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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】CD127に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20230803BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C07K16/28
A61K39/395 U
A61P1/04
A61P3/10
A61P5/14
A61P11/00
A61P17/00
A61P19/02
A61P25/00
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61P37/08
C12N15/13 ZNA
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2017517406
(86)(22)【出願日】2015-06-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2015062993
(87)【国際公開番号】W WO2015189302
(87)【国際公開日】2015-12-17
【審査請求日】2018-06-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/010,117
(32)【優先日】2014-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15305078.6
(32)【優先日】2015-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516371254
【氏名又は名称】オセ イムノセラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス ポイリエル
(72)【発明者】
【氏名】カロリネ マリ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルド バンホベ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】牧野 晃久
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-530533(JP,A)
【文献】特表2013-517799(JP,A)
【文献】特表2013-522170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 15/90
C07K 1/00- 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GeneBank/DDBJ/EMBL/GeneSeq
UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD127に特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片であって、該抗体又はその抗原結合性断片が、
以下のアミノ酸配列:
・VHCDR1配列番号10;
・VHCDR2配列番号12;及び
・VHCDR3配列番号14もしくは配列番号48
を含むVH鎖、及び
以下のアミノ酸配列:
・VLCDR1配列番号16もしくは配列番号50;
・VLCDR2配列番号18もしくは配列番号52;及び
・VLCDR3配列番号20
を含むVL鎖を含む、前記抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
-配列番号2及び配列番号4、又は
-配列番号6及び配列番号8、又は
-配列番号54及び配列番号56、又は
-配列番号22及び配列番号24、又は
-配列番号36及び配列番号42、又は
-配列番号38及び配列番号44、又は
-配列番号40及び配列番号46
からなる群からの重鎖及び軽鎖を含む、請求項1記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させない、請求項1又は2記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
キメラ抗体又はヒト化抗体又は脱免疫化抗体である、請求項1~3のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片を含むキメラ分子である巨大分子であって、
該抗体、断片が機能的に異なる分子と関連しており、該キメラ分子が融合キメラタンパク質か、又は化学基もしくは生物学的分子の共有結合によって得られるコンジュゲートかのどちらかである、前記巨大分子。
【請求項6】
前記コンジュゲートの分子が、PEGポリマーもしくは標識である、請求項5記載の巨大分子。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体もしくはその抗原結合性断片又は請求項5もしくは6記載の巨大分子の、重鎖及び軽鎖をコードする、核酸分子又は核酸分子の組合せであって、
該核酸分子が、
-配列番号2及び配列番号4、又は
-配列番号6及び配列番号8、又は
-配列番号22及び配列番号24、又は
-配列番号36及び配列番号42、又は
-配列番号38及び配列番号44、又は
-配列番号40及び配列番号46、又は
-配列番号54及び配列番号56
からなる群から選択されるアミノ酸をコードする、前記核酸分子又は核酸分子の組合せ。
【請求項8】
前記核酸分子が、
-配列番号1及び配列番号3、又は
-配列番号5及び配列番号7、又は
-配列番号21及び配列番号23、又は
-配列番号35及び配列番号41、又は
-配列番号37及び配列番号43、又は
-配列番号39及び配列番号45、又は
-配列番号53及び配列番号55
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むか又はこれらからなる、請求項7記載の核酸分子又は核酸分子の組合せ。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体もしくはその抗原結合性断片又は請求項5もしくは6記載の巨大分子をコードする、核酸分子又は核酸分子の組合せであって、
抗体もしくはその抗原結合性断片又は巨大分子が、
(i) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号14、及び配列番号16、及び配列番号18、及び配列番号20;又は
(ii) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号14、及び配列番号50、及び配列番号18、及び配列番号20;又は
(iii) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号14、及び配列番号16、及び配列番号52、及び配列番号20;又は
(iv) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号14、及び配列番号50、及び配列番号52、及び配列番号20;又は
(v) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号48、及び配列番号16、及び配列番号18、及び配列番号20;又は
(vi) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号48、及び配列番号50、及び配列番号18、及び配列番号20;又は
(vii) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号48、及び配列番号16、及び配列番号52、及び配列番号20、又は
(viii) 配列番号10、及び配列番号12、及び配列番号48、及び配列番号50、及び配列番号52、及び配列番号20
のアミノ酸を含むVH鎖及びVL鎖を含む、前記核酸分子又は核酸分子の組合せ。
【請求項10】
前記核酸分子が、
(i) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号15、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(ii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号49、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(iii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号15、及び配列番号51、及び配列番号19;又は
(iv) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号49、及び配列番号51、及び配列番号19;又は
(v) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号15、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(vi) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号49、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(vii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号15、及び配列番号51、及び配列番号19;又は
(viii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号49、及び配列番号51、及び配列番号19
のヌクレオチド配列を含む、請求項9記載の核酸分子又は核酸分子の組合せ。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片、又は請求項5もしくは6記載の巨大分子、又は請求項7~10のいずれか一項記載の核酸分子又は核酸分子の組合せを医薬ビヒクルとともに含む、医薬組成物。
【請求項12】
異なる活性成分、治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物、又は自己免疫疾患、アレルギー疾患、白血病、急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、癌疾患、慢性ウイルス感染、炎症性疾患、移植、呼吸器疾患、もしくは自己免疫に関与する細胞に対して治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物をさらに含む、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
患者における併用治療レジメンの治療又は追加治療レジメンの治療のための医薬組成物であって、
治療活性成分として、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片、又は請求項5もしくは6記載の巨大分子、又は請求項7~10のいずれか一項記載の核酸分子又は核酸分子の組合せを含む、前記医薬組成物。
【請求項14】
異なる活性成分、治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物、又は自己免疫疾患、アレルギー疾患、白血病、急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、癌疾患、慢性ウイルス感染、炎症性疾患、移植、呼吸器疾患、もしくは自己免疫に関与する細胞に対して治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物をさらに含む、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
患者における併用治療レジメン又は追加治療レジメンに使用する医薬品の製造のための治療活性成分としての、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片、又は請求項5もしくは6記載の巨大分子、又は請求項7~10のいずれか一項記載の核酸分子又は核酸分子の組合せ、又は請求項11~14のいずれか一項記載の医薬組成物の使用。
【請求項16】
移植を必要としている及び/又はもうすぐ移植を受ける患者、及び/又は移植を受けた患者、及び/又は疾患を有するか、或いは該疾患のリスクがある患者の治療のための医薬組成物であって、
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片、又は請求項5もしくは6記載の巨大分子、又は請求項7~10のいずれか一項記載の核酸分子又は核酸分子の組合せを含む、前記医薬組成物。
【請求項17】
自己免疫疾患、関節リウマチ、多発性硬化症、I型糖尿病、自己免疫甲状腺炎、もしくは狼瘡、又は炎症性疾患、炎症性腸疾患(IBD)、もしくは脳脊髄炎、又はアレルギー疾患、又は癌疾患、又は呼吸器疾患、又は移植に関連する疾患からなる群から選択される疾患の治療のための医薬組成物であって、
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片、又は請求項5もしくは6記載の巨大分子、又は請求項7~10のいずれか一項記載の核酸分子又は核酸分子の組合せを含む、前記医薬組成物。
【請求項18】
異なる活性成分、治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物、又は自己免疫疾患、アレルギー疾患、白血病、急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、癌疾患、慢性ウイルス感染、炎症性疾患、移植、呼吸器疾患、もしくは自己免疫に関与する細胞に対して治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物をさらに含む、請求項16又は17記載の医薬組成物。
【請求項19】
移植を必要としている及び/又はもうすぐ移植を受ける患者、及び/又は移植を受けた患者を治療するための、及び/又は疾患を有するか、或いは該疾患のリスクがある患者を治療するための医薬品の製造のための、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片、又は請求項5もしくは6記載の巨大分子、又は請求項7~10のいずれか一項記載の核酸分子又は核酸分子の組合せ、又は請求項11~14のいずれか一項記載の医薬組成物の使用。
【請求項20】
前記疾患が、自己免疫疾患、関節リウマチ、多発性硬化症、I型糖尿病、自己免疫甲状腺炎、もしくは狼瘡、又は炎症性疾患、炎症性腸疾患(IBD)、もしくは脳脊髄炎、又はアレルギー疾患、又は癌疾患、又は呼吸器疾患、又は移植に関連する疾患からなる群から選択される、請求項19記載の使用。
【請求項21】
抗体を製造する方法であって、
-配列番号1及び配列番号3、又は
-配列番号5及び配列番号7、又は
-配列番号21及び配列番号23、又は
-配列番号35及び配列番号41、又は
-配列番号37及び配列番号43、又は
-配列番号39及び配列番号45、又は
-配列番号53及び配列番号55
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むか又はこれらからなるポリヌクレオチドを、低いフコシル化特性を示す細胞で、抗体の回収を可能にする条件で発現させること、及び
IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達のアンタゴニストである抗体を回収すること
を含む、前記方法。
【請求項22】
抗体を製造する方法であって、
(i) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号15、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(ii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号49、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(iii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号15、及び配列番号51、及び配列番号19;又は
(iv) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号13、及び配列番号49、及び配列番号51、及び配列番号19;又は
(v) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号15、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(vi) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号49、及び配列番号17、及び配列番号19;又は
(vii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号15、及び配列番号51、及び配列番号19;又は
(viii) 配列番号9、及び配列番号11、及び配列番号47、及び配列番号49、及び配列番号51、及び配列番号19
のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを、低いフコシル化特性を示す細胞で、抗体の回収を可能にする条件で発現させること、及び
IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達のアンタゴニストである抗体を回収すること
を含む、前記方法。
【請求項23】
前記抗体が請求項1~4のいずれか一項記載の抗体である、請求項21又は22記載の抗体を製造する方法。
【請求項24】
前記低いフコシル化特性を示す細胞が、鳥類EB66細胞である、請求項21~23のいずれか一項記載の抗体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD127又はp90 IL-7R又はIL-7Rアルファ又はIL-7Rαと表される-IL-7Raと記されることもある-インターロイキン7(IL-7)の受容体のアルファサブユニット、特に、ヒト細胞上に発現されるヒトIL-7の受容体のアルファ鎖に対する抗体の分野に関する。これらの抗体は、IL-7-IL-7R相互作用に対するアンタゴニスト特性を有し、CD127陽性細胞に対する細胞傷害活性を提示し得るが、同じくその受容体の一部としてCD127を用いるサイトカインであるTSLPによって誘導される樹状細胞(DC)の成熟を増大させない。代わりに、又はさらに、これらの抗体は、CD127の内在化を誘導せず、及び/又はIL7誘導性のCD127内在化を阻害する。本発明の別の態様によれば、CD127の2b部位由来の配列を含むヒトCD127エピトープを認識する抗体が提供され、特に、該エピトープは、ドメインD1のヒトCD127配列及びCD127の2b部位のヒトCD127配列を含み、特に、該エピトープは、配列番号115(特に、配列番号110を含む)を含むD1由来の少なくとも1つの配列及び配列番号116の配列を含む2b部位由来の配列を含み、かつ任意に、配列番号117(特に、配列番号111を含む)も含む。
【0002】
したがって、本発明の抗体は、IL-7シグナル伝達経路がリンパ球産生に関連する病因に寄与するとき、とりわけ、樹状細胞の成熟、より正確には、樹状細胞の共刺激分子の上方調節の増大が望ましくない場合、ヒト患者で診断される該病因に起因する状態を改善するための使用に好適である。
【背景技術】
【0003】
(生化学)
CD127は、IL-7受容体(IL-7R)とTSLP受容体(TSLPR)に共通している。IL-7Rは、CD127とインターロイキン受容体の共通ガンマ鎖(γc)のヘテロ二量体から構成される。共通ガンマ鎖γcは、本明細書において及び文献において、CD132と呼ばれることもある。IL-7Rは、インターロイキン7によって結合される。TSLP受容体は、CD127とサイトカイン受容体様因子2(CRLF2)のヘテロ二量体である。TSLP受容体はTSLPによって結合される。文献では、TSLPRを用いて、この受容体のCRLF2鎖とCD127/CRLF2複合体の両方を表すこともある。混乱を避けるために、以下において、TSLPRは、通常、この複合体を表す。
【0004】
CD127(Swiss Protアクセッション番号P16871)は4つのアイソフォームで存在し得る。H20(Swiss Prot P16871.1)とも呼ばれる標準的アイソフォームは、1回膜貫通タンパク質であり、N-末端からC-末端にかけて、20アミノ酸のシグナルペプチド、219アミノ酸の細胞外ドメイン、25アミノ酸の膜貫通ドメイン、及び195アミノ酸の細胞内ドメインからなる459個のアミノ酸を有する。他のアイソフォームは、H20の細胞外ドメインの全て(又は大部分)の配列を共有し、様々に異なるC-末端配列を示す。アイソフォーム2及び4(Swiss Prot P16871-4及びP16871-3)は分泌され、一方、アイソフォーム3(Swiss Prot P16871-2)も膜貫通タンパク質である。シグナルペプチドのないCD127の配列は、本明細書において、配列番号57として提供される。本出願においてCD127の付番されたアミノ酸に言及するとき、該配列は、付番の基準としての役割を果たす。CD127は、配列番号113の配列を有することが報告されており、その細胞外ドメインは、シグナルペプチドが除去されたとき、配列番号114の配列を有する。別途明記されない限り、CD127のアミノ酸に対して本明細書で使用される付番は、配列番号114からの付番である。
【0005】
CD127は、サイトカイン受容体相同性クラスI(CRH I)受容体である。当技術分野で周知の通り、これらの受容体の細胞外ドメインは、D1及びD2と呼ばれる2つのフィブロネクチン3ドメインからなる。CD127の正確な結晶構造は、例えば、McElroyらの文献(2009); McElroyらの文献(2012)、及びWalshの文献(2012)で発表され、考察されており、特に、タンパク質構造データとして、構造バイオインフォマティクス研究共同体データバンク(Research Collaboratory for Structural Bioinformatics Protein Data Bank)(RCSB PDB)のデータベースに、3UP1というアクセッション番号で開示されている。D1は、IL-7との結合に関与すると一般に考えられるが、D2は、γc鎖との(さらには、IL-7との)結合に関与する。重要なことに、本質的に配列番号114のアミノ酸109~127からなるドメインD2の部位2b(Walshの文献、2012参照)は、特に、IL-7の存在下でのCD127とγcとの結合を可能にし又は該結合を増大させるCD127-γc相互作用にとって極めて重要である。特に、重症複合免疫不全(SCID)に罹患している患者で同定されているP112及びL115における突然変異は、おそらくその病原性特徴をもたらすD2ドメインの疎水性コアを不安定にすると考えられる。上述のように、この2b部位は、本質的にアミノ酸109~127からなり;当業者であれば、そのようなドメインの両端を1塩基の確度で必ずしも明確には規定し得ないということ、及びこの2b部位を、言及された配列のどちらか又は両方の末端で、1つ、2つ、もしくは3つ多い又は1つ、2つ、もしくは3つ少ないアミノ酸を含むものであると理解し得るということを認識しているであろう。それゆえ、本明細書においてCD127の2b部位に言及するとき、これは、位置106、107、108、109、110、111、又は112から始まり、位置124、125、126、又は127で終わるCD127の配列;具体的には、特に、IL-7の存在下で、IL7-Rのγc鎖との本質的な結合部位を構成すると考えられるか又はそれが示されるような配列を指すものであると理解すべきである。
【0006】
(IL-7Rシグナル伝達)
IL-7のIL-7Rへの結合は、Janusキナーゼ(JAK)-1及び-3、シグナル伝達兼転写活性化因子5(STAT5)、及びホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3-k)を含む、いくつかのシグナル伝達経路の活性化を誘発する。STAT1及びSTAT3経路が活性化されることが報告されているが、それらは主要な経路ではないように思われる。STAT5経路の活性化は、抗アポトーシスタンパク質Bcl-2の誘導及びアポトーシス促進性タンパク質Baxのミトコンドリアへの侵入の防止に必要とされ、したがって、胸腺で発生するT細胞前駆細胞の生存に必要とされる。PI3-k経路の活性化は、アポトーシス促進性タンパク質Badのリン酸化及び細胞質保持をもたらす。
【0007】
(TSLPRシグナル伝達)
胸腺間質性リンホポイエチン(TSLP)は、リンパ球産生に活性があり、特に、免疫系の細胞の発生の調節に関与する上皮細胞サイトカインであり、該調節は、特に、該細胞の成熟に影響を及ぼす。ヒトTSLP(Genbankアクセッション番号AF338732)は、樹状細胞の分極化を働かせ、T細胞及びB細胞の増殖及び分化を促進する因子である。TSLPはまた、Treg細胞の発生を抑制する(Leiらの文献、2011)。
【0008】
TSLP誘導性シグナル伝達経路は、分子レベルで、IL-7誘導性経路とは異なることが示されている。特に、その受容体へのTSLPの結合はJak-1も活性化させるが、それは、Jak-3を活性化させることはなく、しかし、Jak-2を活性化させる。これらの違いは、Jak-1が両方の受容体によって共有されるCD127と関連し、一方、Jak-2がCRLF2と関連し、Jak-3がγcと関連するという観察と一致している(Rochmanらの文献、2010)。STAT5経路の活性化もTSLP誘導性シグナル伝達について報告されている(Zhongらの文献、2014)。TSLPの1つの主要な作用は、樹状細胞の活性化をもたらし、CD80などの共刺激分子の過剰発現を誘導し、それにより、TH-2媒介性炎症応答を促進することである(Recheらの文献、2001)。
【0009】
(細胞生物学)
「CD127陽性細胞」は、その細胞表面でCD127を発現する細胞を表す。ほとんどの場合、CD127陽性細胞は、IL-7Rを形成する複合体中に(IL-7R陽性細胞)及び/又はTSLPRを形成する複合体中に(TSLPR陽性細胞)、CD127を発現する。CD127は、様々な細胞によって発現され、これには、メモリーT細胞とナイーブT細胞によるものが含まれる。CD127は、特に、休止T細胞及びメモリーT細胞を含むエフェクターT細胞(Teff)によって、並びに未成熟B細胞によって発現されるが、とりわけ、休止ナチュラル調節性T細胞(ナチュラルTreg)によっては発現されない。IL-7Rαは、胸腺細胞の分化及びリンパ球のクローン性増殖の促進に不可欠である。
【0010】
ナイーブT細胞の恒常性にとってのIL7-CD127経路の重要性は、従来型CD4 T細胞上での膜結合型IL-7Rαの発現レベルが、健常個体及びHIV感染患者並びにMS患者における新胸腺移出細胞(RTE)-CD4 T細胞の頻度と相関することを示すいくつかの最近の研究によって強調されている(Albuquerqueらの文献、2007)(Brouxらの文献、2010)。IL-7Rαは、TSLP受容体の構成要素でもある。胸腺髄質の上皮細胞から構成される構造であるハッサル小体によるTSLPの分泌は、胸腺細胞からTregへの分化を誘導するように、CD11c骨髄樹状細胞(MDC)を条件付けることが示されている(Watanabeらの文献、2005a)。したがって、IL-7Rαノックアウトマウスで示されたように、IL-7受容体からのシグナルは、Treg発生に必要とされる(Mazzucchelliらの文献、2008)。(Haasらの文献、2011)において、著者らは、明確な遺伝的影響を伴わない、従来型T細胞上でのIL-7Rα発現の低下及びIL-7血漿レベルの上方調節を、MSにおける新胸腺移出細胞-Tregの頻度及びTregの機能の低下とともに示した(Haasらの文献、2011)。
【0011】
IL-7がその同族受容体の膜トラフィッキングをどのようにして調節するのかということの詳細な解析は、リンパ球機能におけるIL-7/IL-7Rの役割の深い理解にとって極めて重要である。以前の研究により、T細胞のIL-7刺激が、おそらくは受容体内在化が理由で、30分以内にCD127の表面下方調節をもたらすことが示唆された。より後の時点(2~6時間)で、IL-7は、CD127の転写下方調節を誘導することが示された。しかしながら、IL-7によるCD127の内在化及びトラフィッキング機構の調節の実際の動力学はまだ解明されていない(Henriquesらの文献、2010)。IL-7誘導性シグナル伝達がCD127内在化に依存するということ及びその後の受容体分解がJAK3活性に依存し、かつプロテアソームとリソソームの両方によって媒介されるということも示唆された。
【0012】
(生理病理学)
樹状細胞は、成熟後に、T細胞媒介性免疫応答を促進する高レベルの共刺激分子、例えば、CD80を発現する。それらは、T細胞で走化性を誘導する、TARC(CCL17)というサイトカインを産生する。したがって、成熟樹状細胞は、例えば、喘息、関節リウマチ、結腸炎、多発性硬化症、及びブドウ膜炎で見られるような、T細胞応答が効果を現すいくつかの免疫媒介疾患の生理病理学に寄与する。成熟樹状細胞は、細胞、組織、又は臓器同種移植片の拒絶過程においても重要な役割を果たす。それゆえ、多くの治療戦略は、樹状細胞成熟を妨げることを目的としている。
【0013】
樹状細胞などの抗原提示細胞(APC)上での共刺激分子の有無は、免疫応答の定性的及び定量的性質に顕著な影響を及ぼす。樹状細胞によるCD80の過剰発現は、DC成熟を引き起こし、メモリーT細胞活性化を増大させる(Bour-Jordanらの文献、2011)。機構的には、CD28とCD80との相互作用は、免疫シナプスの中心クラスターを占め、結合したTCRと共局在し、それにより、免疫シナプスを安定化する(Dustin及びShawの文献、1999)(Grakouiらの文献、1999)。CD28とCD80の間の相互作用は、実際、TCRがHLA分子と効率的に相互作用するための適切な間隔を生じさせる(Shaw及びDustinの文献、1997)。
【0014】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄性疾患である。MS患者のCNSにおける脱髄パッチの出現は、主にマクロファージとTリンパ球から構成される免疫浸潤物と関連している。機構的なレベルでは、MSは、自己免疫疾患と考えられる。MSは、通常、主としてCD4+ T細胞によって媒介される疾患と考えられる。CD4+の特定のサブセット:Th1及び最近ではTh17がこの疾患の病態生理学に関係があるとされた。現在のところ、特定の役割を各亜集団のTh1及びTh17に割り当てるのは依然として難しい。さらに、アルファ4(α4)-インテグリンの拮抗作用による白血球トラフィッキングの阻害は、現在、MS及び炎症性腸疾患(IBD)などの炎症性疾患の治療のための及び同様にアテローム性動脈硬化症の治療のための治療的アプローチとして検証されている(Zhiらの文献、2014)。α4β7は、活性化マクロファージ、リンパ球のサブセット、NK細胞、肥満細胞、及び好酸球を含む、より限られた白血球セットで発現されている。
