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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】光偏向器及び光走査装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20230803BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20230803BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
G02B26/10 C
B81B3/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019104370
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2020197653
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 護
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107247330(CN,A)
【文献】国際公開第91/002991(WO,A1)
【文献】特開2008-170495(JP,A)
【文献】特開2011-118178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10
G02B 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に入射光を反射する平坦反射面と溝型反射面とを有するミラー部と、
前記ミラー部を第1回転軸の回りに往復回動させる第1アクチュエータと、
を備え、
前記溝型反射面は、前記第1回転軸に平行に延在する複数の縦溝を有し、
各縦溝は、前記第1回転軸に平行でかつV溝の対向傾斜面から底部を除去した形状の対向傾斜面を有し
前記V溝の両対向傾斜面は、前記V溝の谷線を通り前記平坦反射面に対して平行な基準底面に対して相互に等しい傾斜角になっていることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
請求項に記載の光偏向器において、
前記V溝の深さ方向の中間位置で前記V溝を前記平坦反射面に対して平行に通過するカット平面が定義され、
前記カット平面を境にして、前記V溝の前記対向傾斜面を、前記V溝の開口側の部分としての開口側部分と、前記V溝の閉口側の部分としての閉口側部分とに二分し、
前記V溝の横断面において前記開口側部分及び前記閉口側部分の長さをそれぞれDa,Dbとし、
前記基準底面に対する前記V溝の傾斜角をβとし、
Da:Db=|tan(2・β)|:|tan(β)|の条件を満足する前記カット平面に対し、
前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状として、前記V溝から前記閉口側部分を除去した形状になっていることを特徴とする光偏向器。
【請求項3】
請求項に記載の光偏向器において、
前記基準底面に対する前記V溝の両対向傾斜面の傾斜角の和は、80°~120°の範囲内であることを特徴とする光偏向器。
【請求項4】
請求項に記載の光偏向器において、
前記ミラー部は、シリコンの結晶体層から成る共通の基板層の表面に前記平坦反射面及び前記溝型反射面を有し、
前記結晶体層の主面と前記縦溝の対向傾斜面とミラー指数は、それぞれ(100)及び(111)の一方及び他方であることを特徴とする光偏向器。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の光偏向器において、
前記基準底面に対する各対向傾斜面の傾斜角は、54.7°であることを特徴とする光偏向器。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の光偏向器において、
前記溝型反射面は、前記第1回転軸上に設けられていることを特徴とする光偏向器。
【請求項7】
請求項に記載の光偏向器において、
前記溝型反射面は、前記ミラー部の中心部に設けられていることを特徴とする光偏向器。
【請求項8】
共に入射光を反射する平坦反射面と溝型反射面とを有するミラー部、及び前記ミラー部を第1回転軸の回りに往復回動させる第1アクチュエータを備え、前記溝型反射面が、前記第1回転軸に平行に延在する複数の縦溝を有し、各縦溝が、前記第1回転軸に平行でかつV溝の対向傾斜面の少なくとも開口側部分をもつ対向傾斜面を有している光偏向器と、
前記ミラー部に入射する入射光を生成する光源と、
前記入射光が前記ミラー部の前記溝型反射面の各縦溝において2回反射してから出射する2回反射光を受光する光センサと、
を備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項9】
請求項に記載の光走査装置において、
前記光センサは、前記ミラー部が前記第1回転軸の回りの振れ幅の中心の振れ角になった時の前記平坦反射面に対して垂直で前記ミラー部の中心を通る垂直基準面の両側に設けられていることを特徴とする光走査装置。
【請求項10】
請求項に記載の光走査装置において、
前記光偏向器は、前記ミラー部を前記第1回転軸と直交する第2回転軸の回りに往復回動させる第2アクチュエータを備え、
前記光センサは、前記ミラー部が前記第2回転軸の回りに往復回動するときに前記ミラー部からの前記2回反射光が走査する走査軌跡に沿って延在していることを特徴とする光走査装置。
【請求項11】
共に入射光を反射する平坦反射面と溝型反射面とを有するミラー部と、
前記ミラー部を第1回転軸の回りに往復回動させる第1アクチュエータと、
前記ミラー部を前記第1回転軸と直交する第2回転軸の回りに往復回動させる第2アクチュエータと、
を備え、
前記溝型反射面は、前記第2回転軸に平行に延在する複数の縦溝を有し、
各縦溝は、前記第2回転軸に平行でかつV溝の対向傾斜面の少なくとも開口側部分をもつ対向傾斜面を有していることを特徴とする光偏向器。
【請求項12】
請求項11に記載の光偏向器において、
前記V溝の両対向傾斜面は、前記V溝の谷線を通り前記平坦反射面に対して平行な基準底面に対して相互に等しい傾斜角になっており、
