(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】履物用中敷き、及び履物
(51)【国際特許分類】
A43B 17/00 20060101AFI20230803BHJP
A43B 7/14 20220101ALI20230803BHJP
【FI】
A43B17/00 A
A43B17/00 E
A43B7/14 Z
(21)【出願番号】P 2022009032
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】592186777
【氏名又は名称】株式会社カイタックホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】514232719
【氏名又は名称】株式会社カーブスジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長野 放
(72)【発明者】
【氏名】田辺 修也
(72)【発明者】
【氏名】増本 岳
(72)【発明者】
【氏名】窪田 昌佳
【審査官】高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-140409(JP,A)
【文献】特表2019-514641(JP,A)
【文献】特開2015-066217(JP,A)
【文献】特開2018-050767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 17/00
A43B 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
つま先の屈曲筋群を鍛えるための履物用中敷きであり、
踵からつま先までの直線距離を百分率で表した場合に、踵から55~75%の位置に、中敷きの幅方向に延びる境界線を有しており、
前記境界線よりもつま先側の部分が弾性を備える第1部分であり、
前記境界線よりも踵側の部分が第2部分であり、
前記第1部分は、その全体が、前記第2部分に比して、硬度の小さい弾性素材で構成された板状の部材であり、
前記第2部分は、その全体が、前記第1部分に比して、硬度の大きい弾性素材で構成された板状の部材であり、
前記第1部分と前記第2部分は、前記境界線の部分において接合された形状であ
り、
第1部分の厚みは10~40mmであり、第2部分の厚みは3~40mmであり、
第1部分はヒールを備えない履物の内底面のつま先部分を覆う形状であり、第2部分はヒールを備えない履物の内底面の踵部分を覆う形状である履物用中敷き。
【請求項2】
着用者が前記第1部分を踏み込んだ後、前記第1部分が元の形状に復帰するまでの時間は、0.4秒以下である請求項1に記載の履物用中敷き。
【請求項3】
前記第1部分には、足指の延在する方向に沿って延びる切込部が設けられる請求項1又は2に記載の履物用中敷き。
【請求項4】
前記第1部分には、足が背屈する動作する際に足指に掛止する突起部を備える請求項1ないし3のいずれかに記載の履物用中敷き。
【請求項5】
前記第1部分の硬度は、JIS K 7312-1996の硬さ試験の方法に準拠してASKER(登録商標) C硬度計で測定した硬度が15~20度、又はJIS K 6400-2のD法に準拠して測定したILD25%が40.0~50.0kgf/cm
2である請求項1ないし4のいずれかに記載の履物用中敷き。
【請求項6】
前記第2部分の硬度は、前記第1部分の硬度の110~310%である請求項1ないし5のいずれかに記載の履物用中敷き。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の履物用中敷きを有
しており、ヒールを備えない履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物用中敷きと履物に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1のように、履物の底に敷いて使用する中敷きが知られている。特許文献1の中敷きは、足の踵側の部分と、足のつま先側の部分とで、柔軟性が異なる。足の踵側の部分は、発泡ポリウレタン等の柔軟性を有する素材で構成された本体に、一定の弾性と硬さとを備える支持部材が内包された板状の構造である。つま先側の部分は、前記本体と同一の素材で構成された板状の構造である。当該中敷きによれば、足を支持する効果と衝撃力を分散又は低下させて快適性を高める効果とを高めることができるとされている。
【0003】
