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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】プリテンショナ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/195 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
B60R22/195 104
B60R22/195 102
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020002023
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109510
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一貴
(72)【発明者】
【氏名】河合 良彦
(72)【発明者】
【氏名】井浦 裕介
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-146184(JP,A)
【文献】特開2006-266501(JP,A)
【文献】実開昭49-125430(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/195
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急時に作動して、被引込部材を引き込むことによりウェビングによる車両の乗員の拘束力を高めるプリテンショナであって、
前記被引込部材に一方の端部が接続されるワイヤと、
前記ワイヤの他方の端部に接続されるピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、
前記ワイヤを引き込む方向に前記ピストンを作動させるためのガスを、前記シリンダ内のガス室に供給するガス発生器と、
前記ガス室に面して配置される受圧部材と、
前記ガス室の容積を増やす方向に前記受圧部材が移動するのを規制する規制部材と、
を備え、
前記規制部材は、前記ガス室の内圧が、通常時に前記ピストンが移動可能な圧力より大きい所定値を超えるときに前記受圧部材の規制を解除して、前記ガス室の容積を増やす方向に前記受圧部材が移動可能とする、
プリテンショナ。
【請求項2】
前記受圧部材として、前記ピストンの受圧面の径方向外側に設けられ、前記ピストンに対して相対移動可能な可動部を備え、
前記規制部材は、前記ピストンの移動方向に前記可動部が移動するのを規制し、前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに前記可動部の規制を解除して、前記ピストンの移動方向に前記可動部が前記ピストンに対して相対移動可能とする、
請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項3】
前記規制部材は、前記ピストンの外周面に径方向外側に突出し、前記外周面の周方向に沿って延在して設けられる突起であり、
前記突起は、前記可動部の端面を受けることによって前記可動部の移動を規制すると共に、
前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに前記可動部によりせん断されることによって、前記可動部の規制を解除する、
請求項2に記載のプリテンショナ。
【請求項4】
前記規制部材は、前記ピストンの外周面に径方向外側に突出し、前記外周面の周方向に沿って配置される複数の板材であり、
前記板材は、前記可動部の端面を受けることによって前記可動部の移動を規制すると共に、
前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに前記可動部により折り曲げられることによって、前記可動部の規制を解除する、
請求項2に記載のプリテンショナ。
【請求項5】
前記規制部材は、前記ピストンの移動方向と反対側に前記可動部を付勢する付勢部材であり、
前記付勢部材は、前記可動部に付勢力を付加することによって前記可動部の移動を規制すると共に、
前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに、前記可動部が前記付勢部材の付勢力に抗して前記ピストンの移動方向に移動可能とすることによって、前記可動部の規制を解除する、
請求項2に記載のプリテンショナ。
【請求項6】
前記規制部材は、前記可動部の内周面から径方向内側に突出し、前記内周面の周方向に沿って延在して設けられる突起であり、
前記突起が前記ピストンの前記受圧面に突き当たることによって前記可動部の移動を規制すると共に、
前記突起は、前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに前記ピストンによりせん断されることによって、前記可動部の規制を解除する、
請求項2に記載のプリテンショナ。
【請求項7】
前記ピストンの外周面は、前記規制部材による規制が解除されて前記可動部が相対移動したときに前記可動部が対向する位置において、前記可動部との間に隙間ができるよう形成される、
請求項2~6のいずれか1項に記載のプリテンショナ。
【請求項8】
前記受圧部材として、前記ピストンの移動方向と反対側に配置され、前記シリンダに対して摺動可能であり、前記ワイヤを通して前記ピストンへ誘導する誘導部材を備え、
