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  • 特許-洗浄剤及び洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】洗浄剤及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20230802BHJP
   C11D 7/24 20060101ALI20230802BHJP
   C11D 7/28 20060101ALI20230802BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C11D7/50
C11D7/24
C11D7/28
B08B3/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019158420
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038274
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390019884
【氏名又は名称】ジャパン・フィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】青柳 功
(72)【発明者】
【氏名】内野 正英
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510119(JP,A)
【文献】特表2013-506731(JP,A)
【文献】特開2015-105351(JP,A)
【文献】特開平02-221388(JP,A)
【文献】特開平07-265604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
C09K 5/04
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物と、(B)成分:炭化水素系溶剤とを含有し、
前記(B)成分:炭化水素系溶剤が、炭素原子数11~13の飽和炭化水素系溶剤を含み、
前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点が、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点よりも高く、
前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物と、前記(B)成分:炭化水素系溶剤化合物との混合比(質量比)が、90:10~30:70である、洗浄剤。
【請求項2】
前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点が、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点よりも30℃以上高い、請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
前記(B)成分:炭化水素系溶剤の含有量が、洗浄剤全量に対して、40質量%以下であり、前記洗浄剤の引火点が60℃以上である、請求項1又は2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の洗浄剤を用いるワークの洗浄方法であって、
汚れ付きワークを前記洗浄剤で浸漬洗浄する工程と、
前記浸漬洗浄されたワークを前記洗浄剤から引き上げ、前記洗浄剤を、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点以上、かつ、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点以下の温度に加温し、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の蒸気で、前記浸漬洗浄されたワークをリンスする工程とを有する洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤及び当該洗浄剤を用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラックス、ワックス、加工油、植物油等が付着した精密部品の洗浄には、トリフロロトリクロロエタンなどのフロン系溶剤、又は1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、塩化メチレンなどの塩素系溶剤が洗浄剤として使用されてきた。
しかし、トリフロロトリクロロエタンや1,1,1-トリクロロエタンはオゾン層を破壊する物質として、1995年末にその製造が禁止された。また、トリクロロエチレンや塩化メチレンは毒性が強く、放出された場合に大気汚染、水質汚染を起こすという問題も有する。
【0003】
上記溶剤の代替品として、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンの混合物や1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン等のハイドロクロロフルオロカーボンが提案されているが、これらについてもわずかにオゾン層破壊能があるために、日本では2020年にその使用が禁止される予定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/122803号
