(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】縫目のほつれ止め方法及び縫目のほつれ止め装置
(51)【国際特許分類】
D05B 1/10 20060101AFI20230803BHJP
D05B 57/02 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
D05B1/10
D05B57/02
(21)【出願番号】P 2019156183
(22)【出願日】2019-08-10
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今西 政雅
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-006009(JP,A)
【文献】特開2016-209505(JP,A)
【文献】特開2013-075135(JP,A)
【文献】特開2011-206527(JP,A)
【文献】特開平09-225163(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182089(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/10
D05B 57/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針糸を保持して上下動する針が針板の下に形成する針糸ループを、前記針の上下運動経路に略直交する方向に進退動作するルーパの進出により捉え、該ルーパが保持するルーパ糸により前記針糸ループを他糸ルーピングすることにより、前記針板上の縫製生地に通常縫製による二重環縫いの縫目を形成すると共に、前記通常縫製による二重環縫いの終了後、前記ルーパが捉えた針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出端側に、かつ、前記ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に夫々位置させ、その後、前記針を前記針糸ループ内に下降させて少なくとも1針分の縫製動作を行わせて前記針が保持する針糸により前記ルーパが保持する針糸ループを自糸ルーピングすることにより、前記二重環縫いの縫目のほつれを防止する方法であって、
前記針の上下運動ストロークの上死点を0度及び360度に設定した場合の針の上昇運動中の300度から340度の範囲で前記ルーパが進出動作に伴い進出端の手前位置に達した時において前記ルーパの進出動作を停止させ、この停止状態において、ルーパ糸保持体及び糸掛けフックを前記針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動させることにより、前記ルーパ糸保持体がルーパ糸を捕捉して該捕捉したルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に位置させると共に、前記糸掛けフックが前記針糸ループ内を通過して糸掛け位置まで移動して前記針糸ループの後糸部を捉える状態とし、
次に、前記針が所定位置まで下降した時に開始する前記ルーパ糸保持体及び糸掛けフックの離反動作に伴い該糸掛けフックに捉えた針糸ループの後糸部を前記針の上下運動経路から離れるように左方へ移動させることによって、前記針糸ループの前糸部と後糸部の間隔を広げ、その間隔の広がった針糸ループ内に前記針を下降させて前記の自糸ルーピングを行わせることを特徴とする縫目のほつれ止め方法。
【請求項7】
針糸を保持して上下動する針と、ルーパ糸を保持して、前記針の上下運動経路に略直交する方向に進退動作するルーパとを備え、前記針が針板の下に形成する針糸ループを前記ルーパの進出によって捉え、該ルーパが保持するルーパ糸で前記針糸ループを他糸ルーピングして前記針板上の縫製生地に
通常縫製による二重環縫いの縫目を形成するミシンに、
前記針板下に配されて該針板と略平行な面内で揺動する糸掛けフックを有し、前記ルーパに対して接近及び離反動作し、接近動作時に前記ルーパが捉えた針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出端側で保持する針糸保持機構と、
前記糸掛けフックと共に移動するルーパ糸保持体を有し、前記ルーパに対して接近及び離反動作し、該ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側で保持するルーパ糸保持機構と、
前記針糸保持機構及びルーパ糸保持機構の接離動作を、前記針及びルーパの動作、並びに前記生地の送り動作と関連して制御する制御部と、が装備されてあり、
該制御部が、前記通常縫製による二重環縫いの縫目を形成し終えた後に、前記針糸保持機構及びルーパ糸保持機構を接近動作させて前記針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出側に、かつ、前記ルーパから縫製生地に延びるルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に夫々位置させ、その後、前記針を前記針糸ループ内に下降させて少なくとも一針分の縫製動作を行わせて前記針が保持する針糸により前記ルーパが保持する針糸ループを自糸ルーピングすることにより、前記二重環縫いの縫目のほつれを防止するように構成されている縫目のほつれ止め装置であって、
前記制御部は、
前記針の上下運動ストロークの上死点を0度及び360度に設定した場合の針の上昇運動中の300度から340度の範囲で前記ルーパが進出動作に伴い進出端の手前位置に達した時において前記ルーパの進出動作を停止させ、この停止状態において、前記ルーパ糸保持機構におけるルーパ糸保持体及び前記針糸保持機構における糸掛けフックを前記針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動させ、この接近移動に伴い前記ルーパ糸保持体がルーパ糸を捕捉し、該捕捉したルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に位置させると共に、
前記糸掛けフックが前記針糸ループ内を通過して糸掛け位置にまで移動されて前記針糸ループの後糸部を捉える状態となり、前記針が所定位置まで下降した時に開始する前記ルーパ糸保持体及び糸掛けフックの離反移動に伴い該糸掛けフックに捉えた針糸ループの後糸部を前記針の上下運動経路から離れるように左方へ引掛け移動させることによって、前記針糸ループの前糸部と後糸部との間隔を広げ、その間隔の広がった針糸ループ内に前記針を下降させて前記の自糸ルーピングを行わせるように制御動作されることを特徴とする縫目のほつれ止め装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記少なくとも一針分の縫製動作を前記縫製生地の送りピッチをゼロ、又は通常縫製時よりも小さくして実行することを特徴とする請求項
7乃至請求項9項のいずれか1項に記載のほつれ止め装置。
【請求項12】
前記針糸保持機構は、
前記針板下に配されて、該針板と略平行な面内で揺動する前記糸掛けフック及びストッパレバーと、
前記糸掛けフックを、前記ルーパから離れた待機位置から、前記ルーパに接近した糸掛け位置に揺動させるフックアクチュエータと、
前記ストッパレバーを、前記糸掛けフックの揺動域から外れた退避位置から、前記糸掛けフックの一部に当接する拘束位置に揺動させるストッパアクチュエータとを備え、前記制御部は、前記フックアクチュエータ及びストッパアクチュエータを選択的に制御し、前記糸掛けフックが前記糸掛け位置で捉えた針糸ループを前記ストッパレバーとの当接により前記糸掛け位置と前記待機位置との間の保持位置で保持させることを特徴とする請求項
7乃至請求項11のいずれか1項に記載の縫目のほつれ止め装置。
【請求項13】
前記針糸保持機構は、
前記針板下に配されて、該針板と略平行な面内で揺動する糸掛けフックと、
該糸掛けフックよりも前記針板から離れた位置に配してあり、該針板と略平行な面内で揺動する揺動レバー及びストッパレバーと、
前記糸掛けフックと前記揺動レバーとを連結する連結ロッドと、
前記連結ロッドを介して前記糸掛
けフックに作用し、該糸掛けフックを前記ルーパから離れた待機位置 から前記ルーパに接近した糸掛け位置に揺動させるフックアクチュエータと、
前記ストッパレバーを、前記揺動レバーの一部に係合する係合位置から、該係合位置から外れた退避位置に揺動させるストッパアクチュエータとを備え、
前記制御部は、前記フックアクチュエータ及びストッパアクチュエータを選択的に制御し、前記糸掛けフックが前記糸掛け位置で捉えた針糸ループを、前記ストッパレバーと前記揺動レバーの係合により前記糸掛け位置と前記待機位置との間の保持位置で保持させることを特徴とする請求項
7乃至請求項11のいずれか1項に記載の縫目のほつれ止め装置。
【請求項14】
前記ルーパ糸保持機構のルーパ糸保持体は、
前記糸掛けフックに取付けられて、該糸掛けフックと共に前記糸掛け位置、保持位置及び待機位置との間で移動するように構成され、
該ルーパ糸保持体は、前記ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記待機位置から前記糸掛け位置への移動の間に捉え、捉えたループ糸を前記保持位置において前記針の下降位置よりも前側で保持することを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の縫目のほつれ止め装置。
【請求項15】
前記ルーパ糸保持体は、前記糸掛けフックに対して位置調節可能に取付けてあることを特徴とする請求項14に記載の縫目のほつれ止め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重環縫いミシン、偏平縫いミシン等のミシンを使用し、針糸とルーパ糸とにより通常縫製による二重環縫いの縫目を形成し、この通常縫製による二重環縫いの終了後に、該二重環縫いの縫目の縫い終わり部分に発生するほつれを防止する縫目のほつれ止め方法及びこの方法を実施するための縫目のほつれ止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二重環縫いミシンは、針糸を保持して上昇及び下降する一又は複数本の針と、ルーパ糸を保持し、前記針の上下運動経路に略直交する方向に進退動作するルーパとを備えている。針は、針板上の縫製生地を貫いて下降し、該縫製生地から抜け出すように上昇する。ルーパは、針の上昇及び下降に連動して針板の下で進退動作し、上昇する針が保持する針糸のループ(針糸ループ)を進出時に捉える。針は、縫製生地を貫いて下降し、退入するルーパが保持するルーパ糸を捉える。
【0003】
二重環縫いミシンは、上記のような動作を繰り返して縫製生地に二重環縫いの縫目を形成する。
図28は、2本針二重環縫いの縫目の構造を縫製生地の裏面側から見た平面図である。該
図28に示すように、二重環縫いの縫目は、縫製生地の裏面に針糸20,20が形成する針糸ループ20a,20bに、ルーパ糸10を絡ませて他糸ルーピングすることにより形成される。
図28に示す一般的な二重環縫いの縫目構造においては、縫い終わり時に切断されたルーパ糸10の端部が、図中に矢符で示す方向に引っ張られた場合、該ルーパ糸10は、針糸20,20が形成する最終の針糸ループ20a,20bから抜け出し、このような抜け出しが縫い始め側に向けて逐次移行する結果、縫目全体にほつれが発生するという問題を有している。
