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  • 特許-摩擦調整システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】摩擦調整システム
(51)【国際特許分類】
   G04F 7/08 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G04F7/08 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020549688
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2019056526
(87)【国際公開番号】W WO2019175373
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】00335/18
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】513114803
【氏名又は名称】ウブロ ソシエテ アノニム, ジュネーブ
【氏名又は名称原語表記】HUBLOT S.A., GENEVE
【住所又は居所原語表記】30, Rue du Rhone, CH-1204 Geneve
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライナー, クリストフ
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第1354567(FR,A)
【文献】米国特許第3099502(US,A)
【文献】特開2011-80880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 31/00-31/08
G04F 7/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材(7、11、12)と、枠(9)に対して固定された第二部材(8)との間の摩擦を調整するシステム(1)であって、
枠(9)と、
前記枠(9)に螺合され、前記第一部材に対して機械的作用を発揮するように配置され、前記機械的作用は前記第二部材に対して作用する、ねじ要素(2)と、
前記第一部材(7、11、12)に支えられる凸状部(5)と
を含む、システム(1)。
【請求項2】
前記第一部材(7、11、12)は、クロノグラフ車である
請求項1に記載のシステム(1)。
【請求項3】
前記第一部材(7、11、12)は、秒車である
請求項1に記載のシステム(1)。
【請求項4】
前記第二部材(8)は、第二軸受型の第二部材である
請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム(1)。
【請求項5】
前記第二部材(8)との間の摩擦の調整は、前記第二部材(8)との間の摩擦トルクの強度の調整である
請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム(1)。
【請求項6】
前記ねじ要素(2)は雄ねじ(21)及びまたは穴(23)を含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム(1)。
【請求項7】
前記システムは、前記ねじ要素(2)に支持されるよう取り付けられ、前記第一部材に機械的作用を伝達するよう配置される、ばね(3)を含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム(1)。
【請求項8】
前記ねじ要素(2)は、前記ばね(3)用の位置決め要素(24)を含む
請求項7に記載のシステム(1)。
【請求項9】
前記システム(1)は、前記ばね(3)を支える支え軸(4)を含む、
請求項7または8に記載のシステム(1)
【請求項10】
前記支え軸(4)は、前記ばね(3)用のセンタリング要素(42)を含む
請求項9に記載のシステム(1)
【請求項11】
前記凸状部(5)は、前記第一部材(7、11、12)に支えられる少なくとも部分的に球形の部(5)である
請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム(1)
【請求項12】
前記ねじ要素(2)は前記枠(9)に螺旋状にしっかりと連結される、
請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム(1)
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム(1)を含む、クロックワーク機構(100)
【請求項14】
前記ねじ要素(2)は、回転により駆動される刻印(22)を含み、前記刻印(22)はブリッジ側からまたは文字盤側からアクセス可能である、