【文献】特開2018-76445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のような従来の洗浄剤は、引火点をもつ炭化水素系溶剤と、引火点をもたない不燃性であり、地球温暖化係数の低いフッ素系溶剤を混合することにより、安全性の問題や消防法による保有可能な容量(指定数量)の制約の解消を行っていた。
【0006】
特許文献1の溶剤組成物は、炭化水素系溶剤とフッ素系溶剤との共沸組成又は共沸様組成であることが好ましいとしている。そのため、該炭化水素系溶剤としては、沸点が60~100℃の炭化水素(シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等)が用いられている。
特許文献1の溶剤組成物を、例えば、蒸気洗浄で使用する場合、被洗浄物に付着した沸点の高い加工油等の汚れが該溶剤組成物の炭化水素系溶剤中に混入することとなり、炭化水素系溶剤の沸点が上昇するため、炭化水素系溶剤とフッ素系溶剤とを共沸させることができず、沸点が低いフッ素系溶剤から揮散し、炭化水素系溶剤のみが加温される場合もある。その場合、炭化水素系溶剤として、沸点が60~100℃の炭化水素を用いた場合、それらの引火点が0℃以下であるため、安全性が十分とはいえない。
【0007】
特許文献2の洗浄用組成物では、特許文献1の溶剤組成物よりも引火点の高いイソオクタン及びイソノナンも選ばれているが、これらも引火点は室温(27℃)以下である。そのため、上述の通り、例えば、蒸気洗浄で使用する場合、安全性が十分とはいえない。
【0008】
一方、炭化水素系溶剤と、フッ素系溶剤とを混合させる場合、フッ素系溶剤の種類によってはそれらの相溶性が低いことにより均一な洗浄剤とならず、十分な洗浄効果が得られない場合がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い相溶性を持つ溶剤の混合物であり、高い洗浄性を有し、かつ、安全性の高い洗浄剤及び当該洗浄剤を用いた洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第1の態様は、(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物と、(B)成分:炭化水素系溶剤とを含有し、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点が、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点よりも高く、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物と、前記(B)成分:炭化水素系溶剤化合物との混合比(質量比)が、90:10~30:70である、洗浄剤である。
【0011】
本発明の第1の態様において、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点が、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点よりも30℃以上高いことが好ましい。
本発明の第1の態様において、前記(B)成分:炭化水素系溶剤が、炭素原子数11~13の飽和炭化水素系溶剤を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の第1の態様において、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の含有量が、洗浄剤全量に対して、40質量%以下であり、前記洗浄剤の引火点が60℃以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る洗浄剤を用いるワークの洗浄方法であって、汚れ付きワークを前記洗浄剤で浸漬洗浄する工程と、前記浸漬洗浄されたワークを前記洗浄剤から引き上げ、前記洗浄剤を、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点以上、かつ、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点以下の温度に加温し、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の蒸気で、前記浸漬洗浄されたワークをリンスする工程とを有する洗浄方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い相溶性を持つ溶剤の混合物であり、高い洗浄性を有し、かつ、安全性の高い洗浄剤及び当該洗浄剤を用いた洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の洗浄方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(洗浄剤)
