(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】フェンダー
(51)【国際特許分類】
B63B 59/02 20060101AFI20230802BHJP
B63B 21/00 20060101ALI20230802BHJP
B63B 21/02 20060101ALI20230802BHJP
E02B 3/26 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B63B59/02 G
B63B59/02 J
B63B21/00 Z
B63B21/02
E02B3/26 Z
(21)【出願番号】P 2020570385
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 NL2019050139
(87)【国際公開番号】W WO2019172754
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-03
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】520341784
【氏名又は名称】シップヤード ロッテルダム ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Shipyard Rotterdam B.V.
【住所又は居所原語表記】Heijplaatweg 7, 3089 JC Rotterdam, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・ビュルフ, ヘリット
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03854706(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106837673(CN,A)
【文献】米国特許第04137861(US,A)
【文献】国際公開第2010/110666(WO,A2)
【文献】特表2014-515814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 59/02
B63B 21/00
B63B 21/02
E02B 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶と係船岸壁との間隔を確保するためのフェンダーであって、
フェンダーベース構造体と、
前記フェンダーベース構造体に対してフェンダー圧縮方向に相対移動可能に取り付けられた可動フェンダー面と、
前記フェンダーベース構造体と前記可動フェンダー面との間に作動的に接続された油圧シリンダおよびピストンアセンブリと、
少なくとも部分的にガスで満たされたリザーバと、
前記油圧シリンダ内の作動液の圧力と前記リザーバ内の圧力との差が第1閾値に達したとき、前記油圧シリンダから前記リザーバへと前記作動液を通過させるように構成された過圧バルブと、
前記油圧シリンダ内の前記作動液の圧力と前記リザーバ内の圧力との差が前記第1閾値より低い第2閾値未満に低下したとき、前記リザーバから前記油圧シリンダへと前記作動液を通過させるように構成されたリターンバルブと、
前記フェンダーベース構造体と前記可動フェンダー面との間に結合された少なくとも1つの力調整装置と、
前記船舶の揺動運動の揺動周期内に前記少なくとも1つの力調整装置によって及ぼされる力を動的に変化させ、前記船舶の揺動運動の周期内にそれぞれ前記フェンダーによって及ぼされる反力を減少させたり増加させたりして、前記揺動運動からのエネルギーの正味の吸収量を増加させる手段と、
を備えるフェンダー。
【請求項2】
前記船舶の揺動運動の周波数におけるスペクトル周波数成分と、前記船舶の揺動速度変化の位相とは逆の位相成分と有する力の変化を生成するように構成された、
請求項1に記載のフェンダー。
【請求項3】
前記少なくとも1つの力調整装置は、前記可動フェンダー面を前記フェンダーベース構造体に向かって引っ張る、および/または前記可動フェンダー面を前記フェンダーベース構造体から押し出す調整可能な力を及ぼすように構成された油圧ピストンとシリンダの組み合わせを備える、
請求項1又は2に記載のフェンダー。
