(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】RNAからの核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 9/12 20060101AFI20230802BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20230802BHJP
C07K 14/32 20060101ALI20230802BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20230802BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C07K14/195
C07K14/32
C12N15/54
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2020530136
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2019026513
(87)【国際公開番号】W WO2020013058
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018133086
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】上森 隆司
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲介
(72)【発明者】
【氏名】秋友 美和
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/143436(WO,A2)
【文献】特開2017-178804(JP,A)
【文献】特表2000-508538(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054510(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090685(WO,A1)
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,2018年03月21日,Vol.499, No.9,pp.170-176
【文献】DNA Repair,2005年,Vol.4, No.12,pp.1390-1398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00- 9/99
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの変異体であって、ここで、
前記DNAポリメラーゼは、以下のA1~A12の12アミノ酸からなる配列:
A1は、
ロイシンであり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、
グルタミンであり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、
ロイシンであり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、
イソロイシンであり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、
グルタミン酸であり;
及び
A12は、
アラニンであ
る;
を含む、配列番号1、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列に対して、前記A1~A12の12アミノ酸からなる配列以外の部分において少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼであり、
前記変異体において、前記のA3及び/又はA10のアミノ酸が
リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択される塩基性アミノ酸に置換されており、ここで、前記A10が塩基性アミノ酸残基であり、かつ置換されている場合は、変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換されて
おり、及び
同一条件で逆転写を実施した場合に変異導入前のDNAポリメラーゼよりも逆転写反応産物の量が増加していることを特徴とする、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体。
【請求項2】
A3及びA10のアミノ酸がアルギニンに置換されている、請求項1記載の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を含むキット。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を含む組成物。
【請求項5】
RNAからの核酸増幅に適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの製造方法であって、
(1)
以下のA1~A12の12アミノ酸からなる配列
:
A1は、
ロイシンであり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、
グルタミンであり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、
ロイシンであり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、
イソロイシンであり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、
グルタミン酸であり;
及び
A12は、
アラニンであ
る;
を含む、配列番号1、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列に対して、前記A1~A12の12アミノ酸からなる配列以外の部分において少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを選択する工程;及び
(2)工程(1)で選択されたDNAポリメラーゼの、上記12アミノ酸からなる配列におけるA3及び/又はA10のアミノ酸
をリシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択される塩基性アミノ酸に置換する工程、ここで、塩基性アミノ酸残基であるA10を置換する場合は、変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換する
、を含む方法。
【請求項6】
工程(2)において、A3及びA10がアルギニンに置換される、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの改良方法であって、以下のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列を含む、
配列番号1、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列に対して、前記A1~A12の12アミノ酸からなる配列以外の部分において少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼにおいて、A3及び/又はA10のアミノ酸を
リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択される塩基性アミノ酸に置換することを含み、ここで、塩基性アミノ酸残基であるA10を置換する場合は、別の塩基性アミノ酸残基に置換することを
含む、方法:
A1は、
ロイシンであり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、
グルタミンであり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、
ロイシンであり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、
イソロイシンであり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、
グルタミン酸であり;及び
A12は、
アラニンである。
【請求項8】
A3及びA10がアルギニンに置換される、請求項7記載の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAからの核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体に関する。さらに、既存のDNAポリメラーゼについてRNAからの核酸増幅活性を向上させるための方法、および当該RNAからの核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼはゲノムの複製や保持という、世代から世代へと遺伝情報を正確に伝達するための中心的な役割を担っている。DNAポリメラーゼは、DNAの合成を担う酵素として細胞内で機能しており、鋳型DNA又は鋳型ポリヌクレオチドの複製に必要なオーダーのMg2+のような金属活性化因子の存在下、デオキシリボヌクレオシド3リン酸を重合付加している。in vivoにおいて、DNAポリメラーゼはDNA複製、DNA修復、組換え及び遺伝子増幅を含む一連のDNA合成過程に関与している。それぞれのDNA合成過程の間に、鋳型DNAは一度又は数回複製され、同一の複製物を生成する。これに対しin vitroでは、例えばポリメラーゼ連鎖反応の際のように、DNA複製は何回も繰り返すことができる。
【0003】
いわゆる逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、増幅によってRNA標的を検出又は定量するために多くの用途に使用される技術である。PCRによってRNA標的を増幅するために、最初にRNA鋳型をcDNAに逆転写することが必要である。典型的なRT-PCR法は、RNA鋳型からcDNAを合成する逆転写酵素と、生成したcDNAを鋳型として核酸増幅を行う耐熱性DNAポリメラーゼによって行われる。この場合、使用する逆転写酵素と耐熱性DNAポリメラーゼのそれぞれに適した反応液組成を設定する必要がある。場合によっては、逆転写反応と続く核酸増幅反応の間で反応チューブの蓋を開けることもあり、クロスコンタミネーションの危険性を無視できない。そのため反応容器を開けることなく逆転写反応とPCRを連続実施するワンステップRT-PCR法が開発された。この方法では、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼが用いられることがある。しかしながら、逆転写反応とPCRを同一反応液組成で行うことから、逆転写反応とPCRのバランスを取ることが必須であった。また、逆転写反応とPCRを同一反応液組成である場合の逆転写効率を向上させるための技術が報告されてきた。(特許文献1~3参照)。
