(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】グレープフルーツ風味飲料、及び、風味向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/02 20060101AFI20230803BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20230803BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20230803BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
A23L2/02 B
A23L2/00 B
A23L2/56
C12G3/06
(21)【出願番号】P 2019034959
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高澄 耕次
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023342(JP,A)
【文献】特開2015-098541(JP,A)
【文献】特開2008-101097(JP,A)
【文献】特開2004-67723(JP,A)
【文献】特開2018-191570(JP,A)
【文献】特開2016-116493(JP,A)
【文献】JIANMING Lin, et. al,Aroma Composition Changes in Early Season Grapefruit Juice Produced from Thermal Concentration,J. Agric. Food Chem.,2002年,Vol.50, No.4,pp.813-819
【文献】ROWE David et.al,Aroma Chemicals for the Sweet Field,Perfumer & Flavorist,1999年,Vol.24,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で
1%以上10%未満であるグレープフルーツ風味飲料であって、
ヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Xが0.4~12.0であり、Yが0.20~20であるグレープフルーツ風味飲料。
【請求項2】
ヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Y/Xが0.20~23.00である請求項1に記載のグレープフルーツ風味飲料。
【請求項3】
アルコール度数が1~12%である請求項1又は請求項2に記載のグレープフルーツ風味飲料。
【請求項4】
グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で
1%以上10%未満であるグレープフルーツ風味飲料
の風味向上方法であって、
ヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Xを0.4~12.0とし、Yを0.20~20とする風味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレープフルーツ風味飲料、及び、風味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁を含有する飲料は、果実特有の酸味を呈することから、消費者にフレッシュな印象を与えるといった強みがあり、飲料の市場において一定のシェアを獲得している。
そして、果汁を含有する飲料に関し、より市場のニーズに合致した商品を創出するために、様々な商品開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヌートカトンと、イソブチルアルコールとを含んでなり、前記ヌートカトンの含有量(mg/L)を「X」とし、前記イソブチルアルコールの含有量(mg/L)を「Y」とした場合、所定の数式を満たすものであるグレープフルーツ果実様飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
果実風味飲料の中でも低果汁(無果汁も含む)の飲料は、スッキリとした味わいを奏するため、一定の人気を博する飲料であり、また、使用する果汁量を抑えることができるため、原料原価の上昇を抑制できる飲料でもある。しかしながら、果実風味飲料を低果汁とした場合、当然、果汁感が大幅に低減してしまう。
このような問題を解決するために、特許文献1のようにグレープフルーツ風味飲料(グレープフルーツ果実様飲料)の果汁感に着目した技術が存在していた。
【0006】
ここで、グレープフルーツは、柑橘類の中でも特徴的な風味を奏する果物であるため、グレープフルーツ風味飲料について単に果汁感を増強させただけでは、グレープフルーツ特有の風味を十分には再現できず、何か物足りなさを感じる状態となってしまっていた。
本発明者は、低果汁のグレープフルーツ風味飲料について検討した結果、果汁感だけではなく、ピール感を増強させることによって、グレープフルーツ特有の風味を再現できると判断した。
【0007】
そこで、本発明は、果汁感とピール感とが増強されたグレープフルーツ風味飲料、及び、風味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で1%以上10%未満であるグレープフルーツ風味飲料であって、ヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Xが0.4~12.0であり、Yが0.20~20であるグレープフルーツ風味飲料。
(2)ヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Y/Xが0.20~23.00である前記1に記載のグレープフルーツ風味飲料。
(3)アルコール度数が1~12%である前記1又は前記2に記載のグレープフルーツ風味飲料。
(4)グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で1%以上10%未満であるグレープフルーツ風味飲料の風味向上方法であって、ヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Xを0.4~12.0とし、Yを0.20~20とする風味向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るグレープフルーツ風味飲料は、果汁感とピール感とが増強している。また、本発明に係る風味向上方法は、グレープフルーツ風味飲料の果汁感とピール感とを増強させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るグレープフルーツ風味飲料、及び、風味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[グレープフルーツ風味飲料]
