(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】炉構造体及びこれに用いる耐火物
(51)【国際特許分類】
F27D 1/00 20060101AFI20230803BHJP
F23J 7/00 20060101ALI20230803BHJP
F23G 5/44 20060101ALI20230803BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
F27D1/00 D
F23C99/00 317
F23G5/44 D
F27D7/02 Z
(21)【出願番号】P 2022204577
(22)【出願日】2022-12-21
【審査請求日】2023-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(73)【特許権者】
【識別番号】592187796
【氏名又は名称】株式会社ナリタテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼谷 貴央
(72)【発明者】
【氏名】江口 文康
(72)【発明者】
【氏名】岩松 茂雄
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-049685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00-21/14
F27D 1/00- 1/18
F23C 99/00
F23G 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であって、
炉内壁の表面に線状又は穴状の炉内壁凹部を有しており、
前記線状の炉内壁凹部の横断面における前記炉内壁凹部の表面が放物曲線を有しており、
前記穴状の炉内壁凹部の表面がパラボラ形状を有していること、
を特徴とする炉構造体。
【請求項2】
炉床の表面に線状又は穴状の炉床凹部を有し、
前記線状の炉床凹部の横断面における前記炉床凹部の表面が放物曲線を有しており、
前記穴状の炉床凹部の表面がパラボラ形状を有していること、
を特徴とする請求項
1に記載の炉構造体。
【請求項3】
凹部の形成によって得られる炉内表面積をS1、前記凹部がない場合の炉内表面積をS0とした場合、1.0<S1/S0≦10.0となること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炉構造体。
【請求項4】
少なくとも一つの前記線状の炉内壁凹部について、長手方向が鉛直下向き又は角度を持った下向き方向に形成されていること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炉構造体。
【請求項5】
前記線状の炉内壁凹部の深さが0.1~20mmであり、
前記炉内壁の表面における前記線状の炉内壁凹部の幅が1~50mmであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炉構造体。
【請求項6】
前記穴状の炉内壁凹部の深さが0.1~20mmであり、
前記炉内壁の表面における前記穴状の炉内壁凹部の直径が1~100mmであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炉構造体。
【請求項7】
前記炉内壁凹部の間隔が1~50mmであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炉構造体。
【請求項8】
前記線状の炉内壁凹部が升目状又は平行四辺形状に形成されていること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炉構造体。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の炉構造体に使用される耐火物であって、
前記耐火物の表面に線状又は穴状の凹部を有しており、
前記線状の凹部の横断面における前記凹部の表面が放物曲線を有しており、
前記穴状の凹部の表面がパラボラ形状を有していること、
を特徴とする耐火物。
【請求項10】
前記凹部の深さが0.1~20mmであり、
前記耐火物の表面における前記凹部の幅が1~50mmであること、
を特徴とする請求項
9に記載の耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体及び当該炉構造体に用いる耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用によるCO2の排出が問題となっており、燃焼してもCO2を排出しない水素やアンモニアを燃料とする燃焼炉が注目されている。水素は燃焼速度及び火炎温度が高いため、高温が必要とされる設備に適しており、アンモニアは燃焼速度及び火炎温度が低いため、直接点火や直接燃焼させることが可能である。
【0003】
しかしながら、水素及びアンモニアを燃焼炉の燃料とする場合、熱輻射が小さいという共通した課題が存在する。非化石燃料である水素及びアンモニアは燃焼過程での炎色が薄く(ほぼ透明に近い)、化石燃料の燃焼炎色と比較して熱輻射が小さくなる。
【0004】