【0004】
さらに最近では、いろいろな等温核酸増幅反応方法が提案され、実用化されてきている。この等温核酸増幅方法においても、RNAを鋳型とした逆転写反応と組み合わせることが多くなってきているが、上記RT-PCR法と同じ問題が発生してきている。即ち、RT-等温核酸増幅方法においても、逆転写反応と等温核酸増幅を同一反応液組成で行うこと、逆転写反応と等温核酸増幅のバランスを取ることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特許第3844975号公報
【文献】国際公開WO2012/139748号パンフレット
【文献】国際公開WO2014/090836号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同一容器内で逆転写反応と核酸増幅反応を行うのに適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを創生する遺伝子工学的改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、逆転写反応と核酸増幅反応を行うのに適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を開発すべく鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定のアミノ酸配列部位に変異を導入することによって、従来技術よりすぐれた逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を作製する方法を見出すことに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第一の発明は、A1~A12の12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの変異体であって、ここで
A1は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、親水性の中性アミノ酸残基であり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、酸性アミノ酸残基であり;
A12は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;及び
前記のA3及び/又はA10のアミノ酸が変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換されていることを特徴とする、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体、に関する。
【0009】
本発明の第一の発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体は、変異導入前の上記12アミノ酸からなる配列の、A1がロイシン、A3がグルタミン、A5がロイシン、A7がイソロイシン、A11がグルタミン酸及びA12がアラニンであるものが好適である。また、本発明の第一の発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体において、上記12アミノ酸からなる配列のA3及び/又はA10のアミノ酸がリシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されているものが好適である。特に限定はされないが、アルギニンへの置換が好ましい。
【0010】
本発明の第一の発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体は、同一容器内で逆転写反応と核酸増幅反応を行うのに適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ由来であれば特に限定はされないが、例えばサーマス・サーモフィルス由来DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアティカス由来DNAポリメラーゼ、バチルス・カルドテナックス由来DNAポリメラーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス由来DNAポリメラーゼあるいはアリシクロバチラス・アシッドカルダリウス由来DNAポリメラーゼの変異体が好適である。
【0011】
本発明の第二の発明は、本発明の第一の発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を含むキットに関する。当該キットは、後述の逆転写反応と核酸増幅反応に適した反応溶液を調製するキットとして、各種成分を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の第三の発明は、本発明の第一の発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を含む組成物に関する。当該組成物は、後述の逆転写反応と核酸増幅反応に適した組成物として、各種成分を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の第四の発明は、RNAからの核酸増幅に適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの製造方法であって、
(1)以下のA1~A12の12アミノ酸からなる配列を含む、DNAポリメラーゼを選択する工程;
A1は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、親水性の中性アミノ酸残基であり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、酸性アミノ酸残基であり;
A12は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;及び
(2)工程(1)で選択されたDNAポリメラーゼの、上記12アミノ酸からなる配列におけるA3及び/又はA10のアミノ酸が変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換する工程、を含む方法に関する。
【0014】
本発明の第四の発明の製造方法は、工程(1)が上記12アミノ酸からなる配列において、A1がロイシン、A3がグルタミン、A5がロイシン、A7がイソロイシン、A11がグルタミン酸及びA12がアラニンであるDNAポリメラーゼを選択する工程であってもよい。さらに工程(2)は、A3及び/又はA10がリシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換される工程であってもよい。
【0015】
本発明の第四の発明の製造方法は、当該変異体をコードする核酸を作成し、適切な宿主に導入して変異体を発現させる方法を組み合わせてもよい。
【0016】
本発明の第五の発明は、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの改良方法であって、以下のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼにおいて、A3及び/又はA10のアミノ酸を別の塩基性アミノ酸残基に置換することを特徴とする方法:
A1は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、親水性の中性アミノ酸残基であり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、酸性アミノ酸残基であり;及び
A12は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基である、に関する。
【0017】
本発明の第五の発明の改良方法において、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼは、例えば、上記12アミノ酸からなる配列の、A1がロイシン、A3がグルタミン、A5がロイシン、A7がイソロイシン、A11がグルタミン酸及びA12がアラニンであるDNAポリメラーゼを選択することができる。さらに、本発明の第五の発明の改良方法において、上記12アミノ酸からなる配列のA3及び/又はA10を例えば、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換することができる。
【0018】
本発明の第一から第五の発明において、A1~A12の12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼは、
A1は、ロイシン;
A2は、セリンあるいはアラニン;
A3は、グルタミン;
A4は、グルタミン酸あるいはアスパラギン;
A5は、ロイシン;
A6は、アラニンあるいはアスパラギン;
A7は、イソロイシン;
A8は、プロリン、セリンあるいはスレオニン;
A9は、チロシン、アルギニンあるいはグルタミン;
A10は、グルタミン酸あるいはリシン;
A11は、グルタミン酸;
A12は、アラニン;及び
前記のA3及び/又はA10のアミノ酸が変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換された変異体が好ましく、例えば、A3及び/又はA10のアミノ酸がリシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されたアミノ酸に置換されたDNAポリメラーゼの変異体であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、同一容器内で逆転写反応と核酸増幅反応を行うのに適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体並びにその製造方法が提供される。本発明によれば、上記A1~A12で示される特定のアミノ酸配列部位を有する逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼであれば、本発明の変異導入を行うことができ、その結果として従来よりも逆転写反応時間を短縮でき、さらにつづく核酸増幅反応用の初期鋳型量として十分な数量を生成させることができ、逆転写酵素反応と核酸増幅反応を従来以上の検出感度を短時間で達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体