【0004】
このようなほつれは、3本以上の針糸とルーパ糸とで形成する二重環縫いの縫目においても同様に発生し、また、偏平縫いミシン等、二重環縫いの縫目を形成するミシン全般においても同様に発生する。
【0005】
二重環縫いの縫目に特有の以上のほつれの発生を防止することを目的とし、従来、種々の縫目のほつれ止め方法及びほつれ止め装置が提案されている。そのうちの一つとして本出願人によるほつれ止め方法及びほつれ止め装置がある(例えば、特許文献1参照)。このほつれ止め方法及び装置は、通常縫製による二重環縫いの終了後、ルーパが捉えた針糸ループを針の下降位置よりもルーパの進出端側に、かつ、ルーパから縫製生地に延びるルーパ糸を針の下降位置よりも前側に位置させた後、針を前記針糸ループ内に下降させて少なくとも1針分の縫製動作を行わせて前記針が保持する針糸により前記ルーパが保持する針糸ループを自糸ルーピングすることにより、二重環縫いの縫目のほつれを防止する方法及び装置である。
【0006】
この方法及び装置によれば、ルーパが保持する針糸ループ内に針糸を保持する針を確実に下降させて自糸ルーピングを行わせることができれば、二重環縫いの縫目に特有のほつれを防止することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本出願人による先行技術に係るほつれ止め方法及び装置においては、ほつれ止めを確実なものとするための自糸ルーピング動作に改良すべき課題が残されていた。なお、以下の先行技術の説明において、各構成部品及び構成要素には、後述する本発明の実施の形態における構成部品及び構成要素と同一の符号を付して説明する。
【0009】
即ち、先行技術の場合は、
図29の(a),(b)及び
図30の(a),(b)に示すように、通常縫製後、ルーパ1の進出状態において、ルーパ糸保持体6(図示省略)と糸掛けフック3とをルーパ1の後側においてルーパ1の保持する針糸ループ20aおよびルーパ糸10に向けて接近移動させてルーパ糸保持体6によりルーパ糸10を捕捉させるとともに、糸掛けフック31により針糸ループ20aの後糸部20abを引掛けて針の上下運動経路から離れるように左方へ移動させることにより針糸ループ20aの前糸部20afと後糸部20abとの間隔を広げ、その間隔の広がった針糸ループ20a内に針を下降させて自糸ルーピングを行わせる。
【0010】
上記のように機能動作する糸掛けフック3として、先行技術の場合は、その先端部3eが先尖りに形成されているとともに、この先尖り先端部3eから移動方向に対して右前方に曲がり傾斜する傾斜曲面3fに続けて内向きに突出するフック部3bが設けられた形状に形成されている。
【0011】
上記のような形状の糸掛けフック3を用いた先行技術の場合は、糸掛け位置にまで移動された糸掛けフック3がルーパ1に保持された針糸ループ20aを確実に捉え、糸掛け位置から離反移動する時にはフック部3bに捉えた針糸ループ20aの後糸部20abを確実に引掛けて左方へ移動させることができるようにするために、縫製動作前に糸掛けフック3の移動経路を
図29(a),(b)に示す状態又は
図30(a),(b)に示す状態に初期設定する、もしくは、糸掛けフック3のルーパ糸保持体6との相対位置を調節する、といったように、糸掛けフック3の移動経路を微妙かつ煩雑に調整する作業を要するだけでなく、その調整作業が適切でなく、例えば
図30(a),(b)で示すように、糸掛け位置に移動した糸掛けフック3が針糸ループ20aを確実に捉えることができない状態の移動経路に設定又は調節された場合、糸掛けフック3のフック部3bによる針糸ループ20aの後糸部20abに対する引掛けミスを生じて、所期のほつれ止め機能を確実に達成することができない可能性があった。
この問題は、例えば、薄い縫製生地、柔らかい縫製生地の縫製において、良好な仕上がり状態を得るべく、針糸20,20及びルーパ糸10の付与張力を小さくした場合や使用する針糸20,20の種類等によって発生しやすい。
【0012】
そこで、本発明者らは、ルーパ1がその進退動作経路の進出端に達した時点においてルーパを停止させ、この停止状態で前記ルーパ糸保持体6と糸掛けフック3を針糸ループ20a及びルーパ糸10に向けて接近移動させるといった自糸ルーピングによる縫目のほつれ止め動作を行う際、前記糸掛けフック3が針糸ループ20a内を通過して糸掛け位置まで移動して針糸ループ20aの後糸部20abを捉えるような方法(以下、この方法を先行技術の改良技術という)の採用を試みた。
【0013】
上記のように、前記糸掛けフック3が針糸ループ20a内を通過して糸掛け位置まで移動して針糸ループ20aの後糸部20abを捉える先行技術の改良技術を採用することにより、糸掛けフック3の移動経路を初期設定する又はルーパ糸保持体6に対して位置調節するにしても、先行技術で説明したような微妙かつ煩雑な調整を要することなく、単に、糸掛けフック3の先尖り先端部3eが針糸ループ20内を通過できるようにするといった極く単純かつ簡易な初期設定または位置調節を行うのみで、ほつれ止め動作時における糸掛けフック3による針糸ループ後糸部20abの捕捉及び引掛け移動をミスなく確実に行わせ得ることが分かった。
【0014】
しかしながら、上記した先行技術の改良技術においても、ほつれ止めを確実なものとするための自糸ルーピング動作において、更に改善すべき課題があることが判明した。以下、その更なる改善すべき課題について説明する。
【0015】
即ち、上記の先行技術の改良技術においては、ルーパ糸保持体及び糸掛けフックが針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動するタイミングとして、ルーパがその進退動作経路の進出端に達して進退動作が停止した時点に設定されていた。しかし、この場合は、進出端に達して停止したルーパが該ルーパの進退動作に伴なう前後循環移動により手前側にシストした位置に停止するために、針糸ループ内を通過した糸掛けフックの先端部に針の次動作である所定位置への下降動作時に、1本針や特に3本針の場合の中間部に位置する針(
図16乃至
図19(a)に点線で示す中間の針落ち位置AMに向けて下降する針が衝突するというトラブルを発生する可能性がある。また、このようなトラブルの発生を避けるために、ルーパ糸保持体及び糸掛けフックが針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動するタイミングとして、ルーパがその進退動作経路の進出端に達する前の時点に設定することが考えられるが、この場合であっても、そのタイミングが早過ぎると、ルーパ先端部の細い横幅部に保持されている針糸ループが十分に拡幅されていない細幅の状態にあるために、糸掛けフックの針糸ループ内通過にミスを生じやすい。したがって、上記のようなトラブルや通過ミスをなくするためにはルーパ糸保持体及び糸掛けフックとルーパとの動作タイミングを適正に設定しなければならないが、そのためには緻密性が要求される非常に難しい調整が強いられるといった新たな問題(改善すべき課題)がある。
【0016】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、二重環縫いの縫目に特有のほつれの発生を防止するための自糸ルーピング動作を、針糸及びルーパ糸の種類や糸調子等に関係なく、しかも、種々のトラブルやミスを生じることなく、最適なタイミングのもとで確実かつ安定的に行えて所期のほつれ止め機能を確実に発揮させることができる縫目のほつれ止め方法及びこの方法の実施に使用する縫目のほつれ止め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る縫目のほつれ止め方法は、針糸を保持して上下動する針が針板の下に形成する針糸ループを、前記針の上下運動経路に略直交する方向に進退動作するルーパの進出により捉え、該ルーパが保持するルーパ糸により前記針糸ループを他糸ルーピングすることにより、前記針板上の縫製生地に通常縫製による二重環縫いの縫目を形成すると共に、前記通常縫製による二重環縫いの終了後、前記ルーパが捉えた針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出端側に、かつ、前記ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に夫々位置させ、その後、前記針を前記針糸ループ内に下降させて少なくとも1針分の縫製動作を行わせて前記針が保持する針糸により前記ルーパが保持する針糸ループを自糸ルーピングすることにより、前記二重環縫いの縫目のほつれを防止する方法であって、前記針の上下運動ストロークの上死点を0度及び360度に設定した場合の針の上昇運動中の300度から340度の範囲で前記ルーパが進出動作に伴い進出端の手前位置に達した時において前記ルーパの進出動作を停止させ、この停止状態において、ルーパ糸保持体及び糸掛けフックを前記針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動させることにより、前記ルーパ糸保持体がルーパ糸を捕捉して該捕捉したルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に位置させると共に、前記糸掛けフックが前記針糸ループ内を通過して糸掛け位置まで移動して前記針糸ループの後糸部を捉える状態とし、次に、前記針が所定位置まで下降した時に開始する前記ルーパ糸保持体及び糸掛けフックの離反動作に伴い該糸掛けフックに捉えた針糸ループの後糸部を前記針の上下運動経路から離れるように左方へ移動させることによって、前記針糸ループの前糸部と後糸部の間隔を広げ、その間隔の広がった針糸ループ内に前記針を下降させて前記の自糸ルーピングを行わせることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め装置は、針糸を保持して上下動する針と、ルーパ糸を保持して、前記針の上下運動経路に略直交する方向に進退動作するルーパとを備え、前記針が針板の下に形成する針糸ループを前記ルーパの進出によって捉え、該ルーパが保持するルーパ糸で前記針糸ループを他糸ルーピングして前記針板上の縫製生地に通常縫製による二重環縫いの縫目を形成するミシンに、前記針板下に配されて該針板と略平行な面内で揺動する糸掛けフックを有し、前記ルーパに対して接近及び離反動作し、接近動作時に前記ルーパが捉えた針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出端側で保持する針糸保持機構と、前記糸掛けフックと共に移動するルーパ糸保持体を有し、前記ルーパに対して接近及び離反動作し、該ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側で保持するルーパ糸保持機構と、前記針糸保持機構及びルーパ糸保持機構の接離動作を、前記針及びルーパの動作、並びに前記生地の送り動作と関連して制御する制御部と、が装備されてあり、該制御部が、前記通常縫製による二重環縫いの縫目を形成し終えた後に、前記針糸保持機構及びルーパ糸保持機構を接近動作させて前記針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出側に、かつ、前記ルーパから縫製生地に延びるルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に夫々位置させ、その後、前記針を前