(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20230803BHJP
F16C 35/02 20060101ALI20230803BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
B62D3/12 503A
B62D3/12 503B
F16C35/02 C
F16C17/02 B
(21)【出願番号】P 2019077434
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】池山 学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一哉
(72)【発明者】
【氏名】桑垣 隼哉
(72)【発明者】
【氏名】文元 祥充
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓造
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 光彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏之
(72)【発明者】
【氏名】大内 淳
(72)【発明者】
【氏名】明田 和彦
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-027575(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108706043(CN,A)
【文献】特開2008-074218(JP,A)
【文献】特開2015-137721(JP,A)
【文献】特開2007-008216(JP,A)
【文献】特開2010-149542(JP,A)
【文献】特開2019-077235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/00- 3/14
F16C 17/02
F16C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに設けられたピニオンギアを、タイロッドが揺動可能に連結されたステアリングラックのラックギアとかみ合わせて、前記ステアリングラックを当該ステアリングラックの軸心方向に往復移動させるステアリング装置であって、
前記ステアリングラックが前記ラックギア歯の配列方向に挿入される円筒状のラックハウジングと、
前記ステアリングラックと前記ラックハウジングの内周面との間に介在するように前記ラックハウジングの内周面に装着され、前記ステアリングラックを、前記ラックギア歯の配列方向に移動可能に支持す
るラックブッシュと、を備え、
前記ラックブッシュは、
前記ラックギア歯の配列方向に前記ステアリングラックが挿入される円筒状のブッシュ本体と、
前記ラックハウジングと前記ブッシュ本体との間に、前記ブッシュ本体の軸心回りに配置される環状の弾性体と、を備え、
前記ブッシュ本体は、
前記ラックギア歯の配列を横切るように前記ステアリングラックを前記ラックギア歯の歯丈方向に変位可能に囲み、前記ステアリングラックを、当該ブッシュ本体の周方向に並んだ3つの支持面で前記ラックギア歯の配列方向に往復移動可能に支持する内周面と、
前記弾性体を装着するための弾性体装着溝が、前記ブッシュ本体の周方向に沿って形成された外周面と、を有し、
前記内周面は、前記3つの支持面として、
前記ブッシュ本体の軸心を挟んで対向する2つの位置に、前記ラックギア歯の歯丈方向に設けられ、前記ラックギア歯の配列方向に移動するステアリングラックを、前記ラックギア歯の歯丈方向に変位可能に支持する第一の支持面および第二の支持面と、
前記ブッシュ本体の周方向において前記第一の支持面および第二の支持面の間に設けられ、前記ブッシュ本体の軸心に対して前記ラックギア歯の反対側の位置で、前記ステアリングラックの外周面との間に前記ラックギア歯の歯丈方向のクリアランスが設けられた状態で前記ステアリングラックの外周面に対向する第三の支持面と、を有し、
前記弾性体装着溝は、
前記ブッシュ本体の軸心上に中心を有する第一の仮想円に含まれ、かつ、前記ブッシュ本体の軸心に対して前記第一の支持面側に位置する円弧上に、当該円弧に沿った溝底を有する第一の溝部と、
前記第一の仮想円を前記第二の支持面側にずらした第二の仮想円に含まれ、かつ、前記ブッシュ本体の軸心に対して前記第二の支持面側に位置する円弧上に、当該円弧に沿った溝底を有する第二の溝部と、を有し、
前記第一の溝部は、前記ブッシュ本体の軸心に対して、前記タイロッドを押し込んだ前記ステアリングラックが前記タイロッドからの反力により前記ラックブッシュを前記ラックハウジングに押し当てる位置側に配置され、
