(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】研磨組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230802BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230802BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2020505758
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007787
(87)【国際公開番号】W WO2019176558
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018048058
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】森山 和樹
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208301(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0052355(KR,A)
【文献】特開2000-028819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を研磨する研磨組成物であって、
アルミナ砥粒と、分散剤と、水とを含み、
前記アルミナ砥粒におけるアルミナ粒子の一次平均粒子径と、動的光散乱法により測定された
、クラスターを形成した前記アルミナ粒子の平均粒子径との比が、1:6.0~1:100である、研磨組成物。
【請求項2】
前記分散剤が、界面活性剤である、請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸塩である、請求項2に記載の研磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、日本国特願2018-048058号の優先権を主張し、引用によって本願明細書の記載に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、研磨組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、プリント基板、モジュール基板、パッケージ基板等の小型化及び高集積化に伴い、配線の微細化及び高密度化が進められている。この配線は、幾重にも重ねられて凹凸を形成することから、研磨により該凹凸を除去し、平坦にする必要がある。
【0004】
従来、プリント基板等では、樹脂からなる絶縁基板上に銅又は銅合金からなる配線を積層させることにより導電層を形成する。銅又は銅合金を研磨する研磨組成物としては、例えば、コロイダルシリカ等の砥粒と、銅錯化剤と、アルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミンと、水とを含む研磨組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、プリント基板等を研磨する際、絶縁基板を構成する樹脂を研磨したいという要望がある。特に、高い研磨速度で樹脂を研磨することが望まれている。しかしながら、従来、研磨速度を上げるために研磨組成物中に含まれる砥粒の粒子径を大きくすると、該砥粒が研磨組成物中で沈降するという問題があった。これにより、研磨組成物を研磨パッド上に均一に供給することができなかった。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、砥粒の沈降を抑制し、かつ、樹脂の研磨速度を向上させることが可能な研磨組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルミナ砥粒、分散剤及び水を含む研磨組成物を用いて樹脂を研磨する際、前記アルミナ砥粒におけるアルミナ粒子の一次平均粒子径と、動的光散乱法により測定された前記アルミナ粒子の平均粒子径との比を特定の範囲にすることにより、砥粒の沈降を抑制し、かつ、樹脂の研磨速度を向上させることができることを見出した。本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
本発明に係る研磨組成物は、樹脂を研磨し、アルミナ砥粒と、分散剤と、水とを含み、前記アルミナ砥粒におけるアルミナ粒子の一次平均粒子径と、動的光散乱法により測定された前記アルミナ粒子の平均粒子径との比が、1:6.0~1:100である。
【0010】
本発明に係る研磨組成物では、前記分散剤が、界面活性剤であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る研磨組成物では、前記界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸塩であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例及び比較例の研磨組成物を用いてポリイミドを研磨した際の研磨速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る研磨組成物について説明する。
【0014】
<研磨組成物>
本発明の実施形態に係る研磨組成物は、アルミナ砥粒、分散剤及び水を含む。
【0015】
(アルミナ砥粒)
本実施形態に係る研磨組成物は、アルミナ砥粒を含有する。前記アルミナ砥粒としては、特に限定されるものではなく、公知の各種アルミナ粒子の中から適宜選択して用いることができる。このような公知のアルミナ粒子としては、例えば、α-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナ、χ-アルミナ等が挙げられる。また、製法による分類に基づき、ヒュームドアルミナと称されるアルミナ(典型的にはアルミナ塩を高温焼成する際に生産されるアルミナ微粒子)、コロイダルアルミナ又はアルミナゾルと称されるアルミナ(例えばベーマイト等のアルミナ水和物)も、前記公知のアルミナ粒子の例に含まれる。これらのアルミナ粒子は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
