(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ヒステリシス比較器、及び通信回路
(51)【国際特許分類】
H04B 5/02 20060101AFI20230803BHJP
H04B 1/16 20060101ALI20230803BHJP
H04L 25/02 20060101ALI20230803BHJP
H03K 5/08 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H04B5/02
H04B1/16 Z
H04L25/02 V
H04L25/02 R
H03K5/08 J
(21)【出願番号】P 2021516235
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017609
(87)【国際公開番号】W WO2020218472
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019082616
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「近接場結合集積技術による革新的情報処理システムの実現と応用展開」における研究題目 「近接場結合集積技術ならびに高効率情報処理システムの研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】黒田 忠広
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-274360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0309099(US,A1)
【文献】米国特許第10171101(US,B1)
【文献】KAWAI, Shunsuke et al.,A wireless real-time on-chip bus trace system,2009 Asia and South Pacific Design Automation Conference,米国,IEEE,2009年02月27日,pp.91-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 5/02
H04B 1/16
H04L 25/02
H03K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられた電磁界結合器と、
前記電磁界結合器で受信された受信信号のレベルを比較する第1の比較器を有し、前記基板に実装された第1のICチップと、
前記受信信号のレベルを比較する第2の比較器を有し、前記基板に実装された第2のICチップと、
前記第2のICチップの出力を入力に正帰還する帰還ループと、を備えた通信回路。
【請求項2】
前記第1のICチップが、前記第1の比較器の後段に配置されたシリアルパラレル変換器を有している請求項1に記載の通信回路。
【請求項3】
前記帰還ループにキャパシタが設けられている請求項1、又は2に記載の通信回路。
【請求項4】
前記帰還ループに抵抗が設けられている請求項1、又は2に記載の通信回路。
【請求項5】
基板と、
2つの入力信号のレベルを比較する第1の比較器を有し、前記基板に実装された第1のICチップと、
前記2つの入力信号のレベルを比較する第2の比較器を有し、前記基板に実装された第2のICチップと、
前記第2のICチップの出力を入力に正帰還する帰還ループと、を備えたヒステリシス比較器。
【請求項6】
前記第1のICチップが、前記第1の比較器の後段に配置されたシリアルパラレル変換器を有している請求項
5に記載のヒステリシス比較器。
【請求項7】
前記帰還ループにキャパシタが設けられている請求項
5、又は6に記載のヒステリシス比較器。
【請求項8】
前記帰還ループに抵抗が設けられている請求項
5、又は6に記載のヒステリシス比較器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒステリシス比較器、及び通信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願の発明者は、容量結合及び誘導結合(合わせて電磁界結合と称する)を用いて、基板間でデータ通信を行なう電子回路を提案している(例えば、特許文献1、2参照)。このような電子回路では、フレキシブルプリント回路基板(Flexible Printed Circuit;FPC)、プリント回路基板(Printed Circuit Board;PCB)、モジュール、及び端末(以下、総称して基板と略称する)に、結合器が形成されている。