前記誘導部材と前記ピストンとの間に前記ガス室が形成され、
前記規制部材は、前記誘導部材が前記ピストンから離れる方向に移動するのを規制し、前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに前記誘導部材の規制を解除して、前記ピストンから離れる方向に前記誘導部材が前記ピストンに対して相対移動可能とする、
請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項9】
前記規制部材は、シリンダ内の前記誘導部材から径方向外側に突出して設けられる突起であり、
前記突起は、前記シリンダの内周面に設けられる凹部に嵌合することによって前記誘導部材の移動を規制すると共に、
前記ガス室の内圧が前記所定値を超えるときに前記凹部によりせん断されることによって、前記誘導部材の規制を解除する、
請求項8に記載のプリテンショナ。
【請求項10】
前記シリンダの内部と外部とを連通する連通孔が設けられ、
前記連通孔は、前記規制部材が前記誘導部材の移動を規制しているとき、前記ガス室内に露出しないよう封止され、前記規制部材による規制が解除されて前記誘導部材が相対移動したときに前記ガス室に露出して、前記ガス室内の高圧ガスを排出する、
請求項9に記載のプリテンショナ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のプリテンショナを備えるシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリテンショナ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートベルト装置において、車両衝突時などの緊急時に作動して、ウェビングやバックル等の被引込部材を引き込むことにより、ウェビングによる車両の乗員の拘束力を高めるプリテンショナを設ける構成が提案されている。
【0003】
従来のプリテンショナでは、ガス発生器からガスがガス室に噴射されると、ピストンが高圧ガスに押されてシリンダ内を移動する。これにより被引込部材に連結されるワイヤが引っ張られ、被引込部材が引き込まれることにより、ウェビングによる車両の乗員の拘束力が高められる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-326823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば被引込部材に過度の力がかかっていてピストンがワイヤを引っ張り切れない状態など、ピストンがシリンダ内で移動し難くなる、またはシリンダ内で固定される状況が起こる場合がある。この状態で、プリテンショナを作動させるべく、ガス発生器からガスが噴射されると、ガス室内の圧力が通常より上昇する虞がある。
【0006】
本開示は、ガス室の内圧が通常よりも上昇することを抑制できるプリテンショナ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の一観点に係るプリテンショナは、緊急時に作動して、被引込部材を引き込むことによりウェビングによる車両の乗員の拘束力を高めるプリテンショナであって、前記被引込部材に一方の端部が接続されるワイヤと、前記ワイヤの他方の端部に接続されるピストンと、前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、前記ワイヤを引き込む方向に前記ピストンを作動させるためのガスを、前記シリンダ内のガス室に供給するガス発生器と、前記ガス室に面して配置される受圧部材と、前記ガス室の容積を増やす方向に前記受圧部材が移動するのを規制する規制部材と、を備え、前記規制部材は、前記ガス室の内圧が、通常時に前記ピストンが移動可能な圧力より大きい所定値を超えるときに前記受圧部材の規制を解除して、前記ガス室の容積を増やす方向に前記受圧部材が移動可能とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ガス室の内圧が通常よりも上昇することを抑制できるプリテンショナ及びシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るシートベルト装置の構成図である。
図2】第1実施形態に係るプリテンショナの斜視図である。
図3】プリテンショナの分解斜視図である。
図4】プリテンショナの縦断面図である。
図5】ピストン周辺の組立斜視図である。
図6】内圧上昇抑制処理の第1手順を示す図である。
図7】内圧上昇抑制処理の第2手順を示す図である。
図8】内圧上昇抑制処理の第3手順を示す図である。
図9】内圧上昇抑制処理の第4手順を示す図である。
図10】第1実施形態の第1変形例に係るピストン周辺の組立斜視図である。
図11】第1実施形態の第2変形例に係るピストン周辺の縦断面図である。
図12】第1実施形態の第3変形例に係るピストン周辺の縦断面図である。
図13】第2実施形態に係るプリテンショナの斜視図である。
図14】プリテンショナの縦断面図である。
図15】プリテンショナのシリンダ内部に収容される要素の分解斜視図である。
図16】第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第1手順を示す図である。
図17】第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第2手順を示す図である。
