(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】トファシチニブを含む局所製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20230802BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230802BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230802BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230802BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230802BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230802BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230802BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230802BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230802BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230802BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230802BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230802BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230802BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230802BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230802BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20230802BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20230802BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230802BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P17/02
A61P17/14
A61P17/00
A61P17/06
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/107
A61K47/20
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/22
A61K47/40
A61K47/08
A61K47/36
A61K47/32
(21)【出願番号】P 2020541671
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 US2019014524
(87)【国際公開番号】W WO2019152232
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-20
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511107980
【氏名又は名称】ティダブリューアイ・バイオテクノロジー・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TWI Biotechnology, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルゥ,グワン-ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チー-ミン
(72)【発明者】
【氏名】リョウ,リン-イン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ファン-ルン
(72)【発明者】
【氏名】リヤオ,シー-フェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チョウ-シウン
(72)【発明者】
【氏名】カオ,ユー-ハン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユー-イン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0335644(US,A1)
【文献】特開2012-219099(JP,A)
【文献】国際公開第2016/179605(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/119936(WO,A1)
【文献】Archives of Dermatological Research,2017年,Vol.309,p.729-738
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節リウマチを含まない自己免疫疾患の治療および/または予防に使用するための局所製剤であって、
(a)治療有効量のトファシチニブと、
(b)少なくとも1つの溶媒
であって、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびプロピレングリコール(PG)を含む、溶媒と、
(c)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む、局所製剤。
【請求項2】
前記局所製剤が、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ローションおよびゲルからなる群から選択される形態である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項3】
前記局所製剤が、溶液およびゲルから選択される形態である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項4】
前記トファシチニブが、クエン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ベシル酸塩、トシル酸塩、パルミチン酸塩および酒石酸塩から選択される薬学的に許容される塩の形態である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩がクエン酸塩である、請求項4に記載の局所製剤。
