(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20230802BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B41J2/17 103
B41J2/01 307
(21)【出願番号】P 2019204494
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】福井 民雄
(72)【発明者】
【氏名】黒田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】池内 和孝
(72)【発明者】
【氏名】松井 則政
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137672(JP,A)
【文献】特開2018-158545(JP,A)
【文献】特開2012-051127(JP,A)
【文献】特開2007-301918(JP,A)
【文献】特開2015-193219(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0173010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷装置であって、
基材を搬送経路に沿って搬送方向に搬送する基材搬送機構と、
前記搬送経路の上方において前記搬送経路と対向する下面、および、前記下面において前記搬送経路に向けて開口し前記搬送経路に向けてインクを吐出するインク吐出口を有する少なくとも1つのインク吐出ヘッドと、
前記搬送経路の上方において前記搬送経路と対向する対向面、および、前記対向面において開口するとともに前記インク吐出ヘッドが内側に取り付けられる少なくとも1つの取付孔を有するベースプレートと、
前記ベースプレートの前記取付孔に配置され、前記取付孔の上流側の内面と、前記インク吐出ヘッドの上流側の外面との間の隙間を閉塞するシール部材と、
を備え、
前記ベースプレートは、前記ベースプレートを貫通する貫通孔であって、前記対向面における前記インク吐出口よりも下流側において開口するエア吐出口を有するエアフロー孔を含み、
前記エアフロー孔は、前記取付孔の内側に配置される前記インク吐出ヘッドの外面と、前記取付孔の内面とで構成され、
前記エアフロー孔を介して、前記エア吐出口から前記搬送経路に向けてエアが吐出され
、
前記ベースプレートの前記対向面には、基材上にある雰囲気を吸引する吸引口がない、インクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項
1のインクジェット印刷装置であって、
前記エア吐出口よりも下流側における前記対向面と前記搬送経路との間隔は、前記エア吐出口よりも上流側における前記対向面または前記下面と前記搬送経路との間隔よりも大きい、インクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2のインクジェット印刷装置であって、
前記ベースプレートの上側に設けられ、前記エアフロー孔に前記エア吐出口へ向かうエアを供給するエア供給部、
をさらに備える、インクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項
3のインクジェット印刷装置であって、
前記エア供給部が、前記インク吐出ヘッドの外面にエアを供給する、インクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項のインクジェット印刷装置であって、
前記ベースプレートは、複数の前記取付孔を有し、
複数の前記取付孔それぞれの内側に前記インク吐出ヘッドが取り付けられ、
前記ベースプレートは、前記インク吐出ヘッドそれぞれの前記インク吐出口の下流側に位置する複数の前記エア吐出口を有する、インクジェット印刷装置。
【請求項6】
請求項
5のインクジェット印刷装置であって、
複数の前記エア吐出口のうち、下流側に位置するエア吐出口から吐出されるエアの量が、上流側に位置するエア吐出口から吐出されるエアの量よりも小さい、インクジェット印刷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか1項のインクジェット印刷装置であって、
前記エアフロー孔の内側に位置する通気性を有するフィルタ部材、
をさらに備える、インクジェット印刷装置。
【請求項8】
請求項1から請求項
7のいずれか1項のインクジェット印刷装置であって、
前記エアフロー孔の前記搬送方向における隙間は、前記エア吐出口よりも下流側における前記対向面と前記搬送経路との間隔よりも小さい、インクジェット印刷装置。
【請求項9】
請求項3または請求項4のインクジェット印刷装置であって、
前記エア供給部は、前記ベースプレートの上方に配置された2つのファンを有し、