【0015】
ヒトIL-7は、ヒトTリンパ球上でのインビトロでのα4及びβ7インテグリンの強い発現を誘導し、α4、β7、及びα4/β7インテグリンを発現するヒトTリンパ球の頻度を劇的に増大させる(図19)。これらのインテグリンは、腸、脳、及び皮膚などの非リンパ系組織におけるTリンパ球のホーミング及び保持に必要とされる(Denucciらの文献、2009; Gorfuらの文献、2009)。
【0016】
ナイーブT細胞は、移植された臓器及び組織の急性拒絶の部分的な原因である。これらの細胞は、現在の免疫抑制薬(カルシニューリン阻害剤)によって、及び共刺激を遮断するモノクローナル抗体(抗接着、CD80/86阻害剤)によって制御することができる。メモリーT細胞も移植片拒絶の原因である。メモリーT細胞は、獲得免疫歴、主にウイルスに対するかつての反応が原因でヒトに蓄積する。メモリーT細胞は、我々の抗ウイルス防御と同種抗原との交差反応である「異種免疫」の結果として同種抗原によって再活性化され得ることが示されている(Adamsらの文献、2003)。ナイーブT細胞とは対照的に、メモリーT細胞は、共刺激シグナルの必要性が低下して、素早く活性化するようにプログラムされているので、異種免疫は、寛容誘導に対する強力な障壁となる。メモリーT細胞は、慢性拒絶にも関与し得る。臓器移植及び組織移植における役割の他に、ナイーブT細胞及びメモリーT細胞は、多くの自己免疫疾患の共通の原因でもある。これは、潰瘍性大腸炎(Shinoharaらの文献、2011)、関節リウマチ、乾癬、又は移植片対宿主病の場合である。
【0017】
さらに、いくつかの悪性細胞は、IL-7Rを提示することが示されている。これは、セザリー皮膚リンパ腫(そのうちの60%)、又は小児急性リンパ芽球性白血病の場合であり、小児急性リンパ芽球性白血病では、その症例の約15%がCD127の機能獲得型突然変異を発現し、これらの腫瘍を部分的にIL-7依存性の状態にする(Shochatらの文献、2011)。
【0018】
Tリンパ球の枯渇は、同種移植拒絶に対抗し又は自己免疫に抵抗するための明白な免疫抑制アプローチとなっている。しかしながら、全体的なT細胞枯渇は、免疫寛容の誘導に有利ではない場合がある。T細胞の亜集団又は選択的に活性化されたT細胞の標的化は、Treg細胞を修飾しなければ、免疫寛容促進アプローチとなり得る(Haudebourgらの文献、2009)。それゆえ、CD127は、免疫応答を調節することを目的としたモノクローナル抗体(Mab)の魅力的な潜在的治療標的と考えることができる。なぜなら、そのようなモノクローナル抗体ならば、エフェクターリンパ球を枯渇させる可能性を有し得るが、調節性リンパ球を枯渇させる可能性を有し得ないからである。したがって、該モノクローナル抗体は、IL7-Rに対するIL-7の接近に拮抗し、それにより、T細胞及びB細胞の機能及び成長を制限することによって、移植、自己免疫(Michelらの文献、2008)、及び悪性腫瘍において効力を示す可能性があると考えられる。
【0019】
IL-7経路を妨害するCD127細胞に対するモノクローナル抗体による治療ならば、ナイーブT細胞及びメモリーT細胞を除去/中和すること、並びに/もしくはTreg細胞を維持しながら、その数を減少させることによるか、又はCD127陽性悪性細胞を除去しもしくはその数を減少させることによって、その目的を果たすことができる。しかしながら、CD127細胞に対するモノクローナル抗体による治療は、それが樹状細胞の活性化をもたらす場合、諸刃の剣として働く可能性がある。実際、CD127は、CRLF2と関連して、樹状細胞によっても発現され、TSLP受容体を形成する。TSLPの存在下で、樹状細胞は活性化され、T細胞媒介性免疫応答を促進する。CD127に対するいくつかのモノクローナル抗体は、おそらくはTSLPがTSLP受容体と相互作用する様式を改変することにより、TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させる性質を有する(培地条件とともに図7に示す)。結果として、TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させないCD127に対するモノクローナル抗体による治療ならば、治療的利点を示すであろう。それならば、TSLPを含む炎症環境で樹状細胞を活性化させるという欠点を伴うことなく、IL7R遮断の利益を示すであろう。
【0020】
刊行物(Racapeらの文献、2009)において、著者らは、移植における潜在的治療標的としてのIL-7受容体アルファ(IL7Rα)の利益を解析した。様々なT細胞及びIL-7応答性細胞上でのIL-7Rαの発現を再検討して、著者らは、IL-7Rαを発現するメモリーT細胞を標的とすることにより、マウスにおける同種移植生存が延長され得るかどうかを決定し、IL-7又はIL-7Rαを標的とすることにより、Treg細胞が有利に存続すると結論付けている。将来の展望の中で、著者らは、治療的処置においてIL-7又はIL-7Rαのいずれかを標的とすることにより、CD127を発現する細胞の生存に対して異なる結果がもたらされる可能性があり、異なるタイプのリンパ球減少が誘発される可能性があることを指摘した。IL-7Rαに対する抗体の効果は、それらがブロッキング抗体であるのか又は中和抗体であるのか又は細胞傷害性抗体であるのかによるという問題も概念的な観点から提起された。それにもかかわらず、著者らは、そのような抗体を取得し、アッセイしたことを示すのではなく、むしろ、仮説の妥当性を評価するためのさらなる研究の必要性を表明した。
【0021】
免疫関連疾患及びIL-7/IL-7Rαが関与する他の疾患、例えば、一部の乳癌を含む様々なタイプの癌における利用可能な治療アプローチの欠点を考慮すると、さらなる薬物候補、とりわけ、ヒト患者の免疫活性化を制御する、例えば、調節することを目的とした、より選択的な標的に対して活性のある候補が依然として必要とされている。
【0022】
これとの関連において、IL-7Rαに対するアンタゴニスト特性を有するIL-7Rαに対するモノクローナル抗体がWO2010/017468号に開示されており、多発性硬化症のような自己免疫疾患を治療する目的で、そのヒト化バージョンがWO2011/094259号に開示されている。記載されている抗体は、IL-7のその受容体への結合に対するアンタゴニストであり、かつIL-7のそのCD127受容体との相互作用を必要とすると言われていたT17及びT1細胞の増殖及び生存に対して活性があると言われている。免疫細胞の成熟、特に、樹状細胞の成熟に対するこれらの抗体の作用は検討されていない。加えて、これらの抗体は、TSLP誘導性のTARC産生を阻害しないと言われている(WO2011/094259号の107ページ)。同様に、糖尿病、狼瘡、関節リウマチ、及び他の自己免疫疾患の治療での使用が企図されている、WO2011/104687号又はWO2013/056984号に報告された抗CD127抗体は、樹状細胞の成熟に対するその考えられる作用に関して論じられておらず、TSLP誘導性シグナル伝達とのその相互作用は報告されていない。さらに、Kernらによって発表されているように(Kernらの文献、2013; Kernらの文献、2015)及び本明細書に示されているように、従来技術の抗CD127抗体は、受容体の内在化を誘導する。CD127の内在化も誘導するアンタゴニスト抗CD127抗体が皮膚のIV型過敏症を制御しないのに対し(図10)、内在化を誘導しないアンタゴニスト抗CD127抗体はそれを制御するので、内在化プロセスがシグナル伝達経路を活性化し、抗体のアンタゴニスト作用を緩和する可能性がある。最後に、従来技術の抗体は、CD127の2b部位に由来する(すなわち、特に、配列番号114のアミノ酸109~127に由来する)配列を1つも含まないエピトープを認識し;かつCD127とIL7-Rのγc鎖との結合を妨害することが示されていない。
【0023】
CD127抗体の開発に対する最近の関心にもかかわらず、このように、IL7誘導性IL-7Rシグナル伝達の阻害に努力が集中している。それでもやはり、TSLP及びTSLPRがいくつかの病理に関連付けられている。TSLPは、皮膚及び肺の疾患において役割を果たし(He及びGehaの文献、2010)、かつヒト及びマウスの気道炎症疾患及びアトピー性皮膚炎を含む様々な病理と関連することが示されている(Yingらの文献、2008)(Jariwalaらの文献、2011)。さらに、TSLPは、腸の免疫及び炎症の調節と関連することが示されている(Taylorらの文献、2009)。TSLP及びTSLPRが関与する他の病理としては、小児B細胞白血病(van Bodegomらの文献、2012)、肺及び皮膚特異的アレルギー性疾患、自己免疫関連疾患(Roanらの文献、2012)、並びに乳癌を含む癌(Olkhanudらの文献、2011)が挙げられる。
【0024】
それゆえ、抗CD127抗体がIL-7誘導性及び/又はIL-7-R媒介性機構の拮抗作用を通じた免疫関連疾患の治療の有望な候補であるということ、並びにそのような抗体がTSLP受容体との関連におけるCD127にも結合し、TSLP誘導性及び/又はTSLP受容体媒介性機構を妨害するということは従来技術において十分に認知されているが、樹状細胞の成熟へのその考えられる関与は問題にされず、樹状細胞の成熟を増大させる効果を示さない抗体並びに/又はCD127の内在化を誘導しない及び/もしくはIL7誘導性内在化を阻害する抗体を得ることにある改善は、従来技術で一度も提案されなかった。
【0025】
既存の抗CD127抗体により、TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟の望ましくない増大が誘導される(しかし、該抗体はTSLP誘導性のTARC産生を阻害する)という驚くべき発見の後に、本発明者らは、そのような増大を示さない、したがって、疾患の治療、特に、自己免疫疾の治療により好適である抗体を開発した。さらに、本発明者らは、内在化を誘導しない及び/又はIL7誘導性のCD127内在化を阻害する抗体が、従来技術の抗体、例えば、MD707-13と比較して、とりわけ、インビボで、高い効率を有することを発見した。
【発明の概要】
【0026】
本発明は、これとの関連において好適な、TSLP経路をマイナスにしか妨害しないIL-7Rαに対するモノクローナル抗体に関する手段を提供する。したがって、本発明のモノクローナル抗体(Mab)は、本発明者らにより従来の抗CD127抗体で観察されたものとは逆に、TSLP誘導性の樹状細胞成熟を増大させない。さらに又は代わりに、本発明の抗体は、CD127の内在化を誘導しない及び/又はIL7誘導性のCD127内在化を阻害する。特定の実施態様において、本発明で提供される抗体は、これらのDC成熟及び/又は内在化関連特性をIL-7/IL-7-Rシグナル伝達に対するアンタゴニスト活性と組み合わせる。特定の実施態様において、本発明の抗体は、T細胞における、特に、インビボでの、α4、β7、及びα4/β7インテグリンのIL7誘導性発現を阻害する。それゆえ、新規の作用機序を有するこれらのMabは、CD127標的化の治療的利益を評価するための新しい製品となる。
【0027】
さらに、本発明者らは、本発明の好ましい抗体によって認識されるエピトープを開示しており、これにより、関連エピトープに結合し、かつ所望の特徴を維持している、別の抗体及び/又はその断片もしくは抗原結合性ドメイン又は他のタイプのポリペプチドに由来する構造的に関連する抗原結合性ドメインの容易な開発が可能となっている。
【0028】
N13B2によって認識されるCD127由来のエピトープは、アレイベースのオリゴペプチドスキャニング(重複ペプチドスキャン又はpepscan解析と呼ばれることもある)によって同定された。これは、ep1(配列番号110)、ep2(配列番号111)、及びep3(配列番号86)の配列からなるヒトCD127のアミノ酸配列を含む。この技法は、標的タンパク質の重複セグメント及び非重複セグメント由来のオリゴペプチド配列のライブラリーを使用し、対象となる抗体に結合するその能力について試験する。標的タンパク質の様々な部分の非隣接ペプチドを組み合わせ、この組み合わせたペプチドに(例えば、CLIPSスキャフォールドを用いて)立体構造的硬直性を強要する(Timmermanらの文献、2007)ことにより、不連続エピトープを非常に高い信頼性と正確性でマッピングすることができる(Craggの文献、2011)(Gaseitsiweらの文献、2010)。タンパク質分解保護手順を用いた、エピトープのさらなる決定により、立体構造エピトープが配列番号115、配列番号116、及び配列番号117の配列を有するヒトCD127のアミノ酸配列を含むことを決定することが可能となった。それゆえ、該エピトープは、CD127の2b部位由来の配列を含む。さらに、該エピトープは、CD127のドメインD1とドメインD2の両方の配列、より具体的には、D1ドメイン由来の配列を2b部位由来の配列とともに含む。本発明によるエピトープは、以下で詳細に記載されている。特に、該エピトープは、天然のCD127におけるその立体構造配置の配列番号115(又は配列番号110)、配列番号116(又は配列番号86)、及び配列番号117(又は配列番号111)からなる。
【0029】
特定の実施態様において、該モノクローナル抗体は、標的CD127+細胞に対する細胞傷害作用も発揮し、また、該細胞の数を物理的に低下させる(亜集団の縮小)。
【0030】
したがって、本発明は、(i)抗体-抗原相互作用を通じて、IL-7に対する受容体のアルファ鎖(CD127と表される)、とりわけ、ヒトCD127陽性細胞によって発現されるIL-7受容体のアルファ鎖に特異的に結合し、かつ(ii)TSLPによって誘導される(例えば、細胞表面抗原CD80及び/もしくはCD40の発現の増大によって特徴付けられる)樹状細胞の成熟を増大させず、かつ/又は(iii)CD127の内在化を誘導しない及び/もしくはIL7誘導性のCD127内在化を阻害する、抗体、抗体の抗原結合性断片、又は抗体もしくはその断片を含むキメラ分子などの、巨大分子に関する。
【0031】
本発明の特定の実施態様において、該巨大分子は、以下のアミノ酸配列:
・VHCDR1配列番号10;
・VHCDR2配列番号12;
・VHCDR3配列番号14もしくは配列番号48;
・VH配列番号22
のうちの少なくとも1つを含むVH鎖及び/又は以下のアミノ酸配列:
・VLCDR1配列番号16もしくは配列番号50;
・VLCDR2配列番号18もしくは配列番号52;
・VLCDR3配列番号20;
・VL配列番号24
のうちの少なくとも1つを含むVL鎖
を含む。
【0032】
特定の実施態様において、該巨大分子は、CD127を発現するヒトT細胞(CD127+細胞)に対する細胞傷害活性を示す。他の実施態様において、該巨大分子は、CD127を発現するヒトT細胞(CD127+細胞)に対する細胞傷害活性を示さない。
【0033】
本発明はまた、該巨大分子を含む組成物、該巨大分子を得る方法、並びに該巨大分子及び組成物の使用に関する。
【0034】
本明細書で使用される場合、巨大分子は、500Daを超える分子量を有する、任意の分子、とりわけ、生体起源の分子又は生体起源の断片を含む分子を表す。巨大分子としては、ポリペプチド及び修飾ポリペプチド、例えば、グリコシル化ポリペプチド、並びにこれらのコンジュゲートが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「抗体-抗原相互作用を通じてCD127に特異的に結合する」巨大分子とは、該巨大分子とCD127の間の相互作用が、本質的に、CD127に特異的な抗体とCD127の間の相互作用と同じ相互作用にあるということを意味する。特に、該巨大分子は、該相互作用に関与する抗体の残基を、CD127タンパク質との同じ化学的結合の形成を可能にする空間配置で含み得る。特定の実施態様において、該巨大分子は、抗体のVH鎖及び/又はVL鎖の少なくとも1つのCDR配列を含む。好ましい実施態様において、該巨大分子は、抗体のVH鎖及び/又はVL鎖のCDR配列の全てを含む。好ましい実施態様において、該巨大分子は、抗体のVH鎖全体及び/又はVL鎖全体を含む。
【0035】
特定の実施態様において、該巨大分子は、次のように定義される(以下の特徴のうちの少なくとも1つによって定義される)エピトープを認識するように産生、設計、又は選択される:
(a)該エピトープは、CD127の2b部位から、特に、配列番号114のアミノ酸109~127から、より具体的には、配列番号114のアミノ酸110~125、110~120、112~120から、より具体的には、配列番号114のアミノ酸114~119(配列番号116に対応する)から取られた配列、特に、少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸を含み;特に、該エピトープは、配列番号116を含み、特に、配列番号86を含み;特に、該エピトープは、CD127のP112又はL115を含む;
(b)上記の(a)の特徴に加えて、該エピトープは、CD127のD1ドメインから、特に、配列番号114のアミノ酸1~98から取られた配列、特に、少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸を含み;特に、該エピトープは、配列番号115のアミノ酸配列を含む(特に、ep1(配列番号110)のアミノ酸配列を含む)、
(c)上記の(a)の特徴及び任意に(b)の特徴に加えて、該エピトープは、配列番号114のアミノ酸180~220から、特に、アミノ酸190~200から取られた配列、特に、3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸を含み;特に、該エピトープは、配列番号117のアミノ酸配列を含み;特に、ep2(配列番号111)のアミノ酸配列を含む;
(d)該エピトープは、配列番号115の配列及び配列番号116の配列を含むか、又は該エピトープは、配列番号117の配列及び配列番号116の配列を含み;特に、該エピトープは、配列番号115、配列番号116、及び配列番号117の配列を含む;
(e)該エピトープは、上記の(a)、(b)、(c)、及び/又は(d)で定義されたCD127の配列を含み、かつ明示的に言及されたもの以外のCD127の(3つ、4つ、又は5つを超える連続するアミノ酸の)アミノ酸配列を含まない、すなわち、特に、該エピトープは、CD127由来の以下の配列のみを含む:
-特に、配列番号114のアミノ酸109~127、又は配列番号114のアミノ酸110~125、110~120、もしくは112~120、又は配列番号114のアミノ酸114~119(配列番号116に対応する)、又は配列番号86に対応する配列からなる、並びに/或いは部位2bから取られた3つのアミノ酸もしくは3つ、4つ、5つ、6つ、7つを超えるアミノ酸の配列及び部位2bから取られた19のアミノ酸又は19、18、15、11未満のアミノ酸の配列からなる、部位2bから取られた1つの配列、特に、CD127のP112又はL115を含むそのような配列;
-任意に、部位2bの配列に加えて、CD127のドメインD1から、特に、配列番号114のアミノ酸98から取られた1つの配列、特に、配列番号110からなるもしくは配列番号115からなる、並びに/又は配列番号115を含むかもしくは配列番号115の配列に含まれる3つのアミノ酸もしくは3つ、4つ、5つ、6つ、7つを超えるアミノ酸の配列及び配列番号115を含むかもしくは配列番号115の配列に含まれる20のアミノ酸もしくは20、18、16、11未満のアミノ酸の配列からなる、1つの配列;
-任意に、部位2bの配列に加えて、及び存在する場合、ドメインD1由来の任意の配列に加えて、配列番号114のアミノ酸180~220から取られた1つの配列;特に、配列番号111からなるもしくは配列番号117からなる、並びに/又は配列番号117を含むかもしくは配列番号117の配列に含まれる3つのアミノ酸もしくは3つ、4つ、5つ、6つ、7つを超えるアミノ酸の配列及び配列番号117を含むかもしくは配列番号117の配列に含まれる20のアミノ酸もしくは20、18、16、11未満のアミノ酸の配列からなる、1つの配列;
該エピトープは、追加のアミノ酸を含む可能性があるが、これらの追加のアミノ酸は、CD127の配列から取られないことを条件とする(すなわち、該エピトープは、部位2b由来の配列、並びに場合により、ドメインD1由来の任意の配列及び上記の配列番号114のアミノ酸180~220由来の任意の配列は別として、CD127の配列由来の3つ、4つ、又は5つを超える連続するアミノ酸を含まないことを条件とする);
(f)該エピトープは、上記の(a)、(b)、(c)、又は(d)に記載の特徴に加えて、配列番号114の領域99~108から取られた3つ、4つ、もしくは5つを超える連続するアミノ酸を含まず、配列番号114の領域128~179から取られた3つ、4つ、もしくは5つを超える連続するアミノ酸を含まず、及び/又は配列番号114の領域220~239から取られた3つ、4つ、もしくは5つを超える連続するアミノ酸を含まず、特に、配列番号114の領域99~108、128~179、及び220~239のいずれかに由来する3つ、4つ、又は5つを超える連続するアミノ酸を含まない;
(g)該エピトープは、上記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、及び/又は(f)で定義されたCD127の配列の組合せを含み、ここで、いくつかのアミノ酸は、突然変異させられ、特に、欠失させられ及び/又は置換され、特に、類似の特性を有するアミノ酸によって置換され(保存的置換);特に、該エピトープは、適切な場合、(b)、(c)、又は(d)で定義されたように組み合わされた、上記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、及び/又は(f)で定義されたCD127の配列との少なくとも80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有する配列からなるか又は該配列を含む;
(h)該エピトープは、上記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び/又は(g)で定義された特徴を有する立体構造エピトープである、すなわち、天然のCD127内の該配列の立体構造を模倣する立体構造の(単量体としてか、又はγcとの及び/もしくはIL-7と関連した二量体としてかのいずれかの)上記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び/又は(g)で定義された配列を含むか又は該配列からなる;
(i)該エピトープは、上記の(a)、(b)、(c)、(d)、(g)、及び/又は(h)の特徴を有するCD127の断片(すなわち、連続するアミノ酸のストレッチ)を含む;
(j)該エピトープは、上記の(g)で定義された特徴を有しており、予測可能な構造を持つペプチド集合の合成を可能にするCLIPS技術などの技術によって得られる。
【0036】
(b)及び(c)の特徴を有するエピトープの特定の実施態様において、該エピトープは、ep1及びep2という2つの配列の間に挿入されているCD127のアミノ酸配列を含み、かつ任意に、これらの配列の上流(すなわち、ep1の配列のN-末端)及び/又は下流(すなわち、ep2の配列のC-末端)のヒトCD127配列の任意の配列を含むようには拡張しないか、又は該配列の2以上のアミノ酸を含むようには拡張しない。他の特定の実施態様において、該エピトープは、ep1配列又はep2配列がどちらも、ヒトCD127配列中のその隣接アミノ酸のいずれかを含むようには、又はep1とep2の間に挿入されているヒトCD127の配列中のその隣接アミノ酸に由来する7つ、5つ、もしくは1つを超える連続するアミノ酸を含むようには拡張されないようなものであり; ep1配列及びep2配列の拡張を、この場合も、上記のように(ep1の)上流又は(ep2の)下流に限定することができる。特定の実施態様において、上記のエピトープ配列を含むCD127の配列は、ヒトCD127配列由来のその隣接アミノ酸を、ep1に隣接するN-末端の1アミノ酸を超えてもしくはC-末端の7アミノ酸を超えて、又はep2に隣接するN-末端の30アミノ酸を超えてもしくはC-末端の30アミノ酸を超えて含むようには拡張されない。
【0037】
該巨大分子が、CD127のいくつかの不連続なアミノ酸配列(すなわち、CD127の一次配列において連続していない配列)を含むエピトープを認識するように産生、設計、又は選択される実施態様において、該CD127配列のうちの1つを含むエピトープを認識する抗体を産生又は選択し、その後、これらの抗体の中で、他のCD127配列(複数可)を認識するものを選択することが可能である(該後半の選択は、3以上の非隣接CD127配列が認識されることになる場合、連続的な選択によって実施することもできる)。
【0038】
本発明は、本発明のアンタゴニスト抗体によって認識される立体構造エピトープも含む。本発明は、この立体構造エピトープに結合する抗体も含む。これらの実施態様は、(i)配列番号115との少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%の配列同一性を有するドメイン及び/又は配列番号117との少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%の配列同一性を有するドメイン、並びに(ii)配列番号116との少なくとも80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するドメインを含むCD127立体構造エピトープを含む。より具体的には、該CD127立体構造エピトープは、配列番号114のアミノ酸残基73~79及び/又は114~119並びにアミノ酸残基193~196を含む。本発明は、この立体構造エピトープに結合する抗体を含む。特定の実施態様において、該巨大分子は、配列番号115、配列番号116、及び配列番号117の配列を有するヒトCD127のアミノ酸配列を含む立体構造エピトープを認識するように産生、設計、又は選択される。
【0039】
特に、上記の実施態様において、該抗体は、記載されている通りのエピトープからなるか又は該エピトープを含む免疫原に対して作製される、すなわち、該エピトープを含むか又は該エピトープからなる抗原による、ヒトではない動物、特に、哺乳動物の免疫によって最初に産生される。したがって、本発明はまた、エピトープが上記の通りである抗原に関し、特に、抗体の産生における免疫原としてのその使用に関し、並びに/或いは抗体もしくは抗原結合性断片又は他の巨大分子を産生するための選択及び/又は試験方法におけるその使用に関する。本発明はまた、該抗原を使用する該方法に関する。抗原は、ペプチド性構成成分に加えて、非ペプチド性構成成分を含むことができ、かつ/又は該エピトープの一部を形成しないペプチド性構成成分を含むことができるので、別途明記されない限り、又は文脈から明白でない限り、抗原の配列及び/又は該配列の特徴に言及する場合、該配列又は特徴は、該抗原のエピトープ部分の配列(又はその特徴)を表すもとの理解されるべきであることが本明細書において理解されるべきである。該抗原が該エピトープの一部を形成しないアミノ酸を含む場合、該アミノ酸は、CD127の3つ、4つ、又は5つを超える連続するアミノ酸を含まないことが好ましい。
【0040】
したがって、それが技術的に適切でないと思われない限り、抗体又はその断片に関して本明細書に開示される定義及び特徴は、本発明の任意の巨大分子に同様に適用される。
【0041】
(CD127の結合)
本発明によれば、IL-7Rαタンパク質への「結合」は、抗原-抗体型相互作用を指し、かつ抗体又はその抗原結合性断片の「特異的結合」特性を包含し、この特異的結合は、該抗体又は抗原結合性断片がIL-7Rαタンパク質に結合する一方で、それらが他のタンパク質(例えば、共通のサイトカイン受容体γ鎖)に結合しないか又はそれに顕著により弱い親和性で結合することを意味する。特異的結合は、とりわけ、試験溶液のpH及び塩含有量に関して生理的条件下で定義及び/又は決定されることが好ましい。結合及び結合特異性は、実施例に開示される試験に従ってアッセイすることができ、特に、Biacore、ELISA、又はウェスタンブロット解析によってアッセイすることができる。
【0042】
本発明の特定の実施態様において、該抗体又はその抗原結合性断片は、IL-7-Rアルファ鎖がTSLP受容体(CCRF2を含む; Genbankアクセッション番号AF338733; Recheらの文献、2001)中で複合体を形成した場合、それを標的とし、かつそれに結合する。
【0043】
特定の実施態様において、本発明の抗体もしくはその断片又はキメラ分子は、5E-10Mよりも低い解離定数(Kd)で、単離されたタンパク質としてのCD127に結合する。好ましい実施態様において、該解離定数(Kd)は、1E-10Mよりも低いか、又は9E-11Mよりも低いか、又は5E-11Mよりも低い。
【0044】
特定の実施態様において、本発明の抗体もしくはその断片又はキメラ分子又は他の巨大分子は、ep1(配列番号110)及び/又はep2(配列番号111)の配列を含むヒトCD127の抗原に結合する。特定の実施態様において、該抗原は、ep1とep2の両方を含むヒトCD127の断片を含む(すなわち、該抗原は、ヒトCD127のep1及びep2の配列並びに挿入配列を含む)。他の実施態様において、該抗原は、場合により、ヒトCD127配列とは異なる他の起源の他の配列に加えて、ヒトCD127のep1配列及びep2配列のみを含む。また他の実施態様において、ep1配列及び/又はep2配列は、ヒトCD127由来のいくつかの追加のアミノ酸、特に、ep1のN-末端の最大1個のアミノ酸、ep1のC-末端の最大7個のアミノ酸、ep2のN-末端の最大1個、10個、20個、又は30個のアミノ酸、ep2のC-末端の最大7個;10個、20個、又は30個のアミノ酸を含むように拡張される。特定の抗原は:好ましくは、ep1とep2の両方を含む、上記のような抗原(ここで、ep1を含むCD127の配列は、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を含むようには拡張しないか、又はヒトCD127の配列中のep1のN-末端の1個よりも多いアミノ酸もしくはC-末端の7個よりも多いアミノ酸を含むようには拡張しない);並びに上記のような抗原(ここで、ep2を含むCD127の配列は、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を含むようには拡張しないか、又はヒトCD127の配列中のep2のN-末端の30個よりも多いアミノ酸又はC-末端の30個よりも多いアミノ酸を含むようには拡張しない);並びにこれらの両方の特徴を有する抗原を含む。特定の実施態様において、本発明の抗体もしくはその断片又はキメラ分子又は他の巨大分子は、配列番号115、配列番号116、及び配列番号117の配列を含むヒトCD127の抗原に結合する。
