(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】緩衝材、枕、マットレス、椅子、及びプロテクター
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20230803BHJP
A47C 27/15 20060101ALI20230803BHJP
B68G 7/06 20060101ALI20230803BHJP
A47C 7/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
A47G9/10 B
A47C27/15 D
B68G7/06 Z
A47C7/00 C
(21)【出願番号】P 2019086138
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】武田 理
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-154965(JP,A)
【文献】特表2013-536774(JP,A)
【文献】特開昭62-102710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A27C 27/12
B68G 7/06
A47C 27/15
A47C 7/00
A47G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の指標値により力学的な特性が表される第1の領域と、
上記第1の指標値より大きな第2の指標値により力学的な特性が表される第2の領域と、
上記第1の領域と上記第2の領域との間に介在し、上記第1の指標値より大きく上記第2の指標値より小さい第3の指標値により力学的な特性が表される境界領域と、を備えており、且つ、一体構造であ
り、
上記第1の領域、上記第2の領域、及び上記境界領域の各々は、それぞれ、弾性体からなる3次元ネットワーク構造を有し、
上記第1の領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第1のパターン、上記第2の領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第2のパターン、及び、上記境界領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第3のパターンの各々は、何れも、ラティスパターンであり、
上記第1のパターンの格子定数は、第1の格子定数であり、
上記第2のパターンの格子定数は、上記第1の格子定数より小さい第2の格子定数であり、
上記境界領域は、上記第1の格子定数を有するパターンと、上記第2の格子定数を有するパターンとが混合されてなり、
上記境界領域における上記第1の格子定数を有するパターンに対する上記第2の格子定数を有するパターンの割合は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって大きくなっている、
ことを特徴とする緩衝材。
【請求項2】
第1の指標値により力学的な特性が表される第1の領域と、
上記第1の指標値より大きな第2の指標値により力学的な特性が表される第2の領域と、
上記第1の領域と上記第2の領域との間に介在し、上記第1の指標値より大きく上記第2の指標値より小さい第3の指標値により力学的な特性が表される境界領域と、を備えており、且つ、一体構造であり、
上記第1の領域、上記第2の領域、及び上記境界領域の各々は、それぞれ、弾性体からなる3次元ネットワーク構造を有し、
上記第1の領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第1のパターン、上記第2の領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第2のパターン、及び、上記境界領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第3のパターンの各々は、何れも、ボロノイパターンであり、
上記第1のパターンにおける各母点間の距離の平均値は、第1の距離であり、上記第2のパターンにおける各母点間の距離の平均値は、上記第1の距離より短い第2の距離であり、
上記第3のパターンにおける各母点間の距離の平均値は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって短くなっている、
ことを特徴とする緩衝材。
【請求項3】
上記第3の指標値は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって大きくなっている、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の緩衝材。
【請求項4】
上記3次元ネットワーク構造は、各々が軸状部材である複数のステムと、各々が複数のステムの端部同士を接合している複数の結節部と、により構成されており、
上記第1の領域の3次元ネットワーク構造を構成する各ステムの径の平均値は、第1の径であり、
上記第2の領域の3次元ネットワーク構造を構成する各ステムの径の平均値は、上記第1の径とは異なる第2の径であり、
上記境界領域の3次元ネットワーク構造を構成する各ステムの径は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって、上記第1の径から上記第2の径に変化している、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の緩衝材。
【請求項5】
ユーザの身体をサポートする部分が上記請求項1~
4の何れか1項に記載の緩衝材により構成されている、
ことを特徴とする枕。
【請求項6】
ユーザの身体をサポートする部分が上記請求項1~
4の何れか1項に記載の緩衝材により構成されている、
ことを特徴とするマットレス。
【請求項7】
ユーザの身体をサポートする部分が上記請求項1~
4の何れか1項に記載の緩衝材により構成されている、
ことを特徴とする椅子。
【請求項8】
アウターと、該アウターの内側に配置されたパットとを備え、
上記パットは、上記請求項1~
4の何れか1項に記載の緩衝材を含んでいる、
ことを特徴とするプロテクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝材及び該緩衝材を備えた枕、マットレス、椅子、及びプロテクターに関する。
【背景技術】
【0002】
私たちが身の回りで利用している製品には、様々なタイプの緩衝材が用いられている。緩衝材のタイプとしては、発泡樹脂を採用したタイプや、ゲルを採用したタイプや、エアバッグを採用したタイプなどが挙げられる。また、緩衝材を備えた製品の例としては、寝具である枕及びマットレスや、椅子や、プロテクターや、シューズなどが挙げられる。このような製品に用いられている緩衝材は、ユーザの身体にフィットすることによってサポート性を向上させたり、ユーザの身体に掛かり得る衝撃を軽減させたりすることを主な目的にしている。
【0003】
このような緩衝材に対しては、領域毎に力学的な特性(以下において単に特性とも称する)を異ならせたいという要望がある。
【0004】
例えば、発泡樹脂製の緩衝材においては、特性が互いに異なる発泡樹脂により構成されている第1部材及び第2部材を別個に形成し、第1部材と第2部材とを接合することによって、領域毎に特性を異ならせることができる。また、ゲル又は空気を充填したバッグを採用した緩衝材においても、同様の方法により領域毎に特性を異ならせることができる。
【0005】
また、特許文献1には、樹脂製の3次元メッシュにより構成されたシューズのミッドソールであって、ミッドソールのある方向(例えば長手方向)において3次元メッシュの結節点の価数を変化させたミッドソールが記載されている。3次元メッシュの結節点の価数を変化させることによって、領域毎に特性を異ならせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2018/0271211号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した何れの緩衝材においても、特性が互いに異なる領域同士の境界において特性が急激に変化する。そのため、緩衝材を備えた製品を利用しているユーザは、その特性の変化を違和感として感じる場合がある。
【0008】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、力学的な特性が互いに異なる複数の領域を含む緩衝材であって、領域同士の境界において生じ得る違和感を緩和可能な緩衝材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る緩衝材は、第1の指標値により力学的な特性が表される第1の領域と、上記第1の指標値より大きな第2の指標値により力学的な特性が表される第2の領域と、上記第1の領域と上記第2の領域との間に介在し、上記第1の指標値より大きく上記第2の指標値より小さい第3の指標値により力学的な特性が表される境界領域と、を備えており、且つ、一体構造である。
【0010】
上記の構成によれば、互いに異なる力学的な特性を有する第1の領域と第2の領域との間に、上記第1の指標値より大きく上記第2の指標値より小さい第3の指標値により力学的な特性が表される境界領域が介在するため、第1の領域と第2の領域との境界において生じ得る力学的な特性の不連続性を緩和することができる。
