(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】固体原燃料の発熱遅延剤及び発熱遅延方法
(51)【国際特許分類】
C09K 21/14 20060101AFI20230803BHJP
C09K 15/06 20060101ALI20230803BHJP
C09K 21/06 20060101ALI20230803BHJP
C10L 5/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C09K21/14
C09K15/06
C09K21/06
C10L5/00
(21)【出願番号】P 2019163695
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】太田 文清
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-259390(JP,A)
【文献】特開2011-251782(JP,A)
【文献】特開2005-194447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00- 21/14
C09K 15/00- 15/34
C10L 5/00- 7/04;
9/00- 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が100~500のポリビニルアルコールと界面活性剤とを含有する固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項2】
ポリビニルアルコールが、1~30重量%含有されている請求項1記載の固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項3】
界面活性剤が、0.1~15重量%含有されている請求項1又は2記載の固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項4】
界面活性剤が、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項に記載の固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項5】
さらに重合度が3~500のポリエチレングリコールを含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項6】
ポリエチレングリコールが、1~30重量%含有されている請求項5記載の固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項7】
固体原燃料は、石炭、コークス、鉄鉱石、焼結鉱、製鉄所ダスト、木質チップ、木質ペレット、RDF及びRPFからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載の固体原燃料の発熱遅延剤。
【請求項8】
固体原燃料に、請求項1~7のいずれか1項に記載の固体原燃料の発熱遅延剤を接触させることを特徴とする固体原燃料の発熱遅延方法。
【請求項9】
発熱遅延剤を有効成分換算で対固体原燃料濃度が0.1ppm以上となるように固体原燃料に接触させる請求項8に記載の固体原燃料の発熱遅延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所、製鉄所、鉱山等の石炭置き場(貯炭場)に堆積された石炭等の固体原燃料の発熱を遅延させる発熱遅延剤、及び、発熱遅延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、発電所、製鉄所、鉱山等では、大量の石炭が石炭置き場に山積み(野積み)され、堆積、貯蔵されることが多い。このように山積みされた石炭(以下、石炭パイルと記載する。)は、長時間放置されると石炭パイル内部への空気の流入により、石炭に含まれる炭素や硫黄分等と空気中の酸素とが酸化反応を起こし、その反応熱が熱エネルギーとして石炭パイルの内部に蓄積され、時間の経過とともに石炭パイル内部の温度は上昇する。
そして、限界温度に達すると自然発火現象が生じる。石炭の自然発火性は、石炭の種類や粒子径などによって大きく異なり、石炭化度が低く揮発分或いは硫黄分が高い石炭や、石炭粒子が小さな石炭は、長期貯炭により発熱しやすく、温度管理を怠ると自然発火を起こしやすい。堆積貯蔵された石炭パイルのこのような発火を伴う発熱は、管理上大きな問題である。
また、自然発火に至らない場合でも空気中の酸素により石炭表面の酸化がおこり、石炭の品質が劣化し商品価値が低下してしまう。よって、石炭の酸化防止対策は重要である。
以上のような状況から、石炭の自然発火防止対策・酸化防止対策は、各種の方法が提案されている。