前記ブッシュ本体の外周面と前記ラックハウジングの内周面との間には、前記弾性体装着溝に埋め込まれた弾性体により、前記ブッシュ本体の外周面からの当該弾性体の突出量に応じた隙間が形成されている
ことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置であって、
前記弾性体として、
前記第一の溝部の深さ寸法よりも小さく、かつ、前記第二の溝部の深さよりも大きな線径を有する環状の弾性体を備える
ことを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のステアリング装置であって、
前記第三の支持面として、
前記ブッシュ本体の軸心方向に設けられた、前記ステアリングラックの外周面の形状に沿った曲面を有する
ことを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置において、ラックギア歯の配列方向に往復移動するステアリングラックをラックギアの形成位置で支持するためのラックブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2には、ステアリングラックのラックギアに対して2つのピニオンギア(ステアリングシャフトに設けられた主ピニオンギアおよびアシストモータにより駆動される副ピニオンギア)が配置されたデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構において、ステアリングラックをその軸心方向に往復移動可能に支持する2つの樹脂製ラックブッシュが記載されている。
【0003】
これらのラックブッシュは、ステアリングラックの副ピニオンギア側端部、および、主ピニオンギアと副ピニオンギアとの間に位置するように円筒状のラックハウジングの内周に装着されている。各ラックブッシュは、ステアリングラックをその軸心回りに囲む環状部と、ステアリングラックの背面に対向するように環状部の一方の端面からステアリングラックの軸心方向に延びた断面円弧状部と、を有している。ここで、断面円弧状部の内周面には、ステアリングラックの背面に接触する3本の弾性凸部がステアリングラックの軸心方向に沿って形成されており、ステアリングラックは、これら3本の弾性凸部によって、ピニオンギア側に付勢されつつその軸心方向に摺動可能に支持される。
【0004】
ステアリングラックの副ピニオンギア側端部を支持する一方のラックブッシュの弾性凸部の弾性力によって、副ピニオンギアとラックギアとのかみ合い位置周りに、主ピニオンギアとラックギアとを引きはなす方向のモーメントが作用するが、主ピニオンギアと副ピニオンギアとの間の位置でステアリングラックを支持する他方のラックブッシュの弾性凸部の弾性力によって、このモーメントを打ち消す反モーメントが作用する。このため、主ピニオンギアとラックギアとのバックラッシの増大が防止される。
【0005】
一方、特許文献3には、ラックアンドピニオン式ステアリング機構に用いられるラックブッシュとして、ブッシュ本体の外周にOリングが装着されたラックブッシュが記載されている。このラックブッシュにおいては、ステアリングラックが挿入されたブッシュ本体がOリングによって縮径され、例えばピニオンの軸心方向に関してはステアリングラックが所定の剛性で支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5984010号公報
【文献】特許第6120047号公報
【文献】特許第4935080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1および2に記載のラックブッシュにおいては、環状部が、ラックギアの形成位置においてステアリングラックの全周を囲んでいるため、プレッシャーパッドの付勢によってステアリングラックがピニオンギア側に変位すると、環状部の内周面にラックギア歯の歯先が接触する可能性がある。一方、特許文献3に記載のラックブッシュにおいては、Oリングによるブッシュ本体の縮径により、ブッシュ本体の内周面とラックギア歯の歯先とが接触する可能性がある。
【0008】