【0003】
特許文献1では、信号線路が結合器として用いられている。それぞれの基板には、平行に配置された2本の信号線路(信号線路と帰還信号線路)が形成されている(
図33)。信号線路と帰還信号線路とは、抵抗を用いて終端整合されている。一方の基板の信号線路、帰還信号線路が、他方の基板の信号線路、帰還信号線路と平行かつ同一方向になるように配置される。基板を積層することで、信号線路が近接配置される。信号線路同士が重複し、帰還信号線路同士が重複するため,電磁界結合により無線通信を行なうことができる。
【0004】
特許文献2には、信号線路を結合器として用いた通信装置が開示されている。特許文献2では、差動信号を用いるため、一本の信号線路の両端に引出伝送線路が接続されている。一方の引出伝送線路から正極性の信号が伝送線路に入力され、他方の引出し伝送線路から負極性の信号が伝送線路に入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5213087号公報
【文献】特開2014-033432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デジタル信号はNon Return to Zero信号(NRZ信号)であり、これが電磁界結合器などの交流結合器を通過すると、直流成分が失われて小振幅のパルス信号になる。受信器は、この小振幅パルス信号を、ヒステリシス比較器を用いてデジタル信号に復元する(特許文献1の段落0191および
図30)。ヒステリシス比較器は入力しきい値を変化させることができ、信号の変化がない場合(つまり同じデジタルデータが連続した場合)のノイズ耐性を高めることができる。50mV以上かつ信号振幅の1/3以下のヒステリシスが求められることが多い。
【0007】
市販のヒステリシス比較器IC(Integrated Circuit)チップを用いた場合、データ通信の高速化が困難である。一方でヒステリシスを持たない比較器は、汎用性が高いので、高速なICチップが市販されている。また、市販のヒステリシス比較器ICチップにおいて、ヒステリシス幅が不足する場合がある。
【0008】
また、比較器ICチップを車載に応用する場合は、部品が車載認定を受けたものでなければならない、しかしながら、ヒステリシス比較器ICチップで車載認定を受けたものは比較的少ない。一方、ヒステリシスを持たない比較器は、汎用性が高いので、車載認定を受けたものがより多く市販されている。よって、ヒステリシスを持たない比較器やヒステリシス幅が小さい比較器は入手が容易で有り、安価な構成とすることができる。
【0009】
本実施形態は、上記の課題に鑑みたものであり、ヒステリシスを持たない比較器やヒステリシス幅が小さいヒステリシス比較器を有するICチップを用いた場合でも、所望の特性を有するヒステリシス比較器、及び通信回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施の形態に係る通信回路は、基板と、前記基板に設けられた電磁界結合器と、前記電磁界結合器で受信された受信信号のレベルを比較する第1の比較器を有し、前記基板に実装された第1のICチップと、前記受信信号のレベルを比較する第2の比較器を有し、前記基板に実装された第2のICチップと、前記第2のICチップの出力を入力に正帰還する帰還ループと、を備えている。
【0011】
上記の通信回路において、前記第1のICチップが、前記第1の比較器の後段に配置されたシリアルパラレル変換器を有していてもよい。
【0012】
上記の通信回路において、前記帰還ループにキャパシタが設けられていてもよい。
【0013】
上記の通信回路において、前記帰還ループに抵抗が設けられていてもよい。
【0014】
本実施の形態に係る通信回路は、基板と、前記基板に設けられた電磁界結合器と、前記電磁界結合器で受信された受信信号のレベルを比較する比較器を有し、前記基板に実装されたICチップと、前記基板に設けられた第1キャパシタを有し、前記ICチップの出力を入力に正帰還する帰還ループと、前記電磁界結合器と前記ICチップとの間に配置された第2のキャパシタと、を備えている。
【0015】