本発明の第一の態様は、逆転写酵素反応と核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体に関するものである。本発明の変異体は、A1~A12の12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの変異体であって、ここで
A1は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、親水性の中性アミノ酸残基であり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、酸性アミノ酸残基であり;
A12は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり、そして前述のA3及び/又はA10のアミノ酸が別の塩基性アミノ酸残基に置換された変異体である。
【0021】
上記構成の変異体は、一容器で実施される逆転写反応と核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体である。
【0022】
本明細書において「分枝鎖アミノ酸残基」は、バリン残基、イソロイシン残基あるいはロイシン残基が例示される。同様に「親水性の中性アミノ酸残基」は、セリン残基、スレオニン残基、アスパラギン残基あるいはグルタミン残基が例示される。「疎水性の脂肪族アミノ酸残基」は、グリシン残基あるいはアラニン残基が例示される。「酸性アミノ酸残基」は、アスパラギン酸残基あるいはグルタミン酸残基が例示される。「疎水性の芳香族アミノ酸残基」は、フェニルアラニン残基、チロシン残基あるいはトリプトファン残基が例示される。「塩基性アミノ酸残基」は、リシン残基、アルギニン残基あるいはヒスチジン残基が例示される。
【0023】
本発明の具体的な態様としては、例えば上記A1~A12からなる12アミノ酸配列のうち、A1がロイシン、A3がグルタミン、A5がロイシン、A7がイソロイシン、A11がグルタミン酸及びA12がアラニンである、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼが変異体の材料として使用できる。
【0024】
本発明の変異体の好ましい例は、上記のA1~A12の12アミノ酸からなる配列を含み、かつ逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼにおいて、A3及び/又はA10のアミノ酸が、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている変異体である。特に好ましくは、アルギニンに置換した変異体である。
【0025】
さらに好ましくは、A1~A12の12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼであって、
A1は、ロイシン;
A2は、セリンあるいはアラニン;
A3は、グルタミン;
A4は、グルタミン酸あるいはアスパラギン;
A5は、ロイシン;
A6は、アラニンあるいはアスパラギン;
A7は、イソロイシン;
A8は、プロリン、セリンあるいはスレオニン;
A9は、チロシン、アルギニンあるいはグルタミン;
A10は、グルタミン酸あるいはリシン;
A11は、グルタミン酸;
A12は、アラニン;及び
前記のA3及び/又はA10のアミノ酸が変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換された変異体が例示され、例えば、A3及び/又はA10のアミノ酸がリシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されたアミノ酸に置換されたDNAポリメラーゼの変異体であってもよい。
【0026】
特に限定はされないが、例えばサーマス・サーモフィルス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの場合、当該ポリメラーゼの配列番号1で680位から691位までのアミノ酸配列が前記A1からA12に相当し、具体的には「LSQELAIPYEEA」(配列番号18)のアミノ酸配列である。従って、サーマス・サーモフィルス由来DNAポリメラーゼのA3(682位)のグルタミン残基及び/又はA10(689位)のグルタミン酸残基を、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸、好ましくはアルギニンに置換変異させた変異体が本発明の変異体として例示される。「LSRELAIPYREA」(配列番号19)を有するサーマス・サーモフィルス由来DNAポリメラーゼの変異体が逆転写酵素反応と核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体として好適に使用できる。例えば、本願明細書実施例1で調製したサーマス・サーモフィルス由来DNAポリメラーゼの変異体b13b46は、上記Q682RおよびE689Rを有する変異体である。
【0027】
同様の変異体は、サーマス・アクアティカス由来、バチルス・カルドテナックス由来、バチルス・ステアロサーモフィラス由来あるいはアリシクロバチラス・アシッドカルダリウス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼでも作製することができる。
【0028】
本発明の具体的な態様としては、例えばバチルス・カルドテナックス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼは、上記A1~A12からなる12アミノ酸配列として「LAQNLNISRKEA」(配列番号20)の配列を有している。同様にバチルス・ステアロサーモフィラス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの12アミノ酸配列は「LAQNLNITRKEA」(配列番号21)である。さらにアリシクロバチラス・アシッドカルダリウス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの12アミノ酸配列は「LAQNLNIPQKEA」(配列番号22)である。また、サーマス・アクアティカス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの12アミノ酸配列は「LSQELAIPYEEA」(配列番号25の678位~689位)である。これらのアミノ酸配列中のA3及び/又はA10が、塩基性アミノ酸残基に置換されているものが本発明の変異体として例示される。特に限定されないが例えば、A3及び/又はA10のアミノ酸が、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている変異体である。特に好ましくは、アルギニンに置換した変異体である。これらの変異体の他、好熱性細菌由来の耐熱性ポリメラーゼ、等温核酸増幅法に適した中温性DNAポリメラーゼに同様の変異を導入したものも本発明のDNAポリメラーゼ変異体に包含される。即ち、ポルI型、あるいはファミリーA型のDNAポリメラーゼも本発明の変異導入のターゲットとして好適に使用できる。
【0029】
本発明のDNAポリメラーゼ変異体は、逆転写酵素活性と核酸増幅活性を損なわない限りは、さらに上記A1~A12に示す12アミノ酸配列以外の部位への変異の導入を組み合わせたものであってもよい。特に限定はされないが、変異導入前の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼのアミノ酸配列、例えば、サーマス・サーモフィルス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ(NCBI Reference Sequence WP_011228405.1)あるいはサーマス・アクアティカス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ(Genbank Acc.No.BAA06775.1)のアミノ酸配列に対して、上記A1~A12に示す12アミノ酸配列部位以外の部分においては、少なくとも80%、81、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的DNAポリメラーゼが挙げられる。これらのDNAポリメラーゼは、RT-PCR法において好適に使用できる。同様にRT-等温核酸増幅法の場合では、バチルス・カルドテナックス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ(NCBI Reference Sequence WP_047758145.1)、バチルス・ステアロサーモフィラス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ(Genbank Acc. No.AAA85558.1)あるいはアリシクロバチラス・アシッドカルダリウス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ(Genbank Acc. No.BAF33373.1)において、上記A1~A12に示す12アミノ酸配列部位以外の部分においては、少なくとも80%、81、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的DNAポリメラーゼが挙げられる。
【0030】