また、以下の特許文献2には、多くの子供において生じている浮き指と呼ばれる重心の偏在を防止するための中敷きが記載されている。この中敷きは、板状の基材部の下面に接するように、板状の弾性部を配置した構造を有する。弾性部は、足の中ほどから踵に至る領域に設けられており、つま先側には設けられない。つま先側は基材部のみから構成される。基材部と弾性部との境界線は、第1から第6の周縁を有する複雑に湾曲した形状とされる。踵側に配される弾性部は、基材部よりも硬度の大きい弾性素材で構成されるとされている。
【0004】
また、以下の特許文献3には、外反母趾の予防又は矯正のための中敷きが記載されている。この中敷きは、板状の硬質部の下面に接するように、硬質部に比して厚みの大きい板状の軟質部を配置した構造を有する。硬質部は、足の中ほどから踵に至る領域、かつ足の内側の領域に設けられており、その一部が足の外側に突出する形状を有する。つま先側には硬質部が設けられておらず、つま先側は軟質部のみで構成される。硬質部は、軟質部に比して、硬度が大きいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-217278号公報
【文献】特開2007-089833号公報
【文献】特開2006-000549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歩行能力の維持は、健康な生活において不可欠な要素である。しかしながら、身体の機能が低下している状態で歩行を続けると、さまざまな危険を伴う。例えば、日本国内においては約20%の高齢者が年間に1度は転倒していて、最大で20%程度が重症に至ると報告されている。また、正しくない歩行を続けていると、足の変形が生じるリスクが高まる。
【0007】
上記のような歩行の問題を予防するには、つま先の屈曲筋群の筋力の向上が有効である。例えば、急性、及び慢性の両観点から歩行時におけるけがを考えると、バランスの向上と足による衝撃の吸収及び分散とが重要である。
【0008】
バランスを向上するには、足裏で足圧中心(Centre of pressure:COP)をコントロールする能力が必要である。それにより、全身の重心を、支持基底面(Base of support:BOS)と呼ばれる両足間の接地面積とその間の空間から離れることがないようにすることが、バランスを失わないようにするためには重要である。足裏で足圧中心をコントローする能力は、つま先の屈曲筋群の筋力を向上させることにより向上する。
【0009】
正しくない歩行を長期的に続けることで生じる怪我を予防するには、足が地面に着地した際に生じる衝撃を吸収すること、足にかかる圧力を分散させることの両方が必要である。例えば、外反母趾の対策として、拇指周辺に過剰な圧力が長時間かかるのを予防する必要がある。衝撃を分散する一つの方法として、筋肉の伸張性収縮が挙げられる。足の着地時には、例えば、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋、大腿四頭筋の伸張性収縮が、衝撃の吸収に寄与する。また、足のつま先を屈曲させる長拇指屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋などの伸張性収縮が、衝撃の吸収に寄与する。なお、衝撃の分散とは、足にかかる圧力を特定の場所に過剰に集中することを避けることである。すなわち、つま先の屈曲筋群の筋力を向上させることにより、衝撃を吸収する能力と、足にかかる圧力を分散させる能力が向上する。
【0010】
このように、歩行時のリスクを低減するには、つま先の屈曲筋群の筋力を向上させることが有効である。この点、特許文献1ないし3の中敷きは、踵側の部分を硬質な素材で構成し、つま先側の部分を柔軟な素材で構成するものではあるが、踵側の部分が、硬質な素材と柔軟な素材とが積層された複合素材で構成されており、効率的につま先の屈曲筋群の筋力を向上させることができるものではなかった。
【0011】
本発明は、着用して歩行動作を行うことにより、正常な歩行動作を妨げることなく、つま先の屈曲筋群を強化することが可能な履物用中敷きと、つま先の屈曲筋群を強化することが可能な履物とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
踵からつま先までの直線距離を百分率で表した場合に、踵から55~75%の位置に、中敷きの幅方向に延びる境界線を有しており、前記境界線よりもつま先側の部分が弾性を備える第1部分であり、前記境界線よりも踵側の部分が第2部分であり、前記第1部分は、その全体が、前記第2部分に比して、硬度の小さい弾性素材で構成された板状の部材であり、前記第2部分は、その全体が、前記第1部分に比して、硬度の大きい弾性素材で構成された板状の部材であり、前記第1部分と前記第2部分は、前記境界線の部分において接合された形状である履物用中敷き(以下、中敷きと称する。)により、上記の課題を解決する。当該中敷きを適用した履物を着用した状態で、歩行動作を繰り返し行うことにより、つま先の屈曲筋群の筋力を効率的に向上させることができる。