請求項13に記載のクロックワーク機構(100)。
【請求項15】
請求項13または14に記載のクロックワーク機構(100)及びまたは請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム(1)を含む、時計(200)。
【請求項16】
第一部材(7、11、12)と、第二部材(8)と、の間の摩擦を調節する方法であって、前記方法は請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム(1)を使用し、前記方法は、前記摩擦の強度を変えるため前記ねじ要素(2)を螺合しまたは螺合を解除する工程を含む、方法。
【請求項17】
ムーブメントの部品を取り除くことなく実施される、及びまたはムーブメントがケース内に収まった状態で実施される、
請求項16に記載の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一部材と第二部材との間の摩擦を調整するシステムに関する。本発明はまた、この種の調整システムを含むクロックワーク機構に関する。本発明はさらに、この種のクロックワーク機構またはこの種の調整システムを含む時計に関する。最後に、本発明は、この種の調整システムを使った調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロノグラフを有する時計は、一般的に、時計の枠に対して摩擦を有して旋回するよう取り付けられたクロノグラフ車を含む。クロノグラフ車に摩擦を与えるため、一般的に、鋼または真鍮製の弾性ブレードまたは薄片がクロノグラフ車に接した状態で枠に固定され、クロノグラフ車の回転を抑制する。しかしながら、このブレードの位置を考慮すると、車に対するブレードの摩擦を調整するのは非常に手間のかかる作業である。実際、一方では、この非常に小さい(マイクロニュートン単位の)摩擦力を調整することは難しく、他方では、この力の調整は、薄片を交換することにより行われるため、ムーブメントを部分的に分解しなければならず、難しい。このように様々な部品を分解することは、時間も、手間も、費用もかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上述の問題を解決し、従来から知られたシステムを改善する、摩擦調整システムを提供することにある。特に、本発明は、二つのクロックワーク部品間の摩擦を容易に調整することを可能とする、特にクロノグラフ車の摩擦を容易に調整することを可能とする、調整システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明にかかる調整システムは、請求項1に定義される。
【0005】
調整システムの様々な実施形態は、請求項2から12に定義される。
【0006】
本発明にかかるクロックワーク機構は、請求項13に定義される。
【0007】
本発明にかかるクロックワーク機構の実施形態は、請求項14に定義される。
【0008】
本発明にかかる時計は、請求項15に定義される。
【0009】
本発明に係る調整方法は、請求項16に定義される。
【0010】
方法の実施形態は、請求項17に定義される。
【0011】
添付の図面は、本発明にかかる時計の実施形態を例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、時計の実施形態にかかる、クロノグラフ車の軸を通る平面の模式的な断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態にかかる、調整システムの詳細な斜視図である。
図3図3は、本発明の実施形態にかかる、クロックワーク機構の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
時計200の実施形態を、図1を参照しつつ以下に説明する。時計200は、例えば小型時計であり、特に腕時計である。時計200はクロックワーク機構100、特に機械クロックワークムーブメント100を含む。クロックワークムーブメントは、例えば、手動巻き上げ型または自動巻き上げ型のものである。当該ムーブメントは、例えばクロノグラフモジュールまたはクロノグラフ機構を含む。このクロノグラフモジュールまたはクロノグラフ機構は、クロノグラフ車、特にクロノグラフ秒車7、11、12及びまたはクロノグラフ分車及びまたはクロノグラフ時車及びまたは小数秒用のクロノグラフ車を含む。
【0014】
図1に示すとおり、当該クロックワーク機構100はクロノグラフの車と枠9との間の摩擦を調整するためのシステム1を含み、より一般的には、第一部材7、11、12と第二部材8との間の摩擦、とりわけ第一部材7、11、12と第二部材8との間の摩擦トルクの強度を調整するためのシステム1を含む。
【0015】
