IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特許-舗装構造 図1
  • 特許-舗装構造 図2
  • 特許-舗装構造 図3
  • 特許-舗装構造 図4
  • 特許-舗装構造 図5
  • 特許-舗装構造 図6
  • 特許-舗装構造 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】舗装構造
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/12 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
E01C7/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019092445
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020186593
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-093109(JP,A)
【文献】特公昭46-024356(JP,B1)
【文献】特開2018-053510(JP,A)
【文献】特開2006-219900(JP,A)
【文献】特開2016-199908(JP,A)
【文献】特開2010-084438(JP,A)
【文献】特開平09-256314(JP,A)
【文献】特開2005-220599(JP,A)
【文献】特開平05-148827(JP,A)
【文献】中国実用新案第202787069(CN,U)
【文献】宮本重信、西澤辰男、武市靖、野田悦郎、高島浩一,融雪用放熱管を有する舗装の設計・施工の合理化例,土木学会論文集E,Vol.66 No.3,日本,社団法人土木学会,2010年08月,p270-287
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/12
E01C 7/14
E01C 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が路面となる表層が路盤上方に配置されるとともに該路面の載荷荷重による損傷から防止される対象としての保護対象物が前記表層内に埋設されてなる舗装構造において、
前記表層内であって前記保護対象物の天端を上限、前記表層の下方境界を下限とする深さ範囲に前記保護対象物の両側方に延びる形で引張抵抗手段を配置してなり、前記引張抵抗手段は、前記路面での載荷荷重により該引張抵抗手段に引張力が生じるとともにその引張力が圧縮反力として前記表層に作用することにより該圧縮反力が水平反力となって前記保護対象物を覆う形で前記表層内にアーチ機構が形成されるようになっていることを特徴とする舗装構造。
【請求項2】
前記表層をせん断抵抗可能な材料で形成するとともに、前記表層と前記引張抵抗手段との間の荷重伝達がそれらの付着を介して行われるように前記引張抵抗手段を構成した請求項1記載の舗装構造。
【請求項3】
前記表層を繊維混入モルタルで形成した請求項2記載の舗装構造。
【請求項4】
前記引張抵抗手段を、格子状抵抗部材、シート状抵抗部材、棒状抵抗部材又は棒状部の各端にフックが設けられたフック付き抵抗部材で構成した請求項2又は請求項3記載の舗装構造。
【請求項5】
前記表層を圧縮抵抗可能な材料で形成するとともに、前記引張抵抗手段の先端近傍に設けられた支圧手段を介して前記表層と前記引張抵抗手段との間の荷重伝達が行われるように構成した請求項1記載の舗装構造。
【請求項6】
前記表層を、砂で構成し、粘土で構成し、繊維を含有しないモルタルで構成し、又は繊維を含有しないセメント改良土で構成した請求項5記載の舗装構造。
【請求項7】
前記引張抵抗手段を棒状抵抗部材で、前記支圧手段を該棒状抵抗部材に対して直交配置された板状抵抗部でそれぞれ構成した請求項5又は請求項6記載の舗装構造。
【請求項8】
前記引張抵抗手段を、前記保護対象物の下方に位置決めするとともに、該保護対象物の一方の側から他方の側に連続して延びるように構成した請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の舗装構造。
【請求項9】
前記保護対象物を筐体及び該筐体内に配置された保護対象設備で構成し、前記引張抵抗手段を、前記筐体の各側面からそれぞれ延びるように構成した請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の舗装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消融雪等を目的とした設備を埋設する際に適用される舗装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路には、さまざまな目的で諸設備が埋設されることがあり、例えば積雪が多い地域の場合、積雪を除去しあるいは凍結を防止するための消融雪設備が埋設される。
