(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20230802BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20230802BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230802BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230802BHJP
H01M 6/18 20060101ALI20230802BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230802BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230802BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/10
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M6/18 A
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020535274
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011461
(87)【国際公開番号】W WO2020203224
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-06-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019068987
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金森 智洋
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】棚田 一也
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-127388(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063827(WO,A1)
【文献】特開2017-188352(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110647(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104702(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003333(WO,A1)
【文献】特開2016-24874(JP,A)
【文献】特開2017-199631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する硫化物固体電解質であって、
有機溶媒を含有し、
前記有機溶媒の含有量が
0.01質量%以上0.95質量%以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D
50が、0.1μm以上10.0μm以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積10容量%における体積累積粒径D
10が、0.05μm以上10.0μm以下であり、
リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及びX元素(Xは、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、ヨウ素(I)元素のうち少なくとも1種である。)を含み、
アルジロダイト型結晶構造を有する、硫化物固体電解質。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化物固体電解質と、活物質とを含む電極合剤。
【請求項3】
請求項1に記載の硫化物固体電解質を含有する、固体電解質層。
【請求項4】
請求項1に記載の硫化物固体電解質を含有する、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電池に好適に用いられる硫化物固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの液系電池に用いられている電解液の代わりとして、固体電解質が注目されている。このような固体電解質を用いた固体電池は、可燃性の有機溶媒を使用した液系電池に比べて安全性が高く、更に高エネルギー密度を兼ね備えた電池として実用化が期待されている。
【0003】
固体電解質に関する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。同文献には、硫化リチウムと他の硫化物に、炭化水素系有機溶媒を加えた状態でメカニカルミリング処理する硫化物固体電解質の製造方法が記載されている。この製造方法によれば、室温でも高いリチウムイオン伝導性を示す硫化物固体電解質が得られると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ところで硫化物固体電解質を、湿式法を用いて製造すると、硫化物固体電解質中に残存する溶媒によって硫化水素が発生しやすくなる傾向にある。そのため、硫化水素の発生量を抑制する観点から、硫化物固体電解質に残存する溶媒を極力少なくすることが求められている。しかし、硫化物固体電解質中に残存する溶媒を極力少なくすることは、硫化物固体電解質の乾燥時間が長くなってしまう。また、特に硫化物固体電解質を量産するに当たっては、製造する硫化物固体電解質の量が増えるため、硫化物固体電解質を完全に乾燥させることは困難である。
【0006】
したがって本発明の課題は、上述した課題を解決しつつ、硫化水素の発生を抑制することが可能な硫化物固体電解質を提供することにある。
【0007】
本発明者は、硫化物固体電解質中に残存する有機溶媒の量について検討を重ねたところ、有機溶媒の量がごく限られた所定の範囲内であれば、硫化水素の発生量を効果的に抑制できるという新たな知見を得た。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、イオン伝導性を有する硫化物固体電解質であって、