【0011】
また、上記の構成によれば、第1の領域と、第2の領域と、境界領域と、が一体構造であるため、第1の領域と境界領域との間には接合面が存在せず、境界領域と第2の領域との間にも接合面が存在しない。そのため、このような接合面に起因する違和感が生じることもない。
【0012】
したがって、本緩衝材は、第1の領域と第2の領域との境界において生じ得る違和感を緩和することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記第3の指標値は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって大きくなっている、ことが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、境界領域の第1の端面から境界領域の第2の端面に近づくにしたがって、第3の指標値が大きくなっているため、第1の領域と第2の領域との境界において生じ得る違和感を確実に緩和することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記力学的な特性は、弾性である、ことが好ましい。
【0016】
ユーザは、このような緩衝材を用いた製品を利用する場合に、弾性が不連続に変化する領域があると、違和感を感じやすい。したがって、上記の構成によれば、ユーザが感じ得る違和感を効果的に緩和することができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記第1の領域、上記第2の領域、及び上記境界領域の各々は、それぞれ、弾性体からなる3次元ネットワーク構造を有し、上記第1の領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第1のパターンは、ラティスパターン又はボロノイパターンであり、上記第2の領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第2のパターン、及び、上記境界領域の3次元ネットワーク構造を構成するパターンである第3のパターンの各々は、何れも、上記第1のパターンと同じパターンである、ことが好ましい。
【0018】
本願発明において、第1のパターン、第2のパターン、及び第3のパターンの具体例としては、上述のようにラティスパターン及びボロノイパターンが挙げられる。上記の構成によれば、第1のパターン、第2のパターン、及び第3のパターンの何れもが同じパターンであるため、境界領域の力学的な特性を、第1の端面から第2の端面に近づくにしたがって、上記第1の領域の力学的な特性から上記第2の領域の上記力学的な特性に変化させることが容易である。
【0019】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記第1のパターン、上記第2のパターン、及び、上記第3のパターンの各々は、何れも、ラティスパターンであり、上記第1のパターンの格子定数は、第1の格子定数であり、上記第2のパターンの格子定数は、上記第1のサイズより小さい第2の格子定数であり、上記第3のパターンの格子定数は、上記第1の端面から上記第2の端面に近づくにしたがって小さくなっている、構成を採用してもよい。
【0020】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記第1のパターン、上記第2のパターン、及び、上記第3のパターンの各々は、何れも、ラティスパターンであり、上記第1のパターンの格子定数は、第1の格子定数であり、上記第2のパターンの格子定数は、上記第1の格子定数より小さい第2の格子定数であり、上記境界領域は、上記第1の格子定数を有するパターンと、上記第2の格子定数を有するパターンとが混合されてなり、上記境界領域における上記第1の格子定数を有するパターンに対する上記第2の格子定数を有するパターンの割合は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって大きくなっている、構成を採用してもよい。
【0021】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記第1のパターン、上記第2のパターン、及び、上記第3のパターンの各々は、何れも、ボロノイパターンであり、上記第1のパターンにおける各母点間の距離の平均値は、第1の距離であり、上記第2のパターンにおける各母点間の距離の平均値は、上記第1の距離より短い第2の距離であり、上記境界領域のパターンにおける各母点間の距離の平均値は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって短くなっている、構成を採用してもよい。
【0022】
また、本発明の一態様に係る緩衝材において、上記3次元ネットワーク構造は、各々が軸状部材である複数のステムと、各々が複数のステムの端部同士を接合している複数の結節部と、により構成されており、上記第1の領域の3次元ネットワーク構造を構成する各ステムの径の平均値は、第1の径であり、上記第2の領域の3次元ネットワーク構造を構成する各ステムの径の平均値は、上記第1の径とは異なる第2の径であり、上記境界領域の3次元ネットワーク構造を構成する各ステムの径は、上記境界領域の上記第1の領域の側から、上記境界領域の上記第2の領域の側に近づくにしたがって、上記第1の径から上記第2の径に変化している、構成を採用してもよい。
【0023】
以上のように、第1の端面から第2の端面に近づくにしたがって、上記境界領域の力学的な特性を第1の領域の力学的な特性から第2の領域の上記力学的な特性に変化させる構成の例としては、境界領域において、(1)第3のパターンのサイズを変化させる、(2)第1のサイズを有するパターンに対する第2のサイズを有するパターンの割合を変化させる、(3)各母点間の距離の平均値を変化させる、(4)ステムの径を変化させる、といった構成が挙げられる。
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る枕は、ユーザの身体をサポートする部分が本願発明の何れか一態様に係る緩衝材により構成されている。
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るマットレスは、
ユーザの身体をサポートする部分が本願発明の何れか一態様に係る緩衝材により構成されている。
【0026】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る椅子は、ユーザの身体をサポートする部分が本願発明の何れか一態様に係る緩衝材により構成されている。
【0027】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプロテクターは、アウターと、該アウターの内側に配置されたパットとを備え、上記パットは、本願発明の何れか一態様に係る緩衝材を含んでいる。
【0028】
上述したように、本願発明の範疇には、本発明の一態様に係る緩衝材を用いた枕、マットレス、椅子、及びプロテクターが含まれる。これらの枕、マットレス、椅子、及びプロテクターは、本発明の一態様に係る緩衝材を用いているので、第1の領域と第2の領域との境界において生じ得る違和感を緩和することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様によれば、力学的な特性が互いに異なる複数の領域を含む緩衝材において、領域同士の境界において生じ得る違和感を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る緩衝材に利用可能な3次元ネットワーク構造であって、ラティスパターンを基本パターンとする3次元ネットワーク構造の斜視図である。(b)は、(a)に示した3次元ネットワーク構造の単位格子を示す斜視図である。
【
図2】(a)は、本発明の一実施形態に係る緩衝材に利用可能な3次元ネットワーク構造であって、ボロノイパターンを基本パターンとする3次元ネットワーク構造の斜視図である。(b)は、(a)に示した3次元ネットワーク構造の拡大平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る緩衝材の拡大断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る緩衝材の拡大断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る緩衝材の拡大断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係る緩衝材の拡大断面図である。
【
図7】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る緩衝材を適用した枕及びマットレスの平面図である。
【
図8】(a)は、本発明の一実施形態に係る緩衝材を適用したパットを含む座面を備えた椅子の斜視図である。(b)は、当該パットの平面図であり、(c)及び(d)の各々は、それぞれ、当該パットの断面図である。
【
