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特許7324234測位信号を含む信号を検出するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】測位信号を含む信号を検出するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/34 20100101AFI20230802BHJP
   G01S 19/36 20100101ALI20230802BHJP
   G01S 19/37 20100101ALI20230802BHJP
【FI】
G01S19/34
G01S19/36
G01S19/37
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020566693
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 US2019033388
(87)【国際公開番号】W WO2019231770
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】15/991,217
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520460904
【氏名又は名称】スター アリー インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フア、ウェンシェン
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-201737(JP,A)
【文献】特開2003-258669(JP,A)
【文献】特開2005-326431(JP,A)
【文献】国際公開第2017/027166(WO,A1)
【文献】特表2015-507735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0195003(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
G01C 21/26-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定数のチップの擬似ランダム符号で変調されたスペクトル拡散信号を検出する信号処理装置であって、
前記チップの1つの所定の割合の精度のタイミング信号を提供する温度補償水晶発振器と、
前記タイミング信号を受信し、所定の周波数の第1のデジタルクロック信号を生成するクロック発生器と、
前記タイミング信号、及び前記スペクトル拡散信号を受信し、第2のデジタルクロック信号及び前記スペクトル拡散信号のデジタルベースバンドサンプルを、前記第2のデジタルクロック信号の各周期で提供するアナログ信号処理回路と、
前記第1のデジタルクロック信号を受信し、イネーブル信号を提供するカウンタ回路と、
データバッファと、
前記デジタルベースバンドサンプル、前記第2のデジタルクロック信号、及び前記イネーブル信号を受信し、前記イネーブル信号がアサートされているときに前記デジタルベースバンドサンプルを前記データバッファに格納する、前記データバッファ用の入力インターフェース回路と、
前記データバッファから前記デジタルベースバンドサンプルを読み出して信号検出を行うプロセッサと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記入力インターフェース回路は、並列接続された複数のシリアル周辺インターフェース回路を含むことを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記第1のデジタルクロック信号の前記所定の周波数は、16MHzであることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記第1のデジタルクロック信号は、1/16μsの精度であることを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記アナログ信号処理回路は、前記イネーブル信号がアサートされていないときには電力供給されないことを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記プロセッサは、前記信号検出の完了時にスリープ状態に入ることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記プロセッサ、前記データバッファ、及び前記入力インターフェース回路は、埋め込みマイクロコントローラ集積回路の構成要素であることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記デジタルベースバンドサンプルは、ベースバンド信号の同相チャネル及び直交チャネルのサンプルを含むことを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記信号処理装置は、太陽電池式であることを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記温度補償水晶発振器、前記クロック発生器、前記アナログ信号処理回路、前記カウンタ回路、前記入力インターフェース回路、前記データバッファ、及び前記プロセッサが実装される筐体をさらに備えることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項10に記載の信号処理装置であって、
