(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ジアルコキシマグネシウムの製造方法、オレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法、オレフィン類重合用触媒の製造方法及びオレフィン類重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/654 20060101AFI20230803BHJP
C07F 3/02 20060101ALI20230803BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C08F4/654
C07F3/02 Z
C08F10/00 510
(21)【出願番号】P 2019001297
(22)【出願日】2019-01-08
【審査請求日】2021-11-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保坂 元基
(72)【発明者】
【氏名】小川 速
(72)【発明者】
【氏名】小森 研太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁志
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-171957(JP,A)
【文献】特開2010-030924(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058193(WO,A1)
【文献】特開平03-074341(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066535(WO,A1)
【文献】特開2014-070109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 4/82
C07B 41/00-41/14
C07C 29/00-39/44
C07F 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応促進剤の存在下、金属マグネシウムとアルコールを反応させることにより、ジアルコキシマグネシウムを得るジアルコキシマグネシウムの製造方法であって、
該反応促進剤として、ヨウ素(I
2)を用いること、
該アルコールがエタノールであること、
該金属マグネシウムを、複数回に分けて反応容器に添加すること、
該金属マグネシウムの総添加量(モル)に対する該反応促進剤として添加するヨウ素(I
2)の総添加量(モル)のモル比(ヨウ素/金属マグネシウム)が0.001~0.008であること、
反応開始時の該反応容器内の金属マグネシウム量(kg)/反応開始時の該反応容器内のアルコール量(m
3)の値をA値とし、最初から最終の金属マグネシウム添加操作までに該反応容器に添加する金属マグネシウム総添加量(kg)/最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、該反応容器に添加するアルコールの総添加量(m
3)の値をB値としたときに、A値が5.0~50.0であること、B値が40.0~70.0であること及びA値に対するB値の比(B値/A値)が2.10~8.50であること、
を特徴とするジアルコキシマグネシウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い
、ジアルコキシマグネシウムを得、次いで、得られたジアルコキシマグネシウム(a)と、チタンハロゲン化合物(b)と、電子供与性化合物(c)とを接触させることにより、オレフィン類重合用固体触媒成分を得ることを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項3】
(A)請求項2記載のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法を行い
、オレフィン類重合用固体触媒成分を得、次いで、得られたオレフィン類重合用固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物、及び(C)外部電子供与性化合物を相互に接触させることにより、オレフィン類重合用触媒を得ることを特徴とするオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記(B)有機アルミニウム化合物が、下記一般式(2):
R
2
pAlQ
3-p (2)
(式中、R
2は炭素数1~4のアルキル基を示し、Qは水素原子あるいはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3の実数である。R
2が複数存在する場合、各R
2は互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される有機アルミニウム化合物であることを特徴とする請求項3記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記(C)外部電子供与性化合物が、下記一般式(3):
R
3
qSi(OR
4)
4-q (3)
(式中、R
3は、炭素数1~12のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、炭素数6~15の芳香族炭化水素基または置換基を有する炭素数6~15の芳香族炭化水素基を示し、R
3が複数存在する場合、複数のR
3は互いに同一でも異なっていてもよい。R
4は、炭素数1~4のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または置換基を有する炭素数7~12の芳香族炭化水素基を示し、R
4が複数存在する場合、複数のR
4は互いに同一でも異なっていてもよい。qは0≦q≦3の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物、及び一般式(4):
(R
5R
6N)
sSiR
7
4-s (4)
(式中、R
5およびR
6は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、ビニル基、炭素数3~20のアルケニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数3~20のシクロアルケニル基または炭素数6~20のアリール基を示し、R
5およびR
6は互いに同一でも異なっていてもよく、また互いに結合して環を形成してもよく、R
5R
6N基が複数存在する場合、複数のR
5R
6N基は互いに同一でも異なっていてもよい。R
7は炭素数1~20のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数1~20のアルコキシ基、ビニルオキシ基、炭素数3~20のアルケニルオキシ基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基を示し、R
7が複数存在する場合、複数のR
7は互いに同一でも異なっていてもよい。sは1から3の整数である。)
で表されるアミノシラン化合物から選択される一種以上であることを特徴とする請求項3又は4いずれか1項記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項3~5いずれか1項記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法を行い
、オレフィン類重合用触媒を得、次いで、得られたオレフィン類重合用触媒の存在下にオレフィン類の重合を行うことを特徴とするオレフィン類重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン類重合用触媒成分の担体原料のジアルコキシマグネシウムの製造方法に関する。また、本発明は、オレフィン類重合用固体触媒成分、オレフィン類重合用固体触媒、及びオレフィン類重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン類の重合方法としては、ジアルコキシマグネシウム、チタンハロンゲン化合物及び内部電子供与性化合物を相互に接触させて得られる固体触媒成分と、有機アルミニウム化合物と、からなるオレフィン類重合触媒の存在下に、オレフィン類を重合又は共重合させるオレフィン類の重合方法が数多く提案されている。
【0003】
このようなオレフィン類の重合方法においては、得られるポリオレフィンの形状は、重合に用いる固体触媒成分の形状に依存するため、固体触媒成分のモフォロジー(粒子構造)の制御は重要であり、数多くの検討がなされている。
【0004】
このような中、オレフィン類の重合において、ポリオレフィン重合体粒子の形状制御における要求として、粒径分布が狭いものが求められている。そして、粒径分布が狭いポリオレフィンを得るためには、粒径分布が狭い固体触媒成分が必要である。
【0005】
ここで、固体触媒成分の粒子構造は、固体触媒成分の担体となるジアルコキシマグネシウムの粒子構造に依存する。つまり、粒径分布が狭いポリオレフィンを得るために、粒径分布が狭いジアルコキシマグネシウムが求められている。
【0006】
また、オレフィン類重合用固体触媒成分は、得られるオレフィン重合体のBD(Bulk Density:嵩比重)にも影響を与える。そして、オレフィン類重合用固体触媒成分のBDが、低過ぎると単位体積当たりの重量が低下してしまう為、反応やその後の貯蔵等に容積が大きくなり、一方で、高過ぎると得られる共重合体(ゴム成分)の粒子内部への保持力が低下する為、粒子表面がべたつき易くなり、共重合体の流動性が低下する。このようなことから、オレフィン類重合用固体触媒成分のBD(嵩比重)が適切な範囲であることも、求められている。