図9】(a)は、本発明の一実施形態に係る緩衝材を適用したパットを備えたプロテクターの側面図である。(b)及び(c)の各々は、それぞれ、当該パットの平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の一態様に係る緩衝材10の概要について説明した後に、緩衝材10を構成する3次元ネットワーク構造について説明し、その後に、緩衝材10の第1の実施形態~第5の実施形態である緩衝材10A~10Eについて説明し、その後に、緩衝材10の適用例について説明する。
【0032】
〔緩衝材の概要〕
本発明の一実施形態である緩衝材10A~10Dは、
図3~
図6を参照して後述するように、また、本発明の一実施形態である緩衝材10Eは、後述するように、第1の領域R1と、第2の領域R2と、第1の領域R1と第2の領域R2との間に介在する境界領域RBとを備えている。また、第1の領域R1と、第2の領域R2と、境界領域RBとが一体成型されているため、緩衝材10は、一体構造を有する。したがって、第1の領域R1と境界領域RBとの間には別個の領域を接合したことにより生じる接合面が存在せず、境界領域RBと第2の領域R2との間にも別個の領域を接合したことにより生じる接合面が存在しない。
【0033】
例えば、
図7~
図9の各々にそれぞれ示した枕1、マットレス2、パット3,4は、本発明の一態様に係る緩衝材10の適用例である。これらの適用例については、後述する。
【0034】
第1の領域R1は、所定の指標値である第1の指標値により表される力学的な特性を有する。第2の領域R2は、所定の指標値である第2の指標値であって、第1の指標値より大きな第2の指標値により表される力学的な特性を有する。本願明細書では、緩衝材10を構成する2つの領域のうち、所定の指標値が小さい方の領域を第1の領域R1とし、所定の指標値が大きい方の領域を第2の領域R2とする。
【0035】
境界領域RBは、所定の指標値である第3の指標値であって、第1の指標値より大きく第2の指標値より小さい第3の指標値により表される力学的な特性を有する。
【0036】
なお、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの力学的な特性の具体例としては、弾性及び硬度が挙げられ、本実施形態では、弾性を用いて説明する。このように力学的な特性として弾性を用いる場合、力学的な特性を表す指標は、弾性率である。
【0037】
以下においては、緩衝材10の3次元ネットワーク構造の例について説明したのちに、緩衝材10の各実施形態について説明する。
【0038】
〔3次元ネットワーク構造について〕
緩衝材10は、長手方向を有する軸状部材であるステムを3次元空間内に張り巡らせることによって得られる3次元ネットワーク構造を有する。3次元ネットワーク構造の一態様としては、ラティスパターンを基本パターンとする3次元ネットワーク構造(
図1参照)と、ボロノイパターンを基本パターンとする3次元ネットワーク構造(
図2参照)とが挙げられる。
【0039】
<ラティスパターンの3次元ネットワーク構造>
図1の(a)は、緩衝材10に利用可能な3次元ネットワーク構造L1であって、ラティスパターンを基本パターンとする3次元ネットワーク構造L1の斜視図である。
図1の(b)は、3次元ネットワーク構造L1の単位格子UL1を示す斜視図である。
【0040】
図1の(a)に示す様に、3次元ネットワーク構造L1は、単位格子UL1をx軸方向、y軸方向、及びz軸方向の3軸方向に並進操作することによって得られる。
【0041】
単位格子UL1は、
図1の(b)に示すように、直方体の空間を占有し、その直方体の空間の内部に配置された8本のステムS1~S8により構成されている。ステムS1~S8の各々は、長手方向が一軸方向に沿った軸状部材である。ステムS1~S8の各々の一方の端部は、直方体の空間の8個の頂点に位置し、ステムS1~S8の各々の他方の端部は、直方体の空間の体心において接合されている。ステムS1~S8の各々の他方の端部が接合されている部分を結節部BP1と称する。なお、隣接する単位格子UL1同士は、直方体の空間の頂点において、ステム同士が接合されるため、直方体の空間の頂点にも結節部が形成される。
【0042】
単位格子UL1において、直方体の空間のx軸方向に沿った長さを格子定数axとし、直方体の空間のy軸方向に沿った長さを格子定数ayとし、直方体の空間のz軸方向に沿った長さを格子定数azとする。単位格子UL1のサイズは、格子定数ax,ay,azにより規定される。特許請求の範囲に記載の第1のパターン、第2のパターン、及び第3のパターンがラティスパターンである場合、第1のパターン、第2のパターン、及び第3のパターンの各々のサイズとして、格子定数ax,ay,azのうち少なくとも何れか1つを採用すればよい。
【0043】
また、単位格子UL1において、ステム(以下においては、例としてステムS1~S8を用いる)の横断面(長手方向に直交する断面)における形状は、円形であってもよいし、楕円形であってもよいし、正多角形であってもよい。本実施形態では、円形であるものとして説明する。ステムS1~S8の横断面における直径を径dとする。なお、ステムS1~S8の横断面における形状が円形以外である場合には、ステムS1~S8の横断面における長さの最大値を径dとする。また、ステムS1~S8の各々の径dは、(1)
図1の(b)に示すように、直方体の空間の頂点側において細く、結節部BP1側において太くなるように構成されていてもよいし、(2)直方体の空間の頂点側において太く、結節部BP1側において細くなるように構成されていてもよいし、(3)直方体の空間の頂点から結節部BP1までの全区間に亘って一定となるように構成されていてもよい。本実施形態においては、上記(1)の構成を採用している。
【0044】
なお、本発明の緩衝材の一態様において、3次元ネットワーク構造L1の単位格子は、単位格子UL1に限定されるものではなく、単位格子を並進操作することによって3次元ネットワーク構造を得ることができるものであれば、適宜選択することができる。3次元ネットワーク構造L1を無機物における結晶構造と同様に捉えれば、単位格子の結晶系は、三斜晶系、単斜晶系、直方晶系(斜方晶系)、正方晶系、三方晶系、六法晶系、及び立方晶系の何れであってもよい。
【0045】
<ボロノイパターンの3次元ネットワーク構造>
図2の(a)は、緩衝材10に利用可能な3次元ネットワーク構造B1であって、ボロノイパターン(ボロノイ図とも呼ばれる)を基本パターンとする3次元ネットワーク構造B1の斜視図である。なお、
図2の(a)に図示している複数の球の各々は、後述する各母点を中心とする球であって、ボロノイパターンのイメージを描きやすくするための仮想的な球である。実際のボロノイパターンには、多くの場合、このような球は、実在しない。
図2の(b)は、3次元ネットワーク構造B1のxy平面における拡大平面図である。
【0046】
図2の(b)に示すように、ボロノイパターンは、所定の空間内に複数の母点MP1,MP2,MP3,・・・(
図2の(b)においては破線で図示)を配置したうえで、各母点(例えば母点MP1)が、他の母点(例えば母点MP2,MP3,・・・)より自分(例えば母点MP1)に近い場所を自分の勢力圏として囲い込むことによって得られるパターンである。
図2の(b)においては、母点MP1,MP2,MP3、ステムS1~S3、及び、結節部BP1のみに符号を付している。
【0047】
ステムS1は、母点MP1と母点MP2とを結ぶ線分の垂直二等分線の一部であり、ステムS2は、母点MP2と母点MP3とを結ぶ線分の垂直二等分線の一部であり、ステムS3は、母点MP3と母点MP1とを結ぶ線分の垂直二等分線の一部である。ステムS1~ステムS3は、結節部BP1において接合される。結節部BP1は、母点MP1~MP3の何れからも等距離に位置するため、結節部BP1を中心とする所定の半径を有する円C1は、母点MP1~MP3の全てを通る。
【0048】
このようなボロノイパターンにおいて、各母点MP1,MP2,MP3,・・・の各々は、ボロノイ辺とも呼ばれる複数のステムにより取り囲まれている。この複数のステムにより取り囲まれた領域であって、各母点MP1,MP2,MP3,・・・の各々を含む領域は、ボロノイ領域とも呼ばれる。
【0049】
各母点MP1,MP2,MP3,・・・の各々に対応する各ボロノイ領域のサイズは、まちまちであるが、各母点間の距離D12,D23,D31,・・・の平均値Dをボロノイ領域のサイズの指標として用いることができる。
【0050】
また、3次元ネットワーク構造B1のステム(以下においては、例としてステムS1~S3を用いる)の横断面の形状は、3次元ネットワーク構造L1のステムS1~S8の横断面の形状と同様に、円形であってもよいし、楕円形であってもよいし、正多角形であってもよい。本実施形態では、円形であるものとして説明する。3次元ネットワーク構造B1のステムS1~S3の径dについても、3次元ネットワーク構造L1のステムS1~S8の径dと同様である。したがって、ここでは、ステムS1~S3の径dに関する説明を省略する。
【0051】
<3次元ネットワーク構造の変形例>
図1,
図2に示した3次元ネットワーク構造L1,B1は、何れも、複数のステムと、複数の結節部とにより構成されたかご(以下において単位かごと称する)を複数結合した構造とも言い換えられる。3次元ネットワーク構造L1において、単位かごは、隣接する2つの単位格子UL1にまたがって形成され、例えば、一方の単位格子UL1のステムS1~S4と、該単位格子の上側に位置する単位格子UL1のステムS5~S8とによって構成される。また、3次元ネットワーク構造B1において、単位かごは、1つの母点に対応する複数のボロノイ辺により構成される。