【請求項6】
前記溶媒が
、エタノー
ルおよび水
をさらに含む、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項7】
前記薬学的に許容される賦形剤が、増粘剤、安定剤、抗酸化剤、キレート剤、油性物質、乳化剤、浸透促進剤、pH調整剤、防腐剤、抗菌剤、乳白剤、芳香剤、着色剤、ゲル化剤、保湿剤、界面活性剤、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項8】
前記薬学的に許容される賦形剤が増粘剤である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項9】
前記増粘剤が、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、カルボマーポリマー、カルボマー誘導体、マルトデキストリン、ポリデキストロース、デキストレート、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポロキサマー、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
8に記載の局所製剤。
【請求項10】
前記製剤が対象の皮膚に適用された場合に、前記皮膚に保持されるトファシチニブの量が、前記適用後4時間、前記皮膚を通じて血液または体循環中に浸透する量より多い、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項11】
前記製剤が対象の皮膚に適用された場合に、前記皮膚に保持されるトファシチニブの量が、前記適用後8時間、前記皮膚を通じて血液または体循環中に浸透する量より少なくとも約4.7倍多い、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項12】
室温で少なくとも1か月保管された後に、2%未満の総分解生成物が観察される、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項13】
前記局所製剤の総重量に基づき、
(a)約0.1%w/w~約5%w/wのクエン酸トファシチニブと、
(b)約1%w/w~約80%w/wのジメチルスルホキシドと、
(c
)約10%w/w~約60%w/wのプロピレングリコールと、
(d)任意選択で、約0.05%w/w~約5%w/wのヒドロキシプロピルセルロースと、
(e)任意選択で、約0.05%w/w~約5%w/wのブチル化ヒドロキシアニソールと、
(f)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、
を含む、請求項
1に記載の局所製剤。
【請求項14】
白斑、アトピー性皮膚炎、乾癬、後天性表皮水疱症、尋常性天疱瘡、IgA媒介性水疱性皮膚病、全身性エリテマトーデス、円形脱毛症、ポルフィリン症、強皮症
、多発性硬化症、およびI型糖尿病の皮膚合併症から選択される自己免疫疾患の治療および/または予防における使用のための、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項15】
トファシチニブが、約0.5mg/cm
2~約60mg/cm
2の治療有効日用量で皮膚に投与される、請求項1に記載の局所製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、トファシチニブを含む局所製剤に関する。本発明は、自己免疫障害の治療のための、および特に、白斑およびアトピー性皮膚炎の治療のための該局所製剤の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
トファシチニブ、3-((3R,4R)-4-メチル-3-[メチル-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-アミノ]-ピペリジン-1-イル)-3-オキソプロピオニトリルは、化学式C
16H
2ON
6Oおよび以下の構造式(I)を有する。
【化1】
【0003】
トファシチニブは、JAK阻害剤、または臓器移植、異種移植、ループス、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、I型糖尿病および糖尿病の合併症、がん、喘息、アトピー性皮膚炎、自己免疫甲状腺障害、潰瘍性大腸炎、クローン病、アルツハイマー病、白血病ならびに免疫抑制が望ましいであろう他の適応症のための免疫抑制剤として有用である。
【0004】
現在、クエン酸トファシチニブは、XELJANZ(登録商標)というブランド名で米国において承認されている。XELJANZ(登録商標)は、8mgのクエン酸トファシチニブ(5mgのトファシチニブに相当)を有し、1日2回投与されている即時放出錠剤形態である。XELJANZ(登録商標)は、XELJANZ(登録商標)XRと呼ばれる毎日1回の錠剤としても入手可能である。XELJANZ(登録商標)XRは、17.77mgのクエン酸トファシチニブ(11mgのトファシチニブに相当)を有する徐放性錠剤形態で承認されている。XELJANZ(登録商標)およびXELJANZ(登録商標)XRの両方の錠剤は、経口投与のために供給されており、関節リウマチの治療に必要とされる。
【0005】
上気道感染症、頭痛、下痢、および風邪症状のようないくつかの有害な副作用が、クエン酸トファシチニブの経口投与後に観察されている。トファシチニブの局所剤形は、局所治療およびこれらの副作用を最小化するために提案されている。米国特許第8,541,426号は、ドライアイ障害を治療するための局所トファシチニブ組成物を開示する。米国特許出願公開第20120258976号は、乾癬の治療における使用のためのトファシチニブ遊離塩基およびオレイルアルコールを含む局所軟膏製剤を開示する。
【0006】
しかしながら、米国第8,541,426号における組成物は点眼のための局所製剤であり、したがって、皮膚適用のためのその有効性および安全性は不明である。米国第20120258976号は、局所軟膏製剤を投与する後に累積浸透と流束プロファイルを生成するためのインビトロ経皮流束データを提供するが、皮膚におけるトファシチニブの保持率についてはほとんど言及していない。したがって、トファシチニブが投与後に長期の局所治療効果を提供できるかどうか知ることができない。加えて、これらの先行技術の組成物は主に眼障害または乾癬の治療のために使用されており、したがって、他の皮膚疾患に対するそれらの治療効果は不明である。