バッテリと、
前記バッテリの電力調整回路と、
前記電力調整回路の制御下で太陽エネルギーを前記バッテリ内のエネルギーに変換する太陽電池パネルと、をさらに備え、
前記太陽電池パネルは、前記筐体の外面に取り付けられることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
省電力広域ネットワークを介して通信するための通信モジュールをさらに備えることを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項12に記載の信号処理装置であって、
前記省電力広域ネットワークは、LoRaネットワークを含むことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号検出に関する。特に、本発明は、測位用途のための信号検出に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの測位用途、例えば、全地球測位システム(GPS)に関連する用途では、信号受信機は、位置が分かっているソースから信号を検出する。ソースと受信機との間の信号の移動時間の推定値(「遅延値」)により、ソースと受信機との間の距離の推定値が提供される。そして、この距離は、受信機の位置を三角測量するために用いられる。例えば、GPSでは、位置及び動きが分かっている複数のGPS衛星からのスペクトル拡散信号を検出し、三角測量することによって受信機の位置を求める。この例では、各衛星の信号に、ミリ秒ごとに繰り返される1023ビットの擬似乱数コードが埋め込まれている(信号の各ビットの持続時間は、「チップ」と呼ばれる)。信号を検出するために、選択された期間にわたって、受信信号と複製信号との間の相関が計算される(「積分される」)。衛星の動きは受信機に関連しているので、積分は、受信信号の周波数のシフト(「ドップラー」)を考慮する必要がある。検出は、積分の結果、複製信号が時間(すなわち、遅延)及び周波数の両方において受信信号と一致することを示すピーク値が得られたときに達成される。複製信号が受信信号と一致しない場合、積分の結果は0値になる。
【0003】
一般的に、GPSでは、遅延値及びドップラー値は、1ミリ秒の時間及び8000Hzのドップラーの探索空間を探索した後に得られる。信号を最初に検出した後(「粗取得」)、その信号を追跡することにより、定期的な更新が提供される。追跡においては、追跡間隔が比較的短く、衛星の位置及び動きがその追跡間隔にわたって大きく変化しない場合には、受信機は、粗取得の探索空間全体の探索を行わない。一般的に、追跡は、最後の粗取得において得られた遅延値及びドップラー値を取り囲む非常に小さい探索空間(例えば、遅延値が1/4チップ(0.25μs)以内、ドップラー値が10~100Hz以内)を探索することによって達成される。当然ながら、遅延値及びドップラー値の検出において達成される精度が高いほど、側位用途において達成される精度も高くなる。
【0004】
衛星信号の検出により、衛星の距離と、受信機に対する相対的な動き(例えば、受信機に近づく加速度、または受信機から遠ざかる加速度)を求めることができる。受信機の位置を三角測量するためには、4つ以上の衛星の絶対位置と動きに関する情報が必要である。この情報は、衛星信号から送信される「エフェメリス」情報から求めることができる。エフェメリス情報は、「コールドスタート」での粗取得(すなわち、受信機の位置に関する信頼できる事前情報がない状態での粗取得)にも有用である。GPSの全ての衛星を数ヶ月間の期間にわたってカバーするエフェメリス情報のフルセットは、約数10Kバイトの長さである。衛星信号からエフェメリス情報を得るためには,衛星信号を30秒以上追跡する必要がある。代替的に、エフェメリス情報は、高帯域携帯電話または広域ネットワークを介して、補助GPS(AGPS)サービスなどのオンラインソースから取得することができる。
【0005】