【請求項4】
前記少なくとも1つの力調整装置は、調整可能な力で前記可動フェンダー面を岸に向かって引っ張るための、スプリングおよび/またはケーブルを備える、
請求項1から3のいずれかに記載のフェンダー。
【請求項5】
前記少なくとも1つの力調整装置に結合された論理回路またはマイクロコンピュータを備え、前記論理回路またはマイクロコンピュータは、前記少なくも1つの力調整装置によって及ぼされる力を動的に変化させるように構成される、
請求項1から4のいずれかに記載のフェンダー。
【請求項6】
前記論理回路またはマイクロコンピュータは、うねりの状態の測定結果にしたがって、前記少なくも1つの力調整装置によって及ぼされる力を動的に変化させるように構成される、
請求項5に記載のフェンダー。
【請求項7】
船舶を前記可動フェンダー面に向けて吸引する磁場を両極が生成するように構成された電磁石を備える、請求項1に記載のフェンダー。
【請求項8】
前記可動フェンダー面が前記フェンダーベース構造体に向けて移動することによって駆動され、電気を生成するように構成された発電機と、
前記発電機に結合され、前記発電機によって生成された電気エネルギーを貯蔵する電気エネルギー貯蔵装置と、
前記電気エネルギー貯蔵装置と前記電磁石との間に結合されたスイッチと、
を備える、請求項
7に記載のフェンダー。
【請求項9】
前記可動フェンダー面が前記フェンダーベース構造体から離れる方向に移動するとき、および/または前記可動フェンダー面が前記フェンダーベース構造体から離れる方向に移動することを停止したとき、少なくとも一時的に前記スイッチを通電状態にする制御機構を備える、請求項
8に記載のフェンダー。
【請求項10】
船舶用係留バースの係船岸壁に沿って複数配置された、請求項1から
9のいずれかに記載のフェンダーと、前記係留バースの係船岸壁に配置された少なくとも1つの係留索保持装置とを含む係留システムであって、前記係留索保持装置は、
船舶の係留索を前記係船岸壁に結合する別の油圧シリンダおよびピストンアセンブリであって、前記係留索にかかる張力により、前記
別の油圧シリンダおよびピストンアセンブリのピストンが前記別の油圧シリンダ内の作動液を圧縮する力を及ぼす、別の油圧シリンダおよびピストンアセンブリと、
少なくとも部分的にガスで満たされた別のリザーバと、
前記別の油圧シリンダ内の作動液の圧力と前記別のリザーバ内の圧力との差が別の第1閾値に達したとき、前記別の油圧シリンダから前記別のリザーバへと前記作動液を通過させるように構成された別の過圧バルブと、
前記別の油圧シリンダ内の前記作動液の圧力と前記別のリザーバ内の圧力との差が前記別の第1閾値より低い別の第2閾値未満に低下したとき、前記別のリザーバから前記別の油圧シリンダへと前記作動液を通過させるように構成された別のリターンバルブと、
を備える、係留システム。
【請求項11】
前記係留索保持装置で生成されたエネルギーを前記複数のフェンダーの少なくとも1つに伝達する手段を備える、請求項
10に記載の係留システム。
【請求項12】
前記
エネルギーを前記複数のフェンダーの少なくとも1つに伝達する手段は
、電力を生成するように構成され、前記複数のフェンダーの少なくとも1つは、前記
電力を用いて前記船舶に対する力を生成して前記船舶の運動を低減するように構成される、請求項
11に記載の係留システム。
【請求項13】
前記別の油圧シリンダおよびピンストアセンブリは発電機を含み、前記複数のフェンダーの少なくとも1つは、船舶を前記可動フェンダー面に向けて吸引する磁場を両極が生成するように構成された電磁石を含み、前記発電機は前記電磁石に結合されて磁場を生成するための電流を供給する、請求項
10に記載の係留システム。
【請求項14】
請求項1から9のいずれかに記載のフェンダーを使用して、船舶と係船岸壁との間隔を確保する方法であって、
前記少なくとも1つの力調整装置を使用して、前記船舶の揺動運動の揺動周期内に
前記船舶に前記フェンダーによって及ぼされる力を増加させたり減少させたりすることにより、前記船舶の揺動周期内にそれぞれ前記フェンダーによって及ぼされる反力を減少させたり増加させたりして、前記揺動運動からのエネルギーの正味の吸収量を増加させることを含む、方法。
【請求項15】
