(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】防御性干渉性核酸分子、ならびに該核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子、ならびに防御性干渉性核酸を含有する薬学的組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/44 20060101AFI20230802BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230802BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230802BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230802BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230802BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230802BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20230802BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230802BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C12N15/44 ZNA
C12N15/86 Z
C12N5/10
C12N7/01
A61P31/16
A61K35/76
A61K39/145
A61K31/7088
A61K48/00
(21)【出願番号】P 2020545780
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2019055359
(87)【国際公開番号】W WO2019170625
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-12-27
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598165611
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ライヒル,ウド
(72)【発明者】
【氏名】クプケ,サッシャ
(72)【発明者】
【氏名】フレンジング,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ズモラ,パベウ
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Virology,1994年,Vol.68, No.1,p.530-534
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/44
C12N 15/86
C12N 5/10
C12N 7/01
A61P 31/16
A61K 35/76
A61K 39/145
A61K 31/7088
A61K 48/00
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1の野生型配列に比較して、以下のC3T、G4A、G8A、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G、T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換を含有する配列番号2;
b)
配列番号1の野生型配列に比較して、以下のC3T、G4A、G8A、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G、T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換を有し、配列番号2の配列内で98%より高い同一性を有するヌクレオチド配列
;
c)配列a)
またはb)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列;または
d)配列a)、b)、
またはc)のいずれか1つに
対応するmRNA
を含む単離核酸分子。
【請求項2】
a)配列番号3;
b)
配列番号1の野生型配列に比較して、以下のC3T、G4A、G8A、A18G、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G,T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、C535T、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換を有し、配列番号3の配列と98%より高い同一性を有する核酸配列
;
c)配列a)
またはb)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列;あるいは
d)配列a)、b)、
またはc)のいずれか1つに
対応するmRNA
を含む、請求項1記載の単離核酸分子。
【請求項3】
少なくともC3TおよびG8Aでの置換基が存在する、請求項1または2記載の単離核酸分子。
【請求項4】
RNAである、請求項1~3のいずれか一項に請求するような単離核酸分子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載の単離核酸分子を含む組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子を含む、ベクターまたはプラスミド。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子
。
【請求項8】
前記ウイルス様粒子または前記ウイルスベクターが、インフルエンザウイルスに対応するか、あるいは前記ウイルス粒子が、インフルエンザウイルスである、請求項7記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子。
【請求項9】
前記ウイルス様粒子または前記ウイルスベクターが、インフルエンザAウイルスに対応するか、あるいは前記ウイルス粒子が、インフルエンザAウイルスである、請求項8記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子を含有し、そして過去の感染シーズンおよび/または現在の感染シーズンで活性であるインフルエンザウイルスのHAまたはNAを有する、請求項7
~9のいずれか一項記載のウイルス様粒子またはウイルスベクター。
【請求項11】
薬剤として使用するための、
またはウイルス感染の治療において使用するための、請求項7
~10のいずれか一項記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子。
【請求項12】
請求項6記載の核酸ベクターまたはプラスミド、あるいは請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子を含有する、宿主細胞。
【請求項13】
請求項7
~10のいずれか一項記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス
粒子、請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子、請求項5記載の組成物、請求項6記載のベクターまたはプラスミド、ならびに/あるいは請求項
12記載の宿主細胞を含有する、薬学的組成物。
【請求項14】
療法的または予防的ワクチンとして使用するための、請求項
13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
ウイルス感染の治療において使用するための
、請求項
13または
14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記ウイルス感染が病原性インフルエンザウイルスによって引き起こされる、ウイルス感染の治療において使用するための、請求項15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
動物またはヒトである個体に投与するために適応された
、請求項
13~
16のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項18】
粘膜投与のための薬学的組成物である、請求項
13~
17のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項19】
鼻内投与のための、請求項
18記載の薬学的組成物。
【請求項20】
インフルエンザAウイルスに対する療法的または予防的ワクチンとして使用するための;あるいはインフルエンザAウイルス感染を治療するための、請求項
13~
18のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項21】
請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子
、請求項5記載の組成物、請求項6記載のベクターまたはプラスミド、ならびに/あるいは請求項7
~10のいずれか一項記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子を含有する、ウイルス感染
に対するワクチン接種のためのワクチン。
【請求項22】
インフルエンザウイルス感染に対するワクチン接種のための、請求項21記載のウイルス感染に対するワクチン接種のためのワクチン。
【請求項23】
インフルエンザAウイルス感染に対するワクチン接種のための、請求項
22記載のワクチン。
【請求項24】
個体における免疫防御を送達する際に使用するための、請求項
13~
20のいずれか一項記載の薬学的組成物、請求項
21~23のいずれか一項記載のワクチン、ならびに/あるいは請求項7
~10のいずれか一項記載のウイルス様粒子またはウイルスベクター。
【請求項25】
ウイルス感染に対して治療するかまたは防御する際に使用するための、請求項7
~10のいずれか一項記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子、あるいは請求項1~4のいずれか一項記載の核酸分子、請求項5記載の組成物、あるいは請求項6記載のベクターまたはプラスミド、あるいは請求項
12記載の宿主細胞、ならびに野生型ウイルスベクターまたは野生型ウイルス粒子
を含む、組成物またはキット。
【請求項26】
前記野生型ウイルスベクターまたは野生型ウイルス粒子は、インフルエンザウイルスベクターまたはウイルス粒子である、請求項25記載の組成物またはキット。
【請求項27】
前記野生型ウイルスベクターまたは野生型ウイルス粒子は、インフルエンザAウイルスベクターまたはインフルエンザAウイルス粒子である、請求項26記載の組成物またはキット。
【請求項28】
請求項7~
11のいずれか一項記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子であって、感染後、i)産生されるウイルス粒子の総数の減少、ii)産生される感染性ウイルスの割合の大きな減少、iii)piRNAとは異なるすべての残りのゲノムセグメントの複製が減少する中での、piRNAの正常な細胞内複製、iv)他のゲノムセグメントに比較した、piRNA由来のmRNAの転写の増加、v)piRNA由来のmRNAから翻訳されるタンパク質の数の増進、vi)該タンパク質の細胞内輸送の攪乱であって、したがってウイルス核タンパク質の細胞内輸送の攪乱につながる前記攪乱、vii)他のゲノムセグメントの取り込みが減少する中での、野生型ウイルスのすべてのゲノムセグメントに比較した、ウイルス粒子内へのpiRNAの正常な取り込み、およびviii)インターフェロンβ発現によって発現される生得的免疫反応のより強い誘導が観察可能であることの少なくとも1つを示す、前記ウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第一の側面において、本発明は、単離核酸分子、特に特定の置換を含有するRNA分子に関する。さらなる側面において、本発明は、該核酸分子を含む組成物、ならびに本発明記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子に関する。該ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、ウイルス感染を治療するための抗ウイルス剤として使用するために適している。さらに、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子あるいは核酸分子を含有する、薬学的予防ワクチンとしての使用に特に適した薬学的組成物を提供する。最後に、ウイルス感染、特にインフルエンザウイルス感染に対するワクチン接種のためのワクチン、ならびに野生型ウイルスベクターまたは野生型ウイルス粒子と組み合わせた、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子、あるいは本発明記載の核酸分子を含む、組成物またはキットであって、ウイルス感染に対して治療するかまたは防御する際に使用するために適している、前記組成物またはキットを提供する。
