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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ガラス物品の温度測定方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20230803BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20230803BHJP
   C03B 25/12 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
G01J5/00 B
C03B17/06
C03B25/12
G01J5/00 101D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018239408
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020101436
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】奥野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小梶 邦男
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/170634(WO,A1)
【文献】中村 元,赤外線放射温度計の基礎,日本機械学会 熱工学部門講習会 「熱設計を支援する熱流体計測技術」,(社)日本機械学会,2009年07月29日,第1~31頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00- G01J 5/90
G01D 3/00- G01D 3/028
G01K 13/00- G01K 13/04
C03B 17/00- C03B 17/06
C03B 25/00- C03B 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスリボンを成形する工程と、成形された前記ガラスリボンを搬送する工程と、搬送される前記ガラスリボンの温度を測定する工程と、を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記ガラスリボンを成形する工程では、ダウンドロー法によって成形炉の内部で前記ガラスリボンを成形し、
前記ガラスリボンを搬送する工程では、成形された前記ガラスリボンを徐冷する徐冷空間を有する徐冷炉と、徐冷された前記ガラスリボンを冷却する冷却空間と、を通過させ、
前記冷却空間は、前記徐冷炉の下方位置で前記徐冷炉と連通し、
前記ガラスリボンの温度を測定する工程では、前記徐冷炉を通過する前記ガラスリボンの温度を測定し、
前記ガラスリボンの温度を測定する工程は、前記徐冷炉の水蒸気量に基づいて前記ガラスリボンの放射率を決定する工程と、
決定された前記放射率に基づいて放射温度計により前記ガラスリボンの前記温度を測定する工程と、を備えることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記放射率を決定する工程では、前記ガラスリボンから前記放射温度計までの距離に基づいて前記放射率を決定する請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記放射率を決定する工程では、前記放射率と前記水蒸気量との関係を表す近似式に基づいて前記放射率を決定する請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記放射温度計は、7.5~8.5μmの波長を有する赤外線を検出することにより前記ガラスリボンの前記温度を測定する請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記放射率を決定する工程では、前記冷却空間の温度及び湿度から求めた水蒸気量を用いて前記徐冷炉の前記水蒸気量を設定する請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記徐冷炉は、前記徐冷空間を区画する壁部を備え、
前記壁部は、前記ガラスリボンと前記放射温度計との間に配される窓部を備え、
前記ガラスリボンの前記温度を測定する工程は、前記窓部の透過率に基づいて前記放射率を補正する工程を備える請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の温度を測定する方法及びガラス物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板等のガラス物品を製造する方法として、例えばオーバーフローダウンドロー法やフロート法が挙げられる。
