(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20230802BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20230802BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20230802BHJP
B23B 47/18 20060101ALI20230802BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20230802BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
G05B19/4155 R
G05B19/4155 V
B23Q15/12
B23B47/18 A
B23B47/18 B
B23B1/00 D
B23Q17/09 H
(21)【出願番号】P 2021574011
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002379
(87)【国際公開番号】W WO2021153483
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020011403
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】於保 勇作
(72)【発明者】
【氏名】園田 直人
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031897(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/051705(WO,A1)
【文献】特開2011-248473(JP,A)
【文献】特許第5631467(JP,B1)
【文献】特開2013-240837(JP,A)
【文献】中国実用新案第201079836(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/416
B23Q 15/00 - 15/28
B23B 47/18
B23B 1/00
B23Q 17/00 - 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具とワークとを相対的に回転させる主軸を制御するとともに、前記切削工具と前記ワークとを相対的に送り方向に揺動させながら移動させる送り軸を制御することにより、切削加工を実行する工作機械の制御装置であって、
所定の揺動条件に基づいて、前記切削工具と前記ワークとを相対的に送り方向に揺動させる揺動指令を生成する揺動指令生成部と、
前記揺動指令生成部で生成された揺動指令を、位置指令又は前記位置指令と位置フィードバックの差分である位置偏差に重畳して生成される重畳指令に基づいて、前記送り軸を駆動する電動機を制御する制御部と、を備え、
前記揺動指令生成部は、前記所定の揺動条件に基づいて算出される揺動位相、又は時間に基づいて、前記揺動指令の位相の進め方及び前記揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更
し、
前記工作機械の制御装置は、前記切削加工中の前記切削工具に生じる負荷を取得する負荷取得部をさらに備え、
前記揺動指令生成部は、
前記所定の揺動条件に基づいて揺動位相を算出する揺動位相算出部と、
前記所定の揺動条件に基づいて揺動振幅を算出する揺動振幅算出部と、
前記揺動位相算出部で算出された揺動位相及び前記揺動振幅算出部で算出された揺動振幅に基づいて、前記揺動指令を算出する揺動指令算出部と、を有し、
前記揺動位相算出部が、前記負荷取得部により取得される負荷が低減されるように、前記所定の揺動条件に基づいて算出された揺動位相の進め方を変更するか、又は、前記揺動振幅算出部が、前記負荷取得部により取得される負荷が低減されるように、前記所定の揺動条件に基づいて算出された揺動振幅を変更する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記工作機械の制御装置は、前記切削工具に関する工具情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記揺動指令生成部は、前記工具情報に基づいて前記揺動指令の位相の進め方及び前記揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記工作機械の制御装置は、前記位置偏差
を0に近づけるための前記重畳指令の補正量を算出し、算出された補正量を前記重畳指令に加算することにより前記重畳指令を補正する
ことで、前記揺動指令に対する追従性を向上させる学習制御部をさらに備える、請求項1