前記2つのファンは、ベースプレートの幅方向の一方側および他方側それぞれに1つずつ配置されている、インクジェット印刷装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット方式で印刷する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置では、基材に向けて微小なインク滴を吐出する際に、インクミストが発生することが知られている。インクミストがインク吐出口の周辺などの装置内に付着して蓄積された場合、大きなインク滴となって基材に落下するなど、印刷品質の低下の要因となり得る。
【0003】
特許文献1には、記録ヘッドよりも基材の搬送方向の下流側にインクミスト回収部を設けることが記載されている。インクミスト回収部は、基材に対向する吸引口を有しており、吸引口から基材の上方に位置する空気をインクミストとともに吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の場合、記録ヘッドの周辺にインクミスト回収部を設ける必要があるため、結果として装置が大型化してしまうおそれがあった。特に、記録ヘッドが複数ある場合、各記録ヘッドについてインクミスト回収部を設けることにより、装置サイズが顕著に大きくなってしまう。このため、装置を大型化することなくインクミストを除去する技術が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、装置の大型化を抑制しつつ、インクミストが装置に付着することを軽減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1態様は、インクジェット印刷装置であって、基材を搬送経路に沿って搬送方向に搬送する基材搬送機構と、前記搬送経路の上方において前記搬送経路と対向する下面、および、前記下面において前記搬送経路に向けて開口し前記搬送経路に向けてインクを吐出するインク吐出口を有する少なくとも1つのインク吐出ヘッドと、前記搬送経路の上方において前記搬送経路と対向する対向面、および、前記対向面において開口するとともに前記インク吐出ヘッドが内側に取り付けられる少なくとも1つの取付孔を有するベースプレートと、前記ベースプレートの前記取付孔に配置され、前記取付孔の上流側の内面と、前記インク吐出ヘッドの上流側の外面との間の隙間を閉塞するシール部材と、を備え、前記ベースプレートは、前記ベースプレートを貫通する貫通孔であって、前記対向面における前記インク吐出口よりも下流側において開口するエア吐出口を有するエアフロー孔を含み、前記エアフロー孔は、前記取付孔の内側に配置される前記インク吐出ヘッドの外面と、前記取付孔の内面とで構成され、前記エアフロー孔を介して、前記エア吐出口から前記搬送経路に向けてエアが吐出される。
【0009】
第2態様は、第1態様のインクジェット印刷装置であって、前記エア吐出口よりも下流側における前記対向面と前記搬送経路との間隔は、前記エア吐出口よりも上流側における前記対向面または前記下面と前記搬送経路との間隔よりも大きい。
【0010】
第3態様は、第1態様または第2態様のインクジェット印刷装置であって、前記ベースプレートの上側に設けられ、前記エアフロー孔に前記エア吐出口へ向かうエアを供給するエア供給部をさらに備える。
【0011】
第4態様は、第3態様のインクジェット印刷装置であって、前記エア供給部が、前記インク吐出ヘッドの外面にエアを供給する。
【0012】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記ベースプレートは、複数の前記取付孔を有し、複数の前記取付孔それぞれの内側に前記インク吐出ヘッドが取り付けられ、前記ベースプレートは、前記インク吐出ヘッドそれぞれの前記インク吐出口の下流側に位置する複数の前記エア吐出口を有する。
【0013】
第6態様は、第5態様のインクジェット印刷装置であって、複数の前記エア吐出口のうち、下流側に位置するエア吐出口から吐出されるエアの量が、上流側に位置するエア吐出口から吐出されるエアの量よりも小さい。
【0014】
第7態様は、第1態様から第6態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記エアフロー孔の内側に位置する通気性を有するフィルタ部材をさらに備える。
【0015】
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記エアフロー孔の前記搬送方向における隙間は、前記エア吐出口よりも下流側における前記対向面と前記搬送経路との間隔よりも小さい。
第9態様は、第3態様または第4態様のインクジェット印刷装置であって、前記エア供給部は、前記ベースプレートの上方に配置された2つのファンを有し、前記2つのファンは、ベースプレートの幅方向の一方側および他方側それぞれに1つずつ配置されている。