衛星信号の追跡、及びデータ通信の両方は、バッテリ電力で動作するモバイルデバイスにとっては望ましくないことに、電力を大きく消費する。このため、モバイルデバイスで測位するためのエネルギー効率の良いハードウェア及び方法が長い間望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第9、439、040号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、所定数のチップの擬似ランダム符号で変調されたスペクトル拡散信号を検出する信号処理装置であって、(a)チップの1つの所定の割合の精度のタイミング信号を提供する温度補償水晶発振器と、(b)タイミング信号を受信し、所定の周波数のデジタルクロック信号を生成するクロック発生器と、(c)タイミング信号、デジタルクロック信号、及びスペクトル拡散信号を受信し、デジタルクロック信号の各周期で、スペクトル拡散信号のデジタルベースバンドサンプルを提供するアナログ信号処理回路と、(d)デジタルクロック信号を受信し、所定の持続時間のタイミングパルスを提供するカウンタ回路と、(e)データバッファと、(f)デジタルベースバンドサンプル、デジタルクロック信号、及びタイミングパルスを受信し、デジタルベースバンドサンプルをデータバッファに所定の持続時間にわたって格納する、データバッファ用の入力インターフェース回路と、(g)データバッファからデジタルベースバンドサンプルを読み出して信号検出を行うプロセッサと、を備える装置が提供される。入力インターフェース回路は、並列接続された複数のシリアル周辺インターフェース回路(SPI)を含み得る。デジタルクロック信号の所定の周波数は、例えば、16MHzであり得る。また、デジタルクロック信号は、1/16μsの精度であり得る。デジタルベースバンドサンプルは、受信したスペクトル拡散信号からのベースバンド信号の同相チャネル及び直交チャネルのサンプルであり得る。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、アナログ信号処理回路は、タイミングパルスの所定の持続時間外には電力供給されない。同様に、プロセッサは、信号検出の完了時にスリープ状態に入る。さらに、プロセッサ、データバッファ、及び入力インターフェース回路は、埋め込みマイクロコントローラ集積回路の構成要素である。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、信号処理装置は、太陽電池式であり得る。信号処理装置は、温度補償水晶発振器、クロック発生器、アナログ信号処理回路、カウンタ回路、入力インターフェース回路、データバッファ、及びプロセッサが実装される筐体をさらに備え得る。加えて、筐体は、バッテリと、バッテリの電力調整回路と、電力調整回路の制御下で太陽エネルギーをバッテリ内のエネルギーに変換する太陽電池パネルと、をさらに備え得る。この実施形態では、太陽電池パネルは、筐体の外面に取り付けられ得る。
【0010】
本発明の一実施形態では、信号を検出する方法であって、(a)信号を受信するステップと、(b)複数の遅延値の各々について、受信信号と、遅延値だけ遅延した受信信号の複製信号との間の相関値を計算するステップと、(c)相関値から、ゼロでない値を有し、かつ遅延値の増加につれて増加する第1のグループの相関値、及び、遅延値の増加につれて減少する第2のグループの相関値を選択するステップと、(d)第1のグループの相関値の各々からの外挿に基づいて遅延値を推定するステップと、を含む方法が提供される。遅延値を推定するステップ(d)の一実施形態は、第1のグループ相関値及び第2のグループの相関値を、遅延値の1以上の多項式にフィッティングさせることに基づいて行われる。遅延値は、例えば、第1のグループ相関値から導出される第1の直線と、第2のグループの相関値から導出される第2の直線との交点に基づいて推定される。
【0011】
本発明の一実施形態では、複数の衛星からの信号検出に基づく補助衛星測位システムであって、(a)移動受信機と、(b)省電力無線通信ネットワークを介して移動受信機と通信する基地局であって、圧縮データ形式を使用して、複数の衛星のうちの選択された衛星のエフェメリスデータを提供する、該基地局と、を備えるシステムが提供される。エフェメリスデータは、所定の時間間隔にわたる、選択された衛星のドップラー周波数変動または仰角変動に関するデータを含む。ドップラー周波数変動または仰角変動は、遅延値の多項式関数の係数によって圧縮された形式で表される。多項式関数は、より大きいドップラー周波数における相対誤差が、より小さいドップラー周波数における相対誤差よりも小さくなるように重み付けされる。あるいは、多項式関数は、より小さい仰角における相対誤差が、より大きい仰角における相対誤差よりも小さくなるように重み付けされる。一実施形態では、省電力無線通信ネットワーク、例えばLoRaネットワークは、少なくとも16キロメートル(10マイル)の範囲を有する。
【0012】
本発明は、添付の図面と共に以下の詳細な説明を参照することによって、より良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による信号検出システム100を示す図である。
図2】SPI回路104の出力端子における、4ビットのデータ信号117のタイミングを示す図である。
図3】、或る衛星信号の検出時の遅延値d1、d2、d3、d4における一致フィルタ出力値を示す図である。
図4】本発明の一実施形態による、従来のデータ接続を用いることなく、測位用のエフェメリスデータが供給されるシステム400を示す図である。
