(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】既設フェンスの再生工法及び再生構造
(51)【国際特許分類】
E04H 17/16 20060101AFI20230803BHJP
E04H 17/04 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
E04H17/16 105Z
E04H17/04 A
(21)【出願番号】P 2022011734
(22)【出願日】2022-01-28
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591168312
【氏名又は名称】中村建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500407651
【氏名又は名称】株式会社ビーセーフ
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正盛
(72)【発明者】
【氏名】金田 学
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 正人
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 秀士
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-324417(JP,A)
【文献】特開2008-208523(JP,A)
【文献】登録実用新案第3066530(JP,U)
【文献】実開昭59-074227(JP,U)
【文献】特開2017-014808(JP,A)
【文献】特開2005-076399(JP,A)
【文献】特開2021-032024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定距離を隔てて地面に配設された複数の基礎上にそれぞれ立設された複数の支柱とそれら支柱間に張設されたネット部材とを含んでなる既設フェンスを、新たなフェンスに再生する工法にして、
前記既設フェンスにおける既設の支柱を、前記基礎から80mm~300mmの長さ部分を残してなる形態において切除することにより、該既設支柱の連結部を、該基礎から上方に突出してなる形態において形成すると共に、該既設支柱間に張設されているネット部材を取り除く工程と、
前記切除により残存する前記既設支柱の連結部よりも長い長さを有すると共に、該連結部を挿入し得る大きさの下端開口部を有し、且つ上部に前記新たなフェンスの支柱となるパイプ部材を取り付けてなる接続筒体を用い、この接続筒体の下端開口部に、前記既設支柱の連結部を、該連結部が該接続筒体内に位置するように挿入して、かかる接続筒体を、固定手段にて、該既設支柱の連結部に固定せしめることにより、該既設支柱上に前記パイプ部材による新たな支柱を立設する工程と、
前記接続筒体内に、硬化乃至は固化可能な液状のグラウトを注入して、該接続筒体内と共に、前記既設支柱の連結部内に充満させ、硬化乃至は固化せしめることにより、それら接続筒体と既設支柱の連結部とを一体化させる工程と、
前記既設支柱上に形成された前記パイプ部材からなる新たな支柱間に、新たなネット部材を張設して、新たなフェンスを構成する工程とを、
含むことを特徴とする既設フェンスの再生工法。
【請求項2】
前記接続筒体が、矩形断面形状を呈する四角筒にて構成されている一方、前記既設支柱が、三角断面形状を呈し、且つその三角断面形状の一辺に該既設支柱の長手方向に延びるスリットが形成されてなる三角筒にて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項3】
前記接続筒体と前記既設支柱の連結部との固定が、前記固定手段としてボルト及びナットを用い、該接続筒体の筒壁を貫通して取り付けられた該ボルトの脚部を該既設支柱に形成されたスリット内に入り込ませてなる形態において、前記ナットを該ボルトの脚部に螺合せしめることにより、実現されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項4】
前記接続筒体の上端開口部が、天板にて閉塞されてなると共に、かかる天板に対して、前記パイプ部材が、その内部を該接続筒体の内部に連通してなる形態において溶接固定せしめられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項5】