本実施の形態に係る通信回路は、基板と、前記基板に設けられた電磁界結合器と、前記電磁界結合器で受信された受信信号のレベルを比較する比較器を有し、前記基板に実装されたICチップと、前記基板に設けられた抵抗を有し、前記ICチップの出力を入力に正帰還する帰還ループと、を備えている
【0016】
本実施の形態に係るヒステリシス比較器は、基板と、2つの入力信号のレベルを比較する第1の比較器を有し、前記基板に実装された第1のICチップと、前記2つの入力信号のレベルを比較する第2の比較器を有し、前記基板に実装された第2のICチップと、前記第2のICチップの出力を入力に正帰還する帰還ループと、を備えている。
【0017】
上記のヒステリシス比較器において、前記第1のICチップが、前記第1の比較器の後段に配置されたシリアルパラレル変換器を有していてもよい。
【0018】
上記のヒステリシス比較器において、前記帰還ループにキャパシタが設けられていてもよい。
【0019】
上記のヒステリシス比較器において、前記帰還ループに抵抗が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本実施の形態によれば、ヒステリシスのない比較器又はヒステリシス幅の小さい比較器を有するICチップを用いた場合でも、所望の特性を得ることができるヒステリシス比較器、及び通信回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態1にかかる通信回路の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1でのICチップの構成例を示すブロック図である。
【
図3】シミュレーションで算出されたヒステリシス幅HYSを示す図である。
【
図4】シミュレーションで算出されたヒステリシス幅HYSを示す図である。
【
図5】シミュレーションに用いた回路構成を示す図である。
【
図6】実施の形態1でのシミュレーション結果を示す波形図である。
【
図7】ICチップの構成例を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態2にかかる通信回路の構成を示すブロック図である。
【
図9】実施の形態2でのシミュレーション結果を示す波形図である。
【
図10】実施の形態3にかかる通信回路の構成を示すブロック図である。
【
図11】実施の形態3でのICチップの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態1にかかるヒステリシス比較器の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、通信回路1は、基板2と、ICチップ13と、バッファ14と、帰還ループ20p、20nと、抵抗21p、21nと、結合器31p、31nと、出力端子41p、41nと、抵抗51~54とを有している。基板2上には、結合器31p、31n、抵抗51~54、ICチップ13、バッファ14,及び抵抗21p、21nが設けられている。基板2は、各構成を接続するための配線が形成された配線基板である。
【0023】
なお、本実施の形態では、通信回路1が受信する信号が差動信号であるとして説明するが、通信回路1の一部又は全部がシングルエンド(片差動)信号を伝送するシングルエンド構成となっていてもよい。以下の説明において、差動信号を伝送する2つの構成要素(差動対)を識別する場合、p、又はnの添え字を付して説明する。差動信号を伝送する2つの構成要素を特に区別しない場合は、p、及びnを添え字を付さずに説明する。例えば2つの結合器31p、31nを識別しない場合、結合器31とする。また、抵抗21p、21n、及び出力端子41p、41nについても、差動対を識別しない場合、抵抗21、及び出力端子41と簡略化して記載する。
【0024】
結合器31は、例えば、特許文献1、2に示した電磁界結合器である。結合器31は、特許文献1の
図33,又は特許文献2の
図2等に示すように、基板2上の伝送線路で構成された伝送線路結合器である。結合器31は、通信相手となる通信回路(不図示)にも結合器31と同様の結合器が設けられている。結合器31は、例えば、電界および磁界で分布定数系として結合するように互い平行に配置された伝送線路とすることができる。あるいは、結合器31は、集中定数系として磁界結合(誘導結合)するように、重複配置されたコイル(誘導結合器)とすることができる。あるいは、結合器31は、集中定数系として電界結合(容量結合)するように、互い平行に配置された電極とすることができる。電磁界結合とは、電界及び磁界の少なくとも一方を用いた結合であればよい。