又は2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記揺動指令生成部は、前記揺動指令の位相を、前記切削工具と前記ワークとを相対的に回転させる主軸の位相に同期させる、請求項1~
3いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具(以下、工具という。)としてドリルを用いた穴開け加工が知られている。この穴開け加工のうち、1回のパスで穴開けを行うノンステップ加工では、ドリルへの切屑の絡まりや加工穴への切屑の詰まりが生じ易いことが知られている。そのため、ステップ送りやペッキング(戻り動作)により、切屑を分断して排出する対策が提案されているが、この場合には、工具がワークに切り込む際に大きなショックが生じ、刃先が破損するおそれがある。
【0003】
そこで、工具を送り方向に低周波振動させながらワークを切削加工する技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。これらの技術によれば、切削加工により生じる切屑を分断しながら切削加工を実行することができ、加工精度、作業性及び工具寿命を高めることができるとされている。
【0004】
しかしながら上記特許文献1では、位置指令の送り速度を変更することが記載されているものの、切り込みの際のショックの低減については考慮されていない。また同様に特許文献2では、揺動の往復で速度を変更することが記載されているものの、所定の主軸角度で往復を切り替えているだけで、切リ込みの際のショックの低減については考慮されていない。
【0005】
これに対して特許文献3では、工具が後退しない範囲で送り速度を増減させることが記載されており、これにより切り込みの際のショックの低減効果があるとされている。しかしながら、工具の後退を行わないため切屑を排出し難く、工具に切屑が絡まる等して加工不良が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015-162739号公報
【文献】特開2018-126863号公報
【文献】特許第5631467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、切屑を確実に分断して排出できるとともに、工具がワークに切り込む際のショックを低減することで工具の破損を抑制できる工作機械の制御装置を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、切削工具とワークとを相対的に回転させる主軸を制御するとともに、前記切削工具と前記ワークとを相対的に送り方向に揺動させながら移動させる送り軸を制御することにより、切削加工を実行する工作機械の制御装置であって、所定の揺動条件に基づいて、前記切削工具と前記ワークとを相対的に送り方向に揺動させる揺動指令を生成する揺動指令生成部と、前記揺動指令生成部で生成された揺動指令を、位置指令又は前記位置指令と位置フィードバックの差分である位置偏差に重畳して生成される重畳指令に基づいて、前記送り軸を駆動する電動機を制御する制御部と、を備え、前記揺動指令生成部は、前記所定の揺動条件に基づいて算出される揺動位相、又は時間に基づいて、前記揺動指令の位相の進め方及び前記揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更する、工作機械の制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、切屑を確実に分断して排出できるとともに、工具がワークに切り込む際のショックを低減することで工具の破損を抑制できる工作機械の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係るドリル加工を示す図である。
【
図2】従来のドリル加工における工具の動きを示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るドリル加工における工具の動きを示す図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る工作機械の制御装置の機能ブロック図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係るドリル加工の揺動位相の変化率を示す図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係るドリル加工の揺動位相を示す図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係るドリル加工の揺動指令を示す図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係るドリル加工の重畳指令を示す図である。
【
図9】切り込みの際のショックを低減できる重畳指令を示す図である。
【
図10】切り込みの際のショックを低減できない重畳指令を示す図である。
【