これに対し、炉の熱輻射を増大させる構造としては、例えば、特許文献1(特開2011-038683号公報)において、「耐火材で構成した断熱材を内張りして成る加熱室を備え、炉入口から搬入した金属ストリップを該加熱室でヒータにより加熱した後、冷却室を通過させて炉出口から搬出することで連続焼鈍する金属ストリップの横型連続焼鈍炉において、前記加熱室の上部にセラミックスから成る支持板を横設して、該支持板よりも上側の天井空間と下側の加熱空間とに区画し該支持板の上面に前記ヒータとして電熱線から成る電気ヒータを該上面に沿って横向きに波打形状をなす状態に設置し、該電気ヒータで加熱された該支持板からの輻射熱を、下方を通過する金属ストリップに当てて加熱するようになしてあることを特徴とする金属ストリップの横型連続焼鈍炉」が提案されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の横型連続焼鈍炉においては、支持板上面に設置した電気ヒータからの熱を、セラミックス板から成る支持板を介して下方の金属ストリップに当て、これを加熱することができ、支持板上面の電気ヒータは波打面が金属ストリップと平行方法の面となるため、支持板を介して電気ヒータからの熱を効率高く金属ストリップに当てることができる、とされている。
【0006】
また、特許文献2(特開2004-144459号公報)においては、「外熱式ロータリーキルンを用いて、被処理物を乾燥、焼成、焼却する場合、炉芯管内部に波板形状のジャバラ板を保持管の周囲に複数配置し、炉芯管の長手方向には、ジャバラ板に複数の穴があいていることを特徴とする外熱式ロータリーキルン」が提案されている。
【0007】
上記特許文献2に記載の外熱式ロータリーキルンにおいては、炉芯管内部に設けられた波形状のジャバラ板による被処理物の攪拌効果の増大、受熱面積の大幅な増大による効果により品質の均一な製品を得ることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-038683号公報
【文献】特開2004-144459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている横型連続焼鈍炉及び特許文献2に記載されている外熱式ロータリーキルンは非化石燃料である水素及びアンモニアを燃料とすることを想定しておらず、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体への適用は全く検討されていない。加えて、特許文献1に記載の横型連続焼鈍炉ではセラミックスからなる支持板や電気ヒータ、特許文献2に記載の外熱式ロータリーキルンでは波形状のジャバラ板が必要であり、炉内の構造が複雑化してしまう。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であって、熱輻射の増大を効率的に達成でき、追加の構成部材等を必要としない簡便かつ安価な炉構造体を提供することにある。また、本発明は、当該炉構造体に好適に用いることができる耐火物を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、炉構造体及び当該炉構造体に用いる耐火物について鋭意研究を重ねた結果、炉内壁の表面に適当な表面形状を有する線状又は穴状の炉内壁凹部を形成すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であって、
炉内壁の表面に線状又は穴状の炉内壁凹部を有していること、
を特徴とする炉構造体、を提供する。
炉内壁の線状又は穴状の凹部によって輻射熱が増大され、水素又はアンモニア系のガス又は液体を燃料とする場合であっても、炉内温度を高温に維持することができる。
【0013】
本発明の炉構造体においては、表面が放物曲線を有する線状の炉内壁凹部又は表面がパラボラ形状を有する穴状の炉内壁凹部が形成されていることが好ましい。当該形状の凹部によって、熱輻射を極めて効率的に増大させることができる。ここで、裏張りの形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の形状とすることができるが、炉材表面に付着した水を効率的に除去するための溝を設けることが好ましい。
【0014】
また、本発明の炉構造体においては、
炉床の表面に線状又は穴状の炉床凹部を有し、
前記線状の炉床凹部の横断面における前記炉床凹部の表面が放物曲線を有しており、
前記穴状の炉床凹部の表面がパラボラ形状を有していること、が好ましい。
【0015】
表面が放物曲線を有する線状の炉床凹部又は表面がパラボラ形状を有する穴状の炉床凹部が形成されていることで、熱輻射をより効率的に増大させることができる。
【0016】
また、本発明の炉構造体においては、凹部の形成によって得られる炉内表面積をS1、前記凹部がない場合の炉内表面積をS0とした場合、1.0<S1/S0≦10.0となること、が好ましい。S1/S0を1.0より大きくすることで熱輻射を増大させる効果を得ることができる。また、S1/S0を10.0以下とすることで、炉壁全体の強度及び耐久性の低下を抑制することができる。より具体的は、1.0<S1/S0≦1.2の場合、炉内表面積の変化が小さく、昇温時における熱輻射の増大は顕著ではないが、炉内温度が高温域に到達すると発熱体の光量がより支配的となり、一定の輻射効果が発現する。また、1.2<S1/S0≦10.0の場合、昇温時からの熱輻射の増大及び炉内温度の均質化を得ることができる。