有機溶媒を含有し、
前記有機溶媒の含有量が0.95質量%以下である、硫化物固体電解質を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の硫化物固体電解質と、正極活物質又は負極活物質とを含む電極合剤を提供するものである。更に本発明は、前記の硫化物固体電解質、又は前記の電極合剤を含む固体電池を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質に含まれる有機溶媒の量と、硫化水素の発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、硫化物固体電解質に関するものである。本発明の硫化物固体電解質は、固体の状態においてリチウムイオン伝導性を有する。本発明の硫化物固体電解質は好ましくは室温、すなわち25℃で2.0mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、中でも4.2mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、特に5.0mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、更に5.5mS/cm以上、とりわけ6.0mS/cm以上であることが好ましい。リチウムイオン伝導性は、後述する実施例に記載の方法を用いて測定できる。
【0011】
硫化物固体電解質としては、例えばリチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有する固体電解質などが挙げられる。特に、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及びハロゲン元素を含有する固体電解質を用いることが、リチウムイオン伝導性の向上の観点から好ましい。硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及びハロゲン元素以外のその他の元素を含有していてもよい。例えば、リチウム(Li)元素の一部を他のアルカリ金属元素に置き換えたり、リン(P)元素の一部を他のプニクトゲン元素に置き換えたり、硫黄元素の一部を他のカルコゲン元素に置き換えたりすることができる。
【0012】
本発明の硫化物固体電解質は所定量の有機溶媒を含有する。先に述べたとおり、従来技術においては、硫化水素の発生量を抑制する観点から、硫化物固体電解質に残存する溶媒を極力少なくすることが有利であると考えられていた。しかし本発明者の検討の結果、硫化物固体電解質に、ある一定の範囲内で溶媒が存在している方がむしろ、硫化水素の発生の抑制に有効であることを新たに見出した。換言すれば、硫化物固体電解質中に含まれる溶媒の量の許容範囲を新たに見出した。
【0013】
詳細には、本発明の硫化物固体電解質には好ましくは0.95質量%以下の有機溶媒が含まれる。有機溶媒の量がこの値を超えると、硫化水素の発生量が多くなってしまう。これに加えて、粉体である硫化物固体電解質が流動しづらくなり、ハンドリング性が低下してしまう。例えば流動性の低下に起因して篩い分けが困難になる。この観点から、硫化物固体電解質に含まれる有機溶媒の量は、0.90質量%以下であることが更に好ましく、0.85質量%以下であることが一層好ましい。一方、有機溶媒の含有量の下限値に関しては、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることが更に好ましく、0.10質量%以上であることが一層好ましい。硫化物固体電解質に含まれる有機溶媒の量が過度に低い場合にも、硫化水素の発生を抑制することは容易でない。これまで、硫化物固体電解質からの硫化水素の発生の抑制と、硫化物固体電解質のリチウムイオンの伝導性の向上とは二律背反の関係にあったが、本発明によれば、リチウムイオンの伝導性を維持しつつ、硫化水素の発生を抑制できるという利点がある。
【0014】
本発明においては、硫化物固体電解質に含まれる有機溶媒の量が、硫化水素の発生の抑制との関係で重要であり、有機溶媒の種類は、硫化水素の発生の抑制に大きな影響を及ぼさない。換言すれば、有機溶媒の種類に依らず、相当量の有機溶媒が硫化物固体電解質に含まれている場合には硫化水素が発生する。尤も工業的な観点からは、硫化物固体電解質に有機溶媒を意図的に添加することはなく、有機溶媒は、硫化物固体電解質の製造に用いられ、それが製造後も残留することで、結果的に硫化物固体電解質中に含まれることが大半である。この観点から、本発明で用いられる有機溶媒としては、主として、硫化物固体電解質の製造に用いられるものが挙げられる。そのような有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン、ソルベントナフサなどの芳香族有機溶媒や、ヘプタン、デカン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの脂肪族有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の有機溶媒が硫化物固体電解質に含まれている場合、上述した有機溶媒の量とは、すべての有機溶媒の合計量のことである。
【0015】
本発明において、硫化物固体電解質に含まれている有機溶媒の量は、強熱減量法によって測定する。具体的には、硫化物固体電解質をマッフル炉内で加熱して有機溶媒を加熱除去する。加熱は180℃で20分間にわたって行う。加熱雰囲気は窒素やアルゴン等の不活性雰囲気とする。加熱前の質量をW1とし、加熱後の質量をW2としたとき、(W1-W2)/W1×100を、有機溶媒の含有量と定義する。使用する硫化物固体電解質の量は5g程度とすることが適切である。
【0016】