【0003】
オーバーフローダウンドロー法では、断面が略くさび形の成形体の上部に設けられたオーバーフロー溝に溶融ガラスを流し込み、このオーバーフロー溝から両側に溢れ出た溶融ガラスを成形体の両側の側壁部に沿って流下させながら、成形体の下端部で融合一体化し、ガラスリボンを連続成形する。
【0004】
オーバーフローダウンドロー法を用いるガラス板の製造装置としては、特許文献1に開示されるように、成形体を内部に有する成形炉と、成形炉の下方に設置される徐冷炉と、徐冷炉の下方に設けられる冷却部及び切断部とを備えたものがある。この製造装置は、成形体によってガラスリボンを成形し、このガラスリボンを徐冷炉に通過させてその内部歪みを除去し、冷却部で室温まで冷却した後に、切断部でこのガラスリボンを切断することで、所定寸法のガラス板を製造する。
【0005】
フロート法では、溶融炉で加熱溶融された溶融ガラスを、供給流路を通じてフロートバスの溶融錫上に供給することでガラスリボンを成形する。
【0006】
フロート法を用いるガラス板の製造装置としては、特許文献2に開示されるように、ガラスリボンを成形するフロートバスと、成形炉に接続される徐冷炉とを備えたものがある。徐冷炉は、内部に配置されるロール等の搬送手段と、大気開放された搬出口とを備える。この製造装置は、フロートバスで成形されたガラスリボンを徐冷炉内に導入して搬送手段によって搬送しながら徐冷し、その後、当該ガラスリボンを搬出口から取り出してさらに冷却する。
【0007】
ガラスリボンの徐冷処理が適切に行われるために、ガラスリボンの温度を測定する工程が必要となる場合がある。例えば特許文献2では、徐冷炉内で搬送されるガラスリボンの温度を測定するための赤外放射温度計(赤外線温度計)が開示されている(同文献の段落0040参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-197185号公報
【文献】特開2011-157234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように放射温度計を使用して温度測定を行う場合、当該ガラスリボンの温度を正確に測定することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたものであり、放射温度計を使用してガラス物品の温度を精度良く測定することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、ガラス物品の温度を放射温度計により測定する方法において、前記ガラス物品が存在する空間の水蒸気量に基づいて前記ガラス物品の放射率を決定する工程と、決定された前記放射率に基づいて前記放射温度計により前記ガラス物品の前記温度を測定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
ガラス物品から放射されるエネルギはガラス物品が存在する空間に含まれる水蒸気(HO)によって幾分吸収される。本発明では、ガラス物品が存在する空間の水蒸気量を求め、当該水蒸気量に基づいてガラス物品の放射率を決定することで、水蒸気によるエネルギ吸収に伴う放射温度計の測定誤差を可及的に低減できる。これにより、ガラス物品の温度を精度良く測定できる。
【0013】
前記放射率を決定する工程では、前記ガラス物品から前記放射温度計までの距離に基づいて前記放射率を決定できる。ガラス物品から放射温度計が離れる程、水蒸気に吸収されるエネルギが増大する。本発明のように、ガラス物品から放射温度計までの距離(光路長)に応じて放射率を決定すれば、水蒸気によるエネルギ吸収に伴う放射温度計の測定誤差を可及的に低減でき、精度の良い温度測定が可能になる。
【0014】
前記放射率を決定する工程では、前記放射率と前記水蒸気量との関係を表す近似式に基づいて前記放射率を決定できる。これにより、放射率を効率良く決定できる。
【0015】
前記放射温度計は、7.5~8.5μmの波長を有する赤外線を検出することにより前記ガラス物品の前記温度を測定してもよい。この波長域ではガラス物品の放射率が高いため、エネルギの透過、反射の影響を考慮する必要がなくなる。これにより、ガラス物品の温度を精度良く測定できる。また、上記波長域では、大気の透過率がある程度高いので、ガラス物品の温度を安定して測定できる。