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体は、さらにエキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体であってもよい。例えば、サーマス・サーモフィルス、サーマス・アクアティカス、バチルス・カルドテナックス、バチルス・ステアロサーモフィラス、アリシクロバチラス・アシッドカルダリウス等に由来するDNAポリメラーゼについては5→3エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体が知られている。前記エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体は、DNAポリメラーゼのN末端側に位置する5→3エキソヌクレアーゼドメインを欠失している。本発明の変異体についても同様に5→3エキソヌクレアーゼドメインを欠失させ、5→3エキソヌクレアーゼ活性を有しない変異体とすることができる。
【0031】
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体は、変異導入前の当該DNAポリメラーゼが逆転写を達成しえない逆転写反応条件下でも目的のcDNAを作ることができる。前記逆転写反応条件としては、反応時間の短縮、反応温度の高温化等が挙げられる。あるいは、同一条件で逆転写を実施した場合に変異導入前のDNAポリメラーゼよりも逆転写反応産物の量が増加すること等が挙げられる。特に限定はされないが例えば、サーマス・サーモフィルス由来の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを使用した60℃反応で30分間程度を要する逆転写反応を、当該DNAポリメラーゼから作成された本発明の変異体を使用することにより60℃ 1~5分間という短時間で完了することが可能となる。また、日本特許第3844975号公報で開示されている技術で調製した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体と比較しても逆転写反応においてすぐれている。さらに本発明の変異体は、既存の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼに比べ反応時の阻害物質耐性や鋳型核酸に対する親和性という点でさらなる改善が期待できる。本発明においては、本来の逆転写酵素活性が低いポルI型、あるいはファミリーA型のDNAポリメラーゼに対して、その逆転写酵素活性を著しく改善することができるため、逆転写反応と核酸増幅反応を行うのに適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を創生することができる。
【0032】
さらに本発明の変異体は、PIPボックス(PIP box:PCNA interaction protein box)との融合タンパク質であってもよい。DNAポリメラーゼ活性を促進するタンパク質であるPCNAは、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの逆転写酵素活性も促進することができる。特に限定はされないが、国際公開WO2017/090685号パンフレット記載の技術と組み合わせ、PIPボックスが融合された本発明のDNAポリメラーゼ変異体を作製することができる。
【0033】
2.本発明のDNAポリメラーゼ変異体を含む組成物又はキット
本発明の組成物は、前記の本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を含む組成物を意味する。本発明の組成物の一態様としては、逆転写反応と核酸増幅反応に適した組成物であり、上記1.で述べた本発明の逆転写酵素反応と核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体に加え、例えば逆転写反応とポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に必要な成分、例えば、二価金属塩、dNTPs、緩衝成分、還元剤、滅菌水等を含有する。また本発明の組成物は、増幅/検出すべきRNAが明らかな場合には適切なプライマーを含んでいてもよい。一方、逆転写反応と等温核酸増幅反応に適した組成物の場合も逆転写反応と等温核酸増幅反応に必要な成分を含む限りは、上記と同様の成分を含む組成物が好適である。
【0034】
前記二価金属塩を構成する二価金属イオンとしては、特に限定するものではないが、マンガンイオン、マグネシウムイオンが例示される。逆転写酵素に適する二価金属イオンとその濃度は、当該分野で知られている。二価金属イオンは塩化物、硫酸塩、または酢酸塩等の塩の形態で供給され得る。本発明を特に限定するものではないが、本発明の組成物中の二価金属イオンの濃度としては、例えば0.5~20mMが好ましく例示される。前記dNTPとしては、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP、もしくはそれらの誘導体の少なくとも1種が使用される。好適にはdATP、dCTP、dGTP、およびdTTPの4種類の混合物が使用される。
【0035】
pH維持のための緩衝成分としては特に限定するものではないが、トリス(Tris)緩衝液、トリシン緩衝液、バイシン緩衝液、へぺス(HEPES)緩衝液、酢酸緩衝液あるいはリン酸緩衝液が例示される。例えば、逆転写反応と核酸増幅反応に適する緩衝成分とその濃度は、当該分野で知られている。逆転写反応用の還元剤としては、特に限定するものではないが、DTT(ジチオトレイトール)、2-メルカプトエタノールが例示される。逆転写反応に適する還元剤とその濃度は、当該分野で知られている。
【0036】
逆転写反応には、例えばrandom 6mers、oligo dT primerおよび遺伝子特異的プライマーがプライマーとして使用できる。当該プライマーの鎖長は、ハイブリダイゼーションの特異性の観点から、好ましくは6ヌクレオチド以上であり、更に好ましくは10ヌクレオチド以上であり、オリゴヌクレオチドの合成の観点から、好ましくは100ヌクレオチド以下であり、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。なお、非特異的なcDNA合成を目的としたランダムプライマーとしては鎖長6~8ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドの混合物を使用してもよい。前記オリゴヌクレオチドは、例えば公知の方法により化学的に合成することができる。また、生物試料由来のオリゴヌクレオチドであっても良く、例えば天然の試料より調製したDNAの制限エンドヌクレアーゼ消化物から単離して作製しても良い。核酸増幅反応のためには、増幅すべき核酸の配列に応じて設計されたプライマー対を含んでいてもよい。逆転写反応用のプライマーが核酸増幅用のプライマーの一方を兼ねていてもよい。
【0037】
本発明のキットは、逆転写反応と核酸増幅反応法に適したRT-PCR用キットあるいはRT-等温核酸増幅用キットである。本発明のキットとしては、上記1.で述べた本発明の逆転写反応と核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体、二価金属塩、dNTP、緩衝成分、還元剤、やその他の逆転写反応と核酸増幅反応に適した成分を含有し、使用時にこれらを混合して逆転写反応/核酸増幅反応溶液を調製するためのキット、前記の本発明の組成物を含有し、使用時に鋳型DNAと水(滅菌水等)を添加するのみで使用可能なキット、さらに前記の本発明の組成物が乾燥状態で含有されたキット、等が例示される。特定のRNAの検出を目的とした、標的RNAに特異的なプライマーや陽性コントロール用のRNAを含有するキットも本発明に包含される。なお、上記二価金属塩、dNTPs、緩衝成分、および還元剤は、上記で説明したとおりである。
【0038】
さらに本発明の組成物あるいはキットは、増幅された二本鎖核酸の検出に必要な成分、例えば、インターカレーターや蛍光標識プローブ等を含有していてもよい。インターカレーターとしてはSYBR(登録商標) Green I、TB Green(登録商標)やその他の核酸結合性色素が、蛍光標識プローブとしては、TaqMan(登録商標)プローブ、Cycleave(登録商標)プローブあるいはモレキュラービーコンプローブ等が、それぞれ挙げられる。
【0039】
3.本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体の製造方法
本発明の逆転写酵素反応と核酸増幅反応に適したDNAポリメラーゼ変異体の製造方法は、上記1.に記載のDNAポリメラーゼ変異体の製造方法に関するものである。
【0040】
本発明の製造方法の具体的な態様としては、RNAからの核酸増幅に適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの製造方法であって、
(1)以下のA1~A12の12アミノ酸からなる配列を含む、DNAポリメラーゼを選択する工程;
A1は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、親水性の中性アミノ酸残基であり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、酸性アミノ酸残基であり;
A12は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;及び
(2)工程(1)で選択されたDNAポリメラーゼの、上記12アミノ酸からなる配列におけるA3及び/又はA10のアミノ酸が変異導入前のものとは別の塩基性アミノ酸残基に置換する工程、を含む方法が例示される。
【0041】
上記態様においては、12アミノ酸からなる配列が、A1がロイシン、A3がグルタミン、A5がロイシン、A7がイソロイシン、A11がグルタミン酸及びA12がアラニンであるアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼを変異導入用の材料として選択することができる。
【0042】
本発明の製造方法においては、工程(2)において、上記選択された逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼについて、A3及び/又はA10がリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸に置換することが好ましい。特に好ましくは、アルギニンに置換される。
【0043】
工程(1)は、上記A1~A12からなるアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼを常法により、例えばコンピューターを使ったホモロジー検索で抽出し、実施することができる。検索には公知のアミノ酸配列データベースを使用できる。
【0044】