【発明の概要】
【0002】
オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)は、脊椎動物に感染するRNAウイルスの科である。とりわけ、インフルエンザウイルスは、この科のメンバーである。インフルエンザは、発熱、咳、および重度の筋肉痛によって特徴づけられる呼吸器系のウイルス感染である。インフルエンザウイルスの3つの属、すなわちインフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスBおよびインフルエンザウイルスCが存在し、これらは、核タンパク質およびマトリックスタンパク質の抗原性相違によって区別される。ウイルス性インフルエンザAおよびインフルエンザBは、一本鎖マイナスセンスRNAの8つのセグメントを有し、インフルエンザCウイルスは、一本鎖RNA(ssRNA)の7つのセグメントを含有する。
【0003】
ヒトインフルエンザの主要原因病原体はA型ウイルスである。ウイルスゲノムは、9つの構造タンパク質および2つの非構造タンパク質をコードする、マイナスセンス一本鎖RNA(ssRNA)セグメントからなる。とりわけ、セグメント7は2つのマトリックスタンパク質、すなわちM1およびM2をコードする。これらの2つのマトリックスタンパク質は、重複するコード配列を伴う。
【0004】
ヒトインフルエンザウイルスAおよびBはどちらも人の季節性疾患に関与するが、インフルエンザAウイルスのみが世界的なパンデミックを引き起こす。ヒトウイルスにおいて、多様な別個の赤血球凝集素、すなわちH1、H2およびH3ならびにいくつかの別個のノイラミニダーゼ、すなわちN1およびN2が同定されてきている。これらは、ウイルスの分類に用いられる。タンパク質において抗原シフトと称される連続シフトがあり、したがって、ヒト免疫系から逃れることが可能になる。
【0005】
インフルエンザ感染は、それを引き起こした株に対する強い免疫反応を誘発するが、抗原シフトによる新規株が、以前感染していた個体を離れる速度が速いため、個体は新規感染に感受性になる。インフルエンザワクチンは、長年、商業的に入手可能であり、これには不活性化および生ワクチン、ならびに組換えウイルス様粒子およびウイルス粒子が含まれる。不活性化ウイルス粒子を含有するワクチンもあるが、より一般的に、精製されたHAおよびNA構成要素が存在する。典型的には、インフルエンザワクチンの設計は、前シーズンの感染を引き起こした主要なインフルエンザウイルス株に基づく。しかし、抗原ドリフト現象のため、存在するワクチンの基礎として用いられるインフルエンザ株は、WHOによって年ごとに再評価され、そして変化させなければならない可能性もある。しかし、実際の感染性インフルエンザ株およびワクチンの構成要素の間のタイムラグが常にある。
【0006】
インフルエンザに対する他の防御線には抗ウイルス薬剤が含まれる。これらの抗ウイルス薬剤が作用する、多様な機構が知られる。例えば、アマンタジンおよびリマンタジンは、マトリックスタンパク質の作用を阻害し、こうしてウイルスRNAが細胞質ゾル内に進入することを阻害する。さらに、リレンザ(登録商標)およびタミフル(登録商標)としてもまた知られるザナミビルおよびオセルタミビルが抗ウイルス薬剤として用いられる。これらの薬剤は、ノイラミニダーゼを遮断し、こうして感染細胞からの子孫ビリオンの放出および感染の蔓延を阻害する。
【0007】
しかし、これらの抗ウイルス薬剤に対して耐性であるウイルスもまた、インフルエンザ患者において、よりしばしば見出されてきている。
DIウイルスとも称される欠損性干渉性ウイルスの存在は、1940年代から知られている。欠損性干渉性ウイルスは、非欠損性ウイルスの正常な複製および感染サイクルを破壊する。典型的には、ウイルス集団は、前記欠損性干渉性ウイルス粒子ならびに正常ウイルス粒子の混合物を含有する。欠損性ウイルス粒子は、例えば内部欠失を生じる、RNAセグメントにおける自発的突然変異のために生じる。DIウイルスは非感染性ウイルスであり、そして完全なゲノムを持つウイルスに感染している細胞に、DIウイルスのゲノムが存在する場合にのみ複製する。DIウイルスは、細胞内で感染性ウイルスに干渉する能力を有し、したがって、該ウイルスは、感染性ウイルスの増殖を特異的に阻害することが可能である。以下において、DIウイルスはまた、欠損性干渉性粒子(DIP)とも称される。
【0008】
DIPはウイルス起源であり、そして相同性標準ウイルス(STV)と同じ構造的特徴を共有するが、典型的には、ウイルスゲノムの欠失型を含有する(HuangおよびBaltimore, 1970, Defective viral particles and viral disease processes. Nature 226, 325-328)。ゲノム情報が失われた結果、DIPはウイルス複製不全であり、そしてしたがって、細胞に感染すると、子孫ビリオンの産生を生じることができない。しかし、完全に感染性であるSTVとの同時感染によって補完されると、正常ウイルス生活環への干渉が観察可能となり、これにはSTV複製抑制および主に非感染性DIPの放出が伴う。この感染の結果、全長(FL)対応物に勝る欠損性干渉性(DI)ゲノムの増殖上の利点が生じ、これは、ゲノム複製の増進、細胞性またはウイルス性資源に関する勝利およびウイルス粒子への優先的なパッケージングによって明らかとなる(Marriott and Dimmock, 2010)。興味深いことに、DIPがウイルス複製を抑制する能力を考慮すると、抗ウイルス剤として使用するため、DIPの臨床適用への関心が大きくなりつつあると現在認識されうる(DimmockおよびEaston、2015、以下を参照されたい)。
【0009】
DIPは、一本鎖および二本鎖ゲノムを含有するウイルスを含めて、大部分のDNAおよびRNAウイルスに関して観察された。内部ゲノム欠失は、ゲノム複製中のウイルスポリメラーゼの誤った転位置によって生じると示唆され、これはしばしば「コピー選択」機構と称される。他のDIゲノムには、多重欠失型、「コピーバック」または「ヘアピン」ゲノム(ある部分が逆相補体型で反復される)および「モザイク」ゲノム(多数の非隣接部分がともに連結される)が含まれる。干渉の正確な機構はまだ完全には理解されていない。しかし、DIゲノムがヘルパーウイルスをコードする遺伝子産物、特にウイルスポリメラーゼと競合すると示唆された。さらに、インフルエンザAウイルス(IAV)に関して、FL対応物に勝るDIゲノムの優先的な合成が観察された。この背景において、DIゲノムの長さが減少しているため、DIゲノムはより迅速な集積を示すと提唱された。さらに、IAVのDIゲノムは、特にそのFL親ゲノムウイルスRNA(vRNA)のパッケージングを競合的に阻害し、そしてさらに、子孫ビリオン内に優先的に取り込まれた。
【0010】
これまでに、DIゲノムは主に、そのゲノム欠失に基づいて同定され、そして潜在的なヌクレオチド置換に対してはほとんど注意が払われなかった。したがって、DIウイルスはまた、感染性ウイルスに対するワクチンを開発する焦点ともなる。例えば、EP2019685 Aは、特異的RNAセグメント1配列を有する、クローニングされたヒトDIインフルエンザAウイルスである、欠損性干渉性ウイルスを記載する。さらに、クローニングされた欠損性干渉性インフルエンザRNAおよび呼吸器ウイルス疾患のありうる汎特異的(pan-specific)治療としての使用が、Dimmock M.J.およびEaston A.J., Viruses 2015, 7, 3768-3788に記載されている。該文献に記載されるインフルエンザA由来DIゲノムは、2つの異なる機構によって防御を可能にすると主張される。第一に、インフルエンザA複製への分子干渉、そして第二に、非インフルエンザAウイルスに対して作用する自然免疫の刺激による。典型的には、DIウイルスは、ポリメラーゼタンパク質をコードするセグメント1、セグメント2、またはセグメント3の欠損性および干渉性インフルエンザRNAを含有する。
【0011】
発明が解決しようとする課題
抗ウイルス薬剤での治療は、感染後まもなく治療を開始する必要があるため、限定される。さらに、抗ウイルス薬剤に対する耐性は迅速に生じる。さらに、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたは単一構成要素、特にHAおよびNA構成要素を含むワクチンは、典型的にはWHOからの毎年の予測に基づく(来たるインフルエンザシーズン中に人々の間に蔓延し、そして疾病を引き起こす可能性が最も高い株)。当該技術分野に記載されるDI(DIP)ウイルスは、インフルエンザワクチン接種において成功を示してきていない。したがって、ウイルス感染、特にインフルエンザAと闘う新規手段が喫緊に必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の側面において、本発明は、
a)配列番号1の野生型配列に比較して、以下のC3T、G4A、G8A、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G、T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換を含有する配列番号2;
b)配列番号2の配列内で98%より高い同一性を有するヌクレオチド配列;
c)ストリンジェントな条件下で、a)またはb)のヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;
d)配列a)、b)またはc)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列;あるいは
e)配列a)、b)、c)またはd)のいずれか1つに由来するmRNA
を含む単離核酸分子を提供する。
【0013】
1つの態様において、単離核酸配列は、配列番号2または配列番号3、あるいはその機能的断片を有する配列である。
さらなる側面において、本発明記載の単離核酸分子を含む組成物を提供する。さらに、本発明記載の核酸分子を含むベクターまたはプラスミドを開示する。
【0014】
別の側面において、本発明記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子であって、特に、インフルエンザウイルス、例えばインフルエンザAウイルスに由来するウイルス様粒子またはウイルスベクター、またはインフルエンザウイルス、例えばインフルエンザAウイルス由来のウイルス粒子である、前記ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子を開示する。
【0015】
このウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、例えばウイルス感染の治療における薬剤として有用である。
さらに、本発明記載の核酸ベクターまたはプラスミド、あるいは本発明記載の核酸分子を含有する宿主細胞を記載する。
【0016】
さらに、療法的または予防的ワクチンとして特に有用である薬学的組成物を同定する。
さらなる側面において、ウイルス感染に対するワクチン接種のためのワクチンを開示する。最後に、例えばウイルス感染に対して治療するかまたは防御する際に使用するための、野生型ウイルスベクターまたは野生型ウイルス粒子、特にインフルエンザウイルスベクターまたはインフルエンザウイルス粒子、例えばインフルエンザAウイルスベクターまたはインフルエンザAウイルス粒子と組み合わせた、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子、あるいは本発明記載の核酸分子、本発明記載の組成物、あるいは本発明記載のベクターまたはプラスミド、あるいは本発明記載の宿主細胞を含む、組成物またはキットを開示する。
【0017】
本発明は、以下に記載するような野生型ウイルスの表現型とは異なる表現型で特徴づけられる、いわゆる防御性干渉性RNA(piRNA)の同定に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】S7-OP7 vRNAの機能性領域における改変。ヌクレオチドおよびaa位を、それぞれ黒い数字で示す。35の限定されたnt突然変異を示す。
【