前記パイプ部材が、前記天板を貫通して前記接続筒体内に所定長さ入り込んでなる形態において、配設されて、固定せしめられていることを特徴とする請求項4に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項6】
前記天板に溢流孔が形成されており、前
記液状
のグラウトが該溢流孔を通じて外部に溢流することによって、かかる液状
のグラウトの前記接続筒体及び前記既設支柱の連結部における充満状態が判断されるようになっていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項7】
前記接続筒体の下端部が前記基礎との間においてシールされて、該接続筒体内に注入される
前記液状
のグラウトが、外部に漏出しないように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項8】
前記パイプ部材の上端開口部から前記接続筒体内に至るように、注入パイプが挿入されて、該注入パイプを通じて、前記液状
のグラウトの注入が行われるようになっていることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項9】
前記液状
のグラウトが、無収縮モルタルであることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の既設フェンスの再生工法。
【請求項10】
所定距離を隔てて地面に配設された複数の基礎上にそれぞれ立設された複数の支柱とそれら支柱間に張設されたネット部材とを含んでなる既設フェンスを、新たなフェンスに再生してなる構造にして、
前記既設フェンスにおける既設の支柱が、三角形状の横断面を有し、且つその三角形状の一辺に支柱長手方向に延びるスリットを有する三角筒にて構成されており、そして該既設の支柱を、前記基礎から所定の長さ部分を残してなる形態において切除することによって、該基礎から上方へ所定長さ突出するように形成された、前記スリットが三角形状の一辺に残存する既設支柱の連結部と、
該既設支柱の連結部よりも長い長さを有すると共に、該連結部を挿入し得る大きさの下端開口部を有し、かかる下端開口部に、該連結部が挿入せしめられた、矩形断面形状を呈する四角筒にて構成されてなる接続筒体と、
ボルト及びナットから構成されてなり、該ボルトの頭部を該接続筒体内に位置せしめてなる形態において、該ボルトの脚部が該接続筒体の筒壁を貫通して側方に突出せしめられると共に、該ボルトの脚部の側方突出部位に前記ナットが螺合されており、該ボルトの脚部が前記既設支柱の連結部に残存する前記スリットにて案内されることによって該既設支柱の連結部が前記接続筒体内に挿入されてなる状態において、前記ナットの螺合が進行せしめられることにより、該接続筒体と該既設支柱の連結部との固定を行う固定手段と、
前記接続筒体の上部に取り付けられて、前記既設支柱上に、前記新たなフェンスの支柱を形成するパイプ部材と、
前記接続筒体と前記既設支柱の連結部のそれぞれの内部に注入、充満せしめられて、硬化乃至は固化させられることによって形成され、それら接続筒体と既設支柱の連結部とを一体化せしめる液状のグラウトの硬化乃至は固化体と、
前記既設支柱上に形成された前記パイプ部材からなる新たな支柱間に張設されてなる新たなネット部材とを、
含んで構成されていること特徴とする既設フェンスの再生構造。
【請求項11】
前記固定手段を構成するボルトに対して、その脚部が挿通されてなる形態において、補強プレートが配設され、該ボルトの頭部と前記既設支柱の連結部との間に該補強プレートが位置するようにして、前記接続筒体と該既設支柱の連結部とが、該ボルトの脚部に前記ナットを螺合することによって固定せしめられていることを特徴とする請求項10に記載の既設フェンスの再生構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設フェンスの再生工法及び再生構造に係り、特に、新たなフェンスに取り替える必要のある既設のフェンスを、効果的に再生して、目的とするフェンスを有利に形成し得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