第一部材7、11、12は、回転軸Aを有するクロノグラフ車であり、とりわけ第一部材7、11、12は秒車である。第一部材は枠9に対して軸A周りに回転運動可能である。クロノグラフ車はステム7を含み、ステム7の端部には、(図示しない)秒表示器、例えば秒針、が取り付けられ、とりわけ打ち込まれる。秒板11とハートピースカム12が、ステム7に、とりわけ打ち込みにより、固定される。当該クロノグラフ車は、ステム7、板11及びハートピースカム12を含む。
【0016】
第二部材8が枠9に対して固定される。摩擦機能の他に、第二部材8は別の機能を有してもよい。例えば、第二部材は、枠9に対してクロノグラフ車を、より具体的にはクロノグラフ車のステム7を、旋回連結するための軸受8である。この軸受は、例えば、石またはルビーである。
【0017】
第一部材と第二部材との間の摩擦を調整することを可能とする接触は、平面接触、とりわけ軸Aを中心とする環状表面上の平面接触であることが好ましい。しかしながら、接触表面は他の形状を有してもよい。接触表面はとりわけ円錐状であってもよい。説明及び図示された実施形態において、第一部材、とりわけステム7は、肩部7’を含む。この肩部は第二部材、とりわけ軸受8に対して押圧しまたは当接する。従って、例えば、肩部に設けられた第一環状表面が、軸受に設けられた第二環状表面に支えられるようになる。
【0018】
調整システム1は枠9を含み、枠9に対してねじ要素2がねじ止めされる。ねじ要素2は、クロノグラフ車の軸Aと一致または実質的に一致する軸を有する。ねじ要素2は、ステム7に対して機械的作用を発揮するように配置され、この機械的作用は軸受8によって、とりわけ軸受が取りつけられた枠9に対して、作用する。
【0019】
調整システム1はさらにばね3を有してもよい。ばね3は、例えば、ねじ要素2に対して支持されるよう取り付けられ、ステム7に機械的作用を伝達するよう配置される。
【0020】
好ましくは、ばね3はコイルばね型である。代替的に、ばね3はどのようなものであってもよく、例えば積み重ねられた弾性ワッシャまたはばね座金でもよく、またはエラストマー材料からなる管などのエラストマー材料製の要素であってよい。
【0021】
ばねは、0.1と0.5N/mmの間の、例えば0.2N/mmの剛性を有してもよい。ばねは0.02Nと0.2Nの間の軸方向力を発生させる。例えば、軸方向力を0.05Nと0.15Nの間で変えることができる。
【0022】
ねじ要素2は好ましくは、枠9に形成されたねじ穴部91と協働する。代替的に、ねじ要素2に設けられた雌ねじまたはねじ穴部が枠9に形成された雄ねじと協働してもよい。好ましくは、ねじ要素2は穴23を含み、例えば穴23の軸はねじ要素2の軸と一致または実質的に一致する。好ましくは、ねじ要素2は、位置決め及びとりわけばね3のセンタリングを容易にするための、例えば座ぐり、チャネルまたは溝などの、位置決め要素24を含む。
【0023】
図2に示されるとおり、調整システム1はさらに支えシャフト4を含み、その軸は、軸Aと一致または実質的に一致する。ばね3は、支えシャフト4に軸方向の力を伝えるよう支えシャフト4に支持される。好ましくは、支えシャフト4は、ばね3を支える肩部41を有する。支えシャフト4はさらに、肩部41におけるばね3のためのセンタリング要素42を有し、例えばセンタリング要素42は円錐状部分を有する。
【0024】
システム1はさらに、好ましくは、ステム7の軸方向においてステム7に支持されるシャフト4の凸状部5を含む。この凸状部5は少なくとも部分的に球形であり、少なくとも部分的に球形の支持端部を有してよい。凸状部5は、代替的に、円錐状であってよい。
【0025】
代替的にまたは加えて、当該システム1はさらに、シャフト4がその部分でステム7に軸方向において支持される、ステム7における好ましくは凸形状の部分を含む。当該部分は少なくとも部分的に球形であり、少なくとも部分的に球形の支持端部を有してもよい。当該部分は、代替的に、円錐状であってよい。
【0026】
好ましくは、当該部分は支えシャフト4とステム7との間に配置された、ボール5である。ボール5に接する支えシャフト4の端部またはボール5に接するステム7の端部には、切欠き、または内円錐、が形成されてもよい。
【0027】
ボール5は、クロノグラフ車の軸Aと一致または実質的に一致する軸を有する穴10の中で案内される。穴10は、例えば、枠9の中に直接作成されるか、または枠9内に部分的に固定される。穴10の寸法は、ボール5が自由に回転し、かつ適切な動作間隙を有して穴10に沿って移動するよう、設定される。
【0028】
代替的に、穴は、例えばステムに向かう先端を有する第一円錐及びまたは支え軸に向かう先端を有する第二円錐を有する円筒を内側に支持してもよい。その場合、円筒がボール5を代替する。
【0029】