【0025】
通信回路1は、通信相手となる通信回路(不図示)との間で、例えば、半二重通信を行なう。通信回路1は、無線通信によりデータを送受信する通信装置となる。具体的には、通信回路1の結合器31は、通信相手となる通信回路の結合器と非接触で結合している。デジタル信号はNon Return to Zero信号(NRZ信号)であり、結合器31を通過すると、直流成分が失われて小振幅のパルス信号になる。よって、結合器31p、31nが受信した受信信号は、小振幅パルス信号となっている。本実施の形態にかかる通信回路1は、受信器の構成を技術的特徴の一つとしているため、受信側の構成についてのみ説明を行い、送信側の構成については省略する。また、通信回路1は、送信機能のない受信装置であってもよい。
【0026】
結合器31pの一端は、抵抗51と接続され、他端はICチップ13の非反転入力端子に接続される。結合器31nの一端は、抵抗52と接続され、他端はICチップ13の反転入力端子に接続される。結合器31pと結合器31nとの間には、抵抗51,52が接続されている。抵抗51,52は、結合器31pと結合器31nとを終端する終端抵抗である。
【0027】
ICチップ13は、基板2に実装された半導体チップである。ICチップ13は、受信器として機能する受信器チップである。具体的には、ICチップ13は、デジタル信号を復元するための半導体回路を有している。ICチップ13の構成に付いては、後述する。
【0028】
ICチップ13には、結合器31p、31nが受信した受信信号が入力される。ICチップ13は、受信したデータを復元する比較器を有している。つまり、比較器が2つの受信信号のレベルを比較することで、デジタル信号を復元する。結合器31pからの受信信号のレベルが結合器31nからの受信信号のレベルよりも高い場合、デジタル信号が1となり、低い場合0となる。ICチップ13に設けられた比較器はヒステリシス特性を備えていない比較器である。あるいは、ICチップ13に設けられた比較器は、ヒステリシス幅の小さい比較器であってもよい。
【0029】
ICチップ13の2つの入力端子の間には抵抗53、54が接続されている。抵抗53と抵抗54の間のノードは、終端電位Vbでバイアスされている。電源電圧をVDDとすると、例えば、Vb=VDD/2となっている。抵抗51~54の抵抗値は、結合器31又は伝送線路の特性インピーダンスZ0に対応し、典型的にはZ0=50Ωとなっている。
【0030】
ICチップ13の出力は、バッファ14に接続されている。よって、ICチップ13が復元したデジタル信号は、バッファ14に入力される。なお、バッファ14は、ICチップ13の出力振幅を電源電圧に増幅する。バッファ14は、受信信号を出力端子OUTP、OUTNに出力する。バッファ14の出力が受信データとして用いられる。ICチップ13とバッファ14は、それぞれ汎用の半導体チップを想定している。つまり、ICチップ13、及びバッファ14は、それぞれ市販チップであってもよい。なお、バッファ14は省略することも可能である。
【0031】
ICチップ13の入力と出力との間には帰還ループ20p、20nが設けられている。帰還ループ20p、20nは、ICチップ13の出力を入力に接続する。この接続は、デジタル信号の成分である波長に比べて十分に短い距離の範囲内で接続することが望ましい。
【0032】
帰還ループ20p、20nには、抵抗21p、21nがそれぞれ設けられている。帰還ループ20p、20nは基板2の配線と抵抗21とを有している。抵抗21p、21nは帰還抵抗である。つまり、ICチップ13の入力と出力とが抵抗21を介して接続されている。抵抗21pと抵抗21nの抵抗値は、同じ値であり、例えば、300Ωから3kΩである。ICチップ13からの出力は、抵抗21を介して、ICチップ13の入力に帰還する。帰還ループ20p、20nは、ICチップ13の出力を入力に正帰還する。なお、ICチップ13の入力電位をVIP、VINとし、出力電位をVOP、VONとする。
【0033】
ICチップ13、及びバッファ14の回路構成を
