IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本ピットの特許一覧

特許7324392ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造
<>
  • 特許-ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造 図1
  • 特許-ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造 図2
  • 特許-ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/323 20140101AFI20230803BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20230803BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/322
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022104069
(22)【出願日】2022-06-07
【審査請求日】2023-02-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390017813
【氏名又は名称】株式会社日本ピット
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 希
(72)【発明者】
【氏名】西原 良彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 淳
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-69167(JP,A)
【文献】特開2015-147234(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105163(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板と炭素鋼板との面溶接構造において、前記炭素鋼板を亜鉛鍍金鋼板とし、この亜鉛鍍金鋼板の側端面と前記ステンレス鋼板との当接部にファイバーレーザー溶接による亜鉛合金層の溶接部を形成してなり、前記亜鉛鍍金鋼板は、炭素≦7%、厚み2.5~4.5mm、亜鉛目付量100~120g/mmの条件とし、前記ステンレス鋼板は、鉄(Fe)50%以上を主成分としクロム(Cr)を10.5%以上含み、炭素≦3%、厚み:2.5~5mmにしたことを特徴とするステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
室内等の床面に設けられる配線ケーブル用或いは給排水用のピットや、屋外の処理施設等に埋設される各種槽には、それらの開放上面(即ち設置面の開口部)を塞いで設置面と上面が略面一となる所謂「配管ピットの開口部の蓋装置」が付設される。
【0003】
この通称ピット蓋装置は、従来、必要な耐荷を確保するために蓋本体を鋼板より形成していた。蓋本体は、断面L型のステンレス製側枠アングルの間にSS製底板を溶接して上部開放型のボックスを作成し、このボックス内における底板上にモルタルを敷きその上にタイルを貼設して歩行者等の重量を受けても耐えられる剛性にしてある。
従って前記従来のピット蓋装置は、側枠アングルや底板が厚いSS製の重量体になり、しかもこれら部材間の全係合部に溶接棒を用いてアーク溶接しなければならない。
このように従来のピット蓋装置は、製作には多くの工程を要し且つ重筋作業を伴うもので必然的にコストが大幅に嵩むものであった。
これ等の現状から、本発明者等は、製作が極めて簡易であり、しかも軽量化を可能にしながら十分な強度を有し且つ大幅なコストダウンを可能にする蓋装置として、ステンレス鋼板と炭素鋼板との組み合わせで該軽量化と、十分な強度を有し安価に製作が簡易にできる研究を開始した。
【0004】
そこで、一般に金属の溶接方法は「融接」「固相溶接」および「ろう接」の3つに分類される。融接(ゆうせつ)は溶接界面が液相と液相の接触による溶接(Welding)被溶接金属の溶接部を加熱し、溶融させて溶接する方法であり、代表的なものとして電気・ガス・レーザ溶接がある。固相溶接(こそうせつごう)は溶接界面が固相と固相の接触による溶接(SolidStateBonding)で被溶接金属に機械的圧力を加え、溶接界面に局部的な塑性変形を生じさせ、溶接する方法であり、拡散溶接や超音波金属溶接が挙げられる。ろう接(ろうせつ)は溶接界面が液相と固相の接触による溶接(Brazing:ブレージング)で被溶接金属よりも融点の低いロウ材を溶接界面に流し、溶接する方法であり、各種ロウ付けがこれに当たる。
【0005】
そしてこのような金属溶接の選択は、材質、形状の他に表面状態や表面処理によって最適な溶接工法を選択することが必要である。
而してステンレス鋼板と炭素鋼板の溶接は即ち、異種金属溶接方法は材質によって融点・硬度・電気抵抗値等の違いがあり、材質によってはその特性を把握できていないと、非常に困難である。必要なのは、材質の特性の把握を行い、適切な溶接方法の選択が必要である。