記針糸ループ内に下降させて少なくとも一針分の縫製動作を行わせて前記針が保持する針糸により前記ルーパが保持する針糸ループを自糸ルーピングすることにより、前記二重環縫いの縫目のほつれを防止するように構成されている縫目のほつれ止め装置であって、前記制御部は、前記針の上下運動ストロークの上死点を0度及び360度に設定した場合の針の上昇運動中の300度から340度の範囲で前記ルーパが進出動作に伴い進出端の手前位置に達した時において前記ルーパの進出動作を停止させ、この停止状態において、前記ルーパ糸保持機構におけるルーパ糸保持体及び前記針糸保持機構における糸掛けフックを前記針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動させ、この接近移動に伴い前記ルーパ糸保持体がルーパ糸を捕捉し、該捕捉したルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に位置させると共に、前記糸掛けフックが前記針糸ループ内を通過して糸掛け位置にまで移動されて前記針糸ループの後糸部を捉える状態となり、前記針が所定位置まで下降した時に開始する前記ルーパ糸保持体及び糸掛けフックの離反移動に伴い該糸掛けフックに捉えた針糸ループの後糸部を前記針の上下運動経路から離れるように左方へ引掛け移動させることによって、前記針糸ループの前糸部と後糸部との間隔を広げ、その間隔の広がった針糸ループ内に前記針を下降させて前記の自糸ルーピングを行わせるように制御動作されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る縫目のほつれ止め方法及び縫目のほつれ止め装置においては、ルーパを進出状態として通常縫製を終了した後、該ルーパが捉えた針糸ループを、針の下降位置よりもルーパの進出端側に位置させ、また、ルーパから縫製生地に延びるルーパ糸をルーパ糸保持体により針の下降位置よりも前側に位置させると共に、糸掛けフックにより針糸ループの後糸部を捉え、この捉えた針糸ループの後糸部を針の上下運動経路から離れるように左方へ移動させた状態で針を針糸ループ内に下降させて、下降する針が保持する針糸で前記針糸ループを自糸ルーピングすることにより、ルーパ糸を自糸ルーピング部分で押えて該ルーパ糸の抜けを防止することができ、縫目のほつれを発生段階にて確実に防止することが可能となる。針糸の自糸ルーピングによるルーパ糸の押えは、針糸及びルーパ糸の付与張力が小さい場合でも良好になされ、ほつれ発生を防止することができる。
【0020】
しかも、上記のような自糸ルーピングによる縫目のほつれ止め動作を行う際、前記糸掛けフックが針糸ループ内を通過して糸掛け位置まで移動したのち針糸ループの後糸部を捉えるようにすることにより、糸掛けフックの移動経路を初期設定する、又はルーパ糸保持体に対して位置調節するにしても、先行技術で説明したような微妙かつ煩雑な調整を要することなく、単に、糸掛けフックの先尖り先端部が針糸ループ内を通過できるようにするといった極く単純かつ簡易な初期設定または位置調節を行うのみで、ほつれ止め動作時における糸掛けフックによる針糸ループ後糸部の捕捉及び引掛け移動を確実に行わせることができ、これによって、針糸ループの前糸部と後糸部との間隔を広げてその広い間隔の針糸ループ内に針を下降させる自糸ルーピング動作を、針糸の種類や糸調子等に関係なく確実かつ安定的に行なうことができる。
【0021】
加えて、本発明によれば、自糸ルーピングによる縫目のほつれ止め動作において、ルーパ糸保持体及び糸掛けフックを針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動させるタイミングとして、針の上下運動ストロークの上死点を0度及び360度に設定した場合の針の上昇運動中の300度から340度の範囲で、かつ、前記ルーパが進出動作に伴い進出端の手前位置に達した時に前記ルーパの進出動作を停止させ、この停止状態において、ルーパ糸保持体及び糸掛けフックを前記針糸ループ及びルーパ糸に向けて接近移動させるタイミングを採用することによって、先端ほど細幅形状のルーパの広い横幅部に保持される針糸ループが拡幅された状態において前記糸掛けフックを針糸ループ内通過させることとなり、糸掛けフックの針糸ループ内通過をミスなく確実に行うことができるとともに、針糸ループ内を通過した糸掛けフックの先端部に停止状態の針の次動作である所定位置への下降動作時に、1本針や、特に3本針の場合の中間部に位置する針が衝突するというトラブルの発生も確実に回避することができる。これによって、自糸ルーピングに必要な動作をなんらのミスもトラブルも生じることなく確実かつ安定的に行えて所期のほつれ止め機能を確実に発揮させることができるといった効果を奏する。
【0022】
本発明に係る縫目のほつれ止め方法及び縫目のほつれ止め装置において、前記針が前記ルーパの進出方向に複数並設されており、夫々の針が形成する複数の針糸ループのうち、前記ルーパの進出端側に位置する針糸ループを含む少なくとも1つの針糸ループを前記針の下降位置よりも前記ルーパの進出端側に位置させて所定の自糸ルーピングを行わせることが好ましい。
この場合は、針糸ループが複数ある場合でも、少なくともルーパの進出端側に位置する針糸ループのみを前述したように位置させるので、自糸ルーピングを確実に実施し、縫目のほつれを一層確実に防止することができる。
【0023】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め方法及び縫目のほつれ止め装置において、前記糸掛けフックが前記針糸ループの後糸部を捉えるとき、前記針はその先端が前記針板の下面から前記ルーパの下面までの範囲内に位置することが好ましい。
この場合は、前記糸掛けフックが針糸ループの後糸部を捉え、その捉えた針糸ループの後糸部を針の上下運動経路から離れるように左方へ移動させるとき、針糸ループの前糸部が針に確実に引っかかっているため、針糸ループの全体がルーパの進入方向(左)に移動することがなくなり、これによって、針が針糸ループ内に確実かつ順調に通過して下降し、自糸ルーピングを確実に実施し、縫目のほつれを確実に防止することができる。
【0024】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め方法及び縫目のほつれ止め装置において、前記自糸ルーピングのための少なくとも一針分の縫製動作を、前記縫製生地の送りを停止又は前記縫製生地の送りピッチを通常縫製時よりも小さくして実施することが好ましい。
この場合は、針糸による自糸ルーピング部分の密度を高めることが可能となり、これによって、ルーパ糸の押えが強化されて所期のほつれ止め効果を一層確実化することができる。
【0025】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め方法及び縫目のほつれ止め装置において、前記縫製生地の送りの停止、又は通常縫製時よりも小さい送りピッチでの前記縫製生地の送りを、前記少なくとも一針分の縫製動作の前の段階から実施することが好ましい。
この場合は、針糸による自糸ルーピング部分が他の部分、すなわち、他糸ルーピングの一部分も含めて密度が高くなり、ルーパ糸の押えが更に強化されて所期のほつれ止め効果をより一層確実化することができる。
【0026】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め方法において、前記ルーパ糸を前記針の下降位置よりも前側に位置させた後、該ルーパ糸の前記ルーパへの送り出しを抑制することが好ましい。
この場合は、ルーパ糸のルーパへの送り出しを抑制することにより、ルーパ糸の位置を確実に保ち、ルーパ糸の存在に影響されることなく、自糸ルーピングを確実に実施して所期のほつれ止め効果を確実に維持するとともに、ルーパ糸の糸締りが強化されてルーパ糸自体の抜けも防止することができ、縫目の品質向上を図ることができる。
【0027】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め装置において、前記針糸保持機構が、前記針板下に配してあり、該針板と略平行な面内で揺動する糸掛けフック及びストッパレバーと、前記糸掛けフックを、前記ルーパから離れた待機位置から、前記ルーパに接近した糸掛け位置に揺動させるフックアクチュエータと、前記ストッパレバーを、前記糸掛けフックの揺動域から外れた退避位置から、前記糸掛けフックの一部に当接する拘束位置に揺動させるストッパアクチュエータとを備え、前記制御部は、前記フックアクチュエータ及びストッパアクチュエータを選択的に制御し、前記糸掛けフックが前記糸掛け位置で捉えた針糸ループを前記ストッパレバーとの当接により前記糸掛け位置と前記待機位置との間の保持位置で保持させるように構成されていることが好ましい。
このように構成することにより、針板下の限られた空間内での配置が可能な簡素な構成にて針糸の位置決めを実現することができる。また、糸掛けフック及びストッパレバーはそれぞれ待機位置と糸掛け位置及び退避位置と拘束位置との2位置間に亘って揺動すればよく、各々のアクチュエータ及びこれを制御する制御部の構成も簡素化され、縫目のほつれ止め効果を簡単な構成で達成することができる。
【0028】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め装置において、前記針糸保持機構は、前記針板下に配されて、該針板と略平行な面内で揺動する糸掛けフックと、該糸掛けフックよりも前記針板から離れた位置に配してあり、該針板と略平行な面内で揺動する揺動レバー及びストッパレバーと、前記糸掛けフックと前記揺動レバーとを連結する連結ロッドと、前記連結ロッドを介して前記糸掛けフックに作用し、該糸掛けフックを前記ルーパから離れた待機位置から前記ルーパに接近した糸掛け位置に揺動させるフックアクチュエータと、前記ストッパレバーを、前記揺動レバーの一部に係合する係合位置から、該係合位置から外れた退避位置に揺動させるストッパアクチュエータとを備え、前記制御部は、前記フックアクチュエータ及びストッパアクチュエータを選択的に制御し、前記糸掛けフックが前記糸掛け位置で捉えた針糸ループを、前記ストッパレバーと前記揺動レバーの係合により前記糸掛け位置と前記待機位置との間の保持位置で保持させるように構成されていることが好ましい。
このように構成することにより、針板下の限られた空間内での配置が可能な簡素な構成にて針糸の位置決めを実現することができる。また、揺動レバー及びストッパレバーは、針板から離れた位置に配してあり、糸掛けフックを針板の近傍に配置すればよいため、筒形ベッドを備えるミシン等、針板の下部空間が限られるミシンへの適用が可能となる。
【0029】
また、本発明に係る縫目のほつれ止め装置において、前記ルーパ糸保持機構のルーパ糸保持体は、前記糸掛けフックに取付けられて、該糸掛けフックと共に前記糸掛け位置、保持位置及び待機位置との間で移動するように構成され、該ルーパ糸保持体は、前記ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記待機位置から前記糸掛け位置への移動の間に捉え、捉えたルーパ糸を前記保持位置において前記針の下降位置よりも前側で保持する前記ルーパ糸保持機構が、前記糸掛けフックに取付けてあり、該糸掛けフックと共に前記糸掛け位置、保持位置及び待機位置との間で移動するルーパ糸保持体を備え、該ルーパ糸保持体は、前記ルーパから前記縫製生地に延びるルーパ糸を前記待機位置から前記糸掛け位置への移動の間に捉え、捉えたループ糸を前記保持位置において前記針の下降位置よりも前側で保持するように構成されていることが好ましい。