【発明の効果】
【0016】
第1態様のインクジェット印刷装置によると、インク吐出口で発生するインクミストを、インク吐出口の下流側にあるエア吐出口から吐出されるエアのダウンフローによって、基材へ付着させることができる。これにより、インクミストがベースプレートに付着することを軽減できる。また、インク吐出ヘッドが取り付けられるベースプレートにエアフロー孔およびエア吐出口を設けることによってインクミストを除去するため、インクミストを吸引する機構を設ける場合に比べて、装置を小型にすることができる。
【0017】
また、第1態様のインクジェット印刷装置によると、エアフロー孔をインク吐出ヘッドの外面と取付孔の内面とで構成することにより、エア吐出口をインク吐出ヘッドの下流側に直ぐ隣接する位置に設けることができる。このため、インク吐出ヘッドのインク吐出口で発生したインクミストが、そのインク吐出ヘッドを支持するベースプレートに付着することを軽減できる。
【0018】
第2態様のインクジェット印刷装置によると、エア吐出口よりも下流側における対向面と搬送経路との間隔は、エア吐出口よりも上流側における対向面または下面と前記搬送経路との間隔よりも大きいため、エア吐出口から下流側へ向かう気流を容易に形成することができる。これにより、インクミストをエア吐出口の下流側へ移動させることができる。
【0019】
第3態様のインクジェット印刷装置によると、ベースプレートの上側からエアフロー孔にエア吐出口へ向かうエアを供給することによって、エア吐出口からエアを吐出させることができる。
【0020】
第4態様のインクジェット印刷装置によると、インク吐出ヘッドの外面にエアを供給することによって、インク吐出ヘッドを冷却することができる。
【0021】
第5態様のインクジェット印刷装置によると、複数のインク吐出ヘッドの下流側にエア吐出口が設けられているため、各インク吐出ヘッドで発生したインクミストがベースプレートに付着することを抑制できる。
【0022】
第6態様のインクジェット印刷装置によると、下流側のエア吐出口から吐出されるエアの量を、上流側のエア吐出口から吐出されるエアの量よりも小さくすることによって、基材の上方において、下流側へ向かうエアの流れを容易に形成することができる。
【0023】
第7態様のインクジェット印刷装置によると、通気性を有するフィルタ部材をエアフロー孔に配置することによって、エア吐出口から吐出されるエアの量を調節することができる。
【0024】
第8形態のインクジェット印刷装置によると、エア吐出口から搬送経路に向けて均一なエアを吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成を示す図である。
【
図2】画像記録部および支持ユニットの縦断面図である。
【
図4】ベースプレート、インク吐出ヘッドおよびファンを示す概略正面図である。
【
図5】ベースプレートおよびインク吐出ヘッドを示す斜視図である。
【
図6】インク吐出ヘッドの下面およびベースプレートの下面を示す図である。
【
図7】エアフロー孔およびエア吐出口の周辺を拡大して示す縦断面図である。
【
図8】第2実施形態に係るインク吐出ヘッドの下面およびベースプレートの下面を示す図である。
【
図9】第3実施形態に係るエアフロー孔およびエア吐出口の周辺を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0027】
<1. 第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るインクジェット印刷装置1の概略構成を示す図である。インクジェット印刷装置1は、帯状である基材9(例えば、印刷用紙)を搬送しつつ複数のインク吐出ヘッド21からインクの液滴(インク滴)を吐出することによって、基材9の記録面9aに画像を形成する装置である。インクジェット印刷装置1では、電磁波である紫外線の照射を受けて硬化する紫外線硬化インクが使用される。紫外線硬化インクには、硬化を促進するための硬化開始剤が成分として含まれ得る。なお、インクジェット印刷装置1において、紫外線硬化インク以外のインク(例えば、水性インクまたは油性インク)が使用されてもよい。
【0028】
インクジェット印刷装置1は、基材搬送機構10、画像記録部20、支持ユニット30、処理室40、不活性ガス供給部50、照射部70、および、制御部80を備える。制御部80以外の各部(画像記録部20および処理室40を含む。)は、箱状の装置筐体90に収容される。
【0029】
基材搬送機構10は、基材9をその長手方向に沿う方向に搬送する機構である。基材搬送機構10は、巻出部11、複数の搬送ローラ12、チルローラ13および巻取部14を有する。複数の搬送ローラ12は、後述する切替ローラ121およびニップローラ122を含む。基材9は、巻出部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、水平軸を中心として回転することによって、基材9を移動方向の下流側へ案内する。また、搬送後の基材9は、巻取部14へ回収される。このように、基材9は、既定位置に配された、搬送ローラ12、チルローラ13等に支持されることによって、既定の搬送経路TRに沿って搬送される。