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で所定値未満である、いわゆる低果汁(無果汁も含む)飲料であって、所定量のヌートカトンと所定量の3-メルカプトヘキサノールとを含有する飲料である。
ここで、グレープフルーツ風味飲料とは、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、アルコールを含有しない場合は、果実飲料、スポーツドリンク、炭酸飲料、チューハイテイスト飲料などの清涼飲料水が挙げられ、アルコールを含有する場合は、チューハイテイスト飲料が挙げられる。なお、チューハイテイスト飲料には、チューハイやサワーやカクテルのような味わいを楽しめる飲料が含まれる。
そして、グレープフルーツ風味飲料とは、グレープフルールの風味(香味)を呈する飲料、言い換えると、グレープフルーツの風味(香味)が感じられるように香味設計された飲料であり、グレープフルーツ様飲料やグレープフルーツ果実様飲料とも呼ばれる。
【0012】
(グレープフルーツ果汁)
グレープフルーツ果汁は、グレープフルーツを搾った汁である。なお、使用するグレープフルーツ(Citrus paradisi)は、ミカン科ザボン類に属する大型柑橘類であり、産地、品種等は特に限定されない。
また、グレープフルーツ果汁は、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
【0013】
グレープフルーツ果汁の含有量は、果汁率換算で10%未満が好ましく、8%以下、6%以下、5%未満、3%以下、2%以下、1.5%以下、1.2%以下がより好ましい。グレープフルーツ果汁の含有量が所定値以下(又は未満)であることによって、原料原価の上昇を抑制することができるとともに、本発明の課題(果汁感とピール感とを増強すべき)がより明確となる。
グレープフルーツ果汁の含有量は、果汁率換算で0%であってもよいものの、0.05%以上が好ましく、0.1%以上、0.5%以上、0.8%以上、1%以上がより好ましい。
【0014】
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料のグレープフルーツ果汁の含有量(果汁率換算)は、「含有量(果汁率換算)%(詳細には、w/v%)」=「飲料100mL中への果汁配合量(g)」×「濃縮倍率」/100mL×100により算出することとする。
ここで、「濃縮倍率」(ストレート果汁を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率)を算出するにあたり、JAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
【0015】
具体的には、JAS規格である果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)の別表3によるとグレープフルーツの基準糖用屈折計示度は9°Bxであるから、糖用屈折計示度が18°Bxのグレープフルーツ果汁は、2倍濃縮のグレープフルーツ果汁となる。この2倍濃縮のグレープフルーツ果汁を、飲料100mL中に3g配合した場合、この飲料におけるグレープフルーツ果汁の含有量(果汁率換算)は、「3g×2(濃縮倍率)/100mL×100」によって算出することができる。
【0016】
(ヌートカトン)
ヌートカトン(Nootkatone)は、化学式ではC15H22Oで表されるセスキテルペンケトンの一種であり、ノートカトンとも呼ばれる。
そして、ヌートカトンは、グレープフルーツ風味飲料に所定量含有させるとともに、当該ヌートカトン存在下において後記する3-メルカプトヘキサノールを所定量含有させることによって、両者の相乗効果として、果汁感だけでなくピール感をも増強させることができる。
【0017】
ヌートカトンの含有量は、0.4mg/kg以上が好ましく、0.5mg/kg以上、0.7mg/kg以上、0.8mg/kg以上、0.9mg/kg以上、1.0mg/kg以上がより好ましい。ヌートカトンの含有量が所定量以上であることによって、果汁感とピール感とを増強させることができる。
ヌートカトンの含有量は、12.0mg/kg以下が好ましく、10.0mg/kg以下、8.0mg/kg以下、5.0mg/kg以下、4.5mg/kg以下、4.0mg/kg以下、3.5mg/kg以下、3.3mg/kg以下、3.1mg/kg以下、3.0mg/kg以下、2.5mg/kg以下、2.0mg/kg以下、1.5mg/kg以下がより好ましい。ヌートカトンの含有量が所定量以下であることによって、果汁感とピール感との増強効果をしっかりと発揮させることができる。
【0018】
グレープフルーツ風味飲料におけるヌートカトンの含有量は、例えば、溶媒抽出-GC/MSによって測定することができる。
この溶媒抽出-GC/MS法においては、試料にオクタナール標準液を別途添加して作成した検量線を使用する標準添加法により測定することが好ましい。また、夾雑物質の影響を受ける場合は、カラムの種類や長さ、オーブンの温度プログラムからなる群より選択される1以上の条件を適宜変更すること、及び/又は、GC/MS/MS又は2次元GC-MSを使用することが好ましい。
【0019】
(3-メルカプトヘキサノール)
3-メルカプトヘキサノール(3-Mercapto hexanol)は、化学式ではC6H14OSで表される物質である。
そして、3-メルカプトヘキサノールは、前記したヌートカトン存在下において所定の含有量となるようにグレープフルーツ風味飲料に含有させることによって、両者の相乗効果として、果汁感だけでなくピール感をも増強させることができる。
【0020】
3-メルカプトヘキサノールの含有量は、0.20μg/kg以上が好ましく、0.25μg/kg以上、0.5μg/kg以上、0.8μg/kg以上、0.9μg/kg以上、3.0μg/kg以上、4.0μg/kg以上がより好ましい。3-メルカプトヘキサノールの含有量が所定量以上であることによって、果汁感とピール感とを増強させることができる。
3-メルカプトヘキサノールの含有量は、20μg/kg以下が好ましく、15μg/kg以下、12μg/kg以下、10μg/kg以下、8μg/kg以下、6μg/kg以下、5μg/kg以下がより好ましい。3-メルカプトヘキサノールの含有量が所定量以下であることによって、果汁感とピール感との増強効果をしっかりと発揮させることができる。
【0021】
