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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】酸性ガスの除去装置および除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/64 20060101AFI20230802BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20230802BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20230802BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B01D53/64 100
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
B01D53/96
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020022464
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126613
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】村岡 大悟
(72)【発明者】
【氏名】藤田 己思人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】村井 伸次
(72)【発明者】
【氏名】宇田津 満
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-138277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0021506(US,A1)
【文献】特開2000-312813(JP,A)
【文献】特開2015-139775(JP,A)
【文献】特開昭61-257223(JP,A)
【文献】特開平02-191526(JP,A)
【文献】特開2000-288343(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136599(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314234(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0286017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/64
B01D 53/62
B01D 53/78
B01D 53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触により前記排ガスに含まれるII価の水銀を還元する水銀還元器と、
前記水銀還元器から導出されたガスに含まれる酸性ガスを酸性ガス吸収溶媒に吸収させる吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収溶媒を再生する再生器とを具備してなり、
前記再生器で再生された酸性ガス吸収溶媒を前記吸収器で再利用する酸性ガスの除去装置であって、
前記水銀還元液は、前記吸収器から導出されたガスの凝縮液および/または前記再生器から導出されたガスの凝縮液、あるいはアミン系溶媒、シリコーンオイルおよび/またはイオン性液体であることを特徴とする、酸性ガスの除去装置。
【請求項2】
前記水銀還元器から導出されたガス中の水銀濃度を測定する水銀測定器と、前記水銀測定器で測定された水銀濃度を参照して前記水銀還元器への前記水銀還元液の導入を制御する制御装置を更に具備する、請求項1に記載の酸性ガス除去装置。
【請求項3】
前記水銀測定器は、原子吸光測定器または原子蛍光測定器である、請求項2に記載の酸性ガスの除去装置。
【請求項4】
前記水銀還元器は、充填層方式、棚段方式または湿式スクラバー方式のものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸性ガスの除去装置。
【請求項5】
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触により前記排ガスに含まれるII価の水銀を還元する還元工程と、
前記水銀還元器から導出されたガスに含まれる酸性ガスを酸性ガス吸収溶媒に吸収させる吸収工程と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収溶媒を再生する再生工程と、
前記再生器で再生された酸性ガス吸収溶媒を前記吸収器で再利用する工程を具備してなる酸性ガスの除去方法であって、
前記水銀還元液は、前記吸収工程から導出されたガスの凝縮液および/または前記再生器から導出されたガスの凝縮液、あるいはアミン系溶媒、シリコーンオイルおよび/またはイオン性液体であることを特徴とする、酸性ガスの除去方法。