【0052】
図1,
図2に示した3次元ネットワーク構造L1,B1において、各単位かごの内部空間は、空隙である。しかし、3次元ネットワーク構造L1,B1の変形例においては、各単位かごの内部空間に、それぞれ、弾性を有する樹脂材料により構成された粒状部材が配置されていてもよい。なお、各粒状部材は、各単位かごを構成するステムの一部に弾性を有する樹脂材料を用いて結合されていてもよいし、各単位かごからは遊離した状態で内部空間に配置されていてもよい。
【0053】
各粒状部材がステムの一部に結合されている場合、粒状部材の形状及び大きさは、適宜定めることができる。一方、各粒状部材が各単位かごから遊離している場合、粒状部材の形状及び大きさは、各単位かごの内部空間から脱落しない程度に大きければ、その範囲内において適宜定めることができる。また、緩衝材10において、通気性や、水洗いした後の速乾性などを重視する場合、粒状部材の形状及び大きさは、各単位かごの内部空間を占有しない範囲内において定められていることが好ましい。換言すれば、各単位かごの内部空間には空隙が残っており、隣接する各単位かごの内部空間の空隙は、互いに連通していることが好ましい。粒状部材の形状の一例としては、球状が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0054】
3次元ネットワーク構造L1,B1に含まれる複数の粒状部材の弾性率は、一定であってもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
複数の粒状部材の弾性率が一定である場合、粒状部材を含んでいない場合と比較して、後述する第1の領域R1を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の弾性率(以下において、単に第1の領域R1における弾性率と称する、第2の領域R2及び境界領域RBについても同様)、第2の領域R2における弾性率、及び境界領域RBを構成する各レイヤー(例えば
図5に示した緩衝材10Cの場合、第1~第5レイヤーRBa~RBe)における弾性率の各々が一律に引き上げる。したがって、3次元ネットワーク構造L1,B1の基本的な構造(言い換えれば設計パラメータ)を変更することなく、粒状部材の弾性率のみを変化させることによって、製造する緩衝材10の弾性率をカスタマイズすることができる。
【0056】
複数の粒状部材の弾性率が異なっている場合、各粒状部材の弾性率は、後述する第1の領域R1における弾性率、第2の領域R2における弾性率、及び境界領域RBにおける弾性率の各々の大小関係に応じて、定められていることが好ましい。すなわち、第1の領域R1を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1に含まれる粒状部材(以下において第1の領域R1の粒状部材と称する)における弾性率は、第2の領域R2を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1に含まれる粒状部材(以下において第2の領域R2の粒状部材と称する)における弾性率より小さく、且つ、境界領域RBを構成する3次元ネットワーク構造L1,B1に含まれる粒状部材(以下において境界領域RBの粒状部材と称する)の弾性率は、第1の領域R1の粒状部材の弾性率より大きく第2の領域R2の粒状部材の弾性率より小さい。
【0057】
また、境界領域RBの粒状部材の弾性率は、境界領域RBを構成する各レイヤーにおける弾性率の各々の大小関係に応じて定められていてもよい。
【0058】
<弾性体>
上述した3次元ネットワーク構造L1,B1の各々は、弾性体により一体成型されており、一体構造を有する。3次元ネットワーク構造L1,B1の各々を構成する弾性体の材料は、特に限定されないが、弾性を有し、且つ、3Dプリンタを用いて成型可能な樹脂材料であることが好ましい。このような樹脂材料の例としては、紫外線硬化樹脂や、光硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂(エラストマー)などと呼ばれる樹脂でもよい。以下の各実施形態では、弾性体の材料として紫外線硬化樹脂を採用している。また、3次元ネットワーク構造L1,B1を成型するための3Dプリントの方式はいずれでもよいが、一例として光造型方式又はインクジェット方式が挙げられる。光造形方式の一態様としては、SLA(Stereolithography)方式及びDLP(Digital Light Processing)方式が挙げられる。また、インクジェット方式の一例としては、PolyJet(登録商標)が挙げられる。3Dプリンタを用いて3次元ネットワーク構造L1,B1の各々を製造することによって、物理的な特性(本実施形態では弾性)が異なる複数の領域を接合することなく一体成型することができる。すなわち、一体構造を有する3次元ネットワーク構造L1,B1の各々を製造することができる。
【0059】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る緩衝材10Aについて、
図3を参照して説明する。
図3は、緩衝材10Aのzx平面に沿った断面における拡大断面図である。
【0060】
図3に示すように、緩衝材10Aは、第1の領域R1と、第2の領域R2と、境界領域RBとを備えている。また、境界領域RBは、第1の領域R1の側に位置する第1レイヤーRBaと、第2の領域R2の側に位置する第2レイヤーRBbとにより構成されている。
【0061】
第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの3次元ネットワーク構造を構成するパターンは、
図1に示したラティスパターンである。第1の領域R1を構成する単位格子UL1、第2の領域R2を構成する単位格子UL1、及び境界領域RBを構成する単位格子UL1の各々において、格子定数a
x,a
yは共通であるが、格子定数a
zは異なっている。以下において、第1の領域R1における格子定数a
zをa
z=a
z1とし、第2の領域R2における格子定数a
zをa
z=a
z2とし、境界領域RBの第1レイヤーRBaにおける格子定数a
zをa
z=a
zbaとし、境界領域RBの第2レイヤーRBbにおける格子定数a
zをa
z=a
zbbとする。ここで、格子定数a
z1,a
z2,a
zba,a
zbbの大小関係は、a
z1>a
zba>a
zbb>a
z2となるように定められている。
【0062】
また、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々を構成する3次元ネットワーク構造においては、単位格子UL1のステムS1~S8の径dは、何れも同じである。
【0063】
以上のように構成された緩衝材10Aにおいて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、及び第2の領域R2のz軸方向に沿った弾性率(=応力/歪み)は、格子定数az1,az2,azba,azbbの大小関係に応じて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、及び第2の領域R2の順番で大きくなる。
【0064】
したがって、緩衝材10Aにおいて、境界領域RBの弾性率(特許請求の範囲に記載の第3の指標値)は、第1の領域R1の弾性率(特許請求の範囲に記載の第1の指標値)より大きく、第2の領域R2の弾性率(特許請求の範囲に記載の第2の指標値)より小さい。
【0065】
また、境界領域RBは、弾性率が異なる第1レイヤーRBa及び第2レイヤーRBbにより構成されており、第1レイヤーRBaの弾性率は、第1の領域R1の弾性率より大きく、第2レイヤーRBbの弾性率は、第1レイヤーRBaの弾性率より大きく且つ第2の領域R2の弾性率より小さい。すなわち、境界領域RBの弾性率は、第1の領域R1の側(x軸負方向側)から、第2の領域R2の側(x軸正方向側)に近づくにしたがって、大きくなっている。
【0066】
なお、本実施形態において緩衝材10Aの境界領域RBは、2つのレイヤー(第1レイヤーRBa及び第2レイヤーRBb)により構成されているが、境界領域RBを構成するレイヤーの数は、1以上の整数であればいくつであってもよい。境界領域RBが単一のレイヤーにより構成される場合であっても、単一のレイヤー(すなわち境界領域RB全体)の弾性率を、第1の領域R1の弾性率より大きく、第2の領域R2の弾性率より小さくすることによって、本願発明の目的は、達成される。この点については、後述する緩衝材10B~10Eについても同様である。
【0067】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る緩衝材10Bについて、
図4を参照して説明する。
図4は、緩衝材10Bのzx平面に沿った断面における拡大断面図である。
【0068】
図4に示すように、緩衝材10Bは、第1の領域R1と、第2の領域R2と、境界領域RBとを備えている。また、境界領域RBは、第1レイヤーRBaと、第2レイヤーRBbと、第3レイヤーRBcとにより構成されている。第1レイヤーRBaは、第1の領域R1の側に位置し、第3レイヤーRBcは、第2の領域R2の側に位置し、第2レイヤーRBbは、第1レイヤーRBaと第3レイヤーRBcとの間に介在する。