【0007】
上記の文献の限界を考慮すると、他の物理化学的特性と同様に所望の保持率を有し、自己免疫疾患に適合されたトファシチニブの局所製剤に対する当該技術分野における必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8541426号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0258976号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、(a)治療有効量のトファシチニブと、(b)少なくとも1つの溶媒と、(c)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤を含む局所製剤と、を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、(a)治療有効量のクエン酸トファシチニブと、(b)ジメチルスルホキシドと、(c)任意選択で、プロピレングリコールと、(d)任意選択で、増粘剤と、(e)任意選択で、抗酸化剤と、(f)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む局所製剤を提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、本発明の局所製剤を対象に投与することを含む、該対象における自己免疫疾患を治療および/または予防するための方法を提供することである。
【0012】
本発明のために実施される詳細な技術および好ましい実施形態は、この分野における当業者が請求される発明の特徴を十分に理解するために、添付の図面に付随する以下の段落において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】インビトロ浸透/保持研究において使用されたフロースルー拡散セルを示す概略図である。
【
図2】皮膚およびレシーバーにおけるトファシチニブの正規化された配分結果を示す統計学的棒グラフである。
【
図3】経時変化を伴う表皮および真皮のトファシチニブ濃度を示す統計学的棒グラフである。
【
図4】経時変化を伴うレシーバーのトファシチニブ濃度を示す統計学的棒グラフである。
【
図5】本発明のトファシチニブ局所製剤を用いた治療のベースライン、8週間および12週間からの顔面白斑を有する男性対象の写真を示す。
【
図6】本発明のトファシチニブ局所製剤を用いた治療のベースライン、8週間および12週間からの顔面白斑を有する女性対象の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本明細書で使用される用語「トファシチニブ」は、遊離塩基、薬学的に許容される塩、ラセミ体、ジアステレオマー、異性体、類似体、およびそれらの混合物の形態であるトファシチニブを指す。
【0015】
本明細書で使用される用語「治療有効量」は、疾患の1つ以上の症状を緩和または低下させる量を指す。
【0016】
本明細書で使用される用語「分解生成物」は、医薬品の製造、輸送、および保管中に発生し得、薬学的生成物の効力に影響し得る望ましくない化学物質または不純物を指す。分解生成物は、光、温度、pH、および湿度の変化に応じて、または賦形剤との反応もしくは包装との接触のような活性成分の固有の特徴が原因で形成し得る。
【0017】
加えて、本明細書で別段述べられない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される用語「a(an)」、「the」などは、単数形および複数形の両方を包含すると理解されるべきである。
【0018】
上記のように、本発明は、自己免疫疾患の治療に有益である改善された物理化学的特性を有する局所製剤を提供する。
【0019】
本発明の局所製剤は、(a)治療有効量のトファシチニブと、(b)少なくとも1つの溶媒と、(c)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、異なる剤形、例えば、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ローションおよびゲルに製剤化され得る。好ましくは、局所製剤は、溶液またはゲルである。より好ましくは、局所製剤は、ゲルである。
【0021】
いくつかの実施形態では、トファシチニブは、薬学的に許容される塩の形態である。かかる塩は、クエン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ベシル酸塩、トシル酸塩、パルミチン酸塩および酒石酸塩を含むが、これらに限定されない。好ましくは、薬学的に許容される塩は、クエン酸塩である。
【0022】
いくつかの実施形態では、製剤におけるトファシチニブは、製剤の総重量に基づいて、約0.1%w/w~約5%w/w、好ましくは約1%w/w~約4%w/wの濃度で存在する。処方。
【0023】
いくつかの実施形態では、溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、イソプロピルアルコール、メタノール、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、アセトン、精製水、エタノール、1-プロパノール、ブタンジオール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール(トランスクトール)、またはそれらの組み合わせであり得る。好ましくは、トファシチニブは、溶媒において自由に可溶性である。より好ましくは、溶媒は、ジメチルスルホキシドである。
【0024】
一実施形態では、溶媒は、ジメチルスルホキシドと、プロピレングリコール、エタノール、および水のうちの少なくとも1つとの組み合わせである。
【0025】
いくつかの実施形態では、溶媒は、製剤の総重量に基づいて、約40%w/w~約99.9%w/w、好ましくは約70%w/w~約99%w/w、より好ましくは約90%w/w~約97%w/wの濃度で存在する。
【0026】
本発明の局所製剤は、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。例えば、薬学的に許容される賦形剤は、増粘剤、安定剤、抗酸化剤、キレート剤、油性物質、乳化剤、浸透促進剤、pH調整剤、防腐剤、抗菌剤、乳白剤、香料、着色剤、ゲル化剤、保湿剤、界面活性剤などから選択され得る。
【0027】
本発明の製剤において使用される薬学的に許容される賦形剤は、2つ以上の方法で作用できる。例えば、増粘剤は、ゲル化剤、浸透促進剤などとしても機能でき、溶媒は、安定剤としても機能できる(例えば、トファシチニブの総分解生成物を抑制する)。