図18】第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第3手順を示す図である。
図19】第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第4手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
なお、以下の説明において、x方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。典型的には、x方向及びy方向は水平方向であり、z方向は鉛直方向である。x方向はピストン3の摺動方向であり、被引込部材を引き込む方向がx正方向である。また、x方向は、プリテンショナ1が車両に設置されたときの車両前後方向であり、x正方向側が車両前方、x負方向側が車両後方である。y方向は、プリテンショナ1が車両に設置されたときの車両幅方向である。
【0012】
[第1実施形態]
図1図12を参照して第1実施形態について説明する。図1は、実施形態に係るシートベルト装置100の構成図である。図1には、シートベルト装置100が車両に搭載された状態の一例が示されている。シートベルト装置100は、ウェビング101と、リトラクタ102と、タング105と、バックル107と、プリテンショナ1とを備えている。
【0013】
ウェビング101は、シート108に座る乗員を拘束するための帯状部材である。ウェビング101の一方の端部103は、リトラクタ102に接続され、ウェビング101の他方の端部106は、プリテンショナ1に接続されている。
【0014】
リトラクタ102は、ウェビング101の巻き取り又は引き出しを可能にする巻き取り装置であって、車両衝突時等の所定値以上の加速度が検知されたときに、ウェビング101がリトラクタ102の本体部から引き出されることを制限するものである。リトラクタ102は、シート108の背もたれ部109の側方の車体部位(例えば、ショルダーアンカー104が固定されるピラーの下側部位)に固定されている。
【0015】
タング105は、プリテンショナ1とショルダーアンカー104との間で、ウェビング101にスライド可能に取り付けられた板状部材である。
【0016】
バックル107は、タング105が着脱される部材である。バックル107は、シート108の座部110を挟んでリトラクタ102とは反対側のシート部位に固定されている。
【0017】
タング105がバックル107に連結されることによって、シート108上の乗員の胸部はウェビング101のショルダーベルト部101bによって拘束され、その乗員の腰部はウェビング101のラップベルト部101aによって拘束される。ショルダーベルト部101bは、ショルダーアンカー104とタング105との間のウェビング101の部位であり、ラップベルト部101aは、タング105とプリテンショナ1との間のウェビング101の部位である。
【0018】
プリテンショナ1は、車両衝突時等の所定値以上の加速度が検知されたときに、ウェビング101のラップベルト部101aを瞬時に引き込むことで、乗員の腰部とラップベルト部101aとの間のたるみを減少させるラッププリテンショナである。プリテンショナ1、通常、座部110の車外側の側部に対してドア寄りの車体部位に固定されている。
【0019】
図2は、第1実施形態に係るプリテンショナ1の斜視図である。図3は、プリテンショナ1の分解斜視図である。図4は、プリテンショナ1の縦断面図である。図5は、ピストン3周辺の組立斜視図である。
【0020】
プリテンショナ1は、緊急時に作動して、被引込部材を引き込むことによりウェビング101による車両の乗員の拘束力を高めるための装置である。図2図4に示すように、プリテンショナ1は、乗員を拘束するウェビング101に接続されたワイヤ2と、ワイヤ2に配置されたピストン3と、ピストン3を摺動可能に収容するシリンダ4と、ピストン3に駆動力を付与するガス発生器5と、シリンダ4及びガス発生器5を一体に接続するハウジング6と、ハウジング6に接続されワイヤ2の位置決めを行うブラケット7と、を備える。
【0021】
ハウジング6は、ワイヤ2を案内する挿通孔61と、シリンダ4及び挿通孔61に連通した連通部62と、ガス発生器5により発生したガスを連通部62に供給するガス供給口63と、を備える。挿通孔61と連通部62との境界部66にはワイヤガイド8が配置されている。
【0022】
プリテンショナ1は、ベルトアンカーとしての機能を有しており、ブラケット7に形成された固定孔7a及びハウジング6に形成された固定孔6aにボルト9(図1参照)を挿通することによって車体に固定される。ブラケット7は、ガイド部7bを備え、ブラケット7がハウジング6に一体的に組み付けられたときにワイヤ2をガイド部7bに沿って挿通することによって、ワイヤ2の屈曲角度を保持している。
【0023】
ワイヤ2の一端には不図示のホルダ等を介してフェルール22が接続されている。フェルール22は、図1に示すように、ウェビング101のラップベルト101aの端部に接続される。
【0024】
ワイヤ2の他端は、ブラケット7を介してハウジング6に挿通され、シリンダ4内のワイヤエンド23に接続される。シリンダ4内にはピストン3が摺動可能に配置されており、ワイヤ2はピストン3に挿通された後、ワイヤエンド23に接続される。
【0025】
