(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】船舶又は潜水艦用マスト
(51)【国際特許分類】
B63G 8/04 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
B63G8/04
(21)【出願番号】P 2020528477
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 EP2018082609
(87)【国際公開番号】W WO2019102015
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-26
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511093144
【氏名又は名称】ナバル グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ポーミエ
(72)【発明者】
【氏名】アルノー トルーベ
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-278190(JP,A)
【文献】米国特許第01335059(US,A)
【文献】仏国特許出願公開第02288671(FR,A1)
【文献】米国特許第06369961(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0144364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63G 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶又は潜水艦(10)への設置が意図されたマスト(16)であって、該マスト(16)は、軸(Z-Z’)に沿って延びる金属の構造体(26)と、軸(Z-Z’)と垂直の方向に該金属の構造体(26)の外側に配置されるフェアリング(28)とを有し
、該フェアリング(28)は、該金属の構造体(26)に取り外し可能に組み付けられていて、
該フェアリング(28)は、剛性材料から作られていて、該剛性材料は、樹脂の母材と、該母材中にガラスマイクロビーズとを有するシンタクチックフォームであることを特徴とする、マスト(16)。
【請求項2】
前記フェアリング(28)は、前記金属の構造体(26)の支柱(34)に弾性的に外嵌することで組み付けられている、請求項1に記載のマスト(16)。
【請求項3】
前記フェアリング(28)は、前記支柱(34)が入る収容部(40)を画定し、該フェアリング(28)は、該収容部に繋がる隙間(44)を画定する変形部(42)を有し、該隙間(44)の横幅(e)は、該支柱(34)の横幅よりも小さい、請求項2に記載のマスト(16)。
【請求項4】
前記金属の構造体(26)は、棒状体(60)から突き出た複数の支持体(62)を有し、前記フェアリング(28)は、該支持体(62)が入る切り欠き部(56)を画定し、該支持体(62)は、該フェアリング(28)を該金属の構造体に対して支えている、請求項1
~3のいずれか1項に記載のマスト(16)。
【請求項5】
各支持体(62)は少なくとも1つの取り付け用開口部(64)を画定し、前記フェアリング(28)は、該フェアリング(28)を前記金属の構造体(26)に組み付ける時に、該取り付け用開口部(64)と合わさるのに適切な、少なくとも1つの貫通穴(58)を画定し、該取り付け用開口部(64)及び該貫通穴(58)には、該フェアリング(28)の該金属の構造体(26)への取り付け部材(66)を入れることができる、請求項
4に記載のマスト(16)。
【請求項6】
前記フェアリング(28)は、前記金属の構造体(26)上に組み立てられ、かつ、軸(Z-Z’)と平行の方向に並んだ、複数の構成要素(50)から作られる、請求項1~
5のいずれか1項に記載のマスト(16)。
【請求項7】