前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状になっており、
前記V溝の深さ方向の中間位置で前記V溝を前記平坦反射面に対して平行に通過するカット平面が定義され、
前記カット平面を境にして、前記V溝の前記対向傾斜面を、前記V溝の開口側の部分としての開口側部分と、前記V溝の閉口側の部分としての閉口側部分とに二分し、
前記V溝の横断面において前記開口側部分及び前記閉口側部分の長さをそれぞれDa,Dbとし、
前記基準底面に対する前記V溝の傾斜角をβとし、
Da:Db=|tan(2・β)|:|tan(β)|の条件を満足する前記カット平面に対し、
前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状として、前記V溝から前記閉口側部分を除去した形状になっていることを特徴とする光偏向器。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の光偏向器と、
前記ミラー部に入射する入射光を生成する光源と、
前記入射光が前記ミラー部の前記溝型反射面の各縦溝で2回反射してから出射する2回反射光を受光し、該2回反射光が前記第1回転軸の回りの前記ミラー部の往復回動に伴って走査する走査軌跡に沿って延在する光センサと、
を備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項14】
請求項13に記載の光走査装置において、
前記光センサは、前記第2回転軸方向に前記光偏向器の両側に設けられていることを特徴とする光走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器及び光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の光偏向器及びそれを備えた光走査装置が知られている(例:特許文献1,2)。MEMSの光偏向器は、回転軸の回りに往復回動するミラー部を備え、光源からの光をミラー部の振れ角に応じた方向に反射して、反射光を走査光として出射する。
【0003】
走査光の走査範囲及び走査位置は、ミラー部の振れ角に応じて変化する。したがって、走査範囲の走査光を適切に制御するために、ミラー部の振れ角を検出することが必要となる。
【0004】
特許文献1の光走査装置は、ミラー部が振れ範囲の端部に来た時の反射光の出射方向に光センサを備える。これにより、ミラー部が、振れ角範囲の端部の所定振れ角になると、反射光が光センサにより検知される。
【0005】
特許文献2の光走査装置では、ミラー部の反射面は、回折格子で形成される。該光走査装置では、ミラー部から出射する0次の回折光は、本来の走査光の用途で使用される。これに対し、1次の回折光は、受光素子に入光し、振れ角の検知に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-243225号公報
【文献】特開2011-118178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の光走査装置は、ミラー部の振れ角を、反射光が振れ幅の端部の来た時に対応する振れ角しか検出できない。
【0008】
特許文献2の光走査装置は、1次の回折光の強度からミラー部の種々の任意の振れ角を検出できる。しかしながら、1次の回折光は、ミラー部の振れ角に応じて光偏向器からの出射方向が変化する。したがって、ミラー部の振れ幅内の各振れ角を検出するために、光センサが、1次の回折光の振れ幅に対応する長さが必要になり、長大化してしまう。
【0009】
本発明の目的は、振れ角検出用の光センサの長大化を回避しつつ、ミラー部の任意の振れ角を検出することができる光偏向器及び光走査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光偏向器は、
共に入射光を反射する平坦反射面と溝型反射面とを有するミラー部と、
前記ミラー部を第1回転軸の回りに往復回動させる第1アクチュエータと、
を備え、
前記溝型反射面は、前記第1回転軸に平行に延在する複数の縦溝を有し、
各縦溝は、前記第1回転軸に平行でかつV溝の対向傾斜面の少なくとも開口側部分をもつ対向傾斜面を有している。
【0011】
本発明によれば、光偏向器は、ミラー部に溝型反射面を備え、溝型反射面から2回反射光を出射する。第1回転軸の回りの2回反射光の出射方向は、第1回転軸の回りのミラー部の振れ角に関係なく、固定されている。また、溝型反射面の各縦溝からの2回反射光は、相互に干渉するので、2回反射光の強度は、ミラー部の振れ角に応じて変化する。
【0012】
こうして、振れ角検出用の光センサの長大化を回避しつつ、ミラー部の任意の振れ角を検出することができる。
【0013】
好ましくは、本発明の光偏向器において、前記V溝の両対向傾斜面は、前記V溝の谷線を通り前記平坦反射面に対して平行な基準底面に対して相互に等しい傾斜角になっている。
【0014】
この構成によれば、2回反射光の強度を高めることができる。
【0015】
好ましくは、本発明の光偏向器において、前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状になっている。
【0016】
この構成によれば、縦溝の対向傾斜面は、V溝の底部を除去した形状になっている。これにより、3回反射光の生成が抑制され、3回反射光が2回反射光に重なって、2回反射光によるミラー部の振れ角の検知が妨害されることを防止することができる。
【0017】
好ましくは、本発明の光偏向器において、
前記V溝の深さ方向の中間位置で前記V溝を前記平坦反射面に対して平行に通過するカット平面が定義され、
前記カット平面を境にして、前記V溝の前記対向傾斜面を、前記V溝の開口側の部分としての開口側部分と、前記V溝の閉口側の部分としての閉口側部分とに二分し、
前記V溝の横断面において前記開口側部分及び前記閉口側部分の長さをそれぞれDa,Dbとし、
前記基準底面に対する前記V溝の傾斜角をβとし、
Da:Db=|tan(2・β)|:|tan(β)|の条件を満足する前記カット平面に対し、
前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状として、前記V溝から前記閉口側部分を除去した形状になっている。
【0018】
この構成によれば、V溝の底部を除去する位置を明確にすることができる。