図5A】基地局302の近くの可視衛星及び近可視衛星についての、次の120分間におけるドップラー値の例示的な推定変動を示す図である。
図5B】基地局302の近くの可視衛星または近可視衛星についての、次の120分間における仰角の例示的な推定変動を示す図である。
図6A】本発明の一実施形態による、本発明の測位装置を収納するのに適した六角形の筐体600の上面図である。
図6B】本発明の一実施形態による、本発明の測位装置を収納するのに適した六角形の筐体600の下面図側面図である。
図6C】本発明の一実施形態による、本発明の測位装置を収納するのに適した六角形の筐体600の側面図である。
図6D】筐体600内に設けられた、本発明の一実施形態による、様々な回路部品が実装されるプリント回路基板620を示す図である。
【0014】
図面間の相互参照を容易にするために、図中の同様の構成要素には同様の参照番号が付与されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、例えば、衛星測位用途における追跡間隔が1秒間を超えることを可能にするために、エネルギー効率の良い信号検出アルゴリズムと組み合わせて使用することができるハードウェアソリューションを開発した。エネルギー効率の良い信号検出アルゴリズムの一例は、2015年8月13日に出願された、本発明者による、「飛行時間検出システム及び飛行時間検出方法」なる標題の米国特許出願第14/826、128号、現在は米国特許第9、439、040号(特許文献1)に開示されている。追跡間隔を長くすることにより、受信機が必要とする電力は、従来技術の受信機と比べて大幅に少なくなる。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態による信号検出システム100を示す図である。図1に示すように、信号検出システム100は、衛星信号を受信するためのアンテナ108と、受信した衛星信号を増幅するための低雑音増幅器107と、受信した衛星信号を帯域制限するための表面音響波(SAW)フィルタ106と、受信した衛星信号を復調し、かつアナログ処理するための無線周波数(RF)フロントエンド処理ユニット111と、を備える。RFフロントエンド処理ユニット111はまた、温度補償水晶発振器(TCXO)101から発振器信号112(タイミング信号112)を受信する。タイミング信号112は、クロック生成回路102でクロック信号118を生成することを可能にする。クロック生成回路102は、カウンタが発振器信号を直接受信することができる実施形態では任意選択である。本発明の一実施形態によれば、GPS用途のために、クロック信号118は、1/16マイクロ秒(μs)の精度であり得る(すなわち、16MHzにおいて、1/16μsの精度である)。アナログ信号処理のためにTXCO101からの発振器信号112を使用し、タイミングのためにクロック信号118を使用することの利点は、これらの信号が環境内の温度の変化に左右されず時間的に正確であることである。RFフロントエンド処理ユニット111は、従来の信号処理プロトコルに従って、クロック信号113のクロック周期当たり4ビットのデータ信号117を提供することができるアナログ/デジタル変換器を含む。クロック信号113及びクロック信号118は、同一のクロックソース(例えば、TCXO111)に基づくことが好ましいが、互いに異なる周波数を有していてもよい。一実施形態では、クロック信号113は約32MHzであり得、クロック信号118は16MHzであり得る。クロック信号113とクロック信号118との間の相対位相は、クロック生成回路102及びTXCO111に起因する遅延は異なり得るので、任意であり得る。一実施形態では、4ビットのデータ信号117は、受信した衛星信号のデジタル同相(I)及び直交(Q)ベースバンドサンプルを提供する2つのチャネルを含む。
【0017】
4ビットのデータ信号117は、メモリ回路109内のバッファに受信され、その後、中央処理装置(CPU)110によって読み出され処理される。CPU110は、例えば特許文献1に開示されているエネルギー効率の良いアルゴリズムを使用して信号処理を実行する。一実施形態では、CPU110は、特定用途向け集積回路(ASIC)であり得る。一実施形態では、4ビットデータ信号117から所定量のデータを受信すると(例えば、メモリ回路109内のバッファが満たされたとき、または数ミリ秒などの所定間隔の経過後に)、割り込みが発生して、データが処理可能であることをCPU110に示す。エネルギー効率のために、RFフロントエンド処理ユニット111におけるデータ処理は、メモリ回路109内のバッファが満たされた後にオフに切り替えてもよい。また、メモリ回路109のバッファ内のデータを処理した後、CPU110は、スリープモードに入ってもよい。受信した衛星信号をサンプリングするときのタイミングを正確にすることにより、追跡間隔を長くすることが可能となる(例えば、1秒間)。タイミングを正確にすることは、TCXO101によって提供される。