【請求項6】
前記水銀還元器から導出されたガス中の水銀濃度を測定する測定工程と、前記水銀濃度を参照して前記水銀還元器への前記水銀還元液の導入を制御する制御工程を更に具備する、請求項5に記載の酸性ガスの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、酸性ガスの除去装置および除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化に対する有効な対策の一つとして、二酸化炭素回収貯蔵技術(CCS)が注目されている。特に、二酸化炭素ガスを大量に発生させる施設等(例えば、火力発電所や製鉄所、セメント工場)について、CCS設備を利用する検討が世界中で行われている。
【0003】
CCS設備の一つに、二酸化炭素を含む排出ガスと吸収溶媒とを接触させて二酸化炭素を分離、回収する化学吸収方法がある。これは一般的なCCSプロセスであるが、吸収溶媒として、シリコーンオイルやアミン系溶液、イオン性溶液等が採用されることが多い(特許文献1)。
【0004】
一般的に、排ガスを排出する媒体や、排ガスを生成する原料によって排ガスの成分は大きく異なるが、排ガス中には環境における有害物質の一つとされる水銀がいくらか含まれていて、そのような排ガスに含まれる水銀はHg(0価)とHg(II価)とに大別することができる。
なお、近年、水銀による環境汚染の防止が強く求められようになってきており、平成29年には、水銀に関する水俣条約が発効された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4274846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような水銀が含まれている排ガスから酸性ガスと除去しようとする場合、水銀も酸性ガス吸収溶媒に吸収されることがあって、その結果、吸収溶媒が酸化(分解)し、酸性ガス吸収溶媒の性能が低下して、排ガス中の酸性ガスを有効に分離、回収できなくなることがあった。
【0007】
そして、酸性ガスを吸収した溶媒から酸性ガスを脱離させる工程で溶媒に吸収されていた水銀も脱離して、獲得した酸性ガス(例えば、製品二酸化炭素ガス)中に水銀が混入することがあって、環境へ影響や、酸性ガス純度が低下して製品価値の低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、排ガス中に含まれる水銀が吸収塔にてアミン吸収溶媒にどの程度分離され、そして再生塔にてどの程度回収されるかを検証するために、ラボラトリー試験を実施した。その結果、(1)Hg(0価)はアミン吸収液に吸収されにくいこと、(2)Hg(II価)はアミン吸収液に吸収されるが、その後アミンによって0価に還元されると共に、同時にアミンは酸化することを確認した。
【0009】
本発明では、二酸化炭素含有排ガスに含まれるHg(II価)に注目する。まず、Hg(II価)をCCS設備等のような酸性ガスに入る前に0価に還元させ、吸収塔内でHg(II価)が吸収されるのを防ぐことを第一目的とする。これにより、CCS設備を循環する吸収溶媒の酸化(劣化)を抑制することを第二目的とする。また、再生塔出口の二酸化炭素ガス(製品二酸化炭素ガス)中に含まれる水銀量を減らすことを第三目的とする。
【0010】
したがって、本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置は、
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触により前記排ガスに含まれるII価の水銀を還元する水銀還元器と、
前記水銀還元器から導出されたガスに含まれる酸性ガスを酸性ガス吸収溶媒に吸収させる吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収溶媒を再生する再生器とを具備してなり、
前記再生器で再生された酸性ガス吸収溶媒を前記吸収器で再利用すること、を特徴とする。
【0011】
そして、本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触により前記排ガスに含まれるII価の水銀を還元する還元工程と、
前記水銀還元器から導出されたガスに含まれる酸性ガスを酸性ガス吸収溶媒に吸収させる吸収工程と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収溶媒を再生する再生工程と、
前記再生器で再生された酸性ガス吸収溶媒を前記吸収器で再利用する工程を具備してなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置および酸性ガスの除去方法によれば、水銀還元器において排ガス中に含まれる水銀(II価)が還元されることから、酸性ガスの除去装置の吸収器、その他の酸性ガスの除去装置ならびに酸性ガス吸収溶媒等に、有害で吸収溶媒の性能低下をもたらす水銀が導入ないし吸収されることが有効に抑制されている。