【0013】
また、上記記載の履物用中敷きを有する履物により、上記の課題を解決する。
【0014】
上記の中敷き、又は上記の履物では、第1部分は、第2部分に比して、硬度の小さい弾性素材で構成される。第1部分はその全体が、第2部分に比して、硬度の小さい弾性素材で構成された板状の部材で構成されているため、つま先が屈曲動作を行う際に、第1部分をつま先で踏む際に反発力が生じて、負荷となる。一方、踵側に配される第2部分は、その全体が、第1部分に比して、硬度の大きい弾性素材で構成された板状の部材であり、足の踵から入力される荷重に対して変形や圧縮が生じにくい。これにより、第2部分は、足首の位置を左右に振れにくくし、踵の位置を安定せる。これにより、つま先で第1部分を踏み込む動作を安定して行えるようになる。
【0015】
前記中敷き、又は前記履物を着用した状態では、第1部分をつま先で踏む際に反発力が生じるため、通常の歩行時のつま先離地地点(トゥ・オフ)に向けて、普段以上に足の底屈動作とそれに付随するつま先の屈曲運動とを行う必要がでてくる。これを繰り返して、行うことにより、つま先の屈曲筋群が強化される。なお、底屈とは足のつま先を下に向くように足首の関節を動かすことであり、背屈とは足のつま先を上に向くように足首の関節を動かすことである。
【0016】
上記の中敷き、及び上記の履物において、着用者が前記第1部分を踏み込んだ後、前記第1部分が元の形状に復帰するまでの時間は、0.4秒以下であることが好ましい。歩行動作の際に、前記第1部分は、つま先により踏み込まれて、厚み方向に圧縮されることがある。一連の歩行動作において、つま先が地面から離れて、踵が着地し、再びつま先で前記第1部分が踏み込まれる前に、前記第1部分が元の形状に復帰するようにして、つま先の屈曲筋群の筋力をより効率的に向上させることが可能になる。また、上記のようにすることにより、つま先の屈曲筋群を強化するのにより適した反発力が得られる。
【0017】
上記の中敷き、及び上記の履物において、前記第1部分には、足指の延在する方向に沿って延びる切込部が設けられる構成としてもよい。これにより、例えば、足の第1趾と、足の第2趾となどが、自由に動かしやすくなり、前記中敷き又は履物を着用した状態でより歩行しやすくなる。
【0018】
上記の中敷き、及び上記の履物において、前記第1部分には、足が背屈する動作する際に足指に掛止する突起部を備える構成としてもよい。これにより、例えば、足を背屈させる際に、足の動きに前記中敷き又は履物の底が追従しやすくなり、前記中敷き又は履物を着用した状態でより歩行しやすくなる。
【0019】
上記の中敷き、及び上記の履物において、前記第1部分の硬度は、JIS K 7312-1996の硬さ試験の方法に準拠してASKER(登録商標) C硬度計で測定した硬度が15~20度、又はJIS K 6400-2のD法に準拠して測定したILD25%が40.0~50.0kgf/cm2であることが好ましい。
【0020】
上記の中敷き、及び上記の履物において、前記第2部分の硬度は、前記第1部分の硬度の110~310%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、着用して歩行動作を行うことにより、正常な歩行動作を妨げることなく、つま先の屈曲筋群を強化することが可能な履物用中敷きと、つま先の屈曲筋群を強化することが可能な履物とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】履物用中敷きの一実施形態を示す斜視図である。
【
図8】
図7の履物に中敷きを敷いた状態を示す断面図である。
【
図9】屈曲時間とEMG信号(筋電図の電位信号)との関係を示すグラフである。
【
図10】実施例ごと、比較例ごとに、ヒラメ筋の、平均屈曲強度と、最大屈曲強度とをまとめたグラフである。
【
図11】実施例ごと、比較例ごとに、ヒラメ筋の屈曲時間をまとめたグラフである。
【
図13】実施例ごと、比較例ごとに、COPの外側への移動量をまとめたグラフである。
【
図14】60分間、4.5km/hで歩き続けた後における、歩行に関するパラメータの変化をまとめたグラフである。
【
図15】つまずきのリスクの指標であるMFCをまとめたグラフである。
【
図16】O脚と変形性膝関節炎の要因である膝のアダクションモーメントをまとめたグラフである。
【
