸またはスルホン酸の溶解性、粘度等の物性、入手容易性の観点から、特にリン酸トリス(2,2,2-トリフオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル及びリン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチルが好ましい。
【0024】
本発明において、リン酸エステルの使用量は、カルボン酸またはスルホン酸に対し重量比で0.5倍~10倍、好ましくは1倍~5倍である。
【0025】
なお、生成したカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物の副反応を抑制して収率をより向上させる目的で、必要に応じてカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を溶解しにくい溶媒、すなわち貧溶媒を共存させることも可能である。このような貧溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明に係る反応で用いられるカルボン酸としては脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸が挙げられ、スルホン酸としては脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸が挙げられる。
【0027】
具体的には、脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸及びトリフル酢酸等の脂肪族モノカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸及びピメリン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。芳香族カルボン酸としては、安息香酸、4-メチル安息香酸、4-メトキシ安息香酸、4-クロロ安息香酸、4-ブロモ安息香酸、1-ナフタレンカルボン酸、2-ナフタレンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、4-メトキシフタル酸、4-クロロフタル酸、4-ブロモフタル酸、4,5-ジクロロフタル酸及び4,5-ジブロモフタル酸等の芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0028】
また、脂肪族スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸等の脂肪族モノスルホン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、プロパン-1,3-スルホン酸、ブタン-1,4-ジスルホン酸等の脂肪族ジスルホン酸が挙げられる。芳香族スルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸、4-メチルベンゼンスルホン酸、4-メトキシベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸及び4-ブロモベンゼンスルホン酸等の芳香族モノスルホン酸、1,2-ベンゼンジスルホン酸、及びメチル-1,2-ベンゼンジスルホン酸等の芳香族ジスルホン酸が挙げられる。
【0029】
なお、これら原料を用いて本発明にて得られるカルボン酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水オクタン酸、無水2-エチルヘキサン酸、無水トリフル酢酸等の鎖状脂肪族カルボン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物及びピン酸無水物、ピメリン酸無水物等の環状脂肪族ジカルボン酸無水物、安息香酸無水物、4-メチル安息香酸無水物、4-メトキシ安息香酸無水物、4-クロロ安息香酸無水物、4-ブロモ安息香酸無水物、1-ナフタレンカルボン酸無水物、2-ナフタレンカルボン酸無水物等の鎖状芳香族カルボン酸無水物、フタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、4-メトキシフタル酸無水物、4-クロロフタル酸無水物、4-ブロモフタル酸無水物、4,5-ジクロロフタル酸無水物及び4,5-ジブロモフタル酸無水物等の環状芳香族ジカルボン酸無水物を挙げることができる。
【0030】