図2に示す。ICチップ13は比較器COMと、インバータINVを備えている。比較器COMは、ICチップ13の差動の入力端子INP、INNの入力電位VIP、VINのレベルを比較する。比較器COMの出力段には2段のインバータINVが設けられている。インバータINVの後段には抵抗56が設けられている。インバータINVはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)インバータである。また、バッファ14は2段のCMOSインバータを有している。
【0034】
ICチップ13の比較器COMに正極の差動信号が入力されると、比較器COMはVDDに近い振幅の正極の信号を出力する。この信号は、抵抗21を介して入力電位に正帰還を加える。たとえば、電圧VbがVDD/2のとき、比較器COMから出力された電流は、出力インピーダンスZ0(
図2の出力段のインバータINVと抵抗56のインピーダンスの合計)と、抵抗21の抵抗値Rと、2つの並列接続された終端抵抗Z0(等価抵抗値はZ0/2)と、を介して、終端電位Vb(つまりVDD/2)に流れる。従って、比較器COMの入力端子には、以下の式(1)で示される差動電圧v_hysが正帰還で追加される。
【0035】
v_hys=(VDD/2)*{(Z0/2)/((Z0/2)+R+Z0)}
=VDD*{1/(6+(4R/Z0))} ・・・(1)
【0036】
例えば、VDD=1.8Vとすると、R=1kΩでv_hys=21mVとなり、R=0.5kΩでV_hys=39mVとなる。VDD=±5VでVb=0Vの場合、70mVのヒステリシス幅を得るには、Rは約1.7kΩとなる。
【0037】
その結果、入力端子INP、INNにそれ以上の振幅の負極の差動信号が入力しない限り、比較器COMの出力は反転しない。つまり、比較器COMの入力しきい値がヒステリシスを備えたことになる。Rの値を変えることで、入力しきい値のヒステリシス幅を調整できる。
【0038】
VDD=1.8V,Vb=0.9Vとして、抵抗21p、21nの抵抗値Rを変えたときのシミュレーション結果を
図3、
図4に示す。
図3、
図4は、
図5に示す回路構成でシミュレーション結果を行ったときのヒステリシス幅HYSを示している。
図3,
図4に示すように、抵抗21p、21nの抵抗値Rに応じたヒステリシス幅HYSを得ることができる。
【0039】
図6はR=0.5kΩとしたときの過渡応答を示すシミュレーション結果である。ここでは、結合器31を用いて受信した受信信号を比較器に入力したときの入力電位と出力電位を示している。VIは入力電位VIP、VINの波形を示し、VOは出力電位VOP、VONの波形を示している。本実施の形態の構成によれば、比較器COMの入力信号に正帰還された信号成分が加わることになる。よって、適切に、比較器COMが受信信号のレベルを比較することができる。
【0040】
一般的なヒステリシス比較器では入力しきい値が入力信号の反対極性に変化するのに対して、本実施形態では、上記のように、入力信号の信号成分が入力信号と同一極性に追加される。この結果、ICチップ13は、ヒステリシス比較器と同等の効果(ノイズ耐性)を得ることができる。受信器となるICチップ13が、結合器31からの受信信号を比較することで、適切にデータを復元することができる。ICチップ13は、小振幅パルス信号から適切にデータを復元することができる。よって、ノイズ耐性が高く、高速なデータ通信が可能となる。
【0041】
本実施の形態の構成によれば、ヒステリシスのない比較器COMを有するICチップ13を用いた場合でも、適切なヒステリシス幅を設けることが可能となる。換言すると、必要とされるヒステリシス幅に応じた抵抗値を有する抵抗21p、21nを帰還ループ20p、20nに配置すればよい。例えば、基板2上に実装する抵抗素子(チップ抵抗やリード抵抗等)の抵抗値Rを変えることで、所望のヒステリシス幅を有するヒステリシス比較器を実現することができる。また、比較器COMはヒステリシスのない比較器に限らず、ヒステリシス幅が小さいヒステリシス比較器であってもよい。このような場合でも、帰還ループ20に抵抗21を設けることで、ヒステリシス幅を広くすることができる。よって、所望のヒステリシス特性を得ることができる。
【0042】