図2】OP7シードウイルスでのIAV感染細胞の同時感染。10のMOIで野生型(WT)ウイルスに感染した細胞を、示すMOIでOP7シードウイルスに同時感染させた。12hpi(感染後の時間)で、TCID50アッセイによって、感染性ウイルス力価を定量化し、そしてリアルタイムRT-qPCRによって、細胞内およびビリオン由来の精製vRNAを定量化した。データを用い、HA力価から得られるウイルス粒子濃度を用いて、感染性ウイルスの割合およびビリオンあたりのvRNAの数を計算した。ビリオンあたりのvRNAの標準化は、(参照としての)PR8-RKIウイルスに基づいた。各々、1つのOP7シードウイルスを用いて、独立の実験を行った。(A)MDCK細胞におけるIAV複製への異なるOP7シードウイルスの干渉。(BおよびC)OP7シードウイルスでの、PR8-RKI感染ヒトHEK293(B)およびA549(C)細胞株の同時感染。(DおよびE)MDCK細胞におけるH1N1-pdm09(D)およびH3N2(E)ウイルス複製へのOP7ウイルスの干渉。(B、C、DおよびE)に関して、1つの代表的な実験の結果を示す。
【
図3】S7-OP7 vRNAの機能性領域における改変。ヌクレオチドおよびaa位を、それぞれ黒い数字で示す。すべての37nt突然変異(参照配列、すなわち配列番号1に関して)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第一の側面において、本発明は、
a)配列番号1の野生型配列に比較して、以下のC3T、G4A、G8A、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G、T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換を含有する配列番号2;
b)配列番号2の配列内で98%より高い同一性を有するヌクレオチド配列;
c)ストリンジェントな条件下で、a)またはb)のヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;
d)配列a)、b)またはc)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列;あるいは
e)配列a)、b)、c)またはd)のいずれか1つに由来するmRNA
を含む単離核酸分子を提供する。
【0020】
本発明の1つの側面において、請求項1記載の核酸分子は、
a)配列番号3;あるいは
b)配列番号3の配列と98%より高い同一性を有する核酸配列;
c)ストリンジェントな条件下で、a)またはb)のヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;
d)配列a)、b)またはc)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列;あるいは
e)配列a)、b)、c)またはd)のいずれか1つに由来するmRNA
を含む。
【0021】
すなわち、本発明記載の単離核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子での感染は、i)産生されるウイルス粒子の総数の減少が決定可能であり、ii)産生される感染性ウイルスの割合(パーセンテージ)の大きな減少、iii)piRNAとは異なるすべての残りのゲノムセグメントの複製が減少する一方で、piRNAの正常な細胞内複製、iv)他のゲノムセグメントに比較した、piRNA由来のmRNAの転写の増加、その結果のv)piRNA由来のmRNAから翻訳されるタンパク質の数の増進、vi)リボ核タンパク質(RNP)の細胞内輸送の妨害を導く、piRNAから翻訳されたタンパク質の細胞内輸送の攪乱、vii)他のゲノムセグメントの取り込みが減少する一方で、野生型ウイルスのすべてのゲノムセグメントに比較した、ウイルス粒子へのpiRNAの正常な取り込みが起こり、そして最後に、viii)インターフェロンβ発現によって発現される自然免疫反応のより強い誘導が観察可能である、野生型ウイルスに比較した異常な表現型を示す。したがって、本発明記載の単離核酸分子、特にpiRNAの形の該分子は、それ自体の複製および蔓延を支持しながら、インフルエンザAウイルス複製に対する強い阻害効果を示して、ウイルス構成要素の産生を減少させる。
【0022】
本発明の1つの態様において、配列番号1の野生型配列に比較して、本明細書に記載する35または37の突然変異に加えて、配列番号2または配列番号3の配列に98%同一性、例えば98.5%、99%、99.5%、99.6%、または99.8%同一性を有する、核酸分子を提供する。
【0023】
本発明の1つの態様において、本発明記載の単離核酸配列は、配列番号2または3を有する単離核酸配列あるいはその機能性断片である。本発明の1つの態様において、本発明記載の単離核酸配列は、配列番号2の35の置換、ならびにさらに置換A18GおよびC535Tを含有する、配列番号3を有する単離核酸配列である。
【0024】
本明細書に示すように、配列番号2ならびに配列番号3記載の核酸配列は、上記の異常な表現型を有する。
1つの態様において、本発明記載の核酸分子は、例えば配列番号3に示すように、置換A18GおよびC535Tをさらに含有する。
【0025】
さらに、本明細書において、
a)以下のC3T、G4A、G8A、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G、T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換の少なくとも20の置換を含有する配列番号1;
b)a)に定義するような置換基の少なくとも1つを含有しない配列番号1の残りの配列内で、90%より高い、例えば95%、96%、97%、98%、98.5%、99%、99.5%の同一性を有するヌクレオチド配列;
c)ストリンジェントな条件下で、a)またはb)のヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;
d)配列a)、b)またはc)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列;あるいは
e)配列a)、b)、c)またはd)のいずれか1つに由来するmRNA
あるいは、該核酸分子を含有するウイルス粒子の複製に関して同じ機能を有する、a)、b)、c)、d)またはe)の断片であって、
それによって少なくともC3TおよびG8Aでの置換が存在する
前記配列
を含む核酸分子を記載する。
【0026】
用語「あるいは、該核酸分子を含有するウイルス粒子の複製に関して同じ機能を有する、a)、b)、c)、d)またはe)の断片」は、配列番号2または配列番号3の核酸に関して記載するのと同じ効果を有する断片を指す。
【0027】
さらに、用語「またはその機能性断片」は、配列番号2または配列番号3の核酸分子に関して記載するのと同じ効果を有する核酸分子を指す。
本発明者らは、本発明記載の単離核酸分子、特に、配列番号1がC3T、G4A、G8A、A100G、G113A、G130A、G240A、A241G、C334T、C353T、C361T、C370A、T371G、T385C、A401T、G434A、C442T、A443G、C453T、A454G、A524G、T643G、G645T、A648G、A667G、G670A、A716G、C793T、G801T、A805G、G874T、A887T、C888T、G894A、G943Aの置換の少なくとも25、少なくとも30またはすべての置換を含有する本発明記載の単離核酸分子が、インフルエンザ感染に対する防御を示し、それによって少なくともC3TおよびG8Aでの置換が存在することを認識した。
【0028】
本発明の1つの態様において、核酸分子はRNAの形であり、特に本発明記載の単離核酸分子は、インフルエンザAのゲノムセグメント7に由来する防御性干渉性RNA(piRNA)に相当する。上述のような配列番号1は、NCBI参照配列:NC_002016.1の配列を指す。
【0029】
ヌクレオチド配列は、配列番号2の配列内で98%より高い同一性を有するヌクレオチド配列であってもよく、例えば核酸分子は、配列番号3の配列内で98%より高い同一性を有するヌクレオチド配列を含む。ヌクレオチド配列は、配列番号2と、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%より高い同一性を有してもよい。さらに、ヌクレオチド配列は、配列番号3と、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%より高い同一性を有してもよい。
【0030】
本発明記載の単離核酸配列を、細胞培養を含む生物学的系から得てもよいし、あるいは化学的に合成してもよい。
さらなる側面において、本発明は、本発明のいずれか1つ記載の単離核酸分子を含む組成物に関し、該組成物は、送達構成要素と組み合わせた、例えばリポソーム、エキソソーム、または他のナノ粒子の形の単離核酸分子を含有してもよい。当業者は、適切な形の、例えば被験体内に送達するための、本発明記載の単離核酸分子を含有する適切な組成物の提供をよく知っている。
【0031】
前記組成物は、piRNAの分解に対する防御を可能にする、いわゆるvRNP複合体(ウイルスリボ核タンパク質複合体)の他の構成要素、すなわちPB2、PB1、PAおよびNPのようなさらなるウイルスタンパク質をさらに含有してもよい。
【0032】
さらなる側面において、本発明記載の核酸分子を含むベクターまたはプラスミドを提供する。ベクターまたはプラスミドは、宿主内への本発明記載の核酸分子の導入を可能にするために、または単離核酸分子の増殖のために適した、任意のタイプのベクターまたはプラスミドであってもよい。
【0033】
適切なベクターまたはプラスミドには、ウイルスタンパク質のための発現プラスミド、例えばpCAGGS、pcDNA、レトロウイルスベクター、例えばpQXCIP、および二重プロモーターベクター(組換えウイルスのため)、例えばpHW2000、pDZが含まれてもよい。
【0034】
さらなる側面において、本発明は、本発明記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子に関する。
用語「ウイルスベクター」は、組換え感染性ウイルス粒子を指す。
【0035】
用語「ウイルス粒子」は、弱毒化されるかまたは不活性化されることなく、感染性であるウイルス全体を指す。
本明細書において、用語「ウイルス様粒子」(VLP)は、エンベロープおよびカプシドのタンパク質を含む粒子を指し、そしてさらに、さらなる遺伝物質を含有してもよい。すなわち、少なくとも1つの核酸分子、すなわち少なくとも本発明記載の核酸分子を含有してもよい。VLPは非感染性粒子である。VLPには、上述のようなDIPが含まれ、これはDIウイルスとも称される。
【0036】
もちろん、ウイルス様粒子は、他の核酸分子を含有してもよい。例えば、インフルエンザウイルスの場合、ウイルス様粒子またはウイルスベクターは、RNAの形の、例えば上述のvRNP複合体の形の、遺伝物質の異なるセグメントを含有する一方、ウイルスカプシドまたはウイルスエンベロープは、インフルエンザA、またはインフルエンザBおよびインフルエンザCを含む他のウイルスに由来するタンパク質で構成される。
【0037】
また、非構造ウイルスタンパク質は、本発明記載のウイルス様粒子またはウイルスベクター中に存在してもまたは存在しなくてもよい。
本発明の1つの態様において、ウイルス様粒子またはウイルスベクターは、インフルエンザウイルス、特にインフルエンザAウイルスに由来する。さらに、ウイルス粒子は、インフルエンザウイルス、例えばインフルエンザAウイルスである。すなわち、本発明の1つの態様において、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、本発明記載の核酸配列、特に、セグメント7として配列番号2または3のRNA分子である核酸配列を、随意にインフルエンザAウイルスの他のセグメント1~6および8とともに含有する、インフルエンザAウイルスである。
【0038】
ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、薬剤として特に有用である。すなわち、さらなる側面において、本発明は、薬剤としてのウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子の使用に関する。本明細書において、交換可能に用いられる、この薬剤または薬学的組成物は、予防的または療法的治療を可能にするワクチンの形であってもよく、例えば個体のワクチン接種の形であってもよい。
【0039】
本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、ウイルス感染の治療に特に有用である。特に、感染性ウイルスのエンベロープタンパク質の少なくとも部分、例えばHAまたはNAを有するウイルスでのウイルス感染の治療に有用であり、そしてさらに、ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、本発明記載の核酸分子を含有する。
【0040】
ウイルス感染の治療において該ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子を用いると、産生されるウイルス粒子の総数を減少させることが可能であり、そしてさらに、産生される感染性ウイルス粒子の割合が顕著に減少することが可能である。
【0041】