これにより、プレッシャーパッドの軸心方向へのステアリングラックの動きが阻害されると、トルクが変動し、安定な操舵感が得られない。また、ステアリングラックのラックギア歯との接触によってラックブッシュが損傷すると、ステアリングラックにガタつきが生じて操舵感が低下する。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置において、より長期により良い操舵感を維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、ステアリングラックの外周と、ラックギア歯の配列を横切るようにステアリングラックの外周を囲むブッシュ本体の内周との間にクリアランスを設けるとともに、ブッシュ本体の内周に、ブッシュ本体の軸心を挟んで対向する第一の支持面および第二の支持面と、ブッシュ本体の軸心に対してラックギアの反対側の位置でステアリングラックの外周面に対向する第三の支持面と、を、ラックギア歯の配列方向に沿って設けることによって、中立状態のステアリングラックは、第一の支持面および第二の支持面によって、ブッシュ本体の内部においてラックギア歯の歯丈方向に変位可能に支持され、作動中のステアリングラックは、第一、第二および第三の支持面によって3箇所で安定に支持されるようにした。さらに、ブッシュ本体の外周にその軸心周りに形成された弾性体装着溝の溝底の位置を、ブッシュ本体の軸心に対して第二の支持面側の区間のみ第二の支持面側にオフセットさせることにより、弾性体装着溝に装着された環状の弾性体が、ブッシュ本体の軸心に対して第二の支持面側の区間のみブッシュ本体の外周面から突出するようにした。
【0012】
本発明のステアリング装置は、
ステアリングシャフトに設けられたピニオンギアを、タイロッドが揺動可能に連結されたステアリングラックのラックギアとかみ合わせて、前記ステアリングラックを当該ステアリングラックの軸心方向に往復移動させるステアリング装置であって、
前記ステアリングラックが前記ラックギア歯の配列方向に挿入される円筒状のラックハウジングと、
前記ステアリングラックと前記ラックハウジングの内周面との間に介在するように前記ラックハウジングの内周面に装着され、前記ステアリングラックを、前記ラックギア歯の配列方向に移動可能に支持するラックブッシュと、を備え、
前記ラックブッシュは、
前記ラックギア歯の配列方向に前記ステアリングラックが挿入される円筒状のブッシュ本体と、
前記ラックハウジングと前記ブッシュ本体との間に、前記ブッシュ本体の軸心回りに配置される環状の弾性体と、を備え、
前記ブッシュ本体は、
前記ラックギア歯の配列を横切るように前記ステアリングラックを前記ラックギア歯の歯丈方向に変位可能に囲み、前記ステアリングラックを、当該ブッシュ本体の周方向に並んだ3つの支持面で前記ラックギア歯の配列方向に往復移動可能に支持する内周面と、
前記弾性体を装着するための弾性体装着溝が、前記ブッシュ本体の周方向に沿って形成された外周面と、を有し、
前記内周面は、前記3つの支持面として、
前記ブッシュ本体の軸心を挟んで対向する2つの位置に、前記ラックギア歯の歯丈方向に設けられ、前記ラックギア歯の配列方向に移動するステアリングラックを、前記ラックギア歯の歯丈方向に変位可能に支持する第一の支持面および第二の支持面と、
前記ブッシュ本体の周方向において前記第一の支持面および第二の支持面の間に設けられ、前記ブッシュ本体の軸心に対して前記ラックギア歯の反対側の位置で、前記ステアリングラックの外周面との間に前記ラックギア歯の歯丈方向のクリアランスが設けられた状態で前記ステアリングラックの外周面に対向する第三の支持面と、を有し、
前記弾性体装着溝は、
前記ブッシュ本体の軸心上に中心を有する第一の仮想円に含まれ、かつ、前記ブッシュ本体の軸心に対して前記第一の支持面側に位置する円弧上に、当該円弧に沿った溝底を有する第一の溝部と、
前記第一の仮想円を前記第二の支持面側にずらした第二の仮想円に含まれ、かつ、前記ブッシュ本体の軸心に対して前記第二の支持面側に位置する円弧上に、当該円弧に沿った溝底を有する第二の溝部と、を有し、
前記第一の溝部は、前記ブッシュ本体の軸心に対して、前記タイロッドを押し込んだ前記ステアリングラックが前記タイロッドからの反力により前記ラックブッシュを前記ラックハウジングに押し当てる位置側に配置され、
前記ブッシュ本体の外周面と前記ラックハウジングの内周面との間には、前記弾性体装着溝に埋め込まれた弾性体により、前記ブッシュ本体の外周面からの当該弾性体の突出量に応じた隙間が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ラックギア歯の配列を横切る位置でステアリングラックをラックギア歯の歯丈方向に変位可能に囲む円筒状のブッシュ本体の内周に、ブッシュ本体の軸心を挟んで対向する第一の支持面および第二の支持面がラックギア歯の配列方向に沿って設けられており、これら第一の支持面および第二の支持面によって、ステアリングラックが、ラックギア歯の歯丈方向に変位可能に支持されるため、ステアリングラックは、ブッシュ本体の内周にラックギアを接触させることなく、プレッシャーパッドの軸心方向へ移動することができる。
【0014】