、所定距離を隔てて地面に立設された複数の支柱と、それら支柱間に張設された金網等のネット部材とを含んでなる構成のフェンスが、地面の所定の領域を他の領域から仕切るための手段として用いられてきており、例えば、高速道路等の敷地内に、関係者以外の人間や動物等が立ち入るのを防止して、交通の安全を確保することや、道路敷地等が不法に占拠されることを未然に防止すること等を目的とした、立ち入り防止柵(立ち入り防止用フェンス)の他、耕作地の敷地境界上に設置されて、野生動物が侵入するのを防止するためのフェンス、更には落石、雪崩、崩落土砂等を対象とした防護柵や、住宅、工場、運動場等の外柵等が、知られている。そして、それらの一例が、特開2016-199849号公報、実開昭60-184955号公報、特許第4629806号公報等においても、明らかにされている。
【0003】
ところで、かかるフェンスは、それが設置された後、その老朽化により、またその変形や損傷等によって、新たなフェンスに取り替える必要が生じることとなるが、その取り替え工事には、既設の基礎・支柱・金網の撤去や新たな基礎・支柱・金網の設置のために、一連の取替作業が採用されることとなるのであるが、フェンスの支柱が立設される基礎の設置・撤去に際して、フェンス付近に埋設ケーブル等の埋設物が存在する場合には、そのような埋設ケーブル等を損傷しないようにして、基礎を配設したり、撤去したりする必要が生じることとなる。また、鋼管杭基礎を採用する場合にあっては、山間部における樹木の根や礫混じりの石等がある場所では、その打ち込みに多大な労力と時間を要することとなる。更に、埋蔵文化財が存在する区域では、安易に基礎掘削をすることが出来ない等の多くの問題が内在しているのである。
【0004】
このため、既設のフェンスを新たなフェンスに取り替える工事には、多くの時間と労力を要すると共に、細心の注意を払う作業が必要となるのであって、これにより、かかるフェンスの取替工事の施工効率が低下し、また、その工事費用が増大することにも、繋がるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-199849号公報
【文献】実開昭60-184955号公報
【文献】特許第4629806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、既設フェンスの、安全且つ効率的で、経済的に有利な再生工法及び再生構造を提供することにあり、また他の課題とするところは、既設基礎の有効活用を図ることにより、新たな基礎の施工を不要として、埋設ケーブルの損傷等の事故防止を図り、埋蔵文化財区域であっても、新たなフェンスの設置を安易に行うことの出来る既設フェンスの再生技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は、上述した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載及び図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0008】
そこで、本発明は、先ず、前記した課題を解決すべく、所定距離を隔てて地面に配設された複数の基礎上にそれぞれ立設された複数の支柱とそれら支柱間に張設されたネット部材とを含んでなる既設フェンスを、新たなフェンスに再生する工法にして、(a)前記既設フェンスにおける既設の支柱を、前記基礎から所定の長さ部分を残してなる形態において切除することにより、該既設支柱の連結部を形成すると共に、該既設支柱間に張設されているネット部材を取り除く工程と、(b)前記切除により残存する前記既設支柱の連結部よりも長い長さを有し、且つ上部に前記新たなフェンスの支柱となるパイプ部材を取り付けてなる接続筒体を用い、この接続筒体を前記既設支柱の連結部に外挿して、かかる接続筒体を該既設支柱の連結部に固定せしめることにより、該既設支柱上に前記パイプ部材による新たな支柱を立設する工程と、(c)前記接続筒体内に、硬化乃至は固化可能な液状のグラウトを注入して、該接続筒体内と共に、前記既設支柱の連結部内に充満させ、硬化乃至は固化せしめることにより、それら接続筒体と既設支柱の連結部とを一体化させる工程と、(d)前記既設支柱上に形成された前記パイプ部材からなる新たな支柱間に、新たなネット部材を張設して、新たなフェンスを構成する工程とを、含むことを特徴とする既設フェンスの再生工法を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、かくの如き本発明に従う既設フェンスの再生工法の好ましい態様によれば、前記接続筒体が、矩形断面形状を呈する四角筒にて構成されている一方、前記既設支柱が、三角断面形状を呈し、且つその三角断面形状の一辺に該既設支柱の長手方向に延びるスリットが形成されてなる三角筒にて構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に従う既設フェンスの再生工法の好ましい態様の他の一つによれば、前記接続筒体と前記既設支柱の連結部との固定が、該接続筒体の筒壁を貫通して取り付けられたボルトの脚部を該既設支柱に形成されたスリット内に入り込ませてなる形態において、ナットを螺合せしめることにより、実現されるようになっている。
【0011】
さらに、本発明に従う既設フェンスの再生工法の望ましい別の態様の一つによれば、前記接続筒体の上端開口部が、天板にて閉塞されてなると共に、かかる天板に対して、前記パイプ部材が、その内部を該接続筒体の内部に連通してなる形態において溶接固定せしめられていることを特徴としている。
【0012】
加えて、本発明にあっては、望ましくは、前記パイプ部材が、前記天板を貫通して前記接続筒体内に所定長さ入り込んでなる形態において、配設されて、固定せしめられていることとなる。
【0013】
また、かかる本発明において、有利には、前記天板に溢流孔が形成されており、前記注入される液状グラウトが該溢流孔を通じて外部に溢流することによって、かかる液状グラウトの前記接続筒体及び前記既設支柱の連結部における充満状態が判断されるようになっている。
【0014】
さらに、本発明にあっては、好ましくは、前記接続筒体の下端部がシールされて、該接続筒体内に注入される液状グラウトが、外部に漏出しないように構成されている。
【0015】
加えて、本発明の望ましい態様によれば、前記パイプ部材の上端開口部から前記接続筒体内に至るように、注入パイプが挿入されて、該注入パイプを通じて、前記液状グラウトの注入が行われるようになっている。
【0016】
また、本発明にあっては、有利には、前記液状グラウトとして、無収縮モルタルが用いられることとなる。
【0017】
そして、本発明にあっては、上述の如き既設フェンスの再生工法によって有利に実現することの出来る既設フェンスの再生構造をも、その対象とするものであって、それは、所定距離を隔てて地面に配設された複数の基礎上にそれぞれ立設された複数の支柱とそれら支柱間に張設されたネット部材とを含んでなる既設フェンスを、新たなフェンスに再生してなる構造にして、(i)前記既設フェンスにおける既設の支柱を、前記基礎から所定の長さ部分を残してなる形態において切除することによって、形成された既設支柱の連結部と、(ii)該既設支柱の連結部よりも長い長さを有し、該連結部に外挿されて、該連結部に固定せしめられてなる接続筒体と、(iii)該接続筒体の上部に取り付けられて、前記既設支柱上に、前記新たなフェンスの支柱を形成するパイプ部材と、(iv)該接続筒体と該既設支柱の連結部のそれぞれの内部に注入、充満せしめられて、硬化乃至は固化させられることによって形成され、それら接続筒体と既設支柱の連結部とを一体化せしめる液状のグラウトの硬化乃至は固化体と、(v)前記既設支柱上に形成された前記パイプ部材からなる新たな支柱間に張設されてなる新たなネット部材とを、含んで構成されていること特徴とする既設フェンスの再生構造を、その要旨としている。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従う既設フェンスの再生工法にあっては、既に設置されているフェンスの基礎と共に、既設の支柱の一部を有効活用することとして、その既存(既設)の基礎に支持されている既存(既設)の支柱について、その基礎側部分を所定長さ残した状態において切断することにより、連結部を形成せしめ、その連結部に対して、所定の接続筒体を介して新たな支柱を設けて、新たなフェンスを構成するようにしたものであるところから、既存(既設)のフェンスを新たなフェンスに取り替えるに際して、新たな基礎の配設が全く不要となるのであって、これにより、基礎の設置や撤去に基づくところの埋設ケーブルの損傷事故等の発生が効果的に回避され得ることとなるのであり、また、埋蔵文化財区域での作業にあっても、それを安易に行うことが可能となったのである。
