(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】電離放射線によるポリカーボネートから製造される滅菌適性成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20230802BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230802BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20230802BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230802BHJP
A61M 60/00 20210101ALI20230802BHJP
A61M 5/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08L69/00
C08J7/00 CFD
C08J7/00 305
C08K5/36
C08L71/02
A61M60/00
A61M5/00
(21)【出願番号】P 2020556848
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2019059568
(87)【国際公開番号】W WO2019201816
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-08
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】516284183
【氏名又は名称】コベストロ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デルク、エーリヒ、バンドナー
(72)【発明者】
【氏名】ピエール、ムリニエ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、フーフェン
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-248170(JP,A)
【文献】特表2014-528007(JP,A)
【文献】特開2016-113532(JP,A)
【文献】特表2003-501535(JP,A)
【文献】特開平02-115260(JP,A)
【文献】特開2017-128697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08J 7/00
C08K 5/36
C08L 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性組成物であって、
A)芳香族ポリカーボネートと、
B)0.1~5重量%の1種以上のポリエーテルポリオールと、
C)0.01~0.30重量%の3,3’-チオジプロピオン酸と、
を含んでなる、熱可塑性組成物。
【請求項2】
0.05~0.30重量%の3,3’-チオジプロピオン酸を含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリカーボネートが、ビスフェノールA系ポリカーボネートを含む、請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
ビスフェノールA系ポリカーボネート以外の他のポリカーボネートを含まない、請求項3に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルポリオールの量が、0.1~2重量%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
3,3’-チオジプロピオン酸の量が、0.05~0.25重量%である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
少なくとも95重量%の芳香族ポリカーボネートを含んでなる、請求項1~
6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
A)69.85重量%~98.5重量%の芳香族ポリカーボネートと、
B)0.1重量%~2重量%のポリエーテルポリオールと、
C)0.05重量%~0.25重量%の3,3’-チオジプロピオン酸と、
D)必要に応じて、難燃剤、滴下防止剤、耐衝撃性改良剤、フィラー、帯電防止剤、着色料、顔料、成分BおよびCと異なる熱安定剤、潤滑剤、脱型剤、UV吸収剤、IR吸収剤、加水分解安定剤ならびに/または相溶化剤からなる群から選択される30重量%以下の1種以上の更なる添加剤と、
からなる、請求項1~
6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
前記ポリエーテルポリオールが、スターター分子としてプロピレングリコールを用いてプロピレンオキシド単位を繰り返すことから製造され、DIN53240-3:2016-03に従って決定される50~70mg KOH/gの範囲内のOH価を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記ポリエーテルポリオールが、エンドキャップされている、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
成形品の滅菌のための方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物からなる領域からなる、または該領域を含んでなる成形品を、少なくとも20kGyの線量でβ線および/またはγ線に暴露する、方法。
【請求項12】
酸素雰囲気下または低酸素雰囲気下で前記放射線照射を行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記成形品を、放射線照射中に密閉された
パウチ内に収容する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる、医療技術製品または医療技術製品のパーツ。
【請求項15】
前記パーツが、透析器のパーツ、人工肺のパーツ、チューブコネクター、種々のコネクター、血液ポンプ用エレメント、点滴バルブコネクター、注射器、静脈内アクセスコンポーネント、手術器具、または二方弁もしくは切換弁である、請求項14に記載の医療技術製品のパーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネートおよび1種以上のポリエーテルポリオールを含んでなり、加えて新規安定剤を含んでなる組成物に関する。本発明は、本発明による組成物を含んでなる医療技術製品または医療技術製品のパーツ、ならびにそれぞれの組成物から製造される成形品の滅菌方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術製品、例えば、透析器のパーツは、これらを使用するために滅菌しなければならない。これは、複数回使用する、いわゆるMUD(マルチユース医療機器)を目的とするパーツの場合だけでなく、重症または致命的感染すら引き起こし得る微生物は、広範に分布し、空気を介してさえ運ばれるので、単回使用、SUD(シングルユース医療機器)用パーツの場合もある。