【0003】
また、発電所、製鉄所、鉱山等では、上述の石炭以外の原燃料として、コークス、鉄鉱石、焼結鉱、製鉄ダスト、木質チップ、木質ペレット、RDF及びRPF等の原燃料も用いており、これらについても石炭と同様に山積み(野積み)状態で貯蔵されている。そのため、石炭と同様に、空気中の酸素により酸化反応が引き起こされ、その反応熱(酸化熱)が熱エネルギーとして原燃料パイル内部に蓄積され、自然発火の原因となっている。また、原燃料の酸化による品質低下が問題となっている。そのため、石炭以外の原燃料についても、石炭と同様に自然発火防止対策・酸化防止対策は重要である。
【0004】
石炭等の自然発火防止対策としては、従来から主に次の2つの対策が講じられてきた。1つ目は、石炭等の原燃料表面での空気の接触、及び、石炭等の原燃料パイル内への空気の流入を防ぎ酸化熱を生じさせない方法である。例えば、ブルドーザー等を用いた転圧による圧縮積み貯炭、水中貯炭及びサイロなどの容器内貯炭、或いは界面活性剤等による表面コーティングが挙げられる。
特に、界面活性剤等による表面コーティングの方法により、石炭表面或いは石炭パイル全体を被覆し酸化を防ぐ試みが多くされており(非特許文献1)、例えば、界面活性剤と水溶性粘結剤又は保水剤とを石炭表面に散布することにより水膜を形成させて酸化を防止する方法(特許文献1)、界面活性剤、繊維及び結合剤を体積した石炭に散布し、石炭表面に良好な皮膜を形成する方法(特許文献2)、樹脂エマルジョンや油脂、鉱油等の油類のエマルジョンを散布する方法(特許文献3)、SBRラテックスを散布する方法(特許文献4)等がある。また、石炭パイルの表面に藻類を含有する散布液を散布することにより、石炭の表面に付着した藻類と散布液中の水とで、石炭パイルへの空気の通気を抑制し、石炭の酸化を防ぐことで品質劣化や自然発火を防ぐと共に、発塵を防ぐことが可能な貯炭場の石炭パイルの自然発火・発塵の防止方法がある(特許文献5)。
【0005】
石炭等の自然発火防止対策の2つ目は、熱放散させて、石炭等の原燃料パイル内の温度を一定温度で維持させる方法である。例えば、石炭が疎水性であることから常時散水により乾燥を防ぐほか、界面活性剤を用いて石炭を濡れやすくしたうえで、比較的少量の散水によって水分を保持させる方法等がある。
また、近年では、酸化防止及び熱放散による自然発火防止対策も講じられており、例えば、石炭表面或いは石炭パイル内部の隙間に尿素及びチオ尿素を含む自然発火防止剤を添加することにより、石炭パイル内部で発熱反応が進行した場合でも、尿素が熱分解によりアンモニアと炭酸ガスに分解されることで、急激な温度上昇が防止され、さらに、チオ尿素が酸化を防止する方法(特許文献6)等も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭57-14719号公報
【文献】特開昭58-217592号公報
【文献】特開昭56-151791号公報
【文献】特許第3948447号公報
【文献】特開2011-251782号公報
【文献】特開2005-194447号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「石炭の酸化反応におよぼす界面活性剤の影響 -自然発火抑制のための炭壁注入剤の研究(第1報)-」日本鉱業会誌/98 1135(’82-9)p.939<19>-946<26>(大塚一雄、宮腰宏ら)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の自然発火防止対策のうち、圧縮積み、水中貯炭及びサイロ等の容器内貯炭等は貯炭管理運用面から小規模貯炭では可能であるが、発電所、製鉄所、鉱山等の、石炭等の原燃料が原料若しくは燃料として大量使用又は加工される大規模貯炭では困難である。また、散水による方法では、用水確保の問題が生じる。
一方、樹脂等を用いて石炭等の原燃料を被覆し皮膜を形成することは上記対策と比較しより経済性が高い。しかしながら、石炭等の原燃料表面或いは原燃料パイル表面に皮膜を形成する際に、皮膜強度や均一性が天候に左右されやすく、また、形成された皮膜が原燃料パイルの自重により沈み込み、表面に歪みが生じ、これに皮膜が追従できず、その結果として皮膜に亀裂が生じるケースがあった。そのため、皮膜による外気や水分の遮断は困難であり、費用の割には効果が乏しいものであった。
【0009】
また、熱放散により原燃料パイル内部の急激な温度上昇を防止する方法においても、原燃料表面及び原燃料パイルの隙間に存在する水分や尿素は、貯炭期間中に蒸発又は熱分解され、消失するため、結果的に長期にわたる効果は期待できないのが現状である。
従って、従来提案されている方法の欠点を克服することのできる石炭等の原燃料の自然発火防止剤、自然発火防止方法が望まれている。
【0010】