【0045】
いくつかの実施態様において、該抗原は、(WO 2011104687 A1号に記載されている)C1GM、C2M3、P3A9、P4B3、P2D2、P2E11、HAL403a、及びHAL403bからなる群から選択されるモノクローナル抗体によって認識されるIL-7Rのエピトープと重複しないか、又は該エピトープを含まない。いくつかの実施態様において、該抗体は、インターロイキン-7受容体アルファの残基I82、K84、K100、T105、及びY192のいずれかを含まないもしくは該残基のうちのいくつかを含まない、特に、K100を含まない及び/もしくはT105を含まない抗原に対して作製されるか、又はインターロイキン-7受容体アルファの残基I82、K84、K100、T105、及びY192のいずれかを含まないもしくは該残基のうちのいくつかを含まない、特に、K100を含まない及び/もしくはT105を含まないエピトープに結合する。いくつかの実施態様において、該抗原又はエピトープは、K194を含まないか、又はヒトIL-7Rの残基D190、H191、及びK194からなる群から選択される残基のいずれかを含まないか、もしくは該残基の全てを含まない。特定の実施態様において、該抗原又はエピトープは、I82もK84も含まないか、又はK100もT105も含まないか、又はY192を含まないか、又はD190もH191もY192もK194も含まない。
【0046】
CD127はIL-7RとTSLPRの両方に共通であるが、抗CD127抗体が、必ずしも、両者と関連したCD127を認識する(すなわち、それと好適な条件で結合する)ものではないことに留意しなければならない。さらに、該抗体が、IL-7Rに関連した状態とTSLPRに関連した状態の両方のCD127に結合するとしても、それは、IL-7-IL-7R相互作用及びTSLP-TSLPR相互作用に対して必ずしも同じ効果を有するものではない。それは、例えば、IL-7RへのIL-7の結合を妨げることができるが、TSLPRへのTSLPの結合を妨げることができない。さらに、該抗体とどちらかの受容体との結合は、リガンド-受容体相互作用に対する異なる効果を超えた、異なる効果を有することがある。実際、該抗体の結合は、リガンドとは独立に又はリガンドとの組合せで、受容体の立体構造を修飾し、それにより、受容体を活性化又は不活性化させる可能性がある。この効果は、どちらの受容体であるかによって異なることがあり、それは、実際、反対であることがあり:IL-7Rを不活性化させる抗体がTSLPRを活性化させることがあり、逆の場合も同じである。
【0047】
本明細書で使用される場合、受容体を活性化させることは、リガンドがその受容体に結合したときに起こる生化学的変化の少なくとも一部を誘発することを意味する。これらの変化には、受容体構造の修飾(例えば、二量体化);受容体のリン酸化並びに受容体結合タンパク質(例えば、Janusキナーゼ、STAT転写因子など)の動員及び/又はリン酸化並びに/又は受容体の細胞内局在の変化(例えば、受容体内在化)が含まれ得る。本明細書で使用される場合、受容体を不活化させることは、そのリガンドの受容体への結合に伴う生化学的修飾の少なくとも一部を妨げるか、又は逆戻りさせることを意味する。例えば、受容体を構成的に活性化させ(すなわち、リガンドの非存在下でさえも活性化させ)、かつ薬剤、例えば、本発明の抗体の存在下で不活化させることができる。代わりに、又はさらに、リガンド誘導性活性化を、受容体を不活化させることによって、完全に又は部分的に阻害することができる。それゆえ、不活化は、数ある機構の中でも特に、リガンドの結合(及びその後の「活性化」事象)を妨げること、並びに/又はリガンドの結合(例えば、二量体化)に伴う構造の変化及び/もしくは受容体の細胞内位置の修飾を妨げることによって起こり得る(例えば、不活化剤は、受容体の内在化及び/又は分解を誘発し、それにより、リガンドによる活性化を妨げることができる)。
【0048】
(TSLP誘導性の樹状細胞成熟の増大の欠如)
本発明の抗体は、TSLP受容体中のCD127に結合することができる(すなわち、CD127がCRLF2との複合体中にあってTSLP受容体を形成しているとき、CD127に結合することができる)。それゆえ、本発明の抗体は、TSLP誘導性及び/又はTSLP受容体媒介性シグナル伝達を妨害することができる。
【0049】
本発明者らは、驚くべきことに、TLSP受容体中のCD127に対するものであり(又はこれを認識し)、かつTSLP-TSLPR相互作用とのいくらかの拮抗作用を示す既存の抗体が、それにもかかわらず、TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させ:該成熟がTSLPのみで処理した細胞よりもTSLP及び該抗体で処理した細胞でより大きいことを発見した。これらの従来型抗体は、TSLP依存的樹状細胞成熟を増大させる。好ましい実施態様において、本発明の抗体又は断片は、免疫細胞、特に、樹状細胞の成熟についてTSLPと相乗作用しない。言い換えると、本発明の抗体は、TSLPによって誘導される免疫細胞の成熟を増大させない。この効果は、特に、樹状細胞の成熟に関して望ましい。
【0050】
TSLP誘導性のTARC産生を阻害する抗CD127抗体の能力を、TSLP誘導性シグナル伝達及びその下流の結果(特に、樹状細胞の成熟)に対する該抗体のマイナスの(又は少なくともプラスではない)効果の妥当な予測因子と考えることはできないということが強調されるべきである。実際、本発明者らが発見したように、TSLP誘導性のTARC産生を効率的に阻害する抗体でさえも、CD40又はCD80とTSLPRとの発現によって測定される、TSLP依存的な樹状細胞の成熟を増大させ得る。
【0051】
TSLP誘導性の樹状細胞成熟は、一部の免疫細胞の成熟、とりわけ、一部の自己免疫疾患、喘息、及び移植で観察される、いわゆる、TH-2分化の決定因子であるマーカーとしての細胞マーカーCD40及び/又はCD80(Inabaらの文献、1995; Watanabeらの文献、2005b)の発現によって測定することができる。特定の実施態様において、TSLPによって誘導される樹状細胞成熟の増大は、TSLPのみで処理したTSLPR陽性細胞と比較した、TSLP及び本発明の巨大分子で処理したTSLPR陽性細胞における細胞表面マーカーCD40及び/又はCD80の発現の上昇を決定することによって評価される。
【0052】
特定の実施態様において、TSLP誘導性の樹状細胞成熟を増大させない巨大分子、特に、抗体又はその断片は、TSLPのみ(巨大分子なし)による刺激と比較したとき、25%を超えてCD80の発現を増大させない。好ましくは、CD80の発現は、20%を超えて、好ましくは、10%を超えて、一層より好ましくは、5%を超えて増大しない。特定の好ましい実施態様において、CD80の発現は、TSLPのみで刺激した細胞と比較したとき、TSLP及び巨大分子で刺激した細胞で増大しないか又は減少する。
【0053】
特定の実施態様において、TSLP誘導性の樹状細胞成熟を増大させない巨大分子は、TSLPのみ(巨大分子なし)による刺激と比較したとき、50%を超えてCD40の発現を増大させない。好ましくは、CD40の発現は、25%を超えて、好ましくは、10%を超えて、一層より好ましくは、5%を超えて増大しない。特定の好ましい実施態様において、CD40の発現は、TSLPのみで刺激した細胞と比較したとき、TSLP及び巨大分子で刺激した細胞で増大しないか又は減少する。
【0054】
樹状細胞成熟の測定も実施例(特に、実施例9参照)に例示されており、これを、当業者に公知の任意の標準的な方法、特に、樹状細胞成熟のマーカーとしての樹状細胞上でのCD80及び/又はCD40発現を決定するために好適な任意の方法に従って実施することができる。
【0055】
TSLPシグナル伝達の望ましくない増強の欠如に関して抗CD127抗体の特性をアッセイするために、TSLPRを発現する細胞、例えば、哺乳動物のプロB細胞(例えば、本明細書で例示されるBA/F3細胞)を使用することができる。
【0056】
(α4、β7、及びα4/β7インテグリンのIL7誘導性発現の阻害)
特定の実施態様において、本発明の抗体(又は巨大分子)は、インビトロでのα4、β7、及びα4/β7インテグリンのIL7誘導性発現を阻害する。α4、β7、及びα4/β7インテグリンのIL7誘導性発現は、本明細書で使用される場合、α4インテグリン及びβ7インテグリンのどちらか又は両方の発現のレベルの増大、並びにα4、β7、及び/又はα4/β7インテグリンを発現するTリンパ球の数又は比率の増大を表す。阻害は部分的であり得る、すなわち、IL7の存在下でのα4、β7、及びα4/β7インテグリンの発現のレベルは、抗体の存在下では、ベースラインレベル(すなわち、抗体もIL7もない場合のレベル)よりも増大するが、抗体の非存在下では、より少なくなり;又は阻害は完全であり得る、すなわち、IL7の存在下及び抗体の存在下でのα4、β7、及びα4/β7インテグリンの発現のレベルは、ベースラインレベルほどの大きさである。
【0057】
特定の実施態様において、本発明の抗体は、インビトロでのα4、β7、及び/又はα4/β7インテグリンの発現を阻害する、すなわち、α4、β7、及び/又はα4/β7インテグリンの発現のレベルは、未処理の(すなわち、抗体もIL7も用いない)細胞よりも、抗体で(かつIL7を用いて及び/又はIL7を用いないで)処理した細胞で低い。阻害の度合いは、用量依存的であり得る。発現の阻害は、実施例の節に記載されているように測定することができ、これを、当業者は、必要に応じて、例えば、本明細書に開示される特異的抗体、抗体の断片もしくは抗原結合性ドメイン、又は他の巨大分子に、及び/或いは特定疾患モデルに適合させることができる。
【0058】
好ましい実施態様において、本発明の抗体(又は巨大分子)は、インビボでのα4、β7、及び/又はα4/β7インテグリンの発現を阻害する。本明細書で使用される場合、この発現は、(i)α4、β7、及び/もしくはα4/β7インテグリンの発現、(ii)α4、β7、及び/もしくはα4/β7陽性T-リンパ球の数及び/もしくは比率、並びに/又は(iii)α4、β7、及び/又はα4/β7陽性T-リンパ球の生着が、未処理の動物と比べて抗体で処理した動物から得られた試料で低下していることを意味する。本明細書で使用される場合、生着とは、移植した組織又は細胞の宿主の体内への取込みを表し、これは、通常、数時間から数日間の期間にわたって起こるプロセスである。特定の実施態様において、該動物は、哺乳動物、特に、非ヒト哺乳動物、とりわけ、マウスである。特定の実施態様において、該動物はヒトである。特定の実施態様において、該効果は、レシピエント動物、好ましくは、免疫不全マウスに注射されたヒトリンパ球で観察される。特定の実施態様において、免疫不全マウスにヒトPBMCを注射してから2週間後、インテグリンβ7陽性T細胞の平均パーセンテージは、未処理マウスと比べて抗体処理マウスで、少なくとも25%、好ましくは、少なくとも50%低下している。特定の実施態様において、免疫不全マウスにヒトPBMCを注射してから2週間後、インテグリンβ7陽性の生着したT細胞の平均パーセンテージは、未処理マウスと比べて抗体処理マウスで、少なくとも25%、好ましくは、少なくとも50%、及び一層より好ましくは、少なくとも70%低下している。本発明の抗体又は巨大分子の効果は、実施例の節、特に、α4/β7インテグリンの発現及び生着についての実施例16に示された方法を用いて決定することができ、これは、当業者が、必要に応じて、例えば、特異的抗体、その断片もしくは抗原結合性ドメイン、又は他の巨大分子に、及び/或いは特定疾患モデルに適合させることができる。
【0059】
(CD127内在化の阻害剤)
内在化とは、CD127などの細胞表面受容体が細胞の細胞質空間の内側に(おそらくは、細胞内区画又は膜の表面に/表面で)輸送され、その結果、細胞外空間からはもはや接近不可能となる細胞プロセスである、すなわち、内在化された受容体に、細胞外空間のリガンドは直接接触することができない。リガンドは、受容体の天然のリガンドであれ、受容体に結合した任意の人工リガンド又は他の分子であれ、受容体とともに内在化され得る。ほとんどの受容体は定期的な内在化を受け、その細胞表面発現は、内在化され、分解された受容体を新たに合成された/成熟した受容体に交換するか、又は直接的なリサイクリング、すなわち、内在化された受容体を輸送して細胞表面に戻すかのいずれかによって、一定に維持される。
【0060】
いくつかの刺激は、内在化の速度の増大及び/又は交換/リサイクリングの速度の減少をもたらし、それにより、受容体の細胞表面発現の純減をもたらし得る。本明細書で使用される場合、IL7誘導性のCD127内在化とは、転写下方調節などのより長期的な効果を除外するために限られたインキュベーション時間の後でインビトロで観察したときの、細胞外培地中のIL7の存在によって誘導される(又はIL-7の存在下で観察される)CD127の細胞表面発現の減少を表す。該限られた時間は、通常、約数十分、好ましくは、2時間未満、より好ましくは、1時間未満、及び一層より好ましくは、45分以下、30分以下、又は15分以下である。
【0061】
好ましい実施態様において、本発明の抗体は、IL7誘導性のCD127内在化を阻害する。したがって、本発明の抗体とともにインキュベートした場合、IL7の存在は、CD127の細胞表面発現の減少を全く誘導しないか、又は抗体なしでインキュベートした細胞よりもあまり強くないCD127の細胞表面発現の減少を誘導する。特定の実施態様において、本発明の抗体とともにインキュベートした場合、細胞を5ng/mLのIL7とともに37℃で15分間インキュベートしたときのCD127細胞表面発現のレベルは、IL7なしでインキュベートした細胞における細胞表面発現レベルの少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%である。インビトロにおいて、該細胞表面発現は、上で示されたような限られた時間の後で測定されることが好ましい。加えて、ほとんどの細胞内在化プロセスは低い温度で阻害され、その効果は、通常、生理的温度、特に、37℃で最も良好に観察される。しかしながら、細胞を、低い温度、特に、4℃でインキュベートすることも企図される。
【0062】
受容体に対する抗体が受容体の内在化を誘導し得ることが知られており、これは、受容体の細胞表面発現が抗体の存在下で減少するということを意味する。これは、特に、天然の内在化誘導性リガンドによって誘導される受容体の立体構造の変化を模倣する受容体の立体構造の変化を誘導することによって起こり得、この効果は、抗体によって認識されるエピトープに依存し得る。本明細書で使用される場合、「抗体がCD127の内在化を誘導する」とは、抗体の存在下でインキュベートした細胞が、抗体の非存在下でインキュベートした細胞と比較してCD127の細胞表面発現の減少を示すことを意味する。細胞表面発現は、限られたインキュベーション時間の後、及び上述のような温度条件で、インビトロで測定されることが好ましい。好ましい実施態様において、本発明の抗体は、CD127の内在化を誘導しない。したがって、抗体の存在下でインキュベートした細胞におけるCD127の細胞表面発現は、それ以外は同一の条件で、ただし、抗体の非存在下でインキュベートした細胞における細胞表面発現と比べて低下しないか、又は顕著には低下しない。特定の実施態様において、50ng/mLの抗体の存在下で37℃で30~45分間インキュベートしたとき、CD127細胞表面発現のレベルは、抗体の非存在下でインキュベートした細胞におけるそのレベルの少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%である。この効果は、IL7の非存在下で(抗体で処理した細胞と抗体で処理していない細胞の両方で)、IL7の存在下で、及び/又はその両方で観察され得る。
【0063】
上記の2つのCD127内在化関連特徴(すなわち、IL7誘導性内在化の阻害又は内在化の非誘導)のどちらも抗体の効率の増大に寄与し得るが、両方の特徴の組合せは、さらにより効率的である可能性がある。本明細書に開示されるのは、IL7と該抗体の両方の存在下でCD127の細胞表面発現が顕著には減少しない、好ましい実施態様を表す抗体である。そのような好ましい実施態様において、5ng/mLのIL7の存在下、37℃で15分間を含む、50ng/mLの抗体の存在下で45分間のインキュベーションの後、CD127細胞表面発現のレベルは、抗体もIL7も含まない培地中でインキュベートした対照細胞におけるそのレベルの少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%である。
【0064】
(CD127-γc鎖相互作用の妨害)
特定の実施態様によれば、本発明の巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片は、IL7-Rのγc鎖へのCD127の結合を妨害し得る。これは、CD127とγc鎖が、抗体の非存在下で及び特にIL-7の存在下で結合する条件(特に、化学的及び物理的条件)の下で、該抗体の存在が該結合を顕著に低下させるということを意味する。特定の実施態様において、抗体の存在下及びIL-7の存在下で、CD127は、γcに結合しない。特に、抗体の存在下及びIL-7の存在下で、CD127と関連している(又は結合している)ことが見出されるγc鎖の量は、抗体の非存在下(又は別の抗CD-127抗体、例えば、MD707-13の存在下)、それ以外は同一の条件で、特に、IL-7の存在下で結合する量の80%未満、好ましくは50%未満、一層より好ましくは25%又は10%未満である。抗体のそのような特徴は、特に、タンパク質の相互作用を試験するために当業者によく知られており、かつ本明細書において実施例21に例示されている共免疫沈降法によって評価することができる。特に、細胞を被験抗体の存在下又は非存在下でインキュベートし、その後、タンパク質複合体の維持を可能にする条件で可溶化することができ、得られた溶解物を抗CD127免疫沈降に供し、CD127含有免疫沈降複合体中のγcの存在を、抗γc抗体を用いるウェスタンブロッティングによって評価することができる(逆に、免疫沈降を、抗γc抗体を用いて実施し、CD127の存在を、抗CD127抗体を用いて評価することができる)。
【0065】
そのような抗体を得るための1つの方法は、CD127の2b部位由来の配列を含むエピトープに対する該抗体を作製すること、又はそのようなエピトープを認識する抗体を選択することである。実際、γcとの相互作用に重要な、この部位への該抗体の結合は、例えば、競合又は立体障害によって、γcとCD127との相互作用を妨害する可能性が高い。
【0066】
特に、この望ましい特徴を有する抗体を、例えば、抗体ライブラリー由来の抗CD127抗体から(このライブラリーが、2b部位の配列を含む免疫原を用いることによって得られなかった場合を含む)、当業者に公知でかつそのような目的に容易に適合させることができる従来のスクリーニング手順によって選択することも可能である。特に、例えば、CD127(又はその細胞外ドメインのみ)を、そのようなスクリーニングに一般に使用される96ウェルプレート又は同様の基材に結合させることができる。ライブラリーを構成する抗体を、個々に、各々1つのウェル中に添加し、γc鎖を各ウェルに添加することができる。プレートを洗浄した後、各ウェル中のγcの存在を、例えば、蛍光に基づく方法によって試験することができる。所望の特徴を有する抗体を含有するウェルでは、γcが全く検出されない(又は少量のγcが検出される)。この手順を改変して、例えば、抗体を固体基材上に個々のスポットとしてむしろスポットし; CD127がスポットされた抗体に結合するのを可能にし、γc鎖がこのように固定されたCD127鎖に結合するのを可能にすることが明らかに可能である。
【0067】
(IL-7-IL-7R相互作用に対するアンタゴニスト)
特定の実施態様によれば、本発明の巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片はさらに、インターロイキン7(IL-7)に対するアンタゴニスト特性を有し、それにより、CD127陽性細胞上のCD127へのIL-7の接近、すなわち、結合に拮抗する。
【0068】
「IL-7-IL-7R相互作用に対するアンタゴニスト特性」とは、IL-7Rアルファを標的とする本発明の抗体又はその抗原結合性断片が、CD127細胞、とりわけ、ヒトエフェクターT細胞、特に、ヒトメモリーT細胞上に発現されたIL-7受容体の、その結合パートナーであるIL-7、とりわけ、ヒトIL-7への接近可能性を妨げる作用を有することを意味する。IL-7の結合に拮抗する結果として、本発明の抗体又はその機能的断片は、IL-7依存的な胸腺T細胞の発生を妨げることにより、リンパ球減少をもたらす。
【0069】
該アンタゴニスト特性は、特に、IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達に対する拮抗作用であり得る。IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達のアンタゴニストは、実施例に記載の通りにSTAT5リン酸化の阻害を測定することによって同定することができる。IL7誘導性のSTAT5リン酸化はIL7R活性化のマーカーであり、IL7-IL7R相互作用に拮抗する抗体は、IL7誘導性のSTAT5リン酸化を減少させると期待される。
【0070】
特定の実施態様において、本発明の巨大分子は、IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達のアンタゴニストである。特定の実施態様において、本発明の巨大分子は、IL7誘導性のSTAT5リン酸化を阻害する。好ましい実施態様において、STAT5リン酸化の阻害は、わずか50ng/mlの抗体濃度で50%よりも大きく、及び/又はSTAT5リン酸化の阻害は、わずか100ng/mlの抗体濃度で80%よりも大きい。STAT5リン酸化の阻害は、当業者に公知の方法によって、及び特に、実施例の節(特に、実施例3)に記載の方法によって評価することができる。
【0071】
(「TSLPの結合のアンタゴニスト」)
本発明の抗体はIL-7R中のCD127に結合するので、それは、TSLPR中のCD127にも結合することができ、特に、立体障害によって及び/又は共通の結合部位での競合によって、それは、TSLPRへのTSLPの結合を阻害することができる。言い換えると、本発明の抗体は、TSLPの結合に対するアンタゴニスト活性を示し得る。
【0072】
(「TSLP誘導性のTARC産生の阻害剤」)
特定の実施態様において、本発明の抗体は、CD127陽性細胞のTSLP誘導性のTARC産生を阻害することができる。上述のように、TSLP刺激された樹状細胞は、TARCのレベルの上昇をもたらす。これは、TSLPRに対するその結合及びTSLP結合のアンタゴニストとしてのその潜在的な作用によって生じ得る。
【0073】
特定の実施態様において、本発明の抗体及びその抗原結合性断片は、その成熟を増大させないその能力について選択されたものである(成熟は、例えば、CD40及び/又はCD80細胞表面マーカーの発現の増大によって決定される)。
【0074】
TSLP誘導性のTARC産生のレベルは、TSLPのみで処理した細胞よりも、TSLPと本明細書に記載の抗CD127抗体もしくはその断片又はキメラ分子とを併せて処理した細胞で低くなり得る。言い換えると、本発明の巨大分子は、TSLP誘導性のTARC産生の阻害剤であり得る。本発明の実施態様において、本明細書に記載の抗体もしくはその断片又はキメラ分子は、TARC産生のレベルを減少させる。本発明の特定の実施態様において、TSLP及び抗体、断片、又はキメラ分子で処理した細胞におけるTARC産生のレベルは、TSLPのみで処理した細胞におけるレベルと比較して、わずか1μg/mlの抗体濃度で、10%よりも大きく、好ましくは20%よりも大きく低下する。TARC産生の測定は、実施例(特に、実施例9)に示されており、当業者に公知の任意の標準的な方法を用いて、血液試料由来のCD127陽性免疫細胞、特に、樹状細胞に対して実施することができる。
【0075】
(「細胞傷害活性」)
本発明の特定の実施態様において、IL-7受容体中に存在するCD127分子に対する本発明の抗体又はその抗原結合性断片はさらに、ヒト細胞、とりわけ、該受容体を発現するヒトT細胞に対して細胞傷害性であるという性質を有する。本発明の抗体及びその断片の標的である、IL-7受容体の鎖としてのCD127を発現するヒト細胞は、主にTリンパ球であり、より正確には、ナイーブT細胞及びメモリーT細胞を含む、エフェクターTリンパ球の亜集団であるが、調節性T細胞(Treg)ではなく、とりわけ、休止ナチュラルTregではない。メモリーT細胞は、抗原プライミングの結果として発生し、二次エフェクター細胞及びメモリー細胞への再活性化及び分化の際にリコール増殖(recall proliferation)を経る能力を含む、その機能的特性によって主に定義される。同様に、(IL-7-Rアルファ鎖を含む複合体としての)標的TSLP受容体は、Tヘルパーリンパ球、B細胞、及び樹状細胞分化を調節する。
【0076】
本発明の実施態様によれば、「T細胞に対する細胞傷害活性」又は細胞傷害特性を有する抗体及びその抗原結合性断片(細胞傷害性抗体)は、これらの細胞を死滅させることによってエフェクターT細胞集団の枯渇を生じさせ、したがって、投与したとき、これらの細胞の数を減少させる。これとは反対に、これらの抗体は、調節性T細胞の亜集団を改変しないか、又はそれを相当な程度にまでは改変せず、Treg細胞がその機能を果たすのを可能にする。これに関連して、特定の実施態様において、エフェクターT(Teff)細胞に対する調節性T(Treg)細胞の比率は、本発明の抗体の投与後に上昇することが観察されている。特定の実施態様において、本発明の抗体は、該比率を約10%以上、上げることができる。特定の実施態様において、Teffに対するTregの比率の上昇は約20%である。
【0077】
本発明の特定の実施態様によれば、該細胞傷害性抗体は、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を示す。別の実施態様によれば、本発明の抗体はADCC特性を有しない。抗体のADCC能は、特異的細胞傷害性が10%を上回ったときに陽性と見なした。ADCC特性は、ADCCアッセイ、例えば、実施例(特に、実施例10)に記載されている試験で評価することができる。抗体がラット抗体である場合、ADCCアッセイで使用されるエフェクター細胞は、ラットのLAK(リンホカイン活性化キラー)細胞である。抗体がヒト化されている場合、ADCCアッセイは、ヒトNK細胞に対して実施することができる。
【0078】
CD127陽性細胞に対する細胞傷害特性とアンタゴニスト特性の両方を有する本発明の抗体により、エフェクターT細胞の枯渇、とりわけ、メモリーT細胞の枯渇に対するこれらの特性の累積的作用が可能になり、とりわけ、それにより、より強い枯渇(CD127+細胞のプールの消尽)及び対応する標的T細胞の数の低下が可能になる。
【0079】
上記の段落及び実施例には、これらの機能特性について試験する方法が記載されている。以下の節では、該抗体もしくは断片又はキメラ分子の様々な構造特性及び可能な修飾が詳述されている。これらの指針に照らして、当業者は、場合によっては、いくつかの構造的特徴を採用すれば機能的特徴が改変されないということを予測することができるので、及び/又は新たな構造特性の導入後に機能特性の損失について試験することによって、特に、所望の機能特性を有する抗体、例えば、N13B2から始めて、所望の機能特性とともに下記の構造特性を有する抗体又は断片を得ることができるであろう。さらに、該抗体によって認識されるエピトープの本明細書における開示により、同じ機能的特徴を共有する他の抗体の開発は、ルーチンの手順となる。なぜなら、同じ又は類似したエピトープに対する抗体は、CD127に結合したときに類似の効果を引き起こすその能力について選択することができるからである。この場合も、簡単な試験手順が本明細書に開示されているので、当業者は、これらの試験を用いて、好適な抗体を選択することができる。
【0080】
本発明の好ましい実施態様において、該巨大分子は、N13B2又はN13B2のCDRのうちの少なくとも1つを有する抗体であり、又は該断片はN13B2の断片である。したがって、本発明は、VHが、以下のアミノ酸配列:
・VHCDR1配列番号10;
・VHCDR2配列番号12;
・VHCDR3配列番号14;
のうちの少なくとも1つ、もしくは下記のそれらの好ましいヒト化変異体のうちの1つを含み、
【0081】
かつ/又はVLが、以下のアミノ酸配列:
・VLCDR1配列番号16;
・VLCDR2配列番号18;
・VLCDR3配列番号20
のうちの少なくとも1つ、もしくは下記のそれらの好ましいヒト化変異体のうちの1つを含む、抗体又はその断片に関する。
【0082】
特定の実施態様において、該巨大分子は、N13B2のCDR配列、すなわち、VHCDR1配列番号10、VHCDR2配列番号12、VHCDR3配列番号14、VLCDR1配列番号16、VLCDR2配列番号18、及びVLCDR3配列番号20のうちの少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つを含み、そのうちの任意の数を、下記のそれらの好ましいヒト化変異体のうちの1つに置き換えることができる。特定の実施態様において、該巨大分子は、N13B2の6つ全てのCDR配列を含み、そのうちの任意の数を、下記のそれらの好ましいヒト化変異体のうちの1つに置き換えることができる。特定の実施態様において、該巨大分子は、配列番号22のアミノ酸配列を有するVH鎖及び/又は配列番号24のアミノ酸配列を有するVL鎖を含む。特定の実施態様において、該巨大分子は、配列番号2のアミノ酸配列及び/もしくは配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖並びに/又は配列番号4のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。VH鎖及びVL鎖に関する他の特定の実施態様は、下に開示されるヒト化変異体である。特定の実施態様において、定常鎖は、図12のラットIgG1 Fc鎖の配列(Uniprot P20759)及び/又は配列番号34の配列を有する。
【0083】
(断片)
本発明の抗体の「抗原結合性断片」は、抗体の一部、すなわち、おそらくはその天然の形態で、ヒトIL-7のIL-7受容体のアルファ鎖に対する抗原結合能を示す、本発明の抗体の構造の一部に対応する分子であり;そのような断片は、とりわけ、対応する4本鎖抗体の抗原結合特異性と比較して、該抗原に対する同じ又は実質的に同じ抗原結合特異性を示す。好都合なことに、該抗原結合性断片は、対応する4本鎖抗体と同様の結合親和性を有する。しかしながら、対応する4本鎖抗体に対して低下した抗原結合親和性を有する抗原結合性断片も本発明の範囲内に包含される。該抗原結合能は、抗体の親和性及び検討される断片の親和性を測定することによって決定することができる。これらの抗原結合性断片は、抗体の機能的断片と呼ぶこともできる。