【0019】
しかも、既設基礎の有効活用によって、新たな基礎掘削が不要となったことにより、新たなフェンスの取替工事が、安全に且つ効率的に行われ得ることとなると共に、その設置費用のコストダウンにも、有利に寄与し得ることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】既設フェンスの一例を示す斜視説明図である。
【
図2】
図1に示される既設フェンスの基礎及び支柱を部分的に示す拡大側面説明図であって、(a)は、その切断部位を示す説明図であり、(b)は、(a)におけるA-A断面拡大説明図である。
【
図3】既設支柱に対する切断によって形成された連結部に対して、丸パイプを取り付けてなる接続筒体を外挿する形態を示す拡大説明図である。
【
図4】
図3における丸パイプを取り付けてなる接続筒体の断面形態を示す説明図であって、(a)は、
図3におけるB-B断面拡大説明図であり、(b)は、
図3におけるC-C断面拡大説明図である。
【
図5】
図3における丸パイプを取り付けてなる接続筒体についての更なる説明図であって、(a)は、
図4(b)におけるD-D断面説明図であり、(b)は、そのような接続筒体と既設支柱に設けた連結部とのボルト・ナットによる固定に用いられるプレートを示す平面説明図である。
【
図6】既設支柱の連結部に対する接続筒体の固定が完了した状態を示す説明図であって、(a)は、その側面説明図であり、(b)は、(a)におけるE-E断面説明図である。
【
図7】
図6に示される接続筒体の固定状態下において、注入パイプを通じて所定の液状グラウトを注入する形態を示す部分断面説明図である。
【
図8】本発明に従う既設フェンスの再生工法に従って再生されたフェンスの形態を示す説明図であって、(a)は、その正面説明図であり、(b)は、その右側面説明図である。
【
図9】
図8(b)におけるY部(但し、金網を除く)の部分断面拡大説明図である。
【
図10】
図9における接続筒体と既設支柱の連結部との異なる固定部位を示す断面説明図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、
図9におけるF-F断面及びG-G断面の拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0022】
先ず、
図1には、本発明に従う再生工法を有利に適用することの出来る既設フェンスの一例について、その一部が、斜視図の形態において示されている。そこにおいて、既設のフェンス10は、高速道路等の特定領域に関係者以外の人間や動物等が立ち入るのを防止し、交通の安全を確保することに加えて、道路敷地等が不法に占拠されることを未然に防止することを目的とする、立ち入り防止柵として用いられるものであって、所定距離を隔てて地面に配設された複数の基礎12と、それぞれの基礎12上に立設された複数の支柱14と、それら支柱14間に張設されたネット部材である金網16とを含んで、構成されている。
【0023】
具体的には、かかる既設フェンス10において、既設の基礎12は、よく知られているように、コンクリート製のブロック形状乃至は柱状体形状を呈するものであって、その上に一体的に立設される支柱14を確実に支持すべく、地中に所定深さに亘って埋設されてなる形態において、仕切るべき領域の境界に沿って、所定距離を隔てて配設されている。また、支柱14は、一般に、金属製、特に鉄乃至は鋼材質の長尺物であって、ここでは、後述するように、三角形の断面形状を呈するものが用いられている。そして、それら複数の支柱14の上部間や下部間を連結するように、金属製の長尺のL字状ブラケット等からなる上胴縁18a及び下胴縁18bが、それぞれ固設されていると共に、それら支柱14の中間部位に位置するように、少なくとも1本の金属製ワイヤー(ロープ材)20が横架されてなる状態において、従来と同様な金属製の金網16が張架されて、既設フェンス10が、構成されているのである。
【0024】
そして、このような既設のフェンス10は、その経年劣化乃至は老朽化により、また、その設置後における事故や物体の衝突等による変形や損傷によって、フェンスとしての機能を充分に果たし得なくなったときには、新たなフェンスに取り替えることが必要となるのであるが、本発明にあっては、