【0018】
信号検出システム100は、クロック信号118に基づいてタイミング信号116(タイミングパルス)を生成するためのカウンタ119を備えている。これにより、タイミング信号116を使用して、クロック信号113の精度(例えば、1/16μs)で、各追跡間隔を実施することができる。1ビットのデータバッファは、シリアル周辺インターフェース(SPI)回路103によって実現することができ、イネーブル信号115を入力インターフェースに提供して、4ビットのデータ信号117をメモリ回路109のバッファ回路に受信させる。イネーブル信号115は、SPI回路103の出力値であり、1ビットのデータバッファに格納された論理値「1」によって供給される。SPI回路103のデータ出力がタイミング信号116によってイネーブルされたときに、イネーブル信号115は、クロック信号113の次の立下がりエッジで、論理値「0」から論理値「1」に遷移する。この入力インターフェースは、符号104で示される4つの並列SPI回路によっても実現され得る。このようにして、SPI回路103は、イネーブル信号115のエッジをクロック信号113にアライメントする(すなわち、SPI回路104は、クロック信号113の立下がりエッジで、4ビットのデータ信号をサンプリングする)。イネーブル信号115のエッジをクロック信号113にアライメントすることは、4ビットデータ信号のサンプルを互いに同期させるのにも、すなわち、それらの間の相対的なビットシフトを回避するのにも役立つ。これは、SPI回路104が、4つの別個の1ビットSPI回路を並列に使用して実現される場合に特に重要である。一実施形態では、NXPセミコンダクタ社(NXP semiconductor)から入手可能な埋め込みコントローラ集積回路LPC54114を使用して、SPI回路103及び104、メモリ回路109、カウンタ119、及びCPU110を実現することができる。埋め込みコントローラ集積回路LPC54114は、ARMマイクロプロセッサと、オンボードメモリ回路と、8つのオンボードSPIインターフェース回路とを含み、これらの回路を使用して、CPU110と、メモリ回路109及びSPI回路103と、カウンタ119及びSPI回路104とを実現することができる。好ましい一実施形態では、カウンタ119は、タイミング信号116の生成がCPU割り込みによって制御されないように実装されるので、タイミングを正確に制御することができる。
【0019】
図2は、SPI回路104の出力端子における、4ビットのデータ信号117のタイミングを示す図である。図2は、(i)SPI回路104におけるイネーブル信号EN(すなわち、図1のイネーブル信号115)、(ii)データ信号D(すなわち、図1の4ビットデータ信号117)、及び、(iii)クロック信号CLK(すなわち、図1のクロック信号113)を示す。図2に示すように、時間tにおいて、イネーブル信号ENがアサートされ、これにより、SPI回路104は、例えば、ダイレクトメモリアクセス(DMA)機構を使用して、メモリ回路109内のバッファの充填を開始する。イネーブル信号ENのアサート後、時間tにおいて、クロック信号CLKのクロック周期毎に、データ信号Dは、4ビットのIデータサンプルまたはQデータサンプルをSPI回路104からメモリ回路109内のデータバッファに出力する。このデータは、所定の期間にわたって(例えば、1023チップでは1ミリ秒間)提供される。例えば、時間t1023において、イネーブル信号ENがデアサートされ、これにより、データ信号DによるIデータサンプル及びQデータサンプルの出力は停止する。次いで、CPU110は、受信した衛星信号の遅延時間及びドップラー周波数を求めるために、特許文献1に教示されているような、データバッファ内のデータに対する探索アルゴリズムを開始する。一般的に、探索アルゴリズムの一部(「一致フィルタ」として知られている)は、探索空間内における、遅延値とドップラー値との対の選択されたセットについて、複製信号と衛星信号との間の相関値を計算する。図3は、或る衛星信号の検出時の遅延値d1、d2、d3、d4における一致フィルタ出力値(相関値)を示す図である。一実施形態では、32個の遅延値が使用され得る。複製信号が、受信した衛星信号と、遅延値及びドップラー値の両方において完全に一致する場合、一致フィルタの出力値は最大値になると予想される。最大値を提供する遅延値とドップラー値との対の近くにあるいくつかの遅延値とドップラー値との対では、一致フィルタ出力はゼロではないが、最大値ではない。換言すれば、ドップラー値が一致していると仮定すると、遅延値d1、d2、d3、及びd4における一致フィルタ出力値は、最大値を提供する遅延値に近いものの、最大値ではない。最大値を提供する遅延値dtは、遅延値d2と遅延値d3との間にあると予想される。本発明の一実施形態によれば、遅延値dtは、遅延値d1及び遅延値d2、並びに遅延値d3及び遅延値d4における一致フィルタ出力値を用いて、遅延値dtの前後に増加または減少する一致フィルタ出力値の変化率(「傾き」)を推定することによって推定することができる。例えば、図3の4つの遅延値d1、d2、d3及びd4では、遅延値dtは、遅延値d1及びd2の一致フィルタ出力値を結ぶ直線と、遅延値d3及びd4の一致フィルタ出力値を結ぶ直線との交点から推定することができる。遅延値dtを推定する他の方法を用いることも可能であり、例えば、増加する一致フィルタ出力値と減少する一致フィルタ出力値とを、遅延値の1以上の多項式にフィッティングさせることによって遅延値dtを推定してもよい。遅延値dtを求める別の方法は、一致フィルタ出力値の導関数(すなわち、変化率)を計算し、導関数が0になる遅延値dtを推定する方法である。