【0084】
抗体の抗原結合性断片は、抗原(すなわち、ヒトIL-7のIL-7Ra)の認識部位を包含し、それにより、抗原認識特異性を規定する、CDR(相補性決定領域)と呼ばれるその超可変ドメイン又はその部分を含む断片である。4本鎖免疫グロブリンの各々の軽鎖及び重鎖(それぞれ、VL及びVH)は、それぞれ、VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3及びVH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3と呼ばれる、3つのCDRを有する。したがって、本発明は、特に、VL-CDR1(配列番号16)、VL-CDR2(配列番号18)、VL-CDR3(配列番号20)並びにVH-CDR1(配列番号10)、VH-CDR2(配列番号12)、及びVH-CDR3(配列番号14)の中のCDR、下に開示されるそれらのヒト化変異体のうちの全てもしくは選択されたものを含むか又はこれらにある本発明の抗体の断片、或いはこれらの機能的部分、すなわち、好ましくは、ヒトIL-7のIL-7Raに対する高い親和性を有する所望の結合特異性を示す部分に関する。
【0085】
本発明の特定の抗原結合性断片は、そのCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを組み合わせている本発明の抗体のVH鎖、特に、下に開示されるヒト化変異体を含む、本明細書に開示されるアミノ酸配列を有するVH鎖の断片である。本発明の他の断片は、そのCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを組み合わせている本発明の抗体のVL鎖、特に、下に開示されるヒト化変異体を含む、本明細書に開示されるアミノ酸配列を有するVL鎖の断片である。CDR3領域が抗原認識特異性の決定因子であると思われる場合、VH-CDR3及び/もしくはVL-CDR3を含むか又はこれらにある断片、特に、下に開示されるヒト化変異体を含む、本明細書に開示されるアミノ酸配列を有するVH-CDR3及び/もしくはVL-CDR3、或いはこれらの機能的部分がとりわけ好ましい。
【0086】
当業者は、基準付番体系(Martinの文献、2001)を含む、記載されているこの点に関する標準的な定義を参照することによるか、又はKabatの付番体系(Kabatらの文献、1992)を参照することによるか、又はIMGTの「真珠の首輪(collier de perle)」アルゴリズム(http://www.imgt.org/IMGTindex/Colliers.html, Lefrancらの文献、1999)を適用することによって、抗体の様々な領域/ドメインの位置を決定することができるであろう。この点に関して、本発明の配列の定義については、領域/ドメインの境界が参照体系毎に異なり得るということに留意されたい。したがって、本発明で定義される領域/ドメインは、抗体の可変ドメインの全長配列内の関連配列の長さ又は局在における約+/-10%の変動を示す配列を包含する。
【0087】
さらに、脱免疫化残基は、抗体又はその抗原結合性断片の可変CDRドメインに存在し得る。特定の実施態様において、該抗体又はその断片は脱免疫化されている。
【0088】
このように、4本鎖免疫グロブリンの構造に基づいて、フレームワーク及び定常ドメインの位置が、様々なクラスの抗体について、とりわけIgGについて、特に哺乳動物のIgGについて十分に定義されていることに留意しながら、抗原結合性断片を、利用可能なデータベース中の抗体の配列との比較及び従来技術(Martinの文献、2001)によって、とりわけ、これらの配列における機能ドメインの位置の比較によって定義することができる。そのような比較は、抗体の3次元構造に関するデータも含む。
【0089】
本発明の具体的な実施態様を説明する目的で、抗体のCDRを含む可変ドメインを含有する抗体の抗原結合性断片は、(Kabatらの文献、1992)、(Martinの文献、2001)、及びさらには(Delvesらの文献、2011)を参照することにより十分に定義されるFv、dsFv、scFv、Fab、Fab′、F(ab′)2を包含する。Fv断片は、疎水性相互作用によって1つに関連した抗体のVLドメインとVHドメインからなり; dsFv断片において、VH:VLヘテロ二量体は、ジスルフィド結合によって安定化されており; scFv断片において、VLドメインとVHドメインは、柔軟なペプチドリンカーを介して互いに接続され、それにより、1本鎖タンパク質を形成している。Fab断片は、抗体のパパイン消化によって得られる単量体の断片であり;これらは、ジスルフィド結合を介して1つに結合したL鎖全体とH鎖のVH-CH1断片とを含む。F(ab′)2断片は、ヒンジジスルフィドの下部での抗体のペプシン消化によって生じさせることができ;これは、2つのFab′断片、及びさらに免疫グロブリン分子のヒンジ領域の一部を含む。Fab′断片は、ヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することにより、F(ab′)2断片から得ることができる。F(ab′)2断片は二価である、すなわち、これらは、天然の免疫グロブリン分子のように、2つの抗原結合部位を含み;他方、Fv(Fabの可変部分を構成するVH-VL二量体)、dsFv、scFv、Fab、及びFab′断片は一価である、すなわち、これらは、単一の抗原結合部位を含む。
【0090】
(キメラ抗体)
本発明の別の実施態様によれば、該抗体は修飾されており、結果として、異なる抗体、特に、異なる動物種から得られ、機能的抗体として1つに組み合わされた抗体のアミノ酸残基のドメイン又は鎖(複数可)を含む、キメラ抗体である。特定の実施態様において、本発明の巨大分子は、少なくとも2つの異なる種由来の抗体断片の集合体に存在するキメラ抗体である。特定の実施態様において、キメラ抗体は、ヒト抗体の定常領域を含む。そのような定常領域は、実施例において、Fc断片G1(配列番号26)又はFc断片G4(配列番号28)又はCLカッパ断片(配列番号30)により示されている。或いは、図12に示されたヒトFc断片(Uniprot P01857、Uniprot P01859、Uniprot P01861)及び/又は配列番号31、配列番号32、配列番号33、もしく配列番号112の配列を有するヒトFc断片を使用することができる。特定の実施態様において、キメラ抗体は、齧歯類抗体の可変領域及びヒト抗体の定常領域を含む。特定の実施態様において、キメラ抗体は、配列番号2の配列(N13B2-G1m-VH-FcG1m(E333A))又は配列番号6の配列(N13B2-G4m-VH-FcG4m(S228P))を有するVH鎖及び配列番号4の配列(N13B2-G1m-VL-CLカッパ)を有するVL鎖を含む。
【0091】
(アフィチン、アンチカリン、及び他の抗体模倣物)
本発明の巨大分子は、本明細書において抗原結合性抗体模倣物とも呼ばれる、抗体の抗原結合能を模倣する抗原結合能を有する人工タンパク質も含む。そのようなタンパク質は、アフィチン及びアンチカリンを含む。アフィチンは、抗原に選択的に結合する能力を有する人工タンパク質である。これらは、古細菌ドメインに属する微生物であるスルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)で見出されたDNA結合タンパク質Sac7dに構造的に由来している。例えば、Sac7dの結合面の11個の残基の無作為置換に対応する変異体を作製することによって、Sac7dの結合表面のアミノ酸を無作為化することにより、アフィチンライブラリーを作製することができ、得られたタンパク質ライブラリーを次々とリボソームディスプレイに供して、親和性をペプチド、タンパク質、ウイルス、及び細菌などの様々な標的に対するものとすることができる。アフィチンは抗体模倣物であり、バイオテクノロジーにおけるツールとして開発されているところである。これらは、様々な酵素の特異的阻害剤としても使用されている(Krehenbrinkらの文献、2008)。当業者は、当技術分野で公知の、特に、特許出願WO2008068637号及び上に引用された刊行物に開示されている方法、特に、ファージディスプレイ及び/又はリボソームディスプレイライブラリーの作製、並びに本明細書に開示されている抗原を用いたそのスクリーニングを用いて、所要の結合特性を有するアフィチンを容易に開発することができる。アンチカリンは、タンパク質か又は小分子かのいずれかの抗原に結合することができる人工タンパク質である。これらは、天然結合タンパク質のファミリーであるヒトリポカリンに由来する抗体模倣物である。アンチカリンは、約8倍小さく、約180アミノ酸のサイズ及び約20kDaの質量を有する(Skerraの文献、2008)。特に、特異的結合特性を有するアンチカリンのスクリーニング及び選択を可能にするアンチカリンファージディスプレイライブラリーが作製されている。当業者は、当技術分野で公知の、特に、EP特許EP1270725 B1号、米国特許US8536307 B2号(Schlehuber及びSkerraの文献、2002)、及び上に引用された刊行物に開示されている方法、特に、ファージディスプレイ及び/又はリボソームディスプレイライブラリーの作製、並びに本明細書に開示されている抗原を用いたそのスクリーニングを用いて、所要の結合特性を有するアフィチンを容易に開発することができる。アンチカリンとアフィチンはどちらも、細菌発現系を含むいくつかの発現系で産生することができる。したがって、本発明は、アフィチン、アンチカリン、並びに特に、CD127への結合、CD127内在化の非誘導及び/又は阻害、DCの成熟に関して、本明細書に記載の抗体の特徴を有する他の同様の抗体模倣物を提供するものであり、これらは全て、本発明の巨大分子として企図されている。
【0092】
(ヒト化)
特定の実施態様において、本発明の巨大分子は、ヒト化抗体又はその抗原結合性断片である。したがって、動物の免疫及びハイブリドーマからのモノクローナル抗体の産生の後、動物で、とりわけ、齧歯類動物で、特に、ラットで最初に得られたら、本発明の抗体を、フレームワーク内及び任意にさらにCDR配列内でのアミノ酸残基の置換によって、そのVH配列及び/又はVL配列内で修飾する。該ヒト化は、既知の技法に従って、リサーフェシングによるか又はCDR移植によって行うことができる。リサーフェシングは、とりわけ、齧歯類残基をヒトアミノ酸残基に置換することによって達成される。置換は、それによって抗原結合親和性が保持されるように、もとの抗体のフレームワーク構造及びさらにはCDR提示を維持し、それにより、リサーフェシングされた抗体におけるフレームワークとCDRの相互作用が抗原と接触する表面の天然の立体構造を維持することを可能にするやり方で行う。
【0093】
本発明の抗体の好ましい実施態様は、以下の軽鎖及び重鎖を含む(ラット)N13B2抗体のヒト化バージョンによって表される:
【0094】
ラットN13B2のCDR配列及びCDR配列の外側のいくつかの他のアミノ酸が保存されており、かつ他の全てのアミノ酸がヒト抗体の配列と一致する、配列番号36の配列を有するN13B2-h1の重鎖。この重鎖は、ヒト抗体重鎖との87.8%の同一性を有する。CDR配列の外側の以下の残基が保存されている:Kabat位置H24のV(図23の位置24;ヒト配列ではA)、Kabat位置H37のV(図23の位置37;ヒト配列ではI)、Kabat位置H49のA(図23の位置49;ヒト配列ではS)、及びKabat位置H73のD(図23の位置74;ヒト配列ではN);
【0095】
N13B2-h1の重鎖と比較して、CDR配列の外側のKabat位置H37、H49、及びH73のアミノ酸がヒト抗体重鎖の配列と一致するように修飾されている、配列番号38の配列を有するN13B2-h2の重鎖;
【0096】
N13B2-h2の重鎖と比較して、CDR3配列内のKabat位置H96のM(図23の位置100)が、ヒト抗体重鎖の配列と一致するように及び/又は翻訳後修飾を回避するように、Lに突然変異させられている、配列番号40の配列を有するN13B2-h3の重鎖。この位置の他の可能な残基としては、特に、A、F、及びI、より好ましくは、F又はIが挙げられる。したがって、N13B2 VHのCDR3配列の可能なヒト化変異体は、配列番号48の配列を有する。
【0097】
ラットN13B2のCDR配列及びCDR配列の外側のいくつかの他のアミノ酸が保存されており、かつ他の全てのアミノ酸がヒト抗体の配列と一致する、配列番号42の配列を有するN13B2-h1の軽鎖。この軽鎖は、ヒト抗体軽鎖との80%の同一性を有する。CDR配列の外側の以下の残基が保存されている:Kabat位置L48のV(図24の位置48;ヒト配列ではI)、Kabat位置L71のY(図24の位置71;ヒト配列ではF)、及びKabat位置L87のF(図24の位置87;ヒト配列ではY);
【0098】
N13B2-h1の軽鎖と比較して、CDR配列の外側のKabat位置L48、L71、及びL87の3つのアミノ酸がヒト抗体軽鎖の配列と一致するように修飾されている、配列番号44の配列を有するN13B2-h2の軽鎖;
【0099】
N13B2-h2の軽鎖と比較して、それぞれ、CDR1配列及びCDR2配列内のKabat位置L31(図24の位置31)及び/又はL52(図24の位置53)のアミノ酸が、ヒト抗体軽鎖の配列と一致するように及び/又は翻訳後修飾を回避するように、それぞれ、NからQに及びSからTに突然変異させられている、配列番号46の配列を有するN13B2-h3の軽鎖。L31位置の他の可能なアミノ酸としては、H及びRが挙げられる。CDR3配列の他の可能な突然変異は、位置L52のSを保存すること及び位置L51のN(図24の位置52)をQ、H、K、又はRに突然変異させることを含む。したがって、N13B2 VLのCDR1配列の可能なヒト化変異体は、配列番号50の配列を有し、N13B2 VLのCDR2配列の可能なヒト化変異体は、配列番号52の配列を有する。
【0100】
(多機能抗体又は断片)
本発明のこれらの基本的な抗原結合性断片を1つに組み合わせて、ダイアボディ、トリアボディ、又はテトラボディなどの多価抗原結合性断片を得ることができる。これらの多価抗原結合性断片も本発明の一部である。
【0101】
適切な場合、上述の修飾を組み合わせることができる。特定の実施態様において、該巨大分子は、キメラ抗体もしくはヒト化抗体及び/又は脱免疫化抗体である抗体である。
【0102】
(本発明の抗体を得る方法)
本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、特に、ヒトT細胞によって発現されるCD127である分子に対して好都合に作製され、場合により、天然ポリペプチド又は組換え分子という形態での免疫から作製される。
【0103】
免疫は、下の実施例に開示されるプロトコルに従って実施することができ:組換えCD127 Fcキメラ(10975-H03H Sino Biological, Beijing, China)を用いて、ラット、例えば、ベルギーのルーヴァン大学(University of Louvain, Belgium)で入手可能なLOU/C Igk1a系統のラットを免疫した。或いは、配列番号115(特に、配列番号110を含む)のアミノ酸配列及び/又は配列番号117(特に、配列番号111を含む)のアミノ酸配列及び/又は配列番号116のアミノ酸配列を含む抗原(該抗原は、上で開示されているように、他の配列、特に、ヒトCD127の他の配列をさらに含むか、又はこれを含まない)を、免疫原として使用することができる。ハイブリドーマは、以前に記載されている手順(Chassouxらの文献、1988)に従って、脾臓単核細胞を非分泌性かつアザグアニン耐性細胞株のLOUラット免疫細胞腫IR983Fと融合させることにより得られた。まず、ハイブリドーマを、組換えCD127分子(CD127 Fcキメラ;10975-H03H, Sino Biological, Beijing, China)に結合する分泌モノクローナル抗体の能力によってスクリーニングした。その後、ハイブリドーマを、ヒトT細胞によって発現されるCD127に結合するそのモノクローナル抗体の能力について、及び図1に例示されているように、ヒト白血球上でIL-7によって誘導されるSTAT-5リン酸化の誘導を阻害する能力について、及びTSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させないその能力についてスクリーニングした。
【0104】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明のヒト化抗体は、N13B2と呼ばれる抗体から、その可変重鎖(VH)のCDR領域及び/又はその可変軽鎖(VL)のCDR領域のうちの1つ又は複数の突然変異によって得られ、特に、ある抗体は、VH及び/又はVLのいずれかのCDR3、CDR2、及びCDR1領域の中で少なくとも1つ又は2つのもとのCDR領域を保持しており、該修飾抗体は、もとのCDR1、CDR2、又はCDR3領域に対して、個々に検討されるCDR領域中に10%未満の突然変異型アミノ酸残基、好ましくは、1個又は0個の突然変異型アミノ酸残基を有し、ここで、該もとのCDR領域は、
i.配列番号10のアミノ酸配列を有するVHCDR1;
ii.配列番号12のアミノ酸配列を有するVHCDR2;
iii.配列番号14のアミノ酸配列を有するVHCDR3;
iv.配列番号16のアミノ酸配列を有するVLCDR1;
v.配列番号18のアミノ酸配列を有するVLCDR2;
vi.配列番号20のアミノ酸配列を有するVLCDR3;
である。
【0105】
したがって、VHCDR3は、配列番号48のアミノ酸配列を有することができ; VLCDR1は、配列番号50のアミノ酸配列を有することができ; VLCDR2は、配列番号52のアミノ酸配列を有することができる。
【0106】
特定の実施態様において、本発明の抗原結合性断片は、前の段落に記載されているように修飾されているN13B2抗体の抗原結合性断片であり、該修飾された抗原結合性断片は、もとの抗原結合性断片に対して10%未満の突然変異型アミノ酸残基を有する。
【0107】
本発明によって提供される教示を考慮して、本発明の抗体を発現させるために、当業者は、ハイブリドーマを調製するか、又は発現ライブラリー及び発現系などの代替技術を使用し、その後、ハイブリドーマによって分泌される抗体の構造を有し、かつその特性、特に、その結合及び中和特性を有する抗体を選択することができる。cDNAライブラリーを本発明のハイブリドーマで発現されるRNAから適切に調製し、適切な配列を選択し、発現させることができる。或いは、本発明の抗体又はその断片をコードするcDNAを合成によって調製する。
【0108】
本発明による「ハイブリドーマ細胞」は、選択された免疫原で予め免疫しておいた動物由来の抗体産生細胞(Bリンパ球)と得られた融合細胞に不死性を提供することが可能な骨髄腫細胞である融合パートナーの融合から作製される細胞である。骨髄腫細胞及び抗体産生細胞(B細胞、例えば、脾細胞)は、同じ起源のものであることができ、真核細胞、特に、同じ動物の哺乳動物細胞である。或いは、これらは、異なる起源のものであり、そのため、ヘテロハイブリドーマを生じることができる。非分泌性かつアザグアニン耐性細胞株であるLOUラット免疫細胞腫IR983Fなどの骨髄腫細胞は、調製したハイブリドーマが所望の特異性のモノクローナル抗体のみを分泌することを可能にするために、免疫グロブリンを産生することができない細胞の中から選択される。ADCCを促進するのに好適な他の細胞、例えば、組換え細胞での発現による抗体の調製のための以下のページに記載されている細胞をラット免疫細胞腫の代わりに使用することができる。そのような細胞は、低いフコシル化能を有するか又はフコシル化能を全く有しない細胞であることが好都合である。
【0109】
本発明を実施するのに好適なハイブリドーマの調製は、従来法によって行われる。実施態様は、特定の開示された特徴を融合パートナーとして使用される他の細胞に適合させることができる本出願の実施例において詳細に記載されている。
【0110】
抗体の抗原結合性断片は、抗体から出発して、とりわけ、パパイン消化もしくはペプシン消化を含む、周知の技法による酵素消化を用いることによるか、又は任意の適当な切断法を用いることによって得ることができる。或いは、これらは、該断片のアミノ酸配列をコードする核酸配列による組換えによって修飾された宿主細胞で発現させることができるか、又は合成、とりわけ、化学合成することができる。したがって、本発明の抗体は、修飾抗体及び該抗体の抗原結合性断片を含め、古典的な遺伝子工学技法、例えば、Sambrookら(Deiningerの文献(1990)及び改訂版)によって記載されている技法によって調製することもできる。したがって、本発明は、シグナルペプチドを包含するバージョンのVHポリペプチド及びVLポリペプチド又はシグナルペプチドを包含しないバージョンのVHポリペプチド及びVLポリペプチドに関する。シグナルペプチドは、細胞内でポリペプチドを調製するときに必要である場合がある。
【0111】
本発明の抗体又はその機能的断片をヒト患者への投与に使用することを目的として、とりわけ、該抗体に対する受容宿主又は患者の免疫反応を低下させるために、ヒト化モノクローナル抗体もしくはキメラモノクローナル抗体及び/又は脱免疫化抗体を、実施例に示されている抗体などの非霊長類抗体である本発明の抗体から得ることが有益であり得る。これらの変異体抗体の機能的断片は、ヒト化変異体、キメラ変異体、又は脱免疫化変異体としても得ることができる。
【0112】
ヒト化抗体である抗体又はその抗原結合性断片は、本発明の非ヒト抗体の可変鎖(VH及び/又はVL)の定常領域(複数可)に存在するアミノ酸残基(複数可)を、標準的な定義及び付番によるヒト抗体中の対応する場所を有するヒトアミノ酸残基(複数可)に置換することによって得ることもでき、ここで、該置換レベルは、該フレームワーク領域中の残基の1%~20%、特に、1%~18%である。該定常領域には、特に、Kabat付番を参照して特定される、4本鎖抗体で規定されたフレームワーク領域(FwR)の定常領域が含まれる。
【0113】
本発明による修飾抗体の特定の例は、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び/又は脱免疫化抗体を包含する。
【0114】
特定の修飾抗体は、CDR領域に修飾アミノ酸残基を有し、該修飾は、非ヒト抗体の可変ドメイン中のT細胞エピトープの消失によって脱免疫化をもたらす。脱免疫化は、とりわけ、コンピュータ上での予測によって、抗体可変ドメイン中のT細胞エピトープを決定した後、それに続いて、抗体の可変鎖の配列に機能的T細胞エピトープを除去する点突然変異を導入することによって行うことができる。本発明の好ましい実施態様において、CDR領域の修飾、とりわけ、CDR3領域の修飾は、人体への投与を目的として脱免疫化するために、例えば、HLA-クラスII/ペプチド複合体に対するT細胞受容体の結合親和性を減少させるために必要な程度に制限される。特定の実施態様において、VHのCDR3領域及び/又はVLのCDR3領域は修飾されない。別の実施態様において、FR領域及び/又はCH領域も修飾され、とりわけ、ヒト化される。
【0115】
本発明の枠内の抗体は、上に定義された特徴に基づく抗体を相応に包含し、これは、ヒト化抗体、とりわけ、本発明の抗体のフレームワーク領域(複数可)に存在するアミノ酸残基(複数可)を、標準的な定義及び付番によるヒト抗体中の対応する場所を有するヒトアミノ酸残基(複数可)に置換することによって得られる抗体である。脱免疫化を含むヒト化のためのフレームワーク領域中及び/又はCDR中のアミノ酸残基の置換レベルは、該フレームワーク領域及び/又はCDR領域中の残基の1%~20%、特に、1%~18%である。上述のように、ヒト化は、主に、もとの抗体のフレームワーク領域を標的とする。場合により、ヒト化は、代替的に又は同様に、CDR領域(複数可)、とりわけ、CDR1及び/又はCDR2領域(複数可)に関するものであってもよく、より具体的には、脱免疫化と呼ばれる。特定の実施態様において、1以下のアミノ酸が各々のCDR領域中で修飾される。ラット抗体N13B2に由来するヒト化及び/又は脱免疫化抗体の例が本明細書に開示されている。
【0116】
したがって、ヒト化は、非ヒト抗体もしくは断片の配列と最も高い配列同一性を示すヒト生殖系列軽鎖又は重鎖フレームワークを検討し、対応するヒト残基(複数可)に適合させるために、該非ヒト抗体又はその断片において置換されることになるアミノ酸残基、とりわけ、抗体の表面に露出した残基を選択して、達成することができる。特定の実施態様において、FRLのうちの一部もしくは全て及び/又はFRH領域のうちの一部もしくは全ては、完全にヒトである、すなわち、ヒトフレームワーク配列の特性を示す。別の実施態様において、一部又は全てのFR領域中の選択された残基が置換される。
【0117】
抗体をヒト化する方法も当技術分野で周知であり、例えば、Routledegeらによって記載されている(Edward G. Routledgeの文献、1993)。これらの方法は、scFvなどの抗原結合性断片にも適用することができる。例として、「リサーフェシング」として知られる方法は、非ヒト抗体の可変領域のフレームワーク中の表面残基のセットをヒトの表面残基のセットと置き換えることに本質があり、一方、CDR移植として知られる方法は、非ヒト抗体由来のCDRをヒト抗体のフレームワーク領域に移植することからなる。CDR移植は、通常、結合親和性を最適化するために、ヒトフレームワークのいくつかの残基の置換に本質があるフレームワーク最適化によって達成される。フレームワーク最適化の工程は、最近、コンビナトリアルライブラリーの使用によって簡素化されている(Rosokらの文献、1996)(Bacaらの文献、1997)。
【0118】
本発明は、特に、CDR移植によってラットN13B2抗体から得られるヒト化抗体に関する。それぞれ、ラットN13B2のVH及びVL配列との強い相同性がある配列を有するヒトVH及びVL配列をデータベースにおいて選択した。N13B2のCDR配列をこれらのヒト配列に移植した。CDR配列の外側のいくつかの残基、特に、CDRのすぐ近くの残基及びバーニヤ残基として知られる残基は、抗原認識又は親和性に対して顕著な影響を及ぼし得る。上で及び実施例の節で、特に、実施例12で詳述されているように、ヒト化抗体のいくつかのバージョン:全てのラット配列がCDR及び上述の構造的に重要な残基について保存されている最も保存的なもの、ヒト配列が構造的に重要な残基について選択されているバージョン、及びCDRの外側の構造的に重要な残基に加えて、特に、酸化又は脱アミド化などの翻訳後修飾を妨げるために、CDRの内側のいくつかの残基が最初のラット配列から修飾されている、ヒト配列に最も近いバージョンを試験した。
【0119】
抗体のヒト化に利用可能な別の最近の戦略では、軽鎖及び重鎖のもとの非ヒトCDR3配列のみが保持され、一方、残りの配列は、ナイーブヒトV遺伝子ライブラリから選択される(Raderらの文献、1998)。
【0120】
本発明のキメラ抗体、ヒト化抗体、及び/又は脱免疫化抗体は、非修飾抗体のように、免疫グロブリンのいずれかのクラスに属することができる。好ましくは、これらは、IgGクラスのサブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4に属する。
【0121】
抗体の可変領域を適当なリンカー又は別の抗体の定常領域と組み合わせることによって組換え抗原結合性断片又はキメラ抗体を調製する方法は、当技術分野で周知である。
【0122】
本発明の抗体はモノクローナル抗体といわれ、これらの抗体の組成が均一である、とりわけ、抗原結合特異性に関して、したがって、可変領域組成に関して同一であるということを意味する。したがって、該抗体は、ハイブリドーマの技法に代わる技法によって得られたとしても、モノクローナルとみなすことができる。
【0123】
別の実施態様によれば、本発明は、本明細書に提供される定義のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片を含むキメラ分子に関するものでもあり、ここで、該抗体又はその機能的断片は、機能的に異なる分子と関連している。本発明のキメラ分子は、融合キメラタンパク質か、或いは抗体又は機能的断片の安定性及び/又は半減期を改善するための、共有結合、移植、化学基もしくは生物基(biological group)との化学結合、又は分子、例えば、PEGポリマーもしくはインビボでのプロテアーゼ切断に対する保護に好適な別の保護基もしくは分子との化学結合を含む、任意の好適な形態の結合から得られるコンジュゲートかのいずれかであることができる。同様の技法を用いて、とりわけ、化学的カップリング又は移植により、キメラ分子を、生物活性分子(該活性分子は、例えば、毒素、特に、シュードモナス外毒素A(Risbergらの文献、2011)、植物毒素リシンのA鎖(van Oosterhoutらの文献、2001)、もしくはサポリン毒素(Flavellらの文献、2006)の中から選択される)、とりわけ、治療有効成分、抗体もしくは機能的断片を人体の特定の細胞もしくは組織に標的化するのに好適なベクター(とりわけ、タンパク質ベクターを含む)を用いて調製することができるか、又はとりわけ、抗体の断片を使用する場合、キメラ分子を標識もしくはリンカーと関連させることができる。
【0124】
抗体又はその機能的断片のPEG化は、それにより、とりわけ、治療への応用のための、宿主への活性物質の送達条件が改善されるので、特定の興味深い実施態様である。PEG化は、抗体又は機能的断片の認識部位との干渉を妨げるために部位特異的であることができ、かつ高分子量PEGを用いて行うことができる。PEG化は、抗体もしくは機能的断片の配列中に存在する遊離システイン残基を通じて、又は抗体もしくは機能的断片のアミノ酸配列中の付加された遊離システイン残基を通じて達成することができる。
【0125】
本発明は、本明細書で定義されているような抗体又はその機能的断片を含む組成物に関するものでもあり、ここで、該抗体又はその機能的断片は、抗体もしくはその機能的断片の均一な集団であるか、又はモノクローナル抗体もしくはその機能的断片である。
【0126】
場合によっては、生成物の組成物を用いて、所望の効果を得ることが可能であり、その場合、組成物中の生成物の各々が少なくとも1つの所望の効果を生じる。今回の場合、例えば、IL-7-IL-7R相互作用に対する阻害効果を有する分子とCD127陽性細胞に対する細胞傷害効果を有する分子を組み合わせることが可能である。そのような組合せは本発明に含まれる。重要なことに、本発明において、生成物の組成物は、樹状細胞の成熟についてTSLPと相乗作用するべきではない。通常、これは、そのどれもが樹状細胞の成熟についてTSLPと個々に相乗作用しない生成物を組み合わせることを含む。
【0127】