【0016】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、ガラス物品としてのガラスリボンを製造する方法であって、前記ガラスリボンを成形する工程と、成形された前記ガラスリボンを搬送する工程と、搬送される前記ガラスリボンの温度を、上記したガラス物品の温度測定方法により測定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、成形されたガラスリボンの温度を精度良く測定することで、ガラスリボンの温度管理を正確に行うことができる。これにより、製造されるガラスリボンの品質を向上できる。
【0018】
本発明に係るガラス物品の製造方法において、前記ガラスリボンを成形する工程では、ダウンドロー法によって成形炉の内部で前記ガラスリボンを成形し、前記ガラスリボンを搬送する工程では、成形された前記ガラスリボンを徐冷する徐冷空間を有する徐冷炉と、徐冷された前記ガラスリボンを冷却する冷却空間と、を通過させ、前記冷却空間は、前記徐冷炉の下方位置で前記徐冷炉と連通し、前記ガラスリボンの温度を測定する工程では、前記徐冷炉を通過する前記ガラスリボンの温度を測定し、前記放射率を決定する工程では、前記冷却空間の温度及び湿度から求めた前記水蒸気量を用いてもよい。
【0019】
つまり、ダウンドロー法における徐冷炉の内部は高温であり、冷却空間からの上昇気流の影響もあって、水蒸気量を算出するための湿度の正確な測定が困難となる。冷却空間は徐冷炉と連通していることから、この徐冷炉内の水蒸気量は、冷却空間内の水蒸気量とほぼ等しい。このため、例えば、徐冷炉内の水蒸気量として冷却空間の水蒸気量を代用すれば、ガラス物品の高精度な温度測定が可能となる。そのため、冷却空間における温度及び湿度を測定し、当該温度及び湿度に基づいて冷却空間の水蒸気量を算出することが好ましい。
【0020】
本発明に係るガラス物品の製造方法において、前記徐冷炉は、前記徐冷空間を区画する壁部を備え、前記壁部は、前記ガラスリボンと前記放射温度計との間に配される窓部を備え、前記ガラスリボンの前記温度を測定する工程は、前記窓部の透過率に基づいて前記放射率を補正する工程を備えてもよい。これにより、放射温度計は、窓部を通過する赤外線を検出する場合であっても、ガラス物品の温度を精度良く測定できる。
【0021】
本発明に係るガラス物品の製造方法において、前記ガラスリボンを成形する工程では、ロールアウト法により一対の成形用ロールで前記ガラスリボンを成形してもよい。かかる構成によれば、成形用ロールによって成形されたガラスリボンの温度を精度良く測定できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、放射温度計を使用してガラス物品の温度を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第一実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す断面図である。
図2】ガラス物品の製造装置の要部を示す断面図である。
図3】ガラス物品の製造方法に係るフローチャートである。
図4】水分量と放射率との関係を表すグラフである。
図5】ガラス材料が放出する赤外線の波長と、放射率との関係を表すグラフである。
図6】第二実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1乃至図5は、本発明に係るガラス物品の温度測定方法及び製造方法の第一実施形態を示す。
【0025】
図1は、ガラス物品の製造装置を示す縦断面図である。この製造装置1は、オーバーフローダウンドロー法によって、ガラスリボンGRを連続成形し、当該ガラスリボンGRを切断してガラス板GSを製造するものである。ガラスリボンGRの成形方法は、オーバーフローダウンドロー法に限定されるものではなく、スロットダウンドロー法やリドロー法などの他のダウンドロー法であってもよい。
【0026】
ガラスリボンGRを切断して得られるガラス板GSは、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、照明などの各種デバイスの基板やカバー等のガラス物品として利用される。本実施形態において、「ガラス物品」には、このガラス板GSの他、ガラスリボンGRも含まれるものとする。
【0027】
図1に示すように、製造装置1は、溶融ガラスGMをガラスリボンGRに連続的に成形する成形炉2と、成形炉2の下方に設けられる徐冷炉3(アニーラ)と、徐冷炉3の下方に設けられる冷却部4と、冷却部4の下方に設けられる切断部5と、を備える。
【0028】
成形炉2は、炉壁(壁部)2aにより区画される内部空間に成形体6とエッジローラ7とを備える。成形体6は、上端部にオーバーフロー溝6aが形成された断面視略楔形状を有する。エッジローラ7は、成形体6の直下に配置されており、当該成形体6により成形された溶融ガラスGMを表裏両側から挟む対のローラである。
【0029】