【0019】
好ましくは、本発明の光偏向器において、前記基準底面に対する前記V溝の両対向傾斜面の傾斜角の和は、80°~120°の範囲内である。
【0020】
この構成によれば、2回反射光の強度を高めることができる。
【0021】
好ましくは、本発明の光偏向器において、
前記ミラー部は、シリコンの結晶体層から成る共通の基板層の表面に前記平坦反射面及び前記溝型反射面を有し、
前記結晶体層の主面と前記縦溝の対向傾斜面とミラー指数は、それぞれ(100)及び(111)の一方及び他方である。
【0022】
この構成によれば、平坦反射面及び溝型反射面を良好な鏡面を保証しつつ、シリコンの結晶面のミラー指数を利用して、所望の傾斜角の対向傾斜面を簡単に製造することができる。
【0023】
好ましくは、本発明の光偏向器において、前記基準底面に対する各対向傾斜面の傾斜角は、54.7°である。
【0024】
この構成によれば、基準底面に対する各対向傾斜面の傾斜角を、シリコン結晶層のミラー指数の(100)及び(111)の交角に合わせて、所望の傾斜角の形成を簡単化することができる。
【0025】
好ましくは、本発明の光偏向器において、前記溝型反射面は、前記第1回転軸上に設けられており、前記第1アクチュエータは、圧電方式、静電方式又は電磁方式である。
【0026】
この構成によれば、ミラー部が光偏向器の正面に対して一方の側に振れたときと、他方の側に振れたときとの2回反射光の強度を等しくすることができる。
【0027】
好ましくは、本発明の光偏向器において、前記溝型反射面は、前記ミラー部の中心部に設けられている。
【0028】
この構成によれば、溝型反射面を小型化することができる。
【0029】
本発明の光走査装置は、
前述の光偏向器と、
前記ミラー部に入射する入射光を生成する光源と、
前記入射光が前記ミラー部の前記溝型反射面の各縦溝において2回反射してから出射する2回反射光を受光する光センサと、
を備える。
【0030】
本発明の光走査装置によれば、振れ角検出用の光センサの長大化を回避しつつ、ミラー部の任意の振れ角を検出することができる。
【0031】
好ましくは、光走査装置において、前記光センサは、前記ミラー部が前記第1回転軸の回りの振れ幅の中心の振れ角になった時の前記平坦反射面に対して垂直で前記ミラー部の中心を通る垂直基準面の両側に設けられている。
【0032】
この構成によれば、ミラー部が第1回転軸の回りの振れ幅の中心に対していずれの側に振れても、振れ角も適切に検出することができる。
【0033】
好ましくは、本発明の光走査装置において、
前記光偏向器は、前記ミラー部を前記第1回転軸と直交する第2回転軸の回りに往復回動させる第2アクチュエータを備え、
前記光センサは、前記ミラー部が前記第2回転軸の回りに往復回動するときに前記ミラー部からの前記2回反射光が走査する走査軌跡に沿って延在している。
【0034】
この構成によれば、2軸走査式の光偏向器における第1回転軸の回りのミラー部の振れ角を光センサにより適切に検出することができる。
【0035】
本発明の別の光偏向器は、
共に入射光を反射する平坦反射面と溝型反射面とを有するミラー部と、
前記ミラー部を第1回転軸の回りに往復回動させる第1アクチュエータと、
前記ミラー部を前記第1回転軸と直交する第2回転軸の回りに往復回動させる第2アクチュエータと、
を備え、
前記溝型反射面は、前記第2回転軸に平行に延在する複数の縦溝を有し、
各縦溝は、前記第2回転軸に平行でかつV溝の対向傾斜面の少なくとも開口側部分をもつ対向傾斜面を有している。
【0036】
本発明によれば、2軸走査型の光偏向器において、溝型反射面からの2回反射光を利用して、第2回転軸の回りのミラー部の任意の振れ角を検出することができる。
【0037】
好ましくは、本発明の別の光偏向器において、
前記V溝の両対向傾斜面は、前記V溝の谷線を通り前記平坦反射面に対して平行な基準底面に対して相互に等しい傾斜角になっており、
前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状になっており、
前記V溝の深さ方向の中間位置で前記V溝を前記平坦反射面に対して平行に通過するカット平面が定義され、
前記カット平面を境にして、前記V溝の前記対向傾斜面を、前記V溝の開口側の部分としての開口側部分と、前記V溝の閉口側の部分としての閉口側部分とに二分し、
前記V溝の横断面において前記開口側部分及び前記閉口側部分の長さをそれぞれDa,Dbとし、
前記基準底面に対する前記V溝の傾斜角をβとし、
Da:Db=|tan(2・β)|:|tan(β)|の条件を満足する前記カット平面に対し、
前記縦溝の対向傾斜面は、前記V溝の底部を除去した形状として、前記V溝から前記閉口側部分を除去した形状になっている。
【0038】
この構成によれば、第2回転軸の回りのミラー部の振れ角を検出する際、3回反射光が2回反射光に重なることを回避することができる。また、V溝の底部を除去する位置を明確にすることができる。
【0039】
本発明の別の光走査装置は、
前述の別の光偏向器と、
前記入射光が前記ミラー部の前記溝型反射面の各縦溝で2回反射してから出射する2回反射光を受光し、該2回反射光が前記第1回転軸の回りの前記ミラー部の往復回動に伴って走査する走査軌跡に沿って延在する光センサと、
を備える。
【0040】
本発明によれば、2軸走査式の光走査装置において、振れ角検出用の光センサの長大化を回避しつつ、第2回転軸の回りのミラー部の任意の振れ角を検出することができる。
【0041】
好ましくは、本発明の光走査装置において、前記光センサは、前記第1軸方向に前記光偏向器の両側に設けられている。
【0042】
この構成によれば、ミラー部が第2回転軸の回りの振れ角範囲の中心に対していずれの側に振れても、振れ角を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】1軸(一次元)走査型の光走査装置の構成図。
図2】検知光の説明図。
図3A】1回反射光の説明図。
図3B】2回反射光及び3回反射光の説明図。
図4】回転軸の回りのミラー部の振れ角と各反射光の出射角との関係を示す図。
図5】ミラー部30の振れ角と縦溝からの各反射光の出射角との関係を示すグラフ。
図6A】出射角が負である2回反射光についてミラー部の溝中心面に対する対向傾斜面の傾斜角との差分角と、相対反射光強度との関係を示すグラフ。