特定の実施態様において、本発明は、本明細書に記載の抗体、断片、又はキメラ分子を含む化合物の組成物又は集合物に関するものであり、該組成物は、(i)CD127陽性細胞、とりわけ、CD127+ T細胞に対する細胞傷害活性を有する抗体もしくはその抗原結合性断片又はキメラ分子の集団、及び(ii)ヒトIL-7に対するアンタゴニスト特性を有する抗体もしくはその機能的断片又はキメラ分子の集団を含み、これらの抗体集団は、混合物中で組み合わされているか、又は分離しているかのいずれかであり、この後者の選択肢においては、併用投与又は逐次投与用に製剤化される。抗体及び/又は機能的断片及び/又はキメラ分子は、樹状細胞の成熟についてTSLPと相乗作用しない。
【0128】
とりわけ、本発明の抗体を参照することによって本明細書に提供される定義は、それが技術的に明らかに適切でない場合を除いて、その抗原結合性断片にも同様に適用される。これらの定義は、本出願に開示されているような、巨大分子(特に、キメラ抗体又はキメラ分子)或いはこれらの抗体もしくはその抗原結合性断片を含むか又はこれらの抗体から得られる組成物にも適用される。本発明の抗体の抗原結合性断片は、概念的な観点又は設計上の観点から、抗体から誘導されるが、必ずしも生成物としての抗体に頼らずに、様々な技法によって調製することができることがさらに規定される。
【0129】
本発明はまた、本明細書に提供される定義のいずれかによる巨大分子をコードする核酸分子に関する。特定の実施態様において、本発明の核酸は、配列番号2;配列番号4;配列番号6;配列番号8;配列番号10;配列番号12;配列番号14;配列番号16;配列番号18;配列番号20;配列番号22、配列番号24、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号110、配列番号111、配列番号86、配列番号115、配列番号116、及び配列番号117からなる群から選択されるアミノ酸をコードする。特定の実施態様において、本発明の核酸は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、もしくは55の配列を含むか、又はこれらの配列にある。
【0130】
本発明の巨大分子の調製に好適なそのような核酸は、とりわけ:
i.配列番号1もしくは配列番号5もしくは配列番号54の配列を有するVH領域、又は配列番号21もしくは配列番号35もしくは配列番号37もしくは配列番号39の配列を有するVH領域の可変領域をコードするポリヌクレオチド;
ii.配列番号3もしくは配列番号7もしくは配列番号56の配列を有するVL領域、又は配列番号23もしくは配列番号41もしくは配列番号43もしくは配列番号45の配列を有するVL領域の可変領域をコードするポリヌクレオチド;
iii.配列番号9の配列を有するVHCDR1領域をコードするポリヌクレオチド、
iv.配列番号11の配列を有するVHCDR2領域をコードするポリヌクレオチド、
v.配列番号13の配列又は配列番号47の配列を有するVHCDR3領域をコードするポリヌクレオチド、
vi.配列番号15の配列又は配列番号49の配列を有するVLCDR1領域をコードするポリヌクレオチド、
vii.配列番号17の配列又は配列番号51の配列を有するVLCDR2領域をコードするポリヌクレオチド、
viii.配列番号19の配列を有するVLCDR3領域をコードするポリヌクレオチド
の群の中で選択される。
【0131】
本発明はまた、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、又は55の配列に関して修飾されたヌクレオチドを有し、かつ:
(a)それぞれ、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、もしくは56のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、並びに/又は
(b)それぞれ、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、もしくは55の配列を有するポリヌクレオチドのうちの1つとのその全長にわたる少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、及び最も好ましくは、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有し、並びに/又は
(c)配列番号1、3、5、7、21、23、35、37、39、41、43、45、53、もしくは55の配列を有し、かつ抗原結合性断片を含むかもしくは抗原結合性断片からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの断片である、
ポリヌクレオチドに関する。
【0132】
本発明のポリヌクレオチドは、とりわけ、宿主細胞における発現のための、最適化された配列であることもできる。この分野の最適化法は、従来の方法である。
【0133】
本発明のポリヌクレオチド断片は、少なくとも9ヌクレオチド、特に、少なくとも18ヌクレオチドの配列を好都合に有し、かつそのもとの配列よりも短く、とりわけ、それぞれ、示された全長VH又はVL配列よりも短い。
【0134】
特定の実施態様によれば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明による巨大分子をコードする配列の他に、抗体鎖をコードする配列の上流に、産生細胞で発現されたときに該タンパク質の分泌を可能にするシグナルペプチドをコードする配列を含むことが好都合である場合がある。これらは、該タンパク質を検出し及び/又は該タンパク質の精製を容易にするための、1以上のマーカーペプチドをコードする1以上の配列も含むことができる。
【0135】
本発明はまた、本明細書に開示されるポリヌクレオチドのクローニング用及び/又は発現用のベクターに関する。特定の実施態様において、本発明のベクターは、転写及び発現のための調節配列を含む、哺乳動物細胞内でのクローニング及び/又は発現に好適なプラスミドである。
【0136】
本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドで組み換えられた細胞又は細胞株、とりわけ、哺乳動物又は鳥類の細胞又は細胞株に関する。例えば、全体的なフコシル化を低下させるように遺伝子改変されたチャイニーズハムスター卵巣細胞。実際、コアフコシル化を欠く抗体は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)の顕著な増強を示す(von Horstenらの文献、2010)。別の例は、もともと低いフコシル化特性を有するEB66細胞株である(Olivierらの文献、2010)。
【0137】
したがって、本発明は、抗体又はその抗原結合性断片を調製する方法であって:
(a)動物、とりわけ、哺乳動物を、ヒトIL-7受容体のヒトアルファ鎖、好ましくは、配列番号115(及び/もしくは配列番号110)並びに/又は配列番号117(及び/もしくは配列番号111)並びに/又は配列番号116(及び/もしくは配列番号86)の配列を有するヒトCD127の配列を含むその抗原(該抗原は、上で開示されているように、ヒトCD127の他の配列を含むか、又はこれを含まない)で免疫し、必要な場合、該動物を同じ免疫原で追加免疫し、免疫に応答する動物由来の脾臓細胞又はリンパ節細胞を回収し、該細胞を骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマを得た後に、モノクローナル抗体を単離すること、並びに/或いは
(b)そのような抗体をコードするポリヌクレオチド、例えば、そのヌクレオチド配列が組換え形態である本明細書に開示されるポリヌクレオチドを、細胞内で、抗体の回収を可能にする条件で発現させること、並びに
(c)特に、CD127の2b部位由来の配列を含み、かつ特に、そのような配列及びさらにCD127のD1ドメイン由来の配列を含む、本明細書に定義されるエピトープを認識する抗体、特に、ヒトIL-7受容体のアルファ鎖に対する所望の結合親和性を有する抗体を回収すること
を含む、方法にも関する。
【0138】
本発明の特定の実施態様において、該抗体又はその断片は、低いフコシル化特性を示す細胞、例えば、鳥類EB66細胞で調製される。
【0139】
本発明は、抗体を選択する方法であって、場合により、本明細書に記載の方法のうちの1つによって、CD127、特に、上で開示されているその抗原に特異的に結合する抗体又はその断片を得る工程、並びにこれらの抗体の中で、免疫細胞、特に、樹状細胞のTSLP誘導性成熟を増大させないもの、CD127の内在化を誘導しないもの、並びに/又はIL7誘導性のCD127内在化を阻害するもの、並びに/又はα4、β7、及び/もしくはα4/β7インテグリンのインビトロ及び/もしくはインビボ発現を阻害するものを選択する工程を含む、方法にも関する。選択は、細胞表面マーカーCD40及び/もしくはCD80のTSLP誘導性発現の増減について試験するための又はCD127の内在化に対する効果について試験するための又はα4、β7、及びα4/β7インテグリンの発現に対する効果について試験するための、実施例の節に記載されている手順のいずれかを用いて行うことができる。そのような試験を、例えば、96ウェルプレートで好都合に行って、多くの候補抗体の迅速かつ効率的なスクリーニングを可能にすることができ、古典的な免疫染色及びフローサイトメトリー解析により、読出しを行うことができる。したがって、本発明は、抗体、その抗原結合性断片、又は他の巨大分子を選択する方法であって、以下の工程:
a.巨大分子を、CD127に対する、特に、本明細書に開示されるその抗原に対する該巨大分子の結合能に関して試験する工程(例えば、実施例1、実施例2、実施例6、及び/もしくは実施例7に記載されている);
b.巨大分子の存在によって誘導されるCD127発現細胞におけるCD127の内在化を試験する工程(例えば、図16及び/もしくは実施例5に記載されている);
c.巨大分子によるCD127発現細胞におけるIL7誘導性のCD127内在化の阻害を試験する工程(例えば、図16及び/もしくは実施例5に記載されている);
d.巨大分子の存在下でTSLPによって誘導されるDCの成熟の増大を試験する工程(例えば、図5図6、及び/もしくは実施例9に見られる);
のうちの少なくとも1つを含むか又はこれらからなり、任意に、以下の工程:
e.巨大分子によるIL-7誘導性シグナル伝達、特に、STAT5リン酸化の阻害を試験する工程(例えば、図1図2、及び/又は実施例3に見られる);
f.巨大分子によるTSLP誘導性のTARC産生の阻害を試験する工程(例えば、実施例9、図5、及び/又は図6に見られる);
g.巨大分子によるα4、β7及び/又はα4/β7インテグリン発現、特に、T-リンパ球での細胞表面発現の発現の阻害を試験する工程(例えば、実施例16、図19、及び/又は図20に見られる);
h.特に、IL-7の存在下での、抗体によるCD127のγc鎖への結合の妨害を試験する工程(例えば、実施例21、図28に見られる)
のうちの少なくとも1つを含む、方法に関する。
これらの試験工程の各々の後に、本明細書に開示される所望の機能的特徴を有する1以上の巨大分子を選択する。
上述のように、抗体が、CD127の配列中で連続していない配列を含むエピトープを認識することが望ましい場合、CD127の単一の連続配列からなる(又は本質的に該配列からなる)エピトープの断片の認識(又は該断片への結合)を順次試験することが可能である。例えば、配列番号115、配列番号116、及び配列番号117を含むエピトープを認識する抗体を得ることが望ましい場合、第1に、本質的に配列番号116からなるエピトープを認識する抗体を選択し、次いで、第2に、これらの第1の選択された抗体の中で、本質的に配列番号115からなるエピトープを認識する抗体を選択し、その後、これらの第2の選択された抗体の中で、配列番号117から本質的になるエピトープを認識する抗体を選択することが可能である。選択の順序を、単に一例として提供されたこの順序と比べて、改変することができることが明白である。
【0140】
本発明の別の目的は、本発明による巨大分子を医薬ビヒクルとともに含む医薬組成物であり、ここで、該医薬組成物は任意に、異なる活性成分をさらに含む。
【0141】
本発明はまた、ヒト患者に投与されたときに、ヒトCD127陽性細胞の生存又は増殖、特に、ヒトCD127陽性エフェクター細胞、とりわけ、CD127+メモリーT細胞、とりわけ、CD127+でもCD8+でもあるメモリーT細胞、又はCD127+かつCD4+細胞であるメモリーT細胞の生存又は増殖を制御するのに好適な製剤中に、本発明の巨大分子を活性成分としてを含む組成物又は上で定義されているような医薬組成物に関する。特定の実施態様において、本発明の巨大分子を活性成分として含む組成物は、患者に投与されたときに、樹状細胞の分化及び/又は成熟を制御するのに好適な製剤中にある。
【0142】
本発明の組成物は、特に、アレルギー又は自己免疫に関与する細胞に対する治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物をさらに含むことができる。説明のために、対象となる例示的な免疫モジュレーターは、T細胞を標的とする他のモノクローナル抗体、例えば、抗CD3、抗ICOS、もしくは抗CD28抗体、又は補助細胞を標的とする組換えタンパク質もしくは抗体、例えば、CTLA4Igもしくは抗CD40抗体である。
【0143】
本発明は、それを必要としている患者における併用治療レジメン又は追加治療レジメンにおいて活性成分として使用するための、本明細書に定義又は例示されているような抗体もしくはその抗原結合性断片又はキメラ分子にも関する。また企図されるのは、それを必要としている患者における併用治療レジメン又は追加治療レジメンにおける治療活性成分としての本発明の巨大分子、核酸、細胞、又は細胞株の使用である。
【0144】
本発明による巨大分子、核酸、ベクター、細胞、細胞株、医薬組成物、又は本明細書に定義される組成物は、特に、免疫応答によって、とりわけ、メモリーT細胞応答によって影響を受ける病理学的状態を治療するためのヒト患者における使用のために提案されている。したがって、本発明者らは、抗体もしくはその抗原結合性断片、本発明によるキメラ分子、医薬組成物、又は本明細書に定義される組成物を、自己免疫又はアレルギー疾患、特に、アレルギー性皮膚障害、腸障害の治療に、又は移植片拒絶反応に、又は白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病(例えば、T-ALL)もしくはリンパ腫、例えば、ホジキンリンパ腫の治療、又は癌疾患、例えば、CD127+細胞と関連する乳癌、腎臓癌、膀胱癌、肺癌、膵癌の治療に、又はT細胞皮膚リンパ腫、例えば、セザリーリンパ腫の治療に、又はIL-7-R/TSLP経路の機能獲得型突然変異を有する急性リンパ芽球様白血病の治療に使用することを提案した。
【0145】
様々な実施態様において、本発明は、CD127陽性細胞を枯渇させる一方で、CD127陰性細胞を保持するための、本明細書に定義されているような巨大分子の使用に関する。
【0146】
様々な実施態様において、本発明は、CD127陽性細胞の分化及び/又は増殖及び/又は成熟、特に、IL-7及び/又はTSLPによって誘導される分化、増殖、又は成熟を妨げる一方で、CD127陰性細胞に対して直接的にはほとんど又は全く影響を及ぼさないための、本明細書に定義されているような巨大分子の使用に関する。
【0147】
特定の実施態様において、本発明は、IL-7誘導性シグナル伝達を妨害することによって、ナイーブ及びメモリーT細胞を消失させ/中和する一方で、Treg細胞を保持するための、本明細書に定義されている巨大分子の使用に関する。
【0148】
特定の実施態様において、本発明はまた、それに限らないが、おそらくADCC(抗体依存性細胞傷害性)による及び任意にCDC(補体依存性細胞傷害性)による抗体の細胞傷害作用の結果として、リンパ球の亜集団、又はCD127を発現する他の細胞集団(正常なもしくは病的状態のT及びBリンパ球、NK細胞、樹状細胞、並びに上皮細胞を含む他の細胞型を含む)を枯渇させるための、本明細書に定義されている巨大分子の使用に関する。
【0149】
上記の実施態様において、企図される使用は、本発明の核酸、ベクター、細胞、細胞株、及び組成物にも適用可能である。
【0150】
「治療」又は「治療的処置」とは、実施される投与工程が、IL-7経路と関連する、すなわち、CD127陽性細胞の活性化又は増殖と関連する障害(複数可)に罹患している、それを必要としている動物又はヒト患者の臨床状態の改善をもたらすことを意味する。そのような治療は、IL-7経路に関連する、すなわち、CD127陽性細胞の活性化又は増殖に関連する障害(複数可)と関連する症状を消失させ又は緩和することによって、動物又はヒト患者の臨床状態を改善することを目的とする。好ましい実施態様において、本発明による治療は、健康の回復を可能にする。好ましい実施態様において、該治療は、免疫細胞の成熟の増大、特に、樹状細胞の成熟の増大による望まない負の効果を有しない。
【0151】
本発明は、優勢な寛容原性状態、又はそれとは反対に、免疫応答のレベルの制御及び悪性CD127陽性細胞の破壊が必要とされる場合の寛容の欠如をもたらす、ヒト患者における免疫応答の変化を含む病的状態の治療における巨大分子の使用を含む。
【0152】
本発明は、移植片拒絶反応、自己免疫疾患、アレルギー疾患、呼吸器疾患、慢性ウイルス感染、リンパ腫、白血病、又は固形腫瘍(例えば、乳癌)に起因するものを含む他の癌疾患によって誘導される病状などの病状がCD127陽性細胞及びIL-7シグナル伝達経路と関連している場合、並びに樹状細胞の成熟の増大が回避されなければならない場合、これらの病状において使用するのに好適な手段を提供する。
【0153】
特定の実施態様において、本発明は、自己免疫疾患もしくはアレルギー疾患の治療のための、又は白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病の治療のための、又はリンパ腫の治療のための、又は癌疾患の治療のための、又は慢性ウイルス感染の治療のための、又は炎症性疾患の治療のための、又は呼吸器疾患の治療のための、又は移植に関連する症状の治療のための、ヒト患者における本発明の巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は組成物の使用に関する。
【0154】
特定の実施態様において、本発明は、自己免疫疾患もしくはアレルギー疾患の治療のための、又は白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病の治療のための、又はリンパ腫の治療のための、又は癌疾患の治療のための、又は慢性ウイルス感染の治療のための、又は炎症性疾患の治療のための、又は呼吸器疾患の治療のための、又は移植に関連する症状の治療のための、ヒト患者における本発明の巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は組成物の投与を含む、治療方法に関する。
本発明のさらなる特徴及び特性は、以下の実施例及び図面から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0155】
(図面の簡単な説明)
図1】IL-7Rシグナル伝達の阻害。抗ヒトIL-7Rαモノクローナル抗体に用量応答的なIL-7誘導性pSTAT5+ Tリンパ球の阻害。N13B2(四角)、N13E5(丸)、及びN13K12(三角)。pSTAT5(%):FACSで測定したときの、リン酸化-STAT5について陽性である細胞の比率(%)。用量依存的なSTAT5リン酸化阻害は3つのクローンについて同様であり、3つとも全て、50ng/mlで効率的に(およそ50%の阻害)及び100~500ng/mlで完全に(>95%の阻害)、リン酸化を阻害する。
図2】N13B2 mAbによるIL-7Rシグナル伝達の阻害。軸は図1と同様である。(A)MD707-3 mAb(丸)と比較したときのN13B2 mAbに用量応答的なIL-7誘導性pSTAT5+ Tリンパ球の阻害(四角)。どちらも齧歯類フォーマットである。(B)0.1ng/ml(白抜きの図記号)又は5ng/ml(黒塗りの図記号)の組換えヒトIL-7の存在下でN13B2のヒトIgG1(四角)及びヒトIgG4(丸)キメラ形態を用いた(A)と同じ実験。N13B2は、STAT 5を阻害するのにMD707-13よりも効率的であるが(N13B2については100ng/mlで、それ対して、MD707-13については1000ng/mLで、~50%の阻害)、N13B2の異なるIgGアイソタイプは、同程度の阻害効率を示す。
図3】(A)ラットN13B2抗CD127抗体の結合試験。N13B2抗体又はMD707-1をCD127固定化抗原上に様々な濃度で注入した。Resp. diff:応答差。時間:秒で示した時間(総持続時間:20分)。Blk:ブランク(抗体なし)。会合曲線及び解離曲線をBIAeval 4ソフトウェア上の「Bivalent analyte」というモデルで解析した。結果を下の表1に示す。
【表1】
【表2】
図4】新規の抗体N13B2の抗CD127活性を、組換えhCD127抗原を用いるELISAアッセイにより測定した。OD 450nm: 450nmでの光学密度。A.N13B2(黒塗りの丸)のCD127結合活性を前の抗体世代(MD707-1(白抜きの菱形)、MD707-3(白抜きの三角)、及びMD707-6(黒塗りの四角))と比較した。N13B2は、アッセイで最も効率的なバインダーのように見える。B.異なるN13B2フォーマット(ラットのIgG1(丸)又はIgG4(四角))間のCD127活性を比較した。結合活性における有意な差は観察されなかった。
【表3】
図5】骨髄樹状細胞によるTSLP誘導性TARC(胸腺及び活性化調節ケモカイン、CCL17)産生及びCD80細胞表面マーカーの発現。なし:刺激なし。LPS:リポ多糖による刺激。TSLP:TSLPによる刺激。A)ELISAによる上清中のTARC産生の定量及びB)培地のみ、1μg/mlのLPS、又は15ng/mlのTSLPとともに24時間培養したヒト血液CD1C+樹状細胞のフローサイトメトリーによるCD80細胞表面発現。データは、3回の独立した実験の平均±標準誤差又は平均(SEM)濃度である。
図6】抗ヒトCD127抗体によるTSLP誘導性のTARC産生の阻害。15ng/mlのTSLP及び様々な濃度の抗ヒトCD127抗体:N13B2抗体(丸)、MD707-6(三角)、及び対照としての抗TSLP(X)とともに24時間培養したヒト血液CD1C+樹状細胞の上清中のTARC産生のELISAによる定量。データは、3人の異なる血液ドナーの3回の独立した実験を代表するものである。N13B2はTARC分泌の阻害をごく控えめにしか阻害しないが(6μg/mLで~20%の阻害)、MD707-13及び抗TSLPRは、より効率的な阻害剤である(それぞれ、~50%及び~70%の阻害)。
図7】樹状細胞成熟のTSLP誘導性CD80及びCD40発現マーカーに対する抗CD127抗体の効果。細胞を15ng/mlのTSLPにより24時間活性化した。抗CD127抗体のN13B2、MD707-3、及びMD707-6を上清に6μg/mlで添加した。細胞表面におけるCD80(A)及びCD40(B)発現をFACSにより解析した。データは、3回の独立した実験を代表するものであり、対照細胞(培地=抗体なし、TSLPあり)における発現の%で表されている。試験した抗体のうち、N13B2だけが、TSLP処理細胞におけるCD40及びCD80の細胞表面発現を増大させない。
図8】キメラN13B2(IgG1又はigG4)抗ヒトCD127抗体の抗体依存性細胞傷害性(ADCC)。エフェクター(E)として使用されるヒトNK細胞を、標的細胞としてのヒトCD127がトランスフェクトされたBAF/3細胞株(エフェクター10に対して標的細胞1の比率)とともに及び様々な濃度のキメラN13B2 IgG1(黒塗りの四角)、N13B-IgG4(白抜きの四角)、又はキメラMD707-3(X)とともに4時間インキュベートした。比細胞傷害性のパーセンテージを51Cr放出により決定した。
図9】ヒト化免疫不全マウスで化学的に誘導された結腸炎を改善するラットN13B2抗CD127 mAbの効力。PBS(実線/黒塗りの三角)又はN13B2抗IL7Rα抗体(破線、白抜きの三角)を注射した後、0日目(直腸内投与したときに重度の結腸炎を誘導する2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)による化学的処理の開始)から、生存(A)及び体重の変化(B)を毎日モニタリングした。(B)において、各々の点は、平均体重データ(+/-SEM)を表している; Hu-TNBS+PBS群について、n=6及びTNBS群+抗IL-7Rαについて、n=6。処理群において、生存は増大し、体重減少は低下している。
図10】N13B2_G1MキメラVH鎖及びVL鎖のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列。Fc鎖は小文字で表示され、各配列中の3つのCDRには下線が引かれている。アステリスク()は、アミノ酸配列中の終止コドンを表す。
図11】N13B2_G4Mキメラのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列。Fc鎖は小文字で表示され、各配列中の3つのCDRには下線が引かれている。アステリスク()は、アミノ酸配列中の終止コドンの位置を表す。
図12】3つの選択的ヒトFc鎖(IgG1、IgG2、及びIgG4)のアミノ酸配列並びにラットN13B2抗体(IgG1)のFc鎖のアミノ酸配列。
図13】抗CD127 ELISA結合アッセイ:ヒトCD127Fcをコーティングし、抗ヒトカッパ抗体を用いて顕示させた。新規の抗体N13B2の抗CD127活性を、組換えhCD127抗原を用いるELISAアッセイにより測定した。様々なN13B2抗体フォーマット(wt(X)、IgG4ヒト化h1(黒塗りの四角)、h2(白抜きの丸)、又はh3(黒塗りの三角)抗体)間のCD127活性を比較した。OD:光学密度。
【表4】
図14】抗CD127抗体によるP-STAT5阻害:A.用量依存的な様式での、及び0.1ng/mlの組換えヒトIL-7の存在下のラットN13B2 wt(X)抗体と比較された、Tリンパ球上でのヒト化N13B2 mAbによるIL7誘導性P-STAT5の阻害(N13B2 h1(黒塗りの四角)、h2(白抜きの丸)、及びh3(黒塗りの三角)。B.前の抗体世代の様々な抗CD127抗体を、IL7依存的P-STAT5を阻害するその能力について比較した:MD707 3(丸)、MD707 4(三角)、及びMD707 13(四角)。
【表5】
図15】ラット抗CD127抗体と比べたヒト化抗CD127抗体の安定性アッセイ。抗体濃度を、37℃で7日後(ラットN13B2wt(+)又はヒト化N13B2 h3(四角))及び-80℃で7日後(ラットN13B2wt(X)又はヒト化N13B2 h3(三角))並びに4回の凍結/解凍事象後(菱形)にELISAにより測定した。
【表6】
【表7】
図16】サイトメトリーによる競合及び内在化アッセイ。ヒト末梢血単核細胞を、いくつかの抗CD127 mAbとともに、4℃(斜交棒)もしくは37℃(黒棒)のいずれかで30分間インキュベートするか、又は37℃でIL-7なしで30分間、その後、5ng/mlの組換えヒトIL-7(灰色の棒)とともに15分間インキュベートした:(A)10μgのクローンMD707-5、MD707-12、もしくはMD707-13、又はキメラN13B2-G4;(B)50ngのN13B2、HALクローンH3L4もしくは1A11、又は対照としての培地。その後、細胞を、4℃で、市販の抗ヒトCD127 mAbで染色して、細胞膜レベルでのIL-7受容体アルファ鎖発現を評価した。 MD707-5、MD707-12、及びMD707-13抗体は、37℃で、IL-7あり又はなしで、受容体の内在化を誘導したが、キメラN13B2-G4は誘導しなかった。HAL抗体は、いずれの条件でもCD127細胞表面発現の減少を誘導した。4℃での結果は、1A11抗体が標識に使用した抗体とわずかに競合する一方、HALが強い競合を示し、N13B2が競合を示さないことを示している。37℃では、細胞表面染色がHALの存在下で観察されなかったが、1A11単独でCD127の細胞表面発現の強い減少を誘導し、IL-7と組み合わせたとき、この細胞表面発現は~90%減少した。対照的に、N13B2は、CD127の細胞表面発現を4℃で低下させず、単独で使用したときにCD127の細胞表面発現の減少を誘導せず、IL-7の存在下で観察される減少を阻害した。
図17】(A)非ヒト霊長類におけるN13B2及びMD707-13 mAb投与の薬物動態試験及び薬力学試験。ヒヒ(アヌビスヒヒ(Papio anubis))を10mg/kgのN13B2-IgG1(n=3、黒塗りの四角)、N13B2-IgG4(n=3、黒塗りの丸)、又はMD707-13-IgG4(n=3、白抜きの丸)で静脈内処理した。抗CD127 mAbの血清濃度をELISAによりモニタリングした。(B)並行して、血液Tリンパ球の表面におけるCD127の発現をフローサイトメトリーによりモニタリングし、mAbの注射前に測定されたレベル(破線で示す)に対して正規化した。p<0.05。全血漿レベルは、3つ全ての抗体について、経時的に同程度である。CD127の細胞表面発現はMD707-13による処理の~8日後に減少しているが、そのような減少は、試験したN13B2クローンのいずれでも観察されない。
図18】ヒヒ(アヌビスヒヒ)を10mg/kgのN13B2-IgG1(n=3、黒塗りの四角)、N13B2-IgG4(n=3、黒塗りの丸)、又はMD707-13-IgG4(n=3、白抜きの丸)で静脈内処理した。血液及びリンパ節中の調節性Tリンパ球(CD3+ CD4+ CD25high Foxp3+)の頻度(CD4陽性T細胞の%として表す)並びに調節性Tリンパ球の絶対カウント数(細胞/mLで表す)を0日目及びmAbの投与から2週間後にモニタリングした。**p<0.01、***p<0.001。3つ全ての抗体が、調節性T細胞の血液中の総数及び血液とリンパ節の両方における比率を増大させる。
図19】α4、β7、及びα4/β7インテグリン発現のインビトロ阻害。A.FACSによりアッセイされた、5ng/mlのヒトIL-7あり又はなしでの培養から9日後のα4陽性及びα4/β7陽性ヒトT-リンパ球のパーセンテージ。B.上と同じ。表示された濃度のN13B2 mAbを0日目の培養物に添加した。破線は、対照条件(IL-7及びN13B2 mAbなし)でのベースラインレベルを示した。IL-7誘導性のα4、β7、及びα4/β7インテグリン発現の増大は、インビトロでヒト化N13B2 mAbにより妨げられる(これは、~2μg/mL抗体で完全に阻害される)。
図20】α4、β7、及びα4/β7インテグリン発現のインビボ阻害。40×10個のヒト末梢血単核細胞を放射線照射免疫不全マウス(NOD/SCID/IL-2受容体ガンマ鎖ノックアウトマウス)に腹腔内注射した。FACSにより評価された、対照バッファー(n=5)又はN13B2 mAb(5mg/kg、n=5)による処理から2週間後の血中β7陽性Tリンパ球(左)及びβ7陽性ヒトTリンパ球の生着(右)のパーセンテージ。**p<0.01。N13B2は、β7陽性T細胞の比率、及びβ7陽性T細胞の生着を有意に低下させる。