工程(2)では、工程(1)で選択されたDNAポリメラーゼをコードする核酸を調製し、当該核酸のA3及び/又はA10に相当するコドンを塩基性アミノ酸残基のコドンに変換することで実施される。このような塩基置換は公知の方法で実施することができ、例えば市販の変異導入キットを使用してもよい。変異導入後の変異体をコードする核酸の全長を化学合成してもよい。さらに、上記A1~A12に示す12アミノ酸配列以外の部位への変異の導入を組み合わせてもよい。
【0045】
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を製造する場合、当該変異体をコードする核酸を作成し、適切な宿主に導入して変異体を発現させることができる。使用する宿主において目的の変異体を発現可能にするため、または発現量を増加させるために、コドンの最適化を行ってもよい。該コドン最適化は、本分野において通常使用されている方法によって行うことが好ましい。
【0046】
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体の製造では、当該変異体のアミノ酸配列をコードする核酸を適当な発現ベクターに組み込んで前記変異体を製造することができる。その際発現ベクターは、本発明の変異体逆転写酵素変異体をコードする核酸、および該核酸と作動可能に連結された発現調節配列を含むことが好ましい。当該発現調節配列は特に限定されるものではないが、プロモーターならびにプロモーターの制御に関わる遺伝子、リボソーム結合配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列(転写ターミネーター)、エンハンサー等が挙げられる。さらに形質転換体の選別に用いられるマーカー(薬剤耐性遺伝子、蛍光マーカー、発光マーカーなど)をコードする遺伝子を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体をコードする核酸を挿入する発現ベクターとしては、本分野において通常使用されている発現ベクターであれば、特に限定は無い。宿主細胞において自立複製が可能なベクターや宿主染色体に組み込まれ得るベクターを使用することができる。宿主に適合するベクターを使用すればよい。
【0048】
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体をコードする核酸を挿入する発現ベクターとして、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができる。プラスミドベクターとしては、使用する宿主に適したプラスミド、例えば大腸菌由来のプラスミド、バチルス属細菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドが当業者に周知であり、また、市販されているものも多い。本発明には、これら公知のプラスミドやその改変体を使用することができる。ファージベクターとしては、例えば、λファージ(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)等を使用することができ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスを使用することができる。さらに、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞を宿主とする異種タンパク質発現系も数多く構築されており、また、すでに市販もされている。本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体の製造には、これら発現系を使用してもよい。
【0049】
本発明の製造方法で用いる発現ベクターに搭載するプロモーターは宿主に応じて選択することができ、例えば大腸菌ではtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌やファージ等に由来するプロモーターやそれらの改変体を使用することができるが、前記のものに限定されるものではない。さらに、ファージ由来のプロモーターとRNAポリメラーゼ遺伝子を組み合わせた発現系(例えばpET発現系等)を利用してもよい。
【0050】
また、発現させたポリペプチドの精製を容易にするために、本発明の発現ベクターは、アフィニティタグをコードする核酸をさらに含んでいてもよい。アフィニティタグをコードする核酸は、本発明の逆転写酵素変異体と当該アフィニティタグの融合タンパク質が発現されるようにベクターに挿入される。本発明を何ら限定するものではないが、アフィニティタグとしては、例えば、ヒスチジン(His)タグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ、マルトース結合タンパク質(maltose binding protein;MBP)タグ、8残基のアミノ酸(Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys)からなるStrep(II)タグなどをコードする核酸が例示される。当該タグを付加する位置は、本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ変異体をコードする核酸の5’末端および/または3’末端側のいずれでもよく、発現およびタグ機能の障害とならない位置に適宜付加すればよい。なお、該タグは、発現させたポリペプチドの精製段階において切断できるタグが好ましい。本発明を何ら限定するものではないが、かかる切断できるタグとしては、例えば、Facror Xa、PreScission Protease、トロンビン(Thrombin)、エンテロキナーゼ(enterokinase)、TEVプロテアーゼ(Tobacco Etch Virus Protease)などの融合ポリペプチド切断用プロテアーゼの認識配列をコードする核酸を含むタグが例示される。
【0051】
4.本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの改良方法
本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼの改良方法は、以下のようにして実施することができる。即ち、A1~A12に示す12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼにおいて、A3及び/又はA10のアミノ酸を別の塩基性アミノ酸残基に置換することを特徴とする。
【0052】
本発明の改良方法では、まず以下のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列を含む、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼが変異導入前の候補として選択することができる。
【0053】
A1は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A2は、親水性の中性アミノ酸残基あるいは疎水性の脂肪族アミノ酸残基であり;
A3は、親水性の中性アミノ酸残基であり;
A4は、酸性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A5は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A6は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり、
A7は、分枝鎖アミノ酸残基であり;
A8は、プロリン残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A9は、疎水性の芳香族アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基あるいは親水性の中性アミノ酸残基であり;
A10は、酸性アミノ酸残基あるいは塩基性アミノ酸残基であり;
A11は、酸性アミノ酸残基であり;及び
A12は、疎水性の脂肪族アミノ酸残基である。
【0054】
当該候補となる逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを選択する方法としては、上記A1~A12からなるアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼを常法により、例えばコンピューターを使ったホモロジー検索によって抽出する方法が挙げられる。検索は公知のアミノ酸配列データベースを使用して実施することができる。
【0055】
本発明の具体的な態様においては、12アミノ酸からなる配列はA1がロイシン、A3がグルタミン、A5がロイシン、A7がイソロイシン、A11がグルタミン酸及びA12がアラニンであるアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼが変異導入用の材料として好適に使用できる。この選択された逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼについて、A3及び/又はA10のアミノ酸を別の塩基性アミノ酸残基に置換することにより、DNAポリメラーゼの改良が達成される。具体的には、DNAポリメラーゼの有する逆転写活性が向上し、反応時間当たりの逆転写産物(cDNA)生成量が増加する。
【0056】
上記アミノ酸置換については、A3及び/又はA10をリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸に置換することが好ましい。特に好ましくは、アルギニン残基への置換である。本発明の改良方法については、逆転写酵素活性と核酸増幅活性を損なわない限りは、上記A1~A12に示す12アミノ酸配列以外の部位にさらに変異を導入してもよい。また、本発明においては、改良する逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼに特に限定はなく、例えば、サーマス・サーモフィルス、サーマス・アクアティカス、バチルス・カルドテナックス、バチルス・ステアロサーモフィラス、アリシクロバチラス・アシッドカルダリウス等に由来するDNAポリメラーゼのほか、好熱性細菌由来の耐熱性ポリメラーゼ、等温核酸増幅法に適した中温性DNAポリメラーゼ並びにそのアミノ酸置換、挿入若しくは欠失、又は他の改変体のいずれもが含まれる。言い換えれば、本来の逆転写酵素活性が低いポルI型、あるいはファミリーA型のDNAポリメラーゼであってもよい。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