さらに、ブッシュ本体の軸心に対して第二の支持面側の区間のみ、ブッシュ本体の外周に設けられた環状の弾性体装着溝の溝底位置が第二の支持面側にずれているので、この弾性体装着溝に装着された環状の弾性体の、ブッシュ本体の外周からの突出量は、第二の支持面の位置において最も大きく、それ以外の領域において小さくなる。このため、ラックハウジングの内周と弾性体装着溝の溝底とに押圧された環状弾性体の反力が、ラックギア歯の歯丈方向において小さくなるので、ブッシュ本体の内周とラックギアとの接触が、より確実に防止される。
【0015】
したがって、本発明によれば、トルク変動が抑制されるとともにラックブッシュの損傷が防止され、より長期に安定な操舵感が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構の部分断面図である。
【
図2】
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)は、ラックブッシュ1の平面図、正面図および側面図である。
【
図3】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、ブッシュ本体2の平面図、正面図および側面図であり、
図3(D)は、
図3(B)のB-B断面図であり、
図3(E)は、
図3(A)のA-A断面図である。
【
図4】
図4(A)は、
図3(A)のC-C断面図であり、
図4(B)は、弾性体装着溝24の溝底の位置を説明するための図である。
【
図5】
図5(A)および
図5(B)は、本発明の一実施の形態に係るラックブッシュ1と、ブッシュ本体の外周面全周から弾性リング3が突出したラックブッシュ1とをデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構に用いた場合の相違を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施の形態においては、本発明が適用されるラックアンドピニオン式のステアリング装置の一例としてデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構を挙げる。
【0018】
図1は、本実施の形態に係るデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構の部分断面図である。なお、説明の便宜上、
図1においては、ステアリングラック5のラックギア53におけるラックギア歯50の配列方向に沿ったX軸、ラックギア歯50の歯丈方向に沿ったZ軸、および、XZ面に対して垂直なY軸を有する座標系が定義されており、他の図においても、適宜、この座標系が利用される。
【0019】
図示するように、本実施の形態に係るデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構は、車体に固定にされるシリンダ状のキャップ6付きラックハウジング4と、ラックハウジング4にX軸方向に挿入された円柱状のステアリングラック5と、ラックハウジング4の内周とステアリングラック5の例えば一方の端部の外周との間に介在するようにラックハウジング4の内周に装着された1つ以上のデュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング用ラックブッシュ(以下、単にラックブッシュと呼ぶ)1と、ステアリングシャフトに設けられた第一ピニオンギア(不図示)と、アシストモータにより駆動される第二ピニオンギア(不図示)と、を有している。
【0020】
ここで、ステアリングラック5は、その両端にタイロッドが揺動可能に連結された状態でラックハウジング4内のラックブッシュ1によってX軸方向に往復移動可能に支持されており、第一および第二のピニオンギアは、ステアリングラック5の外周にその軸心O方向に配列されたラックギア53にかみ合うようにそれぞれ所定のかみ合い位置に配置されている。なお、
図1には、ステアリングラック5の一方の端部に配置されるラックブッシュ1を例示しているが、ピニオンギアとピニオンギアとの間等、ステアリングラック5の一方の端部以外の位置にもラックブッシュ1がさらに配置されていてもよい。
【0021】
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)は、ラックブッシュ1の平面図、正面図および側面図である。なお、
図2には、説明の便宜上、ラックブッシュ1以外の構成(例えば、破線により示されたステアリングラック5)も図示してある。
【0022】
図示するように、ラックブッシュ1は、ステアリングラック5がX軸方向に挿入される円筒状のブッシュ本体2と、ブッシュ本体2の外周にその軸心O回りに装着された1本以上の弾性リング3と、を備えている。なお、本実施の形態では、2本の弾性リング3が適当な間隔でブッシュ本体2の外周に装着されている場合を例示しているが、1本または3本以上の弾性リング3がブッシュ本体2の外周に適当な間隔で装着されていてもよい。