図21】インビボ乾癬モデルのDTHモデルに対するN13B2抗体の効果。BCG(カルメット・ゲラン桿菌)ワクチンを接種したヒヒ(アヌビスヒヒ)に2000(A)又は1000(B)ユニットの精製ツベルクリンの皮内注射を投与して、遅延型過敏症応答を誘導し、紅斑の直径を毎日記録した(アステリスク;破線)。1カ月後、動物を10mg/kgのN13B2-IgG1(n=3、黒塗りの四角)、N13B2-IgG4(n=3、黒塗りの丸)、又はMD707-13-IgG4(n=3、白抜きの丸)で静脈内処理した。mAb投与から4時間後、動物に、2000(A)又は1000(B)ユニットの精製ツベルクリンの皮内注射を再投与して、遅延型過敏症応答を誘導し、紅斑の直径を毎日記録した(実線)。N13B2は、2回目の投与後の紅斑の直径により測定したとき、メモリーリンパ球応答を阻害するが、MD707-13抗体は阻害しない。
図22】ヒヒ (アヌビスヒヒ)を10mg/kgのN13B2-IgG1(n=3、黒塗りの四角)、N13B2-IgG4(n=3、黒塗りの丸)、もしくはMD707-13-IgG4(n=3、白抜きの丸)、又は対照バッファー(n=3、破線)で静脈内処理した。4時間後、動物に、1.5mlの10%ヒツジ赤血球(SRBC)の静脈内注射を投与した。比抗SRBC IgG力価をSRBCの投与から1週間後及び2週間後にモニタリングし、0日目のその力価に対して正規化した。p<0.05。N13B2は、比IgG力価により測定したとき、液性免疫応答を阻害するが、MD707-13は阻害しない。
図23】ヒト化N13B2 VH IgG4 S228P_h3のタンパク質配列:灰色の配列はCDRであり、下線かつ太字のアミノ酸は突然変異型であり(V42I、A54S、D82N、M108L)、下線の配列は突然変異型IgG4配列(S228P)である。
図24】ヒト化N13B2 VL Cカッパ_h3のタンパク質配列:灰色の配列はCDRであり、下線かつ太字のアミノ酸は突然変異型であり(V54I、Y77F、F93Y+N31Q、S59T)、下線の配列は突然変異型IgG4配列(S228P)である。
図25】N13B2は、炎症マウスモデルで死を防ぐ:移植片対宿主病をヒト化マウスで誘導した(実施例13参照)。0日目に5000万個のヒトPBMCを注射され、処理を受けなかった(白抜きの四角、n=14)又は5mg/kgのキメラN13B2の腹腔内注射で週に3回処理された(黒塗りの丸、n=19)、生き残ったNSGマウスのパーセンテージ。
図26】N13B2は、炎症マウスモデルで結腸の炎症を特異的に妨げる(実施例13参照)。安楽死の時点で(すなわち、25%体重減少時又は注射から100日後)、0日目に5000万個のヒトPBMCを注射され、5mg/kgのN13B2で週に3回処理された(黒)又は処理されなかった(白)、NSGマウスの各組織における炎症細胞浸潤物を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した10μmのスライド上での組織学的検査により解析した。結果を次のように示す:A.結腸、B.腸、C.肝臓、及びD.肺。データは、群当たり少なくともn=8の平均+/-SEMである。
図27】N13B2抗体によって認識されるCD127タンパク質(Uniprot P16871)上のエピトープドメイン。太字フォントのアミノ酸は、N13B2によって認識される立体構造エピトープを形成する配列に対応し;灰色の背景のアミノ酸はIL-7との相互作用に重要であり;抹消線が引かれているアミノ酸はCD127のシグナルペプチドを構成する。
図28】抗hCD127抗体を用いたCD127/IL7/CD132複合体の共免疫沈降試験(実施例21)。レーン:1-PBLのみ、2-PBL+IL7、3-PBL+IL7+N13B2、4-PBL+IL7+MD707-13、5-CD132-Fc(72Kda)又はCD-127-Fc(80KDa)。抗hCD127カラム(MD707-9)上での試料の共免疫沈降。溶出物を、(A)ウサギ抗ヒトCD132抗体を用いるウェスタンブロットにより解析し、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギ抗体で顕示させたか、又は(B)ラット抗ヒトCD127抗体を用いるウェスタンブロットにより解析し、ペルオキシダーゼ標識ロバ抗ラット抗体で顕示させた。
【実施例
【0156】
(実施例)
(実施例1.新規の抗ヒトCD127 Mabの調製及び選択)
ラットを組換えhCD127-Ig(免疫グロブリンの定常断片と融合したhCD127-Sino Biologicals, Beijing, China;照会番号10975-H03H)で免疫し、モノクローナル抗体を従来法によって得た。使用した免疫プロトコルは、次の通りであった:組換えCD127 Fcキメラ(10975-H03H Sino Biological, Beijing, China)を用いて、LOU/C Igk1a系統のラットを免疫した。50マイクログラムのタンパク質を完全フロイントアジュバントに懸濁させ、皮下投与した。20日後、不完全フロイントアジュバントに懸濁させたタンパク質のリコール注射を行った。別の同様のリコール注射を60日目に行い、追加免疫注射を、100マイクログラムのタンパク質を用いて、90日目に行い、4日後に、脾臓細胞を回収した。
【0157】
ハイブリドーマは、以前に記載されている手順(Chassouxらの文献、1988)に従って、脾臓単核細胞を非分泌性かつアザグアニン耐性細胞株のLOUラット免疫細胞腫IR983Fと融合させることにより得た。まず、ハイブリドーマを、組換えCD127分子(CD127 Fcキメラ; 10975-H03H, Sino Biological, Beijing, China)に結合する分泌モノクローナル抗体の能力によってスクリーニングした。
【0158】
選択後、ハイブリドーマをDMEM完全培地中で培養した。上清を限外濾過(Centramate, Pall)により濃縮し、プロテインGクロマトグラフィー(HiTrap, GeHealthcare)で親和性により精製した。溶出は、pH 2.8の0.1Mのグリシン溶出バッファーを用いて行った。得られた精製免疫グロブリンをヒトCD127に対する活性ELISAでアッセイ評価した。
【0159】
分泌された抗体による組換えCD127の認識に基づいて選択された第1の選択クローンの中で、2つを、ヒトT細胞によって発現されるCD127の認識に関して及びTSLPに対するそのアンタゴニスト特性に関して、フローサイトメトリーによりさらに選択した。
【0160】
抗体を産生し、そのアイソタイプ及びその親和性を、BIAcore技術を用いた表面プラズモン共鳴測定により特徴付けた。
【0161】
(実施例2.ELISAによって評価される抗-h-CD127 MabのrCD127認識)
組換えhCD127(Sino Biologicals, Beijing, China;照会番号10975-H08H)をプラスチック上に固定化し、増加用量のMabを添加して、結合を測定した。インキュベーション及び洗浄の後、ペルオキシダーゼ標識マウス抗ラットカッパ鎖(AbdSerotec)を添加し、従来法により顕示させた。結合を各抗体について確認した。
【0162】
(実施例3.IL7シグナル伝達(pSTAT5)の阻害)
健常ボランティアからフィコール勾配によって採取されたヒト末梢血単核球細胞(PBMC)を、様々な濃度の対象となる抗体を含む無血清培地中、室温で15分間インキュベートし、その後、0.1又は5ng/mlの組換えヒトIL-7(rhIL-7; AbD Serotec、照会番号PHP046)とともに37℃で15分間インキュベートした。rhIL-7で処理しなかったPBMCをバックグラウンドシグナルとして解析し、一方、抗体なしでIL-7処理した細胞を陰性対照として設定した。その後、PBMCを素早く冷却し、FACSバッファーで洗浄して、反応を停止させた。その後、細胞を冷えたCytofix/Cytoperm溶液(BD Bioscience、照会番号554722)とともに15分間インキュベートし、Perm/Washバッファー(Bd Bioscience)で2回洗浄し、抗ヒトCD3 FITC抗体(Bd Bioscience、照会番号557694)で氷上で30分間染色した。その後、PBMCをPerm/Washバッファーで2回洗浄し、BD Perm Buffer III(Bd Bioscience、照会番号558050)中で30分間透過処理した。その後、細胞をFACSバッファー(並びに/又は1%BSA及び0.1%アジドを含むPBS)中で2回洗浄し、抗ヒトpSTAT5 Alexa 647抗体(BD Bioscience、照会番号612599)とともに室温で30分間インキュベートした。試料をBD CANTO II FACS装置で解析した。図1及び図2に示すように、N13B2及びそれから誘導されたキメラ抗体(N13B2-G1及びN13B2-G4)は、STAT5リン酸化の強い阻害剤であり;わずか50ng/mlの濃度で50%を超える阻害、わずか100ng/mlの抗体濃度で80%を超える阻害(0.1ng/mlのIL-7の場合)又は90%を超える阻害(5ng/mlのIL-7の場合)である。
(実施例4.様々な抗ヒトIL-7Rαモノクローナル抗体の半阻害濃度(IC50)を表1に示す)
【表8】
【0163】
(実施例5.サイトフルオロメトリーによるIL7R内在化アッセイ)
内在化アッセイは、Henriquesらの文献(2010)及びLuoらの文献(2011)の材料及び方法に詳述されているように、共焦点顕微鏡を用いて実施することができた。IL-7の非存在でのCD127の内在化を観察するために、50ng/mlの最終濃度の抗体hN13B2、HALクローンH3L4(米国特許第8,637,27号)もしくは1A11(国際特許出願WO2011094259号)、又は10μg/mlの最終濃度の抗体MD707-5、MD707-12、MD707-13、もしくはN13B2-G4を、ヒトPBMC(100000細胞/ウェル)とともに、無血清培地(TexMACS, Miltenyi Biotec)中、4℃又は37℃で30分間インキュベートした。IL-7の非存在下でのCD127の内在化を観察するために、同じプレインキュベーション条件を抗体とともに37℃で用い、その後、細胞を0.1ng/mlの組換えIL7(AbD Serotec、照会番号PHP046)で、37℃で15分間刺激した。反応を4℃で停止させ、細胞をPBS-1%BSA-0.1%アジドで3回洗浄した後、PBS-1%BSA-0.1%アジドに1/10で希釈したPE標識抗CD127(クローンhIL7R-M21, BD Bioscience、照会番号557938)で染色し、4℃で15分間インキュベートした。洗浄後、細胞をCantoIIサイトメーター(BD Biosciences)によるサイトフルオロメトリーにより解析した。図16に示す結果は、3回の独立した実験を代表するものである。
【0164】
この方法は、スクリーニングを実施するために、及びIL7依存的又はIL7非依存的CD127内在化を阻止する抗体を選択するために、96ウェルプレートで容易に適応可能である。
【0165】
(実施例6.抗CD127抗体親和性試験)
抗hCD127抗体の親和性をBiacore 3000(GE Healthcare)での表面プラズモン共鳴により測定した。
【0166】
CM5チップ(GE healthcare)をNHS/EDC混合物の注入により7分間活性化した。CD-127Fc(500μg/mL)を5mMマレイン酸バッファーpH6.2に希釈し、スクシンイミドエステル残基に300RUのフッキング信号まで注入した。遊離の反応性残基を1MエタノールアミンpH8.5の注入により不活化した。抗体を固定化されたCD127の上に結果の節で規定されている濃度範囲で注入した。注入速度は40μL/分に設定し、会合を3分間及び解離を10分間測定した。各解析サイクルの間、5M MgCl2の溶液を60秒間注入することにより、チップを再生した。
【0167】
得られたセンサーグラムをBIAeval 4ソフトウェア上の「Bivalent analyte」というモデルで解析した。
【0168】
図3及びその中の表2に示したように、ラット由来N13B2及びキメラ化N13B2は、CD127に対する高い親和性を示し、KDは、4.9E-11M~8.E-11M(ラット由来N13B2)、3.77.E-10(N13B2-G1)、及び1.70.E-10(N13B2-G4)の範囲であった。ラット由来MD707-1抗体は、CD127に対してラット由来N13B2よりも低い親和性を示した。
【0169】
(実施例7.抗CD127抗体結合活性)
サンドイッチELISAのために、ロバ抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体を1.2μg/mlでP96-プレートにコーティングし、精製抗体を添加して、標準範囲の関数で濃度を測定した。インキュベーション及び洗浄の後、マウス抗ヒト軽鎖、カッパ特異的(Abcam、照会番号ab79115又はEffimune、クローンNaM76-5F3)+ペルオキシダーゼ標識ロバ抗マウス(Jackson Immunoresearch、照会番号715-036-151)抗体を添加し、従来法により顕示させた。
【0170】
抗hCD127抗体の結合活性をELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)により評価した。ELISAアッセイのために、組換えhCD127(Sino Biologicals, Beijing, China;照会番号10975-H08H)をプラスチック上に1μg/mlで固定化し、精製抗体を添加して、結合を測定した。インキュベーション及び洗浄の後、ペルオキシダーゼ標識マウス抗ラットカッパ鎖(AbdSerotec)を添加し、従来法により顕示させた。
【0171】
図4及び表3に示したように、N13B2抗体のELISAによって測定したときの結合活性は高く、ラットN13B2抗hCD127抗体については、ED50=65.6ng/mL(ED50<75ng/ml及びED50<100ng/ml)であり、N13B2から誘導される2つのキメラ抗体(cN13B2-G1及びcN13B2-G4)については、12.0ng/ml及び12.6ng/mlのED50(ED50<15ng/ml)である。
【0172】
(実施例8.安定性アッセイ)
ヒト化及びキメラ精製N13B2-G1を37℃又は-80℃で7日間インキュベートした。2つのアッセイ:ELISAアッセイによる抗CD127の結合及びゲル濾過による凝集体の形成を用いて、抗体の安定性を測定した。活性ELISAアッセイのために、組換えhCD127(Sino Biologicals, Beijing, China;照会番号10975-H08H)をプラスチック上に1μg/mlで固定化し、上清の希釈物を添加して、結合を測定した。インキュベーション及び洗浄の後、マウス抗ヒト軽鎖(カッパ特異的)+ペルオキシダーゼ標識ロバ抗マウス抗体を添加し、従来法により顕示させた。凝集体形成の解析のために、試料をゲル濾過クロマトグラフィーカラム(Superdex 200, 10/300GL, GeHealthcare)上で解析して、試料由来の凝集体と単量体を分離し、評価した。
【0173】
(実施例9.成熟樹状細胞マーカーCD80及びCD40のTSLP誘導性のTARC産生及び発現)
骨髄樹状細胞(DC)を、CD1c(BDCA-1)+樹状細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach ,Germany)を用いて、健常ボランティア(Etablissement Francais du Sang, Nantes, France)の血液から単離した。骨髄樹状細胞を、10%胎仔ウシ血清、1%ピルビン酸塩、1%Hepes、1%L-グルタミン、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI中で培養した。細胞を、TSLP(15ng/ml)、LPS(1μg/ml)、又は培養培地のみの存在下、様々な濃度のラット抗ヒトCD127抗体を添加して、平らな96ウェルプレートに、5.104細胞/ウェルで播種した。培養から24時間後、細胞を、成熟のCD80細胞表面マーカー(抗CD80-V450(BD#560442))について、フローサイトメトリーにより解析し、上清を回収し、TARC産生についてELISAアッセイ(R&Dシステム, Minneapolis, USA)により解析した。
【0174】
抗体の非存在下、又は1μg/mlもしくは6μg/mlのN13B2もしくはMD707-6もしくは市販の抗TSLPR抗体(R&Dsystems、照会番号AF981)の存在下における上記のようなTSLP誘導性のTARC産生を測定することにより、該産生の阻害を評価した。図6に示したように、N13B2は、TSLP誘導性のTARC産生を、わずか1μg/mLの濃度で25%を超えて、すなわち、この濃度でMD707-6と同じぐらい効率的に阻害した。
【0175】
抗体の非存在下(この条件の場合、発現は100%で正規化される)、又は6μg/mlのN13B2、MD707-3、もしくはMD707-6抗体の存在下で、上記のようなCD40及びCD80細胞表面マーカーのTSLP誘導性発現を測定することにより、該発現の阻害を評価した(CD40については、抗体(Beckton Dickinson製の抗CD40-FITC、照会番号555588)を、上でCD80について記載されている条件と同様の条件で使用した)。図7に示したように、MD707-3とMD707-6は両方とも、CD40及びCD80発現の増大を誘導したが、MD707-3は、STAT5活性化の優れた阻害剤かつCD127の優れたバインダーであり(図2及び図4)、MD707-6は、TSLP誘導性のTARC産生の強い阻害剤である(図6)。この増大は、CD80については、少なくとも20%、CD40については、50%であった。対照的に、本発明の抗体N13B2は、TSLP誘導性のCD40発現もCD80発現も増大させなかった。その代わりに、該発現は、TSLPのみの存在下よりもTSLPと抗体の存在下で低かった。
【0176】
(実施例10.抗ヒトCD127 Mabの抗体依存性細胞傷害性(ADCC))
ADCCとは、標的細胞上に発現するエピトープに対する抗体の結合、並びにその後の、主にグランザイム/パーフォリン系機構による標的細胞の死滅をもたらす、Fc受容体を発現するエフェクター免疫細胞(本質的にNK細胞及び活性化リンパ球)のFc依存性動員を指す。
【0177】
エフェクター細胞は、磁気ビーズ(NK単離キット、Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach,Germany)及びAutoMACS細胞選別装置を用いた陰性選択によって末梢血単核細胞から単離された新鮮な初代ヒトNK細胞であった。NK細胞を、10%FBS(Life Technologies), 100IU/mlのペニシリン(Life Technologies)、0,1mg/mlのストレプトマイシン(Life Technologies)、2mMのL-グルタミン(Life Technologies)、及び150IU/mlのヒトIL-2(Roche, Basel, Switzerland)が補充されたRPMI 1640培地(Life Technologies, Carlsbad, California)中、5%CO2、37℃で一晩インキュベートした。標的細胞(ヒトCD127がトランスフェクトされたBAF/3細胞株(Parkらの文献、2000))を、100μCi(3.7MBq)の51Cr(PerkinElmer)で、37℃で1時間標識し、培養培地で5回洗浄した。標的細胞を希釈抗体又は添加剤(excipient)(培養培地)とともに、室温で15分間インキュベートし、10000個の細胞を96ウェルU底プレートに入れた。エフェクターT細胞を、10:1の細胞比(最終容量:200μl)で、37℃で4時間のインキュベーションの期間、添加した。その後、合計25μlの上清を回収し、ガンマカウンター(Packard Instrument)で計数した。
【0178】
ラット起源のMD707-3 MabとキメラN13B2-G1 Mab(したがって、IgG1型のFcドメインを有する)はどちらも、ADCCを誘発した。キメラN13B2-G4(IgG4型のFcドメインを有する)はADCC活性を示さず、陰性対照として使用された。興味深いことに、親和性と結合とADCC特性の間に直接の相関関係はなく、ADCC特性を結合解析から予測することができないことを示している。
【0179】
(実施例11.抗ヒトCD127 Mabのヌクレオチド及びアミノ酸配列)
N13B2クローンのVH領域及びVL領域を、RACE PCR技術を用いてシークエンシングした。簡潔に述べると、全RNAを抽出し、逆転写し、得られたcDNAを、dATP及びターミナルトランスフェラーゼ酵素を用いて、分子の3′末端でポリアデニル化させた。1回目の35サイクルのPCR反応は、オリゴdTアンカープライマー及びHerculease酵素(Stratagene)を用いて行った。2回目の35サイクルのPCRは、ネステッドPCRアンカープライマーを用いて行った。その後、得られたPCR産物を大腸菌(E. Coli)内でTAクローニングし、アンピシリンで選択した後、得られたコロニーを制限酵素プロファイリングによってスクリーニングし、挿入されたcDNAをシークエンシングした。
【0180】
(実施例12.ヒト化)
ラットN13B2モノクローナル抗体のヒト化は、標準的なCDR移植技術を用いて達成した。この方法の原理は、ヒトでの抗体免疫原性を低下させるだけでなく、CDR移植された分子の生物物理学的特性を改善することも目的として、ヒト抗体がラットモノクローナル抗体由来の相補性決定領域(CDR)のみを含むように、ヒト抗体を作り直すことである。
【0181】
CDR移植によるヒト化には、もとのラット抗体由来の抗原結合残基がヒト化バージョンで保持されていることが必要となる。「バーニア」残基と呼ばれるCDRに隣接する残基は、CDR立体構造に影響を及ぼすこと及び抗原認識を微調整することが見出された。Chothia及びLesk(1987)は、CDR立体構造を「標準」残基によって分離した。該残基の中にはCDR自体の内部に位置するものもあれば、フレームワーク領域中に位置するものもある。それゆえ、これらの「バーニア」残基及び「標準」残基の同定は、極めて重要な工程である。使用したプロトコルは、Medical Research Council, Cambridge, UKのGreg Winter及びその共同研究者ら(Paus及びWinterの文献、2006)によって開拓された手法に基づくものであり、Kabatにより定義されたCDR残基を使用している。
【0182】
ラットN13B2 CDR領域が移植されるヒトフレームワークアクセプター領域の選択は、ラットN13B2のVH及びVL配列をインプットとするIgBLAST-免疫グロブリン可変領域配列の解析を容易にするためにNCBIで開発されたツール(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast; Yeらの文献、2013)を用いて、IMGTラット及びヒトV遺伝子データベースを検索することにより達成した。それに加えて、ここで適用される戦略は、タンパク質及びcDNA由来配列中に見られる体細胞超突然変異を含まない天然のヒト配列であるヒト生殖系列配列を使用する。ラットVL及びVH配列に最もよく似ている生殖系列遺伝子を通常選択した。ヒト生殖系列フレームワークアクセプターのVH領域及びVL領域をもとのN13B2のVH及びVL抗体配列アラインメントにより、以下の基準に基づいて同定した:1.Kabatにより定義されたフレームワーク及びCDRにわたる配列同一性、2.同一かつ互換性のある鎖間接触面残基、3.もとのCDR標準立体構造及びバーニア残基を有する支持ループ。
【0183】
結合活性と生物活性を維持している最も優れたものを選ぶために、ヒト化のいくつかの異なる配列をN13B2について試験した。N13B2のヒト化変異体については、N13B2抗体のヒト化重鎖(VH)の可変配列を、EcoRVにより、hIgG1のCH1-CH2-CH3ドメインを含むpFuseCHIg-hG1e4発現プラスミド(Invivogen, Toulouse)にクローニングし、ADCCを増大させるためにE333Aで突然変異させた。N13B2抗体のヒト化軽鎖(VL)の可変配列を、BsiWIにより、ヒトCLカッパを含むpFuse2CLIg-hk発現プラスミド(Invivogen, Toulouse)にクローニングした。
【0184】
COS細胞で、本発明者らは、リポフェクトアミン法により、VH-hFcG1を含むプラスミドを、VL-CLkを含むプラスミドとともに共トランスフェクトした。48~72時間のインキュベーションの後、上清を回収し、pH 2.8の0.1Mのグリシン溶出バッファーを用いるプロテインGクロマトグラフィー(HiTrap, GeHealthcare)で親和性により精製した。精製抗体をPBS中で透析し、濃縮した。これらをサンドイッチELISAにより定量し、CD127抗原に対する活性アッセイで試験した。
【0185】
(実施例13.様々なインビボ炎症性疾患モデルでのIL-7に対する抗IL7Rα抗体の試験)
ヒト化NSGマウスでの結腸炎の誘導におけるアンタゴニスト抗体の効果を調べることを目的として、本発明者らは、測定可能な効果を示してきたTNBSモデルで一連の実験を行った。TNBS(2,4,6,トリニトロベンゼンスルホン酸)などのハプテンの使用により、免疫モデルを模倣するものを誘導することが可能になる(Nanceyらの文献、2008)。結腸炎は、0日目に、エタノールに溶解したTNBS(Sigma Chemical, L′Isle d′Abeau Chesne, France)を4匹のヒト化マウスに直腸内投与することにより、マウスで誘導される。はじめに、ガス混合物の吸入により、マウスに麻酔をかける。7日目に、これらの動物をいくつかの試験用にCO2中毒による麻酔の下で屠殺した(データは示さない)。一部の動物は、その臨床スコアが悪かったため、7日目よりも前に屠殺した。
【0186】
それゆえ、2つの新しいマウス群を、TNBS処理の前日から始めて2日毎に、PBSか又は210μLの0.7mg/mLのN13B2 抗IL7Rαの注射液かのいずれかで処理した。このモデルの開発において行われた解析と同様の解析を行った。
【0187】
その後、本発明者らは、N13B2抗体の効力をヒト化移植片対宿主病(GVHD)マウスモデルで試験した。このモデルは、広範囲の炎症性疾患を模倣する。いくつかの7~12週齢のNOD/scid/IL-2Rγ-/-(NSG)マウス(Charles River, L′arbresle, France)に放射線照射し(3Gy)、Poirierらの文献(2012)に以前に記載されたように、健常ドナー由来の5000万個のヒトPBMCを腹腔内(i.p.)に注入した。その後、動物を無菌状態で維持し、体重の発達及び臨床評価について、週に3回モニタリングした。対照群は、細胞の注入後、未処理のまま放置し、処理群は、0日目から、週に3回、5mg/KgのキメラN13B2 mAbのi.p注射を受けた。体重が20%減少したとき、マウスにGVHDの診断を与えた。体重が25%を超えて減少したことが分かった動物、及び0日目から100日後に生存している動物は安楽死させた。安楽死の後、結腸、腸、肝臓、及び肺の組織を組織学的解析用に液体窒素及びTissu-tek中で凍結させた。これらの組織由来の凍結切片(10μm)を室温で1時間風乾させた後、室温で10分間アセトン固定し、その後、ヘマトキシリン及びエオシン溶液で染色した。結果を図25及び図26に示す。
【0188】
(実施例14.様々な臨床パラメータの解析)
生存(図9A):本発明者らは、化学的処理及び抗IL7Rα抗体の使用による生存率を評価した。生存のパーセンテージは、Hu-TNBS+PBS群よりもHu-TNBS+IL7Rα群にとって重要である傾向にある(図9A)。実際、本発明者らは、Hu-TNBS群+IL7Rαのマウスのうちの100%が最大5日間生存することを観察したが、Hu-TNBS+PBS群では、3匹の動物をJ5よりも前に安楽死させなければならなかった。
【0189】
体重(図9B):0日目から5%TNBS/50%エタノールを直腸内注射するTNBS処理群で、本発明者らは、両方の群について最大20%の体重減少を観察した。しかしながら、Hu-TNBS+IL7Rα群では、動物はJ3から体重が増え、一方、Hu-TNBS+PBS群では、体重減少が続いた(図9B)。これらのマウスは、生物学的データを収集するために屠殺しなければならず、より長期のプロトコルであれば、体重の再増加が確認されたであろうということに留意することが重要である。
【0190】
生存(図25):本発明者らは、ヒトPBMCの注射(GvHD発症)及び抗IL7Rα抗体N13B2の使用による生存率を評価した。生存している動物の割合は、動物を抗体で処理したとき、対照動物(60日後の対照動物の死亡率は100%)よりも30%高い。この結果は、N13B2抗体がGvHD及び死を防御することを示している。
【0191】
組織浸潤物(図26):処理済又は未処理の死亡動物及び生存(ただし、安楽死させた)動物由来の結腸、腸、肝臓、及び肺を、それらの炎症細胞浸潤率について組織学的に解析した(組織学的スコアを決定した)。本発明者らは、N13B2で処理した動物の結腸が対照よりも少ない細胞浸潤物を含むことを観察した。腸、肝臓、及び肺では、両方の条件の間で違いが観察されなかった。
【0192】
N13B2で処理した動物は、対照と比較して30%の生存率を示した。炎症を特徴付ける細胞浸潤物は、腸、肝臓、及び肺組織における処理によっては修飾されず、この炎症モデルでは、N13B2が、これらの組織における炎症を防御しないことを示している。しかしながら、N13B2は、結腸における細胞浸潤物の50%減少を誘導した。この効果は、図19及び20に示されているようなα4β7インテグリン発現に対するN13B2抗体の活性と相関している可能性がある。実際、α4β7インテグリンは、活性化リンパ球の腸へのホーミングにおいて重要な役割を果たすことが知られている。したがって、N13B2抗体によって誘導されるインテグリン発現の減少は、結腸で観察される細胞浸潤物の減少に関与している可能性がある(図26)。他の組織における防御の外見上の欠如は、ここで使用したモデルに特有のものである可能性があり、抗体の防御的効果が結腸に限定されるという結論を導くものではないであろうということが強調されるべきである。特に、処理した動物のはるかにより高い生存は、抗体の防御的効果が動物の全身状態に対して強いプラスの影響を及ぼすことを示している。
【0193】
(実施例15.非内在化CD127抗体のインビボ効率)
(動物)
ヒヒ(フランス・ルセのCNRS霊長類学センターから得たアヌビスヒヒ)は、ツベルクリン皮膚試験を含む全ての検疫試験について陰性であった。フランス国立保健医学研究所(Institut National de la Sante Et de la Recherche Medicale, France)の施設倫理ガイドラインの勧告に従って、動物を本発明者らの実験室の巨大動物施設で飼育した。実験は全て、Zoletil(Virbac, Carron, France)による全身麻酔下で行われた。薬物動態試験及び薬力学試験を、DTH実験において、10mg/kgのN13B2-IgG1又はN13B2-IgG4又はMD707-13-IgG4のいずれかの静脈内ボーラスを受けている5匹のヒヒに対して行った。