したがって、本発明記載のウイルスベクター、ウイルス様粒子またはウイルス粒子を用いて、ウイルス粒子の産生を減少させることによって、感染性ウイルス粒子の複製を阻害することが可能である。
【0042】
さらなる態様において、本発明は、本発明記載の核酸分子を含有する本発明記載の核酸ベクターまたはプラスミドを含有する宿主細胞を指す。これらの宿主細胞は、本発明記載の核酸分子を産生することを可能にする。例えば細胞培養または卵における、宿主細胞の産生および培養、ならびに適切な宿主細胞は、当業者に知られる。
【0043】
さらなる側面において、本発明は、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子、本発明記載の核酸分子、本発明記載の組成物、本発明記載のベクターまたはプラスミド、ならびに/あるいは本発明記載の宿主細胞を含有する、薬学的組成物に関する。
【0044】
薬学的組成物は、療法的ワクチンまたは特に予防ワクチンとして、特に有用である。特に、本発明記載の薬学的組成物は、特にウイルス感染が病原性インフルエンザウイルス、例えばインフルエンザAウイルスによって引き起こされる際の、ウイルス感染の使用および治療のためのものである。すなわち、本発明記載の核酸分子、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子、本発明記載の核酸分子、本発明記載の組成物、本発明記載のベクターまたはプラスミド、ならびに/あるいは本発明記載の宿主細胞は、適切な抗ウイルス剤に相当する。
【0045】
本発明記載の薬学的組成物は、動物またはヒトである個体への投与のために適応している。1つの態様において、動物は、ブタ、ウマ、イヌ、ネコまたは鳥類より選択される。別の態様において、個体はヒトである。
【0046】
例えば、薬学的組成物は、粘膜経路による投与、例えば鼻内投与、経口投与のために適応している。あるいは、静脈内投与、筋内投与または皮下投与によって投与を行ってもよい。
【0047】
薬学的組成物は、さらに、適切な希釈剤、キャリアーまたは流出液を含有してもよい。当業者は適切な希釈剤、流出液またはキャリアーを適宜、熟知している。
さらに、本発明は、ウイルス感染、特にインフルエンザウイルス感染に対するワクチン接種のためのワクチンに関する。ワクチンは、本発明記載の核酸分子、本発明記載の組成物、本発明記載のベクターまたはプラスミドならびに/あるいは本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子を含有する。
【0048】
1つの態様において、核酸分子はRNA分子である。別の態様において、インフルエンザウイルス感染は、インフルエンザAウイルス感染である。ワクチン接種は、典型的には、予防的ワクチン接種であってもよいが、また、療法的ワクチン接種も可能である。
【0049】
本発明記載の薬学的組成物、例えば本発明記載のワクチン、ならびに本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子は、個体における免疫防御の送達を可能にすると認識されてきている。
【0050】
すなわち、本発明記載の防御性干渉性核酸分子、特に本明細書に記載するような本発明記載の防御性干渉性RNA分子の驚くべき特性のため、感染性ウイルス粒子の割合が減少することが可能であり、そしてさらに、感染性ウイルスの蔓延が減少するかまたは阻害されることが可能である一方で、本発明記載の核酸分子を含有するウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはウイルス粒子の蔓延は個体において増加する。
【0051】
したがって、ウイルス感染を適宜制御し、そして減少させることも可能である。
したがって、本発明のさらなる側面において、本発明はウイルス感染、特にインフルエンザウイルス感染、例えばインフルエンザAウイルス感染の予防的または療法的治療の方法に関する。前記方法には、本発明記載の核酸分子、本発明記載の組成物、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子、あるいは本発明記載の薬学的組成物の、ウイルス感染に罹患しているかまたはウイルス感染に罹患していると推測される個体への、あるいは予防的ワクチン接種のための、投与が含まれる。これらの投与は、罹患している場合、一度でもまたは数回でもよい。
【0052】
投与法は上述の通りであってもよい。
最後に、本発明は、本発明記載のウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはウイルス粒子、あるいは本発明記載の核酸分子、あるいは本発明記載の組成物、あるいは本発明記載のベクタープラスミド、あるいは本発明記載の宿主細胞、ならびにさらに野生型ウイルスベクターまたは野生型ウイルス粒子を含む、組成物またはキットに関する。本発明記載の組成物またはキットは、ワクチン接種、およびウイルス感染の療法的または予防的治療のために有用である。
【0053】
1つの態様において、野生型ウイルスベクターは、インフルエンザウイルスベクター、例えばインフルエンザAウイルスベクターであってもよい。野生型ウイルス粒子は、インフルエンザウイルス粒子、例えばインフルエンザAウイルス粒子であってもよい。
【0054】
本発明記載の組成物またはキットは、ウイルス感染に対して治療するかまたは防御する際に有用な、薬学的組成物の形であってもよい。
本発明は、本発明を限定することなく、例としてさらに記載されるであろう。
【実施例】
【0055】
本研究において、本発明者らは、単細胞感染実験を行った。驚くべきことに、感染した単細胞のある割合は、ウイルス子孫の低い感染力価および他のゲノムセグメントに関して過剰な比率の細胞内S7 vRNA量によって特徴づけられる異常な表現型を示し、これは、以下で過剰比率S7(
Over-
Proportional S
7)(OP7)ウイルスと称されるウイルスの下位集団の同時感染によって引き起こされた。その後のその濃縮で、本発明者らは、野生型(WT)配列に関して、それぞれ
図1に示すような35の突然変異および
図3に示すような37の突然変異を示し、プロモーター、コードされるマトリックスタンパク質1(M1)および2(M2)ならびにゲノムパッケージングシグナルに影響を及ぼす、OP7ビリオン由来のS7(S7-OP7)のゲノムvRNAの配列を決定した。さらに、OP7シードウイルスを用いた、細胞集団に基づく感染実験によって、(i)改変されたウイルスRNA合成の原因が、S7-OP7上で同定される「スーパープロモーター」である可能性もあり(Belicha-Villanuevaら, 2012, Recombinant influenza A viruses with enhanced levels of PB1 and PA viral protein expression. J Virol 86, 5926-5930)、(ii)放出されるOP7ビリオンは、主に取り込まれるS7を除いて、vRNA内容物が不完全であるため、ウイルス複製不全であり、そして(iii)突然変異M1タンパク質の増進された核集積は、すべてのゲノムセグメントの部分的核保持を引き起こしうることが示されている。最後に、同時感染実験によって、適切な同種および異種IAV株の複製へのOP7ウイルスの強い干渉、ならびにヒト細胞株における干渉が示され、このため、OP7ウイルスは抗ウイルス剤としての利用に有望である可能性もある。さらに、本発明者らの結果は、OP7ビリオンが、欠失されないが突然変異されたゲノムRNAセグメントを含む、IAV由来のDIPのなお認識されていない型であることを明らかにする。
【0056】
細胞およびウイルス
MDCK細胞(ECACC、#84121903)を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペプトンを含むグラスゴー最小必須培地(GMEM)中で培養した。HEK293およびA549細胞株を、10%FBSを含有するダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中で維持した。すべての培養および感染を、5%CO2大気中、37℃で行った。ブタ・トリプシンを、対応する血清不含培地に、最終濃度5 BAEE U/mLまで添加することによって、感染培地を調製した。RKI(#3188)およびNIBSC(#99/716)よりインフルエンザウイルス株PR8が提供された。NIBSCより株H3N2(#15/192)およびH1N1-pdm09(#10/122)が供給された。MDCK細胞を用いた標準TCID50アッセイ(GenzelおよびReichl, 2007, Vaccine production - state of the art and future needs in upstream processing. Methods in biotechnology: animal cell biotechnology中, R. Pоertner監修(Totowa, NJ: Humana Press Inc.), pp. 457-473)によってシードウイルス力価を決定し、そしてMOIはこの力価に基づいた。
【0057】
感染単細胞の単離
以前記載されるように単離を行った(Heldtら, 2015, Single-cell analysis and stochastic modelling unveil large cell-to-cell variability in influenza A virus infection. Nat Commun 6, 8938)。簡潔には、9.6cm2プレート中の集密MDCK細胞を、250μLの感染培地中、示すMOIで感染させた。インキュベーションの最初の1時間は、プレートを揺動させた。次いで、培地体積を2mLに増加させ、そして細胞をさらに1.5時間インキュベーションした。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄(2回)した後、細胞を10~15分間トリプシン処理した。細胞維持培地(10%FBSを含有する)を用いてトリプシン処理を停止した。ホモジナイズした細胞懸濁物を、あらかじめ温めた(37℃)感染培地中で連続希釈した。続いて、50μLの希釈細胞懸濁物(濃度:50μLあたり1細胞)を、電子マルチチャネル/マルチステップピペットを用いて、あらかじめ温めた384ウェルプレート(Greiner、#781901)の各ウェルに迅速に添加した。プレートを12hpiまでインキュベーションした。150xgで短時間遠心分離した後、本発明者らは、位相差顕微鏡によって、単細胞を含有する個々のウェルを同定した。上清を直ちにプラークアッセイに供して、ウイルス収量を定量化した。残った単細胞をPBSで洗浄し、そして5μLの希釈したウシ血清アルブミン(BSA)溶液(Thermo Scientific、#B14)を1mg/mLの濃度でウェルに添加した。384ウェルプレートを密封し、そしてリアルタイムRT-PCRまで、直ちに-80℃で保存した。
【0058】
プラークアッセイ
感染単細胞の全上清を、2つの希釈(総試料の90%または10%いずれか)を用いて、ウイルス力価(PFU/細胞)に関して調べた。250μLの各希釈を、6ウェルプレート中のMDCK細胞上で1時間インキュベーションした。インキュベーション中、プレートを揺動した。上清を除去した後、細胞に1%寒天(感染培地中)を上層し、そして4日間インキュベーションした。次いで、メタノールで細胞を固定し、そして0.2%クリスタルバイオレット溶液を用いて染色した。光学顕微鏡を用いて、プラークカウントを決定した。
【0059】
細胞集団に基づく感染および試料採取
9.6cm2プレート中の集密細胞を、250μLの感染培地中、示すMOIで感染させた。1時間のインキュベーション中、プレートを揺動した。接種物を取り除き、細胞をPBSで2回洗浄し、そして2mLの感染培地を添加した。感染後の調べた時点各々に関して、1つのプレートを試料採取した。
【0060】
製造者の指示にしたがって、「NucleoSpin RNAウイルス」キット(Macherey-Nagel)を用いた、ウイルス力価決定または放出されたビリオン中のvRNAの精製を行うまで、上清アリコットを-80℃で保存した。次いで、残りの細胞をPBSで2回洗浄した。「NucleoSpin RNA」キット(Macherey-Nagel)を用いて、細胞の溶解および細胞内RNA抽出を行った。ウイルス粒子由来の精製vRNA、ならびに細胞内vRNA、mRNAおよびcRNAをリアルタイムRT-qPCRによって定量化した。感染時点での細胞カウントに基づいて、細胞あたりのウイルスRNAレベルを計算した。
【0061】
ウイルス定量化