【0030】
以下の説明では、搬送経路TRに沿う基材9の移動方向を、単に「搬送方向」と称する。また、この移動方向の下流側を、単に「下流側」と称し、搬送方向の上流側を、単に「上流側」と称する。さらに、移動方向に直交するとともに、基材9の表面に平行な方向を、「幅方向」と称する。
【0031】
図1に示すように、基材9は、巻出部11から繰り出されると、先ずクリーナ15を通過する。クリーナ15は、上下に近接して配置される複数の吸着ロール151を備える。複数の吸着ロール151は、基材9の記録面9aおよび裏面9bと接触しつつ回転する。記録面9aおよび裏面9bに付着した異物は、吸着ロール151に吸着されて除去される。これにより、印刷前の基材9に付着する異物数を低減できる。したがって、異物によりインクが弾かれたり、浸みだしたりする等の、印刷不良を低減できる。なお、クリーナ15は、例えば吸引機構等の吸着ロール151以外の他の方式を用いるものであってもよい。
【0032】
基材9は、クリーナ15を通過すると、画像記録部20の下方において、複数のインク吐出ヘッド21の配列方向に沿って、略水平に移動する。このとき、基材9の記録面9aは、上方(インク吐出ヘッド21側)に向けられている。また、切替ローラ121、チルローラ13およびニップローラ122は、画像記録部20よりも下流側に配置されている。
【0033】
図示は省略するが、クリーナ15の下流側、画像記録部30の上流側に除電機構(イオナイザー)が配置されている。除電機構は基材9から静電気を除去する。このように、画像記録部30の上流側にクリーナ15および除電機構が配置されているので、異物および静電気が除去された状態の基材9を画像記録部30に供給することができる。
【0034】
ニップローラ122は、基材9の記録面9aおよび裏面9bに接触して基材9を把持しつつ、一定速度で能動的に回転する。基材搬送機構10は、ニップローラ122の回転速度に対して巻出部11の回転速度を調節する。これにより、基材9に張力が与えられる。その結果、搬送中における基材9の弛みや皺が抑制される。
【0035】
画像記録部20は、基材搬送機構10により搬送される基材9に対して、紫外線硬化型のインクを吐出する機構である。画像記録部20は、吐出する色が異なる4種類のインク吐出ヘッド21を有する。複数のインク吐出ヘッド21は、基材9の移動方向に沿って配列されている。印刷時には、4種類のインク吐出ヘッド21から基材9の記録面9aへ向けて、カラー画像の色成分となるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色のインクの液滴が、それぞれ吐出される。これにより、基材9の記録面9aにカラー画像が形成される。インク吐出ヘッド21から基材9にインクを吐出する工程は、インク吐出工程の一例である。なお、インクジェット印刷装置1は、その他の色(ホワイトなど)のインクを吐出するインク吐出ヘッドを備えていてもよい。
【0036】
支持ユニット30は、基材9の搬送経路TRに沿って配列された複数のベースプレート31と、各ベースプレート31の幅方向の両端部を支持する一対の支持フレーム32,32(
図3参照)とを備える。一対の支持フレーム32,32は、搬送経路TRとほぼ平行に延びており、幅方向に間隔をあけて平行に配置されている。複数のベースプレート31は、搬送方向において間隔をあけて配置される。
【0037】
インク吐出ヘッド21は、それぞれ、ベースプレート31のうちの1つに取り付けられる。これにより、各インク吐出ヘッド21が支持されるとともに、各インク吐出ヘッド21の相互の位置関係が固定される。各ベースプレート31は、各インク吐出ヘッド21の下端部が嵌め込まれる貫通孔(後述する、取付孔311)を有する。このため、ベースプレート31に取り付けられたインク吐出ヘッド21の下面212は、ベースプレート31に遮られることなく、基材9の記録面9aに対向する。画像記録部20および支持ユニット30のより詳細な構造については、後に詳述する。
【0038】
図1に示すように、画像記録部20から見て下流側には、切替ローラ121が配置されている。切替ローラ121は、基材9の裏面9bに接触しつつ、幅方向に延びる水平軸を中心として回転する。これにより、基材9が、記録面9aに対して反対の方向へ曲げられる。その結果、基材9の移動方向が、第1方向(本実施形態では略水平方向)から、第2方向(本実施形態では鉛直下向き)に切り替えられる。
【0039】