【0028】
一実施形態では、本発明の局所製剤は、オレイルアルコールを含まない。
【0029】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、増粘剤を含む。好ましくは、増粘剤は、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、カルボマーポリマー、カルボマー誘導体、マルトデキストリン、ポリデキストロース、デキストレート、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、増粘剤は、ヒドロキシプロピルセルロースである。
【0030】
いくつかの実施形態では、増粘剤は、製剤の総重量に基づいて、約0.05%w/w~約5%w/w、好ましくは約0.1%w/w~約4%w/w、より好ましくは約1%w/w~約3%w/wの濃度で存在する。
【0031】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、ゲル化剤を含む。好ましくは、ゲル化剤は、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、カルボマーポリマー、カルボマー誘導体、マルトデキストリン、ポリデキストロース、デキストレート、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、ゲル化剤は、製剤の総重量に基づいて、約0.05%w/w~約5%w/w、好ましくは約0.1%w/w~約4%w/w、より好ましくは約1%w/w~約3%w/wの濃度で存在する。
【0033】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、抗酸化剤を含む。好ましくは、抗酸化剤は、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、ルテイン、リコピン、パルミチン酸レチニル、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム五水和物、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、没食子酸プロピル、アルファ-リポ酸、パルミチン酸アスコルビル、ピロ亜硫酸ナトリウム、ユビキノン、セレン、またはそれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、抗酸化剤は、ブチル化ヒドロキシアニソールである。
【0034】
いくつかの実施形態では、抗酸化剤は、製剤の総重量に基づいて、約0.05%w/w~約5%w/w、好ましくは約0.1%w/w~約3%w/wの濃度で存在する。
【0035】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、キレート剤を含む。好ましくは、キレート剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTAの塩、デスフェリオキサミンB、デフェロキサミン、ジチオカルブナトリウム(dithiocarb sodium)、ペニシラミン、ペンテト酸カルシウム、ペンテト酸のナトリウム塩、サクシマー(succimer)、トリエンチン、ニトリロトリ酢酸、トランス-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、ビス(アミノエチル)グリコールエーテル-N,N,N’,N’-四酢酸、イミノ二酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、またはそれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。
【0036】
いくつかの実施形態では、キレート剤は、製剤の総重量に基づいて、約0.005%w/w~約0.5%w/w、好ましくは約0.01%w/w~約0.1%w/wの濃度で存在する。
【0037】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、防腐剤を含む。好ましくは、防腐剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、安息香酸、フェノール、またはそれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、防腐剤は、メチルパラベンである。
【0038】
いくつかの実施形態では、防腐剤は、製剤の総重量に基づいて、約0.005%w/w~約2%w/w、好ましくは約0.05%w/w~約0.5%w/wの濃度で存在する。
【0039】
皮膚関連の自己免疫障害を治療するために、皮膚におけるトファシチニブの浸透と保持とのバランスを提供する局所製剤を開発することが望まれる。治療薬は、角質層を容易に浸透して標的部位(例えば、皮膚障害が起こり得る真皮または表皮)に到達し、標的皮膚層に保持されて局所的な治療効果を生み出す。本発明の局所製剤は、浸透と保持との最適なバランスを達成し、皮膚における高い保持率を実証する。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の局所製剤が対象の皮膚に適用された場合に、皮膚に保持されるトファシチニブの量は、適用後4時間、好ましくは8時間、最も好ましくは12時間、皮膚を通じて血液または体循環中に浸透するものよりも多い。
【0041】
一実施形態では、局所製剤が対象の皮膚に適用される際に、皮膚に保持されるトファシチニブの量は、適用後8時間、皮膚を通じて血液または体循環中に浸透するものより少なくとも約4.7倍、好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、最も好ましくは少なくとも約100倍多い。
【0042】
本発明の局所製剤は、その固有の特徴または製造、輸送、および保管中の光、温度、pH、もしくは湿度の変化が原因で、分解を経て分解生成物を形成し得る。患者において悪影響を引き起こす可能性のため、少量の分解生成物でも、薬学的安全性に影響し得る。したがって、分解生成物の形成を防ぎ、トファシチニブ生成物の貯蔵寿命を延ばすことが必要である。
【0043】
本発明の局所製剤は、トファシチニブを安定化させ、製剤における分解の形成を防ぐことができる。
【0044】
好ましい実施形態では、トファシチニブ製剤の総分解生成物は、製剤が室温(すなわち、20℃~27℃)で少なくとも1か月、好ましくは少なくとも3か月、好ましくは少なくとも4か月、好ましくは少なくとも5か月、好ましくは少なくとも6か月、およびより好ましくは少なくとも8か月の間保管された後、最初に存在するトファシチニブの2%未満である。