【0069】
第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの3次元ネットワーク構造を構成するパターンは、
図1に示したラティスパターンである。
【0070】
第1の領域R1を構成する単位格子UL1の格子定数a
x1,a
y1,a
z1(特許請求の範囲に記載の第1の格子定数)の各々は、それぞれ、第2の領域R2を構成する単位格子UL1の格子定数a
x2,a
y2,a
z2(特許請求の範囲に記載の第2の格子定数)の各々より大きく、
図4においては5倍の格子定数になっている。すなわち、a
x1=5a
x2であり、a
y1=5a
y2であり、a
z1=5a
z2である。なお、
図4には、格子定数a
z1,a
z2のみ図示している。
【0071】
境界領域RBは、格子定数が格子定数ax1,ay1,az1である単位格子UL1(第1の単位格子とも称する)と、格子定数が格子定数ax2,ay2,az2である単位格子UL1(第2の単位格子とも称する)とを混合することによって構成されている。境界領域RBにおいて、第1の単位格子を有するパターンに対する第2の格子定数を有するパターンの割合である混合比は、第1の領域R1の側から第2の領域R2の側に近づくにしたがって大きくなっている。具体的には、第1レイヤーRBaにおいては、4つの第1の単位格子のうち1つを第2の単位格子に置き換えており、第2レイヤーRBbにおいては、4つの第1の単位格子のうち2つを第2の単位格子に置き換えており、第3レイヤーRBcにおいては、4つの第1の単位格子のうち3つを第2の単位格子に置き換えている。
【0072】
また、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々を構成する3次元ネットワーク構造においては、単位格子UL1のステムS1~S8の径dは、何れも同じである。
【0073】
以上のように構成された緩衝材10Bにおいて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、及び第2の領域R2のz軸方向に沿った弾性率(=応力/歪み)は、上述した混合比に応じて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、及び第2の領域R2の順番で大きくなる。
【0074】
したがって、緩衝材10Bにおいて、境界領域RBの弾性率(特許請求の範囲に記載の第3の指標値)は、第1の領域R1の弾性率(特許請求の範囲に記載の第1の指標値)より大きく、第2の領域R2の弾性率(特許請求の範囲に記載の第2の指標値)より小さい。
【0075】
また、境界領域RBは、弾性率が異なる第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、及び第3レイヤーRBcにより構成されており、第1レイヤーRBaの弾性率は、第1の領域R1の弾性率より大きく、第2レイヤーRBbの弾性率は、第1レイヤーRBaの弾性率より大きく、第3レイヤーRBcの弾性率は、第2レイヤーRBbの弾性率より大きく且つ第2の領域R2の弾性率より小さい。すなわち、境界領域RBの弾性率は、第1の領域R1の側(x軸負方向側)から、第2の領域R2の側(x軸正方向側)に近づくにしたがって、大きくなっている。
【0076】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る緩衝材10Cについて、
図5を参照して説明する。
図5は、緩衝材10Cのzx平面に沿った断面における拡大断面図である。
【0077】
図5に示すように、緩衝材10Cは、第1の領域R1と、第2の領域R2と、境界領域RBとを備えている。また、境界領域RBは、第1レイヤーRBaと、第2レイヤーRBbと、第3レイヤーRBcと、第4レイヤーRBdと、第5レイヤーRBeとにより構成されている。第1レイヤーRBaと、第2レイヤーRBbと、第3レイヤーRBcと、第4レイヤーRBdと、第5レイヤーRBeの各々は、この順番で第1の領域R1の側から第2の領域R2の側に向かって配置されている。
【0078】
第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの3次元ネットワーク構造を構成するパターンは、
図1に示したラティスパターンである。
【0079】
第1の領域R1を構成する単位格子UL1の格子定数ax1,ay1,az1の各々は、それぞれ、第2の領域R2を構成する単位格子UL1の格子定数ax2,ay2,az2の各々と同じである。
【0080】
緩衝材10Cにおいては、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々を構成する3次元ネットワーク構造においては、単位格子UL1のステムS1~S8の径dを異ならせることによって第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々の弾性率を異ならせている。
【0081】
具体的には、第1の領域R1におけるステムS1~S8の径dをd=d1とし、第1レイヤーRBaにおけるステムS1~S8の径dをd=daとし、第2レイヤーRBbにおけるステムS1~S8の径dをd=dbとし、第3レイヤーRBcにおけるステムS1~S8の径dをd=dcとし、第4レイヤーRBdにおけるステムS1~S8の径dをd=ddとし、第5レイヤーRBeにおけるステムS1~S8の径dをd=deとし、第2の領域R2におけるステムS1~S8の径dをd=d2として、これらの径dの大小関係をd1<da<db<dc<dd<de<d2となるように構成している。
【0082】
以上のように構成された緩衝材10Cにおいて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、第4レイヤーRBd、第5レイヤーRBe、及び第2の領域R2の弾性率は、径d1,da,db,dc,dd,de,d2の大小関係に応じて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、第4レイヤーRBd、第5レイヤーRBe、及び第2の領域R2の順番で大きくなる。
【0083】
したがって、緩衝材10Cにおいて、境界領域RBの弾性率(特許請求の範囲に記載の第3の指標値)は、第1の領域R1の弾性率(特許請求の範囲に記載の第1の指標値)より大きく、第2の領域R2の弾性率(特許請求の範囲に記載の第2の指標値)より小さい。
【0084】
また、境界領域RBは、弾性率が異なる第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、第4レイヤーRBd、及び第5レイヤーRBeにより構成されており、第1レイヤーRBaの弾性率は、第1の領域R1の弾性率より大きく、第2レイヤーRBbの弾性率は、第1レイヤーRBaの弾性率より大きく、第3レイヤーRBcの弾性率は、第2レイヤーRBbの弾性率より大きく、第4レイヤーRBdの弾性率は、第3レイヤーRBcの弾性率より大きく、第5レイヤーRBeの弾性率は、第4レイヤーRBdの弾性率より大きく、且つ第2の領域R2の弾性率より小さい。すなわち、境界領域RBの弾性率は、第1の領域R1の側(x軸負方向側)から、第2の領域R2の側(x軸正方向側)に近づくにしたがって、大きくなっている。
【0085】
また、
図5に示した緩衝材10Cにおいては、第1の領域R1、第2の領域R2、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、第4レイヤーRBd、及び第5レイヤーRBeの各々におけるステムS1~S8の径dを一定であるものとして説明した。しかし、ステムS1~S8の径dは、(1)
図1の(b)に示すように、直方体の空間の頂点側において細く、結節部BP1側において太くなるように構成されていてもよいし、(2)直方体の空間の頂点側において太く、結節部BP1側において細くなるように構成されていてもよい。上記(1),(2)のように長手方向に沿ってステムS1~S8の径dが変化する場合には、第1の領域R1におけるステムS1~S8の径dの平均値をd1とし、第1レイヤーRBaにおけるステムS1~S8の径dの平均値をdaとし、第2レイヤーRBbにおけるステムS1~S8の径dの平均値をdbとし、第3レイヤーRBcにおけるステムS1~S8の径dの平均値をdcとし、第4レイヤーRBdにおけるステムS1~S8の径dの平均値をddとし、第5レイヤーRBeにおけるステムS1~S8の径dの平均値をdeとし、第2の領域R2におけるステムS1~S8の径dの平均値をd2として、これらの径dの平均値の大小関係をd1<da<db<dc<dd<de<d2となるように、緩衝材10Cを構成すればよい。
【0086】
〔第1~第3の各実施形態の組み合わせ〕
(1)第1の実施形態では、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBを構成する各レイヤーにおける格子定数azを異ならせることによって、これらの各領域の各弾性率を互いに異ならせており、(2)第2の実施形態では、第1の領域R1を構成する単位格子UL1の格子定数ax1,ay1,az1と、第2の領域R2を構成する単位格子UL1の格子定数ax2,ay2,az2を異ならせたうえで、境界領域RBを構成する各レイヤーにおいて、第1の単位格子を有するパターンに対する第2の格子定数を有するパターンの割合である混合比を異ならせることによって、これらの各領域の各弾性率を互いに異ならせており、(3)第3の実施形態では、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBを構成する各レイヤーにおけるステム径dを異ならせることによって、これらの各領域の各弾性率を互いに異ならせている。