図1に示される既設フェンス10における健全な基礎12や支柱14の基礎側の所定長さ部分を有効活用して、新たなフェンスを形成するようにしたのである。
【0025】
すなわち、取り替えられるべき既設フェンス10においては、その既設支柱14,14間に張設されている金網16や上下胴縁18a,18b、ワイヤー20が取り除かれると共に、
図2の(a)に示される如く、支柱14が、基礎12側の所定の長さ部分:xを残してなる形態において、点線にて示される切断部位において切断されて、その上側の部分が取り除かれることとなる。なお、支柱14は、
図2(b)に示される如く、二等辺三角断面形状を呈し、且つその三角断面形状の二つの等辺をつなぐ一辺(底辺)に、支柱14の長手方向(ここでは上下方向)に延びるスリット14aが形成されてなる三角筒にて、構成されている。そして、そのような支柱14は、一般に、所定幅の帯状板材を三角形状に折り曲げてなる形態を呈するものであって、その三角形状の一辺に、スリット14aが所定幅で形成されるようになっている。
【0026】
また、そこで、基礎12上に残留する支柱14の連結部22の長さ:xとしては、かかる連結部22に対して一体的に設けられる新たな支柱の高さに応じて、適宜の長さが選定されることとなるが、通常、80mm~300mm程度、好ましくは100mm~200mm程度の長さにおいて、既設支柱14の連結部22が形成されることとなる。更に、かかる連結部22の切断面や表面には、一般に、亜鉛含有エポキシ系塗料等を用いた通常の防食塗装が、施されることとなる。
【0027】
そして、本発明にあっては、そのような基礎12上に残留する既設支柱14の連結部22に対して、
図3に示される如く、かかる連結部22よりも長い長さを有し、且つ
図4(a)より明らかな如く、矩形断面形状を呈する四角筒にて構成される接続筒体24が、外挿せしめられることとなる。
【0028】
すなわち、接続筒体24においては、
図4(a),(b)や
図5(a),(b)からも明らかな如く、その上端開口部が、矩形形状の天板26の溶着によって閉塞されてなると共に、かかる天板26に対して、新たなフェンスの支柱となるパイプ部材としての丸パイプ28が接続筒体24内に所定長さ入り込むように貫通して、溶着によって、取り付けられているのである。また、丸パイプ28は、その内部を接続筒体24内に連通してなる形態において、天板26に溶着固定されている一方、接続筒体24の上端部から上方に所定長さ延び出すようにして、一体的に固定せしめられている。なお、天板26には、
図4の(b)に示されているように、溢流孔26aが貫通して設けられており、この溢流孔26aを通じて、接続筒体24の内部が、外部に連通せしめられるようになっている。
【0029】
また、接続筒体24には、その上下方向(軸方向)の中央部から下方側の部位に、
図4の(a)や
図5の(a)に示されるように、2組のボルト30及びナット32が、上下方向に所定距離を隔てて配設されている。具体的には、ボルト30が、その頭部を接続筒体24内に位置せしめてなる形態において、そしてその脚部が接続筒体24の筒壁を貫通して外方に突出するように、取り付けられていると共に、そのボルト30の外方に突出した脚部に対して、ナット32が螺合せしめられている。そして、2組のボルト30及びナット32を連結するように、
図5の(b)に示される補強プレート34が、そこに設けられた長穴34a,34aにそれぞれのボルト30の脚部を挿通してなる形態において、配設されているのである。
【0030】
さらに、かかる構成の接続筒体24が、既設支柱14の連結部22に対して、
図3の白抜き矢印にて示される如く、外挿するように、差し込まれることによって、接続筒体24に取り付けたボルト30の脚部を、既設支柱14の連結部22におけるスリット14a内に入り込ませて、下方に案内されるようにすると共に、接続筒体24の筒壁内面と補強プレート34との間に、連結部22の三角断面形状の一辺(底辺)が挟まれるようにして、
図6に示される如く、2つのボルト30,30のそれぞれの脚部にナット32,32を螺合せしめて、締め付けることによって、接続筒体24と既設支柱14の連結部22との固定、一体化が行われることとなる。
【0031】