【0045】
一実施形態では、本発明の局所製剤は、(a)治療有効量のクエン酸トファシチニブと、(b)ジメチルスルホキシドと、(c)任意選択で、プロピレングリコールと、(d)任意選択で、増粘剤と、(e)任意選択で、抗酸化剤と、(f)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。
いくつかの実施形態では、局所製剤は、局所製剤の総重量に基づいて、(a)約0.1%w/w~約5%w/wのクエン酸トファシチニブと、(b)約1%w/w~約80%w/wのジメチルスルホキシドと、(c)任意選択で、約10%w/w~約60%w/wのプロピレングリコールと、(d)任意選択で、約0.05%w/w~約5%w/wのヒドロキシプロピルセルロースと、(e)任意選択で、約0.05%w/w~約5%w/wのブチル化ヒドロキシアニソールと、(f)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。
【0046】
一実施形態では、局所製剤は、クリーム製剤である。クリームは、皮膚の表面に広がるのが容易であり(すなわち、適用しやすい)、軟膏に比べて脂っこくなく、容易に水で洗うことができ、拭き取るのが容易であり、敏感で乾燥した皮膚に適し、急性病変にも適している。
【0047】
クリームは、油相および水相の半固形乳濁液である。それらは、2つの型、連続した水相に分散された油の小さな液滴で構成される水中油(O/W)形態、ならびに連続した油層に分散された水の小さな液滴で構成される油中水(W/O)形態に分けられる。水中油クリームは、それらが脂っこくなく、水を使用してより容易に洗い流されるため、より快適で美容的に許容される。油中水クリームは取り扱うのがより困難であるが、クリーム中に組み込まれる多くの薬物は、疎水性であり、水中油クリームよりも油中水クリームからより容易に放出されるであろう。油中水型クリームはまた、皮膚の最外層である角質層からの水分損失を低下させる油性バリアを提供するため、より保湿している。乳化剤は、水を油と混合するためにクリームにおいて使用される。水および油は混合せずに分離したままであるため、乳化剤は、水および油を一緒に保つ均一な混合物を形成するために必要である。
【0048】
一実施形態では、本発明の局所クリーム製剤は、(a)治療有効量のトファシチニブと、(b)少なくとも1つの溶媒と、(c)油性物質と、(d)乳化剤と、(e)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。好ましくは、該溶媒は、ジメチルスルホキシドと水との組み合わせ(すなわち、水性DMSO溶液)である。
【0049】
いくつかの実施形態では、局所クリーム製剤中のトファシチニブは、製剤の総重量に基づいて、約0.1%w/w~約5%w/w、好ましくは約1%w/w~約4%w/wの濃度で存在する。
【0050】
いくつかの実施形態では、局所クリーム製剤中の溶媒は、製剤の総重量に基づいて、約40%w/w~約99%w/w、好ましくは約60%w/w~約95%w/w、より好ましくは約75%w/w~約90%w/wの濃度で存在する。
【0051】
いくつかの実施形態では、局所クリーム製剤は、油性物質を含む。好ましくは、油性材料は、例えば、植物油、鉱油、ワセリン、中鎖トリグリセリド(MCT)油、大豆油、ゴマ種子油、ピーナッツ油、ヒマワリ油、綿実油、ヒマシ油、オリーブ油、動物油、脂肪酸、合成油、天然および合成グリセリド、ステロールエステル、脂肪アルコール、シリコーン油、またはそれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、油性材料は、鉱油、中鎖トリグリセリド(MCT)油、またはヒマシ油である。最も好ましくは、油性材料は、ヒマシ油である。
【0052】
いくつかの実施形態では、油性材料は、製剤の総重量に基づいて、約0.05%w/w~約60%w/w、好ましくは約1%w/w~約55%w/w、より好ましくは約10%w/w~約50%w/wの濃度で存在する。
【0053】
いくつかの実施形態では、局所クリーム製剤は、乳化剤を含む。好ましくは、乳化剤は、例えば、セテアリルアルコール、イソステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸PEG-100、オリーブ油脂肪酸カリウム(potassium olivate)、ポリソルベート、ソルビタンエステル、デシルグルコシド、ヒドロキシエチルアクリレート/ナトリウムアクリロイルジメチルタウレートコポリマー、またはそれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、乳化剤は、ヒドロキシエチルアクリレート/ナトリウムアクリロイルジメチルタウレートコポリマーである。
【0054】
いくつかの実施形態では、乳化剤は、製剤の総重量に基づいて、約0.05%w/w~約20%w/w、好ましくは約1%w/w~約15%w/wの濃度で存在する。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明の局所クリーム製剤は、(a)約0.1%w/w~約5%w/wのトファシチニブと、(b)約40%w/w~約99%w/wの溶媒と、(c)約0.05%w/w~約60%w/wの油性物質と、(d)約0.05%w/w~約20%w/wの乳化剤と、(e)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。好ましくは、該溶媒は、ジメチルスルホキシドと水との組み合わせである。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明の局所クリーム製剤は、(a)約1%w/w~約4%w/wのトファシチニブと、(b)約60%w/w~約95%w/wの溶媒と、(c)約1%w/w~約55%w/wの油性物質と、(d)約1%w/w~約15%w/wの乳化剤と、(e)任意選択で、1つ以上の他の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。好ましくは、該溶媒は、ジメチルスルホキシドと水との組み合わせである。
【0057】
本発明の局所製剤がトファシチニブの優れた保持率および安定性を有することを考慮すると、それは、皮膚関連自己免疫疾患に対するより効果的な治療を提供できる。さらに、それは、非皮膚関連自己免疫疾患に対する経口療法の代替手段ともなり得る。
【0058】
したがって、本発明の局所製剤は、白斑、アトピー性皮膚炎、乾癬、後天性表皮水疱症、尋常性天疱瘡、IgA媒介性水疱性皮膚病、全身性エリテマトーデス、円形脱毛症、ポルフィリン症、強皮症、多発性硬化症、関節リウマチ、およびI型糖尿病の皮膚合併症を含む自己免疫疾患の治療および/または予防において使用され得る。