前記研磨組成物における、前記アルミナ砥粒の含有量は、0.3質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以下であることが好ましい。前記アルミナ砥粒の含有量が前記範囲であると、高い研磨性を維持しつつ、保存安定性の低下を抑制することができる。前記アルミナ砥粒の含有量は、1.0質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。なお、前記アルミナ砥粒が2種以上含まれる場合、前記アルミナ砥粒の含有量は、前記アルミナ砥粒の合計含有量とする。
【0017】
本実施形態に係る研磨組成物は、アルミナ砥粒におけるアルミナ粒子の一次平均粒子径と、動的光散乱法により測定された前記アルミナ粒子の平均粒子径との比が、1:6.0~1:100であり、好ましくは1:10~1:50である。
【0018】
前記研磨組成物では、アルミナ砥粒におけるアルミナ粒子の表面に後述する分散剤が吸着することにより、アルミナ粒子がクラスターを形成する。前記研磨組成物は、前記アルミナ砥粒におけるアルミナ粒子の一次平均粒子径と、動的光散乱法により測定された前記アルミナ粒子(すなわち、クラスターを形成したアルミナ粒子)の平均粒子径との比が前記範囲であることにより、アルミナ砥粒の分散性が向上し、前記アルミナ砥粒の沈降を抑制することができる。その結果、研磨組成物を研磨パッド上に均一に供給することができる。また、前記研磨組成物中におけるアルミナ粒子の平均粒子径を、該アルミナ粒子の一次平均粒子径よりも大きくすることができるため、樹脂の研磨速度を向上させることができる。
【0019】
(分散剤)
本実施形態に係る研磨組成物は、分散剤を含有する。
【0020】
前記分散剤としては、例えば、界面活性剤、高分子化合物、リン酸塩類等が挙げられる。これらの中でも、分散剤は、界面活性剤であることが好ましい。分散剤が界面活性剤であると、前記アルミナ粒子の表面に界面活性剤が吸着することにより、前記アルミナ砥粒の分散性がより向上する。その結果、前記アルミナ砥粒の沈降をより抑制することができる。さらに、前記アルミナ粒子の表面に界面活性剤が吸着することにより、前記研磨組成物中におけるアルミナ粒子の平均粒子径を、該アルミナ粒子の一次平均粒子径よりもより大きくすることができるため、樹脂の研磨速度をより向上させることができる。なお、これらの分散剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリアクリル酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルカンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルカルボン酸、アルキルスルホン酸、及び、これらの塩、並びに、アルキル硫酸エステル塩等のアニオン界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩であることが好ましい。界面活性剤がアルキルベンゼンスルホン酸塩であると、前記アルミナ粒子の表面にアルキルベンゼンスルホン酸塩が吸着することにより、前記アルミナ砥粒の分散性がより向上する。その結果、前記アルミナ砥粒の沈降をより抑制することができる。さらに、前記アルミナ粒子の表面にアルキルベンゼンスルホン酸塩が吸着することにより、前記研磨組成物中におけるアルミナ粒子の平均粒子径を、該アルミナ粒子の一次平均粒子径よりもより大きくすることができるため、樹脂の研磨速度をより向上させることができる。なお、これらの界面活性剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記アルキルベンゼンスルホン酸としては、例えば、C6からC20のアルキルベンゼンスルホン酸が挙げられ、具体的には、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸は、アルミナ砥粒の沈降を抑制し、かつ、樹脂の研磨速度を向上させる観点から、ドデシルベンゼンスルホン酸であることが好ましい。また、アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0023】
前記研磨組成物における、前記分散剤の含有量は、アルミナ砥粒の分散性を向上させる観点から、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、また、3.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。なお、前記分散剤が2種以上含まれる場合、前記分散剤の含有量は、前記分散剤の合計含有量とする。
【0024】
(水)
本実施形態に係る研磨組成物は、アルミナ砥粒、グリシン及び界面活性剤が水に溶解又は懸濁されている。前記水は、アルミナ砥粒、グリシン及び界面活性剤の各種作用を阻害しないように、イオン交換水等の不純物が少ないものを用いることが好ましい。
【0025】
(pH調整剤)
本実施形態に係る研磨組成物は、pHが、7.0以上11.0以下であることが好ましい。斯かる構成により、樹脂に対する機械的研磨力が向上し、樹脂の研磨速度を向上させることができる。pHを前記範囲に調整するため、本実施形態に係る研磨組成物は、必要に応じて、pH調整剤を含んでいてもよい。前記pH調整剤としては、例えば、有機酸、無機酸等の酸(例えば、グリシン、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸等の有機酸、硝酸、塩酸等の無機酸等)、アンモニア、KOH等の無機塩基、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の有機塩基等が挙げられる。