実験方法
(1)Tth DNAポリメラーゼ変異体の調製方法
Thermus thermophilus(Tth) HB8株由来の野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI Reference Sequence No.WP_011228405.1に開示されている。当該DNAポリメラーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。当該アミノ酸配列中の特定の部位(本発明のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列部分)に変異を導入した配列の人工遺伝子を、それぞれ化学的に合成した。得られた人工遺伝子は、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(タカラバイオUSA社製)を用いて、プラスミドpET6xHN-N(タカラバイオUSA社製)に導入した。得られたプラスミドは、N末端側にヒスチジンタグが付加されたTth DNAポリメラーゼ変異体をコードする塩基配列を有している。
【0059】
次に、当該プラスミドで大腸菌BL21 DE3株(タカラバイオ社製)を形質転換し、100μg/mL濃度のアンピシリンを含む1.5%アガロースLBプレート上で37℃で終夜培養を行った。このプレートから3つのシングルコロニーを選択して100μg/mL濃度のアンピシリンを含むLB培地(以下LB-AP培地と称する)に植菌し、37℃で終夜振とう培養を行った。さらに前記培養液300μLをLB-AP培地25mLに接種し、37℃で終夜振とう培養した。OD600値が0.6になった時に、培養液に終濃度1mMのIPTGを加えてさらに37℃で21時間誘導培養を行い、菌体を採取した。
【0060】
上記で得られた菌体を2mLの50mM Tris・HCl pH8.0(4℃)、100mM NaCl、1mM EDTA(pH8.0)、5%グリセロールを含む溶液(以下、Buffer Sと称する)に懸濁し、最終濃度0.1mg/mLになるようにリゾチーム(Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd社製)を添加し、4℃で1時間振とうした。振とう後、4℃ 15,000×gで30分間遠心し、上清を回収した。回収した上清は、85℃で15分保持した後、4℃ 15,000×gで30分間遠心した。加熱後の上清は、Amicon Ultra-0.5mLカラムを用いて遠心により約20倍濃縮した。
【0061】
得られた濃縮液をTth DNAポリメラーゼ変異体粗精製溶液として、以下の試験に使用した。なお使用酵素のユニット数は、DNAポリメラーゼ活性については、活性化サケ精子DNAを鋳型/プライマーとして用い、pH9.3の反応液中にて74℃において、30分間に10nmolの全ヌクレオチドを酸不溶性沈殿物に取り込む活性を1Uとして算出した。
【0062】
(2)Tth DNAポリメラーゼ変異体の逆転写活性評価方法
上記(1)で得られたTth DNAポリメラーゼ変異体について、以下の方法で逆転写反応を試験した。即ち、当該Tth DNAポリメラーゼ変異体粗抽出溶液について、5×RT-PCR緩衝液(終濃度50mM バイシン緩衝液(pH8.2)、終濃度115mM 酢酸カリウム、終濃度8%グリセロール、)、終濃度2.5mM 酢酸マンガン、終濃度0.1% BSA、配列表の配列番号2及び3記載の塩基配列を有する終濃度0.2μMのプライマー対、配列表の配列番号4記載の塩基配列を有する終濃度0.2μMのプローブ、終濃度0.3mM dNTP、鋳型となる鎖長4.4kbのRNA(λDNA(GenBank ACC. No.J02459.1)の核酸番号12697から17090の領域に相当するRNA。1×107コピー相当)、実験方法(1)で調製したTth DNAポリメラーゼ変異体5U並びに2.5UのTaq抗体(タカラバイオ社製)を含む最終容量50μLの反応液を調製した。対照として、野生型Tth DNAポリメラーゼを含む反応液も調製した。
【0063】
RT-PCR条件は、90℃ 30秒、60℃ 1分、95℃ 1分間処理した後、95℃ 15秒、56℃ 45秒を1サイクルとする45サイクル反応に設定した。サーマルサイクラーは、TP-990 ThermalCycler Dice(登録商標)Real Time SystemIII(タカラバイオ社製)を用いて、リアルタイムPCRを行い、Ct値を測定した。
【0064】
実施例1 Tth DNAポリメラーゼ変異体の調製
実験方法(1)に従って、Tth DNAポリメラーゼの野生型アミノ酸配列において、682位のグルタミンをアルギニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子を保持する組換えプラスミドを作製し、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに発現されたタンパク質の精製を行った。こうして得られた、682位のグルタミンからアルギニンへの置換変異(Q682R)を有するTth DNAポリメラーゼ変異体をb13と命名した。同様にして、Tth DNAポリメラーゼの野生型アミノ酸配列の689位のグルタミン酸をアルギニンに置き換えた(E689R)Tth DNAポリメラーゼ変異体(b46と命名した)、682位のグルタミンをアルギニンに、689位のグルタミン酸をアルギニンにそれぞれ置き換えた(Q682R+E689R)Tth DNAポリメラーゼ変異体(b13b46と命名した)を調製した。前記変異体タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号5~10に示す。
【0065】
実施例2 Tth DNAポリメラーゼ変異体の逆転写活性評価試験1
実施例1で調製したTth DNAポリメラーゼ変異体及び野生型Tth DNAポリメラーゼについて、実験方法(2)にしたがって逆転写活性評価試験を行った。通常野生型Tth DNAポリメラーゼを使用する場合、逆転写反応は60℃ 30分間が標準であるが、本実施例では60℃ 1分間という短い逆転写反応時間でその性能を比較した。その結果を表1に示す。Ct値はターゲットの初期量に反比例するため、DNAの初期コピー数の算出に使用できる。例えば、Ct値が1小さい(マイナス)とPCRの鋳型となるDNA量が2倍多いことになる。
【0066】
【0067】
表1に示したように、変異体b13、b46及びb13b46のいずれにおいても、PCR時の初期鋳型DNA量が野生型酵素と比較して100倍~1000倍以上になっていることが確認できた。鋳型DNA量の増加は、PCR前の逆転写反応によるcDNA量の増加があったことを意味しており、当該変異体が逆転写反応において野生型の100倍~1000倍以上の能力向上があったことが確認できた。
【0068】
実施例3 PIPボックスとTth変異体の融合タンパク質
実施例1記載のTth DNAポリメラーゼ変異体とPCNA結合ドメインの融合タンパク質について検討した。まず国際公開WO2017/090685号パンフレット 実施例4記載の方法に従い、各Tth DNAポリメラーゼ変異体のN末端側に配列表の配列番号11記載のアミノ酸配列を有するPIPボックスが3つ縦列した3PIPと野生型Tth DNAポリメラーゼの融合タンパク質(PIP-L14-PIP-L14-PIP-L15-Tth DNAポリメラーゼ)を作製した。当該融合タンパク質は、3PIP-野生型と命名した。同様に3PIPと実施例1で説明したb13、b46ならびにb13b46変異体との融合タンパク質も作製したこれらは、3PIP-b13、3PIP-b46並びに3PIP-b13b46と命名した。また、PIPボックスを認識するポリメラーゼ関連因子であるPuf PCNA D143R変異体(PCNA13)は、国際公開WO2007/004654号パンフレット 実施例記載の方法で調製した。
【0069】
本実施例において、逆転写反応の鋳型となるRNAについては、以下のようにして調製した。即ち、厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 監視安全課より通知された「ノロウイルスの検出法について」(平成15年11月5日付け食安監発第1105001号別添 最終改正:平成25年10月22日付け食安監発1022第1号)(以下「公定法」と記載する)に記載されたものと同じ塩基配列のGI検出用およびGII検出用プライマーでPCR増幅される領域を含む塩基配列のRNAをそれぞれ常法により調製した。
【0070】
上記方法で調製した鋳型となるRNA及び5×RT-PCR緩衝液、終濃度2.5mM 酢酸マンガン、終濃度0.1% BSA、公定法で定められた配列表の配列番号12及び13記載の塩基配列を有する終濃度0.2μMのGIプライマー対あるいは配列表の配列番号14及び15記載の塩基配列を有する終濃度0.2μMのGIIプライマー対、配列表の配列番号16記載の塩基配列を有する終濃度0.2μMのGI検出用プローブあるいは配列表の配列番号17記載の塩基配列を有する終濃度0.2μMのGII検出用プローブ、終濃度0.3mMのdNTP、終濃度4%のポリ(エチレングリコール)poly(ethylene glycol)4-ノニルフェニル 3-スルホプロピルエーテル、終濃度850nMのPCNA13、前述の3PIP-Tth DNAポリメラーゼ変異体5Uを含む最終容量25μLの反応液を調製した。対照として、野生型及び3PIPがN末側に付加した野生型Tth DNAポリメラーゼを含む反応液も調製した。RT-PCR条件は、58℃ 5分、95℃ 30秒間処理した後、95℃ 5秒、56℃ 1分を1サイクルとする5サイクル反応、連続して90℃ 5秒、56℃ 1分を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。サーマルサイクラーは、実施例2と同じである。GI検出の結果を表2に示す。同様にGII検出の結果を表3に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
表2及び表3に示したように、野生型並びにPIPボックスがN末側に付加した野生型と比較してPIPボックスがN末側に付加した本発明のb13、b46ならびにb13b46のいずれの場合でも初期鋳型DNA量の増加が確認できた。
【0074】