好ましくは、ねじ要素2は枠9に対して螺旋状にしっかりと連結される。これは、ねじ山の側面がねじ山の側面に対して摺擦されるか、またはねじ山の頂点がねじ山の根元に対して摺擦されることを意味する。このことにより、ねじ要素の回転に対抗することができ、ねじ要素が衝撃や振動の結果抜けてしまわないように保証する。
【0030】
以下に、調整方法を実行する方法について説明する。この方法は、上述の調整システムを使用する。
【0031】
第一のモデルは、ねじ要素が枠に対して螺合されていると仮定する。これによりばね3が軸Aの方向に、または実質的に当該方向に、圧縮され、シャフト4からボール5を介してステム7に及ぼされる力を増加させる。ばね3がねじ要素2と支えシャフト4との間に、より具体的にはねじ要素2の位置決め要素24と支えシャフト4の肩部41との間に、保持されることから、この力は支えシャフト4に伝達される。穴10の中に押し入れられ支えシャフト4と片側において接するボール5もまた、この力を受ける。ボール5が反対側においてステム7とも接することから、この力はステム7に伝達される。
【0032】
凸状部、例えばボール5、を利用して、ステム7に、ひいてはクロノグラフ車に対して、力を及ぼす有益性は、その点における摩擦トルクを制限することにあり、接触は軸A上にもたらされる。第一部材と第二部材との間の摩擦トルクの強度は、完全にまたはほぼ完全に、ステム7にシャフト4がかける力、及び枠に対してステム7を回転により案内する軸受8とステムとの間の接点の形状によって決定されることになる。従って、ばね3から伝わる力は、ステム7と第二軸受8との間に発揮される。より具体的には、力はステム7の肩部型の係止部7’と第二軸受8との間の摩擦面に集中する。
【0033】
その結果、第一部材と第二部材との間の、とりわけクロノグラフ車と枠9との間の、より具体的にはステム7の係止部7’と第二軸受8との間の、摩擦を調整する方法は、摩擦の強度を増加させるために、とりわけ第一部材から第二部材に対して発揮された摩擦トルクの強度を増加させるために、ねじ要素2を螺合する工程を含んでもよい。
【0034】
第一のモデルは、ねじ要素の枠における螺合が解除されていると仮定する。これによりばね3は軸Aの方向において、または実質的にこの方向において、緩み、シャフト4からボール5を介してステム7に発揮される力を減少させる。このことにより、第一部材から第二部材に発揮される摩擦トルクが減少する。結果として、第一部材と第二部材との間の、とりわけクロノグラフ車と枠9との間の、より具体的にはステム7の係止部7’と第二軸受8との間の、摩擦を調整する方法は、摩擦の強度を減少するため、とりわけ第一部材から第二部材に発揮された摩擦トルクの強度を減少させるため、ねじ要素2の螺合を解除する工程を含んでもよい。
【0035】
好ましくは、ねじ要素2は回転により駆動される刻印22を含み、刻印22は、図3に示すように、ブリッジ側から、例えばムーブメントの中央におけるブリッジ側から、アクセス可能である。この駆動用刻印22はどのような形状であってもよく、好ましくは対応する雄型を有するツール、とりわけスクリュードライバ、により容易に回転駆動されるような、雌型である。
【0036】
ねじ要素に形成された穴23は、ばね3の最大圧縮を規定する役割を有する。実際、ねじ要素が螺合されると、ねじ要素はシャフト4に対して軸に沿って移動する。結果として、ねじ要素の螺合に伴い、シャフト4は穴23に入り込む。シャフト4は穴に入り、刻印22からツールが外れるまで、挿入される。この状態において、ねじ要素はもはやツールを使って螺合されることはない。
【0037】
結果として、この調整方法は、ブリッジ側においてムーブメントの外側から、または文字盤側からムーブメントの部品を何一つ取り除くことなく及びまたはムーブメントがケース内に収まった状態で、実施可能である。
【0038】
摩擦調整システムは、クロノグラフの秒車の摩擦調整に適用されたものとして説明された。摩擦調整システムはまた、クロノグラフムーブメントのいずれのカウンタ車に適用されてもよい。摩擦調整システムはさらに、第一クロックワーク部品と第二クロックワーク部品との間の摩擦調整、例えば間接的な秒車、レトログラード表示、またはより広い意味で、摩擦トルクを加えることにより抑制され、精密な値があり好ましくは調整可能なすべての「遊び車」またはフリーホイールの摩擦調整に、適用可能である。
【0039】
説明された実施形態において、システムはばねを含む。代替的に、システムはばねを含まなくてよい。その場合、ねじ要素は、直接に、または支え軸及びまたはボールなどの剛性要素を介して間接的に、第一部材に力を発揮してよい。
【0040】
この調整システムにおいて、凸状の支え部材5は、ねじ要素と第一部材を含む、ねじ要素と第一部材との間のどの位置にあってもよい。特に、凸状の支え部材5は、ねじ要素と第一部材の間にある一連の部材が何であれ、ねじ要素と第一部材を含む、ねじ要素と第一部材の間のどの位置にあってもよい。
図1
図2
図3