【0013】
よって、二酸化炭素回収貯蔵技術(CCS)等のような酸性ガスを除去ないし回収する際に、酸性ガス吸収溶媒の劣化抑止、酸性ガスの除去・回収効率の向上、安定化、耐久性の向上、維持管理コストの低減を図ることができる。かつ、水銀が酸性ガスの除去装置から環境中に放散されるのを効果的に防止することができる。
【0014】
そして、水銀還元を行う際に用いられる水銀還元液は、運転中の酸性ガスの除去装置から容易に取得することができる。また、酸性ガスの除去装置において使用されて劣化した酸性ガス吸収溶媒をも用いることができるので、従来は廃棄処分されていた溶媒を水銀還元液として有効活用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置の概要を示す図面。
図2】酸性ガス吸収溶媒中のHg(II価)含有量変化を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施例にもとづいて、図面を参照して説明する。
なお、本発明は下記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、下記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除することができる。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせることができる。
以下、本発明の実施形態について、必要に応じて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
<酸性ガスの除去装置>
図1は、本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置の概要を示す図面である。
本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置は、図1に示されるように、
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触により前記排ガスに含まれるII価の水銀を還元する水銀還元器101と、
前記水銀還元器101から導出されたガスに含まれる酸性ガスを酸性ガス吸収溶媒に吸収させる吸収器1と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収溶媒を再生する再生器9とを具備してなり、
前記再生器19で再生された酸性ガス吸収溶媒を前記吸収器1で再利用することを特徴とする。
【0018】
より詳細には、本発明の実施形態による好ましい酸性ガスの除去装置は、図1に示されるように、
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガス102に含まれる水銀(II価)を還元する水銀還元器101と、
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガス3と酸性ガス吸収溶媒4との接触によって、酸性ガス吸収溶媒2に酸性ガスを吸収させることにより、前記の酸性ガスを含有する排ガスから酸性ガスを除去する吸収器1と、
酸性ガスを吸収した酸性ガス含有吸収溶媒6から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス含有吸収溶媒6を再生する再生器9とを具備してなり、前記再生器9で再生した前記酸性ガス吸収溶媒5を前記吸収器1にて再利用するように構成されている。
【0019】
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガス102は、水銀還元器101内に導入され、水銀還元器101内で水銀還元液103と接触して、排ガス102中の水銀(II価)が還元される。水銀還元器101内で排ガス102と接触した水銀還元液103は、水銀還元器101の下部から取り出された後、水銀還元液移送ポンプ104によって、水銀還元器101の上部から水銀還元器101へ導入され、水銀還元器101内部で再び酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと接触するように循環される。
【0020】
前記水銀還元器101と吸収器1との間に水銀(II価)の濃度をオンラインで測定する水銀測定器107が配置されていて、この水銀測定器107を利用して、水銀濃度が規定値を超えた時には、水銀還元液の濃度を補正するために、水銀還元液を供給する水銀還元液導入口106および/または水銀還元液の排出する水銀還元液出抜口107が設けることが好ましい。特に、水銀測定器107の測定値を利用し、酸性ガス含有排ガスに含まれる水銀(II価)の濃度をオンライン測定して、規定値を超えた時には自動で水銀還元液導入口および/または水銀還元液抜出口の開閉を行なって、水銀還元液の濃度を補正することが好ましい。水銀測定器107としては、原子吸光測定器および原子蛍光測定器を用いることが好ましい。