実施例4 Tth DNAポリメラーゼ変異体の逆転写活性評価試験2
上記実施例2で逆転写反応の能力向上が認められたb13並びにb13b46変異体について、実検体でのノロウイルス検出によって評価を行った。即ち、インフォームドコンセントの得られた被験者より採取されたノロウイルス陽性の糞便検体を約10%(w/v)となるようPBSに懸濁した後、15,000rpmにて5分間遠心処理を行った。こうして得られた上清1μLを以下の反応に使用した。即ち、前記糞便上清液1μL、5×RT-PCR緩衝液(終濃度50mM トリシン緩衝液(pH8.15)、終濃度50mM 酢酸カリウム、終濃度8%グリセロール、終濃度1%のDMSO、終濃度2.5mM 酢酸マンガン、終濃度0.1% BSA、公定法で定められた終濃度0.2μMのGIプライマー対、終濃度0.2μMのGI検出用プローブ、終濃度0.3mMのdNTP、前述の3PIP-Tth DNAポリメラーゼ変異体5U、終濃度4%のポリ(エチレングリコール)4-ノニルフェニル 3-スルホプロピルエーテル並びに2.5UのTaq抗体(タカラバイオ社製)を含む最終容量25μLの反応液を含む調製した。対照として、野生型Tth DNAポリメラーゼを含む反応液も調製した。RT-PCR条件は、Tth DNAポリメラーゼの場合は、90℃ 3分、58℃ 5分あるいは30分、95℃ 30秒間処理した後、95℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする5サイクル反応、連続して90℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。Tth DNAポリメラーゼ変異体の場合は、90℃ 3分、58℃ 5分、95℃ 30秒間処理した後、95℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする5サイクル反応、連続して90℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。サーマルサイクラーは、実施例2と同じである。
【0075】
上記検討の結果、糞便中のノロウイルスGI検出について、Tth DNAポリメラーゼは、逆転写反応が58℃ 30分の場合のみ検出することができた。一方、本発明のb13並びにb13b46変異体は、逆転写反応が58℃ 5分という短時間であっても検出できた。このことから、本発明の変異体が実検体を用いた検出においても逆転写酵素反応の向上が保持されていることが確認できた。
【0076】
実施例5 Tth DNAポリメラーゼ変異体の逆転写活性評価試験3
本発明のTth DNAポリメラーゼ変異体と、以前に高温かつ効率よく逆転写反応ができると報告されたTth DNAポリメラーゼ変異体との比較を行った。日本特許第3844975号公報の記載に従い、実験方法(1)の方法でTth DNAポリメラーゼ変異体の粗酵素液を調製した。即ち、Taq DNAポリメラーゼ(Genbank Acc.No.BAA06775.1)記載のアミノ酸配列の681位が、NCBI Reference Sequence No.WP_011228405記載のアミノ酸配列に基づくTth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列では683位に相当することから、前記アミノ酸配列の683位のグルタミン酸をフェニルアラニン、リシン、ロイシン、アルギニンあるいはチロシンに置換変異したTth DNAポリメラーゼ変異体を調製した。これらのアミノ酸変異体をそれぞれE683F、E683K、E683L、E683R、E683Y変異体と命名した。
【0077】
評価方法は、逆転写反応時間を60℃ 1分から2分に変更した以外は、上記実験方法(2)記載の方法で実施した。その結果を表4に示す。
【0078】
【0079】
表4に示したように、683位のグルタミン酸を置換したTth DNAポリメラーゼ変異体は鋳型由来の増幅物を産生できないか、あるいは本発明のTth DNAポリメラーゼ変異体と比較してCt値が大きくなっている。言い換えれば、PCR開始時の初期鋳型DNA量が減少していること、すなわちPCR前の逆転写反応によるcDNA量が約1/2以下であることを意味しており、当該変異体が逆転写反応において従来技術で調製したものより逆転写反応活性において優れていることが確認できた。
【0080】
実験方法
(3)Bca DNAポリメラーゼ変異体の調製方法
Bacillus caldotenax(Bca)由来の野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI Reference Sequence No.NZ_CP025074.1に開示されている。当該DNAポリメラーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号23に示す。当該アミノ酸配列中の特定の部位(本発明のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列部分)に変異を導入した配列の人工遺伝子を、それぞれ化学的に合成し、実験方法(1)記載の方法でN末端側にヒスチジンタグが付加された Bca DNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むプラスミドを調製した。
【0081】
次に、当該プラスミドで大腸菌BL21 DE3株(タカラバイオ社製)を形質転換し、100μg/mL濃度のアンピシリンを含む1.5%アガロースLBプレート上、37℃で終夜培養を行った。このプレートから3つのシングルコロニーを選択して100μg/mL濃度のアンピシリンを含むLB培地(以下LB-AP培地と称する)に植菌し、37℃で終夜振とう培養を行った。さらに前記培養液30mlをLB-AP培地3Lに接種し、37℃で終夜振とう培養した。OD600値が0.6になった時に、培養液に終濃度1mMのIPTGを加えてさらに37℃で4時間誘導培養を行い、菌体を採取した。
【0082】
上記で得られた菌体3gを12mlのバッファー(50mM Tris・HCl pH7.0(4℃)、4μM PMSF、1mM DTT、10%グリセロール)に懸濁し、Sonic 180Wで10分間攪拌した。その後、10,000rpmで30分間4℃で遠心分離した。該上清を回収し、60℃で30分間熱処理した。熱処理後の上清を氷上で30分冷却後に11,000rpm、30分(4℃)で遠心分離を行い上清を回収した。
得られた上清は、DEAE Sepharose Fast Flow(GE Healthcare社製)、CM Sepharose Fast Flow(GE Healthcare社製)、Sephadex-G100、Heparin Sepharose(GE Healthcare社製)、Q Sepharose(GE Healthcare社製)の順に用いてBca DNAポリメラーゼ変異体タンパクの精製液を調製し、以下の試験に使用した。なお使用酵素のユニット数は、DNAポリメラーゼ活性については、活性化サケ精子DNAを鋳型/プライマーとして用い、pH9.3の反応液中にて74℃において、30分間に10nmolの全ヌクレオチドを酸不溶性沈殿物に取り込む活性を1Uとして算出した。
【0083】
実験方法
(4)Aac DNAポリメラーゼ変異体の調製方法
Alicyclobacillus acidocaldarius(Aac)由来の野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI Reference Sequence No.AB275481.1に開示されている。当該DNAポリメラーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号24に示す。当該アミノ酸配列中の特定の部位(本発明のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列部分)に変異を導入した配列の人工遺伝子を、それぞれ化学的に合成し、実験方法(1)記載の方法でN末端側にヒスチジンタグが付加された Aac DNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むプラスミドを調製した。
【0084】
次に、当該プラスミドで形質転換された大腸菌BL21 DE3株の培養は、実験方法(3)記載と同様の方法で行い菌体を採取した。
【0085】
上記で得られた菌体3gを、実験方法(3)記載の同様の精製法でAac DNAポリメラーゼ変異体の精製液を調製し、以下の試験に使用した。なお使用酵素のユニット数は、Bca DNAポリメラーゼの場合と同じである。
【0086】
実験方法
(5)Taq DNAポリメラーゼ変異体の調製方法
Thermus aquaticus(Taq)由来の野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI Reference Sequence No.D32013.1に開示されている。当該DNAポリメラーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号25に示す。当該アミノ酸配列中の特定の部位(本発明のA1~A12に示す12アミノ酸からなる配列部分)に変異を導入した配列の人工遺伝子を、それぞれ化学的に合成し、実験方法(1)記載の方法でN末端側にヒスチジンタグが付加された Taq DNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むプラスミドを調製した。
【0087】
次に、当該プラスミドで形質転換された大腸菌BL21 DE3株の培養は、実験方法(3)記載と同様の方法で行い、菌体を採取した。
【0088】
上記で得られた菌体13gを39mlのバッファー(100mM Tris・HCl pH7.5(4℃)、200mM、EDTA pH7.5、2.4μM PMSF)に懸濁し、Sonic 180Wで10分攪拌後、12000rpm(4℃) 30分遠心分離し、上清を回収後、硫安を1.34gと10%PEIを0.64mL添加し、30分(4℃)撹拌し、30分間遠心分離(4℃)後、上清を回収した。さらに該上清を75℃で15分間熱処理し、氷上で30分間冷却後、35,000rpm(4℃)で60分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を、Phenyl Sepharose Cl-4B(GE Healthcare)を用いて精製した。
なお使用酵素のユニット数は、Bca DNAポリメラーゼの場合と同じである。