【0023】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、ブッシュ本体2の平面図、正面図および側面図であり、
図3(D)は、
図3(B)のB-B断面図であり、
図3(E)は、
図3(A)のA-A断面図である。なお、
図3においても、説明の便宜上、ラックブッシュ1以外の構成(例えば、破線により示されたステアリングラック5)も図示してある。
【0024】
ブッシュ本体2は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂等の摺動特性のよい合成樹脂で形成された、径方向に伸縮可能な円筒状の部材であり、図示するように、ラックギア歯50の配列を横切ってステアリングラック5をその軸心O周りに囲むように配置される。
【0025】
ここで、ブッシュ本体2の内周面20は、ラックギア歯50の歯先コーナ部51との間に適当なクリアランスが形成されるように、ステアリングラック5の外周面を支持する次述の支持面(第一の支持面21A、第二の支持面21Bおよび第三の支持面21C)の形成領域を除き、ステアリングラック5の外径r1よりも大きな内径R1を有する柱面形状を有している。このため、プレッシャーパッドによってZ軸方向に付勢されるステアリングラック5は、ラックギア歯50の歯先コーナ部51をブッシュ本体2の内周面20に接触させることなく、ギアの摩耗等によるバックラッシの増大を防止すべくZ方向に変位することができる。
【0026】
また、ブッシュ本体2の内周面20には、第一および第二のピニオンギア等からZ軸方向の荷重を受ける作動中のステアリングラック5の外周の柱面形状領域(ラックギア53の形成領域以外の領域)52を支持するための支持面(第三の支持面21C)として、ブッシュ本体2の軸心Oに対してラックギア53の反対側の位置でステアリングラック5の柱面形状領域52に対向する面が形成されている。本実施の形態においては、第三の支持面21Cとして、ステアリングラック5外周の柱面形状領域52に沿った凹曲面をX方向に沿って形成している。さらに、ブッシュ本体2の内周面20には、ステアリングラック5の外周の柱面形状領域52をY軸方向直径両側の位置で支持する2つの支持面(第一の支持面21A、第二の支持面21B)として、ブッシュ本体2の軸心Oを挟んで対向する2つの平坦面がZX面に沿って形成されている。
【0027】
ステアリングラック5が中立状態にある場合、ステアリングラック5は、外周の柱面形状領域52と第三の支持面21Cとの間にZ軸方向のクリアランスが設けられている状態で、第一の支持面21Aと第二の支持面21BとによってY軸方向の変位が拘束されつつZ軸方向に変位可能に支持されている。このため、ステアリング操作開始時に、ステアリングラック5がZ軸方向に変位してもその動きが阻害されることはなく、車体向き変更の遅れを生じさせるステアリングラック5のY軸方向の動きは阻止されるため、ドライバーは、より安定な操舵感を得ることができる。また、第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bを平坦面としたことにより、ステアリングラック5の外周の柱面形状領域52と第一の支持面21Aおよび第二の支持面21BとはX軸方向の線状領域で接触する。このため、ステアリングラック5を面接触で支持する場合と比べて、面圧が高くなり、ステアリングラック5に対する第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bの摩擦係数が小さくなるため、ステアリングラック5と第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bとの間の摩擦を低減することができる。
【0028】
ステアリングラック5が作動中である場合、ステアリングラック5は、第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bと、周方向において第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bの間に位置する第三の支持面21Cとの三箇所で支持されるため、より安定な姿勢を維持することができる。また、ステアリングラック5外周の柱面形状領域52に沿った凹曲面を有する第三の支持面21Cは、ステアリングラック5と面接触し、ステアリングラック5からの荷重をより広い面積で荷重を受けるため、ステアリングラック5との摺動による第三の支持面21Cの摩耗が抑制される。
【0029】