ガス発生器5は、図3図4に示すように、ハウジング6に形成された開口部(ガス発生器取付部64)内に配置され、ハウジング6に固定される。このガス発生器取付部64と連通部62とを連通する通路によってガス供給口63が構成されている。
【0026】
また、ガス発生器5は、例えば、車両の衝突を検出する加速度センサ(図示せず)に接続されており、車両衝突時に作動して高圧ガスをハウジング6内に噴出する。ガス発生器5は、例えば内蔵される火薬によってガスを発生する。ハウジング6内に噴出された高圧ガスは、ピストン3を押圧し、ハウジング6から離れる方向(x正方向)にピストン3を移動させる。ピストン3の移動に伴って、ワイヤ2はハウジング6及びシリンダ4内に引き込まれ、ウェビング101(ラップベルト101a)を締め付ける。
【0027】
ハウジング6は、例えば、鉄よりも比重の小さい素材(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等)により構成される。具体的には、ハウジング6は、アルミダイキャストにより製造してもよい。鉄よりも比重の小さい素材を採用することにより、ハウジング6の軽量化を図ることができる。
【0028】
また、ハウジング6は、一端側(x負方向側)にワイヤ2をブラケット7からシリンダ4に案内する挿通孔61を有し、他端側(x正方向側)にシリンダ4を接続する接続部65を有している。挿通孔61にはワイヤ2が挿入され、接続部65にはシリンダ4のネジ部が螺合される。挿通孔61と接続部65との間には、これらと連通する連通部62が形成されている。
【0029】
接続部65の内径は連通部62より大きく、このため接続部65と連通部62との間には段差が形成されている。また、シリンダ4の内径は、連通部62より大きく形成される。したがって、ピストン3は、シリンダ4のx負方向側の端部に配置されるときには、ピストン3のx負方向側の端面37(または後述する可動部40のx負方向側の端面43)がこの段差に突き当たって、これによりピストン3のx負方向側へのさらなる移動が規制される。
【0030】
連通部62の挿通孔61側の内周面は、挿通孔61に接近するにしたがって縮径する円錐面を形成しており、挿通孔61と連通部62との境界部66を構成している。この境界部66には、樹脂製のワイヤガイド8が挿入される。ワイヤガイド8は、略円錐台形状を有し、中央部にワイヤ2を挿通可能な孔を有している。ワイヤガイド8は、ワイヤ2を連通部62に案内するとともに境界部66をシールする機能を有している。連通部62の内周面の一部にはガス供給口63と連通する開口部が形成される。
【0031】
ピストン3のx方向中間部には、テーパ面35が設けられる。テーパ面35は、ピストン3の端部36のある一端部側(x負方向側)から、他端部側(x正方向側)に向けて外径が増大するよう形成されている。テーパ面35には、ピストン3のx負方向への逆戻りを抑制するためのボール32及びボールリング33が配置されている。ボールリング33は、x負方向側のテーパ面35の端部、すなわちテーパ面35のうち外径が最小となる部分に配置されている。ボール32は、通常時にはボールリング33によりx負方向側から付勢されている。ボール32は、ボールリング33の設置時にシリンダ4の内周面との接触による摩擦によってピストン3の摺動を妨げない程度の径で形成されている。
【0032】
特に本実施形態では、ピストン3のx負方向側の端部36は、その外径がシリンダ4の内径より小さく、その外周面とシリンダ4の内周面との間に間隙ができる程度の円柱状に形成されている。端部36の外周面には、周方向に亘って溝34が設けられる。溝34には、気密性を向上させるためのOリング31が嵌合されている(図6参照)。
【0033】
さらに、ピストン3の端部36の外周側には、円環状の可動部40(受圧部材)が配置されている。可動部40は、ピストン3の端部36の外周面と、シリンダ4の内周面との間隙に嵌合されている。つまり、上述のOリング31は、ピストン3の端部36と可動部40の内周面との間隙の気密性を向上させている。また、可動部40の外周面にも、周方向に亘って溝41が設けられる。この溝41には、可動部40の外周面とシリンダ4の内周面との間隙の気密性を向上させるためのOリング42が嵌合されている。
【0034】
可動部40は、x負方向側の端面43がピストン3の端面37と面一となるよう配置されている。ピストン3の端部36の外周面のうち可動部40のx正方向側の位置には、径方向外側に突出し、外周面の周方向に沿って延在するよう突起38が形成されている。この突起38に可動部40のx正方向側の端面44が突き当たることによって、可動部40はピストン3に対してx正方向側に相対移動することが規制されており、x負方向側の端面43がピストン3の端面37と面一となる状態が維持されている。
【0035】
つまり、図5に示すように、プリテンショナ1が通常に作動する状態では、可動部40は、ピストン3のx負方向側の端部36に端面43が端面37と面一となる位置で連結され、ピストン3と一体的に移動可能に構成されている。
【0036】
また、ピストン3のx負方向側の端部36と、テーパ面35との間には、端部36より外径が小さい接続部39が設けられている。
【0037】
図6図9を参照して第1実施形態に係るプリテンショナ1の内圧上昇抑制処理の手順を説明する。
【0038】