【0007】
また、オレフィン類重合用固体触媒成分の製造の際に、原料となるジアルコキシマグネシウムが壊れ易い粒子であると、微粉が多く発生してしまい、この微粉が、固体触媒成分を製造する場合の沈降性が不良になること及び得られる固体触媒成分の収率の低下につながることに加えて、このような担体を用いて得られた固体触媒成分でオレフィン類を重合した場合には、系内で微粉量の多い重合体が生成し易く、系内への付着や閉塞を起こす原因となる。そのため、オレフィン類重合用固体触媒成分の原料となるジアルコキシマグネシウムには、壊れ難いことも要求される。
【0008】
ジアルコキシマグネシウムを製造する方法としては、例えば、特許文献1には、平均粒径50μm~500μmの粒状金属マグネシウムと、炭素数3~4の脂肪族分岐アルコールを0.25~2.5モル%含むエチルアルコールとの混合アルコールとを直接固液反応させ、炭素数3~4の脂肪族分岐アルコールから誘導されるアルコキシド量が、検出可能な量以上に含有しているが全アルコキシド中の含有量は2.5モル%未満であり、残りのアルコキシドがエトキシドであり、D50で示す平均粒径が10~70μm、嵩密度が0.25~0.50g/ml、粒子強度が明細書中に規定する測定法で2.5~6.0MPaを有する混合マグネシウムジアルコキシド粒状物の合成方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、金属マグネシウムと一般式ROHで示されるアルコールとを無溶媒かつ触媒の存在下に直接反応させてマグネシウムアルコラートを合成する方法において、金属マグネシウムとアルコールの反応系への最終添加割合を金属マグネシウム/アルコール(重量比)=1/9~15とし、前記最終添加割合の金属マグネシウムとアルコールを、アルコールの還流下の反応系に連続的又は断続的に添加し、5~80分間に亘り反応させ、次いで、アルコールの還流下に熟成反応を行うことを特徴とする球形で粒度分布の狭いマグネシウムアルコラートの合成方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献3及び4には、金属マグネシウムとアルコールを、反応促進剤としてヨウ素の存在下で、反応させる方法において、反応促進剤であるヨウ素を複数回に分けて反応系に添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2012-171957公報
【文献】特開平3-74341号公報
【文献】特開2013-95890号公報
【文献】国際公開第2013/058193号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1~4の製造方法では、粒径分布が狭いこと、BDが高いこと、及び粒子が壊れ難いことの全てを同時に満たすジアルコキシマグネシウムは得られない。なお、BDが低いと反応やその後の貯蔵等での容積が大きくなってしまうため、BDは高い方が好ましい。ただし、BDが高過ぎると共重合体(ゴム成分)の粒子内部への保持力が低くなり、粒子表面がべたつき易くなるので、BDは、共重合体の粒子表面のべたつき発生しない程度で、高いことが求められる。
【0013】
従って、本発明の目的は、粒径分布が狭く、BDが高く、且つ、粒子が壊れ難いジアルコキシマグネシウムを得るためのジアルコキシマグネシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる実情において、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、金属マグネシウムとアルコールを反応させる際に、反応促進剤としてハロゲンを用い、且つ、金属マグネシウムを分割添加する際に、反応容器に添加する金属マグネシウム及びアルコールの比率を調節することにより、粒径分布が狭く、且つ、BDが小さく、且つ、粒子が壊れ難いジアルコキシマグネシウムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明(1)は、反応促進剤の存在下、金属マグネシウムとアルコールを反応させることにより、ジアルコキシマグネシウムを得るジアルコキシマグネシウムの製造方法であって、
該反応促進剤として、ヨウ素(I
2
)を用いること、
該アルコールがエタノールであること、
該金属マグネシウムを、複数回に分けて反応容器に添加すること、
該金属マグネシウムの総添加量(モル)に対する該反応促進剤として添加するヨウ素(I
2
)の総添加量(モル)のモル比(ヨウ素/金属マグネシウム)が0.001~0.008であること、
反応開始時の該反応容器内の金属マグネシウム量(kg)/反応開始時の該反応容器内のアルコール量(m3)の値をA値とし、最初から最終の金属マグネシウム添加操作までに該反応容器に添加する金属マグネシウム総添加量(kg)/最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、該反応容器に添加するアルコールの総添加量(m3)の値をB値としたときに、A値が5.0~50.0であること、B値が40.0~70.0であること及びA値に対するB値の比(B値/A値)が2.10~8.50であること、
を特徴とするジアルコキシマグネシウムの製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(2)は、(1)のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い、ジアルコキシマグネシウムを得、次いで、得られたジアルコキシマグネシウム(a)と、チタンハロゲン化合物(b)と、電子供与性化合物(c)とを接触させることにより、オレフィン類重合用固体触媒成分を得ることを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(3)は、(A)(2)のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法を行い、オレフィン類重合用固体触媒成分を得、次いで、得られたオレフィン類重合用固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物、及び(C)外部電子供与性化合物を相互に接触させることにより、オレフィン類重合用触媒を得ることを特徴とするオレフィン類重合用触媒の製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明(4)は、前記(B)有機アルミニウム化合物が、下記一般式(2):
R2
pAlQ3-p (2)
(式中、R2は炭素数1~4のアルキル基を示し、Qは水素原子あるいはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3の実数である。R2が複数存在する場合、各R2は互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される有機アルミニウム化合物であることを特徴とする(3)のオレフィン類重合用触媒の製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明(5)は、前記(C)外部電子供与性化合物が、下記一般式(3):
R3
qSi(OR4)4-q (3)
(式中、R3は、炭素数1~12のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、炭素数6~15の芳香族炭化水素基または置換基を有する炭素数6~15の芳香族炭化水素基を示し、R3が複数存在する場合、複数のR3は互いに同一でも異なっていてもよい。R4は、炭素数1~4のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または置換基を有する炭素数7~12の芳香族炭化水素基を示し、R4が複数存在する場合、複数のR4は互いに同一でも異なっていてもよい。qは0≦q≦3の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物、及び一般式(4):
(R5R6N)sSiR7
4-s (4)
(式中、R5およびR6は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、ビニル基、炭素数3~20のアルケニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数3~20のシクロアルケニル基または炭素数6~20のアリール基を示し、R5およびR6は互いに同一でも異なっていてもよく、また互いに結合して環を形成してもよく、R5R6N基が複数存在する場合、複数のR5R6N基は互いに同一でも異なっていてもよい。R7は炭素数1~20のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数1~20のアルコキシ基、ビニルオキシ基、炭素数3~20のアルケニルオキシ基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基を示し、R7が複数存在する場合、複数のR7は互いに同一でも異なっていてもよい。sは1から3の整数である。)
で表されるアミノシラン化合物から選択される一種以上であることを特徴とする(3)又は(4)いずれかのオレフィン類重合用触媒の製造方法を提供するものである。
【0024】
また、本発明(6)は、(3)~(5)いずれかのオレフィン類重合用触媒の製造方法を行い、オレフィン類重合用触媒を得、次いで、得られたオレフィン類重合用触媒の存在下にオレフィン類の重合を行うことを特徴とするオレフィン類重合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、粒径分布が狭く、BDが高く、且つ、粒子が壊れ難いジアルコキシマグネシウムを得るためのジアルコキシマグネシウムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法は、反応促進剤の存在下、金属マグネシウムとアルコールを反応させることにより、ジアルコキシマグネシウムを得るジアルコキシマグネシウムの製造方法であって、