【0017】
また、本発明の炉構造体においては、少なくとも一つの前記線状の炉内壁凹部について、長手方向が鉛直下向き又は角度を持った下向き方向に形成されていること、が好ましい。線状の炉内壁凹部の長手方向が鉛直下向き又は角度を持った下向き方向に形成されていることで、炉内壁の表面に凝縮した水の流下を促進することができる。
【0018】
また、本発明の炉構造体においては、炉内壁に用いる耐火物の厚さをtとした場合、炉内壁凹部の深さTが「0<T≦3/4t」を満たすことが好ましい。より具体的には、前記線状の炉内壁凹部の深さが0.1~20mmであり、前記炉内壁の表面における前記線状の炉内壁凹部の幅が1~50mmであること、が好ましい。炉内壁凹部の深さを0.1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該深さを20mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、炉内壁凹部の幅を1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該幅を50mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の炉構造体においては、前記線状の炉内壁凹部が升目状又は平行四辺形状に形成されていること、が好ましい。平行四辺形状とは、升目状において、線状の炉内壁凹部が直角に交わっていない場合を意味している。線状の炉内壁凹部を升目状又は平行四辺形状に形成することで、炉内壁に凹部を均等に配置することができ、炉内における温度分布の形成を抑制することができることに加えて、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【0020】
また、本発明は、
本発明の炉構造体に使用される耐火物であって、
前記耐火物の表面に線状又は穴状の凹部を有していること、
を特徴とする耐火物、も提供する。
【0021】
本発明の耐火物は表面に線状又は穴状の凹部を有し、線状の凹部の横断面における当該凹部の表面が放物曲線を有しており、穴状の凹部の表面がパラボラ形状を有していることが好ましい。当該耐火物を組み合わせることによって、本発明の炉構造体を製造することができる。
【0022】
本発明の耐火物においては、耐火物の厚さをtとした場合、凹部の深さTが「0<T≦3/4t」を満たすことが好ましい。より具体的には、前記凹部の深さが0.1~20mmであり、前記耐火物の表面における前記凹部の幅が1~50mmであること、が好ましい。炉内壁凹部の深さを0.1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該深さを20mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、炉内壁凹部の幅を1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該幅を50mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であって、熱輻射の増大を効率的に達成でき、追加の構成部材等を必要としない簡便かつ安価な炉構造体を提供することができる。また、本発明によれば、当該炉構造体に好適に用いることができる耐火物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の炉構造体における炉内壁の概略図である(線状の炉内壁凹部のみを有する場合)。
【
図2】本発明の炉構造体における炉内壁の概略図である(穴状の炉内壁凹部のみを有する場合)。
【
図3】本発明の炉構造体における炉内壁の概略図である(線状及び穴状の炉内壁凹部を有する場合)。
【
図4】本発明の炉構造体における炉内壁の概略図である(升目状の炉内壁凹部を有する場合)。
【
図5】本発明の耐火物の概略図である(線状の凹部のみが形成されている場合)。
【
図6】本発明の耐火物の概略図である(穴状の凹部のみが形成されている場合)。
【
図7】本発明の耐火物の概略図である(線状及び穴状の凹部が形成されている場合)。
【
図8】本発明の耐火物の概略図である(線状の凹部が垂直に形成されていない場合)。
【
図9】本発明の耐火物の概略図である(垂直でない線状の凹部と楕円又は歪な穴状の凹部が重畳して形成されている場合)。
【
図10】本発明の耐火物の概略図である(楕円又は歪な穴状の凹部のみが形成されている場合)。
【
図11】本発明の耐火物の概略図である(垂直でない線状の凹部と楕円又は歪な穴状の凹部が重畳することなく形成されている場合)。
【
図12】本発明の耐火物の概略図である(線状の凹部のみが平行に形成されている場合)。
【
図13】本発明の耐火物の概略図である(平行に形成された線状の凹部と穴状の凹部が存在する場合)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の炉構造体及び当該炉構造体に用いる耐火物の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0026】
1.炉構造体