【0003】
消融雪設備には、二車線道路中央に埋設された散水ノズルから水を散水して路肩へと流す方式のほか、舗装断面の表層内に埋め込まれた散水ノズルから路面に水を滲出させる、表層内に埋設されたヒーターに通電することで、あるいは同じく表層に埋設されたパイプに地下水を通水することで路面を加熱する方式などが知られている。
【0004】
これらの消融雪設備は、いずれも積雪を除去し、あるいは路面の凍結を防止することで、冬期における走行安全性を確保することができるが、舗装断面の表層内に設備を埋め込む方式については、表層の厚みを大きくしたり強度を高めたりすることで、通過車両の荷重による破損を防止しなければならない。
【0005】
ここで、特許文献1には、上部舗装層の少なくとも一部を、樹脂短繊維を含有したモルタルで構成して基層とするとともに、該基層に埋設物を埋設する構成が開示されており、かかる構成によれば、樹脂短繊維によって基層のひび割れ抵抗性が向上するため、上部舗装層を薄くすることができるとともに、埋設物を熱放出部材で構成した場合には、該熱放出部材から放出された熱を効率よく路面まで伝達することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-53510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の構成においては、樹脂短繊維を含有したモルタルからなる基層は、埋設物が埋設された深さ範囲で該埋設物により水平方向に分断されるため、引張力が水平方向に伝達されない場合が生じ、その場合には、上述の深さ範囲の分だけ、曲げ抵抗要素としての機能が低下し、路面に載荷される荷重による曲げモーメントに十分抵抗できないおそれがあるという問題を生じていた。
【0008】
これは、基層のうち、埋設物が埋設された深さ範囲においては、樹脂短繊維によるひび割れ抵抗性の機能が発揮されないことを意味するが、加えて、上述の曲げモーメントに抵抗できるのは、埋設物天端から路面までの深さ範囲にとどまるため、該深さ範囲で想定外の引張応力が生じ、埋設物の天端から路面に向けてひび割れが発生進展するとともに、その結果として埋設物に不測の荷重が及び、該埋設物の損壊を招くおそれがあるという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、表層の厚みを大きくすることなく、埋設物の損壊を防止することが可能な舗装構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る舗装構造は請求項1に記載したように、上面が路面となる表層が路盤上方に配置されるとともに該路面の載荷荷重による損傷から防止される対象としての保護対象物が前記表層内に埋設されてなる舗装構造において、
前記表層内であって前記保護対象物の天端を上限、前記表層の下方境界を下限とする深さ範囲に前記保護対象物の両側方に延びる形で引張抵抗手段を配置してなり、前記引張抵抗手段は、前記路面での載荷荷重により該引張抵抗手段に引張力が生じるとともにその引張力が圧縮反力として前記表層に作用することにより該圧縮反力が水平反力となって前記保護対象物を覆う形で前記表層内にアーチ機構が形成されるようになっているものである。
【0011】
また、本発明に係る舗装構造は、前記表層をせん断抵抗可能な材料で形成するとともに、前記表層と前記引張抵抗手段との間の荷重伝達がそれらの付着を介して行われるように前記引張抵抗手段を構成したものである。
【0012】
また、本発明に係る舗装構造は、前記表層を繊維混入モルタルで形成したものである。
【0013】
また、本発明に係る舗装構造は、前記引張抵抗手段を、格子状抵抗部材、シート状抵抗部材、棒状抵抗部材又は棒状部の各端にフックが設けられたフック付き抵抗部材で構成したものである。
【0014】
また、本発明に係る舗装構造は、前記表層を圧縮抵抗可能な材料で形成するとともに、前記引張抵抗手段の先端近傍に設けられた支圧手段を介して前記表層と前記引張抵抗手段との間の荷重伝達が行われるように構成したものである。
【0015】
また、本発明に係る舗装構造は、前記表層を、砂で構成し、粘土で構成し、繊維を含有しないモルタルで構成し、又は繊維を含有しないセメント改良土で構成したものである。
【0016】