切替ローラ121は、基材9の裏面9bに接触する。このため、切替ローラ121の表面は、未硬化状態のインクに接触しない。したがって、切替ローラ121との接触によって、基材9上の画像品質が低下することが抑制される。また、基材9の記録面9a側には、基材9の移動方向を切り替えるための部材が配置されない。
【0040】
チルローラ13は、基材9の裏面9bに接触しつつ、幅方向に延びる水平軸を中心として回転する。チルローラ13は、処理室40および照射部70の略鉛直上側に配置される。チルローラ13の外周面の径は、前後の搬送ローラ12の外周面の径よりも大きい。チルローラ13の内部には、冷却水が貯留される。冷却水は、図示しない循環器によって適宜循環される。これにより、チルローラ13の表面は冷却され温度が保持される。
【0041】
処理室40は、画像記録部20よりも下流側に配置される。処理室40は、基材9を通過させるための搬入口および搬出口を有する。処理室40の上方は、チルローラ13の外周面13Sで覆われている。
【0042】
不活性ガス供給部50は、処理室40の内側に不活性ガス(窒素ガスなど)を供給することにより、処理室40の内側を高濃度の不活性ガスで充填する。より詳細には、処理室40の内側にある基材9の記録面9aに向けて、不活性ガスである窒素ガスを供給する。
【0043】
照射部70は、不活性ガス供給部50よりも下流側であって、チルローラ13の略鉛直下側に配置される。また、照射部70は、処理室40の直下に配置される。照射部70は、チルローラ13によって支持される基材9に対して、照射光を照射する照射処理を施す。照射部70の照射光は、インクの硬化に関して有効な波長帯域の紫外線を含むとともに、十分な光量を有する。基材9上のインクが照射処理されると、インクが硬化されて、基材9にインクが定着する。これにより、基材9の記録面9aに画像が記録される。
【0044】
制御部80は、CPU等の演算処理部、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成される。制御部80は、例えば、巻出部11、巻取部14、複数のインク吐出ヘッド21、照射部70、およびニップローラ122等と電気的に接続される。制御部80は、記憶部に記憶されたコンピュータプログラムをメモリに一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムに基づいて、演算処理部が演算処理を行うことによって、上記の各部の動作を制御する。この制御により、インクジェット印刷装置1における印刷処理が進行する。
【0045】
図2は、画像記録部20および支持ユニット30の縦断面図である。
図3は、画像記録部20を示す平面図である。
図4は、ベースプレート31、インク吐出ヘッド21およびファン24を示す概略正面図である。
図5は、ベースプレート31およびインク吐出ヘッド21を示す斜視図である。
図6は、インク吐出ヘッド21の下面212およびベースプレート31の下面31bを示す図である。
【0046】
図2および
図6に示すように、搬送経路TRの上方には複数のインク吐出ヘッド21が配置されている。各インク吐出ヘッド21は下面212を有している。インク吐出ヘッド21の下面212は搬送経路TRと対向している。インク吐出ヘッド21の下面212には、搬送経路TRに向けて開口しインク滴を吐出する複数のインク吐出口211が設けられている。複数のインク吐出口211は、幅方向に、規則的に配列されている。
図2に示すように、インク吐出ヘッド21は、その下端部が、ベースプレート31に設けられた取付孔311に嵌められた状態で、ベースプレート31に固定される。インク吐出ヘッド21の下面212は、複数のインク吐出口211が設けられた、平坦な面である。下面212は、基材9の記録面9aとほぼ平行となるように配置される。
【0047】
図1および
図2に示すように、画像記録部20の直下においては、複数の搬送ローラ12が上側凸状となるアーチ状に配置されている。このため、基材9は、画像記録部20の直下において、上側(記録面9a側)へ凸状に湾曲しつつ搬送される。すなわち、画像記録部20の直下では、搬送経路TRが上側へ凸状に湾曲している。複数のベースプレート31は、搬送経路TRの湾曲形状に沿って配列されており、これにより、複数のインク吐出ヘッド21も、搬送経路TRに沿ってアーチ状に配置される。
【0048】
図5に示すように、ベースプレート31は、平面視矩形の板状部材である。ベースプレート31は、厚さ方向に貫通する3つの取付孔311を有する。取付孔311は、ベースプレート31の上面31aおよび下面31b(対向面)において、幅方向に延びる矩形状に開口している。3つの取付孔311のうち、2つは上流側に位置し、もう1つは下流側に位置する。上流側の2つの取付孔311は、幅方向に間隔をあけて位置しており、下流側の取付孔311は、幅方向において上流側の2つの取付孔311の中央に配置されている。そして、下流側の取付孔311の幅方向の両端部は、それぞれ上流側の2つの取付孔311と搬送方向に重なるように配置されている。