図6B】出射角が正である2回反射光についてミラー部の溝中心面に対する両対向傾斜面の傾斜角との差分角と、相対反射光強度との関係を示すグラフ。
図7A】出射角<0°の2回反射光について基準面に対する両対向傾斜面の傾斜角の合計角と、相対反射光強度との関係を示すグラフ。
図7B】出射角≧0°である2回反射光について基準面に対する両対向傾斜面の傾斜角の合計角と、相対反射光強度との関係を示すグラフ。
図8A】ミラー部が振れ角=0°であるときの2回反射光の干渉についての説明図。
図8B】ミラー部の振れ角>0°であるときの2回反射光の干渉についての説明図。
図9】溝型反射面における縦溝の横方向のピッチと入射光の波長との組合せを種々変更したときの振れ角と位相差(傾斜線)及び2回反射光L2の強度(縦棒)との関係を示す図。
図10】3回反射光の防止対策についての説明図。
図11】所定の式に基づいて、図8Aの溝型反射面の対向傾斜面からV溝の底部を除去した溝型反射面の構造の断面図。
図12図8Aの溝型反射面の構造の一部を変更した溝型反射面の断面図。
図13図11の溝型反射面の構造の一部を変更した溝型反射面の断面図。
図14】第1回転軸の回りのミラー部の振れ角を検出可能になっている2軸走査型の光走査装置の構成図。
図15】第2回転軸の回りのミラー部の振れ角を検出可能になっている2軸走査型の光走査装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、本発明の好適な複数の実施形態を詳細に説明する。すべての実施形態において、実質的に同一又は等価な要素及び部分については、共通の参照符号を使用している。また、構造が同一で、配置位置のみが異なる要素又は部分については、数字が同一で、添字のアルファベットのみが異なる参照符号を使用している。さらに、それら数字が同一の参照符号の要素又は部分において、個々に区別しないときは、添字のアルファベットを省略して、数字のみの符号で総称する。
【0045】
[1軸走査型光走査装置]
図1は、1軸(一次元)走査型の光走査装置1の構成図である。光走査装置1は、1軸走査型の光走査装置として、1軸走査型の光偏向器3を備える。光走査装置1は、光偏向器3の他に、光源2、光センサ4a,4b、及び制御部5を備えている。
【0046】
光源2は、例えばレーザ光源である。光源2は、光Laを出射する。光Laは、光偏向器3の入射光としてミラー部30の表面に入射する。この例では円形のミラー部30の表面は、大半を占める平坦反射面38と、中心Oを含むわずかの中心部を占める正方形の溝型反射面39とから成る。光Laのうち、平坦反射面38に入射した光は、走査光Lbとなって、平坦反射面38から出射する。光Laのうち、溝型反射面39に入射した光は、検知光Lcとなって、溝型反射面39から出射する。検知光Lcには、1回反射光L1、2回反射光L2及び3回反射光L3(図2)が含まれる。
【0047】
光センサ4a,4bは、走査光Lbの光路を外して、光偏向器3の各側に配設されている。光センサ4a,4bは、光偏向器3から各側に出射されて来た2回反射光L2を受光する。2回反射光L2については、図2で詳述する。
【0048】
制御部5は、制御装置51、光源駆動装置52及びアクチュエータ駆動装置53を備える。光源駆動装置52及びアクチュエータ駆動装置53は、それぞれ光源2及び光偏向器3のアクチュエータ32を駆動する。光源2は、光源駆動装置52による駆動により、点灯、消灯、さらに、点灯時の光度を制御される。光偏向器3のアクチュエータ32は、アクチュエータ駆動装置53による駆動により回転軸36の回りのミラー部30の往復回動を制御する。制御装置51は、各光センサ4からの検知信号に基づいて光源2の駆動とアクチュエータ32の駆動とを同期して、制御する。
【0049】
1軸走査型の光偏向器3は、ミラー部30以外は、公知の1軸型の圧電方式の光偏向器(例:特開2014-056020号公報)と同一である。したがって、光偏向器3については簡単に説明する。なお、光偏向器3の構成の説明の便宜上、X軸、Y軸及びZ軸の3軸直交座標系を定義する。
【0050】
回転軸36は、ミラー部30の中心Oを通り、Y軸方向に延在している。トーションバー31a,トーションバー31bは、回転軸36に沿ってミラー部30の各側から延び出ている。アクチュエータ32a~32dは、いずれもX軸方向に延在している。アクチュエータ32a,32bは、X軸方向にトーションバー31aの両側に配設され、トーションバー31aと支持枠33との間に介在する。アクチュエータ32c,32dは、X軸方向にトーションバー31bの両側に配設され、トーションバー31bと支持枠33との間に介在する。
【0051】
ミラー部30の各部の寸法は、例えば次のとおりである。ミラー部30は、1mmφ~2mmφの円形となっている。溝型反射面39は、正方形であり、一辺が数10μm~数100μmである。
【0052】
アクチュエータ32は、トーションバー31との結合部を回転軸36の回りに往復回動する。これにより、トーションバー31のねじり振動がミラー部30に伝達し、ミラー部30は、回転軸36の周りに所定の共振周波数で回りに往復回動する。この結果、走査光Lbは、振れ幅Wbで往復変位する。
【0053】
[検知光]
図2は、検知光Lcの説明図である。以降、説明の便宜上、回転軸36の回りのミラー部30の振れ角θ及び光偏向器3からの走査光Lb及び検知光Lcの出射角γを定義する。「ミラー垂直面」を回転軸36を含み平坦反射面38に対して垂直な平面と定義する。図2のミラー垂直面43は、ミラー部30が正面を向いた時のミラー垂直面であると定義する。
【0054】
1軸式の光偏向器3において、ミラー部30の振れ角θは、ミラー垂直面43に対するミラー垂直面の傾斜角度と定義する。出射角γは、ミラー垂直面43に対する走査光Lb及び検知光Lcの出射角度と定義する。振れ角θ及び出射角γ共に、ミラー垂直面43に対してX軸の+側及び-側をそれぞれ+側及び-側と定義する。
【0055】
溝型反射面39は、縦方向を回転軸36に平行に揃えた複数の縦溝41を有する。縦溝41は、V溝として形成されている。すなわち、縦溝41は、V溝の全体を含む。これに対し、後述の縦溝71(図11)は、V溝の全体から底部を除去したV溝の部分から成る。V溝の全体は、当然にV溝の部分を含むので、縦溝41,71は、共に、V溝の対向傾斜面の少なくとも開口側部分をもつ対向傾斜面を備えるという共通の構造を有している。