更に、溶接の信頼性、コスト等による工法の選択についても重要な要素となる。
【0006】
本発明は前述しように「ステンレス鋼と亜鉛鍍金炭素鋼板との面溶接構造」であるがステンレス鋼と炭素鋼板との溶接自体に従来からいろいろな問題点が指摘されおり単純にはいかない。
即ち、溶接材料の選定を誤ると、溶接により炭素鋼板の希釈を受けるので、溶接金ステンレス中のNi、Cr含有量が減少し、脆く割れやすい組織になる。そこで、一般的にはNi、Cr含有量の多い309系溶材を限定的に使用していた。
例えば309系溶接材料を用いて炭素鋼による希釈(溶接条件)をコントロールすればステンレス鋼板とほぼ同等の成分となるため、高温割れの生じない安定した溶接金属を得ることが出来るといわれている。
【0007】
ステンレス鋼ステンレス304(18Cr-8Ni)と軟鋼(SS41)の異材溶接をD309溶接棒を用いて継手溶接を行った場合、図3にあるシェフラーの状態図により、溶接金属の組成を推定することができる。ステンレス304(18Cr-8Ni)と軟鋼(SS41)のNi当量(%Ni+30×%C+0.5×%Mn)とCr当量(%Cr+%Mo+1.5×%Si+0.5×%Nb)をそれぞれ算出し、図3にプロット(A,B)する。両点を直線で結んだ中央が溶接点(C)となる。
【0008】
さらに、D309溶接棒のNi当量、Cr当量をそれぞれ算出し、図3にプロット(D)すると、ここでD点とC点の直線上が溶接金属組成の存在するラインとなる。母材への希釈が少ない段階では、溶接金属はD309の組成に近いオーステナイト+フェライトの混合領域があり、希釈の増加に伴ってその組成はオーステナイト単層の預域を経て、オーステナイト+マルテンサイトの混合領域へと変化していく。
ここで、溶接時の割れを防止するには、溶接金属の組成をオーステナイト+フェライト混合領域にすることが有効であるので、この観点から溶接時の希釈をE点より右側(希釈率約30%以下)になるようにする必要がある。実際の施工においては、磁気吹きの影響で軟鋼側の方がステンレス鋼側よりも希釈を受け、図3中のC点は軟鋼(B点)側に移動するので、希釈をさらに低めに抑える必要がある。一般的には、高温割れ防止の観点から溶接金属中のフェライト量を最低でも約3%以上確保することが必要とされている。軟鋼の炭素鋼板の板厚が厚い場合には、炭素鋼板の開先面に309系溶材にてバタリングを行い、溶接を行った方が耐割れ性の点から有効であると言われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように従来からステンレス鋼と炭素鋼との異種金属溶接は簡単にはいかない。
本発明は、前記のように制限される溶接棒を用いることなく、従って希釈率を抑えることなく、オーステナイト+フェライトの混合領域にすることなくしかも開先を加工することなく、溶接中のバタリングを防止して、溶接時の割れ、歪が無い健全な溶接を迅速簡単にしかも安価に可能にして、しかも、製作が極めて簡易であり、軽量化を有利に可能にしながら十分な溶接状態を有する「ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造」を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述の課題を解決するものでありその技術的特徴は次の(1)~(2)の通りである。
(1)、ステンレス鋼板と炭素鋼板との面溶接構造において、前記炭素鋼板を亜鉛鍍金鋼板とし、この亜鉛鍍金鋼板の側端面と前記ステンレス鋼板との当接部にファイバーレーザー溶接による溶接部を形成してなることを特徴とするステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造。
(2)、より好ましい具体的な技術条件は、前記亜鉛鍍金鋼板は、炭素≦7%、厚み2.5~4.5mm、亜鉛目付量100~120g/mmの条件とし、前記ステンレス鋼板は、鉄(Fe)50%以上を主成分としクロム(Cr)を10.5%以上含み、炭素≦3%、厚み:2.5~5mmの条件にすることにより、前記ファイバーレーザー面溶接による前記亜鉛合金層の溶接部は、適正良好な溶接ビードとなり引張強度が前記亜鉛鍍金鋼板の母材のそれよりも高く得られることが可能である。特に前記亜鉛鍍金鋼板の厚みと目付量との関係でバランスがあり範囲を外れると溶接ビード及び引張強度ともに低下することが実験から判明した。
【発明の効果】
【0011】
本発明において使用するファイバーレーザー溶接とは一般に非接触で局所的な加熱が可能ビームの小径スポットによる高いエネルギー密度溶接スピードが高速CW(連続発振)溶接による連側照射ファイバーレーザーによる非接触溶接である。
つまりステンレス鋼板と単なる炭素鋼板との溶接に比して、亜鉛鍍金鋼板の側端面と前記ステンレス鋼板との面接触部を、非接触の高速の連側照射で溶接することにより形成される溶接部とその近傍は焼けや歪みが殆ど無く、薄物でもきれいで滑らかな溶接ビードを実現し外観が美しく仕上がると共にZnを微量に含むせいか「ステンレス鋼板と亜鉛鍍金の無い単なる炭素鋼板とのファイバーレーザー面溶接」では全く得られない「母材よりも高い引張強度等が得られる」新規な作用効果を得ることができた。