さらに、近年、石炭等の原燃料の搬送性及び燃焼性の向上を目的として、原燃料は粉砕され貯蔵されることが多くなっている。そのため、原燃料の自然発火防止剤、自然発火防止方法が望まれている。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、石炭等の固体原燃料の酸化を抑制して発熱を遅延させることにより自然発火を防止する、発熱遅延剤及び発熱遅延方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定のポリビニルアルコールと陰イオン界面活性剤とを含有する薬剤を用いることにより、石炭等の固体原燃料の発熱を遅延できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、重合度が100~500のポリビニルアルコールと界面活性剤とを含有する固体原燃料の発熱遅延剤である。
本発明の発熱遅延剤は、上記ポリビニルアルコールが、1~30重量%含有されていることが好ましい。
また、本発明の発熱遅延剤は、上記界面活性剤が、0.1~15重量%含有されていることが好ましい。
また、上記界面活性剤が、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の発熱遅延剤は、さらに重合度が3~500のポリエチレングリコールを含有することが好ましい。
また、上記ポリエチレングリコールが、1~30重量%含有されていることが好ましい。
本発明の発熱遅延剤が用いられる固体原燃料は、石炭、コークス、鉄鉱石、焼結鉱、製鉄所ダスト、木質チップ、木質ペレット、RDF及びRPFからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、固体原燃料に上記固体原燃料の発熱遅延剤を接触させることを特徴とする固体原燃料の発熱遅延方法でもある。
本発明の固体原燃料の発熱遅延方法は、上記固体原燃料の発熱遅延剤を有効成分換算で対固体原燃料濃度が0.1ppm以上となるように固体原燃料に接触させることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
以下において、固体原燃料として、主として石炭の場合を例示して本発明を説明する場合があるが、本発明における固体原燃料は、石炭に限定されるものではない。また、本発明における固体原燃料は、野積みされている原燃料に限定されず、サイロ等で貯蔵されているものも含む。本発明における固体原燃料は、空気中の酸素と酸化反応を起こし反応熱(酸化熱)を生じる固体状の原燃料である。なお、固体原燃料は、固体状の原燃料自体の他に、石炭等の原燃料に対して用途に応じて粉砕、粒度調整、塊成、凝集及び造粒等の前処理を施した原燃料も含む。本明細書における「原燃料」とは、原料及び/又は燃料として用いられる石炭等の材料をいう。
【0016】
本明細書中、「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0017】
本発明における固体原燃料の形状は特に限定されない。また、固体原燃料の平均粒径は0.5~100mmであることが好ましく、1~10mmの範囲であることがより好ましい。平均粒径が0.5~100mmの範囲の固体原燃料は、搬送性や燃焼性に優れており、平均粒径が1~10mmの範囲の固体原燃料は、搬送性や燃焼性により優れているためである。固体原燃料は1種単独であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。また、固体原燃料の粒度分布は、1つのピークを有してもよく2つ以上のピークを有していてもよい。
なお、固体原燃料の平均粒径は、本発明が属する技術分野において通常用いられる方法(例えば、櫛などを用いる方法)で測定することができる。
【0018】
本発明の固体原燃料の発熱遅延剤(以下、単に発熱遅延剤ともいう。)は、有効成分として重合度が100~500のポリビニルアルコールと界面活性剤と、を含有する。上記ポリビニルアルコールの重合度は、100~500であればよいが、100~350が好ましい。
有効成分として重合度が100~500のポリビニルアルコール(以下、特定の重合度のポリビニルアルコールともいう)を含むことで、山積み(野積み)された固体原燃料のパイル表面及びパイル内部に有効成分である特定の重合度のポリビニルアルコールが接触し、固体原燃料自体の表面及び固体原燃料パイルの表面に皮膜が形成される。そのため、固体原燃料の表面及び固体原燃料パイルの表面のいずれにおいても皮膜が形成され、固体原燃料パイル表面の皮膜に亀裂が入っても、固体原燃料表面に皮膜が形成されているため、固体原燃料と空気との接触が抑制される。すなわち、空気中の酸素と固体原燃料との反応が抑制され、反応熱(酸化熱)による発熱の発生を抑制し、固体原燃料の温度上昇を充分に遅延させることができる。