【0003】
容易に使用できる医療用途を目的とする物品は、滅菌製品として通常配達されるが、滅菌性を維持するために消費者へ包装配達される前に滅菌処理を行わなければならないことを意味する。それぞれのパッケージングを使用する1点を開封することができ、医療技術機器を使用することができる。現場での、例えば、同じ病院内での未包装物品の滅菌は、最終的に使用するまでに汚染の危険性を含んでいるので、多くの製品にとって適切ではない。
【0004】
単回使用および複数回使用を目的とした物品は、これらを最初に適用する前に滅菌する必要がある。これは、特に、β線またはγ線による電離放射線によって通常行われ、非常に効果的であり、追加の工程、例えば、滅菌液を用いた滅菌処理の場合の乾燥工程を必要としない。放射線照射を用いた滅菌は、密閉されたパッケージング中の医療技術製品の滅菌を可能とし、それにより、あり得る最も高い滅菌性を保証する。物品は、それらを使用する直前にパッケージングを開封するまで無菌のままである。通常、少なくとも200kGy以下のさらに高い線量は可能であるが、25~100kGyの放射線量を使用する。いくつかの物品を同時に滅菌することができる。
【0005】
医療技術製品のための1つの適切な材料は、ポリカーボネート材である。これから製造された製品は、比較的安価であり、射出成形または押出成形によって容易に製造可能であり、所与のマニホールド成形することができる。ポリカーボネート材は、透明、半透明および不透明のものがある。この材料は、高破断強さおよび高剛度、高加熱撓み温度ならびに優れた寸法安定性を有し、これら全ては、多くの医療技術用途の材料に充分な適性をもたらす。
【0006】
芳香族ポリカーボネートをベースとする組成物から製造された物品を放射線照射する場合、ポリカーボネート材の黄変が起こり、黄変は、放射線量を増加すると共に強くなり、これは分解反応および転位反応のせいである。既に、通常の放射線量についても、材料の著しい黄変は起こる。
【0007】
無酸素下での放射線滅菌処理を行うことに対する高い需要もあり、透析器(のパーツ)などのコンポーネントに対してとりわけ言える。
【0008】
放射線照射直後の黄変は、サンプルの緩和と共に部分的に弱まる。市場にとって、残存色を可能な限り低くすることは興味深い。
【0009】
黄変を可能な限り低く維持するために、ポリカーボネート材へ安定剤を通常添加する。1つの安定剤として、例えば、欧州特許出願公開第0376289(A2)号に記載されているものなどのポリプロピレングリコールは、電離放射線に対する充分な安定性をもたらさず、通常、最良の性能を達成するために安定剤を組み合わせて使用する。ポリエーテルポリオールの形態の安定剤が使用され、例えば、Lanxess AGのMultranol(登録商標)3600 DHP、Covestro Deutschland AGのDesmophen(登録商標)3600Z、the Dow Chemical Companyのポリプロピレングリコール Synalox 100 D95、硫黄含有添加剤を使用することも多く、例えば、欧州特許出願公開第0611797(A1)号に記載されているジスルフィドである。しかしながら、更により効果的な安定剤の組合せに対するニーズがある。他の組合せ、例えば、韓国特許出願公開第20150059666号に記載されているアミド系安定剤と共にペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)などのチオエーテル安定剤は、放射線照射後のY.I.値の過度な増加をもたらすので、更なる最適化は今なお必要である。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明の目的は、放射線照射により滅菌することができるポリカーボネート材の安定化のためのさらにより効果的な安定剤の組合せを提供することであった。更に、得られた組成物は、優れた加工性を示すべきである。
【0011】
驚くべきことに、3,3’-チオジプロピオン酸は、酸素雰囲気下および酸素フリー雰囲気までの低酸素雰囲気下、ポリカーボネートをベースとする組成物に対する安定剤としてポリエーテルポリオールとの組合せにおいて適切な安定剤であることが分かった。現在の市場価格によれば、3,3’-チオジプロピオン酸は、他の既知の安定剤よりずっと安価である。
【0012】
したがって、本発明の主題は、
A)芳香族ポリカーボネートと、
B)0.1~5重量%の1種以上のポリエーテルポリオールと
C)0.01~0.30重量%の3,3’-チオジプロピオン酸と、
を含んでなる熱可塑性組成物である。
【0013】
特に指定されない限り、本発明との関連で重量表示は全て組成物全体に対するものである。
【0014】
本発明の目的は、成形品の滅菌方法であって、前述のクレームのいずれか一項に記載の熱可塑性組成物からなる領域からなる、または該領域を含んでなる成形品を、少なくとも20kGy(キログレイ)の線量でβ線および/またはγ線に暴露する、方法によっても達成される。
【0015】
好ましくは本発明による熱可塑性組成物は、
A)50~98.5重量%の芳香族ポリカーボネートと、
B)0.1~2重量%のポリエーテルポリオールと、
C)0.05~0.25重量%の3,3’-チオジプロピオン酸と、
D)更に添加剤と、
を含んでなるものである。
【0016】
より好ましい熱可塑性組成物は、
A)69.85重量%~98.5重量%の芳香族ポリカーボネートと、
B)0.1~2重量%のポリエーテルポリオールと、
C)0.05重量%~0.25重量%の3,3’-チオジプロピオン酸と、
D)必要に応じて、難燃剤、滴下防止剤、耐衝撃性改良剤、フィラー、帯電防止剤、着色料、顔料、成分BおよびCと異なる熱安定剤、潤滑剤、脱型剤、UV吸収剤、IR吸収剤、加水分解安定剤ならびに/または相溶化剤からなる群から選択される30重量%以下の1種以上の更なる添加剤と、
からなる。
【0017】
特に好ましい組成物は、
A)93.0重量%~97.5重量%の芳香族ポリカーボネートと、
B)0.5~1重量%のポリエーテルポリオールと、
C)0.05重量%~0.25重量%の3,3’-チオジプロピオン酸と、
D)必要に応じて、難燃剤、滴下防止剤、耐衝撃性改良剤、フィラー、帯電防止剤、着色料、顔料、成分BおよびCと異なる熱安定剤、潤滑剤、脱型剤、UV吸収剤、IR吸収剤、加水分解安定剤ならびに/または相溶化剤からなる群から選択される6重量%以下の1種以上の更なる添加剤と、
からなる。
【発明の具体的説明】
【0018】
成分A
本発明によれば、「熱可塑性、芳香族ポリカーボネート」あるいは単に「ポリカーボネート」は、該ポリカーボネートがよく知られた様に直鎖であっても分岐鎖であってもよいポリエステルカーボネートを含む芳香族ホモポリカーボネートおよびコポリカーボネートの両方を包含すると理解されるものとする。混合物を使用することもできる。