【0059】
白斑は、表皮において機能の喪失および/またはメラノサイトの死が原因で色素脱失を引き起こし、冒された皮膚上に乳白色の斑点を生み出す状態である。皮膚の明るくなった病変は、一般に、太陽の損傷作用、早期老化、およびおそらく皮膚癌に対するより高い感受性を有する。白斑に対する治療オプションは、内科的治療、外科的療法、光線療法、および補助的療法を含む。局所コルチコステロイド療法は最大56%の報告された成功率を有するが、コルチコステロイドを長期使用は、皮膚が薄くなること、ストレッチマーク、および血管の拡張を生じ得る。
【0060】
一実施形態では、本発明の局所製剤は、局所コルチコステロイド療法の代替として、白斑の治療および/または予防において使用される。
【0061】
アトピー性皮膚炎(AD)は、皮膚の最外部に位置する保護壁である角質層の欠損によって引き起こされる。ADは、激しいそう痒(例えば、重度のかゆみ)により、ならびに鱗状および乾燥性湿疹病変により特徴付けられる慢性/再発性炎症性皮膚疾患である。ステロイド剤は、抗炎症剤および免疫抑制剤として機能し、アトピー性皮膚炎を治療するのに正の効果を有するが、長期間にわたり使用される場合、皮膚の衰弱、全身性ホルモンの症状、および毒性のような副作用が起こり得る。
【0062】
一実施形態では、本発明の局所製剤は、ステロイド療法の代替として、アトピー性皮膚炎の治療および/または予防において使用される。
【0063】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、毎日1回または2回の製剤である。すなわち、製剤は、1日1回または1日2回、対象の皮膚に適用される。
【0064】
いくつかの実施形態では、トファシチニブは、製剤中の唯一の活性成分である。これらの実施形態は、提供される製剤中のこれらの成分の量が本出願において提供される製剤の目的のための治療量以下のレベルである限り、先行技術の製剤において活性成分として使用され得る成分を含み得る。本発明は、トファシチニブが唯一の活性成分ではなく他の活性成分と組み合わされ得る実施形態も提供する。
【0065】
いくつかの実施形態では、トファシチニブは、約0.5mg/cm2~約60mg/cm2の治療有効日用量で皮膚に投与される。
【0066】
本発明は、本発明の局所製剤を対象に投与することを含む、対象における自己免疫疾患を治療および/または予防するための方法も提供する。
【0067】
好ましくは、自己免疫疾患は、白斑またはアトピー性皮膚炎である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明は、以下の実施例を参照してさらに説明されるであろう。しかしながら、これらの実施例は、例示の目的のためにのみ提供されるが、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0069】
[実施例1]クエン酸トファシチニブの溶解度
溶解度研究を、製剤開発の過程において行った。過剰のクエン酸トファシチニブを、表1に列挙されるさまざまな溶媒に添加した。懸濁液を、一晩撹拌して0.22μmフィルタを通して濾過した。濾液を、好適な濃度に希釈した。各溶媒中のクエン酸トファシチニブの濃度を、HPLC法により決定した。クエン酸トファシチニブのさまざまな溶媒中での溶解度の結果は、表1に要約される。
【表1】
【0070】
結果は、クエン酸トファシチニブが、ジメチルスルホキシド(DMSO)に自由に可溶性であり、水およびプロピレングリコール(PG)にわずかに可溶性であり、エタノールに非常にわずかに可溶性であることを示した。所望の濃度のトファシチニブ局所製剤(32mg/mL)を調製するために、DMSOを、溶媒として選択した。また、クエン酸トファシチニブの溶解度がpH依存的であることも、示された。クエン酸トファシチニブの水溶性は、pHが1から3に増加すると低下し、pH4.5ではわずかに増加し、pH6.8超では比較的低いままである。
【0071】
[実施例2]クエン酸トファシチニブの適合性研究
製剤開発の初期段階で、クエン酸トファシチニブと賦形剤との間の潜在的な適合性を理解するために、いくつかの適合性試験を、実行した。具体的には、以下の表2に明示されるように、溶解したクエン酸トファシチニブの賦形剤との混合物を含有するゴム栓付きバイアルを、チャンバー中で7日間60℃の条件下でインキュベートした。混合物中の総分解生成物を、HPLCでさらに分析した。
【表2】
【0072】
適合性研究結果が、表2に示される。クエン酸トファシチニブはDMSO中で良好な溶解度を呈するが、DMSO中でのクエン酸トファシチニブの適合性は問題になり得る。DMSOがクエン酸トファシチニブの分解を誘導し4.17%の総分解生成物を生じることが、観察された。驚いたことに、適合性問題は、プロピレングリコール、エタノール、またはイソプロピルアルコール(IPA)を添加することによって解決された。プロピレングリコール、エタノールまたはイソプロピルアルコールの存在下では、DMSO中のクエン酸トファシチニブの総分解生成物が有意に抑制されることが、見出された。したがって、DMSOのPG、エタノール、またはIPAのような他の溶媒/賦形剤との組み合わせは、クエン酸トファシチニブを溶解し、同時にDMSO中のクエン酸トファシチニブの総分解生成物を低下させるために、製剤中で使用され得る。
【0073】
[実施例3]トファシチニブ局所製剤の調製
適合性研究結果に基づいて、クエン酸トファシチニブの予備的製剤を、以下のように設計した(表3)。DMSO、またはDMSOのPG、エタノール、および/もしくは水との組み合わせを、活性成分のクエン酸トファシチニブを溶解するための溶媒として利用した。すべてのクエン酸トファシチニブは、透明な溶液として完全に溶解されるべきである。製剤は、その特徴を変更するか、またはその剤形を変化させるために、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を利用できる。本明細書では、水酸化ナトリウムを、pH調整剤として利用した。0.5N水酸化ナトリウム溶液の十分な量(q.s.)を、所望のpHに到達するために適切に添加した。ブチル化ヒドロキシアニソールを、製剤の酸化を阻害するために、抗酸化剤として利用した。ヒドロキシプロピルセルロースを、溶液またはゲル形態を製剤化するレオロジー特性を制御するために、増粘剤として利用した。油相および水相は、半固形剤形の重要な構成成分である。それらは、2つの型、連続した水相に分散された油の小さな液滴で構成される水中油(O/W)形態、ならびに連続した油層に分散された水の小さな液滴で構成される油中水(W/O)形態に分けられる。乳化剤は、典型的には極性または親水性(すなわち、水溶性)部分および非極性(すなわち、疎水性または親油性)部分を有する化合物である。乳化剤は、その動力学的安定性を増加させることによって乳濁液を安定化させる物質である。