【0056】
各縦溝41は、対向傾斜面42a,42bを有する。対向傾斜面42a,42bは、V溝の対向傾斜面でもあり、V溝の閉口端に相当する底側の端おいて相互に結合し、谷線を形成している。
【0057】
検知光Lcは、縦溝41における反射回数に応じて1回反射光L1、2回反射光L2及び3回反射光L3に分かれる。後で詳細に述べるが、1回反射光L1及び3回反射光L3の出射角γは、回転軸36の回りのミラー部30の往復回動に伴い、振れ幅W1,W3で振れる。これに対し、2回反射光L2の出射角γは、振れ幅が0であり、回転軸36の回りのミラー部30の振れ角θに関係なく、固定されている。
【0058】
図2において、走査光Lbは、光Laがミラー部30の平坦反射面38で反射してミラー部30から出射する光である。走査光Lbは、スクリーン等に設定された描画領域45上をX軸方向に走査する。ミラー部30は、1軸としての回転軸36の回りに往復回動するので、描画領域45上の走査光Lbの走査は、1次元の走査となる。
【0059】
図3Aは、1回反射光L1の説明図である。図3Bは、2回反射光L2及び3回反射光L3の説明図である。図3A図3B、後述の図4では、横方向に複数存在する縦溝41のうち回転軸36の表面側に形成された縦溝41を図示している。図3A図3Bでは、光Laのうち、対向傾斜面42aに入射した光のみを示している。対向傾斜面42bに入射する光La由来の1回反射光L1、2回反射光L2及び3回反射光L3は、図3A及び図3Bのそれらと対称な方向に出射する。
【0060】
溝中心面47は、縦溝41の谷線を含み、平坦反射面38の平面に対して垂直な平面として定義する。溝中心面47は、各縦溝41に定義され、ミラー垂直面に対して平行であり、ミラー部30の振れ角θが0であるとき、ミラー垂直面43に対して平行になる。
【0061】
図3Aにおいて、溝中心面47に対する対向傾斜面42a,42bの交角としての傾斜角αa,αbが示されている。傾斜角αa,αbについては、後述の図6A等で説明する。
【0062】
なお、対向傾斜面42a,42bの傾斜角については、傾斜角αa,αbの他に、傾斜角βa,βbを定義している(図10参照)。傾斜角βa,βbは、谷底平面62(図10)に対する対向傾斜面42a,42bの傾斜角である。傾斜角αa,αbを総称するときは、傾斜角αを使用する。傾斜角βa,βbを総称するときは、傾斜角βを使用する。傾斜角α+傾斜角β=90°の関係がある。傾斜角αと傾斜角βとを区別するために、適宜、傾斜角α及び傾斜角βをそれぞれを内角側傾斜角及び外角側傾斜角と呼ぶことにする。
【0063】
1回反射光L1(図3A)は、対向傾斜面42aに1回反射した後、X軸方向の+側に向かって、縦溝41から出射する。2回反射光L2(図3B)は、対向傾斜面42a及び対向傾斜面42bの順に縦溝41内で2回反射した後、X軸方向-側に向かって、縦溝41から出射する。3回反射光L3(図3B)は、対向傾斜面42a、対向傾斜面42b及び対向傾斜面42aの順に縦溝41内で3回反射した後、X軸方向の-側に向かって、縦溝41から出射する。
【0064】
補足すると、対向傾斜面42aを縦溝41の開口の端から閉口側の端の方に順番に第1区分、第2区分及び第3区分の3つの区分に区分けして考える。そのとき、1回反射光L1は、第1区分に入射した光Laの反射光である。2回反射光L2は、第2区分に入射した光Laの反射光である。3回反射光L3は、第3区分に入射した光Laの反射光である。
【0065】
図4は、回転軸36の回りのミラー部30の振れ角θと1回反射光L1、2回反射光L2及び3回反射光L3の各々の出射角γとの関係を示している。一例としてV溝の外角側傾斜角βa=βb=54.7°の場合を示す。光偏向器3からの1回反射光L1及び3回反射光L3の出射角γは、回転軸36の回りのミラー部30の往復回動に応じて振れ幅W1,W3で変化する。これに対し、光偏向器3からの2回反射光L2の出射角γは、回転軸36の回りのミラー部30の往復回動にもかかわらず、38.8°に固定されている。
【0066】
[2回反射光]
図5は、ミラー部30の振れ角θと光偏向器3からの各反射光L1~L3の出射角γとの関係を示すグラフである。図5において、波線、実線及び点線は、それぞれ1回反射光L1、2回反射光L2及び3回反射光L3における関係を示している。1回反射光L1及び3回反射光L3は、振れ角θに応じて変化する。これに対し、2回反射光L2の出射角γは、-側の2回反射光L2及び+側の2回反射光L2共に絶対値でほぼ38.8°に固定されていることが分かる。
【0067】
図6A及び図6Bは、溝中心面47に対する対向傾斜面42a,42bの傾斜角αa,αb(図3A)との差分角Δα(=|αa-αb|)と、相対反射光強度Irとの関係を種々の振れ角θについて示したグラフである。一例としてβa+βb=110°の場合を示す。相対反射光強度Irとは、2回反射光L2の最大強度を1としたときの比率を意味する。図6A及び図6Bは、それぞれ-側及び+側の2回反射光L2の特性である。
【0068】
図6A及び図6Bから、Δα=0°にするときが、ミラー部30の振れ幅全体にわたる2回反射光L2の相対強度を大きくできることが分かる。
【0069】
図7A及び図7Bは、溝中心面47に対する対向傾斜面42a,42bの傾斜角αa,αbを等しくし(αa=αb)としたときの合計角αt(=αa+αb)と、相対反射光強度Irとの関係を示している。図7Aは、-側2回反射光L2の特性である。図7Bは、+2回反射光L2の特性である。
【0070】
図7A及び図7Bから、ミラー部30をミラー垂直面43に対して±対称に振らすときは、αt=80°~120°の範囲、特に、約100°~約110°の範囲にすることが、2回反射光L2の相対強度を大きくする点で有利であることが分かる。
【0071】
図8A及び図8Bは、2回反射光L2の干渉についての説明図である。開口平面59は、溝型反射面39の全部の縦溝41の上端としての山線を含む平面として定義される。谷底平面62は、溝型反射面39の全部の縦溝41の下端としての谷底を含む平面として定義される。溝型反射面39のミラー部30の振れ角θは、図8A及び図8Bにおいてそれぞれ0°,θ1(>0°)とする。
【0072】