また、本発明に係る舗装構造は、前記引張抵抗手段を棒状抵抗部材で、前記支圧手段を該棒状抵抗部材に対して直交配置された板状抵抗部でそれぞれ構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る舗装構造は、前記引張抵抗手段を、前記保護対象物の下方に位置決めするとともに、該保護対象物の一方の側から他方の側に連続して延びるように構成したものである。
【0018】
また、本発明に係る舗装構造は、前記保護対象物を筐体及び該筐体内に配置された保護対象設備で構成し、前記引張抵抗手段を、前記筐体の各側面からそれぞれ延びるように構成したものである。
【0019】
本発明に係る舗装構造においては、路盤上方に配置された表層内に保護対象物が埋設してあるが、この表層内には、保護対象物の両側方に延びる形で引張抵抗手段を配置してあり、かかる引張抵抗手段は、路面での載荷荷重により該引張抵抗手段に引張力が生じるとともに、その引張力が圧縮反力として表層に作用するようになっている。
【0020】
すなわち、路面に鉛直荷重が載荷されたとき、表層は、その載荷荷重によって側方に膨らもうとするが、表層が水平に延びている関係で側方への変形が拘束されるため、載荷荷重は、下方のみならず、斜め下方にも圧縮力として伝達し得る状況にある。
【0021】
かかる状況において、保護対象物の両側方に延びる形で引張抵抗手段を配置すると、該引張抵抗手段には、上述の圧縮力によって引張力が生じ、その引張力が圧縮反力として表層に作用するとともに、表層には、その圧縮反力が水平反力となって、鉄筋コンクリート梁に観察されるのと同様のアーチ機構が形成される。
【0022】
そのため、載荷点が保護対象物の上方にくるように設定しておけば、アーチ機構が保護対象物を覆う形で表層内に形成されることとなり、路面の載荷荷重は、圧縮力として保護対象物を避けるように斜め下方に流れる。
【0023】
したがって、表層の厚みを大きくせずとも、路面の載荷荷重によって保護対象物が損傷を受けるのを防止することができるとともに、路面の載荷荷重によって表層が曲げ変形を受けるという観点では、該載荷荷重に対し、表層は、その全厚で又はそれに近い断面厚で曲げ抵抗することが可能となり、せん断抵抗機能が高い材料で表層を構成した場合には、それが併せ持つ引張抵抗機能を十分に発揮させることが可能となる。
【0024】
舗装構造は、主として道路のための舗装構造が対象となるが、道路以外であっても、走行車両による荷重が路面に載荷するのであれば、その用途は任意であって、例えば駐車場の舗装構造も包摂される。
【0025】
表層は、路盤上方に配置されていれば足りるものであって、路盤に直接積層される場合のほか、基層等の中間層を挟んで積層される形態も包摂される。
【0026】
保護対象物は、一方向、舗装構造が道路用であれば道路軸方向に連続的に延設される形態が典型例となるが、一方向に離散配置される形態も包摂される。
【0027】
保護対象物には、電力供給、無線給電、通信等を用途としたケーブルやコイル、消融雪を用途とした電熱線やパイプ類、冷暖房のための流体搬送を用途とした配管類などが含まれるが、その用途や形態は任意である。
【0028】
なお、路面の載荷荷重は上述したように、アーチ機構によって斜め下方への伝達が優位となって下方への伝達が低減されるため、保護対象物は、強度が高い筐体に収容された形態である必要はない。
【0029】
表層と引張抵抗手段との間で荷重伝達が行われるための構成としては、表層と引張抵抗手段との付着による場合と、引張抵抗手段の先端近傍に設けられた支圧手段による場合とに大別される。
【0030】
ここで、前者は、表層がせん断抵抗可能な材料、例えば繊維混入モルタルで形成されることを前提とするものであって、その構成には、引張抵抗手段を、格子状抵抗部材、シート状抵抗部材、棒状抵抗部材又は棒状部の各端にフックが設けられたフック付き抵抗部材で構成する形態が包摂される。
【0031】
一方、後者は、表層が圧縮抵抗可能な材料、例えば砂、粘土、繊維を含有しないモルタル、同じく繊維を含有しないセメント改良土等で形成されることを前提とするものであって、その構成は、引張抵抗手段を棒状部材で構成してその先端に支圧手段としての支圧板を取り付けた形態が典型例となる。
【0032】
なお、表層を形成する材料が、せん断抵抗可能であってなおかつ圧縮抵抗可能な材料でもある場合には、どちらの伝達機構を採用してもよいし、二つの伝達機構が混在する形でもかまわない。
【0033】
例えば、表層を繊維混入モルタルで形成した場合、該繊維混入モルタルが圧縮抵抗可能な材料でもあることを生かして、棒状部材の先端に支圧板を取り付けた構成とすれば、棒状部材の周面では表層との付着によって荷重伝達が行われるとともに、支圧板では支圧によって荷重伝達が行われることとなる。