【表3】
【0074】
表4は、20のDMSOベースのトファシチニブ局所製剤(P1~P20)および比較例としての軟膏製剤(C1)を示す。C1軟膏は、トファシチニブの遊離塩基を含有する米国第20120258976号に開示される。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0075】
DMSOベースの製剤を、次のステップにより調製した。
1.API/DMSO溶液を調製する:DMSOに活性剤(トファシチニブ遊離塩基またはクエン酸塩)を溶解させ、
2.増粘/ゲル化溶液を調製する:必要な場合、増粘剤またはゲル化剤を溶媒(例、プロピレングリコールおよび/またはエタノール)に溶解させ、
3.キレート溶液を調製する:必要な場合、キレート剤を水酸化ナトリウム溶液に溶解させ、
4.API/DMSO混合溶液を調製する:必要な場合、抗酸化剤、キレート溶液、防腐剤、油性物質、乳化剤、または他の薬学的に許容される賦形剤をAPI/DMSO溶液に添加し、
5.必要な場合、API/DMSO混合溶液を水に添加し、
6.必要な場合、API/DMSO混合溶液を増粘/ゲル化溶液に添加し、
7.全ての組成物が均一になるまで攪拌し続ける。
【0076】
[実施例4]トファシチニブ局所製剤の安定性試験
9つの製剤(P1~P6、P8、P9およびC1)を、25℃/60%相対湿度(RH)および40℃/75%相対湿度で少なくとも1か月間の安定性試験に供した。9つの製剤の1か月の安定性の結果を、表5に要約した。物理的および化学的安定性も、評価した。長期にわたる製剤(P8)の安定性データを、表6に収集した。
【表8】
【表9】
【表10】
【0077】
C1軟膏製剤は乏しい安定性を示し、総分解生成物の重量百分率は6.14%である。他の製剤、P1~P6、P8およびP9は、C1軟膏製剤と比較される際に、より優れた安定性を示す。要するに、DMSOベースの製剤(P1~P6、P8およびP9)は、トファシチニブが遊離塩基またはクエン酸塩のどちらの形態であっても、軟膏製剤(C1)よりも高い安定性を呈する。さらに、製剤P8の安定性の結果は、1か月超での優れた安定性を示す。総分解生成物の重量百分率は、8か月間25℃/60%相対湿度(RH)で、わずか0.77%である。
【0078】
しかしながら、結晶性沈殿物は、P1、P2およびP6で観察された。P3は、自由に流動的な特性が原因で、あまり好まれない。製剤が自由に流動する傾向がある際に、病変部位に適用することは不便である。したがって、P4、P5、P8およびP9は、好ましい製剤候補である。
【0079】
[実施例5]トファシチニブ局所製剤のインビトロ浸透/保持研究
トファシチニブ遊離塩基またはクエン酸塩を含有する多くの製剤を、インビトロ浸透/保持研究に供した。一般的に、無毛モルモットおよびブタの両方は、ヒト皮膚吸収を予測するための十分に確立されたモデルである。対照的に、ラット、ウサギ、モルモットのような実験動物を使用する他のモデルは、多くの場合、ヒト皮膚吸収を過大評価する結果となる。台湾の家畜企業において7か月齢のブタ(LandraceブタとDurocブタとの交雑)から得られた側腹部皮膚を、透過膜として使用した。垂直拡散細胞(USP/NF<725>、
図1)を、浸透/保持試験のために適用した。具体的には、皮膚採取(dermatoming)前に、皮膚上の毛を750μmの厚さに切り揃えた。皮膚の電気抵抗を確認して、皮膚の完全性を確実にした。皮膚を、20%ポリエチレングリコール300(PEG 300)(37℃)を有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で満たされた受容体相と接触する拡散セルの上部に配置した。およそ280mgのトファシチニブ製剤を、ドナーコンパートメントの皮膚表面上に添加した。8時間後、皮膚表面上の残留製剤を取り除き、皮膚表面を再度注意深く洗浄した。角質層を取り除き、皮膚の重さを秤量して細かく刻み、アセトニトリル/メタノール/水抽出溶液と共に1時間激しい振とうにより抽出した。皮膚抽出物を、遠心分離し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0080】
皮膚抽出物(μg)/レシーバー(μg)の相対的トファシチニブ量が、表7に示される。データは、P1~P6およびP9がすべてC1より高いことを示す。データは、P1~P6およびP9のDMSOベースの製剤が、皮膚にわたって浸透するよりも皮膚にトファシチニブを維持する傾向があることを示す。
【表11】
【0081】
図2は、8時間処理後の皮膚およびレシーバーにおける配分を示す。DMSOベースの製剤(P1~P6およびP9)をC1と比較すると、結果は、トファシチニブ軟膏(C1)がレシーバーにおいて最も高く皮膚において最も低い分配を有することを示し、この製剤がすべての製剤の中で、トファシチニブが皮膚に保持するよりも皮膚にわたって血液または体循環中へ浸透するのを促進することを示した。この結果は、DMSOベースの製剤が生成物の安定性を改善させるだけでなく、皮膚に保持されるトファシチニブの量も増加させることを示唆する。
【0082】
製剤P1およびP2は、すべてのDMSOベースの製剤の中で、レシーバーにおける最も高い配分を有する。このことは、トファシチニブのレシーバー中への浸透を増強し、それに従って皮膚の部分を低下させる製剤におけるエチルアルコールに起因し得る。したがって、エチルアルコールを有しないDMSOベースの製剤は、エチルアルコールを添加されたものよりも好ましい。
【0083】
P4(0.5N NaOHなし)とP5(0.5N NaOHあり)とを比較すると、製剤のpHを変化させるために水酸化ナトリウムを添加することは、トファシチニブの浸透/保持に対して有意差を生じさせなかった。要するに、製剤P4、P5およびP6は、皮膚を通じて血液または体循環中に浸透するものよりも皮膚に保持されたトファシチニブの最大量を呈する。
【0084】
[実施例6]表皮、真皮、およびレシーバーにおけるトファシチニブの分配に対するさらなる賦形剤の影響