このため溶接工程の大幅な削減を可能にした。また溶接の際に発生するスパッタ(溶融金属の飛散)の発生が極端に少なくしたがってスパッタの固着の問題も皆無に近い、更に溶接部表面にくぼみができないため、仕上げ処理も不要である。
このようなステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との初のファイバーレーザー面溶接による作用効果の出現は業界初の発見である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の「ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造」のサンプル1と2の片側溶接部の縦断面説明図例を(1)に示し、サンプル3と4の両側溶接部の縦断面説明図例を(2)に示す。
図2】前記各溶接部縦断面の顕微鏡写真(1)とその拡大スケッチ図(2)
図3】シェフラーの状態図
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態を以下に紹介の図1図2に示す実施例と共に詳細に説明する。
【実施例
【0014】
本例の面溶接構造例はサンプル1~4であり、その詳細仕様内容を表1に示し、構造を図1の(1)と(2)に示す。
【0015】
【表1】
すなわち本例の面溶接構造で図1(1)に示すサンプル1~2は、ステンレス鋼板100の平面に亜鉛鍍金鋼板200の側端面を当接してT字型に組み、亜鉛鍍金鋼板200の側端面の片側のみをステンレス鋼板100の平面にファイバーレーザー溶接した例の縦断面図である。201・202は亜鉛鍍金鋼板200の表・裏面亜鉛鍍金層である。
【0016】
図1(2)に示すサンプル3~4は、ステンレス鋼板100の平面に亜鉛鍍金鋼板200の側端面を当接してT字型に組み、亜鉛鍍金鋼板200の側端面の両側をステンレス鋼板100の平面にファイバーレーザー溶接した例の縦断面図である。201・202は亜鉛鍍金鋼板200の表・裏面亜鉛鍍金層である。
前記ステンレス鋼板100は、(18Cr-8Ni)製であり、厚み3.0mm、引張強度42kg/mm、硬度(ブリネルリネル硬さ:HBW換算)≦187)にしてある。
前記亜鉛鍍金鋼板200は。母材SS400の厚み3.2mm、引張強度39N/mm、硬度(ブリネル硬さ:HBW換算)120-400、亜鉛目付量120g/mにしてある。
【0017】
前記図1(1)と(2)におけるサンプル1~4において使用のファイバーレーザー溶接機の仕様概要は、レーザーの定格出力(CW)500W、発信制御モード:パルスモード・ショート/ロング、パルス幅(CW):50.0~900.0ms(ショート)10.0~99.99s(ロング)の連続波、レーザー波長:1075nm±10nm、電源:単相 AC200V±10%である。
表2にファイバーレーザー溶接機の詳細仕様例を示す。
【0018】
【表2】
【0019】
表1で明らかなように前記溶接部Z1~Z3の各引っ張り強度はいずれも母材の亜鉛鍍金鋼板200よりも高い引っ張り強度を有していた。
【0020】
図2(1)に、前記サンプル1におけるファイバーレーザー溶接部Z1の顕微鏡写真を示し、この拡大スケッチ図を図2(2)に示す。
図2(2)には溶接部Z1における各成分測定点A~Fを示し、これらにおける成分測定値を表3に記載してある。
この表3からはファイバーレーザー溶接部Z1における成分測定点C~Eでは微量の亜鉛が含まれている。
そしてこの溶接部Z1は表3に示すように、母材の亜鉛鍍金鋼板200よりも高い引っ張り強度を有している。
【0021】
【表3】
【0022】
このように、核ファイバーレーザー溶接部は高引っ張り強度であり、またその近傍は焼けや歪みが殆ど無く、薄物でもきれいで滑らかな溶接ビードを実現し外観が美しく仕上がり、溶接工程の時間と労力を大幅に削減することができた。また溶接の際に発生するスパッタ(溶融金属の飛散)の発生が極端に少なく、溶接部表面にくぼみができなく、スパッタの固着の問題も皆無に近いので仕上げ処理も不要である。等の優れた新規な作用効果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、前述の効果及び実施例に記載のとおり優れた作用効果を呈するものであり、金属加工業界等に貢献すること多大なものがある。
【符号の説明】
【0024】
100:ステンレス鋼板
200:亜鉛鍍金鋼板
201・202:表裏面亜鉛鍍金層
Z1~Z3:ファイバーレーザー溶接部
【要約】      (修正有)
【課題】制限される溶接棒を用いることなく、従って希釈率を抑えることなく、しかも開先を加工することなく、溶接中のバタリングを防止して、しかも母材よりも高い強度を有する亜鉛合金層の溶接部を形成して健全なステンレス鋼板と亜鉛鍍金炭素鋼板との面溶接構造を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼板と炭素鋼板との面溶接構造において、前記炭素鋼板を亜鉛鍍金鋼板とし、この亜鉛鍍金鋼板の側端面と前記ステンレス鋼板との当接部にファイバーレーザー溶接による亜鉛含有の溶接部を形成してなることを特徴とするステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造。
【選択図】図1
図1
図2
図3