ICチップ13としては、汎用チップを用いることができる。ヒステリシスのない比較器を受信回路として用いたICチップは、種々のものが市販されている。さらに、このようなICチップは、車載認定を受けたチップとしても市販されており、入手が容易である。したがって、入手が容易なICチップ13を受信器として用いた場合であっても、デジタル信号を適切に復元することができる。よって、安価な市販部品でヒステリシス比較器、及び受信回路を製造することができる。専用のICチップの開発、製造が不要となり、低コストなヒステリシス比較器、及び通信回路を実現できる。また、車載用通信回路を安価に製造することができる。ヒステリシスのない比較器又はヒステリシス幅の小さい比較器を有するICチップ13を用いた場合でも、所望の特性を得ることができるヒステリシス比較器、及び通信回路1を実現することができる。
【0043】
なお、シングルエンド構成の場合、結合器31が一つとなる。比較器は、結合器31からの入力信号を、基準電圧と比較する。つまり、ICチップ13への2つの入力信号の一方が結合器31からの受信信号となり、他方が基準電圧となる。ICチップ13は、入力信号のレベルを基準電圧と比較して、デジタル信号を復元する。
【0044】
図7は、受信チップとしてのICチップ13の構成例を示すブロック図である。ICチップ13は、等価器131、受信回路132、CDR(クロックデータリカバリ)回路、及び出力回路134を備えている。
【0045】
等価器131は、受信信号の周波数特性を調整する回路である。例えば、等価器131は、高周波成分を増幅する周波数フィルタなどを有している。受信回路132は、例えば
図2に示したヒステリシスのない比較器COMを有している。また、受信回路132は、出力段のインバータINVを有していてもよい。受信回路132は、2つの受信信号のレベルを比較することで、データを復元する。CDR(クロックデータリカバリ)回路は、データにクロックが重畳されている受信信号のクロックとデータを分離する回路である。出力回路134は、例えば、
図2に示した2段のインバータINVを有している。
【0046】
このようなICチップ13を受信チップとして用いた場合であっても、受信回路132が小振幅パルス信号から適切にデータを復元することができる。よって、所望のヒステリシス特性を有するヒステリシス比較器を用いてデータを復元することができため、高速なデータ通信が可能となる。
【0047】
実施の形態2.
本実施の形態について、
図8を用いて説明する。
図8は、通信回路1の構成を示すブロック図である。本実地の形態では、帰還ループ20p、20nにキャパシタ22p、22nが設けられている。つまり、
図2の抵抗21p、21nがそれぞれキャパシタ22p、22nに置き換わっている。さらに、結合器31とICチップ13との間の伝送線路に、キャパシタ63p、63nが設けられている。なお、キャパシタ22p、22n、及びキャパシタ63p、63n以外の基本的な構成については、実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0048】
キャパシタ22p、22nはそれぞれ帰還ループ20p、20nに配置されている。つまり、ICチップ13の入力と出力とがキャパシタ22を介して接続されている。
【0049】
キャパシタ63p、63nは、ICチップ13の入力側に配置されている。つまり、キャパシタ63pは、結合器31pとICチップ13の非反転入力端子との間に配置されている。キャパシタ63nは、結合器31nとICチップ13の反転入力端子との間に配置されている。キャパシタ63p、63nは帰還ループ20p、20nの外側に設けられている。キャパシタ63p、63nは、結合器31p、31nが受信した受信信号は、ICチップ13に伝送する。つまり、結合器31pが受信した受信信号が、キャパシタ63pを介して、ICチップ13の非反転入力端子に入力される。結合器31nが受信した受信信号が、キャパシタ63nを介して、ICチップ13の反転入力端子に入力される。
【0050】
本実施形態ではキャパシタ22p、22nによる正帰還を用いている。つまり、帰還ループ20p、20nは、実施の形態1と同様にICチップ13の入力を出力に正帰還する。よって、通信回路1は、実施形態1と同様に動作をするため、同様の効果を得ることができる。
【0051】
キャパシタ22p、22nの容量値をCとし、キャパシタ63p、63nの容量値をC1とする。結合器31の出力パルス信号の振幅をVc、ICチップ13の出力からキャパシタ22p、22nで正帰還される信号の振幅をVfbとする。ICチップ13の入力のノードで電荷が保存されるため、ICチップ13の入力電位VinをVc、Vfbで表すと、以下の式(2)となる。
C1(Vin-Vc)+C(Vin-Vfb)=0 ・・・(2)
【0052】