本発明の炉構造体は、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であり、主に水素又はアンモニア系のガス又は液体を燃料とするガスバーナーによる燃焼が熱源となる燃焼炉に使用される。特に、1000℃以上の高温域について、燃焼熱のみで炉内温度を維持することは困難であり、省エネの観点からも問題がある。本発明の炉構造体は、炉内壁にパラボラ状の溝又は窪みを追加することで、水素又はアンモニア系のガス又は液体を燃料とする場合においても輻射熱の向上及び有効利用によって高温域を効率よく維持することができる。以下、炉構造体の形状や各構成要素等について詳細に説明する。
【0027】
本発明の炉構造体における代表的な炉内壁の概略図を
図1~
図3に示す。
図1は線状の炉内壁凹部のみが設けられた場合、
図2は穴状の炉内壁凹部のみが設けられた場合、
図3は線状の炉内壁凹部と穴状の炉内壁凹部が共に設けられた場合である。
【0028】
図1では、炉内壁2の表面に線状の炉内壁凹部4が形成されている。炉内壁2は炉構造体の側面壁、床面及び天井に用いることができ、線状の炉内壁凹部4が連続的に形成されていることが好ましい。例えば、側面壁の炉内壁凹部4と床面の炉内壁凹部4と天井の炉内壁凹部4を連続的に形成することで、熱輻射を増大させる効果が効率的に発現する構成とすることができる。
【0029】
線状の炉内壁凹部4の横断面において、当該凹部の表面は放物曲線を有している。表面が放物曲線を有する線状の炉内壁凹部4が形成されていることで、熱輻射を極めて効率的に増大させることができる。更に、床面や天井にも線状の炉内壁凹部4が形成され、これらの凹部が連なるように配置されていることで、側面壁から流入した水を効率的に排除することができる。
【0030】
側面壁に形成された線状の炉内壁凹部4、床面に形成された線状の炉内壁凹部4及び天井に形成された線状の炉内壁凹部4の位置関係は特に限定されないが、これらの炉内壁凹部4を連続的に形成させることで、熱輻射を増大させる効果及び水の除去を促進させる効果が効率的に発現させることができる。
【0031】
また、線状の炉内壁凹部4の深さは0.1~20mm、炉内壁2の表面における線状の炉内壁凹部4の幅は1~50mmであることが好ましい。線状の炉内壁凹部4の深さを0.1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該深さを20mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、線状の炉内壁凹部4の幅を1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該幅を50mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【0032】
線状の炉内壁凹部4の配列方向は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、水平方向に配列してもよい。線状の炉内壁凹部4を水平方向に配列した場合、水を排除する効果は低減されるが、熱輻射を増幅する効果は十分に発現させることができる。しかしながら、少なくとも一つの線状の炉内壁凹部4について、長手方向が鉛直下向き又は角度を持った下向き方向に形成されていることが好ましい。線状の炉内壁凹部4の長手方向が鉛直下向き又は角度を持った下向き方向に形成されていることで、炉内壁2の表面に凝縮した水の流下を促進することができる。
【0033】
また、線状の炉内壁凹部4は升目状又は平行四辺形状に形成されていることが好ましい。平行四辺形状とは、升目状において、線状の炉内壁凹部4が直角に交わっていない場合を意味している。線状の炉内壁凹部4を升目状又は平行四辺形状に形成することで、炉内壁2に凹部を均等に配置することができ、炉内における温度分布の形成を抑制することができることに加えて、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
図4に線状の炉内壁凹部4が升目状に形成された場合の炉構造体における内壁の概略図を示す。
【0034】
線状の炉内壁凹部4を平行に配列する場合、線状の炉内壁凹部4同士の間隔は1~15mmとすることが好ましい。当該間隔を1mm以上とすることで炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、当該間隔を15mm以下とすることで、線状の炉内壁凹部4が密に配列され、熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができる。更に、床面や天井にも線状の炉内壁凹部4が形成され、これらの凹部が連なるように配置されていることで、側面壁から流入した水を効率的に排除することができる。
【0035】
図2では、炉内壁2の表面に穴状の炉内壁凹部6が形成されている。穴状の炉内壁凹部6が形成されていることで、熱輻射を増大させる効果が発現する構成となっており、特に、
図2に示す実施態様においては、熱輻射を効率的に増大させることができる。穴状の炉内壁凹部6の数や位置は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、任意の数及び位置とすればよい。
【0036】