溝中心面47に対する対向傾斜面42a,42bの傾斜角αa,αbは、共に35.3°(=90°-54.7°)である。理由は、シリコンの結晶方位を利用すれば、傾斜角αa,αbの35.3°を容易に得ることができるからである。なお、傾斜角α=35.3°は、傾斜角β=54.7°を意味する。
【0073】
すなわち、光偏向器3をシリコン基板から製造するとき、通常のシリコン基板では、主面のミラー指数は、(100)である。一方、シリコン結晶は、(100)と(111)とに結晶面をもち、(100)と(111)との交角は、54.7°である。したがって、シリコン基板の表面を異方性エッチングで処理すれば、傾斜角β=54.7°の対向傾斜面42をもつ縦溝41を容易に製造することができる。
【0074】
詳細には、異方性エッチングの場合のエッチング液としては、例えばKOH(水酸化カリウム)、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、EDP(エチレンジアミンピロカテール)等のアルカリ性水溶液を用いると、対向傾斜面42a,42bの(111)面を選択的に形成することができる。主面が(100)のシリコン基板を用いた場合には(100)面と(111)面との交角としての54.7°の安定した傾斜角βを得ることができる。
【0075】
対向傾斜面42の外側傾斜角β=54.7°の縦溝41に光LaがZ軸に平行に入射するとき、図4で前述したように、光偏向器3から2回反射光L2の出射角γは、振れ角θに関係なく、38.8°となる。
【0076】
図8A及び図8Bにおいて、Dpは、溝型反射面39の縦溝41の横方向の等間隔としてのピッチである。2回反射光L2については、(a)光偏向器3からの出射角γがミラー部30の振れ角θに関係なく一定であること、及び(b)複数の縦溝41からの2回反射光L2同士が干渉することにより光センサ4が受光する2回反射光L2の強度がミラー部30の振れ角θに関係して変化することの性質がある。光センサ4は、例えばPD(Photo Diode)から成る。(a)の性質により、光センサ4を小型化して配置することが可能になる。(b)の性質により、光センサ4の出力からミラー部30の振れ角θを検知することが可能になる。
【0077】
隣接する縦溝41からの2回反射光L2の位相差φ(距離換算)は、図8A及び図8Bのとき、それぞれ次の式1及び式2のように算出される。
式1:位相差φ=Dp×sin(38.8°)
式2:位相差φ=Dp×sin(38.8°-θ1)-Dp×sin(θ1)
位相差φ=0は、横方向に隣接する縦溝41からの2回反射光L2同士が干渉ピークとなることを意味する。光センサ4は、干渉ピークの位置に配置することが望まれる。理由は、干渉ピークの位置で2回反射光L2の強度を検出するときの方が、非干渉ピークの位置で2回反射光L2の強度を検出するときよりミラー部30の振れ角θについての検出精度を高めることができるからである。式2では振れ角θ=±19.4°のとき(2回反射光L2の出射角γ=38.4°)、位相差φ=0となる。
【0078】
[光センサ]
図9は、ピッチDp及び波長λについて3つの組合せをパラメータとして位相差φとミラー部30の振れ角θとの関係を調べたグラフである。3つの組み合わせ共に、対向傾斜面42の傾斜角βは、54.7°とされている。各組み合わせにおけるピッチDp及び波長λの値は、次のとおりである。
第1組合せ:ピッチDp=5.842μm、波長λ=450nm。
第2組合せ:ピッチDp=3.000μm、波長λ=450nm。
第3組合せ:ピッチDp=4.000μm、波長λ=650nm。
【0079】
図9から、振れ角θ=19.4°のときは、どの組合せにおいても、干渉ピークとなる。したがって、光センサ4は、出射角γ=38.8°の方向に配置することが望まれる。
【0080】
光走査装置1は、光センサ4をX軸方向両側に計2つ備えている。これにより、ミラー部30の振れ角θの検出範囲を広げることができる。さらに、振れ角θ<0°であるときは、光Laの入射量は、対向傾斜面42bより対向傾斜面42aの方が大きく、2回反射光L2の受光量は、光センサ4aより光センサ4bの方が増大する。逆に、振れ角θ>0°であるときは、光Laの入射量は、対向傾斜面42aより対向傾斜面42bの方が大きく、2回反射光L2の受光量は、光センサ4bより光センサ4aの方が増大する。
【0081】
このことを考慮して、振れ角θ<0°であるときは、光センサ4aの出力に基づいて振れ角θを検出し、振れ角θ≧0°であるときは、光センサ4bの出力に基づいて振れ角θを検出するようにすることもできる。これにより、振れ角θの検出精度を増大することができる。
【0082】
振れ角θに応じて、複数の光センサ4の中から使用する光センサ4を切り替える代わりに、次のようにすることもできる。例えば、各光センサ4から検出した振れ角θの平均値を最終結果の振れ角θとして決定する。さらに、光センサ4の出力の総和から振れ角θを検出することもできる。
【0083】
[3回反射光への対策]
次に、図10は、3回反射光L3の防止対策についての説明図である。図10において、開口平面59及び谷底平面62は、図8Aで定義したとおりである。溝型反射面39の表面側には、横方向に隣り合う縦溝41同士が隣り合わせている対向傾斜面42b,42aにより逆V字断面の突条が横方向に等間隔(Dp)で形成されている。溝型反射面39の山線は、該逆V字断面の突条が溝型反射面39の表面側に向けている先端となっている。開口平面59は、これらの複数の山線を含む平面であり、平坦反射面38と同一平面内に存在する。
【0084】
カット平面60は、開口平面59に平行な平面であり、各対向傾斜面42の深さ方向の中間位置を横断している。交線61a,61bは、カット平面60と縦溝41a,41bとの交線である。各対向傾斜面42は、カット平面60を境に開口側部分Faと閉口側部分Fbとに二分される。前述の図3A及び図3Bにおいて、第1区分~第3区分について説明した。開口側部分Faは、第1区分及び第2区分を合わせた区分に相当する。閉口側部分Fbは、第3区分に相当する。繰り返すと、第1区分、第2区分及び第3区分は、それぞれ1回反射光L1、2回反射光L2及び3回反射光L3を生成する光Laが1回目の反射をする区分である。
【0085】