一方、ブッシュ本体2の外周面23には、一方の端部に凸部27が形成されている。ラックハウジング4には、この凸部27に対応する位置に切欠き部が形成されており、ブッシュ本体2の凸部27がラックハウジング4の切欠き部にはめ込まれることにより、ラックハウジング4に対するラックブッシュ1の軸心O周りの回転が拘束される。さらに、ブッシュ本体2の凸部27がラックハウジング4の切欠き部にはめ込まれた状態で、ラックハウジング4の開口端部にリング状のキャップ6が取り付けられることにより、ラックハウジング4からのラックブッシュ1の抜け出しが阻止される(
図1参照)。
【0030】
また、ブッシュ本体2の外周面23には、弾性リング3を埋め込むための1本以上の弾性体装着溝24が、ブッシュ本体2の周方向に沿って形成されている。なお、本実施の形態では、2本の弾性リング3を用いるため、それぞれの弾性リング3を埋め込むための2本の弾性体装着溝24がブッシュ本体2の外周面23に形成されている場合を例示しているが、1本または3本以上の弾性体装着溝24がブッシュ本体2の外周面23に装着されていてもよい。
【0031】
図4(A)は、
図3(A)のC-C断面図であり、
図4(B)は、弾性体装着溝24の溝底の位置を説明するための図である。
【0032】
図示するように、各弾性体装着溝24は、ブッシュ本体2の軸心Oに対して第一の支持面21A側に位置する第一の溝部241Aと、ブッシュ本体2の軸心Oに対して第二の支持面21B側に位置する第二の溝部241Bと、を含んでいる。例えば、ブッシュ本体2のYZ断面において、ブッシュ本体2の外径R2よりも所定の寸法Dだけ小さい径R3を有する第一の仮想円C1をブッシュ本体2の軸心O周りに定義した場合、第一の溝部241Aの溝底242Aは、ブッシュ本体2の軸心Oに対して第一の支持面21A側に位置する、第一の仮想円C1の半円弧上に、この半円弧に沿って形成されている。一方、第二の溝部241Bの溝底242Bは、第一の仮想円C1を第二の支持面21B側に所定の間隔S(<D)だけオフセットさせた第二の仮想円C2の、ブッシュ本体2の軸心Oに対して第二の支持面21B側に位置する半円弧上に、この半円弧に沿って形成されている。
【0033】
このため、第一の溝部241A、および、第一の溝部241Aと第二の溝部241Bとの連結部241Cにおいては、寸法Dの溝深さが確保されているが、第二の溝部241Bにおいては、溝深さが、第一の溝部241Aと同程度の寸法Dから、第二の支持面21Bに近づくにしたがい徐々に小さくなり、第二の支持面21Bの位置において最小寸法(D-S)となる。
【0034】
弾性リング3は、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体で形成された円環状の弾性部材である。この弾性リング3として、例えば、
図2(B)に示したように、第一の溝部241Aの溝深さ寸法D以下、第二の溝部241Bの溝深さの最小寸法(D-S)以上の線径Tの弾性リングを用いることができる。この弾性リング3をブッシュ本体2の弾性体装着溝24に装着した場合、
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)に示したように、この弾性リング3は、第一の溝部241Aの区間、および、第一の溝部241Aと第二の溝部241Bとの連結部241Cにおいては、ブッシュ本体2の外周面23から突出せずに、第二の溝部241Bの区間においてのみ、ブッシュ本体2の外周面23から突出し、第二の支持面21Bの位置においてその突出量が最大となる。
【0035】
例えば、
図5(B)に示すように、ブッシュ本体の外周面全周から弾性リングが突出しているラックブッシュをラックハウジングの内周に装着した場合、タイロッド60から反力Nを受けたステアリングラック5が、X軸方向に直線運動する前に、弾性リングを圧縮しながらY軸方向に変位する(軸直方向変位量Δ)。このため、ステアリング操作がなされてから実際にタイヤが向きを変えるまでにタイムラグが生じ、これが操舵感に悪影響を与えている。
【0036】
これに対して、
図5(A)に示すように、第一の溝部241Aが、ブッシュ本体2の軸心Oに対して、タイロッド60から反力Nを受けたステアリングラック5がラックハウジング4に押し当てられる領域61側に位置付けられるように、本実施の形態に係るラックブッシュ1がラックハウジング4に収容された場合、ブッシュ本体2の外周面23とラックハウジング4の内周面との間には、弾性体装着溝24に埋め込まれた弾性体リング3によって、ブッシュ本体2の外周面23からのその突出量に応じた隙間が形成されるが、タイロッド60から反力Nを受けたステアリングラック5によりラックブッシュ1がラックハウジング4に押し当てられる領域61においては、第一の溝部241Aに弾性リング3が完全に埋め込まれているため、ブッシュ本体2の外周面23とラックハウジング4の内周面とが隙間なく当接している。このため、タイロッド60から反力Nを受けたステアリングラック5の変位を抑制することができるので、ステアリング操作がなされてから実際にタイヤが向きを変えるまでのタイムラグを小さくすることができ、操舵に違和感がない。