グレープフルーツ風味飲料における3-メルカプトヘキサノールの含有量は、例えば、Analytical chemistry 2017,89,(21),11598~11604(Quantitation Method for Polyfunctional Thiols in Hops (Humulus lupulus L.) and Beer Using Specific Extraction of Thiols and Gas Chromatography-Tandem Mass Spectrometry)に記載の方法によって測定することができる。
【0022】
(Y/X)
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料のヌートカトンの含有量をXmg/kgとし、3-メルカプトヘキサノールの含有量をYμg/kgとした場合に、Y/Xが所定範囲となるのが好ましい。
【0023】
詳細には、Y/Xの値は、0.10以上が好ましく、0.20以上、0.24以上、0.50以上、0.80以上、0.90以上、3.00以上、4.00以上がより好ましい。Y/Xの値が所定値以上であることによって、果汁感とピール感とをより確実に増強させることができる。
Y/Xの値は、23.00以下が好ましく、20.00以下、15.00以下、12.00以下、10.00以下、8.00以下、6.00以下、5.00以下がより好ましい。Y/Xの値が所定値以下であることによって、果汁感とピール感との増強効果をよりしっかりと発揮させることができる。
【0024】
なお、ヌートカトンと3-メルカプトヘキサノールとは、由来については特に限定されないが、本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料においては、香料(フレーバー)に由来するものであってもよい。
【0025】
(アルコール)
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、アルコールを含有してもよい。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の所望の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、蒸留酒又は醸造酒であることが好ましい。蒸留酒としては、例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。醸造酒としては、例えば、ビール、発泡酒、果実酒、甘味果実酒などを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0026】
(アルコール度数)
アルコール度数は特に限定されないものの、例えば、1%(v/v%)以上、2%以上、3%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上であり、12%以下、10%未満、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5.5%以下である。
なお、アルコール飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0027】
(発泡性)
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、非発泡性のものでも、発泡性のものでもよい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧が49kPa以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が49kPa未満であることをいう。
【0028】
(その他)
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸、フィチン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
【0029】
また、本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、グレープフルーツ果汁以外の各種果汁、グレープフルーツの香料(フレーバー)、グレープフルーツ以外の果実の香料等を含有していてもよい。
【0030】
そして、前記したグレープフルーツ果汁、ヌートカトン、3-メルカプトヘキサノール、アルコール、添加剤等は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0031】
(容器詰めグレープフルーツ風味飲料)
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にグレープフルーツ風味飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、ヌートカトンの含有量が所定範囲内であるとともに、3-メルカプトヘキサノールの含有量が所定範囲内であることから、低果汁の飲料であっても、果汁感だけでなくピール感も増強している。
【0033】
なお、別実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料として、3-メルカプトヘキサノールの含有量に代わりに、ヌートカトンの含有量に対する3-メルカプトヘキサノールの含有量の比率(Y/X)を特定した態様も挙げられる。
具体的には、別実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料は、グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で所定値未満であり、ヌートカトンの含有量が所定範囲内であり、ヌートカトンの含有量に対する3-メルカプトヘキサノールの含有量の比率(Y/X)が所定範囲内となる飲料である。この別実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料に規定する数値範囲は、本実施形態で説明したとおりである。
【0034】
[グレープフルーツ風味飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0035】
混合工程では、混合タンクに、水、グレープフルーツ果汁、ヌートカトン、3-メルカプトヘキサノール、飲用アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、ヌートカトン等の含有量や比率等が前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0036】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0037】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るグレープフルーツ風味飲料の製造方法は、ヌートカトンの含有量を所定範囲内とするとともに、3-メルカプトヘキサノールの含有量を所定範囲内とする工程を含むことから、低果汁の飲料であっても、果汁感だけでなくピール感も増強したグレープフルーツ風味飲料を製造することができる。