Daは、縦溝41の横断面における開口側部分Faの長さとする。Dbは、縦溝41の横断面における閉口側部分Fbの長さとする。Dcは、縦溝41の横断面においてX軸方向に-側及び+側の関係で隣り合っている交線61bと交線61aとの間のX軸方向の寸法とする。Ddは、X軸方向に-側及び+側の関係で隣り合っている交線61a及び交線61b間のX軸方向の寸法とする。De,Dfは、Z軸方向(縦溝41の深さ方向)の開口側部分Fa及び閉口側部分Fbの寸法である。
【0086】
Da~Df間には、次の(3)式の関係がある。ただし、傾斜角βa=傾斜角βbとし、βa=βb=βとする。
(3):Da:Db=Dc:Dd=De:Df=|tan(2・β)|:|tan(β)|
図11は、3回反射光L3に対する対策を備える溝型反射面69の横断面である。溝型反射面69の縦溝71の対向傾斜面72は、溝型反射面39(図10)の縦溝41の対向傾斜面42から閉口側部分Fbを取り除き、開口側部分Faのみを残した構造になっている。
【0087】
溝型反射面69の複数の縦溝71は、溝型反射面39の複数の縦溝41と同様に、縦方向を回転軸36に平行に揃えられている。対向傾斜面72の長さは、Da(図10)に設定されている。各縦溝71は、背面側に谷側開口75を有する。凹所77は、溝型反射面69の背面側に形成され、各谷側開口75は、凹所77に共通に連通している。
【0088】
この結果、溝型反射面69では、光Laのうち溝型反射面39(図3)の閉口側部分Fb(第3区分)に照射する光Laは、谷側開口75からミラー部30の背面側に抜ける。したがって、溝型反射面69では、2回反射光L2と重なる3回反射光L3の生成が阻止される。
【0089】
[頂面付きの溝型反射面]
図12は、図8Aの溝型反射面39の構造の一部を変更した溝型反射面89aの断面図である。溝型反射面89aの要素と溝型反射面39の要素とで対応する要素同士は、同一の符号を付けている。
【0090】
相違点について、説明すると、図8Aの溝型反射面39では、横方向に隣接する縦溝41の上端(開口端)同士は、横方向(X軸方向)に相互に重なっている。これに対し、図12の溝型反射面89aでは、横方向に隣接する縦溝41の上端同士は、横方向に間隔を開けられている。この結果、溝型反射面89aでは、横方向に隣接する縦溝41の上端の間に頂面93aが形成されている。なお、頂面93aは、開口平面59(図8Aで説明済み)上に存在する。
【0091】
図13は、図11の溝型反射面69の構造の一部を変更した溝型反射面89bの断面図である。溝型反射面89bの要素と溝型反射面69の要素とで対応する要素同士は、同一の符号を付けている。
【0092】
相違点について、説明すると、図11の溝型反射面69では、横方向に隣接する縦溝71の上端(開口端)同士は、横方向に相互に重なっている。これに対し、図12の溝型反射面89bでは、横方向に隣接する縦溝71の上端同士は、横方向に間隔を開けられている。この結果、溝型反射面89bでは、横方向に隣接する縦溝71の上端の間に頂面93bが形成されている。なお、溝型反射面89bにおいて縦溝71の上端のZ軸方向位置は、図11の溝型反射面69の縦溝71の上端のZ軸方向位置と同位置に保持されている。したがって、溝型反射面89bの開口側部分Faの長さは、溝型反射面69の開口側部分Faの長さに等しい。
【0093】
[2軸走査型光走査装置]
図14は、2軸(二次元)走査型の光走査装置101は、2軸走査型の光走査装置として、2軸走査型の光偏向器103を備える。光走査装置101において、光走査装置1(図1)と共通する要素は、光走査装置1の要素につけた符号と同一の符号を付けて、説明は省略する。
【0094】
光走査装置1に対する光走査装置101の相違点は、光走査装置101が、光走査装置1の光偏向器3及び光センサ4の代わりに、光偏向器103及び光センサ104を備える点である。以下、光偏向器103及び光センサ104について説明する。
【0095】
光偏向器103において、ミラー部130以外は、公知の2軸式の圧電型光偏向器(例:特開2017-207630号公報)と同一の構成になっている。ミラー部130の詳細は、後述し、光偏向器103の構造について簡単に説明する。
【0096】
光偏向器103は、ミラー部130、トーションバー131a,131b、内側アクチュエータ145a,145b、可動枠146、外側アクチュエータ147a,147b及び固定枠148を備える。
【0097】
第1回転軸136及び第2回転軸137は、共に、光偏向器103の表面上に設定され、ミラー部130の中心Oにおいて直交している。第1回転軸136は、トーションバー131の中心軸線に一致する。光偏向器103の静止時では、第1回転軸136及び第2回転軸137は、それぞれY軸方向及びX軸方向になっている。
【0098】
内側アクチュエータ145は、トーションバー131を第1回転軸136の回りに共振周波数でねじり振動させる。これにより、ミラー部130は、第1回転軸136の回りに共振周波数F1で往復回動する。外側アクチュエータ147は、X軸に平行な軸線の回りに可動枠146を非共振周波数F2(F2<F1)で往復回動させる。これにより、ミラー部130は,第2回転軸137の回りに往復回動する。
【0099】
次に、ミラー部130について詳細に説明する。ミラー部130は、ミラー部30と異なり、第1回転軸136及び第2回転軸137の2軸の回りに往復回動するものの、構造自体は、ミラー部30と同一構造になっている。すなわち、ミラー部130は、ミラー部30の平坦反射面38及び溝型反射面39とそれぞれ同一である平坦反射面138及び溝型反射面39を表面に有している。
【0100】
光走査装置101において、第1回転軸136の回りのミラー部130の振れ角を振れ角θh、第2回転軸137の回りのミラー部130の振れ角を振れ角θvと定義する。また、ミラー部130からの走査光Lb及び検知光Lcの出射角について、第1回転軸136の回りのミラー部130の振れ角を振れ角θh、第2回転軸137の回りのミラー部130の振れ角を振れ角θvと定義する。
【0101】
光センサ104a,104bは、2次元走査の走査光Lbの光路を外されて、配置される。具体的には、光センサ104a,104bは、走査光Lbの出射範囲に対してX軸方向の両側に配置され、X軸方向の各側の2回反射光L2を受光する。各光センサ104は、第1回転軸136の回りのミラー部130の振れ角θhを検出する。
【0102】