この場合は、糸掛けフックに取り付けられて該糸掛けフックと共に移動するルーパ糸保持体によりルーパ糸を捉えて位置保持させるため、針糸と共にルーパ糸を簡素な構成にて位置決めすることができる。
【0030】
さらに、本発明に係る縫目のほつれ止め装置において、前記ルーパ糸保持体は、前記糸掛けフックに対して位置調節可能に取付けられていることが好ましい。
この場合は、ルーパ糸保持体を糸掛けフックに対して位置調節することにより、針糸とルーパ糸との相対位置を適正に設定することが可能で、自糸ルーピングを確実に行わせて縫目のほつれ止めを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】第1の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を概略的に示す平面図である。
【
図2】同第1の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を概略的に示す平面図である。
【
図3】同第1の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を概略的に示す平面図である。
【
図4】同第1の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置を備えるミシンの制御系のブロック図である。
【
図5】制御部の動作内容を示すタイムチャートである。
【
図10】縫目のほつれ止め装置の動作説明図である。
【
図11】縫目のほつれ止め装置の動作説明図である。
【
図12】縫目のほつれ止め装置の動作説明図である。
【
図13】糸掛けフック及びルーパ糸保持体の動作状態の詳細を示す要部の斜視図である。
【
図14】糸掛けフック及びルーパ糸保持体の動作状態の詳細を示す要部の斜視図である。
【
図15】糸掛けフック及びルーパ糸保持体の動作状態の詳細を示す要部の斜視図である。
【
図16】(a)は糸掛けフックの針糸ループ内の通過状態を示す要部の平面図、(b)は縦断面図である。
【
図17】(a)は糸掛けフックが針糸ループ内を通過した直後の状態を示す要部の平面図、(b)は縦断面図である。
【
図18】(a)は糸掛けフックが針糸ループの
後糸部を引掛けた状態を示す要部の平面図、(b)は縦断面図である。
【
図19】(a)は糸掛けフックが針糸ループの
後糸部を引掛けて移動する状態を示す要部の平面図、(b)は縦断面図である。
【
図20】第2の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を概略的に示す平面図である。
【
図21】同第2の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を概略的に示す底面図である。
【
図22】同第2の実施形態に係る縫目のほつれ止め装置の動作説明図である。
【
図23】同第2の実施形態に係る縫目のほつれ止め装置の動作説明図である。
【
図24】本発明により得られる二重環縫いの縫目構造を縫製生地の裏面から見た図である。
【
図25】
図21に示す縫目構造のほつれ止め効果の説明図である。
【
図26】制御部の動作内容の他の実施の形態を示すタイムチャートである。
【
図27】
図26の動作により得られる2本針二重環縫いの縫目構造を縫製生地の裏面から見た図である。
【
図28】縫い終わり部分の一般的な縫目及び従来のほつれ止め装置により得られる縫い終わり部分の縫目構造を縫製生地の裏面側から見た図である。
【
図29】(a)は先行技術による糸掛けフックの糸掛け位置への移動経路の一つの設定・位置調節例を説明する要部の拡大平面図、(b)は縦断左側面図である。
【
図30】(a)は先行技術による糸掛けフックの糸掛け位置への移動経路の他の設定・位置調節例を説明する要部の拡大平面図、(b)は縦断左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳述する。
図1~
図3は、第1実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の構成を略示する上方からの平面図である。
図1~
図3に示す装置は、二重環縫いミシン、偏平縫いミシン等、二重環縫いの縫目を形成するミシンに装備されるものである。以下の説明では、
図1中に矢符により示した「左,右」及び「前,後」を使用する。ここで、「前」は、縫製作業者に近い側、「後」は、縫製作業者から離れた側であり、「左,右」は、前方から見た場合の「左,右」である。
【0033】
ミシンは、1つのルーパ1と2本の針2,2(
図6~
図12参照)とを備えている。針2,2は、針棒駆動機構の動作により上昇及び下降する。
図1~
図3中のA,Aは、針2,2の下降位置(針落ち位置)を示している。針落ち位置A,Aは、針板Pの略中央に、左右方向に間隔を隔てて設定されている。
なお、ミシンは、1つのルーパ1と3本の針2,2M,2を備えたものもあり、2本針2,2で使用する場合と3本針2,2M,2を使用する場合とを選択することが可能であるが、本第1実施の形態は、2本針2,2のミシンについて説明する。
【0034】
図示のルーパ1は、ルーパ駆動機構の動作により針2,2(針落ち位置A,A)の並び方向に進退動作(左進動作及び右退動作)するとともに、この左右方向の進退動作に伴ない前後に循環移動する。
図1では、左進位置にあるルーパ1を実線により示し、右退位置にあるルーパ1を破線により示している。左進位置にあるルーパ1の先端は、針2,2の針落ち位置A,Aを超えて左方向に延出し、右退位置にあるルーパ1の先端は、針2,2の針落ち位置A,Aの右方に離れて位置する。なお、ルーパ1の進退動作の方向は、針2の上下運動経路に略直交する方向であればよく、以下に示す本発明の構成は、ルーパ1の動作方向の如何に拘らずに実現することができる。
【0035】
ミシンは、針2,2の上昇及び下降動作と、ルーパ1の左進及び右退動作とにより、針板P上の縫製生地(図示を省略する)を縫製する。縫製生地は、ミシンベッドの内部に設けた送り機構の動作により、針板P上で後方向(
図1中の白抜矢符により示す方向)に送り移動する。送り機構は、送り歯を備えている。送り歯は、針板P上に突出して後方向に移動し、針板P下に没入して前方向に復帰移動する動作を繰り返す。縫製生地は、送り歯が針板P上に突出している間にのみ移動力を加えられ、間欠的に後方向に送り移動される。
【0036】
針棒駆動機構、ルーパ駆動機構及び送り機構は、ミシン主軸からの伝動により互いに同期して動作する公知の機構である。針2,2は、各別に針糸20,20(
図6~
図12参照)を保持し、送り移動を停止している間に縫製生地を貫通し、針板P下に達した後に上昇して縫製生地の上方に抜け出す。ルーパ1は、ルーパ糸10(
図6~
図12参照)を保持し、針2,2の上昇開始に合わせて左進し、針板P下に形成される針糸20,20のループ20a,20bを捉える。縫製生地は、針2,2の抜け出し後に送り移動される。針2,2は、送り移動を終えた縫製生地を貫いて下降し、右退中のルーパ1が保持するルーパ糸10を捉える。ミシンは、以上の動作を繰り返し、縫製生地に二重環縫いの縫目を形成するように通常縫製を行う。
【0037】
以上の如きミシンが備える縫目のほつれ止め装置は、糸掛けフック3及びストッパレバー4と、フックアクチュエータとしての糸操作ソレノイド32と、ストッパアクチュエータとしてのストッパソレノイド42とを有する針糸保持機構及び後述するルーパ糸保持体6を有するルーパ糸保持機構とを備えている。針糸保持機構の糸掛けフック3は、針板Pの後側のミシンベッドの上部に、上下方向の支軸30を中心として揺動可能に支持されている。ストッパレバー4は、支軸30の後方に配した上下方向の支軸40を中心として揺動可能に支持されている。
【0038】
前記糸掛けフック3は、円弧形の湾曲形状を有し、支軸30から後方に延びるアーム3aの端部に左前方に折り返すように連設されている。該糸掛けフック3の先端部3eは、左側後方から針2,2の針落ち位置A,Aに臨ませてあり、該先端部3eは先尖りに形成され、移動方向に対して傾斜する斜面3fに続けて後向きに突出する形状のフック部3bが設けられている。前記糸掛けフック3の基部(アーム3aとの連設部)は、連結ロッド31を介して糸操作ソレノイド32に連結されている。この糸操作ソレノイド32は、励磁電流の通電により所定角度の回転出力を得るように構成されたロータリソレノイドであって、該糸操作ソレノイド32は、糸掛けフック3の右後方位置に出力端を上向きとして固定されている。糸操作ソレノイド32の出力端には、揺動アーム33が固定されてあり、連結ロッド31は、糸掛けフック3の中途部と揺動アーム33の先端部とを連結している。
【0039】
図1は、糸操作ソレノイド32の消磁状態を示し、
図2は、糸操作ソレノイド32の励磁状態を示している。糸操作ソレノイド32が消磁状態にある場合、揺動アーム33は、
図1の揺動位置にある。糸操作ソレノイド32が励磁された場合、揺動アーム33は、
図1中に矢符により示すように時計回りに揺動し、
図2に示す揺動位置となる。揺動アーム33の揺動は、連結ロッド31を介して糸掛けフック3に伝わり、該糸掛けフック3は、
図1中に矢符により示すように、支軸30を中心として反時計回りに揺動し、糸掛けフック3の先端のフック部3bは、
図2に示すように、左右の針落ち位置A,Aの間に位置する。このように糸掛けフック3は、糸操作ソレノイド32の励磁に応じて、
図1に示す待機位置から
図2に示す糸掛け位置にまで揺動する。
【0040】
前記ストッパレバー4は、その中間部が前記支軸40により支えられ、前方を凹として湾曲するアーチ形状を有している。右前方に延びるストッパレバー4の基部は、連結ロッド41を介してストッパソレノイド42に連結されている。前記ストッパソレノイド42は、前記糸操作ソレノイド32と同様のロータリソレノイドであり、ストッパレバー4の右方に離れた位置に出力端を上向きとして固定されている。前記ストッパソレノイド42の出力端には、揺動アーム43が固定されてあり、連結ロッド41は、ストッパレバー4の基部と揺動アーム43の先端部とを連結している。
【0041】
図1は、前記ストッパソレノイド42の消磁状態を示している。該ストッパソレノイド42が消磁状態にある場合、前記揺動アーム43は、
図1の揺動位置に位置しており、ストッパソレノイド42が励磁された場合、揺動アーム43は、
図1中に矢符により示すように時計回りに揺動する。この揺動アーム43の揺動は、連結ロッド41を介してストッパレバー4に伝わり、該ストッパレバー4は、
図1中に矢符により示すように、支軸40を中心として時計回りに揺動する。
【0042】
前記ストッパソレノイド42が消磁状態にある場合、ストッパレバー4の左前方に延びる先端部4aは、
図1に示すように、待機位置にある糸掛けフック3の一部に重なる。糸掛けフック3は、ストッパレバー4の重なり部の後位置に、前側を上げるように設けた段部3cを有している。前記ストッパレバー4の先端部4aは、前記段部3cの前位置で糸掛けフック3の下位置に重なることができる。また、前記ストッパレバー4は、支軸40と基部との間に段部4bを有している。該段部4bは、後側を上げるように設けられ、
図1に示すように、連結ロッド31の下位置での交叉を可能としている。
【0043】