成形炉2は、成形体6のオーバーフロー溝6aの上方から溢出した溶融ガラスGMを、両側面に沿ってそれぞれ流下させ、下端部6bで合流させて板状に成形する。エッジローラ7は、溶融ガラスGMの幅方向収縮を規制して所定幅のガラスリボンGRとする。エッジローラ7と接触するガラスリボンGRの幅方向両端部には、その幅方向中央部(製品部)よりも相対的に厚肉となる耳部が形成される。
【0030】
徐冷炉3は、成形炉2で成形されたガラスリボンGRを歪点以下の温度まで徐冷しながら、ガラスリボンGRの内部歪を除去する。徐冷炉3は、成形炉2の炉壁2aと一体に構成される炉壁(壁部)3aを有する。図1に示すように、徐冷炉3は、この炉壁3aにより区画されるとともに成形炉2の内部空間と連通する内部空間(徐冷空間)を有する。
【0031】
図1及び図2に示すように、徐冷炉3の炉壁3aの内面には、上下方向に温度勾配を構成するためのヒータ8が設けられている。炉壁3aは、厚さ方向に貫通する孔9と、この孔9を閉塞する窓部10とを有する。窓部10は、放射温度計12の測定波長における透過率が高い材料により構成される。窓部10は、例えばフッ化カルシウム又はフッ化バリウムにより板状に構成されるが、窓部10の形状及び材料はこの態様に限定されない。
【0032】
徐冷炉3の内部にはアニーラローラ11が配されている。アニーラローラ11は、上下方向に沿って間隔をおいて複数段に配列される対のローラである。アニーラローラ11は、ガラスリボンGRの幅方向両端部を表裏両側から挟持し、当該ガラスリボンGRを下方に案内(搬送)する。
【0033】
徐冷炉3の外部(炉壁3aの外側)には、ガラスリボンGRの温度を測定する放射温度計12と、放射温度計12に接続される演算装置13とが配置されている。
【0034】
放射温度計12は、サーモグラフィカメラにより構成される。サーモグラフィカメラは、集光レンズ、検知素子及びマイクロコンピュータ等を内蔵しており、ガラスリボンGRから放射される赤外線を検出し、そのエネルギ量を温度に変換することで、ガラスリボンGRの測定位置における熱分布図のデータを取得する。なお、放射温度計12としては、サーモグラフィカメラに限定されず、他の温度計を用いることができる。放射温度計12は、測定した熱分布図に係るデータを演算装置13に送信できる。
【0035】
放射温度計12は、徐冷炉3の窓部10に対向するように配置される。放射温度計12は、窓部10に接触し、又は近接するように配置される。
【0036】
演算装置13は、例えばCPU、ROM、RAM、HDD、モニタ、入出力インターフェース等の各種ハードウェアを実装するコンピュータ(PC等)を含む。演算装置13は、各種の演算を実行する演算処理部(CPU)と、各種のデータを格納する記憶部(ROM、RAM、HDD等)と、演算結果を表示する表示部13a(モニタ)とを備える。
【0037】
冷却部4は、徐冷炉3で徐冷されたガラスリボンGRを室温付近まで冷却する。冷却部4の内部空間(冷却空間)は、徐冷炉3と連通している。冷却部4は、ガラスリボンGRの幅方向両端部を表裏両側から挟持する支持ローラ14を備える。支持ローラ14は、上下方向に沿って間隔をおいて複数段に配列される対のローラである。支持ローラ14は、ガラスリボンGRを下方の切断部5へと案内(搬送)する。
【0038】
冷却部4の内部空間には、温度計15と湿度計16とが設けられている。温度計15及び湿度計16は、例えばバイメタル式のものが使用されるが、この態様に限定されない。温度計15は、冷却部4の内部空間の温度を測定し、湿度計16は、当該内部空間の相対湿度を測定する。
【0039】
切断部5は、冷却部4から下方に移送されるガラスリボンGRを切断する折割装置17を有する。折割装置17は、ガラスリボンGRを切断することで、矩形状のガラス板GSを形成する。切断部5の内部空間は、上方の冷却部4における内部空間と連通している。
【0040】
以下、上記構成の製造装置1によりガラス板GS(ガラスリボンGR)を製造する方法について説明する。
【0041】
本方法は、図3に示すように、成形工程S1、徐冷工程S2、測定工程S3、冷却工程S4、および切断工程S5を備える。
【0042】
成形工程S1では、成形炉2内の成形体6に供給された溶融ガラスGMがオーバーフロー溝6aから溢れ出て、当該成形体6の両側面を伝って流下する。下方に流れる溶融ガラスGMは、成形体6の下端部6bにおいて融合一体化し、板状に成形される。エッジローラ7は、この溶融ガラスGMの幅方向端部を挟持して下方に案内する。これにより、所定幅のガラスリボンGRが徐冷炉3へと送られる。
【0043】
徐冷工程S2では、成形炉2から下降してきたガラスリボンGRが徐冷炉3の内部空間(徐冷空間)を通過する。ガラスリボンGRは、アニーラローラ11によって下方に搬送されながら所定の温度勾配に従い徐冷され、その内部歪みが除去される。