前記力の変化は、前記船舶の揺動運動の周波数におけるスペクトル周波数成分と、前記船舶の揺動速度変化の位相とは逆の位相成分と有する、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から9のいずれかに記載のフェンダーを使用して、船舶と係船岸壁との間隔を確保する方法であって、
うねりの状態の測定結果にしたがって、前記少なくも1つの力調整装置によって及ぼされる力を動的に変化させることを含む、方法。
【請求項17】
前記測定結果は、前記フェンダーに及ぼされる力の予測、および/または前記フェンダーまたは前記少なくとも1つの力調整装置によって及ぼされる力に対する前記船舶の反応の予測のために使用される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェンダーに関し、例えば、係船岸壁に用いて係留船舶と係船岸壁との間隔を確保するためのフェンダーに関する。
【背景技術】
【0002】
係船岸壁(例えば、岸壁、ドック、係船柱)に取り付けるフェンダーは周知のものである。係船岸壁に沿って係留された船舶の側面がフェンダーに接触しているとき、フェンダーは、船舶が係船岸壁を押す際に加える力に応じた反力を船舶の側面に加える。
【0003】
しかし、ある状況下では、係留索とフェンダーが及ぼす力の相互作用によって、反力が船舶の望ましくない揺動運動を引き起こす可能性がある。すなわち、船舶が係船岸壁に沿って取り付けられたフェンダーと接触する運動を行うと、フェンダーは船舶を跳ね返し、係船岸壁から離れる方向の運動を生じさせる。この結果、係留索から加えられる力により船舶が係船岸壁に向けて反動し、再度フェンダーが船舶を跳ね返すことが繰り返される。
【0004】
国際出願第2010/110666号明細書および国際出願第2018/048303号明細書に記載されているような係留索保持装置を用いて船舶を係留した場合、係留索保持装置は、まずフェンダーによって船舶が係船岸壁から離れたたときに係留索に弛みを出すことで跳ね返りに対応し、その後、係留索に船舶を引き込む力をかけ、それによって係船岸壁に向かって反動する船舶の動きを生じさせるが、これは揺動運動を生じさせる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、特に、一又は複数のフェンダーを有する係船岸壁に沿って係留された船舶の動きを減少させることである。
【0006】
船舶と係船岸壁との間隔を確保するためのフェンダーが提供される。このフェンダーは、油圧シリンダとピストンアセンブリを含み、これらは、このフェンダーの圧縮によってピストンが及ぼす力が油圧シリンダ内の作動液を圧縮するように配置される。油圧シリンダは、バルブにより、少なくとも部分的にガスで満たされたリザーバに結合される。過圧バルブは、フェンダーの圧縮力が閾値を超えたときに油圧シリンダからリザーバに作動液が流れることを可能にし、これによりフェンダーの圧縮が可能になる。圧縮力が低下すると、リターンバルブが作動液をシリンダに戻すことで、ピストンが移動してフェンダーが伸長し、フェンダーから離れる方向への船舶の移動に追従する。一実施形態において、請求項1のフェンダーが提供される。
【0007】
フェンダーにより、船舶の揺動運動を低減することができる。このようなフェンダーを船舶用係留バースの係船岸壁に沿って複数配置して使用することができる。
【0008】
一実施形態において、フェンダーは、好ましくは船舶が係船岸壁から離れる方向に運動するときに、船舶を可動フェンダー面に向けて吸引する磁場を両極が生成するように構成された電磁石を含む。このように、フェンダーはこうした運動を低減することができる。
【0009】
一実施形態において、フェンダーは、前記可動フェンダー面が前記フェンダーベース構造体に向けて移動することによって駆動され、電気を生成するように構成された発電機と、前記発電機に結合され、前記発電機によって生成された電気エネルギーを貯蔵する電気エネルギー貯蔵装置と、前記電気エネルギー貯蔵装置と前記電磁石との間に結合されたスイッチと、を備える。一実施形態において、フェンダーは、前記可動フェンダー面が前記フェンダーベース構造体から離れる方向に移動するとき、および/または前記可動フェンダー面が前記フェンダーベース構造体から離れる方向に移動することを停止したとき、少なくとも一時的に前記スイッチを通電状態にする制御機構を備える。このように、制御機構は、船舶が係船岸壁から離れる方向に運動するとき、スイッチを通電状態にする。