前記糸掛けフック3が前記糸掛け位置に揺動する際、ストッパソレノイド42は消磁状態にある。ストッパレバー4は、糸掛けフック3により押されて時計回りに揺動し、糸掛けフック3の揺動を可能とする。前記ストッパレバー4は、糸掛けフック3の通過後、
図2中に実線により示す位置(拘束位置)となる。なお、糸掛けフック3が糸掛け位置に揺動する際には、糸操作ソレノイド32と共にストッパソレノイド42を励磁し、ストッパレバー4を
図1中に2点鎖線で示す位置(退避位置)に移動させてもよい。この場合、糸掛けフック3を、ストッパレバー4と全く干渉せることなく揺動させることができる。ストッパレバー4は、糸掛けフック3の揺動完了後、ストッパソレノイド42を消磁することで拘束位置となる。拘束位置にあるストッパレバー4の先端部4aは、糸掛けフック3の中途外向きに突設された止め部3dの後側に対向する。糸掛けフック3の止め部3dは、前記段部3cの後側に設けてあり、ストッパレバー4の先端部4aと略同一の高さ位置にある。
【0044】
図2に示す状態で糸操作ソレノイド32が消磁された場合、
図2中に矢符で示すように、揺動アーム33は反時計回りに揺動し、前記糸掛けフック3は時計回りに揺動する。この揺動は、糸掛けフック3の止め部3dがストッパレバー4の先端部4aに当たることで拘束され、糸掛けフック3は、
図3に示す保持位置において停止する。このとき糸掛けフック3先端の後向きに突出するフック部3bは、
図2に示す糸掛け位置(左右の針落ち位置A,Aの間)から、
図3に示す保持位置(左側の針落ち位置Aの左後方)に移動し、後で詳しく説明するように、左側の針2の針糸ループ20aの後糸部20abを引っ掛けて、
図3に示す位置で保持する。
【0045】
図3に示す状態でストッパソレノイド42が励磁された場合、
図3中に矢符で示すように、揺動アーム43は時計回りに揺動する。この揺動によりストッパレバー4は、時計回りに揺動し、該ストッパレバー4の先端部4aは、
図3中に2点鎖線で示すように糸掛けフック3の止め部3dから外れ、該糸掛けフック3は、ストッパレバー4による拘束が解除されることにより、
図1に示す待機位置に復帰する。ストッパレバー4は、ストッパソレノイド42を消磁することで、
図1に示す位置に戻る。ミシンによる前述した通常縫製は、
図1に示す状態で行われる。ストッパソレノイド42は、ストッパアクチュエータに相当する。以上のように糸掛けフック3は、糸操作ソレノイド32及びストッパソレノイド42を選択的に励磁することにより、前述した待機位置、糸掛け位置及び保持位置の間で揺動移動する。
【0046】
このような糸掛けフック3には、ルーパ糸保持機構としてのルーパ糸保持体6が一体に取付けられている。該ルーパ糸保持体6は、糸掛けフック3と同様の円弧形の湾曲形状を有しており、基部の長手方向の2箇所に通した固定ねじ60,60により前記糸掛けフック3の中途部上面に固定されている。前記ルーパ糸保持体6の先端部は、糸掛けフック3の左側に沿って前方に延び、糸掛けフック3の先端部の前位置で針落ち位置A,Aに臨ませてあり、該先端部には、二股に分岐された糸受け部6aが設けられている。なお、前記ルーパ糸保持体6は、固定ねじ60,60を緩めることで糸掛けフック3に対する位置調節が可能である。この位置調節は、先端の糸受け部6aによるルーパ糸10の保持が確実になされるように実施される。
【0047】
このように取付けられたルーパ糸保持機構のルーパ糸保持体6は、糸操作ソレノイド32及びストッパソレノイド42の動作により、糸掛けフック3と共に、前述した待機位置、糸掛け位置及び保持位置との間で揺動移動する。前記ルーパ糸保持体6先端部の糸受け部6aは、
図2に示す糸掛け位置において、ルーパ1の上部を通って該ルーパ1の前側に進出し、
図3に示す保持位置において、左側の針落ち位置Aの前方に位置する。
【0048】
ミシンは、更に、糸切り機構5を備えている。糸切り機構5は、糸切りフック50と糸切りメス51とを備えている。糸切りフック50及び糸切りメス51は、共通の基台54に取り付けられている。基台54は、右端部及び中途部を支持アーム55a,55bの前端部に連結して支持されている。支持アーム55a,55bは、夫々の後端部の上下方向の支軸を中心として揺動可能である。右側の支持アーム55aの揺動範囲は、中途部に設けたストッパねじ55cにより規制されている。左側の支持アーム55bは、コイルばね55dにより左向きに引っ張り付勢している。
【0049】
前記糸切りメス51は、基台54の左端部に固定された板状の部材であり、左方に延びる端縁に刃部を有している。糸掛けフック50は、基台54と糸切りメス51との間に挾持された先端部に、後方に向けて突設された第1のフック部52と第2のフック部53とを備えている。第1,第2のフック部52,53は、左右方向に所定長離れて位置している。
図1に、糸切りメス51の下位置に重なる第1,第2のフック部52,53を破線により示している。
【0050】
前記糸切りフック50は、前記糸切りメス51との重なり部分から右方に延びる延長部を有しており、この延長部は、基台54をガイドとして左右方向に摺動するスライダ56を介して糸切りレバー57の一端(前端)部に連結されている。この糸切りレバー57は、前後方向の中途部を上下方向の支軸57aにより支えられ、該支軸57aを中心として揺動可能である。前記糸切りレバー57は、通常時には、戻しばね(図示を省略する)の付勢力により、支持アーム55aをストッパとする
図1~
図3に示す揺動位置にあり、他端(後端)部に連結した糸切りアクチュエータ58(
図4参照)の動作により時計回りに揺動する。
【0051】
前記糸切りフック50及び糸切りメス51は、通常縫製中には、
図1~
図3に示す待機位置にある。この待機位置は、糸切りアクチュエータ58(
図4参照)が動作しておらず、糸切りレバー57が
図1~
図3に示す揺動位置となることで得られる。糸切りフック50及び糸切りメス51は、前記糸切りレバー57と共に右向きに揺動する前記支持アーム55aの作用により、基台54と共に右後方に移動し、前記ルーパ1の進退動作経路から外れて位置する。また、前記糸切りフック50は、糸切りレバー57に連結されたスライダ56と共に右方向に移動し、
図1~
図3に示すように、先端の一部を糸切りメス51の刃部から突出させた状態となる。
【0052】
前記糸切りレバー57は、糸切りアクチュエータ58の動作により揺動する。この揺動により、右側の支持アーム55aの押えが解除される結果、前記糸切りフック50及び糸切りメス51は、コイルばね55dの付勢による左側の支持アーム55bの揺動に応じて基台54と共に左前方に移動し、ルーパ1の進退動作経路の上に位置する。糸切りフック50は、糸切りレバー57の更なる揺動によりスライダ56と共に左進動作し、該糸切りフック50の第1,第2のフック部52,53は、糸切りメス51の左方に突出する。
【0053】
前記糸切りレバー57は、糸切りアクチュエータ58が非動作状態となることで、前記戻しばねの付勢力の作用により反時計回りに揺動する。これにより、糸切りフック50は、右退動作して糸切りメス51の下部に重なり、また糸切りフック50及び糸切りレバー57は、基台54と共に後方に移動して、
図1~
図3に示す待機位置に復帰する。
【0054】
図4は、以上のように構成された縫目のほつれ止め装置を備えるミシンの制御系のブロック図である。ミシンの制御部8には、ペダルスイッチ21が発する踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bと、針2,2が上死点近傍にある時に発せられる針位置信号22と、後述のように発せられる糸切り信号23及び針糸払い信号24とが夫々入力されている。
【0055】
一方、制御部8の出力は、前述した糸操作ソレノイド32、ストッパソレノイド42及び糸切りアクチュエータ58に夫々与えられる。糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、制御部8から糸操作ソレノイド32及びストッパソレノイド42に夫々与えられる動作指令に従って前述の如く動作し、糸切りフック50は、制御部8から糸切りアクチュエータ58に与えられる動作指令に従って前述の如く進退動作する。
【0056】
更に、制御部8の出力は、ミシン主軸の駆動源であるミシンモータ80、布押え用の押え金を昇降する布押えシリンダ81、後述の如く切断される針糸20,20を跳ね上げるエアワイパ82、縫製生地の送り量を調整する送り低減機構83、及びルーパ1へのルーパ糸10の送り出しを抑制するルーパ糸抑制機構84に夫々与えられる。前記ミシンモータ80は、前記制御部8からの動作指令に従って駆動又は停止され、また布押えシリンダ81、エアワイパ82、送り低減機構83及びルーパ糸抑制機構84は、前記制御部8からの動作指令に従って動作する。
【0057】
前記送り低減機構83は、送り機構の送り歯の動作態様を変えることで縫製生地の送り量を小さくする公知の機構である。前記送り低減機構83は、例えば、送り歯の動作経路を針板Pに対して傾け、該針板P上への突出時間を短くするように動作する。これにより、針板P上の縫製生地に送り歯が作用する時間が短くなり、縫製生地の送りピッチ、即ち、送り機構の1回の動作の間の縫製生地の送り量は小さくなる。
【0058】
前記ルーパ糸抑制機構84は、ルーパ1に送り込むルーパ糸10の中途部を挾持する糸調子皿と、該糸調子皿による挾持強さを増減するように動作するアクチュエータとを備える公知の機構である。ルーパ糸抑制機構84は、糸調子皿による挾持強さを高め、ルーパ糸10の付与抵抗を増すことにより、ルーパ糸10の送り出しを抑制する。
【0059】
前記制御部8は、縫製終了時に、糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6を、ミシンモータ80、布押えシリンダ81、エアワイパ82、送り低減機構83及びルーパ糸抑制機構84と関連して動作させることにより、ほつれ止め動作を実行する。
【0060】
図5は、ほつれ止めのための制御部8の動作内容を示すタイムチャートである。制御部8は、CPU、ROM及びRAMを備えるコンピュータであり、
図5のタイムチャートに従うほつれ止め動作は、ROMに格納された制御プログラムに従うCPUの一連の動作により実行される。
図6~
図12は、本発明装置の動作説明図であり、
図5のタイムチャートに従う制御部8の動作の間に生じる糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6の動作状態、並びに糸切りフック50の動作状態を示している。
【0061】
ミシンを使用する縫製作業者は、縫製生地の縫製を終了する際、ミシン駆動のためのペダルの踏み込み操作を止め、その後にほつれ止め動作を実行する場合、前記ペダルを踏み返し操作する。ペダルスイッチ21は、前記ペダルに付設してあり、踏み込み操作中に踏み込み信号21aを出力し、踏み返し操作がなされたとき踏み返し信号21bを出力する。
【0062】
制御部8は、縫製生地の縫製が終了し、
図5のS1時点において、ミシン駆動のためのペダルが踏み込み状態から中立状態に戻されたとき、即ち、ペダルスイッチ21から踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bのいずれもが与えられない状態となったとき、入力側に与えられる針位置信号22を参照して出力側のミシンモータ80に回転停止指令を発する。これによりミシンは、針2,2がその上下運動ストロークの上死点を0度及び360度に設定した場合の針2,2の上昇運動中の245度近傍で、かつ、ルーパ1が左進してその先端に左の針糸ループ20aを捕捉している位置で一時停止する。