【0044】
測定工程S3では、冷却部4に配置されている温度計15及び湿度計16により、冷却部4内の温度及び湿度が測定される。測定された温度及び湿度に係るデータは、演算装置13に入力される。温度及び湿度のデータは、演算装置13のオペレータにより当該演算装置13に入力されてもよく、温度計15及び湿度計16により温度(℃)及び湿度(相対湿度、単位:%)のデジタルデータを取得し、有線通信又は無線通信により演算装置13に直接入力されてもよい。
【0045】
データが入力されると、演算装置13の演算処理部は、記憶部に保存されている演算プログラムにより、冷却部4の温度に基づいて冷却部4内の飽和水蒸気量(g/m)を算出する。さらに演算処理部は、冷却部4内の湿度及び飽和水蒸気量に基づいて、冷却部4内の水蒸気量(絶対湿度、単位:g/m)を算出する。
【0046】
上記のように成形炉2、徐冷炉3、冷却部4及び切断部5が相互に連通していることから、製造装置1に係る建屋の内部には、これらの構成要素2~5を一体的に含む一つの空間が形成されている。製造装置1の建屋内では、成形炉2、徐冷炉3、冷却部4及び切断部5の間で空気の対流が生じていることから、水蒸気量が一定となる。したがって、徐冷炉3の水蒸気量は、冷却部4の水蒸気量とほぼ等しい。
【0047】
図4は、無アルカリガラス、結晶化ガラス、及びソーダガラスの各材料に関し、放射される赤外線の波長と放射率との関係を表すグラフである。なお、本明細書において、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本発明におけるアルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0048】
図4から明らかなように、いずれのガラスについても、波長が5~8.5μmの範囲で高い放射率(80%以上)を示す。放射率が高いと、ガラスリボンGRの透過率、反射率を考慮する必要がなく、効率的で高精度な温度測定を行うことができる。したがって、放射温度計12で測定する場合における波長は、5~8.5μmが好ましい。放射率を90%以上とする観点から波長が8.35μm以下であることがより好ましく、放射率を95%以上とする観点から波長が8.25μm以下であることが最も好ましい。波長が7.5以上であれば、大気の透過率がある程度高いので、ガラス物品の温度を安定して測定できる。このため、波長は、7.5μm以上であることがより好ましい。
【0049】
従来の放射温度計12によるガラスリボンGRの温度測定では、ガラスリボンGRから放射されたエネルギが徐冷炉3の内部空間に存在する水分により吸収されてしまい、ガラスリボンGRの温度を正確に測定することが困難であった。波長が5~8.5μmである場合、水分によるエネルギの吸収がさらに大きくなる。このため、本実施形態によるガラスリボンGRの温度測定では、この水蒸気によるエネルギの吸収による放射温度計12の測定誤差を抑制すべく、ガラスリボンGRの測定箇所が存在する徐冷炉3内の水蒸気量に基づいて放射率を演算装置13により決定する(決定工程)。
【0050】
放射温度計12は、ガラスリボンGRから離れる程、水蒸気によるエネルギ吸収の影響を受けやすくなる。このため、ガラスリボンGRから放射温度計12までの距離D(図2参照)を加味して放射率を決定することが好ましい。そこで、本実施形態では、演算装置13の演算処理部は、放射温度計12とガラスリボンGRの距離D(m)に徐冷炉3内部の水蒸気量(g/m)に乗じることにより、ガラスリボンGRから放射温度計12までの空間の水分量(g/m)を算出する。ここで、本明細書において、水分量は、ガラスリボンGRから放射温度計12までの空間に存在する単位面積当たりの水蒸気量を表す。
【0051】
前述の通り、徐冷炉3の水蒸気量は、冷却部4の水蒸気量とほぼ等しいので、演算装置13の演算処理部は、徐冷炉3内部の水蒸気量として、冷却部4(冷却空間)内の水蒸気量を代用してもよい。厳密には、徐冷炉3の温度は冷却部4の温度よりも高いので、熱膨張の影響で徐冷炉3の単位体積当たりの水蒸気量は冷却部4の単位体積当たりの水蒸気量よりも低い。このため、徐冷炉3の温度と冷却部4の温度との温度差に基づいて冷却部4の水蒸気量を補正して徐冷炉3の水蒸気量とすることが好ましい。これにより、ガラスリボンGRの温度測定の精度をより高めることができる。温度差に基づく水蒸気量の補正を行う場合、例えばM1=M2×D×(T1/T2)^(1/3)によって水分量M1(g/m)を算出すればよい。ここで、M2は冷却部4の水蒸気量(g/m)、DはガラスリボンGRの距離D(m)、T1は冷却部4の温度(K)、T2は徐冷炉3の温度(K)である。徐冷炉3の温度T2(K)には、例えば、徐冷炉3のうちで放射温度計12の設置位置周辺に徐冷炉3の内部雰囲気の温度を測定する温度計を設置し、その測定値を用いればよい。