本実施形態の洗浄剤は、(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物と、(B)成分:炭化水素系溶剤とを含有する。
【0017】
<(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物>
本明細書において、ハイドロフルオロオレフィン化合物とは、炭素原子のいずれかにフッ素原子が結合しており、炭素-炭素結合のいずれか1つが二重結合である含フッ素オレフィンを意味する。
【0018】
本実施形態における(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物としては、下記一般式(A-1)で表される化合物(異性体も包含する)であることが好ましい。
【0019】
【化1】
[式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭化水素基である。R~R中、少なくとも一つはフッ素原子を有する。]
【0020】
式(A-1)中のR~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭化水素基である。
ハロゲン原子としては、フッ素又は塩素が好ましい。
【0021】
上記炭化水素基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は環状の炭化水素基が挙げられる。
【0022】
上記直鎖状のアルキル基は、炭素原子数が1~10であることが好ましく、炭素原子数が1~8であることがより好ましく、炭素原子数が1~5であることがさらに好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
【0023】
上記分岐鎖状のアルキル基は、炭素原子数が3~10であることが好ましく、炭素原子数3~5がより好ましい。具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、2,2-ジメチルブチル基等が挙げられる。
【0024】
上記環状の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基でも芳香族炭化水素基でもよく、また、多環式基でも単環式基でもよい。
単環式基である脂肪族炭化水素基としては、モノシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が挙げられる。該モノシクロアルカンとしては、炭素原子数が3~6のものが好ましく、具体的にはシクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
多環式基である脂肪族炭化水素基としては、ポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基等が挙げられる。
【0025】
上記環状の炭化水素基が芳香族炭化水素基となる場合、該芳香族炭化水素基は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基である。
この芳香環は、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でも多環式でもよい。芳香環の炭素原子数は5~30であることが好ましく、炭素原子数5~20がより好ましく、炭素原子数6~15がさらに好ましく、炭素原子数6~12が特に好ましい。
芳香環として具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。芳香族複素環として具体的には、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。
【0026】
上述した炭化水素基の水素原子の一部又は全部は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。該ハロゲン原子としては、フッ素が好ましい。
ハロゲン原子を有してもよい炭化水素基として、具体的には、ハロゲン化アルキル基が好ましく、フッ素化アルキル基がより好ましい。
【0027】
式(A-1)のR~R中、少なくとも一つはフッ素原子を有し、フッ素原子を2つ以上有することが好ましく、3つ以上有することがより好ましい。
また、式(A-1)のR~R中、さらに少なくとも一つの塩素原子を有することがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態における(A)成分としては、上記一般式(A-1)で表される化合物全体として、炭素原子数が2~5であることが好ましく、炭素原子数が2~4であることがより好ましく、炭素原子数3であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態における(A)成分として、具体的には、ペンタフルオロプロペン(HFO-1225)、テトラフルオロプロペン(HFO-1234)、トリフルオロモノクロロプロペン(HFO-1233)等が挙げられる。その中でも、トリフルオロモノクロロプロペン(HFO-1233)が好ましい。
【0030】
さらに、(A)成分が、沸点が50℃以上であることが好ましい。本実施形態の(A)成分として、沸点が50℃以上の化合物を用いることにより、(A)成分の揮発をより低減させることができ、かつ、良好な乾燥性を保つことができる。