【0063】
その後、制御部8は、前記ペダルが踏み返し操作されるまで待機する。
図5のS2時点において踏み返し操作がなされ、入力側に踏み返し信号21bが与えられた場合、制御部8は、以下に示すほつれ止め動作を開始する。なお制御部8は、ペダルスイッチ21から踏み込み信号21aが再入力された場合、通常縫製動作に復帰する。縫製作業者は、ペダルを再度踏み込み操作することで縫製生地の縫製を継続することができる。
【0064】
なお、
図5においては、S1時点からS2時点までの間に中立状態が維持されることとなっているが、このような中立状態の維持は必須の操作ではなく、縫製終了時のペダルの操作は、踏み込み状態から踏み返し状態に連続的に移行するようになされてもよい。この場合、移行の過程で中立位置を通過する際、踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bのいずれもが与えられない無信号状態が存在し、制御部8は、このような無信号状態をトリガとし、前述の如く、針2,2が245度近傍で、かつ、ルーパ1が左進してその先端に左の針糸ループ20aを捕捉している位置に上昇し、ルーパ1が左進端近傍にまで進出した状態を実現した後にほつれ止め動作を開始する。
【0065】
また、
図5のタイムチャートでは、S2時点においてなされるペダルの踏み返し操作が、以下に示すほつれ止め動作の実行中に継続されることとなっているが、このような踏み返し操作の継続も必須ではなく、制御部8のほつれ止め動作は、踏み返し信号21bの入力停止後も継続して実行される。
【0066】
図6は、ほつれ止め動作の開始時における針2,2及びルーパ1の状態を示している。針2,2は、2本の針糸20,20とルーパ糸10とで通常縫製による二重環縫いの縫目Mが形成された縫製生地の上方に抜け出した状態にある。ルーパ1は、前記縫製生地の下側で左進し、針糸20,20が夫々形成する2つの針糸ループ20a,20aを捉えた状態にあり、この状態で、針糸20,20及びルーパ糸10を切断すると、前述した
図28に示すような縫い終わり部が形成される。
【0067】
ほつれ止め動作の開始後、制御部8は、まず出力側の糸操作ソレノイド32に動作指令を与え、該糸操作ソレノイド32を短時間励磁する。この糸操作ソレノイド32の励磁により、前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、
図1に示す待機位置から、
図2に示す糸掛け位置に移動する。この移動は、前述したように、ストッパレバー4の先端部4aを左向きに押し拡げつつ生じる。
【0068】
前記ストッパレバー4は、前記糸掛けフック3が通過した後、復帰ばね(図示を省略する)のばね力の作用により、
図2中に実線にて示す拘束位置に移動する。前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、前記糸操作ソレノイド32の消磁により、時計回りに復帰揺動する。この揺動は、糸掛けフック3の止め部3dが拘束位置にあるストッパレバー4の先端部4aに当たることで拘束され、糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、
図3に示す保持位置で停止する。
【0069】
図7には、前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6の先端部が糸掛け位置に移動した状態を示し、
図13~
図15には、前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6の先端部が待機位置から糸掛け位置に移動したときにおける前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6の動作状態の詳細を示している。前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6先端部の糸掛け位置への移動に伴い、前記ルーパ糸保持体6先端の糸受け部6aは、
図13に示すように、ルーパ1の先端部から縫製生地に向けて延びるルーパ糸10を捕捉し、該捕捉したルーパ糸10を前方に押して左側の針2の下降位置(針落ち位置A)よりも前側に位置させると共に、
図14に示すように、このルーパ糸10を介して前記針糸ループ20aの前糸部20afを前記左側の針2の上下運動経路(下降位置)から離れるように右方へ押し移動させる。
【0070】
一方、前記糸掛けフック3は、前記待機位置から糸掛け位置への移動に伴い、
図14に示すように、前記左側の針糸ループ20a内を通過して該針糸ループ20aの後糸部20abを捉える状態となる。そして、針2,2が上死点より下方で針先端が針板Pの下面から前記ルーパ1の下面までの範囲内に設定された所定位置まで下降した時に開始する前記糸掛けフック3の糸掛け位置から左後方の保持位置への復帰移動に伴い、前記糸掛けフック3のフック部3bは、
図15に示すように、前記左側の針糸ループ20aの後糸部20abを引掛け保持して該後糸部20abを左側の針2の上下運動経路(下降位置)から離れるように左方(ルーパ1の進出端側)へ移動させる。
【0071】
ここで、前記糸掛けフック3が前記左側の針糸ループ20a内を通過するときは、
図16(a),(b)に示すように、該糸掛けフック3の先尖り先端部3eが先行し、続く斜面3fが針糸ループ20aの後糸部20abに摺接して該糸掛けフック3の進入を案内することになるため、針糸ループ20aが狭くても糸掛けフック3はスムーズに針糸ループ20a内を通過移動して
図17(a),(b)に示すように、該針糸ループ20aの後糸部20abを捉えうる状態となる。このとき、糸掛けフック3の先尖り先端部3eは、針2,2(3本針使用の場合、中間の針にも)衝突しない位置に位置することになる。
【072】
そして、
図18(a),(b)に示すように、前記ルーパ1の前方への移動と進出端への移動及び退出移動に伴い、針糸ループ20aの後糸部20abが前記糸掛けフック3のフック部3bに捉えられ、続いて、糸掛けフック3の糸掛け位置から保持位置への復帰移動時には
図19(a),(b)に示すように、捉えた針糸ループ20aの後糸部20abをルーパ1及び針糸ループ20aの前糸部20afから離す方向に引っ張り移動させて前糸部20afと後糸部20abとの間隔を広げることができる。
【0073】
前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6の以上の動作によって前記左側の針糸ループ20aの前糸部20afと後糸部20abとの間隔が広がり、その間隔の広がった針糸ループ20a内に左側の針2が下降することにより、前記左側の針2が保持する針糸20により前記ルーパ1が保持する左側の針糸ループ20aを自糸ルーピングさせて
図24に示すように、二重環縫いの縫目の最後にほつれ止めを行う。
【0074】
以上の如きほつれ止め動作において、糸掛けフック3を動作させた後、制御部8は、
図5のS3時点において、出力側のミシンモータ80、送り低減機構83及びルーパ糸抑制機構84に動作指令を与える。この動作指令は、針位置信号22を参照し、針2,2が上下運動ストロークの下死点まで下降した後に前記停止位置の245度付近から300度から340度の範囲、好ましくは、315度から325度の範囲まで上昇し、再度上死点0度(360度)近傍に位置するまでの間与えられる。これにより縫製生地は、一針分縫製される。またこの縫製は、送り低減機構83が動作することにより、通常縫製時よりは小さい送り量の下で実行される。また、この縫製は、ルーパ糸抑制機構84が動作することにより、ルーパ1へのルーパ糸10の送り出しを抑制した状態で実行される。この送り出しの抑制は、ルーパ糸保持体6の糸受け部6aが保持したルーパ糸10が緩み、該ルーパ糸10が位置ずれしないようにするためである。これにより、形成される縫目は見栄えが良好となり、縫目品質を高めるこができる。
【0074】
前記糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、
図7に示す針糸20及びルーパ糸10の保持を、縫製生地の送り移動が完了し、左右の針2,2が縫製生地を貫通して下降し、左側の針2が、糸掛けフック3が保持する針糸ループ20aを通り、該ループ20aを捉えるまで継続する。このとき、ルーパ糸保持体6が保持するルーパ糸10は、
図7に示すように、左側の針2の前側を横切るように位置している。従って、左側の針2は、ルーパ糸10を捕捉せず、該ルーパ糸10は、右側の針2によりルーパ1の後側で捕捉されるのみである。
【0075】
制御部8は、左側の針2が針糸ループを捉えたタイミングでストッパソレノイド42に短時間の動作指令を与え、該ストッパソレノイド42を励磁する。この励磁によりストッパレバー4は、
図3中に実線にて示す拘束位置から、2点鎖線により示す退避位置に移動し、糸掛けフック3の拘束を解除する。これにより糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、
図8に示すように保持位置から待機位置に復帰移動し、針糸ループ20a及びルーパ糸10の保持を解除する。
【0076】
前記ルーパ1は、針2,2の下降と共に右退動作し、捕捉した針糸ループ20aから抜け出す。この抜け出しにより、
図9に示すように、右側の針2は、通常縫製時と同様にルーパ糸10を捕捉した状態となるのに対し、左側の針2は、ルーパ糸10ではなく、針糸ループ20aを捕捉した状態となる。
【0077】
この状態でルーパ1は、左進に転換し、針2,2は、上昇に転換する。
図10に示すように、左進するルーパ1は、左右の針糸20,20のループ20a,20aを捉え、上昇する針2,2は、縫製生地の上方に抜け出す。これにより、ルーパ1が捉えた針糸20は、右側の針2の位置ではルーパ糸10を他糸ルーピングするのに対し、左側の針2の位置では、先に形成された針糸ループ20aを自糸ルーピングすることとなる。
【0078】
一針分の縫製動作は、針2,2が上死点近傍まで上昇し、ルーパ1が左進端近傍に達した状態で終了する。その後制御部8は、糸切り信号23が与えられるまで待機し、
図5のS4時点において糸切り信号23が与えられると、出力側の糸切りアクチュエータ58に動作指令を与え、該糸切りアクチュエータ58に所定の動作を行わせる。これにより糸切りフック60は、左進した後に右退動作する。
【0079】
左進する糸切りフック50は、ルーパ1の上部に沿って
図11に示す進出端にまで達する。このとき、糸切りフック50の先端部に設けた第1のフック部52は、ルーパ1が保持する針糸20,20のループ内を通ってルーパ1の先端から縫製生地に延びるルーパ糸10に左側に達し、糸切りフック50の中途部に設けた第2のフック部53は、左側の針糸20に左側から対向する。
【0080】
前記糸切りフック50は、進出端に達した後に右退動作する。第1のフック部52はルーパ糸10を捕捉し、また第2のフック部53は、2本の針糸20,20を順次捕捉する。このように捕捉されたルーパ糸10及び針糸20,20は、糸切りフック50の退入端にまで引かれる。このとき、