硫化物固体電解質に含まれている有機溶媒の量を上述した値に設定するには、例えば、常法によって製造された硫化物固体電解質の粒子と有機溶媒とを含むスラリーを湿式粉砕に付し、次いで該スラリーから有機溶媒を除去する操作を行えばよい。スラリーから有機溶媒を除去する操作の例としては、自然ろ過、遠心分離、加圧ろ過、減圧ろ過などによる固液分離の後、あるいはそれらの操作をせずに熱風乾燥や減圧乾燥する方法などが挙げられる。これらの操作のうち、比較的装置が簡便で、乾燥時間を短縮することができる点から、減圧ろ過による固液分離の後、減圧乾燥させる方法を採用することが好ましい。減圧乾燥時の圧力は、絶対圧で10000Pa以下、特に5000Pa以下であることが好ましい。圧力の下限値に特に制限はない。温度は50℃以上200℃以下、特に70℃以上160℃以下であることが好ましい。
【0017】
上述した湿式粉砕は、硫化物固体電解質を、固体電池に用いるのに適した粒径に調整する目的で行われる。硫化物固体電解質の好ましい粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.1μm以上20.0μm以下であり、特に0.3μm以上15.0μm以下であり、とりわけ0.5μm以上10.0μm以下である。粒子の粒径制御は、湿式粉砕と乾式粉砕に大別されるところ、本発明において主として湿式粉砕を採用している。この理由は、湿式粉砕によれば上述のD50を有する硫化物固体電解質の粒子を得やすいからである。
【0018】
硫化物固体電解質を、固体電池に用いるのに適したものにする観点からは、粒子の粒径だけではなく、粒度分布も調整することが有利である。この目的のために、本発明の硫化物固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積10容量%における体積累積粒径D10が、0.05μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5.0μm以下であることが更に好ましく、0.3μm以上2.0μm以下であることが一層好ましい。また、本発明の硫化物固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積95容量%における体積累積粒径D95が、0.3μm以上35.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上30.0μm以下であることが更に好ましく、1.0μm以上25.0μm以下であることが一層好ましい。この範囲のD10及びD95を達成するためには、硫化物固体電解質を湿式粉砕し、そのときの条件を適切に設定すればよい。
【0019】
硫化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性の一層の向上の観点から、特に、アルジロダイト型結晶構造を有する材料からなることが好ましい。アルジロダイト型結晶構造とは、化学式:Ag8GeS6で表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は立方晶に属する結晶構造を有することが、イオン伝導度の更に一層の向上の観点から特に好ましい。
【0020】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質においては、それに含まれるハロゲンとして、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を用いることができる。イオン伝導度の向上の観点から、ハロゲンとして塩素及び臭素を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0021】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、例えば、組成式:Li7-a-2bPS6-a-bXa(Xは、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、ヨウ素(I)元素のうち少なくとも1種である。)で表される化合物であることが、イオン伝導度の一層の向上の観点から特に好ましい。前記組成式におけるハロゲン元素としては、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、ヨウ素(I)元素を挙げることができ、これらのうちの1種であってもよいし又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0022】
前記の組成式において、ハロゲン元素(X)のモル比を示すaは0.4以上2.2以下であることが好ましい。aがこの範囲であれば、室温(25℃)近傍における立方晶系アルジロダイト型結晶構造が安定であり、リチウムイオンの伝導性を高めることができる。この観点から、aは0.5以上2.0以下であることが更に好ましく、0.6以上1.9以下であることが特に好ましく、0.7以上1.8以下であることが一層好ましい。
【0023】
前記の組成式においてbは、化学量論組成に対してLi2S成分がどれだけ少ないかを示す値である。室温(25℃)近傍における立方晶系アルジロダイト型結晶構造が安定であり、リチウムイオンの伝導度が高くなる観点から、-0.9≦b≦-a+2を満足することが好ましい。特に、立方晶系アルジロダイト型結晶構造の耐湿性を高める観点から、-a+0.4≦bを満足することが一層好ましく、-a+0.9≦bを満足することが更に好ましい。
【0024】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を有するか否かは、例えば、XRD測定により確認することができる。すなわち、CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型構造の結晶相は、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、25.19°±1.00°、29.62°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°、51.70°±1.00°に特徴的なピークを有する。更に、例えば、2θ=54.26°±1.00°、58.35°±1.00°、60.72°±1.00°、61.50°±1.00°、70.46°±1.00°、72.61°±1.00°にも特徴的なピークを有する。一方、硫化物固体電解質がアルジロダイト型構造の結晶相を含まないことは、上述したアルジロダイト型構造の結晶相に特徴的なピークを有しないことで確認することができる。