【0087】
緩衝材10においては、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBを構成する各レイヤーにおけるを互いに異ならせるために、第1~第3の各実施形態のように、上記(1)~(3)の手法の何れか1つの手法を用いてもよいし、上記(1)~(3)の手法のうち少なくとも2つの手法を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
例えば、上記(1)と上記(3)の手法を組み合わせる場合、例えば、
図3に示した緩衝材10Aを構成する第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBを構成する各レイヤーにおいて、表面に近い層から表面から遠い層へ向かうにしたがって、ステム径dを太く構成することもできる。この場合、表面に沿った面内方向において弾性率が異なり、且つ、表面の法線に沿った断面方向においても弾性率が異なる緩衝材10Aを得ることができる。
【0089】
以上のように、緩衝材10は、複数の互いに独立した設計パラメータを用いて弾性率を設計することができるため、設計の自由度が高い。例えば、弾性率が所定の値である領域を設計する場合に、上述した(1)~(3)の手法を適宜組み合わせることによって、弾性率とは別の特性を独立して変化させることができる。弾性率とは別の特性としては、例えば緩衝材10を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の密度が上げられる。該密度は、緩衝材10の例えば通気性を大きく左右する。すなわち、緩衝材10は、密度が高く且つ弾性率が所定の値となるように設計することもできるし、密度が低く且つ弾性率が所定の値となるように設計することもできる。
【0090】
〔第4の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る緩衝材10Dについて、
図6を参照して説明する。
図6は、緩衝材10Dのzx平面に沿った断面における拡大断面図である。
【0091】
図6に示すように、緩衝材10Dは、第1の領域R1と、第2の領域R2と、境界領域RBとを備えている。また、境界領域RBは、第1レイヤーRBaと、第2レイヤーRBbと、第3レイヤーRBcとにより構成されている。第1レイヤーRBaは、第1の領域R1の側に位置し、第3レイヤーRBcは、第2の領域R2の側に位置し、第2レイヤーRBbは、第1レイヤーRBaと第3レイヤーRBcとの間に介在する。
【0092】
第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの3次元ネットワーク構造を構成するパターンは、
図2に示したボロノイパターンである。
【0093】
第1の領域R1を構成するボロノイパターンにおける各母点間の距離D12,D23,D31,・・・の平均値DをD=D1とし、第1レイヤーRBaを構成するボロノイパターンにおける各母点間の距離D12,D23,D31,・・・の平均値DをD=Daとし、第2レイヤーRBbを構成するボロノイパターンにおける各母点間の距離D12,D23,D31,・・・の平均値DをD=Dbとし、第3レイヤーRBcを構成するボロノイパターンにおける各母点間の距離D12,D23,D31,・・・の平均値DをD=Dcとし、第2の領域R2を構成するボロノイパターンにおける各母点間の距離D12,D23,D31,・・・の平均値DをD=D2として、これらの平均値Dの大小関係をD1>Da>Db>Dc>Dd>De>D2となるように構成している。
【0094】
以上のように構成された緩衝材10Dにおいて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、及び第2の領域R2の弾性率は、平均値D1,Da,Db,Dc,d2の大小関係に応じて、第1の領域R1、第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBc、及び第2の領域R2の順番で大きくなる。
【0095】
また、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々を構成する3次元ネットワーク構造においては、単位格子UL1のステムS1~S8の径dは、何れも同じである。
【0096】
したがって、緩衝材10Dにおいて、境界領域RBの弾性率(特許請求の範囲に記載の第3の指標値)は、第1の領域R1の弾性率(特許請求の範囲に記載の第1の指標値)より大きく、第2の領域R2の弾性率(特許請求の範囲に記載の第2の指標値)より小さい。
【0097】
また、境界領域RBは、弾性率が異なる第1レイヤーRBa、第2レイヤーRBb、第3レイヤーRBcにより構成されており、第1レイヤーRBaの弾性率は、第1の領域R1の弾性率より大きく、第2レイヤーRBbの弾性率は、第1レイヤーRBaの弾性率より大きく、第3レイヤーRBcの弾性率は、第2レイヤーRBbの弾性率より大きく且つ第2の領域R2の弾性率より小さい。すなわち、境界領域RBの弾性率は、第1の領域R1の側(x軸負方向側)から、第2の領域R2の側(x軸正方向側)に近づくにしたがって、大きくなっている。
【0098】
〔第5の実施形態〕
本発明の第5の実施形態に係る緩衝材10Eについて、簡単に説明する。なお、緩衝材10Eの図示は省略する。
【0099】
緩衝材10Eは、
図5に示した緩衝材10Cにおいて、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの3次元ネットワーク構造を構成するパターンをボロノイパターンに変更することによって得られる。
【0100】
ボロノイパターンにより3次元ネットワーク構造が構成されている緩衝材10Eにおいても、ラティスパターンにより3次元ネットワーク構造が構成されている緩衝材10Cの場合と同様に、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々を構成する単位格子UL1のステムS1~S8の径dを異ならせることによって、第1の領域R1、第2の領域R2、及び境界領域RBの各々において異なる弾性率を実現できる。
【0101】
〔緩衝材の適用例〕
上述した各実施形態に係る緩衝材10A~10Eの適用例について、
図7及び
図8を参照して説明する。なお、本適用例においては、緩衝材10A~10Eの各々を区別する必要はないため、以下においては緩衝材10A~10Eの総称として緩衝材10を用いる。
図7の(a)及び(b)は、緩衝材10を適用した枕1及びマットレス2の平面図である。
図8の(a)は、緩衝材10を適用したパット3を含む座面を備えた椅子の斜視図であり、
図8の(b)は、パット3の平面図であり、
図8の(c)及び(d)は、パット3の断面図である。なお、
図8の(c)及び(d)の各々は、それぞれ、
図8の(b)に示した直線A-A’及び直線B-B’に沿った断面を矢印の方向から矢視した場合に得られる断面図である。
図9の(a)は、緩衝材10を適用したパット4を備えたプロテクターの側面図である。
図9の(b)は、パット4をxy平面上に載置した場合に得られるパット4の平面図であり、
図9の(c)は、パット4の断面図であって、
図9の(b)に示した直線C-C’に沿った断面を矢印の方向から矢視した場合に得られる断面図である。
【0102】
<枕>
枕においては、ユーザの身体の何れの部位に接触する部分であるかに依存して、ユーザの身体の負担を軽減するとともに、身体をサポートする部分のうちサポート性を重視する部分については、弾性率を高く設定し、当たりの柔らかさを重視する部分については、弾性率を低く設定することが好ましい。
【0103】
図7の(a)に示すように、枕1の緩衝材10においては、枕1の中央部分に弾性率が高い第2の領域R2が配置されており、第2の領域R2を取り囲むように弾性率が低い第1の領域R1が配置されている。また、第1の領域R1と第2の領域R2との間には、境界領域RBが第2の領域R2を取り囲むように配置されている。
【0104】
枕1においては、ユーザの頭が主に接する部分である中央部分が第2の領域R2により構成されているため、頭をしっかりサポートすることができる。また、枕1においては、ユーザの首や肩などが主に接する部分である外縁部分が第1の領域R1により構成されている。そのため、枕1は、首や肩などが外縁部分に接触する場合であっても、首や肩などに対する当たりが柔らかくすることができる。このように枕1は、頭をしっかりサポートしつつ、首や肩などに対する当たりを柔らかくすることができる。
【0105】
そのうえで、枕1が境界領域RBを備えていることによって、第1の領域R1と第2の領域R2との境界において生じ得る違和感を緩和することができる。
【0106】
さらに、緩衝材10は、
図1又は
図2に示した3次元ネットワーク構造を有する。これらの3次元ネットワーク構造は、軸状部材であるステムを3次元空間内に張り巡らせることによって得られるので、綿や低反発素材と比較して通気性が高い。したがって、枕1は、従来の綿や低反発素材などを採用した枕と比較して、高い通気性を有する。また、枕1は、従来の枕と比較して容易に水洗いすることができるので、衛生的である。