細胞集団に基づく感染のウイルス力価を、MDCK細胞を用いた標準TCID50アッセイ(GenzeiおよびReichl、2007、上記を参照されたい)およびHAアッセイ(Kalbfussら, 2008, Monitoring influenza virus content in vaccine production: precise assays for the quantitation of hemagglutination and neuraminidase activity. Biologicals 36, 145-161)に基づいて決定した。HA力価を、試験体積あたりのlоg10HA単位として表した(lоg10 HAU/100μL)。ビリオンの数が赤血球の数と等しい希釈まで凝集が起こると仮定して、ウイルス粒子濃度cウイルス(ビリオン/mL)を計算した(Burlesonら, 1992, Hemagglutination Assay. Virology - A Laboratory Manual (Academic Press)中, pp. 86-92)。したがって、計算は、HA力価および赤血球懸濁物の細胞濃度(2x107細胞/mL)に基づいた。
【0062】
【0063】
リアルタイムRT-qPCR
(i)単細胞試料の細胞内vRNA、(ii)細胞集団に由来する試料の細胞内vRNA、mRNAおよびcRNA、ならびに(iii)ウイルス粒子から精製されたvRNAの絶対定量化に、リアルタイムRT-qPCRを利用した。このため、本発明者らは、以前公表された方法(Kawakamiら, 2011, Strand-specific real-time RT-PCR for distinguishing influenza vRNA, cRNA, and mRNA. J Virol Methods 173, 1-6)から、個々のIAV RNAの極性および遺伝子特異的増幅を可能にする、プライマーの組み合わせを得た。逆転写(RT)のため、タグ付けプライマー(表1)を用い、qPCRプライマーを表2に列挙する。絶対定量化を容易にするため、本発明者らは、RNA参照標準を生成し、そして検量線に基づいてウイルスRNAの数を計算した。
【0064】
【0065】
【0066】
参照標準のin vitro合成のため、本発明者らは、製造者の指示にしたがって、「Phusion高忠実度DNAポリメラーゼ」(Thermo Scientific)を用いた慣用的なPCRにおいて、(対応するセグメントの)vRNA、mRNAおよびcRNA完全配列を所持するプラスミドを用いた。それによって、プライマー(表S3)は、PCR産物内に(望ましい配向で)T7プロモーター配列を導入した。精製後(「InnuPrep PCRpureキット」(Analytik Jena))、本発明者らはin vitro転写(「TranscriptAid T7高収率転写キット」(Thermo Scientific))のためにPCR産物を用いた。「NucleoSpin RNA Clean-up」(Macherey-Nagel)を用いてRNA参照標準の最終精製を行い;標準を使用まで-80℃で保存した。
【0067】
RTのため、本発明者らは、1μLのRNA試料を0.5μLのdNTP(10mM)および0.5μLのRTプライマー(mRNAプライマーに関しては10μM、またはvRNAおよびcRNAプライマーに関しては1μM)と混合し、そしてヌクレアーゼ不含水で6.5μLまで満たした。65℃で5分間、そして次いで、異なる温度:mRNAに関しては42℃、またはvRNAおよびcRNA測定に関しては55℃で5分間インキュベーションを行った。後者の工程中、本発明者らは、2μL「5xRT緩衝液」、0.25μL(50U)「Maxima H Minus逆転写酵素」および1.25μLヌクレアーゼ不含水(すべての試薬はThermo Scientific)からなる、あらかじめ温めた混合物(mRNAに関しては42℃、またはvRNAおよびcRNA測定に関しては55℃)を添加した。RTを60℃で30分間行い、その後、85℃5分間で終結させた。さらに、本発明者らは、10倍希釈工程:1~1x10-7ngで、RNA参照標準を逆転写した。この反応各々は、(随意に)細胞総RNA(細胞内RNA試料と一致させるため)を:(i)単細胞に関しては350fg、(ii)集団に基づく測定に関しては350ng、および(iii)精製ビリオン由来のvRNAの測定に関しては総RNAなしで含有した。次いで、cDNA反応産物をヌクレアーゼ不含水中で20μLに希釈し、そして-20℃で保存するか、または直ちにqPCR分析に供した。
【0068】
qPCRのため、本発明者らは「Rotor-Gene QリアルタイムPCサイクラー」(Qiagen)を用いた。qPCRミックス(10μL)は、1x「Rotor-Gene SYBR Green PCRキット」(Qiagen)、500μMの各プライマーおよび3μLの希釈cDNAを含有した。最初の変性を95℃で5分間行い、その後40回のPCRサイクル(2工程プロトコル):95℃で10秒間、および62℃で20秒間を行った。その後、65~90℃で融解曲線分析を行った。
【0069】
ウイルスRNAの絶対定量化
ウイルスRNAの絶対量を計算するため、本発明者らは、lоg10RNA分子数n分子(横軸)に対して、連続10倍希釈したRNA参照標準のcT値(qPCR由来)(縦軸)をプロットして、検量線を生成した(線形回帰)。標準量mSTD(ng)、断片の長さN塩基(bp)、1つの塩基の平均質量(k=340(Da/bp))、およびアボガドロ定数NA(mоl-1)に基づいて、n分子を計算した。
【0070】
【0071】
試料のcT値を用いて、検量線の傾き(m)およびy切片(b)、RT反応希釈の係数FRT、およびRNA試料の総体積V試料(μL)を考慮することによって、ウイルスRNA分子数Q試料を計算した。
【0072】
【0073】
セグメント特異的PCR
ビリオンから精製したvRNAを、2つの異なる目的のため、RT-PCRに供した:(i)サブゲノムRNAの存在の研究、および(ii)vRNA配列の決定(以下により詳細に記載する)。RTのため、本発明者らは、すべての8つのゲノムセグメントの保存された3’端にハイブリダイズして、1つの反応ですべてのcDNAを合成する、普遍的「Uni12」プライマーを用いた(Hoffmannら, 2001, Universal primer set for the full-length amplification of all influenza A viruses. Arch Virol 146, 2275-2289)。続くポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、本発明者らは、各セグメントのための個々の反応を用いた。プライマー配列(表3)は、セグメント特異的部分と組み合わせて、保存された3’または5’末端vRNA端を含み、全ゲノムセグメントの特異的増幅を可能にする。S7-OP7 vRNAの配列決定のため、本発明者らが適応されたプライマー(表3)を用いたことに注目されたい。
【0074】
【0075】
RTのため、10μLのRNAを1μLのdNTP(10mM)および1μLのプライマー(10mM)と混合し、そしてヌクレアーゼ不含水で14.5μLまで満たした。65℃で5分間および4℃で5分間、インキュベーションを行った。次いで、本発明者らは、4μLの「5x反応緩衝液」、50U(0.5μL)の「RevertAid H Minus逆転写酵素」、20U(0.5μL)の「RiboLock RNアーゼ阻害剤」および0.5μLのヌクレアーゼ不含水(すべての試薬はThermo Scientific)を添加し、そして42℃で60分間インキュベーションした。RTを70℃10分間で終結させた。cDNAを-20℃で保存するかまたは直ちにPCRに供した。
【0076】
PCRのため、2μL cDNAを4μLの「5xPhusion HF緩衝液」、2μL MgCL2(10mM)、1μL dNTP(10mM)、1μLの各プライマー(10μM)、0.2μL(0.4U)の「Phusion DNAポリメラーゼ」および8.8μLのヌクレアーゼ不含水(すべての試薬はThermo Scientific)と組み合わせた。最初の変性を98℃で3分間行い、その後、25回のPCRサイクル:98℃25秒間、54℃45秒間、および72℃で異なる時間:S1~S3に関しては2分間、S4~S6に関しては1.5分間、ならびにS7およびS8に関しては1分間行った。72℃10分間で最終伸長を行った。次いで、アガロースゲル電気泳動を用いて、PCR産物を視覚化した。
【0077】
vRNA配列の決定
本発明者らは、ビリオンから精製したvRNAの配列を決定した。コード領域の配列決定のため、本発明者らは全セグメントを増幅するため、セグメント特異的PCR(上記の通り)を用いた。精製後、同じPCRプライマーを用いてPCR産物を配列決定した。サンガー配列決定を利用して、Eurofins Genomics(ドイツ・エーバースベルグ)によってすべての配列決定反応を行った。
【0078】
末端vRNA端の配列決定のため、本発明者らはRNAリガーゼを用いたvRNAの環状化に基づく、以前公表された方法(de Witら, 2007, Rapid sequencing of the non-coding regions of influenza A virus. J Virol Methods 139, 85-89)由来の修飾法を得た。連結領域(vRNA端を含有する)の続く増幅をRT-PCRによって行った。RTのため、ランダム六量体プライマーを用いた。続くPCR(プライマーを表S5に列挙する)において、本発明者らは、3’および5’vRNA端の連結部に渡って設計された第二のプライマーと組み合わせて、セグメント特異的プライマーを用いた。各3’および5’端の配列決定のため、本発明者らは1つのプライマー対を用いた。各vRNA端の末端2bpの配列は決定されなかった(プライマー設計のため)ことに注目されたい。
【0079】
11.5μLのRNA試料を4μL(40U)の「T4 RNAリガーゼ1」、2μLの「10xT4 RNAリガーゼ反応緩衝液」、2μLの10mM ATP溶液(すべての試薬はNew England BioLabs)および0.5μL(20U)の「RiboLock RNアーゼ阻害剤」(Thermo Scientific)と混合することによって、環状化を行った。混合物を37℃で1時間インキュベーションした後、65℃で15分間熱不活性化した。本発明者らは環状化RNAを直ちに逆転写した。
【0080】
RTのため、4μLの連結されたRNA、1μL(0.2μg)の「ランダム六量体プライマー」、1μLのdNTP(10mM)および8.5μLのヌクレアーゼ不含水を含有する反応混合物を、65℃で5分間インキュベーションし(すべての試薬はThermo Scientific)、そして直ちに氷上に移した。次いで、本発明者らは、4μLの「5xRT緩衝液」、0.5μL(100U)の「Maxima H Minus逆転写酵素」、0.5μL(20U)の「RiboLock RNアーゼ阻害剤」および0.5μLのヌクレアーゼ不含水(すべての試薬はThermo Scientific)を添加した。25℃で10分間、そして次いで50℃で30分間、インキュベーションを行った。85℃5分間で終結を行った。cDNAを-20℃で保存するか、または直ちにPCRに供した。
【0081】
PCR反応混合物は、4.5μLのRT産物、6μLの「5xPhusion HF緩衝液」、3μL MgCL2(10mM)、1.5μL dNTP(10mM)、1.5μLの各プライマー(10μM)、0.3μL(0.6U)「Phusion DNAポリメラーゼ」および11.7μLのヌクレアーゼ不含水(すべての試薬はThermo Scientific)からなった。サイクリング条件は、98℃105秒間の最初の変性、そして次いで、40回のPCRサイクル:98℃10秒間、60℃30秒間および72℃40秒間を含んだ。最終伸長を72℃で10分間行った。すべてのPCR産物を、ゲルから切り出し(アガロースゲル電気泳動後)、そして次いで、製造者の指示にしたがって、「QIAquickゲル抽出キット」(Qiagen)を用いて精製した。
【0082】
自然免疫反応の分析
感染した細胞集団のIFN-ベータおよびMx1の発現を、リアルタイムRT-qPCRを用いて評価した。このため、製造者の指示にしたがって、オリゴ(dT)プライマーおよび「Maxima H Minus逆転写酵素」(どちらもThermo Scientific)を用いて、500ngの精製細胞内RNAを逆転写した。続いて、本発明者らは、「Rotor-Gene QリアルタイムPCRサイクラー」(Qiagen)を用いてqPCRを行った。qPCRミックス(10μL)は、1x「Rotor-Gene SYBR Green PCRキット」(Qiagen)、500nMの各プライマーおよび3μLの希釈cDNAを含有した。最初の変性を95℃で5分間行い、その後、40回のPCRサイクル(2工程プロトコル):95℃10秒間、および62℃20秒間を行った。遺伝子発現を、倍誘導(偽感染細胞上)で示し、そして参照遺伝子としての18s rRNAとともに、デルタ-デルタcT法を用いて計算した。
【0083】
細胞内ウイルスタンパク質の分析