【0025】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を有するとは、硫化物固体電解質が少なくともアルジロダイト型構造の結晶相を有することを意味する。本発明においては、硫化物固体電解質が、アルジロダイト型構造の結晶相を主相として有することが好ましい。この際、「主相」とは、硫化物固体電解質を構成するすべての結晶相の総量に対して最も割合の大きい相を指す。よって、硫化物固体電解質に含まれるアルジロダイト型構造の結晶相の含有割合は、硫化物固体電解質を構成する全結晶相に対して、例えば60質量%以上であることが好ましく、中でも70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であることが更に好ましい。なお、結晶相の割合は、例えばXRDにより確認できる。
【0026】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、高いリチウムイオン伝導性を示すが、構造中にP元素と近接していないS2-アニオンが存在するため、S元素の大部分がPS4
3-ユニットを構成している結晶性Li3PS4や75Li2S-P2S5ガラスに比べて、水との反応性が高く、H2S発生量が多いと考えられる。然るに本発明に従い、有機溶媒の含有量を制御することで、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質であっても、硫化水素の発生量の効果的な抑制が可能である。
【0027】
本発明の硫化物固体電解質は、その種類に応じて適切な方法で製造することができる。例えばアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造するには、リチウム元素、リン元素、硫黄元素及びハロゲン元素が所定のモル比となるように、硫化リチウム(Li2S)粉末と、五硫化二リン(P2S5)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末及び/又は臭化リチウム(LiBr)粉末を混合し、不活性雰囲気下で焼成するか、又は、硫化水素ガスを含有する雰囲気下で焼成すればよい。硫化水素ガスを含有する雰囲気は、硫化水素ガス100%でもよく、あるいは硫化水素ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスでもよい。焼成温度は、例えば350℃以上550℃以下であることが好ましい。この温度での保持時間は、例えば0.5時間以上20時間以下であることが好ましい。
【0028】
このようにして得られた本発明の硫化物固体電解質は、例えば固体電解質層を構成する材料や、活物質を含む電極合剤に含まれる材料として使用できる。具体的には、正極活物質を含む正極層を構成する正極合剤、又は負極活物質を含む負極層を構成する負極合剤として使用できる。したがって、本発明の固体電解質は、固体電解質層を有する電池、いわゆる固体電池に用いることができる。より具体的には、リチウム固体電池に用いることができる。リチウム固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でもリチウム二次電池に用いることが好ましい。なお、「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0029】
本発明における固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間の固体電解質層とを有し、本発明の固体電解質を有する。本発明における固体電池の形状としては、例えば、ラミネート型、円筒型及び角型等を挙げることができる。
【0030】
本発明の固体電解質層は、例えば該固体電解質、バインダー及び溶剤を含むスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、基体とスラリーを接触させた後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で塗膜を形成し、その後加熱乾燥を経て溶剤を除去する方法等で製造することができる。あるいは、本発明の固体電解質の粉末をプレス成形した後、適宜加工して製造することもできる。本発明における固体電解質層には、本発明の固体電解質以外に、その他の固体電解質が含まれていてもよい。本発明における固体電解質層の厚さは、典型的には5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることが更に好ましい。
【0031】
本発明の固体電解質を含む固体電池における正極合剤は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、リチウム二次電池の正極活物質として使用されているものを適宜使用可能である。正極活物質としては、例えばスピネル型リチウム遷移金属化合物や、層状構造を備えたリチウム金属酸化物等が挙げられる。正極合剤は、正極活物質のほかに、導電助剤を始めとするほかの材料を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の固体電解質を含む固体電池における負極合剤は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、リチウム二次電池の負極活物質として使用されている負極合剤を適宜使用可能である。負極活物質としては例えば、リチウム金属、人造黒鉛、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などの炭素材料、ケイ素、ケイ素化合物、スズ、並びにスズ化合物などが挙げられる。負極合剤は、負極活物質のほかに、導電助剤を始めとするほかの材料を含んでいてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0034】
〔実施例1〕