【0039】
[風味向上方法]
次に、本実施形態に係る風味向上方法を説明する。
本実施形態に係る風味向上方法は、グレープフルーツ果汁の含有量が果汁率換算で所定値未満であるグレープフルーツ風味飲料の果汁感とピール感とを増強させる風味向上方法であって、ヌートカトンの含有量を所定範囲内とするとともに、3-メルカプトヘキサノールの含有量を所定範囲内とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「グレープフルーツ風味飲料」において説明した値と同じである。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る風味向上方法は、低果汁のグレープフルーツ風味飲料のヌートカトンと3-メルカプトヘキサノールとの含有量を所定範囲内とすることから、グレープフルーツ風味飲料の果汁感だけでなくピール感をも増強させることができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0042】
[サンプルの準備]
まず、「お酒にプラス グレープフルーツ」(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社製 1g)、クエン酸三ナトリウム(0.2g)、クエン酸(0.5g)、砂糖(10g)を水に添加し混合して、ベース液(200g)を準備した。
そして、サンプル4-3のベース液のみ、表に記載のアルコール度数となるように前記したベース液に原料用アルコールを所定量添加し(原料用アルコール添加分だけ水の量を減らし)、混合してベース液(200g)を準備した。
なお、準備したベース液中のヌートカトンと3-メルカプトヘキサノールとの含有量は、極微量であり、無視できる量であった。
【0043】
その後、表に示す量となるように、ベース液に対して、ヌートカトン、3-メルカプトヘキサノールを適宜混合して各サンプルを準備した。
なお、各サンプルのグレープフルーツ果汁の含有量(果汁率換算)は、1%であった。
【0044】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル3名が下記評価基準に則って「ピール感」、「果汁感」について、1点~7点の7段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
また、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0045】
(ピール感:評価基準)
ピール感の評価については、「ピール感を全く感じない」場合を1点、「ピール感を非常に強く感じる」場合を7点として7段階で評価した。そして、ピール感の評価については、サンプル1-1(2点)を基準として評価した。なお、ピール感の評価については、点数が高いほどピール感が増強されており好ましいと判断できる。
ここで、「ピール感」とは、詳細には、グレープフルーツのピールのような苦み感であって、飲料のグレープフルーツらしさを醸し出す特有の苦み感である。
【0046】
(果汁感:評価基準)
果汁感の評価については、「果汁感を全く感じない」場合を1点、「果汁感を非常に強く感じる」場合を7点として7段階で評価した。そして、果汁感の評価については、サンプル1-1(2点)を基準として評価した。なお、果汁感の評価については、点数が高いほど果汁感が増強されており好ましいと判断できる。
【0047】
ここで、「果汁感」とは、飲料を飲んだ際に感じる果汁の存在感の度合い(存在感の強さ)であり、果汁感の点数が高いほど、果汁が高含有であるとの感覚(高果汁含有感)が得られたことを示している。
【0048】
表1~4に、各サンプルの配合を示すとともに、各評価の結果を示す。そして、表に示す「ヌートカトン」、「3-メルカプトヘキサノール」、「アルコール度数」は、最終製品における含有量や指標である。
そして、表に示す「Y/X」は、「3-メルカプトヘキサノールの含有量(μg/kg)/ヌートカトンの含有量(mg/kg)」で算出される値である。
なお、表4のサンプル4-3のみアルコールを含有しており、その他の各サンプルはアルコールを含有していない。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
(結果の検討)
表1は、グレープフルーツ風味飲料にヌートカトンと3-メルカプトヘキサノールとを其々単独で各サンプルに添加した場合の結果である。
表1の結果から明らかなように、ヌートカトンを添加するだけでは所望の効果は発揮できないとともに、3-メルカプトヘキサノールを添加するだけでも所望の効果は発揮できないことが確認できた。
【0054】
表2は、グレープフルーツ風味飲料のヌートカトンの含有量を各サンプル間で一定とし、3-メルカプトヘキサノールの含有量を変化させた場合の結果である。
表2の結果によると、ヌートカトン存在下において、3-メルカプトヘキサノールの含有量が所定範囲内となって、はじめて所望の効果が発揮されることが確認できた。
具体的には、サンプル2-3~2-5について、好ましい結果が得られ、その中でも、サンプル2-4、2-5について、非常に好ましい結果が得られた。
【0055】
表3は、グレープフルーツ風味飲料の3-メルカプトヘキサノールの含有量を各サンプル間で一定とし、ヌートカトンの含有量を変化させた場合の結果である。
表3の結果によると、3-メルカプトヘキサノールの含有量が所定範囲内となっているだけでなく、ヌートカトンの含有量も所定範囲内となっていると、所望の効果が発揮されることが確認できた。
具体的には、サンプル3-3~3-6について、好ましい結果が得られ、その中でも、サンプル3-4、3-5(特に、サンプル3-5)について、非常に好ましい結果が得られた。
【0056】
表4は、グレープフルーツ風味飲料におけるアルコールの影響を確認した結果である。
アルコールを含有するサンプル4-3は、ヌートカトンの含有量が所定範囲内となっているだけでなく、3-メルカプトヘキサノールの含有量が所定範囲内となっていたことから、サンプル4-1と比較すると、ピール感及び果汁感の両者の点数が大きく上昇していた。
また、アルコールを含有するサンプル4-3は、アルコールを含有しないサンプル4-2と比較して、ピール感及び果汁感とも点数が高くなった。
これらの結果から、本発明は、アルコールの有無に左右されることなく所望の効果が発揮されるだけでなく、アルコールを含有させた場合の方が、効果の程度がより強く発揮されることが確認できた。