前記金属の構造体(26)上の前記フェアリング(28)の接触面(46)が、該フェアリング(28)を該金属の構造体(26)に可逆的に取り付ける接着剤を有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載のマスト(16)。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のマスト(16)を少なくとも1つ有する、船舶又は潜水艦(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶又は潜水艦への設置が意図された種類のマストであって、該マストは、軸に沿って延びる金属の構造体と、軸と垂直の方向に該構造体の外側に配置されるフェアリング(28)とを有するものに関する。本発明は、該マストを有する船舶又は潜水艦にも関する。
【背景技術】
【0002】
船舶又は潜水艦は通常、マストの形で配置された船楼を有し、該船楼は、具体的には、センサー又はアンテナ等の測定又は通信機器を運ぶために使われる。潜水艦の場合は、これらのマストは一般的に、潜水中に周囲を把握するために使われる潜望鏡を有し、同様に、燃焼のため酸素供給が求められる船舶のエンジンを駆動させることを意図した外気の吸気管を有する。
【0003】
前記マストの空気力学特性、及び/又は、流体力学特性を向上するため、同様に前記金属の構造体を保護するため、例えばマストのような金属の構造体の周囲に、前記フェアリングを配置することが知られている。該フェアリングは、一般的に、該マストの金属の構造体の周囲に配置された複合体の外皮から成り、該フェアリングは、例えば、樹脂の母材とガラス繊維から作られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようなフェアリングには多くの欠点がある。まず、このようなフェアリングは耐衝撃性が良くない点である。特に潜水艦の場合には、前記マストは水中に沈められ、漂流物にぶつかる可能性があるので、衝撃は度々発生し得る。該フェアリングに与えられる損傷は、完全に該フェアリングを交換することを必要とするだろう。次に、このようなフェアリングは、該マストの金属の構造体に接触することを不可能にする点である。例えば、保守作業の間、該金属の構造体へのこのような接触が必要になった時、該フェアリングを破壊し、及び、交換する必要がある。最後に、このようなフェアリングは安価であり、該フェアリングの組み立て手順が比較的複雑という点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明の目的は、前記マストの構造体へのより簡単な接触を可能にし、導入と保守が容易なマストフェアリングを提供することである。その目的のため、本発明は、該フェアリングが該構造体に可逆的に取り付けできることを特徴とする前述の種類のマストに関する。
【0006】
特有の実施例によれば、単独で又は技術的に可能な組み合わせで検討される本発明に係るマストは、以下に示す1つ以上の特徴を有する。
- 該フェアリングは、該金属の構造体の支柱に弾性的に外嵌することで組み付けられている。
- 該フェアリングは、支柱が入る収容部を画定し、該フェアリングは、該収容部に繋がる隙間を画定する変形部を有し、該隙間の横幅は、該支柱の横幅よりも小さい。
- 該金属の構造体は、棒状体から突き出た複数の支持体を有し、該フェアリングは、該支持体が入る切り欠き部を画定し、該支持体は、該フェアリングを該金属の構造体に対して支えている。
- 各支持体は少なくとも1つの取り付け用開口部を画定し、該フェアリングは、該フェアリングを前記金属の構造体に組み付ける時に、該取り付け用開口部と合わさるのに適切な、少なくとも1つの貫通穴を画定し、該取り付け用開口部及び該貫通穴には、該フェアリングの該金属の構造体への取り付け部材を入れることができる。
- 該フェアリングはエラストマー材料から作られている。
- 該フェアリングは、剛性材料、特に、該剛性材料は、樹脂の母材と、該母材中にガラスマイクロビーズとを有するシンタクチックフォームから作られている。
- 該フェアリングは、該金属の構造体上に組み立てられ、かつ、軸と平行の方向に並んだ、複数の構成要素から作られる。
- 該金属の構造体上のフェアリングの接触面が、該フェアリングを該金属の構造体に可逆的に取り付ける接着剤を有する。
【0007】
本発明は、上記で説明したマストを少なくとも1つ有する、船舶又は潜水艦に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明は、単なる例として提供され、添付の図面を参照する以下の説明を読むことによってより良好に理解されるだろう。