該反応促進剤として、ハロゲンを用いること、
該金属マグネシウムを、複数回に分けて該反応容器に添加すること、
反応開始時の該反応容器内の金属マグネシウム量(kg)/反応開始時の該反応容器内のアルコール量(m3)の値をA値とし、最初から最終の金属マグネシウム添加操作までに該反応容器に添加する金属マグネシウム総添加量(kg)/最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、該反応容器に添加するアルコールの総添加量(m3)の値をB値としたときに、A値に対するB値の比(B値/A値)が2.10~8.50であること、
を特徴とするジアルコキシマグネシウムの製造方法である。
【0027】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応促進剤の存在下で、金属マグネシウムとアルコールを反応させることにより、ジアルコキシマグネシウムを得るジアルコキシマグネシウムの製造方法である。
【0028】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法に係る金属マグネシウムの形状は、特に制限されず、例えば、顆粒状、リボン状、粉末状等が挙げられる。これらのうち、金属マグネシウムとしては、粉末状のものが好ましく、粉末状の金属マグネシウムの平均粒径は、好ましくは10~1000μm、20~800μm、特に好ましくは50~500μmである。金属マグネシウムの表面状態は、特に制限されないが、表面に酸化マグネシウム等の被膜が生成されていないものが好ましい。金属マグネシウム中の平均粒径が5μm未満の微粉成分の含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であり、平均粒径が500μm以上の粗粉成分の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0029】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法に係るアルコールは、特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の炭素数が1~6の低級アルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。アルコールの含水量は、特に制限されないが、含水量が少ないほど好ましく、無水アルコール又は含水量が200ppm以下の脱水アルコールが特に好ましい。
【0030】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法で用いられる反応促進剤は、ハロゲンである。ハロゲンとしては、I2、I-Cl、I-Br等が挙げられる。これらのうち、反応促進剤としては、I2が好ましい。反応促進剤がハロゲンであることにより、粒度分布指数(SPAN)を狭くすることができる。
【0031】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応容器に対し、金属マグネシウムを複数回に分けて添加する。つまり、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応容器に添加する全金属マグネシウムを2以上に分割し、反応容器に、分割した金属マグネシウムを複数回に分けて添加する。
【0032】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、複数回の金属マグネシウムの分割添加のうち、反応開始時までの分割添加では、反応温度より低い温度、好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下で、反応容器に金属マグネシウムを添加する。なお、反応開始時とは、全反応過程のうち、金属マグネシウムとアルコールの反応温度に達する最初の時点を指す。また、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、複数回の金属マグネシウムの分割添加のうち、反応開始後の分割添加では、反応温度より10℃高い温度から反応温度までの温度範囲で、反応容器に金属マグネシウムを添加する。
【0033】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応容器に、アルコールを複数回に分けて添加する。つまり、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応容器に添加する全アルコールを2以上に分割し、反応容器に、分割分のアルコールを複数回に分けて添加する。
【0034】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応容器に、反応促進剤の全量を一度に添加してもよいし、あるいは、複数回に分割して添加してもよい。
【0035】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、金属マグネシウムの総添加量(モル)に対する反応促進剤として添加するハロゲンの総添加量(モル)のモル比(ハロゲン/金属マグネシウム)は、好ましくは0.001~0.008、特に好ましくは0.002~0.005である。金属マグネシウムの総添加量(モル)に対する反応促進剤として添加するハロゲンの総添加量(モル)のモル比(ハロゲン/金属マグネシウム)が上記範囲にあることにより、形状、嵩比重、粒度分布が良好なジアルコキシマグネシウムとなる。
【0036】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、反応開始時までに、反応容器へ金属マグネシウム、アルコール及び反応促進剤を添加する操作形態としては、例えば、以下の操作形態が挙げられる。
(i)何も入っていない反応容器に、最初に金属マグネシウムを添加し、次いで、アルコール及び反応促進剤のうちの一方を添加し、次いで、アルコール及び反応促進剤のうちの他方を添加する操作。
(ii)何も入っていない反応容器に、最初に反応促進剤を添加し、次いで、金属マグネシウム及びアルコールのうちの一方を添加し、次いで、金属マグネシウム及びアルコールのうちの他方を添加する操作。
(iii)何も入っていない反応容器に、最初にアルコールを添加し、次いで、金属マグネシウム及び反応促進剤のうちの一方を添加し、次いで、金属マグネシウム及び反応促進剤のうちの他方を添加する操作。
【0037】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、反応開始時より後、且つ、最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、反応容器へ金属マグネシウム、アルコール及び反応促進剤を添加する添加形態としては、例えば、以下の操作形態が挙げられる。
(i)反応容器に、金属マグネシウムのみを添加する操作。
(ii)反応容器に、アルコールのみを添加する操作。
(iii)反応容器に、反応促進剤のみを添加する操作。
(iv)反応容器に、金属マグネシウム及びアルコールの混合物を添加する操作。
(v)反応容器に、金属マグネシウム及び反応促進剤の混合物を添加する操作。
(vi)反応容器に、アルコールと反応促進剤の混合物を添加する操作。
(vii)反応容器に、金属マグネシウム、アルコール及び反応促進剤の混合物を添加する操作。
【0038】
そして、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、金属マグネシウムとアルコールとを、撹拌しながら、反応促進剤の存在下で、アルコール中に金属マグネシウムを分散させた懸濁状態で、これらの反応を行う。
【0039】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、「反応開始時の反応容器内の金属マグネシウム量(kg)/反応開始時の反応容器内のアルコール量(m3)」の値をA値とし、「“最初”から“最終の金属マグネシウム添加操作”までに反応容器に添加する金属マグネシウム総添加量(kg)/“最初”から“最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点”までに、反応容器に添加するアルコールの総添加量(m3)」の値をB値としたときに、A値に対するB値の比(B値/A値)が2.10~8.50である。
【0040】
A値は、「反応開始時の反応容器内の金属マグネシウム量(kg)/反応開始時の反応容器内のアルコール量(m3)」により算出される値である。言い換えると、A値は、「反応開始前に反応容器に添加されている金属マグネシウムの添加量(kg)/反応開始前に反応容器に添加されているアルコールの添加量(m3)」により算出される値である。また、B値は、「最初から最終の金属マグネシウム添加操作までに反応容器に添加する金属マグネシウム総添加量(kg)/最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、反応容器に添加するアルコールの総添加量(m3)」により算出される値である。言い換えると、B値は、「反応容器に初回から最終の金属マグネシウム添加操作までの間に添加された金属マグネシウムの添加量の合計(kg)/反応容器に初回の添加から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までの間に添加されたアルコールの添加量の合計(m3)」により算出される値である。