図17】後方又は前方へのバランスをまとめたグラフである。
【
図18】エネルギーのリカバリー率をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の中敷きと、当該中敷きを底の内側に敷くための履物の実施形態について説明する。以下に示す各実施形態は、本発明の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は例示した実施形態に限定されるものではない。
【0024】
[中敷き]
図1ないし
図6に、中敷きの一実施形態を示す。本実施形態の中敷き1は、
図2に示したように、踵からつま先までの直線距離を百分率で表した場合に、中敷き1の踵から55~75%の位置に、中敷きの幅方向に延びる境界線13を有する。前記百分率は、
図2に示したように、中敷き1の踵の端部からつま先の端部までの距離をBとし、中敷き1の踵の端部から前記境界線13までの距離をAとしたときに、次式により、求められる。
百分率(%)=A÷B×100
【0025】
前記境界線13よりもつま先側の部分が弾性を備える第1部分11として構成される。そして、前記境界線13よりも踵側の部分が第2部分12として構成される。第1部分11は、
図5に示したように、板状の部材であり、その全体が単一の素材で構成される。第2部分12は、
図5に示したように、板状の部材であり、その全体が単一の素材で構成される。
【0026】
第1部分11は、その全体が、第2部分12に比して、硬度の小さい弾性素材で構成される。第2部分12は、その全体が、第1部分11に比して、硬度の大きい弾性素材で構成される。
【0027】
前記第1部分の硬度は、JIS K 7312-1996の硬さ試験の方法に準拠してASKER(登録商標) C硬度計で測定した硬度が15~20度、又はJIS K 6400-2のD法に準拠して測定したILD25%が40.0~50.0kgf/cm2となるようにすることが好ましい。
【0028】
前記第2部分の硬度は、前記第1部分の硬度の110~310%となるようにすることが好ましく、110~200%となるようにすることがより好ましい。第2部分の硬度は、JIS K 7312-1996の硬さ試験の方法に準拠してASKER(登録商標) C硬度計で測定した硬度が、40~50度となるようにすることが好ましい。
【0029】
第1部分と第2部分とは、弾性を有する合成樹脂材料で構成する。第1部分と第2部分とは、例えば、それぞれ、弾性を有する熱可塑性樹脂の発泡体、種々のエラストマー等で構成することが可能であり、熱可塑性樹脂の発泡体を好適に使用することができる。第1部分と第2部分とは、例えば、同系の材料を用いて密度を変更したり、互いに硬度又は弾性の異なる素材を使用したりすることにより、第1部分が第2部分に比して、より硬度が小さく、かつより柔らかくなるように構成すればよい。
【0030】
第1部分、又は第2部分を構成する素材としては、特に限定されないが、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、発泡ポリウレタンなどが挙げられる。
【0031】
前記第1部分は、弾性を有しており、その弾性は、着用者が前記第1部分を踏み込んだ後、前記第1部分が踏み込む前のもの形状に復帰するまでの時間が0.4秒以下となるようにすることが好ましい。これにより、例えば、1回目の歩行動作に続いて、2回目の歩行動作を行う際には、第1部分の形状を元の状態に復帰させて、足のつま先が第1部分を踏み込むことで、つま先の屈曲筋群を強化する運動をより適切に行うことができる。なお、つま先の屈曲筋群とは、長拇指屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋、長腓骨筋、短腓骨筋などのつま先の屈曲に役立つ筋肉群の総称である。
【0032】
第1部分11と第2部分12とは、前記境界線13の部分で接合された形状である。第1部分11と第2部分12とを、接合する方法は特に限定されず、例えば、接着剤、又は熱溶着により接合してもよいし、第1部分11と、第2部分12とを薄膜状の包皮材で被覆することにより、第1部分と第2部分とを接合してもよい。中敷き1では、第1部分11と第2部分12とを接着剤で貼り合わせた後、皮革調の意匠を施した薄膜状の包皮材14を、第1部分11と第2部分12に積層して、第1部分11と第2部分12と接合している。なお、境界線は、接合の態様、使用する素材によっては、外観上は視認されない場合がある。
【0033】