【0021】
還元液は、排ガス中に含まれている水銀(II価)を還元できるものを用いることができ、好ましくは、例えばアミン系溶媒、シリコーンオイル、イオン性液体を含むものを用いることができる。この中では特にアミン系溶媒が好ましい。このアミン系溶媒としては、例えば酸性ガスの吸収溶媒を挙げることができる。
【0022】
本発明の実施形態において、水銀還元液としてアミン系溶媒を用いる場合、このアミン系溶媒は、例えば、図1に示されるような酸性ガスの除去装置において採用された酸性ガス吸収溶媒を用いることができる。そのような酸性ガス吸収溶媒としては、好ましくは、例えば、(イ)前記吸収器から導出されたガスの凝縮液、(ロ)前記再生器から導出されたガスの凝縮液、(ハ)上記(イ)および(ロ)以外から取得された酸性ガス吸収溶媒、のいずれか一種、あるいはこれら二種以上の混合溶媒等を用いることができる。
【0023】
また、水銀還元液としては、例えば図1に示されるような酸性ガス除去装置に用いられた結果、酸性ガスの吸収溶媒としての性能ないし機能が低下した使用ずみの酸性ガスの吸収溶媒を用いることができる。
【0024】
以上の通り、本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置では、水銀還元液を酸性ガスの除去装置から容易に取得することができる。また、本発明の実施形態では、酸性ガス吸収溶媒としての性能ないし機能が低下し、従来は廃棄処分されてきたような酸性ガスの吸収溶媒をも水銀還元液として有効活用することができる。
【0025】
図1に示される本発明の実施形態による酸性ガスの除去装置では、火力発電所等から排出された燃焼排ガス等の酸性ガスおよび水銀を含む排気ガスは、前記水銀還元器101で処理された後、吸収器1の下部から吸収器1へ導入される。この排気ガスは、吸収器1の下部領域に導入され、吸収器1上部から供給された吸収溶媒5と接触する。
【0026】
酸性ガス吸収溶媒のpH値は、少なくとも9以上に調整すればよいが、排気ガス中に含まれる有害ガスの種類、濃度、流量等によって、適宜最適条件を選択することが好ましい。
【0027】
また、この吸収溶媒は、上記のアミン系化合物、および水などの溶媒の他に、二酸化炭素の吸収性能を向上させる含窒素化合物、酸化防止剤、pH調整剤等、その他の化合物を任意の割合で含有することができる。
【0028】
このように、吸収器1の内部で酸性ガスを含有する排ガスが酸性ガス吸収溶媒と接触することで、この排気ガス中の酸性ガスが吸収溶媒に吸収され除去される。酸性ガスが除去された排気ガス4は、冷却器18で冷却され、気液分離器19で液相と気相とに分離され、液相部は吸収器1へ循環される。一方、気相部は、酸性ガスの除去装置の外部へと排出される。
【0029】
吸収器1で酸性ガスを吸収した吸収溶媒6は、移送ポンプ7によって、熱交換器8に送液され、加熱された後、再生器9に送液される。再生器9内部に導入された酸性ガス吸収溶媒は、再生器3内で上部から下部に移動し、この間に、酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスが脱離する。脱離した酸性ガス10は、冷却器15で冷却され、気液分離器13で液相と気相とに分離され、液相部は移送ポンプ12を利用して再生器9へ循環される。一方、気相部は、酸性ガスの除去装置の外部へと排出される。
【0030】
再生器9で再生した酸性ガス吸収溶媒は、ポンプ17を利用して、熱交換器8および吸収液冷却器16に送液され、吸収器1に循環されて、再び吸収器1内部で酸性ガスの吸収に用いられる。
【0031】
再生器9から導出された酸性ガス吸収液の一部は、リボイラー11で加熱された後、再び再生器9へ導入されている。このことによって、再生器内部の温度を制御することができる。
【0032】
図2は、酸性ガス吸収溶媒中のHg(II価)含有量変化を示すものである。図2に示されるように、Hg(II価)を含有する酸性ガス吸収溶媒中に、水銀還元液中を30分間バブリングして接触させると、酸性ガス吸収溶媒中の水銀(II価)の量は接触前の約1/50程度にまで減少させることが可能である。
【0033】
<酸性ガスの除去方法>
本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触により前記排ガスに含まれるII価の水銀を還元する還元工程(工程(イ))と、
前記水銀還元器から導出されたガスに含まれる酸性ガスを酸性ガス吸収溶媒に吸収させる吸収工程(工程(ロ))と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収溶媒を再生する再生工程(工程(ハ))と、
前記再生器で再生された酸性ガス吸収溶媒を前記吸収器で再利用する工程(工程(ニ))を具備してなること、を特徴とする。
【0034】