図11】工具の刃数が2のときの各刃の軌跡を示す図である。
【
図12】工具の刃数が3のときの各刃の軌跡を示す図である。
【
図13】本開示の一実施形態に係るドリル加工の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係るドリル加工を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態に係るドリル加工は、工具Tとしてドリルを用いてワークWに穴開け加工を施すものである。より詳しくは、本実施形態に係るドリル加工は、工具TとワークWとを相対的に回転させるとともに、工具TとワークWとを相対的に送り方向に揺動させながら穴開け加工することにより、切屑を分断できるものである。以下では、ワークWを固定し、工具Tを主軸により回転させながら送り軸により移動させて加工する例について説明する。
【0013】
ここで、
図2は、従来のドリル加工における工具の動きを示す図である。
図2に示されるように、従来の戻り動作ありのドリル加工では、工具Tは送り方向の戻り動作によって、加工中の穴の底面(以下、ワーク底面という。)から一旦離隔する方向に移動する。このとき、切屑が分断される。次いで、工具Tは再びワークWに接近する方向に移動する切り込み動作によって、ワーク底面に接触し、切り込みが再開される。このとき、工具Tとワーク底面の接触によってショックが生じる。従来ではこのショックの低減については考慮されておらず、
図2に示されるように工具の速度(傾き)は一定であるため、大きなショックが生じている。
【0014】
これに対して、
図3は、本実施形態に係るドリル加工における工具Tの動きを示す図である。
図3に示されるように、本実施形態に係るドリル加工では、後段で詳述するように位置指令に正弦波状の揺動指令を加算(以下、重畳という。)することにより生成される重畳指令に従って工具Tが動作する。具体的には、工具Tは送り方向に揺動されるため、送り方向の後退動作(以下、復動ともいう。)によって、工具Tはワーク底面から一旦離隔する方向に移動する。このとき、切屑が分断される。次いで、送り方向の前進動作(以下、往動ともいう。)によって、再びワーク底面に接触して切り込みが再開される。このとき、本実施形態のドリル加工では、後段で詳述するように往動と復動とで正弦波状の揺動位相及び/又は揺動振幅を変更するため、
図3に示されるように工具の速度(傾き)を変化させることができる。そのため、切り込みの際の工具の速度を遅くすることもでき、切り込みの際のショックを低減できるようになっている。
【0015】
次に、本実施形態に係るドリル加工を実行する工作機械の制御装置の構成について、
図4を参照しながら詳しく説明する。本実施形態に係る工作機械の制御装置100は、工具TとワークWとを相対的に回転させる主軸のモータ(不図示)を制御するとともに、工具TとワークWとを相対的に送り方向に揺動させながら移動させる送り軸のモータ30を制御することにより、ドリル加工を実行する。本実施形態に係る工作機械の制御装置100は、例えば、CPU、メモリ等を有するコンピュータに、本実施形態に係るドリル加工を実行させるプログラムを読み込ませることによって実現される。
【0016】
図4は、本実施形態に係る工作機械の制御装置100の機能ブロック図である。
図4に示されるように、本実施形態に係る工作機械の制御装置100は、位置指令作成部21と、記憶部22と、サーボ制御装置10と、加算器11,13と、積算器12と、学習制御部14と、位置速度制御部15と、揺動指令生成部16と、負荷取得部17と、を備える。
【0017】
位置指令作成部21は、位置指令を作成する。具体的には、位置指令作成部21は、後述の記憶部22に記憶された加工プログラムを解析することにより、送り軸のモータ30の位置指令を作成する。
【0018】
加算器11は、位置偏差を算出する、具体的には、加算器11は、送り軸のモータ30に設けられるエンコーダ(不図示)による位置検出に基づいた位置フィードバックと、上記位置指令作成部21で作成された送り軸の位置指令と、の差分である位置偏差を算出する。
【0019】
積算器12は、位置偏差の積算値を算出する。具体的には、積算器12は、上記加算器11で算出された位置偏差を積算することにより、位置偏差の積算値を算出する。
【0020】
加算器13は、重畳指令を算出する。具体的には、加算器13は、上記積算器12で算出された位置偏差の積算値に対して、後述する揺動指令生成部16で生成される揺動指令を加算(重畳)することにより、重畳指令を生成する。重畳指令の生成方法については、後段で詳述する。
【0021】
学習制御部14は、上記位置偏差に基づいて重畳指令の補正量を算出し、算出された補正量を重畳指令に加算することにより、重畳指令を補正する。より詳しくは、学習制御部14は、周期的な重畳指令に基づいて周期的な補正量を繰り返し算出する。具体的には、学習制御部14は、メモリを有し、ある周期を定義できるモータ30の理想位置と実位置との偏差をメモリに記憶し、周期ごとにメモリに記憶された偏差を読み出すことで偏差を0に近づけるための補正量を算出し、算出した補正量を重畳指令に重畳して補正する。本実施形態の重畳指令は、揺動指令を含むことで位置偏差が生じ易いところ、この学習制御部14による補正により、周期的な揺動指令に対する追従性が向上する。