次いで、そのような接続筒体24の既設支柱14の連結部22に対する固定が行われた後、接続筒体24の上端部から上方に延びる丸パイプ28の上端開口部から、
図7に示されるように、注入パイプ36が差し込まれ、その下端開口部が接続筒体24内に位置するようにして、かかる注入パイプ36を通じて、硬化乃至は固化可能な液状のグラウト38が注入され、接続筒体24内と共に、既設支柱14の連結部22内に充満させられる。その後、かかる液状グラウト38が硬化乃至は固化せしめられることにより、それら接続筒体24と既設支柱14の連結部22とが一体化されて、強化せしめられると共に、内部の防錆が図られ得ることとなるのである。ここで、そのような液状のグラウトとしては、セメント系、ガラス系、樹脂系等の、従来から公知の硬化乃至は固化可能な各種材料が適宜に選択使用され得、中でも、本発明においては、無収縮モルタルが、特に好適に採用されることとなる。
【0032】
また、そこでは、注入された液状のグラウト38が、接続筒体24と基礎12との間から外部に漏れ出さないように、かかる接続筒体24の下端部の周囲と基礎12の上面との間には、公知のコーキング材等を用いて、シール40を形成してなる構成が、有利に採用されている。なお、そこにおいて、注入される液状グラウト38が接続筒体24や連結部22内に充満したことは、かかる液状グラウト38が、接続筒体24の上端開口部を覆蓋する天板26に設けた溢流孔26aを通じて、外部に漏れ出すことによって、検知乃至は判断することが可能となるようになっている。
【0033】
さらに、そのような液状グラウト38の注入、充填の後に、注入パイプ36は引き抜かれて、液状グラウト38の硬化乃至は固化が行われ、これによって、接続筒体24と既設支柱14の連結部22との効果的な一体化が実現されることとなるのであり、その後、丸パイプ28にて構成される新たな支柱(14)に対して、従来と同様にして、上胴縁(18a)や下胴縁(18b)、ワイヤー(20)等が取り付けられる一方、新たな支柱(14)間に跨がるようにして、新たなネット部材たる金網(16)が張設されることにより、新たなフェンスとして再生されることとなるのである。
【0034】
従って、このような既設フェンス10の再生工法によれば、既存のフェンス10における健全な基礎12を、そのまま有効に活用すると共に、それに立設された支柱14の基部を所定長さ部分残して、それを連結部22として利用するようにしたことにより、新たな基礎の設置を全く必要とすることなく、新たなフェンスに取り替えることが可能となるところから、埋設ケーブルの損傷事故等の重大な問題や、埋蔵文化財区域における作業手続きの面倒な問題等も、全く回避され得ることとなることは勿論、新たなフェンスの施工性の効率化が有利に図られ得ることとなるのであり、以て、施工コストの低減をも有利に図られ得ることとなる。
【0035】
要するに、
図1に示される如き既設フェンス10は、本発明に従う再生工法によって、
図8の(a)及び(b)に示される如き再生フェンス50として再構成されて、再び、フェンスとしての機能、ここでは、立ち入り防止柵としての機能を効果的に発揮することとなる。即ち、そこでは、既設の支柱14に設けた連結部22に対して、接続筒体24が、
図9に拡大して示されているように、外挿されて、ボルト30及びナット32の2組にて固定されていると共に、それら接続筒体24及び既設支柱14における連結部22の内部には、
図10の(a)及び(b)に示されるように、注入された液状のグラウト(38)によって形成される硬化乃至は固化物52にて充填(充満)されて、一体的な構造となるように、構成されているのである。
【0036】
そして、かくの如くして再生されたフェンス50にあっては、既設支柱14の残存した連結部22に対して、接続筒体24が外挿されて、それら接続筒体24と連結部22とがボルト30及びナット32等からなる所定の固定手段にて固定せしめられてなる状態において、新たな支柱を与える丸パイプ28が接続筒体24に一体的に固定されるようになっているところから、かかる新たな支柱としての丸パイプ28の取付強度は、有利に確保され得ることとなる。
【0037】