個別の研究を、表皮、真皮、およびレシーバーにおけるトファシチニブの分配に対する抗酸化剤、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)の効果を確認するために、実行した。PigModel Animal Technology Co.,Ltd.から得られた4か月齢のブタ(LandraceブタとDurocブタとの交雑された)側腹部皮膚を、インビトロ浸透/保持研究において使用した。製剤P8は、P5製剤と比較して0.1%BHAを添加することによって変更された製剤である(表4)。280mgのP5またはP8を、ドナーコンパートメントにおける皮膚表面上に添加した。8時間後、皮膚表面上の残留製剤を、取り除き、注意深く洗浄した。角質層を取り除き、皮膚を表皮および真皮に熱分離した。分離した表皮および真皮を、秤量して抽出した。レシーバーの試料と一緒に、表皮および真皮の抽出物の両方を、クエン酸トファシチニブの濃度についてHPLC分析に提出した。結果は、以下の表8に示される。
【0085】
結果は、BHAが皮膚抽出物およびレシーバーに有意差を生じさせないことを示し、抗酸化剤BHAが皮膚におけるトファシチニブの分配に対して決定的ではないことを示した。
【表12】
【0086】
[実施例7]経時変化を伴う表皮、真皮、およびレシーバーにおけるトファシチニブの分配に対する溶媒/トファシチニブの比率の効果
インビトロ浸透/保持研究を、経時変化を伴う皮膚に保持されてレシーバー中に入るトファシチニブの累積量を比較するために行った。この実験は、DMSOベースの製剤が最大12時間のすべての経時変化にわたって皮膚におけるトファシチニブ保持の嗜好性を有することを確実にするように、溶媒/トファシチニブの比率の浸透/保持に対する影響を調査することを目的とする。
【0087】
製剤P5およびP7が表4に示され、P7は、P5のものと比較すると、より高いDMSO/トファシチニブ比率を有する。およそ280mgのトファシチニブ製剤を、ドナーコンパートメントにおける皮膚表面(1cm2)上に添加した。各皮膚切片の真皮側は、レシーバー媒体と接触した。均一な37℃の温度を、セルジャケットを通じて水を循環させることにより、レシーバーチャンバー内で達成した。投与から4、8、12時間後、レシーバー溶液を採取し、表皮と真皮を分離して抽出した。皮膚抽出物およびレシーバー溶液におけるトファシチニブ濃度を、HPLCによって分析した。
【0088】
図3および4に示されるように、P5およびP7は、3つの時点でのレシーバー溶液におけるのと同様に、表皮および真皮における同等のトファシチニブレベルを有し、より高いDMSO/API比率が同様の浸透/保持効果を達成できることを示した。
【0089】
上記の研究に従うと、本発明の局所トファシチニブ製剤は、皮膚に保持される傾向があり、投与後最大12時間の期間中、レシーバーにおいて比較的低い濃度を有する。したがって、本発明の製剤は、よりトファシチニブの全身曝露を有することができ、したがって、経口剤形およびC1軟膏と比較して、全身性副作用を低下できる。
【0090】
[実施例8]アトピー性皮膚炎の治療におけるトファシチニブ局所製剤の臨床試験
無作為化、二重盲検、プラセボ対照研究を設計し、6名の評価可能な患者がプラセボまたは本発明のトファシチニブ局所製剤のいずれかを1:2の比率で受けた。この研究の目的は、本発明のトファシチニブ局所製剤の有効性を、プラセボ(ビヒクル)と比較してアトピー性皮膚炎の患者において毎日2回(BID)評価することである。トファシチニブ局所製剤またはプラセボのいずれかを、16~100cm2の領域に対応する標的化された皮膚にわたって毎日2回(BID)連続して8週間適用した。
【0091】
アトピー性皮膚炎重症度指数(ADSI)を、皮膚炎の重症度を評価するために使用した。この指数(範囲、0~15)は、すべて4ポイント(範囲、0~3)スケールで点数化される、そう痒、紅斑、滲出、表皮剥離、および苔癬化のスコアの合計からなる。ADSIを、第0(ベースライン)、2、4、および8週で点数化した。有効性エンドポイントは、第2、4、および8週でのADSIにおける総クリアランス(ADSI=0)、部分クリアランス(0<ADSI≦2)および第0週(ベースライン)からの4ポイント以上の改善(ベースラインから訪問スコアを引いたもの)を含んだ。
【0092】
表8は、第0、2、4、および8週でのADSIの臨床研究結果を示す。第2週と第0週(ベースライン)とを比較し、本発明のトファシチニブ局所製剤を受けるすべての対象におけるADSIの合計スコアは、有意に減少する。そして、それらは、第8週でADSIがクリアランス(ADSI=0)または部分クリアランス(0<ADSI≦2)である有効性エンドポイントを達成した。平均的ADSIスコアおよびADSIスコア改善が、表9において計算される。本発明のトファシチニブ局所製剤を投与受ける対象の平均的ADSIスコア改善は、第2週で3.75に劇的に増加する。次いで、それは、第4週で4.75にわずかに増加し、最終的に第8週で5に増加する。トファシチニブありの対象と比較して、プラセボアリの対象は、第2週で1.5のみを呈し、次いで第4週で1への減少、最終的に第8週で3.5への増加を呈する。
【0093】
上記の研究に従うと、本発明のトファシチニブ局所製剤を受ける対象のアトピー性皮膚炎の状態は2週間で劇的に改善され、有効性は8週間で達成された。したがって、本発明のトファシチニブ局所製剤を受けた対象は、プラセボを受ける対象よりも少なくとも8週間はるかに良好な改善を示した。
【表13】
【表14】
【0094】
[実施例9]白斑の治療におけるトファシチニブ局所製剤の臨床試験
無作為化、二重盲検、プラセボ対照、対象内対照、概念実証研究を、白斑を有する対象において最大12週間BID(毎日2回)局所投与される本発明のトファシチニブ局所製剤の有効性を特徴付けるために行った。
【0095】
10名の対象の全体を、登録して無作為化した。適格な対象の顔/首/腕/脚/体幹に局在する各標的色素脱失領域が、トファシチニブ局所製剤またはプラセボのいずれかを受けた。治療を、およそ3mg/cm2の適用範囲で最大12週間局所的にBIDで適用した。すべての患者を、臨床的改善(再色素沈着レベル)および写真について、ベースラインおよび1か月間隔で評価した。
【0096】
図5は、本発明のトファシチニブ局所製剤を用いた治療のベースラインから8週間および12週間の顔面白斑を有する男性対象の写真を示す。額(パーセント改善
【数1】
30%)および顎(パーセント改善
【数2】
60%)の顕著な再色素沈着が、ベースラインから12週間を通じて観察された。
【0097】
図6は、本発明のトファシチニブ局所製剤を用いた治療のベースラインから8週間および12週間の顔面白斑を有する女性対象の写真を示す。額の顕著な再色素沈着(パーセント改善
【数3】
90%)は、ベースラインから12週間を通じてほぼ完了された。
【0098】
上記の開示は、詳細な技術的内容およびその発明的特徴に関連する。この分野における当業者は、その特徴から逸脱することなく、説明された本発明の開示および提案に基づいて、さまざまな修正および置換を進めることができる。