図6は、内圧上昇抑制処理の第1手順を示す図である。図6に示すように、プリテンショナ1の作動前には、ハウジング6の連通部62と、ガス供給口63によって形成されるハウジング6内部の空間が、ガス発生器5からの高圧ガスを充填できるガス室Cとも表現できる。車両衝突時などプリテンショナ1を作動させる機会が発生すると、ガス発生器5が高圧ガスをハウジング6内に噴出する。ハウジング6内に噴出された高圧ガスは、ピストン3の端面37(及び可動部40の端面43)を押圧する。
【0039】
ピストン3の通常動作時には、ハウジング6内に噴出された高圧ガスは、ピストン3を押圧し、図6の位置からハウジング6から離れる方向(x正方向)にピストン3を移動させる。これによりガス室Cの容積が広がるので、ガス室C内のガスの圧力の上昇は抑制される。このとき、突起38が可動部40のx正方向側の端面44を受けることによって、可動部40がピストン3に対してピストン移動方向(x正方向)へ相対移動することを規制しているため、可動部40はピストン3と一体的に移動する。
【0040】
一方、例えば被引込部材に過度の力がかかっていてピストンがワイヤを引っ張り切れない状態など、ピストン3がシリンダ4内で移動し難くなる、またはシリンダ4内で固定される状況が起こる場合がある。この状態で、プリテンショナ1を作動させるべく、ガス発生器5から高圧ガスが噴射されると、従来のプリテンショナでは、図6の位置からピストン3が動かず、または、ピストン3のx正方向への移動が遅くガス室Cの容積増加がガス室C内の圧力上昇に追い付かなくなり、ガス室C内の圧力が通常よりも上昇し、プリテンショナに不具合が生じる虞がある。
【0041】
図7は、内圧上昇抑制処理の第2手順を示す図である。図7に示すように、本実施形態では、ガス室C内の圧力が通常よりも上昇した場合には、ピストン3の突起38が、可動部40の端面44によってせん断される。このようなシェア構造によって可動部40の規制が解除されて、可動部40がピストン3に対してx正方向側に相対移動可能となる。つまり、第1実施形態では、可動部40が、「ガス室Cに面して配置されて、ガス発生器5からの高圧ガスの圧力を受ける受圧部材」として機能する。また、突起38が、「ガス室Cの容積を増やす方向に受圧部材(可動部40)が移動するのを規制すると共に、ガス室Cの内圧が、通常時にピストン3が移動可能な圧力より大きい所定値を超えるときに受圧部材の規制を解除して、ガス室Cの容積を増やす方向に受圧部材が移動可能とする規制部材」として機能する。
【0042】
図8は、内圧上昇抑制処理の第3手順を示す図である。図8に示すように、突起38がせん断されると、可動部40は高圧ガスによりx負方向側の端面43が押圧されて、ピストン3に対してx正方向側に相対移動する。これにより、ガス室Cの容積は、図8に点線で示すように、可動部40の移動分だけ増加するので、ガス室C内の圧力は容積増加分だけ低下して、ガス室Cの内圧を通常よりも上昇した状態から低減させることができる。
【0043】
図9は、内圧上昇抑制処理の第4手順を示す図である。図9に示すように、最終的に可動部40はピストン3の端部36とテーパ面35との間の接続部39の位置まで移動する。接続部39の外径は、端部36より小さく形成されているため、可動部40の内周面の内径より小さい。このため、可動部40の内周面とピストン3の接続部39の外周面との間には隙間ができる。この隙間によって、ガス室Cとシリンダ4の内部空間とが連通するため、この隙間を通ってガス室C内の高圧ガスがシリンダ4内へ放出される。この結果、ガス室C内の圧力がさらに低減でき、ガス室Cの内圧を通常よりも上昇した状態から確実に低減させることができる。
【0044】
このように、第1実施形態のプリテンショナ1は、ガス室Cに面して配置される受圧部材として、ピストン3の受圧面37の径方向の外縁に設けられ、ピストン3に対して相対移動可能な可動部40を備える。また、ガス室Cの容積を増やす方向(x正方向側)に受圧部材としての可動部40が移動するのを規制する規制部材として、ピストン3の外周面に径方向外側に突出し、外周面の周方向に沿って延在して設けられる突起38を備える。規制部材としての突起38は、ピストン3の移動方向に可動部40が移動するのを規制し、ガス室Cの内圧が、通常時にピストン3が移動可能な圧力より大きい所定値を超えるときに可動部40の規制を解除して、ピストン3の移動方向に可動部40がピストンに対して相対移動可能とする。
【0045】
この構成により、図7図9に示すように、ピストン3がシリンダ4内で移動し難くなる、またはシリンダ4内で固定される状況が起こり、ガス室C内の圧力が通常よりも上昇する場合には、通常時にピストン3の受圧面(端面37)と面一となるよう配置されている可動部40が、ピストン3に対してx正方向側に相対移動することによりガス室Cの容積が増大する。これにより、ガス室Cの圧力を低減できるので、ガス室Cの内圧が通常よりも上昇することを抑制できる。また、内圧上昇に伴うプリテンショナ1の不具合の発生も抑制できる。
【0046】
また、第1実施形態のプリテンショナ1では、規制部材としての突起38は、ガス室Cの内圧が所定値を超えるときに、可動部40によりせん断されることによって、可動部40の規制を解除する。
【0047】
突起38は、ピストン3の外周面の周方向に延在して設けられるので、通常時には可動部40のx正方向側の端面44と周方向の全域に亘って受けることができ、可動部40との接触面積が相対的に大きいので、より確実に可動部40のx正方向側への移動を規制できる。また、ガス室Cの内圧が通常よりも上昇した時には突起38がピストン3の端部36の外周面からせん断されて除去されるので、可動部40のx正方向側への移動をスムーズにでき、ガス室Cの内圧が通常よりも上昇することの抑制をより迅速にできる。