すべての示す時点で、感染MDCK細胞集団をPBSで2回洗浄した。次いで、本発明者らは、150μLのラジオイムノ沈殿アッセイ(RIPA)緩衝液を添加した。細胞スクレーパーを用いて細胞を採取し、そして0.2μmシリンジを用いてホモジナイズした。遠心分離(10,000xg、10分間および4℃)後、上清アリコットをウェスタンブロット(WB)分析まで-80℃で保存した。WBのため、本発明者らはポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜を用いた。マウス抗NPモノクローナル抗体(mAb)(Abcam、#ab128193)を1:2,000希釈で用い、ウサギ抗PAポリクローナル抗体(pAb)(GeneTex、#GTX125932)を1:10,000に希釈し、マウス抗M1 mAb(AbD serotech、#MCA401)を1:1,000の希釈で用い、そしてMerckのマウス抗グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mAb(#CB1001)を1:5,000に希釈した。どちらも1:10,000希釈した、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲート化したロバ抗マウスpAb(Jackson ImmunoResearch、#715-036-151)およびHRPコンジュゲート化ヤギ抗ウサギpAb(Jackson ImmunoResearch、#111-035-003)を用いて、二次抗体染色を行った。「SuperSignal West Dura Extended Duration基質」(Thermo Scientific)を用いて、ブロット上のタンパク質を視覚化した。
【0084】
電子顕微鏡
細胞集団由来感染において放出されたウイルス粒子を、β-プロピオラクトンを用いて不活性化し、そして次いで、ns-TEMを利用して視覚化した。グロー放電炭素フォイルで覆ったグリッドに試料を結合させ、そして1%酢酸ウラニルを用いて染色した。「CM-120 BioTwin」透過型電子顕微鏡(Philips)を用いて、グリッドを室温で画像化した。「TemCam-F416 CMOS」カメラ(TVIPS)を用いて画像を得た。
【0085】
画像化フローサイトメトリー分析
感染後、示す時点で、本発明者らは、感染MDCK細胞集団を揺動して、剥離細胞を感染培地内に放出させた。上清を採取し、そして剥離細胞を遠心分離(300xg、10分間および4℃)によって上清から分離した。残った接着細胞をトリプシン処理し、そしてその後、以前の工程由来の剥離細胞と合わせた。次いで、細胞を1%の最終濃度で、パラホルムアルデヒドで固定し(30分間および4℃)、そしてPBSで洗浄した。画像化フローサイトメトリー分析まで、アリコットを-20℃で70%エタノール中に保存した。
【0086】
以前記載されるように(Frensingら, 2016, Defective interfering viruses and their impact on vaccines and viral vectors. Biotechnol J 10, 681-689)、分析を行った。簡潔には、細胞試料を、0.1%BSAおよび2%グリシンを含有するPBSで2回洗浄し、それによって、300xg、4℃で10分間の遠心分離を用いた。次いで、試料を、1%BSAを含有するPBS中、37℃で30分間ブロッキングした。洗浄後、本発明者らは、抗体インキュベーション(常に、暗所中、37℃で1時間)を行った。モノクローナルマウス抗NP抗体mAb61A5(Fumitaka Momoseより寄贈)を1:500の希釈で用いた。抗体は、vRNP複合体に生得的なコンホメーションでNPに優先的に結合する(Momoseら, 2007, Visualization of microtubule-mediated transport of influenza viral progeny ribonucleoprotein. Microbes Infect 9, 1422-1433)。洗浄に続いて、二次Alexa Fluor 647コンジュゲート化ヤギ抗マウスpAb(Life Technologies、#A21235)を1:500の希釈で用い、そして次いで、細胞を2回洗浄した。DAPIを添加することによって、核を視覚化した。
【0087】
M1染色のため、本発明者らはFITCコンジュゲート化mAbマウス抗M1(AbD serotec、#MCA401FX)を1:100の希釈で用いた。細胞を洗浄した後、これらを1mLのPBSに再懸濁した。次いで、本発明者らは、RNA分解のため5μLのPureLink RNアーゼA(Life Technologies)を、そして核染色のため0.5μLの7-AAD(Merck)を添加した。インキュベーションを、暗所中、室温で30分間行った。最後に、細胞を洗浄した。60x拡大で試料あたり10,000細胞を獲得するため(破片および細胞二重体を排除した)、ImageStream X Mark II(Amnis、EMD Millipore)を用いた。375および642nmレーザーをvRNP/DAPI染色試料の励起に利用し、そしてチャンネル1(CH1)および5(CH5)からのシグナルをCH6上の明視野(BF)画像とともに獲得した。M1/7-AAD染色細胞に関して、本発明者らは488および561nm励起レーザーを用い、そして検出のため、CH6上のBFを伴ってCH2およびCH5を用いた。一重染色陽性対照を用いて、レーザー出力を調整し、そして補償ファイルを得た。
【0088】
本発明者らは、画像分析のため、IDEASソフトウェア(バージョン6.1)を用い、分析のため、焦点があった単細胞のみを用いた。核シグナル(DAPIから得られる)と共局在するvRNPシグナルの蛍光強度(FI)の割合を計算することによって、vRNPの細胞内局在を評価した。このため、それぞれ、ファンクション「形態」(CH1画像上)および「オブジェクト」(CH6上)を用いて、マスク「核」および「全細胞」を生成した。それぞれ、マスク「核」および「全細胞」内で、CH5上のフィーチャー「強度」を用いることによって、「強度CH5核」および「強度CH5全細胞」と称される新規フィーチャーを生成した。新規組み合わせフィーチャー「核中のFI」を以下の定義で生成した:「強度CH5核」/「強度CH5全細胞」。CH1およびCH5二重陽性細胞(焦点があった単細胞のもの)を、このフィーチャーを用いてヒストグラム上にプロットした。前記フィーチャーの平均値に100を乗じることによって、核中のFIの割合(%)を計算した。M1局在を同じ方法で、しかし対応する検出チャネルの考慮下で評価した。
【0089】
単細胞分析は、PR8ウイルスにおける異常な表現型を持つウイルス下位集団の存在を示す
大きな細胞間変動を示す、細胞内S7 vRNA量に対するウイルス放出の依存性を研究するため、本発明者らは感染細胞の単細胞分析を行った。接着性Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞集団をIAVに感染させ、そして次いでトリプシン処理して細胞懸濁物を得た。希釈細胞懸濁物を384ウェルプレートに移して、(平均して)ウェルあたり1細胞を得て、そして位相差顕微鏡検査によって、単細胞を含有するウェルを同定した。12hpiで、本発明者らはプラークアッセイを用いて、これらの細胞からウイルス力価を定量化した。さらに、細胞を溶解し、そしてリアルタイム逆転写定量的PCR(RT-qPCR)によって細胞内vRNAに関して分析した。感染実験をここで、National Institute for Biological Standards and Control(PR8-NIBSC)またはRobert-Koch-Institut(PR8-RKI)由来のインフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(PR8)で行った。
【0090】
驚くべきことに、10の感染多重度(MOI)のPR8-NIBSCでの感染に際して、低い感染性ウイルス力価を示す個々の細胞は、S5またはS8に比較して、比較的高くそして不釣り合いなレベルのS7 vRNAを含有した。特に、プラーク力価を示さない(ゼロプラーク形成単位(PFU))細胞は、ほとんどもっぱら、S7セグメントのこの過剰な比率の量を含有した。1~10PFUを放出する細胞の大部分もまた、こうしたレベルを含有した。さらに、単細胞の間のウイルス力価の分布は、二峰性であるようであり、約1~10PFUを放出するサブセットを含めて、2つの細胞下位集団が観察可能である。さらに、過剰な比率のS7レベルを有する細胞は、融解曲線分析におけるS7アンプリコンの異なる変性温度によって示されるように、(等モル比を持つ細胞に比較して)異なるS7 vRNA配列を含有するようであった。したがって、PR8 NIBSCは、異なるS7セグメントを持つビリオンの下位集団を含有しうると推測されてきている。
【0091】
こうした下位集団が異なるシードウイルス中にも存在するかどうかを試験するため、本発明者らは、細胞を、10のMOIでPR8-RKIに感染させた。しかし、S7に関しては、こうした異常な振る舞いは観察されなかった。本発明者らは、S5またはS8に比較してS7 vRNAの過剰な比率のレベルを観察せず、また、ウイルス力価のヒストグラムにおいてもいかなる二峰性も認識しなかった。同時に、ウイルス放出を示さない細胞の割合は、PR8-RKIウイルス複製に関しては非常に低かった(PR8-NIBSCウイルスでの感染に関する43%と比較して、わずか3%)。
【0092】
単細胞感染実験を用いてOP7ウイルス下位集団を濃縮可能であり、そしてプラーク精製によって枯渇可能である
PR8-NIBSCシードウイルスにおける推定上のウイルス下位集団を濃縮可能であるかどうかを調べるため、本発明者らは、10のMOIでの単細胞感染実験(上述の通り)を行い、そして個々の細胞の上清における子孫ビリオンを、集密MDCK細胞を用いて拡大した。すべてのシードウイルスを、続く単細胞実験のため、10のMOIで力価決定した。
【0093】
実際、いくつかの単細胞由来ウイルスシードでの感染実験は、非常に顕著な異常な表現型を示した。特に、感染細胞は、S5またはS8に比較して、過剰な比率のレベルのS7 vRNAをもっぱら含有した。これらのウイルスは、ここで、「OP7シードウイルス」と称される。さらに、OP7シードウイルス1番(OP7-1)に感染した細胞の93%は、ウイルス放出をまったく示さない一方、OP7-2およびOP7-5に関しては、割合は、それぞれ95%および90%であった。残りの細胞は、非常に低いウイルス力価(1~10PFU)を生じた。55の単細胞由来ウイルスシード(4回の独立の実験で得られた)のうち、わずか5つのウイルスシードが望ましい表現型を示した。
【0094】
OP7ビリオンは、ビリオン中に顕著なS7を除いて、不完全なvRNA内容物のため、非感染性である
OP7ウイルスの濃縮に成功したため、本発明者らは次に、OP7シードウイルス感染のさらなる特徴を探求するために、細胞集団に基づく実験を行った。このため、MDCK細胞を10のMOIで感染させ、そして赤血球凝集アッセイ(HA)によってウイルス力価に関して、そして12hpiでの50%組織培養感染性用量(TCID50)アッセイによって感染性ビリオンに関して評価した。リアルタイムRT-qPCRによって、細胞内vRNAおよび放出ビリオンのvRNAを定量化した。HA力価から得たウイルス粒子濃度に基づいて、感染性ウイルス粒子の割合およびビリオンあたりのvRNAの量を計算した。PR8-RKIウイルスに関して、本発明者らは、S5、S7およびS8に関しておよそ5のウイルス粒子あたりのvRNAコピー数を得て、これは予期される値である1と同じ桁でありそしてしたがって合理的に一致する。したがって、PR8-RKIウイルスのビリオンあたりのvRNAの数を、すべての残りのウイルスの標準化に用いた(参照として)。S5、S7およびS8を、すべてのゲノムセグメントの代表として定量化した。
【0095】
本発明者らは、RP8-RKI、PR8-NIBSCおよびPPウイルスに比較して、OP7シードウイルスの特性の顕著な相違を見出さなかった。すべてのウイルスは、高い感染性力価を示し、これはおそらく、高いMOIで細胞に感染することを可能にする完全に感染性であるSTVの顕著な存在のためである可能性が高かった。しかし、10のMOIでのOP7シードウイルスでの感染に際して、本発明者らは再び、本発明者らの先の単細胞実験と同様に、S5およびS8に比較して、細胞内S7 vRNAの過剰な比率の量を観察した。興味深いことに、S5およびS8のレベルは、PR8-RKIおよびPPウイルス複製に比較して、有意に減少していた(少なくとも1桁)。さらに、OP7シードウイルス感染細胞由来のウイルス子孫の大部分は非感染性であった。より具体的には、感染性ビリオンの割合は、OP7-5に関する0.02%からOP7-4に関する0.7%の範囲であった。PR8-RKIまたはPPウイルス複製に比較して、これは、OP7-4に関してほぼ3 lоg10、そしてOP7-5シードウイルス感染に関しては1を超えるlоg10の産生ビリオン感染性の減少に相当する。OP7シードウイルス感染に対するHA力価が、PR8-RKIに比較して、(平均して)0.8 lоg10、そしてPPウイルス複製に比較して、少なくとも0.3 lоg10単位減少していたこともやはり注目される。感染性ビリオンが低い割合であることは、セグメント特異的RT-PCRの結果が、OP7シードウイルス感染に際して産生されるビリオンにおけるサブゲノムRNAの顕著な集積を示さないため、慣用的なDIP(cDIP)の存在によっては説明不能である。以下において、本発明者らは、OP7シードウイルスでの感染に際して放出されたウイルス粒子を「OP7ビリオン」と称する。