【0052】
ガラスリボンGRから放射温度計12までの距離Dは、ガラスリボンGRから窓部10までの距離と、窓部10から放射温度計12までの距離の和である。放射温度計12を窓部10に接触させている場合、或いはガラスリボンGRから窓部10までの距離(水分量)に対して窓部10から放射温度計12までの距離(水分量)が占める割合が十分に小さい場合(放射温度計12を窓部10に近接させている場合)には、ガラスリボンGRから窓部10までの距離を当該距離Dとしてもよい。
【0053】
演算装置13の記憶部には、ガラスリボンGRから放射温度計12までの空間の水分量と放射率との関係を示すデータテーブルが保存されている。このデータは、試験炉内を所定の湿度及び温度に設定することで試験体から放射温度計までの空間の水分量を変化させながら、試験炉内に配置される試験体を放射温度計で測定することにより取得されたものである。
【0054】
図5は、記憶部に保存されるデータテーブルに基づいて作図されたガラスリボンGRから放射温度計12までの空間の水分量と放射率との関係を示すグラフである。演算処理部は、記憶部に保存されているデータテーブルに基づいて、このグラフを表示部13aに表示させる。このグラフには、測定データに係る曲線(実線で示す)、測定データに基づく近似曲線AC(二点鎖線で示す)、近似曲線を表す近似式AFが含まれる。演算装置13の演算処理部は、算出した水分量及びこの近似式AFにより、ガラスリボンGRの放射率を決定する。
【0055】
測定工程S3では、放射温度計12とガラスリボンGRとの間に窓部10を介在させて測定を行うため、当該窓部10によるエネルギの吸収を考慮し、ガラスリボンGRの放射率を演算装置13により補正する。演算装置13の記憶部には、窓部10の透過率に係るデータが保存されている。演算装置13の演算処理部は、上記の演算により求めた放射率に、窓部10の透過率を乗じて当該放射率を補正する。補正された放射率は演算装置13によって放射温度計12に入力される。
【0056】
ガラスリボンGRから放射された赤外線は、窓部10を透過して炉壁3aの外側に位置する放射温度計12に検出される。放射温度計12は、演算処理部により決定された放射率に基づいてガラスリボンGRの温度を測定する。放射温度計12は、測定した温度データを演算装置13に送信する。演算装置13の演算処理部は、受信した温度データに基づいて、ガラスリボンGRの測定位置における熱分布図を表示部13aに表示させる。
【0057】
冷却工程S4において、徐冷炉3を通過したガラスリボンGRが冷却部4に導入される。ガラスリボンGRは、支持ローラ14によって下方に搬送されながら、自然冷却によってさらに冷却される。
【0058】
切断工程S5では、冷却部4を通過したガラスリボンGRが切断部5に導入される。ガラスリボンGRは折割装置17により切断され、これにより所定寸法のガラス板GSが形成される。その後、必要に応じ、ガラス板GSの幅方向の両端に形成された耳部を切断して除去する処理や、ガラス板GSの検査が行われる。
【0059】
以上説明した本実施形態によれば、測定工程S3において、ガラスリボンGRが存在する徐冷空間の水蒸気量に応じてガラスリボンGRの放射率を決定することで、水蒸気によるエネルギ吸収に伴う放射温度計12の測定誤差を可及的に低減できる。したがって、ガラス物品としてのガラスリボンGRの温度を精度良く測定できる。また、ガラスリボンGRの温度を正確に測定することで、徐冷工程S2におけるガラスリボンGRの温度管理を精度良く行うことができる。これにより、品質が安定したガラスリボンGR及びガラス板GSを効率良く製造できる。
【0060】
図6は、本発明の第二実施形態を示す。上記の第一実施形態では、オーバーフローダウンドロー法によってガラスリボンGRを成形する例を示したが、本実施形態では、ロールアウト法によってガラスリボンGRを成形する。
【0061】
本実施形態の製造装置1は、第一実施形態と同様に、放射温度計12と、放射温度計12に接続された演算装置13と、温度計15と、湿度計16と、を備える。本実施形態の製造装置1は、一対の成形用ロール18と、成形されたガラスリボンGRを所定の方向に搬送する複数の搬送ロール19と、をさらに備える。
【0062】
一対の成形用ロール18は、一定の間隔をおいて配置されており、その間に溶融ガラスGMを通過させることで、ガラスリボンGRを成形する。複数の搬送ロール19は、水平方向に間隔をおいて配置されている。搬送ロール19は、成形用ロール18によって成形されたガラスリボンGRの搬送方向を鉛直方向から水平方向に変更する。
【0063】