ミラー部130は、第2回転軸137の回りに往復回動する。したがって、ミラー部130からの2回反射光L2の出射方向は、第1回転軸136の回りのミラー部130の振れ角θhに関係なく同一であっても、第2回転軸137の回りのミラー部130の往復回動のために、2回反射光L2は、Y軸方向に変位して、走査する。このため、各光センサ104は、Y軸方向の2回反射光L2の走査軌跡に沿って延在した長さに設定される。
【0103】
[非共振振れ角の検出]
図15は、図14の光走査装置101を変形した光走査装置161の構成図である。光走査装置161が、光走査装置101と相違する点は、ミラー部130の溝型反射面169である。溝型反射面169は、光走査装置101の溝型反射面139を中心Oに立てた平坦反射面138に対して垂直な起立線の回りに時計方向に90°回転したものになっている。
【0104】
この結果、溝型反射面169からの2回反射光L2は、二次元走査で出射する走査光Lbの出射範囲の範囲に対して、Y軸方向の両側に出射する。
【0105】
光センサ164a,164bは、走査光Lbの出射範囲に対してY軸方向の両側に配置され、Y軸方向の各側の2回反射光L2を受光する。各光センサ164の受光量(又は相対反射光強度Ir)は、ミラー部130の振れ角θvに応じて変化する。この結果、制御装置51は、各光センサ104からの出力に基づいてミラー部130の振れ角θvを検出する。
【0106】
ミラー部130は、第2回転軸137の回りに往復回動する。したがって、ミラー部130からの2回反射光L2の出射角は、第2回転軸137の回りのミラー部130の振れ角θvに関係なく固定されていても、第1回転軸136の回りのミラー部130の往復回動のために、2回反射光L2は、X軸方向に変位して、走査する。このため、各光センサ164は、X軸方向の2回反射光L2の走査軌跡に沿って延在した長さに設定される。
【0107】
こうして、光走査装置161では、第2回転軸137の回りのミラー部130の非共振振動の振れ角θvが光センサ164による2回反射光L2の受光量(又は相対反射光強度Ir)から検出される。
【0108】
[補足及び変形例]
本発明の第1支持部は、支持枠33及び可動枠146に対応する。本発明の第2支持部は、固定枠148に対応する。実施形態の可動枠146及び固定枠148は、枠体であるが、本発明の第1支持部及び第2支持部は、ミラー部から離間して配設されていれば、枠体でなくてもよい(例:棒状やL字状)。
【0109】
本発明の第1回転軸は、回転軸36及び第1回転軸136に対応する。本発明の第2回転軸は、第2回転軸137に対応する。
【0110】
本発明の第1アクチュエータは、アクチュエータ32及び内側アクチュエータ145に対応する。本発明の第2アクチュエータは、外側アクチュエータ147に対応する。実施形態の第1アクチュエータ及び第2アクチュエータは、共に圧電式であるが、本発明の第1アクチュエータ及び第2アクチュエータは、電磁コイル式や静電式のアクチュエータであってもよい。
【0111】
なお、電磁コイル式のアクチュエータの具体的な構造例は、次の文献に詳説されている。
を参照されたい。
「A. D. Yalcinkaya, H. Urey, D. Brown, T. Montague, and R. Sprague, “Two-axis electromagnetic microscanner for high resolution displays,” J. Microelectromech. Syst., vol. 15, no. 4, pp. 786-794, Aug. 2006.」
また、上記静電式のアクチュエータの具体的な構造例は、次の文献に詳説されている。
「H. Schenk, P. Durr, D. Kunze, H. Lakner, and H. Kuck, “A resonantly excited 2D-micro-scanning-mirror with large deflection,” Sens. Actuators A, Phys., vol. 89, no. 1, pp. 104-111, Mar. 2001.」
本発明の第1軸方向及び第2軸方向は、実施形態のY軸方向及びX軸方向に対応する。
【0112】
光偏向器3,103では、溝型反射面39,139が中心部に1つだけ設けられ、かつ光センサ4,104が、光偏向器3,103の両側に設けられている。本発明では、溝型反射面39,139が中心Oに対してX軸方向の一側にのみ設け、光センサ4,104は、光偏向器3,103に対してX軸方向の他側のみ設けて、ミラー部30,130の振れ角θを検出することもできる。溝型反射面39,139をミラー部30の中心Oに対して一側及び他側の両側に設けて、一側の溝型反射面39,139からの2回反射光L2を他側の光センサ4に受光させ、他側の溝型反射面39,139からの2回反射光L2を一側の光センサ4に受光させるようにしてもよい。
【0113】
光偏向器3,103の基板層を形成するSOIの活性層は、主面のミラー指数が(100)にあり、対向傾斜面42のミラー指数が(111)になっている。本発明の光偏向器では、基板のシリコン結晶層について、主面のミラー指数が(111)にあり、対向傾斜面42のミラー指数が(100)になっていてもよい。
【0114】
なお、平坦反射面38,138及び溝型反射面39,69,89a,89b,139は、ミラー部30,130の共通の基板層を被覆する鏡面層として形成されている。鏡面層は、例えば、シリコンの結晶面、金属反射膜又は誘電体多層膜から成る。
【符号の説明】
【0115】
1,101,161・・・光走査装置、2・・・光源、3,103・・・光偏向器、4a,4b,104a,104b,164a,164b・・・光センサ、30,130・・・ミラー部、31a,31b,131a,131b・・・トーションバー、32・・・アクチュエータ、33・・・支持枠、36・・・回転軸、38,138・・・平坦反射面、39,69,89a,89b,139・・・溝型反射面、41,71・・・縦溝、42a,42b,72a,72b・・・対向傾斜面、136・・・、・・・第1回転軸、137・・・第2回転軸、145・・・内側アクチュエータ、146・・・可動枠、147・・・外側アクチュエータ、148・・・固定枠。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
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図15