以下の表1に示す組成となるように、Li2S粉末と、P2S5粉末と、LiCl粉末と、LiBr粉末とを、全量で75gになるように秤量した。これらの粉末を、ボールミルを用いて粉砕混合して混合粉末を得た。混合粉末を焼成して、表1に示す組成の焼成物を得た。焼成は管状電気炉を用いて行った。焼成の間、電気炉内に純度100%の硫化水素ガスを1.0L/minで流通させた。焼成温度は500℃に設定し4時間にわたり焼成を行った。焼成物を乳鉢及び乳棒を用いて解砕した。引き続き、トルエンを用いた湿式ビーズミル(直径1mmのジルコニアビーズ)で粗粉砕した。粗粉砕した焼成物を、トルエンを用いた湿式ビーズミル(浅田鉄工株式会社製のピコミル、型番:PCM-LR)によって微粉砕した。湿式ビーズミルによる微粉砕には直径0.3mmの高純度αアルミナビーズ(大明化学工業製、品種TB-03、Al2O3純度99.99%以上)を用いた。スラリー濃度は20%、周速は6m/s、循環は200ml/minとし、微粉砕を行った。微粉砕された焼成物を固液分離した後に、真空引きによって3000Pa(絶対圧)に減圧された容器内で150℃に加熱することによって乾燥させて、トルエンを除去した。乾燥後の焼成物を目開き75μmの篩で篩い分けして、目的とする固体電解質を得た。得られた固体電解質に含まれるトルエンの量を、上述した方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。なお、得られた固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有することを確認した。
【0035】
〔実施例2ないし8及び比較例1ないし3〕
微粉砕された焼成物の乾燥条件(減圧乾燥の圧力及び温度)を種々変更した以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。得られた固体電解質に含まれるトルエンの量を、上述した方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。なお、得られた固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有することを確認した。
【0036】
〔実施例9及び10〕
以下の表1に示す組成となるように、Li2S粉末と、P2S5粉末と、LiCl粉末とを、全量で75gになるように秤量した。また、微粉砕された焼成物の乾燥条件(減圧乾燥の圧力及び温度)を種々変更した。これら以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。得られた固体電解質に含まれるトルエンの量を、上述した方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。なお、得られた固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有することを確認した。
【0037】
〔実施例11及び12〕
湿式粉砕に用いる有機溶媒として以下の表1に示すものを用いた。また、微粉砕された焼成物の乾燥条件(減圧乾燥の圧力及び温度)を種々変更した。これら以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。得られた固体電解質に含まれる有機溶媒の量を、上述した方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。なお、得られた固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有することを確認した。
【0038】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質について、上述の方法でD10、D50及びD95を測定した。また、以下に述べる方法で硫化水素の発生量及びリチウムイオンの伝導率を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0039】
〔硫化水素の発生量〕
上述した実施例及び比較例で得た硫化物固体電解質(サンプル)を、十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で50mgずつ秤量し、ラミネートフィルムで密閉された袋に入れた。
乾燥空気と大気を混合することで調整した露点-30℃雰囲気で室温(25℃)に保たれた恒温恒湿槽の中に、容量1500cm
3のガラス製のセパラブルフラスコを載置し、セパラブルフラスコの内部が恒温恒湿槽内の環境と同一になるまで保持した。次いで、サンプルが入った密閉袋を恒温恒湿槽の中で開封し、素早くセパラブルフラスコにサンプルを配置した。サンプルをセパラブルフラスコに配置し、前記フラスコを密閉した直後から60分経過までに発生した硫化水素について、60分後に硫化水素センサー(理研計器製GX-2009)を用いて硫化水素濃度を測定した。そして、60分経過後の硫化水素濃度から硫化水素の体積を算出して、60分経過後の硫化水素発生量を求めた。その結果を表1に示す。また、固体電解質に含まれる有機溶媒の量と硫化水素の発生量との関係を
図1に示す。
【0040】
〔リチウムイオンの伝導率〕
上述した実施例及び比較例で得た固体電解質を、十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で一軸加圧成形した。更に冷間等方圧加圧装置によって200MPaで成形し、直径10mm、厚み約4mm~5mmのペレットを作製した。ペレット上下両面に電極としてのカーボンペーストを塗布した後、180℃で30分間の熱処理を行い、イオン導電率測定用サンプルを作製した。サンプルのリチウムイオン導電率を、東陽テクニカ株式会社のソーラトロン1255Bを用いて測定した。測定は、温度25℃、周波数0.1Hz~1MHzの条件下、交流インピーダンス法によって行った。
【0041】
【0042】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた固体電解質は、高いリチウムイオンの伝導率を維持しつつ、硫化水素の発生が抑制されていることが判る。これに対して比較例で得られた固体電解質は、リチウムイオンの伝導率は高いものの、硫化水素の発生が実施例よりも多くなってしまった。また、
図1に示す結果から明らかなとおり、固体電解質に含まれる有機溶媒の量が0.95質量%を超えると、硫化水素の発生量が急激に増加することが判る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、硫化水素の発生が抑制された硫化物固体電解質が提供される。