【0010】
提供される係留システムは、船舶用係留バースの係船岸壁に沿って複数配置された、上記のいずれかに記載のフェンダーと、前記係留バースの係船岸壁に配置された少なくとも1つの係留索保持装置とを含む係留システムであって、前記係留索保持装置は、船舶の係留索を前記係船岸壁に結合する別の油圧シリンダおよびピストンアセンブリであって、前記係留索にかかる張力により、前記ピストンが前記別の油圧シリンダ内の作動液を圧縮する力を及ぼす、別の油圧シリンダおよびピストンアセンブリと、少なくとも部分的にガスで満たされた別のリザーバと、前記別の油圧シリンダ内の作動液の圧力と前記別のリザーバ内の圧力との差が別の第1閾値に達したとき、前記別の油圧シリンダから前記別のリザーバへと前記作動液を通過させるように構成された別の過圧バルブと、前記別の油圧シリンダ内の前記作動液の圧力と前記別のリザーバ内の圧力との差が前記別の第1閾値より低い別の第2閾値未満に低下したとき、前記別のリザーバから前記別の油圧シリンダへと前記作動液を通過させるように構成された別のリターンバルブと、を備える。
【0011】
一実施形態において、前記係留システムは、前記係留索保持装置で生成されたエネルギーを前記複数のフェンダーの少なくとも1つに伝達する手段を備える。
【0012】
前記係留システムの一実施形態において、前記手段は電力を生成するように構成され、前記複数のフェンダーの少なくとも1つは、前記電気エネルギーを用いて前記船舶に対する力を生成して前記船舶の運動を低減するように構成される。
【0013】
複数の前記フェンダーと、係船岸壁から離れる船舶の移動によって係留索にかかる力が増大するときに係留索を送り出す、前記フェンダーにおけると類似の油圧機構を有する係留索保持装置とを組み合わせてもよい。別に実施形態において、こうした力から生成されたエネルギーを用いて船舶の移動を低減してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
上記および他の目的と利点は、以下の各図を参照する例示的な実施形態の説明から明らかになるであろう。
【
図6】調整可能な力調整装置を有するフェンダーの実施形態を示す。
【
図7】調整可能な力調整装置を有するフェンダーの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、係留船舶と係船岸壁との間の力を緩衝するために係船岸壁に使用するためのフェンダーを模式的に示す。係船岸壁は、係船岸壁であってもよいし、水中に並べられた係船柱であってもよい。係船岸壁は、係船岸壁に沿って一定の間隔で配置された複数の図示されたようなフェンダーを備えてもよい。図示されていないが、フェンダーは、異なる構成要素の間に弾力性のある要素のような付加的な構造体を含んでいてもよいことが理解されるべきである。
【0016】
フェンダーは、フェンダーベース構造体10と、フェンダーベース構造体10に向かってフェンダー圧縮方向13に移動可能に取り付けられた可動フェンダー面12と、油圧シリンダ14と、油圧シリンダ14内のピストン16とを備える。図示された実施形態では、油圧シリンダ14はフェンダーベース構造体10に固定され、ピストン16は可動フェンダー面12に機械的に結合されており、可動フェンダー面12とピストン16との間で力が伝達されるようになっている。あるいは、ピストン16がフェンダーベース構造体10に固定され、油圧シリンダ14が可動フェンダー面12に結合されてもよく、この場合は可動フェンダー面12と油圧シリンダ14との間で力が伝達される。フェンダーベース構造体10は、係船岸壁等の固定構造体に沿って取り付けられ、固定構造体と係留船舶との間に位置するように配置されてもよい。
【0017】