【0041】
なお、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、最終の金属マグネシウム添加操作後、且つ、最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までの段階で、アルコールのみを反応容器に添加してもよい。この場合、B値の計算においては、「最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、反応容器に添加するアルコールの総添加量」に、最終の金属マグネシウム添加操作後、且つ、最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までの段階で、アルコールのみを反応容器に添加する操作で添加したアルコール添加量を含める。
【0042】
一方、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、最終の金属マグネシウム添加操作後、且つ、最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点より後に、アルコールのみを反応容器に添加してもよいが、この場合、B値の計算においては、「最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、反応容器に添加するアルコールの総添加量(m3)の値」に、最終の金属マグネシウム添加操作後、且つ、最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点より後に、反応容器にアルコールのみを添加する操作で添加したアルコール添加量を含めない。
【0043】
例えば、反応容器に、金属マグネシウムの各分割添加量を、x1(kg)、x2(kg)、x3(kg)、x4(kg)、x5(kg)として、5回に分けて分割添加し、初回の金属マグネシウムの分割添加時に、反応容器に、y1(m3)のアルコールとx1(kg)の金属マグネシウムを添加し、更に、反応促進剤を添加し、反応温度まで昇温して、反応を開始し、所定の時間反応させた後、2回目の分割添加時に、反応容器に、y2(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx2(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、3回目の分割添加時に、反応容器に、y3(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx3(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、4回目の分割添加時に、反応容器に、y4(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx4(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、5回目の分割添加時に、反応容器に、y5(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx5(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続けて、金属マグネシウムとアルコールの反応を行った場合、A値は「x1/y1」であり、また、B値は「(x1+x2+x3+x4+x5)/(y1+y2+y3+y4+y5)」である。
【0044】
また、例えば、反応容器に、金属マグネシウムの各分割添加量を、x1(kg)、x2(kg)、x3(kg)、x4(kg)、x5(kg)として、5回に分けて分割添加し、初回の金属マグネシウムの分割添加時に、反応容器に、y1(m3)のアルコールとx1(kg)の金属マグネシウムを添加し、更に、反応促進剤を添加し、反応温度まで昇温して、反応を開始し、所定の時間反応させた後、2回目の分割添加時に、反応容器に、y2(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx2(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、3回目の分割添加時に、反応容器に、y3(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx3(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、反応容器に、y4(m3)のアルコールのみを添加し、反応続け、所定の時間反応させた後、4回目の分割添加時に、反応容器に、y5(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx4(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、5回目の分割添加時に、反応容器に、y6(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx5(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続けて、金属マグネシウムとアルコールの反応を行った場合、A値は「x1/y1」であり、また、B値は「(x1+x2+x3+x4+x5)/(y1+y2+y3+y4+y5+y6)」である。
【0045】
また、例えば、反応容器に、金属マグネシウムの各分割添加量を、x1(kg)、x2(kg)、x3(kg)、x4(kg)、x5(kg)として、5回に分けて分割添加し、初回の金属マグネシウムの分割添加時に、反応容器に、y1(m3)のアルコールとx1(kg)の金属マグネシウムを添加し、更に、反応促進剤を添加し、反応温度まで昇温して、反応を開始し、所定の時間反応させた後、2回目の分割添加時に、反応容器に、y2(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx2(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、3回目の分割添加時に、反応容器に、y3(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx3(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、4回目の分割添加時に、反応容器に、y4(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx4(kg)分散させた混合物を添加し、反応を続け、所定の時間反応させた後、5回目の分割添加時に、反応容器に、y5(m3)のアルコールに、金属マグネシウムをx5(kg)分散させた混合物を添加し、反応続け、5回目の分割添加後、反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点より後に、反応容器に、y6(m3)のアルコールのみを添加し、反応液の撹拌を続けて、金属マグネシウムとアルコールの反応を行った場合、A値は「x1/y1」であり、また、B値は「(x1+x2+x3+x4+x5)/(y1+y2+y3+y4+y5)」である。つまり、最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点より後に、反応容器にアルコールのみを添加する操作で添加したアルコール添加量は、「最初から最終の金属マグネシウム添加操作後に反応により生成する水素の発生速度S(リットル/分)がその最大値まで増加した後、該最大値の45%に低下する時点までに、反応容器に添加するアルコールの総添加量」には含めない。
【0046】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、A値に対するB値の比(B値/A値)は、2.10~8.50、好ましくは2.50~8.50、特に好ましくは2.50~8.00である。A値に対するB値の比(B値/A値)が上記範囲にあることにより、粒径分布が狭く、BDが小さく、且つ、粒子が壊れ難いジアルコキシマグネシウムが得られる。一方、A値に対するB値の比(B値/A値)が、上記範囲未満だと凝集体や粒子表面への付着微粒子が多くなり、また、上記範囲を超えると粗粒ができやすく粒度分布が広くなる。
【0047】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、A値は、好ましくは5.0~50.0、特に好ましくは5.0~45.0、より好ましくは8.0~40.0である。A値が上記範囲にあることにより、粒径分布が狭く、BDが高く、且つ、粒子が壊れ難いジアルコキシマグネシウムが得られるとの効果が高まる。
【0048】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法において、B値は、好ましくは100.0以下、より好ましくは20.0~80.0、特に好ましくは40.0~70.0である。B値が上記範囲にあることにより、粒径分布が狭く、BDが高く、且つ、粒子が壊れ難いジアルコキシマグネシウムが得られるとの効果が高まる。
【0049】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法における反応温度は、原料混合物の沸点以下であれば特に限定されず、好ましくは30~100℃、特に好ましくは50~90℃であり、また、反応時間は、好ましくは0.5~15時間、特に好ましくは1~10時間の範囲であり、また、反応雰囲気は、不活性ガス雰囲気である。