【0034】
引張抵抗手段は、保護対象物が埋設された深さよりも浅い位置では、該保護対象物を覆う形で表層内にアーチ機構を形成することが難しくなるため、保護対象物の天端を上限、表層の下方境界を下限とする深さ範囲に位置決めするものとする。
【0035】
ここで、引張抵抗手段は、保護対象物の両側方に延びる形で配置してある限り、その構成は任意であって、保護対象物の下方に位置決めした上、該保護対象物の一方の側から他方の側に連続して延びるように構成してもよいし、保護対象物を筐体及び該筐体内に配置された保護対象設備で構成した上、筐体の各側面からそれぞれ延びるように構成してもよい。
【0036】
後者の場合、2つの引張抵抗手段の間で引張力が伝達されるよう、筐体に引張強度を持たせる必要があるが、引張抵抗手段との一体形成が可能であるため、良好な施工性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本実施形態に係る舗装構造1の鉛直断面図。
図2】A-A線に沿う全体水平断面図。
図3】本実施形態に係る舗装構造1の作用を示した説明図。
図4】本実施形態に係る舗装構造1の別の作用を示した説明図。
図5】変形例に係る舗装構造を示した斜視図。
図6】別の変形例に係る舗装構造を示した鉛直断面図及びその作用を示した説明図。
図7】さらに別の変形例に係る舗装構造とその作用を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る舗装構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本実施形態に係る舗装構造1を示した鉛直断面図、図2はA-A線に沿う全体水平断面図である。これらの図でわかるように、舗装構造1は、上面が路面2となる表層3を路盤4の上に積層配置してなるとともに、表層3には保護対象物5が埋設してある。
【0040】
路盤4は、路床(図示せず)の上に積層してあり、クラッシャランで構成することが可能であり、保護対象物5は、筐体としての円形鋼管5aとその内部空間に収容された保護対象設備5bとからなる。
【0041】
保護対象設備5bは、電力供給、無線給電、通信等を用途としたケーブルやコイル、消融雪を用途とした電熱線やパイプ類、冷暖房のための流体搬送を用途とした配管類などで構成すればよい。
【0042】
表層3は、せん断抵抗可能な材料として繊維混入モルタルで形成してあるとともに、該表層内には、引張抵抗手段としてのフック付き抵抗部材6を保護対象物5の両側方に延びる形で埋設してある。
【0043】
繊維混入モルタルは、適当な配合で混練されたフレッシュモルタルに、長さが数mmから数十mm程度の繊維(短繊維)を添加してさらに混練し作製すればよい。
【0044】
短繊維は、金属繊維、炭素繊維、有機繊維等から適宜選択することができるとともに、金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス合金繊維等を採用することが可能であり、有機繊維は、ポリアミド、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコールまたはビニロン(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)等で構成することが可能である。
【0045】
フック付き抵抗部材6は、棒状部6aの各端にフック6b,6bを設けてなり、例えば異形鉄筋の各端を折り曲げて構成することが可能である。
【0046】
このようなフック付き抵抗部材6は、保護対象物5の天端を上限、表層3の下方境界を下限とする深さ範囲Dの中で、本実施形態では特に、保護対象物5の下方に位置決めしてあるとともに、該保護対象物の一方の側から他方の側に連続して延びるように構成してある。
【0047】
ここで、フック付き抵抗部材6は、表層3と棒状部6aとの間の付着及び表層3とフック6b,6bとの間の支圧を介して荷重伝達が行われることにより、路面2における載荷荷重が圧縮力として表層3を介して伝達されてきたときに、該フック付き抵抗部材に引張力が生じるとともに、該引張力が圧縮反力として表層3に作用するようになっている。
【0048】
フック付き抵抗部材6は図2に示すように、保護対象物5の埋設方向に沿って所定の間隔ごとに離散配置してある。
【0049】
本実施形態に係る舗装構造1においては、図3(a)に示すように、自動車のタイヤ31を介して路面2に鉛直荷重が載荷されたとき、表層3は、その載荷荷重によって側方に膨らもうとするが、表層3が水平に延びている関係で側方への変形が拘束されるため、載荷荷重は、下方のみならず、斜め下方にも圧縮力として伝達し得る状況にある。