上記の工程(イ)~工程(ニ)を具備してなる本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、好ましくは、図1に示される酸性ガスの除去装置において実施することができる。
【0035】
酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触は、特に限定されないが、例えば、水銀還元液に排ガスを含むガスをバブリングさせて、水銀還元液によって水銀を還元する方法、水銀を含むガス気流中に水銀還元液を霧状に降らす方法(噴霧ないしスプレー方式)、あるいは磁製や金属網製の充填材の入った還元器内で、酸性ガスおよび水銀を含有するガスと水銀還元液とを向流接触させる方法などによって行うことができる。
【0036】
水銀還元器101内部の温度は、通常、室温から60℃以下が好ましい。より好ましくは50℃以下、特に好ましくは20~45℃、である。低温度で行うほど、吸収溶媒への影響は少なくなる。処理温度の下限値は、プロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。水銀還元器101の内部の圧力は、通常、ほぼ大気圧である。還元性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0037】
吸収器1において、酸性ガスを含むガスを酸性ガス吸収溶媒に接触させる方法は特に限定されないが、例えば、酸性ガス吸収溶媒中に酸性ガスを含むガスをバブリングさせて、吸収溶媒に酸性ガスを吸収させる方法、酸性ガスを含むガス気流中に酸性ガス吸収溶媒を霧状に降らす方法(噴霧ないしスプレー方式)、あるいは磁製や金属網製の充填材の入った吸収器内で酸性ガスを含むガスと酸性ガス吸収溶媒とを向流接触させる方法などによって行うことができる。
【0038】
そして、吸収器1の内部の温度は、通常、室温から60℃以下が好ましい。より好ましくは50℃以下、特に好ましくは20~45℃、である。低温度で行うほど、酸性ガスの吸収量は増加するが、処理温度の下限値は、プロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス吸収時の圧力は、通常、ほぼ大気圧である。吸収性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0039】
再生器9において、酸性ガス分離時の酸性ガス吸収溶媒の温度は、通常70℃以上であり、好ましくは80℃以上、より好ましくは90~120℃、である。温度が高いほど酸性ガスの脱離量は増加するが、温度を上げると吸収液の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス脱離時の圧力は、通常、1~3気圧程度とすることができる。脱離性能を高めるためより低い圧力まで減圧することもできるが、減圧のために要するエネルギー消費を抑えるためこの範囲で行うのが好ましい。
【0040】
酸性ガスを分離した後の酸性ガス吸収溶媒は、再び吸収器1に送られて循環使用(リサイクル)することができる。また、酸性ガス吸収の際に生じた熱は、一般的には水溶液のリサイクル過程において再生器に注入される水溶液の予熱のために熱交換器で熱交換されて冷却される。
【0041】
このようにして回収された酸性ガスの純度は、通常、99体積%以上と極めて純度が高いものである。この純粋な酸性ガスあるいは高濃度の酸性ガスは、化学品、あるいは高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いることができる。その他、回収した酸性ガスを、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯蔵することも可能である。
【0042】
上述した工程のうち、酸性ガス吸収溶媒から酸性ガスを分離して酸性ガス吸収溶媒を再生する工程が最も多量のエネルギーを消費する部分であり、この工程で、全体工程の約50~80%程度のエネルギーが消費されることがある。従って、酸性ガス吸収溶媒の再生工程における消費エネルギーを低減することにより、酸性ガスの吸収分離工程のコストを低減でき、排気ガスからの酸性ガス除去を経済的に行うことができる。
【0043】
上記の工程(イ)~工程(ニ)を具備してなる本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、必要に応じて、他の工程をさらに具備することができる。そのような他の工程の好ましい具体例としては、例えば、前記水銀還元器101から導出されたガス中の水銀濃度を測定する測定工程(工程(ホ))、前記水銀濃度を参照して前記水銀還元器101への前記水銀還元液の導入を制御する制御工程(工程(ヘ))を挙げることができる。
【0044】