重合度が100未満のポリビニルアルコールは、分子量が小さい為、固体原燃料のパイル表面に留まるポリビニルアルコールが減少し、固体原燃料パイル表面での皮膜の形成が不充分になると考えられる。そのため、固体原燃料パイル表面において空気中の酸素との反応による反応熱(酸化熱)が生じ、発熱遅延効果を充分に発揮し得ないと考えられる。
また、重合度が500を超えるポリビニルアルコールは、分子量が大きい為、固体原燃料のパイル内部に浸透するポリビニルアルコールが減少し、固体原燃料パイル内部での皮膜の形成が不充分となると考えられる。そのため、パイル表面の皮膜に亀裂が生じた場合、パイル内部に空気が流入し、固体原燃料パイル内部で空気中の酸素との反応による反応熱(酸化熱)が生じ、発熱遅延効果を充分に発揮し得ないと考えられる。
【0019】
また、本発明の発熱遅延剤は、さらに界面活性剤を含有することで濡れ性の悪い石炭等の固体原燃料表面に対し、重合度が100~500のポリビニルアルコールをより多く接触させることができる。上記界面活性剤は特に限定されず、一般に用いられる界面活性剤を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記界面活性剤は、固体原燃料表面への馴染み性を有することが好ましい。
上記界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルサルコシン塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などのアニオン界面活性剤;アルキルアミン塩、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウムや塩化テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム等)のような第4級アンモニウム塩などのカチオン界面活性剤;高級アルコールエチレンオキサイド付加物、〔エチレンオキサイドは以下(E.O)と略す〕、アルキルフェノール(E.O)付加物、脂肪酸(E.O)付加物、多価アルコール脂肪酸エステル(E.O)付加物、高級アルキルアミン(E.O)付加物、ポリオキシエチレンステアリルアミン、脂肪酸アミド(E.O)付加物、油脂の(E.O)付加物、プロピレンオキサイド〔以下、(P.O)と略す〕共重合体、アルキルアミン(P.O)(E.O)共重合付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、アルキロールアミド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル(イソデシルエーテルEO/PO)やポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのノニオン界面活性剤;アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤などの両性界面活性剤などが挙げられる。なかでも、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤が好ましい。
【0020】
本発明の発熱遅延剤に用いられるアニオン界面活性剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩を含むことが好ましい。アニオン界面活性剤としてジアルキルスルホコハク酸塩を含有することにより、移送及び/又は堆積された石炭等の固体原燃料の発熱抑制(自然発火防止)に加え、粉塵の飛散防止効果も期待することができるためである。なお、上記ジアルキルスルホコハク酸塩としては、アルキルの炭素数が1~15のジアルキルスルホコハク酸塩が好ましく、具体例としては、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の発熱遅延剤に用いられるカチオン界面活性剤は、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウムや塩化テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム等の塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウムを含むことが好ましい。カチオン界面活性剤として塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウムを含有することにより、移送及び/又は堆積された石炭等の固体原燃料の発熱抑制(自然発火防止)に加え、粉塵の飛散防止効果も期待することができるためである。
【0022】