また、洗浄実施時以外の洗浄剤の入れ替えなどの製造現場での取り扱いや、品質管理において洗浄剤純度を測定する際の洗浄剤の配合比の変化が少ないなどの取り扱いの容易さの観点からも好ましい。
【0031】
本実施形態における(A)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本実施形態における(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の含有量は、洗浄剤全量100質量%に対して、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、55質量%以上であることが特に好ましい。
一方で、(A)成分の含有量は、洗浄剤全量100質量%に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
本実施形態における(A)成分の含有量は、例えば、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、55質量%以上65質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
本実施形態における(A)成分の含有量が、上記の好ましい下限値以上であれば、後述する洗浄方法において、(A)成分の蒸気で行う洗浄がより十分行える。
本実施形態における(A)成分の含有量が、上記の好ましい上限値以下であれば、コストを抑えることができる。
【0035】
<(B)成分:炭化水素系溶剤>
本実施形態における(B)成分:炭化水素系溶剤は、該(B)成分の引火点が、上述した(A)成分の沸点よりも、高いものである。その中でも、(B)成分の引火点は、(A)成分の沸点よりも30℃以上高いことが好ましい。
【0036】
(B)成分の引火点は、具体的には、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。
【0037】
(B)成分として、具体的には、飽和炭化水素系溶剤(パラフィン系炭化水素)、不飽和炭化水素系溶剤(イソパラフィン系炭化水素)、脂環式炭化水素炭化水素系溶剤(ナフテン系炭化水素)、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0038】
飽和炭化水素系溶剤としては、炭素原子数11以上の飽和炭化水素系溶剤が好ましく、炭素原子数11~20の飽和炭化水素系溶剤がより好ましく、炭素原子数11~13の飽和炭化水素系溶剤がさらに好ましい。
該飽和炭化水素系溶剤は、直鎖状の飽和炭化水素系溶剤であっても、分岐鎖状の飽和炭化水素系溶剤であってもよいが、直鎖状の飽和炭化水素が好ましい。
【0039】
直鎖状の飽和炭化水素系溶剤として、具体的には、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン等が挙げられ、その中でも、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカンが好ましい。
【0040】
分岐鎖状の飽和炭化水素系溶剤として、具体的には、イソドデカン、イソトリデカン(2,3,4-トリメチルデカン、2,3-ジメチルウンデカン、2-メチルドデカン等)、イソテトラデカン、イソヘキサデカン(2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン等)、イソオクタデカン(2-メチルヘプタデカン)等が挙げられる。
【0041】
環式炭化水素炭化水素系溶剤として、具体的には、デカヒドロナフタレン、ヘキシルシクロヘキサン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤として、具体的には、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,4-ジメチル-2-(1-フェニルエチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0042】
本実施形態における(B)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
本実施形態における(B)成分:炭化水素系溶剤の含有量は、洗浄剤全量100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。
一方で、(B)成分の含有量は、洗浄剤全量100質量%に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
本実施形態における(B)成分の含有量は、例えば、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
(B)成分の含有量が40質量%以下の場合、洗浄剤自体の引火点があったとしても、該洗浄剤の引火点が60℃以上であれば消防法における分類が指定可燃物となる。指定可燃物は炭化水素系洗浄剤のような第4類の危険物と比較して安全性が高いことから、保有量や取り扱い上の規制が格段に緩く、製造現場における使用の容易さの観点から好ましい。