以下、本実施形態に係る製造装置1によってガラスリボンGR及びガラス板を製造する方法について説明する。まず、成形用ロール18に溶融ガラスGMを供給してガラスリボンGRを成形する(成形工程)。成形用ロール18によって成形されたガラスリボンGRは、搬送ロール19によって水平方向に搬送される。
【0064】
放射温度計12によるガラスリボンGRの温度測定は、搬送過程で行われる(測定工程)。この測定工程において、演算装置13は、温度計15により測定されるガラスリボンGRが搬送される搬送空間の温度に基づいて、当該搬送空間内の飽和水蒸気量を算出する。また、演算装置13は、湿度計16によって測定された搬送空間の相対湿度と、算出した飽和水蒸気量とに基づいて搬送空間の水蒸気量を算出する。演算装置13は、算出した水蒸気量に放射温度計12とガラスリボンGRとの距離Dを乗じることにより、ガラスリボンGRから放射温度計12までの空間の水分量を算出し、その水分量に基づいてガラスリボンGRの放射率を決定する。放射温度計12は、決定(入力)されたガラスリボンGRの放射率に基づいて、成形用ロール18の下方を移動するガラスリボンGRの温度を測定する。
【0065】
本実施形態では、第一実施形態において例示した窓部10が存在しない。したがって、本実施形態では、窓部10の透過率に基づく放射率の補正は行われない。上記の測定工程の後、第一実施形態と同様に、徐冷炉による徐冷工程、冷却部による冷却工程、及び切断部による切断工程を経て、ガラス板が形成される。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
上記の実施形態では、ガラスリボンGRから放射温度計12までの空間の水分量と放射率との関係を用いたものを例示したが、本発明は、この構成に限定されるものではない。ガラスリボンGRから放射温度計12までの距離Dが一定であり、距離Dの変化を考慮する必要がないのであれば、ガラスリボンGR(ガラス物品)が存在する空間の水蒸気量と放射率との関係を用いてもよい。水蒸気量と放射率との関係は、例えば、試験体と放射温度計12の距離をガラスリボンGRから放射温度計12までの距離Dと同じにした状態で、試験炉内の水蒸気量を変化させながら、試験炉内に配置される試験体を放射温度計12で測定することにより取得すればよい。
【0068】
上記の実施形態では、ガラス物品の製造方法として、オーバーフローダウンドロー法、ロールアウト法を利用したものを例示したが、本発明は、この構成に限定されるものではない。ガラスリボン(ガラス物品)は、フロート法その他の各種成形法を利用して製造され得る。また、ガラス物品は、管ガラスであってもよく、管ガラスの成形には、ダンナー法やベロー法を採用できる。
【0069】
上記の実施形態では、演算装置13によって放射率を決定したが、演算装置13を用いることなく、放射率を決定し、放射温度計12に入力してもよい。この場合、例えば、作業者が温度及び湿度から水蒸気量や水分量、放射率を計算して決定してもよい。また、上記の実施形態では、演算装置13の表示部13aにガラスリボンGRの熱分布図を表示したが、放射温度計12が表示部を有する場合は、放射温度計12の表示部にガラスリボンGRの熱分布図を表示してもよい。
【0070】
上記の第一実施形態では、ガラスリボンGRを切断してガラス板GSを形成する切断工程S5を例示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。本発明に係るガラス物品の製造方法は、切断工程S5に替えて、ガラスリボンGRをロール状に巻き取って、ガラスロールを構成する工程(巻取工程)を備えてもよい。
【0071】
上記の第一実施形態では、放射温度計12を窓部10に近接して配置した例を示しが、本発明は、この構成に限定されるものではない。放射温度計12は、徐冷炉3の外部において窓部10から離れた位置に設けられてもよい。窓部10から放射温度計12までの距離が大きいと、窓部10の面積が小さい場合に放射温度計12で測定できるガラスリボンGRの範囲(面積)が小さくなる。また、徐冷炉3の外部と内部での水蒸気量の差によってガラスリボンGRの温度測定の精度が若干低下するおそれがある。これらを防止するため、放射温度計12は、窓部10に近接させていることが好ましく、放射温度計12を窓部10に接触させていることがより好ましい。
【符号の説明】
【0072】
2 成形炉
2a 炉壁(壁部)
3 徐冷炉
3a 炉壁(壁部)
4 冷却部(冷却空間)
10 窓部
12 放射温度計
18 成形用ロール
AF 近似式
D ガラスリボンから放射温度計までの距離
GR ガラスリボン(ガラス物品)
GS ガラス板(ガラス物品)
S4 測定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6