また、本発明の発熱遅延剤に用いられるノニオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含むことが好ましい。ノニオン界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することにより、移送及び/又は堆積された石炭等の固体原燃料の発熱抑制(自然発火防止)に加え、粉塵の飛散防止効果も期待することができるためである。上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、具体的に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテルが挙げられる。
【0023】
上記界面化製剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0024】
本発明は、有効成分として上記特定の重合度のポリビニルアルコールを、1~30重量%含有することが好ましく、5~15重量%含有することがより好ましい。上記ポリビニルアルコールの含有量が、1重量%未満であると、石炭等の固体原燃料に発熱遅延剤を接触させる際に有効成分である上記特定の重合度のポリビニルアルコールの接触比率が低くなる。その結果、例えば、石炭等の固体原燃料の品質に悪影響が生じたり、発熱遅延剤の使用量が不充分となることが原因で発熱遅延効果に悪影響を及ぼしたりする可能性が生じる。また、上記ポリビニルアルコールの含有量が、30重量%を超えると、コストメリットがなく、製剤安定性の点で好ましくない。
【0025】
また、上記特定の重合度のポリビニルアルコールは、けん化度が90%未満であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。また、けん化度が30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の発熱遅延剤は、界面活性剤を、0.1~15重量%含有することが好ましく、0.1~10重量%含有することがより好ましい。0.1重量%未満では発熱遅延効果が期待できず、15重量%を超えて含有してもコストメリットがなく、製剤安定性の点で好ましくない。
また、本発明の発熱遅延剤が、アニオン界面活性剤としてジアルキルスルホコハク酸を含有する場合、ジアルキルスルホコハク酸の含有量が、0.1~15重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましい。0.1重量%未満では発熱遅延効果が期待できず、15重量%を超えて含有してもコストメリットがなく、製剤安定性の点で好ましくない。
【0027】
また、本発明の発熱遅延剤は、重合度が3~500のポリエチレングリコールを含有することが好ましい。上記重合度が3~500のポリエチレングリコールは、上記発熱遅延剤中で1~30重量%含有されていることが好ましく、1~10重量%含有されていることがより好ましい。1重量%未満では発熱遅延効果が期待できず、30重量%を超えて含有してもコストメリットがなく、製剤安定性の点で好ましくない。
【0028】
本発明の発熱遅延剤が用いられる固体原燃料は、石炭、コークス、鉄鉱石、石灰石、焼結鉱、製鉄所ダスト、木質チップ、木質ペレット、RDF及びRPFからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、発熱遅延剤が用いられる固体原燃料は、石炭であることがより好ましい。なお、RDFとは、家庭ごみなどの一般廃棄物を主原料とするごみ固形燃料であり、RPFとは、マテリアルリサイクルが困難なラミネート紙や、自然分解が困難な廃プラスチックなどを原料にした固形燃料である。
また、本発明の発熱遅延剤が用いられる固体原燃料が石炭である場合、固体状の瀝青炭、固体状の亜瀝青炭及び固体状の褐炭から選択される少なくとも1種の固体状石炭であることが好ましい。
【0029】
本発明の発熱遅延剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、本発明が属する技術分野において通常用いられる薬剤(例えば、発塵防止剤、棚吊り防止剤、凍結防止剤等)を含んでもよい。
【0030】
本発明は、石炭等の固体原燃料に上記発熱遅延剤を接触させることを特徴とする固体原燃料の発熱遅延方法(以下、単に発熱遅延方法ともいう。)でもある。
本発明の発熱遅延方法では、発熱遅延剤を有効成分換算で対固体原燃料濃度が0.1ppm以上となるように石炭に接触させることが好ましく、1ppm以上となるように石炭に接触させることがより好ましい。また、発熱遅延剤は有効成分換算で対固体原燃料濃度が10000ppm以下となるように固体原燃料に接触させることが好ましく、5000ppm以下となるように固体原燃料に接触させることがより好ましい。
固体原燃料に対する発熱遅延剤における有効成分の添加濃度が0.1ppmよりも低いと、充分な発熱遅延効果が得られない可能性がある。一方、発熱遅延剤における有効成分の添加濃度が10000ppmよりも高いと、費用面上及び固体原燃料の品質上好ましくない。