【0107】
なお、枕1においては、弾性率が異なる2つの領域を設定している。しかし、枕1において、弾性率が異なる領域の数は、複数であれば任意に設定することができる。また、枕1は、カバーを装着して使用してもよいし、カバーを装着することなくそのまま使用してもよい。
【0108】
<マットレス>
マットレスにおいては、ユーザの身体の何れの部位に接触する部分であるかに依存して、ユーザの身体の負担を軽減するとともに、身体をサポートする複数の部分の各々に対して別個の弾性率を設定することが好ましい。
【0109】
図7の(b)に示すように、マットレス2の緩衝材10においては、マットレス2の長手方向に沿って、弾性率が高い3つの第2の領域R21,R22,R23が配置されており、3つの第2の領域R21,R22,R23を取り囲むように弾性率が低い第1の領域R1が配置されている。また、第1の領域R1と第2の領域R21との間には、境界領域RB1が第2の領域R21を取り囲むように配置されており、第1の領域R1と第2の領域R22との間には、境界領域RB2が第2の領域R22を取り囲むように配置されており、第1の領域R1と第2の領域R23との間には、境界領域RB3が第2の領域R23を取り囲むように配置されている。
【0110】
マットレス2においては、ユーザの頭が主に接する部分が第2の領域R21により構成されており、ユーザの腰が主に接する部分が第2の領域R22により構成されており、ユーザの脚部が主に接する部分が第2の領域R23により構成されている。したがって、頭が接する部分、腰が接する部分、及び脚部が接する部分の各々に対して、別個の弾性率を設定することができる。
【0111】
なお、
図7の(b)に示したマットレス2においては、外縁部分に弾性率が最も低い第1の領域R1を配置している。しかし、頭が接する部分、腰が接する部分、脚部が接する部分、及び外縁部分のうち何れの部分の弾性率を最も低くするかは、適宜設定することができる。また、頭が接する部分、腰が接する部分、及び脚部が接する部分の各々の弾性率の大小関係も適宜設定することができる。
【0112】
なお、マットレス2においては、弾性率が異なる4つの領域を設定している。しかし、マットレス2において、弾性率が異なる領域の数は、複数であれば任意に設定することができる。また、マットレス2は、カバーを装着して使用してもよいし、カバーを装着することなくそのまま使用してもよい。
【0113】
このように構成されたマットレス2は、枕1と同様の効果を奏する。
【0114】
なお、本適用例においては、3つの第2の領域R21,R22,R23の各領域を取り囲むように第1の領域R1が配置されている。換言すれば、互いに隣接する2つの第2の領域(例えば第2の領域R21と第2の領域R22と)の間には、第1の領域R1が介在する。しかし、第1の領域R1は、第2の領域R21と第2の領域R22との間に介在しなくてもよい。この場合、
図7の(b)において、符号R21が付された領域と、符号R22が付された領域との間には、1つの境界領域RBが設けられていればよい。また、この場合、符号R21が付された領域及び符号R22が付された領域のうち、より弾性率が低い領域が特許請求の範囲に記載の第1の領域の一態様になり、より弾性率が高い領域が特許請求の範囲に記載の第2の領域の一態様になる。この点については、
図7の(a)に示した枕1を構成する緩衝材10、
図8に示した椅子のパット3を構成する緩衝材10、及び、
図9に示したプロテクターのパット4を構成する緩衝材10の何れにおいても同様である。
<座面のパット>
図8の(a)に示した椅子の座面は、ユーザが椅子に座ったときに、ユーザの臀部及び大腿部をサポートするとともに臀部及び大腿部が接触により感じる不快感や、圧による血流の阻害など、身体への負担を和らげるために、弾性を有するパット3を備えている。緩衝材10は、座面を構成するパット3として好適に利用可能である。なお、座面は、パット3を覆う布製のカバーを更に備えている。したがって、
図8の(a)においては、緩衝材10を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の具体的な構造を図示していない。なお、座面の美観やデザイン性などよりも座面における通気性を重視する場合、パット3を覆うカバーを省略してもよい。
【0115】
本適用例では、
図8の(a)に示すように、水平面と平行な平面をxy平面として、xy平面のうち椅子の前後方向に平行な方向をx軸方向と定め、左右方向に平行な方向をy軸方向と定め、鉛直方向と平行な方向をz軸方向と定めている。また、椅子の前方向をx軸正方向と定め、椅子の左方向をy軸正方向と定め、鉛直上向きの方向をz軸正方向と定めている。
【0116】
座面のパットにおいては、弾性率を領域ごとに適切に設定することによって、椅子に座るユーザが感じる疲労感を緩和することができたり、腰痛の生じやすさを抑制したりすることができる。緩衝材10を座面のパット3に適用することによって、パット3のうち、臀部が接する領域や、大腿部が接する領域などというように、領域ごとに適切な弾性率を設定しつつ、ユーザが感じ得る違和感を緩和することができる。
【0117】
具体的には、
図8の(b)に示すように、パット3の緩衝材10をz軸正方向からみた場合、緩衝材10には、弾性率が最も低い第1の領域R1と、第1の領域R1より弾性率が高い4つの第2の領域R21,R23,R25,R26が配置されている。第2の領域R21及び第2の領域R23の各々は、それぞれ、ユーザが座面に座った場合に、ユーザの臀部及び大腿部に対応する領域である。
【0118】
また、
図8の(c)に示すように、緩衝材10のうち第2の領域R21を含む断面をx軸正方向からみたい場合、第2の領域R21の下層には、弾性率が高い別の第2の領域R22が配置されている。なお、
図8の(b)においては、第2の領域R22を破線で示している。また、
図8の(d)に示すように、緩衝材10のうち第2の領域R23を含む断面をx軸正方向からみたい場合、第2の領域R23の下層には、弾性率が高い別の第2の領域R24が配置されている。なお、
図8の(c)においては、第2の領域R24を破線で示している。
【0119】
第1の領域R1は、第2の領域R21~R26の全てを包含するように配置されている。換言すれば、緩衝材10の表面は、何れも第1の領域により構成されている。したがって、パット3は、ユーザが緩衝材10の表面の何れの部分に触った場合であっても、ユーザに対する当たりを柔らかくすることができる。
【0120】
ユーザの臀部に対応する領域のうち下層に配置されている第2の領域R22は、第2の領域R21~R26の中で弾性率が最も高く設定されている。これは、ユーザが座面に座ったときにユーザの姿勢を安定しやすくするとともに、パット3自身の形状における安定性を高めるためである。
【0121】
臀部に対応する領域のうち上層に配置されている第2の領域R21は、第1の領域R1よりも弾性率が高く設定されているものの、第2の領域R22よりは弾性率が低く設定されている。これは、第2の領域R22が臀部に対応する領域の上層、すなわち、臀部に近い領域を構成するためであり、臀部に対する当たりを柔らかくするためである。
【0122】
ユーザの大腿部に対応する領域には、臀部に対応する領域には及ばないものの、比較的大きな荷重がかかる。したがって、大腿部に対応する領域のうち下層に配置されているR24は、第2の領域R22と同程度に高い弾性率に設定されていてもよいし、第2の領域R22よりも少し低く設定されていてもよい。
【0123】
大腿部に対応する領域のうち上層に配置されている第2の領域R23は、第2の領域R21と同程度の弾性率に設定されていてもよいし、第2の領域R21よりも少し設定されていてもよい。第2の領域R23の弾性率を適度な高さに設定することによって、大腿部の裏側が角に圧迫されることを抑制し、長時間座り続けた場合であっても、血流障害を生じにくくさせたり、疲労を軽減したりすることができる。
【0124】
座面を構成するパット3の両サイドを構成する第2の領域R25,26は、ユーザの臀部及び大腿部があまり接触しない領域である。そのため、第2の領域R25,26は、第2の領域R22よりも低く、第2の領域R21よりも高くなるように設定されている。これは、臀部及び大腿部への当たりを柔らかくすることよりも、パット3自身の形状の安定性を重視しているためである。このように構成することによって、臀部及び大腿部への当たりを柔らかくしつつも、臀部及び大腿部がパット3に沈み込むにしたがって座面からのサポートが高まり、ユーザの姿勢を安定させることができ、且つ、パット3の過度な変形を抑制することができるパット3を実現することができる。
【0125】
さらに、第2の領域R21~R26の各々と、第1の領域R1との間には、それぞれ、境界領域RB1~RB6が配置されているため、第2の領域R21~R26の各々と、第1の領域R1との境界においてユーザが感じ得る違和感を緩和することができる。
【0126】
また、パット3は、緩衝材10が3次元ネットワーク構造L1,B1により構成されていることに起因して、高い通気性を確保することができる。したがって、ユーザが長時間に亘って座面に座った場合に生じ得るムレなどの不快感を軽減することができる。
<プロテクターのパット>