本実施形態の中敷き1では、境界線13は、中敷きの幅方向に延びる形状であり、略直線状である。境界線は、例えば、1cm以内のピッチで中敷きの幅方向に交差する方向に蛇行したり、ジグザグになっていたりしても構わない。この場合、前記百分率は、境界線が蛇行する幅の中点とすればよい。
【0034】
境界線13は、つま先の屈曲筋群を効率的に強化するうえで、ミッドフットの位置に配置することが好ましい。足首は、踵着地からつま先離地までの立脚期に、プロネーション、スピネーション、底屈、つま先の屈曲の順に動く。通常の歩行動作時において、スピネーションが最大限に起こる位置の平行線上を、ミッドフットと定義する。なお、スピネーションとは、足首の底屈と外反とが同時に起こる動作のことをいう。ミッドフットの位置は、通常の歩行時の足圧の中心(COP:Center of pressure)を測定した場合に、最も外側にCOPが観測される地点である。
【0035】
ミッドフットの位置は、個人差があるものの、中敷き又は履物の着用者の足の踵からつま先までの距離を百分率で表した場合に、着用者の踵から60~64%の位置となることが多い。中敷き又は履物の底に設けられる余白部分の寸法や個人差を考慮すると、中敷き又は履物の底の踵からつま先までの直線距離を百分率で表した場合に、踵から55~75%の位置にミッドフットが含まれる。
【0036】
したがって、中敷きにおける前記境界線は、中敷きの踵からつま先までの直線距離を百分率で表した場合に、中敷きの踵から、55~75%の位置に設けることが好ましく、57~70%の位置に設けることがより好ましく、58~66%の位置に設けることがさらに好ましい。
【0037】
上記の境界線よりも先端側に第1部分を設定することにより、足の底屈と屈曲が起こる部分に効率的に負荷を掛けることができる。
【0038】
図1ないし
図6に示したように、中敷き1は、平面視においては、足の形状に沿うように余白部分を設けて、足の輪郭よりもやや大きくなる輪郭を備える形状とされる。中敷き1は、全体形状が扁平な板状である。中敷き1は、
図5に示したように、中敷きの長手方向においては、第1部分11の厚みが、第2部分12に比して、大きくなるように傾斜部を有する構成とされている。また、
図6に示したように、中敷きの短手方向においては、第2部分12は、足の内側の厚みが、足の外側の厚みに比して、小さくなるように傾斜部を有する構成とされている。なお、第1部分11は、中敷きの短手方向において、足の内側と外側とで厚みが略同一な形状とされている。上記の傾斜部は、いずれも中敷きの表面に配置される。
【0039】
第1部分の厚みは、特に限定されないが、例えば、10~40mmとすれば、つま先の屈曲筋群の強化する効果を得ることが可能であり、かつ着用者が中敷きの厚みにより歩行しにくく感じたり、身体のバランスをとりにくくなる可能性を低減することができる。第1部分の厚みは、10~23mmとしてもよい。第2部分の厚みは、特に限定されないが、例えば、3~40mmとすることができる。第2部分の厚みは、3~20mmとしてもよい。
【0040】
中敷き1においては、前記第1部分11には、足指の延在する方向に沿って延びる切込部15が設けられる。切込部15は、第1部分11を厚み方向に沿って貫通する切れ込みである。中敷き1の場合は、第1趾と第2趾との間に切込部が設けられる。これにより、中敷きによって第1趾と第2趾との動きが拘束されにくくなり、例えば、第1趾と第2趾とを独立して動かすことが可能になり、中敷き1を着用した状態でも歩行しやすくなる。なお、切込部を設ける位置は、その他の足指の間であってもよい。
【0041】
中敷き1においては、前記第1部分11には、足が背屈する動作する際に足指に掛止する突起部16を備える構成としてもよい。これにより、例えば、足を背屈させる際に、足の動きに前記中敷き1が追従しやすくなり、中敷き1を着用した状態で歩行しやすくなる。中敷き1では、突起部16は、第1趾と第2趾との間に突出する構成としたが、その他の足指との間に設けてもよい。
【0042】
突起部16は、
図3に示したように、足指の間を通過する軸部161と、軸部161の先端に設けられる略円盤状の第1掛止部162と、軸部161の基端に設けられる略円盤状の第2掛止部163とを有する。第1掛止部162は、足指の上面に掛止して、足と中敷き1とを一体化させる。第2掛止部163は、突起部16を中敷き1に対して固定する。
図2の例では、切込部15の基端部に軸部161を挟持するようにして、中敷きの底部に第2掛止部163が掛止するように構成されている。
【0043】