なお、洗浄剤自体に引火点がない場合(JIS K2265に準拠した測定方法により引火点が測定できない場合)は、該洗浄剤の消防法における危険物ではなくなり、製造現場における使用の容易さの観点から、より好ましい。
【0046】
本実施形態における(B)成分の含有量が、上記の好ましい下限値以上であれば、洗浄性がより向上する。
本実施形態における(B)成分の含有量が、上記の好ましい上限値以下であれば、安全性がより向上する。
【0047】
本実施形態の洗浄剤において、(A)成分と(B)成分との混合比(質量比)(A)成分:(B)成分は、90:10~30:70であることが好ましく、80:20~30:70であることがより好ましく、65:35~60:40であることがさらに好ましい。
【0048】
<その他の成分>
本実施形態の洗浄剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した(A)成分及び(B)成分以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、リン化合物類、硫黄化合物類、含窒素アルコール化合物等の安定剤;フェノール化合物、アミン化合物、硫黄化合物、リン化合物等の酸化防止剤;高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーン系、フッ素系の非イオン性界面活性剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等の紫外線吸収剤;アルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、多価アルコール部分エステル、金属スルフォネート、アミン類等の防錆剤などが挙げられる。
【0049】
本実施形態の洗浄剤は、上述した(A)成分及び(B)成分に加えて、上記安定剤を含むものが好ましい。
【0050】
以上説明した本実施形態の洗浄剤は、(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物と、(B)成分:炭化水素系溶剤とを含有する。また、(A)成分と(B)成分との相溶性は高く、(B)成分の引火点は、(A)成分の沸点よりも高いものである。これにより、本実施形態における洗浄剤は、洗浄効果が良好で、かつ、安全性が高い。
【0051】
(洗浄方法)
本実施形態の洗浄方法は、上述した第1の態様に係る洗浄剤を用いるワークの洗浄方法であって、汚れ付きワークを前記洗浄剤で浸漬洗浄する工程(以下、浸漬洗浄工程ともいう)と、前記浸漬洗浄されたワークを前記洗浄剤から引き上げ、前記洗浄剤を、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点以上、かつ、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点以下の温度に加温し、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の蒸気で、前記浸漬洗浄されたワークをリンスする工程(以下、リンス工程ともいう)とを有する洗浄方法である。
【0052】
本実施形態の洗浄方法の一例について、図1を用いて、説明する。
本実施形態の洗浄方法に用いる洗浄装置1は、上述した第1の態様に係る洗浄剤2を収容した洗浄槽3、蒸気発生槽4を備える。さらに、洗浄装置1は、洗浄槽3及び蒸気発生槽4上部に、(A)成分からなる発生蒸気で満たされる蒸気ゾーン5及び該蒸気を冷却する冷却管6を備える。
【0053】
蒸気発生槽4の下部には温度制御器7が備えられ、ヒーター8をフッ素系溶剤の沸点以上かつ炭化水素系溶剤の引火点以下となるように温度制御を行う。ヒーター8は電気又は熱媒によるものを適用できる。ヒーター8は洗浄剤2を(A)成分の沸点まで加温し、(A)成分の蒸気を発生させるために用いられる。
【0054】
洗浄槽3は、粒子状の汚れを取り除くための循環ポンプ及びフィルターを備えていてもよい。
【0055】
本実施形態の洗浄方法において、ワーク10は、洗浄装置1内を、洗浄槽3、蒸気ゾーン5の順に移動しながら洗浄及び乾燥される。
【0056】
浸漬洗浄工程は、汚れ付きワーク10を洗浄剤2で浸漬洗浄する工程である。
汚れ付きワーク10を洗浄剤2によって浸漬洗浄する際に、洗浄効果を高めるために、洗浄槽3に超音波振動子を設置して、超音波を発生させながら汚れ付きワーク10を浸漬洗浄してもよい。
この場合、超音波の使用条件は、例えば、発振周波数が20~100kHz、洗浄剤2の1L当りの発振出力が10~200Wであることが好ましい。
【0057】
汚れ付きワーク10を洗浄剤2によって浸漬洗浄する際の洗浄時間及び洗浄温度は、後述のリンス工程を考慮して、汚れ付きワーク10の温度があまり上がり過ぎないように適宜調整する。
【0058】
リンス工程は、上述した浸漬洗浄工程により浸漬洗浄されたワーク10を洗浄剤2から引き上げ、洗浄剤2を、(A)成分の沸点以上、(B)成分の引火点以下の温度に加温し、(A)成分の蒸気で、ワーク10をリンスする工程である。
【0059】
蒸気発生槽4でヒーター8により加温された洗浄剤2から発生した(A)成分の蒸気は、大気よりも蒸気密度が大きいため、洗浄装置1の上部に滞留し、蒸気ゾーン5を形成する。