【0050】
かかる状況において、保護対象物5の両側方に延びる形でフック付き抵抗部材6が配置されているので、該フック付き抵抗部材には、上述した圧縮力により、表層3と棒状部6aとの間の付着及び表層3とフック6b,6bとの間の支圧による荷重伝達を介して引張力が生じ、その引張力が圧縮反力として表層3に作用するとともに、表層3には、その圧縮反力が水平反力となって、同図(b)に示すように鉄筋コンクリート梁に観察されるのと同様のアーチ機構32が形成される。
【0051】
そのため、載荷点が保護対象物5の上方にくるように設定しておけば、アーチ機構32が保護対象物5を覆う形で表層3内に形成されることとなり、路面2に載荷された荷重の流れは、アーチ機構32に沿った斜め下方への流れが優位となる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る舗装構造1によれば、保護対象物5の両側方に延びる形でフック付き抵抗部材6を表層3内に配置するとともに、フック付き抵抗部材6を、該フック付き抵抗部材に路面2での載荷荷重による引張力が生じるとともに、その引張力が圧縮反力として表層3に作用するように構成したので、アーチ機構32が保護対象物5を覆う形で表層3内に形成され、路面2の載荷荷重は、圧縮力として保護対象物5を避けるように斜め下方に流れることとなり、かくして表層3の厚みを大きくせずとも、路面2の載荷荷重によって保護対象物5が損傷を受けるのを防止することができる。
【0053】
また、路面2の載荷荷重によって表層3が曲げ変形を受けるが、従来のように路盤4の上に保護対象物5が単に載置されているだけの場合、保護対象物5の天端より深い範囲では、図4(a)に示すように、該保護対象物によって表層3が水平方向に分断され、引張力が連続しない状態となるため、表層3を繊維混入モルタルで形成したとしても、曲げによる引張に抵抗できるのは保護対象物5の天端以上の浅い領域に限られ、それ以下の深い領域では、引張に抵抗することができずにひび割れ41が生じる。
【0054】
つまり、従来においては、厚さTの表層3のうち、保護対象物5の天端よりも浅い厚さ範囲T′だけが曲げ変形の抑制に寄与し得るに過ぎず、それよりも深い範囲については、繊維混入モルタルがせん断抵抗機能とともに併せ持つ引張抵抗機能が発揮されない状態になるとともに、厚さ範囲T′においても想定外の引張応力が生じてひび割れ41が路面2に向けてさらに進展し、その結果として保護対象物5に不測の荷重が及んで損壊を招くおそれがあったが、本実施形態に係る舗装構造1によれば、同図(b)に示すように、フック付き抵抗部材6が曲げによる引張に抵抗するため、表層3は、その全厚Tで又はそれに近い断面厚で曲げ抵抗することが可能となり、かくして繊維混入モルタルが有する引張抵抗機能を十分に発揮させることが可能となる。
【0055】
本実施形態では、保護対象物5を筐体としての円形鋼管5aとその内部空間に収容された保護対象設備5bとで構成したが、本実施形態によれば、路面2の載荷荷重による保護対象物5の損傷が未然に防止されるため、円形鋼管5aのように強度が高い筐体に保護対象設備5bを収容する必要はないし、例えば樹脂からなるチューブに収容する形態としてもかまわない。さらに言えば、筐体を省略し、保護対象設備5bのみを埋設するようにしてもかまわない。
【0056】
また、本実施形態では、せん断抵抗可能な材料として繊維混入モルタルで構成したが、これに代えて、例えば短繊維が添加混入されたセメント改良土を用いることが可能である。
【0057】
また、本実施形態では、引張抵抗手段をフック付き抵抗部材6で構成したが、これに代えて、図5(a),(b),(c)に示すように、格子状抵抗部材51、シート状抵抗部材52、棒状抵抗部材53で構成することも可能である。
【0058】
ここで、格子状抵抗部材51やシート状抵抗部材52は例えばポリエステル樹脂で、棒状抵抗部材53は異形鉄筋でそれぞれ構成することが可能であり、それぞれ表面や周面において表層3との付着による荷重伝達を行うようにすればよい。格子状抵抗部材51は、具体的にはエキスパンドメタルや、「ネフマック」(登録商標)の名称で市販されている格子状FRPで構成することができる。
【0059】
また、本実施形態では、表層3をせん断抵抗可能な材料である繊維混入モルタルで構成したが、本発明においては、表層と引張抵抗手段との間で荷重伝達を行うに際し、表層と引張抵抗手段との付着による荷重伝達に代えて、引張抵抗手段の先端近傍に設けられた支圧手段による荷重伝達を採用することが可能である。
【0060】