【0049】
3つの取付孔311のそれぞれには、平面視において矩形状のインク吐出ヘッド21の下端部が挿入され、ネジなどの固定具を介して固定される。
図2に示すように、搬送方向における取付孔311の幅は、搬送方向におけるインク吐出ヘッド21の幅よりも大きい。また、インク吐出ヘッド21が取付孔311の内側に固定された状態では、インク吐出ヘッド21の上流側および下流側に、ベースプレート31を厚さ方向に貫通する貫通孔が形成される。
【0050】
図2および
図6に示すように、インク吐出ヘッド21の上流側の貫通孔の内側には、シール部材313が取り付けられる。シール部材313は、幅方向に延びる長尺状部材であり、取付孔311の上流側の内面とインク吐出ヘッド21の上流側の外面との間の隙間を閉塞する。このため、上流側の貫通孔からエアが吐出されることが抑制される。これによって、インク吐出ヘッド21から吐出されるインク滴の軌道が乱れることを抑制することができる。
【0051】
図2に示すように、取付孔311における上流側および下流側の内面は、取付孔311の深さ方向の中間部において、内側へ突出する部分を有しており、取付孔311の搬送方向の幅が小さくなっている。このため、上側からシール部材313を挿入した場合、取付孔311における内側へ突出する部分の上面にてシール部材313が係止される。これにより、シール部材313がベースプレート31を下側へ抜けることが抑制される。
【0052】
インク吐出ヘッド21の下流側の貫通孔は、エアフロー孔315である。エアフロー孔315は、下面31b(
図6参照)において開口するエア吐出口317を有する。エア吐出口317は、搬送経路に沿って搬送される基材9に向けてエアを吐出する。エアフロー孔315は、ベースプレート31の上側から、エア吐出口317へ向かうエアの流路を形成する。
【0053】
図3および
図4に示すように、画像記録部20は、複数のファン24を備えている。本例では、各ベースプレート31の上方に、ファン24が2つずつ配置されている。また、2つのファン24は、ベースプレート31の幅方向の一方側および他方側それぞれに1つずつ配置されている。各ファン24は、下方かつ幅方向内側へ向けてエアを吹き付ける。
図4に示すように、ファン24からのエアは、ベースプレート31に取り付けられた3つのインク吐出ヘッド21の外面に供給される。これにより、各インク吐出ヘッド21が冷却される。また、ファン24から供給されるエアは、エアフロー孔315へ向かい、エア吐出口317から吐出される。このように、複数のファン24は、エアフロー孔315にエア吐出口317へ向かうエアを供給するエア供給部の一例である。
【0054】
図7は、エアフロー孔315およびエア吐出口317の周辺を拡大して示す縦断面図である。
図7に示すように、インク吐出口211から吐出されるインク滴などから発生したインクミストMは、基材9とインク吐出ヘッド21の下面212の間を浮遊しつつ、基材9の移動によって、下流側へ移動する。この状態で、エア吐出口317からエアを吐出することによって、基材9上を浮遊するインクミストMを基材9側へ付着させることができる。これにより、インクミストMがベースプレート31の下面31b等に付着することを軽減できる。なお、インクミストMは、画像形成のためにインク吐出口211から吐出されるインク滴と比較すると極めて微量である。このため、インクミストMを基材9に付着させたとしても、印刷品質の低下は小さい。また、ベースプレート31の下面31bやその他の部位にインクミストMの付着を軽減することができるため、ユーザによる清掃の頻度を減らすことができる。
【0055】
図7に示すように、エアフロー孔315は、取付孔311の内面およびインク吐出ヘッド21の外面とで構成される。このため、エア吐出口317は、インク吐出ヘッド21の下流側に直ぐ隣接する位置に設けられる。これにより、インク吐出ヘッド21のインク吐出口211で発生したインクミストが、そのインク吐出ヘッド21を支持するベースプレート31に付着することを軽減できる。
【0056】
図7に示すように、ベースプレート31の下面31bと基材9との間隔d1は、インク吐出ヘッド21の下面212と基材9との間隔d2よりも大きい。ベースプレート31の下面31bはエア吐出口317よりも下流側に位置し、インク吐出ヘッド21の下面212はエア吐出口317よりも上流側に位置している。この結果、エア吐出口317よりも下流側におけるベースプレート31の下面31bと基材9との間の隙間空間の圧損は、エア吐出口317よりも上流側におけるインク吐出ヘッド21の下面212と基材9との間の隙間空間の圧損よりも小さくなる。このように、エア吐出口317よりも下流側の間隔d1を、エア吐出口317よりも上流側の間隔d2よりも大きくすることによって、エア吐出口317よりも下流側へ向かう気流を容易に形成することができる。仮に、エア吐出口317からのエアが下流側へ誘導されない場合、基材9の搬送によって基材9上に生じる下流側への気流と、エア吐出口317からのダウンフローとが混ざることによって乱流が発生し得る。このような乱流が発生した場合、浮遊するインクミストMが巻き上げられることによって、ベースプレート31またはインク吐出ヘッド21の下面212に付着する可能性がある。このため、