式(2)をVinで解くと、式(3)のようになる。
Vin=Vc/{(1+(C/C1))+Vfb/{(1+(C1/C)) ・・・(3)
【0053】
従って、比較器の入力しきい値のヒステリシス幅をC1/Cで調整することができる。例えば、VDD-=1.8Vのとき、C1=1nF、C=23pFとすると、v_hys=40mVとなる。VDDが±5Vで、Vb=0Vの場合に、70mVのヒステリシス幅を得るためには、C1=1nF、C=7pFとなる。ここでは、容量値C1を容量値Cよりも大きくしている。
【0054】
キャパシタ22pとキャパシタ22nは同じ容量値Cを有している。キャパシタ63pとキャパシタ63nは同じ容量値C1を有している。容量値C1は容量値Cよりも大きくなっていることが好ましい。容量値C1と容量値Cの比(C1/C)は、10~1000とすることが好ましい。つまり、容量値C1は容量値Cの10倍から1000倍程度とすることが好ましい
【0055】
なお、比較器の入力同相電位を定めるために、ICチップ13の入力に抵抗53,54でVbにバイアスしている。抵抗53、54の抵抗値rは、上記電荷の保存の時定数で決めることができる。例えば、時定数を1μsecにしたければ、C1=1nFのとき、rは約1kΩとなる
【0056】
図9は、C1=400pF、C=12pF、r=2kΩとしたときの過渡応答を示すシミュレーション結果である。
図9は、5Gpsで信号を伝送したときの波形図を示している。ここでは、結合器31を用いて受信した受信信号を比較器に入力したときの、入力電位VIP、VONと出力電位VOP、VONの波形を示している。本実施の形態の構成によれば、比較器COMの入力信号に正帰還された信号成分が加わることになる。よって、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0057】
実施の形態3.
実施の形態3について、
図10を用いて説明する。
図10は、実施の形態3にかかる通信回路1の構成を示すブロック図である。なお、実施の形態3では、実施の形態1の構成にICチップ70が追加されている。つまり、基板2には、2つのICチップ13,及びICチップ70が実装されている。さらに、実施の形態3では、帰還ループ20p、20nがICチップ13ではなく、ICチップ70に設けられている。本実施の形態では、ICチップ70を用いることでICチップ13の比較器COMにヒステリシスを持たせている。
【0058】
実施の形態1と同様の構成については適宜説明を省略する。例えば、結合器31は実施の形態1と同様である。また、抵抗57は、抵抗51,52に対応し、抵抗58は抵抗53,54に対応する。よって、これらの構成については、説明を省略する。
【0059】
結合器31p、31nはICチップ13に接続されている。結合器31pはICチップ13の非反転入力端子と接続され、結合器31nはICチップ13の反転入力端子と接続されている。ICチップ13は、実施の形態1と同様に、ヒステリシスのない比較器COMを有している。よって、ICチップ13の結合器31p、31nからの差動の受信信号の電圧レベルを比較する。
【0060】
結合器31pとICチップ13の非反転入力端子との間には、分岐ノードBPが設けられている。分岐ノードBPは、ICチップ70の非反転入力端子に接続されている。結合器31nとICチップ13の反転入力端子との間には、分岐ノードBNが設けられている。分岐ノードBNは、ICチップ70の反転入力端子に接続されている。よって、ICチップ70には、結合器31p、31nからの受信信号が入力される。つまり、結合器31pからの受信信号は分岐ノードBPを介して、ICチップ70に入力される。結合器31nからの受信信号は分岐ノードBNを介して、ICチップ70に入力される。
【0061】
ICチップ70は
図2のICチップ13と同様の構成を有している。ICチップ70は、ヒステリシスのない比較器COMを有している。ICチップ70の比較器COMは、結合器31からの2つの受信信号のレベルを比較する。帰還ループ20p、20nは、ICチップ70の出力を入力に帰還している。帰還ループ20pには、抵抗21pが設けられ、帰還ループ20nには抵抗21nが設けられている。したがって、帰還ループ20p、20nは、ICチップ70の出力と入力とに抵抗21p、21nで正帰還を与えている。
【0062】