【0019】
本発明により使用されるポリカーボネートにより使用されるポリカーボネート中のカーボネート基の80モル%以下、好ましくは20モル%~50モル%の部分を、芳香族ジカルボン酸エステル基に置き換えてもよい。分子鎖中の炭酸由来の酸ラジカルおよび芳香族ジカルボン酸由来の酸ラジカルの両方を組み込まれたこの種のポリカーボネートは、芳香族ポリエステルカーボネートと呼ばれる。本発明との関連で、これらは、熱可塑性芳香族ポリカーボネートという包括的用語に包括される。
【0020】
芳香族ジカルボン酸エステル基による炭酸基の置換は本質的に化学量論的および定量的に起こる結果、反応相手とのモル比は、最終的なポリエステルカーボネートにおいても見ることができる。ジカルボン酸エステル基の組込みは統計的ならびにブロック状であり得る。
【0021】
芳香族ポリエステルカーボネートを含む熱可塑性ポリカーボネートは、希釈剤としてCH2Cl2を使用してゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された、10,000g/モル~35,000g/モル、好ましくは12,000g/モル~32,000g/モル、より好ましくは15,000g/モル~32,000g/モル、特に20,000g/モル~31,500g/モルの重量平均分子量Mwを有する。既知の分子量分布の直鎖ポリカーボネート(ビスフェノールAおよびホスゲンから製造)を使用した校正、PSS Polymer Standards Service GmbH(独国)の標準品、Currenta GmbH & Co.OHG(レバークーゼン)の方法2301-0257502-09D(独語、2009年から)に従って校正。希釈剤 塩化メチレン。架橋スチレンジビニルベンゼン樹脂のカラム組合せ。分析カラムの径:7.5mm;長さ:300mm。カラム材の粒径:3μm~20μm。溶液濃度:0.2重量%。流速:1.0ml/分、溶液温度:30℃。屈折率(RI)検出器による検出。
【0022】
ポリカーボネート製造に関連する詳細は、約40年間にわたる多くの特許文献に開示されている。Schnell, "Chemistry and Physics of Polycarbonates", Polymer Reviews, Volume 9, Interscience Publishers, New York, London, Sydney 1964, to D. Freitag, U. Grigo, P.R Muller, H. Nouvertne, BAYER AG, "Polycarbonates" in Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, Volume 11, Second Edition, 1988, pages 648-718 and finally to U. Grigo, K. Kirchner and P.R. Muller "Polycarbonate" [Polycarbonates] in Becker/Braun, Kunststoff-Handbuch [Plastics Handbook], volume 3/1, Polycarbonate, Polyacetale, Polyester, Celluloseester [Polycarbonates, Polyacetals, Polyesters, Cellulose Esters], Carl Hanser Verlag Munich, Vienna 1992, pages 117-299参照。
【0023】
ポリエステルカーボネートを含む、本発明により使用されるポリカーボネートの製造の好ましい方法は、界面法および溶融エステル交換法である(例えば、国際公開第2004/063249(A1)号、国際公開第2001/05866(A1)号、国際公開第2000/105867号、米国特許第5,340,905号、米国特許第5,097,002号、米国特許第5,717,057号参照)。
【0024】
芳香族ポリカーボネートは、例えば、ジヒドロキシアリールと、ハロゲン化カルボニル、好ましくはホスゲン、および/またはジカルボニルジハライド、好ましくはベンゼンジカルボニルジハライドとの反応によって、必要に応じて連鎖停止剤を使用した、および必要に応じて三官能性もしくはそれ以上の分岐化剤を使用した界面法によって製造し、ポリエステルカーボネート製造のためには、炭酸誘導体の一部を芳香族ジカルボン酸もしくはジカルボン酸誘導体によって、すなわち、芳香族ポリカーボネートのカーボネート構造単位に応じてジカルボン酸エステル構造単位によって置換する。ジヒドロキシアリール化合物を、例えば、ジフェニルカーボネートと反応させることによる溶融重合法による製造も同様に可能である。
【0025】
ポリカーボネート製造に適したジヒドロキシアリール化合物は、式(1)のものである:
HO-Z-OH (1)、
〔式中、
Zは、6~30個の炭素原子を有する芳香族ラジカルであり、1つ以上の芳香環を含んでいてよく、置換されていてもよく、脂肪族もしくは脂環式ラジカルまたは架橋要素としてアルキルアリールもしくはヘテロ原子を含んでもよい〕。
【0026】
好ましくは、式(1)中のZは、式(2)のラジカルである:
【化1】
〔式中、
R
6およびR
7は、互いに独立して、H、C
1~C
18アルキル、C
1~C
18アルコキシ、ClもしくはBrなどのハロゲン、またはいずれの場合も置換されていてもよいアリールもしくはアラルキルであり、好ましくはHもしくはC
1~C
12アルキル、より好ましくはHもしくはC
1~C
8アルキル、最も好ましくはHもしくはメチルであり、
Xは、一重結合、-SO
2-、-CO-、-O-、-S-、C
1~C
6アルキレン、C
2~C
5アルキリデンまたはC
1~C
6アルキルにより置換されていてもよいC
5~C
6シクロアルキリデンであり、好ましくはメチルもしくはエチルであり、あるいはヘテロ原子を含む更なる芳香環と縮合していてもよいC
6~C
12アリーレンである〕。
【0027】
好ましくは、Xは、一重結合、C
1~C
5アルキレン、C
2~C
5アルキリデン、C
5~C
6シクロアルキリデン、-O-、-SO-、-CO-、-S-、-SO
2-であり、
または式(2a)のラジカルである:
【化2】
【0028】
本発明により使用するためのポリカーボネート製造に適したジヒドロキシアリール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類、α,α'-ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン類、ならびにこれらのアルキル化、環アルキル化および環ハロゲン化化合物が挙げられる。
【0029】