【
図2】本発明に係る第1の実施例によるマストの側面図
【
図5】本発明に係るマストの第2の実施例によるマストを部分的に分解した側面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、水面(14)から浅い位置で、水(12)の中に潜る潜水艦(10)を示す。該潜水艦(10)は2つのマスト(16)を有し、該マスト(16)は、上部タレット(20)から延び、水面(14)から突き出ている。該マスト(16)は、実質上、Z-Z’軸に沿って延び、Z-Z’軸は、実質上、水面(14)に対して垂直である。第1の実施形態の詳細を示す
図2~4では、該マスト(16)は、外気の吸気管(22)を有し、第2の実施形態の詳細を示す
図5又は6では、標準マスト(24)を有する。該外気の吸気管(22)は、シュノーケルとも呼ばれ、実質上垂直な軸Z-Z’に沿って昇降可能な金属の構造体(26)と、軸Z-Z’と垂直の方向に該金属の構造体(26)の外側に配置される、フェアリング(28)とを有する。
【0010】
図2において、前記金属の構造体(26)は管状体(30)を有し、該管状体(30)は、該管状体(30)の上端に出る内管を画定し、該内管は、船舶(10)のエンジンに供給するための空気を、該船舶(10)の外から中に運ぶのに適している。該金属の構造体(26)は、該管状体(30)の潜水艦(10)の進行方向前方に位置し、軸Z-Z’と実質上平行に延びる支柱(34)を有する。該支柱(34)は、例えば、該管状体(30)の両端に固定される、実質上円筒形で細長い形の棒状体である。
【0011】
前記フェアリングは、前記金属の構造体(26)に脱着可能に取り付けができ、前記支柱(34)によって支えられる。「脱着可能に」とは、該フェアリング(28)は該金属の構造体(26)から取り外し可能であることを意味し、具体的には、該フェアリング(28)又は該金属の構造体(26)を傷つけることなく、該フェアリング(28)を修理又は交換をすることなく該金属の構造体(26)にそのまま再度組み立てできるように、該金属の構造体(26)から取り外し可能であることを意味する。
【0012】
第1の実施形態では、前記フェアリング(28)は弾性的に外嵌することで、前記支柱(34)に取り付けられる。該フェアリング(28)は
図3及び
図4に詳細に示される。該フェアリング(28)は、軸Z-Z’と平行の方向に延びる角柱形状をしており、流体力学特性を付与するために、実質上、三角形の矢尻形状の断面を有する。該フェアリング(28)は、該支柱(34)を嵌め込むのに適切な、実質的に円筒形の収容部(40)を画定し、該収容部は、該支柱(34)の直径と等しい、該支柱(34)の直径よりもわずかに小さい内径を有する。該フェアリング(28)は、該収容部(40)に繋がる隙間(44)を画定する、変形部(42)を有する。
【0013】
図2から4に示す例では、前記フェアリング(28)は、例えば、エラストマーのような弾性材料の単一の部品によって作られる。従って、該フェアリング(28)全体は、前記変形部(42)を有する。エラストマーは、例えば、高分子量のポリオレフィン又は、天然若しくは合成ゴムである。エラストマーは、有利には、硬度がショアA50~80であり、ショアA70に近いほど有利である。変更形態の一例として、該フェアリング(28)は、少なくとも1つの変形部(42)を形成する、異なる材料から作られた複数の部品を有する。
【0014】
図4に示す通り、前記隙間(44)は前記支柱(34)の直径よりも小さい横幅eを有する。従って、前記変形部(42)は、弾性的に該支柱(34)を掴み、前記フェアリング(28)を前記金属の構造体(26)に保持する。該隙間(44)は、横幅eを大きくするために可逆的に変形することができ、そして、該支柱(34)は、該フェアリング(28)の取り付け及び取り外しの間に、該隙間(44)を通過できる。
【0015】
有利には、前記支柱(34)上のフェアリング(28)の接触面(46)は、該フェアリング(28)の取り付けを向上するために接着剤を有する。該接触面(46)は、前記収容部(40)の円筒部において、該収容部(40)の周囲に位置する。該接着剤は、剥がすことができる接着剤であり、つまり、接着剤は、該接触面(46)の実質上接線方向に発生するせん断応力には適度な抵抗を持ち、該接触面(46)の実質上垂直方向に発生する剥離応力には低い抵抗を持つ。該フェアリング(28)の取り付けは、「仮接着」、「再配置可能な接着」又は「非永続的接着」として知られる種類の接着剤によって行われる。