さらに、フェンダーは、リザーバ180と、過圧バルブ182と、一方向バルブ184とからなる過圧保護部を含む油圧回路を備える。可動フェンダー面12がフェンダーベース構造体10に向けて押圧されたとき、ピストン16は作動液を油圧シリンダ14の端部に向けて押圧するが、この端部は、リザーバ180の底部に過圧バルブ182及び一方向バルブ184を介して並列に結合されている。リザーバ180は、底部に作動油を収容し、上部に圧縮ガスを収容する。過圧バルブ182は、油圧シリンダ14内の圧力がリザーバ180内の圧力を所定の第1閾値だけ上回ったときに、油圧シリンダ14からリザーバ180への作動液の流れを可能にするように構成されている。一方向バルブ184は、リザーバ180内の圧力が油圧シリンダ14内の圧力よりも高いとき、またはより一般的には、リザーバ180内の圧力が油圧シリンダ14内の圧力を、第2閾値を超える値だけ上回ったときに、リザーバ180から油圧シリンダ14への作動液の流れを可能にするように構成されている。一方向バルブ184の第2閾値は、ある程度小さく設定することが好ましい。
【0018】
作動時には、船舶が移動して可動フェンダー面12に接触すると、可動フェンダー面12は、フェンダー圧縮方向、すなわち係船岸壁方向の力を油圧シリンダ14を介してフェンダーベース構造体に伝達し、それによって係船岸壁に伝達するようになっている。
【0019】
図2は可動フェンダー面12が及ぼす力とその位置の関係を示す。垂直線22は、
図1のフェンダーについての力と位置の関係のうち、船舶が可動フェンダー面12に及ぼす力により、油圧シリンダ14内の圧力が過圧バルブ182を開くのに必要な圧力を超えない状態に対応する部分を示している。水平線23は、過圧バルブ182が開いて油圧シリンダ14からリザーバ180に作動液が流れるようになるほど係船岸壁に向かう力が大きくなったときの力と位置の関係を示している。
【0020】
垂直線22は、船舶が可動フェンダー面12に及ぼす力により、油圧シリンダ14内の圧力が過圧バルブ182を開くのに必要な圧力を超えない限り、可動フェンダー面12が固定壁のように作用することを示している。フェンダーは、船舶が及ぼす力と拮抗し、位置を変えることはない。
【0021】
水平線23は、船舶が及ぼす力によって油圧シリンダ14内の圧力が過圧バルブ182を開くのに必要な圧力を超えると、フェンダーが圧縮されることを示している。その場合、油圧シリンダ14内の作動液の量は減少し、可動フェンダー面12が係船岸壁に向かって移動することが可能になる一方、可動フェンダー面12が船舶に及ぼす力は一定のままである。
【0022】
このように、船舶が移動して壁と接触し、十分な力を及ぼすとき、フェンダーが及ぼす反力は制限されている。これは、完全に固いあるいは弾力性のあるフェンダーの動作とは対照的である。参考までに、弾力性のあるフェンダーの力と位置の関係を破線20で示す(完全に固いフェンダーの場合、この線は垂直になる)。この力と位置の関係は、垂直線22および水平線23で示される関係とは異なり、フェンダーが船舶に及ぼす力がはるかに大きくなるため、船舶が動きを止めると、フェンダーは船舶を跳ね返す力を及ぼし続ける。
【0023】
しかし、水平線23で示すように、フェンダーが一定の反力で船舶の移動を許容している場合には、ある程度の距離を移動した後には、船舶が及ぼす力は通常低下し、フェンダーが船舶を跳ね返す力を及ぼすことはない。船舶が及ぼす力が通常低下するのは、船舶が係船岸壁に向かって移動するにつれて係留索が及ぼす力が減少することと、フェンダーが及ぼす力によって船舶の移動が減速することによる。船舶が及ぼす力が、過圧バルブ182を開くのに必要な力未満に低下したとき、可動フェンダー面12の位置は一定に保たれ、可動フェンダー面12が及ぼす力が低下して、一方向バルブ184が開くに至る。
【0024】
垂直線24がこの動作を示している。複数の垂直線24が示されているが、力が低下する際の可動フェンダー面12の位置は、船舶の移動の状況によって異なり得るためである。船舶が異常に係船岸壁に向かって移動し続ける場合、可動フェンダー面12は、最終的に可動フェンダー面12および/またはピストン16が停止構造体(図示せず)に到達したときに停止し、その後、可動フェンダー面12が及ぼす力は、(ほぼ)垂直の線26によって示されるように、弾力性のあるまたは固いフェンダーのように急速に増加する。この場合、船舶は跳ね返ることになる。
【0025】
水平線25は、船舶が及ぼす力が一方向バルブ184が開く程度に小さい場合の力と位置の関係を示している。この場合、可動フェンダー面12が垂直線22の位置に戻るまで、リザーバ180から油圧シリンダ14に作動油が戻る。
【0026】