【0048】
また、第1実施形態のプリテンショナ1では、ピストン3の外周面は、規制部材としての突起38による規制が解除されて可動部40が相対移動したときに可動部40が対向する位置において、可動部40との間に隙間ができるよう形成される。具体的には、図9などに示すように、ピストン3の端部36とテーパ面35との間の接続部39が、その外径が端部36の外径より小さく形成されている。
【0049】
この構成により、図9に示すように、ガス室Cの内圧が通常よりも上昇したことに伴い可動部40がピストン3に対してx正方向側に相対移動したときに、可動部40とピストン3との間の隙間ができて、この隙間によってガス室Cとシリンダ4の内部空間とが連通する。これにより、ガス室C内の高圧ガスをシリンダ4内へ抜くことができ、ガス室C内の圧力がさらに低減でき、ガス室Cの内圧を通常よりも上昇した状態から確実に低減させることができる。
【0050】
なお、接続部39は、可動部40が接続部39の位置まで移動してきたときに、可動部40との間に隙間ができる構成であればよく、図9などに示した小径以外の構造でもよい。例えば、x正方向側に向かうほど外径が小さくなるように外周面をテーパ状や段差状に形成してもよい。または、接続部39の外径は端部36と同様として、接続部39の外周面に溝を設ける構成でもよい。この場合、溝によってガス室Cとシリンダ4内部空間とが連通される。
【0051】
図10~12を参照して第1実施形態の変形例を説明する。本実施形態ではピストン3の外周面に径方向外側に突出し、周方向に延在して設けられる突起38が規制部材として機能する構成を例示したが、規制部材は突起38以外の他の構成でもよい。
【0052】
図10は、第1実施形態の第1変形例に係るピストン3周辺の組立斜視図である。図10に示すように、規制部材として、ピストン3の端部36の外周面に径方向外側に突出し、外周面の周方向に沿って配置される複数の板材45を設ける構成でもよい。この構成では、板材45は、可動部40のx正方向側の端面44を受けることによって、可動部40がピストン3に対してピストン移動方向(x正方向)へ相対移動することを規制する。また、ガス室Cの内圧が所定値を超えるときに可動部40によって板材45が折り曲げられることによって、可動部40の規制を解除する。
【0053】
図11は、第1実施形態の第2変形例に係るピストン3周辺の縦断面図である。図11に示すように、規制部材として、ピストン3の移動方向と反対側(x負方向側)に可動部40を付勢するバネ等の付勢部材46を設ける構成でもよい。この構成では、ピストン3の端部36にて可動部40のx負方向側に径方向外側に突出する突き当て部47が設けられる。付勢部材46が可動部40にx負方向側に付勢力を付加して突き当て部47に突き当てることによって、可動部40がピストン3に対してピストン移動方向(x正方向)へ相対移動することを規制する。また、付勢部材46の付勢力が、通常時にピストン3が移動可能な圧力と同等程度となるように、付勢部材46のばね定数などのパラメータを設定しておくことで、ガス室Cの内圧が所定値を超えるときに、可動部40が付勢部材46の付勢力に抗してx正方向側のピストン3の移動方向に移動可能とすることによって、可動部40の規制を解除する。
【0054】
図12は、第1実施形態の第3変形例に係るピストン3周辺の縦断面図である。図12に示すように、規制部材は、可動部40の内周面から径方向内側に突出し、内周面の周方向に沿って延在して設けられる突起48を用いる構成でもよい。この構成では、突起48が、ピストン3の端部36のx負方向側の端面37(受圧面)に突き当たることによって、可動部40がピストン3に対してピストン移動方向(x正方向)へ相対移動することを規制する。また、ガス室Cの内圧が所定値を超えるときにピストン3の端部36によって突起48がせん断されることによって、可動部40の規制を解除する。
【0055】
なお、第1実施形態では、プリテンショナ1の被引込部材がウェビング101(ラップベルト101a)である構成を例示したが、被引込部材がバックル107である構成でもよい。
【0056】
[第2実施形態]
図13図19を参照して第2実施形態について説明する。図13は、第2実施形態に係るプリテンショナ1Aの斜視図である。図14は、プリテンショナ1Aの縦断面図である。図15は、第2実施形態に係るプリテンショナ1Bのシリンダ4内部に収容される要素の分解斜視図である。
【0057】
図13に示すように、第2実施形態では、プリテンショナ1Aとして被引込部材がバックル107であるバックルプリテンショナが例示されている。また、図14に示すように、第2実施形態のプリテンショナ1Aでは、ガス発生器5をシリンダ4側(固定側)に設置する第1実施形態とは異なり、ガス発生器5がピストン3側(可動側)に設置される。
【0058】
図14図15に示すように、ガス発生器5は、シリンダ4の内部にて、ピストン3よりx正方向側、つまりピストン3の移動方向側に配置される。
【0059】
ピストン3は、第1実施形態と異なり、x負方向側の端部36や接続部39の部分が無い形状である。ピストン3の外周面には第1実施形態と同様にテーパ面35が設けられ、ボール32及びボールリング33が配置されている。
【0060】