また本発明にて得られるスルホン酸無水物としては、メタンスルホン酸無水物、エタンスルホン酸無水物、プロパンスルホン酸虫物、ブタンスルホン酸無水物、ヘキサンスルホン酸無水物、オクタンスルホン酸無水物及びトリフルオロメタンスルホン酸無水物等の鎖状脂肪族スルホン酸無水物、エタン-1,2-ジスルホン酸無水物、プロパン-1,3-スルホン酸無水物及びブタン-1,4-ジスルホン酸無水物等の環状脂肪族ジスルホン酸無水物、ベンゼンスルホン酸無水物、4-メチルベンゼンスルホン酸無水物、4-メトキシベンゼンスルホン酸無水物、4-クロロベンゼンスルホン酸無水物及び4-ブロモベンゼンスルホン酸無水物等の芳香族スルホン酸無水物、1,2-ベンゼンジスルホン酸無水物及び4-メチル-1,2-ベンゼンジスルホン酸無水物等の環状芳香族ジスルホン酸無水物を挙げることができる。
【0031】
これらの中でも本発明は、収率等の観点から環状脂肪族ジカルボン酸無水物または環状脂肪族ジスルホン酸無水物の合成に有効であり、特に環状脂肪族ジスルホン酸無水物の合成に有効である。
【0032】
本発明で用いられるハロゲン化剤は、カルボン酸またはスルホン酸をカルボン酸ハライド、スルホン酸ハライド等の中間体に変換可能な化合物であり、例えば、塩化チオニル、臭化チオニル、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン、五塩化リン、五臭化リン等を挙げることができる。これらのうち、塩化チオニル、臭化チオニルは、反応後に副生物が塩化水素とSO、または臭化水素とSOとガス状となるため反応液にハロゲン化剤に由来する副生成物が残留しにくく好適に用いることができ、特に塩化チオニルは工業的入手性の観点からも極めて好適である。
【0033】
本発明において、ハロゲン化剤の使用量は、モノカルボン酸またはモノスルホン酸の場合は、これらに対しモル比で0.3倍~0.7倍好ましくは0.4倍~0.6倍であり、ジカルボン酸またはジスルホン酸の場合は、これらに対しモル比で0.7倍~1.4倍好ましくは0.8~1.2倍である。なお、カルボン酸またはスルホン酸が水和物等を形成するなど水を含有する場合、水に対してモル比で0.8~1.2倍のハロゲン化剤を加えて使用する。
【0034】
次に本発明に係る反応方法について説明する。
【0035】
通常、まず、カルボン酸またはスルホン酸を、リン酸エステルを含む溶媒と混合して均一溶液、二層液またはスラリー液とし、この混合液にハロゲン化剤を供給して反応させる。この際の反応温度としては用いる原料により異なるが、20℃~150℃である。なお、カルボン酸またはスルホン酸が水を含有する場合、水とハロゲン化剤の反応はより低温で行うことができ、0℃~40℃が好適である。即ち、水の反応とカルボン酸またはスルホン酸の反応は段階的に行うことも可能である。
【0036】
前記ハロゲン化剤を用いる場合、反応により副生するハロゲン化水素等の酸性ガスが発生するため、反応器をアルカリ水トラップ、アルカリ水スクラバー等に接続することにより副生ガスを吸収させることができる。
【0037】
反応後、生成したカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物は、これらが固体状の場合はろ過により反応液から分離することができる。反応終了後に前記貧溶媒を加えてカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物を析出させてろ過してもよい。カルボン酸無水物またはスルホン酸無水物が液体状の場合は、二層分離または蒸留操作により反応液から分離することができる。
【0038】
反応液から分離したカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物は、更に溶媒洗浄、再結晶または精密蒸留等の公知の方法で精製して高純度化することが可能である。
【0039】
なお、本発明において溶媒として用いられるリン酸エステルは、通常、本発明の反応条件下で分解等が起こりにくいため、そのまま、あるいは水洗及び/または蒸留精製後、リサイクル使用することが可能である。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0041】
なお、分析に当たっては下記機器を使用した。
H-NMR:ブルカー製AVANCE II 400
ガスクロマトグラフィー:島津製作所製GC-2014
【0042】
実施例1
アルカリ水トラップに接続したガス排出管及び滴下漏斗及び撹拌機を備えた1L三口フラスコに90重量%のプロパン-1,3-ジスルホン酸水溶液 277.8g(1.22mol)、リン酸トリス(2,2,2-トリフオロエチル) 500.3g(1.45mol)を仕込み混合させた。次に室温で滴下漏斗より塩化チオニル 222.4g(1.87mol)を2時間で添加し水と反応させた。反応後、プロパン-1,3-ジスルホン酸の一部が析出したが均質なスラリー液となった。次いで液温を90℃まで加熱し、塩化チオニル 160.2g(1.35mol)を2時間で滴下し、24時間同温度で加熱を継続した。
【0043】