中敷き1においては、中敷き1の上面、すなわち、着用者の足の裏と当接する面には、複数の突起部17が設けられている。この突起部17は、着用者が歩行する際に、足裏に微弱な刺激を与えて、足に係る圧力の中心(COP)を最適化するのをサポートし、正しい足首の使い方が行われるようにするものである。複数の突起部17は、脚の内側から外側に向けて傾斜するように足の踵側からつま先側に向けて配置される。複数の突起部17のうち先端側に配置される突起部は、上記のミッドフットと一致する位置に設けられる。
【0044】
上記の中敷き1は、市販の短靴、深靴、又はスリッパなどの履物の履口から挿入して底に敷いて使用することができるし、
図7及び
図8に示したように、履口21を斜めにカットして履口を大きく開口させた履口21と、踵部分には、中敷き1の端部を掛止する縁部22とを備えた履物2と組み合わせて、使用してもよい。当該履物2は、中敷き1を底に敷いた状態で、中敷き1とアッパー部23との間が着用者の足の厚みに適合するように構成されており、中敷き1を底に敷いた状態で、快適に歩行できるように構成された専用の履物である。履口が斜めに大きく開口しているため、中敷き1を出し入れしやすく、着用する際に足を履物に出し入れしやすく、中敷き1が歩行中において外れにくいという特徴を有する。上記の中敷き1は突起部16を備えているため、足と履物との一体性が高く構成されているため、履口が大きく開口していても、歩行しやすい。
【0045】
履物2の底は、
図8に示したように、中底24と外底25とから構成される。中底24は、履物のアッパー部23を構成する布地と連続する布地で構成された薄手の構成とされている。外底25は、弾性を有する芯材を有するものであり、中底の裏面に縫着又は接着等の手段により固定されている。履物2では、柔軟かつ薄く構成されている。このため、中敷きを敷いた状態で、歩行しやすくなっている。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の中敷きと履物の実施例を挙げて、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0047】
[筋電図による評価]
以下に示す実施例1に係る中敷きを備える履物、実施例2に係る中敷きを備える履物、比較例1に係る中敷きを備える履物、又は比較例2に係る中敷きを備える履物を着用した状態で歩行し、筋電図により、ヒラメ筋の屈曲時間と屈曲強度を評価した。
【0048】
[実施例1]
実施例1に係る中敷きは、第1部分と第2部分とを、中敷きの踵から62%の位置で接合したものであり、その形状は
図1ないし
図6に示された通りである。第1部分は厚み13mmのEVAの板材で構成されており、ASKER(登録商標)-C硬度計(高分子計器株式会社製)で測定した硬度が18度である。第2部分は、足の外側の厚みが厚く、足の内側の厚みが薄く、踵側が薄く、つま先側が厚く構成されたEVAの板材で構成されており、ASKER(登録商標)-C硬度計(高分子計器株式会社製)で測定した硬度が45度である。第2部分の厚みは8~13mmである。硬度は、JIS K 7312-1996に準拠して測定した。測定条件は以下の通りである。なお以下の試験片は、前記第1部分、又は前記第2部分と同一の素材を使用した。
試験方法:タイプC
測定環境:温度23℃,相対湿度50%
試験片:、縦横60mm×60mm、厚み13mmの直方体
試験片の重ね合わせ:なし
【0049】
[実施例2]
実施例2に係る中敷きは、第1部分を構成する素材を、厚み13mmの以下の発泡ポリウレタンの板材に変更した点以外は、実施例1に係る中敷きと同様の構成である。発泡ポリウレタンは、JIS K 6400-2(2012)のD法に準拠して測定したILD25%が、45.5kgf/cm2である。なお以下の試験片は、前記第1部分と同一の素材を使用した。
試験方法:D法
試験片の状態調節:温度23℃,相対湿度50%
試験片:縦横380mm×380mm、厚み50mmの直方体
試験片の重ね合わせ:なし
【0050】
[比較例1]
比較例1に係る中敷きは、平面視において、着用者の足の輪郭に沿うように1.0cmの余白を残した輪郭を有する板状の形状である。中敷きは、全体が厚み8mmの扁平な板状であり、全体が以下の熱可塑性エラストマー(TPE)で構成される。熱可塑性エラストマーは、ASTM D2240に準拠して測定した硬さが、2~3Shoreである。測定条件は以下の通りである。なお以下の試験片は、中敷きを構成する素材と同一の素材を使用した。
デュロメータースケール:D
試験片:縦横60mm×60mm、厚み8mmの直方体
試験片の状態調節:温度23℃,相対湿度50%
試験片の重ね合わせ:なし
【0051】
[比較例2]