【0022】
また学習制御部14は、好ましくは重畳指令と揺動指令の位相とを対応付けてメモリに記憶し、記憶された重畳指令と揺動指令の位相との対応関係に基づいて重畳指令の補正量を算出する。これにより、周期的な揺動指令に対する追従性がより向上する。
【0023】
位置速度制御部15は、上記補正後の重畳指令に基づいて、送り軸を駆動するモータ30に対するトルク指令を生成し、生成したトルク指令によりモータ30を制御する。これにより、送り軸を駆動するモータ30は、揺動を伴いながら指令位置に到達する。
【0024】
揺動指令生成部16は、所定の揺動条件に基づいて、工具TとワークWとを相対的に送り方向に揺動させる揺動指令を生成する。
図4に示されるように、揺動指令生成部16は、揺動位相算出部163と、揺動振幅算出部161と、揺動指令算出部162と、を有する。揺動位相算出部163は、所定の揺動条件に基づいて基準位相を算出(不図示)し、時間もしくは基準位相に所定の揺動条件に基づく変化率を乗じて揺動位相を算出する。揺動振幅算出部161は、所定の揺動条件に基づいて揺動振幅を算出する。揺動指令算出部162は、揺動位相算出部163で算出された揺動位相及び揺動振幅算出部161で算出された揺動振幅に基づいて、揺動指令を算出する。ここで、所定の揺動条件は、後述する記憶部22に記憶された加工プログラムから取得可能な揺動位相情報や揺動振幅情報、時刻、工具TとワークWの相対回転の回転数である。揺動指令生成部16は、これら揺動位相情報及び揺動振幅情報に基づいて、揺動指令を生成する。
【0025】
揺動位相算出部163は、好ましくは後述する負荷取得部17により取得される工具Tの加工負荷が低減されるように、所定の揺動条件に基づいて算出された揺動位相の変化率を変更する。同様に、揺動振幅算出部161は、好ましくは後述する負荷取得部17により取得される工具Tの加工負荷が低減されるように、所定の揺動条件に基づいて算出された揺動振幅を変更する。これらにより、加工負荷の増減に応じて揺動位相や揺動振幅を変更でき、切り込みの際のショックをより低減可能となっている。
【0026】
本実施形態において特徴的なこととして、揺動指令生成部16は、時間、又は所定の揺動条件に基づいて算出される基準位相に基づいて、揺動指令の位相の進め方及び揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更する。ここで、揺動指令の位相の進め方の変更には、少なくとも揺動位相の変化率の変更が含まれ、揺動振幅の変更も含み得る。この揺動指令の位相の進め方や揺動指令の振幅の変更により、切り込みの際のショックを低減可能となっており、これについては後段で詳述する。
【0027】
また、揺動指令生成部16は、好ましくは工具情報に基づいて、揺動指令の位相の進め方及び揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更する。工具情報は、後述する記憶部22に記憶される。工具情報としては、工具Tの刃数、工具Tの径等を含む工具Tの緒元が含まれる。例えば、工具径に対する加工深さの比率が所定値以上の場合には、揺動位相の変化率を大きくすることにより切屑の排出性を高めることができる。また、例えば工具Tの刃数が多いほど、各刃の軌跡が重なり易くなって空振り(エアカット)が生じ易くなるため、揺動位相の変化率を大きくしたり、揺動振幅を小さくしても、切屑を分断することができる。この工具Tの刃数と揺動指令との関係については、後段で詳述する。
【0028】
また、揺動指令生成部16は、好ましくは揺動指令の位相を、工具TとワークWとを相対的に回転させる主軸の位相に同期させる。例えば工具Tの刃数が多い場合、各刃同士の間隔が狭いため切屑の排出性が悪いところ、揺動指令の位相を主軸の位相と同期させることにより、切屑の排出性を向上できる。この揺動指令の位相と主軸の位相との同期については、後段で詳述する。
【0029】
記憶部22は、工具Tに関する工具情報(工具Tの刃数、工具Tの径等を含む工具Tの緒元)、加工プログラム、加工プログラムから取得可能な揺動位相情報(例えば揺動位相の変化率)及び揺動振幅情報(例えば揺動振幅倍率)、時刻、工具TとワークWの相対回転の回転数(主軸回転数)等の情報を記憶する。
【0030】
負荷取得部17は、切削加工中の工具Tに生じる加工負荷を取得する。具体的には、負荷取得部17は、重畳指令又はモータ30の電流値やトルク指令から切削加工中の工具Tが受ける加工負荷を取得する。
【0031】
次に、時間に基づいて揺動指令の位相の進め方を変更する場合の本実施形態の重畳指令の生成方法について、