【0050】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行った後、得られたジアルコキシマグネシウムを、加熱乾燥、気流乾燥又は減圧乾燥等の方法により乾燥させることにより、あるいは、不活性炭化水素化合物で洗浄することにより、ジアルコキシマグネシウムからアルコールを除去する。
【0051】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法では、反応促進剤として、ハロゲンを用い、好ましくはI2を用い、且つ、A値に対するB値の比とを、特定の範囲にし、好ましくは更にA値を特定の範囲にして、より好ましくは更にB値を特定の範囲にして、反応の初期から反応の終点までの反応系中の固形分と液体分の割合を調節し、反応に影響を与えるMg、アルコール及び反応促進剤の成分バランスを制御することにより、粒径分布が狭く、BDが高く、且つ、粒子が壊れ難いという特性を全て満たすジアルコキシマグネシウムが得られる。
【0052】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムのBDは、0.10~0.60g/mL、好ましくは0.20~0.50g/mL、特に好ましくは0.25~0.45g/mLである。ジアルコキシマグネシウムのBDが上記範囲にあることにより、触媒化の際に適度な空隙率を保持することが出来且つ、沈降し易く、収率も高くなる。また、この固体触媒成分を用いてオレフィン重合を行なった場合は、BDの高い重合体が得られる。更に共重合に用いた場合は、ゴム成分を粒子内部に保持できる空隙率を保持していることから、重合体がベタツクことなく、流動性が確保できるとともに、単位体積当たりの重合体重量が大きくなる。
【0053】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムの粒度分布指数(SPAN):
SPAN=(D90-D10)/D50
は、好ましく2.0以下、より好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下である。ジアルコキシマグネシウムの粒度分布指数(SPAN)が上記範囲にあることにより、ジアルコキシマグネシウムをオレフィン類重合用固体触媒成分の担体原料として用いた際、得られる固体触媒成分中の微粉粒子含有量が低減され、結果として得られる重合体の微粉粒子が少なくなる。なお、本発明において、D10、D50、D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置(MICROTRAC HRA Model No.9320-X100、日機装社製)で測定して求められる粒度分布における積算体積分率が、それぞれ、10%、50%、90%に対応する粒子径(μm)を指す。なお、上記D10、D50、D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定する時に、ジアルコキシマグネシウムをエタノール等の分散媒に分散させて測定したときの値である。
【0054】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムの平均粒径(D50)は、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~80μm、特に好ましくは15~70μmである。ジアルコキシマグネシウムの平均粒径(D50)が上記範囲にあることにより、ジアルコキシマグネシウムをオレフィン類重合用固体触媒成分の担体原料として用いた際、得られる固体触媒成分中の微粉粒子含有量が低減され、結果として得られる重合体の微粉粒子が少なくなる。
【0055】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムは、荷重がかかったときに壊れ難い。ジアルコキシマグネシウムの壊れ難さは、例えば、以下に示す壊れ性測定により把握される。測定装置としては、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)等を用いることができる。レーザー回折式粒度分布測定装置を用いる場合、ジアルコキシマグネシウムを気流に分散させ、分散圧1.5barと3.0barの2条件でそれぞれ粒度分布を測定して微粒子の存在割合を求め、分散圧3.0barの条件で粒度分布を測定したときの微粒子の存在割合と、分散圧1.5barの条件で粒度分布を測定したときの微粒子の存在割合と、の差より、ジアルコキシマグネシウムの壊れ性を確認することができる。本発明では、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)を用いて、ジアルコキシマグネシウムを分散圧3.0barの気流に分散させて、粒度分布を測定したときの11.0μm以下の粒子の存在割合(体積%)と、ジアルコキシマグネシウムを分散圧1.5barの気流に分散させて、粒度分布を測定したときの11.0μm以下の粒子の存在割合(体積%)と、の差を、壊れ性の判断指標とした。
【0056】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムは、アルコールを含有しないものが好ましいが、アルコールの含有量が2質量%以下であれば許容される。
【0057】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムの純度は、99.0質量%以上であり、より好ましくは99.0~100質量%、特に好ましくは99.1~99.9質量%である。なお、本発明において、ジアルコキシマグネシウムの純度とは、溶媒を除去した後のジアルコキシマグネシウムの純度のことであり、溶媒を除去した後のジアルコキシマグネシウム中のハロゲン含有量からジアルコキシマグネシウム中の反応促進剤含有量を求め、下記の式により算出した値のことである。
ジアルコキシマグネシウム純度(質量%)=100-反応促進剤含有量(質量%)
【0058】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムは、オレフィン類重合用固体触媒成分の製造原料のジアルコキシマグネシウムとして、好適に用いられる。
【0059】
本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られるジアルコキシマグネシウムを原料として用いるオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法は、特に制限されず、適宜選択される。
【0060】
オレフィン類重合用固体触媒成分及びその製造方法としては、以下のオレフィン類重合用固体触媒成分及びその製造方法が挙げられる。
【0061】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分は、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られたジアルコキシマグネシウム(a)と、チタンハロゲン化合物(b)と、電子供与性化合物(c)とを接触させて得られたものであることを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分である。
【0062】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分に係るジアルコキシマグネシウム(a)は、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られたジアルコキシマグネシウムである。本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法の詳細は、上述した通りである。
【0063】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を構成するチタンハロゲン化合物(b)としては、公知の物から選ばれる一種以上が挙げられ、四価のチタンハロゲン化合物が好ましく、チタンテトラクロライドがより好ましい。
【0064】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を構成する電子供与性化合物(c)としては、公知の物から選ばれる一種以上が挙げられ、酸素原子あるいは窒素原子を有する有機化合物であることが好ましい。
【0065】
電子供与性化合物(c)としては、コハク酸エステル、マレイン酸エステル、シクロヘキセンカルボン酸エステル、エーテルカルボン酸エステル、ジカーボネート、エーテルカーボネートから選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0066】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分において、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子、電子供与性化合物の含有量は特に規定されない。
【0067】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分において、チタン原子の含有割合は、0.5~8.0質量%であることが好ましく、1.0~6.0質量%であることがより好ましく、1.0~4.0質量%であることがさらに好ましい。
【0068】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分において、マグネシウム原子の含有割合は、10~70質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがさらに好ましく、15~25質量%であることが一層好ましい。