【0060】
上述した浸漬洗浄工程により浸漬洗浄され、洗浄剤2から引き上げられたワーク10は、蒸気ゾーン5に滞留する(A)成分よりも低い温度である。そのため、ワーク10を(A)成分の蒸気にさらすと、(A)成分の蒸気が、ワーク10によって冷やされ、ワーク10の表面で(A)成分が凝縮する。凝縮した(A)成分はワーク10を覆い、(A)成分の凝縮量が増えると、(A)成分はワーク10の表面から流れ落ちる。これによりワーク10の表面に微量残留している汚れを、(A)成分と共に、下方へ流し落とすことができる。
【0061】
蒸気ゾーン5に滞留した(A)成分の蒸気は、洗浄装置1の壁面上部に備えられた冷却管6により冷却され、凝集されることにより回収されるため、正常運転時には蒸気ゾーン5から外部へ蒸気が揮散することはほとんどない。
【0062】
万一、冷却管6が故障のために(A)成分の蒸気を冷却できなくなったり、腐食による洗浄装置1の壁面上部に穴が開いたことなどにより、洗浄剤2から(A)成分が全量揮散したとしても、洗浄槽3及び蒸気発生槽4内に残った洗浄剤2((B)成分)の温度は引火点に達しないため、本質的な安全性が確保できる。
【0063】
ワーク10は、(A)成分の蒸気によって加熱され、ワーク10の温度が(A)成分の温度と等しくなれば、(A)成分の凝縮は止まる。そのまま、ワーク10をさらに引き上げるとワーク10は乾燥した状態になる。
また、洗浄装置1の上方開口部には冷却管6を備えるため、洗浄装置1の上方開口部には(A)成分の蒸気は存在せず、ワーク10も冷却乾燥される。
【0064】
ワーク10として、具体的には、電子・電気部品、光学部品、精密機械部品、自動車部品等の各種部品が挙げられる。
電気・電子部品としては、プリント配線基板、セラミック配線基板等の配線基板;リードフレーム等の半導体パッケージ部材;リレー、コネクターなどの接点部材;液晶、プラズマディスプレイ等の表示部品;ハードディスク記憶媒体、磁気ヘッド等の磁気記憶部品;水晶振動子等の圧電部品;モータ、ソレノイド等の電動機部品;センサー部品などが挙げられる。
光学部品としては、眼鏡、カメラ用などのレンズ、その筐体などが挙げられる。
精密機械部品としては、VTR等に用いられる精密ベアリングなどの部品が挙げられる。
自動車部品としては、自動車のエンジン部に使われる燃料噴射用のニードルや駆動部分のギヤなどが挙げられる。
【0065】
ワーク10に付着している汚れとしては、鉱油等からなる加工油、機械油、植物油、ワックス、松脂、油脂、グリース、フラックス等が挙げられる。本実施形態の洗浄方法においては、特に、難加工性のプレスや切削などに用いる加工油に対して優れた洗浄力を有する。
【0066】
なお、図1は本発明の理解を助けるために模式的に示したものであり、本発明の適用範囲をなんら制限するものではない。
【0067】
<その他の実施形態に係る洗浄方法>
洗浄剤2に含有される(A)成分、(B)成分はともに水に不溶の成分であるため、本実施形態の洗浄方法は、上述した工程を行った後に、水を充填し、洗浄槽3及び蒸気発生槽4に充填された洗浄剤2の液面をシールする工程(水シール工程)を有していてもよい。これにより洗浄剤2に含まれる(A)成分の揮発による消耗を抑制することができる。
なお、典型的には、洗浄を行わない時(洗浄装置1停止時)に水シール工程を行う。そして、再度浸漬洗浄工程を行う場合(洗浄装置1再稼働時)は、洗浄槽3及び蒸気発生槽4の洗浄剤2をシールしている水部分をポンプによる移送などによって別槽に除去した後に、蒸気発生槽4の加熱による蒸気ゾーン5形成を行う。
【0068】
すなわち、その他の実施形態に係る洗浄方法としては、上述した第1の態様に係る洗浄剤を用いるワークの洗浄方法であって、汚れ付きワークを前記洗浄剤で浸漬洗浄する工程と、前記浸漬洗浄されたワークを前記洗浄剤から引き上げ、前記洗浄剤を、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の沸点以上、かつ、前記(B)成分:炭化水素系溶剤の引火点以下の温度に加温し、前記(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物の蒸気で、前記浸漬洗浄されたワークをリンスする工程と、前記リンスされたワークを乾燥する工程と、前記乾燥する工程を行った後に、水を充填し、前記洗浄剤の液面をシールする工程とを有する、洗浄方法である。
【0069】
以上説明した本実施形態の洗浄方法は、上述した第1の態様に係る洗浄剤を用いる浸漬洗浄工程と、リンス工程とを有するため、洗浄効果が高い。加えて、該リンス工程において、洗浄剤の加熱温度を(A)成分の沸点以上、(B)成分の引火点以下の温度に制御して行うため、仮に(A)成分のみが全て揮発してしまった場合であっても、加熱温度が(B)成分の引火点以下であるため、本質的に安全性が確保される。
【実施例
【0070】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
洗浄剤の製造に用いた(B)成分:炭化水素系溶剤を以下に示す。また、沸点及び引火点(JIS K2265)も表1に併せて示す。
【0072】
【表1】
【0073】
<洗浄剤の製造>
表2に示す各成分を混合し、各例の洗浄剤を調製した。