【0096】
OP7ビリオンの低い感染性は、むしろ、その少ないvRNA内容物によって説明されうる。より具体的には、ビリオンあたりのS5およびS8の計算される数は、PR8-RKIおよびPPウイルス粒子に比較して、およそ1桁減少していた。興味深いことに、S7 vRNAの数は影響を受けなかった。したがって、この結果は、OP7ビリオンがvRNA内容物に関して不完全であり(S7を除く)、このため該ビリオンがシングルヒット(single-hit)感染に際して複製不能となることを明らかに示す。残りの感染性は、STVの存在によって与えられる可能性が高い。さらに、OP7ビリオンは、透過型電子顕微鏡検査の陰性染色(ns-TEM)によって示されるように、PR8-RKIおよびPPビリオンに比較して、わずかにより小さいようであった。さらに、よく分離された表面スパイクタンパク質を持つ球状のOP7ウイルス粒子(PR8-RKIおよびPPビリオンと同様)が観察されたことから、粒子形態は影響を受けていないようであった。要約すると、本発明者らは、OP7ビリオンが、主に取り込まれるS7を例外として、ゲノムvRNA内容物の欠如の結果として非感染性であることを示す。
【0097】
S7-OP7の突然変異vRNA、影響するコードタンパク質、パッケージングシグナルおよびプロモーター領域
次に、本発明者らは、ゲノム突然変異を含有するかどうかを解明するため、OP7ビリオン由来のvRNA配列を決定した。末端の配列決定のため、本発明者らは、RNAの環状連結に基づく方法を改善した(de Witら, 2007, Rapid sequencing of the non-coding regions of influenza A virus. J Virol Methods 139, 85-89)。試料体積が限定されているため、4つのOP7および3つのPPウイルスのみを配列決定した。本発明者らの実験によって、S7-OP7のvRNA上に有意な量の突然変異が明らかになった。置換の数は、PR8-RKI、PPウイルスおよびNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のPR8(NC_002016.1)の参照配列(RefSeq)に比較して、36~41の範囲であった。S7-OP7に関する最高の配列類似性は、NCBIデータベースにおいて、PR8配列に関して見出されたことに注目されたい。対照的に、S5およびS8は、より少ない改変を示し、PR8-RKIウイルスおよびNCBI RefSeq(S5に関してはNC_002019.1、およびS8に関してはNC_002020.1)に比較して8~16ヌクレオチド(nt)、そしてPPウイルスに比較して0~3ntの相違であった。
【0098】
図3は、ゲノムセグメントのいくつかの機能領域に関する、配列番号1のRefSeqに比較した、S7-OP7 vRNAの37の点突然変異を例示する。
異なるS7配列に関して、S7-OP7上で同定されたすべての突然変異のうち、本発明者らは、これらを、異常な表現型を潜在的に生じうる、35置換に限定した。OP7ウイルスは、さらなる置換を示すOP7-4を除いて同一のS7配列を示し、OP7-4はこの単離体の表現型が全体としてより顕著ではなかったため、分析から排除した。さらに、この研究において、OP7ウイルスにその表現型を比較しなかったため、本発明者らは、RefSeqに対する置換を考慮しなかった。したがって、PR8-RKIおよびすべてのPPウイルスのS7配列に関して、本発明者らは35の同一のヌクレオチド間置換を観察する。
【0099】
配列番号2のS7-OP7のこれらの35の置換は、ゲノムセグメントのいくつかの機能領域に関する(
図1)。コード領域は、32(33)の突然変異を含有し、それぞれ、コードされるM1に関して10の保存的および2つの非保存的アミノ酸(aa)置換、ならびにM2に関して4つおよび2つの突然変異を生じる。27位で、PR8-RKIウイルスがアラニン(A)をそしてPPウイルスがチロシン(T)を含有するため、M2に関しては置換A/T27Vが示されることに注目されたい。M1核局在化シグナル(NLS)および核排出シグナル(NES)は改変を示さず、そしてM1およびM2リーディングフレーム中にさらなる停止コドンは観察されなかった。さらに、本発明者らは、M2 mRNAのスプライシングに影響を及ぼす部位、すなわちドナー、ブランチおよびアクセプター部位、ならびにポリピリミジン・トラクトに置換を見出さなかった。
【0100】
興味深いことに、3つ(4つ)の突然変異が非翻訳領域(UTR)において観察され、これらはvRNA両端のプロモーターおよびセグメント特異的非コード領域を含む。プロモーター領域は非常に保存されており、そしてそれぞれ、vRNAの5’および3’端の非コーディング13および12ヌクレオチド(nt)を含む。さらに、S7-OP7 vRNA上で、本発明者らは、以前、「スーパープロモーター」と称されたG3A/C8U突然変異(Belicha-Villanuevaら, 2012, Recombinant influenza A viruses with enhanced levels of PB1 and PA viral protein expression. J Virol 86, 5926-5930)を同定した。さらに、本発明者らは、ゲノムセグメントに応じて、通常、多型である(U/C)、3’端の4番目の位(C4U)での置換を同定した。これらの3つの位での置換は、OP7ビリオンの他のセグメントでも、またPPおよびPR8-RKIウイルスのすべてのセグメントでも見出されなかった。さらに、UTRおよびvRNA両端のコード領域の近位部分を含む、S7のセグメント特異的ゲノムパッケージングシグナル配列は、16(17)ヌクレオチドの置換によって影響を受けた。総合すると、S7-OP7のvRNAは、有意な量の突然変異を示す一方、S5およびS8配列における置換の度合いはより低かった。35(37)の置換は、全ゲノムセグメントに分布し、これらはM1およびM2タンパク質配列、プロモーター領域、およびゲノムパッケージングシグナルに影響を及ぼす。
【0101】
S7-OP7上の「スーパープロモーター」は、OP7シードウイルス感染に際して改変されたウイルスRNA合成を引き起こす
各ゲノムvRNAセグメントは、ウイルス核タンパク質(NP)および三分子ウイルスポリメラーゼを含む、ウイルスリボ核タンパク質(vRNP)複合体にキャプシド形成される。ひとたび核に入ると、これらはウイルスメッセンジャーRNA(mRNA)の転写および相補RNA(cRNA)の複製の両方に関与する。cRNAは、それ自体、cRNP中でキャプシド形成され、そして子孫vRNA合成のための複製中間体として働く。OP7シードウイルス感染に際してのウイルスRNA合成に対するプロモーター突然変異(S7-OP7のvRNA上に見出される)の潜在的な影響を調べるため、本発明者らは次に、リアルタイムRT-qPCRによって細胞内ウイルスRNAを、そしてウェスタンブロットによってウイルスタンパク質を調べた。以下において、本発明者らは、参照/WTウイルス感染のため、PR8-RKIウイルスを用いた。12hpiまでに、OP7シードウイルス感染中のS7のvRNAはPR8-RKIウイルス複製のS5、S7およびS8に比較して、匹敵する量に達した。さらに、S5およびS8 vRNAのレベルは有意に減少し(およそ1桁)、これは本発明者らの先の観察と一致する。
【0102】
興味深いことに、S7のmRNAは、S5およびS8と比較して、そしてPR8-RKIウイルス複製のすべてのmRNAに関して、より高いピーク量に到達し、6~8hpiの間で3~6倍の増加が観察された。同様に、S7 cRNAは、他のセグメントのcRNAに比較して、そしてPR8-RKIウイルス複製のすべての測定したcRNAに比較して、OP7シードウイルス感染に際して、上昇したレベルに到達した。この増加は、PR8-RKIウイルス複製に関して、6~8hpiの間で、おおよそ7倍であった。OP7シードウイルス感染におけるS8 cRNAの量は、PR8-RKIウイルス複製のものに匹敵した;しかし、S5 cRNAのレベルはわずかに減少した。さらに、細胞内M1タンパク質は、PR8-RKIウイルス複製に比較して、OP7シードウイルス感染に際してより多い量まで集積するようである一方、核タンパク質(NP)およびポリメラーゼ酸(PA)タンパク質の量は減少するようであった。
【0103】
以前、S2またはS3いずれかのvRNA上のG3A/C8U「スーパープロモーター」を所持する人工IAVが再構築された(Belicha-Villanuevaら, 2012, Recombinant influenza A viruses with enhanced levels of PB1 and PA viral protein expression. J Virol 86, 5926-5930)。感染に際して、観察された表現型は、OP7シードウイルス感染に際してのS7に比較した際、「スーパープロモーター」を所持するセグメントからのウイルスRNAおよびタンパク質合成に関して、同一の特徴を示した。さらに、該著者らは、「スーパープロモーター」を持たないウイルスに比較した際、より強いI型インターフェロン(IFN)誘導を示した。本発明者らは、「スーパープロモーター」を含有しないPR8-RKIウイルスに感染した細胞に比較して、OP7シードウイルスに感染した細胞において、上昇したIFN-ベータおよびミクソウイルス耐性遺伝子1(Mx1)転写物レベルによって示されるように、同様の知見を得た。
【0104】
突然変異M1-OP7の核集積増進は、vRNPの核保持を引き起こしうる
ひとたび核に入ると、M1は、vRNPの核排出を仲介する。OP7ウイルスのM1タンパク質(M1-OP7)は修飾を示したため、本発明者らは次に、細胞内タンパク質輸送が、OP7シードウイルス感染に際して改変されるかどうかを調べた。この目的に向けて、本発明者らは画像化フローサイトメトリーを用いた。それぞれ、核染色7-ADDまたはDAPIと組み合わせて、抗M1または抗vRNPモノクローナル抗体(mAb)のいずれかを用いて、感染細胞を染色した。核シグナルと共局在する蛍光シグナルの量に基づいて、核中のそれぞれのタンパク質/複合体の割合を計算した。
【0105】
4.5hpiまでは、核中のM1の割合は、PR8-RKIウイルス複製において安定して増加し、その産生に続く核移入を示した。同時に、3~4.5hpiに、核中のvRNPの割合は、急激な減少を示し、これはウイルスゲノムの核排出を示す。したがって、核におけるM1の集積は、vRNPの核排出に一致した。4.5hpi後、ウイルス複製サイクルの経過に伴って、どちらの割合も連続して減少した。対照的に、OP7シードウイルス感染細胞に関しては、4.5hpi後であっても、核におけるM1の割合の強い増加を観察可能である。画像は、9hpiでのPR8-RKIウイルス複製に比較して、OP7シードウイルス感染に際してのM1の増進された核集積を例示する。さらに、vRNPの大きな割合が3~4.5hpiで核を離れるようである一方、PR8-RKIウイルス複製に比較して示されるように、6hpi以後に、ある程度のvRNPは核に留まるようであった。要約すると、画像フローサイトメトリー分析は、OP7シードウイルス感染に際して、突然変異M1-OP7の増進された核集積を示し、これが、vRNPのある割合の見かけ上の核保持を引き起こす可能性もある。
【0106】
OP7ウイルスは、同時感染研究において、IAVの複製に干渉する
慣用的DI-RNA(cDI-RNA)は、そのFL対応物よりも増殖上の利点、すなわち増進されたゲノム複製および子孫ビリオン内への優先的な取り込みを有すると考えられる。興味深いことに、S7-OP7の突然変異vRNAは、増殖において非常に類似の利点を有するようであった。本発明者らはしたがって、OP7ウイルスは、さらに、cDIPと別の特徴:STVの複製への干渉も共有すると仮定した。この可能性をさらに探索するため、本発明者らは同時に、IAVおよびOP7ウイルスで細胞を同時感染させた。
【0107】
実際、同時感染実験は、PR8-RKIウイルスの減弱された複製を示した(
図2A)。PR8-RKIのみ(MOI=10)に感染させた細胞に比較して、同時感染させた細胞(10のMOIでOP7およびPR8-RKIウイルス両方)は、減少したHA力価(0.8単位分)、放出されるビリオンの感染性の重度の減少(=3桁)、ならびにS5およびS8に関してS7 vRNAの過剰な比率の量(細胞内および放出されたウイルス粒子において)を示した。したがって、OP7シードウイルスのみ(MOI=10)に感染した細胞に比較した際、(より顕著ではないとしても)同じ表現型がこうした混合感染において観察された。さらに、干渉強度は、OP7シードウイルスのMOIを減少させると、希釈可能であった。
【0108】