好ましいジヒドロキシアリール化合物は、4,4'-ジヒドロキシジフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、ジメチル-ビスフェノールA、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼンおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンならびにビスフェノール類(I)~(III)である:
【化3】
〔式中、いずれの場合も、R’は、C
1~C
4アルキル、アラルキルまたはアリールであり、好ましくはメチルまたはフェニルであり、最も好ましくはメチルである〕。
【0030】
特に好ましいジヒドロキシアリール化合物は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)およびジメチル-ビスフェノールAならびに式(I)、(II)および(III)のジヒドロキシアリール化合物である。
【0031】
これらおよび更なる適切なジヒドロキシアリール化合物は、例えば、米国特許第2,999,835号、米国特許第3,148,172号、米国特許第2,991,273号、米国特許第3,271,367号、米国特許第4,982,014号および米国特許第2,999,846号、独国特許出願公開第1570703号、独国特許出願公開第2063050号、独国特許出願公開第2036052号、独国特許出願公開第2211956号および独国特許出願公開第3832396号、仏国特許出願公開第1561518号、論文"H. Schnell, Chemistry and Physics of Polycarbonates, Interscience Publishers, New York 1964, p. 28 ff.; p.102 ff."、および "D.G. Legrand, J.T. Bendler, Handbook of Polycarbonate Science and Technology, Marcel Dekker New York 2000, p. 72ff"に記載されている。
【0032】
ホモポリカーボネートの場合では、1種だけのジヒドロキシアリール化合物を使用し、コポリカーボネートの場合では、2種以上のジヒドロキシアリール化合物を使用する。合成に添加される全ての他の化学薬品および助剤と同様に使用されるジヒドロキシアリール化合物-ならびに本発明による組成物の成分-は、これら自体の合成、取り扱いおよび貯蔵からの混入物で汚染され得る。しかしながら、できる限り最も高純度の原料を使用することが望ましい。
【0033】
適切な炭酸誘導体としては、例えば、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートが挙げられる。
【0034】
ポリカーボネート製造において使用してよい適切な連鎖停止剤は、モノフェノール類である。適切なモノフェノールは、例えば、フェノールそれ自体、クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、クミルフェノールおよびその混合物などのアルキルフェノール類である。
【0035】
好ましい連鎖停止剤は、直鎖または分岐鎖C1~C30アルキルラジカルにより一置換または多置換されたフェノール類、好ましくは非置換またはtert-ブチルにより置換されたフェノール類である。特に好ましい連鎖停止剤は、フェノール、クミルフェノールおよび/またはp-tert-ブチルフェノールである。
【0036】
使用される連鎖停止剤の量は、好ましくは、いずれの場合も使用されたジヒドロキシアリール化合物のモル数に対して0.1~5モル%である。連鎖停止剤を、炭酸誘導体との反応前、反応中または反応後に添加することができる。
【0037】
適切な分岐剤は、ポリカーボネート化学において知られている三官能性以上の化合物、特に、3個以上のフェノール性OH基を有するものである。
【0038】
適切な分岐剤としては、例えば、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5'-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4-(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ)メタンおよび1,4-ビス((4',4"-ジヒドロキシトリフェニル)メチル)ベンゼンおよび3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドールが挙げられる。
【0039】
使用されるいずれもの連鎖停止剤の量は、いずれの場合も使用されたジヒドロキシアリール化合物のモル数に対して、0.05モル%~2モル%である。
【0040】
分岐剤を、ジヒドロキシアリール化合物およびアルカリ水相中またはホスゲン化前に有機溶媒中添加溶解された連鎖停止剤と共に最初に投入することができる。エステル交換法の場合、分岐剤を、ジヒドロキシアリール化合物と共に使用する。
【0041】
特に好ましいポリカーボネートは、ビスフェノールAをベースとしたホモポリカーボネート、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンをベースとしたホモポリカーボネート、ならびに2つのモノマービスフェノールAおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンをベースとしたコポリカーボネート、さらに式(I)~(III)のジヒドロキシアリール化合物から誘導されるホモポリカーボネートもしくは、好ましくはコモノマーとしてビスフェノールAとのコポリカーボネートである:
【化4】
〔式中、いずれの場合も、R’は、C
1~C
4アルキル、アラルキルまたはアリールであり、好ましくはメチルまたはフェニルであり、最も好ましくはメチルである〕。
【0042】
添加剤の混合を促進するため、成分Aを、好ましくは、粉末、ペレットの形態または粉末とペレットの混合物の形態で使用する。
【0043】
ポリカーボネートは、好ましくは、試験温度300℃および1.2kgの負荷で試験し、ISO1133:2012-03に従って決定して、5~20cm3/(10分)、より好ましくは5.5~12cm3/(10分)、さらにより好ましくは6~10cm3/(10分)のMVRを有する。
【0044】
異なるポリカーボネートの混合物を、ポリカーボネートとして使用することができ、例えば、ポリカーボネートA1およびA2の混合物であり、A2は粉末状のポリカーボネートである。ポリカーボネートの好ましい特性は、それぞれの混合物を参照する。
【0045】
本発明による組成物は、好ましくは50~98.5重量%、より好ましくは69.85~98.0重量%、さらにより好ましくは85~97.5重量%、特に好ましくは90.0~97.5重量%、特に93.0~97.5重量%の芳香族ポリカーボネートを含む。
【0046】
成分B
成分Bは、ポリエーテルポリオールの形態の安定剤である。
【0047】