【0069】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分において、ハロゲン原子の含有割合は、20~90質量%であることが好ましく、30~85質量%であることがより好ましく、40~80質量%であることがさらに好ましく、45~75質量%であることが一層好ましい。
【0070】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分において、電子供与性化合物(c)の含有割合は、合計で、0.5~30質量%であることが好ましく、1~25質量%であることがより好ましく、2~20質量%であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分において、その総合性能をバランスよく発揮させるためには、チタン含有量が1~4質量%、マグネシウム含有量が15~25質量%、ハロゲン原子の含有量が45~75質量%、電子供与性化合物(c)の含有量が2~20質量%であることが望ましい。
【0072】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を製造する方法としては、アルコキシマグネシウム(a)、チタンハロゲン化合物(b)及び電子供与性化合物(c)を、沸点が50~150℃の不活性有機溶媒(d)の存在下に接触させる方法が挙げられる。
【0073】
沸点が50~150℃の不活性有機溶媒(d)としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘプタン、オクタン、デカン等から選ばれる一種以上が挙げられる。沸点が50~150℃の不活性有機溶媒(d)としては、芳香族炭化水素化合物及び脂肪族炭化水素化合物が一般的であるが、反応性又は反応後の洗浄時に不純物の溶解度が低下しないのであれば、芳香族炭化水素及び飽和炭化水素以外の不活性有機溶媒でもよい。
【0074】
また、本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を製造する場合、さらに、反応系にポリシロキサンを加えてもよい。ポリシロキサンとしては、従来公知のものが適宜選択されるが、デカメチルシクロペンタシロキサン及びジメチルポリシロキサンから選ばれる一種以上が好ましく、デカメチルシクロペンタシロキサンがより好ましい。
【0075】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を調製する方法の詳細は、従来公知のオレフィン類重合用固体触媒成分を調製する方法と同様である。
【0076】
なお、上述したように、本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分は、本発明のジアルコキシマグネシウムの製造方法を行い得られたジアルコキシマグネシウム(a)と、チタンハロゲン化合物(b)と、電子供与性化合物(c)とを接触させ、反応させて得られるものである。
【0077】
本発明によれば、粒度分布が狭く、微粗粉量が少なく、BDが高く、壊れにくいオレフィン類重合用固体触媒成分を提供することができる。
【0078】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物および(C)外部電子供与性化合物を接触させて得られたものであることを特徴とするオレフィン類重合用触媒である。
【0079】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒に係る(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分は、上述したとおりである。
【0080】
本発明のオレフィン重合用触媒は、(B)有機アルミニウム化合物を含む。(B)有機アルミニウム化合物としては、オレフィン類重合用触媒に用いられるものであれば、特に制限されない。
【0081】
本発明のオレフィン類重合用触媒において、(B)有機アルミニウム化合物としては、下記一般式(2):
R2
pAlQ3-p (2)
(式中、R2は炭素数1~4のアルキル基を示し、Qは水素原子あるいはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3の実数である。R2が複数存在する場合、各R2は互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは同一であっても異なっていてもよい。)で表される有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0082】
上記一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物としては、特に制限されないが、R2としては、エチル基及びイソブチル基から選ばれる一種以上が挙げられ、Qとしては、水素原子、塩素原子及び臭素原子から選ばれる一種以上が挙げられ、pは、2、2.5又は3が好ましく、3であることが特に好ましい。
【0083】
このような有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムブロマイドなどのハロゲン化アルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイドライド等から選ばれる一種以上が挙げられ、中でもジエチルアルミニウムクロライドなどのハロゲン化アルキルアルミニウム、又はトリエチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム等から選ばれる一種以上が好ましく、トリエチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウムから選ばれる一種以上がより好ましい。
【0084】
本発明のオレフィン重合用触媒は、外部電子供与性化合物(C)を含む。外部電子供与性化合物(C)としては、オレフィン類重合用触媒に用いられるものであれば、特に制限されない。本発明のオレフィン類重合用触媒において、外部電子供与性化合物(C)としては、公知の外部電子供与性化合物のうち酸素原子あるいは窒素原子を含有するものが好ましい。
【0085】
本発明のオレフィン類重合用触媒において、外部電子供与性化合物(C)としては、下記一般式(3):
R3
qSi(OR4)4-q (3)
(式中、R3は、炭素数1~12のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、炭素数6~15の芳香族炭化水素基または置換基を有する炭素数6~15の芳香族炭化水素基を示し、R3が複数存在する場合、複数のR3は互いに同一でも異なっていてもよい。R4は、炭素数1~4のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または置換基を有する炭素数7~12の芳香族炭化水素基を示し、R4が複数存在する場合、複数のR4は互いに同一でも異なっていてもよい。qは0≦q≦3の整数である。)で表される有機ケイ素化合物、 及び一般式(4):
(R5R6N)sSiR7
4-s (4)
(式中、R5およびR6は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、ビニル基、炭素数3~20のアルケニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数3~20のシクロアルケニル基または炭素数6~20のアリール基を示し、R5およびR6は互いに同一でも異なっていてもよく、また互いに結合して環を形成してもよく、R5R6N基が複数存在する場合、複数のR5R6N基は互いに同一でも異なっていてもよい。R7は炭素数1~20のアルキル基、ビニル基、炭素数3~12のアルケニル基、炭素数1~20のアルコキシ基、ビニルオキシ基、炭素数3~20のアルケニルオキシ基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基を示し、R7が複数存在する場合、複数のR7は互いに同一でも異なっていてもよい。sは1から3の整数である。)で表されるアミノシラン化合物から選択される一種以上が挙げられる。
【0086】
上記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物又は一般式(4)で表わされるアミノシラン化合物としては、フェニルアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルコキシシラン、アルキル(シクロアルキル)アルコキシシラン、(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)アルコキシシラン、シクロアルキル(アルキルアミノ)アルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、テトラキス(アルキルアミノ)シラン、アルキルトリス(アルキルアミノ)シラン、ジアルキルビス(アルキルアミノ)シラン、トリアルキル(アルキルアミノ)シラン等が挙げられる。
【0087】