【0020】
受信機の位置を求めるためには、衛星のエフェメリス情報を使用する三角測量法が必要である。さらに、エフェメリス情報は、コールドスタート時の粗取得に特に役立つ。このようなエフェメリス情報は、受信した衛星信号を復号することによって抽出してもよいし(ただし、このプロセスは時間がかかる)、または、情報を保持しているソースから受信してもよい。一般的には、このようなソースへのアクセスには、携帯電話システムを介したデータ接続、またはインターネットへのアクセス(例えば、WiFiまたは他の広帯域媒体)を必要とする。モバイルデバイスでは、このようなデータ接続は、利用できない場合がある。いずれにしても、このようなデータ接続を介した通信は、電力を大きく消費する。本発明は、従来のデータ接続を必要としない方法及びシステムを提供する。
【0021】
図4は、本発明の一実施形態による、従来のデータ接続を用いることなく、測位用のエフェメリスデータが供給されるシステム400を示す図である。図4に示すように、システム400は、省電力の長距離無線データ接続を介して、基地局302に対してエフェメリス情報を要求する受信機301を含む。このような省電力の長距離無線データ接続は、様々な省電力広域ネットワーク(「LPWAN」)を介して行うことができる。このようなLPWANの一例は、約50バイト/秒のデータレートで約48キロメートル(30マイル)の範囲にわたってデータ接続を提供するLoRaネットワークである。LoRaネットワーク上のデータ接続を使用して、受信機301は、48キロメートル(30マイル)離れた基地局302からエフェメリスデータを受信することができる。完全なエフェメリス情報は約100Kバイトであり、LPWAN上のデータレートは比較的低いので(例えば、50バイト/秒)、本発明は、目の前の信号処理タスクを実行するために不可欠なエフェメリスデータの部分のみを、受信機301に圧縮データ形式で提供する。一実施形態では、LoRa通信の範囲が160キロメートル(100マイル)未満である場合、基地局302は、その地平線の上側に存在する衛星(「可視」)またはその地平線のすぐ下側に存在する衛星(「近可視」)についてのみ、近い将来の短い期間において有効なエフェメリスデータを提供する。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、基地局302から提供されるエフェメリスデータは、所定の短い期間(例えば、2時間)内における、基地局302の近くの可視衛星及び近可視衛星のそれぞれの予想されるドップラー値及び予想される仰角を含む。図5Aは、基地局302の近くの可視衛星及び近可視衛星についての、次の120分間におけるドップラー値の例示的な推定変動を示す図である。このドップラー値の推定変動を提供するために、基地局302は、ドップラー周波数の推定変動を3次または4次多項式にフィッティングさせ、対応する係数を抽出する。曲線フィッティングのアルゴリズムは、より大きいドップラー変動値に対して、より大きく重み付けする(すなわち、誤差を最小化する)。一実施形態では、基地局302は、可視または近可視の衛星毎に、その衛星の識別子、現在の遅延の推定値、現在のドップラーの推定値、及びドップラー変動の多項式の係数を送信する。これらの値により、受信機301が、上述の曲線フィッティングにより得られたドップラー変動の多項式を再構成することを可能にする。
【0023】
図5Bは、基地局302の近くの可視衛星または近可視衛星についての、次の120分間における仰角の例示的な推定変動を示す図である。仰角値の推定変動を提供するために、図5Aのドップラー周波数の場合と同様に、基地局302は、仰角の推定変動を3次または4次多項式にフィッティングさせ、対応する係数を抽出する。ドップラー周波数の場合とは異なり、仰角での曲線フィッティングのアルゴリズムは、より小さい仰角変動値(例えば、-5°~5°の範囲、または、地平線の真上または真下)に対して、より大きく重み付けする(すなわち、誤差を最小化する)。一実施形態では、基地局302は、可視または近可視の衛星毎に、現在の仰角の推定値、及び仰角変動の多項式の係数を送信する。これらの値により、受信機301が、仰角変動の多項式を再構成することを可能にする。
【0024】
多項式の各係数を表すために使用されるビット数は、多項式における誤差が、所定の誤差バー内に許容される場合に最小化される。一実施形態では、例えば、ドップラー周波数の誤差バーは±100Hzであり、仰角が約15度のときの仰角の誤差バーは約±2度である。