ポリエーテルポリオールは、通常、酸化エチレン(EO)、酸化プロピレン(PO)、酸化ブチレン、酸化スチレンまたはエピクロロヒドリンなどのエポキシドを、それ自体と、または必要に応じて、混合物中、もしくは順次、水、アルコール、アンモニアもしくはアミンなどの反応性水素原子を有する開始成分へこのようなエポキシドを添加することによって重合した生成物である。かかる「スターター分子」は、通常、1~6の官能価を有する。プロセス制御に応じて、かかるポリエーテルポリオールは、ホモ重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、キャップポリマーまたは異なるエポキシドの混合物と付加された重合体であってよい。かかるポリエーテルポリオールを特定するため、様々な特徴は、従来技術において確立されている:
i)ポリエーテルポリオールの合成を開始するスターター分子に依存する、ヒドロキシル官能価;
ii)DIN53240-3:2016-03に従って決定されたKOHのmg/gで表される水酸基含有率の測定値である、水酸基価またはOH価
iii)開環により異なる(すなわち、第一級または第二級)水酸基を生成するエポキシドをしようする場合、一方では、ポリエーテルポリオール中のそれぞれのエポキシドの割合を表し、他方では、ポリエーテルポリオール中に存在する水酸基の総数に対する第一級または第二級水酸基の割合を表す。
iv)ポリエーテルポリオールのポリオキシアルキレン鎖の長さの測定値である、分子量(MnまたはMw)。
【0048】
ポリエーテルポリオールは、好ましくは100~6200g/モル、より好ましくは1500~4000g/モル、さらにより好ましくは1800~3000g/モルの数平均分子量Mnを有する。Mnは、次式:Mn=56100*F/OHNにより算出される。OH価(OHN)を、DIN53240-3:2016-03に従って末端水酸基滴定により決定する。KOHのmg/gで表されるOHNを上記の式に挿入する。Fは官能価であり、本発明との関連で末端水酸基に関連する。たとえあったにしても、酸末端基は考慮に入れない。Fは、母集団における分子数で割った末端水酸基価として定義され、Fは化合物分子の末端水酸基価の平均であることを意味する。Fは、通常、ポリオール製造のための配合から分かるが、代わりに、1H NMRによって決定してもよい。
【0049】
ポリエーテルポリオールを、例えば、35~100重量%のプロピレンオキシド単位、特に好ましくは50~100重量%のプロピレンオキシド単位の割合を有する、エチレンオキシド単位およびプロピレンオキシド単位の繰り返しから生成することができる。共重合体は、酸化エチレンおよび酸化プロピレンから生成された統計的共重合体、グラジエント共重合、交互共重合体またはブロック共重合体であり得る。好ましくは、ポリエーテルポリオールは、直鎖重合体である。
【0050】
しかしながら、好ましいポリエーテルポリオールは、スターター分子として1,2-ジオール、より好ましくはスターター分子としてプロピレングリコールを用いてプロピレンオキシド単位の繰り返しからのみ生成されたものである。ポリエーテルポリオールは、エンドキャップされていてもよく、エンドキャップされていなくてもよい。好ましくは、ポリエーテルポリオールは、エンドキャップされている。エンドキャップするための好ましい試薬は、ジヒドロピラン(3,4-ジヒドロ-2H-ピラン)である。
【0051】
プロピレンオキシド単位および/またはエチレンオキシド単位の繰り返しから生成された適切なポリエーテルポリオールは、例えば、Covestro AGのDesmophen(登録商標)、Acclaim(登録商標)、Arcol(登録商標)、Baycoll(登録商標)、Bayfill(登録商標)、Bayflex(登録商標) Baygal(登録商標)、PET(登録商標)ポリエーテルポリオール(例えば、Desmophen(登録商標) 3600Z、Desmophen(登録商標) 1900U、Acclaim(登録商標) Polyol 2200、Acclaim(登録商標) Polyol 4000I、Arcol(登録商標) Polyol 1004、Arcol(登録商標) Polyol 1010、Arcol(登録商標) Polyol 1030、Arcol(登録商標) Polyol 1070、Baycoll(登録商標) BD 1110、Bayfill(登録商標) VPPU 0789、Baygal(登録商標) K55、PET(登録商標) 1004、Polyether(登録商標) S180)である。更なる適切なホモポリエチレンオキシドは、例えば、BASF SEのPluriol(登録商標)Eレンジである。適切なホモプロピレンオキシドは、例えば、BASF SEのPluriol(登録商標)PレンジまたはLanxess AGのMultranol(登録商標)タイプ、Dow Chemical CompanyのSynaloxレンジおよびShell ChemicalsのCaradolレンジである。エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドから生成された適切な混合共重合体は、例えば、BASF SEのPluronic(登録商標)PEまたはPluriol(登録商標)RPEレンジである。
【0052】
特に好ましいポリエーテルポリオールは、スターター分子としてプロピレングリコールを用いたプロピレンオキシド単位の繰り返しから生成されたものであり、OH価は、DIN53240-3:2016-03に従って決定された50~70mg KOH/gの範囲内であり、2のヒドロキシル官能価を有し、第一級水酸基の割合は第一級および第二級水酸基の総数に対して0~3%の範囲内であり、少なくとも95重量%のプロピレンオキシド含有率および3重量%以下のエチレンオキシド含有率を有し、非常に特に好ましくはエチレンオキシド単位を有しないがプロピレンオキシド単位のみを有するものである。
【0053】
本発明による組成物は、0.1~5重量%、好ましくは0.1~2重量%、より好ましくは0.5~1重量%、特に0.5~1.0重量%の量でポリエーテルポリオールを含んでなり、全ての量は組成物全体に対してである。
【0054】
成分C
本発明による組成物の成分Cは、3,3’-チオジプロピオン酸である。本発明によれば、3,3’-チオジプロピオン酸を、組成物全体に対して、0.01~0.30重量%、好ましくは0.05~0.25重量%、より好ましくは0.1~0.25重量%の量で添加する。3,3’-チオジプロピオン酸の純度は、好ましくは、≧99重量%である。
【0055】
1つの実施形態では、本発明による組成物は、アミノ基を有する物質を含まない。別の実施形態では、本発明による組成物は、チオジカルボン酸のエステル、特に、3,3’-チオジプロピオン酸のエステルを含まない。別の実施形態では、本発明による組成物は、アミノ基を有する物質も、チオジカルボン酸のエステル、特に、3,3’-チオジプロピオン酸のエステルもどちらも含まない。
【0056】
成分D