図9の(a)に示したプロテクターは、ユーザの肘を外部から加わる衝撃から保護するためのプロテクターであって、弾性を有するパット4を備えている。緩衝材10は、肘を保護するパット4として好適に利用可能である。なお、プロテクターは、パット4を肘に対して所定の位置に固定するための固定手段として、伸縮自在な筒状部材であるアウターを更に備えている。アウターは、いわゆるサポーターと呼ばれるものと同様に構成されている。また、
図9の(a)において、パット4を構成する緩衝材10は、上記筒状部材に覆われるように、アウターの内側に配置されているため、緩衝材10を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の具体的な構造を図示していない。また、
図9の(a)に示した腕は、ユーザの左腕である。
【0127】
本適用では、
図9の(a)に示すように、ユーザの上腕骨の長軸に沿う方向をy軸方向と定め、ユーザの前腕が上腕に対してyz平面内において屈曲するものとして、y軸に直交する方向をz軸方向と定め、yz平面に直交する方向をx方向と定めている。また、y軸方向のうち上腕骨の肩側の端部から前腕側の端部へ向かう方向をy軸正方向と定め、x軸方向のうちユーザの左側から右側へ向かう方向をx軸正方向と定め、x軸正方向及びy軸正方向とともに右手系の直交座標を構成するようにz軸正方向を定めている。なお、以下において、ユーザの左腕の左側のことを外側とも称し、ユーザの左腕の右側のことを内側とも称する。すなわち、x軸正方向は、ユーザの左腕の外側から内側へ向かう方向である。
【0128】
プロテクターのパットにおいては、衝撃から肘を保護するための緩衝性(換言すれば衝撃吸収性)と、ユーザが運動した場合であってもパットがユーザの肘近傍の所定の位置からずれにくくするためのフィット性とが求められる。緩衝材10をプロテクターのパット4に適用することによって、領域ごとに適切な弾性率を設定しつつ、ユーザが感じ得る違和感を緩和することができる。
【0129】
具体的には、
図9の(b)に示すように、パット4の緩衝材10をz軸正方向からみた場合、緩衝材10は、内側領域、中央領域、及び外側領域の3つの領域に区別することができる。内側領域、中央領域、及び外側領域の各々は、それぞれ、緩衝材10のy軸方向に沿った帯状の領域である。内側領域、中央領域、及び外側領域の各々は、それぞれ、ユーザの左腕の、内側に対応する領域、中央に対応する領域、及び外側に対応する領域である。
【0130】
緩衝材10には、弾性率が最も低い第1の領域R1と、第1の領域R1より弾性率が高い12個の第2の領域R21,R22,・・・,R211,R212が配置されている。緩衝材10の中央領域には、第2の領域R21~第2の領域R23が配置されており、内側領域は、第2の領域R24~R28が配置されており、外側領域には、第2の領域R29~R11が配置されている。
【0131】
第2の領域R21は、ユーザがプロテクターを装着した場合に、屈曲運動の中心となる肘の頂点に対応する領域である。第2の領域R22及びR23の各々は、それぞれ、第2の領域R21の前腕側(y軸正方向側)及び上腕側(y軸負方向側)に配置された領域である。
【0132】
第2の領域R21は、パット4に配置された各領域の中で最も高い緩衝性が求められる領域である。したがって、第2の領域R21の弾性率は、第2の領域R21~R212の中では最も低く設定されており、且つ、第2の領域R21の厚さは、第2の領域R21~R212の中で最も厚く設定されている。
【0133】
第2の領域R22及びR23の各々は、それぞれ、前腕及び上腕に対応する領域であり、高いフィット性が求められる。したがって、第2の領域R22及びR23の弾性率は、第2の領域R21の弾性率よりも高く設定されている。なお、第2の領域R22及びR23の形状は、更に高いフィット感を得るために、各ユーザの前腕及び上腕の形状をスキャンしたうえで、前腕及び上腕の形状の3次元データを生成し、該3次元データに基づいて成型されていることが好ましい。また、第2の領域R22及びR23を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1は、第2の領域R21を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1よりも密度が低く構成されていることが好ましい。この構成によれば、第2の領域R22及びR23における通気性を高めることができる。
【0134】
プロテクターを構成するパット4においては、内側領域及び外側領域の各々に対して、求められる追従性及び緩衝性が異なる。なお、ここでいう追従性とは、ユーザの肘が屈曲した場合にパット4が肘の屈曲に応じて変形する場合に、その変形のしやすさのことを意味する。追従性が高ければ高いほど、ユーザは、違和感なく肘を屈曲させることができる。
【0135】
内側領域と外側領域とを比較した場合、外側領域は、より高い緩衝性を求められる。そのため、外側領域を構成する第2の領域R29~R211は、内側領域を構成する第2の領域R24~R28よりも弾性率が低く設定されている。なお、第2の領域R29~R211を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1は、第2の領域R24~R28を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1よりも密度が高く設定されていることが好ましい。
【0136】
内側領域と外側領域とを比較した場合、内側領域は、より高いフィット性が求められる。そのため、第2の領域R24~R28は、第2の領域R29~R211よりも弾性率が高く設定されている。なお、第2の領域R24~R28を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の密度は、第2の領域R29~R211を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の密度より低いことが好ましい。
【0137】
なお、パット4において、内側領域は、5個の第2の領域R24~R28により構成されており、外側領域は、3個の第2の領域R29~R211により構成されている。この内側領域及び外側領域の各々を構成する第2の領域R2xの個数は、特に限定されるものではなく、求められる緩衝性や追従性などに応じて適宜設定することができる。
【0138】
また、
図9の(c)に示すように、緩衝材10のうち中央領域を含む断面をx軸負方向からみた場合、第2の領域R212及びR213の2つの領域に区別することができる。第2の領域R212は、ユーザの肘に近い側の層(以下において上層と称する)を構成し、第2の領域R213は、ユーザの肘から遠い側の層(以下において下層と称する)を構成する。
【0139】
上層と下層とを比較した場合、上層は、より高いフィット性を求められ、下層は、より高い緩衝性を求められる。したがって、第2の領域R212は、第2の領域R213よりも弾性率が低く設定されている。また、第2の領域R212を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の密度は、第2の領域R213を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1の密度より密度が低く設定されていることが好ましい。したがって、平面視した場合にパット4を構成する第2の領域R21~R11の各々は、上層及び下層の各々で異なった特性を与えられている。
【0140】
緩衝材10を構成する3次元ネットワーク構造L1,B1は、各領域の弾性率と密度とをそれぞれ独立した設計パラメータとして設定することができるため、上述したように各領域において求められる特性に応じて、最適な弾性津及び密度を設定することができる。
【0141】
さらに、第2の領域R21~R213の各々と、第1の領域R1との間には、それぞれ、境界領域RB1~RB13が配置されているため、第2の領域R21~R213の各々と、第1の領域R1との境界においてユーザが感じ得る違和感を緩和することができる。
【0142】
また、パット4は、緩衝材10が3次元ネットワーク構造L1,B1により構成されていることに起因して、高い通気性を確保することができる。したがって、ユーザが長時間に亘ってプロテクターを装着した場合に生じ得るムレなどの不快感を軽減することができる。
【0143】
なお、本適用例のパット4においては、第2の領域R21~R213の各々を取り囲む第1の領域R1の弾性率が最も低くなるように、各領域の弾性率を設定した。しかし、パット4自身の形状における安定性を高めたいなどに理由により、パット4の外縁部分の弾性率を高めたい場合には、肘の頂点に対応する領域(
図9の(b)においては符号R21が付されている領域)の弾性率が最も低くなるように設定してもよい。すなわち、パット4の変形例においては、肘の頂点に対応する領域が第1の領域R1となってもよい。
【0144】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0145】
L1,B1 3次元ネットワーク構造
UL1 単位格子
BP1 結節部
S1~S8 ステム
MP1~MP3 母点
C1 円
10,10A,10B,10C,10D,10E 緩衝材
R1,R11,R12,R13 第1の領域
R2 第2の領域
RB,RB1,RB2,RB3 境界領域
1 枕
2 マットレス
3,4 パット