穴状の炉内壁凹部6はクレーター状の窪みであり、パラボラ形状となっている。穴状の炉内壁凹部6の深さは0.1~20mmであることが好ましい。また、炉内壁2の表面における穴状の炉内壁凹部6の直径は1~100mmであることが好ましく、1~50mmであることがより好ましい。穴状の炉内壁凹部6の深さを0.1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該深さを20mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、穴状の炉内壁凹部6の直径を1mm以上とすることで熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該直径を100mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【0037】
穴状の炉内壁凹部6の場所及び数は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、炉の形状、サイズ及び使用温度等の観点から適宜決定すればよい。
【0038】
図3では、炉内壁2の表面に線状の炉内壁凹部4及び穴状の炉内壁凹部6が形成されている。線状の炉内壁凹部4及び穴状の炉内壁凹部6が共に形成されていることで、熱輻射を増大させる効果の発現をより精緻に制御することができる。線状の炉内壁凹部4及び穴状の炉内壁凹部6の数や位置は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、任意の数及び位置とすればよい。また、床面や天井にも線状の炉内壁凹部4が形成され、これらの凹部が連なるように配置されていることで、側面壁から流入した水を効率的に排除することができる。
【0039】
図1~
図4に示す実施態様に共通して、凹部の形成によって得られる炉内表面積をS1、前記凹部がない場合の炉内表面積をS0とした場合、1.0<S1/S0≦10.0となることが好ましい。S1/S0を1.0より大きくすることで熱輻射を増大させる効果を得ることができる。また、S1/S0を10.0以下とすることで、炉壁全体の強度及び耐久性の低下を抑制することができる。より具体的は、1.0<S1/S0≦1.2の場合、炉内表面積の変化が小さく、昇温時における熱輻射の増大は顕著ではないが、炉内温度が高温域に到達すると発熱体の光量がより支配的となり、一定の輻射効果が発現する。また、1.2<S1/S0≦10.0の場合、昇温時からの熱輻射の増大及び炉内温度の均質化を得ることができる。
【0040】
一方で、輻射熱は炉内壁2の表面積を増大させることで一定量増加させることができるが、表面積の増加のみでは熱輻射が十分に発現しない。入射する熱光線を炉壁が効果的に吸熱し、輻射を発現させるため、又は熱光線を反射させるためには、炉内壁2の表面にパラボラ状の溝又は窪みが形成されていることが極めて重要である。
【0041】
1000℃以上の高温域を維持した状態において、炉壁の表面温度を放射温度計で測温することで、線状の炉内壁凹部4や穴状の炉内壁凹部6が形成されていない通常の炉内壁(加工のない炉内壁)を有する炉構造体と本発明の炉構造体との差を評価することができる。輻射の全エネルギーは、ステファン・ボルツマンの法則を用いて比較することができる。
【0042】
本発明の炉構造体の全体構成の一態様について、炉内の最内部(1層目)を純アルミナ系耐火れんが、炉内壁の2層目を純アルミナ系耐火断熱れんが、炉内壁の3層目をアルミナ系断熱れんがとし、炉内壁の4層目が必要な場合は断熱れんがを用いることができる。
【0043】
これらの1層目~4層目のれんがについて、炉内中心方向を向く面に溝幅1~50mm、深さ0.1~20mm、溝間ピッチ1~100mmの縦方向又は鉛直に近い方向の溝を形成する。ここで、1層目は主に輻射熱の増大を目的にパラボラ形状の溝(線状の炉内壁凹部4や穴状の炉内壁凹部6)を形成させる。裏張り(2層目~4層目)には単純形状の溝(凹形状又はU字形状)を形成することで、凝集した水分の流下を促進することができる。
【0044】
また、大板を含む異形れんがを使用することで、継ぎ目のない配置が可能となり、溝加工の作用効果をより確実に得ることができる。
【0045】
2.耐火物
本発明の耐火物は、本発明の炉構造体に使用される耐火物であって、耐火物の表面に線状又は穴状の凹部を有し、線状の凹部の横断面における凹部の表面が放物曲線を有しており、穴状の凹部の表面がパラボラ形状を有していること、を特徴とする耐火物である。表面をパラボラ形状とすることで、入射する全ての直線状の波を反射し、中心線に集中させることができる。その結果、非化石燃料の燃焼による輻射効果を大幅に向上させることができる。
【0046】
本発明の耐火物について、線状の凹部のみが形成されている場合の概略図を
図5に示す。耐火物10における線状の凹部12の深さは0.1~20mmであり、耐火物10の表面における凹部の幅は1~50mmであることが好ましい。線状の凹部12の深さを0.1mm以上とすることで、炉内壁2として使用された際に、熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該深さを20mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、線状の凹部12の幅を1mm以上とすることで、炉内壁2として使用された際に、熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該幅を50mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【0047】