反応液をサンプリングしH NMRで分析したところ、94%の収率でプロパン-1,3-ジスルホン酸無水物が生成していることが確認された。反応液を室温まで冷却後ろ過し、減圧乾燥し、プロパン-1,3-ジスルホン酸無水物 202.2g(収率89%)を白色結晶として得た。なお、ろ液は溶存SOに由来する黄色を呈したが、ガスクロマトグラフィーによる分析から溶媒であるリン酸トリス(2,2,2-トリフオロエチル)の分解は確認されなかった。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1中の用語意味は、以下の通りである。
PDS: プロパン-1,3-ジスルホン酸
TFEP: リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)
BTPP: リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)
TBP: リン酸トリn-ブチル
TCEP: リン酸トリス(2-クロロエチル)
R.T.: 室温
【0047】
実施例2~5
実施例1において溶媒及び反応条件を表1に示す条件とした以外はそれぞれ同様の操作にて反応を行い、同様の操作にてプロパン-1,3-ジスルホン酸無水物を取得した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例6
実施例1において、90重量%のプロパン-1,3-ジスルホン酸水溶液 277.8gに代えて91重量%のグルタル酸 177.1g(1.22mol)を用いたこと以外実施例1と同様の操作にて反応を行った。
【0049】
反応液をサンプリングしH NMRで分析したところ、96%の収率でグルタル酸無水物が生成していることが確認された。反応液を室温まで冷却後ヘキサンを加えてろ過し、ヘキサンで固体を洗浄し、グルタル酸無水物 118.3g(収率 85%)を白色結晶として得た。
【0050】
実施例7
実施例1と同様の装置に、安息香酸 122.1g(1.00mol)、リン酸トリス(2,2,2-トリフオロエチル) 305.3g(0.89mol)を仕込み混合させた。次に室温で滴下漏斗より塩化チオニル 65.3g(0.55mol)を2時間かけて添加した後、徐々に液温を90℃まで加熱し、24時間同温度で加熱を継続した。
【0051】
反応液をサンプリングしH NMRで分析したところ、54%の収率で安息香酸無水物が生成していることが確認された。
【0052】
比較例1(無溶媒での製造)
アルカリ水トラップに接続したガス排出管及び撹拌機を備えた1L三口フラスコに90重量%のプロパン-1,3-ジスルホン酸水溶液 277.8g(1.22mol)、オキシ塩化リン 750.0g(4.89mol)を仕込み、徐々に昇温し80℃まで加熱した。80℃到達時点で反応液の粘性が高くなり、且つ多量の灰色結晶が析出して攪拌が困難となったため、反応を中止した。
【0053】
比較例2(貧溶媒を用いた製造)
アルカリ水トラップに接続したガス排出管及び滴下漏斗及び撹拌機を備えた1L三口フラスコに90重量%のプロパン-1,3-ジスルホン酸水溶液 277.8g(1.22mol)、溶媒として1,2-ジクロロエタン 500.1g(5.05mol)を仕込み混合させた。次に液温を50℃とし、滴下漏斗より塩化チオニル 222.4g(1.87mol)を2時間かけて添加し含有する水と反応させた。環化脱水反応を行うために温度を80℃に昇温したところ、プロパン-1,3-ジスルホン酸が茶色の塊状固体となり攪拌困難となったため、反応を中止した。
【0054】
比較例3(良溶媒を用いた製造1)
アルカリ水トラップに接続したガス排出管及び撹拌機を備えた1L三口フラスコに90重量%のプロパン-1,3-ジスルホン酸水溶液 27.8g(0.122mol)、溶媒としてアセトニトリル 250.0gを仕込み均一溶液とした。次に室温で塩化チオニル38.3g(0.322mol)を2時間かけて滴下し、その後80℃まで昇温し24時間反応させたところ反応液は褐色となった。反応液をサンプリングしH NMRで分析したところ、プロパン-1,3-ジスルホン酸無水物の収率は27%であった。
【0055】
比較例4(良溶媒を用いた製造2)
アルカリ水トラップに接続したガス排出管及び撹拌機を備えた1L三口フラスコに90重量%のプロパン-1,3-ジスルホン酸水溶液 27.8g(0.122mol)、溶媒としてジメチルアセトアミド 250.0gを仕込み均一溶液とした。次に室温で塩化チオニル38.3g(0.322mol)を2時間かけて滴下し、その後80℃まで昇温し24時間反応させたところ反応液は濃褐色となった。反応液をサンプリングしH NMRで分析したところ、プロパン-1,3-ジスルホン酸無水物の収率は1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により得られるカルボン酸無水物またはスルホン酸無水物は、医薬中間体、工業薬品等の用途にて有用である。