図5~
図8を参照しながら詳しく説明する。ここで、
図5は、本実施形態に係るドリル加工の揺動位相の変化率を示す図である。
図6は、本実施形態に係るドリル加工の揺動位相を示す図である。
図7は、本実施形態に係るドリル加工の揺動指令を示す図である。
図8は、本実施形態に係るドリル加工の重畳指令を示す図である。
【0032】
先ず、揺動位相と主軸回転の位相とを同期させない場合には、揺動指令は以下の数式(1)により算出される。
[数1]
揺動指令=(K×F/2)×cos(2π×I×t)-(K×F/2) ・・・(1)
【0033】
上記数式(1)中、Kは工具の移動量に対する揺動振幅の倍率であり、Fは工具の移動量、即ち毎回転送り量[mm/主軸1回転]であり、Iは単位時間あたりの揺動位相の変化率であり、tは時刻[s]である。また、(K×F/2)は揺動振幅、(2π×I×t)は揺動位相、-(K×F/2)は揺動を行わない通常切削時の指令位置に対して余分に切り込まないためのオフセットを表している。
【0034】
ここで、揺動位相がπとなる時間t
1と、揺動位相が2πとなる時間t
2を閾値として、揺動位相変化率Iを変化させる場合、重畳指令は
図5~
図8に示されるようにして生成される。このとき、I
1及びI
2は、それぞれ所定の周波数から直接指定してもよいし、I1を1として、I2を所定の周波数に乗じる倍率として指定してもよい。
【0035】
先ず、
図5に示されるように、t
1からt
2の間、揺動位相の変化率はI
1からより大きいI
2に変化している。このとき、
図6に示されるように、t
1からt
2では他の時間と比べて揺動位相の変化率(周波数)が大きいことを意味しており、揺動位相の傾きは大きくなっていることが分かる。また、このとき生成される揺動指令は、
図7に示されるような正弦波状の揺動指令となっており、この図からもt
1からt
2間において揺動位相の変化率(周波数)が大きいことが分かる。そして、
図7に示される揺動指令を、位置指令(揺動無し)に重畳した重畳指令は、
図8に示されるような正弦波状の重畳指令となる。以上のようにして、重畳指令が生成される。
【0036】
次に、本実施形態に係るドリル加工における切り込みの際のショック低減方法について、
図9及び
図10を参照しながら詳しく説明する。ここで、
図9は、切り込みの際のショックを低減できる重畳指令を示す図である。また、
図10は、切り込みの際のショックを低減できない重畳指令を示す図である。
【0037】
図9及び
図10では、ある揺動の1周期を示している。また、
図9及び
図10中、t
0は揺動位相=0の時刻(I×t
0=0)、t
1は揺動位相=πの時刻(I×t
1=0.5)、t2は揺動位相=2πの時刻(I×t
2=1)、tiは工具TとワークWが接触する瞬間の時刻を表している。
【0038】
図9は、速度からショック低減の条件を設定した場合の重畳指令を示している。揺動位相がπとなるt
1では、重畳指令の速度は(揺動指令を含まない)位置指令と同一となる。この速度は、
図9において、t
1における重畳指令の曲線の傾きで示される。数式で示すと、揺動位相がπのとき重畳指令の速度の式である以下の数式(5)においてsinを含む項は0となる。この時の速度は以下の数式(3)で示されるように、通常切削の速度と同一となる。また、工具Tがワーク底面に接触する瞬間t
iにおいて、0<I×ti<0.5を満たすようにIを変化させた場合、重畳指令の傾きはt
1における傾きより小さくなり、揺動をしない通常切削時よりも衝突の瞬間のショックを低減できることが分かる。一方、
図10から、0<I×ti<0.5を満たさないようにIを変化させた場合、衝突の瞬間の速度は通常切削よりも大きくなることが分かる。この場合は、ショック低減の効果を発揮できないと言える。
【0039】
従って、工具Tがワーク底面に接触する瞬間において、重畳指令の傾きが通常切削時の傾き以下であれば、従来の通常のステップ加工等に比してショックを低減でき、工具寿命を高められると言える。なお、さらに工具寿命を改善するためには、重畳指令の傾きの符号は途中で反転するように揺動振幅を調整するのが望ましい。即ち、工具Tがワーク底面から一旦離れクーラントが底面に供給されるようにするのが好ましい。これにより摩擦熱や切削熱による切屑の溶着を防ぎ、加工面の面質や工具寿命の改善が期待できる。
【0040】
次に、加速度、加加速度によるショック低減方法について、以下に説明する。
揺動を含まない通常切削の場合、指令位置は毎分あたりの主軸回転数Sを用いて以下の数式(2)で表され、速度は以下の数式(3)で表される。
[数2]
指令位置=F[mm/主軸1回転]×S[主軸1回転/分]×t[秒]/60 ・・・(2)
指令速度=F×S/60 ・・・(3)
【0041】
これに対して、揺動指令を重畳する場合、重畳指令による指令位置は以下の数式(4)で表され、速度、加速度及び加加速度はそれぞれ以下の数式(5)、(6)、(7)で表される。
[数3]