OP7ウイルスがまた、ヒト細胞株においても、PR8-RKIウイルス複製への干渉を示すかどうかを調べるため、本発明者らは次に、ヒト胚性腎臓293(HEK293)およびA549細胞(ヒト肺癌由来)を同時感染研究において用いた。再び、実験は、PR8-RKIのみに感染した細胞に比較して、HA力価の減少、放出されるビリオンの感染性の強い減少および産生されるウイルス粒子におけるS7 vRNAの過剰な比率のレベルによって示されるように、干渉を明らかにした(
図2B、2C)。同様に、MDCK細胞における同時感染研究はまた、HA力価および放出されるビリオンの感染性の減少によって示されるように、H1N1サブタイプのパンデミックインフルエンザウイルスA/カリフォルニア/7/2009(H1N1-pdm09)への、そしてさらには異種H3N2サブタイプインフルエンザウイルスA/香港/4801/2014への干渉も示した(
図2D、2E)。総合すると、本発明者らの実験は、MDCK細胞および2つのヒト細胞株の両方における、PR8-RKIウイルス複製へのOP7ウイルスの強い干渉、ならびにH1N1-pdm09およびH3N2ウイルス複製への干渉を立証した。
【0109】
考察
これまでに、DIPは主に、その内部ゲノム欠失に関して同定され、そして特徴づけられてきた。対照的に、本研究において、本発明者らは、ゲノムセグメントの1つにおけるヌクレオチド置換を含有するIAV由来DIPの新規タイプの発見を報告する。OP7ウイルスは、STVとの同時感染に際して、cDIPと非常に類似の特徴、すなわち(i)他のセグメントに勝るDIゲノムのゲノム複製の増進、(ii)子孫ビリオン内への優勢なパッケージング、(iii)自然免疫誘導の増進、(iv)ゲノム情報を欠くため非感染性であるウイルス粒子の放出、および(v)STVの複製への干渉を共有する。
【0110】
高いMOIの単細胞感染研究によって、個々の感染細胞の下位集団における異常なOP7の表現型を認識し、そしてこれらの細胞の上清において、放出されたOP7ビリオンを採取することが可能になった。単一IAV感染細胞のウイルス力価が最大(理論的に)おおよそ1000PFUにしか到達しないため、低いMOI感染しか生じえない、およそ1x106細胞を用いて、この上清におけるウイルスの増殖を行った。典型的には、低MOI条件下、cDIPを含有するウイルスシードでの感染は、高い感染性のウイルス力価を導くことが可能であり、これはまた、生じるOP7シードウイルスに関しても当てはまった。これらの感染条件は、同時感染事象を減少させ、そして細胞は、大部分、単一ウイルス粒子によって感染する。したがって、STV感染細胞は、主に感染性のウイルス子孫を生じる;が、最初は、DIPのみに感染した細胞は、ウイルス産生には寄与できない。さらに、特定の時間ウィンドウに関して、これらの細胞はなお、新規に産生されるSTVに同時感染し、これは続いて、これらの細胞を(主に)DIP産生型に変換する。したがって、低MOI感染に関しては、通常、放出されるウイルス集団において、感染性ビリオンが優勢である。対照的に、生じたOP7シードウイルスを高MOIで用いると、本発明者らは、非常に低い割合の放出感染性ビリオンを観察し;この結果は、cDIPを含有するシードウイルスからもまた予期可能である。この感染条件は、同時感染事象を育成し、そしてしたがって、早い時期にSTVでDIP感染細胞を補完する。したがって、DIゲノムが増殖上、利点を有する結果として、生じるウイルス集団において、主に、非感染性のDIPが集積する。
【0111】
本発明者らのデータは、これらの放出されるOP7ビリオンが、その減少したvRNA内容物のため非感染性であることを示す。より具体的には、WTビリオンに比較して、vRNAの数は、おおよそ1桁減少する一方、S7の量は影響を受けなかった。これらの計算された数は、理論的には、(i)わずか~10%の粒子が完全である、すなわちこれらは8つの異なるゲノムセグメント各々を含有する一方、残りのビリオンはS7しか含有しないか、あるいは(ii)すべてのウイルス粒子がS7を含有する;が、これらは残りの7つのセグメントのかなりの部分を欠く、ウイルス集団を生じうる。しかし、感染性ビリオンの割合は、(WTビリオンに比較して)2桁より多く減少するため、第二のシナリオのみが決定的であるようである。残りの感染性は、残ったSTVの存在、8つの機能性セグメントのランダムなパッケージング(より詳細には以下を参照されたい)、または同時感染を通じた、すべての機能性ゲノムセグメントでの感染細胞の補完によって説明可能である。さらに、OP7ビリオンがウイルス複製において不全であるという本発明者らの結論は、PR8-NIBSCウイルス(OP7ウイルスを含有する)由来のプラーク精製の結果によってさらに支持される。各プラークは、単一ウイルス粒子による細胞の感染から生じると仮定可能である。しかし、生じる43のウイルス単離体のいずれも、感染実験において、OP7ウイルス表現型を示さず、このことは、OP7ビリオンが増殖不能であることを示す。
【0112】
S7のセグメント特異的ゲノムパッケージングシグナル配列は、16(17)の突然変異によって影響を受け、これは、OP7ビリオンの異常なvRNA内容物を説明しうる。典型的には、ウイルス組み立ておよび出芽は、よく編成されたプロセスであり、この中で、8つの異なるvRNAが、各ウイルス粒子内に選択的に取り込まれ、これにはパッケージングシグナルが伴う。しかし、株に応じて、最大20%のビリオンがなお、少なくとも1つのvRNAのパッケージングに失敗しうる。さらに、シグナル配列においてすでに4つの突然変異がvRNAパッケージングを破壊可能であるため、IAVゲノムパッケージングプロセスにおいて、S7が重要な役割を果たすと示唆された(Hutchinsonら, 2008, Mutational analysis of cis-acting RNA signals in segment 7 of influenza A virus. J Virol 82, 11869-11879)。OP7シードウイルスを用いた感染実験の本発明者らの結果と同様、該著者らは、(WTウイルス複製に比較して)2桁より大きい放出された感染性ビリオンの割合の劇的な減少を観察した。この減少は、ビリオンのうちわずかしか完全ゲノムを取り込まないランダムパッケージングプロセスに関して予測される減少と等しかった。対照的に、Hutchinsonおよび同僚らは、放出されるウイルス粒子において、S7 vRNAの過剰提示を観察しなかった(Hutchinsonら、2008、上記を参照されたい)。破壊されたゲノムパッケージングおよびS7 vRNAの観察された過剰な比率の細胞内レベルの組み合わせが、前記ビリオンの形成を生じうる可能性がある。あるいは、S7-OP7の突然変異vRNAに対してはさらなる機構が作用しうる。しかし、最終的に、OP7ビリオンにおいて、S7-OP7が他のゲノムセグメントより優勢となり;これは、FL対応物よりも優先的にパッケージングされるcDI-RNAとの類似性を示しうる観察である。
【0113】
以前、S2またはS3いずれかのvRNA上のG3A/C8U「スーパープロモーター」を所持する人工IAVが再構築された(Belicha-Villanuevaら, 2012, Recombinant influenza A viruses with enhanced levels of PB1 and PA viral protein expression. J Virol 86, 5926-5930)。感染に際して、観察された表現型は、OP7シードウイルス感染に際してのS7-OP7(G3A/C8Uを所持する)に比較した際、G3A/C8Uを所持するセグメントからのウイルスRNAおよびタンパク質合成に関して、非常に類似の細胞内特徴を示した。
より具体的には、(i)G3A/C8Uを所持するvRNAを除く、すべてのゲノムセグメントのvRNAレベルの強い減少、(ii)前記セグメント由来のmRNA、cRNAおよびタンパク質合成の増進、ならびに(iii)WTウイルス複製に比較した、I型IFNレベルの増加が観察されてきている。後者の観察に関して、誘導の増加は、免疫刺激性RNA分子の量の増加によって引き起こされる可能性が高いことが示された。自然免疫のこうした誘導増進はまた、慣用的DIPでの感染に関しても観察される。さらなるG4U置換(本明細書において、S7-OP7に記載される)もまた、プロモーター機能に影響を及ぼしうる。
【0114】
重要なことに、G3A/C8U突然変異のみでは、全OP7ウイルス表現型を生じず、これは、G3A/C8Uを所持するvRNAセグメントが、OP7ウイルス感染におけるS7-OP7とは異なり、感染の背景において、子孫ビリオン内に主にはパッケージングされないためである(Belicha-Villanuevaら, 2012, Recombinant influenza A viruses with enhanced levels of PB1 and PA viral protein expression. J Virol 86, 5926-5930)。これは、OP7ウイルスの欠損性および干渉性表現型のためには、G3A/C8Uに加えて、さらなる突然変異(S7-OP7に見られるもの)が必要であることを示す。さらに、G3A/C8U突然変異が、DIP様表現型を生じることはなお記載されなかった。G3A/C8U置換はこれまでに、IAVのvRNA内に人工的に導入されたに過ぎなかった。したがって、S7-OP7が選択によって、「天然に」G3A/C8Uを得たようであることは注目に値する。その結果、S7-OP7のゲノムvRNAは、他のゲノムセグメントに比較して、おおよそ10倍高い細胞内レベルまで集積する。この特徴は、再び、FL対応物よりも優先的に合成される慣用的なDIゲノムに対する類似性を示す;が、これは別の理由のため、すなわちおそらくは、長さが減少していることによる、より迅速な集積の結果である。
【0115】
S7-OP7のコード領域は、32(33)の突然変異を示し、M1およびM2(イオンチャネル)タンパク質に関する2つの非保存的置換の両方を生じる。他の機能の中でも、両タンパク質はまた、ウイルス組み立てにも重要であり、これは、OP7ビリオンの異常なvRNA内容物に関するさらなる説明を提供しうる。さらに、タンパク質の改変はまた、ウイルス形態にも影響を及ぼす可能性もあり、線維状ビリオンを含む多様な形態型を示す。
【0116】
M1タンパク質はまた、vRNPの核排出にも関与する。本発明者らは、M1-OP7のNLSおよびNESにおける改変を同定しなかったが、にも関わらず、該タンパク質は、OP7シードウイルス感染に際して、核における異常に高い集積を示した。同時に、WTウイルス複製に比較して、vRNPの割合は、核において保持されるようであった。この背景において、M1がウイルス核排出タンパク質(NEP)およびvRNPの結合を仲介し、これが次に、NEPに位置するNESによって核から排出される複合体を形成すると考えられる。したがって、NEPおよび/またはvRNPへのM1-OP7の結合部位が改変され、これがこれらの核保持を導くと考えられる。vRNPのある割合は、感染後早い時点で核から排出され、これは同時感染STVからのある程度の機能的なM1の合成によって説明されうることに注目されたい。ゲノムvRNPの部分的な核保持は、OP7ウイルス同時感染に際して観察されるウイルス力価の減少に寄与しうる。したがって、突然変異M1-OP7の妨害された機能が、OP7ウイルスの干渉能に、またはさらにウイルス複製における欠陥に寄与すると考えられる。
【0117】
OP7ビリオンは、適切な同種および異種IAV株のウイルス複製への強い干渉、ならびにヒト細胞株における干渉を示すため、抗ウイルス療法の有望な候補でありうる。さらに、OP7シードウイルス感染に際して観察される自然免疫誘導の増進は、抗ウイルス療法の背景において、さらに有益でありうる。
【0118】
要約すると、本発明者らは、OP7ビリオンが、IAVに由来する、DIPのまだ認識されていない型であると提唱する。S7-OP7のvRNAは、IAV複製に対して強い阻害効果を発揮し、ウイルス構成要素の産生を減少させる一方、それ自体の複製および蔓延を支持する。特に、「スーパープロモーター」は、vRNAにゲノム複製における利点を与える一方、突然変異パッケージングシグナルから生じる可能性もある他の未知の機構が、ウイルス粒子内への該分子の優勢な取り込みを生じる。同時に、OP7ウイルス粒子における他のゲノムvRNAセグメントの欠如によって、これらはウイルス複製不全となる。最後に、IAV複製への強い干渉能のため、OP7ビリオンは、抗ウイルス療法のための有望な候補であることがわかる可能性もある。
【0119】
したがって、本発明記載の核酸分子、特に配列番号3のpiRNAは、インフルエンザウイルス複製に対する阻害性および干渉性効果を有する抗ウイルス剤として、適切な手段に相当する。したがって、本発明記載の核酸配列、ならびに本発明記載の組成物およびウイルス様粒子およびウイルスベクターは、ウイルス感染の予防的および療法的治療を可能にする適切なワクチンおよび薬学的組成物に相当する。piRNAの存在は、ウイルス、例えばインフルエンザAウイルスの天然感染の蔓延を阻害しうる。さらに、自然免疫反応に対する陽性の効果のため、抗ウイルス効果のさらなる促進が可能である。
【配列表】