作動においては、使用に先立って、油圧シリンダ14内に、または油圧シリンダ14から作動液をポンピングして、油圧シリンダ14を所望の初期位置、例えば、可動フェンダー面12が係船岸壁からほぼ可能な限り離れた状態となる初期位置に設定し、かつ所定未満の力でフェンダーを圧縮できるような油圧に設定する。両方とも、参照により組み込まれる国際出願2010/110666号明細書に記載されているような、または国際出願2018/048303号明細書に記載されているようなプライミングユニット(priming unit)(図示せず)を使用して行ってもよい。プライミングユニットは、ポンプと、バルブと、作動液の補助リザーバとを含み、ポンプ及びバルブは、補助リザーバとシリンダ14との間に並列に結合されてもよい。プライミングユニットは、フェンダーの一部であってもよい。あるいは、移動式プライミングユニットを備える車両を用いて、複数のフェンダーに移動しそれぞれのフェンダーにプライミングを行ってもよい。
【0027】
述べたように、フェンダーは追加の要素を含んでもよい。一実施形態では、ピストンと油圧シリンダとの組み合わせと可動フェンダー面12との間、および/またはこの組み合わせとフェンダーベース構造体との間に、一又は複数の弾力性のある要素が使用される。この弾力性のある要素は、例えばゴム構造体、スプリング、または油圧スプリングであってもよい。このような弾力性のある要素は、垂直線22を斜線に変化させる効果を有し、すなわち、過圧バルブ182が開くに足る力が及ぼされる前であっても、可動フェンダー面12の変位を可能にする。同様に、垂直線26はより斜度が増す。船舶との関係では、船がフェンダーに接触したときやフェンダーが停止位置に到達したときの、船舶の移動範囲を拡大し、力の増加をより緩やかにすることができる。
【0028】
図3はフェンダーの別の実施形態を模式的に示す。この実施形態では、フェンダーは、可動フェンダー面12の内側に取り付けられた一又は複数の電磁石30(1つだけが図示されている)と、オプションとしてのコンデンサやアキュムレータなどの電気エネルギー貯蔵装置32と、スイッチ34とを含む。電磁石30の両磁極は、可動フェンダー面12上の異なる位置に配置されてもよい。一実施形態では、可動フェンダー面12は、電磁石30の磁極の少なくとも1つの位置に開口部を有してもよい。好ましくは、可動フェンダー面12は、非強磁性材料で形成される。電磁石30は、図示の便宜上、馬蹄形の軟磁性材料として示されているが、任意の形態の磁石が使用できることが理解されるべきである。好ましくは、電磁石の両極は、可動フェンダー面12と実質的に同じ平面内に配置される。例えば、軟磁性リターン構造体が、この平面と極の一方または両方との間に含まれてもよい。
【0029】
動作時には、電磁石30または複数の電磁石を使用して、船舶を可動フェンダー面12と接触した状態に保持しようと作用する付加的な力を発生させてもよい。これにより、跳ね返り運動の量をさらに減少させる。電流は、例えば一方向バルブ184が開いているとき、すなわち水平線25に対応する力と位置の組み合わせにおいて、電磁石30に供給されてもよい。一実施形態では、そうした動作を行うために、一方向バルブ184とスイッチ34との間が機械的に接続されてもよい。
【0030】
別の実施形態では、電磁石30への電流の供給は、(さらに)可動フェンダー面12の位置が一定の範囲にある場合に限定されてもよい。この目的のために、スイッチ34またはスイッチ34と直列に接続された別のスイッチは、可動フェンダー面12またはピストン16が所定の位置を通過するときに切り替わるように構成されていてもよい。あるいは、フェンダーは、スイッチを制御するためのマイクロコンピュータまたはリモートコントロールユニットを備えてもよい。
【0031】
スイッチ34の制御機構は、可動フェンダー面12がフェンダーベース構造体から離れる方向に移動するとき、および/またはフェンダーベース構造体から離れる方向に移動することを停止したときに、スイッチ34を通電状態にするように構成されていてもよい。
【0032】