上記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物又は一般式(4)で表わされるアミノシラン化合物としては、具体的には、n-プロピルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソペンチルジメトキシシラン、ビス(2-エチルヘキシル)ジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ビス(エチルアミノ)メチルエチルシラン、ビス(エチルアミノ)t-ブチルメチルシラン、ビス(エチルアミノ)ジシクロヘキシルシラン、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(メチルアミノ)(メチルシクロペンチルアミノ)メチルシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ビス(シクロヘキシルアミノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシラン、エチル(イソキノリノ)ジメトキシシラン等から選ばれる一種以上が挙げられ、中でも、n-プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソペンチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、t-ブチルメチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(エチルアミノ)ジシクロヘキシルシラン、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン等から選ばれる一種以上が好ましい。
【0088】
本発明のオレフィン類重合用触媒において、(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分、(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物及び(C)外部電子供与性化合物の含有割合は、本発明の効果が得られる範囲において任意に選定され、特に限定されるものではないが、オレフィン類重合用固体触媒成分(A)中のチタン原子1モルあたり、(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物が、1~2000モルであることが好ましく、50~1000モルであることがより好ましい。また、(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物1モルあたり、(C)外部電子供与性化合物が、0.002~10モルであることが好ましく、0.01~2モルであることがより好ましく、0.01~0.5モルであることがさらに好ましい。
【0089】
本発明のオレフィン類重合用触媒の製造方法は、特に制限されず、(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分、(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物及び(C)外部電子供与性化合物を、公知の方法で接触させることにより、オレフィン類重合用触媒を製造する方法が挙げられる。
上記各成分を接触させる順序は任意であるが、例えば、以下の接触順序を例示することができる。
(i)(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分→(C)外部電子供与性化合物→(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物
(ii)(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物→(C)外部電子供与性化合物→(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分
(iii)(C)外部電子供与性化合物→(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分→(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物
(iv)(C)外部電子供与性化合物→(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物→(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分
上記接触例(i)~(iv)のうち、接触例(ii)が好適である。
なお、上記接触例(i)~(iv)において、「→」は接触順序を意味し、例えば、「(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分→(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物→(C)外部電子供与性化合物」は、(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分中に(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物を添加して接触させた後、(C)外部電子供与性化合物を添加して接触させることを意味する。
【0090】
本発明のオレフィン類重合用触媒は、(A)本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分、(B)一般式(2)で表される有機アルミニウム化合物及び(C)外部電子供与性化合物を、オレフィン類不存在下で接触させてなるものであってもよいし、オレフィン類の存在下で(重合系内で)接触させてなるものであってもよい。
【0091】
本発明によれば、粒度分布が狭く、微粗粉量が少なく、BDが高く、壊れにくいオレフィン類重合用触媒を提供することができる。
【0092】
本発明のオレフィン類重合体の製造方法は、本発明のオレフィン重合用触媒の存在下にオレフィン類の重合を行うことを特徴とするものである。
【0093】
本発明のオレフィン類重合体の製造方法において、オレフィン類の重合は、単独重合であっても共重合であってもよい。
【0094】
本発明のオレフィン類重合体の製造方法において、オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン等から選ばれる一種以上が挙げられ、エチレン、プロピレンまたは1-ブテンが好適であり、プロピレンがより好適である。
【0095】
プロピレンを重合する場合、他のオレフィン類との共重合を行ってもよく、プロピレンと他のα-オレフィンとのブロック共重合であることが好ましい。ブロック共重合により得られるブロック共重合体とは、2種以上のモノマー組成が連続して変化するセグメントを含む重合体であり、モノマー種、コモノマー種、コモノマー組成、コモノマー含量、コモノマー配列、立体規則性などポリマーの一次構造の異なるポリマー鎖(セグメント)が1分子鎖中に2種類以上繋がっている形態のものをいう。共重合されるオレフィン類としては、炭素数2~20のα-オレフィン(炭素数3のプロピレンを除く)であることが好ましく、具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、これ等のオレフィン類は一種以上併用であってもよい。とりわけ、エチレン及び1-ブテンが好適に用いられる。
【0096】
本発明のオレフィン類重合体の製造方法では、オレフィン類の重合を、有機溶媒の存在下でも不存在下でも行うことができる。また、本発明のオレフィン類重合体の製造方法では、気体及び液体のいずれの状態でも、重合対象となるオレフィン類を用いることができる。
【0097】
オレフィン類の重合であるが、例えば、オートクレーブ等の反応炉内において、本発明のオレフィン類重合用触媒の存在下、オレフィン類を導入し、加熱、加圧状態下に、オレフィン類の重合を行うことができる。
【0098】
本発明のオレフィン類重合体の製造方法において、重合温度は、通常200℃以下であるが、100℃以下が好ましく、活性や立体規則性の向上の観点からは、60~100℃がより好ましく、70~90℃がさらに好ましい。本発明のオレフィン類重合体の製造方法において、重合圧力は、10MPa以下が好ましく、5MPa以下がより好ましい。また、連続重合法、バッチ式重合法のいずれでも可能である。更に重合反応は一段で行ってもよいし、二段以上で行ってもよい。
【0099】
本発明のオレフィン類重合体の製造方法において、オレフィン類を重合(以下、適宜、本重合と称する。)するにあたり、重合対象となるオレフィン類に対して本発明のオレフィン類重合用触媒の構成成分の一部又は全部を接触させることにより、予備的な重合(以下、適宜、予備重合と称する。)を行ってもよい。
【0100】
予備重合を行うに際して、本発明のオレフィン類重合用触媒の構成成分及びオレフィン類の接触順序は任意であるが、不活性ガス雰囲気あるいはオレフィンガス雰囲気に設定した予備重合系内に先ず有機アルミニウム化合物を装入し、次いで本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を接触させた後、プロピレン等のオレフィン類を一種以上接触させることが好ましい。または、不活性ガス雰囲気あるいはオレフィンガス雰囲気に設定した予備重合系内に先ず有機アルミニウム化合物を装入し、次いで外部電子供与性化合物を接触させ、更に本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を接触させた後、プロピレン等のオレフィン類を一種以上接触させることが好ましい。予備重合の際には、本重合と同様のオレフィン類、あるいはスチレン等のモノマーを用いることができ、予備重合条件も、上記重合条件と同様である。
【0101】
上記予備重合を行うことにより、触媒活性を向上させ、得られる重合体の立体規則性および粒子性状等を一層改善し易くなる。
【0102】
本発明によれば、粒度分布が狭く且つBDが高い重合体を高い重合活性下で製造することができるオレフィン類重合体の製造方法を提供することができる。また、本発明では、粒子が壊れ難いオレフィン類重合用固体触媒成分が用いられているので、重合により得られる重合体中の微粉の量も少なくなる。
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法は、特に、気相法によるポリオレフィンの製造プロセスに適用される。