指令位置=F×S×t/60+(K×F/2)×cos(2π×I×t)-(K×F/2)
・・・(4)
指令速度=F×S/60-(π×I×K×F)×sin(2π×I×t)・・・(5)
指令加速度=-2π2×I2×K×F×cos(2π×I×t)・・・(6)
指令加加速度=4π3×I3×K×F×sin(2π×I×t)・・・(7)
【0042】
上述したように、重畳指令の傾きが通常切削時の傾きF×S/60[mm/秒]以下であれば切り込みの際のショックを低減できるため、工具Tとワーク底面の衝突時の速度からショック低減の条件を設定する場合、F×S/60>F×S/60-(π×I×K×F)×sin(2π×I×t)となればよい。0<I×t<0.5とすれば、sinを含む項は負であるため、通常切削よりも遅い速度となる。
【0043】
工作機械の制御装置100は、モータ30の位置フィードバックから加工済みの領域を判別でき、また揺動位相の進め方も既知であるから、重畳指令により動作する工具TがワークWと衝突する時刻を求めることができる。従って、その時刻において上記の不等式を満たすようにIを変更することで、ショックを低減できる。
【0044】
また、工具TがワークWを切削する時間領域において、上記加速度-2π2×I2×K×F×cos(2π×I×t)が最小となるようにI及びKの値を変更することで、加工中の工具Tの加速度を抑えるようにして、ショック低減の条件を設定してもよい。
【0045】
また、揺動全体において加加速度4π3×I3×K×F×sin(2π×I×t)が最小となるようにするようにI及びKの値を設定し、工具Tを含む送り軸の駆動部の揺動によって機械全体が受けるショックを低減するようにしてもよい。
【0046】
次に、揺動位相と主軸回転の位相の同期について、
図11及び
図12を参照しながら説明する。ここで、
図11は、工具Tの刃数が2のときの各刃の軌跡を示す図である。また、
図12は、工具Tの刃数が3のときの各刃の軌跡を示す図である。
【0047】
先ず、揺動位相を主軸回転に同期させる場合、揺動指令は以下の数式(8)で表される。
[数4]
揺動指令=(K×F/2)×cos(2π×S×I´×t/60)-(K×F/2)
・・・(8)
【0048】
上記数式(8)中、Sは主軸の回転速度[分-1]あるいは[rpm]であり、I´は主軸1回転あたりの揺動位相の変化率を表している。F、K、tについては、上述の数式(1)と同様である。この揺動位相と主軸回転の位相とを同期させる場合においても、上述の揺動位相と主軸回転の位相とを同期させない場合と同様にして重畳指令を作成可能である。
【0049】
図11及び
図12から明らかであるように、工具Tの刃数が多いほど、工具Tの各刃の軌跡が重なる点が増え、空振り(エアカット)が生じ易くなり、切屑を分断し易くなる。例えば刃数が1の場合には、主軸1回転につき非整数倍の周波数で揺動させるのが好ましいのに対して、刃数が増えると主軸回転の1回転に同期させるだけで効率良く安定した大きさに切屑を分断できる。例えば、複数回転につき1回の揺動でも同様の効果がある。
【0050】
また、
図11と
図12を比較すると明らかであるように、工具Tの刃数が多いほど、より小さい揺動振幅で切屑を分断できる。揺動振幅が小さければ、消費電力上でメリットがある。また、刃数の多い工具Tは、切削効率が高いが、各刃の間隔が狭いため切屑の排出性が悪いところ、主軸位相に同期した揺動位相とすることにより、切屑をより確実に分断してこの問題を解消できる。この場合、加工効率の点でもメリットがあると言える。
【0051】
次に、本実施形態に係る工作機械の制御装置100により実行されるドリル加工の手順について、
図13を参照しながら説明する。ここで、
図13は、基準位相をもとに揺動位相の進め方を変更する場合の本実施形態に係るドリル加工の手順を示すフローチャートである。
【0052】
先ず、ステップS1では、加工プログラムから位置指令、周波数情報及び変化率I1、I2を含む揺動位相情報、揺動振幅情報を取得する。次いで、ステップS2では、取得した周波数情報より基準位相θを計算し、更新する。なお、周波数情報に代えて主軸位相と同期するように基準位相θを算出してもよい。
【0053】
次いで、ステップS3では、計算した基準位相θが所定の閾値以上であるか否かを判別する。この判別がYESであれば、ステップS4で変化率I1を乗じた基準位相θより揺動位相θ´を算出(更新)する。また、この判別がNOであれば、ステップS5で変化率I2を乗じた基準位相θより揺動位相θ´を算出(更新)する。
【0054】
ステップS6では、揺動位相θ´と揺動振幅に基づいて揺動指令を生成し、ステップS7では、位置指令に揺動指令を加算(重畳)して、重畳指令を生成する。揺動指令及び重畳指令の生成方法については上述した通りである。
【0055】
ステップS8では、ステップS7で生成した重畳指令により送り軸を駆動するモータ30を動作させ、ステップS8では、モータ30が指令位置に到達したか否かを判別する。この判別がNOであればステップS2に戻って本処理を再度実行し、YESであれば本処理を終了する。