一又は複数の電磁石30に電流を供給するために必要なエネルギーは、外部供給源から供給されてもよい。しかし、一実施形態では、そのエネルギーをフェンダーに接触する船舶の移動から得てもよい。船舶は風の力及び波の力によって移動する。これらが存在する場合には、エネルギーはこうした供給源から得ることができ、これらがない場合には、特別な保持力を提供するためのエネルギーは不要となる。一実施形態では、船舶の係留索に及ぼされる力は発電に使用され、発電された電力は、電磁石30に直接供給されるか、または電磁石30に供給される前に電気エネルギー貯蔵装置32に一時的に貯蔵される。重要なことに、係留索装置は主にフェンダーが拡張すると同時に発電するので、貯蔵装置32は不要であり、発電したエネルギーを貯蔵せずに直接使用することができる。ただし、貯蔵装置はフェンダーが力を及ぼす時間をずらすのに有用である場合がある。
【0033】
係留索と岸との間の接続部にエネルギーハーベスティング装置を使用してもよい。この装置は発電機を含んでもよく、船舶が岸から離れる力を及ぼしたときに係留索を送り出し、この力が低下したときに係留索を引き込むように構成され、その結果、この装置によって正味でエネルギーは吸収されることになる。これによって、フェンダー内の磁石が船舶に対する保持力のためにエネルギーを必要とするのと実質的に同時にエネルギーを提供することができる。
【0034】
任意の適切な係留索駆動型エネルギーハーベスティング装置を使用することができる。この装置は、例えば、係留索の送り出しと引き込みを行うために油圧システムを使用し、その油圧システム内の作動液の流れによって駆動される発電機を備えてもよい。別の例としては、回転ドラムに結合された発電機を使用してもよい。係留索は、船舶が岸から離れるときに船舶によって回転ドラムから巻き出され、岸から離れる船舶の力が低下すると回転ドラムに巻き戻される。
【0035】
図4は、
図3に示すタイプの複数のフェンダー40と、少なくとも1つの係留索保持装置42とからなる係留システムを示す。係留索保持装置42は、本願の
図1と同様の油圧シリンダ、ピストン、リザーバ、過圧バルブ、および一方向バルブの構成を用いて、国際出願第2010/110666号明細書または国際出願第2018/048303号明細書に記載された動作を行うように構成されてもよい。この装置に加えられた変更は、油圧シリンダからリザーバへの管路内に油圧流駆動型発電機44が追加されたことであり、この発電機44は、過圧バルブおよび/または一方向バルブと直列に配置されることにより駆動される。
【0036】
あるいは、またはさらに、フェンダー自体がエネルギーハーベスティング装置を備えてもよく、このエネルギーハーベスティング装置は電気エネルギー貯蔵装置32に電流を供給するための電気エネルギーを生成し、電気エネルギー貯蔵装置32が貯蔵したエネルギーは、電磁石に電流を供給するために用いられる。フェンダー内の油圧シリンダからリザーバへの管路内に、過圧バルブと直列に、油圧流駆動型の発電機を追加してもよい。このように、船舶がフェンダーを圧縮するときに電気エネルギーを得て、その後船舶が離れるときに、この電気エネルギーを用いて船舶をフェンダーに向かって引き寄せることができる。
【0037】
磁気による保持力のさらなる効果は、フェンダーと船舶の壁との間の摩擦力(例えば、スティックスリップ摩擦)を増加させ、長手方向の力に対抗できるようにすることである。また、この摩擦力により、長手方向の力に対抗するために係留索保持装置に要求される力を低減させることができる。
【0038】
一実施形態では、フェンダーは、無線送信機および/または受信機と、位置および/または圧力感知機構とを備える。圧力感知機構は、油圧回路内、例えば油圧シリンダ内の一又は複数の圧力計であってもよい。位置感知機構は、一又は複数のマーカー、例えば磁気マーカーと、位置センサとを含んでいてもよい。マーカーはフェンダーの可動部分に、位置センサはフェンダーベース構造体に配置されるか、またはその逆でもよく、あるいは、マーカーはピストンロッドに、位置センサはメインシリンダ12の上もしくは外側に配置されるか、またはその逆でもよい。これにより、マーカーがセンサを通過して移動することを感知するようになっている。
【0039】