本発明による組成物は、他の従来の添加剤(「更なる添加剤」)を含んでもよい。この群としては、難燃剤、滴下防止剤、耐衝撃性改良剤、フィラー、帯電防止剤、着色料、顔料、成分BおよびCと異なる熱安定剤、潤滑剤、脱型剤、UV吸収剤、IR吸収剤、加水分解安定剤ならびに/または相溶化剤が挙げられる。
【0057】
ポリカーボネートの場合に通常添加されるような添加剤は、例えば、欧州特許出願公開第0839623(A1)号、国際公開第96/15102(A2)号および欧州特許出願公開第0500496(A1)号または"Plastics Additives Handbook", Hans Zweifel, 5th Edition 2000, Hanser Verlag, Munichに記載されている。
【0058】
成分Cとして述べられているように、更なる添加剤の群は、3,3’-チオジプロピオン酸を含まない。更に、成分Dとして述べられているように、成分Dの群は、ポリエーテルポリオールを含まない。
【0059】
更なる添加剤量は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更により好ましくは6重量%以下、特に好ましくは0.01~3重量%、特に1重量%であり、全ての値は組成物全体に対してであり、全体では上記値を含む。
【0060】
好ましい脱型剤は、ペンタエリスリチルテトラステアレート(PETS)もしくはグリセリンモノステアレート(GMS)、これらのカルボネートおよび/またはこれらの脱型剤の混合物である。
【0061】
好ましくは、0.1重量%、より好ましくは0.0001重量%~0.001重量%、更により好ましくは0.0004重量%~0.001重量%の1種以上の着色料を添加剤として含有させる。量「0.001重量%までの1種以上の着色料」は、全体の中に0.001重量%(インクルーシブ)以下の着色料が含まれることを意味する。2つ以上の着色料の混合物である場合、着色料の混合物の上限は、0.001重量%である。あるとすれば、放射線照射後の最小限の残りの変色さえ補償することを目的とする場合、着色料を使用して視覚的印象を改善してもよい。しかしながら、着色料を使用しないで組成物を使用することも。さらにより多くの着色料を使用することもできる。
【0062】
成分Dによる本発明の意味での着色料または顔料は、例えば、カドミウムレッドもしくはカドミウムイエローなどの硫黄含有顔料、プルシアンブルーなどのシアン化鉄系顔料、二酸化チタン、酸化亜鉛、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロム、チタニウムイエロー、亜鉛/鉄系ブラウン、チタン/コバルト系グリーン、コバルトグリーン、銅/クロム系ブラックおよび銅/鉄系ブラックなどのオキシド顔料またはクロムイエローなどのクロム系顔料、銅フタロシアニンブルーもしくは銅フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系染料、アゾ系(例えば、ニッケルアゾイエロー)などの縮合多環式染料および顔料、硫黄インディゴ染料、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系およびキノフタロン系誘導体、アントラキノン系複素環系である。
【0063】
着色料の特定例は、市販製品MACROLEX(登録商標)Blue RR、MACROLEX(登録商標)Violet 3R、MACROLEX(登録商標)EG、MACROLEX(登録商標)Violet B(Lanxess AG、独国)、Sumiplast(登録商標)Violet RR、Sumiplast(登録商標)Violet B、Sumiplast(登録商標)Blue OR(住友化学株式会社)、Diaresin(登録商標)Violet D、Diaresin(登録商標)Blue G、Diaresin(登録商標)Blue N(三菱化学株式会社)、Heliogen(登録商標)Blue or Heliogen(登録商標)Green(BASF AG、独国)である。更なる適切な着色料は、例えば、Amaplast Yellow GHS(CAS番号13676-91-0;Solvent Yellow 163;C.I.58840);Keyplast Blue KR(CAS 116-75-6;Solvent Blue 104;C.I.61568),Heliogen Blueタイプ(例えば、Heliogen Blue K 6911;CAS番号147-14-8;Pigment Blue 15:1;C.I.74160)ならびにHeliogen Greenタイプ(as例えば、Heliogen Green K 8730;CAS番号1328-53-6;Pigment Green 7;C.I.74260)である。
【0064】
シアニン誘導体、キノロン誘導体、アントラキノン誘導体、フタロシアニン誘導体は、特に好ましい。
【0065】
適切な顔料は、二酸化チタン、タルク、ウォラストナイトおよび/または雲母である。カーボンブラックを使用する場合、好ましくは量を非常に少なく、すなわち、<0.1重量%以下にしてカーボンブラックによる着色の影響を避けるが、カーボンブラックでさえ適切な顔料となり得る。
【0066】
本発明による特に好ましい実施形態では、青色および/または紫色着色料を含む組成物を使用する。これは、放射線照射によるダメージの結果起こる視覚的な黄色の印象を部分的に補償する。本発明による安定剤と併用して、最も着色の少ないすぐ使用できる品物が得られる。
【0067】
必要に応じて、組成物は、UV吸収剤を含んでなる。好ましいUV吸収剤は、400nm未満に可能な限り低い透過率を有し、400nm以上で可能な限り高い透過率を有するものである。このようなUV吸収剤は公知であり、例えば、欧州特許出願公開第0839623(A1)号、国際公開第1996/15102(A2)号および欧州特許出願公開第0500496(A1)号に記載されている。本発明による組成物用途に得し適した紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類および/またはアリール化シアノアクリレートである。
【0068】