ここで、例えば、パラボラ形状(f(x)=2x2の曲線)の線状の凹部12を、並れんがの側面(230mm×114mm面)に5mm幅で10本形成させた場合、表面の曲線長は25.87mmとなり、5倍以上の長さ(≒表面積)を稼ぐことができる。
【0048】
一方で、輻射熱は炉壁の表面積を増大させることで一定量増加させることができるが、表面積の増加のみでは熱輻射が十分に発現しない。入射する熱光線を炉壁が効果的に吸熱し、輻射を発現させるため、又は熱光線を反射させるためには、耐火物10の表面にパラボラ状の溝又は窪みが形成されていることが極めて重要である。
【0049】
本発明の耐火物について、穴状の凹部のみが形成されている場合の概略図を
図6に示す。耐火物10における穴状の凹部14の深さは0.1~20mmであることが好ましい。また、耐火物10の表面における凹部の直径は1~100mmであることが好ましく、1~50mmであることがより好ましい。穴状の凹部14の深さを0.1mm以上とすることで、炉内壁2として使用された際に、熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該深さを20mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。また、穴状の凹部14の直径を1mm以上とすることで、炉内壁2として使用された際に、熱輻射を増大させる効果をより確実に得ることができ、当該直径を100mm以下とすることで、炉内壁構造の強度及び信頼性の低下を抑制することができる。
【0050】
本発明の耐火物について、線状の凹部12及び穴状の凹部14が共に形成されている場合の概略図を
図7に示す。線状の凹部12及び穴状の凹部14が共に形成されていることで、熱輻射を増大させる効果の発現をより精緻に制御することができる。線状の凹部12及び穴状の凹部14の数や位置は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、任意の数及び位置とすればよい。また、各凹部の形状、サイズ及び配置については、線状の凹部12及び穴状の凹部14の何れか一方のみを形成させる場合と同様である。
【0051】
本発明の耐火物について、線状の凹部12が垂直に形成されていない場合の概略図を
図8、垂直でない線状の凹部12と楕円又は歪な穴状の凹部14が重畳して形成されている場合の概略図を
図9、楕円又は歪な穴状の凹部14のみが形成されている場合の概略図を
図10、垂直でない線状の凹部12と楕円又は歪な穴状の凹部14が重畳することなく形成されている場合の概略図を
図11、にそれぞれ示す。これらの耐火物における線状の凹部12及び穴状の凹部14の特徴は、
図5~
図7の場合と同様である。また、これらの耐火物についても、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いた場合、熱輻射の増大を効率的に達成することができる。
【0052】
本発明の耐火物について、線状の凹部12が耐火物の長手方向に対して平行に形成されている場合の概略図を
図12に示す。また、平行に形成された線状の凹部12に加えて穴状の凹部14が形成された場合の概略図を
図13に示す。これらの耐火物における線状の凹部12及び穴状の凹部14の特徴は、
図5~
図7の場合と同様である。また、線状の凹部12が平行に形成されたこれらの耐火物についても、水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いた場合、熱輻射の増大を効率的に達成することができる。
【0053】
図5~
図13に示す耐火物10において、材質は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、炉内壁用の耐火物として従来公知の種々の材質とすることができる。ここで、耐火物10の表面の色味について、輻射効果を最大化する観点からは、耐火物10に蓄熱する黒系よりも反射しやすい白系とすることが好ましい。また、耐火物10の形状及び大きさも本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、任意の形状及び大きさとすることができる。また、耐火物10には線状の凹部と穴状の凹部が共に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
2・・・炉内壁、
4・・・線状の炉内壁凹部、
6・・・穴状の炉内壁凹部、
10・・・耐火物、
12・・・線状の凹部、
14・・・穴状の凹部。
【要約】
【課題】水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であって、熱輻射の増大を効率的に達成でき、追加の構成部材等を必要としない簡便かつ安価な炉構造体を提供する。また、当該炉構造体に好適に用いることができる耐火物を提供する。
【解決手段】水素燃焼炉又はアンモニア燃焼炉に用いる炉構造体であって、炉内壁の表面に線状又は穴状の炉内壁凹部を有していること、を特徴とする炉構造体。線状の炉内壁凹部の横断面における炉内壁凹部の表面が放物曲線を有しており、穴状の炉内壁凹部の表面がパラボラ形状を有していることが好ましい。
【選択図】
図1