ワイヤ2のシリンダ4側の端部に連結されるワイヤエンド51は、第1実施形態のワイヤエンド21より長く、x負方向側の略半分がピストン3の連通孔に挿入されて、x負方向側の端部が径方向外側に突出して、ピストン3と連結されている。また、ピストン3のx正方向側には円筒形のピストン本体52が配置されている。ピストン本体52は、ワイヤエンド51を内部に収容すると共に、ワイヤエンド51を介してピストン3及びワイヤ2と連結されている。
【0061】
ピストン本体52のx正方向側は開口しており、この開口からガス発生器5がピストン本体52に収容され、さらにx正方向側から円筒状の蓋部材53がピストン本体52に連結され、これによりガス発生器5がピストン本体52の内部に設置される。また、蓋部材53の外径は、シリンダ4の内径とほぼ同一であり、蓋部材53はシリンダ4内を摺動可能に形成されている。蓋部材53の外周面には、気密性を向上させるためのOリング54が嵌合されている。
【0062】
ガス発生器5は、x負方向側の先端部からガスを噴射するよう設置される。また、ピストン本体52には、外周面と内周面とを連通する1または複数の(図14の例では2個)の連通孔52a、52bが設けられている。ガス発生器5からピストン本体52の内部に噴射されたガスは、ピストン本体52の連通孔52a、52bからシリンダ4内に噴射されて、これによりピストン3及びピストン本体52をx正方向側に移動する。
【0063】
なお、ガス発生器5をピストン3側(可動側)に設置する構成は、図14図15に例示するピストン本体52、ワイヤエンド51、蓋部材53などを含む構成以外のものでもよい。
【0064】
また、第2実施形態では、シリンダ4のピストン3よりx負方向側の位置に、シリンダ4の内部と外部とを連通する連通孔59が設けられている。連通孔59は、例えばx方向の所定位置にてシリンダ4の周方向に沿って1または複数が設けられている。シリンダ4の内部の連通孔59が開口する位置には、この連通孔59を封止するための円筒状の封止部材55が配置されている。封止部材55の外径は、シリンダ4の内径とほぼ同一であり、封止部材55の外周面が連通孔59を含むシリンダ4の内周面と当接することで、連通孔59を塞ぐことができる。また、封止部材55は、x正方向側に円形状の端面55aを有し、端面の径方向中央にワイヤ2を通す穴55bが設けられる。
【0065】
封止部材55のx正方向側にはワイヤガイド57が配置される。ワイヤガイド57もその外径がシリンダ4の内径とほぼ同一であり、径方向の中央にワイヤ2を通す穴57aが設けられる。また、ワイヤガイド57のx負方向側の端面は封止部材55の端面55aと接触している。
【0066】
ワイヤガイド57とピストン3との間にはスペーサ58が配置される。プリテンショナ1Aが作動前の状態では、ピストン3のx負方向側の端面がスペーサ58と接触している。また、スペーサ58はワイヤガイド57に嵌合されている。
【0067】
また、封止部材55のx負方向側には、リング部材56が配置される。リング部材56は、その外径がシリンダ4の内径とほぼ同一に形成されており、さらに径方向外側に突出する1または複数(図15の例では3個)の突起56aを備える。シリンダ4には、上記の連通孔59よりx負方向側に、シリンダ4の内周面から窪んだ凹部60が設けられる。凹部60は、リング部材56の突起56aの周方向の位置と対応するシリンダの内周面上の位置に設けられる。リング部材56は、突起56aがシリンダ4の内周面の凹部60に嵌合して設置され、これにより、シリンダ4内のx方向位置が固定されている。なお、凹部60は外部に連通する穴でもよい。
【0068】
ワイヤ2は、ハウジング6からシリンダ4に進入し、リング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58を通った後にピストン3を通過してワイヤエンド51に固定される。
【0069】
このように第2実施形態では、リング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58が、「ピストン3の移動方向と反対側に配置され、シリンダ4に対して摺動可能であり、ワイヤ2を通してピストン3へ誘導する誘導部材70」として機能する。そして、この誘導部材70が、「ガス室Cに面して配置されて、ガス発生器5からの高圧ガスの圧力を受ける受圧部材」として機能する。
【0070】
なお、誘導部材70は、本実施形態のリング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58を備える構成以外のものでもよい。例えば、リング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58を纏めて単一の部品として形成してもよいし、リング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58の一部でもよい。
【0071】
本実施形態では、リング部材56の突起56aが、「シリンダ4内の誘導部材70から径方向外側に突出して設けられる突起」であり、「ガス室Cの容積を増やす方向に受圧部材(誘導部材70)が移動するのを規制すると共に、ガス室Cの内圧が、通常時にピストン3が移動可能な圧力より大きい所定値を超えるときに受圧部材の規制を解除して、ガス室Cの容積を増やす方向に受圧部材が移動可能とする規制部材」として機能する。突起56aは、シリンダ4の内周面に設けられる凹部60に嵌合することによって誘導部材70(リング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58)の移動を規制すると共に、ガス室Cの内圧が所定値を超えるときに凹部60によりせん断されることによって、誘導部材70の規制を解除する。