【0025】
可視または近可視の衛星のエフェメリスデータのみを圧縮データ形式で送信することによって、100バイト程度しか使用せずに、本質的な天体エフェメリス情報を、基地局302の近くの受信機301に送信することができる。したがって、LoRa通信ネットワークの低いデータレートでも、エフェメリス情報を数秒間で、要求元の受信機に提供できる。このようにして、本発明は、受信機が、LPWANを介して送信される圧縮エフェメリスデータを使用して、迅速な粗取得を達成することを可能にする。
【0026】
受信機は、圧縮されたエフェメリス情報を受信すると、可視衛星を捕捉して追跡し、各可視衛星からの擬似距離を計算する。擬似距離は、基地局302(または、AGPSサーバ)に送り返され、基地局302で、受信機の位置及び遅延時間は、完全なエフェメリスを使用して精緻化される。
【0027】
衛星の捕捉ステップでは、受信機は、遅延/ドップラー空間における遅延値及びドップラー値の粗い範囲を探索する。本発明の圧縮されたエフェメリス情報は、捕捉ステップ中に探索する必要がある衛星の数及びドップラー範囲の両方を低減するのに役立つ。捕捉ステップはまた、追跡ステップのための探索空間を小さくすることができる。一実施形態では、追跡中の探索空間は、遅延が約0.5マイクロ秒であり、ドップラー周波数が約100Hzの空間である。カウンタ119は、捕捉と追跡との間の間隔、及び連続する追跡ステップ間の間隔を正確に制御する。各間隔の誤差は、追跡ステップにおける遅延探索範囲よりも小さくなるように制御される(例えば、一実施形態では、約1/2チップまたは0.5マイクロ秒)。本発明の一実施形態によれば、捕捉及び追跡ステップの後に、下記の数式を用いて、現在測定されている遅延値tcdから、次の遅延値tnd(すなわち、遅延値の次の探索範囲の中心)を予測することができる。
【0028】
【数1】
【0029】
Δfは、現在測定されているドップラー値であり、fは、追跡されている衛星からの信号の周波数であり、τは、追跡間隔である。
【0030】
衛星毎に遅延値tを測定した後、受信機の位置を、AGPS法を用いて求める。一実施形態では、1ms境界のエッジでの送信時間は測定せず、5つ以上の衛星からの遅延を使用して受信機の位置及び遅延時間を計算する。このような方法のための1つの方法は、「A-GPS:アシスト型GPS、GNSS、及びSBAS」ISBN-10:1596933747に記載されている。
【0031】
一実施形態では、RFフロントエンド処理ユニット111のサンプリング周波数は、捕捉ステップと追跡ステップとで異なる。捕捉ステップでは、RFフロントエンド処理ユニット111は、より低いサンプリング周波数(例えば、4MHz)を使用して、捕捉ステップのための計算量を低減する。しかし、追跡ステップでは、RFフロントエンド処理ユニット111は、より高いサンプリング周波数を使用して遅延推定の精度を向上させ、これにより、擬似距離推定の精度を向上させる。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、本発明は、本明細書及び特許文献1に開示された信号検出方法を用いて、非常に省電力な測位装置を提供する。実際、このような測位装置は、太陽電池で駆動できるほど省電力である。図6A図6B及び図6Cは、本発明の一実施形態による、本発明の測位装置を収納するのに適した六角形の筐体600の上面図、下面図及び側面図である。図6A図6B及び図6Cに示す筐体600は、六角形の各側面に沿って5.08センチメートル(2インチ)の長さを有する。また、筐体600は、約1.27センチメートル(1/2インチ)の厚さを有する。図6Aに示すように、太陽電池パネル1が、筐体600の頂部カバーに取り付けられる。また、LPWAN(例えば、LoRaネットワーク)を介して通信するための通信アンテナ2が、六角形の筐体600の一側面に沿って取り付けられる。
【0033】
図6Dは、筐体600内に設けられた、本発明の一実施形態による、様々な回路部品が実装されるプリント回路基板620を示す図である。プリント回路基板620は、(i)信号検出のために衛星信号を受信するためのGPSアンテナ3と、(ii)通信アンテナ2(図5A)に接続され、LPWAN(例えば、LoRaネットワーク)を介してデータ信号を送受信するための通信モジュール4と、(iii)図1に示した回路を含む側位モジュール5と、(iv)充電式の電池8(例えば、リチウム化学に基づく電池)と、(v)太陽電池パネル1及び電池8の両方に接続され、電力調整動作、例えば電池8の充電を調整するように構成された電力モジュール7と、(vi)プリント回路基板620に実装された回路を統括制御する制御モジュール6と、を含む。上記の詳細な説明は、本発明の特定の実施形態を例示するために提供され、限定することを意図するものではない。本発明の範囲内で様々な変更及び変形が可能である。本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D