特に適切な紫外線吸収剤は、2-(3',5'-ビス(1,1-ジメチルベンジル)-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)234、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)、2-(2'-ヒドロキシ-5'-(tert-オクチル)フェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)329、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)、ビス(3-(2H-ベンゾトリアゾリル)-2-ヒドロキシ-5-tert-オクチル)メタン(Tinuvin(登録商標)360、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)フェノール(Tinuvin(登録商標)1577、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)などのヒドロキシベンゾトリアゾール、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(Chimasorb(登録商標)22、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)および2-ヒドロキシ-4-(オクチルオキシ)ベンゾフェノン(Chimassorb(登録商標)81、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)、2,2-ビス[[(2-シアノ-1-オキソ-3,3-ジフェニル-2-プロペニル)オキシ]メチル]-1,3-プロパンジイルエステル(9CI)(Uvinul(登録商標)3030、BASF AG、独国ルートヴィヒスハーフェン)、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-エチルヘキシル)オキシ]フェニル-4,6-ジ(4-フェニル)フェニル-1,3,5-トリアジン(Tinuvin(登録商標)1600、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)、2,2'-(1,4-フェニレンジメチリデン)ビスマロン酸テトラエチル(Hostavin(登録商標)B-Cap、Clariant AG)またはN-(2-エトキシフェニル)-N’-(2-エチルフェニル)エタンジアミド(Tinuvin(登録商標)312、CAS番号23949-66-8、BASF、独国ルートヴィヒスハーフェン)などのベンゾフェノン類である。
【0069】
特に好ましい特定のUV吸収剤は、Tinuvin(登録商標)360、Tinuvin(登録商標)329および/またはTinuvin(登録商標)312、非常に特に好ましいのは、Tinuvin(登録商標)329およびTinuvin(登録商標)312である。
【0070】
これらの紫外線吸収剤の混合物を使用することも可能である。
【0071】
適切なIR吸収剤は、例えば、欧州特許出願公開第1559743(A1)号、欧州特許出願公開第1865027(A1)号、独国特許出願公開第10022037(A1)号および独国特許出願公開第10006208(A1)号に記載されている。文献中に記載されているものの中で、臭化物系および/またはタングステン酸系IR吸収剤、特に、タングステン酸セシウムまたは亜鉛ドープタングステン酸セシウム、ならびにITO系またはATO系IR吸収剤ならびにこれらの組合せは特に好ましい。
【0072】
適切な耐衝撃性改良剤は、コア・シェル型耐衝撃性改良剤であり、例えば、ABS、MBS、アクリル系、シリコーン-アクリル系耐衝撃性改良剤、ならびに非コア・シェル型耐衝撃性改良剤である。
【0073】
本発明によるポリカーボネート組成物は、通常の量で有機フィラーおよび/または無機フィラーを含んでよい。
【0074】
適切なフィラーは、例えば、チョーク、石英粉末、二酸化チタン、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、例えば、タルク、ウォラストナイト、モンモリロナイト、さらに、イオン交換により変性し、カオリン、ゼオライト、バーミキュライト、酸化アルミニウムおよび/またはシリカである。これらの混合物またはこれらおよび他のフィラーも使用することができる。
【0075】
ポリテトラフルオロエチレンを、好ましい滴下防止剤として使用する。
【0076】
他の硫黄含有安定剤を、3,3’-チオジプロピオン酸に加えて使用することができ、例えば、ジステアリルジスルフィド(Clariant AGのHostanox SE10)、ペンタエリスリチル-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)(Songwon International AGのSOGNOX(登録商標)4120)および/またはビス(フェニルスルホニル)メタンである。
【0077】
成分A~Cおよび必要に応じてDを含んでなる本発明によるポリマー組成物を、配合、混合および個々の成分の均質化による標準的混合方法、特に均質化、好ましくはせん断力の作用下溶融物中で行う方法によって製造する。適切な場合、溶融均質化前の配合および混合を、粉末状プレミックスを使用して行う。
【0078】
使用される全成分について、できる限り最も高純度化合物を使用することが望ましい。
【0079】
顆粒物または顆粒物と粉末のプレミックスを成分BおよびCならびに必要に応じてDと共に使用することもできる。
【0080】
適切な溶媒中の混合物成分の溶液から製造されたプレミックスを使用することもでき、この場合、均質化を溶液中で必要に応じて行ってから溶媒を除去する。
【0081】
公知の方法により、またはマスターバッチとしてポリカーボネート中へ本発明による組成物の成分BおよびCならびに必要に応じてDを導入することができる。マスターバッチの使用は成分Dの混合に特に好ましく、ポリカーボネートをベースとするマスターバッチを使用する。
【0082】
これとの関連で、本発明による組成物を配合、混合、均質化し、次いで、スクリュー押出機(例えば、TSE二軸スクリュー押出機)、混練機またはブラベンダーもしくはバンベリー製粉機などの通例の装置で押し出すことができる。押出物を押出後に冷却して粉砕することができる。個々の成分をプレミックスしてから個別におよび/または同様に混合物で残りの出発物質を添加することもできる。
【0083】
射出成形機の可塑化ユニットにおいて溶融物にプレミックスを配合および混合することもできる。この場合、その後の工程において、溶融物を成形体へ直接加工する。
【0084】
本発明による組成物から成形品の製造は、射出成形、押出または高速ヒートサイクル成形によって行う。
【0085】
好ましくは、本発明による組成物を、射出成形品または押出物の製造に使用する。射出成形品または押出物は、本発明の「成形品」として理解される。
【0086】
本発明による成形品は、好ましくは医療技術製品または医療技術製品のパーツであり、本発明による組成物を含んでなる、またはこれからなる。本発明により設計された医療技術製品のパーツは、特に、透析器のパーツ、人工肺のパーツ、チューブコネクター、種々のコネクター、血液ポンプ用エレメント、点滴バルブコネクター、注射器、例えば、ルアーロックシステムのもの、静脈内アクセスコンポーネント、手術器具、二方弁もしくは切換弁または手術器具である。切換弁は、好ましくは、医療技術部門で通常使用される三方弁である。
【0087】
成形品は、1回の使用を目的としたものだけでなく複数回の使用を目的としたものであり得る。好ましくは、成形品は、1回の使用を目的としたものである。患者における感染を避けるため、滅菌条件下かかるパーツを包装することも必要である。本発明による組成物から製造された成形品を、放射線照射により滅菌された密閉包装し、仕向地へ輸送することができ、パッケージング、特にホイルパウチ、例えば、ラミネートホイルパウチ、例えば、アルミニウムラミネートを使用したものを、医療技術製品または医療技術製品のパーツの使用の直前に開封する。前述の滅菌にもかかわらず、本発明によるポリカーボネート材料から製造された成形品は、「清潔度」または「無菌性」の印象を妨害する気掛かりな変色(黄変)を示さない。