【0074】
[原料相溶性の評価]
50mLのサンプル瓶にて表2に示す質量比で各例の洗浄剤の原料である炭化水素系溶剤及びフッ素系溶剤を混合し、室温(25℃)で1分間よく手で振り混ぜ、各例の洗浄剤を調製した。その後、各例の洗浄剤を室温(25℃)で24時間静置した。
各例の洗浄剤の外観を、振り混ぜた直後及び静置24時間後に目視観察を行い、以下の基準で、各原料同士の相溶性を評価した。
A:振り混ぜた直後から24時間後まで洗浄剤が透明であった
B:振り混ぜた直後から24時間後の間で洗浄剤が白濁又は分離した
【0075】
[加工油1相溶性の評価]
加工油としては、ユニプラステラミDP68(JXTGエネルギー社製)を用いた(以下、加工油1という)。
50mLのサンプル瓶にて、加工油1の含有量が、洗浄剤全量100質量%に対して、1、3、5質量%となるように、加工油1を各例の洗浄剤に添加した。次いで、室温(25℃)で1分間よく手で振り混ぜた。その後、加工油1が添加された各例の洗浄剤を、室温(25℃)で24時間静置した。
加工油1が添加された各例の洗浄剤の外観を、振り混ぜた直後及び静置24時間後に目視観察を行い、以下の基準で加工油1に対する各例の洗浄剤の相溶性を評価した。
A:加工油1を5質量%添加した場合において、加工油1が添加された洗浄剤を振り混ぜた直後から24時間後まで、該洗浄剤が透明であった
B:加工油1を3質量%添加した場合においては、加工油1が添加された洗浄剤を振り混ぜた直後から24時間後まで、該洗浄剤が透明であったが、加工油1を5質量%添加した場合においては、振り混ぜた直後から24時間後の間で洗浄剤が白濁又は分離した
C:加工油1を1質量%添加した場合において、振り混ぜた直後から24時間後の間で洗浄剤が白濁又は分離した
【0076】
なお、加工油1が添加された洗浄剤の外観が透明である場合、加工油1と洗浄剤の相溶性が高いことを示す。相溶性が高い場合、洗浄剤が部品に付着している加工油を容易に洗浄剤中に溶解・拡散できることから部品上の加工油を除去可能であり、洗浄性が高いことを意味する。また、相溶する加工油の量が少ない場合は、洗浄性が低い又は使用開始後すぐに性能が低下することを示し、相溶する加工油の量が多い場合には高い洗浄性を長時間保ち続けられることを示す。
【0077】
[加工油2相溶性の評価]
加工油としては、リライアプレスRC150(JXTGエネルギー社製)を用いた(以下、加工油2という)。
加工油1を加工油2に変更したこと以外は、上記加工油1相溶性の評価と同様にして、加工油2に対する各例の洗浄剤の相溶性を評価した。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。[ ]内の数値は洗浄剤全量に対する含有量(質量%)である。
【0082】
(A)-1:ハイドロフルオロオレフィン(アモレア(登録商標)AS-300;AGC株式会社製;沸点54℃;引火点なし)
(A)-2:ハイドロフルオロオレフィン(セレフィン(登録商標)1233Z;セントラル硝子社製;沸点39℃;引火点なし)
(B)-1~(B)-12:表1に示す炭化水素系溶剤
【0083】
fs-1:ハイドロフルオロエーテル(アサヒクリンAE-3000;AGC社製;沸点56℃;引火点なし)
fs-2:ハイドロフルオロエーテル(ノベック7100;スリーエムジャパン社製;沸点61℃;引火点なし)
fs-3:ハイドロフルオロカーボン(ソルカン365mfc;日本ソルベイ社製;沸点40℃;引火点なし)
【0084】
hs-1:n-ヘプタン(東京化成工業社製;沸点98℃;引火点-2℃)
hs-2:2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン(東京化成工業社製;沸点180℃;引火点37℃)
hs-3:メチルシクロヘキサン(東京化成工業社製;沸点100℃;引火点-4℃)
【0085】
表2に示すように、実施例1~19の洗浄剤は、(B)成分の引火点が、(A)成分の沸点よりも高いため、安全性が高い。また、実施例1~19の洗浄剤は、原料相溶性、並びに加工油1及び2に対する相溶性が高いため、洗浄性が高いことが確認できる。
【0086】
一方で、比較例1及び2の洗浄剤は、(B)成分:炭化水素系溶剤を含有しないため、加工油1及び2に対する相溶性が低く、洗浄性が低かった。
比較例3の洗浄剤は、(B)成分の含有量が少ないため、加工油1及び2に対する相溶性が低く、洗浄性が低かった。
比較例4~6の洗浄剤は、(A)成分:ハイドロフルオロオレフィン化合物以外のフッ素系溶剤を用いたため、(B)成分との相溶性が低かった。
【0087】
比較例7~9の洗浄剤は、(B)成分の引火点が、(A)成分の沸点よりも低いため、安全性が十分ではなかった。
【0088】
[引火点の評価]
上記実施例3の洗浄剤の引火点を、JIS K2265に準拠して測定した。
その結果、実施例3の洗浄剤の引火点は測定できず、非危険物という評価となった。
【0089】
以上より、本実施形態における洗浄剤は、洗浄効果が良好で、かつ、安全性の高いことが確認できる。
【符号の説明】
【0090】
1・・・洗浄装置
2・・・洗浄剤
3・・・洗浄槽
4・・・蒸気発生槽
5・・・蒸気ゾーン
6・・・冷却管
7・・・温度制御器
8・・・ヒーター
10・・・ワーク
図1