比較例2に係る中敷きは、平面視において、着用者の足の輪郭に沿うように1.0cmの余白を残した輪郭を有する板状の形状である。中敷きは、全体が厚み8mmの扁平な板状であり、全体が以下の発泡ポリウレタンで構成される。発泡ポリウレタンは、ASKER(登録商標)-F硬度計(高分子計器株式会社製)で測定した硬度が75度である。測定条件は以下の通りである。なお以下の試験片は、中敷きを構成する素材と同一の素材を使用した。
試験方法:タイプF
測定環境:温度23℃,相対湿度50%
試験片:縦横300mm×300mm、厚み8mmの直方体
試験片の重ね合わせ:なし
測定圧:硬度計の自重により測定
【0052】
上記各実施例の中敷きの第1部分と各比較例に係る中敷きの硬さと、弾性とを官能評価したところ、以下のようになった。すなわち、硬さと弾力性とが高いものから低いものの順に記載すると、実施例1の第1部分、実施例2の第1部分、比較例2に係る中敷き、比較例1に係る中敷きである。
【0053】
上記の各実施例に係る中敷きと、上記の各比較例に係る中敷きとを、
図7に示したのと同様の形状を有する履物の中底の上に敷いて、被験者に履かせた。脚に電極を取り付けて、前記履物を履いた状態で歩行動作を行わせて、ヒラメ筋の筋電図を測定した。なお、履物は、中底を含む全体が編地で構成されており、外底は弾性を有する芯材を薄手の布地で被覆した構成である。測定した筋電図を
図9に示す。また、
図10にはヒラメ筋の最大屈曲強度と平均屈曲強度とを示し、
図11にはヒラメ筋の屈曲時間を示す。
【0054】
図9のグラフから、実施例1の中敷きと実施例2の中敷きは、比較例1の中敷きと比較例2の中敷きに比して、ヒラメ筋に与える力が大きいことがわかる。
図10のグラフから、実施例1の中敷きと実施例2の中敷きは、比較例1の中敷きと比較例2の中敷きに比して、ヒラメ筋の最大屈曲強度及び平均屈曲強度が大きいことがわかる。さらに、
図11のグラフから実施例1の中敷きは、比較例1の中敷きと比較例2の中敷きに比して、ヒラメ筋の屈曲時間が長くなることがわかる。
【0055】
次に、実施例1に係る中敷きを敷いた履物を14人の被験者に3カ月間使用させて、足の握力を1カ月ごとに測定した。1日当たり最低でも1日に20分間履物を使用するように指示した。足の握力の変化を
図12に示す。
【0056】
図12に示したように、3カ月の使用で、平均1.075kgの向上が認められ、初期と比較して48%の向上が見られた。
【0057】
このように、実施例1の中敷きと実施例2の中敷きによれば、ヒラメ筋などのつま先の屈曲筋群に負荷を与えて、効率的に筋力を向上させることができる。
【0058】
[足圧の評価]
ノベル社のPedar(登録商標)システムを用いて、足圧の測定を行った。具体的には、市販の中敷き、各実施例に係る中敷き、又は各比較例に係る中敷を敷いた
図7に係る履物を履かせた状態で、被験者に歩行動作を行わせて、踵が着地した時点のCOP(Center of pressure)を基準として、歩行時に最大でどの程度外側にCOPが移動したかを測定した。測定結果を、
図13のグラフにまとめる。
【0059】
図13のグラフに示したように、実施例1に係る中敷きと実施例2にかかる中敷きでは、COPが過度に外側に移動することはなかった。COPが過度に外側に移動すると、外反母趾、捻挫、O脚、膝板、又はバランスの乱れが生じる。実施例1又は実施例2の中敷きとそれを利用した履物では、そのようなリスクが小さくなることがわかった。
【0060】
[簡易歩行テスト]
GaitRiteシステムを使用して、簡易歩行テストを行った。具体的には、市販の中敷き、各実施例に係る中敷き、又は各比較例に係る中敷きを敷いた
図7に係る履物を履かせた状態で、被験者に歩行動作を行わせて、歩幅、歩隔、両足立脚時間、踏み込み角度、圧力の合計を求めた。
【0061】
GaitRiteシステムでは、歩行者が簡易歩行するためのマットの裏に、センサーが設置されている。当該センサーにより、垂直方向の床反力を測定することができる。踵の着地からつま先離地までの位置情報と垂直床反力を記録することで、歩幅、歩隔、両足立脚時間、足の踏み込み角度等を求めることができる。結果を以下の表にまとめる。
【0062】
【0063】
表1に示したように、比較例1に係る中敷き、比較例2に係る中敷き、市販の中敷きに比して、実施例1に係る中敷きと実施例2にかかる中敷きでは、圧力の合計(積分値)が低いことがわかった。実施例1又は実施例2の中敷きとそれを利用した履物では、足のトラブルを生じにくいことがわかった。
【0064】
次に、市販の中敷き、各実施例に係る中敷き、又は各比較例に係る中敷きを敷いた
図7に係る履物を履かせた状態で、被験者にトレッドミル上を4.5km/hで1時間にわたって早歩きさせた後に、基本的な歩行パターンがどのように変化するか調べた。計測は裸足で行った。上記の条件で早歩きさせる前に測定した歩幅歩隔、両足立脚時間、及び圧力の合計を基準として、早歩きさせた後の歩幅、歩隔、両足立脚時間、及び圧力の合計の変化率を