【0088】
放射線照射として、本発明による成形品を放射線滅菌するため、特にβ線またはγ線を使用することができ、両方の場合には同時にまたは逐次使用することができる。放射線線量は、好ましくは、少なくとも20kGy、より好ましくは25kGy~55kGy、特に好ましくは30kGy~50kGyである。放射線照射は、酸素雰囲気下または酸素フリー雰囲気を含む低酸素雰囲気下で行うことができる。
【実施例】
【0089】
成分:
A1:Covestro Deutschland AGのMakrolon(登録商標)2508。試験温度300℃、負荷1.2kgにおいて15cm3/10分(DIN EN ISO1133-1:2012-03に従った)のメルトボリュームフローレートMVRを有するビスフェノールA系直鎖ポリカーボネート。
B1:Lanxess AG(独国)のMakrolon3600DHP。α,ω-ビス(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-ポリ[オキシ(メチル-1.2-エタンジイル)]。ポリエーテルポリオール。
B2:Covestro Deutschland AGのDesmophen(登録商標)3600。スターターとしてプロピレングリコールを用いたプロピレンオキシドをベースとした二官能性ポリエーテルポリオール。OH価:56mg KOH/g。DIN53240-3:2016-03に従って決定。末端水酸基の大部分は、第二級末端水酸基である。Mn=2,000g/モル、上記の通り決定。
C:Dr.Spiess Chemische Fabrik GmbHの3,3’-チオジプロピオン酸。
D1:ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)。Songwon International AG(スイス)のSongnox(登録商標)。
D2:着色料の混合物。
【0090】
手順:
Sudpack Medica(独国)の放射線滅菌用ラミネートパウチ(アルミニウムラミネート)(OPA/Al/PE)、サイズ:長さ24.5cm*幅15.0cmを使用した。(OPAは二軸延伸ポリアミドフィルム)。酸素捕捉剤として、O2 Zero(英国)のものを使用した。低O2雰囲気下放射線滅菌のため、1つのFMP(着色サンプルプレート)および5つの酸素捕捉剤(50cc捕捉能力)をラミネートパウチに入れてから密封した。O2雰囲気下放射線滅菌のため、FMPだけをパウチ中に密封した。
【0091】
全サンプルについて、厚さ4mmのFMPを使用した。実施例に従った化合物を、Berstorff社の押出機ZE25を用いて、スループット10kg/時、回転速度50/分および温度270℃で製造した。着色サンプルプレートを、Arburg ALLROUNDER射出成形機を用いて射出成形した。処理温度は射出成形の間280℃であり、成形温度は80℃であった。
【0092】
サンプルが放射線照射後に変色(脱色)する「緩和時間」として、≧21日の期間を使用した。 最初に退色/脱色がゆっくりと起こるので、この期間を選択したが、特定の期間後、一時的着色部に基づく更なる脱色は起こらなかった。可視領域における放射線照射が脱色を加速するので、遮光アルミニウムラミネート包装の使用は、脱色に対して影響を及ぼす。
【0093】
DIN EN ISO 11137-1:2015:11に従って、異なる線量でβ照射ならびにγ照射を用いて、放射線照射の実験を行った。本質的に、β照射およびγ照射を用いた放射線照射後、材料の脱色差はない。
【0094】
使用された放射線照射:
1)β照射(電子加速器10MeVで生成):高線量率および限定的透過度→滅菌処理時間:数秒。
2)γ照射(Co60源によって生成):非常に高透過度および比較的低線量率→滅菌処理時間:目的の線量に達するまで数時間。これは、線量計に従った。
【0095】
本発明による全組成物の場合、放射線照射後の有意なプラーク形成は検出されなかった。
【0096】
4分後、Zwick Roell社のZwick4106装置を用いて、DIN EN ISO1133:2012-03(試験温度300℃、質量1.2kg)に従って、メルトボリュームフローレート(MVR)を決定した。
【0097】
19分後、Zwick Roell社のZwick4106装置を用いて、DIN EN ISO1133-1:2012-03(試験温度300℃、質量1.2kg)に従って、IMVR値を決定した。
【0098】
Hunter UltraScanPro装置で測定された4mmの肉厚を有するサンプルシートに対し、ASTM E 313-15e1(2015-01-01、オブザーバー:10°/イルミナント:D65)に従って、黄色度指数(Y.I.)を決定した。放射線照射21日後の値および放射線照射前の値の差ΔY.I.を生成した。
【0099】
【0100】
安定化されていないポリカーボネート組成物(IV)は、β線で照射後強く黄変を示す。ポリエーテルポリオール(2V)の形態への安定剤の添加は、既に、黄変を著しく低減する効果があるが、いまだ、満足するものではない。既に0.05重量%の3,3’-チオジプロピオン酸の添加(実施例3)ほど低い量が、黄変を著しく低減する効果があり、より多い量の3,3’-チオジプロピオン酸(実施例4、5)は更なる改良をもたらす。しかしながら、更により多くの量、例えば、0.5重量%および0.75重量%(6V、7V)の3,3’-チオジプロピオン酸の添加は、もはやかかる組成物を処理することができないような、まだ放射線照射してなくても高いメルトボリュームレートをもたらす。公知の安定剤ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)は、実施例4および7Vに匹敵する、3,3’-チオジプロピオン酸(8V、9V)と比較して、黄変が極めて増加する効果がある。
【0101】
【0102】
γ線照射後、安定化されていないポリカーボネート組成物(10V)から製造された成形品は著しい黄変を示し、ポリエーテルポリオールの添加によって既に著しく低減し得る(11V、17V)。 黄変の更なる顕著な低減を、3,3’-チオジプロピオン酸の添加によって達成することができ(実施例12~14、18~20)、0.5重量%、それぞれ0.75重量%の量(15V、16V)について、メルトボリュームレートは、優れた加工性はもはや得られないほど高い。
【0103】
【0104】
ポリエーテルポリオールと従来の安定剤Songnox4120との組合せは、照射後の黄変を低減する効果がある(21Vまたは22Vと比較して23V、24V、それぞれ26V、27V)が、3,3’-チオジプロピオン酸(実施例19,それぞれ13)の組合せより効果はあまり明白でない。