【0026】
(消泡剤)
本実施形態に係る研磨組成物は、必要に応じて、消泡剤を含んでいてもよい。斯かる構成により、研磨組成物の泡立ちを抑制し、樹脂をより均一に研磨することができる。前記消泡剤としては、例えば、シリコーンエマルジョン、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。前記研磨組成物における、前記消泡剤の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以下であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明に係る研磨組成物は、前記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る研磨組成物は、上述の作用効果に限定されるものでもない。本発明に係る研磨組成物は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0028】
<研磨対象物>
本実施形態に係る研磨組成物は、樹脂を研磨する。前記樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係る研磨組成物で研磨する研磨対象物としては、樹脂を含むプリント基板、モジュール基板、パッケージ基板等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<研磨組成物の調整>
表1に示す組成の実施例及び比較例の研磨組成物を作製した。各成分の詳細を以下に示す。
アルミナ砥粒:A9225(サンゴバン(株)製)、一次平均粒子径=40.3nm
LAS:ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン(東邦化学工業(株)製)
KOH:東亞合成(株)製
グリシン:扶桑化学工業(株)製
シリコーン系消泡剤:シリコーンエマルジョン(センカ(株)製)
水:イオン交換水
【0032】
<pHの測定>
各実施例及び各比較例の研磨組成物のpHは、pHメーターを用いて測定した。
【0033】
<アルミナ粒子の一次平均粒子径>
アルミナ粒子の一次粒子径は、粒子を球状と仮定し、下記(i)式により算出した。なお、下記(i)式において、アルミナ密度は、4g/cm3とした。
d=6/ρS ・・・(i)
d:一次粒子径(μm)
ρ:アルミナ密度(g/cm3)
S:比表面積(m2/g)
【0034】
上記(i)式における比表面積は、比表面積・細孔径分析装置QUADRASORB evo(Quantachrome Co.製)を用いた窒素ガス吸着法(BET法)により測定した。なお、アルミナ砥粒としては、アルミナスラリーを85℃で24時間真空乾燥したものを用いた。以下に、詳細な条件を示す。
前処理:アルミナ砥粒を測定セルに入れ、85℃で2時間真空脱気した。
測定原理:定容法
吸着ガス:窒素ガス
測定温度:77.35K(-195.8℃)
セルサイズ:スモールセル 1.5cm3(ステム外径9mm)
測定項目:P/P0=0~0.3の吸着側数点
解析項目:BET多点法による比表面積
【0035】
上述の方法により、同一のアルミナ砥粒について比表面積を2回測定し、それぞれの比表面積から上記(i)式により得られた一次粒子径の平均値を、一次平均粒子径とした。
【0036】
<アルミナ粒子の平均粒子径の測定>
アルミナ粒子の平均粒子径は、ゼータ電位・粒径測定システムELSZ-2(大塚電子(株)製)を用いて、動的光散乱法により測定した。そして、得られたアルミナ粒子の体積粒度分布の累積体積頻度が50%となる粒子径を、アルミナ粒子の平均粒子径とした。なお、測定は、超純水で100倍に希釈したアルミナスラリーを測定セルに充填して行った。また、レーザーとしては、半導体レーザーを用いた。アルミナ粒子の平均粒子径、及び、アルミナ粒子の一次平均粒子径と前記平均粒子径との比を表1に示す。なお、比較例2及び3の研磨組成物では、アルミナ砥粒が沈降したため、アルミナ粒子の平均粒子径を測定することができなかった。
【0037】
<研磨速度の測定>
各実施例及び各比較例の研磨組成物を用いて、下記条件で被研磨物を研磨し、研磨速度を求めた。結果を表1及び
図1に示す。
被研磨物:ポリイミド(シリコンウェハに成膜)
研磨機:FREX((株)荏原製作所製)
研磨圧:3psi
スラリー流量:300mL/min
プラテン回転数/キャリア回転数:103rpm/97rpm
研磨時間:1min
研磨パッド:IC1000(ニッタ・ハース(株)製)
【0038】
<分散安定性の評価>
各実施例及び各比較例の研磨組成物100mlを、側面が透明又は半透明であるプラスチック容器に取り分けて充分に撹拌した後、室温で10分間静置することにより、各研磨組成物のスラリーを得た。そして、各スラリーを目視観察することにより、分散安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に示す。
○:砥粒が容器下部に沈降した様子が観察されない。
×:砥粒が容器下部に沈降している様子が観察される。
【0039】
【0040】
表1に示すように、本発明の要件をすべて満たす実施例1~3の研磨組成物は、アルミナ砥粒の沈降を抑制し、樹脂の研磨速度を向上させることができた。
【0041】
一方、比較例1の研磨組成物は、分散剤を含有せず、かつ、アルミナ粒子の一次平均粒子径と前記平均粒子径との比が本発明で規定する範囲を満たさないため、樹脂の研磨速度を向上させることができなかった。
【0042】
比較例2及び3の研磨組成物は、グリシンを含有することでpHが低下する(アルミナの等電点に近付く)ため、アルミナ粒子が凝集し易くなる。しかしながら、分散剤を含有しないため、アルミナ砥粒がすぐに沈降した。