図14にまとめた。
【0065】
図14に示したように、比較例2に係る中敷きとそれを適用した履物では足圧の増加を生じるため特に注意が必要であることが分かった。その他の中敷きとそれを適用した履物では歩行パターンに与える悪影響を与える可能性は低いことが分かった。
【0066】
つまずきのリスクを評価するためにMFC(Minimum foot clearance)を求めた。MFCとは、つま先の地面からの垂直距離を遊脚期間中のつま先離地から踵着地の中期で、地面からの垂直距離が最も小さくなる地点のことである。市販の中敷き、各比較例に係る中敷き、又は各実施例に係る中敷きを敷いた
図7に係る履物を履かせた状態で、被験者に歩行動作を行わせた際における各MFCの測定結果を
図15に示す。
【0067】
図15に示したように、市販品に比して、各実施例の中敷きを適用した履物では、MFCが大きくなっていることがわかる。つまずきのリスクを低減するには、MFCはある程度高い方がよいとされている。例えば、1.0~1.9cmがよいとされている。実施例1、及び実施例2の中敷きを適用した履物において、MFCが増大したのは、着用者の足の裏と当接する面に設けられた複数の突起部によるものと推測される。
【0068】
O脚と変形性膝関節炎の要因の一つである膝のアダクションモーメントを測定した。アダクションモーメントは、脚に装着したマーカーの位置情報と床反力の情報を基に、間接に働く力、モーメントを算出することで求めた。結果を、
図16のグラフに示す。なお、アダクションモーメントとは、脛骨が脚の外側へ向かおうとする回転モーメントのことである。アダクションモーメントが大きいと、脚の内側の脛骨と大腿骨の接合部分を上下から押す力が大きくなり、膝に負担がかかる。
【0069】
実施例1、及び実施例2の中敷きを使用した被験者においては、市販品、比較例1、又は比較例2に係る中敷きを使用した被験者に比して、膝のアダクションモーメントが削減されており、O脚又は変形性膝関節炎のリスクが低減されていることがわかった。
【0070】
バランスの指標であるMOS(Margine of stability)を測定した。結果を、
図17のグラフに示す。MOSの数値が高ければバランスがよいことを示す。MOSの数値が低ければバランスが悪いことを示し、ゼロになると転倒が開始する。なお、
図17のグラフにおいて、踵着地時は、後方へのバランスを示し、MFC(Minimum foot clearance)は前方へのバランスを示す。
図17の結果によると、実施例1の中敷きが最もバランス効果が高い。
【0071】
リカバリー率=(ΔPE+ΔKE-ΔExt)÷(ΔPE+ΔKE)×100%
上記の計算式により、市販品に係る中敷き、各実施例に係る中敷き、各比較例に係る中敷きを敷いた履物についてのエネルギーのリカバリー率を求めた。結果を
図18のグラフに示す。トレーニング効果を高めるためには、エネルギー効率(リカバリー率)を下げる必要がある。
図18のグラフによると、実施例1、又は実施例2に係る中敷きを敷いた履物では、リカバリー率が低下しており、つま先の屈曲筋群のトレーニング効果が認められる。百分率で示すならば、裸足の状態と比較して、実施例1、又は実施例2に係る中敷きを敷いた履物では、それぞれ、14%、16%のトレーニング効果の増大が認められた。
【0072】
以上のように、実施例1、又は実施例2の中敷きとそれを敷いた履物においては、着用者の正常な歩行動作を損なうことなく、つま先の屈曲筋群を強化することができることがわかる。
【符号の説明】
【0073】
1 中敷き
13 境界線
11 第1部分
12 第2部分
15 切込部
16 突起部
2 履物
【要約】
【課題】着用して歩行動作を行うことにより、正常な歩行動作を妨げることなく、つま先の屈曲筋群を強化することが可能な履物用中敷きと、つま先の屈曲筋群を強化することが可能な履物とを提供する。
【解決手段】
踵からつま先までの直線距離を百分率で表した場合に、踵から55~75%の位置に、中敷きの幅方向に延びる境界線を有しており、前記境界線よりもつま先側の部分が弾性を備える第1部分であり、前記境界線よりも踵側の部分が第2部分であり、前記第1部分は、その全体が、前記第2部分に比して、硬度の小さい弾性素材で構成された板状の部材であり、前記第2部分は、その全体が、前記第1部分に比して、硬度の大きい弾性素材で構成された板状の部材であり、前記第1部分と前記第2部分は、前記境界線の部分において接合された形状である履物用中敷きと、履物である。
【選択図】
図1