【0031】
また、上記発熱遅延方法では、発熱遅延剤は、有効成分である特定の重合度のポリビニルアルコールと界面活性剤とを含有するが、上記有効成分と上記界面活性剤とは、同時又は別々に、固体原燃料への散布水に投入しされてもよい。
【0032】
本発明の発熱遅延剤を石炭等の固体原燃料に接触させる方法としては、従来から知られている散布方法を用いることができ、例えば、石炭置き場に貯蔵されている石炭等パイルに対し、スプレーノズルやレインガン等の散布手段を用いて散布してもよいし、ベルトコンベア等の移送手段上の石炭等に対して、スプレーノズルのような散布手段を用いて散布してもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、発電所、製鉄所、鉱山等で山積み(野積み)されている石炭等の固体原燃料の発熱を効果的に遅延できるとともに、自然発火を防止することができる。さらに、石炭等の固体原燃料の保管管理を容易にするだけでなく、石炭等の固体原燃料の品質の劣化も防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施例を示し、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
発熱遅延試験は、株式会社島津製作所社製の自然発火試験装置SIT-2を用いて行った。これにより断熱状態における固体原燃料の温度上昇過程を測定することができる。
【0036】
<発熱遅延試験>
(実施例1)
下記表1に記載の薬剤を調製し、得られた薬剤を希釈し、希釈薬剤1gを下記表1の薬剤濃度(対固体状の試料)となるように固体状の試料(亜瀝青炭A)(粒径が1~2mmの試料と1mm未満の試料とを1:1で混合したもの)10gに滴下し、充分に混合後、窒素雰囲気下105℃で1時間乾燥した。乾燥後の薬剤混合試料を試料容器(石英セル)に入れ、これを、常温の試験装置内部に導入した。なお、試験装置内は、窒素環境下に制御されている(窒素導入量2ml/min)。その後、窒素下で60分かけて試料を130℃まで均一に加熱し、温度が130℃に到達し安定した後、60分間窒素下で断熱制御を行った。その後、窒素から空気に切り替え、試料の発熱挙動を観察・記録した。窒素から空気に切り替えた時点での温度(130℃)から200℃に到達するまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2~5)
実施例1で用いた薬剤を下記表1に記載の実施例2~5の薬剤に変更した以外は、実施例1と同様にして、薬剤混合試料の発熱挙動を観察・記録した。結果を表1に示す。
【0038】
(参考例1)
実施例1で用いた希釈薬剤1gの代わりにイオン交換水1gを用いた以外は実施例1と同様にして、試料の発熱挙動を観察・記録した。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例1、2)
実施例1で用いた薬剤を下記表1に記載の比較例1及び2の薬剤に変更した以外は、実施例1と同様にして薬剤混合試料の発熱挙動を観察・記録した。結果を表1に示す。
【0040】
なお、試験に用いた薬剤に含有される化合物は下記の通りである。
(ポリビニルアルコール)
PVA1:重合度100 けん化度65%
PVA2:重合度350 けん化度65%
PVA3:重合度100 けん化度80%
PVA4:重合度350 けん化度80%
PVA5:重合度500 けん化度70%
PVA6:重合度2500 けん化度90%
PVA7:重合度1000 けん化度100%
PVA8:重合度240 けん化度60%
(界面活性剤)
界面活性剤A:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
界面活性剤B:ポリオキシエチレンステアリルアミン(EO付加モル:20)
界面活性剤C:塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(アルキルは、主にドデシルまたはテトラデシルである)
界面活性剤D:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル
(EO/PO=80/20、分子量=700)
(ポリエチレングリコール)
ポリエチレングリコールA:(重合度:20)
ポリエチレングリコールB:(重合度:8)
(その他)
グリセリン:精製グリセリン
【0041】
【表1】
*1:P/B(実施例又は比較例の200℃到達時間/参考例1(ブランク)の200℃到達時間)
*2:ΔT(実施例又は比較例の200℃到達時間-参考例1(ブランク)の200℃到達時間)
【0042】