図6(a)に示した舗装構造61は、上面が路面2となる表層63を路盤4の上に積層配置してなるとともに、表層63には保護対象物5が埋設してあるが、表層63については、これを圧縮抵抗可能な材料で形成してあり、該表層内には、引張抵抗手段としての棒状抵抗部材を丸鋼66で構成した上、該丸鋼を保護対象物5の両側方に延びる形で埋設してあるとともに、該丸鋼の各端近傍に山形鋼67を溶接等でそれぞれ取り付けてなり、丸鋼66は、本実施形態と同様、深さ範囲Dの中で、本実施形態では特に、保護対象物5の下方に位置決めしてあるとともに、該保護対象物の一方の側から他方の側に連続して延びるように構成してある。
【0061】
ここで、山形鋼67は、丸鋼66の材軸に直交する板状抵抗部としてのフランジ68が、表層63と丸鋼66との間の荷重伝達を行う支圧手段として機能するようになっている。
【0062】
圧縮抵抗可能な材料は、砂、粘土、繊維を含有しないモルタル、同じく繊維を含有しないセメント改良土等から適宜選択すればよい。
【0063】
丸鋼66及び山形鋼67,67は、保護対象物5の埋設方向に沿って所定の間隔ごとに離散配置すればよい。
【0064】
本変形例に係る舗装構造61においては、図6(b)に示すように自動車のタイヤ31を介して路面2に鉛直荷重が載荷されたとき、保護対象物5の両側方に延びる形で丸鋼66が配置されているとともに、その材軸に直交するようにフランジ68が位置決めされた山形鋼67を該丸鋼の先端に取り付けてあるので、該丸鋼には、本実施形態で説明したと同様の圧縮力により、フランジ68での支圧による荷重伝達を介して引張力が生じ、その引張力が圧縮反力として表層63に作用するとともに、表層63には、その圧縮反力が水平反力となって、鉄筋コンクリート梁に観察されるのと同様のアーチ機構32′が形成される。
【0065】
そのため、載荷点が保護対象物5の上方にくるように設定しておけば、アーチ機構32′が保護対象物5を覆う形で表層63内に形成されることとなり、路面2に載荷された荷重の流れは、アーチ機構32′に沿った斜め下方への流れが優位となる。
【0066】
したがって、本変形例によっても、本実施形態と同様、アーチ機構32′が保護対象物5を覆う形で表層63内に形成されるので、路面2の載荷荷重による保護対象物5の損傷を未然に防止することができるが、これらについては、上述の実施形態と概ね同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0067】
また、本実施形態及びその変形例では、引張抵抗手段であるフック付き抵抗部材6、格子状抵抗部材51、シート状抵抗部材52、棒状抵抗部材53又は丸鋼66を、いずれも保護対象物5の下方に位置決めするとともに、該保護対象物の一方の側から他方の側に連続して延びるように構成したが、これらに代えて、保護対象物を筐体及び該筐体内に配置された保護対象設備で構成した上、引張抵抗手段としてのフック付き抵抗部材、格子状抵抗部材、シート状抵抗部材、棒状抵抗部材又は丸鋼を、上記筐体の各側面からそれぞれ延びるように構成してもよい。
【0068】
図7(a)は、筐体としての角形鋼管5cとその内部空間に収容された保護対象設備5bとで保護対象物5′を構成して該保護対象物を表層3に埋設した上、先端にフックが設けられたフック付き抵抗部材71を角形鋼管5cの各側面からそれぞれ延設した構成を示したもの、同図(b)は、山形鋼67が先端近傍に取り付けられた丸鋼66を角形鋼管5cの各側面からそれぞれ延設した構成を示したものである。
【0069】
これらの構成においては、フック付き抵抗部材71,71や丸鋼66,66が角形鋼管5cを介して互いに引張力を伝達できるように、それに見合う引張強度を該角形鋼管に持たせる必要があるが、角形鋼管5cにフック付き抵抗部材71,71や丸鋼66,66を先付けしておけば、施工時の作業性向上を期待することができる。
【0070】
なお、図7における作用効果については、実施形態及びその変形例の作用効果とほぼ同様であるので、ここではその説明を省略する。
【符号の説明】
【0071】
1,61 舗装構造
2,63 路面(上面)
3 表層
4 路盤
5,5′ 保護対象物
5a,5c 筐体
5b 保護対象設備
6 フック付き抵抗部材(引張抵抗手段)
6a 棒状部
6b フック
32 アーチ機構
51 格子状抵抗部材(引張抵抗手段)
52 シート状抵抗部材(引張抵抗手段)
53 棒状抵抗部材(引張抵抗手段)
66 丸鋼(引張抵抗手段、棒状抵抗部材)
68 フランジ(支圧手段、板状抵抗部)
71 フック付き抵抗部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7