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0104】
(実施例1)
積算型ガスメーター、滴下ロート、撹拌器及び還流冷却器を備え、内部が窒素ガスで充填されている容量1Lの四つ口フラスコ内に、金属マグネシウム粉(平均粒径132.6μm)2000mg、無水エタノール95.0mL(60g)及びヨウ素(I2)0.645g(2.54ミリモル)を装入し(初回の分割添加)、オイルバスでエタノールの還流温度まで加熱し、還流状態を維持した。このとき、A値は21.1である。
次いで、5分間、還流状態で撹拌を続けた後、この中に、金属マグネシウム粉とエタノールの混合物を添加し(2回目の分割添加)、その後、2回目の分割添加と同様にしてその操作を5回繰り返して(3~7回目の分割添加)、反応を完結させた。なお、2~7回目の分割添加における金属マグネシウム粉の添加量は、表1に示した2回目以降の金属マグネシウム粉の合計添加量を均等割りして算出した(960mg/回)。2~7回目の分割添加におけるエタノールの添加量も金属マグネシウム粉と同様に、2回目以降のエタノールの合計添加量を均等割りして算出した(7.0mL/回)。
次いで、反応液をロータリーエバポレーターにて乾燥し、粉末状のジエトキシマグネシウム32.89mgを得た。
このとき、B値は56.6であり、また、B値/A値は2.68である。
得られたジエトキシマグネシウムの分析を行ったところ、ハロゲン含有量は3.44質量%であった。また、得られたジエトキシマグネシウムのBD、SPAN、及び壊れ性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0105】
<BDの分析>
得られたジアルコキシマグネシウムのBD(嵩比重)については、JIS K6721に従って測定した。
【0106】
<SPANの分析>
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装(株)製、MICROTRAC HRA 9320-X100)を用い、ジアルコキシマグネシウムを無水エタノールに分散させて、自動測定を2回行い、粒度分布を測定し、積算体積分率10%の粒子径(D10)、積算体積分率50%の粒子径(D50)、積算体積分率90%の粒子径(D90)を求め、各平均値を、D10、D50、D90とした。そして、得られたD10、D50及びD90の値から、下記の式よりSPANを算出した。
SPAN=(D90-D10)/D50
【0107】
<ジアルコキシマグネシウム純度>
得られたジアルコキシマグネシウムの純度(質量%)は、自動滴定装置自動滴定装置(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、型式GT-200)により測定した、溶媒を除去した後のジアルコキシマグネシウム中のハロゲン含有量(質量%)から、反応促進剤として用いた化合物のジアルコキシマグネシウム中における含有量(質量%)を各々求め、下記の式により算出した。
ジアルコキシマグネシウム純度(質量%)=100-反応促進剤含有量(質量%)
【0108】
<壊れ性測定>
レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)を用いて、ジアルコキシマグネシウムを分散圧1.5barの気流に分散させて、自動測定により2回測定を行い、粒度分布を測定し、11.0μm以下の粒子の存在割合(体積%)を求めた。また、ジアルコキシマグネシウムを分散圧3.0barの気流に分散させて、自動測定により2回測定を行い、粒度分布を測定し、11.0μm以下の粒子の存在割合(体積%)を求めた。分散圧3.0barの気流に分散させたときの11.0μm以下の粒子の存在割合X体積%と、分散圧1.5barの気流に分散させたときの11.0μm以下の粒子の存在割合Y体積%との差を算出した。
【0109】
(実施例2~4及び比較例1~2)
金属マグネシウム及びエタノールの添加量と分割添加回数を表1に示す通りにすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0110】
(比較例3)
反応促進剤として、ヨウ素(I2)0.645gに代えて、塩化マグネシウム(比表面積14m2/g)0.15g(2.54ミリモル)を用い、金属マグネシウム及びエタノールの添加量と分割添加回数を表1に示す通りにすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0111】
(比較例4)
積算型ガスメーター、滴下ロート、撹拌器及び還流冷却器を備え、内部が窒素ガスで充填されている容量1Lの四つ口フラスコ内に、金属マグネシウム粉(平均粒径128.8μm)500mg、無水エタノール111.0mL(g)及びヨウ素(I2)0.297g(1.17ミリモル)を装入し(初回の分割添加)、オイルバスでエタノールの還流温度まで加熱し、還流状態を維持した。このとき、A値は4.5である。
次いで、5分間、還流状態で撹拌を続けた後、この中に、金属マグネシウム粉とエタノールの混合物を添加し(2回目の分割添加)、その後、2回目の分割添加と同様にしてその操作を5回繰り返して(3~7回目の分割添加)、反応を完結させた。なお、2~7回目の分割添加における金属マグネシウム粉の添加量は、表1に示した2回目以降の金属マグネシウム粉の合計添加量を均等割りして算出した(1210mg/回)。2~7回目の分割添加におけるエタノールの添加量も金属マグネシウム粉と同様に2回目以降のエタノールの合計添加量を均等割りして算出した(13.8mL/回、7回目のみ14.0mL)。
次いで、反応液をロータリーエバポレーターにて乾燥し、粉末状のジエトキシマグネシウム30.7gを得た。
このとき、B値は40.0であり、また、B値/A値は8.89である。
得られたジエトキシマグネシウムの分析を行ったところ、ハロゲン含有量は3.24質量%であった。また、得られたジエトキシマグネシウムのBD、SPAN、及び壊れ性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0112】
(比較例5)
金属マグネシウム及びエタノールの添加量を表1に示す通りにすること以外は、比較例4と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
1)分散圧3.0barの気流に分散させたときの11.0μm以下の粒子の存在割合X体積%と、分散圧1.5barの気流に分散させたときの11.0μm以下の粒子の存在割合Y体積%との差(X-Y)
【0114】
(実施例5)
<オレフィン重合用固体触媒成分の調製>
窒素ガスで充分置換され、攪拌機を具備した容量500mlの丸底フラスコに四塩化チタン30mlおよびトルエン20mlを装入して、混合溶液を形成した。次いで、上記実施例1で得たジエトキシマグネシウム10g 、トルエン50mlおよびフタル酸ジ-n-ブチル3.3ml(12.5ミリモル)を用いて形成された懸濁液を、10℃の液温に保持した前記混合溶液中に添加した。
その後、液温を10℃から90℃まで昇温し、攪拌しながら、90℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた固体生成物を90℃のトルエン100mlで4回洗浄し、新たに四塩化チタン30mlおよびトルエン70mlを加え、110℃に昇温し、2時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、40℃のn-ヘプタン100mlで10回洗浄して、オレフィン重合用固体触媒成分(A-1)を得た。
なお、この固体触媒成分(A-1)中には、内部電子供与性化合物として、フタル酸ジエステルが14.2質量%含まれていた。また、この固体触媒成分中のチタン含有率を測定したところ、2.2重量%であった。
<オレフィン重合触媒の形成及びプロピレン重合>
窒素ガスで完全に置換された内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン0.13ミリモルおよび上記固体触媒成分(A-1)をチタン原子換算で0.0026ミリモル装入し、オレフィン重合用触媒を形成した。
次いで、水素ガス1.5リットルおよび液化プロピレン1.4リットルをオートクレーブに装入し、20℃で5分間予備重合を行った後、70℃まで昇温し、70℃で1時間の重合反応を行うことにより、プロピレン重合体を得た。固体触媒成分1g当たりの重合活性および、得られた重合体の物性を表3に示す。
<重合体の平均粒径、粒度分布指数および粒径75μm未満の微粉量>
得られた重合体の平均粒径、粒度分布指数および、粒径75μm未満の微粉量について、デジタル画像解析式粒子径分布測定装置(カムサイザー、株式会社堀場製作所製)を用い、下記の測定条件において重合体の体積基準積算粒度分布の自動測定を行なった。
(測定条件)
ファネル位置:6mm
カメラのカバーエリア:ベーシックカメラ3%未満、ズームカメラ10%未満
目標カバーエリア:0.5%
フィーダ幅:40mm
フィーダコントロールレベル:57、40秒
測定開始レベル:47
最大コントロールレベル:80
コントロールの基準:20
画像レート:50%(1:2)
粒子径定義:粒子1粒ごとにn回測定したマーチン径の最小値
SPHT(球形性)フィッティング:1
クラス上限値:対数目盛とし32μm~4000μmの範囲で50点を選択
【0115】
(比較例6)
上記実施例1で得たジエトキシマグネシウム10gに代えて、上記比較例1で得たジエトキシマグネシウム10gを用いる以外は、実施例1と同様にして、オレフィン重合用固体触媒成分の調製、オレフィン重合触媒の形成及びプロピレン重合を行い、得られた重合体の物性評価を行った。固体触媒成分1g当たりの重合活性および、得られた重合体の物性は表2に示す。
【0116】