図12に示すように、第2のフック部53に捉えられた針糸20,20は、糸切りメス51の先端の刃部に摺接することで切断され、また第1のフック部52に捉えられたルーパ糸10は、同様に糸切りメス51の先端の刃部に摺接することで切断されると共に、この切断位置よりもルーパ1側にて保持される。糸切りフック50及び糸切りメス51を備える糸切り機構5は、以上の動作により針糸20,20及びルーパ糸10を切断する。
【0081】
ルーパ糸抑制機構84は、以上の糸切り動作を終えるまで動作を継続し、ルーパ1の先端から縫製生地に延びるルーパ糸10に所定の張力を付与する。糸切りフック50先端の第1のフック部52は、緩みのないルーパ糸10を確実に捕捉することができる。
【0082】
図11,
図12に示すように、糸切りフック50は、下面の前側に弾接する板ばね59のばね力により糸切りメス51との摺接部に押し付けられており、糸切りメス51による針糸20,20及びルーパ糸10の切断は、前記板ばね59による押し付け下にて確実になされる。切断されたルーパ糸10は、
図12に示すように、糸切りフック50の下面と板ばね59との間に挟まれた状態で保持される。
【0083】
以上のように切断動作を終えた後、制御部8は、針糸払い信号24が与えられるまで待機し、
図5のS5時点において針糸払い信号24が与えられると、出力側のエアワイパ82に動作指令を発し、該エアワイパ82を動作させる。エアワイパ82は、空気を吹き出し、針2,2側に連続する針糸20,20の切断端を跳ね上げる。その後制御部8は、
図5のS6時点において出力側の布押えシリンダ81に動作指令を発し、該布押えシリンダ81を動作させて布押え用の押え金を上昇させて一連の動作を終える。
【0084】
これにより作業者は、縫製を終えた生地を針板P上から取り外し、新たな縫製生地をセットして次回の縫製を開始することが可能となる。このときルーパ糸10は、糸切りフック50と糸切りメス51とにより針板Pの下で保持され、また針糸20,20は、針板P上に跳ね上げられて、
図12に示すように、各別の針2,2から垂れ下がった状態となる。従って、作業者は、針糸20,20及びルーパ糸10に対して何らの始末を要することなく次回の縫製を開始することができる。
【0085】
なお、糸切り機構5による針糸20,20及びルーパ糸10の切断、エアワイパ82の動作による針糸20,20の跳ね上げ、及び布押えシリンダ81を動作による押え金の上昇は、本発明における必須の動作ではない。また、実施の形態においてこれらの動作は、外部から与えられる糸切り信号23及び針糸払い信号24を待って、ほつれ止め動作に連続して実施するようにしてあるが、ほつれ止めのための一針分の縫製を終えた後、作業者による適宜の操作に応じた一連の動作として実施してもよい。
【0086】
図20は、第2の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を略示する上方からの平面図、
図21は、同じく下方からの底面図、
図22、
図23は、同じく動作説明図である。以下の説明では、
図22、
図23中に矢符により示した「左,右」及び「前,後」を使用する。ここで、
図1~
図3と同様、「前」は、縫製作業者に近い側、「後」は、縫製作業者から離れた側であり、「左,右」は、前方から見た場合の「左,右」である。
【0087】
本第2の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置は、糸掛けフック3、ルーパ糸保持体6及びストッパレバー4を備えており、更に揺動レバー9を備えている。
図20に示すように、糸掛けフック3は、針板Pが取付けられた針板台10の上面に、上下方向の支軸34を中心として揺動可能に支持されている。支軸34は、針板Pの右後側で、該針板Pの近傍に位置している。
【0088】
糸掛けフック3は、円弧形の湾曲形状を有しており、支軸34から左方に延びる支持アーム3aの先端部に、前方に折り返すように連設されている。糸掛けフック3の先端部3eは、先尖りに形成され、針板Pの下側において、左側後方から針2,2の針落ち位置A,Aに臨ませてあり、先尖り先端部3eに連なる斜面部3fに続いて外向きに突出する状態のフック部3bが設けられている。支持アーム3aは、支軸34の前方にも延びており、この延設端には、連結ロッド35の一端部が連結されている。
【0089】
ルーパ糸保持体6は、円弧形の湾曲形状を有し、第1の実施の形態におけるルーパ糸保持体6と同様に、2本の固定ねじ60,60により糸掛けフック3の基部に位置調節可能に取り付けられている。このルーパ糸保持体6の先端部は、糸掛けフック3の左側に沿って前方に延び、糸掛けフック3の先端部の前位置で針落ち位置A,Aに臨ませてあり、該先端部には、二股に分岐された糸受け部6aが形成されている。
【0090】
揺動レバー9は、針板台11の上面に、上下方向の支軸90を中心として揺動可能に支持されている。支軸90は、糸掛けフック3の支軸34から右方に離れて位置している。揺動レバー9は、支軸90から前方に延びており、該揺動レバー9の先端部には、前記連結ロッド35の他端部が連結されている。
【0091】
揺動レバー9は、先端部近傍の右側を下向きに折り曲げて一体形成された押し板91を備えている。
図21に示すように、針板台11の下面には、揺動レバー9の左側に糸操作シリンダ92が固定してある。糸操作シリンダ92は、右向きに突出する出力ロッド93を備えるエアシリンダである。出力ロッド93の先端は、押し板91に対向している。出力ロッド93は、エアチューブ94を介して糸操作シリンダ92に供給される作動エアの作用により進出し、押し板91を右向きに押圧する。
【0092】
針板台11は、糸操作シリンダ92の左側に、前向きに突設されたばね掛け棒95を備えており、該ばね掛け棒95と前記押し板91との間に戻しばね96が張架されている。戻しばね96は、押し板91を左方向に引っ張り付勢するコイルばねであり、連結ロッド35と糸操作シリンダ92との間に配してある。
図20、
図22、
図23においては、連結ロッド35の中途部を破断して戻しばね96の一部を示してある。
【0093】
糸操作シリンダ92が非作動状態にある場合、揺動レバー9は、戻しばね96のばね力により左方に引かれ、
図20に示す揺動位置となる。糸掛けフック3先端のフック部3b及びルーパ糸保持体6先端の糸受け部6aは、
図20に示すように、針2,2の針落ち位置A,Aの左後方に離れた待機位置にある。
【0094】
糸操作シリンダ92が作動した場合、出力ロッド93が進出し、押し板91を右向きに押圧する。この押圧により揺動レバー9は、
図22中に矢符により示すように、戻しばね96のばね力に抗して反時計回りに揺動する。糸掛けフック3の支持アーム3aは、支軸34を中心として反時計回りに揺動し、糸掛けフック3先端のフック部3b、及びルーパ糸保持体6の先端の糸受け部6aは、
図22中に矢符により示すように、右前方に進出して、
図22に示す糸掛け位置に達し、第1の実施の形態におけると同様に、フック部3bは、ルーパ1の後側で左側(ルーパ1の進出端側)の針糸ループを超えて位置し、糸受け部6aは、フック部3bの前方でルーパ1の上側に位置する。
【0095】
図21に示すように、ストッパレバー4は、針板台11の下面に上下方向の支軸44を中心として揺動可能に支持されている。支軸44は、揺動レバー9の支軸90の近傍に位置する。ストッパレバー4は、支軸44から右方に延びている。ストッパレバー4は、先端部近傍の後側を下向きに折り曲げて一体形成された押し板45を備え、また前縁の中途部を切欠いてなる係合凹部46を備えている。
【0096】
針板台11の下面には、後端部近傍にストッパシリンダ47が固定されている。ストッパシリンダ47は、後向きに突出する出力ロッド48を備えるエアシリンダである。出力ロッド48の先端は、押し板45に対向している。出力ロッド48は、エアチューブ49を介してストッパシリンダ47に供給される作動エアの作用により進出し、押し板45を後向きに押圧する。
【0097】
針板台11の上面には、ばね掛け棒97が、ストッパシリンダ47の上側で右向きに突設されており、該ばね掛け棒97とストッパレバー4の先端部との間には戻しばね98が張架されている。戻しばね98は、ストッパレバー4の先端部を後方向に引っ張り付勢するコイルばねである。
図20、
図22及び
図23においては、針板台11の一部を破断して、戻しばね98とストッパレバー4との連結部を示してある。
【0098】
ストッパシリンダ47が非作動状態にある場合、ストッパレバー4は、戻しばね98のばね力により前方に引かれ、
図21に示すように、揺動レバー9の押し板91に前縁を押し当てた位置にある。この状態で糸操作シリンダ92が作動した場合、押し板91は、ストッパレバー4の前縁に沿って右方に移動する。ストッパレバー4は、移動する押し板91が前縁に設けた係合凹部46に整合した時点で戻しばね98のばね力により引かれ、
図21における反時計回りに揺動し、
図22に示すように、係合凹部46の底面を揺動レバー9の押し板91に押し当てた状態となる。
【0099】
この状態で糸操作シリンダ92が非作動状態となった場合、揺動レバー9は、戻しばね96のばね力により左方に引かれ、
図23中に矢符で示すように時計回りに揺動する。この揺動は、ストッパレバー4の係合凹部46内で押し板91が滑り移動し、該押し板91が係合凹部46の左側縁に係合する位置で拘束される。この時、糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、支軸34を中心として時計回りに揺動し、糸掛けフック3先端のフック部3b及びルーパ糸保持体6の先端の糸受け部6aは、左後方に後退移動し、糸掛け位置の近くの保持位置に位置決めされる。この移動の間に実施の形態1におけると同様に、フック部3bは、左側の針糸ループを捉えて引き戻し、ルーパ1の進出端側に位置させ、糸受け部6aは、ルーパ1から縫製生地に延びるルーパ糸を押し、針2の下降位置よりも前側に位置させる。
【0100】
この状態でストッパシリンダ47が作動した場合、出力ロッド48が進出し、ストッパレバー4の押し板45を後向きに押圧する。この押圧によりストッパレバー4は、戻しばね98のばね力に抗して揺動する。ストッパレバー4に設けた係合凹部46は後方に移動し、押し板91との係合を解除する。これにより揺動レバー9は、戻しばね96のばね力の作用で時計回りに揺動し、糸掛けフック3は、保持位置から左後方に移動し、
図20に示す待機位置に戻る。ストッパレバー4は、ストッパシリンダ47が非作動状態となることで戻しばね98のばね力の作用により揺動し、
図20に示す揺動位置に復帰する。
【0101】
第2の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置において、糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、糸操作シリンダ92及びストッパシリンダ47を選択的に動作させることで、待機位置と糸掛け位置と保持位置との間で移動し、実施の形態1と同様のほつれ止め方法を実施することができる。糸操作シリンダ92は、フックアクチュエータに相当し、ストッパシリンダ47は、ストッパアクチュエータに相当する。
【0102】
第2の実施の形態に係る縫目のほつれ止め装置の動作は、糸操作シリンダ92及びストッパシリンダ47、より詳しくは、糸操作シリンダ92及びストッパシリンダ47に作動エアを給排する給排弁を制御対象とし、
図4に示すように構成された制御部8が、
図5に示すタイムチャートと同様の制御動作を行うことで達成することができる。
【0103】
図24は、本発明により得られる2本針二重環縫いの縫目構造を縫製生地の裏面から見た図、