図7に示すように、エア吐出口317において、下流側へ向かう気流を形成することによって、インクミストMのベースプレート31等への付着を軽減することができる。
【0057】
下流側へ向かうエアフローを形成するため、複数のエア吐出口317のうち、下流側に位置するエア吐出口317から吐出されるエアの量(流量)を、上流側に位置するエア吐出口317から吐出されるエアの量よりも小さくしてもよい。例えば、下流へ向かうに連れて、エア吐出口317から吐出されるエアの量を段階的に小さくしてもよい。
【0058】
エア吐出口317から吐出されるエアの量を調節するため、例えば
図7に示すように、エアフロー孔315の内側に通気性を有するフィルタ部材319を設けてもよい。フィルタ部材319を設けることによって、エアフロー孔315におけるエアの通過が制限されるため、エア吐出口317から吐出されるエアの量を小さくすることができる。また、フィルタ部材319を設けることによって、エア吐出口317から吐出されるエアを浄化することができる。なお、各ファン24の風量を制御することによって、エアフロー孔315へ供給するエアの量を変更し、これによって、各エア吐出口317から吐出されるエアの量を調節してもよい。
【0059】
図2および
図3に示すように、搬送方向に隣接するすべてのベースプレート31対の間には、シール部材33が設けられている。シール部材33は、幅方向に延びており、隣接するベースプレート31,31間の隙間を閉塞する。シール部材33によって、ファン24から供給されるエアが、ベースプレート31,31間の隙間を通過することを抑制できる。これにより、基材9上のエアの流れが、ベースプレート31,31間で乱されることを抑制できる。また、より多くのエアをエア吐出口317から吐出させることができる。
【0060】
シール部材33の下面は、その上流側および下流側に位置するベースプレート31の下面31bと面一(同一の高さ)であることが望ましい。これにより、ベースプレート31,31間で乱流等の発生を抑制することができるため、インクミストMがベースプレート31に付着することを軽減できる。
【0061】
図6に示すように、エア吐出口317は、幅方向に延びており、エア吐出口317の幅方向の長さは、インク吐出ヘッド21の下面212の幅方向の長さとほぼ一致する。エア吐出口317は、上流側に隣接するインク吐出ヘッド21に設けられた複数のインク吐出口211のうち、幅方向の両端のそれぞれに位置するインク吐出口211,211よりも、幅方向外側に延びている。このため、いずれのインク吐出口211からインクミストMが発生したしても、エア吐出口317からのダウンフローによって、インクミストMを基材9に付着させることができる。したがって、インク吐出ヘッド21が設けられたベースプレート31の下面31b、または、さらに下流側に位置するベースプレート31の下面31bなどに、インクミストMが付着することを軽減できる。
【0062】
本実施形態では、エア吐出口317は、インク吐出ヘッド21に設けられた全てのインク吐出口211に対して、下流側に直ぐ隣接する位置に設けられている。このため、インク吐出ヘッド21が設けられたベースプレート31の下面31bにインクミストMが付着することをより有効に軽減できる。
【0063】
図3に示すように、画像記録部20は、光照射部26と吸引部28とを備える。光照射部26は、LEDなどの光源を有しており、光源からの光を基材9の記録面9aに照射する。光照射部26は、最も下流側にあるインク吐出ヘッド21よりも下流側に配置されており、基材9上に吐出されたインクを半硬化させる。
【0064】
吸引部28は、図示を省略するが、基材9の記録面9aに対向するスリット状の吸引口を有しており、吸引口からエアを吸引する。吸引部28が、4つのベースプレート31よりも下流側にてエアを吸引することによって、各ベースプレート31と基材9との間に、下流へ向かう気流を容易に形成することができる。これにより、各インク吐出口211で発生したインクミストMを、下流側へ移動させることができる。
【0065】
なお、吸引部28は、光照射部26の近傍に設けることは必須ではなく、例えば、切替ローラ121の近傍等の位置に設けられてもよい。また、吸引部28を光照射部26よりも下流側に設けることは必須ではなく、吸引部28が光照射部26よりも上流側に設けられてもよい。
【0066】