表1に記載の結果から、実施例1~5に係る薬剤混合試料は、P/Bが、1.2以上であり、窒素から空気に切り替えた後の薬剤混合試料の温度上昇が参考例1(ブランク)に対し緩やかになっていることが確認された。
一方、比較例1及び2に係る薬剤混合試料は、P/Bが、1.2未満であり、窒素から空気に切り替えた後の薬剤混合試料の温度上昇が参考例1(ブランク)に対し緩やかになっているものの、充分な発熱遅延効果が示されていないことが確認された。
以上の結果から、特定の重合度のポリビニルアルコールを含有する薬剤を用いることにより、固体原燃料(石炭)の発熱を充分に遅延できることを確認した。
【0043】
(実施例6)
下記表2に記載の薬剤を調製し、得られた薬剤を希釈し、希釈薬剤1gを下記表2の薬剤濃度(対固体状の試料)となるように固体状の試料(亜瀝青炭B)(粒径が1~2mmの試料と1mm未満の試料とを1:1で混合したもの)10gに滴下し、充分に混合後、窒素雰囲気下105℃で1時間乾燥した。乾燥後の薬剤混合試料を試料容器(石英セル)に入れ、これを、常温の試験装置内部に導入した。なお、試験装置内は、窒素環境下に制御されている(窒素導入量2ml/min)。その後、窒素下で60分かけて試料を130℃まで均一に加熱し、温度が130℃に到達し安定した後、60分間窒素下で断熱制御を行った。その後、窒素から空気に切り替え、試料の発熱挙動を観察・記録した。窒素から空気に切り替えた時点での温度(130℃)から200℃に到達するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。
【0044】
(実施例7~12)
実施例6で用いた薬剤を下記表2に記載の実施例7~12の薬剤に変更した以外は、実施例6と同様にして、薬剤混合試料の発熱挙動を観察・記録した。結果を表2に示す。
【0045】
(参考例2)
実施例6で用いた希釈薬剤1gの代わりにイオン交換水1gを用いた以外は実施例6と同様にして、試料の発熱挙動を観察・記録した。結果を表2に示す。
【0046】
(比較例3~6)
実施例6で用いた薬剤を下記表2に記載の比較例3~6の薬剤に変更した以外は、実施例6と同様にして薬剤混合試料の発熱挙動を観察・記録した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
*1:P/B(実施例又は比較例の200℃到達時間/参考例2(ブランク)の200℃到達時間)
*2:ΔT(実施例又は比較例の200℃到達時間-参考例2(ブランク)の200℃到達時間)
【0048】
表2に記載の結果から、実施例6~12に係る薬剤混合試料は、P/Bが、1.2を大きく超え、窒素から空気に切り替えた後の薬剤混合試料の温度上昇が参考例2(ブランク)に比較し非常に緩やかであったことが確認された。
一方、比較例3~6に係る薬剤混合試料は、P/Bが、1.2未満であり、窒素から空気に切り替えた後の薬剤混合試料の温度上昇が参考例2(ブランク)に比較し緩やかになっているものの、充分な発熱遅延効果が示されていないことが確認された。
以上の結果から、特定の重合度のポリビニルアルコールを含有する薬剤を用いることにより、固体原燃料(石炭)の発熱を充分に遅延できることを確認した。
【0049】
<石炭パイルでの試験>
(実施例13及び14)
実施例13では、下記表3に記載の薬剤Hを調製し、得られた薬剤を希釈し希釈薬剤を、亜瀝青炭Cが野積みされている石炭パイルの中腹の3m四方を試験区画とし、ここに散布した。なお、薬剤の対石炭濃度が下記表3に記載の濃度となるように薬剤散布を行った。その後、試験区画(3m四方)のほぼ中心部、深さ150cm程度の位置に熱電対を挿入し、30日間に渡って温度変化を観察・記録した。結果を下記表4及び5に示す。
また、実施例14では、薬剤Hの代わりに薬剤Iを用いた以外は実施例13と同様にして、亜瀝青炭Cの温度変化を観察・記録した。結果を下記表4及び5に示す。
(参考例3)
実施例13で用いた希釈薬剤の代わりに水を用いた以外は実施例13と同様にして、亜瀝青炭Cの温度変化を観察・記録した。結果を表4及び5に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
上記表4及び5の結果から、有効成分として特定の重合度のポリビニルアルコールと界面活性剤と、を含む薬剤Hを散布した実施例13では、薬剤Hの代わりに水を散布した参考例3と比較し、温度測定開始から30日後の石炭パイル温度が10℃以上低く、優れた発熱遅延効果を確認した。
また、薬剤Iは、薬剤Hの成分に加え、凍結防止剤であるグリセリンや3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含み、対石炭薬剤濃度が薬剤Hと比較し10分の1の100ppmでの散布であっても、参考例3と比較し、温度測定開始から30日後の石炭パイル温度が10℃以上低く、優れた発熱遅延効果を確認した。