図25は、
図24に示す縫目のほつれ止め効果の説明図である。なお、これらの図においては、
図6~
図12とは、左右関係が逆となっているが、以下の説明では、
図6~
図12における左,右を使用する。また、
図24、
図25において、縫製生地の送り移動の方向は白抜矢符にて示す方向であり、
図24、
図25においては、上方が送り移動方向の下流側となり、下方が送り移動方向の上流側となる。
【0104】
図24に示すように、ルーパ糸10は、二重環縫いの縫目Mの最後に縫製生地の裏面に形成される右側(
図24においては左側)の針糸ループ20a(以下、右最終ループ20aという)内を通り、ほつれ止めのための一針分の縫製の際に縫製生地の裏面に抜け出す同側の針糸20の前で折り返し、右最終ルーパ6a内を再度通った位置で切断される。
【0105】
一方、一針分の縫製の際に縫製生地の裏面に抜け出す左側(
図24においては右側)の針糸20は、前述したように、通常縫製時の最後に縫製生地の裏面に形成される左側の針糸ループ20b(以下、左最終ループ20bという)内を通り、該左最終ループ20bを自糸ルーピングし、単環縫いの縫目を形成する。従って、ルーパ糸10は、図示のように、左側の針糸20と左最終ループ20bとの間に押えられた状態となる。
【0106】
図24、
図25において左最終ループ20bは、針糸20との絡みを明示するために緩んだ状態で示されているが、実際の左最終ループ20bは、針糸20が通った後に引き締められ、右最終ループ20aと同様の状態となる。従って、ルーパ糸10は、針糸20と左最終ループ20bとで強固に押えられ、図示のように、左最終ループ20bと、一回前に形成された左針糸ループ20cとの間に掛け渡された状態で拘束される。この拘束は、ルーパ糸10に加わる如何なる方向の作用力に対しても維持されるから、二重環縫いの縫目Mに特有のほつれの発生を、その発生段階にて確実に防止することができる。
【0107】
前述したように、一針分の縫製時における縫製生地の送りピッチは、通常縫製時における縫製生地の送りピッチよりも小さい。従って、
図24に示すように、一針分の縫製時における針糸20の抜け出し位置と左最終ループ20bとの間の間隔Lは、左最終ループ20bと一回前に形成された左針糸ループ20cとの間の間隔L
0よりも小さくなる。これにより、左側の針糸20と左最終ループ20bとの間でのルーパ糸10の押えは強化され、ルーパ糸10の抜けに起因するほつれの発生をより確実に防止することができる。
【0108】
ルーパ糸10の押えを強化するという観点から見た場合、前記間隔Lは、可及的に小さくするのが望ましい。一方、前記間隔Lが小さい場合、例えば、薄い縫製生地において、針糸20の抜け出し位置と左最終ループ20bとの間の強度が不足し、縫製生地の損傷を引き起こす虞れがある。それ故、前記間隔L、即ち、一針分の縫製時における縫製生地の送りピッチは、縫製生地の種類に応じて適正に設定する必要がある。
【0109】
図25は、ルーパ糸10の切断端部が、図中に矢符により示す向きに引っ張られた状態を示している。この引っ張りがなされた場合、前述のように、同側の針糸20の前を通るルーパ糸10のループが縮小し右最終ループ20a内に引き込まれる。この結果、針糸20は、ルーパ糸10と右最終ループ20aとの間に挟まれた状態となり、針糸20とルーパ糸10とにより、図示のような「結び目」が形成される。この「結び目」は、ルーパ糸10にも抵抗を加え、該ルーパ糸10の抜けを防止する作用をなすから、
図25に示す状態となった場合、二重環縫いの縫目のほつれは、左側の自糸ルーピング部と、右側の「結び目」との相乗作用により一層確実に防止することができる。
【0110】
また以上の如く構成される縫目において、右最終ループ20aから突出するルーパ糸10の切断端部の長さは、
図25に示すように十分に短いから、縫製作業者は、切断端部の始末を必要とせずに良好な見栄えを有する高品質の縫目を形成することができる。
【0111】
以上の実施の形態においては、縫製生地の送りピッチを、自糸ルーピングのための一針分の縫製の間に変更しているが、この変更は、前記一針分の縫製の前段階から実施してもよい。
図26は、制御部8の動作内容の他の実施の形態を示すタイムチャートである。
【0112】
ほつれ止め動作を実行する場合、縫製作業者は、前述したように、縫製作業の終了時にペダルを中立位置に戻し、その後に踏み返す操作を行う。制御部8は、縫製生地の縫製が終了し、
図26のS1時点において、ペダルが中立状態に戻されたとき、入力側に与えられる針位置信号22を参照して出力側のミシンモータ80に停止指令を発する。この実施の形態においてミシンは、針2,2が上下運動ストロークの245度付近に下降して停止し、ルーパ1が右退した状態で一時停止する。制御部8は、ペダルが踏み返し操作されるまで待機し、
図26のS2時点において踏み返し操作がなされ、入力側に踏み返し信号21bが与えられた場合、制御部8は、以下に示すほつれ止め動作を開始する。
【0113】
なお、
図5の説明において述べたように、S1時点からS2時点までのペダルの中立状態の維持は必須の操作ではなく、またS2時点以降のペダルの踏み返し操作の継続も必須の操作ではない。これらの場合に制御部8は、中立状態の通過時に生じる無信号状態、即ち、踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bのいずれもが与えられない状態をトリガとして以下に示すほつれ止め動作を開始し、この動作を、踏み返し信号21bの入力停止後も継続する。
【0114】
ほつれ止め動作を開始した制御部8は、まず送り低減機構83に動作指令を与え、その後のS3時点において、ミシンモータ80に動作指令を与える。この動作指令は、針位置信号22を参照し、針2,2が前記停止位置(上下運動ストロークの245度付近)から上昇するまでの間与えられる。これにより、縫製生地は半針分縫製される。この縫製は、送り低減機構83が動作状態にあることから、通常縫製時よりも小さい送りピッチの下で実行される。
【0115】
以上の動作により、針2,2は上死点近傍で上下運動ストロークの300から340度の範囲、好ましくは、315度から325度の範囲まで上昇し、ルーパ1は左進端の手前位置にまで進出した状態となる。その後、制御部8は、S4時点において出力側の糸操作ソレノイド32に動作指令を与え、該糸操作ソレノイド32を短時間励磁し、次いで、S5時点において、出力側のミシンモータ80及びルーパ糸抑制機構84に動作指令を与える。
【0116】
ミシンモータ80への動作指令は、針位置信号22を参照し、上死点近傍で上下運動ストロークの300度から340度の範囲、好ましくは、315度から325度の範囲にある針2,2が上死点0度(360度)を超えて下降中の90度付近で停止する。この停止した状態は、針2,2の先端が前記針板Pの下面からルーパ1の下面までの範囲である。その後、S6の時点でミシンモータ80への動作指令が与えられ、針2,2が前記90度付近から上昇して上死点360度(0度)で停止するまで動作指令は継続される。これにより、縫製生地は一針分縫製される。このとき、送り低減機構83は動作を継続し、またルーパ糸抑制機構84が動作しており、一針分の縫製は、通常縫製時よりは小さい送りピッチの下で、ルーパ1へのルーパ糸10の送り出しを抑制した状態で実行される。
【0117】
その後、制御部8は、S7時点において糸切りアクチュエータ58に、またS8時点においてエアワイパ82に、更に、S9時点において布押えシリンダ81に夫々動作指令を発し、これらを動作させて一連の動作を終える。
図26のS4~S8の動作は、
図5におけるS2~S6の動作と同じであり、この動作の間に、自糸ルーピングのための一針分の縫製がなされ、糸切り機構5により針糸20,20及びルーパ糸10が切断され、エアワイパ82の動作により切断された針糸20,20が跳ね上げられ、更に布押えシリンダ81を動作により押え金が上昇する。
【0118】
図27は、以上の動作により得られる2本針二重環縫いの縫目構造を縫製生地の裏面から見た図である。本図は、
図25と同様、ルーパ糸10の切断端部が、図中に矢符により示す向きに引っ張られた状態を示しており、二重環縫いの縫目Mのほつれは、左側(
図27における右側)の自糸ルーピング部と、右側(
図27における左側)の「結び目」との相乗作用により確実に防止することができる。
【0119】
この実施の形態においては、自糸ルーピングのための一針分の縫製の前に、縫製生地の送りを低減した状態で半針分の縫製がなされる。従って、
図27に示す縫目構造においては、最後の針糸20の抜け出し位置と左最終ループ20bとの間の間隔L
1だけでなく、左最終ループ20bの一針前の左針糸ループ20cとの間隔L
2も、更に一針前の左針糸ループ20cとの間隔L
0よりも小さくなる。従って、自糸ルーピング部分が、該部分よりも前位置の他糸ルーピング部分を含めて密となり、ルーパ糸10の押えが一層強化され、縫い終わり部分でのルーパ糸10の抜けを起点とするほつれの発生をより確実に防止することができる。
【0120】
なお、以上の実施の形態においては、2本の針糸20,20とルーパ糸10をにより形成する二重環縫いの縫目について説明したが、本発明に係る縫目のほつれ止め装置及びこの装置を用いて実施する縫目のほつれ止め方法は、3本以上の針糸を使用する多本針二重環縫いの縫目においても同様に適用でき、ほつれの発生を有効に防止することができる。
【0121】
また、以上の各実施の形態においては、2本の針糸20,20が形成する針糸ループのうち、ルーパ1の進出端側に位置する1つを捉え、この状態で1針分の縫製動作を行わせる場合について説明したが、捉える針糸ループは、ルーパ1の進出端側の1つを含む複数であってもよく、またこの保持状態で実施する縫製動作も、2針分、又はそれ以上であってもよい。
【0122】
また、以上の各実施の形態においては、糸掛けフック3は、針落ち位置Aの左後方と右前方との間で動作して針糸20を捉えるようにしてあるが、糸掛けフック3は、他の動作で針糸20を捉えるようにしてもよい。また針糸20は、実施の形態に示すルーパ1の後側に限らず、ルーパ1の前側で捉えるようにしてもよい。更に、本発明においては、特許請求の範囲に示すように、針糸ループを針2の下降位置よりもルーパ1の進出端側に位置させておけばよく、実施の形態に示すように、糸掛けフック3による針糸20の保持は必須ではない。
【0123】
また、以上の各実施の形態において、ルーパ糸保持体6は、糸掛けフック3に取り付けてあり、該糸掛けフック3と一体に動作してルーパ糸10を保持するようにしてあるが、ルーパ糸保持体6は、他の動作でルーパ糸10を保持するように構成することもできる。ルーパ糸保持体6は、糸掛けフック3と別体に設け、糸掛けフック3と異なる専用のアクチュエータにより動作させることも可能である。更に、本発明においては、特許請求の範囲に示すように、ルーパ糸10を針2の下降位置よりも前側に位置させておけばよく、実施の形態に示すように、ルーパ保持体6によるルーパ糸10の保持は必須ではない。
【符号の説明】
【0124】
1 ルーパ
2 針
3 糸掛けフック
4 ストッパレバー
6 ルーパ糸保持体
8 制御部
10 ルーパ糸
20 針糸
20a 針糸ループ
20af 前糸部
20ab 後糸部
32 糸操作ソレノイド(フックアクチュエータ)
42 ストッパソレノイド(ストッパアクチュエータ)
47 ストッパシリンダ(ストッパアクチュエータ)
92 糸操作シリンダ(フックアクチュエータ)