さらに、ICチップ70の出力は、帰還ループ20p、20n、及び分岐ノードBP、BNを介して、ICチップ13の入力に接続される。したがって、ICチップ13の入力信号に正帰還された信号成分が加わることになる。本実施の形態では、ICチップ70を用いて、ICチップ13の比較器にヒステリシス幅を持たせることができる。これにより、実施の形態1、2と同様に、ICチップ13が適切にデジタル信号を復元することができる。
【0063】
例えば、ICチップ13がシリアルパラレル変換器(以下、S/P変換器とする)を備える場合、比較器COMの出力がシリアルパラレル変換された後に、ICチップ13から出力される。この場合、ICチップ13の出力から入力に抵抗21p、21nで正帰還を与えることができなくなる。これに対して、本実施の形態では、ICチップ13として、S/P変換器を有する受信器チップを用いることができる。ICチップ13がシリアルパラレル変換器を有する場合であっても、ICチップ13の比較器にヒステリシスを持たせることができる。
【0064】
あるいは、ICチップ70の比較器COMは、ICチップ13の比較器よりもデータの転送速度が遅くなっていてもよい。このような場合であっても、ICチップ13の比較器にヒステリシスを与えることができる。あるいは、ICチップ13の信号伝搬遅延tpdが結合器31のデータ転送のサイクル時間に比べて遅い場合に、信号伝搬遅延tpdの速いICチップ70を用いることで、ヒステリシスを適切に与えることができる。
【0065】
なお、
図10では、抵抗21を用いて帰還ループ20を構成したが、実施の形態2にように容量を用いて帰還ループを構成してもよい。この場合、
図8に示すようなキャパシタ22、及びキャパシタ63をICチップ70に設ければよい。
【0066】
図11は、ICチップ13とICチップ70の構成を示すブロック図である。ICチップ70は、
図2のICチップ13と同様の構成を有している。すなわち、ICチップ70の等価器171、受信回路172、CDR回路173、出力回路174は
図2の等価器131、受信回路132、CDR回路133、及び出力回路134と同様である。このため、ため説明を省略する。受信回路172は
図2のようにヒステリシスのない比較器である。ICチップ70はS/P変換器を有していない受信チップである。
【0067】
ICチップ13は、
図2のICチップ13に対して、S/P変換器135が追加されている。受信回路132は
図2のようにヒステリシスのない比較器COMである。S/P変換器135は、受信回路132の後段に配置されており、受信回路132で復元されたデータをシリアルパラレル変換する。
【0068】
例えば、S/P変換器135は、シフトレジスタなどを備えている。S/P変換器135は、CDR回路133で分離されたクロック信号に応じて、データを順次保持していき、パラレルデータに変換する。S/P変換器135で変換されたパラレルデータがICチップ13から出力される。なお、
図11では、説明の簡略化のため、パラレルデータを2ビットとしているため、4つの出力端子OUT1P、OUT1N、OUT2P、OUT2Nのみが示されているが、パラレルデータのビット長は3ビット以上であってもよい。
【0069】
本実施の形態では、ICチップ13,及びICチップ70が汎用の半導体チップとすることができる。つまり、ヒステリシスを有していない比較器を有するICチップを2つ用意して、基板2上に実装する。ICチップ13,及びICチップ70として、入手が容易な市販の受信チップを用いることができるため、ヒステリシス比較器、及び通信回路を安価に実現することができる。ICチップ13,及びICチップ70の比較器は、ヒステリシスを有していない比較器に限らず、ヒステリシス幅の小さい比較器であってもよい。
【0070】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0071】
この出願は、2019年4月24日に出願された日本出願特願2019-82616を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0072】
1 通信回路
2 基板
13 ICチップ
14 バッファ
20p 帰還ループ
20n 帰還ループ
21p 抵抗
21n 抵抗
31p 結合器
31n 結合器
41p 出力端子
41n 出力端子
51 抵抗
52 抵抗
53 抵抗
54 抵抗
70 ICチップ
131 等価器
132 受信回路
133 CDR回路
134 出力回路
135 S/P変換器