しかも、ここでは、接続筒体24に対して、丸パイプ28が、その下部を所定長さ入り込ませてなる形態において、溶着固定されてなる状態下において、硬化乃至は固化可能な液状のグラウト38が注入され、接続筒体24内及び連結部22内にそれぞれ充満せしめられて形成された、硬化乃至は固化体52にて、それら接続筒体24及び連結部22の内部が充填されてなる形態とされていることによって、既設支柱14の連結部22と接続筒体24との間、更には、接続筒体24と丸パイプ28との間の一体化が有利に実現され得て、それらの連結強度が、効果的に向上せしめられ得ているのである。
【0038】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0039】
例えば、例示の既設フェンス10においては、既設支柱14は三角断面形状であり、接続筒体24は矩形断面形状を呈するものであって、それらの形状の組合せによって、両者の連結、一体化が、有利に且つ効果的に行われ得るようになっているのであるが、それら既設支柱14や接続筒体24の断面形状は、適宜に選定され得るところである。例えば、支柱14に関しては、例示の如き二等辺三角断面形状ではなく、不等辺三角断面形状や直角三角断面形状であっても、円形断面形状であっても、更にはH型、L字型、ハット型等の、その他各種の断面形状であっても、何等差し支えなく、また接続筒体24においても、同様に、適宜の筒状形状を選択することが可能である。
【0040】
また、既設支柱14における連結部22と接続筒体24との固定構造にあっても、ボルト30及びナット32による固定構造の他にも、ボルトによる螺着やネジの螺入による固定等の、公知の各種の固定構造を採用することが可能であり、また、その固定構造において、補強プレート34の使用は有効ではあるものの、そのような補強プレート34を使用しなくても、連結部22と接続筒体24との固定は可能である。
【0041】
さらに、接続筒体24に対して、丸パイプ28の如きパイプ部材を取り付けるに際しても、例示の構造とは異なり、丸パイプ28の下端部を天板26に溶接してなる構造(丸パイプ28の下部を接続筒体24内に所定長さ入り込ませない形態)を採用することも可能である。なお、そのようなパイプ部材としては、例示の如き円形断面の丸パイプ28に代えて、他の断面形状を有するものを用いることも可能であることは、言うまでもないところである。
【0042】
更にまた、ここで用いられる接続筒体24や丸パイプ28、天板26、補強プレート34の材質としては、公知の各種の材質の中から適宜に選択されるところであるが、一般に金属製、中でも鉄乃至は鋼材質が、有利に採用されることとなる。
【0043】
加えて、例示の実施形態においては、ネット部材として、金網16が用いられており、本発明においては、そのような金網16の使用が一般的ではあるが、隣接する支柱14,14間に張設乃至は架設される公知のものが、何れも、フェンスの使用目的に応じて適宜に採用可能である。
【0044】
なお、本発明の対象とするフェンスについて、例示の実施形態では、立ち入り防止柵について説明してきたが、これに限定されるものではなく、落石、雪崩、崩落土砂等を対象とした防護柵や、住宅、工場、運動場等の外柵等の他のフェンスも対象とすることが可能である。
【0045】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
【符号の説明】
【0046】
10 フェンス 12 基礎
14 支柱 14a スリット
16 金網 18a 上胴縁
18b 下胴縁 20 ワイヤー
22 連結部 24 接続筒体
26 天板 26a 溢流孔
28 丸パイプ 30 ボルト
32 ナット 34 補強プレート
34a 長穴 36 注入パイプ
38 液状グラウト 40 シール
50 再生フェンス 52 硬化乃至は固化物
【要約】
【課題】既設フェンスの、安全且つ効率的で、経済的に有利な再生工法及び再生構造を提供する。
【解決手段】既設フェンスの支柱14を、基礎12から所定の長さ部分を残して切除して連結部22を形成すると共に、既設支柱14間に張設されている金網を取り除いた後、新たなフェンスの支柱となる丸パイプ28を取り付けてなる接続筒体24を、かかる連結部22に外挿し、それらをボルト30とナット32によって固定せしめて新たな支柱を立設し、更に液状グラウトを接続筒体24内や連結部22内に充満させて、硬化乃至は固化せしめることにより、それら接続筒体24と連結部22とを一体化させた後、丸パイプ28からなる新たな支柱間に、新たな金網等を張設して、新たなフェンスとして再生するようにした。
【選択図】
図3