【0056】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
(1) 本実施形態では、所定の揺動条件に基づいて工具TとワークWとを相対的に送り方向に揺動させる揺動指令を生成する揺動指令生成部16を設け、所定の揺動条件に基づいて算出される揺動位相、又は時間に基づいて、揺動指令の位相の進め方及び揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更するよう構成する。
本実施形態によれば、揺動動作の1周期内において往動と復動とで位相の進め方、即ち周波数や振幅を変化させることができ、これにより、切屑を確実に分断して排出できるとともに、工具TがワークWに切り込む際のショックを低減することで工具の破損を抑制できる。
具体的には、例えば一定速度の切削送り指令に正弦波の揺動指令を重畳し、工具Tが重畳指令により後退してから再度ワークWに接触するまでの区間において、時間当たりの揺動位相変化率に所定の倍率を乗じて位相の進みを遅くすることができる。あるいは、第1周波数情報、第2周波数情報を加工プログラムで指定して、上記区間で切り替えて位相の進みを遅くすることができる。これらにより、切り込む際のショックを確実に低減できる。
また、本実施形態では、揺動の周波数(位相の進め方)のみを変更でき、位置指令の送り速度はそのまま維持できるため、揺動しない場合と同じサイクルタイムで動作できる。また、揺動動作の復動により工具Tをワーク底面から離すことができ、工具先端の摩耗や加工点の温度上昇も抑制できる。
【0057】
(2) 本実施形態では、工具Tに関する工具情報を記憶する記憶部22をさらに設け、この工具情報に基づいて揺動指令の位相の進め方及び揺動指令の振幅のうち少なくとも一方を変更するよう構成する。
本実施形態によれば、工具Tの交換のタイミング等において、工具Tの刃数や工具径等の工具条数に関する工具情報に合わせて、1周期内というよりは全体の位相に対して、揺動指令の位相の進め方や揺動指令の振幅を変更することができる。そのため、より最適な揺動指令を生成することができ、過度の揺動による工具摩耗を抑制できる。
例えば、工具径に対する加工深さの比率が所定値以上の場合には、揺動位相(周波数)を大きくするころにより切屑の排出性を高めることができる。また、例えば工具Tの刃数が多いほど、各刃の軌跡が重なり易くなって空振り(エアカット)が生じ易くなるため、揺動位相(周波数)を大きくしたり、揺動振幅を小さくしても、切屑を分断することができる。
【0058】
(3) 本実施形態では、切削加工中の工具Tに生じる負荷を取得する負荷取得部を設け、揺動位相算出部163が、負荷が低減されるように、所定の揺動条件に基づいて算出された揺動位相の進め方を変更するか、あるいは、揺動振幅算出部161が、負荷が低減されるように、所定の揺動条件に基づいて算出された揺動振幅を変更するよう構成する。
これにより、切り込みの際のショックが大きい揺動位相の進め方や揺動振幅を変更できるため、過度な切削負荷が生じた際に工具が破損するのをより確実に抑制できる。例えば、負荷が所定の閾値を越えた際に、工具Tが切屑を噛み込んだと判断して、空振り(エアカット)の時間が長くなるように揺動位相や揺動振幅を変更することにより、より確実にショックを低減でき、工具Tの破損をより抑制できる。
【0059】
(4) 本実施形態では、位置偏差に基づいて前記重畳指令の補正量を算出し、算出された補正量を重畳指令に加算することにより、重畳指令を補正する学習制御部14を設ける。
これにより、例えば高周波数の揺動でもモータ30が重畳指令に対して正確に追従でき、効率良く切屑を分断できる。また、切削負荷が大きい場合や、揺動する送り軸の反動が大きいために重畳指令に追従できない場合でも、重畳指令に対して正確に追従でき、効率良く切屑を分断できる。
【0060】
(5) 本実施形態では、揺動指令の位相を、工具TとワークWとを相対的に回転させる主軸の位相に同期させるよう構成する。
これにより、より効率的に切屑の分断ができるとともに、高速な揺動に対する追従が可能となる。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
例えば上記実施形態では、切削工具としてドリルを用いた穴開け加工に対して本発明を適用したが、これに限定されない。例えば旋削加工やねじ切り加工等の他の切削加工にも適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 サーボ制御装置
11,13 加算器
12 積算器
14 学習制御部
15 位置速度制御部(制御部)
16 揺動指令生成部
17 負荷取得部
21 位置指令作成部
22 記憶部
30 モータ(電動機)
100 工作機械の制御装置
161 揺動振幅算出部
162 揺動指令算出部
163 揺動位相算出部