【0016】
具体的には、剥がすことができる接着剤のせん断強度は5 MPa未満であり、有利には1.5 MPa未満であり、かつ、剥離強度は2 MPa未満、有利には0.5 MPaである。該接着剤の低い剥離強度によって、前記支柱(34)から前記フェアリング(28)を剥がして取り外すための低い抵抗を可能にしつつ、該フェアリング(28)を前記金属の構造体(26)に取り外し可能に組み付けることができる。該接着剤は、該支柱(34)周囲での該フェアリングの回転運動を防ぐ。これは、該接着剤が、剥離応力に比べて大きなせん断応力を生じることに関する。該フェアリング(28)は、第1の実施形態によると、エラストマー材料から作られているため漂流物による衝撃への抵抗がより大きく、かつ、抗力による振動を効果的に吸収する。
【0017】
図5及び6に示される第2の実施形態によると、標準マスト(24)は構造体とフェアリングとを有し、該フェアリングは、該構造体上に組み立てられ、かつ、軸Z-Z’と平行の方向に並んだ、複数の分離した構成要素(50)を有する。
図5内において、構成要素(50)は、1つは該構造体上に組み立てられ、もう片方は該構造体から分離されている。
図6に詳細を示す通り、各構成要素(50)は、矢尻形状の断面を持ち、軸Z-Z’と平行方向に延びる角柱形状をしている。各構成要素(50)は、構成要素(50)の背面部に位置し、接触面(54)によって区切られた、実質上、半円筒形状の収容部(52)を画定する。構成要素(50)は、例えば、剛性材料、特に、樹脂の母材の中に中空ガラスビーズを有し、射出成型されたシンタクチックフォームによって作られる。
【0018】
各構成要素(50)は、少なくとも1つの取り付け用切り欠き部(56)を画定し、該取り付け用切り欠き部(56)は、前記収容部(52)内に位置し、軸Z-Z’と平行の方向に構成要素(50)の高さ全体に延びる。構成要素(50)は、さらに、2つの実質上円筒形状の貫通穴(58)を画定し、該貫通穴(58)は、軸Z-Z’と直交する方向に延び、取り付け用切り欠き部(56)の中を通り、構成要素(50)の反対側の面に到達する。
【0019】
第2の実施形態では、前記構造体は、軸Z-Z’と平行の方向に延びる棒状体(60)と、軸Z-Z’と直交する方向に該棒状体(60)から飛び出た複数の支持体(62)とを含む。該支持体(62)は、該構造体上に構成要素(50)が組み付けられる間、各構成要素(50)の取り付け用切り欠き部(56)の中に篏合するのが適切であり、従って、構成要素(50)を該構造体状に保持する。取り付け用切り欠き部(56)の中に篏合する該支持体(62)は、該フェアリング(28)が該構造体の周囲で回転することを防ぐ。
【0020】
説明された例によると、各支持体(62)は2つの取り付け用開口部(64)を画定する。該取り付け用開口部(64)は、構成要素(50)が前記構造体上に組み立てられる時に、1つの構成要素(50)の貫通穴(58)は、2つの連続する支持体(62)の取り付け用開口部(64)上に位置するように配置される。次いで、前記フェアリング(28)は、該貫通穴(58)及び該取り付け用開口部(64)に入り、該構造体上に構成要素(50)を取り付けるための、取り付け部材(66)を有する。取り付け部材(66)は、例えば、ボタンである。図に示した以外の実施形態では、該支持体(62)はかぎ形であり、取り付け用切り欠き部(54)の中に配置されたピンと協働し、取り付け部材(66)を使わずに、該構造体に対して構成要素(50)を保持するのに適している。
【0021】
取り外し可能に取り付けられた前記フェアリング(28)を有する第2の実施形態によれば、前記マスト(16)は、1つ又は複数の構成要素(50)を取り外すために、1つ又は複数の取り付け部材(66)が引き抜かれ、該構成要素(50)は次にそのまま再度組み立てることができる。さらに、該フェアリング(28)は、例えば漂流物による衝撃等で、損傷した場合に、損傷した構成要素(50)のみを取り換えることで、部分的に取り換えることができる。シンタクチックフォームから作られた該フェアリング(28)は、実質的に低い密度を維持しつつ、静水圧に対して優れた耐性を有する。