【0194】
(BCGワクチン接種及びDTHアッセイ)
Poirierら(Poirierらの文献、2011)に準拠して、DTH皮膚試験の4週間前と2週間前に、ヒヒの肢の上部領域に、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)ワクチン(0・1ml; 2~8 ¥105 UFS; Sanofi Pasteur MSD, Lyon, France)で2回皮内(i.d.)免疫した。DTH皮膚試験前の抗原特異的なT細胞免疫を調べるために、免疫の達成を、製造元の指示に従って、新たに単離されたPBMCに対するインターフェロン(IFN)-g酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイ(非ヒト霊長類IFN-g ELISPOTキット; R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)により確認した。皮内反応(IDR)を、動物の右背中の皮膚で、0.1mlの2つの用量(1000UI又は2000UI)のツベルクリン精製タンパク質誘導体(PPD; Symbiotics Corporation, San Diego, CA, USA)の反復皮内注射により実施した。生理食塩水(0.1ml)を陰性対照として使用した。注射部位での皮膚応答をノギスを用いて測定した。各々の硬結性紅斑の直径を、3日目から8日目まで、2人の観察者が測定し、直径が>4mmの場合に陽性と見なした。読取りの平均を記録した。DTH又は対照(生理食塩水)部位由来の皮膚生検を4日目に1回2連で行い、免疫組織化学的解析用にTissue Tek最適切削温度(OCT)化合物(Sakura Finetek, Villeneuve d′Ascq, France)中に入れた。2回目のIDRを3週間のウォッシュアウト期間の後に行い、動物は、この2回目のPPD投与の1日前に、10mg/kgのキメラCD127抗体(N13B2-IgG1又はN13B2-IgG4又はMD707-13-IgG4)のいずれかの1回のi.v.注射を受けた。3回目のIDRをさらに3~6週間のウォッシュアウト期間の後に行い、動物を未処理のまま放置した。場合によっては、4回目のIDRをもう3カ月のウォッシュアウト期間の後に行い、動物を同じく未処理のまま放置した。
【0195】
(実施例16.マウスモデルでのインビトロ及びインビボにおけるT細胞表面でのα4β7発現:)
T細胞表面でのIL7誘導性α4β7発現を測定するために、ヒトT-リンパ球を、37℃で9日間、5ng/mlのIL7(AbD Serotec、照会番号PHP046)で刺激した。反応を4℃で停止させ、洗浄した後、PerCP/Cy5標識抗α4(BD Bioscience 563644クローン9F10)及びPE標識抗β7(BD Bioscience、クローンFIB504)で染色した。α4インテグリンの陽性細胞、その後、β7陽性細胞をフローサイトメトリーにより測定した。N13B2ヒト化抗体を、0日目に、細胞培養物に、0.01~20ug/mlの様々な濃度で添加した。
【0196】
インビボで、40×10個のヒト末梢血単核細胞を放射線照射免疫不全マウス(NOD/SCID/IL-2受容体ガンマ鎖ノックアウトマウス)に腹腔内注射した。対照バッファー(n=5)又はN13B2 mAb(5mg/kg、n=5)で処理してから2週間後、血液中のβ7陽性Tリンパ球のパーセンテージをフローサイトメトリーにより測定し、β7陽性ヒトTリンパ球の生着をフローサイトメトリーにより測定した。この生着は、特異的抗体(BD製のPECy7抗ヒトCD45、照会番号57748及びBD製のPerCPCy5.5抗マウスCD45、照会番号550994)を用いて、ヒトCD45陽性細胞をマウスCD45陽性細胞と識別することによってフローサイトメトリーにより測定し、その後、ヒトβ7陽性細胞を解析した(BD Bioscience、クローンFIB504)。
【0197】
(実施例17.ペプチドマイクロアレイを用いた抗体プロファイリング)
peptide TechnologiesのPepStar(商標)ペプチドマイクロアレイは、ガラス表面に化学選択的かつ共有結合的に固定化されている、抗原又は他の源に由来する精製合成ペプチドを含む。立体障害によって生じる偽陰性を回避するために、最適化された親水性リンカー部分がガラス表面と抗原由来ペプチド配列の間に挿入されている。技術的な理由で、全てのペプチドがC-末端グリシンを含む。試料のプロファイリング実験を52個のペプチドからなるペプチドライブラリーに対して行った。ペプチドの完全なリストを下に示す:
【表9】
【0198】
合計9つの試料を、マルチウェルフォーマットを用いて、マイクロアレイスライド上でインキュベートした。N13B2抗体及び他の試料について、4つの異なる濃度を適用した(10、1、0.1、及び0.01μg/ml)。1つの陰性対照インキュベーション(2次抗体のみ)を並行して実施した。アッセイ対照としての役割を果たすために、ヒト及びマウスIgGタンパク質を各ペプチドセットと並べて共固定化した。全てのインキュベーションを2つのスライドを用いて並行して実施した。蛍光標識検出抗体のみを適用してペプチドに対する偽陽性結合を評価することにより、各スライド上の2つのペプチドミニアレイを対照インキュベーションとして用いた。スライドを洗浄し、乾燥させた後、それらを635nmで高解像度レーザースキャナーでスキャンして、蛍光強度の画像を取得した。これらの画像を定量して、各ペプチドの平均ピクセル値を得た。1μg/mlのCy5で標識した2次抗体の抗ラットIgG(JIR 212-175-082)。バッファー及び溶液。使用したバッファーは、0.05%Tween20(JPT)を含むTBS-バッファーとアッセイバッファーT20(Pierce, SuperBlock TBS T20, #37536)とであった。獲得及び解析は、ペプチドマイクロアレイ(JPT Peptide Technologies GmbH, Berlin, Germany;バッチ#2668)、マルチウェルインキュベーションチャンバー、Axon Genepix Scanner 4200AL、スポット認識ソフトウェアGenePix、及びMicrosoft Excel, Rを用いて行った。
【0199】
(実施例18.質量分析によるエピトープマッピング)
質量分析を用いて、立体構造エピトープを同定した。エピトープのシークエンシングは、MALDI質量分析計を用いて行った。この装置は、800~4000Daのペプチド配列を容認する。対象となるタンパク質の消化により、タンパク質を小さい断片(潜在的エピトープ)に切断することが可能になる。理想的には、消化酵素は、エピトープの境界のなるべく近くで切断しなければならない。消化酵素の選択は、組換えタンパク質の配列中の酵素切断頻度に従って行われるべきである。2回目の消化は、1回目の消化の最後に得られたエピトープのサイズを低下させるために検討される。選択される酵素によって、プロファイルは大きく異なる。配列上に消化物が最もよく分布している酵素は、キモトリプシンである。適切な切断頻度を有し、かつ対象となる配列上で十分に分布している第2の酵素は、Glu Cである。
【0200】
エピトープは立体構造的であるので、親和性クロマトグラフィーにおける複合体の消化が優先される。対象となる配列の同定は、抗原-抗体複合体の形成による酵素消化に対するエピトープの保護に基づく。親和性クロマトグラフィー及び消化を経た後、エピトープの断片を溶出させ、質量分析(MALDI-TOF-TOF Bruker)によりシークエンシングする。対象となるタンパク質の3D構造は利用可能であり、これを得られた結果と比較する。
【0201】
Uniprot P16871[21-239](配列番号114):は、ヒト(Homo Sapiens)インターロイキン-7受容体サブユニットアルファのトポロジカルドメイン(Topological domain)に対応する:
【化1】
【0202】
コンピュータ上での、CD127消化酵素の選択(配列番号114に対応する配列中の上記の下線のアミノ酸を参照されたい):キモトリプシンを消化酵素として選んだ。切断部位(太線)、ペプチド数、切断の頻度が好適である。Glu-C酵素を第2の消化酵素として選んだ。得られる800~4000Daの間に含まれる重量のペプチドの数が好適である。Glu-C切断の頻度及び切断部位の場所(細線)が好適である。使用した手順は、従来的かつ当業者に周知であり、Suckauらの文献(1990)及びPapacらの文献(1994)に記載されている。
【0203】
材料及び試薬:質量分析MALDI-TOF/TOF II de Bruker; Hi-trap NHSカラム(照会番号:17-0716-01-GE healthcare);キモトリプシン(照会番号:11418467001-Roche); Glu C(照会番号:11420399001-Roche); Zip/TIP C18(照会番号:ZTC18S096-Millipore);重炭酸アンモニウム(照会番号:09830-Sigma);グリシン(照会番号:G7126-Sigma); NaCl(照会番号:27800.360-VWR)。
【0204】
フェーズ1:溶液中での遊離タンパク質及び抗体の消化。室温又は37℃で1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、及び一晩のキモトリプシン又はGlu Cによる遊離抗原及び抗体の溶液中消化。消化ペプチドの分析は、消化ペプチドの質量分析(MS)により行った。これらの実験により、酵素消化の好適な条件(時間及び温度)を確立することが可能になる。目的は、抗原を十分に消化すると同時に、抗体の構造にはなるべく小さい影響しか及ぼさないことである。最適な条件は:キモトリプシン消化:室温で1時間; Glu-C 消化:37℃で一晩であることが明らかにされた。抗原及び抗体の各消化物を質量分析MALDI-TOF/TOFにより分析した。
【0205】
フェーズ2:全固定Ac+全抗原の複合体の全消化。抗CD127モノクローナル抗体N13B2-G1(バッチ210415)のカップリングを標準的な手順に従ってHi-Trap NHSカラム上で行った。カラム上での抗原免疫捕捉を1時間行い、抗原-抗体複合体の形成を可能にした。4本のカラムHi-Trap NHS上でのN13B2-G1抗体カップリング効率は、次の通りであった:84%、84%、83%、及び83%。一貫性のある、同一のカップリング収率が得られた。
【0206】
この複合体の消化を、1/50、すなわち、50mgの抗体に1mgの酵素の比率で、上述の対照により決定された温度及び期間で行った。その後、カラムを洗浄バッファー(25mM重炭酸アンモニウム)で洗浄して、未結合の抗原ペプチドを除去し、回収する。緩衝生理食塩水(PBS-2M NaCl)中での洗浄工程も行って、非特異的ペプチドを除去する。洗浄後、溶出を溶出溶媒(50mMグリシンpH 2)で行って、特異的に抽出し、(エピトープに対応すると予測される)特異的に結合したペプチドを回収する。
【0207】
MALDI分析:洗浄画分及び溶出画分をC18マトリクス上での疎水性クロマトグラフィーにより濃縮する。その後、これらを質量分析MALDI-TOF/TOFにより分析する。MS分析は、ペプチドの質量を正確に測定することができ、実験的質量とコンピュータ上での遊離抗原の消化によって得られるペプチドの理論上の質量との比較は、ペプチドの同定を可能にし;必要であれば、ペプチドの配列を確認するために、MS/MS分析を行うことができる。
【0208】
キモトリプシン消化後の溶出物のスペクトルより、下の表10の抗原ペプチドに対応し得る、912.49; 1086.47; 1843.03; 2104.16; 1944.97; 1564.73; 1835.97; 2022.05; 2424,22、及び2858,42Da:の質量を有するペプチドの存在が明らかになっている。
【表10】
【0209】
Glu-C消化後の溶出物のスペクトルより、下の表11の抗原ペプチドに対応し得る、1200.43; 1309.68; 2108.97; 2191.04; 2699.43; 3170,68、及び3264,70Daの質量を有する本発明者らの関心対象のタンパク質の消化ペプチドの存在が明らかになっている。
【表11】
【0210】
これら2つの消化物のおかげで、本発明者らは、hN13B2とCD127抗原の間の相互作用に関与する3つの部位(下の表12)を同定することができた。対象となる配列を制限するために、塩バッファー洗浄から得られたペプチドを除外した。
【表12】
【0211】
抗原CD127上でのN13B2抗体のエピトープマッピングは、IL7/CD127経路に対する抗体活性にとって重要な3つの異なる配列を示した(図27)。IL7/CD127相互作用の3D結晶学解析(McElroyらの文献、Structure 2009, PDB:3DI2)によると、これらの配列のうちの2つ(配列番号115及び配列番号117)は構造的に閉じており、IL7とCD127との結合に関与する領域に位置している。同定された3番目の配列(配列番号116)は、受容体のD2ドメイン(受容体のガンマ鎖であるCD132と相互作用することが予測されるドメイン(Walshらの文献、2012))の部位2bに位置している。N13B2は、IL7-CD127相互作用及びCD127-CD132ヘテロ二量体形成を阻害するタンパク質の2つの部分に位置するCD127上の立体構造エピトープを認識する。N13B2の結合は、Walsh STによって予測されたような「3成分のIL7Ra/IL7/g鎖複合体」の形成を不安定にするに違いなく、これにより、複合体の内在化が阻止される。
【0212】
(実施例19.結果)
以前に記載されたように(Henriquesらの文献、2010)、IL-7単独で、IL-7媒介シグナル伝達に必要とされるTリンパ球の表面でのIL-7受容体アルファ鎖(CD127)の速やかな内在化(30~40%)が誘導される。ここで、本発明者らは、N13B2 mAbがIL-7誘導性のCD127内在化を妨げ、かつ単独ではこの内在化を誘導しないことを記載した(図16)。対照的に、本発明者らは、GSK製の抗ヒトCD127 1A11クローン(特許出願WO2011094259号)が、単独で又はIL-7と組み合わせて37℃で適用されたとき、Tリンパ球の表面でのCD127の発現を劇的に減少させることを記載した(図16)。この効果は、いくつかの市販の抗IL7R抗体(eBioRDR5及びMB15-18C9、データは示さない)による様々な染色を用いて観察された。キメラN13B2 mAb(ヒトIgG1又はIgG4 Fc-ドメインを有するようなフォーマットにしたもの)を10mg/Kgで非ヒト霊長類に静脈内投与した後、本発明者らは、2週間の追跡調査期間にわたって、T-リンパ球の表面でのCD127発現の低下を測定することがなかった(図17B)。対照的に、10mg/kgの抗ヒトCD127 MD707-13クローン(ヒトIgG4 Fc-ドメインを有するようなフォーマットにしたもの;WO2013/056984号)で並行して静脈内処理した他の非ヒト霊長類において、本発明者らは、T-リンパ球の表面でのCD127の有意な減少(60%)を観察した(図17B)。T-リンパ球上で抗ヒトCD127 mAbが結合した後のこのCD127の内在化は、Pfizerのグループによっても以前に発表されており、そこで、このグループは、その抗ヒトCD127 mAb(クローンHAL-H3L4、米国特許第8,637,273号)が、ヒト及び非ヒト霊長類の血液細胞に対してエクスビボで、並びに非ヒト霊長類に静脈内投与した後にインビボで、CD127内在化を顕著に誘導することを記載した(Kernらの文献、2013)。
【0213】
Kernらによる最近の刊行物(Kernらの文献、2015)において、CD127占有が調べられ、競合アッセイが行われた。BD biosciences製の抗CD127 HIL-7R-M21クローンは、CD127に対する結合についてHAL/Ab1抗体(Pfizerグループ製)と競合することが示された。本発明の図16に示すように、HAL抗体(クローンH3L4、米国特許第8637273号)を、CD127発現及び内在化に関して、N13B2及び1A11と比較した。これらの結果は、HAL抗体とHIL-7R-M21特許との競合を示し、これにより、Kernらの文献(2015)のデータが確認された。しかしながら、N13B2は、HIL-7R-M21と競合しない。Kernらは、HAL/Ab1が単独で、注射後4日から8日まで、細胞表面におけるCD127発現のインビボでの下方調節を誘導することも示した。これらの結果は、MD707-13クローンに関して本発明の図17Bに示された結果と同様である。図17Bは、抗体の注射後4日から10日までの細胞表面におけるCD127発現の下方調節を示している。このインビボ効果を、同じく観察されたインビトロでのMD707-13依存的な細胞内へのCD127の内在化と関連付けることができる。
【0214】
ペプチドマイクロアレイ及び質量分析によるエピトープ研究により、N13B2によって認識されるCD127上の立体構造エピトープが同定された。このエピトープは、D1にのみ位置するエピトープを認識する従来技術の抗体(実施例17)とは対照的に、ドメインD1及びD2に位置する。さらに、図16は、従来技術の抗体がCD127の内在化を誘導する一方で、N13B2がそれを誘導しないことを示している。それゆえ、本発明者らは、CD127内在化を誘導しないというN13B2の性質がドメインD1とD2の両方に位置するエピトープを認識するその性質と関係があるという結論を下している。
【0215】
まとめると、これらの結果及び以前の報告結果により、IL-7受容体に対するIL-7の結合を遮断すると記載されている抗ヒトCD127 mAb(1A11クローン、HAL/Ab1クローン及びH3L4クローン、並びにMD707-13クローン)が、IL-7受容体シグナル伝達と関連しかつそれに必要とされるIL-7受容体アルファ鎖の内在化も誘導することが示された。対照的にかつ驚異的な方法で、N13B2 mAbは、CD127内在化を誘導しない独特の性質を有しており、それは、IL-7によって誘導されるそのような内在化を妨げる。これらの結果は、IL-7受容体シグナル伝達(例えば、STAT5リン酸化、図14B)をインビトロで効果的に妨げるCD127-内在化インデューサーmAb(例えば、MD707-13クローン)が、インビボでメモリー細胞性免疫応答(図21)も液性免疫応答(図22)も妨げることができないという観察と関連付けられなければならない。対照的に、本発明者らは、IL-7受容体シグナル伝達(STAT5リン酸化)を効果的に遮断するが、CD127内在化をヒトTリンパ球上でエクスビボで及び非ヒト霊長類でインビボで誘導しないN13B2 mAbが、遅延型過敏症メモリー細胞性応答(図21)及び異種ヒツジ赤血球に対する免疫(図22)を妨げることを記載した。メモリー液性応答の制御に関してN13B2のアイソタイプ間で違いは観察されなかったが、本発明者らは、IgG4フォーマットのN13B2が、IgG1と比較して、より効果的にメモリー細胞性応答を妨げることに気付いた。MD707-13処理動物とN13B2処理動物の間でmAb曝露及び血清濃度に関する違いは観察されなかった。同様に、本発明者らは、N13B2 mAb又はMD707-13 mAbのいずれかで処理した動物における調節性Tリンパ球の有意な増加も観察した(図22)。
【0216】
ヒトIL-7は、ヒトTリンパ球上でのインビトロでのα4及びβ7インテグリンの強い発現を誘導し、α4、β7、及びα4/β7インテグリンを発現するヒトTリンパ球の頻度を劇的に増大させた(図19A)。これは、腸、脳、及び皮膚などの非リンパ系組織でのTリンパ球のホーミング及び保持に必要とされる(Gorfuらの文献、2009, DeNucciらの文献、2009)。それに伴って、本発明者らは、N13B2 mAbが、α4とβ7の両方の発現をインビトロで用量依存的に阻害すること、並びにα4陽性及びα4/β7陽性ヒトTリンパ球の頻度を減少させることを観察した(図19B)。同様に、ヒト末梢血単核細胞から免疫不全マウスに移植した後、本発明者らは、N13B2抗体が、処理して1週間後(データは示さない)及び2週間後のβ7陽性Tリンパ球のパーセンテージ及びこれらの細胞の数(すなわち、生着)を顕著にかつ急速に減少させることを観察した(図20)。2つの異なる炎症モデルで得られた結果は、N13B2抗IL7Rα抗体が、炎症性疾患に対する、特に、結腸炎における効率的な治療であり得ることを示している。
【0217】
(実施例20.立体構造エピトープの作製)
CLIPSペプチドを用いて、これらのCLIPSペプチドを、所望の抗体を誘導する活性のある強力な免疫原に変換する目的で、抗原の天然の2次構造及び3次構造を適切に模倣することができる(Boshuizenらの文献、2014)。CLIPS技術は、2つ、3つ、又は4つのアンカーポイントを保有する小さな柔軟性のない実体(化学的スキャフォールド)との反応による線状ペプチドの(多重)環状化を伴う。このアンカーは、ペプチドの1種類の官能基(すなわち、チオール)のみと反応し、複数の共有結合を介してペプチドに結合する。ペプチドは、スキャフォールドの周囲にフォールディングし、柔軟性を解放しながら、輪郭のはっきりとした3次元構造をゆっくりと取り、中心のスキャフォールド実体が「クモの巣の中のクモ」のようになる。
【0218】
この技術は、完全合成の特注のスキャフォールドを利用する。CLIPSスキャフォールドは、サイズ、極性、剛性、溶解度、官能性、及び「SS-架橋」距離が主に異なる。これらのスキャフォールドを用いて、ペプチドの緩い末端を取り付ける。ペプチド配列内に適切に配置された場合、得られるCLIPSペプチドは、線状配列と比較して、インタクトなタンパク質上の対応する領域の3D-構造にはるかによく類似している可能性が高い。CLIPS-環状化は、天然のL-システイン残基上で行うことができるが、配列中のほとんど全ての所望の位置に人為的に導入されたD-及びL-(ホモ)システイン上でも行うことができる。したがって、CLIPS化ペプチドの構造及び寸法を意のままに変化させることができる。環状化反応は、長くても30分間持続し、室温で進行し、いかなる種類の触媒作用も必要としない。さらに、これは、完全な水性条件及び中性pH(7.5~8.0)の下で適用することができ、それゆえ、細菌ファージのような非常に感度の高い生物システムと適合性がある。最後に、この反応は、高収率の環状生成物を促進しかつ重合を回避する、高希釈条件(10~100μM)で実行することができる。この技術は、用途が極めて広く、その応用の容易さの点で独特である。
【0219】
抗受容体抗体の線状エピトープと不連続エピトープの両方を再構築するために、線状の多量体重複ペプチドを、C末端が各々の3ulウェル(プレート当たり455ウェル)の底に共有結合し、かつ各々のウェルが異なるペプチドを含むように、クレジットカード大のポリプロピレンプレート上に直接合成する。単一ドメインペプチドの各々において、環状化ジシステイン架橋を形成させて、プレートに付着しているペプチドに、拘束されたループを挿入した。Teelingらの文献(2006)では、対象となる抗体によって認識される不連続エピトープを再構築する目的で、対象となるペプチドを有する環状化ペプチドを作製する方法が説明されている。簡潔に述べると、プレートに結合したジシステイン含有ペプチドを、例えば、CXXXXC-プレート、XXXCXXXXCXXXXXXプレート、又はCXXXXC-プレートなど、システインがペプチドに沿って4~13aaの間隔となるようにまず合成する。その後、水溶液中でa,a-ジブロモキシレンと反応させることによってペプチドを環状化して、様々な数のアミノ酸を含有するシステインループを提供する。この化学修飾により、ジスルフィド架橋が提供するよりも安定なループが提供される(Niederfellnerらの文献、2011)。
【0220】
(実施例21.CD127及びγcの共免疫沈降)
CD127のγc鎖への結合に対するN13B2の効果及び従来技術の抗体の効果を調べるために、IL-7により刺激し、抗体の非存在下又はMD707-13もしくはN13B2抗体の存在下でインキュベートした細胞で共免疫沈降実験を行った。抗体の非存在下では、CD127及びγcは、共免疫沈降することが示された。細胞とMD707-13とのインキュベーションは、この共免疫沈降を妨げなかったが、N13B2とのインキュベーションは、そのような共免疫沈降の欠如をもたらした。それゆえ、本発明者らの抗体は、CD127のγc鎖への結合を妨害することができるが、従来技術の抗体は、そのような特徴を有しない。
【0221】
抗CD127の存在下で複合体CD127-CD132-IL7を共免疫沈降するために、ヒトPBLをラット抗hCD127抗体(10μg/mlのラットN13B2又はMD707-13)とともに、37℃で30分間インキュベートした後、5ng/mlのIL7(AbD Serotec、照会番号PHP046)で、37℃で15分間刺激した。反応を4℃で停止させ、冷PBSで2回洗浄した後、共免疫沈降キット(Pierce Direct IPキット、照会番号26148)の溶解バッファーを添加した。
【0222】
精製カラム抗ヒトCD127を共免疫沈降キット(Pierce Direct IPキット、照会番号26148)を用いて調製した。製造元によって推奨される手順に従って、カラムに75μgの非競合ラット抗ヒトCD127(Effimune、MD707-9)をカップリングさせた。非特異的バインダーを除去するために、溶解物をカップリングさせていないカラム上で予備精製した。その後、溶解物を抗CD127カラム上に添加し、回転撹拌しながら4℃で2時間インキュベートをした。カラムを洗浄バッファーで2回洗浄し、その後、溶出バッファーで溶出させた。回収した試料をウェスタンブロットにより解析した。
【0223】
ウェスタンブロットのために、SDS-Pageゲル(分離ゲルについては10%、スタッキングゲルについては4%、厚さ1.5mm)を調製し、50μlの変性させた溶出物(変性については: 0.1M DTT、95℃で10分)を各ウェルに添加した。CD127Fc(Sino Biologicals, Beijing, China;照会番号10975-H08H)及びCD132Fc(Sino Biologicals, Beijing, China;照会番号10555-H02H)組換えタンパク質をウェスタンブロット検出用の対照として添加した(5μg/ウェル)。200Vで1時間30分間の泳動、及び20Vで35分間のニトロセルロース膜上への転写の後、飽和を、5%ミルク中、室温で2時間行った。
【0224】
検出を開始するために、ウサギ抗ヒトCD132抗体(anticorps-en-ligne, France、照会番号ABIN741840)を、1/50で、一晩4℃で添加し、その後、1/2000のペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギ(Jackson Immunoresearch、照会番号111-035-144)で、室温で1時間顕示させる。脱ハイブリダイゼーションの後、膜を1/200のラット抗ヒトCD127抗体(Effimune, MD707-9)とともに4℃で一晩インキュベートし、1/1000のペルオキシダーゼ標識ロバ抗ラット抗体(Jackson Immunoresearch、照会番号712-035-153)で、室温で1時間顕示させた。各々の顕示について、ECL(Thermo Scientific、照会番号34080)を用いて、化学発光によりペルオキシダーゼを検出し、結果をFuji 4000カメラで読み取った。
【0225】
図28は、CD127/IL7/CD132複合体の共免疫沈降の結果を示している。本発明者らは、細胞をN13B2抗体とともにインキュベートする場合を除く全ての条件で、CD132鎖(60KDa)がCD127と共免疫沈降することを観察した(28A)。しかしながら、図28Bに示すように、各々の条件で、CD127(70KDa)は、MD707-9抗体によって十分に免疫沈降され、このことは、N13B2及びMD707-13がCD127の認識についてMD707-9と競合しなかったことを示している。N13B2抗体は、IL-7の存在下でのCD127/CD132の複合体形成を阻害する。これらの結果は、CD127上でのN13B2抗体のエピトープマッピングと一致しており、N13B2がIL7Rアルファ鎖のドメインD2の部位2b内のアミノ酸配列に結合することを示している(Walshらの文献、Immunol rev. 2012)。
【0226】
まとめると、これらの結果は、N13B2抗体が、IL-7の存在下で、部位2bにおけるCD127/CD132相互作用のアンタゴニストであるだけでなく、IL7/CD127相互作用のアンタゴニストでもあることを示し、これにより、IL7及び/又は従来技術の抗CD127抗体で観察されたCD127の内在化に対する該抗体の阻害活性を説明することができる。
以下の番号付き実施態様は、本発明の好ましい実施態様を構成する。
1.CD127に特異的に結合し、かつCD127の内在化を誘導しない、抗体又は抗体の抗原結合性断片又は抗原結合性抗体模倣物。
2.IL7誘導性のCD127内在化を阻害する、特に、実施態様1による、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
3.抗体又は断片の存在下でのIL-7処理細胞におけるCD127の細胞表面発現が、抗体の非存在でインキュベートした細胞におけるそのレベルの少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%である、実施態様1又は2による抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
4.CD127に特異的に結合し、それにより、サイトカイン受容体のγc共通鎖へのCD127の結合を妨害する、抗体又はその抗原結合性断片。
5.CD127に結合したとき、サイトカイン受容体のγc共通鎖へのCD127の結合を妨害する、実施態様1~3のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片。
6.特に、測定が、該抗体の存在下又は非存在下でインキュベートされた、細胞表面でIL7受容体を発現するインタクトな細胞由来のCD127含有分子複合体を含む細胞溶解物に対して行われるとき、その存在下で、CD127に結合したγcの量が、抗体の非存在下で、それ以外は同一の条件で測定される該量の80%未満、好ましくは50%未満、一層より好ましくは25%又は10%未満である、実施態様4又は5のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片。
7.IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達のアンタゴニストである、上記の実施態様のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