【0089】
実験方法
(6)Bca、Aac、Taq DNAポリメラーゼ変異体の逆転写活性評価方法
上記(3)、(4)、(5)で得られたBca、Aac、Taq DNAポリメラーゼ変異体についてポリメラーゼ(Pol)活性を測定した。前記Pol活性は、反応液として終濃度25mM TAPS緩衝液(pH9.3、25℃)、終濃度50mM KCl、終濃度2mM MgCl2、終濃度0.1mM DTT、終濃度 各200μM dATP・dGTP・dCTP、終濃度100μM [3H]-dTTP、終濃度0.25mg/ml活性化サケ精子DNAを調製して行った。即ち、活性化サケ精子DNAを鋳型/プライマーとして用い、上記の活性測定用反応液中にて74℃において、30分間に10nmolの全ヌクレオチドを酸不溶性沈殿物に取り込む活性を1Uとして測定した。
【0090】
次に上記(3)、(4)、(5)で得られたBca、Aac、Taq DNAポリメラーゼ変異体について逆転写活性を測定した。逆転写活性は、反応液として50mM Tris-HCl,pH8.3(37℃)、5mM Tris-HCl pH7.5 (37℃)、85mM KCl、8mM MgCl2、10mM DTT、0.1% NP-40、0.02mg/ml Poly(A)、2.5mM dTTP、100μCi/ml [3H]-dTTPを調製して行った。即ち、上記の活性測定用反応液中にて、Poly(rA)・oligo(dT)12-18を鋳型/プライマーとして、37℃、10分間に1nmolの[3H]dTTPを取り込む酵素活性を1Uとして測定した。
【0091】
実験方法
(7)Bca、Aac並びにTaq DNAポリメラーゼ変異体の逆転写活性評価方法
上記(3)、(4)、(5)で得られたBca、Aac並びにTaq DNAポリメラーゼ変異体について、以下の方法で逆転写反応を試験した。
当該試験では、BcaBEST(商標) RNA PCR Kit(タカラバイオ社製)の構成品の一部を利用した。即ち、それぞれのDNAポリメラーゼ変異体精製溶液について、該キット付属の2×Bca 1st Buffer、25mM MgSO4、RNase Inhibitor (40U/ul)、10mM dNTP、配列表の配列番号26の塩基配列を有する終濃度0.5μMの逆転写プライマー、終濃度500μMのdNTP、鋳型となる終濃度10ng/μLのHL60 total RNA(タカラバイオ社製)に、実験方法(3)、(4)、(5)で調製したBca、Aac並びにTaq DNAポリメラーゼ変異体精製溶液0.5 ul反応液を加えた、逆転写反応液10μLをそれぞれ調製した。対照として、野生型のBca、Aac並びにTaq DNAポリメラーゼを含む反応液もそれぞれ調製した。
【0092】
逆転写条件は、65℃ 60秒、55℃ 5分、95℃ 2分間処理した。サーマルサイクラーは、TP-990 ThermalCycler Dice(登録商標)Real Time SystemIII(タカラバイオ社製)を用いた。
【0093】
さらに得られたcDNA溶液をリアルタイムPCRで試験した。RR420A TB Green(登録商標) Premix Ex Taq(商標) (Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ社製)を使用してリアルタイムPCRを行った。配列表の配列番号26の塩基配列を有する終濃度0.2μMのフォワードプライマー、配列表の配列番号27の塩基配列を有する終濃度0.2μMのリバースプライマー、上記逆転写反応で得られたそれぞれのcDNA1μLを添加し、1反応当たり25μL系のPCR反応液としてリアルタイムPCR反応に供した。
【0094】
PCR条件は、90℃ 30秒で初期変性後、95℃ 5秒、60℃ 30 秒を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。サーマルサイクラーは、TP-990 ThermalCycler Dice(登録商標)Real Time SystemIII(タカラバイオ社製)を用いて、リアルタイムPCRを行い、Ct値を測定した。
【0095】
実施例6 Bca、Aac並びにTaq変異体の逆転写活性評価試験1
評価試験1は、上記(3)、(4)、(5)で得られたBca、Aac並びにTaq DNAポリメラーゼ変異体について、上記実験方法(6)記載の方法で実施した。その結果を表5に示す。なお、各DNAポリメラーゼ変異体b13b46は、Tth DNAポリメラーゼ変異体b13b46における「Q682R+E689R」変異に対応する変異を有するもの(すなわち、Tth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列における682位および689位に対応する位置のアミノ酸がそれぞれアルギニンに置換したもの)である。
【0096】
【0097】
表5で示すように、Bca天然型に比較して作製したBca(b13b46)変異体はポリメラーゼ活性を維持しつつ、逆転写活性を高めており、天然型と比較して約2倍逆転写活性が向上した。Aacの場合は、天然型に対してAac(b13b46)変異体はポリメラーゼ活性を維持しつつ天然型と比較して約4倍逆転写活性が向上した。Taqの場合は、天然型に対してTaq(b13b46)変異体はポリメラーゼ活性を維持しつつ天然型と比較して約9倍逆転写活性が向上した。
【0098】
実施例7 Bca、Aac並びにTaq変異体の逆転写活性評価試験2
上記(3)、(4)、(5)で得られたBca、Aac並びにTaq DNAポリメラーゼ変異体について、cDNAの合成量を確認し逆転写活性を評価した。
【0099】
評価試験2は、上記実験方法(7)記載の方法で実施した。その結果を表6に示す。
【0100】
【0101】
表6で示すように、いずれの変異体においても、PCR時の初期鋳型DNA量が野生型酵素と比較して510倍~1000倍以上になっていることが確認できた。鋳型DNA量の増加は、PCR前の逆転写反応によるcDNA量の増加があったことを意味しており、当該変異体が逆転写反応において野生型の510倍~1000倍以上の能力向上があったことが確認できた。また、本発明はポルI型、あるいはファミリーA型に分類されるDNAポリメラーゼに対して、その逆転写酵素活性を改善できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明により同一容器内で逆転写反応と核酸増幅反応を行うのに適した逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを提供することができた。当該DNAポリメラーゼを用いることにより、これまで逆転写反応が困難であった強固な二次構造を有するRNAを鋳型とした場合であっても逆転写効率の良い反応が可能になった。さらに当該逆転写反応の効率向上により同一容器内で逆転写反応と核酸増幅反応を連続して実施する場合、従来技術の酵素よりも短時間で同レベル以上の検出が可能になった。このように本発明の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼは、遺伝子工学、生物学、医学、農業等幅広い分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0103】
SEQ ID NO: 1: DNA polymerase I Thermus thermophilus
SEQ ID NO: 2: PCR forward Primer lambda RNA
SEQ ID NO: 3: PCR Reverse Primer lambda RNA
SEQ ID NO: 4: Probe lambda RNA. 5’-end is labeled FAM and 3’-end is labeled BHQ1
SEQ ID NO: 5: DNA polymerase variant Tth b13
SEQ ID NO: 6: DNA polymerase variant Tth b13
SEQ ID NO: 7: DNA polymerase variant Tth b46
SEQ ID NO: 8: DNA polymerase variant Tth b46
SEQ ID NO: 9: DNA polymerase variant Tth b13 b46
SEQ ID NO: 10: DNA polymerase variant Tth b13 b46
SEQ ID NO: 11: PIP-L14-PIP-L14-PIP-L15 Tth
SEQ ID NO: 12: PCR forward Primer COG1F
SEQ ID NO: 13: PCR Reverse Primer COG1R
SEQ ID NO: 14: PCR forward Primer COG2F
SEQ ID NO: 15: PCR Reverse Primer COG2R
SEQ ID NO: 16: Probe RING1-TP(a). 5’-end is labeled Cy5 and 3’-end is labeled BHQ3
SEQ ID NO: 17: Probe RING2AL-TP. 5’-end is labeled ROX and 3’-end is labeled BHQ2
SEQ ID NO: 18: A partial sequence (A1-A12) of Tth DNA polymerase
SEQ ID NO: 19: A partial sequence (A1-A12) of Tth DNA polymerase variant
SEQ ID NO: 20: A partial sequence (A1-A12) of Bca polymerase
SEQ ID NO: 21: A partial sequence (A1-A12) of Bst polymerase
SEQ ID NO: 22: A partial sequence (A1-A12) of Aac polymerase
SEQ ID NO: 23:DNA polymerase I Bacillus caldotenax
SEQ ID NO: 24:DNA polymerase I Alicyclobacillus acidocaldarius
SEQ ID NO: 25:DNA polymerase I Thermus aquaticus
SEQ ID NO: 26:PCR forward Primer hACTB-F
SEQ ID NO: 27:PCR Reverse Primer hACTB-533
【配列表】