【0072】
図16図19を参照して第2実施形態に係るプリテンショナ1Aの内圧上昇抑制処理の手順を説明する。
【0073】
図16は、第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第1手順を示す図である。図16に示すように、プリテンショナ1Aの作動前には、ピストン3とワイヤガイド57に挟まれる空間と、ピストン本体52及びピストン3の外周面とシリンダ4の内周面との間の空間が、ガス発生器5からの高圧ガスを充填できるガス室Cとも表現できる。車両衝突時などプリテンショナ1を作動させる機会が発生すると、ガス発生器5が高圧ガスを連通孔52a、52bを介してガス室C内に噴出する。ガス室C内に噴出された高圧ガスは、ワイヤガイド57やスペーサ58をx負方向側に押圧する。
【0074】
ピストン3の通常動作時には、ガス室C内に噴出された高圧ガスは、ワイヤガイド57を押圧し、図16の位置からハウジング6から離れる方向(x正方向)にピストン3及びピストン本体52を移動させる。これによりワイヤガイド57とピストン3との距離が増えてガス室Cの容積が広がるので、ガス室C内のガスの圧力の上昇は抑制される。このとき、リング部材56の突起56aがシリンダ4の凹部60に嵌合しているため、誘導部材70(リング部材56、封止部材55、ワイヤガイド57、スペーサ58)はシリンダ4内のx方向の移動が規制されている。
【0075】
一方、例えば被引込部材に過度の力がかかっていてピストン3及びピストン本体52がワイヤ2を引っ張り切れない状態など、ピストン3及びピストン本体52がシリンダ4内で移動し難くなる、またはシリンダ4内で固定される状況が起こる場合がある。この状態で、プリテンショナ1Aを作動させるべく、ガス発生器5から高圧ガスが噴射されると、従来のプリテンショナでは、図16の位置からピストン3及びピストン本体52が動かず、または、ピストン3及びピストン本体52のx正方向への移動が遅くガス室Cの容積増加がガス室C内の圧力上昇に追い付かなくなり、ガス室C内の圧力が通常よりも上昇し、プリテンショナに不具合が生じる虞がある。
【0076】
図17は、第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第2手順を示す図である。図17に示すように、本実施形態では、ガス室C内の圧力が通常よりも上昇した場合には、ガス室C内の高圧ガスがワイヤガイド57をx負方向側に押圧する押圧力が、封止部材55を介してリング部材56に伝達される。そして、リング部材56の突起56aが、嵌合しているシリンダ4の凹部60と内周面によってせん断される。このようなシェア構造によって誘導部材70の規制が解除されて、シリンダ4に対するリング部材56の固定状態が無くなる。これにより、誘導部材70がピストン3に対してx負方向側に相対移動可能となる。
【0077】
図18は、第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第3手順を示す図である。図18に示すように、突起56aがせん断されると、誘導部材70は、ガス室C内の高圧ガスによりx負方向側に押圧されて、ピストン3に対してx負方向側に相対移動する。これにより、ガス室Cの容積は、図18に示すように、誘導部材70の移動分だけ増加するので、ガス室C内の圧力は容積増加分だけ低下して、ガス室Cの内圧を通常よりも上昇した状態から低減させることができる。
【0078】
図19は、第2実施形態の内圧上昇抑制処理の第4手順を示す図である。図19に示すように、最終的にリング部材56はシリンダ4のx負方向側の端部位置まで移動する。このとき、封止部材55やワイヤガイド57も連通孔59の位置よりx負方向側に移動しているので、シリンダ4の連通孔59はガス室C内に露出する。この連通孔59を通ってガス室C内の高圧ガスがシリンダ4の外部へ排出される。この結果、ガス室C内の圧力がさらに低減でき、ガス室Cの内圧を通常よりも上昇した状態から確実に低減させることができる。
【0079】
第2実施形態では、プリテンショナ1Aの被引込部材がバックル107であるバックルプリテンショナを例示したが、被引込部材がウェビング101(ラップベルト101a)である構成でもよい。この場合、プリテンショナはベルトアンカーとしても機能する。
【0080】
また、第2実施形態では、ガス発生器5がピストン3側(可動側)に設置される構成を例示したが、第1実施形態と同様にガス発生器5をシリンダ4側(固定側)に設置する構成でもよい。
【0081】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0082】
1、1A プリテンショナ
2 ワイヤ
3 ピストン
4 シリンダ
5 ガス発生器
38 突起(規制部材)
40 可動部(受圧部材)
45 板材(規制部材)
46 付勢部材(規制部材)
48 突起(規制部材)
55 封止部材(誘導部材、受圧部材)
56 リング部材(誘導部材、受圧部材)
56a 突起(規制部材)
57 ワイヤガイド(誘導部材、受圧部材)
58 スペーサ(誘導部材、受圧部材)
59 連通孔
100 シートベルト装置
101 ウェビング
C ガス室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19