8.実施態様53~67のいずれかによる抗原又は該抗原のエピトープに対して特異的に結合し、及び/又は作製された、特に、上記の実施態様のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
9.TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させない、特に、上記の実施態様のいずれかによる、CD127に特異的に結合する、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
10.α4、β7、及び/又はα4/β7インテグリンの発現を阻害する、上記の実施態様のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
11.インビボで、特に、免疫不全マウスに注射されたヒトT細胞で、α4、β7、及び/又はα4/β7インテグリンの発現を阻害する、実施態様10による抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
12.以下のアミノ酸配列:
・VHCDR1配列番号10;
・VHCDR2配列番号12;
・VHCDR3配列番号14もしくは配列番号48;又は
・VH配列番号22
のうちの少なくとも1つを含むVH鎖、及び/或いは以下のアミノ酸配列:
・VLCDR1配列番号16もしくは配列番号50;
・VLCDR2配列番号18もしくは配列番号52;
・VLCDR3配列番号20;又は
・VL配列番号24
のうちの少なくとも1つを含むVL鎖を含む、特に、上記の実施態様のいずれかによる、CD127に特異的に結合する、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
13.VHCDR1配列番号10、VHCDR2配列番号12、VHCDR3配列番号14又は配列番号48、VLCDR1配列番号16又は配列番号50、VLCDR2配列番号18又は配列番号52、及びVLCDR3配列番号20からなる群から選択される少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つのCDR配列を含む、実施態様12による抗体又はその断片もしくは模倣物。
14.VHCDR1配列番号10、VHCDR2配列番号12、VHCDR3配列番号14又は配列番号48、VLCDR1配列番号16又は配列番号50、VLCDR2配列番号18又は配列番号52、及びVLCDR3配列番号20の6つ全てのCDR配列を含む、実施態様13による抗体又はその断片もしくは模倣物。
15.-VH鎖が、配列番号2の配列もしくは配列番号6の配列もしくは配列番号54の配列を有するVH鎖にあるか、又は配列番号22の配列もしくは配列番号36の配列もしくは配列番号38の配列もしくは配列番号40の配列を含み;かつ
-VL鎖が、配列番号4の配列もしくは配列番号56の配列を有するVL鎖にあるか、又は配列番号24の配列もしくは配列番号42の配列もしくは配列番号44の配列もしくは配列番号46の配列を含む、
実施態様14による抗体。
16.キメラ抗体又はヒト化抗体又は脱免疫化抗体である、上記の実施態様のいずれかによる抗体。
17.重鎖が配列番号52の配列を有し、かつ軽鎖が配列番号54の配列を有する、ヒト化されかつ脱免疫化された抗体である、実施態様13による抗体。
18.上記の実施態様のいずれかによる抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物を含むキメラ分子である巨大分子であって、該抗体が機能的に異なる分子と関連しており、該キメラ分子が、融合キメラタンパク質か、又は化学基もしくは分子、例えば、PEGポリマーもしくは標識抗体の共有結合によって得られるコンジュゲートかのどちらかである、前記巨大分子。
19.アフィチン又はアンチカリンである、上記の実施態様のいずれかによる巨大分子。
20.5E-10Mよりも低い、とりわけ、1E-10Mよりも低い、とりわけ、5E-11Mよりも低いKdでCD127に結合する、上記の実施態様のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
21.CD127陽性細胞に対する細胞傷害活性を示す、上記の実施態様のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
22.TSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させず、ここで、TSLPによって誘導される樹状細胞成熟の増大が、TSLPのみで処理した細胞と比較した、TSLPで処理しかつ該巨大分子で処理したTSLP受容体陽性細胞における細胞表面マーカーCD40及び/又はCD80の発現の上昇を決定することによって評価される、上記の実施態様のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
23.CD80の発現が、TSLPのみで処理した細胞と比較して、TSLPで処理しかつ該巨大分子で処理したTSLP受容体陽性細胞で、25%以下、好ましくは10%以下上昇する、実施態様22による巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
24.CD80の発現が、TSLPのみで処理した細胞と比較して、TSLPで処理しかつ該巨大分子で処理したTSLP受容体陽性細胞で上昇しないか又は減少する、実施態様23による巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
25.CD40の発現が、TSLPのみで処理した細胞と比較して、TSLPで処理しかつ該巨大分子で処理したTSLP受容体陽性細胞で50%以下、好ましくは25%以下上昇する、実施態様22による巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
26.CD40の発現が、TSLPのみで処理した細胞と比較して、TSLPで処理しかつ該巨大分子で処理したTSLP受容体陽性細胞で上昇しないか又は減少する、実施態様25による巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
27.上記の実施態様のいずれかの抗体もしくはその抗原結合性断片、又は巨大分子をコードする核酸分子。
28.配列番号2;配列番号4;配列番号6;配列番号8;配列番号10;配列番号12;配列番号14;配列番号16;配列番号18;配列番号20;配列番号22;配列番号24;配列番号36;配列番号38;配列番号40;配列番号42;配列番号44;配列番号46;配列番号48;配列番号50;配列番号52;配列番号54、及び配列番号56からなる群から選択されるアミノ酸をコードする、実施態様27による核酸分子。
29.配列番号1;配列番号3;配列番号5;配列番号7;配列番号9;配列番号11;配列番号13;配列番号15;配列番号17;配列番号19;配列番号21;配列番号23;配列番号35;配列番号37;配列番号39;配列番号41;配列番号43;配列番号45;配列番号47;配列番号49;配列番号51;配列番号53、及び配列番号55からなる群から選択される、実施態様28による核酸分子。
30.実施態様27~29のいずれかのポリヌクレオチドのクローニング用及び/又は発現用のベクター、とりわけ、哺乳動物細胞でのクローニング及び/又は発現に好適なプラスミド。
31.実施態様27~30のいずれかによるポリヌクレオチドで組み換えられた細胞又は細胞株、とりわけ、哺乳動物細胞又は細胞株。
32.実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物を医薬ビヒクルとともに含む医薬組成物であって、さらなる異なる活性成分を任意に含む、前記医薬組成物。
33.ヒト患者に投与したとき、樹状細胞分化/成熟を制御するのに好適な製剤中の、実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物を治療活性成分として含む医薬組成物、或いは実施態様32の医薬組成物。
34.特に、自己免疫疾患もしくはアレルギー疾患、白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、癌疾患、慢性ウイルス感染、炎症性疾患、移植、呼吸器疾患、又は自己免疫に関与する細胞に対する治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物をさらに含む、実施態様32又は33の医薬組成物。
35.それを必要としている患者における併用治療レジメン又は追加治療レジメンにおいて治療活性成分として使用するための、実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物或いは実施態様27~30のいずれかの核酸或いは実施態様31の細胞又は細胞株。
36.疾患を有する患者、特に、ヒト患者の治療において使用するための、実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物或いは実施態様27~30のいずれかの核酸或いは実施態様31の細胞又は細胞株或いは実施態様32~34のいずれかの医薬組成物。
37.疾患のリスクがある患者、特に、ヒト患者の治療において使用するための、実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物或いは実施態様27~30のいずれかの核酸或いは実施態様31の細胞又は細胞株或いは実施態様32~34のいずれかの医薬組成物。
38.疾患が、自己免疫疾患、特に、関節リウマチ、多発性硬化症、I型糖尿病、自己免疫甲状腺炎、及び狼瘡である、実施態様36及び/又は実施態様37による使用のための巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は医薬組成物。
39.疾患が、炎症性疾患、特に、IBD及び脳脊髄炎である、実施態様36及び/又は実施態様37による使用のための巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は医薬組成物。
40.疾患がアレルギー疾患である、実施態様36及び/又は実施態様37による使用のための巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は医薬組成物。
41.疾患が癌疾患である、実施態様36及び/又は実施態様37による使用のための巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は医薬組成物。
42.疾患が呼吸器疾患である、実施態様36及び/又は実施態様37による使用のための巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は医薬組成物。
43.疾患が移植に関するものであり、特に、移植の結果である、実施態様36及び/又は実施態様37による使用のための巨大分子、核酸、細胞、細胞株、又は医薬組成物。
44.疾患を有するか又は疾患のリスクがある患者における実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物或いは実施態様27~30のいずれかの核酸或いは実施態様31の細胞又は細胞株或いは実施態様32~34の医薬組成物の投与を含む治療方法。
45.疾患が、自己免疫疾患、特に、関節リウマチ、多発性硬化症、I型糖尿病、自己免疫甲状腺炎、及び狼瘡である、実施態様44による治療方法。
46.疾患が、炎症性疾患、特に、IBD及び脳脊髄炎である、実施態様44による治療方法。
47.疾患がアレルギー疾患である、実施態様44による治療方法。
48.疾患が癌疾患である、実施態様44による治療方法。
49.疾患が呼吸器疾患である、実施態様44による治療方法。
50.疾患が移植に関するものであり、特に、移植の結果である、実施態様44による治療方法。
51.移植を必要としている及び/もしくはもうすぐ移植を受ける患者、特に、ヒト患者、並びに/又は移植を受けた患者の治療において使用するための、実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物或いは実施態様27~30のいずれかの核酸或いは実施態様31の細胞又は細胞株或いは実施態様32~34のいずれかの医薬組成物。
52.移植を必要としている及び/もしくはもうすぐ移植を受ける患者並びに/又は移植を受けた患者における実施態様1~26のいずれかによる巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物或いは実施態様27~30のいずれかの核酸或いは実施態様31の細胞又は細胞株或いは実施態様32~34の医薬組成物の投与を含む治療方法。
53.エピトープが、CD127の部位2b由来の配列を含むか又は該配列からなり、特に、CD127の部位2b由来の少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸を含む、抗原。
54.エピトープが、配列番号114のアミノ酸109~127からなる部位由来の、特に、アミノ酸110~125、112~125、112~120からなる部位由来の配列を含むか又はこれらの配列からなり、特に、該部位由来の少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸を含む、実施態様53による抗原。
55.エピトープが、CD127の少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸を含み、該連続するアミノ酸がP112及び/又はL115を含む、実施態様53又は54のいずれかによる抗原。
56.エピトープが、配列番号116の配列からなるか又は該配列を含み、特に、配列番号86の配列を含む、実施態様53~55のいずれかによる抗原。
57.エピトープが、CD127のD1ドメイン由来の、特に、配列番号114のアミノ酸1~98由来の配列、特に、少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸も含む、実施態様53~56のいずれかによる抗原。
58.エピトープが、配列番号115の配列を含むか又は該配列からなる、特に、配列番号110を含むか又は該配列からなるヒトCD127の配列を含む、実施態様57による抗原。
59.エピトープが、配列番号114のアミノ酸180~220由来の配列、特に、少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つの連続するアミノ酸も含み、特に、該配列番号114のアミノ酸180~220由来の配列が、配列番号117の配列からなるか又は該配列を含み、特に、配列番号111の配列を含むか又は該配列からなる、実施態様53~58のいずれかによる抗原。
60.エピトープが:
配列番号110の配列もしくは配列番号115の配列;
配列番号111の配列もしくは配列番号117の配列;及び
配列番号86の配列もしくは配列番号116の配列
からなるヒトCD127配列の配列からなるか又はこれらの配列を含む、実施態様53~59のいずれかによる抗原。
61.エピトープが、配列番号114のアミノ酸99~108の配列由来の3つ、4つ、もしくは5つよりも多くの連続するアミノ酸を含まず、及び/又は配列番号114のアミノ酸128~179の配列由来の3つ、4つ、もしくは5つよりも多くの連続するアミノ酸を含まず、及び/又は配列番号114のアミノ酸220~239の配列由来の3つ、4つ、もしくは5つよりも多くの連続するアミノ酸を含まず、特に、配列番号114の該アミノ酸配列のいずれかに由来の3つ、4つ、又は5つよりも多くの連続するアミノ酸を含まない、実施態様53~60のいずれかによる抗原。
62.配列番号110を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を、N-末端の1アミノ酸を超えて、又はC-末端の7アミノ酸を超えて含むようには拡張しない、実施態様53又は60のいずれかによる抗原。
63.配列番号110を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するN-末端及び/又はC-末端のアミノ酸を1つでも含むようには拡張しない、実施態様61による抗原。
64.配列番号111を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を、N-末端の30アミノ酸を超えて、又はC-末端の30アミノ酸を超えて含むようには拡張しない、実施態様53~63のいずれかによる抗原。
65.配列番号111を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するN-末端及び/又はC-末端のアミノ酸を1つでも含むようには拡張しない、実施態様64による抗原。
66.エピトープが立体構造エピトープであり、特に、該エピトープに含まれるCD127由来のペプチドが、天然のCD127又はその細胞外ドメイン中の、特に、リガンドなしのその単量体形態の、γcに結合したその形態の、及び/又はIL7に結合したその形態のCD127中の対応するペプチドの立体構造を模倣する立体構造である、実施態様53~65のいずれかによる抗原。
67.エピトープが立体構造エピトープであり、その中で、CD127由来のペプチドが、それらを所望の立体構造に保持する堅い分子骨格に結合している、実施態様66による抗原、特に、CLIPS技術を用いて得られるような抗原。
68.実施態様53~67のいずれかに定義されているエピトープ。
69.実施態様53~67のいずれかによって定義される抗原をコードする核酸。
70.抗体を製造する方法であって、非ヒト動物を実施態様53~67のいずれかに定義されている抗原に対して免疫することを含む、前記方法。
71.抗体、抗体の断片、又は抗体模倣物、特に、実施態様70と同様に得られる抗体又はその断片もしくは模倣物を選択する方法であって、実施態様53~67のいずれかに定義されている少なくとも1つの抗原に対する該抗体の結合能をアッセイする工程を含み、特に、各工程がCD127の単一の連続配列からなる異なるペプチドに対する結合能をアッセイする、いくつかの連続的なそのような工程を含む、前記方法。
72.巨大分子、特に、抗体、特に、実施態様70と同様に得られる抗体、又はそのような抗体の抗原結合性断片もしくは模倣物を選択する方法であって、CD127に対する、特に、実施態様53~67のいずれかに定義されているその抗原に対する巨大分子の結合能を試験する工程及び任意に実施態様20による巨大分子を選択する工程を含むか又はこれらの工程からなる、前記方法。
73.実施態様71又は72のいずれかによる、巨大分子を選択する方法であって、抗原がCD127のいくつかの不連続ペプチドを含み、該方法がいくつかの工程を含み、該工程の各々がCD127の該ペプチドのうちの1つに対する巨大分子の結合能を試験することからなる、前記方法。
74.特に、実施態様71~73のいずれかによる、巨大分子、特に、抗体、特に、実施態様70と同様に得られる抗体又はそのような抗体の抗原結合性断片もしくは模倣物を選択する方法であって、巨大分子の存在によって誘導されるCD127発現細胞におけるCD127の内在化を試験する工程を含むか又はこの工程からなる、前記方法。
75.特に、実施態様71~74のいずれかによる、巨大分子、特に、抗体、特に、実施態様70と同様に得られる抗体又はそのような抗体の抗原結合性断片もしくは模倣物を選択する方法であって、CD127発現細胞におけるIL7誘導性のCD127内在化の巨大分子による阻害を試験する工程及び任意に実施態様3による巨大分子を選択する工程を含むか又はこれらの工程からなる、前記方法。
76.特に、実施態様71~75のいずれかによる、巨大分子、特に、抗体、特に、実施態様70と同様に得られる抗体又はそのような抗体の抗原結合性断片もしくは模倣物を選択する方法であって、該巨大分子が、CD127へのその結合によって、CD127のγc鎖への結合を妨げる能力をアッセイする工程を含むか又は該工程からなる、前記方法。
77.特に、実施態様71~76のいずれかによる、巨大分子、特に、抗体、特に、実施態様70と同様に得られる抗体又はそのような抗体の抗原結合性断片もしくは模倣物を選択する方法であって、巨大分子の存在下でTSLPによって誘導されるDCの成熟の増大を試験する工程及び任意に実施態様22~26のいずれかによる巨大分子を選択する工程を含むか又はこれらの工程からなる、前記方法。
78.以下の工程:
a.巨大分子によるIL-7誘導性シグナル伝達、特に、STAT5リン酸化の阻害を試験する工程;
b.巨大分子によるTSLP誘導性のTARC産生の阻害を試験する工程;
c.巨大分子によるα4、β7、及び/又はα4/β7インテグリン発現、特に、T-リンパ球での細胞表面発現の発現の阻害を試験する工程
のうちの1つ又は複数をさらに含む、実施態様71~77のいずれかによる方法。
(参考文献)
【化2】
本件出願は、以下の構成の発明を提供する。
(構成1)
CD127に特異的に結合し、かつCD127の2b部位から取られた配列を含むエピトープを認識する、抗体又は抗体の抗原結合性断片又は抗原結合性抗体模倣物。
(構成2)
CD127に特異的に結合し、かつCD127の内在化を誘導せず、及び/又はIL7誘導性のCD127内在化を阻害する、抗体又は抗体の抗原結合性断片又は抗原結合性抗体模倣物。
(構成3)
CD127に特異的に結合し、それにより、サイトカイン受容体のγc共通鎖へのCD127の結合を妨害する、抗体又はその抗原結合性断片。
(構成4)
(i)CD127の内在化を誘導せず、及び/もしくはIL7誘導性のCD127内在化を阻害し、並びに/又は(ii)CD127に結合したとき、サイトカイン受容体のγc共通鎖へのCD127の結合を妨害する、構成1記載の抗体又は抗体の抗原結合性断片又は抗原結合性抗体模倣物。
(構成5)
CD127に結合したとき、サイトカイン受容体のγc共通鎖へのCD127の結合を妨害する、構成2記載の抗体又は抗体の抗原結合性断片又は抗原結合性抗体模倣物。
(構成6)
IL-7によって誘導されるIL-7Rシグナル伝達のアンタゴニストである、構成1~5のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
(構成7)
特に、5E-10Mよりも低い、とりわけ、1E-10Mよりも低い、とりわけ、5E-11Mよりも低いKdで、配列番号116(又は配列番号86)の配列並びに配列番号110(もしくは配列番号115)の配列及び/又は配列番号111(もしくは配列番号117)の配列を含むか又はこれらの配列からなる、特に、配列番号110の配列及び配列番号111の配列を含むか又はこれらの配列からなるヒトCD127のエピトープ配列に特異的に結合し、かつ該エピトープ配列を認識する抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物であって
i.配列番号110を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を、N-末端の1アミノ酸を超えて、又はC-末端の7アミノ酸を超えて含むようには拡張せず;及び/又は
ii.配列番号111を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を、N-末端の30アミノ酸を超えて、又はC-末端の30アミノ酸を超えて含むようには拡張しない、
前記抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
(構成8)
CD127に特異的に結合し、かつTSLPによって誘導される樹状細胞の成熟を増大させない、構成1~6のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
(構成9)
CD127に特異的に結合し、以下のアミノ酸配列:
・VHCDR1配列番号10;
・VHCDR2配列番号12;
・VHCDR3配列番号14もしくは配列番号48;又は
・VH配列番号22
のうちの少なくとも1つを含むVH鎖及び/或いは以下のアミノ酸配列:
・VLCDR1配列番号16もしくは配列番号50;
・VLCDR2配列番号18もしくは配列番号52;
・VLCDR3配列番号20;又は
・VL配列番号24;
のうちの少なくとも1つを含むVL鎖を含み、特に、VHCDR1配列番号10、VHCDR2配列番号12、VHCDR3配列番号14又は配列番号48、VLCDR1配列番号16又は配列番号50、VLCDR2配列番号18又は配列番号52、及びVLCDR3配列番号20からなる群から選択される少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つのCDR配列を含む、構成1~8のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物。
(構成10)
-前記VH鎖が、配列番号2の配列もしくは配列番号6の配列もしくは配列番号54の配列を有するVH鎖にあるか、又は配列番号22の配列もしくは配列番号36の配列もしくは配列番号38の配列もしくは配列番号40の配列を含み;かつ
-前記VL鎖が、配列番号4の配列もしくは配列番号56の配列を有するVL鎖にあるか、又は配列番号24の配列もしくは配列番号42の配列もしくは配列番号44の配列もしくは配列番号46の配列を含む、
構成9記載の抗体。
(構成11)
キメラ抗体又はヒト化抗体又は脱免疫化抗体、特に、ヒト化されかつ脱免疫化された抗体であり、ここで、前記重鎖が配列番号52の配列を有し、かつ前記軽鎖が配列番号54の配列を有する、構成1~10のいずれか一項記載の抗体。
(構成12)
構成1~11のいずれか一項記載の抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物を含むキメラ分子である巨大分子であって、該抗体が機能的に異なる分子と関連しており、該キメラ分子が、融合キメラタンパク質か、又は化学基もしくは分子、例えば、PEGポリマーもしくは標識抗体の共有結合によって得られるコンジュゲートかのどちらかである、前記巨大分子。
(構成13)
構成1~12のいずれか一項記載の抗原、抗体、その抗原結合性断片もしくは模倣物、又は巨大分子、特に、配列番号2;配列番号4;配列番号6;配列番号8;配列番号10;配列番号12;配列番号14;配列番号16;配列番号18;配列番号20;配列番号22;配列番号24;配列番号36;配列番号38;配列番号40;配列番号42;配列番号44;配列番号46;配列番号48;配列番号50;配列番号52;配列番号54、及び配列番号56からなる群から選択されるアミノ酸をコードする核酸分子、特に、配列番号1;配列番号3;配列番号5;配列番号7;配列番号9;配列番号11;配列番号13;配列番号15;配列番号17;配列番号19;配列番号21;配列番号23;配列番号35;配列番号37;配列番号39;配列番号41;配列番号43;配列番号45;配列番号47;配列番号49;配列番号51;配列番号53、及び配列番号55からなる群から選択される核酸分子。
(構成14)
構成1~12のいずれか一項記載の巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物、或いは構成13記載の核酸を医薬ビヒクルとともに含む医薬組成物であって、さらなる異なる活性成分、特に、自己免疫疾患もしくはアレルギー疾患、白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、癌疾患、慢性ウイルス感染、炎症性疾患、移植、呼吸器疾患、又は自己免疫に関与する細胞に対して、特に、治療的免疫モジュレーター作用を有する追加の化合物を任意に含む、前記医薬組成物。
(構成15)
それを必要としている患者における併用治療レジメン又は追加治療レジメンにおける治療活性成分として使用するための、構成1~12のいずれか一項記載の巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物、或いは構成13記載の核酸、或いは構成14記載の医薬組成物。
(構成16)
移植を必要としている及び/又はもうすぐ移植を受ける患者、特に、ヒト患者、並びに/或いは移植を受けた患者並びに/或いは疾患、特に、自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ、多発性硬化症、I型糖尿病、自己免疫甲状腺炎、もしくは狼瘡、又は炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患(IBD)及び脳脊髄炎、又はアレルギー疾患、又は癌疾患、又は呼吸器疾患、又は移植に関連する疾患を有するか、或いは該疾患のリスクがある患者の治療において使用するための、構成1~12のいずれか一項記載の巨大分子、特に、抗体又はその抗原結合性断片もしくは模倣物、或いは構成13記載の核酸、或いは構成14記載の医薬組成物。
(構成17)
配列番号116(もしくは配列番号86)の配列並びに配列番号110(もしくは配列番号115)の配列及び/又は配列番号111(もしくは配列番号117)の配列を含むか又はこれらの配列からなる、特に、配列番号115の配列及び配列番号110(もしくは配列番号115)の配列及び配列番号111(もしくは配列番号117)の配列を含むか又はこれらの配列からなるヒトCD127のエピトープ配列からなる抗原であって、
(i)配列番号110を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を、N-末端の1アミノ酸を超えて、又はC-末端の7アミノ酸を超えて含むようには拡張せず;及び/又は
(ii)配列番号111を含むヒトCD127のエピトープ配列が、ヒトCD127の配列中の該配列に隣接するアミノ酸を、N-末端の30アミノ酸を超えて、又はC-末端の30アミノ酸を超えて含むようには拡張しない、
前記抗原。
(構成18)
非ヒト動物を構成17記載の抗原に対して免疫することを含む、抗体の製造方法。
(構成19)
抗体、特に、構成18記載のように得られる抗体、そのような抗体の抗原結合性断片もしくは模倣物、又は別の巨大分子を選択する方法であって、以下の工程:
a.CD127に対する、特に、構成17記載のその抗原に対する該巨大分子の結合能を試験する工程;
b.該巨大分子の存在によって誘導されるCD127発現細胞におけるCD127の内在化を試験する工程;
c.該巨大分子によるCD127発現細胞におけるIL7誘導性のCD127内在化の阻害を試験する工程;
d.該巨大分子の存在下でTSLPによって誘導されるDCの成熟の増大を試験する工程;
のうちの少なくとも1つを含むか又はこれらの工程からなり、かつ任意に、以下の工程:
e.該巨大分子によるIL-7誘導性シグナル伝達、特に、STAT5リン酸化の阻害を試験する工程;
f.該巨大分子によるTSLP誘導性のTARC産生の阻害を試験する工程;
g.該巨大分子によるα4、β7、及び/又はα4/β7インテグリン発現、特に、T-リンパ球での細胞表面発現の発現の阻害を試験する工程
のうちの1つ又は複数をさらに含む、
前記方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
図25
図26
図27
図28
【配列表】
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