本実施形態では、ベースプレート31の下面31bには、基材9上の雰囲気を吸引する吸引口等が設けられない。本実施形態では、ベースプレート31にエアフロー孔315およびエア吐出口317が設けられるため、インク吐出口211に近接する位置でダウンフローを形成することができる。したがって、装置を大型化することなく、インクミストMの付着を軽減することができる。
【0067】
<2. 第2実施形態>
第2実施形態について説明する。以下の説明において、既に説明した要素と同様の機能を有する要素については、同じ符号またはアルファベット文字を追加した符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
【0068】
図8は、第2実施形態に係るインク吐出ヘッド21の下面212およびベースプレート31の下面31bを示す図である。本実施形態のベースプレート31は、各取付孔311に対して下流側に離れた位置に、エアフロー孔321を有する。エアフロー孔321は、エアフロー孔315と同様に、ベースプレート31を厚さ方向に貫通する貫通孔であり、ベースプレート31の下面31b(対向面)において開口するエア吐出口323を有する。エア吐出口323は、幅方向に延びるスリット状の開口であり、上流側に隣接するインク吐出ヘッド21のインク吐出口211の全てに対して、搬送方向に重なる位置に設けられている。各取付孔311の内側において、インク吐出ヘッド21の上流側および下流側に形成される隙間は、シール部材313で閉塞される。
【0069】
本実施形態においても、エア吐出口323から基材9に向けてエアを吐出することによって、インク吐出口211で発生したインクミストMを基材9に付着させることができる。これにより、インクミストMがベースプレート31に付着することを軽減することが可能である。
【0070】
また、本実施形態のベースプレート31を搬送経路TRに対向させた際に、エアフロー孔321よりも下流側におけるベースプレート31の下面31bと基材9との間隔を、エアフロー孔321より上流側におけるベースプレート311の下面31bと基板9との間隔よりも大きくすることが望ましい。これにより、エア吐出口317よりも下流側へ向かう気流を容易に形成することができる。
【0071】
また、第1実施形態と同様に、取付孔321の内側において、インク吐出ヘッド21の下流側に形成される隙間を、エアフロー孔315として利用することも妨げられない。
【0072】
<3. 第3実施形態>
図9は、第3実施形態に係るエアフロー孔315aおよびエア吐出口317aの周辺を拡大して示す縦断面図である。なお、
図7に記載した部材と同一の部材については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0073】
図9に示すエアフロー孔315aは搬送方向に短尺で幅方向に長尺なスリット状の孔である。エアフロー孔315aの搬送方向の隙間d3は、エア吐出口317aよりも下流側におけるベースプレート31の下面31bと基材9との間隔d1よりも小さい。これにより、エアフロー孔315aの内部空間の圧損は、エア吐出口317よりも下流側におけるインク吐出ヘッド21の下面212と基材9との間の隙間空間の圧損よりも小さくなる。これにより、エアフロー315aの上方に流入したエアは、その内部で幅方向に均一な流量をもったダウンフローに整形され、エア吐出口317aから基材9に向けて吐出するようになる。
【0074】
<4. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0075】
上記実施形態のエア吐出口317,317a,323は、幅方向に延びるスリット状の開口としている。しかしながら、エア吐出口は、例えば、幅方向に所定の間隔で配置された複数の吐出口であってもよい。
【0076】
ファン24など、エアフロー孔315にエアを強制的に供給するエア供給部は、必須でない。例えば、基材搬送機構10が基材9をベースプレート31の下面31bに近接させつつ下流側へ移動させることにより、基材9上に下流側へ向かうエアフローが発生する。基材9上におけるエアフローの発生により、エアフロー孔315内の雰囲気がエア吐出口317から排出されるため、ダウンフローが形成される。このように、基材9の移動に伴って発生するダウンフローにより、インクミストMを基材9へ付着させるようにしてもよい。
【0077】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されるものと解される。上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 インクジェット印刷装置
10 基材搬送機構
21 インク吐出ヘッド
211 インク吐出口
212 下面
24 ファン
3 取付孔
31 ベースプレート
311 取付孔
315,315a,321 エアフロー孔
317,317a,323 エア吐出口
319 フィルタ部材
31b 下面(対向面)
9 基材
M インクミスト
TR 搬送経路