無線送信機と位置センサおよび/または圧力インジケータとに結合された(プログラムされた)論理回路またはマイクロコンピュータが提供されてもよい。マイクロコンピュータが有するプログラムは、位置センサおよび/または圧力インジケータからデータを受信するための命令と、このデータから導出された情報を無線送信機に送信させるか、またはデータが信号を生成するための所定の条件を満たしているかどうかを検出するためにデータを評価し、条件が満たされている場合に無線送信機にメッセージを送信させるための命令とを含む。この条件とは、メインピストンが少なくとも所定時間の間、最も端寄り領域内の位置に留まっていたことをデータが示すことである。送信されたメッセージは、受信されると、例えば制御室で表示されてもよい。
【0040】
図5は、ピストン16の全長にわたって、ピストン16の外径がシリンダ14の内径と等しいフェンダーの実施形態を示す。ピストン16に取り付けられたプレートまたはブロック12は、フェンダー面として機能し得る。
【0041】
図6は、フェンダーが、フェンダー面12とフェンダーベース構造体10(例えば岸壁)との間に結合された第1及び第2の調整可能な力調整装置60、62を備える実施形態を示す。この実施形態は、
図5の実施形態を用いて図示されているが、力調整装置60、62は、他の実施形態と組み合わせて使用されてもよい。力調整装置60,62は、フェンダー面12を岸に向かって引っ張る、および/またはフェンダー面12を岸から押し出す調整可能な力(例えば、プレテンション力)を及ぼすように構成された油圧ピストンとシリンダの組み合わせで構成されてもよい。別の実施形態では、力調整装置60、62は、調整可能な力でフェンダー面12を岸に向かって引っ張るために、一又は複数の装置(図示せず)に取り付けられた調整可能なスプリングおよび/またはケーブルから構成されてもよい。
【0042】
フェンダーは、船舶の移動中に力調整装置によって及ぼされる力を動的に変化させるための手段を備える。調整可能な力調整装置60、62は、力調整装置60、62によって加えられる力の量を動的に変化させるために力を加える機能を有する。この動的な変化は、船舶の移動から吸収されるエネルギーの量を増加させるために使用されてもよい。
【0043】
フェンダーは様々なタイミングで、船舶の移動からエネルギーを吸収したり、船舶の移動にエネルギーを付与したりすることができる。フェンダー面が船舶と接触している限り、エネルギー伝達率はv*Fで表すことができ、ここでvはフェンダー面の移動速度であり、Fはフェンダーが船舶に及ぼす力である。
【0044】
例えば、船舶の揺動運動中は、フェンダーが内側に圧縮された後に外側に移動することを繰り返すのに伴い、速度vは周期的に符号を変える。フェンダーが内側に移動するとエネルギーが吸収され(v<0)、外側に移動するとエネルギーが付与される(v>0)。船舶の揺動運動の周期内に力を増減させることにより、力調整装置60、62は、それぞれこの揺動運動の周期内にフェンダーによって及ぼされる反力Fを減少させたり増加させたりして、揺動運動からのエネルギーの正味の吸収量を増加させるために使用されてもよい。力の変化が、船舶の揺動運動の周波数におけるスペクトル周波数成分を有し、船舶の揺動速度変化の位相とは逆の位相成分を有する場合には、エネルギーは正味で吸収される。
【0045】
好ましくは、力調整装置60、62は同じ力を及ぼすように構成されている。2つの力調整装置60、62の代わりに、1つの力調整装置を使用してもよいし、2つを超える数の力調整装置を使用してもよい。
【0046】
図7に示す実施形態において、第1および第2の調整可能な力調整装置60、62が、シリンダ16の移動方向に対して非ゼロ角度(例えば、20度から70度の間の角度、好ましくは約45度の間の角度)をなす線に沿って、フェンダー面12とフェンダーベース構造体10との間に結合されている。このようにして、力調整装置60、62はまた、横方向の動き、例えば、シリンダ16の移動方向に対して横方向の船舶の移動に起因する動きに対してフェンダーを安定化させる役割を果たす。好ましくは、両方の力調整装置60,62の角度は同じであるが、ピストン16の移動方向を基準として反対方向である。
【0047】
一実施形態では、力調整装置に結合された論理回路またはマイクロコンピュータが提供されてもよい。そのような論理回路またはマイクロコンピュータは、例えば、うねりの状態の測定結果にしたがって、力調整装置によって及ぼされる力を動的に変化させるように構成されてもよく、これにより、フェンダーに及ぼされる力の予測および/またはフェンダーまたは力調整装置によって及ぼされる力に対する船舶の反応の予測が可能になる。