【0037】
また、第二の溝部241Bの区間においてのみ、その溝底とラックハウジング4の内周面との間で弾性体リング3が圧縮されるため、ブッシュ本体2は、弾性体リング3の反力Fにより、第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bをステアリングラック4に押し当てる方向(Y軸方向)に圧縮される。このため、第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bにより、Y軸方向へのステアリングラック5の変位が確実に拘束されるため、第一ピニオンギアまたは第二ピニオンギアの軸方向へのステアリングラック5のガタツキが抑制される。さらに、Z軸方向にはブッシュ本体2がほぼ圧縮されないため、ラックギア歯50の歯先とブッシュ本体2の内周面20とのクリアランスが維持され、それらの接触を防止することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態では、ラックギア歯50の配列を横切る位置でステアリングラック5をラックギア歯50の歯丈方向に変位可能に囲む円筒状のブッシュ本体2の内周に、ブッシュ本体2の軸心Oを挟んで対向する第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bがラックギア歯50の配列方向に沿って設けられており、これら第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bによって、ステアリングラック5が、ラックギア歯50の歯丈方向に変位可能に支持される。このため、ステアリングラック5は、ブッシュ本体2の内周にラックギア歯50の歯先を接触させることなく、プレッシャーパッドの軸心方向へ移動することができる。
【0039】
さらに、ブッシュ本体2の軸心Oに対して第二の支持面21B側の区間のみ、ブッシュ本体2の外周に設けられた弾性体装着溝24の溝底位置が第二の支持面21B側にずれているため、この弾性体装着溝24に装着された弾性体リング3の、ブッシュ本体2の外周面23からの突出量は、第二の支持面21Bの位置において最も大きく、それ以外の領域において小さくなる。したがって、第二の溝部241Bの区間においてのみ、その溝底とラックハウジング4の内周面との間で弾性リング3が圧縮され、その反力Fにより、ブッシュ本体2が、第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bをラックハウジング4に押し当てる方向(Y軸方向)に圧縮されるため、第一の支持面21Aおよび第二の支持面21Bによって、Y軸方向へのステアリングラック5の変位が確実に拘束される。このため、第一ピニオンギアまたは第二ピニオンギアの軸方向へのステアリングラック5のガタツキを抑制することができる。さらに、弾性リングによりブッシュ本体を積極的に縮径する場合とは異なり、ラックハウジング4の内周と弾性体装着溝24の溝底とに押圧された弾性リングの反力Fが、ラックギア歯50の歯丈方向においては小さくなるので、ブッシュ本体2の内周面とラックギア歯50の歯先との接触が、より確実に防止される。
【0040】
したがって、本実施の形態によれば、トルク変動が抑制されるとともにラックブッシュの損傷が防止されるため、デュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構において、より長期に安定な操舵感が維持される。
【0041】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。例えば、上記の実施の形態では、デュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構への適用例を挙げているが、本発明は、デュアルピニオンアシスト電動パワーステアリング機構に限らず、例えばピニオンギアとラックギアとのかみ合い位置の近接部でステアリングラックを支持する構造を有するラックアンドピニオン式のステアリング装置全般に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:ラックブッシュ 2:ブッシュ本体 3:弾性リング
4:ラックハウジング 5:ステアリングラック 6:キャップ
20:ブッシュ本体2の内周面 21A:第一の支持面
21B:第二の支持面 21C:第三の支持面
23:ブッシュ本体2の外周面 24:弾性体装着溝 25:突起部
50:ラックギア歯 51:ラックギア歯の歯先コーナ部
52:ステアリングラック外周の柱面形状領域 53:ラックギア
241A:第一の溝部 241B:第二の溝部