このような工程(イ)~工程(ヘ)を具備してなる本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、図1に示される様に、吸収器1と前記水銀還元器101の間に設置された水銀測定器107を利用して、酸性ガス含有排ガスに含まれる水銀(II価)の濃度をオンライン測定して、規定値を超えた時には自動で水銀還元液導入口および/または水銀還元液抜出口の開閉を行なって、水銀還元液の濃度を補正することが好ましい。
【実施例
【0045】
石炭火力発電などから排出された排ガスに含まれる水銀は、Hg(0価)とHg(II価)の状態であることが一般的である。このうち、Hg(II価)については、二酸化炭素吸収溶媒の還元力によってHg(0価)に還元されるが、一方で二酸化炭素吸収溶媒は酸化し分解してしまうため、本来の機能である二酸化炭素吸収能が低下してしまう。しかし、もし水銀含有排ガスに含まれるHg(II価)を二酸化炭素吸収溶媒が循環する吸収器に入る前に還元させることが出来れば、二酸化炭素吸収溶媒の酸化分解が起きないため、都合がいい。例えば、水銀還元器に不要となった二酸化炭素吸収溶媒を循環させることで、水銀含有排ガスに含まれるHg(II価)はHg(0価)に還元されるため、吸収器内を循環する二酸化炭素吸収溶媒は酸化分解が起きにくくなる。そして、吸収器に入る前にHg(0価)に変化したことから、吸収器内を循環する二酸化炭素吸収溶媒にも取り込まれにくくなり、二酸化炭素を吸収後の二酸化炭素含有吸収溶媒が再生器に移送後、二酸化炭素ガスを再生される際に水銀が二酸化炭素ガスに同伴される心配もなく、再生器で出口の二酸化炭素ガス(製品CO)に含まれる水銀濃度も小さくなることから、製品COの純度も高くなる、と言う利点がある。
【0046】
なお、吸収器の前段に設ける水銀還元器内を循環する水銀還元液は、不要となった二酸化炭素吸収溶媒の他に、不要となった吸収塔出口ガス凝縮水や不要となった再生塔出口ガス凝縮水が挙げられる。
【0047】
水銀還元液を使用し続けると、水銀還元液自体は酸化劣化するため、水銀の還元能力は低下する。これにより、吸収器内を循環する二酸化炭素吸収溶媒への酸化影響が経時的に高まっていく。従って、吸収器へ導入される二酸化炭素含有排ガスに含まれるHg(II価)の濃度を制御することが望ましい。そこで、図1に示されるように、Hg(II価)の濃度をオンラインでモニタリングできる水銀測定器107を、二酸化炭素含有排ガスが流れるラインに設ける。任意に設定する水銀濃度の規定値を超えた場合、水銀還元液の還元能が低下したことになるため、水銀還元液の一部または全部を入れ替える作業を行う。入れ替え作業は、水銀測定器の出力値で開閉応答する水銀還元液導入口105と水銀還元液抜出口106を、片方または両方を開閉制御するシーケンスを設定する。これにより、自動で水銀還元液の入れ替えを行うため、二酸化炭素含有排ガスに含まれる水銀濃度を制御することが出来る。
【0048】
酸性ガスには、排ガスに含まれる二酸化炭素(CO)の他に、例えば、硫化水素(HS)、硫化カルボニル(COS)などの酸性ガスを挙げることができる。酸性ガスおよび水銀を含有するガスの典型例としては、例えば、火力発電所等から排出される燃焼排ガスのような二酸化炭素を含むガスを挙げることができる。また、酸性ガス吸収溶媒としては、例えば、酸性ガスが二酸化炭素である場合には、好ましくはアミン化合物を用いることがき、特に好ましくは、水、アミン系溶媒、シリコーンオイルないしイオン性液体等の溶媒を用いることができ、必要に応じて、酸化防止剤やpH調整剤等の補助資材等を含む液状の吸収剤を用いることができる。
【0049】
工程(イ)を実施する還元器101において、酸性ガスおよび水銀を含有する排ガスと水銀還元液との接触還元方法は、充填層方式や棚段方式、湿式スクラバー方式などが好ましい。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態による酸性ガスの除去装置および除去方法を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更あるいは付加等を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。そして、本発明の実施形態は、排ガス中に含まれる水銀のみが除去あるいは還元される態様のみに限定されず、水銀と共に、他の原子または化合物等が除去ないし環境への影響が少ない形態に改変される態様をも包含する。
【符号の説明】
【0051】
1:吸収器、2:吸収部、3:二酸化炭素含有排ガス、4:二酸化炭素除去排ガス、5:リーン溶媒、6:リッチ溶媒、7:リッチ液移送ポンプ、8:再生熱交換器、9:再生器、10:再生部、11:リボイラー、12:再生器凝縮水移送ポンプ、13:再生器出口セパレーター、14:二酸化炭素ガス、15:再生器出口ガスクーラー、16:リーン液クーラー、17:リーン液移送ポンプ、18:吸収器出口ガスクーラー、19:吸収器出口セパレーター、20:吸収器出口ガス凝縮水、21:再生器出口ガス凝縮水、101:水銀還元器、102:水銀含有排ガス、103:水銀還元液、104:水銀還元液移送ポンプ、105:水銀還元液導入口、106:水銀還元液抜出口、107:水銀測定器
図1
図2